JP2004075529A - 成形用ガラス素材及びその製造方法、並びにそれを用いたガラス製品の製造方法 - Google Patents

成形用ガラス素材及びその製造方法、並びにそれを用いたガラス製品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】揮発しやすいガラス成分を持つガラスからなる場合であっても簡便な方法により型表面との融着を防止でき、得られる光学素子表面にクモリ、白濁もしくはワレが生じない成形用ガラス素材及びガラス製品を提供すること。
【解決手段】表面に自己組織化膜を有する予備成形された成形用ガラス素材。有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物を含有する有機溶媒に、予備成形されたガラス素材を浸漬して、自己組織化膜を有するガラス素材を得る成形用ガラス素材を製造する方法。この製造方法により得られたガラス素材を加熱処理して、前記ガラス素材が有する自己組織化膜を熱分解する成形用ガラス素材の製造方法。上記ガラス素材または上記製造方法により得られたガラス素材を加熱軟化し、成形型により加圧成形することを含む、ガラス製品の製造方法。
【選択図】

Description

 本発明は、表面に自己組織化膜またはその加熱生成膜を有する成形用ガラス素材、その製造方法、及びそれを用いたガラス製品の製造方法に関する。
 精密光学ガラス素子を簡便に生産性よく成形する方法として、モールドプレス法がある。モールドプレス法は、予めガラスを溶融固化もしくは冷間加工して所定の形状にした成形用ガラス素材を成形用型内に投入し、加熱軟化により成形可能になった状態でこれを押圧し、成形されたガラス素子が型内に保持された状態でこれを冷却してガラス素子を得る方法である。この方法では、精密加工された金型を用いるため、成形後にガラス素子の研磨加工は不要である。
 モールドプレス法によってガラス素子を成形する場合、成形用ガラス素材と金型とがガラスの軟化点以上の高温で密着する。そのために、ガラスと型の界面で化学反応が起こり、ガラスの一部が金型表面に融着したり、ガラス素子の表面にクモリ、白濁が生じたり、ワレ等の欠陥が発生し、良好なガラスレンズを得られない場合があった。
 このような問題を考慮して、モールドプレス法では、金型とガラス素材との離型性を保つために、金型の成形面に、炭素系薄膜、貴金属系薄膜、窒化物系薄膜、硼化物系薄膜等の離型膜を設けることが知られている。しかしながら、全ての光学ガラス素材に対して最適な離型膜が開発されているわけではなく、特に、融着を起こしやすいガラスを前記ガラス素材として用いる場合、既存の離型膜では充分な離型効果を得ることが困難であった。
 特に、Fなどのハロゲン元素やLi、NaやKなどのアルカリ金属酸化物などの揮発しやすいガラス成分を含有するガラスからなるガラス素材を用い、かつ連続プレスにおいて、金型を繰り返し使用すると、離型膜面上のガラスの揮発物を起点にしてガラスが離型膜表面に融着し、ガラス素子の表面にクモリ、白濁やワレ等の欠陥が発生し、良好なガラスレンズを得ることが出来なくなるという問題があった。更に、成形面と反応しやすい還元性成分(Ti、Nb、W)を含有するガラスからなるガラス素材を用いる場合にも同様の問題があった。
 なお、連続プレスにおいて、金型の離型膜に融着が生じると、もはやそれ以上、プレスを続けることができなくなる。この様な場合には、金型の離型膜を全て剥がし、金型の成形面を研磨面状態に戻した上で再成膜しなければならない。しかし、離型膜の成膜には特殊な条件が要求され、非常に多くの時間とコストがかかるという問題があった。
 これらの問題を解決するための手段として、ガラス素材の表面に膜を形成する方法が提案されている。
 特公平2−31012号公報(特許文献1)には、ガラス素材と型の相互に対向する表面のうち少なくとも一方に炭素膜を形成することにより、融着を防止する方法が記載されている。
 特開平8−277125号公報(特許文献2)には、酸化イットリウムや酸化セリウムなどIIIA属の金属酸化物を真空蒸着やスパッタ法で、ガラス素材表面に被膜として形成する方法が開示されている。
 特開平11−236225号公報(特許文献3)には、Mo、W及びNbなどの硫化物やセレン化物を真空蒸着やスパッタ法でガラス素材表面に被膜として形成する方法が開示されている。
