JP2004231505A - ガラス光学素子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ガラス素材と成形面の間で、融着やカン・ワレを防止し、更に、得られる光学素子表面にクモリが生じないガラス素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】予備成形されたガラス素材であって、表面に炭素膜または自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態で成形型の成形面を転写するプレス成形工程を含む、ガラス光学素子の製造方法。前記炭素膜または自己組織化膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも2原子層若しくは0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものである。
【選択図】

Description

本発明は、予め所定形状に予備形成されたガラス素材を加熱軟化し、プレス成形によってガラス光学素子を得る方法に関する。特に、本発明は、成形後に研削、研磨を必要とせず、所定の面精度と光学性能をもったガラス光学素子の製造方法に関する。
ガラス素材を加熱軟化し、所定形状に加工した成形型によってプレス成形し、レンズなどの光学素子を得る際に、成形型の成形面とガラス素材の融着を防止し、離型性を得るために、成形面に炭素系薄膜、貴金属系薄膜、窒化物系薄膜、または硼化物系薄膜等の離型膜を設けることが知られている。
しかしながら、特に、成形の際に生じる成形品の損傷(いわゆるカン・ワレ)の生じやすいガラス、例えば、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ホウリン酸塩系ガラス、フツリン酸塩系ガラスなどをガラス素材として用いる場合、既存の離型膜では充分な離型効果を得ることが困難であった。
一方、ガラス素材の表面に炭素膜などの膜を成膜して、融着を防止する技術も知られている。
特許文献1には、ガラスと型の相互に対向する表面のうち少なくとも一方に炭素膜を形成することにより、融着を防止する方法が記載されている。
特許文献2には、成形用ガラス素材表面に炭化水素膜を形成することにより、融着を防止して離型性を向上することが記載されている。
特許文献3には、高純度アセチレンの熱分解により形成される薄い炭素膜をガラス素材の表面に設けることで融着を防止することが記載されている。
特許文献4には、メタンプラズマ処理により、膜厚5nm未満、好ましくは1nm未満の炭素膜を成形用ガラス素材表面に形成することにより、離型性を向上することが記載されている。
これらの方法によれば、一定の離型性向上効果は見られる。しかしながら、微小融着(微小融着とは、例えば、サブミクロンオーダー以下の融着を言う)が防止できず、1000ショットを越える連続プレスにおいては、カン・ワレの発生を防止できなかった。また、用いるガラス硝種によっては、成形されたガラス光学素子表面にクモリが生じるなど、必ずしも十分に満足できるものではなかった。
特公平2−31012号 特公平7−45329号 特開平8−217468号 特開平9−286625号
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、ガラス素材と成形面の間で、融着やカン・ワレを防止し、更に、得られる光学素子表面にクモリが生じないガラス素子の製造方法を得ることを目的とする。
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
(1)予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法であって、
前記炭素膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
(2)予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
前記炭素膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
(3)予備成形され、表面に自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法であって、
前記自己組織化膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
(4)予備成形され、表面に自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
前記自己組織化膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
(5)ガラス素材の表面に設ける炭素膜または自己組織化膜の膜厚は、ガラス素材の形状及びガラス光学素子の形状に基づいて、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層または0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように予め決定される(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記炭素膜または自己組織化膜は、ガラス素材のガラス表面から深さ500nmまでの表面層部分の水素含有量の増加率が5 at%以下であるように形成されたものである、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記ガラス素材が有する炭素膜は、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法により形成されたものであり、前記ガラス素材が有する自己組織化膜は、自己組織化膜成膜法により形成されたものであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)前記プレス成形により、光学機能面と非光学機能面を有し、かつ非光学機能面には、光学機能面の形状とは非連続な周縁部を有する光学素子が製造されることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)予備成形され、表面に炭素膜又は自己組織化膜を有するガラス素材を、加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
模擬ガラス素材を用いてプレス成形を行うことにより、模擬光学素子を得、
前記成形面によりプレス成形された表面の、プレス成形による表面積の拡大率が最も大きい部位を把握し、
前記部位の表面積の拡大率にもとづき、ガラス素材に成膜する炭素膜又は自己組織化膜の膜厚を決定し、
決定された膜厚の炭素膜又は自己組織化膜を、ガラス素材に成膜し、
前記成膜されたガラス素材を用いて、プレス成形することを特徴とする、前記製造方法。
(10)前記模擬ガラス素材として、表面に所定パターンのマークを付した模擬ガラス素材を用い、かつ
前記模擬ガラス素材のマークと、前記の表面に所定パターンのマークを付した模擬ガラス素材を用いて得られた模擬光学素子表面のマークとに基づいて、
前記拡大率が最も大きい部位を把握することを特徴とする(9)に記載の製造方法。
(11)予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を、加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
前記炭素膜は、蒸着法又はスパッタ法により成膜され、
かつ前記炭素膜の膜厚が、5nm未満であることを特徴とする、前記製造方法。
(12)前記炭素膜は、プレス成形後のガラス光学素子の、前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、(11)に記載の製造方法。
本発明によれば、炭素膜または自己組織化膜を有するガラス素材を成形用型でプレス成形し、光学素子を製造するに際して、炭素膜または自己組織化膜の膜厚を、プレス成形によって拡大される表面積の比率を考慮して予め決定し、所定範囲内にある膜厚を有する炭素膜または自己組織化膜を設けたガラス素材を用いることにより、成形に際して、融着やそれに起因するカン・ワレを防止することができる。
