JP2004269968A - 蒸着用マスク - Google Patents
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Abstract
【課題】蒸着用マスクにおいて、輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除すべく、その輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を是正して、高精度なパターニングに対応することを可能にする。
【解決手段】蒸着パターンに対応した形状の開孔1bが形成された薄板状のマスク本体1と、そのマスク本体1が固着される枠体2とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源からの輻射熱を断熱する断熱部材5,6を前記枠体2の蒸着源側に配設し、または蒸着源から前記枠体2が受けた熱を放熱する放熱部材9を前記枠体2における蒸着源の対向側に配設する。
【選択図】 図1
【解決手段】蒸着パターンに対応した形状の開孔1bが形成された薄板状のマスク本体1と、そのマスク本体1が固着される枠体2とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源からの輻射熱を断熱する断熱部材5,6を前記枠体2の蒸着源側に配設し、または蒸着源から前記枠体2が受けた熱を放熱する放熱部材9を前記枠体2における蒸着源の対向側に配設する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被蒸着物上に所定パターンの成膜を行うために用いられる蒸着用マスクおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、有機電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子;以下「有機EL素子」という)の製造工程では、有機層を形成する有機材料の耐水性が低くウエットプロセスを利用できないことから、真空蒸着によって基板上に有機層(薄膜)を成膜している。また、有機EL素子の製造工程では、基板上へのパターニング成膜(例えば、R,G,Bの各色成分に対応したパターンの成膜)を行うために、通常、蒸着パターンに対応した形状の開孔(有機材料の通過孔)を有した蒸着用マスクが用いられる。
【0003】
従来、蒸着用マスクとしては、蒸着パターンに対応した形状の開孔がパターン領域内に形成されたマスク本体と、そのマスク本体のパターン領域以外の外周縁近傍領域が固着される枠体と、を具備したものが知られている。マスク本体は、銅板、ニッケル板、圧延ステンレス板等といった薄板状部材からなり、そのパターン領域内に開孔がエッチングやレーザ加工等によって設けられている。一方、枠体は、被蒸着物である基板と同等の熱線膨張係数の素材によって十分な厚みを有して高剛性に形成されている。そして、これらマスク本体および枠体からなる蒸着用マスクは、マスク本体に弛みが生じないように、マスク本体に張力を与えた状態で、そのマスク本体が枠体に固着されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
実用新案登録第3082805号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、蒸着用マスクを用いて真空蒸着を行う際には、蒸着源を加熱することでその蒸着源から有機材料が蒸発して飛散するため、蒸着用マスクが蒸着源からの輻射熱を受ける。そのために、従来の蒸着用マスクでは、常温下と高温下とで蒸着用マスク−基板間の整合位置にズレが生じてしまうのを回避すべく、上述したように基板と同等の熱線膨張係数の素材からなる枠体にマスク本体を密着させて一体化している。
【0006】
しかしながら、一般に、被蒸着物である基板と枠体とでは、それぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあるため、蒸着源から同様に熱を受けた場合であっても、それぞれの温度が必ずしも同一になるとは限らない。また、蒸着源との位置関係もそれぞれで異なるため、定常的また非定常的に分布が生じてしまうことも考えられる。このように、それぞれの温度が同一にならず、または分布が生じてしまった場合には、互いに同等の熱線膨張係数を有していても、伸び縮みの量は同一にはならない。
【0007】
したがって、従来の蒸着用マスクでは、基板と枠体とで蒸着源からの輻射熱の影響による伸び縮みの量が同一とならず、その結果被蒸着物である基板とマスク本体のパターン領域内における開孔との相対位置が、当初計画した所望位置からずれてしまうおそれがある。このような輻射熱の影響によるパターン位置精度に関する問題点は、蒸着用マスクによる蒸着パターンの形成精度低下をも招いてしまい、有機EL素子の製造工程であれば表示画質向上を妨げることに繋がってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除すべく、その輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制することで、高精度なパターニングにも対応することが可能である蒸着用マスクを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために案出された蒸着用マスクである。すなわち、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源からの輻射熱を断熱する断熱部材が前記枠体の蒸着源側に配設されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の蒸着用マスクは、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源から前記枠体が受けた熱を放熱する放熱部材が前記枠体における蒸着源の対向側に配設されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の蒸着用マスクは、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、前記枠体の蒸着源側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受ける輻射熱を断熱する断熱部材と、前記枠体における蒸着源の対向側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受けた輻射熱を放熱する放熱部材とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の蒸着用マスクによれば、枠体の蒸着源側に断熱部材が配されているので、蒸着源からの輻射熱がその断熱部材によって断熱される。または、枠体における蒸着源の対向側に放熱部材が配されているので、枠体が受けた輻射熱がその放熱部材によって放熱される。したがって、断熱部材または放熱部材の少なくとも一方を備えていれば、蒸着源から輻射される熱が蒸着用マスクに到達しても、その蒸着用マスクにおける枠体の温度上昇を抑制できるようになる。つまり、例えば被蒸着物である基板と枠体とでそれぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあっても、断熱部材による断熱量または放熱部材による放熱量を制御することで、枠体の温度上昇を基板と同等にし得るようになる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明に係る蒸着用マスクについて説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る蒸着用マスクの概略構成の一例を示す側断面図である。図例のように、ここで説明する蒸着用マスクは、マスク本体1と枠体2とを具備して構成されており、そのマスク本体1上に被蒸着物であるガラス基板3が載置されるとともに、枠体2がマスクを回転・移動・搬送するためのパレット4に嵌合し得るように形成されている。
【0015】
ここで、蒸着用マスクの基本構成であるマスク本体1および枠体2について、さらに詳しく説明する。図2は、本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す斜視図である。
【0016】
マスク本体1は、銅板、ニッケル板、圧延ステンレス板等といった薄板状部材からなるもので、その平面上領域がパターン領域1aとそれ以外の外周縁近傍領域とに大別される。そして、パターン領域1a内には、蒸着パターンに対応した形状の開孔1bが、エッチングやレーザ加工等によって形成されている。なお、パターン領域1aは矩形のものに限らず、種々の任意形状としても構わない。また、マスク本体1は、「電鋳(メッキ)製造法」によってパターン領域1a内に多数の微細な開孔1bが設けられたニッケル等の薄い金属膜で形成されたものであってもよい。
