JP2004308836A - シール部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させたゴム組成物からなるシール部材を提供する。
【解決手段】シール部材は、平均直径が0.7〜500nmであって平均長さが0.01〜1000μmであるカーボンナノファイバー及び球殻状炭素であるフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成される。
【選択図】 図2
【解決手段】シール部材は、平均直径が0.7〜500nmであって平均長さが0.01〜1000μmであるカーボンナノファイバー及び球殻状炭素であるフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成される。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種産業において利用される複数の被シール部材間に挟圧されて液密にシールするシール部材に関するものであって、特にゴム組成物からなるシール部材に関する。
【0002】
【背景技術】
従来、シール部材は、パッキンやガスケットなどとも呼ばれ、複数例えば2つの被シール部材間に挟圧されてシール性能を発揮するゴム組成物からなるシール部材であって、例えば、油圧回路や空圧回路における密封性を維持するために各種産業で使用されている。シール部材は、シール部材と被シール部材との接触面において摺動する用途と、摺動しない静止状態の用途とがある。摺動しない静止状態で使用されるシール部材は、例えば車両の液圧式ブレーキ装置の液圧式マスタシリンダ本体とリザーバ本体との間に装着される環状のゴム組成物からなるグロメットシールがある(例えば、特許文献1、2参照)。また、例えば自動車のいわゆるABSの電磁弁において、静止状態の弁座部材とその収容孔内周面との間に配置され逆止弁を形成する断面略U字型のシール部材がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
しかしながら、従来のゴム組成物からなるシール部材においては、圧力流体に対してシール性能を維持するため弾性率を高くするが、経年変化によってヘタリやすくなる。
【0004】
【特許文献1】
実用新案登録第2549171号公報
【特許文献2】
実用新案登録第2557009号公報
【特許文献3】
特開平5−193492号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させたゴム組成物からなるシール部材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の第一の態様に係る複数の被シール部材間に挟圧されて液密にシールし、かつ該被シール部材と接触面で摺動しないシール部材においては、平均直径が0.7〜500nmであって平均長さが0.01〜1000μmであるカーボンナノファイバー及び球殻状炭素であるフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成される。
【0007】
本発明の第一の態様によれば、カーボンナノファイバー及びフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成することで、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。また、特に自動車部品においては、高温での耐久試験が行われるが、このような構成とすることで、シール部材の耐熱性能の向上によって、弾性率を所定の範囲内に維持することができる。
【0008】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンを合わせて0.01〜50重量%含むことができる。
【0009】
前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンの割合が50重量%を超えると、シール部材の弾性を十分確保できない場合があり、0.01重量%未満であると、シール部材の放熱性を十分確保できない場合がある。なお、上記重量は、前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンをそれぞれ単独で含有する場合は、前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレン単独の重量である。
【0010】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、イオン注入処理されていることができる。
【0011】
このような構成とすることで、イオン注入されたカーボンナノファイバーは、少なくともその表面の化学的な組成が変ることで、シール部材を構成するゴム組成物とカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0012】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、スパッタエッチング処理されていることができる。
【0013】
このような構成とすることで、スパッタエッチング処理されたカーボンナノファイバーは、その表面に微細な凹凸を形成されるため、シール部材を構成するゴム組成物とカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0014】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、プラズマ処理されていることができる。
【0015】
このような構成とすることで、プラズマ処理されたカーボンナノファイバーは、その表面に微細な凹凸を形成する等の表面改質されるため、シール部材を構成するゴムとカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0016】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記フラーレンは、カーボン60とカーボン70とを含み、
