JP2004256315A - セメント補強用ビニロン繊維 - Google Patents
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- C04B16/0616—Macromolecular compounds fibrous from polymers obtained by reactions only involving carbon-to-carbon unsaturated bonds
- C04B16/0641—Polyvinylalcohols; Polyvinylacetates
Abstract
【課題】本発明は、スレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる時に含まれる多量の水分存在下においても高い強度を保持し、硬化後のセメント成形体を十分に補強し得るビニロン繊維を提供することを技術的課題とする。
【解決手段】硼酸を含有するポリビニルアルコールからなり、ケン化度が99.5モル%以上、湿潤強度13.8cN/dtex以上、JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から求めた結晶化度が55%以上で、かつ硼酸含有率が0.4質量%以下であることを特徴とするセメント補強用ビニロン繊維。
【選択図】 なし
【解決手段】硼酸を含有するポリビニルアルコールからなり、ケン化度が99.5モル%以上、湿潤強度13.8cN/dtex以上、JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から求めた結晶化度が55%以上で、かつ硼酸含有率が0.4質量%以下であることを特徴とするセメント補強用ビニロン繊維。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント補強用ビニロン繊維に関するものであり、さらに詳しくはスレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる際、水分を多量に含んでいるが、水分存在下においても高い強度を保持し、硬化後のセメント成形体を十分に補強し得るビニロン繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)を原料とするビニロン繊維は、ナイロンやポリエステルなどの汎用合繊の中でも高い強度を有し、しかも耐アルカリ性などに優れていることからセメント補強用繊維に用いられている。近年では、セメント成形体の強度や耐久性などを更に向上させる必要があり、セメント成形体に添加する補強用繊維の役割もますます重要になってきている。繊維のセメント補強性能を向上させるには、繊維の高強度化が極めて有効な手段の1つであるが、セメント補強用として用いられているビニロン繊維の乾強度は7〜13cN/dtexが一般的なレベルである(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
このため、本発明者等はビニロン繊維の高強度化について検討し、乾強度13.8cN/dtex以上のビニロン繊維を種々試作しセメント補強効果について検討したが、セメント補強性を安定して向上させることができなかった。これについて原因を追及した結果、セメント成形体の強度は補強用繊維の乾強度よりもむしろ湿潤強度との相関が高いことが分かった。
【0004】
セメント成形体を作製する際には多量の水を使用するため、ビニロン繊維が湿潤した時に強度が大幅に低下するようであれば、セメント成形体の性能向上には有効に寄与しないことは予測できることであるが、従来のビニロン繊維の場合、乾強度が高くなれば湿潤強度もそれに応じて高くなることが分かっており、乾強度を13.8cN/dtex以上に向上できれば、当然のことながら湿潤強度も高くなるものと予想され、ビニロン繊維の強度の指標としては乾強度だけで十分であった。
【0005】
しかしながら、本発明者等の研究によれば、乾強度が13cN/dtexよりも高いレベルになると、湿潤強度が急激に低下し、乾強度は14cN/dtex以上と高いにもかかわらず、湿潤強度は従来品またはそれ以下のレベルにまで低下し、このためセメント成形体の性能が向上しないという問題点を発見した。
【0006】
【特許文献1】
特開平2002−293602号公報
【非特許文献1】
株式会社クラレのホームページ HYPERLINK ”http://www.kuraray.co.jp/pvaf/14.html” http://www.kuraray.co.jp/pvaf/14.html
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、スレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる時に含まれる多量の水分存在下においても高い強度を保持し、硬化後のセメント成形体を十分に補強し得るビニロン繊維を提供することを技術的課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビニロン繊維は親水性であるため、乾強度を向上させるだけでは不十分であり、ビニロン繊維が水分を吸収しにくい構造とし、しかも水分を含んだ場合でも高い強度を保持させる必要があることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、硼酸を含有するポリビニルアルコール(PVA)からなり、ケン化度が99.5モル%以上、湿潤強度13.8cN/dtex以上、JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から求めた結晶化度が55%以上で、かつ硼酸含有率が0.4質量%以下であることを特徴とするセメント補強用ビニロン繊維を要旨とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明のビニロン繊維は、硼酸を含有するPVAからなり、ケン化度99.5モル%以上であることが必要である。