JP2004002659A - 難分解性有害物質分解剤及び難分解性有害物質の分解方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ダイオキシン類などの難分解性有害物質を、効果的に分解処理し得る工業的に有利な分解剤、及び分解方法を提供すること。
【解決手段】有機性金属還元剤を含む難分解性有害物質分解剤、及び難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることにより、該難分解性有害物質を分解する方法である。
【選択図】なし
【解決手段】有機性金属還元剤を含む難分解性有害物質分解剤、及び難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることにより、該難分解性有害物質を分解する方法である。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染水や土壌中に含まれる難分解性有害物質の分解剤及び分解方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ダイオキシン類やハロゲン化ビフェニル類、ビスフェノールA、ノニルフェノールなどの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等、広範な難分解性有害物質を、効果的に分解処理するための分解剤、及びその方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人体に有害な難分解性有害物質として、様々な化合物、例えばダイオキシン類やビスフェノールA、ノニルフェノール、フタル酸エステル類などの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等が知られている。これらは、都市ごみや産業廃棄物の焼却設備や様々な燃焼設備、機器類などから自然界に排出され、また、化学物質の製造工程においても排出される場合があり、大きな社会問題となっている。
【0003】
このような物質のうち、例えばダイオキシン類等は、生物により分解され難いことから、多くの生物の体内に吸収され、食物連鎖により、最終的には動物体内に蓄積されて濃縮され、発がん性や催奇形成性を示すことが知られている。
そこで、これらダイオキシン類等の発生を抑制する方法が検討、提案されており、例えば、自動車や焼却炉などからの排出ガスを高温燃焼する方法が提案されている。しかしながら、このような方法においてもダイオキシン類等の発生を充分に抑制できるまでには至っていない。そして、大気中に放出されたダイオキシン類等は、雨水や雪とともに地上に降りて土壌に蓄積される。このように、自然界に放置されたダイオキシン類等を無害化するための有効な手段は見出されていない。
【0004】
また、環境ホルモン作用を有するフェノール類については、活性炭等による吸着分離、活性汚泥などによる分解が行われているが、ハロゲン化フェノール類、アルキルフェノール類、ビスフェノール類、更にはフタル酸エステル類などは、環境中に蓄積されやすいという問題があり、これらの化合物もまた食物連鎖により生物濃縮され、人や環境生物に種々の被害をもたらしている。
一方、クリーニング工業、精密機械関連産業等工業地域の土壌中には、洗浄剤などとして用いられているテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等の揮発性ハロゲン化炭化水素系の難分解性有害物質による汚染がかなりの範囲で拡がっていると考えられており、実際に環境調査等で検出された事例が多数報告されている。これらの難分解性有害物質は土壌中に残留したものが雨水等により地下水中に溶解して周辺地域一帯に拡がるとされている。これらの化合物には発がん性の疑いがあり、また環境中で安定であるため、特に飲料水の水源として利用されている地下水の汚染は深刻な社会問題となっている。
【0005】
このようなことから、難分解性有害物質の除去、分解による、汚染地下水等の水性媒体、土壌、及びそれに伴う周辺気相の浄化は、環境保全の視点からきわめて重要な課題であり、浄化に必要な種々の技術の開発が行われてきている。
例えば、ダイオキシン類を始めとする難分解性有害物質を分解する方法として、微生物や酵素を用いる方法が研究され、酵素ではリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼが分解に関与することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、前記リグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼは、微生物による生産が不安定であり、また、酵素自体の安定性も低いために工業的に生産しにくいという問題がある。一方、ラッカーゼは、メヂィエーターという電子伝達物質を必要とする欠点を有している。
【0006】
したがって、微生物あるいは有機合成で容易に生産でき、かつ安定であって、ダイオキシン類などの難分解性有害物質を分解し得る物質の工業的生産、供給が求められている。
【0007】
【非特許文献1】
「バイオ・インダストリー(BIO INDUSTRY)」、第15巻、第2号、第5〜13頁(1998年)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況下で、ダイオキシン類などの難分解性有害物質を、効果的に分解処理し得る工業的に有利な分解剤、及び該難分解性有害物質の分解方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ある種の有機性金属還元剤は、難分解性有害物質を効果的に分解することができる上、糸状菌や細菌などの微生物、あるいは有機合成によって、工業的な生産が可能であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)有機性金属還元剤を含むことを特徴とする難分解性有害物質分解剤、
(2)有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である上記(1)の難分解性有害物質分解剤、
(3)セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が、菌体内セロビオースデヒドロゲナーゼ、菌体内キサンチンオキシダーゼ又は菌体内糖タンパク質である上記(2)の難分解性有害物質分解剤、
【0010】
(4)菌体が糸状菌である上記(3)の難分解性有害物質分解剤、
(5)菌体が細菌である上記(3)の難分解性有害物質分解剤、
(6)糖タンパク質が化学的に合成した化合物である上記(2)の難分解性有害物質分解剤、
(7)さらに、金属イオンを含む上記(1)〜(6)の難分解性有害物質分解剤
(8)金属イオンが鉄イオン及び/又は銅イオンである上記(7)の難分解性有害物質分解剤、
(9)さらに、有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質を含む上記(1)〜(8)の難分解性有害物質分解剤、
(10)エネルギー供給物質が、糖類、キサンチン、NADH,NADPH,チトクロムc及びアスコルビン酸の中から選ばれる少なくとも一種である上記(9)の難分解性有害物質分解剤、
(11)糖類がセロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、ラクトース、マンノビオース、マルトース、キシロビオース及びこれらを構成成分とする糖の中から選ばれる少なくとも一種である上記(10)の難分解性有害物質分解剤、
【0011】
(12)難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることを特徴とする難分解性有害物質の分解方法、
(13)金属イオンの存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)の難分解性有害物質の分解方法、
(14)有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)、(13)の難分解性有害物質の分解方法、
(15)酸素又は過酸化水素の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)、(13)、(14)の難分解性有害物質の分解方法、及び
(16)有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である上記(12)〜(15)の難分解性有害物質の分解方法、
を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の難分解性有害物質の分解剤及び分解方法が適用される難分解性有害物質としては、例えば炭素数が6以上の難分解性芳香族化合物、1〜4個の炭素原子及び少なくとも1個のハロゲン原子からなる難分解性ハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
炭素数が6以上の難分解性芳香族化合物としては、ダイオキシン類、ハロゲン化ビフェニル類、ビスフェノール類、アルキルフェノール類、ハロゲン化フェノール類、フタル酸エステル類等が挙げられる。
【0013】
ダイオキシン類とは、塩素原子あるいは臭素原子を1個以上有するダイオキシン類であり、ジベンゾ−p−ダイオキシンやジベンゾフランが有する2個のベンゼン環における水素原子が塩素原子や臭素原子により置換された化合物である。この塩素原子あるいは臭素原子の置換数やベンゼン環における置換位置により多種多様な化合物が包合される。
これらのダイオキシン類の中でも、1分子中に塩素原子を4個以上有する多塩素化物が特に人体に対する毒性が高く、そのような化合物としては、例えば、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,7,8−ぺンタクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,7,8−ヘキサクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,6,7,8−ヘプタクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,6,7,8,9−オクタクロロジベンゾ−p−ジオキシンなどのジベンゾ−p−ダイオキシンの多塩素化物;2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン、1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン、2,3,4,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,6,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,7,8,9−ヘキサクロロジベンゾフラン、2,3,4,6,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,6,7,8−ヘプタクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,6,7,8,9−オクタクロロジベンゾフランなどのジベンゾフランの多塩素化物がある。
【0014】
また、ハロゲン化ビフェニル類としては、例えば、オルト位以外に塩素原子が置換したコプラナ(Coplanar)PCBがあり、具体的には、3,3’,4,4’−テトラクロロビフェノール、3,3’,4,4’,5−ペンタクロロビフェノール、3,3’,4,4’,5,5’,−ヘキサクロロビフェノールなどの化合物が挙げられる。
上記塩素化物の中でも、最も毒性の高い化合物は、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシンである。
更に、ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどの化合物が挙げられる。これらの化合物のうち、本発明の方法に好適なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0015】
アルキルフェノール類としては、ノニルフェノール、ペンチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャルブチルフェノールなどの化合物が挙げられる。
また、ハロゲン化フェノール類としては、ジクロロフェノール、トリクロロフェノール、テトラクロロフェノール、ペンタクロロフェノールなどの化合物が挙げられる。