前記カーボン70より前記カーボン60が多く含有されていることができる。
【0017】
このような構成とすることで、フラーレンの合成過程において、カーボン70より多く合成されるカーボン60を有効に利用することができる。特にフラーレンは、ゴム組成物中における分散性が高いため、シール部材全体で均質な特性を得ることができることができる。
【0018】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記ゴム組成物は、前記カーボンナノファイバー及び前記フラーレンの少なくとも一方の合成過程において得られる炭素及び炭素化合物を含有することができる。
【0019】
このような構成とすることで、カーボンナノファイバー及びもしくはフラーレンの合成過程において、合成される不純物である炭素及び炭素化合物を有効に利用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの装着状態を示す概略断面図である。図2は、本発明の一実施の形態に係るグルメットシールの断面図である。図3は、全方位型イオン注入装置の概略構成図であり、図4は、その回転テーブルの他の実施態様を示す一部断面図である。
【0022】
本発明に係るシール部材は、シール部材と被シール部材との接触面において摺動しない静止状態の用途に使用されるものであって、被シール部材間の液密シールを達成するゴム組成物によって成形される。図1は、本発明の一実施の形態に係るシール部材であるグロメットシールG1、G2を含む液圧式マスタシリンダ1を模式的に示す断面図である。この液圧式マスタシリンダ1は、四輪車両用のブレーキ装置であり、液圧式ブレーキ(図示せず)とともに液圧式ブレーキ装置の一部を構成する。
【0023】
マスタシリンダ本体3のシリンダ孔31には、摺動自在に装着されたピストン32、33によって第1液圧発生室34と第2液圧発生室35が前後に区画されている。これらピストン32,33は、ばね36、37によってそれぞれ後退方向へ付勢される。ピストン33は、図示せぬブレーキペダル操作によって押動される。各液圧発生室34,35には、マスタシリンダ1が作動していない状態(図1参照)において、それぞれリリーフポート38、39を介して、リザーバ本体2の作動液貯液室21と連絡している。作動液貯液室21によって貯留される作動液は、リリーフポート38,39およびサプライポート40,41を通してシリンダ孔31に直接供給される。ピストン32,33の外周部には、それぞれ環状のカップシールC1,C2,C3,C4が装着されている。
【0024】
リザーバ本体2は、その下面に2つの筒状脚部22,23が突出して設けられ、該筒状脚部22,23は、マスタシリンダ本体3の上面に形成された2つの筒状取付部42,43内にグロメットシールG1,G2を介して接続されている。図2に示すグロメットシールG1,G2(G2はG1と同一形状)は、例えばその外周面には環状に大きく突出するフランジ部24と2つの小さな環状突起27とを有し、その内周面にも環状突起28と大きく突出するシールリップ26とを有する円筒状のゴム組成物である。フランジ部24はリザーバ本体2と筒状取付部42,43とで挟持され、外周面に形成された環状突起27は筒状取付部42、43の内周面に当接してわずかに圧縮されるとともに、内周面に形成された環状突起28は筒状脚部22、23の外周面に当接しわずかに圧縮される。また、シールリップ26の上面は略フラットに形成され、筒状脚部22、23の段部に当接する。各グロメットシールG1,G2当接部分は、当接する相手方(被シール部材)に対して摺動することなく静止状態を保つ。このようにして、リザーバ本体2は、マスタシリンダ本体3とグロメットシールG1,G2を狭圧して液密状態で接続される。
【0025】
このような被シール部材と接触面で摺動しないシール部材例えばグロメットシールG1,G2は、カーボンナノファイバーおよびフラーレンの少なくとも一方を含有するゴムからなる。このようなシール部材がカーボンナノファイバーおよびフラーレンの少なくとも一方を含有するゴムからなることにより、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。また、シール部材の熱膨張を抑制することができるとともに、高温時におけるシール部材の弾性率を所定の範囲内に維持することができる。
【0026】
ゴム組成物のゴムとしては、二トリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)、エチレン・プロピレン・ラバー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエン・メチレンリンケージ(EPDM)が例示できるが、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、および、これらのブレンド物を用いることができる。
【0027】
被シール部材と接触面で摺動しないシール部材において、カーボンナノファイバーおよびフラーレンを合わせて0.01〜50重量%含むことが好ましい。カーボンナノファイバーおよびフラーレンの割合が50重量%を超えると、シール部材の弾性を十分確保できない場合があり、0.01重量%未満であると、シール部材の放熱性を十分確保できない場合がある。なお、上記重量は、カーボンナノファイバーおよびフラーレンをそれぞれ単独で含有する場合は、カーボンナノファイバーおよびフラーレン単独の重量である。なお、シール部材には、さらに、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノファイバーのいずれか一方の合成過程において得られる炭素化合物を含むことができる。
【0028】
(カーボンナノファイバー)
