JP2004255621A - 穴開き厚肉樹脂成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供する。
【解決手段】射出成形によって得られ、厚さが5mm以上の厚肉で且つ穴付きの樹脂成形品であって、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成る。好ましい態様の穴開き厚肉樹脂成形品においては、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【選択図】 なし
【解決手段】射出成形によって得られ、厚さが5mm以上の厚肉で且つ穴付きの樹脂成形品であって、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成る。好ましい態様の穴開き厚肉樹脂成形品においては、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、穴開き厚肉樹脂成形品に関し、詳しくは、優れた機械的性質を有する穴開き厚肉樹脂成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、厚さが5mm以上の穴開き厚肉樹脂成形品は、ワイヤー等の締結部品に使用することが行われている。ところが、厚さが5mm以上の穴開き厚肉樹脂成形品においては、その冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により、引張強度、曲げ強度、衝撃強度などの機械的性質が損なわれるという問題がある。また、穴開き樹脂成形品は、ウエルドライン部分(ウエルドマーク)による強度的欠陥を有するという問題もある。ウエルドライン部分は、射出成形時に溶融樹脂が金型中のピンの周囲を流れて合流する際に形成される線状のマークである。そこで、従来より、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品が望まれている。
【0003】
近時、樹脂成形品の寸法精度、反り及び強度の改善のため、「溶融樹脂をキャビティ内に充填した後、スキン層からコア層の中心方向に向う固化が進行したところで、コア層内に方向を変えて溶融樹脂の流動を発生させ、この流動によりコア層の樹脂層内に剪断を加えることにより、成形品の厚肉内に方向を変えた剪断配向層を形成する熱可塑性樹脂の射出成形方法」が提案されている(例えば、特許文献1)。ここで、上記の「スキン層」は溶融樹脂が金型壁面に密着し固化した部分を意味し、「コア層」はキャビティ内部において溶融樹脂が未固化の部分を意味している。
【0004】
そして、上記の射出成形方法によれば、コア層内には方向の違う剪断配向層が積層される結果、「厚肉内に交差する方向に剪断配向層が形成されていることを特徴とする射出成形品」が得られるとのことであり、この成形品は、引張強度、曲げ強度、衝撃強度に優れ、成形品上各部の成形収縮率の差が少なくなるために、寸法精度が向上し、更に、変形による反りやねじれの少ない強度的に優れた特徴をもつことになるとのことである。なお、成形品寸法としては、幅80mm、長さ110mm、厚さ3.5mmが例示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−86514号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、穴開き厚肉樹脂成形品の機械的性質がその冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により損なわれるという欠点を解決し、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。同時に、本発明の他の目的は、ウエルドライン部分による強度的欠陥が改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、次の様な知見を得た。すなわち、多段で射出成形された積層構造の穴開き厚肉樹脂成形品は、一段で射出成形された単層構造の穴開き厚肉樹脂成形品に比し、厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等の問題が解消されて機械的性質に優れる。更に、ゲートの位置を変えて多段で射出成形された積層構造の穴開き厚肉樹脂成形品の場合は、隣接する各層のウエルドライン部分の位置がずれた位置に存在し、ウエルドライン部分による強度的欠陥が改善される。なお、斯かる樹脂成形品は、全体が2層以上の積層体から成る点において、前記の先行技術で開示された単層構造の射出成形品とは異なる。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、射出成形によって得られ、厚さが5mm以上の厚肉で且つ穴付きの樹脂成形品であって、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成ることを特徴とする穴開き厚肉樹脂成形品に存する。そして、本発明の好ましい態様の穴開き厚肉樹脂成形品においては、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を説明する。先ず、樹脂材料について説明する。本発明においては、各種の熱可塑性樹脂を制限なく使用することが出来る。熱可塑性樹脂としてはポリアミド樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂は、粒状無機充填材や繊維状無機強化材を配合することも出来る。
【0010】
<ポリアミド樹脂(成分A)>