 これらの方法による融着の防止では、一定の効果は見られる。しかし、成形用ガラス素材の表面に膜を形成するための大がかりな設備が必要である上、均一であって適切な範囲の膜厚とするための制御が容易ではない。また、必ずしも微小融着を有効に防止できず、依然として満足いくものではなかった。
 また、特開平10−167762号公報(特許文献4)にはシランカップリング剤を、スプレー又はスピンコーターでガラス素材表面に塗布することで、融着や曇りを防止する方法が開示されている。しかるに、シランカップリング剤をこれらの方法で塗布するために、成形用ガラス素材の表面層の状態は不均一になりやすく、かつ、微小融着も必ずしもが防止できず、これも十分に満足のいく方法ではなかった。
特公平2−31012号公報 特開平8−277125号公報 特開平11−236225号公報 特開平10−167762号公報
 本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、均一な表面層状態でかつ一定膜厚となるように成膜でき、大がかりな設備を必要とせず、揮発しやすいガラス成分や、反応性の高いガラス成分を含有するガラスからなるガラス素材の場合であっても簡便な方法により型表面との融着を防止でき、このガラス素材をプレス成形することにより得られる光学素子表面にクモリ、白濁もしくはワレが生じない成形用ガラス素材を提供することにある。
 さらに本発明の目的は、揮発しやすいガラス成分、反応性の高いガラス成分を持つガラス素材からでも、表面にクモリ、白濁もしくはワレを生じることなしに光学素子等のガラス製品を製造することができる方法を提供することにある。
 本発明者は、ガラスの型表面との融着、得られる光学素子表面のクモリや白濁、及びワレを防止するためには、ガラス素材の表面に以下の4要件を満足する膜を形成することが有効であることに着目した。
(1)ガラス素材に対する膜の被覆率が高い。
(2)膜厚の制御が容易である。
(3)膜表面の反応性が小さい。
(4)膜表面の摩擦が小さい。
 すなわち、ガラス素材に対する膜の被覆率が不十分であると、膜が形成されていない部分では、ガラスが型表面と直接接触し、ガラスの型表面への融着が発生し易くなる。また、ガラス素材に形成された膜は、プレス成形時にガラスの変形により伸ばされるが、膜厚が小さすぎると、膜の分断による融着が生じ、また膜厚が大きすと光学素子表面にクモリや白濁が生じる。従って、成膜ロット内はもちろん、成膜ロット間でも、精緻な膜厚制御が必要である。更に、ガラス素材に形成された膜の反応性が高いと、プレス成形中に型表面と膜との界面で起こる反応によって型表面に粗れが生じ、この粗れを転写することによって、得られる光学素子表面が粗れ、クモリが発生する。したがって、ガラス素材に形成する膜は、反応性の小さな膜材質からなることが求められる。また、プレス成形によるガラス素材の変形のし易さは、ガラス素材に形成された膜と型表面との間の摩擦に依存する。膜と型表面との間の摩擦が小さいと、プレス成形によるガラス素材の変形が速くなり、その結果、融着やワレを低減できる。したがって、ガラス素材に形成する膜は、摩擦の小さな膜表面を有するものであることが求められる。
 本発明者らは、自己組織化膜が、これらの要件を満足し、成膜が確実で、生産性が高く、かつ、低コストであり、前記の課題解決に極めて有効であることを見出して、本発明を完成するに至った。
[請求項1]予備成形されたガラス素材であって、表面に自己組織化膜を有することを特徴とする、成形用ガラス素材。
[請求項2]自己組織化膜が設けられたガラス素材表面は、表面自由エネルギーが60mJ/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形用ガラス素材。
[請求項3]自己組織化膜が有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物からなる請求項1又は2に記載の成形用ガラス素材。
[請求項4]自己組織化膜が、トリアルキルシラン化合物、ジアルキルシラン化合物、アルキルシラン化合物、アルキルジメチルシラン化合物、アルカンチオール化合物、ジアルキルスルフィド化合物、ジアルキルジスルフィド化合物及びジメチルアンモニウム化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形用ガラス素材。
[請求項5]有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物を含有する有機溶液に、予備成形されたガラス素材を浸漬して、自己組織化膜を有するガラス素材を得ることを特徴とする成形用ガラス素材を製造する方法。
