JP2004316783A - ロックアップクラッチ付き流体伝動装置 - Google Patents

ロックアップクラッチ付き流体伝動装置 Download PDF

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浩也 安部
Toshitaka Imai
利隆 今井
Tetsuo Maruyama
徹郎 丸山
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Abstract

【課題】ロックアップクラッチ付き流体伝動装置において,エンジンのアイドル時におけるクラッチピストンの後退位置を一定にして,摩擦係合手段の遮断状態を安定させる。
【解決手段】クラッチピストン19及びタービンランナ3間に,摩擦係合手段5b,28を遮断状態にするためのクラッチピストン19の所定の後退位置を規定する後退ストッパ手段45を設け,エンジンEのアイドル状態ではクラッチピストン19がクラッチ室22の内側室23及び外側室24間の圧力差により所定の後退位置に保持されるように,弾性部材33の付勢力によるロックアップクラッチLの伝動容量をエンジンEのアイドル状態でのポンプインペラ2の吸収トルク容量より小さく設定した。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,車両や産業機械の動力伝動装置に使用される,トルクコンバータや流体継手等の流体伝動装置に関し,特に,エンジンにより駆動されるポンプインペラと,このポンプインペラとの間に循環回路を画成し,出力軸を駆動するタービンランナと,ポンプインペラに連設され,タービンランナの外側面との間に循環回路の外周部と連通するクラッチ室を画成するサイドカバーと,前記クラッチ室に配設され,サイドカバー及びタービンランナ間を直結し得るロックアップクラッチとを備え,そのロックアップクラッチを,タービンランナに軸方向移動可能に連結されて前記クラッチ室をタービンランナ側の内側油室とサイドカバー側の外側油室とに区画するクラッチピストンと,エンジンにより駆動されるオイルポンプから前記循環回路に供給されるオイルを用いて,クラッチピストンをサイドカバー内側面に対して進退させるべく前記内側油室及び外側油室間に圧力差を発生させるロックアップ制御手段と,クラッチピストンのサイドカバー内側面に対する前進・後退に応じてクラッチピストン及びサイドカバー間を係合・遮断させる摩擦係合手段と,クラッチピストンを前進方向に付勢すべくクラッチピストン及びタービンランナ間に配設される弾性部材とで構成した,ロックアップクラッチ付き流体伝動装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
かゝるロックアップクラッチ付き流体伝動装置は,例えば下記特許文献1に開示されているように,既に知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−63151号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
かゝるロックアップクラッチ付き流体伝動装置において,クラッチピストンを前進方向に付勢する弾性部材は,ロックアップクラッチを接続状態にすべくロックアップ制御手段を作動したとき,クラッチピストンの前進遅れを少なくして,ロックアップクラッチの接続応答性を向上させるものである。
【0005】