本発明において、ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合またはジアミンと二塩基酸の重縮合により得られる酸アミド結合を繰り返し単位として有する多くのポリアミドから選択することが出来る。具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66,6T/6I、6/6T、66/6T、ポリアミドMX、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。上記の「I」は、イソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。
【0011】
上記のポリアミド樹脂中、キシリレンジアミンとα,ω−二塩基酸の重縮合で得られるポリアミドMX樹脂は、本発明で使用する樹脂組成物の中で特に効果が顕著に現れる高強度の樹脂として好ましい。ポリアミドMX樹脂としては、(1)メタキシリレンジアミン99〜50モル%とパラキシリレンジアミン1〜50モル%から成る混合キシリレンジアミンと、炭素数6〜12のα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸または芳香族二塩基酸との重縮合で得られるポリアミドMX樹脂、または、(2)メタキシリレンジアミンと、炭素数6〜12のα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸または芳香族二塩基酸との重縮合で得られるポリアミドMX樹脂などが挙げられる。これらの中でもα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸としてアジピン酸を使用したポリアミドMX樹脂が特に好ましい。また、上記のポリアミドMX樹脂(1)と(2)の混合物は、射出成形法で成形品を製造する際に成形サイクルを短縮できるので好ましい。
【0012】
ポリアミドMX樹脂に、目的に応じて脂肪族ポリアミド樹脂を70重量%まで置換または配合(すなわちMX樹脂を30重量%以上含有するポリアミド樹脂組成物)してもよい。例えば、成形サイクルを短縮する目的で配合する場合の脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド9Tなど結晶化速度の速いポリアミドが挙げられ、好ましくはポリアミド66である。また、金型温度が低い際に良外観を出す目的および/または耐候性を向上する目的で配合する場合の脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6、11、12、610、612、6/66等が挙げられる。脂肪族ポリアミド樹脂の配合量が70重量%を超えると、ポリアミドMX樹脂の特性である強度、剛性などが混合樹脂に隠蔽され、低下することがある。
【0013】
<粒状無機充填材(成分B)>
粒状無機充填材は、ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、結晶核剤として機能する他、成形品の剛性などの機械的物性を向上させる様に機能する。例えば、核剤としての機能に優れているタルクは、その粒径が大きい場合、成形中に樹脂が流れる際に特にウエルド部で配向するため、成形体の強度低下を惹起させる畏れがある。しかしながら、この様な粒径の大きい平面劈開性の無機粒子や繊維状の無機粒子も、粒径を小さくすることによりウエルド部で配向しなくなり、強度の低下を惹起させなくなる。成分Bの粒子の形状としては、平面劈開性の無い不定形状、立方体、球状、鱗片状、繊維状などの種々の形状のものが使用可能である。
【0014】
粒状無機充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、微小ガラスフレーク、窒化硼素、ウォラストナイト、硫酸マグネシウム、セピオライト、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、ゼオライト、ガラスビーズ、バルーン等の粒状等方性の粒子;タルク、鱗片状窒化硼素、マイカ等の平面劈開性であって粒径3ミクロン以下の粒子;繊維状でアスペクト比が5未満の粒子などが挙げられる。中でも、炭酸カルシウム、ゼオライト、シリカ等の等方性粒子、粒径3μm以下の鱗片状窒化硼素などの平面劈開性粒子が好ましい。平面劈開性のない粒子の粒径は、樹脂充填材として一般に使用されている粒径であり、特に限定されるものではないが、通常、0.01〜30μm程度である。粒径が小さすぎると粒子の分散が困難であり、大きすぎると核剤としての効果が不十分である。
【0015】
上記の成分Bは、成分Aから成る基体樹脂との界面の親和性を改良する目的で、その表面が予めカップリング剤で処理されていてもよい。成分Bは、1種類でも2種類以上の混合物であってもよい。
【0016】
成分Bの配合量は、成分A100重量部に対し、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜6重量部である。なお、成分Bの種類によりその好適な配合量は異なる。成分Bが鱗片状窒化ホウ素の場合は0.05〜1重量部が好ましく、その他の場合は0.5〜6重量部が好ましい。成分Bの配合量が0.05重量部未満であると、核剤としての効果および強化材としての効果が不十分である。
【0017】
<繊維状無機強化材(成分C)>
本発明において、繊維状無機強化材としては、外観が繊維状を呈する無機強化材(C1)の他、異方性が高くアスペクト比が5以上の繊維状無機強化材(C2)が例示される。上記の(C1)の具体例としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ステンレススチール繊維、黄銅繊維などの金属繊維類を挙げることが出来る。上記の(C2)の具体例としては、例えば、チタン酸カリウムやホウ酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム等のウィスカー類、ウォラストナイトの様な鉱物でアスペクト比が5以上の繊維状のものが挙げられる。成分Dとして好ましくはガラス繊維である。
【0018】
