JP2022110723A - 炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ポリマーの変性を抑制することで延伸性を良好に保ち、毛羽の少ない炭素繊維前駆体繊維を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維であって、該炭素繊維前駆体繊維はフーリエ変換赤外分光光度計により明細書記載の方法で測定されたカルボン酸反応指数が0.61~0.90であることを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維。
【選択図】なし
【解決手段】カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維であって、該炭素繊維前駆体繊維はフーリエ変換赤外分光光度計により明細書記載の方法で測定されたカルボン酸反応指数が0.61~0.90であることを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維。
【選択図】なし
Description
本発明は、炭素繊維の製造に用いる炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法に関する。
炭素繊維は、優れた機械的特性を有し、特に高い比強度と比弾性率を有することから、航空・宇宙産業や自動車産業、レジャー用品産業において補強材料として広く用いられている。その優れた機械的特性から、航空機や自動車などの軽量化を見込むことができ、航空機や自動車の運用場面での二酸化炭素の削減の手段として注目されている。
炭素繊維は、その前駆体である有機ポリマーから調製した繊維を酸素存在下で耐炎化処理し、次いで炭素化することで製造される。前駆体として例えば、セルロース、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、ピッチ、ポリアクリロニトリル(以下、単にPANと称することがある)を挙げることができるが、なかでもPAN系繊維から得られる炭素繊維が比強度や比弾性率などの力学的特性に優れており、品質や性能を均一かつ安定的に製造できるため、工業的に大量に生産されている。
PAN系繊維は、一般的に湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により生産される。いずれの紡糸方法でも、原料のPANを溶剤に溶解した紡糸原液を使用することが一般的である。炭素繊維の高性能化には炭素繊維前駆体繊維の品位向上が効果的であり、重合工程から紡糸工程にかけてポリアクリロニトリル共重合体の溶液中での凝集や化学反応による架橋形成を抑制する必要がある。この課題を解決すべく、これまでにいくつかの技術が開示されている。
例えば、紡糸原液の透過率を連続的に測定することでゲル化の程度を観測する技術(特許文献1)や、紡糸原液中のゲル個数を規定値以下とする技術(特許文献2)が提案されている。
しかし、これらの技術は紡糸原液のゲル化抑制に観点が限定されており、これらの技術には、ゲル化の進行には満たないながら紡糸工程において延伸性に影響を与えるポリマーの変性を抑制する観点は含まれていない。
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、ポリマーの変性を抑制することで延伸性を良好に保ち、毛羽の少ない炭素繊維前駆体繊維を提供することにある。
すなわち本発明は、カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維であって、該炭素繊維前駆体繊維はフーリエ変換赤外分光光度計により明細書記載の方法で測定されたカルボン酸反応指数が0.61~0.90であることを特徴とする、
炭素繊維前駆体繊維である。
炭素繊維前駆体繊維である。
本発明はまた、上記の炭素繊維前駆体繊維の製造方法であって、該製造方法は、ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を調製する工程、該紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする工程、および該糸条を乾燥する工程を含み、かつ以下の要件(A)および(B)を満たすことを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。
(A)ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液が、該紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃以下の温度に維持されていること
(B)紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて得た糸条を乾燥するときの乾燥熱履歴指標を701~1000とすること
(ただし、熱履歴指標は下記式で表される。
熱履歴指標 =(T-150)×t
T:加熱媒体の温度(℃)、t:炉滞留時間(秒))