ところで,従来のロックアップクラッチ付き流体伝動装置では,エンジンのアイドル時,エンジンに駆動されるオイルポンプの吐出量が比較的少なく,しかも変動するため,クラッチピストンの後退位置が一定せず,したがって摩擦係合手段の遮断状態が安定せず,引摺りトルクの発生や燃費の悪化を招くことがあり,またクラッチピストンの後退位置が一定しないことは,クラッチピストンの前進ストロークが一定しないことでもあるから,ロックアップクラッチの接続応答性がエンジンの運転条件によって一定しないことになる。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,エンジンのアイドル時におけるクラッチピストンの後退位置を一定にして,摩擦係合手段の遮断状態を安定させ,同時にロックアップクラッチの接続応答性を,エンジンの運転条件に関係なく常に一定にし得る前記ロックアップクラッチ付き流体伝動装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,エンジンにより駆動されるポンプインペラと,このポンプインペラとの間に循環回路を画成し,出力軸を駆動するタービンランナと,ポンプインペラに連設され,タービンランナの外側面との間に循環回路の外周部と連通するクラッチ室を画成するサイドカバーと,前記クラッチ室に配設され,サイドカバー及びタービンランナ間を直結し得るロックアップクラッチとを備え,そのロックアップクラッチを,タービンランナに軸方向移動可能に連結されて前記クラッチ室をタービンランナ側の内側油室とサイドカバー側の外側油室とに区画するクラッチピストンと,エンジンにより駆動されるオイルポンプから前記循環回路に供給されるオイルを用いて,クラッチピストンをサイドカバー内側面に対して進退させるべく前記内側油室及び外側油室間に圧力差を発生させるロックアップ制御手段と,クラッチピストンのサイドカバー内側面に対する前進・後退に応じてクラッチピストン及びサイドカバー間を係合・遮断させる摩擦係合手段と,クラッチピストンを前進方向に付勢すべくクラッチピストン及びタービンランナ間に配設される弾性部材とで構成した,ロックアップクラッチ付き流体伝動装置において,クラッチピストン及びタービンランナ間に,前記摩擦係合手段を遮断状態にするためのクラッチピストンの所定の後退位置を規定する後退ストッパ手段を設け,エンジンのアイドル状態ではクラッチピストンが前記圧力差により前記所定の後退位置に保持されるように,前記弾性部材の付勢力によるロックアップクラッチの伝動容量をエンジンのアイドル状態でのポンプインペラの吸収トルク容量より小さく設定したことを特徴とする。
【0008】
尚,前記流体伝動装置は,後述する本発明の実施例中のトルクコンバータTに,前記摩擦係合手段は摩擦面5b及び摩擦ライニング28に,前記ロックアップ制御手段はロックアップ制御弁42に,弾性部材は皿ばね33にそれぞれ対応する。
【0009】
上記特徴によれば,エンジンのアイドル状態では,常に,クラッチピストンが前記所定の後退位置に保持されることになり,摩擦係合手段の遮断状態を安定させ,引摺りトルクの発生や燃費の悪化を防ぐことができる。また摩擦係合手段を接続状態にするためのクラッチピストンの前進ストロークも常に一定となるから,エンジンの運転条件に関係なく,弾性部材の付勢力を有効に利用して,ロックアップクラッチの接続応答性を安定的に高めることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の実施例に基づいて以下に説明する。
【0011】
図1は本発明の実施例に係るロックアップクラッチ付きトルクコンバータを,ロックアップクラッチの遮断状態で示す縦断側面図,図2は図1の2部拡大図,図3はロックアップクラッチの接続状態を示す,図1との対応図,図4はトルクコンバータの速度比=0の状態におけるA/Bの比と,トルクコンバータの負荷トルクと,ロックアップクラッチの摩擦面間でのオイル流量との関係を示す線図である。
【0012】
先ず,図1において,流体伝動装置としてのトルクコンバータTは,ポンプインペラ2と,それと対置されるタービンランナ3と,それらの内周部間に配置されるステータ4とを備え,これら三部材2,3,4間には作動オイルによる動力伝達のための循環回路6が画成される。
【0013】
ポンプインペラ2の外周部には,タービンランナ3の外側面を覆うサイドカバー5が溶接により一体的に連設される。サイドカバー5の外周面には,周方向に配列される複数の連結ボス7が溶接されており,これらに,エンジンEのクランク軸1に結合した駆動板8がボルト9で固着される。タービンランナ3中心部のタービンハブ3aとサイドカバー5との間にスラストニードルベアリング36が介裝される。
