JP2004256654A - ディップ成形用凝固剤組成物およびディップ成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、かつ、超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率が低いディップ成形品および該ディップ成形品を製造するのに好適なディップ成形用凝固剤組成物を提供すること。
【解決手段】アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなるディップ成形用凝固剤組成物およびそれを用いてディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。
【解決手段】アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなるディップ成形用凝固剤組成物およびそれを用いてディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディップ成形用凝固剤組成物およびディップ成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムラテックスやアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスからなるディップ成形用ラテックス組成物を、ディップ成形して得られるゴム手袋は、柔軟で、かつ十分な機械的強度を有することから、様々な分野で用いられている。
【0003】
上記のゴム手袋は、その表面がやや粘着しやすい性状を有するので、濡れた状態でも物を掴み易い(グリップ性に優れる。)ものの、ゴム手袋同士を重ねて保管した場合、ゴム手袋の外表面が互いに粘着して(耐ブロッキング性に劣る。)、使用時に剥がす作業が必要となり、薄手のゴム手袋の場合には、手袋同士を剥がす際に手袋が破れて使用できなくなる問題がある。
【0004】
そこで、重合体ラテックスからなる層をゴム手袋の外面に形成することによって、ゴム手袋の耐ブロッキング性を改善する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、塩に対して安定化させた、ポリクロロプレンラテックスまたはポリウレタンラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形し、これらのラテックスからなる層をゴム手袋外面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法を採用しても、手袋外表面同士の耐ブロッキング性の改善度合いは不十分であった。
【0005】
また、特許文献2には、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を用いて、共重合性のシリコンオリゴマーを必須成分とするアクリル酸エステル単量体を、それぞれ得られる共重合体のガラス転移温度が、−50〜25℃の範囲と25〜100℃の範囲になるように、2段階で重合して得られる共重合体ラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形し、これらのラテックスからなる層を手袋外面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法では、ゴム手袋の外表面同士の耐ブロッキング性を改善できるものの、グリップ性が低下する問題がある。
【0006】
一方、上記のようなゴム手袋を、精密電子部品製造や半導体部品製造において使用する場合には、ゴム手袋表面に付着した微粒子や該ゴム手袋に含有される金属イオンが、半製品や製品に悪影響を与えるため、通常、予め純水や超純水で洗浄したゴム手袋が用いられる。
【0007】
しかしながら、天然ゴムラテックスやアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを構成する重合体は、電気絶縁性が高く、これらのラテックスから製造されたゴム手袋の表面抵抗率は高く、純水や超純水で洗浄することより、洗浄後のゴム手袋の表面抵抗率は、1010Ω/squareを超える。
ゴム手袋の表面抵抗率が1010Ω/squareを超えると、作業中に静電気が発生し、その静電気により、精密電子部品や半導体部品が破壊されてしまう問題がある。
【0008】
【特許文献1】
欧州特許出願公開第640,623号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,993,923号明細書
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、かつ、超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率が低いディップ成形品および該ディップ成形品を製造するのに好適なディップ成形用凝固剤組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、下記の(1)〜(4)の手段により達成された。
(1) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなるディップ成形用凝固剤組成物。
(2) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスを0.3〜10重量%の固形分濃度で含む前記(1)記載のディップ成形用凝固剤組成物。
(3) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスの固形分100重量部に対して、カチオン性界面活性剤を0.5〜20重量部含む前記(1)又は(2)に記載のディップ成形用凝固剤組成物。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス(以下、単に「重合体ラテックス(A)」ともいう。)、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなる。
【0012】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)は、重合体ラテックス粒子がアルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化されたものである。
重合体ラテックス(A)は、通常、水性媒体中、アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物の存在下に、ラジカル重合開始剤を用いて単量体を重合して得られる。
【0013】
重合体ラテックス(A)を製造するために用いる単量体としては、ラジカル重合し得るものであれば特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0014】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0015】
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。
【0016】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、モノクロルスチレン、p−メチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどが挙げられる。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、2−エチルプロペンニトリル、2−プロピルプロペンニトリル、2−クロロプロペンニトリル、2−ブテンニトリルなどが挙げられる。
【0018】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチルなどが挙げられる。
【0019】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0020】
これらの単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの単量体の中で、エチレン性不飽和カルボン酸エステルを用いることが好ましく、アクリル酸メチルやアクリル酸ブチルを用いることがさらに好ましい。
【0021】
重合体ラテックス(A)を製造するために用いるアルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物(以下、「アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物」という。)としては、実質的に水溶性であって、重合時に分散安定剤として機能し、重合体ラテックスが安定的に製造できるものであればよい。
【0022】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、水溶性高分子化合物のうち、分子量1000当たりにアルコール性水酸基を5〜25個含有しているものが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物などのビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉などの澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましく、ポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0023】
ビニルアルコール系重合体としては、実質的に水溶性であり、かつ安定な重合体ラテックスが得られるものであれば特に限定されず、例えば、ビニルエステル系単量体を主体とするビニル系単量体を従来公知の方法で重合して得たビニルエステル系重合体(即ち、ビニルエステル系単量体の単独重合体、2種以上のビニルエステル系単量体の共重合体、及びビニルエステル系単量体と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体)を常法によりけん化して得られるものが使用できる。
また、前記の重合体分子の主鎖、側鎖又は末端にメルカプト基などの変性基を導入したものも使用できる。
【0024】
前記ビニルエステル系単量体は、ラジカル重合可能なものであればいずれも使用でき、その具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどを挙げることができる。なかでも酢酸ビニルが好ましく使用できる。
【0025】
また、ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体を共存させ、共重合することも可能である。これら共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン単量体;(メタ)アクリル酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体;フマル酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸エステル単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル単量体;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン単量体;3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム基を有する単量体などを挙げることができる。
【0026】
前記ビニルエステル系重合体のけん化度は、変性基の有無及びその種類に依存して変るが、得られるビニルアルコール系重合体の水溶性などの観点から、40〜99.99モル%であることが好ましく、50〜99.9モル%がより好ましく、60〜99.9モル%が特に好ましい。けん化度が低いと重合時の分散安定性が低下する傾向にある。
【0027】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、5,000〜150,000であることがより好ましい。この重量平均分子量が低いと重合時の分散安定性が低下する傾向にあり、逆に高いと、重合系の粘度上昇により、反応熱除去が困難になる傾向がある。
【0028】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜60重量部、より好ましくは1〜30重量部、特に好ましくは2〜20重量部である。
【0029】
なお、重合時に、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物以外に、乳化重合において通常使用される低分子量の界面活性剤を併用してもよい。ここで、低分子量とは、1,000以下の分子量を指す。
しかしながら、併用する場合の低分子量の界面活性剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.5重量部以下とすることが好ましく、0.2重量部以下とすることが好ましく、使用しないことが特に好ましい。この使用量が多いと、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物発生量が多くなったり、ディップ成形品の耐ブロッキング性が悪化したりする傾向がある。
【0030】
重合に使用する水性媒体としては、例えば、水または水と水溶性アルコールとの混合溶媒が挙げられる。なかでも、水と水溶性アルコールとの混合溶媒が好ましく使用できる。
【0031】
水溶性アルコールとしては、実質的に水溶性である1価アルコールまたは多価アルコールのいずれでもよいが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。なかでも、メタノール、エタノールが好ましく使用できる。
このアルコールの使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。
【0032】