(A)ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液が、該紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃以下の温度に維持されていること
(B)紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて得た糸条を乾燥するときの乾燥熱履歴指標を701~1000とすること
(ただし、熱履歴指標は下記式で表される。
熱履歴指標 =(T-150)×t
T:加熱媒体の温度(℃)、t:炉滞留時間(秒))
本発明によれば、ポリマーの変性を抑制することで延伸性を良好に保ち、毛羽の少ない炭素繊維前駆体繊維を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
〔ポリアクリロニトリル共重合体〕
本発明で用いるポリアクリロニトリル共重合体は、カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体である。カルボキシル基を有するビニル系モノマーが共重合されていないと、炭素繊維前駆体繊維から炭素繊維を得るときに高い生産性を得ることができない。
本発明で用いるポリアクリロニトリル共重合体は、カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体である。カルボキシル基を有するビニル系モノマーが共重合されていないと、炭素繊維前駆体繊維から炭素繊維を得るときに高い生産性を得ることができない。
カルボキシル基を有するビニル系モノマーとして、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミドを用いることができ、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリルアミド、イタコン酸エステルを用いることができ、なかでもアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。これらは一種類を用いてもよく、二種類以上を用いてもよい。
ポリアクリロニトリル共重合体におけるアクリロニトリル成分の割合は、炭素化収率や炭素繊維としての力学特性の観点から、好ましくは90~99.5重量%、さらに好ましくは94~99.5重量%である。
本発明においてポリアクリロニトリル共重合体は、生産性の観点からフリーラジカル懸濁重合法により合成されたものが好ましい。
重合開始剤には、例えば過酸化物系、アゾ系、レドックス系といった公知のラジカル開始剤を用いることができるが、耐熱性の観点からレドックス系が好ましい。レドックス系開始剤を用いることにより、ポリマー末端に耐熱性向上に寄与する官能基が導入され、炭素繊維前駆体繊維の耐熱性が向上する。
重合開始剤には、例えば過酸化物系、アゾ系、レドックス系といった公知のラジカル開始剤を用いることができるが、耐熱性の観点からレドックス系が好ましい。レドックス系開始剤を用いることにより、ポリマー末端に耐熱性向上に寄与する官能基が導入され、炭素繊維前駆体繊維の耐熱性が向上する。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、上記のポリアクリロニトリル共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維であり、該炭素繊維前駆体繊維はフーリエ変換赤外分光光度計により測定されたカルボン酸反応指数が0.61~0.90である。カルボン酸反応指数が0.61未満であると炭素繊維前駆体繊維中の緻密化が不十分であり、品位低下の原因となる。他方0.90を超えるとポリマーの変性が進行することで延伸性が損なわれており、品位低下
の原因となる。なお、カルボン酸反応指数は、フーリエ変換赤外分光光度計により、以下の方法で測定される。
の原因となる。なお、カルボン酸反応指数は、フーリエ変換赤外分光光度計により、以下の方法で測定される。
〔カルボン酸反応指数〕
カルボン酸反応指数を測定するためには、まず炭素繊維前駆体繊維を液体窒素中で凍結させ、冷凍粉砕機(日本分析工業社製JFC-300)を使用し、粉体状に加工する。得られた粉体をKBr中に1重量%となるように調整し、乳鉢を使用して均一になるように混合する。得られた混合物をペレット状に加工し、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700)を使用して赤外吸収スペクトルを得る。得られた赤外吸収スペクトルより、1680cm-1と1770cm-1にてベースライン補正を行い、1730cm-1付近のピークトップのピーク強度(I1)と1700cm-1付近のピークトップのピーク強度(I2)の比(I2/I1)よりカルボン酸反応指数を算出する。この時、1700cm-1付近のピークトップが明確でない場合は、1705cm-1における吸光度をI2とする。