成分Cは、ポリアミド樹脂組成物中の成分Bと成分Cとの含有量の合計として、通常25〜70重量%、好ましくは45〜65重量%を占める様に配合する。成分Bと成分Cとの含有量の合計が25重量%未満であると、補強効果が低下し、最終的に得られる射出成形品の機械的強度が低下する。成分Bと成分Cとの含有量の合計が70重量%を超えると、ポリアミド樹脂組成物の流動性が低下して成形品の製造が困難となる。
【0019】
上記のポリアミド樹脂組成物には、従来から知られている各種の樹脂添加剤、例えば、難燃剤、安定剤、顔料、染料、離型剤、滑剤、発泡剤、成分B以外の核剤、耐候性改良剤などを配合することが出来る。
【0020】
上記のポリアミド樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により上記の成分および必要に応じて配合される各種添加剤を混合すればよい。例えば、上記の成分A、成分Bおよび成分Cの3成分を所定量秤量し、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムタンブラー等で混合し、得られた混合物を単軸または2軸スクリュー押出機、コニーダー等で溶融、混練してペレット状の樹脂組成物とすることが出来る。
【0021】
次に、図1及び図2に基づき本発明の穴開き樹脂成形品について説明する。図1(a)〜(c)は、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の一例を示す断面図であり、何れも、樹脂層(1)と(2)の2層の積層体から成る。図2は、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の一例を示す平面図である。
【0022】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、厚さ(図示した例の場合2層の合計厚さ)が5mm以上である。厚さは、好ましくは6.5mm以上、更に好ましくは7mm以上であり、その上限は通常50mmである。また、表面に凹凸部を有する成形品の場合の厚さは、最も面積の大きい部分(基体部分)の厚さを意味する。
【0023】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、射出成形によって得られ、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成ることを特徴とする。
【0024】
本発明において、同族樹脂とは基本的な繰り返し単位が同一である樹脂を意味する。従って、例えば、前述のポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66,6T/6I、6/6T、66/6T、ポリアミドMXなどは、何れも、主鎖中に当該樹脂を特徴づける結合単位(アミド結合単位)を有する点において同族樹脂であり、本発明においては、任意のポリアミドを組み合わせて使用することが出来る。また、同一のポリアミドであって分子量のみを異にする2種の樹脂を組み合わせて使用することも出来る。
【0025】
しかしながら、本発明の目的は、穴開き厚肉樹脂成形品の機械的性質がその冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により損なわれるという欠点を解決し、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。従って、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、1個の穴開き厚肉樹脂成形品を得るために用意された1種の樹脂を分割して射出成形することによって得られるため、積層体を構成する樹脂層(1)及び樹脂層(2)は物理化学的に同一の樹脂にて構成されるのが一般的である。
【0026】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品を構成する各層の形状は、基本的には、図1(a)に示す様な板状または図1(b)に示す様な僅かに湾曲した板状とされるが、図1(c)に示す様なコの字型断面の形状でもよい。なお、図1中の符号(10)は本発明の穴開き厚肉樹脂成形品を示す。
【0027】
各層の厚さは、通常4mm以下、好ましくは2mm以下とされる。一層当たりの厚さが余りにも厚過ぎる場合は本発明の目的を十分に達成することが出来ない。なお、各層の厚さの下限値は通常1mmである。一層当たりの厚さが余りにも厚過ぎる場合は、層数(射出成形回数)が必要以上に多くなり経済的ではない。具体的な層数は、全体厚さを考慮して決定されるが、通常2〜10層である。層数の下限は、好ましくは3層、更に好ましくは4層であり、層数の上限は、好ましくは8層、更に好ましくは6層である。
【0028】
射出成形方法は、特に制限されず、射出成形機からの溶融樹脂がライナー及びゲートを介して金型(固定型と可動型)のキャビティに供給される通常の射出成形方法が採用される。金型としては、穴形成用のピンが備えられた公知の金型を使用することが出来る。
【0029】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の積層構造は、上記の様な射出成形方法により各種の方法で形成することが出来る。例えば、(1)穴開き厚肉樹脂成形品の厚さより低い高さのキャビティを備えた金型を使用して射出成形した後、得られた成形品をその厚さより高い高さのキャビティを備えた金型にセットして再度射出成形する方法、(2)固定型の底面が可動式になされてキャビティの高さが自在変更可能になされた金型を使用して多段に射出成形する方法、(3)キャビティにスペーサを挿入して高さ調節を行ないながら多段に射出成形する方法などが挙げられる。また、キャビティへの溶融樹脂供給口であるゲートの位置は、各射出成形毎に同一であっても異ならせてもよい。ゲートの位置を異ならせた場合は、射出成形時に溶融樹脂が金型中のコアの周囲を流れて合流する際に形成されるウエルドライン部分の位置をずらして互いに重なり合わない様にすることが出来る。すなわち、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【0030】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、上記の様な射出成形によって得られ、積層構造の各層間に所謂スキン層を有している。本発明の穴開き厚肉樹脂成形品が優れた機械的性質を有する理由は、前述の通り、冷却過程での内部応力(残留応力)の発生がないことによるものと判断されるが、更に、上記の様なスキン層による補強作用も機械的性質の改善に寄与していると推定される。また、ウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在することも寄与している。