ゴムにカーボンナノファイバーが混合されたゴム組成物からなるシール部材を形成する場合、ゴムとカーボンナノファイバーの混合は、原料の混合物を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリ−ミキサ−、ニ−ダ−、ミキシングロ−ルなど通常公知の混合機に供給して混練する方法などを例として挙げることができる。また、ゴムとカーボンナノファイバーの混合順序は、全ての両材料を配合後上記の方法により混練する方法、一部のカーボンナノファイバーを配合後上記の方法により混練しさらに残りのカーボンナノファイバーを配合し混練する方法、あるいはゴムを単軸あるいは二軸の押出機により混練中にサイドフィーダーを用いてカーボンナノファイバーを混合する方法などの方法を用いることができる。
【0029】
ゴムに混入させるカーボンナノファイバーは、石油精製時の残査であるピッチを原料とするピッチ系カーボンナノファイバー、およびポリアクリル繊維を原料とするポリアクリロニトリル(PAN)系カーボンナノファイバーなどを使用することができる。
【0030】
また、ゴムに混入させるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.7〜500nmであって、平均長さが0.01〜1000μmのカーボンナノファイバーを用いることが好ましい。また、カーボンナノファイバーの配合量は、成形時の流動性、得られる成形品の比重および強度、弾性の観点から、シール部材の主成分であるゴム中に0.01〜50重量%の範囲で含まれていることが好ましい。このようなカーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0031】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0032】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得るものである。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0033】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面にYAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面が溶融・蒸発し、単層カーボンナノチューブを得るものである。
【0034】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などがある。
【0035】
カーボンナノファイバーは、ゴムに混入する前に、あらかじめ表面処理例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、ゴムとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0036】
(イオン注入処理)
イオン注入処理(ion implantation)は、イオン源によってイオン化された元素例えば酸素などに加速器によって必要なエネルギーを与え、真空ポンプによって高真空状態に保たれた真空チャンバにあるカーボンナノファイバーの表面内にイオンを打ちこむものである。
【0037】
本発明の一実施の形態のイオン注入処理について、図3に示す全方位型イオン注入装置の概略構成図を用いて説明する。全方位型イオン注入装置50は、真空ポンプ57に接続された例えばステンレス製の真空チャンバー51内にイオン注入処理を施す試料(例えばカーボンナノファイバー52)を置く回転テーブル53が回転自在に配置されている。回転テーブル53は、パルスバイアス電源54に接続され、真空チャンバー51との間は絶縁体55によって絶縁されている。真空チャンバー51は、プロセスガス供給装置58と、高周波電源59に接続されたコイル60と、アーク式蒸発源61と、真空チャンバー51内温度を測定する赤外線放射温度計62と接続されている。
【0038】
イオン注入処理は、真空ポンプ57によって適当な真空状態とされた真空チャンバー51内に、プロセスガス供給装置58からガスが供給され、高周波電源59によってコイル60の周りにプラズマを発生させる。これによってイオン化されたガスが、パルスバイアス電源54の負極に接続されている試料例えばカーボンナノファイバー52に引き込まれ、注入される。また、真空チャンバー51に接続されたアーク式蒸発源61によって、金属イオンを試料例えばカーボンナノファイバー52に注入させることができる。この場合、アーク式蒸発源61内の金属蒸発源は、図示せぬ直流アーク電源に接続され、アーク放電によって蒸発させられる。このとき、回転テーブル53及び試料例えばカーボンナノファイバー52は、スイッチ63によって切りかえられた負の直流バイアス電源56により印加されているので、金属イオンが試料例えばカーボンナノファイバー52に注入される。
【0039】
また、全方位型イオン注入装置50の回転テーブル53を図4に示すような攪拌羽53a及び容器53bを有する構造としてもよい。容器53bは、広口の開口部を上方に有し、容器53b中には試料例えばカーボンナノファイバー52を配置できる。イオン注入処理の間、カーボンナノファイバー52のような粉体の試料は、攪拌羽53aの回転によって攪拌されることで、全体にまんべんなくイオン注入処理を受けることができる。攪拌翼53aの回転速度は、カーボンナノファイバー52の量や、イオン注入処理時間などによって適宜調整することができる。
【0040】
イオン注入処理されたカーボンナノファイバーは、その表面が化学的に改質され、シール部材のゴムに対するぬれ性や接着性などが改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0041】
イオン注入処理に用いられる元素は、例えば、酸素(O)、窒素(N)、塩素(Cl)、クロム(Cr)、炭素(C)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、リン(P)、アルミニウム(Al)等、シール部材のゴムとの相性によって適宜選択することができる。
【0042】
(スパッタエッチング処理)