更に、本発明によれば、炭素膜または自己組織化膜を設けたガラス素材を用いる際に、成膜の際にガラス素材表面に活性水素が侵入することを抑え、成膜前の水素含有量から一定以内の水素含有量を示すガラス素材を用いることで、光学素子のクモリ、白濁や、成形面の損傷を抑え、成形型の離型膜寿命を伸ばし、離型膜の除去再生頻度を下げられることから、生産コスト、効率を有利にすることができる。
本発明のガラス光学素子の製造方法は、予備成形されたガラス素材であって、表面に炭素膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態で成形型の成形面を転写するプレス成形工程を含む。
本発明のガラス光学素子の製造方法の第1の態様では、前記炭素膜は、最大膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする。但し、上記プレス成形後のガラス光学素子の表面は、成形型の成形面によりプレス成形された表面である。
本発明のガラス光学素子の製造方法の第2の態様では、前記炭素膜は、最大膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする。但し、上記プレス成形後のガラス光学素子の表面は、成形型の成形面によりプレス成形された表面である。
ガラス素材を加熱軟化した状態で、プレス成形すると、ガラス素材は伸び、変形して、成形型成形面の面形状が転写されることによって、所望の光学素子が得られる。表面に炭素膜などを有するガラス素材をプレス成形する場合、ガラス素材の変形に伴って表面の炭素膜も伸ばされ、ガラス素材の変形に炭素膜の伸びが追いつかないと亀裂が生じてしまう。その結果、亀裂の部分ではガラス素材が露出し、成形面との間に融着が生じる可能性が有り、融着が生じるとこれが原因となってカン・ワレが発生する。ここで言う炭素膜は、50at%未満、好ましくは30at%未満の範囲内で水素等の他の物質を含む場合を含む。
従って、ガラス素材表面上に設けられた炭素膜は、プレスによって押し伸ばされるプロセス中、図1に示すように、ガラス表面の変形に沿って伸び、ガラスと成形面の接触を防止し続けなければならない。
プレスによってガラス素材の表面が伸ばされ、ガラス素材の表面積が大きくなり、それとともに炭素膜の表面積が大きくなり、その結果、炭素膜の膜厚が薄すぎると、炭素膜に欠陥(亀裂)が生じてしまう。発明者らは、鋭意検討の結果、炭素膜を構成する炭素原子が滑り移動することによって炭素膜が伸びるためには、プレスによって伸ばされる最終段階まで、ガラス表面上に、最低限、炭素原子の2原子層が存在しなくてはならないことを見出した。ガラス表面上の炭素原子第1層は、ガラスとの付着のために、移動はせず、第2層以上の原子が滑り移動をするからである。
従って、本発明のガラス光学素子の製造方法の第1の態様では、ガラス素材が有する炭素膜は、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも2原子層の膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものである。但し、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在する必要があるのは、成形型の成形面によりプレスされた表面であり、それ以外のガラス光学素子の表面上に存在する炭素膜は、膜厚が1原子または炭素膜が消失していてもよい。
図1(b)に示すとおり、プレス成形の結果として変形した光学素子の表面に、炭素原子が存在し、かつその膜厚が2原子層以上であれば、プレス成形中に成形面との融着が起きないということになる。この2原子層には、炭素原子が最密状態で配列している必要はなく、しかしガラス表面をすべて覆うに充分な状態で配列している必要がある。従って、炭素2原子層を含む炭素膜の膜厚は0.5nm程度以上である。ここで、炭素原子の理論半径はファンデルワールス半径で0.17nmである。
従って、本発明のガラス光学素子の製造方法の第2の態様では、ガラス素材が有する炭素膜は、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものである。但し、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在する必要があるのは、成形型の成形面によりプレスされた表面であり、それ以外のガラス光学素子の表面上に存在する炭素膜は、膜厚が0.5nm 未満または炭素膜が消失していてもよい。
従って、プレス成形後のガラス素子表面に残存する炭素膜が、膜厚が少なくとも2原子層または0.5nmとなるように、ガラス素材に、予め所定の膜厚の炭素膜を成膜しておく。尚、2原子層または0.5nmは最小の膜厚であり、炭素膜は、成形型の成形面によりプレスされた表面においては、上記最小の膜厚以上の膜厚であれば、必ずしも厚みは均一である必要はなく、膜厚が均一でない場合には、最低の膜厚の部分が、2原子層または0.5nmを満たせばよい。また、ガラス素材の形状及びガラス素子の形状によって、ガラス素材の表面の変形度合いが異なることがあり、プレス成形前のガラス素材にほぼ均一な炭素膜が設けられていたとしても、変形が大きく表面積がより大きくなった部分の炭素膜は、変形が小さく表面積の増大が少ない部分に比べて、プレス成型後の炭素膜の膜厚は小さくなる。本発明では、最も薄くなった部分の炭素膜の膜厚を少なくとも2原子層または0.5nmとする。
更に、ガラス素材が有する炭素膜(プレス成型前の炭素膜)は、膜厚が10nmを超えないことが必要である。ここでの膜厚は、成形型の成形面によりプレスされるガラス素材の表面における炭素膜の膜厚であり、この膜厚は均一である必要はなく、膜厚が均一でない場合、最大膜厚を示す部分での膜厚が10nm以下であれば良い。
ガラス素材が有する炭素膜の膜厚が10nmを超えると、凝集状態にある炭素原子が構造規則性を有するようになり、原子間の相互作用により、炭素原子相互の間に円滑なスベリ移動が起きず、炭素膜が伸びにくくなる。したがって、炭素膜に一部でも10nmを超える膜厚の部分があると、必ずしも微小融着が防止できず、1000ショットを越える連続プレス中にカン・ワレが発生することが完全には避けられない。このような点から、炭素膜の膜厚は10nm以下であることが必要であり、5nm未満であることが更に好ましい。
ガラス素材の表面に設ける炭素膜または自己組織化膜の膜厚は、ガラス素材の形状及びラス光学素子の形状に基づいて、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも2原子層または0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように予め決定される。即ち、ガラス素材に設ける炭素膜の膜厚は、ガラス素材をプレスして変形させるときの表面積の変化に応じてガラス素材に設ける炭素膜の膜厚を予め決定する。
例えば、プレス成形の結果、ガラス素材の表面積がほぼ均等に伸ばされて所定形状のガラス素子が成形される場合、ガラス素材の表面積をS(PF)、成形されたガラス素子の表面積をS(L)とし、ガラス素材に設ける炭素膜の膜厚をTとすると、膜厚Tは以下の条件を満たせば良い。
Figure 2004231505
プレス成形後の光学素子表面に、炭素原子2原子層が隙間無く配列している状態(膜厚が0.6nmの炭素膜が存在している状態)であることが好ましく、このためには、下記の式を満たすガラス素材が好ましい。
Figure 2004231505
尚、所定形状のガラス素材を、プレスする際の形状変化によっては、表面積の変化はガラス素材の表面の部位によって異なる。即ち、大きく伸ばされる部位と、あまり伸ばされない部位がある。この場合、もっとも伸ばされる倍率の高い部位において、成形後のガラス素子に少なくとも炭素原子2原子層が残るような膜厚を、ガラス素子上に設ける必要がある。例えば、球形状、扁平球形状又は平板状のガラスプリフォーム(予備成形ずみのガラス素材)をプレス成形によって、光学機能面とその周囲に非光学機能面を有する光学素子を成形する場合、非光学機能面に、光学機能面を構成する面形状とは非連続の形状(光学素子の取付け部等として用いることが多い。図3参照)の被成形面をもつとき、その非連続形状の部分は、プレス成形の際の形状変形が最も顕著であり、その部位において表面積の拡大率が高いため、少なくともその部位の拡大率[S(L)/S(PF)]を基に、ガラス素材に設ける炭素膜の膜厚Tを予め決定する必要がある。