これによりPVA分子鎖に残る酢酸基量が低減するため、結晶化しやすくなり繊維表面からの水の侵入を抑制することができる。ケン化度が99.5モル%未満の場合、PVAの結晶性が低下するばかりでなく、ケン化度によってはPVAが水に溶解しやすくなり、セメント補強用繊維として適用できないことがあるので好ましくない。このことからPVAのケン化度は99.8モル%以上、さらには99.9モル%以上であることが好ましい。
【0011】
ただし、ここでいうケン化度は、ビニロン繊維に形成された後のPVAのケン化度であり、ビニロン繊維製造に供する原料PVAのケン化度ではない。ビニロン繊維製造工程においてはPVAを二次ケン化することが可能であるので、原料PVAのケン化度は99.5モル%より低くても差し支えない。
【0012】
しかしながら、紡糸原液を調製するための原料PVAのケン化度が低すぎると、凝固浴中で二次ケン化を行っても99.5モル%以上にならない場合があるので、95モル%以上、さらには99モル%以上のケン化度を有するPVAを用いることが好ましい。このようなPVAを用いて紡糸原液を調製するが、PVAを水(熱水)に溶解する際、硼酸をPVAに対して1〜2質量%程度添加し、均一に溶解混合しておくのがよい。また、硼酸をPVAと共に溶解すると、pHによっては架橋反応が起こり、原液の粘度が高くなって溶解槽から紡糸機への送液やノズルからの紡出が困難となるため、硫酸などを添加することにより紡糸原液をpH5以下に調整することが好ましい。
【0013】
また、PVAの重合度としては特に制限されるものではないが、重合度が低すぎると繊維強度が低下する傾向にあるので、重合度1500以上であることが好ましい。
【0014】
なお、本発明におけるPVAのケン化度は以下のようにして測定するものである。
▲1▼得られたビニロン繊維を試料として約3g採取して秤量し、共栓付き三角フラスコに入れ、水100mlを加えた後、1時間放置してから加圧下にて120〜130℃の水浴中で完全溶解する。冷却後、0.1N−水酸化ナトリウム溶液25mlを加え、常温で2時間以上静置する。
▲2▼0.1N−硫酸溶液25mlを加えて、過剰の硫酸を0.1N−水酸化ナトリウム溶液で、フェノールフタレインを指示薬として無色から微紅色に変わった時を終点として滴定する。
▲3▼同時にビニロン繊維を溶解しない以外は同様にして、すなわち水100mlのみ用いて▲1▼および▲2▼の試験を行う。
▲4▼下記式により残存酢酸基量を算出し、ケン化度を求める。
ここで、aは▲2▼での0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、bは▲3▼での試験時の0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、Fは0.1N−水酸化ナトリウム溶液のファクター、Wは試料の質量(g)である。
【0015】
次に、本発明のビニロン繊維は、湿潤強度が13.8cN/dtex以上であることが必要である。本発明者等の知見によれば、乾強度が高くても湿潤強度が低ければ、セメント補強効果は小さい傾向にあり、セメント補強性については乾強度よりもむしろ湿潤強度との相関性が高いことが分かった。湿潤強度を13.8cN/dtex以上、好ましくは14.0cN/dtex以上とすることにより、従来の7〜13cN/dtex程度の乾強度を有するビニロン繊維のセメント補強効果に比べて十分に高い補強効果が得られるのである。
【0016】
また、本発明のビニロン繊維においては、乾強度を特に限定するものではないが、13.0cN/dtex以上とすることが好ましく、さらに13.5cN/dtex以上とすることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のビニロン繊維は結晶化度が55%以上であることが必要である。結晶部は分子構造が緻密であるため、水分が侵入しにくく、結晶部が多いほど繊維中への水の侵入が抑制され耐水性が向上する。結晶化度が55%以上、好ましくは58%以上であることにより、水分を多量に含むセメントとビニロン繊維を混練してもビニロン繊維への水の侵入が抑制され、強度を保持しやすくなる。結晶化度が55%未満の場合、繊維中に水が侵入しやすく従来のビニロン繊維のセメント補強性能と同レベルとなるので、本発明の目的を達成することが困難となる。
【0018】
なお、本発明における湿潤強度は以下のようにして測定するものである。
ビニロン繊維がマルチフィラメントの場合、1本のフィラメントをピンセットで注意深く取り出した単繊維30本を試料とし(モノフィラメントの場合はモノフィラメント30本を試料とする)、20℃のイオン交換水に30分間浸漬した後、直ちにボールドウィン社製引っ張り試験機UMT−2型にセットし、試験長20mm、引っ張り速度20mm/分の条件で単繊維強度をそれぞれ測定し、その平均値より求める。
【0019】
次に、結晶化度は以下のようにして測定するものである。
JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から下記式に従って求めた。
結晶化度(%)=(ds−da)/(dc−da)×100
ここで、daは非晶部の密度1.269g/cm3、dcは結晶部の密度1.345g/cm3、dsは試料の密度(g/cm3)である。
【0020】
また、乾強度と単糸繊度は以下のようにして求めるものである。
105℃に設定した乾熱オーブン中で2時間乾燥したビニロン繊維を、マルチフィラメントの場合、1本のフィラメントをピンセットで注意深く取り出した単繊維を試料とし(モノフィラメントの場合はモノフィラメントを試料とする)、Textechno社製の繊度・強伸度測定器FAFEGRAPHに試料をセットして繊度および乾強度を測定する(試料長60mm、引張速度60mm/分)。この操作を20回繰り返し、その平均値よりそれぞれの値を求める。
【0021】
本発明のビニロン繊維において上記したような湿潤強度や結晶化度を達成するためには、本発明のビニロン繊維の硼酸含有率を0.40質量%以下とすることが必要である。繊維中の硼酸含有率は、ビニロン繊維製造時の延伸工程に影響する要素であり、本発明においては湿潤強度や結晶化度を満足するものとするためには延伸工程が重要である。硼酸含有率が高いとPVA分子中の水酸基との親和性により延伸性を低下させ、その結果高強度(乾強度、湿潤強度)、高結晶化度のビニロン繊維が得られにくくなる。このため繊維中の硼酸含有率は0.40質量%以下である必要があり、特に0.35質量%以下とすることが好ましく、これにより延伸性が向上し、上記したような湿潤強度や結晶化度を達成することが可能となる。
【0022】
つまり、PVAを硼酸との架橋反応によってゲル化させると共に芒硝等による脱水作用により連続繊維を形成させた後、硫酸などの酸を含む中和浴、湿熱浴でPVAと硼酸との架橋結合を切断し、硼酸を遊離の状態にすることが必要である。これによって引き続き行う水洗工程で硼酸を繊維から洗い流すことができる。一般に、この水洗工程で硼酸を洗い流した後の繊維中の硼酸の含有率はほとんど変化せず、最終的に得られる繊維中の硼酸の含有率とほぼ同じである。つまり、水洗工程後の乾燥工程、延伸工程や熱処理工程において、繊維中の硼酸含有率はほとんど変化しない。そこで、本発明においては、最終的に得られた繊維の硼酸含有率を0.4質量%以下とすることで、延伸時の繊維の硼酸含有率をほぼ0.4質量%以下とするものである。
【0023】
しかし、一般に、工業生産においては水洗後における繊維中の硼酸含有率は0.40質量%以下に低減しにくいため、工程通過中の繊維に強制的に振動を与えたり、弛緩状態で処理するといった特別な工夫を行うことにより硼酸含有率を0.40質量%以下、さらには0.35質量%以下に低減することが好ましい。
【0024】
本発明における繊維中の硼酸含有率は以下のようにして求めるものである。
▲1▼得られたビニロン繊維を試料として約5g採取して秤量し、共栓付き三角フラスコに入れ、純水100mlを加えた後、加圧下にて120〜130℃の水浴中で完全に溶解させる。冷却後、メチルレッドを指示薬として、0.1N−水酸化ナトリウム溶液で赤色から橙色に変化するまで中和する。
▲2▼10%マンニトール溶液10mlを加え、フェノールフタレインを指示薬として、0.1N−水酸化ナトリウム溶液で滴定し、紅色に変化したときを終点として下記式より求めた。
硼酸含有率(質量%)=0.6183×a×F/W
ここで、aは0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、Fは0.1N−水酸化ナトリウム溶液のファクター、Wは試料の質量(g)である。
【0025】
本発明のビニロン繊維は、硼酸を含有するPVAを湿式紡糸法を用い、延伸、中和、湿熱延伸、水洗、油剤付与、乾燥、熱延伸等を行って製造することができる。そして、熱延伸後、フィラメントとして捲き取った長繊維のものでも、熱延伸後、カッターにより切断した短繊維形状のものでもよい。またマルチフィラメント、モノフィラメントのいずれでもよい。長繊維の場合は、織編物やシート状物に加工したものをセメント補強用に供することもできる。
【0026】
本発明のセメント補強用ビニロン繊維を短繊維とする場合、単糸繊度0.5〜10dtex、さらに好ましくは1.5〜3dtex、繊維長を2〜20mmとすることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満の場合や繊維長が20mmを超える場合、セメントに添加して混練すると繊維同士が絡まりやすく、いわゆるファイバーボールを形成して分散不良となり、セメント補強性が低下するので好ましくない。また、単糸繊度が10dtexを超える場合は高強度化が困難となりやすく、また、繊維長が2mm未満の場合は繊維が短かすぎてセメント補強性が低下し、好ましくない。
【0027】
以下、本発明のセメント補強用ビニロン繊維の製造方法について説明する。
まず、硼酸を含有する水系のPVA紡糸原液を、水酸化ナトリウムを溶解した芒硝凝固浴中へ紡出し、中和工程、湿熱工程、水洗工程、油剤付与工程、乾燥工程、熱延伸工程などを経て、短繊維とする場合は、一旦捲き取ることなく引き続きカットするか、または紙管に一旦捲き取った後、カットして短繊維を得る。
【0028】
前記したように、好ましくは99モル%以上のケン化度を有するPVAを用い、PVAを水(熱水)に溶解する際、硼酸をPVAに対して1〜2質量%程度添加し、均一に溶解混合しておき、硫酸などを添加することにより紡糸原液をpH5以下に調整する。
【0029】