更に、フタル酸エステル類としては、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレートなどの化合物が挙げられる。
本発明において、1〜4個の炭素原子及び少なくとも1個のハロゲン原子からなる難分解性ハロゲン化炭化水素としては、例えば、モノ、ジ、トリ、テトラハロゲン化メタン、1〜5個のハロゲン原子を有するハロゲン化エタン、1〜3個のハロゲン原子を有するハロゲン化エチレン、2〜3個のハロゲン原子を有するハロゲン化プロピレン等が挙げられる。
【0016】
具体的には、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、モノクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、トリクロロプロピレン等が挙げられ、特に、トリクロロエチレンが好ましい。
本発明における上記難分解性有害物質は、その多くが動物の体内に蓄積し、種々の問題を引き起こすことが懸念されている、いわゆる外因性内分泌撹乱物質である。この物質は、環境中に偏在してホルモンと類似の作用を示し、内分泌を撹乱する化学物質を指し、極微量であっても動物の生態や人体への健康障害、例えば免疫系や内分泌系、神経系に対する影響が大きいことから、このような外因性内分泌撹乱物質を分解して無害化することが望まれている。本発明の分解剤及び分解方法は、難分解性有害物質の中で、上記外因性内分泌撹乱物質の分解に特に有効である。
【0017】
本発明の難分解性有害物質分解剤は、有機性金属還元剤、及び必要に応じ金属イオン又は有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質あるいはその両方を含むものである。
本発明において有機性金属還元剤とは、分子内に金属を包含するタンパク質で、タンパク質分子外の金属を還元できるものをいう。本発明においては、該有機性金属還元剤として、例えばセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が好ましく用いられる。また、糖−ホスファチジルエタノールアミンも用いることができる。
前記のセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質は、微生物が産生したものを単離して使用してもよく、菌体内セロビオースデヒドロゲナーゼ、菌体内キサンチンオキシダーゼ又は菌体内糖タンパク質として、それらを産生する微生物を使用してもよい。該微生物としては、糸状菌や細菌などが挙げられる。また、遺伝子を形質転換してなる組み換え微生物も用いることができる。なお、糖タンパク質は、化学的に合成した化合物を使用することもできる。
【0018】
具体的には、前記セロビオースデヒドロゲナーゼとしては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該酵素の供給源として微生物を使用してもよく、またその両方を使用してもよい。この微生物としては、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生するものであればよく、特に制限はないが、糸状菌や細菌など、とりわけ糸状菌を好ましく挙げることができる。また組み換え微生物を使用することもできる。
セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する糸状菌としては、木材腐朽菌を始め、各種の糸状菌が存在する。具体例としては、グロエオフィラム・トラビウム(Gloeophyllum trabeum、褐色腐朽菌)ATCC11539、コニフォラ・プテアーナ(Coniphora puteana、褐色腐朽菌)、
スポロトリカム・パルべルレンタム(Sporotrichum pulverulentum、白色腐朽菌)、スポロトリカム・サーモファイル(Sporotrichum thermophile、白色腐朽菌)ATCC 42464、シゾフィラム・コムネ(Schyzophillum commune、白色腐朽菌)、ヘトロバシディオン・アノサム(Heterobasidion annosum、白色腐朽菌)、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor、白色腐朽菌)、フィクノポラス・シンナバリナス(Pycnoporus cinnabarinus、白色腐朽菌)ATCC 200478、フォメス・アノサス(Fomes annosus、白色腐朽菌)ATCC 28222、ケトミウム・セルロリティカム(Chaetomium cellurolyticum、糸状菌)ATCC 32319、マイセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila、糸状菌)、ニューロスポラ・シトフィラ(Neurospora sitophila、糸状菌)、スクレロチウム・ロルフィシー(Sclerotium rolfsii、糸状菌)、CBS 19162、フミコラ・インソレンス[Humicola insolens、糸状菌]、モニリア属(Monilia,糸状菌)、アクレモニウム属(Acremonium、糸状菌)、トリコデルマ・レッセイ(Trichoderma reesei、糸状菌)、フミコラ・インソレス(Humicola insolens)などを挙げることができる。
【0019】
セロビオースデヒドロゲナーゼは、セロビオースを酸化してセロビオラクトンに変換し、その際電子を引き抜いて、それ自体は還元されるデヒドロゲナーゼの性質を有する酵素である。自然界では、セルラーゼの働きにより分解、生成したセロビオースから、微生物がエネルギーを獲得する手段として利用されていると考えられている。
このセロビオースデヒドロゲナーゼは、菌体外に産生されるために、分離回収が容易であると共に、安定性が高く、また酵素内にフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を保有することから、酸化還元反応に補酵素を必要としないなどの利点を有する。
【0020】
また、キサンチンオキシダーゼは、牛乳の中に含まれており、牛乳をそのままあるいは精製して用いることができる。また、キサンチンオキシダーゼ遺伝子をクローニングし、微生物に組み込んで生産させたり、組み換え微生物そのものを使用することもできる。この微生物としては、特に制限されず、例えば大腸菌などの細菌、コウジ菌、木材腐朽菌、糸状菌などを挙げることができる。
一方、糖タンパク質としては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該糖タンパク質の供給源として微生物そのものを使用してもよく、また、その両方を使用してもよい。あるいは化学的に合成した化合物を使用してもよい。該微生物については、糖タンパク質を産生するものであればよく、特に制限はないが、アミノ酸とグルコースが結合し、遊離のアミノ基を有する分子量1万以下の糖タンパク質は、多くの糸状菌が産生する。また、組み換え微生物を使用することもでき、化学的な合成については、アミノ酸と糖から糖タンパク質を合成することができる。
【0021】
糖タンパク質を産生する糸状菌としては、例えばタイロマイセス・パルストリス(Tyromyces palustris、褐色腐朽菌)FRI 05707、ファネロキーテ・クリソスポリウム(Phanerochate chrysosporium、白色腐朽菌)、イルペクス・ラクテウス(Irpex lacteus、白色腐朽菌)、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor、白色腐朽菌)、キシラリラ・ポリモルファ(Xylalia polymorpha、糸状菌)、クラドールヒナム属(Cladorrhinum、糸状菌)、グラフィウム属(Graphium、糸状菌)、スファエロプシス属(Sphaeropsis、糸状菌)、スコプラリオプシス属(Scopulariopsis、糸状菌)、フザリウム・ポリフェラタム(Fusarium poliferatum、糸状菌)、トリコデルマ属(Trichoderma、糸状菌)、アクレモニウム属(Acremonium Zonatum、糸状菌)、などを挙げることができる[「ジャーナル・オブ・バイオテクノロジー(Jurnal of Biotechnology)」、第75巻、第57〜70頁(1999年)]。
一方、糖−ホスファチジルエタノールアミンは、従来公知の方法に従って、ホスファチジルエタノールアミンとグルコースから合成することができる。
【0022】
本発明の分解剤においては、前記の有機性金属還元剤と共に、必要に応じて金属イオン及び/又は有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質が用いられる。該金属イオンとしては、鉄イオン及び/又は銅イオンを挙げることができる。該鉄イオンは、二価及び三価のいずれであってもよい。
また、有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質としては、糖類、キサンチン、NADH、NADPH、チトクロムc、アスコルビン酸などを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
具体的には、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合には、エネルギー供給物質として、糖類を共存させることが好ましい。該糖類としては、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、ラクトース、マンノビオース、マルトース、キシロビオース及びこれらを構成成分とする糖、例えばオリゴ糖や、セルロース、ヘミセルロースなどの多糖類の中から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。これらの糖類は、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合に、エネルギー供給物質として有効であり、特に多糖類のセルロースやヘミセルロースは、以下に示す効果を奏することから、好ましい。
セロビオースデヒドロゲナーゼは、セルロースやヘミセルロースに吸着しやすい性質を有しており[「Biotechnol.Appl.Biochem.」、第135〜141頁(1997年)]、一方ダイオキシン類やPCBなどの有機ハロゲン系難分解性有害物質も、セルロースやヘミセルロースに吸着しやすい。したがって、セロビオースデヒドロゲナーゼと難分解性有害物質を、セルロースやヘミセルロースを介して近傍に存在させることで、該セロビオースデヒドロゲナーゼにより、セルロースやヘミセルロースから発生するラジカルが、難分解性有害物質に効果的に衝突し、該難分解性有害物質が効率よく酸化分解される。
【0024】
また、有機性金属還元剤として、キサンチンオキシダーゼを用いる場合には、エネルギー供給物質として、キサンチンを共存させるのが好ましい。さらに、有機性金属還元剤として、糖タンパク質を用いる場合には、エネルギー供給物質として、NADH、NADPH、アスコルビン酸、チトクロムcなどの中から選ばれる少なくとも一種を共存させることが好ましい。なおNADHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)補酵素の還元型のことであり、NADPHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)補酵素の還元型のことである。
本発明の分解剤においては、賦形剤として、例えばセルロース、木材チップ、バガス、パルプ、古紙、粉末セルロースなどを用いることができる。これらの賦形剤の中では、特にセルロースが好適である。
次に、本発明の難分解性有害物質の分解方法においては、難分解性有害物質に、前述の有機性金属還元剤を接触させることにより、該難分解性有害物質を分解処理する。
【0025】
該有機性金属還元剤としては、前述のセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が好ましく用いられる。また、糖−ホスファチジルエタノールアミンを用いることもできる。また、本発明の分解方法においては、必要により、(a)金属イオン、(b)有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質及び(c)酸素又は過酸化水素の中から選ばれる少なくとも一種の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることができる。