【0017】
一方、枠体2は、マスク本体1の外周縁近傍領域に応じた形状に形成されたものである。ここで、枠体2は、その線熱膨張係数、熱容量、表面の輻射射出率、周囲支持体と熱伝導によって流入流出する伝熱量、そして蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板によって制限できる流入する熱量、以上を最適に調節して設計することによって、ガラス基板3と蒸着時の温度変化による膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることが望ましい。
【0018】
そして、枠体2には、マスク本体1に張力を与えた状態で、そのマスク本体1における外周縁近傍領域が固着されている。このとき、張力をかけて固着してあるマスク本体1は、結果として固着してある枠体2に従って膨張収縮することになるので、マスク本体1はガラス基板3と膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることができる。また、マスク本体1に与えられる張力は、詳細を後述するように、蒸着時の輻射熱による熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量が、張力によってマスク本体1に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されているものとする。さらには、その張力によってマスク本体1のパターン領域1aに生じる応力分布が均一化するように、その張力の大きさおよび方向が設定されていることが望ましい。
【0019】
次に、以上のようなマスク本体1と枠体2との張力をかけた固着の手順について、詳しく説明する。図3および図4は、本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図である。
【0020】
マスク本体1と枠体2との固着にあたっては、先ず、蒸着用マスクの使用条件等に基づいて、その蒸着用マスクが受ける蒸着中の温度変化量、すなわち蒸着時の輻射熱による温度変化量を把握して、その温度変化が生じた際の熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量を認識する。さらに詳しくは、温度変化が生じた際にマスク本体1の各箇所に生じる膨張・収縮の大きさおよび方向を、そのマスク本体1の熱線膨張係数に基づいて演算解析を行って算出する。
【0021】
このとき、マスク本体1のパターン領域1aにおいて、例えば開孔1bが密集している部分とそうでない部分、あるいは他の多数の開孔1bに比べて特別に寸法の大きい開孔1bが設けられている部分があると、膨張・収縮の大きさおよび方向は一定均一とはならず、それらの配置に応じた分布を生じる。したがって、このような場合には、例えば有限要素法による演算処理を用いてその分布を解析し、その分布の状態を含めて膨張・収縮の大きさおよび方向を算出するものとする。
【0022】
なお、本来のパターン形成には必要でない開孔1bをパターン領域1a上に配置すれば、それにより分布の非一定や不均一を是正できることもあり得る。そのような場合には、演算解析の結果に基づいて、パターン領域1a上に本来のパターン形成には必要でない開孔1bを設けておくことが考えられる。
【0023】
輻射熱の影響によるマスク本体1に生じる歪み量を認識した後は、続いて、マスク本体1に与える張力と、その張力によってマスク本体に生じる歪み量との関係を認識する。すなわち、マスク本体1に張力を与えた場合に、その張力によってマスク本体1にどの程度の大きさおよび方向の歪みが生じるかを、そのマスク本体1の縦弾性係数(ヤング率)に基づいて演算解析を行って算出する。
【0024】
このときも、マスク本体1のパターン領域1aにおける開孔1bの分布状況によっては、張力と歪み量との関係が均一にはならないことがある。したがって、このような場合には、例えば有限要素法による演算処理を用いてその分布を解析し、その分布の状態を含めて張力−歪み量の関係を認識するものとする。
【0025】
なお、張力−歪み量の関係が不均一の場合には、図3に示すように、パターン領域1aに生じる応力Nの分布が均一化するような張力Fの分布状況、すなわちマスク本体1の各箇所に与える張力Fの大きさおよび向きを算出しておくことが望ましい。また、この場合に、上述したような本来のパターン形成には必要でない開孔1bが、パターン領域1aの応力分布を均一化させる上で有効であれば、演算解析の結果に基づいてパターン領域1a上に当該開孔1bを設けておくことも考えられる。
【0026】
また、マスク本体1は後に枠体2に固着されるので、その枠体2に固着された状態での歪み量を認識するようにしてもよい。すなわち、枠体2は、マスク本体1が固着された後に、そのマスク本体1の張力Fにより変形することも考えられるので、その枠体2の変形量、方向、分布等についても予め考慮して、有限要素法等の演算解析を行うようにしてもよい。さらには、その演算解析の結果に基づき、マスク本体1を固着した後に枠体2が変形することによるパターン領域1a上での開孔1bの位置ズレを補正し、その位置ズレ補正後のマスク本体1を形成して用いるようにすることも考えられる。
【0027】
以上のような熱応力および張力によるそれぞれの歪み量の認識は、上述したように熱応力による歪み量を認識した後、張力による歪み量を認識する他に、それぞれを同時並行的に行ってもよいし、また上述した場合とは逆に張力による歪み量を認識した後、熱応力による歪み量を認識するようにしても構わない。
【0028】
熱応力および張力によるそれぞれの歪み量を認識した後は、次いで、熱応力による歪み量が張力による歪み量によって相殺されるような、張力の大きさおよび方向を特定する。この特定も、上述したそれぞれの認識結果を基にして、例えば有限要素法による演算処理を用いて行うようにすればよい。なお、有限要素法による演算処理およびその演算処理を用いて解析技術については、公知技術を利用して実現することが可能であるため、ここではその説明を省略する。
【0029】
張力の大きさおよび方向を特定した後は、その特定した張力をマスク本体1に与えて、その外周縁近傍領域を外方に向けて引っ張った状態にする。これにより、マスク本体1は、その張力による歪み量の分だけ伸びを持った状態となる。そして、マスク本体1が伸びを持った状態のまま、図4に示すように、そのマスク本体1の外周縁近傍領域を枠体2に密着させて固着する。このときの固着は、耐熱セラミックス系接着剤や耐熱エポキシ樹脂接着剤等といった温度変化に対して安定した性質を有する接着剤を用いた接着によって行うことが考えられる。また、ビス止め等といったような締結具(ネジ)を用いて行っても構わない。あるいは、マスク本体1と枠体2の材質によっては、マスク本体1は、枠体2へ、点溶接やレーザ溶接等の溶接の方法で固着しても構わない。
【0030】
以上の手順により、張力を与えた状態でマスク本体1が枠体2に固着され、しかもその張力は熱応力による歪み量が張力による歪み量に相殺される大きさおよび方向に設定されている、図2に示すような蒸着用マスクの基本構成が得られるのである。
【0031】
ところで、このように固着されたマスク本体1および枠体2は、図1に示すように、蒸着用マスクを回転・移動・搬送するためのパレット4に嵌合される。パレット4は、枠体2を嵌合し得る形状に形成されたものであり、その下面側、すなわち枠体2の位置よりも蒸着源側に、断熱板5および断熱薄板6を備えている。
【0032】
断熱板5は、例えばセラミックのような低熱伝導率を有した材料によって、マスク本体1のパターン領域1aに対応した開口を有する平板状に形成されたものであり、蒸着源から輻射される熱線が枠体2に到達することを妨げるためのものである。さらには、低熱伝導率の材料からなることから、蒸着源からの熱線によって断熱板5の表面に蓄えられた熱が、枠体2側に伝導することを抑制するためのものである。
【0033】
断熱薄板6は、アルミニウム箔等のように、低い輻射率をもつ材料からなる薄板状のもので、断熱板5の上面側に配されて、断熱板5から枠体2に輻射する熱を妨げるためのものである。
【0034】
つまり、断熱板5および断熱薄板6は、蒸着源から枠体2が受ける輻射熱を断熱する断熱部材として機能するものである。ただし、これら断熱板5および断熱薄板6は、枠体2の蒸着源側に配設されていればよく、必ずしもパレット4の下面側に付設されたものである必要はない。
【0035】
また、パレット4の内側には、マスク本体1および枠体2からなる蒸着用マスクの基本構成が嵌合されるが、その枠体2は、断熱板5および断熱薄板6が付設されたパレット4と、リブ状部7およびスペーサ部8を介して接触するようになっている。
【0036】
