JP2004259500A - 電極ペースト、電極ペースト用中間溶液及びセラミックス電子部品の製造方法 - Google Patents
電極ペースト、電極ペースト用中間溶液及びセラミックス電子部品の製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】本発明に係る電極ペースト6は、金属粉末(金属微粒子2)と、焼成により誘電体を形成する少なくとも1種以上の誘電体前駆化合物8を含有することを特徴とする。電極ペースト膜を焼成して電極膜を形成するときに、同時に誘電体前駆化合物8から誘電体が形成される。金属微粒子2は誘電体前駆化合物8に束縛されないから融合・焼結して導電性の高い電極膜が形成され、同時に形成される誘電体により電極膜の焼結が抑制されて熱収縮が防止される利点がある。誘電体前駆化合物は分子サイズであるから、任意サイズの金属微粒子2により形成されるスリーポケットは誘電体により自在に充填される。電極膜の薄層化により多層セラミックス電子部品の小型化と高密度化を実現できる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス電子部品における電極形成用の電極ペーストに関し、更に詳細には、電極を形成する金属微粒子の燒結抑制剤として誘電体前駆化合物を用い、焼成により誘電体前駆化合物が誘電体を形成する電極ペースト及びセラミックス電子部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、電極ペーストは、貴金属や卑金属の金属微粒子と、金属微粒子を分散させる有機溶剤と、粘度調整用の樹脂から構成されている。この電極ペーストをグリーンシートの表面に所定パターンに塗着して電極ペースト膜を形成し、このグリーンシートと電極ペースト膜を一体に焼成して、電極をセラミックス基板の上に同時に形成している。
【0003】
つまり、焼成によってグリーンシートは熱収縮しながら誘電体セラミックス基板へと変化し、電極ペースト膜も熱収縮しながら有機成分が除去されて電極膜へと変化する。グリーンシートと電極ペースト膜の焼成収縮率に大きな違いがあると、電極膜がセラミックス基板から剥離したり、焼成により電極膜が局部的に球状化して電極膜に途切れが生じる可能性があった。
【0004】
そこで、金属微粒子を誘電体により修飾する技術が開発された。グリーンシートとほぼ同組成の誘電体により金属微粒子を修飾すれば、電極膜の焼成収縮率がグリーンシートの焼成収縮率に接近するから、電極膜の剥離や途切れといった弱点が改善されるというアイデアである。幾つかの修飾方法が提案されている。
【0005】
図16は、特開昭57−30308号に示される誘電体微粒子20を担持した金属微粒子2の概略断面図である。誘電体微粒子20を事前に形成しておき、この誘電体微粒子20を金属微粒子2の表面に多数担持させる。焼成により有機成分が除去されても、誘電体微粒子20は電極膜中に存在し、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近似させることができる。
【0006】
しかし、誘電体微粒子20はセラミックスであるから電気絶縁性を有し、電極膜の導電性を低下させる作用を有しており、ときに電極ペーストの導電性能の低下が指摘されていた。特に、金属微粒子2の外周面に絶縁性の誘電体粒子20が存在するから、金属微粒子2の焼結や融合を阻害して導通性能が極端に低下する事例も生じていた。
【0007】
更に、重大な欠点は、金属微粒子2の表面に誘電体微粒子20により凹凸が生じると、複数の金属微粒子2が相互に結合し易くなり、サイズの大きな2次粒子22が形成されることである。この2次粒子22の内部には多数の微細空隙が含まれているから、焼成によりこの微細空隙が消失すると、電極膜の焼成収縮率が設計値よりかなり増大し、グリーンシートの焼成収縮率から離反する傾向を示す。従って、電極膜の剥離現象が改善できない事態が存在した。
【0008】
図17は、特開2001−189227に示される誘電体層24を周囲に形成した金属微粒子2の概略断面図である。金属微粒子2の表面を誘電体層24により完全に被覆するから、金属微粒子2の焼成による融合が阻害されて、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近似させることができる。
【0009】
しかし、誘電体層24が電気絶縁性を有し、しかも金属微粒子2が完全に被覆されるため、図16に示されるものよりかなり高い電気絶縁性を発現する。その結果、電極膜の導電性能の低下が問題となっている。同時に、誘電体層24を形成すると、誘電体層24を介して2次粒子22を形成し易くなり、2次粒子内部の空隙により焼成収縮率が増大する欠点が明らかとなっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように、金属微粒子2の外周面を誘電体で修飾すると、導電性や焼成収縮率において当初の改善方向から反れる事態が見られることがあった。そこで、誘電体微粒子を独立に作製しておき、この誘電体微粒子を金属微粒子と混合して電極ペーストを形成する技術が開発されている。
【0011】
この電極ペーストは、導電性を与える金属微粒子と、焼結を抑制する誘電体微粒子と、金属微粒子と誘電体微粒子を均一に分散させる有機溶剤と、粘度調整用の樹脂から構成される。この電極ペーストを用いると、誘電体微粒子に阻害されながらも、独立な金属微粒子は相互に焼結又は融合して電極膜を形成できる。また、誘電体微粒子の存在によって焼結抑制が実現できる。つまり、電極膜の導電性を低下させずに、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近接できる利点がある。しかし、誘電体微粒子を分散させた電極ペーストにおいても、以下のような問題点が明らかとなってきた。
【0012】