この紡糸原液をノズルからアルカリ性凝固浴に紡出し、PVAを硼酸との架橋反応によってゲル化させると共に芒硝の脱水作用により連続繊維を形成させた後、硫酸などの酸を含む中和浴、湿熱浴でPVAと硼酸との架橋結合を切断し、硼酸を遊離の状態にする。そして、引き続き行う水洗工程で硼酸を繊維から洗い流す。
このとき、最終的に得られる繊維の硼酸含有率0.40質量%以下にするため、上記したように、水洗工程後の繊維に強制的に振動を与えたり、弛緩状態で処理するといった特別な工夫を行うことにより硼酸含有率を低減させる。
【0030】
そして、水洗工程を通過した繊維に油剤付与工程で油剤を付与した後、乾燥工程に供給する。乾燥工程においては水分を含む水溶解性繊維を乾燥させるため、100℃以下の温度から段階的に温度を上げて乾燥させることが好ましく、乾燥工程通過後における繊維の水分率が約0.5%以下となるように乾燥条件を設定することが好ましい。ただし、実際には乾燥機での設定温度ではなく繊維が受ける熱量によって乾燥条件を設定すべきであり、乾燥機の能力、繊維の処理量、処理速度などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0031】
乾燥工程を通過した、いわゆる未延伸糸の状態で熱延伸工程に供給し、熱延伸を行う。前記したように、熱延伸は最も重要な工程であり、この工程で本発明のビニロン繊維に必要な結晶化度と湿潤強度を調整する。そして、本発明で規定する結晶化度と湿潤強度を達成するため、前記したように熱延伸時に繊維の硼酸含有率を0.40質量%以下とする。
【0032】
そして、結晶化度については、紡糸延伸倍率と熱延伸倍率の積で表される全延伸倍率を高くし、熱延伸温度も高くすることが好ましく、生産速度や錘数などに応じて結晶化度が55%以上となるように条件設定すればよい。一般には全延伸倍率14倍以上、熱延伸温度220℃以上とすることが好ましい。
【0033】
次に、繊維の強度についてであるが、繊維の乾強度については、繊維が延伸により白化するまでは全延伸倍率を高くするほど向上する。湿潤強度もそれに伴いある程度までは向上するものの、あるところから急激に低下する。
すなわち、全延伸倍率を高くすることにより乾強度は高くなるが、ある点を超えると一方で湿潤強度は大幅に低下するのである。一般に繊維強度は乾強度で評価するため、高強度繊維をセメント補強用に使用すればセメント成型品の強度も向上すると期待されるが、たとえ乾強度が高くても湿潤強度が低ければ、繊維の乾強度の向上から期待されるほどセメント補強効果の向上は殆ど見られないか、小さいということを本発明者等は見出した。
【0034】
湿潤強度の高いビニロン繊維を得るためには、前述したように全延伸倍率を高くするにつれ湿潤強度が高くなり、あるところで急激に低下するので、湿潤強度は全延伸倍率に対して極大点が存在するということであり、その極大点またはそれよりも若干低い延伸倍率を全延伸倍率に設定すればよい。そして、このような延伸を行うには延伸性を低下させる要因である硼酸含有率を0.40質量%以下として延伸を行うことにより延伸性が向上し、極大点またはそれよりも若干低い延伸倍率での延伸を効率よく行うことが可能となる。これにより、極大点もしくはそれよりも若干低い延伸倍率でも、乾強度も高くしながら、湿潤強度も高い繊維を得ることができる。
【0035】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例中の繊維の物性値(ケン化度、硼酸含有率、結晶化度、単糸繊度、乾強度、湿潤強度)は前記の方法で測定したものであり、スレート物性は以下のように測定したものである。
〔スレート物性:比強度〕
スレートの曲げ強度をJIS A1408に準じて測定し、成型品の比重をDとし、曲げ強度をDの2乗で除した値(比強度(MPa)=曲げ強度/D2)とする。
【0036】
実施例1〜3および比較例1〜4
ケン化度99.4モル%、重合度1730のPVAおよび硼酸を溶解し、硫酸によりpH調整してPVA紡糸原液を調製した。この紡糸原液をノズルから水酸化ナトリウムを溶解した芒硝凝固浴へ紡出し、中和、湿熱、水洗、油剤付与、乾燥、熱延伸の各工程で処理を行いビニロン繊維を製造した。このときの主な製造条件及び得られた繊維の物性を表1に示す。なお、実施例においては水洗工程でバイブレータを使用し、走行繊維に振動を与えて硼酸除去処理の強化を行った。また、繊維を一旦巻き取ることなくカットし、繊維長6mmの短繊維とした。
得られた短繊維をセメント100kgに対して2kg添加し、スレートを抄造した。4週間室温で養生したスレートの比強度を測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜3の繊維は本発明の要件をすべて満足するため、スレート物性も良好であり、従来品と同等レベルの比較例1と比べて10%以上もの向上が認められ、本発明のビニロン繊維がセメント補強性能に優れることが分かる。
一方、比較例1、4では、繊維の硼酸含有率が高いため、延伸性が低下し、湿潤強度が低く、その結果スレート物性の評価も低いものであった。比較例2では、全延伸倍率が高すぎたため、乾強度は高い値を示したが、湿潤強度はむしろ比較例1よりも低く、その結果スレート物性も低下した。比較例3では、水洗強化により硼酸含有率は低下したものの延伸倍率が低すぎたため、結晶化度が低く、乾強度、湿潤強度も低くなり、スレート物性にも劣るものであった。
【0039】
【発明の効果】