[請求項6]有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物が、その分子中に、−Cl基、−H基、(S―S)基を有することを特徴とする、請求項5の製造方法。
[請求項7]有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物及び有機窒素含有化合物が、クロロトリアルキルシラン化合物、ジクロロジアルキルシラン化合物、トリクロロアルキルシラン化合物、アルキルジメチル(ジメチルアミノ)シラン化合物、アルカンチオール化合物、ジアルキルスルフィド化合物、ジアルキルジスルフィド化合物及びジメチルアンモニウム化合物から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項5又は6に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
[請求項8]有機溶液中の前記有機化合物の濃度を0.01〜10wt%とすることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
[請求項9]請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス素材または請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法により得られたガラス素材を、非酸化雰囲気中で加熱処理して、前記ガラス素材が有する自己組織化膜を熱分解することを特徴とする成形用ガラス素材の製造方法。
[請求項10]加熱処理の温度が200℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
[請求項11]加熱処理により得られるガラス素材表面は、表面自由エネルギーが70mJ/m2以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
[請求項12]請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス素材または請求項5〜11のいずれか1項に記載の製造方法により得られたガラス素材を加熱軟化し、成形型により加圧成形することを含む、ガラス製品の製造方法。
 本発明によれば、ガラス素材を成形用型でプレス成形し、光学素子等のガラス製品を製造するに際して、成形用ガラス素材の表面に自己組織化膜を形成することにより、成形用ガラス素材表面に離型層かつ反応防止層などとなる表面層を形成することができる。その結果、型とガラスの融着、クモリ、白濁および/もしくはワレ等を生じることなく安定してガラス製品を生産することができる。
 さらに本発明によれば、ガラス素材を成形用型でプレス成形し、光学素子等のガラス製品を製造するに際して、ガラス素材の表面に自己組織化膜を形成し、又は更にこれを熱処理して炭素系薄膜を設けることにより、成形に際して、融着や曇り、白濁、ワレを防止して、安定してガラス製品を生産することができる。
 更に、この炭素系膜を設けたガラス素材をプレス成形すると、成形型に設けられた離型膜へのガラスの融着が抑止され、離型膜の再生頻度を少なくすることができる。
 本発明の成形用ガラス素材は、予備成形されたガラス素材であって、表面に自己組織化膜を有することを特徴とする。予備成形されたガラス素材の形状や寸法には特に制限はない。
 自己組織化膜とは、例えば、杉村博之、高井治;日本学術振興会薄膜第131委員会第199回研究資料 平成12.2.1 p.34-39、Seunghwan Lee, Young-Seok Shon, Ramon Colorado, Jr.,Rebecca L. Guenard, T. Randall Lee and Scott S. Perry;Langmuir 16巻(2000), p.2220-2224等の文献により知られている。その構造は、図1に示すように、溶液1中の分子2の官能基(○部)が自己的に被成膜基材3の表面と反応して、被成膜基材3の表面上に自己的に、自発的に配列・組織化して形成された、膜4である。
