JP4063110B2 - ディップ成形用凝固剤組成物、ディップ成形品およびその製造方法 - Google Patents

ディップ成形用凝固剤組成物、ディップ成形品およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はディップ成形用凝固剤組成物、ディップ成形品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物の発生がほとんどなく、ディップ成形型が洗浄しやすく、手袋外表面同士が粘着しにくく、手袋からの粉落ちがし難く、かつウェットグリップ性に優れる手袋を与え得るディップ成形用凝固剤組成物、該ディップ成形用凝固剤組成物を用いてディップ成形されたディップ成形品、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムラテックスまたは合成ゴムラテックスから作られるディップ成形品は、ゴム手袋、指サックがその代表的なものとして挙げられる。これらのゴム手袋の外表面は、粘着性を有しているため、重ねて保管した場合、手袋の外表面が互いに粘着して(耐ブロッキング性に劣る。)、使用時に剥がす作業が必要となり、薄手の手袋の場合には、手袋同士を剥がす際に手袋が破れて使用できなくなる問題がある。
【0003】
この手袋同士の粘着を防止するために、手袋の外表面にタルク等の粉体を散布する方法や、塩素化処理することにより手袋の外表面に凸凹を設ける方法が施されている。しかし、粉体を散布する方法で得た手袋は、手袋の着脱時や装着中に粉体が手袋から脱落するため、この種のゴム手袋を医療用手袋(手術用手袋)に用いた場合は、脱落した粉体により手術部位が汚染されて術後感染を招くおそれがある。また、塩素化処理は、工程の制御が難しく、耐ブロッキング性の改善も十分ではなく、且つ塩素を使用するので環境への負荷が大きいという問題がある。
【0004】
これらの方法に代えて、重合体ラテックスの層を手袋の外表面に形成することによって、手袋の耐ブロッキング性を改善する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、カチオン性界面活性剤を用いて、塩に対して安定化させた、ポリクロロプレンラテックスまたはポリウレタンラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形し、これらのラテックスからなる層を手袋外表面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法を採用しても、手袋外表面同士の耐ブロッキング性の改善度合いは不十分である上、特に水に濡れた状態では、手袋外表面が滑りやすくなり、ものをつかみ難くなる(ウェットグリップ性に劣る。)問題があった。また、これらのラテックスの塩に対する安定性が不十分であるので、手袋の製造を繰り返した際に、ディップ成形用凝固剤組成物中でラテックスの凝固物が発生して不具合を起こす問題がある上に、これらのラテックスが成形型に付着して、成形型の洗浄に多大な労力を要する場合があった。
【0005】
また、特許文献2には、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を用いて、共重合性のシリコンオリゴマ-を必須成分とするアクリル酸エステル単量体を、それぞれ得られる共重合体のガラス転移温度が、−50〜25℃の範囲と25〜100℃の範囲になるように、2段階で重合して得られる共重合体ラテックスと無機金属塩とからなるディップ成形用凝固剤組成物に手型を浸漬し、この共重合体ラテックスからなる層を手袋外表面に形成する方法が開示されている。
しかしながら、このような方法では、手袋の外表面同士の耐ブロッキング性は幾分か改善できるものの、特に水に濡れた状態では、手袋外表面が滑りやすくなり、ものをつかみ難くなる(ウェットグリップ性に劣る。)問題があった。また、このような共重合体ラテックスの塩に対する安定性が不十分であるので、手袋の製造を繰り返した際に、ディップ成形用凝固剤組成物中でラテックスの凝固物が発生して不具合を起こす問題がある上に、使用した共重合体ラテックスが成形型に付着して、成形型の洗浄に多大な労力を要する場合があった。
【0006】
【特許文献1】
欧州公開特許640,623号公報
【特許文献2】
米国特許5,993,923号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物の発生がほとんどなく、ディップ成形型が洗浄しやすく、手袋からの粉落ちがし難く、かつ、耐ブロッキング性およびウェットグリップ性に優れる手袋を与え得るディップ成形用凝固剤組成物、該ディップ成形用凝固剤組成物を用いてディップ成形されたディップ成形品、およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリビニルアルコールの存在下で、特定量のエチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体ラテックスをディップ成形用凝固剤に配合することにより、上記の目的を達成できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、水性媒体中、ポリビニルアルコールの存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜20重量%およびこれと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体99〜80重量%からなる単量体混合物を共重合して得られる共重合体ラテックスをディップ成形用凝固剤に配合してなるディップ成形用凝固剤組成物が提供される。