本発明のビニロン繊維は湿潤強度が高く、結晶化度も高いので、多量の水分存在下においても高い強度を保持することが可能であり、スレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる際に使用すると、硬化後のセメント成形体を十分に補強することが可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント補強用ビニロン繊維に関するものであり、さらに詳しくはスレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる際、水分を多量に含んでいるが、水分存在下においても高い強度を保持し、硬化後のセメント成形体を十分に補強し得るビニロン繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)を原料とするビニロン繊維は、ナイロンやポリエステルなどの汎用合繊の中でも高い強度を有し、しかも耐アルカリ性などに優れていることからセメント補強用繊維に用いられている。近年では、セメント成形体の強度や耐久性などを更に向上させる必要があり、セメント成形体に添加する補強用繊維の役割もますます重要になってきている。繊維のセメント補強性能を向上させるには、繊維の高強度化が極めて有効な手段の1つであるが、セメント補強用として用いられているビニロン繊維の乾強度は7〜13cN/dtexが一般的なレベルである(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
このため、本発明者等はビニロン繊維の高強度化について検討し、乾強度13.8cN/dtex以上のビニロン繊維を種々試作しセメント補強効果について検討したが、セメント補強性を安定して向上させることができなかった。これについて原因を追及した結果、セメント成形体の強度は補強用繊維の乾強度よりもむしろ湿潤強度との相関が高いことが分かった。
【0004】
セメント成形体を作製する際には多量の水を使用するため、ビニロン繊維が湿潤した時に強度が大幅に低下するようであれば、セメント成形体の性能向上には有効に寄与しないことは予測できることであるが、従来のビニロン繊維の場合、乾強度が高くなれば湿潤強度もそれに応じて高くなることが分かっており、乾強度を13.8cN/dtex以上に向上できれば、当然のことながら湿潤強度も高くなるものと予想され、ビニロン繊維の強度の指標としては乾強度だけで十分であった。
【0005】
しかしながら、本発明者等の研究によれば、乾強度が13cN/dtexよりも高いレベルになると、湿潤強度が急激に低下し、乾強度は14cN/dtex以上と高いにもかかわらず、湿潤強度は従来品またはそれ以下のレベルにまで低下し、このためセメント成形体の性能が向上しないという問題点を発見した。
【0006】
【特許文献1】
特開平2002−293602号公報
【非特許文献1】
株式会社クラレのホームページ HYPERLINK ”http://www.kuraray.co.jp/pvaf/14.html” http://www.kuraray.co.jp/pvaf/14.html
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、スレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる時に含まれる多量の水分存在下においても高い強度を保持し、硬化後のセメント成形体を十分に補強し得るビニロン繊維を提供することを技術的課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビニロン繊維は親水性であるため、乾強度を向上させるだけでは不十分であり、ビニロン繊維が水分を吸収しにくい構造とし、しかも水分を含んだ場合でも高い強度を保持させる必要があることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、硼酸を含有するポリビニルアルコール(PVA)からなり、ケン化度が99.5モル%以上、湿潤強度13.8cN/dtex以上、JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から求めた結晶化度が55%以上で、かつ硼酸含有率が0.4質量%以下であることを特徴とするセメント補強用ビニロン繊維を要旨とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明のビニロン繊維は、硼酸を含有するPVAからなり、ケン化度99.5モル%以上であることが必要である。これによりPVA分子鎖に残る酢酸基量が低減するため、結晶化しやすくなり繊維表面からの水の侵入を抑制することができる。ケン化度が99.5モル%未満の場合、PVAの結晶性が低下するばかりでなく、ケン化度によってはPVAが水に溶解しやすくなり、セメント補強用繊維として適用できないことがあるので好ましくない。このことからPVAのケン化度は99.8モル%以上、さらには99.9モル%以上であることが好ましい。
【0011】
ただし、ここでいうケン化度は、ビニロン繊維に形成された後のPVAのケン化度であり、ビニロン繊維製造に供する原料PVAのケン化度ではない。ビニロン繊維製造工程においてはPVAを二次ケン化することが可能であるので、原料PVAのケン化度は99.5モル%より低くても差し支えない。
【0012】