水性媒体の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは100〜900重量部、より好ましくは150〜500重量部である。
【0033】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの油溶性過酸化物;過酸化物と重亜硫酸水素ナトリウムなどの各種還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤などを挙げることができる。なかでも、水溶性過酸化物が好ましく、過硫酸塩がより好ましく使用できる。この使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0034】
重合体ラテックス(A)の重合に際しては、必須ではないが、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤は、ラジカル重合において通常使用されるものであれば特に限定されない。
分子量調整剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのメルカプタン類;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシルなどのメルカプト基を有する化合物;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンなどのα−メチルスチレンダイマー類;ターピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール系化合物;アリルアルコール、メタリルアルコールなどのアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル化合物;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン;などを挙げることができる。
【0035】
分子量調整剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.5重量部以下、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下であるが、分子量調整剤を使用せずに重合することが特に好ましい。
【0036】
単量体の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。なかでも、単量体を連続で添加することが好ましい。単量体を連続で添加する場合、その組成は均一でも、不均一でもよく、連続的に組成を変化させながら添加することもできる。
【0037】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。なかでも、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を連続で添加することが好ましい。
【0038】
単量体とアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とは、それぞれ別々に添加しても、単量体、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び水性媒体を混合して得られる単量体乳化物の形態で添加してもよい。
単量体とアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とを別々に添加する場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが好ましい。単量体のみが先に多量に添加されると凝集物が発生しやすく、逆に、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物のみが先に多量に添加されると重合系が増粘する、又は凝集物が発生しやすくなるなどの問題が起きやすい。両者の添加終了は、必ずしも同時である必要はないがほぼ同時であることが好ましい。
【0039】
ラジカル重合開始剤の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。
【0040】
重合温度は、特に制限はないが、通常、0〜100℃、好ましくは5〜95℃である。
【0041】
重合体ラテックス(A)としては、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体と40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体とを含有してなるものが好ましく使用できる。
【0042】
上記のTg1は、好ましくは−60〜0℃、より好ましくは−50〜−20℃の範囲にある。Tg1の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、グリップ性に劣る傾向にある。
【0043】
上記のTg2は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃の範囲にある。Tg2の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、グリップ性に劣る傾向にある。
【0044】
上記の重合体ラテックス(A)は、Tg1を有する重合体のラテックスとTg2を有する重合体のラテックスとの混合物であっても、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、いわゆる、異相構造型の重合体ラテックスであってもよい。グリップ性と耐ブロッキング性とのバランスに優れる点で、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、いわゆる、異相構造型の重合体ラテックスであることが好ましい。
【0045】
Tg1とTg2とを有する重合体ラテックス(A)は、水性媒体中、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体を形成し得る単量体(M1)を重合(以下、「第1段階重合」と略する場合がある。)した後、次いで40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を重合(以下、「第2段階重合」と略する場合がある。)して得られる物であることが好ましい。
【0046】
単量体は、Tg1を有する重合体を形成し得る単量体(M1)とTg2を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を、それぞれ、適宜選択する。それぞれの単量体は、単独であっても2種以上の単量体からなる混合物であってもよい。
【0047】
M1の好ましい単量体としては、アクリル酸n−ブチル(BA)単独またはこれとメタクリル酸メチル(MMA)との混合物が挙げられる。その量比は、BA/MMAが、好ましくは100/0〜45/55、より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
M2の好ましい単量体としては、BAとMMAとの混合物またはMMA単独が挙げられる。その量比は、BA/MMAが、好ましくは30/70〜0/100、より好ましくは25/75〜5/95、特に好ましくは20/80〜15/85である。
【0048】
M1とM2の量比は、M1/M2が好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは25/75〜70/30、特に好ましくは30/70〜50/50である。
【0049】
第1段階重合および第2段階重合において、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を、各重合段階で使用する単量体全量100重量部に対して、前記した範囲内で使用することが好ましい。
【0050】
第1段階重合において、重合転化率が、80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上になった後に、第2段階重合を開始することが好ましい。このように重合を行うと、耐ブロッキング性とグリップ性のバランスにより優れるディップ成形品が得られる。
【0051】
2段階重合を行った後、所定の重合転化率に到達した時点で、重合を停止する。重合の停止は、重合停止剤を添加したり、重合反応系を冷却したりすることによって行うことができる。重合を停止する際の重合転化率は、重合に使用する全単量体に対して、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
重合を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、ラテックスのpHや固形分濃度を調整して、重合体ラテックス(A)が得られる。
【0052】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)には、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、防腐剤、可塑剤、消泡剤などの助剤を重合時または重合後に併用してもよい。
【0053】
以上のようにして得られた重合体ラテックス(A)は、重合に使用したアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物が結合した重合体ラテックス粒子からなる。重合体ラテックス粒子に結合しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量は、重合に使用した単量体が重合して形成された重合体100重量部に対して、好ましくは0.3〜30重量部、より好ましくは0.5〜20重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。
【0054】
重合体ラテックス粒子に結合しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量は、例えば、重合に使用するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の種類およびその使用量、重合開始剤の種類およびその使用量、並びに重合温度などを調整することにより調整できる。
【0055】
重合体ラテックス(A)を構成する重合体ラテックス粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.05〜3μm、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0056】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、重合体ラテックス(A)を0.3〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%の固形分濃度で含むことが好ましい。重合体ラテックス(A)の固形分濃度がこの範囲にあると、グリップ性と耐ブロッキング性とのバランスにより優れる。
【0057】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物に用いるカチオン性界面活性剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、第1級アミンの塩、第2級アミンの塩、第3級アミンの塩、第4級アンモニウム塩などが挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩が好ましく使用できる。
【0058】
第1級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第1級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0059】
第2級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第2級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0060】
第3級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第3級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0061】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、下記一般式(1)で表されるもの、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩などが挙げられる。
一般式(1)
【化1】
式中、R1〜R4は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0062】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ラウリルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド挙げられる。
【0063】
ピリジニウム塩としては、例えば、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
一般式(2)
【化2】
式中、R5〜R9は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基および水素原子から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。R10は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる基である。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0064】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、ラウリルピリジニウムクロライド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0065】