図5は、本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す分解斜視図である。この図5および図1に示すように、リブ状部7は、枠体2の外側面からパレット4の内壁面に向けて突出するように形成されたものであり、枠体2とパレット4とが接触する面積を小さくして、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させるためのものである。このことから、リブ状部7は、セラミック等の熱伝導率の低い材料を用いて形成することが考えられる。
【0037】
また、スペーサ部8は、図5および図1に示すように、断熱薄板6の上面から枠体2の底面に向けて突出するように形成されたものであり、枠体2と断熱薄板6(その断熱薄板6が付設されているパレット4を含む)とが接触する面積を小さくして、枠体2に伝導する熱量を減少させるためのものである。このことから、スペーサ部8についても、リブ状部7と同様に、セラミック等の熱伝導率の低い材料を用いて形成することが考えられる。
【0038】
なお、枠体2は、必ずしもリブ状部7およびスペーサ部8の両方を介してパレット4と接触する必要はなく、リブ状部7またはスペーサ部8の少なくとも一方を介して接触していればよい。また、リブ状部7またはスペーサ部8の配設箇所も、図5に示した箇所に限定されるものではなく、例えば枠体2の外側面、パレット4の内壁面、断熱薄板6の上面、枠体2の下面等、いずれの箇所に設けてもよく、またその設置数も枠体2やパレット4の大きさ、形状等を考慮して適宜決定すればよい。
【0039】
図6は、マスク本体1および枠体2がパレット4内に嵌合した状態を示す図である。図例のように、マスク本体1および枠体2がパレット4内に嵌合した状態では、リブ状部7およびスペーサ部8を介しているため、その分だけ枠体2とパレット4との間に隙間(スペース)が生じる。これにより、枠体2は、その外側面および下面の全てがパレット4(または断熱薄板6)と接触するのではなく、リブ状部7およびスペーサ部8の部分でのみ間接的に接触することになる。したがって、枠体2とパレット4とが接触する面積が小さくなり、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させ得るようになるのである。
【0040】
また、ここで説明する蒸着用マスクは、マスク本体1および枠体2がリブ状部7およびスペーサ部8を介してパレット4内に嵌合されるだけではなく、図1に示すように、マスク本体1の周端縁近傍の上面側に接するように載設された放熱板9をも備えている。
【0041】
放熱板9は、マスク本体1の周端縁近傍の上面側に接するように載設されることで、枠体2が蒸着源から受けた熱を放熱するためのものである。つまり、放熱板9は、枠体2における蒸着源の対向側に配設された放熱部材として機能するものである。そのために、放熱板9は、アルミニウム等の熱伝導率が大きい材料を用いて形成することが考えられ、またその表面に黒色アルマイト等のような熱輻射率が高くなるような処理を施すことが望ましい。
【0042】
図7は、マスク本体1の上面側に放熱板9が載設された状態を示す図である。図例のように、放熱板9は、マスク本体1と比較して大きな厚さで極めて大きい熱容量を持つように形成することが望ましい。マスク本体1の熱は直接、また枠体2の熱はマスク本体1を介して、それぞれ放熱板9との接触面を通じて伝導し、しかも放熱板9の形成材料は熱伝導率が大きいことからその熱伝導は効率的に行われるため、放熱板9の熱容量が大きければ、マスク本体1または枠体2の温度変化を抑制するのに有効となるからである。また、放熱板9は、マスク本体1の上面側の接触面の面積と比較して大きな表面積を有し、かつ、熱輻射率が高い表面を有するように形成することが望ましい。このように形成すれば、熱を周囲に効率的に輻射し放熱することが可能となるので、この点でもマスク本体1または枠体2の温度変化を抑制するのに有効となるからである。
【0043】
以上のように構成された蒸着用マスクによれば、枠体2の蒸着源側に断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6が配されているので、蒸着源からの輻射熱がその断熱板5および断熱薄板6によって断熱される。さらに、枠体2における蒸着源の対向側には放熱部材として機能する放熱板9が配されているので、枠体2が受けた輻射熱がその放熱板9によって放熱される。したがって、これら断熱板5、断熱薄板6および放熱板9を備えていれば、蒸着源から輻射される熱が蒸着用マスクに到達しても、その蒸着用マスクにおける枠体2の温度上昇を抑制できるようになる。
【0044】
つまり、枠体2の線熱膨張係数、熱容量、表面の輻射射出率、周囲支持体と熱伝導によって流入流出する伝熱量、そして蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板によって制限できる流入する熱量、これらの少なくとも一つ、望ましくは全てを最適に調節して設計することによって、ガラス基板3と蒸着時の温度変化による膨張収縮の寸法変化を同期一致して枠体2を膨張収縮させることができる。そのために、例えばガラス基板3と枠体2とでそれぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあっても、断熱板5および断熱薄板6による断熱量または放熱板9による放熱量を制御することで、枠体2の温度上昇をガラス基板3と同等にし得るようになる。また、蒸着源との位置関係もそれぞれで異なっていても、断熱量または放熱量の制御を通じて、定常的また非定常的な分布発生を回避し得るようになる。
【0045】
このように、ガラス基板3と枠体2との温度上昇を同等にし得るようになり、また定常的また非定常的な分布発生を回避し得るようになれば、枠体2に張力をかけて固着してあるマスク本体1は、結果として固着してある枠体2に従って膨張収縮することになるので、マスク本体1はガラス基板3と膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることが可能となる。したがって、輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制して、その輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除して相互の位置関係を同一に保持することができ、高精細、高精度なパターンニングを実現することが可能となる。
【0046】
具体的には、蒸着時に熱を受けた時のマスク本体1と枠体2との温度変化を防止あるいは抑制することにより、マスク本体1での温度変化による伸縮や歪みの発生を防止あるいは抑止し、予め計画されたマスクパターンの各開孔1bの位置を精度よく実現することができる。そのため、ガラス基板3上に蒸着パターンを極めて小さな寸法のピッチで精度よく配置することが可能となる。また、蒸着パターンの範囲、すなわちパターン領域1aの範囲をより大きな寸法とすることができ、大きな寸法のガラス基板3に対しても一度の処理で蒸着パターンを精度よく形成することも可能となる。さらには、大きな寸法のガラス基板3に対して、一度に多数個のパターン形成領域を、精度よく形成することも可能となる。
【0047】
なお、輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制して、パターン位置精度に対する悪影響を極力排除する上では、断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6と、放熱部材として機能する放熱板9との両方を備えることが望ましいが、いずれか一方のみを備えた場合であっても、輻射熱のパターン位置精度に対する悪影響を排除することは可能である。
【0048】
また、断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6を備えた場合には、リブ状部7またはスペーサ部8の少なくとも一方を介することによって、枠体2とパレット4とが接触する面積を小さくして、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させ得るようになるので、リブ状部7またはスペーサ部8を介さない場合に比べて、断熱板5および断熱薄板6による断熱効果の向上が図れ、輻射熱による悪影響を排除する上でより一層有効なものとなる。
【0049】
さらに、本実施形態における蒸着用マスクでは、上述した断熱部材または放熱部材として機能する構成によって、蒸着源からの輻射熱による悪影響を極力排除することができるが、例え蒸着時の輻射熱による影響を受けてしまった場合であっても、マスク本体1に温度変化による伸縮が生じてしまうことがないため、パターン領域1a内に形成された開孔1bの位置が変化しない。すなわち、輻射熱による温度変化があっても、開孔1bの位置を精度よく維持することができる。これは、予めマスク本体1に張力を与え、その張力による応力と当該応力による歪み(伸び)とを持たせた状態にしておき、温度変化に伴う内部応力の変化があった場合に、その内部応力の変化による歪みが予め持たせている歪みの中で打ち消されるようにしているからである。