しかしながら、紡糸原液を調製するための原料PVAのケン化度が低すぎると、凝固浴中で二次ケン化を行っても99.5モル%以上にならない場合があるので、95モル%以上、さらには99モル%以上のケン化度を有するPVAを用いることが好ましい。このようなPVAを用いて紡糸原液を調製するが、PVAを水(熱水)に溶解する際、硼酸をPVAに対して1〜2質量%程度添加し、均一に溶解混合しておくのがよい。また、硼酸をPVAと共に溶解すると、pHによっては架橋反応が起こり、原液の粘度が高くなって溶解槽から紡糸機への送液やノズルからの紡出が困難となるため、硫酸などを添加することにより紡糸原液をpH5以下に調整することが好ましい。
【0013】
また、PVAの重合度としては特に制限されるものではないが、重合度が低すぎると繊維強度が低下する傾向にあるので、重合度1500以上であることが好ましい。
【0014】
なお、本発明におけるPVAのケン化度は以下のようにして測定するものである。
▲1▼得られたビニロン繊維を試料として約3g採取して秤量し、共栓付き三角フラスコに入れ、水100mlを加えた後、1時間放置してから加圧下にて120〜130℃の水浴中で完全溶解する。冷却後、0.1N−水酸化ナトリウム溶液25mlを加え、常温で2時間以上静置する。
▲2▼0.1N−硫酸溶液25mlを加えて、過剰の硫酸を0.1N−水酸化ナトリウム溶液で、フェノールフタレインを指示薬として無色から微紅色に変わった時を終点として滴定する。
▲3▼同時にビニロン繊維を溶解しない以外は同様にして、すなわち水100mlのみ用いて▲1▼および▲2▼の試験を行う。
▲4▼下記式により残存酢酸基量を算出し、ケン化度を求める。
ここで、aは▲2▼での0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、bは▲3▼での試験時の0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、Fは0.1N−水酸化ナトリウム溶液のファクター、Wは試料の質量(g)である。
【0015】
次に、本発明のビニロン繊維は、湿潤強度が13.8cN/dtex以上であることが必要である。本発明者等の知見によれば、乾強度が高くても湿潤強度が低ければ、セメント補強効果は小さい傾向にあり、セメント補強性については乾強度よりもむしろ湿潤強度との相関性が高いことが分かった。湿潤強度を13.8cN/dtex以上、好ましくは14.0cN/dtex以上とすることにより、従来の7〜13cN/dtex程度の乾強度を有するビニロン繊維のセメント補強効果に比べて十分に高い補強効果が得られるのである。
【0016】
また、本発明のビニロン繊維においては、乾強度を特に限定するものではないが、13.0cN/dtex以上とすることが好ましく、さらに13.5cN/dtex以上とすることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のビニロン繊維は結晶化度が55%以上であることが必要である。結晶部は分子構造が緻密であるため、水分が侵入しにくく、結晶部が多いほど繊維中への水の侵入が抑制され耐水性が向上する。結晶化度が55%以上、好ましくは58%以上であることにより、水分を多量に含むセメントとビニロン繊維を混練してもビニロン繊維への水の侵入が抑制され、強度を保持しやすくなる。結晶化度が55%未満の場合、繊維中に水が侵入しやすく従来のビニロン繊維のセメント補強性能と同レベルとなるので、本発明の目的を達成することが困難となる。
【0018】
なお、本発明における湿潤強度は以下のようにして測定するものである。
ビニロン繊維がマルチフィラメントの場合、1本のフィラメントをピンセットで注意深く取り出した単繊維30本を試料とし(モノフィラメントの場合はモノフィラメント30本を試料とする)、20℃のイオン交換水に30分間浸漬した後、直ちにボールドウィン社製引っ張り試験機UMT−2型にセットし、試験長20mm、引っ張り速度20mm/分の条件で単繊維強度をそれぞれ測定し、その平均値より求める。
【0019】
次に、結晶化度は以下のようにして測定するものである。
JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から下記式に従って求めた。
結晶化度(%)=(ds−da)/(dc−da)×100
ここで、daは非晶部の密度1.269g/cm3、dcは結晶部の密度1.345g/cm3、dsは試料の密度(g/cm3)である。
【0020】
また、乾強度と単糸繊度は以下のようにして求めるものである。
105℃に設定した乾熱オーブン中で2時間乾燥したビニロン繊維を、マルチフィラメントの場合、1本のフィラメントをピンセットで注意深く取り出した単繊維を試料とし(モノフィラメントの場合はモノフィラメントを試料とする)、Textechno社製の繊度・強伸度測定器FAFEGRAPHに試料をセットして繊度および乾強度を測定する(試料長60mm、引張速度60mm/分)。この操作を20回繰り返し、その平均値よりそれぞれの値を求める。
【0021】
本発明のビニロン繊維において上記したような湿潤強度や結晶化度を達成するためには、本発明のビニロン繊維の硼酸含有率を0.40質量%以下とすることが必要である。繊維中の硼酸含有率は、ビニロン繊維製造時の延伸工程に影響する要素であり、本発明においては湿潤強度や結晶化度を満足するものとするためには延伸工程が重要である。硼酸含有率が高いとPVA分子中の水酸基との親和性により延伸性を低下させ、その結果高強度(乾強度、湿潤強度)、高結晶化度のビニロン繊維が得られにくくなる。このため繊維中の硼酸含有率は0.40質量%以下である必要があり、特に0.35質量%以下とすることが好ましく、これにより延伸性が向上し、上記したような湿潤強度や結晶化度を達成することが可能となる。