カルボン酸反応指数を測定するためには、まず炭素繊維前駆体繊維を液体窒素中で凍結させ、冷凍粉砕機(日本分析工業社製JFC-300)を使用し、粉体状に加工する。得られた粉体をKBr中に1重量%となるように調整し、乳鉢を使用して均一になるように混合する。得られた混合物をペレット状に加工し、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700)を使用して赤外吸収スペクトルを得る。得られた赤外吸収スペクトルより、1680cm-1と1770cm-1にてベースライン補正を行い、1730cm-1付近のピークトップのピーク強度(I1)と1700cm-1付近のピークトップのピーク強度(I2)の比(I2/I1)よりカルボン酸反応指数を算出する。この時、1700cm-1付近のピークトップが明確でない場合は、1705cm-1における吸光度をI2とする。
〔製造方法〕
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を調製する工程、該紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする工程、および該糸条を乾燥する工程を含む。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を調製する工程、該紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする工程、および該糸条を乾燥する工程を含む。
〔ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を調製する工程〕
本発明では、懸濁重合反応により得られたポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解させ、添加剤を添加し、均一に混合することで紡糸原液とする。
本発明では、懸濁重合反応により得られたポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解させ、添加剤を添加し、均一に混合することで紡糸原液とする。
溶剤としては、ポリアクリロニトリル共重合体が可溶な無機溶剤および有機溶剤を用いることができ、好ましくは有機溶剤を用いる。具体的には、好ましくはジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよび/またはジメチルホルムアミドを用いる。これらは一種類を用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
添加剤としては、種々の課題を解決する目的で公知のものを用いることができる。特に、凝固制御性の観点から、ポリアクリロニトリル共重合体溶液中の酸成分を中和する化合物を添加することが望ましい。塩基性化合物としては、炭素繊維前駆体繊維中の欠陥を抑制する観点から非金属化合物が好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
紡糸原液における、ポリアクリロニトリル共重合体の濃度は、好ましくは10~30重量%、さらに好ましくは15~25重量%である。この範囲の濃度とすることによって、優れた生産性で炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。
紡糸原液の調製後、紡糸原液をフィルター濾材に通してゲル状異物や非溶解成分を濾別し、紡糸工程に供する。
生産性および得られる炭素繊維の性能の観点から、紡糸原液は高度に脱泡または消泡され、気泡を有していないことが好ましい。脱泡または消泡は加圧または減圧により促進することができる。
生産性および得られる炭素繊維の性能の観点から、紡糸原液は高度に脱泡または消泡され、気泡を有していないことが好ましい。脱泡または消泡は加圧または減圧により促進することができる。
本発明で特に重要なことは、紡糸原液が以下の要件(A)を満足することである。
(A)ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液が、該紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃以下の温度に維持されていること。
(A)ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液が、該紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃以下の温度に維持されていること。
紡糸原液は、ポリアクリロニトリル共重合体のカルボキシル基および/またはこれの塩の安定性の観点から、紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃
以下の温度に維持されていることが必要であり、好ましくは常に60℃以下の温度に維持される。この温度に維持することで、カルボン酸反応指数を0.61~0.90に保つことができる。また、紡糸原液は、ポンプを使用したドープ移送における扱いやすさの観点から、常に30℃以上の温度に維持することが好ましい。
以下の温度に維持されていることが必要であり、好ましくは常に60℃以下の温度に維持される。この温度に維持することで、カルボン酸反応指数を0.61~0.90に保つことができる。また、紡糸原液は、ポンプを使用したドープ移送における扱いやすさの観点から、常に30℃以上の温度に維持することが好ましい。