イミダゾリウム塩としては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
一般式(3)
【化3】
式中、R11およびR12は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。R13は、炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基である。Xは、ハロゲン原子である。
【0066】
一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、2−ラウリル−N−メチル−N−ラウリルイミダゾリウムクロライド、2−ラウリル−N−エチル−N−ラウリルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。
【0067】
上記の第4級アンモニウム塩のなかでも、一般式(1)又は(2)で表される化合物が好ましい。一般式(1)の第4級アンモニウム塩としては、R1〜R3が炭素数1〜4の低級アルキル基であり、R4が炭素数10〜18の高級アルキル基である化合物が好ましい。一般式(2)の第4級アンモニウム塩としては、R5〜R9が水素原子であり、R10が炭素数10〜18の高級アルキル基である化合物が好ましい。これらの具体的な化合物としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライドが好ましく使用できる。
【0068】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、カチオン性界面活性剤を、重合体ラテックス(A)の固形分100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは2〜10重量部含む。カチオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、表面抵抗率が高くなる傾向にあり、逆に多すぎるとグリップ性が悪化する傾向にある。
【0069】
本発明で用いるディップ成形用凝固剤としては、ディップ成形において通常使用されるものであれば特に限定さないが、例えば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩などが挙げられる。なかでも、塩化カルシウム、硝酸カルシウムが好ましく、硝酸カルシウムがより好ましく使用できる。
ディップ成形用凝固剤の濃度は、ディップ成形用凝固剤組成物中、通常、5〜70重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0070】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、通常、水性媒体の溶液または分散液として使用する。水性媒体としては、例えば、水、水溶性有機溶媒、またはそれらの混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;アセトンなどが挙げられる。
【0071】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、本発明の効果を本質的に損なわない限り、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。
【0072】
本発明のディップ成形品は、前記のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られる。
【0073】
ディップ成形用ラテックス組成物に用いるディップ成形用ラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックスや合成の共役ジエンゴムラテックスが挙げられる。なかでも、所望の特性を有するディップ成形品を容易に製造し易い点で、合成の共役ジエンゴムラテックスが好ましく使用できる。
【0074】
合成の共役ジエンゴムラテックスは、共役ジエン単量体、または共役ジエン単量体および共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体を重合して得られるものである。
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ハロゲン置換ブタジエンなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、1,3−ブタジエンが好ましく使用できる。共役ジエン単量体の使用量は、全単量体中、好ましくは30〜89.5重量%であり、より好ましくは45〜79重量%である。
【0075】
共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミドなどが挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましく、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体がより好ましく使用される。
【0076】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルが好ましく使用できる。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0077】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル;などを挙げることができる。なかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましく使用できる。
【0078】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸β−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートアクリルアミドなどが挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
上記の単量体以外にも、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルピリジンなどを用いることができる。
これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
共役ジエンゴムラテックスとしては、本発明の効果が発現し易い上に、柔軟、かつ耐油性および機械的強度に優れるディップ成形品が得られる点で、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体からなる単量体混合物を重合して得られるものが好ましく使用できる。この場合の組成比は、共役ジエン単量体30〜89.5重量%、好ましくは45〜79重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%、およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の範囲にあることが好ましい。
【0080】
共役ジエンゴムラテックスは、通常、上記の単量体を、従来公知の乳化重合法を用いて製造することができる。
【0081】
ディップ成形用ラテックス組成物は、上記のディップ成形用ラテックス以外に、加硫剤および加硫促進剤を配合することが好ましく、さらに所望により、酸化亜鉛を配合してもよい。
【0082】
加硫剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアミン類;などが挙げられる。なかでも、硫黄が好ましい。加硫剤の使用量は、ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜4重量部である。
【0083】
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリルー2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられる。なかでも、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
加硫促進剤の使用量は、ディップ成形用ラテックスの固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜4重量部である。
【0084】
酸化亜鉛の使用量は、ディップ成形用ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。
【0085】
ディップ成形用ラテックス組成物には、さらに所望により、ディップ成形において通常使用される、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、軟化剤などを配合してもよい。
【0086】
ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度は、通常、20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%である。ディップ成形用ラテックス組成物のpHは、通常、8以上、好ましくは9〜11の範囲である。
【0087】
ディップ成形法としては、ディップ成形用凝固剤組成物を使用する従来公知のディップ成形法を用いることができ、例えば、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法などが挙げられる。なかでも、均一な厚みを有するディップ成形品が得られやすい点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0088】
アノード凝着浸漬法の場合、ディップ成形型を上記のディップ成形用凝固剤組成物に浸漬して、ディップ成形型上に該組成物を付着させた後、それをディップ成形用ラテックス組成物に浸漬して、該型上にディップ成形層を形成する。
【0089】
ディップ成形型としては、例えば、磁器製、陶器製、金属製、ガラス製、およびプラスチック製のものなどが挙げられる。ディップ成形品が手袋である場合、成形型は人の手の輪郭に対応する形状を有するものであり、製造しようとする手袋の使用目的に応じて、手首から指先までの形状のもの、肘から指先までの形状のもの等、種々の形状のものを用いることができる。
【0090】
ディップ成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬する条件としては、特に限定されないが、30〜70℃に加温したディップ成形型を、ディップ成形用凝固剤組成物に1秒間〜5分間、好ましくは1秒間〜3分間、浸漬することが好ましい。
【0091】
ディップ成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬した後、30〜80℃の温度で、該型上に付着したディップ成形用凝固剤組成物中の溶媒を揮散させる。
【0092】
次いで、そのディップ成形型を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬して該型上にディップ成形層を形成する。ディップ成形型を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬する時間は、ディップ成形品の膜厚に応じて適宜調節される。
【0093】
ディップ成形型上にディップ成形層を形成した後、所望により、加温してディップ成形層中の揮発成分を揮散させる。その後、加熱処理を施して、ディップ成形層を加硫する。
ディップ成形層の加硫条件は、80〜150℃の温度で、10〜120分間の加硫時間である。加熱の方法としては、赤外線や熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、熱空気による加熱が好ましい。
【0094】
なお、ディップ成形層を加硫する前にリーチングを行ってもよい。リーチングは、通常、ディップ成形型上のディップ成形層を、20〜60℃の温水に、1〜30分間程度、浸漬して行われる。リーチングを行なうことで、ディップ成形層中に含まれる水溶性不純物(例えば、余剰の乳化剤や凝固剤など)が除去され、より機械的強度に優れるディップ成形品が得られる。
このリーチングは、ディップ成形層を加硫した後に行ってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、ディップ成形層を加硫する前に行なうのが好ましい。
【0095】
ディップ成形層を加硫した後、該加硫物を反転させながら、ディップ成形型から脱着することによって、ディップ成形品が得られる。このようにすると、ディップ成形用凝固剤組成物中の重合体ラテックス(A)およびカチオン性界面活性剤に由来する表面層が、ディップ成形品の外側に形成されたディップ成形品が得られる。
脱着方法は、手で型から剥がしたり、水圧や圧縮空気の圧力により剥がしたりする方法が採用できる。
脱着後、さらに60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理を行ってもよい。
【0096】
本発明のディップ成形品は、超純水に2時間浸漬した後、20℃、相対湿度65%の雰囲気下で測定される、ディップ成形品の外側表面における表面抵抗率が好ましくは107〜1010Ω/square、より好ましくは108〜1010Ω/squareのものである。超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率がこの範囲にあるディップ成形品は、精密電子部品や半導体部品の製造において、より好適に使用できる。
ここで、本発明において、107とは1×107を意味する。1010等についても同様である。また、107〜1010とは1×107以上1×1010以下を意味する。108〜1010等についても同様である。