【0031】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、その優れた機械的性質を活かし、ワイヤー等の締結部品に好適に使用することが出来る。斯かる部品の具体例としては、例えば、電線などのパワーケーブルの他、電話線や光ファイバーケーブルを分岐または締結する部品が挙げられる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<原料ペレットの製造>
ポリアミドMX樹脂(ポリメタキシリレンアジパミド):90重量部とポリアミド66:10重量部の合計100重量部に対し、タルク:2重量部とガラス繊維:100重量部とを配合し、2軸押出機(東芝機械社製、型式:TEM35B)を使用し、シリンダー温度270℃で溶融混練してペレットを得た。
【0034】
実施例1
上記のペレットを原料とし、射出成形機(日本製鋼所製「J220EP」)を使用し、図1(a)及び図2に示す形状を有し、厚さ:20mm、縦および横:120mm、各角のR:35mm、穴の位置:各角の頂点から30mmの位置を中心とする位置、穴の直径:30mmである穴開き厚肉樹脂成形品を次の要領で成形した。
【0035】
先ず、ピン付金型のキャビティに10mmのスペーサー(S)(材質:金型用鋼材NAK55、以下同じ)を挿入し、第1回目の射出成形により厚さ10mmの成形品(A)を得た。次いで、キャビティから成形品(A)とスペーサー(S)を取り出し、ゲートを180°回転させた位置に変更し、成形品(A)を再度キャビティに戻し、第2回目の射出成形により、全体厚さ20mm、各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する、穴開き積層成形品(A/B)得た。上記の各成形条件は次の表1に示す通りである。
【0036】
【表1】
射出速度:10%(射出圧力:サーボ制御)
樹脂温度:270℃
金型温度:120℃
【0037】
次いで、上記の穴開き積層成形品を試験片とし、対角線上の2個の穴にそれぞれワイヤーロープを掛け、上下に引張り、破断強度を測定した。得られた破壊荷重は1.65tfであった。
【0038】
実施例2
積層数が4に変更されている点を除き、実施例1で得られたのと同様の形状・寸法を有する、穴開き厚肉樹脂成形品を次の要領で成形した。
【0039】
先ず、ピン付金型のキャビティに15mmのスペーサー(S1)を挿入し、第1回目の射出成形により厚さ5mmの成形品(A)を得た。次いで、キャビティから成形品(A)とスペーサー(S1)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、キャビティに10mmのスペーサー(S2)を挿入し、形品(A)を再度キャビティに戻し、第2回目の射出成形により、全体厚さ10mmの穴開き積層成形品(A/B)を得た。
【0040】
次いで、キャビティから積層成形品(A/B)とスペーサー(S2)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、キャビティに5mmのスペーサー(S3)を挿入し、積層形品(A/B)を再度キャビティに戻し、第3回目の射出成形により、全体厚さ15mmの穴開き積層成形品(A/B/C)を得た。次いで、キャビティから積層成形品(A/B/C)とスペーサー(S3)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、積層形品(A/B/C)を再度キャビティに戻し、第4回目の射出成形により、全体厚さ20mm、各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する、穴開き積層成形品(A/B/C/D)を得た。上記の各成形条件は実施例1と同じである。実施例1と同様に、破断強度を測定し結果、破壊荷重は3.87tfであった。
【0041】
比較例1
実施例1において、スペーサーの使用を止め、射出成形を1回とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ20mmの穴開き成形品(単層)を得た。実施例1と同様に、破断強度を測定した結果、破壊荷重は1.41tfであった。
【0042】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品が提供され、本発明の工業的価値は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の厚肉樹脂成形品の一例を示す断面図
【図2】本発明の厚肉樹脂成形品の一例を示す平面図
【符号の説明】
1:樹脂層
2:樹脂層
10:厚肉樹脂成形品
20:穴
【発明の属する技術分野】