【0050】
ここで、マスク本体1のパターン領域1a内に形成された開孔1bの位置が変化しない理由、すなわち温度変化で生じようとする歪みが予め持っている伸びの中で吸収される原理について説明する。図8〜図10は、両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図である。
【0051】
例えば、図8に示すように、両端が拘束固定されずに自由な状態で支持されている両端支持梁10を考える。このような両端支持梁10では、その両端支持梁10が外部からの熱を受けて温度上昇すると、その両端支持梁10の形成材料の熱線膨張係数に応じて膨張する。そして、これに伴って、両端支持梁10上の任意の部分X1の位置も移動する。例えば、10℃温度が上昇したときに、中心から10cm離れた部分X1は、図中右方向に向かって10μm移動する、といった具合である。
【0052】
これとは別に、両端支持梁10の両端縁に、図9に示すような引っ張り荷重(張力)F1を与えた場合を考える。このとき、外部からの熱の影響はないものとする。両端支持梁10の両端縁を荷重F1で引っ張った場合に、その両端支持梁10は、その両端支持梁10の形成材料の縦弾性係数(ヤング率)に応じて荷重方向に伸びる。そして、これに伴って、両端支持梁10上の任意の部分X1の位置も移動する。例えば、F1=10kgf/mm2で引っ張ったときに、中心から10cm離れた部分X1は、図中右方向に向かって20μm移動する、といった具合である。
【0053】
これに対して、図10に示すように、両端支持梁10の両端縁を荷重F1で引っ張って、その両端支持梁10に伸びが生じている状態で、その両端支持梁10の両端縁を拘束固定した場合を考える。このとき、両端支持梁10上の任意の部分X1は、その両端支持梁10に伸びが生じている状態であることから、荷重F1が与えられていない場合に比べて、例えば図中右方向に向かって20μm移動した位置に存在する。したがって、両端縁を拘束固定した後においては、20μm移動した位置が、任意の部分X1が存在すべきディフォルト位置となる。
【0054】
この状態で、両端縁が拘束固定された両端支持梁10が外部からの熱を受けて温度上昇すると、その熱応力によって両端支持梁10は膨張しようとする。ところが、両端支持梁10は、既に荷重F1による伸びが生じた状態である。そのため、両端支持梁10では、外部からの熱を受けても、その熱応力によって内部応力(荷重F1による応力)が緩和されるに過ぎず、その両端支持梁10上における任意の部分X1が移動することはない。具体的には、任意の部分X1は、例えば図中右方向に向かって予め20μm移動した状態にあるので、10℃の温度上昇があっても、任意の部分X1の位置が10μm移動するのに相当する分だけ、荷重F1による応力は緩和されるが、その任意の部分X1の位置は全く移動しない。
【0055】
このように、事前に与えてそのまま保持される張力の設定によっては、その後外部からの熱を受けて温度上昇する場合であっても、その熱応力によって両端支持梁10に生じる歪み量を、事前に与えた張力によって両端支持梁10に生じる歪み量で相殺できるのである。なお、ここでは、説明を簡単にするために、一次元の簡易モデルとして両端支持梁10を例に挙げたが、蒸着用マスクにおけるマスク本体1についても、全く同様の原理が適用される。その場合には、一次元ではなく、二次元または三次元上での考慮が必要となるが、この点については例えば有限要素法による演算処理を用いることで対応が可能となる。
【0056】
つまり、蒸着時の輻射熱による熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量が、そのマスク本体1に与える張力によって生じる歪み量で相殺されるように、その張力の大きさおよび方向を設定すれば、蒸着時の輻射熱による熱応力による歪みは、マスク本体1の張力による歪みを解消する方向に作用する。そのため、マスク本体1と枠体2との熱線膨張係数が互いに相違している場合に、そのマスク本体1が蒸着時に輻射熱を受けても、枠体2に固着する際に予め与えられた張力により生じる歪み量の中で内部応力が増減するだけであり、温度変化によるマスク本体1の伸縮に伴ってマスク本体1の各部、特にパターン領域1a内に形成された開孔1bの位置に変化が生ずることはない。
【0057】
以上に説明したことから、本実施形態における蒸着用マスクを用いれば、開孔1bの位置精度を高く維持でき、ガラス基板3上に極めて精細な蒸着パターンを精度よく形成することが可能となる。また、開孔1bの位置精度を高く維持できることから、パターン領域1aの範囲の大型化にも対応可能となり(大型化しても位置精度が極端に悪化することがない)、基板上に一度の蒸着で大きな寸法の蒸着パターンの成膜を精度よく行うこともできる。これと同様に、パターン領域1aの範囲の多面化(一つのマスク本体1に複数のパターン領域1aを設けること)にも精度よく対応することが可能となる。
【0058】
その上、本実施形態で説明した蒸着用マスクでは、開孔1bの位置精度を高く維持できることから、蒸着パターンの形成精度も高く維持することができ、特に有機EL素子の製造工程で用いた場合に、表示画質向上を実現する上で非常に好適なものとなる。
【0059】
なお、本実施形態では、本発明の実施の好適な具体例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々変形することが可能である。すなわち、本実施形態で説明した蒸着用マスクを構成する一連の構成要素の材質、形状等は、必ずしも本実施形態で挙げたものに限られることはなく、各構成要素の機能を同様に確保することが可能な限り、自由に変更可能である。
【0060】
また、本実施形態では、蒸着用マスクの例として、有機EL素子の製造工程で用いられるものを挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の成膜プロセスにて用いられる蒸着用マスクであっても、全く同様に適用可能であることはいうまでもない。
【0061】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の蒸着用マスクによれば、蒸着源からの輻射熱が断熱部材によって断熱され、または枠体が受けた輻射熱が放熱部材によって放熱されるので、輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除して、その輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制することができ、その結果として高精度なパターニングにも対応することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蒸着用マスクの概略構成の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図(その1)であり、マスク本体に張力を与えた状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図(その2)であり、マスク本体を枠体に固着する様子を模式的に示す図である。
【図5】本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す分解斜視図である。
【図6】本発明に係る蒸着用マスクにおいて、マスク本体および枠体がパレット内に嵌合した状態の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る蒸着用マスクにおいて、マスク本体の上面側に放熱板が載設された状態の一例を示す斜視図である。
【図8】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その1)であり、両端が拘束固定されずに自由な状態で支持されている場合を模式的に示す図である。
【図9】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その2)であり、両端に引っ張り荷重が与えられた場合を模式的に示す図である。
【図10】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その3)であり、引っ張り荷重が与えられた状態で両端が拘束固定された場合を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…マスク本体、1a…パターン領域、1b…開孔、2…枠体、3…ガラス基板、4…パレット、5…断熱板、6…断熱薄板、7…リブ状部、8…スペーサ部、9…放熱板
【発明の属する技術分野】