表面抵抗率は、ASTM D257−93に準じて測定する。詳細は実施例に記載したとおりである。
本発明において、超純水は、25℃での比抵抗が16MΩcm以上の水を意味する。
【0097】
本発明のディップ成形品としては、厚みが約0.1〜3ミリのものが製造でき、特に厚みが0.1〜0.3ミリの薄手のものが好適に使用できる。その具体例としては、例えば、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕などの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグなどの工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用および工業用のアンサポート型手袋またはサポート型手袋;指サックなどが挙げられる。なかでも、表面抵抗率が低いので、精密電子部品製造用、半導体部品製造用の手袋として好適に使用できる。
【0098】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載における「部」および「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0099】
物性値の測定は以下のように行なった。
(1)重合体ラテックスの体積平均粒子径
コールターLS230(コールター社製)を用いて、測定した。
(2)重合体ラテックスのガラス転移温度
重合体ラテックスを枠付きガラス板に流延し、温度20℃相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間放置してフィルムを得、これを試料とした。
上記試料のガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製:SSC5200)を用いて、開始温度−100℃、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
(3)重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量
得られた重合体ラテックスの固形分濃度を10%に調整して、その60gを試料とする。この試料を、遠心分離器(国産遠心機社製:H−2000A)を用いて、5℃で13,000rpm、60分間遠心分離し、その上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物に蒸留水50gを加えて、均一にした後、上記と同一条件で遠心分離して、上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物について、さらに、上記と同一の操作を、2回繰り返した。
その後、得られた沈降物を、40℃で48時間、真空乾燥した。得られた重合体を、1H−NMR分析して、重合で生成した重合体100重量部に対する、該重合体に結合しているポリビニルアルコール量を求めた。
【0100】
(4)ゴム手袋のグリップ性
得られたゴム手袋を装着し、水で濡らしたガラス棒をつかむときのグリップ性を以下の基準で評価した。
A:滑らずに濡れたガラス棒がつかめる。
B:濡れたガラス棒がややつかみにくい。
C:濡れたガラス棒が滑ってつかめない。
(5)ゴム手袋の耐ブロッキング性
ゴム手袋を2枚重ねたものを2枚のガラス板で挟み、ガラス板上に5Kgのおもりを置き、それを100℃のオーブン中に24時間放置した。室温まで、冷却した後、2枚のゴム手袋を剥がす際の剥がし易さを以下の基準で判定した。
A:2枚のゴム手袋を容易に剥がすことができる。
B:2枚のゴム手袋を剥がす際に力を要する。
C:2枚のゴム手袋を剥がすのが困難であり、無理に剥がすとゴム手袋が破損する。
【0101】
(6)超純水に浸漬した後の表面抵抗率
得られたゴム手袋の手の平部分から、10cm角の試験片を切り抜き、それを比抵抗が18.3MΩcmの超純水500mlに、30℃で2時間浸漬し、浸漬した後の試験片を70℃で乾燥した。乾燥後の試験片を20℃、相対湿度が65%の恒温恒湿室で1夜放置した後、同じ雰囲気下で、ASTM D257−93に準じて、測定電圧250Vで、試験片の表面抵抗率を測定した。なお、試験片の測定は、ゴム手袋の外側表面に相当する部分で行なった。
この測定における上限界値は、3.8×1010Ω/squareであった。
【0102】
(参考例1)
攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水28部、アクリル酸ブチル29.2部、メタクリル酸メチル3.3部、及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)1.75部を添加し、撹拌して、単量体乳化物Iを得た。
別の攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水52部、アクリル酸ブチル11.7部、メタクリル酸メチル55.8部及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)3.25部を添加し、撹拌して、単量体乳化物IIを得た。
【0103】
別途、攪拌機付きの耐圧反応容器に、脱イオン水70部及びエタノール8部を入れ、温度を80℃に昇温し、80℃を維持した状態で、反応容器に前記単量体乳化物Iの連続添加を開始し、次いで、過硫酸カリウム0.3部を脱イオン水10部に溶解した開始剤溶液を添加した。単量体乳化物Iの連続添加は90分間かけて終了した。添加終了後、さらに40分間後反応を行なった。この時の重合転化率は99%であった。
引き続き、単量体乳化物IIを180分間かけて反応容器に連続添加し、添加終了後、さらに2時間後反応を行なった。その後、冷却して反応を終了させた。この時の重合転化率は98%であった。
未反応単量体を除去した後、固形分濃度を調整して、固形分濃度40%の重合体ラテックスA1を得た。
得られた重合体ラテックスA1の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0104】
(参考例2)
表1に示す、単量体乳化物I、単量体乳化物II、および各単量体乳化物の連続添加時間に変更する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスA2を得た。なお、ポリビニルアルコールとしては、PVA−224(クラレ社製、平均重合度2400、けん化度88モル%)を用いた。
得られた重合体ラテックスA2の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0105】
(参考例3)
表1に示す単量体乳化物Iのみを使用して、1段階で重合する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスA3を得た。
得られた重合体ラテックスA3の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0106】
(参考例4)
表1に示す、単量体乳化物I、および単量体乳化物IIに変更する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスBを得た。なお、ポリビニルアルコールの代わりに、アニオン界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム(ペレックスSS−H;花王(株)製)を、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120;花王(株)製)を用いた。
【0107】
重合体ラテックスBは、ポリビニルアルコールを使用せずに製造したものなので、重合体粒子へのポリビニルアルコール結合量の測定は行わなかった。
なお、重合体ラテックスBに、重合体100部あたり、5部に相当する量のポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製)を含む水溶液を添加混合したものを試料として、重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量を測定したところ、ポリビニルアルコールは検出されなかった。これは、この操作によって、遊離のポリビニルアルコールがほとんど除去されることを示している。
得られた重合体ラテックスBの体積平均粒子径およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1)
250部の重合体ラテックスA1(総固形分100部に相当する。)および12.5部のセチルトリメチルアンモニウムクロライド40%水溶液を混合し、重合体ラテックス組成物を調製した。
次いで、硝酸カルシウム20部及び脱イオン水70部を混合した凝固剤溶液に、上記の重合体ラテックス組成物を、重合体ラテックスA1の固形分で1.5部に相当する量添加し、硝酸カルシウムの濃度が20%になるように、脱イオン水を加え、ディップ成形用凝固剤組成物Aを調製した。
【0110】
一方、硫黄1部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、酸化亜鉛0.5部および酸化チタン1.5部を、水3.5部に分散して、加硫剤分散液を調製した。アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ラテックス(1,3−ブタジエン単位67.5%、アクリロニトリル単位27%およびメタクリル酸単位5.5%、固形分濃度40%、ラテックスpH8.5)250部に、上記の加硫剤分散液7部を添加した後、水酸化カリウム水溶液および水を添加して、pH9.5、固形分濃度30%のディップ成形用ラテックス組成物を調製した。
【0111】
60℃に加熱した手型を、40℃に調整した上記のディップ成形用凝固剤組成物Aに、10秒間浸漬した後、60℃で、10分間乾燥した。この凝固剤組成物が付着した手型を、前記のディップ成形用ラテックス組成物に10秒間浸漬し、手型上にディップ成形層を形成した。次いで、40℃の脱イオン水で5分間リーチングし、60℃で10分間乾燥した後、120℃で20分間ディップ成形層を加硫した。得られた加硫物を、手型から反転させながら脱着して、厚さが0.12mmのゴム手袋を得た。このゴム手袋は、外側にディップ成形用凝固剤組成物A中の重合体ラテックスA1およびセチルトリメチルアンモニウムクロライドに由来する表面層を有している。
このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0112】
(実施例2〜4)
表2に示す組成のディップ成形用凝固剤組成物B〜Dに変更する以外は、実施例2と同様にしてゴム手袋を得た。これらのゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0113】
(比較例1)
硝酸カルシウム20部及び脱イオン水80部を混合したディップ成形用凝固剤組成物Eに変更する以外は、実施例1と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0114】
(比較例2)
セチルトリメチルアンモニウムクロライドをアニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムに変更して調製したディップ成形用凝固剤組成物Fを用いる以外は、実施例3と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0115】
(比較例3)
セチルトリメチルアンモニウムクロライドをノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120:花王(株)製)に変更して調製したディップ成形用凝固剤組成物Gを用いる以外は、実施例3と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0116】
(比較例4)
重合体ラテックスA1に代えて、重合体ラテックスBを用いて調製したディップ成形用凝固剤組成物Hを用いる以外は、実施例1と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2から次のようなことがわかる。
硝酸カルシウム水溶液を用いて製造した比較例1のゴム手袋は、耐ブロッキング性に劣り、表面抵抗率が高い。
アニオン性界面活性剤を含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例2のゴム手袋は、グリップ性に劣り、表面抵抗率が高い。
ノニオン性界面活性剤を含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例3のゴム手袋は、グリップ性に劣り、表面抵抗率が高い。
乳化重合において通常使用されるアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤の存在下で重合して得られた重合体ラテックスBを含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例4のゴム手袋は、表面抵抗率が高く、グリップ性が低下する。
【0119】
上記の比較例に比べ、本発明で規定する範囲内のディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した実施例1〜4のゴム手袋は、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、表面抵抗率が低い。このようなゴム手袋は、精密電子部品製造用、半導体部品製造用の手袋として好適に使用できる。
【0120】
【発明の効果】