前記金属イオン及び有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質については、前述の本発明の分解剤において説明したとおりである。
本発明の分解方法においては、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合には、前記の(a)成分、(b)成分、(c)成分と共に、(d)フェノール類酸化酵素、及びモノ若しくは多価フェノール類又はキノン類を共存させることができる。
【0026】
この分解方法において、(d)成分におけるフェノール類酸化酵素としては、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼの中から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。このフェノール類酸化酵素は、モノ若しくは多価フェノール類、例えばフェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンなど、又はベンゾキノンなどのキノン類を共存させることにより、エネルギーを効率よくセロビオースデヒドロゲナーゼに供給すると共に、セロビオースデヒドロゲナーゼにより酸化された難分解性有害物質がさらにフェノール類酸化酵素の働きで分解される。
すなわち、フェノール類酸化酵素は、セルビオースデヒドロゲナーゼや糖タンパク質が初発酸化した難分解性有害物質をさらに酸化し、低分子化する働きを有する。一方、低分子化の過程で、モノ若しくは多価フェノール類又はキノン類は、該フェノール類酸化酵素によりケトン類に酸化される。この反応において、NADやメディエーターは還元されてNADHなどの高エネルギー状態に戻り、セロビオースデヒドロゲナーゼや糖タンパク質がリサイクルされて、難分解性有害物質を再初発酸化する際のエネルギーとして使われるという、エネルギー再生のための重要な働きを担う。したがって、有機性金属還元剤として、糖タンパク質を用いる場合にも、この(d)成分を共存させることができる。
【0027】
前記(d)成分におけるフェノール類酸化酵素としては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該酵素の供給源として微生物を直接使用してもよく、またその両方を使用してもよい。
ラッカーゼを生産する微生物としては、ラッカーゼ生産性の高い微生物、例えば、シゾフィラム(Schyzophillum)属、プレウロタス(Pleurotus)属、トラメテス(Trametes)属、レンチナス(Lentinus)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、フナリア(Funalia)属、フィクノポラス(Pycnoporus)属、メルリウス(Merulius)属、ミセリオフトラ(Myceliophtora)属、コプリナス(Coprinus)属、アガリクス(Agaricus)属、フォリオタ(Pholiota)属、フラムリナ(Flammulina)属、ガノデルマ(Ganoderma)属、ダエダレオプシス(Daedaleopsis)属、ファボラス(Favolus)属、リオフィラム(Lyophyllum)属、オーリクラリア(Auricularia)属等に属する微生物を挙げることができる。
【0028】
上記微生物が生産したラッカーゼには、ラッカーゼとともにリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ等を併産してなるものも含み、したがって、本発明に用いるフェノール類酸化酵素としては、このラッカーゼにリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ等が混在したものも用いることができる。また、これらの酵素を生産する菌と有機性金属還元剤を生産する菌を共存させることができる。
さらに、本発明の分解方法において、(a)金属イオン及び(c)酵素又は過酸化水素の存在下に、難分解性有害物質に有機性金属還元剤である糖−ホスファチジルエタノールアミンを接触させる場合、(b)成分である有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質を共存させる必要はない。そして、前記(a)成分の金属イオンとしては、特に二価、三価の鉄イオンが好ましい。(c)成分の過酸化水素は、グルコースとグルコースオキンターゼを反応させて発生させることもできる。
【0029】
難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させ、該難分解性有害物質を分解処理する方法としては、特に制限はなく、上記難分解性有害物質を、その発生源からの直接的な排気や排水(排液)、焼却灰、さらにこれらによって汚染された土壌より分離して処理することも可能ではあるが、その取扱いには危険性が伴うことから、排気や排水(排液)、焼却灰、汚染土壌そのものを処理するのが好ましい。
本発明においては、有機性金属還元剤であるセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ、糖タンパク質又はそれらを産生する微生物、あるいは糖−ホスファチジルエタノールアミンは、適当な担体に固定化して用いることもできる。また、フェノール類酸化酵素を用いる場合には、前記の有機性金属還元剤と共に該フェノール類酸化酵素又はそれを産生する微生物を担体に、別途あるいは有機性金属還元剤と同時に、固定化して用いることもできる。
【0030】
本発明の分解方法においては、前記有機性金属還元剤を難分解性有害物質に接触させる際の温度は、10〜80℃の範囲が好ましく、特に20〜70℃の範囲が好ましい。この温度が10℃未満であると反応速度が遅くなり、また80℃を超えると有機性金属還元剤やフェノール類酸化酵素などが失活したり、あるいは微生物を用いる場合には死滅するおそれがある。本発明においては、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)が産生する耐熱性セロビオースデヒドロゲナーゼを用いることにより、高温の廃水処理にも適用できる。本発明の分解方法においては、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる際のpHは、2〜10の範囲が好ましく、より好ましくは3〜8の範囲である。このpHが3未満であったり、10を超えると有機性金属還元剤が充分に作用しない場合がある。分解に関与するラジカルの安定性を考慮すると、このpHは中性から酸性の範囲がさらに好ましい。
【0031】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1 キサンチンオキシダーゼによるダイオキシンの分解
30ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH6.0)にキサンチン0.5ミリモル、FeCl3100マイクロモル、EDTA100マイクロモルを加えた反応液10ミリリットルを、内容積50ミリリットルのポリテトラフルオロエチレン製容器に仕込んだ。この反応液に市販のキサンチンオキシダーゼ(和光純薬社製)0.25単位(ユニット)を加えたのち、少量のエタノールに溶解したダイオキシンの2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。
次いで、この反応器を25℃の恒温槽に入れ、内部にマグネットスターラーを入れて、毎分200回転で攪拌しながら、0.5ミリモル/リットル濃度の過酸化水素液10ミリリットルを6時間かけて滴下した。その後、反応液中のダイオキシンを抽出し、定量したところ、ダイオキシンの残存量は28μgであった。
【0032】
比較例1
実施例1において、キサンチンオキシダーゼを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、残存ダイオキシンを定量した。その結果、ダイオキシンの残存量は52μgであった。
実施例2〜4 糖タンパク質によるダイオキシンの分解
褐色腐朽菌タイロマイセス・パラストリス(Tyromyces・palustris)を平野らの方法[「木材学会誌」、第41巻、第3号、第334〜341ページ]に基づき50リットル培養し、培養液から糖タンパク質を分離精製し、凍結乾燥した。
この糖タンパク質10mgを100ミリリットル容のポリテトラフルオロエチレン容器に仕込み、40ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH4.5)20ミリリットルを加えて溶解した。さらに、この溶液に少量のジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。
【0033】
この容器を25℃の恒温槽に入れ、FeCl3100マイクロモルを加え、次いでエネルギー源として、第1表に示す種類と量の物質を添加し、24時間振とうした。その後、反応液内の残存ダイオキシン量を定量した。結果を第1表に示す。
比較例2
実施例2〜4において、糖タンパク質及びエネルギー源を添加しなかったこと以外は、実施例2〜4と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。その結果を第1表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例5〜7 糖タンパク質によるダイオキシンの分解
1リットルの蒸留水にKH2PO45g、MgSO4・7H2O4g、K2HPO44g、NH4NO36gを加え、さらにセロビオース1g、グルコース2g、マルトース2gを加えて培地を作製した。この培地を500ミリリットル容のバッフル付三角フラスコに50ミリリットルづつ分注した。このフラスコにブナオガクズ(水分38重量%)を6gづつ添加し、シリコ栓をして121℃で20分間殺菌した。
この培地に菌体外に糖タンパク質を産生することが確認してある種々の糸状菌を植菌し、26℃で毎分50回転の速度にて振とう培養した。
培養終了後、培養液をろ紙でろ過して不溶成分を除去した。この培養液10ミリリットルを、50ミリリットル容ネジ蓋付きポリテトラフルオロエチレン容器に分注した。この培養液に5ミリモル/リットル濃度のFeSO41ミリリットルを添加し、26℃の恒温槽に設置し、エネルギー供給源として、アスコルビン酸(4×10−3ミリモル)を添加したのち振とうを開始した。次いで容器内を純酸素で5分間置換後、密栓し、さらに6時間振とうした。その後、反応液中のダイオキシンを抽出して定量した。結果を第2表に示す。
【0036】
比較例3
実施例5〜7において、糖タンパク質を産生する糸状菌及びエネルギー源を供給しなかったこと以外は、実施例5〜7と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。その結果を第2表に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例8〜24
セロビオースデヒドロゲナーゼによるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にセルロースパウダー5g、セロビオース2g、マルトース2g、ボールミルで粉砕したブナオガクズ(水分42重量%)6g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl20.08g、ZnSO4・7H2O5mg、MnSO4・7H2O1.5mg、CoCl2・6H2O1.5mg、FeSO4・7H2O0.5mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調製して培地を調製した。
この培地50ミリリットルを攪拌しながら、500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。各フラスコにはガラスビーズをフラスコ当り5個入れたのち、シリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
【0039】
この培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接触した。
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で8日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養物を合わせ、ブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。