〔紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする工程〕
つぎに、上述の紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする。
凝固浴中の凝固液として、水にポリアクリロニトリル系重合体を溶解できる溶剤が溶解した水溶液を用いることが好ましい。凝固液に含まれる溶剤として、上述の紡糸溶剤に用いる溶剤として挙げられた溶剤を用いることができ、好ましくは使用した紡糸溶液の溶剤として用いた溶剤と同じ溶剤を用いる。
つぎに、上述の紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする。
凝固浴中の凝固液として、水にポリアクリロニトリル系重合体を溶解できる溶剤が溶解した水溶液を用いることが好ましい。凝固液に含まれる溶剤として、上述の紡糸溶剤に用いる溶剤として挙げられた溶剤を用いることができ、好ましくは使用した紡糸溶液の溶剤として用いた溶剤と同じ溶剤を用いる。
凝固性や紡糸安定性の点から凝固液の溶剤濃度は、好ましくは10~70重量%、さらに好ましくは15~40重量%である。凝固液の温度は、好ましくは0~60℃である。凝固液の温度が低い方が、真円度が高い前駆体繊維束および炭素繊維束を得やすくなる。
紡糸原液を押し出すための紡糸口金は、好ましくは1,000~100,000の範囲の紡糸孔を備える。紡糸孔の孔径は、好ましくは0.02~0.5mmである。孔径が0.02mm以上であることで吐出された糸同士の接着が起こりにくいので、均質性に優れた炭素繊維前駆体繊維束を得やすく好ましい。孔径が0.5mm以下であることで、紡糸糸切れの発生を抑制することができ紡糸安定性を維持しやすく好ましい。
得られた糸条は、水洗とオイリングを経て乾燥工程に供される。水洗は、溶剤を除去する目的で行われ、公知の方法で行うことができる。オイリングは、糸束の収束性を付与する目的で行われ、公知のオイルを使用して公知の方法で行うことができる。
〔糸条を乾燥する工程〕
乾燥は、水洗およびオイリング後の糸条の内外に保有されている水を糸条から除去し、糸条を構成するポリマーであるポリアクリロニトリル共重合体を軟化させ、糸条を構成する各単糸の内部のボイドを減らし、各単糸の緻密性を向上する目的で行う。乾燥は、好ましくはポリアクリロニトリル共重合体のガラス転移温度以上の温度、さらに好ましくは120℃以上の温度で行う。効率的に水を蒸発させて除去し、単糸を緻密化させる観点から、段階的に乾燥の温度を上げることが好ましい。
乾燥は、水洗およびオイリング後の糸条の内外に保有されている水を糸条から除去し、糸条を構成するポリマーであるポリアクリロニトリル共重合体を軟化させ、糸条を構成する各単糸の内部のボイドを減らし、各単糸の緻密性を向上する目的で行う。乾燥は、好ましくはポリアクリロニトリル共重合体のガラス転移温度以上の温度、さらに好ましくは120℃以上の温度で行う。効率的に水を蒸発させて除去し、単糸を緻密化させる観点から、段階的に乾燥の温度を上げることが好ましい。
この乾燥工程では、ポリアクリロニトリル共重合体が側鎖に有するカルボキシル基やその塩の熱的安定性が低いため、カルボキシル基やその塩の化学反応により分子内外で架橋反応が生じやすく、その場合には糸束の延伸性が低下する。
本発明で特に重要なことは、乾燥工程が以下の要件(B)を満足することである。この条件を満足することで、糸内部を十分に緻密化させるとともに、ポリアクリロニトリル共重合体の側鎖のカルボキシル基やその塩の化学反応による分子内外での架橋反応や環化反応を抑制することができ、カルボン酸反応指数を0.61~0.90とすることができる。特に、レドックス開始剤を使用したポリアクリロニトリル共重合体は比較的に耐熱性が高いことから、乾燥条件における比較的に熱履歴を高くすることができるため、要件(B)を満たす条件で炭素繊維前駆体繊維を製造しやすく好ましい。
(B)紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて得た糸条を乾燥するときの乾燥熱履歴指標を701~1000とすること
(ただし、熱履歴指標は下記式で表される。
熱履歴指標 =(T-150)×t
T:加熱媒体の温度(℃)、t:炉滞留時間(秒))
(B)紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて得た糸条を乾燥するときの乾燥熱履歴指標を701~1000とすること
(ただし、熱履歴指標は下記式で表される。
熱履歴指標 =(T-150)×t
T:加熱媒体の温度(℃)、t:炉滞留時間(秒))
〔延伸工程〕
上記の条件を満足する乾燥工程で乾燥された糸条は、つぎに延伸工程に供され、本発明の炭素繊維前駆体繊維となる。延伸は、乾熱式や加圧蒸気式など公知の方法を使用することができ、生産性と品質の観点から加圧蒸気式により行うことが好ましい。