本発明によれば、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、かつ、超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率が低いディップ成形品および該ディップ成形品を製造するのに好適なディップ成形用凝固剤組成物が提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディップ成形用凝固剤組成物およびディップ成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムラテックスやアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスからなるディップ成形用ラテックス組成物を、ディップ成形して得られるゴム手袋は、柔軟で、かつ十分な機械的強度を有することから、様々な分野で用いられている。
【0003】
上記のゴム手袋は、その表面がやや粘着しやすい性状を有するので、濡れた状態でも物を掴み易い(グリップ性に優れる。)ものの、ゴム手袋同士を重ねて保管した場合、ゴム手袋の外表面が互いに粘着して(耐ブロッキング性に劣る。)、使用時に剥がす作業が必要となり、薄手のゴム手袋の場合には、手袋同士を剥がす際に手袋が破れて使用できなくなる問題がある。
【0004】
そこで、重合体ラテックスからなる層をゴム手袋の外面に形成することによって、ゴム手袋の耐ブロッキング性を改善する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、塩に対して安定化させた、ポリクロロプレンラテックスまたはポリウレタンラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形し、これらのラテックスからなる層をゴム手袋外面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法を採用しても、手袋外表面同士の耐ブロッキング性の改善度合いは不十分であった。
【0005】
また、特許文献2には、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を用いて、共重合性のシリコンオリゴマーを必須成分とするアクリル酸エステル単量体を、それぞれ得られる共重合体のガラス転移温度が、−50〜25℃の範囲と25〜100℃の範囲になるように、2段階で重合して得られる共重合体ラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形し、これらのラテックスからなる層を手袋外面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法では、ゴム手袋の外表面同士の耐ブロッキング性を改善できるものの、グリップ性が低下する問題がある。
【0006】
一方、上記のようなゴム手袋を、精密電子部品製造や半導体部品製造において使用する場合には、ゴム手袋表面に付着した微粒子や該ゴム手袋に含有される金属イオンが、半製品や製品に悪影響を与えるため、通常、予め純水や超純水で洗浄したゴム手袋が用いられる。
【0007】
しかしながら、天然ゴムラテックスやアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを構成する重合体は、電気絶縁性が高く、これらのラテックスから製造されたゴム手袋の表面抵抗率は高く、純水や超純水で洗浄することより、洗浄後のゴム手袋の表面抵抗率は、1010Ω/squareを超える。
ゴム手袋の表面抵抗率が1010Ω/squareを超えると、作業中に静電気が発生し、その静電気により、精密電子部品や半導体部品が破壊されてしまう問題がある。
【0008】
【特許文献1】
欧州特許出願公開第640,623号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,993,923号明細書
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、かつ、超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率が低いディップ成形品および該ディップ成形品を製造するのに好適なディップ成形用凝固剤組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、下記の(1)〜(4)の手段により達成された。
(1) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなるディップ成形用凝固剤組成物。
(2) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスを0.3〜10重量%の固形分濃度で含む前記(1)記載のディップ成形用凝固剤組成物。
(3) アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスの固形分100重量部に対して、カチオン性界面活性剤を0.5〜20重量部含む前記(1)又は(2)に記載のディップ成形用凝固剤組成物。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス(以下、単に「重合体ラテックス(A)」ともいう。)、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなる。
【0012】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)は、重合体ラテックス粒子がアルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化されたものである。
重合体ラテックス(A)は、通常、水性媒体中、アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物の存在下に、ラジカル重合開始剤を用いて単量体を重合して得られる。
【0013】
重合体ラテックス(A)を製造するために用いる単量体としては、ラジカル重合し得るものであれば特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0014】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0015】
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。
【0016】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、モノクロルスチレン、p−メチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどが挙げられる。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、2−エチルプロペンニトリル、2−プロピルプロペンニトリル、2−クロロプロペンニトリル、2−ブテンニトリルなどが挙げられる。
【0018】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチルなどが挙げられる。
【0019】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0020】
これらの単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの単量体の中で、エチレン性不飽和カルボン酸エステルを用いることが好ましく、アクリル酸メチルやアクリル酸ブチルを用いることがさらに好ましい。
【0021】
重合体ラテックス(A)を製造するために用いるアルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物(以下、「アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物」という。)としては、実質的に水溶性であって、重合時に分散安定剤として機能し、重合体ラテックスが安定的に製造できるものであればよい。
【0022】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、水溶性高分子化合物のうち、分子量1000当たりにアルコール性水酸基を5〜25個含有しているものが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物などのビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉などの澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましく、ポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0023】
ビニルアルコール系重合体としては、実質的に水溶性であり、かつ安定な重合体ラテックスが得られるものであれば特に限定されず、例えば、ビニルエステル系単量体を主体とするビニル系単量体を従来公知の方法で重合して得たビニルエステル系重合体(即ち、ビニルエステル系単量体の単独重合体、2種以上のビニルエステル系単量体の共重合体、及びビニルエステル系単量体と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体)を常法によりけん化して得られるものが使用できる。
また、前記の重合体分子の主鎖、側鎖又は末端にメルカプト基などの変性基を導入したものも使用できる。
【0024】
前記ビニルエステル系単量体は、ラジカル重合可能なものであればいずれも使用でき、その具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどを挙げることができる。なかでも酢酸ビニルが好ましく使用できる。
【0025】
また、ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体を共存させ、共重合することも可能である。これら共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン単量体;(メタ)アクリル酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体;フマル酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸エステル単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル単量体;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン単量体;3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム基を有する単量体などを挙げることができる。
【0026】
前記ビニルエステル系重合体のけん化度は、変性基の有無及びその種類に依存して変るが、得られるビニルアルコール系重合体の水溶性などの観点から、40〜99.99モル%であることが好ましく、50〜99.9モル%がより好ましく、60〜99.9モル%が特に好ましい。けん化度が低いと重合時の分散安定性が低下する傾向にある。
【0027】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、5,000〜150,000であることがより好ましい。この重量平均分子量が低いと重合時の分散安定性が低下する傾向にあり、逆に高いと、重合系の粘度上昇により、反応熱除去が困難になる傾向がある。
【0028】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜60重量部、より好ましくは1〜30重量部、特に好ましくは2〜20重量部である。
【0029】
なお、重合時に、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物以外に、乳化重合において通常使用される低分子量の界面活性剤を併用してもよい。ここで、低分子量とは、1,000以下の分子量を指す。
しかしながら、併用する場合の低分子量の界面活性剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.5重量部以下とすることが好ましく、0.2重量部以下とすることが好ましく、使用しないことが特に好ましい。この使用量が多いと、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物発生量が多くなったり、ディップ成形品の耐ブロッキング性が悪化したりする傾向がある。
【0030】
重合に使用する水性媒体としては、例えば、水または水と水溶性アルコールとの混合溶媒が挙げられる。なかでも、水と水溶性アルコールとの混合溶媒が好ましく使用できる。
【0031】
水溶性アルコールとしては、実質的に水溶性である1価アルコールまたは多価アルコールのいずれでもよいが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。なかでも、メタノール、エタノールが好ましく使用できる。
このアルコールの使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。
【0032】
水性媒体の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは100〜900重量部、より好ましくは150〜500重量部である。
【0033】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの油溶性過酸化物;過酸化物と重亜硫酸水素ナトリウムなどの各種還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤などを挙げることができる。なかでも、水溶性過酸化物が好ましく、過硫酸塩がより好ましく使用できる。この使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0034】
重合体ラテックス(A)の重合に際しては、必須ではないが、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤は、ラジカル重合において通常使用されるものであれば特に限定されない。