【0040】
以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
次に精製したセロビオースデヒドロゲナーゼ全量を、0.1モル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH4.5)20ミリリットルに溶解し、100ミリリットル容のポリテトラフルオロエチレン製容器に入れたのち、少量のDMSOに溶解したダイオキシンの2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。この容器を30℃の恒温槽に入れ、往復振とうしながら、セコビオース2ミリモルを、0.1モル/リットル濃度の酢酸緩衝液1ミリリットルに溶解した溶液を添加し、さらに塩化第2鉄1mmol、過酸化水素3mmolを加え、分解反応を行った。
24時間後に、反応液にトルエンを添加して抽出操作を行い、残存ダイオキシンを定量した。結果を第3表に示す。
【0041】
比較例4
実施例8〜24において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例8〜24と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第3表にしめす。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例25〜35
セロビオースデヒドロゲナーゼ生産菌によるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にセロビオース2g、ボールミルで粉砕した粉末セルロース(水分4.2重量%)6g、モルトエキストラクト10g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl25mg、ZnSO4・7H2O1.5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O0.5mg、FeSO4・7H2O100mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調製し、激しく攪拌しながら、この培地50ミリリットルを500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。さらに少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン20μgを加えた。その後、各フラスコにはガラスビーズをフラスコ当たり3個入れ、次いでシリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
この培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接種した。
【0044】
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で14日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養液を合わせて2等分し、その半分についてブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
【0045】
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
一方、残り半分の培養液について、全量を抽出し、ダイオキシン残存量を定量した。
結果を第4表に示す。
比較例5
実施例25〜35において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例25〜35と同様に実施し、残存ダイオキシンを定量した。結果を第4表にしめす。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例36〜45
セロビオースデヒドロゲナーゼによるダイオキシンの分解
水道水1リットルにセルロースパウダー4g、セロビオース2g、ラクトース2g(NH4)2HPO41g、KH2PO40.5g、尿素0.3g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl25mg、ZnSO4・7H2O1.5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O0.5mg、FeSO4・7H2O100mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調整した培地30リットルを製造した。
この培地を50リットルのジャーファーメンターに入れ,121℃で殺菌した。この培地と同様の組成の培地を用いて28℃、5日間フラスコで回転振とう培養したシゾフィラム・コムネ(Schyzophillum commune IFO6505)の培養液1リットルを無菌的に接種し、毎分100回転で28℃、12日間培養した。培養終了後に培養液をブフナーロートを用いて、ろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
【0048】
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿でしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
【0049】
次に、このセロビオースデヒドロゲナーゼを、20ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液に溶解し、100ミリリットル容の各ポリテトラフルオロエチレン製容器に30ミリリットルづつ分注した。なお、反応液中の酵素活性は3.3単位であった。この反応後に、少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン25μgを加えた。さらに各容器に、ボールミルで粉砕したセルロース100mgを添加又は添加せずに、第6表に示す種類の電子供与体を3ミリモル/リットル濃度になるように添加したのち、容器を30℃の恒温槽に入れ、さらに硫酸第二鉄1mmol、過酸化水素3mmolを加えて、往復振とうしながら、48時間分解反応を行った。その後、反応液の全量からダイオキシンを抽出し、定量した。結果を第5表に示す。
比較例6、7
実施例36〜45において、セロビオースデヒドロゲナーゼ溶液の代わりに、20ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液を加えたこと以外は、実施例36〜45と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第5表に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
実施例46〜51
セロビオースデヒドロゲナーゼ生産菌によるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にマルトース2g、セロビオース2g、セルロース5g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl20.08g、ZnSO4・7H2O5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O1.5mg、FeSO4・7H2O0.5mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調整し、激しく攪拌しながら、この培地50ミリリットルを500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。さらに少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン20μgを加えた。その後、各フラスコには、ガラスビーズをフラスコ当たり3個入れ、次いでシリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
【0052】
また、上記培地の作製において、セルロース粉末の代わりにラクトース10gに置き換えた培地も作製し、同様な操作を行った。
これらの培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接種した。
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で14日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養液を合わせて2等分し、その半分についてブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。
【0053】
以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
一方、残り半分の培養液について、全量を抽出し、ダイオキシン残存量を定量した。
結果を第6表に示す。
比較例8、9
実施例46〜51において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例46〜51と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第6表に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
実施例52
糖−ホスファチジルエタノールアミンによるダイオキシンの分解
0.1モル/リットル濃度のリン酸緩衝液/メタノール容量比2/1混合液(pH7.4)30ミリリットルを、100ミリリットル容の蓋付きポリテトラフルオロエチレン容器に入れた。この混合液に1,2−ジ(cis−9−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン27マイクロモルを添加し、さらにD−グルコース2.0ミリモルを添加し、37℃で15日間反応を行った。その結果、反応液中に糖−ホスファチジルエタノールアミンが生成していることを確認した。この反応液を減圧濃縮し、ダイオキシンの分解反応に使用した。
上記反応液に硫酸第一鉄30マイクロモルを加え、さらに蒸留水30ミリリットルを添加して攪拌したのち、少量のエタノールに溶解した2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。この容器を35℃の恒温槽で90分間振とうした。その後、反応液中の残存ダイオキシンを定量した。その結果、残存ダイオキシン量は32μgであった。
【0056】
比較例10
実施例52において、糖−ホスファチジルエタノールアミンを含まなかったこと以外は、実施例52と同様に実施し,残存ダイオキシン量を定量した。その結果、残存ダイオキシン量は48μgであった。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、ダイオキシン類やクロロビフェニル類、ビスフェノールA、ノニルフェノールなどの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等、広範な難分解性有害物質を、効果的に分解処理するための工業的に有利な分解剤、及びその方法を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染水や土壌中に含まれる難分解性有害物質の分解剤及び分解方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ダイオキシン類やハロゲン化ビフェニル類、ビスフェノールA、ノニルフェノールなどの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等、広範な難分解性有害物質を、効果的に分解処理するための分解剤、及びその方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人体に有害な難分解性有害物質として、様々な化合物、例えばダイオキシン類やビスフェノールA、ノニルフェノール、フタル酸エステル類などの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等が知られている。これらは、都市ごみや産業廃棄物の焼却設備や様々な燃焼設備、機器類などから自然界に排出され、また、化学物質の製造工程においても排出される場合があり、大きな社会問題となっている。
【0003】