勿論、プレス成形の際の形状変形が最も大きい部分は、光学素子の周縁部とは限らず、光学機能面内など、いずれの部分である場合にも、上記した関係を満たす膜厚Tを採用する。
ガラス素材に成膜する膜厚Tを決定するため、表面積の拡大率の最も大きな部位の拡大率(S(L)/S(PF))を求めるためには、たとえば、3次元形状の測定・解析、表面層にモニター剤(着色剤、ガラスに含まれない特異成分、アイソトープなど)をドープした所定形状のガラスプリフォームをプレスし、プレス後、プレス体の表面のモニター剤の濃度変化を測定する、表面層に炭素を成膜した所定形状のガラスプリフォームをプレスし、プレス後、プレス体の表面の炭素の膜厚変化を測定することなどによって(S(L)/S(PF))を決めることができる。また、上記の実測データの解析に基づいて構築したシミュレーションにより求めることができる。
又は、表面積の拡大率を以下の方法で求めることもできる。ガラス素材(模擬ガラス素材)上に、一定の規則的な配列の点などのマーキングを行う。例えば、放射状、同心円状などの所定パターンのマークを施す。このガラス素材を用いてプレス成形した後、得られた光学素子(模擬光学素子)のマークと、模擬ガラス素材のマークを比較し、その間隔変化から、光学素子上の各部位における表面積の拡大率を求めることができる。マーキングは、プレス温度で熱分解しない材料を用いて施すことが適切であり、例えば、カーボンブラックを含む色材を用いることが好ましい。
この方法は、極めて簡便に、表面積の拡大率とその部位による変化を観測することができる方法であり、好ましい。即ち、予備成形され、表面に炭素膜又は自己組織化膜を有するガラス素材を、加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、模擬ガラス素材を用いてプレス成形を行うことにより、模擬光学素子を得、前記成形面によりプレス成形された表面の、プレス成形による表面積の拡大率が最も大きい部位を把握し、前記部位の表面積の拡大率にもとづき、ガラス素材に成膜する炭素膜又は自己組織化膜の膜厚を決定し、決定された膜厚の炭素膜又は自己組織化膜を、ガラス素材に成膜し、前記成膜されたガラス素材を用いて、プレス成形する。
特に、前記模擬ガラス素材として、表面に所定パターンのマークを付した模擬ガラス素材を用い、かつこの模擬ガラス素材のマークと、この模擬ガラス素材を用いて得られた模擬光学素子表面のマークとに基づき、前記拡大率が最も大きい部位を把握することが好ましい。
ガラス素材に炭素膜を成膜する膜厚、及びプレス成形後の光学素子の炭素膜厚の測定は、ESCA(XPS;X線光電子分析)法もしくはTOF-SIMS(2次イオン質量分析)法等の分析機器、AFM(原子間力顕微鏡)や触針式膜厚計等の表面形状測定機器やエリプソメーター等の光学測定機器によって行うことができる。但し、これらの分析機器によっても測定困難な薄膜については、炭素膜の表面摩擦を測定することにより、解析することができる。
例えば以下のように基板(例えば、成形されたガラスレンズ)上の炭素膜の膜厚を解析することができる。
温度・湿度がよく制御された雰囲気中(例えば25℃・10Rh%)で、炭素膜上に球体のスライダーを所定荷重(L)で押しつける。荷重は数mN程度とすることが好適である。その後、荷重を付したまま、球体と基板を相対的にスライドさせ、生じる摩擦力Fを、表面摩擦計によって検出する。表面摩擦計は、図5のようなものであることができ、摩擦にともなう変形部材(ここでは板バネ)の変形を変位計によって検出する。スライドさせるときの摩擦速度は、数μm/s以下とすることが、本目的の測定精度の点で適切である。
表面摩擦計について図5を用いて説明する。
成膜済みの基板(ここでは成形したガラスレンズ)11をY方向に動作可能なサンプルホルダー12に固定する。球体スライダー13を固定し、荷重印加用Xステージ15でサンプルを球体スライダー13方向に移動、接触させ、所定荷重を印加する。この時、荷重板バネ16は印加した荷重の大きさに応じ撓みを生じる。この撓み量を荷重検出用変位センサー17で検出する。荷重は荷重板バネ16のバネ定数に荷重検出用変位センサー17で得られた撓み量を乗ずることによって求めることができる。荷重印加後、 サンプルホルダー12をY方向に所定の速度で動作させサンプル11を球体スライダー13で摩擦する。摩擦によって生じる摩擦力は摩擦力板バネ18を変位させる。この時、摩擦力板バネ18は生じた摩擦力の大きさに応じた撓みを生じる。この撓み量を摩擦力検出用変位センサー19で検出する。摩擦力は摩擦力板バネ18のバネ定数に摩擦力検出用変位センサー19で得られた撓み量を乗ずることによって得られる。尚、上記センサー17と19は、図示しない固定部材により、独立に固定することが好ましい。
所定の時間(=所定の距離)を摩擦した後、摩擦を終了し荷重を開放する。このときの、表面摩擦計の出力を、図6及び7に示す。図6では、横軸に経過時間、左縦軸に荷重、右縦軸に摩擦力を示す。時間0で荷重L1を掛け摩擦を開始する。摩擦開始と同時に摩擦力が徐々に上昇し、ある一定の値を示す。この値をF1とする。一定時間、一定荷重で摩擦した後、荷重を0(=開放)とするが、そのときの値を原点とし、それぞれをL0及びF0とする。ここから、摩擦係数=(F1-F0)/(L1-L0)を求めることができる。およそ、0.5以下であれば、本発明の膜厚が、2炭素原子数以上であると考えられる。
更に、図7に示すa)は、図6と同様の状態を示す。一方、b)、及びc)は、膜厚が不足し、すなわち炭素2原子を含む膜厚が充足されないため、炭素の滑り移動が許されず、膜表面でstick-slip現象が生じている。特にcでは4回発生した場合である。上記により、滑り移動が許容された限界の膜厚が、図1(b)により、0.5nmである。
尚、本発明に用いられるガラス素材は、球形状、扁平な球形状又は平板状に予備成形されたものであることができる。但し、本発明の製造方法で用いるガラス素材はこれら形状に限定されることなく、これらの形状以外のガラス素材を用いても、成形されるガラス光学素子の形状に近似させる研磨工程などを特に設けることなく、カン、ワレを生じることなく、所望の光学素子を成形することができる。従って、溶融ガラスから所定重量を流出させて熱間成形された上記形状のガラス素材をそのままプレス成形に供することもできるため、簡便であり経済的である。
プレス成形後の光学素子は、必要に応じてアニールを行う。アニールの際などに、酸化雰囲気の中で加熱することにより、炭素膜を除去することができる。光学素子の表面上に機能性の膜を設ける場合(反射防止膜など)には、その成膜に先だって、炭素膜を除去しておくことが好ましい。
本発明の成形型において使用する炭素膜を有するガラス素材は、例えば、蒸着法、スパッタ法、またはイオンプレーティング法などの成膜法により形成することができる。これらの成膜法により形成される炭素膜は、炭素原子間の相互作用が比較的少なく、プレス時の伸びに応じて、原子同士の滑り移動が適切に生じ易いという利点がある。特に、蒸着法、及びスパッタ法により成膜したものが、炭素原子の滑り移動が生じ易いという観点から好ましい。すなわち、蒸着法又はスパッタ法により成膜された、膜厚10nm以下の炭素膜、好ましくは5nm未満の炭素膜が好適である。また、このような膜であって、プレス成形後の光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層を含む炭素膜、乃至は、0.5nm以上の膜厚の炭素膜が存在するように形成された炭素膜が好適である。