本発明は、穴開き厚肉樹脂成形品に関し、詳しくは、優れた機械的性質を有する穴開き厚肉樹脂成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、厚さが5mm以上の穴開き厚肉樹脂成形品は、ワイヤー等の締結部品に使用することが行われている。ところが、厚さが5mm以上の穴開き厚肉樹脂成形品においては、その冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により、引張強度、曲げ強度、衝撃強度などの機械的性質が損なわれるという問題がある。また、穴開き樹脂成形品は、ウエルドライン部分(ウエルドマーク)による強度的欠陥を有するという問題もある。ウエルドライン部分は、射出成形時に溶融樹脂が金型中のピンの周囲を流れて合流する際に形成される線状のマークである。そこで、従来より、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品が望まれている。
【0003】
近時、樹脂成形品の寸法精度、反り及び強度の改善のため、「溶融樹脂をキャビティ内に充填した後、スキン層からコア層の中心方向に向う固化が進行したところで、コア層内に方向を変えて溶融樹脂の流動を発生させ、この流動によりコア層の樹脂層内に剪断を加えることにより、成形品の厚肉内に方向を変えた剪断配向層を形成する熱可塑性樹脂の射出成形方法」が提案されている(例えば、特許文献1)。ここで、上記の「スキン層」は溶融樹脂が金型壁面に密着し固化した部分を意味し、「コア層」はキャビティ内部において溶融樹脂が未固化の部分を意味している。
【0004】
そして、上記の射出成形方法によれば、コア層内には方向の違う剪断配向層が積層される結果、「厚肉内に交差する方向に剪断配向層が形成されていることを特徴とする射出成形品」が得られるとのことであり、この成形品は、引張強度、曲げ強度、衝撃強度に優れ、成形品上各部の成形収縮率の差が少なくなるために、寸法精度が向上し、更に、変形による反りやねじれの少ない強度的に優れた特徴をもつことになるとのことである。なお、成形品寸法としては、幅80mm、長さ110mm、厚さ3.5mmが例示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−86514号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、穴開き厚肉樹脂成形品の機械的性質がその冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により損なわれるという欠点を解決し、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。同時に、本発明の他の目的は、ウエルドライン部分による強度的欠陥が改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、次の様な知見を得た。すなわち、多段で射出成形された積層構造の穴開き厚肉樹脂成形品は、一段で射出成形された単層構造の穴開き厚肉樹脂成形品に比し、厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等の問題が解消されて機械的性質に優れる。更に、ゲートの位置を変えて多段で射出成形された積層構造の穴開き厚肉樹脂成形品の場合は、隣接する各層のウエルドライン部分の位置がずれた位置に存在し、ウエルドライン部分による強度的欠陥が改善される。なお、斯かる樹脂成形品は、全体が2層以上の積層体から成る点において、前記の先行技術で開示された単層構造の射出成形品とは異なる。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、射出成形によって得られ、厚さが5mm以上の厚肉で且つ穴付きの樹脂成形品であって、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成ることを特徴とする穴開き厚肉樹脂成形品に存する。そして、本発明の好ましい態様の穴開き厚肉樹脂成形品においては、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を説明する。先ず、樹脂材料について説明する。本発明においては、各種の熱可塑性樹脂を制限なく使用することが出来る。熱可塑性樹脂としてはポリアミド樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂は、粒状無機充填材や繊維状無機強化材を配合することも出来る。
【0010】
<ポリアミド樹脂(成分A)>
本発明において、ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合またはジアミンと二塩基酸の重縮合により得られる酸アミド結合を繰り返し単位として有する多くのポリアミドから選択することが出来る。具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66,6T/6I、6/6T、66/6T、ポリアミドMX、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。上記の「I」は、イソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。
【0011】
上記のポリアミド樹脂中、キシリレンジアミンとα,ω−二塩基酸の重縮合で得られるポリアミドMX樹脂は、本発明で使用する樹脂組成物の中で特に効果が顕著に現れる高強度の樹脂として好ましい。ポリアミドMX樹脂としては、(1)メタキシリレンジアミン99〜50モル%とパラキシリレンジアミン1〜50モル%から成る混合キシリレンジアミンと、炭素数6〜12のα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸または芳香族二塩基酸との重縮合で得られるポリアミドMX樹脂、または、(2)メタキシリレンジアミンと、炭素数6〜12のα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸または芳香族二塩基酸との重縮合で得られるポリアミドMX樹脂などが挙げられる。これらの中でもα、ω−直鎖脂肪族二塩基酸としてアジピン酸を使用したポリアミドMX樹脂が特に好ましい。また、上記のポリアミドMX樹脂(1)と(2)の混合物は、射出成形法で成形品を製造する際に成形サイクルを短縮できるので好ましい。