このような物質のうち、例えばダイオキシン類等は、生物により分解され難いことから、多くの生物の体内に吸収され、食物連鎖により、最終的には動物体内に蓄積されて濃縮され、発がん性や催奇形成性を示すことが知られている。
そこで、これらダイオキシン類等の発生を抑制する方法が検討、提案されており、例えば、自動車や焼却炉などからの排出ガスを高温燃焼する方法が提案されている。しかしながら、このような方法においてもダイオキシン類等の発生を充分に抑制できるまでには至っていない。そして、大気中に放出されたダイオキシン類等は、雨水や雪とともに地上に降りて土壌に蓄積される。このように、自然界に放置されたダイオキシン類等を無害化するための有効な手段は見出されていない。
【0004】
また、環境ホルモン作用を有するフェノール類については、活性炭等による吸着分離、活性汚泥などによる分解が行われているが、ハロゲン化フェノール類、アルキルフェノール類、ビスフェノール類、更にはフタル酸エステル類などは、環境中に蓄積されやすいという問題があり、これらの化合物もまた食物連鎖により生物濃縮され、人や環境生物に種々の被害をもたらしている。
一方、クリーニング工業、精密機械関連産業等工業地域の土壌中には、洗浄剤などとして用いられているテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等の揮発性ハロゲン化炭化水素系の難分解性有害物質による汚染がかなりの範囲で拡がっていると考えられており、実際に環境調査等で検出された事例が多数報告されている。これらの難分解性有害物質は土壌中に残留したものが雨水等により地下水中に溶解して周辺地域一帯に拡がるとされている。これらの化合物には発がん性の疑いがあり、また環境中で安定であるため、特に飲料水の水源として利用されている地下水の汚染は深刻な社会問題となっている。
【0005】
このようなことから、難分解性有害物質の除去、分解による、汚染地下水等の水性媒体、土壌、及びそれに伴う周辺気相の浄化は、環境保全の視点からきわめて重要な課題であり、浄化に必要な種々の技術の開発が行われてきている。
例えば、ダイオキシン類を始めとする難分解性有害物質を分解する方法として、微生物や酵素を用いる方法が研究され、酵素ではリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼが分解に関与することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、前記リグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼは、微生物による生産が不安定であり、また、酵素自体の安定性も低いために工業的に生産しにくいという問題がある。一方、ラッカーゼは、メヂィエーターという電子伝達物質を必要とする欠点を有している。
【0006】
したがって、微生物あるいは有機合成で容易に生産でき、かつ安定であって、ダイオキシン類などの難分解性有害物質を分解し得る物質の工業的生産、供給が求められている。
【0007】
【非特許文献1】
「バイオ・インダストリー(BIO INDUSTRY)」、第15巻、第2号、第5〜13頁(1998年)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況下で、ダイオキシン類などの難分解性有害物質を、効果的に分解処理し得る工業的に有利な分解剤、及び該難分解性有害物質の分解方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ある種の有機性金属還元剤は、難分解性有害物質を効果的に分解することができる上、糸状菌や細菌などの微生物、あるいは有機合成によって、工業的な生産が可能であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)有機性金属還元剤を含むことを特徴とする難分解性有害物質分解剤、
(2)有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である上記(1)の難分解性有害物質分解剤、
(3)セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が、菌体内セロビオースデヒドロゲナーゼ、菌体内キサンチンオキシダーゼ又は菌体内糖タンパク質である上記(2)の難分解性有害物質分解剤、
【0010】
(4)菌体が糸状菌である上記(3)の難分解性有害物質分解剤、
(5)菌体が細菌である上記(3)の難分解性有害物質分解剤、
(6)糖タンパク質が化学的に合成した化合物である上記(2)の難分解性有害物質分解剤、
(7)さらに、金属イオンを含む上記(1)〜(6)の難分解性有害物質分解剤
(8)金属イオンが鉄イオン及び/又は銅イオンである上記(7)の難分解性有害物質分解剤、
(9)さらに、有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質を含む上記(1)〜(8)の難分解性有害物質分解剤、
(10)エネルギー供給物質が、糖類、キサンチン、NADH,NADPH,チトクロムc及びアスコルビン酸の中から選ばれる少なくとも一種である上記(9)の難分解性有害物質分解剤、
(11)糖類がセロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、ラクトース、マンノビオース、マルトース、キシロビオース及びこれらを構成成分とする糖の中から選ばれる少なくとも一種である上記(10)の難分解性有害物質分解剤、
【0011】
(12)難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることを特徴とする難分解性有害物質の分解方法、
(13)金属イオンの存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)の難分解性有害物質の分解方法、
(14)有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)、(13)の難分解性有害物質の分解方法、
(15)酸素又は過酸化水素の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる上記(12)、(13)、(14)の難分解性有害物質の分解方法、及び
(16)有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である上記(12)〜(15)の難分解性有害物質の分解方法、
を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の難分解性有害物質の分解剤及び分解方法が適用される難分解性有害物質としては、例えば炭素数が6以上の難分解性芳香族化合物、1〜4個の炭素原子及び少なくとも1個のハロゲン原子からなる難分解性ハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
炭素数が6以上の難分解性芳香族化合物としては、ダイオキシン類、ハロゲン化ビフェニル類、ビスフェノール類、アルキルフェノール類、ハロゲン化フェノール類、フタル酸エステル類等が挙げられる。
【0013】
ダイオキシン類とは、塩素原子あるいは臭素原子を1個以上有するダイオキシン類であり、ジベンゾ−p−ダイオキシンやジベンゾフランが有する2個のベンゼン環における水素原子が塩素原子や臭素原子により置換された化合物である。この塩素原子あるいは臭素原子の置換数やベンゼン環における置換位置により多種多様な化合物が包合される。
これらのダイオキシン類の中でも、1分子中に塩素原子を4個以上有する多塩素化物が特に人体に対する毒性が高く、そのような化合物としては、例えば、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,7,8−ぺンタクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,7,8−ヘキサクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,6,7,8−ヘプタクロロジベンゾ−p−ジオキシン、1,2,3,4,6,7,8,9−オクタクロロジベンゾ−p−ジオキシンなどのジベンゾ−p−ダイオキシンの多塩素化物;2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン、1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン、2,3,4,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,6,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,7,8,9−ヘキサクロロジベンゾフラン、2,3,4,6,7,8−ヘキサクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,6,7,8−ヘプタクロロジベンゾフラン、1,2,3,4,6,7,8,9−オクタクロロジベンゾフランなどのジベンゾフランの多塩素化物がある。
【0014】
また、ハロゲン化ビフェニル類としては、例えば、オルト位以外に塩素原子が置換したコプラナ(Coplanar)PCBがあり、具体的には、3,3’,4,4’−テトラクロロビフェノール、3,3’,4,4’,5−ペンタクロロビフェノール、3,3’,4,4’,5,5’,−ヘキサクロロビフェノールなどの化合物が挙げられる。
上記塩素化物の中でも、最も毒性の高い化合物は、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシンである。
更に、ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどの化合物が挙げられる。これらの化合物のうち、本発明の方法に好適なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0015】
アルキルフェノール類としては、ノニルフェノール、ペンチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャルブチルフェノールなどの化合物が挙げられる。
また、ハロゲン化フェノール類としては、ジクロロフェノール、トリクロロフェノール、テトラクロロフェノール、ペンタクロロフェノールなどの化合物が挙げられる。
更に、フタル酸エステル類としては、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレートなどの化合物が挙げられる。
本発明において、1〜4個の炭素原子及び少なくとも1個のハロゲン原子からなる難分解性ハロゲン化炭化水素としては、例えば、モノ、ジ、トリ、テトラハロゲン化メタン、1〜5個のハロゲン原子を有するハロゲン化エタン、1〜3個のハロゲン原子を有するハロゲン化エチレン、2〜3個のハロゲン原子を有するハロゲン化プロピレン等が挙げられる。
【0016】
具体的には、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、モノクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、トリクロロプロピレン等が挙げられ、特に、トリクロロエチレンが好ましい。
本発明における上記難分解性有害物質は、その多くが動物の体内に蓄積し、種々の問題を引き起こすことが懸念されている、いわゆる外因性内分泌撹乱物質である。この物質は、環境中に偏在してホルモンと類似の作用を示し、内分泌を撹乱する化学物質を指し、極微量であっても動物の生態や人体への健康障害、例えば免疫系や内分泌系、神経系に対する影響が大きいことから、このような外因性内分泌撹乱物質を分解して無害化することが望まれている。本発明の分解剤及び分解方法は、難分解性有害物質の中で、上記外因性内分泌撹乱物質の分解に特に有効である。
【0017】
本発明の難分解性有害物質分解剤は、有機性金属還元剤、及び必要に応じ金属イオン又は有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質あるいはその両方を含むものである。
本発明において有機性金属還元剤とは、分子内に金属を包含するタンパク質で、タンパク質分子外の金属を還元できるものをいう。本発明においては、該有機性金属還元剤として、例えばセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が好ましく用いられる。また、糖−ホスファチジルエタノールアミンも用いることができる。