ドライエッチング方式のスパッタエッチング処理は、真空ポンプによって高真空状態に保たれた真空チャンバ内にエッチングガス、極低圧不活性ガス雰囲気例えばアルゴン(Ar)中で、交流を印加してグロー放電を行わせ、かつグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極と接触したカーボンナノファイバーの表面にイオンを衝突させることで、エッチングするものである。
【0043】
スパッタエッチング処理されたカーボンナノファイバーの表面は、物理的にエッチングされることで、微細(ナノサイズ)な凹凸が形成される。このカーボンナノファイバーの表面の凹凸が、シール部材のゴムとの接触面積を増大させることとなり、ゴムとカーボンナノファイバーとの接着強度を向上させることができる。ゴムにカーボンナノファイバーを混入させ製造したシール部材において高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0044】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、プラズマをカーボンナノファイバーに照射することによって表面を改質させるものである。プラズマ処理は、一般的なグロー放電処理やコロナ放電処理などを採用することができる。
【0045】
例えばプラズマは、相対向する放電極と対向電極との間に、パルス生成回路によって生成された高電圧・高頻度のパルス電圧を印加し、両電極間にコロナ放電を惹起して空気中にプラズマを発生させるようにしている。そして、被処理物は、両電極間に静止状態又は移動状態で配置され、その表面にプラズマ処理が施される。
【0046】
プラズマの作り方には、2枚の平行平板電極に数百から数千ボルトの電圧をかけて放電する二極放電タイプ、熱陰極から発した大量の電子が陽極に入るまでに気体分子と衝突しプラズマを作る熱電子放電タイプ、磁場を使って高真空で放電するマグネトロン放電タイプ、高周波電磁誘導によりプラズマを発生させる無電極放電タイプ、磁場のある共振室へマイクロ波を送りこみ電子を共振させるECR(Electron Cyclotron Resonance)放電タイプなどがあり、適宜選択することができる。
【0047】
このようにプラズマ処理されたカーボンナノファイバーの表面は、シール部材のゴムとの接着性やぬれ性が改善し、ゴムにカーボンナノファイバーを混入させて製造したシール部材における剛性、特に破壊靭性の向上が得られる。
【0048】
本実施の形態に用いられるフラーレンは、球殻状炭素例えばカーボン60(以下C60とする)、C70、C74、C76、C78、C82、C84、C720、C860などのフラーレン類などが挙げられるが、C60を主成分とすることが好ましい。また、C60を主成分として、C70がC60よりも少量含まれるフラーレンを用いることが好ましい。さらに、C60を主成分として、他のフラーレン類を含んでもよいし、フラーレン以外のフラーレン生成時に同時に生成された他の炭素及び炭素化合物を含んでもよい。フラーレン類の形態は、例えば、サッカーボール状、バッキーボール状などであってもよい。
【0049】
また、フラーレン類は置換基の導入などにより修飾されていてもよい。修飾方法は、特に限定されず、例えば、フラーレン類の反応性に富む炭素5員環部を化学的に修飾できる。置換基の種類は、特に限定されず、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ジオキソラン単位、ハロゲン又は酸素原子などが例示でき、液晶ポリマー、色素類、ポリエチレンオキシドなどの導入により修飾してもよい。フラーレン類の修飾により、選択されたゴムとの親和性の改善、フラーレン類の分散を可能にする。
【0050】
C60フラーレンは、黒鉛電極を用い、ヘリウム雰囲気でアーク放電し、得られたススをベンゼンで抽出し、得られたC60混合物を、塩基性活性アルミナを担体とし、ヘキサンを展開溶媒として、カラム分離精製することにより調製した。フラーレンを得る方法は、このアーク放電法に限らず、他の手法でもよい。
【0051】
このようにシール部材のゴムにフラーレンを混入させて製造したシール部材における高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は、本実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変形可能である。
【0053】
例えば、シール部材の形状としては、環状で例えば断面形状が丸のOリング、四角の角リング、X字状のXリング、D字状のDリング、T字状のTリングなどであってもよい。また一般的には摺動部分に利用されることが多いUパッキン、Vパッキン、Lパッキンなどの形態であっても、シール部材と被シール部材との接触面において摺動しない静止状態の用途に使用される場合には、本発明の実施の形態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの使用状態を説明する概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に用いられる全方位型イオン注入装置の概略説明図である。
【図4】全方位型イオン注入装置の回転テーブルの他の実施態様を示す一部断面図である。
【符号の説明】
1 液圧式マスタシリンダ
2 リザーバ本体
3 マスタシリンダ本体
G1、G2 グロメットシール
50 全方位型イオン注入装置
53 回転テーブル
53a 攪拌羽
53b 容器
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種産業において利用される複数の被シール部材間に挟圧されて液密にシールするシール部材に関するものであって、特にゴム組成物からなるシール部材に関する。
【0002】
【背景技術】