【0014】
トルクコンバータTの中心部にクランク軸1と同軸上に並ぶ出力軸10が配置され,この出力軸10は,タービンハブ3aにスプライン嵌合されると共に,サイドカバー5中心部の支持筒5aに軸受ブッシュ18を介して回転自在に支承される。出力軸10は図示しない多段変速機の主軸となる。
【0015】
出力軸10の外周には,ステータ4中心部のステータハブ4aをフリーホイール11を介して支承する円筒状のステータ軸12が配置され,これら出力軸10及びステータ軸12間には,それらの相対回転を許容するニードルベアリング13が介裝される。ステータ軸12の外端部はミッションケース14に回転不能に支持される。
【0016】
ステータハブ4aの軸方向両端面と,これらに対向するポンプインペラ2及びタービンランナ3の各ハブ2a,3aの端面との間にスラストニードルベアリング37,37′が介裝され,これらスラストニードルベアリング37,37′と前記スラストニードルベアリング36とにより,ポンプインペラ2及びサイドカバー5間でのタービンランナ3及びステータ4の軸方向移動が規制される。
【0017】
またステータ軸12の外周には,ポンプインペラ2に結合した補機駆動軸20が相対回転可能に配置され,この補機駆動軸20によって,トルクコンバータTに作動オイルを供給するオイルポンプ21が駆動されるようになっている。
【0018】
タービンランナ3及びサイドカバー5間には,前記循環回路6と外周側で連通するクラッチ室22が画成され,このクラッチ室22に,タービンランナ3及びサイドカバー5間を直結し得るロックアップクラッチLが設けられる。このロックアップクラッチLの主体をなすクラッチピストン19は,クラッチ室22をタービンランナ3側の内側油室23とサイドカバー5側の外側油室24とに区画するようにクラッチ室22に配置される。このクラッチピストン19は,タービンハブ3aの外周面にシール部材26を介して摺動可能に支承されるピストンハブ19aを中心部に有する。またクラッチピストン19の一側面には,サイドカバー5の内側面に形成された環状の摩擦面5bに対向する摩擦ライニング28が接合される。またクラッチピストン19は,公知のトルクダンパDを介して,タービンランナ3の外側面に固設された伝動板34に軸方向移動可能に連結される。
【0019】
図1及び図2において,クラッチピストン19は,その側壁の外周側の広い部分を有するピストン外周側部材19Aと,その側壁の内周側の狭い部分と,その内周端からタービンランナ3側に突出するピストンハブ19aを有して浸炭窒化,高周波焼き入れ等の表面硬化処理されるピストン内周側部材19Bとから構成され,これら両部材19A,19Bは相互に嵌合され,溶接されて一体化される。
【0020】
図2に明示するように,ピストン内周側部材19Bの一側面には,タービンランナ3側に開口する環状凹部30が形成され,この環状凹部30の底面と,ピストンハブ19aの先端部外周に係止されるサークリップ31とでピストンハブ19aの外周に環状の装着溝32が画成される。即ち,装着溝32の内側壁は環状凹部30の底面で構成され,外側壁はサークリップ31で構成される。この装着溝32には,クラッチピストン19及びタービンランナ3間に縮設されてクラッチピストン19をサイドカバー5側に付勢する皿ばね33が装着される。この皿ばね33は,その内周縁に開口する複数のスリット33aを有する。符号38は,ピストンハブ19aに形成された,サークリップ31の係止溝であり,サークリップ31は,皿ばね33をピストンハブ19aの外周に嵌装してから係止溝38に装着される。こうすることにより,皿ばね33の内周端部を変形させることなく,皿ばね33の装着溝32への装着を容易に行うことができる。
【0021】
尚,上記環状凹部30及び係止溝38の加工は,ピストン内周側部材19Bの表面硬化処理前に行われる。
【0022】