前記のセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質は、微生物が産生したものを単離して使用してもよく、菌体内セロビオースデヒドロゲナーゼ、菌体内キサンチンオキシダーゼ又は菌体内糖タンパク質として、それらを産生する微生物を使用してもよい。該微生物としては、糸状菌や細菌などが挙げられる。また、遺伝子を形質転換してなる組み換え微生物も用いることができる。なお、糖タンパク質は、化学的に合成した化合物を使用することもできる。
【0018】
具体的には、前記セロビオースデヒドロゲナーゼとしては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該酵素の供給源として微生物を使用してもよく、またその両方を使用してもよい。この微生物としては、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生するものであればよく、特に制限はないが、糸状菌や細菌など、とりわけ糸状菌を好ましく挙げることができる。また組み換え微生物を使用することもできる。
セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する糸状菌としては、木材腐朽菌を始め、各種の糸状菌が存在する。具体例としては、グロエオフィラム・トラビウム(Gloeophyllum trabeum、褐色腐朽菌)ATCC11539、コニフォラ・プテアーナ(Coniphora puteana、褐色腐朽菌)、
スポロトリカム・パルべルレンタム(Sporotrichum pulverulentum、白色腐朽菌)、スポロトリカム・サーモファイル(Sporotrichum thermophile、白色腐朽菌)ATCC 42464、シゾフィラム・コムネ(Schyzophillum commune、白色腐朽菌)、ヘトロバシディオン・アノサム(Heterobasidion annosum、白色腐朽菌)、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor、白色腐朽菌)、フィクノポラス・シンナバリナス(Pycnoporus cinnabarinus、白色腐朽菌)ATCC 200478、フォメス・アノサス(Fomes annosus、白色腐朽菌)ATCC 28222、ケトミウム・セルロリティカム(Chaetomium cellurolyticum、糸状菌)ATCC 32319、マイセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila、糸状菌)、ニューロスポラ・シトフィラ(Neurospora sitophila、糸状菌)、スクレロチウム・ロルフィシー(Sclerotium rolfsii、糸状菌)、CBS 19162、フミコラ・インソレンス[Humicola insolens、糸状菌]、モニリア属(Monilia,糸状菌)、アクレモニウム属(Acremonium、糸状菌)、トリコデルマ・レッセイ(Trichoderma reesei、糸状菌)、フミコラ・インソレス(Humicola insolens)などを挙げることができる。
【0019】
セロビオースデヒドロゲナーゼは、セロビオースを酸化してセロビオラクトンに変換し、その際電子を引き抜いて、それ自体は還元されるデヒドロゲナーゼの性質を有する酵素である。自然界では、セルラーゼの働きにより分解、生成したセロビオースから、微生物がエネルギーを獲得する手段として利用されていると考えられている。
このセロビオースデヒドロゲナーゼは、菌体外に産生されるために、分離回収が容易であると共に、安定性が高く、また酵素内にフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を保有することから、酸化還元反応に補酵素を必要としないなどの利点を有する。
【0020】
また、キサンチンオキシダーゼは、牛乳の中に含まれており、牛乳をそのままあるいは精製して用いることができる。また、キサンチンオキシダーゼ遺伝子をクローニングし、微生物に組み込んで生産させたり、組み換え微生物そのものを使用することもできる。この微生物としては、特に制限されず、例えば大腸菌などの細菌、コウジ菌、木材腐朽菌、糸状菌などを挙げることができる。
一方、糖タンパク質としては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該糖タンパク質の供給源として微生物そのものを使用してもよく、また、その両方を使用してもよい。あるいは化学的に合成した化合物を使用してもよい。該微生物については、糖タンパク質を産生するものであればよく、特に制限はないが、アミノ酸とグルコースが結合し、遊離のアミノ基を有する分子量1万以下の糖タンパク質は、多くの糸状菌が産生する。また、組み換え微生物を使用することもでき、化学的な合成については、アミノ酸と糖から糖タンパク質を合成することができる。
【0021】
糖タンパク質を産生する糸状菌としては、例えばタイロマイセス・パルストリス(Tyromyces palustris、褐色腐朽菌)FRI 05707、ファネロキーテ・クリソスポリウム(Phanerochate chrysosporium、白色腐朽菌)、イルペクス・ラクテウス(Irpex lacteus、白色腐朽菌)、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor、白色腐朽菌)、キシラリラ・ポリモルファ(Xylalia polymorpha、糸状菌)、クラドールヒナム属(Cladorrhinum、糸状菌)、グラフィウム属(Graphium、糸状菌)、スファエロプシス属(Sphaeropsis、糸状菌)、スコプラリオプシス属(Scopulariopsis、糸状菌)、フザリウム・ポリフェラタム(Fusarium poliferatum、糸状菌)、トリコデルマ属(Trichoderma、糸状菌)、アクレモニウム属(Acremonium Zonatum、糸状菌)、などを挙げることができる[「ジャーナル・オブ・バイオテクノロジー(Jurnal of Biotechnology)」、第75巻、第57〜70頁(1999年)]。
一方、糖−ホスファチジルエタノールアミンは、従来公知の方法に従って、ホスファチジルエタノールアミンとグルコースから合成することができる。
【0022】
本発明の分解剤においては、前記の有機性金属還元剤と共に、必要に応じて金属イオン及び/又は有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質が用いられる。該金属イオンとしては、鉄イオン及び/又は銅イオンを挙げることができる。該鉄イオンは、二価及び三価のいずれであってもよい。
また、有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質としては、糖類、キサンチン、NADH、NADPH、チトクロムc、アスコルビン酸などを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
具体的には、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合には、エネルギー供給物質として、糖類を共存させることが好ましい。該糖類としては、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、ラクトース、マンノビオース、マルトース、キシロビオース及びこれらを構成成分とする糖、例えばオリゴ糖や、セルロース、ヘミセルロースなどの多糖類の中から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。これらの糖類は、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合に、エネルギー供給物質として有効であり、特に多糖類のセルロースやヘミセルロースは、以下に示す効果を奏することから、好ましい。
セロビオースデヒドロゲナーゼは、セルロースやヘミセルロースに吸着しやすい性質を有しており[「Biotechnol.Appl.Biochem.」、第135〜141頁(1997年)]、一方ダイオキシン類やPCBなどの有機ハロゲン系難分解性有害物質も、セルロースやヘミセルロースに吸着しやすい。したがって、セロビオースデヒドロゲナーゼと難分解性有害物質を、セルロースやヘミセルロースを介して近傍に存在させることで、該セロビオースデヒドロゲナーゼにより、セルロースやヘミセルロースから発生するラジカルが、難分解性有害物質に効果的に衝突し、該難分解性有害物質が効率よく酸化分解される。
【0024】
また、有機性金属還元剤として、キサンチンオキシダーゼを用いる場合には、エネルギー供給物質として、キサンチンを共存させるのが好ましい。さらに、有機性金属還元剤として、糖タンパク質を用いる場合には、エネルギー供給物質として、NADH、NADPH、アスコルビン酸、チトクロムcなどの中から選ばれる少なくとも一種を共存させることが好ましい。なおNADHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)補酵素の還元型のことであり、NADPHは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)補酵素の還元型のことである。
本発明の分解剤においては、賦形剤として、例えばセルロース、木材チップ、バガス、パルプ、古紙、粉末セルロースなどを用いることができる。これらの賦形剤の中では、特にセルロースが好適である。
次に、本発明の難分解性有害物質の分解方法においては、難分解性有害物質に、前述の有機性金属還元剤を接触させることにより、該難分解性有害物質を分解処理する。
【0025】
該有機性金属還元剤としては、前述のセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が好ましく用いられる。また、糖−ホスファチジルエタノールアミンを用いることもできる。また、本発明の分解方法においては、必要により、(a)金属イオン、(b)有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質及び(c)酸素又は過酸化水素の中から選ばれる少なくとも一種の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることができる。
前記金属イオン及び有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質については、前述の本発明の分解剤において説明したとおりである。
本発明の分解方法においては、有機性金属還元剤として、セロビオースデヒドロゲナーゼを用いる場合には、前記の(a)成分、(b)成分、(c)成分と共に、(d)フェノール類酸化酵素、及びモノ若しくは多価フェノール類又はキノン類を共存させることができる。
【0026】
この分解方法において、(d)成分におけるフェノール類酸化酵素としては、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼの中から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。このフェノール類酸化酵素は、モノ若しくは多価フェノール類、例えばフェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンなど、又はベンゾキノンなどのキノン類を共存させることにより、エネルギーを効率よくセロビオースデヒドロゲナーゼに供給すると共に、セロビオースデヒドロゲナーゼにより酸化された難分解性有害物質がさらにフェノール類酸化酵素の働きで分解される。
すなわち、フェノール類酸化酵素は、セルビオースデヒドロゲナーゼや糖タンパク質が初発酸化した難分解性有害物質をさらに酸化し、低分子化する働きを有する。一方、低分子化の過程で、モノ若しくは多価フェノール類又はキノン類は、該フェノール類酸化酵素によりケトン類に酸化される。この反応において、NADやメディエーターは還元されてNADHなどの高エネルギー状態に戻り、セロビオースデヒドロゲナーゼや糖タンパク質がリサイクルされて、難分解性有害物質を再初発酸化する際のエネルギーとして使われるという、エネルギー再生のための重要な働きを担う。したがって、有機性金属還元剤として、糖タンパク質を用いる場合にも、この(d)成分を共存させることができる。
【0027】
前記(d)成分におけるフェノール類酸化酵素としては、微生物が産生したものを単離して使用してもよいし、該酵素の供給源として微生物を直接使用してもよく、またその両方を使用してもよい。