分子量調整剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのメルカプタン類;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシルなどのメルカプト基を有する化合物;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンなどのα−メチルスチレンダイマー類;ターピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール系化合物;アリルアルコール、メタリルアルコールなどのアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル化合物;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン;などを挙げることができる。
【0035】
分子量調整剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.5重量部以下、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下であるが、分子量調整剤を使用せずに重合することが特に好ましい。
【0036】
単量体の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。なかでも、単量体を連続で添加することが好ましい。単量体を連続で添加する場合、その組成は均一でも、不均一でもよく、連続的に組成を変化させながら添加することもできる。
【0037】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。なかでも、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を連続で添加することが好ましい。
【0038】
単量体とアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とは、それぞれ別々に添加しても、単量体、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び水性媒体を混合して得られる単量体乳化物の形態で添加してもよい。
単量体とアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とを別々に添加する場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが好ましい。単量体のみが先に多量に添加されると凝集物が発生しやすく、逆に、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物のみが先に多量に添加されると重合系が増粘する、又は凝集物が発生しやすくなるなどの問題が起きやすい。両者の添加終了は、必ずしも同時である必要はないがほぼ同時であることが好ましい。
【0039】
ラジカル重合開始剤の添加方法は、特に限定されないが、反応器に、一括で、分割で、または連続で添加することができる。
【0040】
重合温度は、特に制限はないが、通常、0〜100℃、好ましくは5〜95℃である。
【0041】
重合体ラテックス(A)としては、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体と40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体とを含有してなるものが好ましく使用できる。
【0042】
上記のTg1は、好ましくは−60〜0℃、より好ましくは−50〜−20℃の範囲にある。Tg1の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、グリップ性に劣る傾向にある。
【0043】
上記のTg2は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃の範囲にある。Tg2の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、グリップ性に劣る傾向にある。
【0044】
上記の重合体ラテックス(A)は、Tg1を有する重合体のラテックスとTg2を有する重合体のラテックスとの混合物であっても、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、いわゆる、異相構造型の重合体ラテックスであってもよい。グリップ性と耐ブロッキング性とのバランスに優れる点で、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、いわゆる、異相構造型の重合体ラテックスであることが好ましい。
【0045】
Tg1とTg2とを有する重合体ラテックス(A)は、水性媒体中、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体を形成し得る単量体(M1)を重合(以下、「第1段階重合」と略する場合がある。)した後、次いで40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を重合(以下、「第2段階重合」と略する場合がある。)して得られる物であることが好ましい。
【0046】
単量体は、Tg1を有する重合体を形成し得る単量体(M1)とTg2を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を、それぞれ、適宜選択する。それぞれの単量体は、単独であっても2種以上の単量体からなる混合物であってもよい。
【0047】
M1の好ましい単量体としては、アクリル酸n−ブチル(BA)単独またはこれとメタクリル酸メチル(MMA)との混合物が挙げられる。その量比は、BA/MMAが、好ましくは100/0〜45/55、より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
M2の好ましい単量体としては、BAとMMAとの混合物またはMMA単独が挙げられる。その量比は、BA/MMAが、好ましくは30/70〜0/100、より好ましくは25/75〜5/95、特に好ましくは20/80〜15/85である。
【0048】
M1とM2の量比は、M1/M2が好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは25/75〜70/30、特に好ましくは30/70〜50/50である。
【0049】
第1段階重合および第2段階重合において、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を、各重合段階で使用する単量体全量100重量部に対して、前記した範囲内で使用することが好ましい。
【0050】
第1段階重合において、重合転化率が、80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上になった後に、第2段階重合を開始することが好ましい。このように重合を行うと、耐ブロッキング性とグリップ性のバランスにより優れるディップ成形品が得られる。
【0051】
2段階重合を行った後、所定の重合転化率に到達した時点で、重合を停止する。重合の停止は、重合停止剤を添加したり、重合反応系を冷却したりすることによって行うことができる。重合を停止する際の重合転化率は、重合に使用する全単量体に対して、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
重合を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、ラテックスのpHや固形分濃度を調整して、重合体ラテックス(A)が得られる。
【0052】
本発明で用いる重合体ラテックス(A)には、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、防腐剤、可塑剤、消泡剤などの助剤を重合時または重合後に併用してもよい。
【0053】
以上のようにして得られた重合体ラテックス(A)は、重合に使用したアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物が結合した重合体ラテックス粒子からなる。重合体ラテックス粒子に結合しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量は、重合に使用した単量体が重合して形成された重合体100重量部に対して、好ましくは0.3〜30重量部、より好ましくは0.5〜20重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。
【0054】
重合体ラテックス粒子に結合しているアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量は、例えば、重合に使用するアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の種類およびその使用量、重合開始剤の種類およびその使用量、並びに重合温度などを調整することにより調整できる。
【0055】
重合体ラテックス(A)を構成する重合体ラテックス粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.05〜3μm、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0056】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、重合体ラテックス(A)を0.3〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%の固形分濃度で含むことが好ましい。重合体ラテックス(A)の固形分濃度がこの範囲にあると、グリップ性と耐ブロッキング性とのバランスにより優れる。
【0057】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物に用いるカチオン性界面活性剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、第1級アミンの塩、第2級アミンの塩、第3級アミンの塩、第4級アンモニウム塩などが挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩が好ましく使用できる。
【0058】
第1級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第1級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0059】
第2級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第2級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0060】
第3級アミンの塩としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの置換基を有する第3級アミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0061】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、下記一般式(1)で表されるもの、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩などが挙げられる。
一般式(1)
【化1】
式中、R1〜R4は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0062】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ラウリルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド挙げられる。
【0063】
ピリジニウム塩としては、例えば、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
一般式(2)
【化2】
式中、R5〜R9は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基および水素原子から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。R10は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる基である。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0064】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、ラウリルピリジニウムクロライド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0065】
イミダゾリウム塩としては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
一般式(3)
【化3】
式中、R11およびR12は、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。R13は、炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選ばれる基である。Xは、ハロゲン原子である。
【0066】
一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、2−ラウリル−N−メチル−N−ラウリルイミダゾリウムクロライド、2−ラウリル−N−エチル−N−ラウリルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。