近年、セラミックス電子部品の高密度化を行うために、積層セラミックス電子部品として提供されることが多い。高密度化を更に進めるために、多層化と薄層化の技術開発が強力に要請されている。そのためには、グリーンシートの薄層化だけでなく、電極膜の薄層化が望まれている。電極膜の薄層化を実現するためには、金属微粒子の微細化(超微粒子化)と同時に誘電体微粒子の微細化(超微粒子化)が必要となる。
【0013】
図18は、金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係を説明する概略図である。電極膜の導電性を確実にするためには、電極膜の密度を大きく設定することが要求される。電極膜密度が最高になるのは、金属微粒子2が最密充填される場合であり、この最密充填構造では、相互に接触する3個の金属微粒子2でスリーポケット26が形成される。
【0014】
スリーポケット直径dは、このスリーポケット26に入り得る粒子の最大直径で定義される。誘電体微粒子をこのスリーポケット26に充填できれば、電極膜密度の最大化と焼結抑制を実現できるはずである。換言すれば、誘電体微粒子の直径をスリーポケット直径d以下に設定できることが必要になる。金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係は表1に示されている。
【0015】
<表1>金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係
<番号> <金属微粒子直径D> <スリーポケット直径d>
No.1 0.6μm 0.0929μm
No.2 0.4μm 0.0618μm
No.3 0.2μm 0.0309μm
No.4 0.1μm 0.0154μm
【0016】
金属微粒子としてNi微粒子、誘電体微粒子としてBaTiO3微粒子を使用した例で説明してみよう。従来から実施されている電極ペーストでは、0.6μmのNi微粒子に0.1μmのBaTiO3微粒子が混合されている。この場合、スリーポケット直径dは0.0929μmであるから、0.1μmのBaTiO3微粒子はほぼうまくスリーポケットに充填される。
【0017】
しかし、多層セラミックス電子部品の高密度化を行うために、電極膜のより一層の薄層化が要請されており、直径Dが0.4μm又は0.2μmのNi微粒子を使用することが研究されている。このとき、スリーポケット直径dは0.0618μm又は0.0309μmと極めて小さくなる。このスリーポケットに充填するためには、0.04μmや0.02μmの直径を有したBaTiO3微粒子が必要になるが、現在のところまだ実現していない。このような微粒子はナノメートルサイズのBaTiO3超微粒子と呼ばれ、研究途上にあるものの未だに実用化は困難な状況である。
【0018】
以上のように、金属微粒子と誘電体微粒子を混合した電極ペーストを用いる従来技術においては、金属微粒子の直径を小さくするとスリーポケット直径が急激に小さくなり、使用できる誘電体微粒子の直径に限界が存在するという弱点があった。従って、現存する誘電体微粒子を使用する技術では、電極膜の薄層化に限界があり、セラミックス電子部品の多層化や高密度化を十分に行えないという欠点があった。
【0019】
従って、本発明は、誘電体微粒子を金属微粒子と独立に使用する従来技術の立場を完全に捨て去って、金属微粒子の直径が如何に小さくなっても、焼結抑制剤として誘電体を使用でき、しかもセラミックス電子部品の多層化と高密度化に貢献できる新規で独創的な電極ペースト及びセラミックス電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の発明は、金属粉末と、焼成により誘電体を形成する少なくとも1種以上の誘電体前駆化合物を含有する電極ペーストである。本発明者等は、誘電体微粒子に替えて、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物を使用することによって、前記課題を解決することに成功した。誘電体前駆化合物とは焼成すると誘電体を形成する化合物であり、有機金属化合物、有機金属錯体、有機金属レジネートなどの多様な金属化合物から選択される。これらの物質の金属とは、誘電体を構成する金属元素を意味する。例えば、誘電体としてBaTiO3を選んだとき、BaTiO3の前駆化合物とは、焼成することによってBaTiO3を形成する化合物を意味している。例えば、オクチル酸チタンとオクチル酸バリウムを酸化雰囲気で焼成すると、有機物は燃焼により除去され、最終的にBaTiO3なる誘電体が形成される。従って、電極ペースト膜を焼成して電極膜を形成するときに、同時に誘電体前駆化合物から誘電体が形成される。金属微粒子は誘電体前駆化合物に束縛されないから融合・焼結して導電性の高い電極膜が形成され、同時に形成される誘電体により電極膜の焼結が抑制されて熱収縮が防止される利点がある。誘電体前駆化合物の大きさは分子サイズであるから、任意サイズの金属微粒子により形成されるスリーポケットは誘電体により自在に充填される。従って、金属微粒子の超微粒子化にも対応でき、電極膜の薄層化を通して多層セラミックス電子部品の小型化、高密度化及び高多層化を実現できる。
【0021】
第2の発明によれば、金属粉末と、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物と、金属粉末と誘電体前駆化合物を均一に分散させる有機溶媒を少なくとも含有する電極ペーストである。金属粉末と誘電体前駆化合物を有機溶媒に均一に分散させて電極ペーストを作成するから、金属粉末と誘電体前駆化合物が電極ペースト内に均一に分散されている。この電極ペーストを用いて電極ペースト膜を形成し、焼成して電極膜を形成すると、電極膜の薄膜化と同時に膜厚の均一化及び金属密度の均一化を実現できる。
【0022】
第3の発明は、金属粉末と、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物と、金属粉末と誘電体前駆化合物を均一に分散させる有機溶媒と、粘度調整用の樹脂を含有する電極ペーストである。粘度を調整する樹脂を適量だけ添加するから、電極ペーストの粘度を自在に調整でき、粘度の高いペーストから低いペーストまで、市場の要求に自在に応じることができる。