蒸着法による炭素膜の形成は、具体的には、公知の蒸着装置を用いて、10-4Torr程度の真空雰囲気中で、炭素材料を電子ビーム、直接通電もしくはアークにより加熱し、材料から蒸発および昇華により発生する炭素蒸気を基材の上に輸送し凝縮・析出させることにより行うことができる。例えば、直接通電の場合、断面積0.1cm2程度の炭素材料に100V-50A程度の電気を通電し、炭素材料を通電加熱することができる。基材加熱温度は室温〜400℃程度が好ましい。ただし、基材のガラス転移温度(Tg)が450℃以下の場合、基材加熱の上限温度はTg-50℃とすることが好適である。
この場合、所定の膜厚に制御するためには、以下のようにすることができる。炭素膜の膜厚は、通常の光学薄膜と同様に、モニターガラス上の蒸着膜の反射率変化、透過率変化もしくはQCM(Quartz Crystal Microbalance;水晶振動式膜厚モニター)による実測から測定し、シャッターの開閉により炭素膜厚を制御することができる。
イオンプレーティング法による場合には、例えば、公知のイオンプレーティング装置を用いて、10-2〜10-4Torr程度のアルゴン雰囲気中で、炭素材料を電子ビームにより加熱し、材料から蒸発および昇華により発生する炭素蒸気を、負にバイアスされた基材上に蒸着させることにより炭素薄膜を形成することができる。フィラメントと基板電極との間のグロー放電により、蒸着の付着強度や均一性が向上する。基材加熱温度は室温〜400℃程度が好ましい。ただし、基材のガラス転移温度(Tg)が450℃以下の場合、基材加熱の上限温度はTg-50℃とすることが好適である。この場合、所定の膜厚の制御は、上記蒸着法と同様に行うことができる。
スパッタ法による場合には、公知のスパッター装置を用いて、10-2〜10-3Torr程度のアルゴン雰囲気中で、炭素ターゲット材料をアルゴンイオンでスパッタリングし、スパッタされた炭素粒子を輸送し、基材表面上に炭素粒子を析出して炭素薄膜を形成することができる。基材加熱温度は室温〜400℃程度が好ましい。ただし、基材のガラス転移温度(Tg)が450℃以下の場合、基材加熱の上限温度はTg-50℃とすることが好適である。炭素の膜厚は、通常の光学薄膜と同様に、モニターガラス上のスパッター膜の反射率もしくは透過率の変化から測定し、シャッターの開閉により炭素膜厚を制御することができる。
本発明のガラス光学素子の製造方法の別の態様は、予備成形されたガラス素材であって、表面に自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態で成形型の成形面を転写するプレス成形工程を含む。
本発明のガラス光学素子の製造方法の第3の態様では、前記自己組織化膜は、最大膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする。但し、上記プレス成形後のガラス光学素子の表面は、成形型の成形面によりプレス成形された表面である。
本発明のガラス光学素子の製造方法の第4の態様では、前記自己組織化膜は、最大膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする。但し、上記プレス成形後のガラス光学素子の表面は、成形型の成形面によりプレス成形された表面である。
ここで自己組織化膜とは、杉村博之、高井治;日本学術振興会薄膜第131委員会第199回研究資料 平成12.2.1 p.34-39、Seunghwan Lee, Young-Seok Shon, Ramon Colorado, Jr.,Rebecca L. Guenard, T. Randall Lee and Scott S. Perry;Langmuir 16巻(2000), p.2220-2224等の文献により知られており、図2の様に、溶液1中の分子2の官能基が自己的に被成膜基材3の表面と反応して、被成膜基材3の表面上に自己的に配列・組織化して形成された膜4である。
本発明において、自己組織化膜が設けられたガラス素材は、その最表面において、分子配列がそろった有機分子会合体を形成しており、接触する物体との摩擦を極めて低くすることができる。例えば、特定の有機分子を選択し、その溶液、例えば、有機分子を有機溶媒に所定濃度で含有させたものにガラス素材を曝し、反応条件を整えることにより、有機分子の配向性がそろった有機単分子膜が形成される。有機分子が、被成膜基材の表面の基と反応して配列することで膜が形成されるため、極めて被覆率が高い成膜が可能である。
膜形成を効率的に行なうためガラス素材表面の前処理を行なってもよい。この膜は、熱力学的にも安定であり、用いた有機分子によりその末端の官能基の性質に依存した物理・化学的性質(例えば表面自由エネルギー)を制御することができる。
有機分子としては、例えば、反応性の有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物及び有機窒素含有化合物を挙げることができる。これら有機化合物が、自己的・自発的に被成膜基材(成形面)の表面と反応する官能基は、例えば、有機ケイ素含有化合物では主に−Cl基(後述する反応式(1))、有機硫黄含有化合物では主に−H基、又は(S−S)基、(後述する反応式(2)及び(3))、有機窒素含有化合物では主に−H基(後述する反応式(4))、であることができる。
例えば、溶液1中の分子2の官能基と被成膜基材3の表面との反応は以下のものであることができる。
クロロトリアルキルシラン化合物、ジクロロジアルキルシラン化合物、トリクロロアルキルシラン化合物、など、有機化合物中にCl元素をもつ基があると、これが官能基となり、反応式(1)のとおり、被成膜基材(成形型の成形面)3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応し、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004231505
尚、清浄なガラス表面は反応性が高く、ガラスを大気に曝すと空気中の水分子と反応し、ガラス表面は全面的に-OH基に覆われているため、上記の反応が進むのである。
また、例えばアルカンチオール化合物の場合には、化合物中のS元素と結合しているH元素が官能基となり、反応式(2)のとおり、被成膜基材3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応し、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004231505
更に、例えばジアルキルジスルフィド化合物の場合には、化合物中のS−S結合が官能基となり、反応式(3)のとおり、被成膜基材3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応し、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004231505
ジメチルアンモニウム化合物、アルキルジメチル(ジメチルアミノ)シラン化合物の場合には、化合物中のN元素に結合するH元素が官能基となり、反応式(4)のとおり、被成膜基材3の表面の−Cl基と自己的・自発的に反応し、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004231505
尚、この反応はガラス表面を、塩素を含む乾燥雰囲気に曝し、その表面が−Cl基で覆われた状態で行う。
上述のとおり、自己組織化膜の形成するためには、自己的・自発的に被成膜基材表面の−OH基や−Cl基と反応する官能基を有する化合物を、その官能基の反応性を保全した状態で、被成膜基材表面と接触させることが必要である。例えば、自己組織化膜の原料となる有機化合物を、水分や塩素を相当量含んだ雰囲気中に放置すると、官能基の反応性が失われやすい。従って、有機化合物は、官能基の反応性を維持する状態で保管することが好ましい。
自己組織化膜を形成するための反応は、反応速度が大きいことが好適である。反応式(1)〜(4)で述べた、−Cl基、−H基、 (S―S)基は、反応速度が優れて大きいため好適である。他方、官能基がOR基(アルコキシ基)など、反応速度が小さい基をもつ出発原料を用いると、下記反応式(5)の進行が遅く、成膜速度が相対的に小さい。
Figure 2004231505
また、本発明に用いる自己組織化膜の出発原料としての有機分子は、末端に上記官能基をもつが、他の末端(上記官能基を結合末端とすると、表面末端側)にアルキル基、アリール基、ビニル基、エポキシ基、またはフッ素を有することができる。好ましくは、表面末端側にC-H基が存在すると、炭素系離型膜との結合性が高く、有用である。より好ましくは、アルキル基、アリール基である。