本発明は、被蒸着物上に所定パターンの成膜を行うために用いられる蒸着用マスクおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、有機電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子;以下「有機EL素子」という)の製造工程では、有機層を形成する有機材料の耐水性が低くウエットプロセスを利用できないことから、真空蒸着によって基板上に有機層(薄膜)を成膜している。また、有機EL素子の製造工程では、基板上へのパターニング成膜(例えば、R,G,Bの各色成分に対応したパターンの成膜)を行うために、通常、蒸着パターンに対応した形状の開孔(有機材料の通過孔)を有した蒸着用マスクが用いられる。
【0003】
従来、蒸着用マスクとしては、蒸着パターンに対応した形状の開孔がパターン領域内に形成されたマスク本体と、そのマスク本体のパターン領域以外の外周縁近傍領域が固着される枠体と、を具備したものが知られている。マスク本体は、銅板、ニッケル板、圧延ステンレス板等といった薄板状部材からなり、そのパターン領域内に開孔がエッチングやレーザ加工等によって設けられている。一方、枠体は、被蒸着物である基板と同等の熱線膨張係数の素材によって十分な厚みを有して高剛性に形成されている。そして、これらマスク本体および枠体からなる蒸着用マスクは、マスク本体に弛みが生じないように、マスク本体に張力を与えた状態で、そのマスク本体が枠体に固着されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
実用新案登録第3082805号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、蒸着用マスクを用いて真空蒸着を行う際には、蒸着源を加熱することでその蒸着源から有機材料が蒸発して飛散するため、蒸着用マスクが蒸着源からの輻射熱を受ける。そのために、従来の蒸着用マスクでは、常温下と高温下とで蒸着用マスク−基板間の整合位置にズレが生じてしまうのを回避すべく、上述したように基板と同等の熱線膨張係数の素材からなる枠体にマスク本体を密着させて一体化している。
【0006】
しかしながら、一般に、被蒸着物である基板と枠体とでは、それぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあるため、蒸着源から同様に熱を受けた場合であっても、それぞれの温度が必ずしも同一になるとは限らない。また、蒸着源との位置関係もそれぞれで異なるため、定常的また非定常的に分布が生じてしまうことも考えられる。このように、それぞれの温度が同一にならず、または分布が生じてしまった場合には、互いに同等の熱線膨張係数を有していても、伸び縮みの量は同一にはならない。
【0007】
したがって、従来の蒸着用マスクでは、基板と枠体とで蒸着源からの輻射熱の影響による伸び縮みの量が同一とならず、その結果被蒸着物である基板とマスク本体のパターン領域内における開孔との相対位置が、当初計画した所望位置からずれてしまうおそれがある。このような輻射熱の影響によるパターン位置精度に関する問題点は、蒸着用マスクによる蒸着パターンの形成精度低下をも招いてしまい、有機EL素子の製造工程であれば表示画質向上を妨げることに繋がってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除すべく、その輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制することで、高精度なパターニングにも対応することが可能である蒸着用マスクを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために案出された蒸着用マスクである。すなわち、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源からの輻射熱を断熱する断熱部材が前記枠体の蒸着源側に配設されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の蒸着用マスクは、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、蒸着源から前記枠体が受けた熱を放熱する放熱部材が前記枠体における蒸着源の対向側に配設されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の蒸着用マスクは、蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、前記枠体の蒸着源側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受ける輻射熱を断熱する断熱部材と、前記枠体における蒸着源の対向側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受けた輻射熱を放熱する放熱部材とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の蒸着用マスクによれば、枠体の蒸着源側に断熱部材が配されているので、蒸着源からの輻射熱がその断熱部材によって断熱される。または、枠体における蒸着源の対向側に放熱部材が配されているので、枠体が受けた輻射熱がその放熱部材によって放熱される。したがって、断熱部材または放熱部材の少なくとも一方を備えていれば、蒸着源から輻射される熱が蒸着用マスクに到達しても、その蒸着用マスクにおける枠体の温度上昇を抑制できるようになる。つまり、例えば被蒸着物である基板と枠体とでそれぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあっても、断熱部材による断熱量または放熱部材による放熱量を制御することで、枠体の温度上昇を基板と同等にし得るようになる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明に係る蒸着用マスクについて説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る蒸着用マスクの概略構成の一例を示す側断面図である。図例のように、ここで説明する蒸着用マスクは、マスク本体1と枠体2とを具備して構成されており、そのマスク本体1上に被蒸着物であるガラス基板3が載置されるとともに、枠体2がマスクを回転・移動・搬送するためのパレット4に嵌合し得るように形成されている。
【0015】
ここで、蒸着用マスクの基本構成であるマスク本体1および枠体2について、さらに詳しく説明する。図2は、本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す斜視図である。
【0016】
マスク本体1は、銅板、ニッケル板、圧延ステンレス板等といった薄板状部材からなるもので、その平面上領域がパターン領域1aとそれ以外の外周縁近傍領域とに大別される。そして、パターン領域1a内には、蒸着パターンに対応した形状の開孔1bが、エッチングやレーザ加工等によって形成されている。なお、パターン領域1aは矩形のものに限らず、種々の任意形状としても構わない。また、マスク本体1は、「電鋳(メッキ)製造法」によってパターン領域1a内に多数の微細な開孔1bが設けられたニッケル等の薄い金属膜で形成されたものであってもよい。
【0017】
一方、枠体2は、マスク本体1の外周縁近傍領域に応じた形状に形成されたものである。ここで、枠体2は、その線熱膨張係数、熱容量、表面の輻射射出率、周囲支持体と熱伝導によって流入流出する伝熱量、そして蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板によって制限できる流入する熱量、以上を最適に調節して設計することによって、ガラス基板3と蒸着時の温度変化による膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることが望ましい。
【0018】
そして、枠体2には、マスク本体1に張力を与えた状態で、そのマスク本体1における外周縁近傍領域が固着されている。このとき、張力をかけて固着してあるマスク本体1は、結果として固着してある枠体2に従って膨張収縮することになるので、マスク本体1はガラス基板3と膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることができる。また、マスク本体1に与えられる張力は、詳細を後述するように、蒸着時の輻射熱による熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量が、張力によってマスク本体1に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されているものとする。さらには、その張力によってマスク本体1のパターン領域1aに生じる応力分布が均一化するように、その張力の大きさおよび方向が設定されていることが望ましい。
【0019】
次に、以上のようなマスク本体1と枠体2との張力をかけた固着の手順について、詳しく説明する。図3および図4は、本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図である。