【0023】
第4の発明は、誘電体前駆化合物が有機金属レジネートから構成される電極ペーストである。誘電体前駆化合物として有機金属レジネートが最適である。有機金属レジネートとは有機金属樹脂酸塩のことであり、高級脂肪酸金属塩がその代表物質である。有機金属レジネートとして、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネートなどが使用される。これらの有機金属レジネートを焼成することにより、BaTiO3、SrTiO3、Pb(Ti/Zr)O3等の誘電体を容易に生成することができる。
【0024】
第5の発明は、誘電体前駆化合物の金属含有量が金属粉末の全量に対し0.1〜5質量%である電極ペーストである。誘電体前駆化合物は通常金属酸化物であり、金属粉末の0.1〜5質量%の範囲にあるときに、良質の電極膜を形成することができる。このように電極形成用の金属成分に対し微量の誘電体前駆化合物を添加するだけで、焼成収縮率が小さく、緻密な電極膜を形成できる電極ペーストを提供できる。
【0025】
第6の発明は、誘電体前駆化合物の組成が、グリーンシートを形成する誘電体の主成分に対応するように構成される電極ペーストである。グリーンシートは誘電体粉末、樹脂、他の成分を混錬してシート状に形成された素材であり、焼成により誘電体を主成分としたセラミックス基板へと変化する。誘電体前駆化合物も焼成されて誘電体となるから、誘電体前駆化合物から形成される誘電体がグリーンシートを形成する誘電体の主成分と同じ組成で構成されると、グリーンシートと電極膜の焼成収縮率がほぼ同様に設定されるため、電極膜がグリーンシート(セラミックス基板)から剥離せず、安定した電極膜を形成することができる。しかも、電極ペースト内には分子状の誘電体前駆化合物が含まれるから、焼成時に金属微粒子の挙動を妨害せず、金属微粒子同士の融合・焼結が促進されて安定で均一な電極膜が形成される。
【0026】
第7の発明は、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物を有機溶媒に均一に分散溶解させたことを特徴とする電極ペースト用中間溶液である。誘電体前駆化合物を有機溶媒に分子状態で均一に分散させると、この中間溶液は着色透明状態となり、着色透明状態の出現により均一分散性が確認できる。この着色透明状態の中間溶液に金属微粒子や樹脂を混合して均一分散させることにより、本発明が目的とする電極ペーストを作製することが容易にできる。
【0027】
第8の発明は、上述した電極ペーストを用いてグリーンシートの上に電極ペースト膜を形成し、このグリーンシートと電極ペースト膜を一体に焼成して有機成分を除去することによってセラミックス基板の上に所望パターンの電極膜を形成セラミックス電子部品の製造方法である。焼成により形成された電極膜は超薄膜であっても導電性が極めて高く、また電極膜とグリーンシートの焼成収縮率がほぼ同様であるから、電極膜とセラミックス基板の間に無理な応力が作用せず、高密度且つ高導電性を有した長寿命のセラミックス電子部品を提供できる。
【0028】
第9の発明は、セラミックス電子部品がセラミックス回路基板、セラミックスコンデンサ、セラミックスインダクタ、セラミックス圧電素子又はセラミックスアクチュエータであるセラミックス電子部品の製造方法である。多くの電子部品のセラミックス化が進行する中で、特に、これらの有用なセラミックス電子部品の高密度化と超寿命化を実現できる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る電極ペースト及びセラミックス電子部品の製造方法の実施形態を添付する図面に従って詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明に係る電極ペースト6の概略説明図である。(1A)では、容器5の中で電極ペースト6が調製されている。金属微粒子2からなる金属粉末と、必要な種類の誘電体前駆化合物8と、金属微粒子2と誘電体前駆化合物8を一様に分散させる有機溶媒10と、粘度を調整する樹脂12を混錬して電極ペースト6が形成される。
【0031】
(1B)では、電極ペースト6は4種類の物質を均一に混合攪拌されて構成されている。金属微粒子2の表面は被覆層3により囲繞され、誘電体前駆化合物8は分子状であるから、被覆層3の中には無数の誘電体前駆物質8が存在する。
【0032】
金属微粒子2は、Ir・Os・Rh・Pd・Ru・Au・Pt・Agからなる少なくとも1種又は2種の単一貴金属微粒子でも良いし合金貴金属微粒子、他の遷移金属からなる卑金属微粒子でも良い。近年、半導体や電子材料のコストダウンの観点から貴金属材料から卑金属材料への転換が図られており、貴金属に替えてNiやCu等が電極の金属材料として使用されつつある。従って、Cu微粒子やNi微粒子といった卑金属微粒子を本発明に使用することによって電極ペーストの大幅なコストダウンを図ることができる。
【0033】
本発明で使用される金属微粒子2の断面直径(粒径)は、μmオーダーの金属微粒子でもよいし、nmオーダーの金属超微粒子でもよい。より詳細には、1〜10μmのミクロンサイズの金属微粒子や0.1〜1μmのサブミクロンサイズの金属微粒子に限られず、1〜100nmのナノサイズの金属超微粒子も本発明では使用できる。
【0034】
特に、本発明では分子状の誘電体前駆化合物を使用するから、ナノサイズの金属超微粒子により形成されるスリーポケットでも、分子状の誘電体前駆化合物を充填することができる。金属超微粒子を電極ペーストに使用すると、ナノサイズ膜厚の電極膜を形成でき、しかも金属超微粒子のスリーポケットを誘電体で充填した構造になるから、電極膜の超薄膜化を実現でき、セラミックス電子部品の高密度化と小型化に貢献できる。
【0035】