ラッカーゼを生産する微生物としては、ラッカーゼ生産性の高い微生物、例えば、シゾフィラム(Schyzophillum)属、プレウロタス(Pleurotus)属、トラメテス(Trametes)属、レンチナス(Lentinus)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、フナリア(Funalia)属、フィクノポラス(Pycnoporus)属、メルリウス(Merulius)属、ミセリオフトラ(Myceliophtora)属、コプリナス(Coprinus)属、アガリクス(Agaricus)属、フォリオタ(Pholiota)属、フラムリナ(Flammulina)属、ガノデルマ(Ganoderma)属、ダエダレオプシス(Daedaleopsis)属、ファボラス(Favolus)属、リオフィラム(Lyophyllum)属、オーリクラリア(Auricularia)属等に属する微生物を挙げることができる。
【0028】
上記微生物が生産したラッカーゼには、ラッカーゼとともにリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ等を併産してなるものも含み、したがって、本発明に用いるフェノール類酸化酵素としては、このラッカーゼにリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ等が混在したものも用いることができる。また、これらの酵素を生産する菌と有機性金属還元剤を生産する菌を共存させることができる。
さらに、本発明の分解方法において、(a)金属イオン及び(c)酵素又は過酸化水素の存在下に、難分解性有害物質に有機性金属還元剤である糖−ホスファチジルエタノールアミンを接触させる場合、(b)成分である有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質を共存させる必要はない。そして、前記(a)成分の金属イオンとしては、特に二価、三価の鉄イオンが好ましい。(c)成分の過酸化水素は、グルコースとグルコースオキンターゼを反応させて発生させることもできる。
【0029】
難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させ、該難分解性有害物質を分解処理する方法としては、特に制限はなく、上記難分解性有害物質を、その発生源からの直接的な排気や排水(排液)、焼却灰、さらにこれらによって汚染された土壌より分離して処理することも可能ではあるが、その取扱いには危険性が伴うことから、排気や排水(排液)、焼却灰、汚染土壌そのものを処理するのが好ましい。
本発明においては、有機性金属還元剤であるセロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ、糖タンパク質又はそれらを産生する微生物、あるいは糖−ホスファチジルエタノールアミンは、適当な担体に固定化して用いることもできる。また、フェノール類酸化酵素を用いる場合には、前記の有機性金属還元剤と共に該フェノール類酸化酵素又はそれを産生する微生物を担体に、別途あるいは有機性金属還元剤と同時に、固定化して用いることもできる。
【0030】
本発明の分解方法においては、前記有機性金属還元剤を難分解性有害物質に接触させる際の温度は、10〜80℃の範囲が好ましく、特に20〜70℃の範囲が好ましい。この温度が10℃未満であると反応速度が遅くなり、また80℃を超えると有機性金属還元剤やフェノール類酸化酵素などが失活したり、あるいは微生物を用いる場合には死滅するおそれがある。本発明においては、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)が産生する耐熱性セロビオースデヒドロゲナーゼを用いることにより、高温の廃水処理にも適用できる。本発明の分解方法においては、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる際のpHは、2〜10の範囲が好ましく、より好ましくは3〜8の範囲である。このpHが3未満であったり、10を超えると有機性金属還元剤が充分に作用しない場合がある。分解に関与するラジカルの安定性を考慮すると、このpHは中性から酸性の範囲がさらに好ましい。
【0031】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1 キサンチンオキシダーゼによるダイオキシンの分解
30ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH6.0)にキサンチン0.5ミリモル、FeCl3100マイクロモル、EDTA100マイクロモルを加えた反応液10ミリリットルを、内容積50ミリリットルのポリテトラフルオロエチレン製容器に仕込んだ。この反応液に市販のキサンチンオキシダーゼ(和光純薬社製)0.25単位(ユニット)を加えたのち、少量のエタノールに溶解したダイオキシンの2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。
次いで、この反応器を25℃の恒温槽に入れ、内部にマグネットスターラーを入れて、毎分200回転で攪拌しながら、0.5ミリモル/リットル濃度の過酸化水素液10ミリリットルを6時間かけて滴下した。その後、反応液中のダイオキシンを抽出し、定量したところ、ダイオキシンの残存量は28μgであった。
【0032】
比較例1
実施例1において、キサンチンオキシダーゼを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、残存ダイオキシンを定量した。その結果、ダイオキシンの残存量は52μgであった。
実施例2〜4 糖タンパク質によるダイオキシンの分解
褐色腐朽菌タイロマイセス・パラストリス(Tyromyces・palustris)を平野らの方法[「木材学会誌」、第41巻、第3号、第334〜341ページ]に基づき50リットル培養し、培養液から糖タンパク質を分離精製し、凍結乾燥した。
この糖タンパク質10mgを100ミリリットル容のポリテトラフルオロエチレン容器に仕込み、40ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH4.5)20ミリリットルを加えて溶解した。さらに、この溶液に少量のジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。
【0033】
この容器を25℃の恒温槽に入れ、FeCl3100マイクロモルを加え、次いでエネルギー源として、第1表に示す種類と量の物質を添加し、24時間振とうした。その後、反応液内の残存ダイオキシン量を定量した。結果を第1表に示す。
比較例2
実施例2〜4において、糖タンパク質及びエネルギー源を添加しなかったこと以外は、実施例2〜4と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。その結果を第1表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例5〜7 糖タンパク質によるダイオキシンの分解
1リットルの蒸留水にKH2PO45g、MgSO4・7H2O4g、K2HPO44g、NH4NO36gを加え、さらにセロビオース1g、グルコース2g、マルトース2gを加えて培地を作製した。この培地を500ミリリットル容のバッフル付三角フラスコに50ミリリットルづつ分注した。このフラスコにブナオガクズ(水分38重量%)を6gづつ添加し、シリコ栓をして121℃で20分間殺菌した。
この培地に菌体外に糖タンパク質を産生することが確認してある種々の糸状菌を植菌し、26℃で毎分50回転の速度にて振とう培養した。
培養終了後、培養液をろ紙でろ過して不溶成分を除去した。この培養液10ミリリットルを、50ミリリットル容ネジ蓋付きポリテトラフルオロエチレン容器に分注した。この培養液に5ミリモル/リットル濃度のFeSO41ミリリットルを添加し、26℃の恒温槽に設置し、エネルギー供給源として、アスコルビン酸(4×10−3ミリモル)を添加したのち振とうを開始した。次いで容器内を純酸素で5分間置換後、密栓し、さらに6時間振とうした。その後、反応液中のダイオキシンを抽出して定量した。結果を第2表に示す。
【0036】
比較例3
実施例5〜7において、糖タンパク質を産生する糸状菌及びエネルギー源を供給しなかったこと以外は、実施例5〜7と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。その結果を第2表に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例8〜24
セロビオースデヒドロゲナーゼによるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にセルロースパウダー5g、セロビオース2g、マルトース2g、ボールミルで粉砕したブナオガクズ(水分42重量%)6g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl20.08g、ZnSO4・7H2O5mg、MnSO4・7H2O1.5mg、CoCl2・6H2O1.5mg、FeSO4・7H2O0.5mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調製して培地を調製した。
この培地50ミリリットルを攪拌しながら、500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。各フラスコにはガラスビーズをフラスコ当り5個入れたのち、シリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
【0039】
この培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接触した。
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で8日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養物を合わせ、ブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。
【0040】
以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
次に精製したセロビオースデヒドロゲナーゼ全量を、0.1モル/リットル濃度の酢酸緩衝液(pH4.5)20ミリリットルに溶解し、100ミリリットル容のポリテトラフルオロエチレン製容器に入れたのち、少量のDMSOに溶解したダイオキシンの2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。この容器を30℃の恒温槽に入れ、往復振とうしながら、セコビオース2ミリモルを、0.1モル/リットル濃度の酢酸緩衝液1ミリリットルに溶解した溶液を添加し、さらに塩化第2鉄1mmol、過酸化水素3mmolを加え、分解反応を行った。
24時間後に、反応液にトルエンを添加して抽出操作を行い、残存ダイオキシンを定量した。結果を第3表に示す。
【0041】
比較例4
実施例8〜24において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例8〜24と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第3表にしめす。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例25〜35
セロビオースデヒドロゲナーゼ生産菌によるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にセロビオース2g、ボールミルで粉砕した粉末セルロース(水分4.2重量%)6g、モルトエキストラクト10g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl25mg、ZnSO4・7H2O1.5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O0.5mg、FeSO4・7H2O100mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調製し、激しく攪拌しながら、この培地50ミリリットルを500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。さらに少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン20μgを加えた。その後、各フラスコにはガラスビーズをフラスコ当たり3個入れ、次いでシリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