【0020】
マスク本体1と枠体2との固着にあたっては、先ず、蒸着用マスクの使用条件等に基づいて、その蒸着用マスクが受ける蒸着中の温度変化量、すなわち蒸着時の輻射熱による温度変化量を把握して、その温度変化が生じた際の熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量を認識する。さらに詳しくは、温度変化が生じた際にマスク本体1の各箇所に生じる膨張・収縮の大きさおよび方向を、そのマスク本体1の熱線膨張係数に基づいて演算解析を行って算出する。
【0021】
このとき、マスク本体1のパターン領域1aにおいて、例えば開孔1bが密集している部分とそうでない部分、あるいは他の多数の開孔1bに比べて特別に寸法の大きい開孔1bが設けられている部分があると、膨張・収縮の大きさおよび方向は一定均一とはならず、それらの配置に応じた分布を生じる。したがって、このような場合には、例えば有限要素法による演算処理を用いてその分布を解析し、その分布の状態を含めて膨張・収縮の大きさおよび方向を算出するものとする。
【0022】
なお、本来のパターン形成には必要でない開孔1bをパターン領域1a上に配置すれば、それにより分布の非一定や不均一を是正できることもあり得る。そのような場合には、演算解析の結果に基づいて、パターン領域1a上に本来のパターン形成には必要でない開孔1bを設けておくことが考えられる。
【0023】
輻射熱の影響によるマスク本体1に生じる歪み量を認識した後は、続いて、マスク本体1に与える張力と、その張力によってマスク本体に生じる歪み量との関係を認識する。すなわち、マスク本体1に張力を与えた場合に、その張力によってマスク本体1にどの程度の大きさおよび方向の歪みが生じるかを、そのマスク本体1の縦弾性係数(ヤング率)に基づいて演算解析を行って算出する。
【0024】
このときも、マスク本体1のパターン領域1aにおける開孔1bの分布状況によっては、張力と歪み量との関係が均一にはならないことがある。したがって、このような場合には、例えば有限要素法による演算処理を用いてその分布を解析し、その分布の状態を含めて張力−歪み量の関係を認識するものとする。
【0025】
なお、張力−歪み量の関係が不均一の場合には、図3に示すように、パターン領域1aに生じる応力Nの分布が均一化するような張力Fの分布状況、すなわちマスク本体1の各箇所に与える張力Fの大きさおよび向きを算出しておくことが望ましい。また、この場合に、上述したような本来のパターン形成には必要でない開孔1bが、パターン領域1aの応力分布を均一化させる上で有効であれば、演算解析の結果に基づいてパターン領域1a上に当該開孔1bを設けておくことも考えられる。
【0026】
また、マスク本体1は後に枠体2に固着されるので、その枠体2に固着された状態での歪み量を認識するようにしてもよい。すなわち、枠体2は、マスク本体1が固着された後に、そのマスク本体1の張力Fにより変形することも考えられるので、その枠体2の変形量、方向、分布等についても予め考慮して、有限要素法等の演算解析を行うようにしてもよい。さらには、その演算解析の結果に基づき、マスク本体1を固着した後に枠体2が変形することによるパターン領域1a上での開孔1bの位置ズレを補正し、その位置ズレ補正後のマスク本体1を形成して用いるようにすることも考えられる。
【0027】
以上のような熱応力および張力によるそれぞれの歪み量の認識は、上述したように熱応力による歪み量を認識した後、張力による歪み量を認識する他に、それぞれを同時並行的に行ってもよいし、また上述した場合とは逆に張力による歪み量を認識した後、熱応力による歪み量を認識するようにしても構わない。
【0028】
熱応力および張力によるそれぞれの歪み量を認識した後は、次いで、熱応力による歪み量が張力による歪み量によって相殺されるような、張力の大きさおよび方向を特定する。この特定も、上述したそれぞれの認識結果を基にして、例えば有限要素法による演算処理を用いて行うようにすればよい。なお、有限要素法による演算処理およびその演算処理を用いて解析技術については、公知技術を利用して実現することが可能であるため、ここではその説明を省略する。
【0029】
張力の大きさおよび方向を特定した後は、その特定した張力をマスク本体1に与えて、その外周縁近傍領域を外方に向けて引っ張った状態にする。これにより、マスク本体1は、その張力による歪み量の分だけ伸びを持った状態となる。そして、マスク本体1が伸びを持った状態のまま、図4に示すように、そのマスク本体1の外周縁近傍領域を枠体2に密着させて固着する。このときの固着は、耐熱セラミックス系接着剤や耐熱エポキシ樹脂接着剤等といった温度変化に対して安定した性質を有する接着剤を用いた接着によって行うことが考えられる。また、ビス止め等といったような締結具(ネジ)を用いて行っても構わない。あるいは、マスク本体1と枠体2の材質によっては、マスク本体1は、枠体2へ、点溶接やレーザ溶接等の溶接の方法で固着しても構わない。
【0030】
以上の手順により、張力を与えた状態でマスク本体1が枠体2に固着され、しかもその張力は熱応力による歪み量が張力による歪み量に相殺される大きさおよび方向に設定されている、図2に示すような蒸着用マスクの基本構成が得られるのである。
【0031】
ところで、このように固着されたマスク本体1および枠体2は、図1に示すように、蒸着用マスクを回転・移動・搬送するためのパレット4に嵌合される。パレット4は、枠体2を嵌合し得る形状に形成されたものであり、その下面側、すなわち枠体2の位置よりも蒸着源側に、断熱板5および断熱薄板6を備えている。
【0032】
断熱板5は、例えばセラミックのような低熱伝導率を有した材料によって、マスク本体1のパターン領域1aに対応した開口を有する平板状に形成されたものであり、蒸着源から輻射される熱線が枠体2に到達することを妨げるためのものである。さらには、低熱伝導率の材料からなることから、蒸着源からの熱線によって断熱板5の表面に蓄えられた熱が、枠体2側に伝導することを抑制するためのものである。
【0033】
断熱薄板6は、アルミニウム箔等のように、低い輻射率をもつ材料からなる薄板状のもので、断熱板5の上面側に配されて、断熱板5から枠体2に輻射する熱を妨げるためのものである。
【0034】
つまり、断熱板5および断熱薄板6は、蒸着源から枠体2が受ける輻射熱を断熱する断熱部材として機能するものである。ただし、これら断熱板5および断熱薄板6は、枠体2の蒸着源側に配設されていればよく、必ずしもパレット4の下面側に付設されたものである必要はない。
【0035】
また、パレット4の内側には、マスク本体1および枠体2からなる蒸着用マスクの基本構成が嵌合されるが、その枠体2は、断熱板5および断熱薄板6が付設されたパレット4と、リブ状部7およびスペーサ部8を介して接触するようになっている。
【0036】
図5は、本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す分解斜視図である。この図5および図1に示すように、リブ状部7は、枠体2の外側面からパレット4の内壁面に向けて突出するように形成されたものであり、枠体2とパレット4とが接触する面積を小さくして、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させるためのものである。このことから、リブ状部7は、セラミック等の熱伝導率の低い材料を用いて形成することが考えられる。
【0037】
また、スペーサ部8は、図5および図1に示すように、断熱薄板6の上面から枠体2の底面に向けて突出するように形成されたものであり、枠体2と断熱薄板6(その断熱薄板6が付設されているパレット4を含む)とが接触する面積を小さくして、枠体2に伝導する熱量を減少させるためのものである。このことから、スペーサ部8についても、リブ状部7と同様に、セラミック等の熱伝導率の低い材料を用いて形成することが考えられる。
【0038】
なお、枠体2は、必ずしもリブ状部7およびスペーサ部8の両方を介してパレット4と接触する必要はなく、リブ状部7またはスペーサ部8の少なくとも一方を介して接触していればよい。また、リブ状部7またはスペーサ部8の配設箇所も、図5に示した箇所に限定されるものではなく、例えば枠体2の外側面、パレット4の内壁面、断熱薄板6の上面、枠体2の下面等、いずれの箇所に設けてもよく、またその設置数も枠体2やパレット4の大きさ、形状等を考慮して適宜決定すればよい。
【0039】
図6は、マスク本体1および枠体2がパレット4内に嵌合した状態を示す図である。図例のように、マスク本体1および枠体2がパレット4内に嵌合した状態では、リブ状部7およびスペーサ部8を介しているため、その分だけ枠体2とパレット4との間に隙間(スペース)が生じる。これにより、枠体2は、その外側面および下面の全てがパレット4(または断熱薄板6)と接触するのではなく、リブ状部7およびスペーサ部8の部分でのみ間接的に接触することになる。したがって、枠体2とパレット4とが接触する面積が小さくなり、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させ得るようになるのである。