自己組織化膜は英語ではself-assembled monolayer(SAM)と呼ばれており、一度の成膜処理で表面に形成される単分子層を指す場合もあるが、成膜を繰り返し処理することで、多分子層の成膜も可能であり、本発明の炭素膜が自己組織化膜の場合、自己組織化膜は、単分子層のみではなく、多分子層を含む。
ガラス表面の自己組織化の有無及び膜厚は、たとえばESCA(XPS;X線光電子分析)法もしくはエリプソメーターによって測定することができる。
本発明に係る自己組織化膜は、例えばトリアルキルシラン化合物、ジアルキルシラン化合物、アルキルシラン化合物、アルキルジメチルシラン化合物、アルカンチオール化合物、ジアルキルスルフィド化合物、ジアルキルジスルフィド化合物、ジメチルアンモニウム化合物、などの内から選ぶことができる。
また、本発明に係る自己組織化膜は、以下の素材を用いて形成することができる。即ち、クロロトリアルキルシラン化合物として、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、(3-シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、クロロトリフルオロメチルシランなどおよびこれらの誘導化合物、
ジクロロジアルキルシラン化合物として、ジクロロジメチルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、ジクロロジフルオロメチルシラン、ジクロロ-n-オクタデシルメチルシラン、n-オクチルメチルジクロロシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシランなどおよびこれらの誘導化合物、
トリクロロアルキルシラン化合物として、トリクロロビニルシラン、n-オクタデシルトリクロロシラン、イソブチルトリクロロシラン、n-オクタフルオロデシルトリクロロシラン、シアノヘキシルトリクロロシランなどおよびこれらの誘導化合物、
トリクロロアリールシラン化合物としてフェニルトリクロロシラン、
アルキルジメチル(ジメチルアミド)シラン化合物として、トリメチル(ジメチルアミド)シラン、トリエチル(ジメチルアミド)シラン、ペンタフルオロフェニルジメチル(ジメチルアミド)シラン、トリフルオロメチル(ジメチルアミド)シラン、tert-ブチルジメチル(ジメチルアミド)シラン、(3-シアノプロピル)ジメチル(ジメチルアミド)シランなどおよびこれらの誘導化合物、
アルカンチオール化合物として、1‐ブタンチオール、1‐デカンチオール、1‐フルオロデカンチオール、o‐アミノチオフェノール、2‐メチル‐2‐プロパンチオール、n‐オクタデカンチオールなどおよびこれらの誘導化合物、
ジアルキルスルフィド化合物として、エチルメチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、n‐ヘキシルスルフィド、フルオロエチルメチルスルフィド、フェニルビニルスルフィドなどおよびこれらの誘導化合物、
エチルフェニルスルフィド及びその誘導化合物、
ジアルキルジスルフィド化合物として、p‐トリルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、フルオロメチルプロピルジスルフィド、ジフルフリルジスルフィドなどおよびこれらの誘導化合物、
メチルフェニルジスルフィドおよびその誘導化合物、
ジメチルアンモニウム化合物として、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムアセテート、ジオクタデシルジメチルアンモニウムアセテート、臭化ジエイコシルジメチルアンモニウム、ヨウ化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ジオクタフルオロデシルジメチルアンモニウムアセテート、ヨウ化ジメチルジオレイルアンモニウムなどおよびこれらの誘導化合物、
などの内から選ばれた少なくとも1つを用いることができる。
自己組織化膜の出発原料は上記記載の化合物に限定されるものではなく、プレス時の加熱により炭素膜を形成する化合物であれば良いことは、云うまでもない。
本発明の製造方法に用いる自己組織化膜は、自己組織化膜の出発原料を溶解した有機溶液(以下、コーティング溶液)に予備成形されたガラスを浸漬することにより成膜した表面層であることが好ましい。前記有機溶液の溶媒は、好ましくは無水有機溶媒である。これは、出発原料の有機分子が水分子と反応することによってその反応性を失うことを避けるためである。また、極性基をもつ溶媒を用いると、同様に有機分子との結合を形成して、有機分子が反応性を失うことがあるため、溶媒としては非極性のものを選択することが好ましい。即ち、用いる溶媒は、有機分子の官能基の反応性を維持するものとすることが適当である。具体的には、ヘキサンなどの無水非極性有機溶液、トルエン、クロロホルムなどの無水有機溶液、およびこれらの混合溶液であることが好ましい。浸漬の場合、大がかりな設備を必要としない簡便な処理であることが有利である。
一方、アルコール類など極性を有する有機溶媒で自己組織化膜の出発化合物を希釈した場合には、下記反応式(6)のとおり、官能基とアルコール中の−OH基とが反応して、官能基が失われ、被成膜基材表面の−OH基や−Cl基と反応が起きにくくなることがある。従って、有機溶媒は-OH基などを有さないことが好ましい。
Figure 2004231505
上記コーティング溶液において、出発原料の濃度は、0.01〜10wt%の範囲とすることが好ましく、0.1〜5wt%の範囲とすることがより好ましい。濃度が、小さすぎると被覆率が不充分になるが、大きすぎても被覆率は上がらず、下がる傾向がある。
浸漬法以外にも、自己組織化膜の出発原料を含む蒸気、ミスト、ガスなどに予備成形されたガラスを暴露することにより自己組織化膜を得ることができる。
自己組織化膜中では、自己的・自発的な、出発原料の官能基と被成膜基材3の表面との反応の結果、図1の様に、膜中の分子2が被成膜基材3の表面上に整然と配列する。従って、自己組織化膜が形成された場合には、規則性をもった原子の配列に対し、その結合状態のIR活性を反映したピークを呈するIR-RASなどの表面分析により検出することができる。
換言すれば、IR-RAS分析において、自己組織化膜が形成された場合は分子の規則的配列に由来するピークが観察される(例えば図4のように)が、自己組織化膜ではなく規則的な分子の配列がない膜の場合にはピークは観察されない。更に、ESCA(X線光電子分析)又は、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)によれば、被成膜基材と膜との界面にある原子の特定が可能であり、上記規則的配列が自己組織化膜に由来するものであることが判る。
ここで、自己組織化膜の膜厚は、文献〔Pehong Cong, Takashi Igari and Shigeyuki Mori, "Effects of film characteristics on frictional properties of carboxylic acid monolayter", Tribology Letters 9 (2000) p175-179〕に記載のとおり、用いる出発原料の炭素鎖の長さによって所定の膜厚に制御することができる。おおよそ、自己組織化膜の膜厚TS(nm)は、炭素鎖中の炭素原子数Nから、下式により推定できる。
Figure 2004231505
化学結合の長さは、結合両端の原子の種類と結合の種類に応じて一定の値をとる。自己組織化膜の形成する主鎖は-CH2-CH2-であり、水素原子が2ケ共有結合した炭素原子間の化学結合の長さは、炭素原子のファンデルワールス半径(0.17nm)と炭素原子同士の結合角より、炭素原子1原子あたり約0.2nmとなる。
ガラス素材表面に設けられた自己組織化膜は、プレス時の加熱により炭素を主成分とする膜へ変換される。但し、膜中には、主たる元素である炭素のほか、出発原料に由来する水素、ケイ素、フッ素、イオウなどの原子を、30at%を限度として含むことができる。