上記の条件を満足する乾燥工程で乾燥された糸条は、つぎに延伸工程に供され、本発明の炭素繊維前駆体繊維となる。延伸は、乾熱式や加圧蒸気式など公知の方法を使用することができ、生産性と品質の観点から加圧蒸気式により行うことが好ましい。
延伸工程の後、糸条は熱処理工程に供される。この熱処理は炭素繊維前駆体繊維の結晶配向性を制御し、糸内部の緊張部を緩和する目的で行われ、公知の方法で行うことができる。
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。測定および評価は、以下の方法で行った。
(1)延伸時の糸束の延伸張力
テンションメータ(横河電子機器社製T-102-01-00)を使用して測定した。延伸部手前側の回転ローラーから30cm以内の範囲にて、走行する糸束に平行となるようにテンションメータを取り付け、張力の測定を行った。測定は2回行い、平均値を延伸張力とした。
テンションメータ(横河電子機器社製T-102-01-00)を使用して測定した。延伸部手前側の回転ローラーから30cm以内の範囲にて、走行する糸束に平行となるようにテンションメータを取り付け、張力の測定を行った。測定は2回行い、平均値を延伸張力とした。
(2)カルボン酸反応指数
炭素繊維前駆体繊維を液体窒素中で凍結させ、冷凍粉砕機(日本分析工業社製JFC-300)を使用し、粉体状に加工した。得られた粉体をKBr中に1重量%となるように調整し、乳鉢を使用して均一になるように混合した。得られた混合物をペレット状に加工し、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700)を使用して赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収スペクトルより、1680cm-1と1770cm-1にてベースライン補正を行い、1730cm-1付近のピークトップのピーク強度(I1)と1700cm-1付近のピークトップのピーク強度(I2)の比(I2/I1)よりカルボン酸反応指数を算出した。この時、1700cm-1付近のピークトップが明確でない場合は、1705cm-1における吸光度をI2とした。
炭素繊維前駆体繊維を液体窒素中で凍結させ、冷凍粉砕機(日本分析工業社製JFC-300)を使用し、粉体状に加工した。得られた粉体をKBr中に1重量%となるように調整し、乳鉢を使用して均一になるように混合した。得られた混合物をペレット状に加工し、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700)を使用して赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収スペクトルより、1680cm-1と1770cm-1にてベースライン補正を行い、1730cm-1付近のピークトップのピーク強度(I1)と1700cm-1付近のピークトップのピーク強度(I2)の比(I2/I1)よりカルボン酸反応指数を算出した。この時、1700cm-1付近のピークトップが明確でない場合は、1705cm-1における吸光度をI2とした。
(3)繊維伸度
引張試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロン万能材料試験機RTF-1250)を使用し、炭素繊維前駆体繊維束に撚りをかけ、試長250mmになるようチャック部にセットした。この時サンプルが弛まないようにした。セット確認後、繊維束が破断するまで引き下げた。同時に測定されたSS曲線から最大強力における伸度を計算した。同試験を5回行い、平均値を繊維伸度とした。
引張試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロン万能材料試験機RTF-1250)を使用し、炭素繊維前駆体繊維束に撚りをかけ、試長250mmになるようチャック部にセットした。この時サンプルが弛まないようにした。セット確認後、繊維束が破断するまで引き下げた。同時に測定されたSS曲線から最大強力における伸度を計算した。同試験を5回行い、平均値を繊維伸度とした。
(4)炭素繊維前駆体繊維の品位
炭素繊維前駆体繊維束長10mについて毛羽の個数を目視で数え、3段階評価した。評価基準は以下の通りである。
〇:0個
△:1個
×:2個以上
炭素繊維前駆体繊維束長10mについて毛羽の個数を目視で数え、3段階評価した。評価基準は以下の通りである。
〇:0個
△:1個
×:2個以上
(5)ポリアクリロニトリル共重合体の合成
実施例で用いたポリアクリロニトリル共重合体は、以下の方法で製造した。
〔ポリアクリロニトリル共重合体の合成〕
攪拌翼と温水ジャケットと窒素導通管を備えた、容積40Lのオーバーフロー付き反応
槽に窒素吹込みにより脱酸素させたイオン交換水40Lを仕込み、濃硫酸を使用してpHを3に調整した。
実施例で用いたポリアクリロニトリル共重合体は、以下の方法で製造した。
〔ポリアクリロニトリル共重合体の合成〕
攪拌翼と温水ジャケットと窒素導通管を備えた、容積40Lのオーバーフロー付き反応
槽に窒素吹込みにより脱酸素させたイオン交換水40Lを仕込み、濃硫酸を使用してpHを3に調整した。