また、本発明によれば、上記ディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形品が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のディップ成形用凝固剤組成物に、成形型を浸漬して成形型表面に該ディップ成形用凝固剤組成物からなる層を形成した後、それをディップ成形用組成物に浸漬して成形型上にディップ成形用組成物からなる凝固層を形成し、次いで、該凝固層を加硫して加硫物を形成した後、成形型から該加硫物を反転させながら脱着させることを特徴とするディップ成形品の製造方法が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いる共重合体ラテックスは、水性媒体中、ポリビニルアルコールの存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜20重量%およびこれと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体99〜80重量%からなる単量体混合物を共重合して得られるものである。
【0011】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物などが挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましく使用できる。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、単量体混合物全量の1〜20重量%、好ましくは3〜18重量%、より好ましくは5〜15重量%である。この使用量が少ないと成形型の洗浄がし難くなり、逆に多いと、得られた手袋のウェットグリップ性に劣り、かつ手袋からの粉落ちが多くなる。
【0012】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体等を挙げることができる。なかでも、芳香族ビニル単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましく、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体がより好ましく使用できる。
【0013】
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
【0014】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどを挙げることができる。
【0015】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体;マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸エステルが挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体が好ましい。
【0016】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリロニトリル等が挙げられる。
【0018】
これらの単量体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体の使用量は99〜80重量%、好ましくは97〜82重量%、より好ましくは95〜85重量%である。この使用量が少ないと、得られた手袋のウェットグリップ性が劣り、かつ手袋からの粉落ちが多くなり、逆に多いと成形型の洗浄がし難くなる。
【0020】
水性媒体としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの水溶性有機溶媒および水、ならびにそれらの混合物が挙げられる。水性媒体の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは100〜500重量、より好ましくは150〜300重量部である。
【0021】
ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位を有し、実質的に水溶性であって、重合時に使用した際に安定な重合体ラテックスが得られるものであればよい。
【0022】
ポリビニルアルコールは、通常、ビニルエステル単量体を主体とするビニル単量体を従来公知の方法で重合して得たビニルエステル重合体(すなわち、ビニルエステル単量体の単独重合体、2種以上のビニルエステル単量体の共重合体、およびビニルエステル単量体と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体)を常法によりけん化することにより容易に得られる。また、この重合体の側鎖または末端にメルカプト基などの変性基を導入したものも使用できる。
【0023】
ビニルエステル単量体は、ラジカル重合可能なものであればいずれも使用でき、その具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどを挙げることができる。なかでも工業的に製造され安価な酢酸ビニルが好ましい。
【0024】
ビニルエステル単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水イタコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその酸無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル;フマル酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸エステル;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン単量体;3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム基含有単量体などを挙げることができる。
【0025】
ポリビニルアルコールのけん化度は、水溶性などの観点から、好ましくは40〜100モル%、より好ましくは60〜99モル%、特に好ましくは80〜95モル%である。けん化度が低すぎると、共重合体ラテックス粒子の分散安定性が低下する。