本発明のガラス光学素子の製造方法の第3及び第4の態様における自己組織化膜の最大膜厚が10nm以下である理由は、前記本発明のガラス光学素子の製造方法の第1及び第2の態様における炭素膜の最大膜厚が10nm以下である理由と同じである。
また、本発明のガラス光学素子の製造方法の第3及び第4の態様における自己組織化膜が、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に、少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであること、及び少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることは、ガラス素材表面に設けられた自己組織化膜は、プレス時の加熱により炭素を主成分とする膜へ変換されることから、前記本発明のガラス光学素子の製造方法の第1及び第2の態様における炭素膜が、少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであること、及び少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることと同じ理由である。ガラス素材表面に設けられた自己組織化膜は、少なくとも0.8nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることが好ましい。
発明者らは、上記本発明の製造方法によって効果的に、プレス成形時の融着を防止することができることを見出したが、更に、成形された光学素子のクモリ防止につき詳細な検討を行った。その結果、以下のことも併せて判明した。
すなわち、光学素子表面の曇り発生の主原因は、成形型表面が反応によって変質し、表面性が損なわれることにある。このような成形型表面の劣化は、ガラス素材表面層から放出される反応性の高い水素による浸食反応により発生することが種々の検討の結果、判明した。更に、このガラス素材から放出される水素は、ガラス素材への炭素膜成膜時に発生する活性水素が、ガラス素材の表面層に吸収されることに起因することも見出した。従って、これらの知見に基づけば、ガラス素材の表面に設ける炭素膜は、成膜時に活性水素の発生が抑えられる条件で形成され、その結果、炭素膜を設けたガラス素材からの活性水素の発生が抑えられたものであることが好ましい。
そこで本発明の製造方法では、炭素膜または自己組織化膜は、ガラス素材のガラス表面から深さ500nmまでの表面層部分の水素含有量の増加率が5 at%以下であるように形成されたものであることが好ましい。
即ち、ガラス素材への炭素膜または自己組織化膜の形成は、炭素膜または自己組織化膜が形成されたガラス素材のガラス表面から深さ500nmまでの部分(ガラスの表層部分)の水素含有量が、炭素膜または自己組織化膜を形成する前のガラス素材の表面から深さ500nmまでの部分の水素含有量より5 at%を超えて増えないように行うことが好ましい。
尚、ガラス素材中には、もともとガラス組成に由来する水素原子が存在するが、炭素膜の成膜によって、ガラス素材の表面層(500nmの深さまでの表面層)中の水素含有量が増加した場合、炭素膜の成膜によって活性水素がガラス中に取りこまれたことを意味する。従って、炭素膜の成膜は、この水素含有量の増加を抑えるような成膜条件で行うことが好ましい。
例えば、炭素膜の成膜条件が、高温下で炭化水素を用いたプラズマ処理である場合には、反応性の高い水素原子(又は水素ラジカル)が発生し、これがガラス素材の表面層に取りこまれやすい。この水素原子(又はラジカル)は、プレス成形時に再び高温になると、ガラスと成形面の境界において、成形面の炭素膜と反応し、以下のように炭素膜を損傷する。
Figure 2004231505
発明者らは、ガラス素材表面へ炭素膜を成膜する際に、ガラス素材表面層の水素含有量によるクモリ発生の依存性を調査した。その結果、炭素膜を有するガラス素材は、ガラス素材の表面から深さ500nmまでの部分の水素含有量が、炭素膜を形成する前のガラス素材の表面から深さ500nmまでの部分の水素含有量より、5 at%を超えて増加したものでないことが、クモリ発生が著しく少ないという観点から好ましい。即ち、炭素膜の成膜は、上記水素含有率の増加が5at%以下となるような条件や方法で行うことが好ましい。これは、水素含有率の増加がゼロ%である場合も含む。
ここで、成形用ガラス素材表面層の水素含有率はESCA(XPS;X線光電子分析)法もしくはSIMS(2次イオン質量分析)法により分析した。
なお、成形用ガラス素材の表面に成膜された炭素膜または自己組織化膜中の水素については、反応性は低い。したがって、炭素膜中の水素含有率については50at%未満であれば白濁や曇りの発生は少ない。30at%未満が好ましい。
既述のとおり、本発明の炭素膜をガラス素材に成膜する方法としては、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、自己組織化膜成膜法が好ましい。これらの成膜法による炭素膜または自己組織化膜は、上記の活性水素を発生させにくく、従って、プレス成形に伴うクモリを有効に防止できる。メタンやアセチレンなどの炭化水素ガスの熱分解CVDやプラズマ処理などの成膜法では、例え高純度のガス原料を用いても、成形用ガラス素材表面層に高濃度の活性な水素が侵入し易く、その結果、成形型表面の劣化が進行することがある。
特に、蒸着法において、上記の水素含有率の増加を5at%以下とするためには、(1)炭素蒸着源中および表面に吸着した水素不純物含有率を1at%以下とすること、又は(2)真空雰囲気中の水素濃度を1ppm以下にすることに配慮することが好ましい。
尚、炭素蒸着源中および表面に吸着した水素不純物含有率を1at%以下にするには、99.9%(3N)以上の高純度炭素を炭素蒸着源に用い、かつ、蒸着前に、あらかじめ、10-2Torr以下の高真空中で300℃以上に加熱して、吸着水などの水素不純物源となる吸着物質を除去することが好ましい。
イオンプレーティング法においては、上記の水素含有率の増加を5at%以下とするためには、(1)炭素源中および表面に吸着した水素不純物含有率を1at%以下とすること、又は(2)アルゴン雰囲気中の水素濃度を1ppm以下にすることに配慮することが好ましい。尚、上記同様に炭素源の純度、吸着物について配慮することが好ましい。
スパッタ法において、上記の水素含有率の増加を5at%以下とするためには、(1)炭素ターゲット中および表面に吸着した水素不純物含有率を1at%以下とすること、又は(2)アルゴン雰囲気中の水素濃度を1ppm以下にすることが好ましい。尚、上記同様に炭素源の純度、吸着物について配慮することが好ましい。
自己組織化膜成膜法においては、上記の水素含有率の増加を5at%以下とするためには、洗浄後の乾燥など、自己組織化膜成膜前の基材の加熱を、水素濃度が0.1vol%以下の雰囲気下で行うことが好ましい。
すなわち、本発明の炭素膜または自己組織化膜をガラス素材表面に成膜する際、ガラス素材の表面から深さ500nmまでの表面層部分の水素含有量が、成膜によって5at%以上増加しないようにすることが好ましい。
本発明による、ガラス素子の製造方法を以下により具体的に説明する。
[炭素膜または自己組織化膜を有するガラス素材の調製工程]
球、扁平球形状又は平板状などの所定の形状に予備成形されたガラス素材の表面に、洗浄後、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法もしくは自己組織化膜(SAM)成膜法のいずれかの方法により、炭素膜または自己組織化膜を成膜する。但し、成膜する前に、プレス成形によって最も伸ばされ、表面積が拡大する部位の、拡大率S(L)/ S(PF)を以下の様に求め、炭素膜または自己組織化膜の最小値を設定し、下記式中の膜厚Tを満足する炭素膜または自己組織化膜の膜厚の中から、実際にガラス素材に成膜する炭素膜または自己組織化膜の膜厚を決定する。
S(PF)をその部位のガラス素材の表面積、S(L)をプレス成形されたレンズのその部位に対応する部分の表面積とすると、その部位の拡大率はS(L)/ S(PF)である。拡大率は既述の方法により求める。