反応液Aとして、亜硫酸水素アンモニウム(50重量%水溶液)を濃度0.58重量%、硫酸鉄7水和物を濃度0.0006重量%、硫酸を濃度0.06重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Aを調製した。
反応液Bとして、過硫酸アンモニウムを濃度0.3重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Bを調製した。
反応液Bとして、過硫酸アンモニウムを濃度0.3重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Bを調製した。
反応液Cとして、イタコン酸を濃度0.57重量%、亜硫酸アンモニウム(50重量%水溶液)を濃度0.58重量%、硫酸鉄7水和物を濃度0.0006重量%、硫酸を濃度0.06重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Cを調製した。
反応停止剤液として、重炭酸アンモニウムを濃度0.22重量%、シュウ酸アンモニウムを濃度0.13重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応停止剤液を調製した。
前記反応槽内の攪拌を開始し、反応槽内に窒素を導通し、反応槽の内温が60℃となるように昇温を行った。その後、プランジャーポンプを使用し、反応液Aを毎時467gの速度で、反応液Bを毎時339gの速度で連続フィードを30分間行った。続けて、反応液Bを毎時168gの速度で、反応液Cを毎時233gの速度で、アクリロニトリルを毎時132gの速度で、連続フィードを5時間行うことで重合反応を行った。
この間、反応槽内の温度が60℃となるように温度調節を行った。その後、連続フィードを終了し、反応停止剤液1000gを反応槽へフィードし、均一に攪拌することで重合反応を停止させて、ポリアクリロニトリル共重合体の懸濁液を得た。
続いて、残存モノマー等の不純物を除去する目的で洗浄を行った。ろ過脱水機を使用して、重合反応を停止した上記の懸濁液を脱水させて湿潤固体を得た。この湿潤固体に水を加え、再度スラリー状になるように攪拌し、再度脱水させて湿潤固体を得た。
その後、得られた湿潤固体を真空乾燥機内に静置し、真空下にて温度70℃で乾燥させてポリアクリロニトリル共重合体を得た。
その後、得られた湿潤固体を真空乾燥機内に静置し、真空下にて温度70℃で乾燥させてポリアクリロニトリル共重合体を得た。
〔実施例1〕
撹拌機を使用し、上記で得たポリアクリロニトリル共重合体をジメチルスルホキシドと混合し、加熱溶解させることでポリアクリロニトリル共重合体溶液を得た。混合に際しては、ポリアクリロニトリル共重合体の濃度が20重量%となるように計量した。このとき、加熱温度は50℃とし、溶液温度を50℃に維持した。混合時間は4時間とした。続いて、ドープにアンモニアガスを吹込み、均一になるように攪拌混合し、紡糸原液を得た。
撹拌機を使用し、上記で得たポリアクリロニトリル共重合体をジメチルスルホキシドと混合し、加熱溶解させることでポリアクリロニトリル共重合体溶液を得た。混合に際しては、ポリアクリロニトリル共重合体の濃度が20重量%となるように計量した。このとき、加熱温度は50℃とし、溶液温度を50℃に維持した。混合時間は4時間とした。続いて、ドープにアンモニアガスを吹込み、均一になるように攪拌混合し、紡糸原液を得た。
得られた紡糸原液を貯蔵槽に移送し連続的に紡糸を行うことで、炭素繊維前駆体繊維を得た。紡糸原液を目開き3μmのフィルターに通過させ、直径0.15mmの口金を用いて、一旦空気中(工程長5mm)に吐出し、空気中を通過させた後、濃度35重量%、浴温度3℃のジメチルスルホキシド水溶液に導入して凝固糸を得た。この時、ドープにアンモニアガスを添加してから紡糸原液を吐出するまでの間において、紡糸原液の温度が最大でも50℃を超えないように温度を管理した。
凝固糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。この時、最大加熱温度は180℃とした
。
。
この温度での乾燥処理時間は28秒間であった。算出される乾燥熱履歴指標は840となった。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率4倍に延伸を行った。この際、糸束の延伸張力を測定したところ4.8mN/単糸であった。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、炭素繊維前駆体繊維を得た。
冷凍粉砕機を用いて、得られた炭素繊維前駆体繊維を粉末状にし、フーリエ変換赤外分光光度計による測定を行い、ポリマー中のカルボン酸反応指数を算出した結果、0.71であった。引張試験測定により繊維伸度を測定した結果、6.9%であった。
〔比較例1〕
加熱ローラーを用いた乾燥処理を行う際に最大加熱温度を160℃としたこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は280であった。加圧水蒸気中での延伸時の糸束の張力は4.7mN/単糸であった。