 本発明に係る自己組織化膜は、例えば、特定の有機化合物分子を選択し、この有機化合物分子を含有する溶液、例えば、有機化合物分子を有機溶媒に所定濃度で含有させたものにガラス素材を曝し、反応条件を整えることにより、有機化合物分子の配向性がそろった有機単分子膜が形成される。有機化合物分子が、被成膜基材の表面の基と反応して配列することで膜が形成されるため、極めて被覆率が高い成膜が可能である。膜形成を効率的に行なうため、ガラス表面の前処理を行なってもよい。有機化合物分子としては、例えば、反応性の有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物及び有機窒素含有化合物を挙げることができる。
 これら有機化合物が、自己的・自発的に被成膜基材(ガラス)の表面との反応し得る官能基は、例えば、有機ケイ素含有化合物では主に−Cl基(後述する反応式(1))、有機硫黄含有化合物では主に−H基、又は(S−S)基、(後述する反応式(2)及び(3))、有機窒素含有化合物では主に−H基(後述する反応式(4))、であることができる。
 例えば、溶液1中の分子2の官能基(○部)と被成膜基材3の表面との反応は以下のものであることができる。
 クロロトリアルキルシラン化合物、ジクロロジアルキルシラン化合物、トリクロロアルキルシラン化合物、など、有機化合物中にCl原子をもつ基があると、これが反応性の官能基となり、反応式(1)のとおり、被成膜基材(ガラス)3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応して、脱HClが起こり、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004075529
 尚、清浄なガラス表面は反応性が高く、ガラスを大気に曝すと空気中の水分子と反応し、ガラス表面は全面的に-OH基に覆われているため、上記の反応が進むのである。
 また、例えばアルカンチオール化合物の場合には、化合物中のチオール基のS原子と結合しているH原子が官能基となり、反応式(2)のとおり、被成膜基材3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応して、脱H2が起こり、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004075529
 更に、例えばジアルキルジスルフィド化合物の場合には、化合物中のS−S結合が官能基となり、反応式(3)のとおり、被成膜基材3の表面の−OH基と自己的・自発的に反応して、脱H2が起こり、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004075529
 ジメチルアンモニウム化合物、アルキルジメチル(ジメチルアミノ)シラン化合物の場合には、化合物中のN原子に結合するH原子が官能基となり、反応式(4)のとおり、被成膜基材3の表面の−Cl基と自己的・自発的に反応して、脱HClが起こり、被成膜基材3の表面に前記化合物を出発原料とする自己組織化膜が形成される。
Figure 2004075529
 尚、ガラス表面を、塩素を含む乾燥雰囲気に曝した場合には、その表面が−Cl基で覆われることから、上記の反応が進むのである。
 上述のとおり、自己組織化膜の形成するためには、自己的・自発的に被成膜基材表面の−OH基や−Cl基と反応する官能基を有する化合物を、その官能基の反応性を保全した状態で、被成膜基材表面と接触させることが必要である。例えば、自己組織化膜の原料となる有機化合物を、水分や塩素を相当量含んだ雰囲気中に放置すると、官能基の反応性が失われやすい。従って、有機化合物は、官能基の反応性を維持する状態で保管することが好ましい。
 自己組織化膜を形成するための反応は、反応速度が大きいことが好適である。反応式(1)〜(4)で述べた、−Cl基、−H基、 (S―S)基は、反応速度が優れて大きいため好適である。他方、官能基がOR基(アルコキシ基)など、反応速度が小さい基をもつ出発原料を用いると、下記反応式(5)で示される反応が生じるが、この反応の進行は遅く、成膜速度は相対的に小さい。
Figure 2004075529
 また、本発明に用いる自己組織化膜の出発原料として用いる有機化合物分子は、末端に上記官能基をもつが、他の末端(上記官能基を結合末端とすると、表面末端側)にアルキル基、アリール基、ビニル基、エポキシ基、またはフッ素を有することができる。好ましくは、アルキル基、アリール基である。このような基をもつと、後述する表面エネルギーを低く維持することができ、融着やワレ、クモリの抑止された、良好なプレス成形を行なうことができる。