Figure 2004231505
なお、炭素膜成膜前の成形用ガラス素材は、表面自由エネルギーが60mJ/m2以上であることが好ましい。これは、ガラス素材の表面が汚染されていると、炭素膜成形前の表面自由エネルギーが低くなり、こうした場合に吸着した異物が成形面で反応し、クモリの原因となることがあるためである。表面自由エネルギーは、例えば、成形用ガラス素材表面の純水およびCH2I2の濡れ角測定より市販の接触角測定器を用いて解析される値である。例えば、表面自由エネルギーの値を得るにあたって、上記濡れ角測定の値から、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて算定し、評価することができる。
[プレス成形工程]
表面に炭素膜または自己組織化膜を形成したガラス素材を、公知の手段でプレス成形して、ガラス光学素子を得る。例えば、ガラス素材を精密に形状加工した成形型に導入し、ガラス素材の粘度が108〜1012ポイズ相当の粘度となる温度に加熱、軟化し、これを、型で押圧することによって、型の成形面をガラス素材に転写する。もしくは、あらかじめ、その粘度が108〜1012ポイズ相当の温度に昇温したガラス素材を、精密に形状加工した成形型に導入し、これを、押圧することによって、型の成形面をガラス素材に転写する。成形面の酸化を防ぐため、成形時の雰囲気は、非酸化性とすることが好ましい。この後、型とガラス素材を、冷却し、好ましくはTg以下の温度となったところで、離型し、成形された光学素子を取出す。
尚、炭素膜または自己組織化膜を成膜する工程とプレス成形工程とは連続して行なっても良い。即ち、表面に炭素膜または自己組織化膜を形成したガラス素材を、加熱し、そのままプレス成形を行なっても良い。
型母材としては、SiC、WC、TiC、TaC、BN、TiN、AlN、Si34、SiO2 、Al23 、ZrO2 、W、Ta、Mo、サーメット、サイアロン、ムライト、カーボン・コンポジット(C/C)、カーボンファイバー(CF)、WC−Co合金、結晶化ガラスを含むガラス素材、ステンレス系高耐熱性金属等から選ばれる材料が有用に使用できる。
型の母材表面には離型膜が設けられていることが好ましい。離型膜としては、ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC)、水素化ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC:H)、テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C)水素化テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C:H)、アモルファス炭素膜(以下、a-C)、水素化アモルファス炭素膜(以下、a-C:H)、窒素を含有するカーボン膜等の炭素系膜、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タングステン(W)、及びタンタル(Ta)から選ばれる少なくとも一つの金属を含む合金膜が適用できる。
また、離型膜の成膜は、DC−プラズマCVD法、RF−プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、ECR−プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等のプラズマCVD法、イオンプレーティング法などのイオン化蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法やFCA(Filtered Cathodic Arc)法等の手法を用いることができる。
なお、本発明の製造方法は、レンズ、ミラー、グレーティング、プリズム、マイクロレンズ、積層型回折光学素子等の光学素子の製造に有効に適用できるほか、光学素子以外のガラスの成形品の製造に対しても適用できることは言うまでもない。特に、非光学機能面の周縁に厚みが小さい(例えば1mm以下)取付け部分を有するガラスレンズ、中心肉厚が1mm以下の凹レンズなどの製造には特に有効である。
本発明に適用できるガラスの硝種には特に制限はない。特に、割れやすい、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ホウリン酸塩系ガラス、フツリン酸塩系ガラスなどに有効である。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
成形用のガラス素材であって、形状が4.5mmφの球に予備成形したものを用意した(アルカリ含有ホウ酸塩ガラス、洗浄後の表面自由エネルギー:65mJ/m2)。これを用いて、直径7.5mmφ、第1面の曲率半径が7mm、第2面の曲率半径が5 mm、コバ厚が0.7mmである、図3に示す形状の両凸レンズをプレス成形する。この場合、プレス成形によって、もっとも表面積が拡大される部位は、周縁の平面部分であることを予備成形にて確認し、また、その部位において、S(L)/ S(PF)=5.2であることを確認した。そして、本ガラス素材に成膜する炭素膜の膜厚は、0.5×5.2 ≦ T ≦ 10 (nm)とすればよいことを求めた。
そこで、ガラス素材に、蒸着法を用いて、膜厚4.5nmの炭素膜を成膜した。
炭素膜の膜厚の測定はESCAにより行った。炭素蒸着源中および表面に吸着した水素不純物含有率を1at%以下にするために、99.99%(4N)の高純度炭素を炭素蒸着源に用い、かつ、蒸着前に、あらかじめ、10-4Torrの高真空中で300℃で30分間に加熱した。蒸着条件は、10-4Torr程度の真空雰囲気中で、断面積0.1cm2程度の炭素材料に100V-40Aの電気を通電し、炭素材料を通電加熱して、基材加熱温度150℃にて、炭素を蒸着することにより、膜厚が上記の値となるように制御した。また、ガラス素材表面層(表面〜深さ500nmの領域)の水素含有量をESCAで分析した結果、蒸着法による炭素成膜による水素含有率の増分は認められなかった。
なお、本実施例で用いたガラス素材のガラス転移温度は520℃であり、屈折率が1.69350、線膨張係数が69×10-7/℃であった。
次いで、上記で得られた炭素膜で被覆されたガラス素材を、上記のレンズ形状を基に精密加工した成形面を有する成形装置内に設置した。窒素ガス雰囲気中で、610℃まで加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧した。
圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−200℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物である、光学素子を取り出した。
この光学素子の表面の炭素膜厚をESCA測定したところ、もっとも伸ばされた部位での炭素膜厚が0.9nmであった。またその他の部位では、炭素膜厚は1.5nm以上となっていた。
なお、成形型としては、CVD法により作製した多結晶SiCの成形面をRmax=18nmに鏡面研磨したものを用いた後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜を成膜したものを用いた。
上記条件で行ったプレス成形では、同一型にて5000ショットまで連続プレスしたが、カン・ワレの発生はなかった。また、光学素子の外観は、全数、良好であり、目視できるクモリの発生はみられなかった。
比較例1
実施例1と同様のガラス素材を用い、炭素膜の成膜を蒸着法にて行い、膜厚(ESCA測定)20nmの炭素膜を有するガラス素材を得た。成形用ガラス素材表面層(表面〜深さ500nmの領域)の水素含有量をESCAで分析した結果、炭素成膜による水素量の増分は認められなかった。
実施例1と同様に、同一型で連続プレスした。成形された光学素子の炭素膜厚をESCA測定したところ、炭素膜は分断されており、炭素膜が存在しない部分がある一方で、炭素膜が残存しているところの膜厚は15nm程度であった。成形を続けたところ、600ショットで光学素子にワレが発生し、また、成形型にガラスと思われる融着物が認められた。これ以上、この成形型でプレスすることは不可能であり、成形型表面離型膜の再生が必要であった。