一方,タービンハブ3aの外周には,タービンシェル3bを溶接により取り付けるシェル取り付けフランジ3cが一体に形成されており,このシェル取り付けフランジ3cの,一側面にはピストンハブ19aの先端部を受容する環状凹部35が形成され,この環状凹部35の底面とピストンハブ19aの先端面とで,これらの当接により,ロックアップクラッチLをクラッチオフ状態にしたとき,即ちクラッチピストン19の摩擦ライニング28をサイドカバー5の摩擦面5bから離間させたときのクラッチピストン19のタービンランナ3側への後退位置を一定に確定する後退ストッパ手段45が構成される(図2鎖線示参照)。
【0023】
皿ばね33は,ピストン内周側部材19Bの環状凹部30底面と,シェル取り付けフランジ3cの環状凹部35外周の一側面との間に縮設される。その際,皿ばね33に付与される軸方向のセット荷重は,内側及び外側油室23,24に油圧が発生していない状態では,クラッチピストン19の摩擦ライニング28をサイドカバー5の摩擦面5bに圧接させるが,外側油室24の油圧が内側油室23のそれより所定値以上高まると,その圧力差によりクラッチピストン19のクラッチオフ側への移動を許容するような大きさに設定される。
【0024】
ところで,皿ばね33は,クラッチピストン19の軸方向移動に伴なう変形時には,その姿勢変化により内周端部も,軸方向及び半径方向に多少とも変位するものであり,その変位が拘束されると所期のばね特性を発揮し得なくなる。そこで,皿ばね33の内周端部の軸方向及び半径方向の変位を許容するため,皿ばね33とサークリップ31との間には間隙gが,また皿ばね33とピストンハブ19aとの間には間隙gがそれぞれ設けられる。
【0025】
図1に戻って,出力軸10の中心部には,横孔39及びスラストニードルベアリング36を介してクラッチ室22の外側油室24に連通する第1油路40が設けられる。また補機駆動軸20とステータ軸12との間には第2油路41が画成され,この第2油路41は,ポンプハブ2a及びステータハブ4a間の環状油路29′及び前記スラストニードルベアリング37′を介して循環回路6の内周側と連通される。
【0026】
また出力軸10及びステータ軸12間には第3油路44が画成され,この第3油路44は,タービンハブ3a及びステータハブ4a間の環状油路29やスラストニードルベアリング37を介して循環回路6の内周側に連通される。その際,前記両環状油路29,29′間の連通を遮断するために,フリーホイール11のインナレース11aとステータ軸12との間にシール部材49が介裝される。
【0027】
上記第1油路40及び第2油路41は,ロックアップ制御弁42により,オイルポンプ21の吐出側とオイル溜め43とに交互に接続されるようになっている。また循環回路6及び1次内側油室23aを所定油圧に保持するリリーフ弁48を介してオイル溜め43に接続される。
【0028】
而して,オイルポンプ21が吐出した作動オイルがクラッチ室22の外側油室2から内側油室23を経て循環回路6に供給されるようにロックアップ制御弁42を制御した場合には,外側油室24及び内側油室23間には,クラッチピストン19を後退方向に押圧する圧力差が発生する。この圧力差によるクラッチピストン19の後退力は,特にエンジンEのアイドル状態では,常に,前記皿ばね33のセット荷重によるクラッチピストン19の前進力を上回るように,これに関連する各部の諸元が設定される。具体的には,皿ばね33のセット荷重によるロックアップクラッチLの伝動容量Aが,エンジンEのアイドル状態でのポンプインペラ2の吸収トルク容量Bより小さく設定され,望ましくは前記容量A及びBは,その比A/Bが15%以下となるように設定される。
【0029】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0030】