【0026】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは50〜8,000、より好ましくは100〜6,000、特に好ましくは300〜3,000である。この重合度が低すぎると重合安定性が不十分であり、逆に高すぎると、重合系の粘度上昇による反応熱除去が困難になる、得られる共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となるなどの問題がある。
【0027】
ポリビニルアルコールの使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜60重量部、より好ましくは1〜30重量部、特に好ましくは2〜20重量部である。この量が少ないと、得られた共重合体ラテックスをディップ成形用凝固剤に配合した際に多量の凝固物が発生する傾向にあり、また、重合安定性が不十分であり重合時に凝集物が多量に発生したり、得られる共重合体ラテックスの機械的安定性が低下するなどの問題があり、逆に多いと、重合系の粘度上昇による反応熱除去が困難になる、得られる共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となるなどの問題が起きる。
【0028】
なお、重合時に、ポリビニルアルコール以外に、乳化重合において通常使用される低分子量の界面活性剤を併用してもよい。ここで、低分子量とは、1,000以下の分子量を指す。
しかしながら、併用する場合の低分子量の界面活性剤の使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.5重量部以下とすることが好ましく、0.2重量部以下とすることが好ましく、使用しないことが特に好ましい。この使用量が多いと、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物発生量が多くなったり、ディップ成形品から粉落ちし易くなったりする傾向がある。
【0029】
ポリビニルアルコールの使用方法は、特に限定されないが、ポリビニルアルコールを予め重合反応器に添加したり、ポリビニルアルコールの一部を重合反応器に添加して、重合反応を開始した後、残部を重合反応器に添加したり、重合反応の開始と同時にポリビニルアルコールを連続的または断続的に重合反応器に添加することができる。
【0030】
単量体の添加方法は、特に限定されないが、単量体を予め重合反応器に添加する方法、単量体の一部を重合反応器に添加して重合反応を開始した後残部を重合反応器に添加する方法、単量体を連続的または断続的に重合反応器に添加する方法を採用することができる。なかでも、単量体を連続的に重合反応器に添加する方法が好ましい。
【0031】
単量体とポリビニルアルコールの添加方法は、特に限定されないが、それぞれ別々に添加してもよく、単量体、ポリビニルアルコールおよび水性媒体を混合して得られる単量体乳化物の形態で添加してもよい。単量体とポリビニルアルコールとを別々に添加する場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが好ましく、また、両者の添加をほぼ同時に終了させることが好ましい。なかでも、単量体、ポリビニルアルコールおよび水性媒体を混合して得られる単量体乳化物の形態で、連続的に重合反応器に添加する方法が好ましい。
【0032】
単量体を連続的に添加する場合の添加速度は、特に制限はないが、反応系中の重合転化率が30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%を保つように制御するのが好ましい。単量体の添加速度が速すぎると反応系中の重合転化率が低くなり、粗大粒子が発生しやすくなる。
【0033】
前記の単量体を重合させる際に使用する重合開始剤は、乳化重合において通常使用されるものが使用できる。重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの油溶性過酸化物;過酸化物と重亜硫酸水素ナトリウムなどの各種還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤などを挙げることができる。なかでも水溶性過酸化物が好ましく、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩がより好ましい。
重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して、通常、0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0034】
重合開始剤の添加方法は、特に限定されないが、重合開始前の重合反応器に全量を添加したり、重合開始前の重合反応器に一部を投入して重合を開始した後、残部をある特定の時期に添加したり、重合開始前に重合反応器に一部を投入して重合を開始した後、残部を連続的または断続的に重合反応系に添加することができる。
【0035】
上記の重合体ラテックスの製造方法において、重合を水溶性のアルコール存在下に行うことが好ましい。
この場合に使用し得るアルコールは、特に限定されないが、1価または多価の水溶性のアルコールが好ましい。このようなアルコールの具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールなどが挙げられる。なかでも、メタノール、エタノール、プロパノールが好ましく使用できる。
アルコールの使用量は、重合に使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜20重量部である。
【0036】
アルコールの添加方法は、特に限定されないが、重合開始前の重合反応器に全量を添加したり、重合開始前の重合反応器に一部を投入して重合を開始した後、残部をある特定の時期に添加したり、重合開始前に重合反応器に一部を投入して重合を開始した後、残部を連続的または断続的に重合反応系に添加することができる。なかでも、重合開始前の重合反応器に全量を添加する方法が好ましい。