比較例2
実施例1と同様のガラス素材を用い、炭素膜の成膜を蒸着法にて行い、膜厚(ESCA測定)0.7nmの炭素膜を有するガラス素材を得た。成形用ガラス素材表面層(表面〜深さ500nmの領域)の水素含有量をESCAで分析した結果、炭素成膜による水素量の増分は認められなかった。実施例1と同様に、同一型で連続プレスを開始したところ、プレス初期にワレが発生した。成形された光学素子の炭素膜厚は、図5の摩擦計による表面摩擦の解析から、図7のc)に示す出力が得られた。即ち、2炭素原子の膜厚を充足していないことが明らかになった。
実施例2
実施例1と同様のガラス素材を用い、炭素膜の成膜を高純度アセチレンガスの熱分解により行い、膜厚4.5nm (ESCA測定)の炭素膜を有するガラス素材を得た。成膜に用いた装置はCVD装置。ヘ゛ルシ゛ャー内を真空ホ゜ンフ゜により0.5torr以下に排気した後、加熱し480℃に保つ。ヘ゛ルシ゛ャー内に窒素カ゛スを導入しながら真空ホ゜ンフ゜により排気を行うことにより、160torrに保ち、30分間ハ゜ーシ゛を行った後、窒素カ゛スの導入を止めた。ヘ゛ルシ゛ャー内を真空ホ゜ンフ゜で0.5torr以下に排気した後、アセチレンカ゛スを210分間で210torr導入し、ガラス素材表面に炭素膜を成膜した。
成形用ガラス素材表面層(表面〜深さ500nmの領域)の水素含有量をESCAで分析した結果、炭素成膜による水素量の増分は、20at%であった。実施例1と同様に、同一型で連続プレスしたところ、2000ショットを超えた時点で、ワレが発生した。
実施例3〜11
成形用ガラス素材、炭素膜の成膜法、炭素膜厚などを表1〜3のとおり変更した以外は、実施例1と同様に炭素膜を成膜した成形用ガラス素材を同一型で5000ショットまで連続プレスした。但し、実施例7及び8は炭素膜の代わりに自己組織化膜を成膜した例である。
プレス成形により得られた光学素子の外観を観察した結果、表1〜3に示すとおり、全数、クモリ、白濁およびワレはなく、外観品質は良好もしくは極めて良好であった。
Figure 2004231505
Figure 2004231505
Figure 2004231505
*光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数1000回までの光学素子の外観
◎:5000回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られず。
○:5000回のプレスで、ワレ、白濁が見られず、光学性能に影響しないわずかなクモ
リが目視された。
△:2000回のプレスで、ワレ、白濁が見られず、光学性能に影響しないわずかなクモ
リが目視された。
×:プレス2000回以内で、ワレが発生。
(ここで、クモリは光学機能面全体にわたるもの、白濁は部分的なものとする)
プレス成形による炭素膜の伸びの模式図である。 自己組織化膜の説明図である。 実施例1のレンズ形状である。 自己組織化膜のIR-RAS分析結果の一例である。 表面摩擦計の概略図である。 表面摩擦計の出力結果である。 表面摩擦計の出力結果である。
符号の説明
1 自己組織化膜の出発原料を含み溶液(コーティング溶液)
2 溶液中の分子
3 被成膜基材
4 自己組織化膜
5 自己組織化膜の分子
11 成膜済み基板(サンプル)
12 サンプルホルダー兼摩擦動作用Yステージ
13 球体スライダー
14 荷重支持アーム
15 荷重印加用Xステージ
16 荷重板バネ
17 荷重検出用変位センサー
18 摩擦力板バネ
19 摩擦力検出用変位センサー

Claims (12)

  1. 予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法であって、
    前記炭素膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
  2. 予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
    前記炭素膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
  3. 予備成形され、表面に自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法であって、
    前記自己組織化膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
  4. 予備成形され、表面に自己組織化膜を有するガラス素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
    前記自己組織化膜は、膜厚が10nm以下であり、かつ、プレス成形後のガラス光学素子の前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、前記製造方法。
  5. ガラス素材の表面に設ける炭素膜または自己組織化膜の膜厚は、ガラス素材の形状及びガラス光学素子の形状に基づいて、プレス成形後のガラス光学素子の表面上に少なくとも炭素2原子層または0.5nmの膜厚の炭素膜が存在するように予め決定される請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記炭素膜または自己組織化膜は、ガラス素材のガラス表面から深さ500nmまでの表面層部分の水素含有量の増加率が5 at%以下であるように形成されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 前記ガラス素材が有する炭素膜は、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法により形成されたものであり、前記ガラス素材が有する自己組織化膜は、自己組織化膜成膜法により形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. 前記プレス成形により、光学機能面と非光学機能面を有し、かつ非光学機能面には、光学機能面の形状とは非連続な周縁部を有する光学素子が製造されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 予備成形され、表面に炭素膜又は自己組織化膜を有するガラス素材を、加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
    模擬ガラス素材を用いてプレス成形を行うことにより、模擬光学素子を得、
    前記成形面によりプレス成形された表面の、プレス成形による表面積の拡大率が最も大きい部位を把握し、
    前記部位の表面積の拡大率にもとづき、ガラス素材に成膜する炭素膜又は自己組織化膜の膜厚を決定し、
    決定された膜厚の炭素膜又は自己組織化膜を、ガラス素材に成膜し、
    前記成膜されたガラス素材を用いて、プレス成形することを特徴とする、前記製造方法。
  10. 前記模擬ガラス素材として、表面に所定パターンのマークを付した模擬ガラス素材を用い、かつ
    前記模擬ガラス素材のマークと、前記の表面に所定パターンのマークを付した模擬ガラス素材を用いて得られた模擬光学素子表面のマークとに基づいて、前記拡大率が最も大きい部位を把握することを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
  11. 予備成形され、表面に炭素膜を有するガラス素材を、加熱軟化した状態でプレス成形し、成形型の成形面を転写する工程を含む、ガラス光学素子の製造方法において、
    前記炭素膜は、蒸着法又はスパッタ法により成膜され、
    かつ前記炭素膜の膜厚が、5nm未満であることを特徴とする、前記製造方法。
  12. 前記炭素膜は、プレス成形後のガラス光学素子の、前記成形面によりプレス成形された表面上に少なくとも炭素2原子層を含む膜厚の炭素膜が存在するように形成されたものであることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
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