加熱ローラーを用いた乾燥処理を行う際に最大加熱温度を160℃としたこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は280であった。加圧水蒸気中での延伸時の糸束の張力は4.7mN/単糸であった。
冷凍粉砕機を用いて、得られた炭素繊維前駆体繊維を粉末状にし、フーリエ変換赤外分光光度計による測定を行い、ポリマー中のカルボン酸反応指数を算出した結果、0.43であった。引張試験測定により繊維伸度を測定した結果6.7%であった。
〔実施例2〕
ドープにアンモニアガスを添加してから紡糸原液として吐出するまでの間において、紡糸原液の温度が最大でも60℃を超えないように温度管理したこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は840となった。
ドープにアンモニアガスを添加してから紡糸原液として吐出するまでの間において、紡糸原液の温度が最大でも60℃を超えないように温度管理したこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は840となった。
冷凍粉砕機を用いて、得られた炭素繊維前駆体繊維を粉末状にし、フーリエ変換赤外分光光度計による測定を行い、ポリマー中のカルボン酸反応指数を算出した結果、0.72であった。
〔比較例2〕
ドープにアンモニアガスを添加してから紡糸原液として吐出するまでの間において、紡糸原液の温度が最大でも70℃を超えないように温度管理したこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は840となった。
ドープにアンモニアガスを添加してから紡糸原液として吐出するまでの間において、紡糸原液の温度が最大でも70℃を超えないように温度管理したこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は840となった。
冷凍粉砕機を用いて、得られた炭素繊維前駆体繊維を粉末状にし、フーリエ変換赤外分光光度計による測定を行い、ポリマー中のカルボン酸反応指数を算出した結果、0.92であった。
〔比較例3〕
加熱ローラーを用いた乾燥処理を行う際に最大加熱温度を200℃としたこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は1400であった。加圧水蒸気中での延伸時の糸束の延伸張力は4.9mN/単糸であった。
加熱ローラーを用いた乾燥処理を行う際に最大加熱温度を200℃としたこと以外は実施例1と同様に実施し、炭素繊維前駆体繊維を得た。算出される乾燥熱履歴指標は1400であった。加圧水蒸気中での延伸時の糸束の延伸張力は4.9mN/単糸であった。
冷凍粉砕機を用いて、得られた炭素繊維前駆体繊維を粉末状にし、フーリエ変換赤外分光光度計による測定を行い、ポリマー中のカルボン酸反応指数を算出した結果、0.97であった。引張試験測定により繊維伸度を測定したところ繊維伸度は5.6%であった。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維の製造に用いることができる。
Claims (3)
- カルボキシル基を有するビニル系モノマーおよびアクリロニトリルを懸濁重合することにより得られるポリアクリロニトリル共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維であって、該炭素繊維前駆体繊維はフーリエ変換赤外分光光度計により明細書記載の方法で測定されたカルボン酸反応指数が0.61~0.90であることを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維。
- 請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法であって、該製造方法は、ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液を調製する工程、該紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて糸条とする工程、および該糸条を乾燥する工程を含み、かつ以下の要件(A)および(B)を満たすことを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維の製造方法。(A)ポリアクリロニトリル共重合体と有機溶剤とからなる紡糸原液が、該紡糸原液の調製から凝固液中への吐出までの間において常に65℃以下の温度に維持されていること
(B)紡糸原液を凝固浴中に吐出して凝固させて得た糸条を乾燥するときの乾燥熱履歴指標を701~1000とすること
(ただし、熱履歴指標は下記式で表される。
熱履歴指標 =(T-150)×t
T:加熱媒体の温度(℃)、t:炉滞留時間(秒)) - カルボキシル基を有するビニル系モノマーがイタコン酸またはメタクリル酸である、請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維。
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