【0067】
上記の第4級アンモニウム塩のなかでも、一般式(1)又は(2)で表される化合物が好ましい。一般式(1)の第4級アンモニウム塩としては、R1〜R3が炭素数1〜4の低級アルキル基であり、R4が炭素数10〜18の高級アルキル基である化合物が好ましい。一般式(2)の第4級アンモニウム塩としては、R5〜R9が水素原子であり、R10が炭素数10〜18の高級アルキル基である化合物が好ましい。これらの具体的な化合物としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライドが好ましく使用できる。
【0068】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、カチオン性界面活性剤を、重合体ラテックス(A)の固形分100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは2〜10重量部含む。カチオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、表面抵抗率が高くなる傾向にあり、逆に多すぎるとグリップ性が悪化する傾向にある。
【0069】
本発明で用いるディップ成形用凝固剤としては、ディップ成形において通常使用されるものであれば特に限定さないが、例えば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩などが挙げられる。なかでも、塩化カルシウム、硝酸カルシウムが好ましく、硝酸カルシウムがより好ましく使用できる。
ディップ成形用凝固剤の濃度は、ディップ成形用凝固剤組成物中、通常、5〜70重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0070】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、通常、水性媒体の溶液または分散液として使用する。水性媒体としては、例えば、水、水溶性有機溶媒、またはそれらの混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;アセトンなどが挙げられる。
【0071】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、本発明の効果を本質的に損なわない限り、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。
【0072】
本発明のディップ成形品は、前記のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られる。
【0073】
ディップ成形用ラテックス組成物に用いるディップ成形用ラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックスや合成の共役ジエンゴムラテックスが挙げられる。なかでも、所望の特性を有するディップ成形品を容易に製造し易い点で、合成の共役ジエンゴムラテックスが好ましく使用できる。
【0074】
合成の共役ジエンゴムラテックスは、共役ジエン単量体、または共役ジエン単量体および共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体を重合して得られるものである。
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ハロゲン置換ブタジエンなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、1,3−ブタジエンが好ましく使用できる。共役ジエン単量体の使用量は、全単量体中、好ましくは30〜89.5重量%であり、より好ましくは45〜79重量%である。
【0075】
共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミドなどが挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましく、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体がより好ましく使用される。
【0076】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルが好ましく使用できる。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0077】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル;などを挙げることができる。なかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましく使用できる。
【0078】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸β−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートアクリルアミドなどが挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
上記の単量体以外にも、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルピリジンなどを用いることができる。
これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
共役ジエンゴムラテックスとしては、本発明の効果が発現し易い上に、柔軟、かつ耐油性および機械的強度に優れるディップ成形品が得られる点で、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体からなる単量体混合物を重合して得られるものが好ましく使用できる。この場合の組成比は、共役ジエン単量体30〜89.5重量%、好ましくは45〜79重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%、およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の範囲にあることが好ましい。
【0080】
共役ジエンゴムラテックスは、通常、上記の単量体を、従来公知の乳化重合法を用いて製造することができる。
【0081】
ディップ成形用ラテックス組成物は、上記のディップ成形用ラテックス以外に、加硫剤および加硫促進剤を配合することが好ましく、さらに所望により、酸化亜鉛を配合してもよい。
【0082】
加硫剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアミン類;などが挙げられる。なかでも、硫黄が好ましい。加硫剤の使用量は、ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜4重量部である。
【0083】
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリルー2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられる。なかでも、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
加硫促進剤の使用量は、ディップ成形用ラテックスの固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜4重量部である。
【0084】
酸化亜鉛の使用量は、ディップ成形用ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。
【0085】
ディップ成形用ラテックス組成物には、さらに所望により、ディップ成形において通常使用される、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、軟化剤などを配合してもよい。
【0086】
ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度は、通常、20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%である。ディップ成形用ラテックス組成物のpHは、通常、8以上、好ましくは9〜11の範囲である。
【0087】
ディップ成形法としては、ディップ成形用凝固剤組成物を使用する従来公知のディップ成形法を用いることができ、例えば、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法などが挙げられる。なかでも、均一な厚みを有するディップ成形品が得られやすい点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0088】
アノード凝着浸漬法の場合、ディップ成形型を上記のディップ成形用凝固剤組成物に浸漬して、ディップ成形型上に該組成物を付着させた後、それをディップ成形用ラテックス組成物に浸漬して、該型上にディップ成形層を形成する。
【0089】
ディップ成形型としては、例えば、磁器製、陶器製、金属製、ガラス製、およびプラスチック製のものなどが挙げられる。ディップ成形品が手袋である場合、成形型は人の手の輪郭に対応する形状を有するものであり、製造しようとする手袋の使用目的に応じて、手首から指先までの形状のもの、肘から指先までの形状のもの等、種々の形状のものを用いることができる。
【0090】
ディップ成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬する条件としては、特に限定されないが、30〜70℃に加温したディップ成形型を、ディップ成形用凝固剤組成物に1秒間〜5分間、好ましくは1秒間〜3分間、浸漬することが好ましい。
【0091】
ディップ成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬した後、30〜80℃の温度で、該型上に付着したディップ成形用凝固剤組成物中の溶媒を揮散させる。
【0092】
次いで、そのディップ成形型を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬して該型上にディップ成形層を形成する。ディップ成形型を、ディップ成形用ラテックス組成物に浸漬する時間は、ディップ成形品の膜厚に応じて適宜調節される。
【0093】
ディップ成形型上にディップ成形層を形成した後、所望により、加温してディップ成形層中の揮発成分を揮散させる。その後、加熱処理を施して、ディップ成形層を加硫する。
ディップ成形層の加硫条件は、80〜150℃の温度で、10〜120分間の加硫時間である。加熱の方法としては、赤外線や熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、熱空気による加熱が好ましい。
【0094】
なお、ディップ成形層を加硫する前にリーチングを行ってもよい。リーチングは、通常、ディップ成形型上のディップ成形層を、20〜60℃の温水に、1〜30分間程度、浸漬して行われる。リーチングを行なうことで、ディップ成形層中に含まれる水溶性不純物(例えば、余剰の乳化剤や凝固剤など)が除去され、より機械的強度に優れるディップ成形品が得られる。
このリーチングは、ディップ成形層を加硫した後に行ってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、ディップ成形層を加硫する前に行なうのが好ましい。
【0095】
ディップ成形層を加硫した後、該加硫物を反転させながら、ディップ成形型から脱着することによって、ディップ成形品が得られる。このようにすると、ディップ成形用凝固剤組成物中の重合体ラテックス(A)およびカチオン性界面活性剤に由来する表面層が、ディップ成形品の外側に形成されたディップ成形品が得られる。
脱着方法は、手で型から剥がしたり、水圧や圧縮空気の圧力により剥がしたりする方法が採用できる。
脱着後、さらに60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理を行ってもよい。
【0096】
本発明のディップ成形品は、超純水に2時間浸漬した後、20℃、相対湿度65%の雰囲気下で測定される、ディップ成形品の外側表面における表面抵抗率が好ましくは107〜1010Ω/square、より好ましくは108〜1010Ω/squareのものである。超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率がこの範囲にあるディップ成形品は、精密電子部品や半導体部品の製造において、より好適に使用できる。
ここで、本発明において、107とは1×107を意味する。1010等についても同様である。また、107〜1010とは1×107以上1×1010以下を意味する。108〜1010等についても同様である。
表面抵抗率は、ASTM D257−93に準じて測定する。詳細は実施例に記載したとおりである。
本発明において、超純水は、25℃での比抵抗が16MΩcm以上の水を意味する。
【0097】
本発明のディップ成形品としては、厚みが約0.1〜3ミリのものが製造でき、特に厚みが0.1〜0.3ミリの薄手のものが好適に使用できる。その具体例としては、例えば、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕などの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグなどの工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用および工業用のアンサポート型手袋またはサポート型手袋;指サックなどが挙げられる。なかでも、表面抵抗率が低いので、精密電子部品製造用、半導体部品製造用の手袋として好適に使用できる。
【0098】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載における「部」および「%」は特に断りのない限り重量基準である。