【0012】
ポリアミドMX樹脂に、目的に応じて脂肪族ポリアミド樹脂を70重量%まで置換または配合(すなわちMX樹脂を30重量%以上含有するポリアミド樹脂組成物)してもよい。例えば、成形サイクルを短縮する目的で配合する場合の脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド9Tなど結晶化速度の速いポリアミドが挙げられ、好ましくはポリアミド66である。また、金型温度が低い際に良外観を出す目的および/または耐候性を向上する目的で配合する場合の脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6、11、12、610、612、6/66等が挙げられる。脂肪族ポリアミド樹脂の配合量が70重量%を超えると、ポリアミドMX樹脂の特性である強度、剛性などが混合樹脂に隠蔽され、低下することがある。
【0013】
<粒状無機充填材(成分B)>
粒状無機充填材は、ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、結晶核剤として機能する他、成形品の剛性などの機械的物性を向上させる様に機能する。例えば、核剤としての機能に優れているタルクは、その粒径が大きい場合、成形中に樹脂が流れる際に特にウエルド部で配向するため、成形体の強度低下を惹起させる畏れがある。しかしながら、この様な粒径の大きい平面劈開性の無機粒子や繊維状の無機粒子も、粒径を小さくすることによりウエルド部で配向しなくなり、強度の低下を惹起させなくなる。成分Bの粒子の形状としては、平面劈開性の無い不定形状、立方体、球状、鱗片状、繊維状などの種々の形状のものが使用可能である。
【0014】
粒状無機充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、微小ガラスフレーク、窒化硼素、ウォラストナイト、硫酸マグネシウム、セピオライト、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、ゼオライト、ガラスビーズ、バルーン等の粒状等方性の粒子;タルク、鱗片状窒化硼素、マイカ等の平面劈開性であって粒径3ミクロン以下の粒子;繊維状でアスペクト比が5未満の粒子などが挙げられる。中でも、炭酸カルシウム、ゼオライト、シリカ等の等方性粒子、粒径3μm以下の鱗片状窒化硼素などの平面劈開性粒子が好ましい。平面劈開性のない粒子の粒径は、樹脂充填材として一般に使用されている粒径であり、特に限定されるものではないが、通常、0.01〜30μm程度である。粒径が小さすぎると粒子の分散が困難であり、大きすぎると核剤としての効果が不十分である。
【0015】
上記の成分Bは、成分Aから成る基体樹脂との界面の親和性を改良する目的で、その表面が予めカップリング剤で処理されていてもよい。成分Bは、1種類でも2種類以上の混合物であってもよい。
【0016】
成分Bの配合量は、成分A100重量部に対し、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜6重量部である。なお、成分Bの種類によりその好適な配合量は異なる。成分Bが鱗片状窒化ホウ素の場合は0.05〜1重量部が好ましく、その他の場合は0.5〜6重量部が好ましい。成分Bの配合量が0.05重量部未満であると、核剤としての効果および強化材としての効果が不十分である。
【0017】
<繊維状無機強化材(成分C)>
本発明において、繊維状無機強化材としては、外観が繊維状を呈する無機強化材(C1)の他、異方性が高くアスペクト比が5以上の繊維状無機強化材(C2)が例示される。上記の(C1)の具体例としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ステンレススチール繊維、黄銅繊維などの金属繊維類を挙げることが出来る。上記の(C2)の具体例としては、例えば、チタン酸カリウムやホウ酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム等のウィスカー類、ウォラストナイトの様な鉱物でアスペクト比が5以上の繊維状のものが挙げられる。成分Dとして好ましくはガラス繊維である。
【0018】
成分Cは、ポリアミド樹脂組成物中の成分Bと成分Cとの含有量の合計として、通常25〜70重量%、好ましくは45〜65重量%を占める様に配合する。成分Bと成分Cとの含有量の合計が25重量%未満であると、補強効果が低下し、最終的に得られる射出成形品の機械的強度が低下する。成分Bと成分Cとの含有量の合計が70重量%を超えると、ポリアミド樹脂組成物の流動性が低下して成形品の製造が困難となる。
【0019】
上記のポリアミド樹脂組成物には、従来から知られている各種の樹脂添加剤、例えば、難燃剤、安定剤、顔料、染料、離型剤、滑剤、発泡剤、成分B以外の核剤、耐候性改良剤などを配合することが出来る。
【0020】
上記のポリアミド樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により上記の成分および必要に応じて配合される各種添加剤を混合すればよい。例えば、上記の成分A、成分Bおよび成分Cの3成分を所定量秤量し、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムタンブラー等で混合し、得られた混合物を単軸または2軸スクリュー押出機、コニーダー等で溶融、混練してペレット状の樹脂組成物とすることが出来る。
【0021】
次に、図1及び図2に基づき本発明の穴開き樹脂成形品について説明する。図1(a)〜(c)は、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の一例を示す断面図であり、何れも、樹脂層(1)と(2)の2層の積層体から成る。図2は、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の一例を示す平面図である。