従来、シール部材は、パッキンやガスケットなどとも呼ばれ、複数例えば2つの被シール部材間に挟圧されてシール性能を発揮するゴム組成物からなるシール部材であって、例えば、油圧回路や空圧回路における密封性を維持するために各種産業で使用されている。シール部材は、シール部材と被シール部材との接触面において摺動する用途と、摺動しない静止状態の用途とがある。摺動しない静止状態で使用されるシール部材は、例えば車両の液圧式ブレーキ装置の液圧式マスタシリンダ本体とリザーバ本体との間に装着される環状のゴム組成物からなるグロメットシールがある(例えば、特許文献1、2参照)。また、例えば自動車のいわゆるABSの電磁弁において、静止状態の弁座部材とその収容孔内周面との間に配置され逆止弁を形成する断面略U字型のシール部材がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
しかしながら、従来のゴム組成物からなるシール部材においては、圧力流体に対してシール性能を維持するため弾性率を高くするが、経年変化によってヘタリやすくなる。
【0004】
【特許文献1】
実用新案登録第2549171号公報
【特許文献2】
実用新案登録第2557009号公報
【特許文献3】
特開平5−193492号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させたゴム組成物からなるシール部材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の第一の態様に係る複数の被シール部材間に挟圧されて液密にシールし、かつ該被シール部材と接触面で摺動しないシール部材においては、平均直径が0.7〜500nmであって平均長さが0.01〜1000μmであるカーボンナノファイバー及び球殻状炭素であるフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成される。
【0007】
本発明の第一の態様によれば、カーボンナノファイバー及びフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成することで、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。また、特に自動車部品においては、高温での耐久試験が行われるが、このような構成とすることで、シール部材の耐熱性能の向上によって、弾性率を所定の範囲内に維持することができる。
【0008】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンを合わせて0.01〜50重量%含むことができる。
【0009】
前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンの割合が50重量%を超えると、シール部材の弾性を十分確保できない場合があり、0.01重量%未満であると、シール部材の放熱性を十分確保できない場合がある。なお、上記重量は、前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンをそれぞれ単独で含有する場合は、前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレン単独の重量である。
【0010】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、イオン注入処理されていることができる。
【0011】
このような構成とすることで、イオン注入されたカーボンナノファイバーは、少なくともその表面の化学的な組成が変ることで、シール部材を構成するゴム組成物とカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0012】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、スパッタエッチング処理されていることができる。
【0013】
このような構成とすることで、スパッタエッチング処理されたカーボンナノファイバーは、その表面に微細な凹凸を形成されるため、シール部材を構成するゴム組成物とカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0014】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記カーボンナノファイバーは、プラズマ処理されていることができる。
【0015】
このような構成とすることで、プラズマ処理されたカーボンナノファイバーは、その表面に微細な凹凸を形成する等の表面改質されるため、シール部材を構成するゴムとカーボンナノファイバーの接着性やヌレ性が改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができるとともに、カーボンナノファイバーのゴム組成物中における分散性が向上することで、全体に均質な性能を有することができる。
【0016】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記フラーレンは、カーボン60とカーボン70とを含み、
前記カーボン70より前記カーボン60が多く含有されていることができる。
【0017】
このような構成とすることで、フラーレンの合成過程において、カーボン70より多く合成されるカーボン60を有効に利用することができる。特にフラーレンは、ゴム組成物中における分散性が高いため、シール部材全体で均質な特性を得ることができることができる。
【0018】
ここで、本発明の第一の態様に係るシール部材においては、
前記ゴム組成物は、前記カーボンナノファイバー及び前記フラーレンの少なくとも一方の合成過程において得られる炭素及び炭素化合物を含有することができる。
【0019】
このような構成とすることで、カーボンナノファイバー及びもしくはフラーレンの合成過程において、合成される不純物である炭素及び炭素化合物を有効に利用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの装着状態を示す概略断面図である。図2は、本発明の一実施の形態に係るグルメットシールの断面図である。図3は、全方位型イオン注入装置の概略構成図であり、図4は、その回転テーブルの他の実施態様を示す一部断面図である。
【0022】