【0037】
重合に際しては、必須ではないが、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのメルカプタン類;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレートなどのメルカプト基を有する化合物;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、1,1,3−トリメチル−3−フェニルインダンなどのα−メチルスチレンダイマー類;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタンなどが挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体100重量部に対して、通常、5重量部以下である。
連鎖移動剤の添加方法は、特に限定されず、一括添加しても、断続的または連続的に重合反応系に添加してもよい。
【0038】
重合温度は、特に制限はないが、通常、0〜100℃、好ましくは50〜95℃である。
【0039】
本発明で用いる共重合体ラテックスは、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体と40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体とからなるものであることが好ましい。この場合、共重合体ラテックスは、Tg1を有する重合体のラテックスとTg2を有する重合体のラテックスとの混合物であっても、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、いわゆる、異相構造型の共重合体ラテックスであってもよい。物性バランスにより優れる点で、Tg1を有する重合体とTg2を有する重合体とがひとつの粒子内に存在する、異相構造型の共重合体ラテックスであることが好ましい。
【0040】
さらに、本発明で用いる共重合体ラテックスは、水性媒体中、ポリビニルアルコールの存在下、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体を形成し得る単量体(M1)を重合(以下、「第1段階重合」と略する場合がある。)した後、次いで40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を重合(以下、「第2段階重合」と略する場合がある。)して得られるものであることが好ましい。
【0041】
Tg1は、−85〜+10℃、好ましくは−60〜0℃、より好ましくは−50〜−20℃の範囲にある。Tg1の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、手袋から粉落ちしやすい傾向にある。
【0042】
Tg2は、40〜140℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃の範囲にある。Tg2の温度が低すぎると、耐ブロッキング性に劣る傾向があり、逆に高すぎると、手袋から粉落ちしやすい傾向にある。
【0043】
単量体は、Tg1を有する重合体を形成し得る単量体(M1)とTg2を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を、それぞれ、適宜選択する。この場合、エチレン性不飽和カルボン単量体は、M1のみに使用しても、M2のみに使用しても、M1およびM2に使用してもよい。手袋のウェットグリップ性と成形型の洗浄のし易さとのバランスにより優れる点で、エチレン性不飽和カルボン単量体をM2のみに使用することが好ましい。
【0044】
M1の好ましい単量体としては、アクリル酸n−ブチル(BA)単独またはこれととメタクリル酸メチル(MMA)との混合物が挙げられる。その重量比は、BA/MMAが、好ましくは100/0〜45/55、より好ましくは100/0〜70/30、特に好ましくは100/0〜90/10である。
M2の好ましい単量体としては、BA、MMAおよびメタクリル酸(MAA)の混合物、または、MMAおよびMAAの混合物が挙げられる。その組成は、好ましくはBA0〜30重量%、MMA30〜99重量%およびMAA1〜40重量%、より好ましくはBA5〜25重量%、MMA45〜92重量%およびMAA3〜30重量%、特に好ましくはBA15〜20重量%、MMA60〜80重量%およびMAA5〜20重量%である。
【0045】
M1とM2の重量比は、M1/M2が好ましくは20/80〜80/20、より好ましくは25/75〜70/30、特に好ましくは30/70〜50/50である。
【0046】
第1段階重合において、重合転化率が、80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上になった後に、第2段階重合を開始することが好ましい。このように重合を行うと、手袋の耐ブロッキング性と成形型の洗浄のし易さとのバランスにより優れる共重合体ラテックスが得られる。
【0047】
2段階重合を行った後、所定の重合転化率に到達した時点で、重合を停止する。重合の停止は、重合停止剤を添加したり、重合反応系を冷却したりすることによって行うことができる。重合を停止する際の重合転化率は、重合に使用する全単量体に対して、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
重合を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去してもよい。
【0048】
本発明で用いる共重合体ラテックスには、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、防腐剤、可塑剤、消泡剤などの助剤を重合時または重合後に併用してもよい。