【0040】
また、ここで説明する蒸着用マスクは、マスク本体1および枠体2がリブ状部7およびスペーサ部8を介してパレット4内に嵌合されるだけではなく、図1に示すように、マスク本体1の周端縁近傍の上面側に接するように載設された放熱板9をも備えている。
【0041】
放熱板9は、マスク本体1の周端縁近傍の上面側に接するように載設されることで、枠体2が蒸着源から受けた熱を放熱するためのものである。つまり、放熱板9は、枠体2における蒸着源の対向側に配設された放熱部材として機能するものである。そのために、放熱板9は、アルミニウム等の熱伝導率が大きい材料を用いて形成することが考えられ、またその表面に黒色アルマイト等のような熱輻射率が高くなるような処理を施すことが望ましい。
【0042】
図7は、マスク本体1の上面側に放熱板9が載設された状態を示す図である。図例のように、放熱板9は、マスク本体1と比較して大きな厚さで極めて大きい熱容量を持つように形成することが望ましい。マスク本体1の熱は直接、また枠体2の熱はマスク本体1を介して、それぞれ放熱板9との接触面を通じて伝導し、しかも放熱板9の形成材料は熱伝導率が大きいことからその熱伝導は効率的に行われるため、放熱板9の熱容量が大きければ、マスク本体1または枠体2の温度変化を抑制するのに有効となるからである。また、放熱板9は、マスク本体1の上面側の接触面の面積と比較して大きな表面積を有し、かつ、熱輻射率が高い表面を有するように形成することが望ましい。このように形成すれば、熱を周囲に効率的に輻射し放熱することが可能となるので、この点でもマスク本体1または枠体2の温度変化を抑制するのに有効となるからである。
【0043】
以上のように構成された蒸着用マスクによれば、枠体2の蒸着源側に断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6が配されているので、蒸着源からの輻射熱がその断熱板5および断熱薄板6によって断熱される。さらに、枠体2における蒸着源の対向側には放熱部材として機能する放熱板9が配されているので、枠体2が受けた輻射熱がその放熱板9によって放熱される。したがって、これら断熱板5、断熱薄板6および放熱板9を備えていれば、蒸着源から輻射される熱が蒸着用マスクに到達しても、その蒸着用マスクにおける枠体2の温度上昇を抑制できるようになる。
【0044】
つまり、枠体2の線熱膨張係数、熱容量、表面の輻射射出率、周囲支持体と熱伝導によって流入流出する伝熱量、そして蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板によって制限できる流入する熱量、これらの少なくとも一つ、望ましくは全てを最適に調節して設計することによって、ガラス基板3と蒸着時の温度変化による膨張収縮の寸法変化を同期一致して枠体2を膨張収縮させることができる。そのために、例えばガラス基板3と枠体2とでそれぞれの熱容量、外部への熱伝導、熱輻射等に違いがあっても、断熱板5および断熱薄板6による断熱量または放熱板9による放熱量を制御することで、枠体2の温度上昇をガラス基板3と同等にし得るようになる。また、蒸着源との位置関係もそれぞれで異なっていても、断熱量または放熱量の制御を通じて、定常的また非定常的な分布発生を回避し得るようになる。
【0045】
このように、ガラス基板3と枠体2との温度上昇を同等にし得るようになり、また定常的また非定常的な分布発生を回避し得るようになれば、枠体2に張力をかけて固着してあるマスク本体1は、結果として固着してある枠体2に従って膨張収縮することになるので、マスク本体1はガラス基板3と膨張収縮の寸法変化を同期一致して膨張収縮させることが可能となる。したがって、輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制して、その輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除して相互の位置関係を同一に保持することができ、高精細、高精度なパターンニングを実現することが可能となる。
【0046】
具体的には、蒸着時に熱を受けた時のマスク本体1と枠体2との温度変化を防止あるいは抑制することにより、マスク本体1での温度変化による伸縮や歪みの発生を防止あるいは抑止し、予め計画されたマスクパターンの各開孔1bの位置を精度よく実現することができる。そのため、ガラス基板3上に蒸着パターンを極めて小さな寸法のピッチで精度よく配置することが可能となる。また、蒸着パターンの範囲、すなわちパターン領域1aの範囲をより大きな寸法とすることができ、大きな寸法のガラス基板3に対しても一度の処理で蒸着パターンを精度よく形成することも可能となる。さらには、大きな寸法のガラス基板3に対して、一度に多数個のパターン形成領域を、精度よく形成することも可能となる。
【0047】
なお、輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制して、パターン位置精度に対する悪影響を極力排除する上では、断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6と、放熱部材として機能する放熱板9との両方を備えることが望ましいが、いずれか一方のみを備えた場合であっても、輻射熱のパターン位置精度に対する悪影響を排除することは可能である。
【0048】
また、断熱部材として機能する断熱板5および断熱薄板6を備えた場合には、リブ状部7またはスペーサ部8の少なくとも一方を介することによって、枠体2とパレット4とが接触する面積を小さくして、パレット4から枠体2に伝導する熱量を減少させ得るようになるので、リブ状部7またはスペーサ部8を介さない場合に比べて、断熱板5および断熱薄板6による断熱効果の向上が図れ、輻射熱による悪影響を排除する上でより一層有効なものとなる。
【0049】
さらに、本実施形態における蒸着用マスクでは、上述した断熱部材または放熱部材として機能する構成によって、蒸着源からの輻射熱による悪影響を極力排除することができるが、例え蒸着時の輻射熱による影響を受けてしまった場合であっても、マスク本体1に温度変化による伸縮が生じてしまうことがないため、パターン領域1a内に形成された開孔1bの位置が変化しない。すなわち、輻射熱による温度変化があっても、開孔1bの位置を精度よく維持することができる。これは、予めマスク本体1に張力を与え、その張力による応力と当該応力による歪み(伸び)とを持たせた状態にしておき、温度変化に伴う内部応力の変化があった場合に、その内部応力の変化による歪みが予め持たせている歪みの中で打ち消されるようにしているからである。
【0050】
ここで、マスク本体1のパターン領域1a内に形成された開孔1bの位置が変化しない理由、すなわち温度変化で生じようとする歪みが予め持っている伸びの中で吸収される原理について説明する。図8〜図10は、両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図である。
【0051】
例えば、図8に示すように、両端が拘束固定されずに自由な状態で支持されている両端支持梁10を考える。このような両端支持梁10では、その両端支持梁10が外部からの熱を受けて温度上昇すると、その両端支持梁10の形成材料の熱線膨張係数に応じて膨張する。そして、これに伴って、両端支持梁10上の任意の部分X1の位置も移動する。例えば、10℃温度が上昇したときに、中心から10cm離れた部分X1は、図中右方向に向かって10μm移動する、といった具合である。
【0052】
これとは別に、両端支持梁10の両端縁に、図9に示すような引っ張り荷重(張力)F1を与えた場合を考える。このとき、外部からの熱の影響はないものとする。両端支持梁10の両端縁を荷重F1で引っ張った場合に、その両端支持梁10は、その両端支持梁10の形成材料の縦弾性係数(ヤング率)に応じて荷重方向に伸びる。そして、これに伴って、両端支持梁10上の任意の部分X1の位置も移動する。例えば、F1=10kgf/mm2で引っ張ったときに、中心から10cm離れた部分X1は、図中右方向に向かって20μm移動する、といった具合である。
【0053】
これに対して、図10に示すように、両端支持梁10の両端縁を荷重F1で引っ張って、その両端支持梁10に伸びが生じている状態で、その両端支持梁10の両端縁を拘束固定した場合を考える。このとき、両端支持梁10上の任意の部分X1は、その両端支持梁10に伸びが生じている状態であることから、荷重F1が与えられていない場合に比べて、例えば図中右方向に向かって20μm移動した位置に存在する。したがって、両端縁を拘束固定した後においては、20μm移動した位置が、任意の部分X1が存在すべきディフォルト位置となる。
【0054】