本発明に係るシール部材は、シール部材と被シール部材との接触面において摺動しない静止状態の用途に使用されるものであって、被シール部材間の液密シールを達成するゴム組成物によって成形される。図1は、本発明の一実施の形態に係るシール部材であるグロメットシールG1、G2を含む液圧式マスタシリンダ1を模式的に示す断面図である。この液圧式マスタシリンダ1は、四輪車両用のブレーキ装置であり、液圧式ブレーキ(図示せず)とともに液圧式ブレーキ装置の一部を構成する。
【0023】
マスタシリンダ本体3のシリンダ孔31には、摺動自在に装着されたピストン32、33によって第1液圧発生室34と第2液圧発生室35が前後に区画されている。これらピストン32,33は、ばね36、37によってそれぞれ後退方向へ付勢される。ピストン33は、図示せぬブレーキペダル操作によって押動される。各液圧発生室34,35には、マスタシリンダ1が作動していない状態(図1参照)において、それぞれリリーフポート38、39を介して、リザーバ本体2の作動液貯液室21と連絡している。作動液貯液室21によって貯留される作動液は、リリーフポート38,39およびサプライポート40,41を通してシリンダ孔31に直接供給される。ピストン32,33の外周部には、それぞれ環状のカップシールC1,C2,C3,C4が装着されている。
【0024】
リザーバ本体2は、その下面に2つの筒状脚部22,23が突出して設けられ、該筒状脚部22,23は、マスタシリンダ本体3の上面に形成された2つの筒状取付部42,43内にグロメットシールG1,G2を介して接続されている。図2に示すグロメットシールG1,G2(G2はG1と同一形状)は、例えばその外周面には環状に大きく突出するフランジ部24と2つの小さな環状突起27とを有し、その内周面にも環状突起28と大きく突出するシールリップ26とを有する円筒状のゴム組成物である。フランジ部24はリザーバ本体2と筒状取付部42,43とで挟持され、外周面に形成された環状突起27は筒状取付部42、43の内周面に当接してわずかに圧縮されるとともに、内周面に形成された環状突起28は筒状脚部22、23の外周面に当接しわずかに圧縮される。また、シールリップ26の上面は略フラットに形成され、筒状脚部22、23の段部に当接する。各グロメットシールG1,G2当接部分は、当接する相手方(被シール部材)に対して摺動することなく静止状態を保つ。このようにして、リザーバ本体2は、マスタシリンダ本体3とグロメットシールG1,G2を狭圧して液密状態で接続される。
【0025】
このような被シール部材と接触面で摺動しないシール部材例えばグロメットシールG1,G2は、カーボンナノファイバーおよびフラーレンの少なくとも一方を含有するゴムからなる。このようなシール部材がカーボンナノファイバーおよびフラーレンの少なくとも一方を含有するゴムからなることにより、高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。また、シール部材の熱膨張を抑制することができるとともに、高温時におけるシール部材の弾性率を所定の範囲内に維持することができる。
【0026】
ゴム組成物のゴムとしては、二トリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)、エチレン・プロピレン・ラバー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエン・メチレンリンケージ(EPDM)が例示できるが、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、および、これらのブレンド物を用いることができる。
【0027】
被シール部材と接触面で摺動しないシール部材において、カーボンナノファイバーおよびフラーレンを合わせて0.01〜50重量%含むことが好ましい。カーボンナノファイバーおよびフラーレンの割合が50重量%を超えると、シール部材の弾性を十分確保できない場合があり、0.01重量%未満であると、シール部材の放熱性を十分確保できない場合がある。なお、上記重量は、カーボンナノファイバーおよびフラーレンをそれぞれ単独で含有する場合は、カーボンナノファイバーおよびフラーレン単独の重量である。なお、シール部材には、さらに、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノファイバーのいずれか一方の合成過程において得られる炭素化合物を含むことができる。
【0028】
(カーボンナノファイバー)
ゴムにカーボンナノファイバーが混合されたゴム組成物からなるシール部材を形成する場合、ゴムとカーボンナノファイバーの混合は、原料の混合物を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリ−ミキサ−、ニ−ダ−、ミキシングロ−ルなど通常公知の混合機に供給して混練する方法などを例として挙げることができる。また、ゴムとカーボンナノファイバーの混合順序は、全ての両材料を配合後上記の方法により混練する方法、一部のカーボンナノファイバーを配合後上記の方法により混練しさらに残りのカーボンナノファイバーを配合し混練する方法、あるいはゴムを単軸あるいは二軸の押出機により混練中にサイドフィーダーを用いてカーボンナノファイバーを混合する方法などの方法を用いることができる。
【0029】
ゴムに混入させるカーボンナノファイバーは、石油精製時の残査であるピッチを原料とするピッチ系カーボンナノファイバー、およびポリアクリル繊維を原料とするポリアクリロニトリル(PAN)系カーボンナノファイバーなどを使用することができる。
【0030】