本発明に使用される誘電体前駆化合物8とは、焼成することによって誘電体を生成する原料化合物を意味している。まず誘電体について説明する。本発明で使用される誘電体は、主にグリーンシートを構成する誘電体であり、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3、略称はBT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略称はST)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba/Sr)TiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Ti/Zr)O3)、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化亜鉛、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などがある。これらの中でも、グリーンシートの主成分はチタン酸バリウム(BT)であることが多い。
【0036】
従って、誘電体前駆化合物とは、焼成によって前述した誘電体を生成する原料化合物であり、焼成により誘電体を形成できる全ての化合物が利用できる。この誘電体前駆化合物として、有機金属化合物、有機金属錯体、有機金属レジネート、金属酸化物、金属炭酸塩などの金属化合物が使用できる。ここで、金属とは誘電体を構成する金属原子を意味しており、例えばBaTiO3のBaとTi、SrTiO3のSrとTi、Pb(Ti/Zr)O3のPbとTiとZrである。
【0037】
主要な誘電体であるBaTiO3を生成する方法には、TiO2とBaO又はBaCO3の混合融解、シュウ酸チタン酸バリウムの熱分解、チタンアルコキシドとバリウムアルコキシドのゾルゲル法、水酸化チタンと水酸化バリウムの縮重合、ナフテン酸チタンとナフテン酸バリウムの焼成、水熱合成法など種々の方法が存在する。従って、これらの方法の原料成分、即ち、TiO2とBaO又はBaCO3、シュウ酸チタン酸バリウム、チタンアルコキシドとバリウムアルコキシド、水酸化チタンと水酸化バリウム、ナフテン酸チタンとナフテン酸バリウムなどの原料化合物が誘電体前駆化合物を構成する。
【0038】
これらの誘電体前駆化合物を分類すれば、金属原子と炭素原子が直接結合する有機金属化合物、金属原子に配位子が配位結合した有機金属錯体、粘性を有した高級脂肪酸金属塩などからなる有機金属レジネート、金属酸化物や金属炭酸塩などからなる無機金属化合物などから構成される。
【0039】
こららの中でも有機金属レジネートが、本発明の誘電体前駆化合物として好適である。有機金属レジネートとして、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属金属アセチルアセトネートなどが使用される。
【0040】
有機溶媒10としては、誘電体前駆化合物8を均一に分散できる全ての溶剤が使用できる。例えば、アルコール、アセトン、プロパノール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、その他の石油系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ブチルカルビトール、セロソルブ類、芳香族類、ジエチルフタレートなどが使用できる。誘電体前駆化合物8が完全に分散(溶解)した状態では溶液は着色透明状態となる。
【0041】
まず、本発明では、誘電体前駆化合物を均一に分散・溶解させた中間溶液を作製する。この溶液が着色透明状態になっていることを確認して、誘電体前駆化合物8が分子状態で有機溶媒に均一に分散・溶解していることを判別する。誘電体前駆化合物8として有機金属レジネートを使用した場合には、この中間溶液をレジネート溶液と称する。
【0042】
この中間溶液に金属微粒子2を均一に分散させると、金属微粒子2の添加量にも依存するが、中間溶液は金属微粒子2に特有の金属色を発色する。この金属色が溶液全体にムラ無く広がっていることによって、金属微粒子2が溶液内に均一に分散していることが判別できる。
【0043】
本発明で使用できる樹脂は、電極ペーストの粘度を調整できる有機樹脂で、金属微粒子2と誘電体前駆化合物と有機溶媒10と均一に混錬できる材料が好ましい。例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール、アクリルコパイバルサム、ダンマーなどが利用できる。このような樹脂を前記溶液と混錬して電極ペーストに適当な粘度を与える。
【0044】
図2は本発明に係る電極ペーストをグリーンシートに塗着した後焼成して形成された電極膜16の概略断面図である。グリーンシートとは、誘電体粉末を有機溶媒やバインダーと一緒に混錬して形成されたシートで、このグリーンシートを焼成するとセラミックス基板になる。
【0045】
このグリーンシートに本発明の電極ペーストを適当なパターンに塗着して電極ペースト膜を形成する。電極ペースト膜を形成されたグリーンシートを焼成すると、不要な有機物は焼成により除去されて、グリーンシートはセラミックス基板14に変化し、電極ペースト膜は電極膜16となる。
【0046】
焼成により、金属微粒子2は相互に焼結し、連続部2aを介して連続的に導通した1枚の電極膜16になる。焼成温度に依存するが、図示の場合には、金属表面の凹凸が残存している。金属微粒子の直径が小さくなると、金属の融点は急激に低下するから、金属微粒子2は完全に融解して凹凸がなくなり、一枚の電極膜16になる。焼成温度が高くなると、金属微粒子2は融解して相互に融合し、平滑性の高い電極膜16になる。
【0047】
金属微粒子2のスリーポケットは誘電体前駆化合物により充填されているから、焼成により誘電体前駆化合物は反応して誘電体へと変化し、この誘電体は電極膜16の空隙を埋めて誘電体部18を構成する。この誘電体部18が形成されるに従って、誘電体部18が電極膜16の焼結を抑制して熱収縮を抑制する役割を奏する。つまり、誘電体前駆化合物は誘電体を形成することによって、電極膜16の焼結抑制又は熱収縮抑制を行う。