【0022】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、厚さ(図示した例の場合2層の合計厚さ)が5mm以上である。厚さは、好ましくは6.5mm以上、更に好ましくは7mm以上であり、その上限は通常50mmである。また、表面に凹凸部を有する成形品の場合の厚さは、最も面積の大きい部分(基体部分)の厚さを意味する。
【0023】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、射出成形によって得られ、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成ることを特徴とする。
【0024】
本発明において、同族樹脂とは基本的な繰り返し単位が同一である樹脂を意味する。従って、例えば、前述のポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66,6T/6I、6/6T、66/6T、ポリアミドMXなどは、何れも、主鎖中に当該樹脂を特徴づける結合単位(アミド結合単位)を有する点において同族樹脂であり、本発明においては、任意のポリアミドを組み合わせて使用することが出来る。また、同一のポリアミドであって分子量のみを異にする2種の樹脂を組み合わせて使用することも出来る。
【0025】
しかしながら、本発明の目的は、穴開き厚肉樹脂成形品の機械的性質がその冷却過程において厚肉であるが故に生じる内部応力(残留応力)等により損なわれるという欠点を解決し、機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品を提供することにある。従って、本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、1個の穴開き厚肉樹脂成形品を得るために用意された1種の樹脂を分割して射出成形することによって得られるため、積層体を構成する樹脂層(1)及び樹脂層(2)は物理化学的に同一の樹脂にて構成されるのが一般的である。
【0026】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品を構成する各層の形状は、基本的には、図1(a)に示す様な板状または図1(b)に示す様な僅かに湾曲した板状とされるが、図1(c)に示す様なコの字型断面の形状でもよい。なお、図1中の符号(10)は本発明の穴開き厚肉樹脂成形品を示す。
【0027】
各層の厚さは、通常4mm以下、好ましくは2mm以下とされる。一層当たりの厚さが余りにも厚過ぎる場合は本発明の目的を十分に達成することが出来ない。なお、各層の厚さの下限値は通常1mmである。一層当たりの厚さが余りにも厚過ぎる場合は、層数(射出成形回数)が必要以上に多くなり経済的ではない。具体的な層数は、全体厚さを考慮して決定されるが、通常2〜10層である。層数の下限は、好ましくは3層、更に好ましくは4層であり、層数の上限は、好ましくは8層、更に好ましくは6層である。
【0028】
射出成形方法は、特に制限されず、射出成形機からの溶融樹脂がライナー及びゲートを介して金型(固定型と可動型)のキャビティに供給される通常の射出成形方法が採用される。金型としては、穴形成用のピンが備えられた公知の金型を使用することが出来る。
【0029】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品の積層構造は、上記の様な射出成形方法により各種の方法で形成することが出来る。例えば、(1)穴開き厚肉樹脂成形品の厚さより低い高さのキャビティを備えた金型を使用して射出成形した後、得られた成形品をその厚さより高い高さのキャビティを備えた金型にセットして再度射出成形する方法、(2)固定型の底面が可動式になされてキャビティの高さが自在変更可能になされた金型を使用して多段に射出成形する方法、(3)キャビティにスペーサを挿入して高さ調節を行ないながら多段に射出成形する方法などが挙げられる。また、キャビティへの溶融樹脂供給口であるゲートの位置は、各射出成形毎に同一であっても異ならせてもよい。ゲートの位置を異ならせた場合は、射出成形時に溶融樹脂が金型中のコアの周囲を流れて合流する際に形成されるウエルドライン部分の位置をずらして互いに重なり合わない様にすることが出来る。すなわち、相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する。
【0030】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、上記の様な射出成形によって得られ、積層構造の各層間に所謂スキン層を有している。本発明の穴開き厚肉樹脂成形品が優れた機械的性質を有する理由は、前述の通り、冷却過程での内部応力(残留応力)の発生がないことによるものと判断されるが、更に、上記の様なスキン層による補強作用も機械的性質の改善に寄与していると推定される。また、ウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在することも寄与している。
【0031】
本発明の穴開き厚肉樹脂成形品は、その優れた機械的性質を活かし、ワイヤー等の締結部品に好適に使用することが出来る。斯かる部品の具体例としては、例えば、電線などのパワーケーブルの他、電話線や光ファイバーケーブルを分岐または締結する部品が挙げられる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<原料ペレットの製造>
ポリアミドMX樹脂(ポリメタキシリレンアジパミド):90重量部とポリアミド66:10重量部の合計100重量部に対し、タルク:2重量部とガラス繊維:100重量部とを配合し、2軸押出機(東芝機械社製、型式:TEM35B)を使用し、シリンダー温度270℃で溶融混練してペレットを得た。
【0034】
実施例1