【0049】
本発明で用いる共重合体ラテックスは、重合に使用したポリビニルアルコールが結合した共重合体粒子を含有してなるものであることが好ましい。
共重合体粒子に結合しているポリビニルアルコールの量は、重合で生成した共重合体100重量部に対して、好ましくは0.3〜30重量部、より好ましくは0.5〜20重量部、特に好ましくは1〜10重量の範囲である。この量が少ないと、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物が発生しやすい傾向にあり、逆に多いと、手袋の耐ブロッキング性とウェットグリップ性とのバランスが悪化する傾向にある。
【0050】
共重合体粒子に結合しているポリビニルアルコールの量は、例えば、重合に使用するポリビニルアルコールの種類およびその使用量、重合開始剤の種類およびその使用量、並びに重合温度などを適宜選択することにより調整できる。
【0051】
共重合体粒子の体積平均粒子径は、好ましくは50〜5000nm、より好ましくは80〜2000nm、特に好ましくは100〜1000nmである。この平均粒子径が小さいと、重合中に増粘しやすくなり、取り扱いし難い傾向にあり、逆に大きいと手袋から粉落ちし易くなる傾向がある。
【0052】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物は、上記の共重合体ラテックスをディップ成形用凝固剤に配合してなる。
【0053】
ディップ成形用凝固剤としては、ディップ成形において通常使用されるものが使用でき、例えば、周期律表第2、12および13族金属の水溶性多価金属塩が挙げられる。
【0054】
水溶性多価金属塩の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化物;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩などが挙げられる。なかでも、塩化カルシウム、硝酸カルシウムが好ましい。これらのディップ成形用凝固剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0055】
これらのディップ成形用凝固剤は、通常、溶液の状態で使用され、水溶液の状態で使用することが好ましいが、メチルアルコール、エチルアルコールなどの低級アルコールを含む水性媒体溶液であっても良い。
ディップ成形用凝固剤の溶液濃度は、その種類によっても異なるが、通常、5〜70重量%、好ましくは20〜50重量%である。使用する際の溶液温度は、通常、0〜90℃、好ましくは25〜70℃である。
【0056】
共重合体ラテックスの配合量は、ディップ成形用凝固剤組成物における共重合体ラテックスの固形分濃度が、好ましくは0.3〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは1〜4重量%の範囲になる量である。
【0057】
本発明のディップ成形用凝固剤組成物には、本発明の効果を実質的に損なわない限り、さらに微粒子を配合してもよい。
微粒子としては、例えば、シリカ、酸化マグネシウム、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機微粒子;アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、オレフィン系樹脂、ホルムアルデヒド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、セルロース系樹脂、澱粉系およびそれらの架橋物などの有機微粒子;が挙げられる。これらの微粒子は単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
微粒子の体積平均粒子径は、通常、1〜50μm、好ましくは3〜30μmである。
微粒子の形状は、特に限定されないが、球状であることが好ましい。
【0059】
微粒子の配合量は、共重合体ラテックス固形分100重量部に対して、通常、200重量部以下、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
【0060】
ディップ成形用凝固剤組成物には、所望により、さらに、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤などを配合してもよい。
【0061】
本発明のディップ成形品は、上記のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用組成物をディップ成形してなる。
【0062】
ディップ成形法としては、例えば、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法およびそれらを組み合わせた方法が採用できる。なかでも、本発明の効果が最も発現し易い点で、アノード凝着浸漬法が好ましく採用できる。
【0063】
上記のディップ成形用凝固剤組成物を用いてアノード凝着浸漬法により、ディップ成形品を得る場合、以下のような工程を経る。
上記のディップ成形用凝固剤組成物に、成形型を浸漬して成形型表面に該ディップ成形用凝固剤組成物からなる層を形成した後、それをディップ成形用組成物に浸漬して成形型上にディップ成形用組成物からなる凝固層を形成し、次いで、該凝固層を加硫して加硫物を形成した後、成形型から該加硫物を反転させながら脱着させて、ディップ成形品を得る。
【0064】
ディップ成形において用いられる成形型としては、例えば、磁器製、陶器製、金属製、ガラス製、およびプラスチック製のものなどが挙げられる。ディップ成形品が手袋である場合、成形型は人の手の輪郭に対応する形状を有するものであり、製造しようとする手袋の使用目的に応じて、手首から指先までの形状のもの、肘から指先までの形状のもの等、種々の形状のものを用いることができる。
【0065】