 自己組織化膜の出発原料として用いる、反応性の有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物及び有機窒素含有化合物としては、例えば、以下の化合物を挙げることができる。但し、これらの化合物に限定されるものではなく、ガラス素材において自己組織化膜を形成できる物質であれば良い。
 クロロトリアルキルシラン化合物として、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert-ブチルジメチルクロロシラン、(3-シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、クロロトリフルオロメチルシランなどおよびこれらの誘導化合物、ジクロロジアルキルシラン化合物として、ジクロロジメチルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、ジクロロジフルオロメチルシラン、ジクロロ-n-オクタデシルメチルシラン、n-オクチルメチルジクロロシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシランなどおよびこれらの誘導化合物、トリクロロアルキルシラン化合物として、トリクロロビニルシラン、n-オクタデシルトリクロロシラン、イソブチルトリクロロシラン、n-オクタフルオロデシルトリクロロシラン、シアノヘキシルトリクロロシランなどおよびこれらの誘導化合物、トリクロロアリールシラン化合物としてフェニルトリクロロシラン、アルキルジメチル(ジメチルアミド)シラン化合物として、トリメチル(ジメチルアミド)シラン、トリエチル(ジメチルアミド)シラン、ペンタフルオロフェニルジメチル(ジメチルアミド)シラン、トリフルオロメチル(ジメチルアミド)シラン、tert-ブチルジメチル(ジメチルアミド)シラン、(3-シアノプロピル)ジメチル(ジメチルアミド)シランなどおよびこれらの誘導化合物、アルカンチオール化合物として、1‐ブタンチオール、1‐デカンチオール、1‐フルオロデカンチオール、o‐アミノチオフェノール、2‐メチル‐2‐プロパンチオール、n‐オクタデカンチオールなどおよびこれらの誘導化合物、ジアルキルスルフィド化合物として、エチルメチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、n‐ヘキシルスルフィド、フルオロエチルメチルスルフィド、フェニルビニルスルフィドなどおよびこれらの誘導化合物、エチルフェニルスルフィド及びその誘導化合物、ジアルキルジスルフィド化合物として、p‐トリルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、フルオロメチルプロピルジスルフィド、ジフルフリルジスルフィドなどおよびこれらの誘導化合物、メチルフェニルジスルフィドおよびその誘導化合物、ジメチルアンモニウム化合物として、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムアセテート、ジオクタデシルジメチルアンモニウムアセテート、臭化ジエイコシルジメチルアンモニウム、ヨウ化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ジオクタフルオロデシルジメチルアンモニウムアセテート、ヨウ化ジメチルジオレイルアンモニウムなどおよびこれらの誘導化合物。
 本発明に係る自己組織化膜は、自己組織化膜の出発原料である上記有機化合物分子を溶解した有機溶液(以下、コーティング溶液)に予備成形されたガラスを浸漬することにより成膜することができる。前記有機溶液の溶媒は、好ましくは無水有機溶媒である。これは、出発原料の有機化合物分子が水分子と反応することによってその反応性を失うことを避けるためである。また、極性基をもつ溶媒を用いると、同様に有機化合物分子との結合を形成して、有機化合物分子が反応性を失うことがあるため、溶媒としては非極性のものを選択することが好ましい。即ち、用いる溶媒は、有機化合物分子の官能基の反応性を維持し得るするものから選択されることが好ましい。
 具体的には、例えばヘキサンなどの無水非極性有機溶液、トルエン、クロロホルムなどの無水有機溶液、およびこれらの混合溶液であることが好ましい。