【0048】
誘電体の組成がセラミックス基板14の主成分組成と同様である場合には、焼成によるグリーンシートの焼成収縮率と誘電体部18の焼成収縮率が接近し、電極膜16の熱収縮を規制して、電極膜16がセラミックス基板14から剥離することが無い。従って、電極膜16の安定性が増大し、セラミックス電子部品の寿命の長期化を図ることができる。
【0049】
グリーンシートに電極ペースト膜を形成し、この電極ペースト膜が形成されたグリーンシートを複数積層し、全体を焼成する。この結果、複数のグリーンシートと電極ペースト膜は焼成によりセラミックス基板と電極膜に変化し、全体として多層セラミックス電子部品が製造される。
【0050】
本発明では、分子状の誘電体前駆化合物を使用するから、どんなに小さな金属微粒子2の隙間にも誘電体前駆化合物は侵入でき、焼成により金属微粒子間に誘電体部18を形成できる。従って、金属超微粒子を使用すると、超薄膜の電極膜を形成することができ、多層セラミックス電子部品の薄膜化・小型化・高密度化に貢献できる。
【0051】
本発明が対象とするセラミックス電子部品には、セラミックス回路基板、セラミックスコンデンサ、セラミックスインダクタ、セラミックス圧電素子又はセラミックスアクチュエータなどがある。これらのセラミックス電子部品の中でも、本発明は、多層セラミックス電子部品の小型化と高密度化を実現することができる。
【0052】
図3は本発明の誘電体前駆化合物としてBaTiO3レジネートを焼成して形成された誘電体BaTiO3の粉末X線回折強度図である。BaTiO3レジネートとはBaTiO3の有機金属レジネートの一種であるオクチル酸バリウムとオクチル酸チタンから構成される。
【0053】
焼成温度を600℃、800℃、1000℃及び1300℃の4種類に設定した。焼成温度が高くなるに従って、回折強度のピークがシャープになり、結晶性が高くなってゆくことが分かる。1000℃及び1300℃の回折ピークはBaTiO3の粉末回折図形に一致している。従って、本発明の誘電体前駆化合物の焼成により目的とする誘電体を形成することが実証された。
【0054】
図4は本発明に係る電極ペースト(0.4μmNi微粒子)を塗着乾燥して得られた乾燥電極ペースト膜の密度とBaTiO3レジネート含有率の関係図である。縦軸は乾燥電極ペースト膜の密度(グリーン密度、Green Density)、横軸はBaTiO3レジネートの添加率である。
【0055】
この実験に用いた電極ペーストは、オクチル酸バリウムとオクチル酸チタンの混合物を有機溶媒であるターピネオールに均一に分散溶解し、この中間溶液に直径が0.4μmのNi微粒子を添加し、樹脂としてエチルセルロースを添加してペースト化したものである。横軸のBaTiO3レジネートの添加率とは、BaとTiの全金属含有量のNi微粒子に対する質量%(mass%)である。
【0056】
グリーン密度は次のようにして求めた。ペットフィルム上にアプリケータを用いて、厚さ約200μmのNi電極ペースト膜を形成し、100℃で1時間乾燥した後、ペットフィルムから乾燥電極ペースト膜を剥がし取った。この乾燥電極ペースト膜をポンチを用いて20mmの円盤型にくりぬき、厚みをマイクロメータで測り、精密天秤で質量を測定した。質量/体積からグリーン密度を計算して求めた。
【0057】
BaTiO3レジネートの添加率が0mass%では、Ni微粒子間に空隙が形成され、その空隙の存在によりグリーン密度が低下する。1mass%になるとNi微粒子間の空隙がBaTiO3レジネートで充填されるため、グリーン密度が最大に達する。1mass%を超えると、電極ペーストに添加されている樹脂成分が表面に樹脂皮膜を形成し、この樹脂皮膜が厚くなるに従ってグリーン密度が低下することが分かった。
【0058】
従来のように、直径が0.1μmのBaTiO3の誘電体微粒子を混入した電極ペーストでは、Ni金属量に対し、10mass%の誘電体微粒子を添加していた。これに対し、本発明では、1mass%でグリーン密度が最大に達するから、BaTiO3レジネートの添加率は1mass%に設定できる。従って、誘電体の添加量が従来より1/10に低下し、その分だけ電極膜の導電性が向上し、また誘電体の無駄が省ける。
【0059】
また、焼成前のこのグリーン密度から考慮して、誘電体前駆化合物の全金属含有量が金属粉末の全量に対し0.1〜5質量%の範囲に調整されるならば、本発明の電極ペーストとして利用できることが分かった。
【0060】
図5は本発明に係る電極ペースト(0.2μmNi微粒子)を塗着乾燥して得られた乾燥電極ペースト膜のグリーン密度とBaTiO3レジネート含有率の関係図である。縦軸と横軸は図4と同様である。
【0061】
この図からも明らかなように、直径が0.2μmのNi微粒子の場合でも、BaTiO3レジネートの金属含有率が0.1〜5mass%の範囲で本発明の電極ペーストとして利用できることが確認された。また、1mass%でグリーン密度が最大に達し、最も効率のよい電極ペーストが得られることも分かった。
【0062】
図6は本発明の電極ペースト(0.4μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜の焼成収縮率と焼成温度の関係図である。電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率にできるだけ接近させることが、電極膜の剥離やクラックの発生を防止する最大の要素である。
【0063】
直径が0.4μmのNi微粒子を用いて作製された電極ペーストによりグリーンシートに電極ペースト膜を形成し、各温度で焼成して電極膜の焼成による収縮率を測定した。黒丸はグリーンシートの焼成収縮率を示し、電極膜の焼成収縮率がこのグリーンシートの焼成収縮率に接近していることで判定を行う。グリーンシートも種類が様々で、それらの焼成収縮率もかなり上下に分布するが、ここで示すグリーンシートはその中の1種のデータを示している。
【0064】