ディップ成形用組成物としては、通常、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、カルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスなどの合成ゴムラテックスおよび/または天然ゴムラテックスに、硫黄、加硫促進剤および酸化亜鉛を配合したものが使用され、その固形分濃度は、通常、10〜40重量%である。
硫黄、加硫促進剤および酸化亜鉛の配合量は、目的とする物性を得るように、適宜調整される。
【0066】
成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬する時間、成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬した後、成形型を引き上げて乾燥する温度と時間、成形型をディップ成形用組成物に浸漬する時間、および、成形型をディップ成形用組成物に浸漬した後、成形型を引き上げて乾燥する温度と時間は、適宜調整される。
【0067】
前記凝固層を加硫する条件は、ディップ成形用組成物の処方に合わせて適宜調節できるが、通常、100〜130℃で、10〜60分間である。
【0068】
前記凝固層を加硫する前に、余分なディップ成形用凝固剤や水溶性の不純物を除去するために、該凝固層を水で洗浄してもよく、また、さらに前記凝固層に表面コーティングを施してもよい。
【0069】
加硫物を形成した後、所望により、さらに加硫物に表面コーティングを施したり、加硫物を水で洗浄したりした後、該加硫物を反転させながら成形型から脱着させてディップ成形品を得る。
得られたディップ成形品は、所望により、余分なディップ成形用凝固剤や水溶性の不純物を除去するために、さらに水で洗浄してもよい。
以上のようにして、前記の共重合体ラテックスからなるコート層を外表面に有するディップ成形品が得られる。
【0070】
ディップ成形品における、前記の共重合体ラテックスからなるコート層のコーティング量は、特に限定されないが、ディップ成形品の単位表面積に対する固形分量で、好ましくは0.1〜2g/m2、より好ましくは0.15〜1.5g/m2の範囲である。この量は、ディップ成形用凝固剤組成物中の共重合体ラテックスの固形分濃度や成形型をディップ成形用凝固剤組成物に浸漬する条件を適宜選択することにより、調整できる。
【0071】
本発明のディップ成形品は、厚みが約0.1〜約3ミリのものが製造でき、特に厚みが約0.1〜約0.3ミリの薄手のものとして好適に使用できる。
ディップ成形品の具体例としては、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕などの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグなどの工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用および工業用のアンサポート型手袋またはサポート型手袋;指サックなどが挙げられる。なかでも、手袋、好ましくは薄手の手術用手袋として好適に使用できる。
【0072】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、重量基準である。
【0073】
評価は以下に示すように行なった。
(共重合体ラテックスの評価)
(1)体積平均粒子径(nm)
コールターLS230(コールター社製粒子径測定機)で測定した。
(2)ガラス転移温度(℃)
共重合体ラテックスを枠付きガラス板に流延し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間放置してフィルムを得、これを試料とした。
上記試料のガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)社製:SSC5200)を用いて、開始温度−100℃、昇温速度5℃/分の条件で、JIS K 7121に準じて測定した。
【0074】
(3)共重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量
共重合体ラテックスの固形分濃度を10%に調整して、その60gを試料とする。この試料を、遠心分離器(国産遠心機社製:H−2000A)を用いて、5℃で13,000rpm、60分間遠心分離し、その上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物に蒸留水50gを加えて、均一にした後、上記と同一条件で遠心分離して、上澄み液50gを廃棄した。残部の沈降物について、さらに、上記と同一の操作を、2回繰り返した。
その後、得られた沈降物を、40℃で48時間、真空乾燥した。得られた共重合体を、H−NMR分析して、重合で生成した共重合体100重量部に対する、共重合体に結合しているポリビニルアルコール量を求めた。
【0075】
(4)ディップ成形用凝固剤組成物中の凝固物発生率
共重合体ラテックスを配合して調製したディップ成形用凝固剤組成物200mlをガラス瓶に入れ密封したサンプルを、50℃の恒温槽内に24時間放置した。その後、サンプルを室温まで放冷し、中のディップ成形用凝固剤組成物を325メッシュの金網で濾過した後、金網上に残った凝固物を蒸留水で十分に洗浄した。これを60℃で熱風乾燥し、秤量して、金網上の凝固物量を求めた。処理したディップ成形用凝固剤組成物中の共重合体ラテックス固形分全量に対する、凝固物量の割合を百分率で示す。
【0076】
(5)耐ブロッキング性
得られた手袋を2枚重ねて、上部より9.8KPaの荷重をかけた状態で、温度60℃、湿度95%の恒温恒湿オーブン内に、24時間放置した。その後、手袋を取り出して、重ね合わされた部分を両手で剥離した際の剥離の容易さを以下の基準で評価した。
Figure 0004063110
(6)ウェットグリップ性
得られた手袋を装着し、水で濡らしたガラス棒をつかむ際のつかみ易さを以下の基準で判定した。
○:滑らずにガラス棒をつかむことができる。
△:滑りやすいので、ガラス棒をつかむのに注意を要する。