【0099】
物性値の測定は以下のように行なった。
(1)重合体ラテックスの体積平均粒子径
コールターLS230(コールター社製)を用いて、測定した。
(2)重合体ラテックスのガラス転移温度
重合体ラテックスを枠付きガラス板に流延し、温度20℃相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間放置してフィルムを得、これを試料とした。
上記試料のガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製:SSC5200)を用いて、開始温度−100℃、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
(3)重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量
得られた重合体ラテックスの固形分濃度を10%に調整して、その60gを試料とする。この試料を、遠心分離器(国産遠心機社製:H−2000A)を用いて、5℃で13,000rpm、60分間遠心分離し、その上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物に蒸留水50gを加えて、均一にした後、上記と同一条件で遠心分離して、上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物について、さらに、上記と同一の操作を、2回繰り返した。
その後、得られた沈降物を、40℃で48時間、真空乾燥した。得られた重合体を、1H−NMR分析して、重合で生成した重合体100重量部に対する、該重合体に結合しているポリビニルアルコール量を求めた。
【0100】
(4)ゴム手袋のグリップ性
得られたゴム手袋を装着し、水で濡らしたガラス棒をつかむときのグリップ性を以下の基準で評価した。
A:滑らずに濡れたガラス棒がつかめる。
B:濡れたガラス棒がややつかみにくい。
C:濡れたガラス棒が滑ってつかめない。
(5)ゴム手袋の耐ブロッキング性
ゴム手袋を2枚重ねたものを2枚のガラス板で挟み、ガラス板上に5Kgのおもりを置き、それを100℃のオーブン中に24時間放置した。室温まで、冷却した後、2枚のゴム手袋を剥がす際の剥がし易さを以下の基準で判定した。
A:2枚のゴム手袋を容易に剥がすことができる。
B:2枚のゴム手袋を剥がす際に力を要する。
C:2枚のゴム手袋を剥がすのが困難であり、無理に剥がすとゴム手袋が破損する。
【0101】
(6)超純水に浸漬した後の表面抵抗率
得られたゴム手袋の手の平部分から、10cm角の試験片を切り抜き、それを比抵抗が18.3MΩcmの超純水500mlに、30℃で2時間浸漬し、浸漬した後の試験片を70℃で乾燥した。乾燥後の試験片を20℃、相対湿度が65%の恒温恒湿室で1夜放置した後、同じ雰囲気下で、ASTM D257−93に準じて、測定電圧250Vで、試験片の表面抵抗率を測定した。なお、試験片の測定は、ゴム手袋の外側表面に相当する部分で行なった。
この測定における上限界値は、3.8×1010Ω/squareであった。
【0102】
(参考例1)
攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水28部、アクリル酸ブチル29.2部、メタクリル酸メチル3.3部、及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)1.75部を添加し、撹拌して、単量体乳化物Iを得た。
別の攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水52部、アクリル酸ブチル11.7部、メタクリル酸メチル55.8部及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)3.25部を添加し、撹拌して、単量体乳化物IIを得た。
【0103】
別途、攪拌機付きの耐圧反応容器に、脱イオン水70部及びエタノール8部を入れ、温度を80℃に昇温し、80℃を維持した状態で、反応容器に前記単量体乳化物Iの連続添加を開始し、次いで、過硫酸カリウム0.3部を脱イオン水10部に溶解した開始剤溶液を添加した。単量体乳化物Iの連続添加は90分間かけて終了した。添加終了後、さらに40分間後反応を行なった。この時の重合転化率は99%であった。
引き続き、単量体乳化物IIを180分間かけて反応容器に連続添加し、添加終了後、さらに2時間後反応を行なった。その後、冷却して反応を終了させた。この時の重合転化率は98%であった。
未反応単量体を除去した後、固形分濃度を調整して、固形分濃度40%の重合体ラテックスA1を得た。
得られた重合体ラテックスA1の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0104】
(参考例2)
表1に示す、単量体乳化物I、単量体乳化物II、および各単量体乳化物の連続添加時間に変更する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスA2を得た。なお、ポリビニルアルコールとしては、PVA−224(クラレ社製、平均重合度2400、けん化度88モル%)を用いた。
得られた重合体ラテックスA2の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0105】
(参考例3)
表1に示す単量体乳化物Iのみを使用して、1段階で重合する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスA3を得た。
得られた重合体ラテックスA3の体積平均粒子径、ポリビニルアルコール結合量およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0106】
(参考例4)
表1に示す、単量体乳化物I、および単量体乳化物IIに変更する以外は、参考例1と同様にして、重合体ラテックスBを得た。なお、ポリビニルアルコールの代わりに、アニオン界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム(ペレックスSS−H;花王(株)製)を、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120;花王(株)製)を用いた。
【0107】
重合体ラテックスBは、ポリビニルアルコールを使用せずに製造したものなので、重合体粒子へのポリビニルアルコール結合量の測定は行わなかった。
なお、重合体ラテックスBに、重合体100部あたり、5部に相当する量のポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製)を含む水溶液を添加混合したものを試料として、重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量を測定したところ、ポリビニルアルコールは検出されなかった。これは、この操作によって、遊離のポリビニルアルコールがほとんど除去されることを示している。
得られた重合体ラテックスBの体積平均粒子径およびガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例1)
250部の重合体ラテックスA1(総固形分100部に相当する。)および12.5部のセチルトリメチルアンモニウムクロライド40%水溶液を混合し、重合体ラテックス組成物を調製した。
次いで、硝酸カルシウム20部及び脱イオン水70部を混合した凝固剤溶液に、上記の重合体ラテックス組成物を、重合体ラテックスA1の固形分で1.5部に相当する量添加し、硝酸カルシウムの濃度が20%になるように、脱イオン水を加え、ディップ成形用凝固剤組成物Aを調製した。
【0110】
一方、硫黄1部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、酸化亜鉛0.5部および酸化チタン1.5部を、水3.5部に分散して、加硫剤分散液を調製した。アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体ラテックス(1,3−ブタジエン単位67.5%、アクリロニトリル単位27%およびメタクリル酸単位5.5%、固形分濃度40%、ラテックスpH8.5)250部に、上記の加硫剤分散液7部を添加した後、水酸化カリウム水溶液および水を添加して、pH9.5、固形分濃度30%のディップ成形用ラテックス組成物を調製した。
【0111】
60℃に加熱した手型を、40℃に調整した上記のディップ成形用凝固剤組成物Aに、10秒間浸漬した後、60℃で、10分間乾燥した。この凝固剤組成物が付着した手型を、前記のディップ成形用ラテックス組成物に10秒間浸漬し、手型上にディップ成形層を形成した。次いで、40℃の脱イオン水で5分間リーチングし、60℃で10分間乾燥した後、120℃で20分間ディップ成形層を加硫した。得られた加硫物を、手型から反転させながら脱着して、厚さが0.12mmのゴム手袋を得た。このゴム手袋は、外側にディップ成形用凝固剤組成物A中の重合体ラテックスA1およびセチルトリメチルアンモニウムクロライドに由来する表面層を有している。
このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0112】
(実施例2〜4)
表2に示す組成のディップ成形用凝固剤組成物B〜Dに変更する以外は、実施例2と同様にしてゴム手袋を得た。これらのゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0113】
(比較例1)
硝酸カルシウム20部及び脱イオン水80部を混合したディップ成形用凝固剤組成物Eに変更する以外は、実施例1と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0114】
(比較例2)
セチルトリメチルアンモニウムクロライドをアニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムに変更して調製したディップ成形用凝固剤組成物Fを用いる以外は、実施例3と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0115】
(比較例3)
セチルトリメチルアンモニウムクロライドをノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120:花王(株)製)に変更して調製したディップ成形用凝固剤組成物Gを用いる以外は、実施例3と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0116】
(比較例4)
重合体ラテックスA1に代えて、重合体ラテックスBを用いて調製したディップ成形用凝固剤組成物Hを用いる以外は、実施例1と同様にしてゴム手袋を得た。このゴム手袋の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2から次のようなことがわかる。
硝酸カルシウム水溶液を用いて製造した比較例1のゴム手袋は、耐ブロッキング性に劣り、表面抵抗率が高い。
アニオン性界面活性剤を含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例2のゴム手袋は、グリップ性に劣り、表面抵抗率が高い。
ノニオン性界面活性剤を含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例3のゴム手袋は、グリップ性に劣り、表面抵抗率が高い。
乳化重合において通常使用されるアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤の存在下で重合して得られた重合体ラテックスBを含むディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した比較例4のゴム手袋は、表面抵抗率が高く、グリップ性が低下する。
【0119】
上記の比較例に比べ、本発明で規定する範囲内のディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造した実施例1〜4のゴム手袋は、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、表面抵抗率が低い。このようなゴム手袋は、精密電子部品製造用、半導体部品製造用の手袋として好適に使用できる。
【0120】
【発明の効果】
本発明によれば、グリップ性および耐ブロッキング性に優れ、かつ、超純水に浸漬した後においても、表面抵抗率が低いディップ成形品および該ディップ成形品を製造するのに好適なディップ成形用凝固剤組成物が提供される。
Claims (4)
- アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックス、カチオン性界面活性剤およびディップ成形用凝固剤からなるディップ成形用凝固剤組成物。
- アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスを0.3〜10重量%の固形分濃度で含む請求項1記載のディップ成形用凝固剤組成物。
- アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物で分散安定化された重合体ラテックスの固形分100重量部に対して、カチオン性界面活性剤を0.5〜20重量部含む請求項1又は2に記載のディップ成形用凝固剤組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。
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- 2003-02-26 JP JP2003048451A patent/JP2004256654A/ja active Pending
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