また、ゴムに混入させるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.7〜500nmであって、平均長さが0.01〜1000μmのカーボンナノファイバーを用いることが好ましい。また、カーボンナノファイバーの配合量は、成形時の流動性、得られる成形品の比重および強度、弾性の観点から、シール部材の主成分であるゴム中に0.01〜50重量%の範囲で含まれていることが好ましい。このようなカーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0031】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0032】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得るものである。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0033】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面にYAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面が溶融・蒸発し、単層カーボンナノチューブを得るものである。
【0034】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などがある。
【0035】
カーボンナノファイバーは、ゴムに混入する前に、あらかじめ表面処理例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、ゴムとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0036】
(イオン注入処理)
イオン注入処理(ion implantation)は、イオン源によってイオン化された元素例えば酸素などに加速器によって必要なエネルギーを与え、真空ポンプによって高真空状態に保たれた真空チャンバにあるカーボンナノファイバーの表面内にイオンを打ちこむものである。
【0037】
本発明の一実施の形態のイオン注入処理について、図3に示す全方位型イオン注入装置の概略構成図を用いて説明する。全方位型イオン注入装置50は、真空ポンプ57に接続された例えばステンレス製の真空チャンバー51内にイオン注入処理を施す試料(例えばカーボンナノファイバー52)を置く回転テーブル53が回転自在に配置されている。回転テーブル53は、パルスバイアス電源54に接続され、真空チャンバー51との間は絶縁体55によって絶縁されている。真空チャンバー51は、プロセスガス供給装置58と、高周波電源59に接続されたコイル60と、アーク式蒸発源61と、真空チャンバー51内温度を測定する赤外線放射温度計62と接続されている。
【0038】
イオン注入処理は、真空ポンプ57によって適当な真空状態とされた真空チャンバー51内に、プロセスガス供給装置58からガスが供給され、高周波電源59によってコイル60の周りにプラズマを発生させる。これによってイオン化されたガスが、パルスバイアス電源54の負極に接続されている試料例えばカーボンナノファイバー52に引き込まれ、注入される。また、真空チャンバー51に接続されたアーク式蒸発源61によって、金属イオンを試料例えばカーボンナノファイバー52に注入させることができる。この場合、アーク式蒸発源61内の金属蒸発源は、図示せぬ直流アーク電源に接続され、アーク放電によって蒸発させられる。このとき、回転テーブル53及び試料例えばカーボンナノファイバー52は、スイッチ63によって切りかえられた負の直流バイアス電源56により印加されているので、金属イオンが試料例えばカーボンナノファイバー52に注入される。
【0039】
また、全方位型イオン注入装置50の回転テーブル53を図4に示すような攪拌羽53a及び容器53bを有する構造としてもよい。容器53bは、広口の開口部を上方に有し、容器53b中には試料例えばカーボンナノファイバー52を配置できる。イオン注入処理の間、カーボンナノファイバー52のような粉体の試料は、攪拌羽53aの回転によって攪拌されることで、全体にまんべんなくイオン注入処理を受けることができる。攪拌翼53aの回転速度は、カーボンナノファイバー52の量や、イオン注入処理時間などによって適宜調整することができる。
【0040】
イオン注入処理されたカーボンナノファイバーは、その表面が化学的に改質され、シール部材のゴムに対するぬれ性や接着性などが改善され、シール部材の高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0041】
イオン注入処理に用いられる元素は、例えば、酸素(O)、窒素(N)、塩素(Cl)、クロム(Cr)、炭素(C)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、リン(P)、アルミニウム(Al)等、シール部材のゴムとの相性によって適宜選択することができる。
【0042】
(スパッタエッチング処理)
ドライエッチング方式のスパッタエッチング処理は、真空ポンプによって高真空状態に保たれた真空チャンバ内にエッチングガス、極低圧不活性ガス雰囲気例えばアルゴン(Ar)中で、交流を印加してグロー放電を行わせ、かつグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極と接触したカーボンナノファイバーの表面にイオンを衝突させることで、エッチングするものである。
【0043】
スパッタエッチング処理されたカーボンナノファイバーの表面は、物理的にエッチングされることで、微細(ナノサイズ)な凹凸が形成される。このカーボンナノファイバーの表面の凹凸が、シール部材のゴムとの接触面積を増大させることとなり、ゴムとカーボンナノファイバーとの接着強度を向上させることができる。ゴムにカーボンナノファイバーを混入させ製造したシール部材において高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0044】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、プラズマをカーボンナノファイバーに照射することによって表面を改質させるものである。プラズマ処理は、一般的なグロー放電処理やコロナ放電処理などを採用することができる。
【0045】
例えばプラズマは、相対向する放電極と対向電極との間に、パルス生成回路によって生成された高電圧・高頻度のパルス電圧を印加し、両電極間にコロナ放電を惹起して空気中にプラズマを発生させるようにしている。そして、被処理物は、両電極間に静止状態又は移動状態で配置され、その表面にプラズマ処理が施される。