×:ガラス棒が滑るため、つかむことができない。
【0077】
(7)粉落ち性
ASTM D6124−97に従い、脱離樹脂量(mg)を測定した。この量が少ないほど、手袋から粉落ちし難いことを示す。
(8)成形型の洗浄性
使用後の成形型を、70℃の5%水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬した後、その成形型表面を50℃の温水で洗浄する。その後、成形型を乾燥し、成形型表面の汚れ度合いを目視で観察し、以下の基準で判定する。
○:成形型表面に付着物がない。
△:成形型表面に部分的に付着物が存在する。
×:成形型表面のほぼ全面に付着物が存在する。
【0078】
(実施例1)
(共重合体ラテックスの製造)
攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水28部、アクリル酸ブチル29.2部、メタクリル酸メチル3.3部、及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)1.75部を添加し、撹拌して、単量体乳化物Iを得た。
別の攪拌機付きの耐圧容器に、脱イオン水52部、アクリル酸ブチル11.7部、メタクリル酸メチル47.8部、メタクリル酸8部及びポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製、平均重合度500、けん化度88モル%)3.25部を添加し、撹拌して、単量体乳化物IIを得た。
【0079】
別途、攪拌機付きの耐圧反応容器に、脱イオン水70部及びエタノール8部を入れ、温度を80℃に昇温し、80℃を維持した状態で、反応容器に前記単量体乳化物Iの連続添加を開始し、次いで、過硫酸カリウム0.3部を脱イオン水10部に溶解した重合開始剤水溶液を添加した。単量体乳化物Iの連続添加は90分間かけて終了した。添加終了後、さらに40分間、後反応を行なった。この時の重合転化率は99%であった。
引き続き、単量体乳化物IIを180分間かけて反応容器に連続添加し、添加終了後、さらに2時間、後反応を行なった。その後、冷却して反応を終了させた。この時の重合転化率は98%であった。
未反応単量体を除去した後、固形分濃度を調整して、固形分濃度40%の共重合体ラテックスAを得た。得られた共重合体ラテックスAの体積平均粒子径は800nm、ガラス転移温度は、−48℃と68℃の2点が観測され、共重合体粒子に結合したポリビニルアルコールの量は、共重合体100部に対して、2.6部であった。
【0080】
(ディップ成形用凝固剤組成物の調整)
共重合体ラテックスAを固形分で1.5部に相当する量、脱イオン水73.5部、硝酸カルシウム25部およびノニオン界面活性剤のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル0.02部の割合で混合して、ディップ成形用凝固剤組成物A1を調製した。ディップ成形用凝固剤組成物の凝固物発生率を測定し、結果を表1に示す。
【0081】
(ディップ成形品の製造)
硫黄10部、酸化亜鉛15部、酸化チタン7部及び水酸化カリウム0.3部、水32部の割合で混合して調製した固形分濃度50.2%の加硫剤分散液7部を、固形分濃度30%のディップ成形用のカルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス333部に混合して、固形分濃度が30.4%のディップ成形用組成物を得た。
【0082】
前記のディップ成形用凝固剤組成物A1に磁器製の手型を10秒間浸漬し、引き上げた後3分間50℃で乾燥して、手型上に、ディップ成形用凝固剤組成物A1からなる層を形成させた。
【0083】
次に、この手型を上記のディップ成形用組成物に10秒間浸漬し、引き上げて、60℃で5分間乾燥し、50℃温水中に5分間浸漬した後、さらに、60℃で5分間乾燥させた。その後、120℃で25分間、加硫して、手型の表面に固形加硫物を得た。最後に、この固形加硫物を手型から反転させながら剥ぎ取り、外表面にコート層を有する手袋を得た。この手袋の厚みは0.15mmで、コ−ティング量は1g/mであった。この手袋の特性を評価し、その結果を表1に示す。
また、使用後の手型の洗浄性を測定し、その結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
表1に示す、単量体乳化物I、単量体乳化物II、および各単量体乳化物の連続添加時間に変更する以外は、実施例1と同様にして、共重合体ラテックスBを得た。なお、ポリビニルアルコールとしては、PVA−224(クラレ社製、平均重合度2400、けん化度88モル%)を用いた。
共重合体ラテックスAに代えて、共重合体ラテックスBを使用する以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用凝固剤組成物B1を得た。これを用いて、実施例1と同様にディップ成形品を製造し、その特性を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
表1に示す、単量体乳化物I、および単量体乳化物IIに変更する以外は、実施例1と同様にして、共重合体ラテックスCを得た。なお、ポリビニルアルコールの代わりに、アニオン界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム(ペレックスSS−H;花王(株)製)を、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン120;花王(株)製)を用いた。
【0086】
共重合体ラテックスCは、ポリビニルアルコールを使用せずに製造したものなので、共重合体粒子へのポリビニルアルコール結合量の測定は行わなかった。なお、共重合体ラテックスCに、共重合体100部あたり、5部に相当する量のポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ社製)を含む水溶液を添加混合したものを試料として、共重合体粒子へのポリビニルアルコールの結合量を測定したところ、ポリビニルアルコールは検出されなかった。これは、この測定操作によって、共重合体ラテックス中の遊離のポリビニルアルコールがほとんど除去されることを示している。