エンジンEのアイドル状態,即ちトルクコンバータTの速度比が0の状態では,ロックアップ制御弁42は,図1に示すように,第1油路40をオイルポンプ21の吐出側に接続する一方,第2油路41をオイル溜め43に接続するように,図示しない電子制御ユニットにより制御される。したがって,エンジンEのクランク軸1の出力トルクが駆動板8,サイドカバー5,ポンプインペラ2へと伝達して,それを回転駆動し,更にオイルポンプ21をも駆動すると,オイルポンプ21が吐出した作動オイルは矢印aで示すように流れ,ロックアップ制御弁42から第1油路40,横孔39及びスラストニードルベアリング36,クラッチ室22の外側油室24,内側油室23を順次経て循環回路6に流入し,該回路6を満たした後,スラストニードルベアリング37′,環状油路29′を経て第2油路41に移り,ロックアップ制御弁42からオイル溜め43に還流する。
【0031】
而して,クラッチ室22では,上記のような作動オイルの流れにより外側油室24の方が内側油室23よりも高圧となり,その圧力差によりクラッチピストン19が皿ばね33のセット荷重に抗してサイドカバー5の摩擦面5bから離れるように後退するので,ロックアップクラッチLは遮断状態となっており,ポンプインペラ2及びタービンランナ3間の回転滑りを許容している。
【0032】
図4は,トルクコンバータTの速度比=0の状態において,皿ばね33のセット荷重を変化させたときの,負荷トルク(ロックアップクラッチLの引摺り及びトルクコンバータTの吸収容量を含む。),及びロックアップクラッチLの摩擦面間でのオイル流量の変化を示す。こゝで,負荷トルクは,トルクコンバータTの滑りにより発生する容量値を100%とし,負荷トルクが100%を超えた状態はロックアップクラッチLが引摺りを起こしていることを示す。
【0033】
図4において,横軸は,前記A/B,即ち皿ばね33の荷重により発生するロックアップクラッチLの伝動容量Aと,エンジンEのアイドル状態でのポンプインペラ2の吸収トルク容量Bとの比を示し,縦軸は,ロックアップクラッチLの摩擦面間でのオイル流量と負荷トルクとを示す。こゝで,皿ばね33の荷重により発生するロックアップクラッチLの伝動容量とは,皿ばね33の荷重,クラッチピストン19の有効受圧面積,クラッチピストン19の有効半径,摩擦係数により一般的に計算し得るクラッチ容量である。
【0034】
図4から明らかなように,皿ばね33の荷重が高く,ロックアップクラッチLの伝動容量Aがポンプインペラ2の吸収トルク容量Bより大である場合には,作動オイルをもってしてもクラッチピストン19をクラッチ接続位置から後退させ得ず,図4▲1▼の領域のように負荷トルクが大きく,クラッチ室22にオイルも流れない。
【0035】
▲2▼の領域のように,皿ばね33の荷重を減少させていくと,クラッチピストン19は後退を開始し,ロックアップクラッチLの伝動容量Aはポンプインペラ2の吸収トルク容量Bと釣り合う状態となるが,クラッチピストン19の後退が充分ではないため,摩擦ライニング28及び摩擦面5b間の隙間が狭く,その間でのオイル流量は少ない。したがって,内側油室23及び外側油室24間には,まだクラッチピストン19を後退させるに充分な圧力差が発生していない。
【0036】
さて,▲3▼の領域のように,皿ばね33の荷重を更に減少させて,本発明の前記設定のように,前記A/Bの比を15%以下にすると,クラッチピストン19は充分に後退して,後退ストッパ手段45により規定される所定の後退位置に保持されることになる(図2参照)。その結果,摩擦ライニング28及び摩擦面5b間の隙間が最大に広がり,その間でのオイル流量が増加することで,内側油室23及び外側油室24間に,クラッチピストン19を所定の後退位置に保持するに充分な圧力差が発生し,その結果,上記オイル流量も安定し,ロックアップクラッチLの遮断状態が安定することになり,引摺りトルクの発生や燃費の悪化を防ぐことができる。
【0037】
また前記A/Bの比が15%以下となると,トルクコンバータTにおいは,アイドル状態での燃料消費量に悪化が発生しないことも確認している。
【0038】
またクラッチピストン19が所定の後退位置に保持された状態,即ちピストンハブ19aの先端面がタービンランナ3におけるシェル取り付けフランジ3cの環状凹部35の底面に当接した状態では,クラッチピストン19の後退による皿ばね33の軸方向変形量が一定に抑えられることになる。したがって,外側油室24及び内側油室23間の圧力差が所定値以上に上昇しても,皿ばね33に過度の軸方向荷重が加えられることが回避される。