【0046】
プラズマの作り方には、2枚の平行平板電極に数百から数千ボルトの電圧をかけて放電する二極放電タイプ、熱陰極から発した大量の電子が陽極に入るまでに気体分子と衝突しプラズマを作る熱電子放電タイプ、磁場を使って高真空で放電するマグネトロン放電タイプ、高周波電磁誘導によりプラズマを発生させる無電極放電タイプ、磁場のある共振室へマイクロ波を送りこみ電子を共振させるECR(Electron Cyclotron Resonance)放電タイプなどがあり、適宜選択することができる。
【0047】
このようにプラズマ処理されたカーボンナノファイバーの表面は、シール部材のゴムとの接着性やぬれ性が改善し、ゴムにカーボンナノファイバーを混入させて製造したシール部材における剛性、特に破壊靭性の向上が得られる。
【0048】
本実施の形態に用いられるフラーレンは、球殻状炭素例えばカーボン60(以下C60とする)、C70、C74、C76、C78、C82、C84、C720、C860などのフラーレン類などが挙げられるが、C60を主成分とすることが好ましい。また、C60を主成分として、C70がC60よりも少量含まれるフラーレンを用いることが好ましい。さらに、C60を主成分として、他のフラーレン類を含んでもよいし、フラーレン以外のフラーレン生成時に同時に生成された他の炭素及び炭素化合物を含んでもよい。フラーレン類の形態は、例えば、サッカーボール状、バッキーボール状などであってもよい。
【0049】
また、フラーレン類は置換基の導入などにより修飾されていてもよい。修飾方法は、特に限定されず、例えば、フラーレン類の反応性に富む炭素5員環部を化学的に修飾できる。置換基の種類は、特に限定されず、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ジオキソラン単位、ハロゲン又は酸素原子などが例示でき、液晶ポリマー、色素類、ポリエチレンオキシドなどの導入により修飾してもよい。フラーレン類の修飾により、選択されたゴムとの親和性の改善、フラーレン類の分散を可能にする。
【0050】
C60フラーレンは、黒鉛電極を用い、ヘリウム雰囲気でアーク放電し、得られたススをベンゼンで抽出し、得られたC60混合物を、塩基性活性アルミナを担体とし、ヘキサンを展開溶媒として、カラム分離精製することにより調製した。フラーレンを得る方法は、このアーク放電法に限らず、他の手法でもよい。
【0051】
このようにシール部材のゴムにフラーレンを混入させて製造したシール部材における高い弾性率を維持しながらも耐ヘタリ性を向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は、本実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変形可能である。
【0053】
例えば、シール部材の形状としては、環状で例えば断面形状が丸のOリング、四角の角リング、X字状のXリング、D字状のDリング、T字状のTリングなどであってもよい。また一般的には摺動部分に利用されることが多いUパッキン、Vパッキン、Lパッキンなどの形態であっても、シール部材と被シール部材との接触面において摺動しない静止状態の用途に使用される場合には、本発明の実施の形態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの使用状態を説明する概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るグロメットシールの断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に用いられる全方位型イオン注入装置の概略説明図である。
【図4】全方位型イオン注入装置の回転テーブルの他の実施態様を示す一部断面図である。
【符号の説明】
1 液圧式マスタシリンダ
2 リザーバ本体
3 マスタシリンダ本体
G1、G2 グロメットシール
50 全方位型イオン注入装置
53 回転テーブル
53a 攪拌羽
53b 容器
Claims (7)
- 複数の被シール部材間に挟圧されて液密にシールし、かつ該被シール部材と接触面で摺動しないシール部材において、
平均直径が0.7〜500nmであって平均長さが0.01〜1000μmであるカーボンナノファイバー及び球殻状炭素であるフラーレンの少なくとも一方を含有するゴム組成物によって形成される、シール部材。 - 請求項1記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーおよび前記フラーレンを合わせて0.01〜50重量%含む、シール部材。 - 請求項1または2記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、イオン注入処理されている、シール部材。 - 請求項1または2記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、スパッタエッチング処理されている、シール部材。 - 請求項1または2記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、プラズマ処理されている、シール部材。 - 請求項1〜5記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記フラーレンは、カーボン60とカーボン70とを含み、
前記カーボン70より前記カーボン60が多く含有されている、シール部材。 - 請求項1〜6記載のシール部材のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、前記カーボンナノファイバー及び前記フラーレンの少なくとも一方の合成過程において得られる炭素及び炭素化合物を含有する、シール部材。
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