【0087】
共重合体ラテックスAに代えて、共重合体ラテックスCを使用する以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用凝固剤組成物C1を得た。これを用いて、実施例1と同様にディップ成形品を製造し、その特性を表1に示す。
【0088】
(比較例2)
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量が多い、表1に示す単量体乳化物Iのみを使用して、1段階で重合する以外は、実施例1と同様にして、共重合体ラテックスDを得た。
共重合体ラテックスAに代えて、共重合体ラテックスDを使用する以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用凝固剤組成物D1を得た。これを用いて、実施例1と同様にディップ成形品を製造し、その特性を表1に示す。
【0089】
(比較例3)
エチレン性不飽和カルボン酸単量体を使用せずに、表1に示す、単量体乳化物I、および単量体乳化物IIに変更する以外は、実施例1と同様にして、共重合体ラテックスEを得た。
共重合体ラテックスAに代えて、共重合体ラテックスEを使用する以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用凝固剤組成物E1を得た。これを用いて、実施例1と同様にディップ成形品を製造し、その特性を表1に示す。
【0090】
【表1】
Figure 0004063110
【0091】
表1から次のことがわかる。
ポリビニルアルコールを使用せず、通常のアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤を使用して得られた比較例1の共重合体ラテックスCを用いると、ディップ成形用凝固剤組成物中で凝固物が発生しやすく、このディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造された手袋は、耐ブロッキング性が不十分で、脱落樹脂量がやや多く、かつウェットグリップ性に劣る。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量が、本発明で規定する範囲より多い共重合体ラテックスDを配合した比較例2のディップ成形用凝固剤組成物を用いて製造された手袋は、脱落樹脂量が多く、かつウェットグリップ性に劣る。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体を使用せずに製造した共重合体ラテックスEを配合した比較例3のディップ成形用凝固剤組成物を用いると、成形型の洗浄が極めて困難になる。
【0092】
これらの比較例に比べて、本発明で規定する範囲内の共重合体ラテックスを用いると、ディップ成形用凝固剤組成物中で凝固物の発生がほとんどみられず、ディップ成形型が洗浄しやすく、脱落樹脂量が極めて少なく、かつ、耐ブロッキング性およびウェットグリップ性に優れる手袋が得られている。(実施例1および2)
【0093】
【発明の効果】
本発明によれば、ディップ成形用凝固剤組成物中での凝固物の発生がほとんどなく、ディップ成形型が洗浄しやすく、手袋からの粉落ちがし難く、かつ、耐ブロッキング性およびウェットグリップ性に優れる手袋を与え得るディップ成形用凝固剤組成物、該ディップ成形用凝固剤組成物を用いてディップ成形されたディップ成形品、およびその製造方法が提供される。

Claims (6)

  1. 水性媒体中、ポリビニルアルコールの存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜20重量%およびこれと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体99〜80重量%からなる単量体混合物を共重合して得られる共重合体ラテックスをディップ成形用凝固剤に配合してなるディップ成形用凝固剤組成物。
  2. 共重合体ラテックスの固形分濃度が0.3〜10重量%、かつディップ成形用凝固剤の濃度が5〜70重量%である請求項1記載のディップ成形用凝固剤組成物。
  3. 共重合体ラテックスが、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体と40〜140℃の範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体とからなるものである請求項1または2に記載のディップ成形用凝固剤組成物。
  4. 共重合体ラテックスが、−85〜+10℃の範囲にある第1のガラス転移温度(Tg1)を有する重合体を形成し得る単量体(M1)を重合した後、次いで、40〜140℃に範囲にある第2のガラス転移温度(Tg2)を有する重合体を形成し得る単量体(M2)を重合して得られるものである請求項1〜3のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物を用いて、ディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形品。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のディップ成形用凝固剤組成物に、成形型を浸漬して成形型表面に該ディップ成形用凝固剤組成物からなる層を形成した後、それをディップ成形用組成物に浸漬して成形型上にディップ成形用組成物からなる凝固層を形成し、次いで、該凝固層を加硫して加硫物を形成した後、成形型から該加硫物を反転させながら脱着させることを特徴とするディップ成形品の製造方法。
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