【0022】
つまり、PVAを硼酸との架橋反応によってゲル化させると共に芒硝等による脱水作用により連続繊維を形成させた後、硫酸などの酸を含む中和浴、湿熱浴でPVAと硼酸との架橋結合を切断し、硼酸を遊離の状態にすることが必要である。これによって引き続き行う水洗工程で硼酸を繊維から洗い流すことができる。一般に、この水洗工程で硼酸を洗い流した後の繊維中の硼酸の含有率はほとんど変化せず、最終的に得られる繊維中の硼酸の含有率とほぼ同じである。つまり、水洗工程後の乾燥工程、延伸工程や熱処理工程において、繊維中の硼酸含有率はほとんど変化しない。そこで、本発明においては、最終的に得られた繊維の硼酸含有率を0.4質量%以下とすることで、延伸時の繊維の硼酸含有率をほぼ0.4質量%以下とするものである。
【0023】
しかし、一般に、工業生産においては水洗後における繊維中の硼酸含有率は0.40質量%以下に低減しにくいため、工程通過中の繊維に強制的に振動を与えたり、弛緩状態で処理するといった特別な工夫を行うことにより硼酸含有率を0.40質量%以下、さらには0.35質量%以下に低減することが好ましい。
【0024】
本発明における繊維中の硼酸含有率は以下のようにして求めるものである。
▲1▼得られたビニロン繊維を試料として約5g採取して秤量し、共栓付き三角フラスコに入れ、純水100mlを加えた後、加圧下にて120〜130℃の水浴中で完全に溶解させる。冷却後、メチルレッドを指示薬として、0.1N−水酸化ナトリウム溶液で赤色から橙色に変化するまで中和する。
▲2▼10%マンニトール溶液10mlを加え、フェノールフタレインを指示薬として、0.1N−水酸化ナトリウム溶液で滴定し、紅色に変化したときを終点として下記式より求めた。
硼酸含有率(質量%)=0.6183×a×F/W
ここで、aは0.1N−水酸化ナトリウム溶液の滴定数(ml)、Fは0.1N−水酸化ナトリウム溶液のファクター、Wは試料の質量(g)である。
【0025】
本発明のビニロン繊維は、硼酸を含有するPVAを湿式紡糸法を用い、延伸、中和、湿熱延伸、水洗、油剤付与、乾燥、熱延伸等を行って製造することができる。そして、熱延伸後、フィラメントとして捲き取った長繊維のものでも、熱延伸後、カッターにより切断した短繊維形状のものでもよい。またマルチフィラメント、モノフィラメントのいずれでもよい。長繊維の場合は、織編物やシート状物に加工したものをセメント補強用に供することもできる。
【0026】
本発明のセメント補強用ビニロン繊維を短繊維とする場合、単糸繊度0.5〜10dtex、さらに好ましくは1.5〜3dtex、繊維長を2〜20mmとすることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満の場合や繊維長が20mmを超える場合、セメントに添加して混練すると繊維同士が絡まりやすく、いわゆるファイバーボールを形成して分散不良となり、セメント補強性が低下するので好ましくない。また、単糸繊度が10dtexを超える場合は高強度化が困難となりやすく、また、繊維長が2mm未満の場合は繊維が短かすぎてセメント補強性が低下し、好ましくない。
【0027】
以下、本発明のセメント補強用ビニロン繊維の製造方法について説明する。
まず、硼酸を含有する水系のPVA紡糸原液を、水酸化ナトリウムを溶解した芒硝凝固浴中へ紡出し、中和工程、湿熱工程、水洗工程、油剤付与工程、乾燥工程、熱延伸工程などを経て、短繊維とする場合は、一旦捲き取ることなく引き続きカットするか、または紙管に一旦捲き取った後、カットして短繊維を得る。
【0028】
前記したように、好ましくは99モル%以上のケン化度を有するPVAを用い、PVAを水(熱水)に溶解する際、硼酸をPVAに対して1〜2質量%程度添加し、均一に溶解混合しておき、硫酸などを添加することにより紡糸原液をpH5以下に調整する。
【0029】
この紡糸原液をノズルからアルカリ性凝固浴に紡出し、PVAを硼酸との架橋反応によってゲル化させると共に芒硝の脱水作用により連続繊維を形成させた後、硫酸などの酸を含む中和浴、湿熱浴でPVAと硼酸との架橋結合を切断し、硼酸を遊離の状態にする。そして、引き続き行う水洗工程で硼酸を繊維から洗い流す。
このとき、最終的に得られる繊維の硼酸含有率0.40質量%以下にするため、上記したように、水洗工程後の繊維に強制的に振動を与えたり、弛緩状態で処理するといった特別な工夫を行うことにより硼酸含有率を低減させる。
【0030】
そして、水洗工程を通過した繊維に油剤付与工程で油剤を付与した後、乾燥工程に供給する。乾燥工程においては水分を含む水溶解性繊維を乾燥させるため、100℃以下の温度から段階的に温度を上げて乾燥させることが好ましく、乾燥工程通過後における繊維の水分率が約0.5%以下となるように乾燥条件を設定することが好ましい。ただし、実際には乾燥機での設定温度ではなく繊維が受ける熱量によって乾燥条件を設定すべきであり、乾燥機の能力、繊維の処理量、処理速度などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0031】
乾燥工程を通過した、いわゆる未延伸糸の状態で熱延伸工程に供給し、熱延伸を行う。前記したように、熱延伸は最も重要な工程であり、この工程で本発明のビニロン繊維に必要な結晶化度と湿潤強度を調整する。そして、本発明で規定する結晶化度と湿潤強度を達成するため、前記したように熱延伸時に繊維の硼酸含有率を0.40質量%以下とする。
【0032】