×はBaTiO3レジネートを添加しない場合(0mass%)、白丸は1mass%添加した場合、三角は3mass%添加した場合、四角は5mass%添加した場合を示している。0mass%では、焼成温度が高くても低くても約15%の収縮率を示す。従って、グリーンシートの焼成収縮率から最も離れている。
【0065】
1mass%、3mass%及び5mass%のいずれの曲線も全体的傾向がグリーンシートの曲線に近似しているが、相対的に1mass%が最も近似していると考えられる。また、1mass%では低温における焼成収縮率が最も小さく、焼成温度を低下させようとする研究からも、1mass%が最も有効であると考えられる。
【0066】
1mass%が焼成温度において有効であるという結果は、グリーン密度の結果と一致している。しかし、1〜5mass%の範囲においても、焼成収縮率曲線がグリーンシートに近似している結果から、グリーン密度の結果と合わせると、金属含有率は0.1〜5(mass%)の範囲において好適であると結論できる。
【0067】
図7は本発明による電極膜(0.4μmNi微粒子)と従来の電極膜の焼成収縮率の比較図である。黒丸はグリーンシートの焼成収縮率を示し、白丸は本発明の1mass%の焼成収縮率を示している。BTレジネート(BT resinate)はBaTiO3レジネートを意味している。
【0068】
他方、二重丸は従来の電極膜の焼成収縮率を示している。この従来電極ペーストでは、直径0.1μmのBaTiO3誘電体粒子(BT−01)が10mass%添加されている。白丸曲線と二重丸曲線がほぼ一致していることが分かる。従って、従来の電極ペーストでは、本発明による電極ペーストの10倍の誘電体成分を添加させることによって、やっと本発明と同程度の焼成収縮率を与えることが分かるであろう。
【0069】
このように、本発明を使用すると、誘電体成分の添加率が従来よりも約1/10に低下するのである。このように、本発明を使用することにより、焼結抑制剤である誘電体成分を急激に低減でき、その結果、電極膜の導電性を格段に向上できることが実証された。
【0070】
図8は本発明の電極ペースト(0.2μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜の焼成収縮率と焼成温度の関係図である。0.2μmのNi微粒子を使用した場合でも、BTレジネートの金属含有率が1mass%において焼成収縮率がグリーンシートに近接することが分かった。
【0071】
これらの結果から、0.2μmNi微粒子でも0.4μmNi微粒子でも、BaTiO3レジネートの金属含有率が0.1〜5mass%において、グリーン密度と焼成収縮率の観点から性能が向上し、1mass%において最高性能を発揮することが結論できる。
【0072】
また、0.2μmのNi微粒子に1mass%のBTレジネート(BaTiO3レジネート)を添加した場合と、添加しない場合における1000℃焼成の電極膜の電気抵抗率を測定した。1mass%添加した場合には、電気抵抗率は15.1μΩcmと18.4μΩcmの2種類の値が得られた。他方、全く添加しない場合(0mass%)には、電気抵抗率は38.2μΩcmと35.4μΩcmの値が測定された。
【0073】
BTレジネートが1mass%存在すると、Ni微粒子間の過焼結を抑制するため、0mass%のときよりも電気抵抗率が約1/2に低下することが分かった。しかも、BTレジネートの添加率が1mass%程度では、誘電体により電気抵抗を低下させるほどではないことが実証された。
【0074】
図9は、本発明においてBaTiO3レジネートを1mass%添加した電極膜(0.4μmNi微粒子)の各焼結温度に対する走査型電子顕微鏡像である。600℃では、Ni微粒子が相互に焼結しながらも微粒子形態を保持し、800℃ではNi微粒子が次第に成長して粒径が増大していることが分かる。Ni微粒子相互間の空隙にはBaTiO3が充填されている。
【0075】
1000℃ではNi微粒子はかなり大きくなって粒子形状から遠ざかり、1300℃では平滑なNi金属膜に変化している。Ni金属膜の上に白く観察される粒子はBaTiO3が更に成長した誘電体粒子であると考えられる。
【0076】
図10は、比較例として誘電体を添加しないで焼成された電極膜(0.4μmNi微粒子)の走査型電子顕微鏡像である。各焼成温度毎に図9と図10を対比すると電極膜のNi微粒子の成長状態が分かる。
【0077】
図10では、焼結抑制剤である誘電体を含有していないから、焼成温度が上昇するとNi微粒子が加速度的に成長している。600℃と800℃では図9に示されるよりも大きなNi微粒子が存在しているが、1000℃になるとNi微粒子が相互に重なり合い、1300℃では全く平坦なNi金属膜になっている。このように、誘電体前駆化合物を含有することによって、焼成しても金属微粒子の焼結が抑制され、焼成収縮率が低く抑えられることが分かった。
【0078】
図11は、本発明においてBaTiO3レジネートを1mass%添加した電極膜(0.2μmNi微粒子)の各焼結温度に対する走査型電子顕微鏡像である。図9と対比すると、600℃では、Ni微粒子の大きさが約1/2になっていることが分かる。
【0079】
しかし、800℃を超えると、図11の方がNi微粒子が相互に融解して微粒子形態から離れること分かった。之は、粒径が小さくなるほど融点が低くなり、Ni微粒子の融合が加速されることを意味している。しかし、前述したように、BaTiO3誘電体が形成されることにより、誘電体が存在しない場合よりも焼成収縮率が抑制されることは当然である。
【0080】
図12は本発明の電極ペーストを用いてグリーンシートに電極ペースト膜を交互に10層積層して焼成された多層セラミックスコンデンサ(MLCC)の断面図である。この電極ペーストは0.4μmのNi微粒子と1mass%のBaTiO3レジネートを含有している。
【0081】
焼成により形成された電極膜は剥離現象や途切れ現象が発生せず、極めて秀麗に形成されていることが分かった。次に、この多層セラミックコンデンサを用いて、上下面の間の電気特性を測定した。