 一方、アルコール類など極性を有する有機溶媒で自己組織化膜の出発化合物を希釈した場合には、下記反応式(6)に示すとおり、官能基とアルコール中の−OH基とが反応して、官能基が失われ、被成膜基材表面の−OH基や−Cl基と反応が起きにくくなることがある。従って、有機溶媒は-OH基などを有さないことが好ましい。
Figure 2004075529
 上記コーティング溶液において、出発原料の濃度は、0.01〜10wt%の範囲とすることが好ましく、0.1〜5wt%の範囲とすることがより好ましい。濃度が小さすぎると被覆率が不充分になるが、大きすぎても被覆率は上がらず、下がる傾向がある。
 図3は本発明のガラス素材の構成を模式的に示す断面図である。
 本発明のガラス素材は図3 に示すように予備成形されたガラス14の表面に自己組織化膜15を形成したガラス素材である。自己組織化膜15は、例えば、自己組織化膜の出発原料をベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の無水有機溶剤で希釈して調製したコーティング溶液にガラス14を1分間程度浸漬した後、コーティング溶液から取り出し、洗浄後、室温〜100℃の温度で30分程度、乾燥することにより得られる。
 上記のような浸漬法は、大がかりな設備を必要としない簡便な処理方法であり、かつガラス素材の表面層状態を均一かつ一定に管理でき、プレス成形に用いた際には、融着、白濁、クモリ、ワレを有効に防止することができる。
 浸漬法以外にも、自己組織化膜の出発原料を含む蒸気、ミスト、ガスなどに予備成形されたガラスを暴露することにより自己組織化膜を得ることもできる。
 自己組織化膜中では、自己的・自発的な官能基(○部)と被成膜基材3の表面との反応の結果、図1に示すように、膜中の分子2が被成膜基材3の表面上に整然と配列する。従って、自己組織化膜が形成された場合には、規則性をもった原子の配列に対し、その結合状態のIR活性を反映したピークを呈するIR-RASなどの表面分析により検出することができる。
 換言すれば、IR-RAS分析において、自己組織化膜が形成された場合は、例えば図5のように、分子の規則的配列に由来するピークが観察される。しかし、自己組織化膜ではなく規則的な分子の配列がない膜の場合にはピークは観察されない。
 自己組織化膜は、熱力学的にも安定であり、用いた分子(例えば、有機化合物分子)の選択により、分子の末端に存在する官能基の性質に依存した物理・化学的性質(例えば表面自由エネルギー)を一律に、容易に制御することができる。表面自由エネルギーは、表面の反応性の尺度であり、値が低いと反応性が乏しく、値が大きいと反応性は強い。
 表面自由エネルギーの値は、一般的には、純水、CH2I2、グリセリン、イソペンタン、パーフルオロヘキサン等を用いた濡れ角測定より定量的に評価でき、市販の接触角測定器を用いることにより評価することができる。表面自由エネルギーの値を得るには、上記液体の中から2種類の異なるものを用いて、測定対象の表面の濡れ角(接触角)を測定し、算定することができる。
 本願では、例としてOwens-Wendt-Kaelble法を用いて表面自由エネルギーを評価した。例えば、純水およびCH2I2の濡れ角測定よりOwens-Wendt-Kaelble法を用いた表面自由エネルギーの評価を以下のように行うことができる。
 表面自由エネルギー(γ)は、固体又は液体の分散力(Dispersion Force)γdと固体又は液体の極性相互作用力(Polar Interaction Force)γpとの和で与えられる。
Figure 2004075529
(1)式を固体の表面自由エネルギー(γs)で考えると、下記式(2)となる。ここで添字のsはSolidを表わす。また、同様に液体では下記式(3)となり、添字LはLiquidを表す。
Figure 2004075529
Figure 2004075529
 膜の表面自由エネルギーは、水とCH2I2(ジヨードメタン)の2種類の液体を用い、それぞれを固体上に同量滴下し、求めた接触角から表面自由エネルギーを算出する。
 Owens-Wendt-Kaelble法により、以下の計算式を用いた。
Figure 2004075529
 尚、2種類の液体のγL d及びγL pはそれぞれ表1の文献値を使用し、(3)式より2種類の液体それぞれのγLを求める。
Figure 2004075529
 例えば、水の接触角が104.9°、ジヨードメタンの接触角は72.0°であれば、(4)式、(5)式のθに代入し、その他のエネルギー値は表1の値を用いる。その結果は以下の通りである。