【0039】
次に,クランク軸1の回転の上昇に伴ないトルクコンバータTの伝動容量が増加すれば,循環回路6を満たしている作動オイルが矢印のように循環回路6を循環することにより,ポンプインペラ2の回転トルクがタービンランナ3に伝達され,出力軸10を駆動するようになる。
【0040】
このとき,ポンプインペラ2及びタービンランナ3間でトルクの増幅作用が生じていれば,それに伴う反力がステータ4に負担され,ステータ4は,フリーホイール11のロック作用により固定される。
【0041】
次に,トルクコンバータTのカップリング時やエンジンブレード時に,ロックアップクラッチLを接続状態にすべく,電子制御ユニットによりロックアップ制御弁42を図3の状態に切換えると,オイルポンプ21が吐出した作動オイルは,先刻とは反対に矢印bのように流れ,ロックアップ制御弁42から第2油路41,環状油路29′,スラストニードルベアリング37′を順次経て循環回路6に流入し,その外周側からクラッチ室22の内側油室23にも流入する。一方,クラッチ室22の外側油室24は,第1油路40及びロックアップ制御弁42を介してオイル溜め43に開放される。その結果,内側油室23は昇圧し,外側油室24は減圧していくのであるが,クラッチピストン19は皿ばね33のセット荷重によりサイドカバー5側に付勢されているため,両油室23,24が略同圧となった段階で即座にクラッチオン側に前進を開始して,摩擦ライニング28をサイドカバー5の摩擦面5bに圧接させることになる。このような圧接によれば,内側油室23から外側油室24への作動オイルのリークが阻止されるので,循環回路6から内側油室23への作動オイルの流入により内側油室23の昇圧が効率良く,迅速に行われ,クラッチピストン19はサイドカバー5の摩擦面5b側に迅速且つ強力に押圧される。
【0042】
この場合,特に,クラッチピストン19は,前記所定の後退位置から前進するので,その前進ストロークは常に一定であり,したがって,クラッチピストン19は,エンジンEの運転条件に関係なく,皿ばね33のセット荷重を有効に利用して,摩擦ライニング28を摩擦面5bに迅速に係合されることができ,ロックアップクラッチLの接続応答性を安定的に高め,ポンプインペラ2及びタービンランナ3間の滑りを即座に防ぐことができ,伝動効率の向上,延いては低燃費性の向上に寄与し得る。
【0043】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,ステータ4を持たない流体継手にも適用が可能である。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば,エンジンにより駆動されるポンプインペラと,このポンプインペラとの間に循環回路を画成し,出力軸を駆動するタービンランナと,ポンプインペラに連設され,タービンランナの外側面との間に循環回路の外周部と連通するクラッチ室を画成するサイドカバーと,前記クラッチ室に配設され,サイドカバー及びタービンランナ間を直結し得るロックアップクラッチとを備え,そのロックアップクラッチを,タービンランナに軸方向移動可能に連結されて前記クラッチ室をタービンランナ側の内側油室とサイドカバー側の外側油室とに区画するクラッチピストンと,エンジンにより駆動されるオイルポンプから前記循環回路に供給されるオイルを用いて,クラッチピストンをサイドカバー内側面に対して進退させるべく前記内側油室及び外側油室間に圧力差を発生させるロックアップ制御手段と,クラッチピストンのサイドカバー内側面に対する前進・後退に応じてクラッチピストン及びサイドカバー間を係合・遮断させる摩擦係合手段と,クラッチピストンを前進方向に付勢すべくクラッチピストン及びタービンランナ間に配設される弾性部材とで構成した,ロックアップクラッチ付き流体伝動装置において,クラッチピストン及びタービンランナ間に,前記摩擦係合手段を遮断状態にするためのクラッチピストンの所定の後退位置を規定する後退ストッパ手段を設け,エンジンのアイドル状態ではクラッチピストンが前記圧力差により前記所定の後退位置に保持されるように,前記弾性部材の付勢力によるロックアップクラッチの伝動容量をエンジンのアイドル状態でのポンプインペラの吸収トルク容量より小さく設定したので,エンジンのアイドル状態では,常に,クラッチピストンが前記所定の後退位置に保持されることになり,摩擦係合手段の遮断状態を安定させ,引摺りトルクの発生や燃費の悪化を防ぐことができる。