【0082】
図13は多層セラミックスコンデンサの電気容量の測定図である。横線が電気容量の平均値、縦線がそのバラツキを与える。0.4μmNi微粒子を用いた場合と、0.2μmNi微粒子を用いた場合について測定が為された。
【0083】
測定はLCRメータ(Agilent Technologies社製)で行われた。電気容量の平均値は、0.4μmNi微粒子では26.8(nF)であり、0.2μmNi微粒子では23.7(nF)となった。10層の多層セラミックコンデンサとしては十分な電気容量を示している。
【0084】
図14は多層セラミックスコンデンサの誘電損失DF(%)の測定図である。横線がDFの平均値、縦線がそのバラツキを与える。0.4μmNi微粒子を用いた場合と、0.2μmNi微粒子を用いた場合について測定が為された。
【0085】
測定はLCRメータ(Agilent Technologies社製)で行われた。DFの平均値は、0.4μmNi微粒子では2.02%であり、0.2μmNi微粒子では1.78%となった。10層の多層セラミックコンデンサとしては誘電損失が一定以下に抑えられていることが分かった。
【0086】
図15は多層セラミックスコンデンサの電気抵抗R(Ω)の測定図である。横線がRの平均値、縦線がそのバラツキを与える。0.4μmNi微粒子を用いた場合と、0.2μmNi微粒子を用いた場合について測定が為された。
【0087】
測定は絶縁抵抗計(Agilent Technologies社製)で行われた。Rの平均値は、0.4μmNi微粒子では5.86×109(Ω)であり、0.2μmNi微粒子では4.00×109(Ω)となった。10層の多層セラミックコンデンサとしては十分な絶縁抵抗を示した。
【0088】
【実施例】
[実施例1:(Ba,Ti)レジネート]
オクチル酸バリウムとオクチル酸マグネシウムとオクチル酸チタンとオクチル酸ジルコニウムとオクチル酸ホルミウムを、金属質量比が、Ba:Ti=1.0:1.0になるように混合した。これらの混合有機金属レジネート5重量部をターピネオール40重量部に分散溶解させた。また、Ba・Tiの酸化物に対してSiO2を0.5wt%添加した。この中間溶液は透明な黄色を示した。0.4μmのNi粉末50重量部と、中間溶液45重量部と、エチルセルロース5重量部を混合して電極ペーストを形成した。この電極ペーストを用いて電極ペースト膜を形成し、800℃で焼成したところ、電気特性に優れた電極膜が形成された。
【0089】
[実施例2:(Ba, Ti, Zr)レジネート]
ナフテン酸バリウムとナフテン酸カルシウムとナフテン酸マグネシウムとナフテン酸チタンとナフテン酸ジルコニウムとナフテン酸ホルミウムを、金属質量比が、Ba:Ti:Zr=0・948:0.48:0.16になるように混合した。これらの混合有機金属レジネート6重量部をターピネオール38重量部に分散溶解させた。また、Ba・Ti・Zrの酸化物に対してSiO2を0.5wt%添加した。この中間溶液は透明な薄緑を示した。0.4μmのNi粉末50重量部と、中間溶液44重量部と、エチルセルロース6重量部を混合して電極ペーストを形成した。この電極ペーストを用いて電極ペースト膜を形成し、1000℃で焼成したところ、電気特性に優れた電極膜が形成された。
【0090】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【0091】
【発明の効果】
第1の発明によれば、金属微粒子は誘電体前駆化合物に束縛されないから融合・焼結して導電性の高い電極膜が形成され、同時に誘電体前駆化合物から形成される誘電体により電極膜の焼結が抑制されて熱収縮が防止される利点がある。誘電体前駆化合物としては、有機金属化合物、有機金属錯体、有機金属レジネート、金属酸化物、金属炭酸塩など種々の金属化合物が選択される。誘電体前駆化合物の大きさは分子サイズであるから、任意サイズの金属微粒子により形成されるスリーポケットは誘電体により自在に充填される。従って、金属微粒子の超微粒子化にも対応でき、電極膜の薄層化を通して多層セラミックス電子部品の小型化、高密度化及び高多層化を実現できる。
【0092】
第2の発明によれば、金属粉末と誘電体前駆化合物を有機溶媒に均一に分散させて電極ペーストを作成するから、金属粉末と誘電体前駆化合物が電極ペースト内に均一に分散されている。この電極ペーストを用いて電極ペースト膜を形成し、焼成して電極膜を形成すると、電極膜の薄膜化と同時に膜厚の均一化及び金属密度の均一化を実現できる。
【0093】
第3の発明によれば、粘度を調整する樹脂を適量だけ添加するから、電極ペーストの粘度を自在に調整でき、粘度の高いペーストから低いペーストまで、市場の要求に自在に応じることができる。
【0094】
第4の発明によれば、誘電体前駆化合物として有機金属レジネートが選択される。有機金属レジネートとは有機金属樹脂酸塩のことであり、高級脂肪酸金属塩がその代表物質である。有機金属レジネートとして、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属金属アセチルアセトネートなどが使用される。これらの有機金属レジネートを焼成することにより、BaTiO3、SrTiO3、Pb(Ti/Zr)O3等の誘電体を容易に生成することができる。
【0095】
第5の発明によれば、誘電体前駆化合物は通常金属酸化物であり、金属粉末の0.1〜5質量%の範囲にあるときに、良質の電極膜を形成することができる。このように電極形成用の金属成分に対し微量の誘電体前駆化合物を添加するだけで、焼成収縮率が小さく、緻密な電極膜を形成できる電極ペーストを提供することができる。
【0096】
第6の発明によれば、誘電体前駆化合物から形成される誘電体がグリーンシートを形成する誘電体の主成分と同じ組成で構成されるから、グリーンシートと電極膜の焼成収縮率がほぼ同様に設定されるため、電極膜がグリーンシート(セラミックス基板)から剥離せず、安定した電極膜を形成することができる。しかも、電極ペースト内には分子状の誘電体前駆化合物が含まれるから、焼成時に金属微粒子の挙動を妨害せず、金属微粒子同士の融合・焼結が促進されて安定で均一な電極膜が形成される。