上記のペレットを原料とし、射出成形機(日本製鋼所製「J220EP」)を使用し、図1(a)及び図2に示す形状を有し、厚さ:20mm、縦および横:120mm、各角のR:35mm、穴の位置:各角の頂点から30mmの位置を中心とする位置、穴の直径:30mmである穴開き厚肉樹脂成形品を次の要領で成形した。
【0035】
先ず、ピン付金型のキャビティに10mmのスペーサー(S)(材質:金型用鋼材NAK55、以下同じ)を挿入し、第1回目の射出成形により厚さ10mmの成形品(A)を得た。次いで、キャビティから成形品(A)とスペーサー(S)を取り出し、ゲートを180°回転させた位置に変更し、成形品(A)を再度キャビティに戻し、第2回目の射出成形により、全体厚さ20mm、各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する、穴開き積層成形品(A/B)得た。上記の各成形条件は次の表1に示す通りである。
【0036】
【表1】
射出速度:10%(射出圧力:サーボ制御)
樹脂温度:270℃
金型温度:120℃
【0037】
次いで、上記の穴開き積層成形品を試験片とし、対角線上の2個の穴にそれぞれワイヤーロープを掛け、上下に引張り、破断強度を測定した。得られた破壊荷重は1.65tfであった。
【0038】
実施例2
積層数が4に変更されている点を除き、実施例1で得られたのと同様の形状・寸法を有する、穴開き厚肉樹脂成形品を次の要領で成形した。
【0039】
先ず、ピン付金型のキャビティに15mmのスペーサー(S1)を挿入し、第1回目の射出成形により厚さ5mmの成形品(A)を得た。次いで、キャビティから成形品(A)とスペーサー(S1)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、キャビティに10mmのスペーサー(S2)を挿入し、形品(A)を再度キャビティに戻し、第2回目の射出成形により、全体厚さ10mmの穴開き積層成形品(A/B)を得た。
【0040】
次いで、キャビティから積層成形品(A/B)とスペーサー(S2)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、キャビティに5mmのスペーサー(S3)を挿入し、積層形品(A/B)を再度キャビティに戻し、第3回目の射出成形により、全体厚さ15mmの穴開き積層成形品(A/B/C)を得た。次いで、キャビティから積層成形品(A/B/C)とスペーサー(S3)を取り出し、ゲートを90°回転させた位置に変更し、積層形品(A/B/C)を再度キャビティに戻し、第4回目の射出成形により、全体厚さ20mm、各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する、穴開き積層成形品(A/B/C/D)を得た。上記の各成形条件は実施例1と同じである。実施例1と同様に、破断強度を測定し結果、破壊荷重は3.87tfであった。
【0041】
比較例1
実施例1において、スペーサーの使用を止め、射出成形を1回とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ20mmの穴開き成形品(単層)を得た。実施例1と同様に、破断強度を測定した結果、破壊荷重は1.41tfであった。
【0042】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば機械的性質の改善された穴開き厚肉樹脂成形品が提供され、本発明の工業的価値は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の厚肉樹脂成形品の一例を示す断面図
【図2】本発明の厚肉樹脂成形品の一例を示す平面図
【符号の説明】
1:樹脂層
2:樹脂層
10:厚肉樹脂成形品
20:穴
Claims (8)
- 射出成形によって得られ、厚さが5mm以上の厚肉で且つ穴付きの樹脂成形品であって、同族樹脂にて構成された2層以上の積層体から成ることを特徴とする穴開き厚肉樹脂成形品。
- 相互に隣接する各層におけるウエルドライン部分が重なり合わない位置に存在する請求項1に記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- 積層体を構成する各層が板状層である請求項1又は2に記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- 繊維強化熱可塑性樹脂組成物から成る請求項1〜3の何れかに記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- 熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である請求項1〜4の何れかに記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- ポリアミド樹脂が、キシリレンジアミンとα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸の重縮合体であるポリアミドMX樹脂を30重量%以上含有するポリアミド樹脂である請求項5に記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- ポリアミド樹脂がポリアミドMX樹脂である請求項5に記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
- 積層体を構成する各層の樹脂が物理化学的に同一樹脂である請求項1〜7の何れかに記載の穴開き厚肉樹脂成形品。
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A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
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