この状態で、両端縁が拘束固定された両端支持梁10が外部からの熱を受けて温度上昇すると、その熱応力によって両端支持梁10は膨張しようとする。ところが、両端支持梁10は、既に荷重F1による伸びが生じた状態である。そのため、両端支持梁10では、外部からの熱を受けても、その熱応力によって内部応力(荷重F1による応力)が緩和されるに過ぎず、その両端支持梁10上における任意の部分X1が移動することはない。具体的には、任意の部分X1は、例えば図中右方向に向かって予め20μm移動した状態にあるので、10℃の温度上昇があっても、任意の部分X1の位置が10μm移動するのに相当する分だけ、荷重F1による応力は緩和されるが、その任意の部分X1の位置は全く移動しない。
【0055】
このように、事前に与えてそのまま保持される張力の設定によっては、その後外部からの熱を受けて温度上昇する場合であっても、その熱応力によって両端支持梁10に生じる歪み量を、事前に与えた張力によって両端支持梁10に生じる歪み量で相殺できるのである。なお、ここでは、説明を簡単にするために、一次元の簡易モデルとして両端支持梁10を例に挙げたが、蒸着用マスクにおけるマスク本体1についても、全く同様の原理が適用される。その場合には、一次元ではなく、二次元または三次元上での考慮が必要となるが、この点については例えば有限要素法による演算処理を用いることで対応が可能となる。
【0056】
つまり、蒸着時の輻射熱による熱応力によってマスク本体1に生じる歪み量が、そのマスク本体1に与える張力によって生じる歪み量で相殺されるように、その張力の大きさおよび方向を設定すれば、蒸着時の輻射熱による熱応力による歪みは、マスク本体1の張力による歪みを解消する方向に作用する。そのため、マスク本体1と枠体2との熱線膨張係数が互いに相違している場合に、そのマスク本体1が蒸着時に輻射熱を受けても、枠体2に固着する際に予め与えられた張力により生じる歪み量の中で内部応力が増減するだけであり、温度変化によるマスク本体1の伸縮に伴ってマスク本体1の各部、特にパターン領域1a内に形成された開孔1bの位置に変化が生ずることはない。
【0057】
以上に説明したことから、本実施形態における蒸着用マスクを用いれば、開孔1bの位置精度を高く維持でき、ガラス基板3上に極めて精細な蒸着パターンを精度よく形成することが可能となる。また、開孔1bの位置精度を高く維持できることから、パターン領域1aの範囲の大型化にも対応可能となり(大型化しても位置精度が極端に悪化することがない)、基板上に一度の蒸着で大きな寸法の蒸着パターンの成膜を精度よく行うこともできる。これと同様に、パターン領域1aの範囲の多面化(一つのマスク本体1に複数のパターン領域1aを設けること)にも精度よく対応することが可能となる。
【0058】
その上、本実施形態で説明した蒸着用マスクでは、開孔1bの位置精度を高く維持できることから、蒸着パターンの形成精度も高く維持することができ、特に有機EL素子の製造工程で用いた場合に、表示画質向上を実現する上で非常に好適なものとなる。
【0059】
なお、本実施形態では、本発明の実施の好適な具体例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々変形することが可能である。すなわち、本実施形態で説明した蒸着用マスクを構成する一連の構成要素の材質、形状等は、必ずしも本実施形態で挙げたものに限られることはなく、各構成要素の機能を同様に確保することが可能な限り、自由に変更可能である。
【0060】
また、本実施形態では、蒸着用マスクの例として、有機EL素子の製造工程で用いられるものを挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の成膜プロセスにて用いられる蒸着用マスクであっても、全く同様に適用可能であることはいうまでもない。
【0061】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の蒸着用マスクによれば、蒸着源からの輻射熱が断熱部材によって断熱され、または枠体が受けた輻射熱が放熱部材によって放熱されるので、輻射熱によるパターン位置精度に対する悪影響を極力排除して、その輻射熱の影響による温度変化や温度分布等の不均一化を抑制することができ、その結果として高精度なパターニングにも対応することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蒸着用マスクの概略構成の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図(その1)であり、マスク本体に張力を与えた状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係る蒸着用マスクにおけるマスク本体および枠体の固着手順の一例を示す模式図(その2)であり、マスク本体を枠体に固着する様子を模式的に示す図である。
【図5】本発明に係る蒸着用マスクの要部構成例を示す分解斜視図である。
【図6】本発明に係る蒸着用マスクにおいて、マスク本体および枠体がパレット内に嵌合した状態の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る蒸着用マスクにおいて、マスク本体の上面側に放熱板が載設された状態の一例を示す斜視図である。
【図8】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その1)であり、両端が拘束固定されずに自由な状態で支持されている場合を模式的に示す図である。
【図9】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その2)であり、両端に引っ張り荷重が与えられた場合を模式的に示す図である。
【図10】両端支持梁を例にした場合における歪みの具体例を示す模式図(その3)であり、引っ張り荷重が与えられた状態で両端が拘束固定された場合を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…マスク本体、1a…パターン領域、1b…開孔、2…枠体、3…ガラス基板、4…パレット、5…断熱板、6…断熱薄板、7…リブ状部、8…スペーサ部、9…放熱板
Claims (8)
- 蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、
蒸着源からの輻射熱を断熱する断熱部材が前記枠体の蒸着源側に配設されている
ことを特徴とする蒸着用マスク。 - 前記枠体は、前記断熱部材または当該断熱部材が付設されたパレットと、リブ状部またはスペーサ部を介して接触している
ことを特徴とする請求項1記載の蒸着用マスク。 - 前記マスク本体は、当該マスク本体に張力を与えた状態で前記枠体に固着されているとともに、
前記張力は、前記蒸着源からの輻射熱による熱応力によって前記マスク本体に生じる歪み量が、当該張力によって前記マスク本体に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されている
ことを特徴とする請求項1記載の蒸着用マスク。 - 蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、
蒸着源から前記枠体が受けた熱を放熱する放熱部材が前記枠体における蒸着源の対向側に配設されている
ことを特徴とする蒸着用マスク。 - 前記マスク本体は、当該マスク本体に張力を与えた状態で前記枠体に固着されているとともに、
前記張力は、前記蒸着源からの輻射熱による熱応力によって前記マスク本体に生じる歪み量が、当該張力によって前記マスク本体に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されている
ことを特徴とする請求項4記載の蒸着用マスク。 - 蒸着パターンに対応した形状の開孔が形成された薄板状のマスク本体と、当該マスク本体が固着される枠体とを具備する蒸着用マスクにおいて、
前記枠体の蒸着源側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受ける輻射熱を断熱する断熱部材と、
前記枠体における蒸着源の対向側に配設され、当該蒸着源から前記枠体が受けた輻射熱を放熱する放熱部材と
を備えることを特徴とする蒸着用マスク。 - 前記枠体は、前記断熱部材または当該断熱部材が付設されたパレットと、リブ状部またはスペーサ部を介して接触している
ことを特徴とする請求項6記載の蒸着用マスク。 - 前記マスク本体は、当該マスク本体に張力を与えた状態で前記枠体に固着されているとともに、
前記張力は、前記蒸着源からの輻射熱による熱応力によって前記マスク本体に生じる歪み量が、当該張力によって前記マスク本体に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されている
ことを特徴とする請求項6記載の蒸着用マスク。
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