【0097】
第7の発明によれば、誘電体前駆化合物を有機溶媒に分子状態で均一に分散させると、この中間溶液は着色透明状態となり、着色透明状態の出現により均一分散性が確認できる。この着色透明状態の中間溶液に金属微粒子や樹脂を混合して均一分散させることにより、本発明が目的とする電極ペーストを作製することが容易にできる。
【0098】
第8の発明によれば、焼成により形成された電極膜は超薄膜であっても導電性が極めて高く、また電極膜とグリーンシートの焼成収縮率がほぼ同様であるから、電極膜とセラミックス基板の間に無理な応力が作用せず、高密度且つ高導電性を有した長寿命のセラミックス電子部品を提供できる。
【0099】
第9の発明によれば、多くの電子部品のセラミックス化が進行する中で、特に、有用なセラミックス電子部品の高密度化と超寿命化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電極ペースト6の概略説明図である。
【図2】図2は本発明に係る電極ペーストをグリーンシートに塗着した後焼成して形成された電極膜16の概略断面図である。
【図3】本発明の誘電体前駆化合物としてBaTiO3レジネートを焼成して形成された誘電体BaTiO3の粉末X線回折強度図である。
【図4】本発明に係る電極ペースト(0.4μmNi微粒子)を塗着乾燥して得られた乾燥電極ペースト膜の密度とBaTiO3レジネート含有率の関係図である。
【図5】本発明に係る電極ペースト(0.2μmNi微粒子)を塗着乾燥して得られた乾燥電極ペースト膜のグリーン密度とBaTiO3レジネート含有率の関係図である。
【図6】本発明の電極ペースト(0.4μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜の焼成収縮率と焼成温度の関係図である。
【図7】本発明による電極膜(0.4μmNi微粒子)と従来の電極膜の焼成収縮率の比較図である。
【図8】本発明の電極ペースト(0.2μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜の焼成収縮率と焼成温度の関係図である。
【図9】本発明においてBaTiO3レジネートを1mass%添加した電極膜(0.4μmNi微粒子)の各焼結温度に対する走査型電子顕微鏡像である。
【図10】比較例として誘電体を添加しないで焼成された電極膜(0.4μmNi微粒子)の走査型電子顕微鏡像である。
【図11】本発明においてBaTiO3レジネートを1mass%添加した電極膜(0.2μmNi微粒子)の各焼結温度に対する走査型電子顕微鏡像である。
【図12】本発明の電極ペーストを用いてグリーンシートに電極ペースト膜を交互に10層積層して焼成された多層セラミックスコンデンサ(MLCC)の断面図である。
【図13】多層セラミックスコンデンサの電気容量の測定図である。
【図14】多層セラミックスコンデンサの誘電損失DF(%)の測定図である。
【図15】多層セラミックスコンデンサの電気抵抗R(Ω)の測定図である。
【図16】特開昭57−30308号に示される誘電体微粒子20を担持した金属微粒子2の概略断面図である。
【図17】特開2001−189227に示される誘電体層24を周囲に形成した金属微粒子2の概略断面図である。
【図18】金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係を説明する概略図である。
【符号の説明】
2は金属微粒子、2aは連続部、3は被覆層、5は容器、6は電極ペースト、8は誘電体前駆化合物、10は有機溶媒、12は樹脂、14はセラミックス層、16は電極膜、18は誘電体部、20は誘電体粒子、22は2次粒子、24は誘電体層、26はスリーポケット。dはスリーポケット直径、Dは金属微粒子直径。
Claims (9)
- 金属粉末と、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物を少なくとも含有することを特徴とする電極ペースト。
- 金属粉末と、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物と、金属粉末と誘電体前駆化合物を均一に分散させる有機溶媒を少なくとも含有することを特徴とする電極ペースト。
- 金属粉末と、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物と、金属粉末と誘電体前駆化合物を均一に分散させる有機溶媒と、粘度調整用の樹脂を含有することを特徴とする電極ペースト。
- 前記誘電体前駆化合物が有機金属レジネートである請求項12又は3に記載の電極ペースト。
- 前記誘電体前駆化合物の全金属含有量が金属粉末の全量に対し0.1〜5質量%である請求項1、2又は3に記載の電極ペースト。
- 前記誘電体前駆化合物の組成が、グリーンシートを形成する誘電体の主成分に対応するように構成される請求項1、2、3、4又は5に記載の電極ペースト。
- 焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆化合物を有機溶媒に均一に分散溶解させたことを特徴とする電極ペースト用中間溶液。
- 請求項1、2、3、4、5又は6に記載の電極ペーストを用いてグリーンシートの上に電極ペースト膜を形成し、このグリーンシートと電極ペースト膜を一体に焼成して有機成分を除去することによってセラミックス基板の上に所望パターンの電極膜を形成することを特徴とするセラミックス電子部品の製造方法。
- 前記セラミックス電子部品がセラミックス回路基板、セラミックスコンデンサ、セラミックスインダクタ、セラミックス圧電素子又はセラミックスアクチュエータである請求項7に記載のセラミックス電子部品の製造方法。
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