そして、結晶化度については、紡糸延伸倍率と熱延伸倍率の積で表される全延伸倍率を高くし、熱延伸温度も高くすることが好ましく、生産速度や錘数などに応じて結晶化度が55%以上となるように条件設定すればよい。一般には全延伸倍率14倍以上、熱延伸温度220℃以上とすることが好ましい。
【0033】
次に、繊維の強度についてであるが、繊維の乾強度については、繊維が延伸により白化するまでは全延伸倍率を高くするほど向上する。湿潤強度もそれに伴いある程度までは向上するものの、あるところから急激に低下する。
すなわち、全延伸倍率を高くすることにより乾強度は高くなるが、ある点を超えると一方で湿潤強度は大幅に低下するのである。一般に繊維強度は乾強度で評価するため、高強度繊維をセメント補強用に使用すればセメント成型品の強度も向上すると期待されるが、たとえ乾強度が高くても湿潤強度が低ければ、繊維の乾強度の向上から期待されるほどセメント補強効果の向上は殆ど見られないか、小さいということを本発明者等は見出した。
【0034】
湿潤強度の高いビニロン繊維を得るためには、前述したように全延伸倍率を高くするにつれ湿潤強度が高くなり、あるところで急激に低下するので、湿潤強度は全延伸倍率に対して極大点が存在するということであり、その極大点またはそれよりも若干低い延伸倍率を全延伸倍率に設定すればよい。そして、このような延伸を行うには延伸性を低下させる要因である硼酸含有率を0.40質量%以下として延伸を行うことにより延伸性が向上し、極大点またはそれよりも若干低い延伸倍率での延伸を効率よく行うことが可能となる。これにより、極大点もしくはそれよりも若干低い延伸倍率でも、乾強度も高くしながら、湿潤強度も高い繊維を得ることができる。
【0035】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例中の繊維の物性値(ケン化度、硼酸含有率、結晶化度、単糸繊度、乾強度、湿潤強度)は前記の方法で測定したものであり、スレート物性は以下のように測定したものである。
〔スレート物性:比強度〕
スレートの曲げ強度をJIS A1408に準じて測定し、成型品の比重をDとし、曲げ強度をDの2乗で除した値(比強度(MPa)=曲げ強度/D2)とする。
【0036】
実施例1〜3および比較例1〜4
ケン化度99.4モル%、重合度1730のPVAおよび硼酸を溶解し、硫酸によりpH調整してPVA紡糸原液を調製した。この紡糸原液をノズルから水酸化ナトリウムを溶解した芒硝凝固浴へ紡出し、中和、湿熱、水洗、油剤付与、乾燥、熱延伸の各工程で処理を行いビニロン繊維を製造した。このときの主な製造条件及び得られた繊維の物性を表1に示す。なお、実施例においては水洗工程でバイブレータを使用し、走行繊維に振動を与えて硼酸除去処理の強化を行った。また、繊維を一旦巻き取ることなくカットし、繊維長6mmの短繊維とした。
得られた短繊維をセメント100kgに対して2kg添加し、スレートを抄造した。4週間室温で養生したスレートの比強度を測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜3の繊維は本発明の要件をすべて満足するため、スレート物性も良好であり、従来品と同等レベルの比較例1と比べて10%以上もの向上が認められ、本発明のビニロン繊維がセメント補強性能に優れることが分かる。
一方、比較例1、4では、繊維の硼酸含有率が高いため、延伸性が低下し、湿潤強度が低く、その結果スレート物性の評価も低いものであった。比較例2では、全延伸倍率が高すぎたため、乾強度は高い値を示したが、湿潤強度はむしろ比較例1よりも低く、その結果スレート物性も低下した。比較例3では、水洗強化により硼酸含有率は低下したものの延伸倍率が低すぎたため、結晶化度が低く、乾強度、湿潤強度も低くなり、スレート物性にも劣るものであった。
【0039】
【発明の効果】
本発明のビニロン繊維は湿潤強度が高く、結晶化度も高いので、多量の水分存在下においても高い強度を保持することが可能であり、スレート、モルタル、コンクリートなどのセメント組成物を成形し硬化させる際に使用すると、硬化後のセメント成形体を十分に補強することが可能となる。
Claims (2)
- 硼酸を含有するポリビニルアルコールからなり、ケン化度が99.5モル%以上、湿潤強度13.8cN/dtex以上、JIS L 1013 密度勾配管法(25℃)による繊維密度から求めた結晶化度が55%以上で、かつ硼酸含有率が0.4質量%以下であることを特徴とするセメント補強用ビニロン繊維。
- 単糸繊度0.5〜10dtex、繊維長が2〜20mmである請求項1記載のセメント補強用ビニロン繊維。
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JP2008190078A (ja) * | 2007-02-05 | 2008-08-21 | Asahi Kasei Fibers Corp | 補強用繊維 |
CN100422404C (zh) * | 2006-07-27 | 2008-10-01 | 中国石化集团资产经营管理有限公司重庆天然气化工分公司 | 一种耐磨性聚乙烯醇缩醛纤维及其制备方法和用途 |
-
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- 2003-02-24 JP JP2003045379A patent/JP2004256315A/ja active Pending
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