この培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接種した。
【0044】
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で14日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養液を合わせて2等分し、その半分についてブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
【0045】
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
一方、残り半分の培養液について、全量を抽出し、ダイオキシン残存量を定量した。
結果を第4表に示す。
比較例5
実施例25〜35において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例25〜35と同様に実施し、残存ダイオキシンを定量した。結果を第4表にしめす。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例36〜45
セロビオースデヒドロゲナーゼによるダイオキシンの分解
水道水1リットルにセルロースパウダー4g、セロビオース2g、ラクトース2g(NH4)2HPO41g、KH2PO40.5g、尿素0.3g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl25mg、ZnSO4・7H2O1.5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O0.5mg、FeSO4・7H2O100mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調整した培地30リットルを製造した。
この培地を50リットルのジャーファーメンターに入れ,121℃で殺菌した。この培地と同様の組成の培地を用いて28℃、5日間フラスコで回転振とう培養したシゾフィラム・コムネ(Schyzophillum commune IFO6505)の培養液1リットルを無菌的に接種し、毎分100回転で28℃、12日間培養した。培養終了後に培養液をブフナーロートを用いて、ろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
【0048】
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿でしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
【0049】
次に、このセロビオースデヒドロゲナーゼを、20ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液に溶解し、100ミリリットル容の各ポリテトラフルオロエチレン製容器に30ミリリットルづつ分注した。なお、反応液中の酵素活性は3.3単位であった。この反応後に、少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン25μgを加えた。さらに各容器に、ボールミルで粉砕したセルロース100mgを添加又は添加せずに、第6表に示す種類の電子供与体を3ミリモル/リットル濃度になるように添加したのち、容器を30℃の恒温槽に入れ、さらに硫酸第二鉄1mmol、過酸化水素3mmolを加えて、往復振とうしながら、48時間分解反応を行った。その後、反応液の全量からダイオキシンを抽出し、定量した。結果を第5表に示す。
比較例6、7
実施例36〜45において、セロビオースデヒドロゲナーゼ溶液の代わりに、20ミリモル/リットル濃度の酢酸緩衝液を加えたこと以外は、実施例36〜45と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第5表に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
実施例46〜51
セロビオースデヒドロゲナーゼ生産菌によるダイオキシンの分解
1リットルの水道水にマルトース2g、セロビオース2g、セルロース5g、(NH4)2HPO42g、KH2PO41g、(NH4)2SO40.5g、MgSO4・7H2O0.3g、CaCl20.08g、ZnSO4・7H2O5mg、MnSO4・4H2O1.5mg、CoCl2・6H2O1.5mg、FeSO4・7H2O0.5mg、酵母エキス100mg、ビオチン0.1mgを溶解し、pHを6.2に調整し、激しく攪拌しながら、この培地50ミリリットルを500ミリリットル容のイボ付き三角フラスコに分注した。さらに少量のDMSOに溶解したダイオキシン2,4,8−トリクロロジベンゾフラン20μgを加えた。その後、各フラスコには、ガラスビーズをフラスコ当たり3個入れ、次いでシリコ栓をし、121℃で15分間殺菌した。
【0052】
また、上記培地の作製において、セルロース粉末の代わりにラクトース10gに置き換えた培地も作製し、同様な操作を行った。
これらの培地にセロビオースデヒドロゲナーゼを産生することを予め確認してある種々の糸状菌を、上記と同じ組成に寒天2重量%を加えて作製した培地を用いて培養した種菌をコルクボーラーで打ち抜き、糸状菌1種類について2本接種した。
これらのフラスコを26℃の回転振とう培養器に入れ、毎分60回転の速度で14日間培養した。培養終了後に1種類2本のフラスコの培養液を合わせて2等分し、その半分についてブフナーロートを用いてろ紙で菌体を含む固形物を吸引ろ過した。
このろ液に硫酸アンモニウムを添加してタンパク質を沈殿せしめた、沈殿物を10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)に入れ、攪拌しながら1時間再溶解した。不溶物は遠心分離により除去し、上澄み液はセファデックスG−25カラムに付し、10ミリモル/リットル濃度の酢酸アンモニウム緩衝液を流して脱塩・精製した。さらに、通過液をDEAEセファロースカラムを通してセロビオースデヒドロゲナーゼ画分を赤色バンドとして吸着せしめた。その後、セロビオースデヒドロゲナーゼ画分は10〜250ミリモル/リットルの酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.5)の濃度勾配を付けて溶出した。
【0053】
以後、ヘンリクソン(Henriksson)らの方法[「Biochemica et Biophysica Acta No1383」第48〜54ページ(1998年)]に従い、精製を行った。
セロビオースデヒドロゲナーゼの活性は、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール100マイクロモルを450マイクロリットルの蒸留水に溶かし、酵素液50マイクロリットルにセロビオース250マイクロモルを溶かした液を混合して測定した。酵素活性は、1マイクロモルのセロビオースが1分間に酸化される速度を1単位とした。
一方、残り半分の培養液について、全量を抽出し、ダイオキシン残存量を定量した。
結果を第6表に示す。
比較例8、9
実施例46〜51において、セロビオースデヒドロゲナーゼを産生する微生物を用いなかったこと以外は、実施例46〜51と同様に実施し、残存ダイオキシン量を定量した。結果を第6表に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
実施例52
糖−ホスファチジルエタノールアミンによるダイオキシンの分解
0.1モル/リットル濃度のリン酸緩衝液/メタノール容量比2/1混合液(pH7.4)30ミリリットルを、100ミリリットル容の蓋付きポリテトラフルオロエチレン容器に入れた。この混合液に1,2−ジ(cis−9−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン27マイクロモルを添加し、さらにD−グルコース2.0ミリモルを添加し、37℃で15日間反応を行った。その結果、反応液中に糖−ホスファチジルエタノールアミンが生成していることを確認した。この反応液を減圧濃縮し、ダイオキシンの分解反応に使用した。
上記反応液に硫酸第一鉄30マイクロモルを加え、さらに蒸留水30ミリリットルを添加して攪拌したのち、少量のエタノールに溶解した2,4,8−トリクロロジベンゾフラン50μgを加えた。この容器を35℃の恒温槽で90分間振とうした。その後、反応液中の残存ダイオキシンを定量した。その結果、残存ダイオキシン量は32μgであった。
【0056】
比較例10
実施例52において、糖−ホスファチジルエタノールアミンを含まなかったこと以外は、実施例52と同様に実施し,残存ダイオキシン量を定量した。その結果、残存ダイオキシン量は48μgであった。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、ダイオキシン類やクロロビフェニル類、ビスフェノールA、ノニルフェノールなどの環境ホルモン、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどの揮発性ハロゲン化炭化水素類、ベンゾピレンなどの発がん性物質等、広範な難分解性有害物質を、効果的に分解処理するための工業的に有利な分解剤、及びその方法を提供することができる。
Claims (16)
- 有機性金属還元剤を含むことを特徴とする難分解性有害物質分解剤。
- 有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である請求項1記載の難分解性有害物質分解剤。
- セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質が、菌体内セロビオースデヒドロゲナーゼ、菌体内キサンチンオキシダーゼ又は菌体内糖タンパク質である請求項2記載の難分解性有害物質分解剤。
- 菌体が糸状菌である請求項3記載の難分解性有害物質分解剤。
- 菌体が細菌である請求項3記載の難分解性有害物質分解剤。
- 糖タンパク質が化学的に合成した化合物である請求項2記載の難分解性有害物質分解剤。
- さらに、金属イオンを含む請求項1ないし6のいずれかに記載の難分解性有害物質分解剤。
- 金属イオンが鉄イオン及び/又は銅イオンである請求項7記載の難分解性有害物質分解剤。
- さらに、有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質を含む請求項1ないし8のいずれかに記載の難分解性有害物質分解剤。
- エネルギー供給物質が、糖類、キサンチン、NADH、NADPH、チトクロムc及びアスコルビン酸の中から選ばれる少なくとも一種である請求項9記載の難分解性有害物質分解剤。
- 糖類がセロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、ラクトース、マンノビオース、マルトース、キシロビオース及びこれらを構成成分とする糖の中から選ばれる少なくとも一種である請求項10記載の難分解性有害物質分解剤。
- 難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させることを特徴とする難分解性有害物質の分解方法。
- 金属イオンの存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる請求項12記載の難分解性有害物質の分解方法。
- 有機性金属還元剤に対するエネルギー供給物質の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる請求項12又は13記載の難分解性有害物質の分解方法。
- 酸素又は過酸化水素の存在下で、難分解性有害物質に有機性金属還元剤を接触させる請求項12、13又は14記載の難分解性有害物質の分解方法。
- 有機性金属還元剤が、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キサンチンオキシダーゼ又は糖タンパク質である請求項12ないし15のいずれかに記載の難分解性有害物質の分解方法。
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-
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