また摩擦係合手段を接続状態にするためのクラッチピストンの前進ストロークも常に一定となるから,エンジンの運転条件に関係なく,弾性部材の付勢力を有効に利用して,ロックアップクラッチの接続応答性を安定的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係るロックアップクラッチ付きトルクコンバータを,ロックアップクラッチの遮断状態で示す縦断側面図
【図2】図1の2部拡大図
【図3】ロックアップクラッチの接続状態を示す,図1との対応図
【図4】トルクコンバータの速度比=0の状態におけるA/Bの比と,トルクコンバータの負荷トルクと,ロックアップクラッチの摩擦面間でのオイル流量との関係を示す線図
【符号の説明】
E・・・・・・エンジン
L・・・・・・ロックアップクラッチ
T・・・・・・流体伝動装置(トルクコンバータ)
2・・・・・・ポンプインペラ
3・・・・・・タービンランナ
3a・・・・・タービンハブ
5・・・・・・サイドカバー
5b,28・・・・・摩擦係合手段(摩擦面,摩擦ライニング)
6・・・・・・循環回路
19・・・・・クラッチピストン
22・・・・・クラッチ室
23・・・・・内側油室
24・・・・・外側油室
33・・・・・弾性部材(皿ばね)
42・・・・・ロックアップ制御手段(ロックアップ制御弁)
45・・・・・後退ストッパ手段

Claims (1)

  1. エンジン(E)により駆動されるポンプインペラ(2)と,このポンプインペラ(2)との間に循環回路(6)を画成し,出力軸(10)を駆動するタービンランナ(3)と,ポンプインペラ(2)に連設され,タービンランナ(3)の外側面との間に循環回路(6)の外周部と連通するクラッチ室(22)を画成するサイドカバー(5)と,前記クラッチ室(22)に配設され,サイドカバー(5)及びタービンランナ(3)間を直結し得るロックアップクラッチ(L)とを備え,
    そのロックアップクラッチ(L)を,タービンランナ(3)に軸方向移動可能に連結されて前記クラッチ室(22)をタービンランナ(3)側の内側油室(23)とサイドカバー(5)側の外側油室(24)とに区画するクラッチピストン(19)と,エンジン(E)により駆動されるオイルポンプ(21)から前記循環回路(6)に供給されるオイルを用いて,クラッチピストン(19)をサイドカバー(5)内側面に対して進退させるべく前記内側油室(23)及び外側油室(24)間に圧力差を発生させるロックアップ制御手段(42)と,クラッチピストン(19)のサイドカバー(5)内側面に対する前進・後退に応じてクラッチピストン(19)及びサイドカバー(5)間を係合・遮断させる摩擦係合手段(5b,28)と,クラッチピストン(19)を前進方向に付勢すべくクラッチピストン(19)及びタービンランナ(3)間に配設される弾性部材(33)とで構成した,ロックアップクラッチ付き流体伝動装置において,
    クラッチピストン(19)及びタービンランナ(3)間に,前記摩擦係合手段(5b,28)を遮断状態にするためのクラッチピストン(19)の所定の後退位置を規定する後退ストッパ手段(45)を設け,エンジン(E)のアイドル状態ではクラッチピストン(19)が前記圧力差により前記所定の後退位置に保持されるように,前記弾性部材(33)の付勢力によるロックアップクラッチ(L)の伝動容量をエンジン(E)のアイドル状態でのポンプインペラ(2)の吸収トルク容量より小さく設定したことを特徴とする,ロックアップクラッチ付き流体伝動装置。
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