Figure 2004075529
 上式(6)によって得られたγs dを(5)式に代入すると
Figure 2004075529
となり、これら(6)及び(7)式の値を(2)式に代入することにより下記の結果が得られる。
Figure 2004075529
従って、固体の表面自由エネルギーγsが22.30mJ/m2と求められる。
 表面自由エネルギーは、表面における摩擦の大きさと相関する。摩擦は、たとえば、市販のAFM(原子間力顕微鏡)装置を用いて、コンタクトモードによるLFM法(Lateral Force Measurement)により実測することが可能である。
 表2に、LFM法により測定した薄膜表面摩擦(相対値)および表面自由エネルギーの一例をまとめる。LFM法のよる摩擦の測定は、Si3N4の探針を用い、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置(AFM装置)によった。
 予備成形したプレス成形用のガラス素材に、炭素を用いた真空蒸着法により、平均膜厚2.5nmの炭素膜を設けたものを、基準サンプルとした。また、同様に予備成形したガラス素材に、ビニルトリクロロシラン(CH2=CH2SiCl3)をエタノールで希釈した後、スピンコーターにより膜厚10nm〜50nmに塗布した膜を、比較サンプルとした。更に、ビニルトリクロロシランを無水ヘキサンに溶解した溶液(濃度2wt%)に、前記同様に予備成形したガラス素材を1分間浸漬させ、リンス後、室温で30分乾燥したものを、本発明サンプルとした。膜厚は0.6nmであった。
Figure 2004075529
 本発明サンプルは、比較サンプルと比べ、表面自由エネルギーが低く、また膜表面の摩擦が極めて低いことがわかる。これは、ガラスがプレス成形によって変形する際の変形速度が高く、融着やワレが防止できることを意味する。
 膜の被覆率も、表面自由エネルギーより評価することができる。清浄なガラスの表面は反応性が高く、−OH基で覆われた後でも、その表面自由エネルギーの値は大きい。一方、自己組織化膜の表面に存在する結合(分子の末端に存在する官能基)は、ガラスの表面より反応性が低く、その表面自由エネルギーの値も小さい。したがって、膜表面の表面自由エネルギーは自己組織化膜の被覆率の目安になる。
 たとえば、被覆率が100%の自己組織化膜の表面自由エネルギーをXmJ/m2、成膜していないガラスの表面自由エネルギーをY mJ/m2とすると、被覆率と表面自由エネルギーの間には直線関係があるので、表面自由エネルギーがZ mJ/m2の場合の膜の被覆率は、式(8)で与えられる。
Figure 2004075529
 本発明の自己組織化膜を用いると、被覆率が他の成膜法によるより高くなる。なお、ガラス素材表面を覆う膜の全てが自己組織化膜であることが好ましいが、一部、自己組織化されていない膜が混在しても、本発明の効果を得られる範囲であれば、本発明に含まれる。自己組織化膜の被覆率は、60%以上であることが好ましく、更に、被覆率は80%以上であることが好適である。尚、被覆率100%の状態とは、成膜時間と温度を変化させたときに、IR−RASで明確なピークが得られ、そのピーク高さが不変(飽和)となったものであるとすることができる。
 表面自由エネルギーは、前述のとおり、表面の反応性と被覆率の尺度であり、値が低いと反応性が低く、かつ、被覆率が高い。本発明においては、プレス成形に用いるガラス素材の表面エネルギーが大きすぎると、成形型との反応性が高くなり、クモリ、白濁の防止効果が不充分となるので、本発明のガラス素材はその表面の表面自由エネルギーが60mJ/m2以下であることが好ましい。より好ましくは50mJ/m2以下であり、更に好ましくは40mJ/m2以下である。
 本発明に係る自己組織化膜の膜厚は0.1nm以上であること及び30nm以下であることが好ましい。ガラス素材に形成された自己組織化膜は、プレス成形の際に型の成形面によって伸ばされる。このとき、ガラス素材に形成する自己組織化膜の膜厚が小さ過ぎると、プレス成形による膜の伸びにより、膜の欠落部位が生じ、ガラスが型表面と直接接触して融着が発生し易くなる。一方、自己組織化膜の膜厚が大きすぎる場合、自己的に配列した有機化合物分子は相互に結合をもった構造体をつくり、このためプレス成形によって膜が伸びず、分断されやすい。この場合、得られる光学素子表面が粗れ、クモリや白濁が発生する。従って、自己組織化膜の膜厚は0.5nm以上であること及び20nm未満であることがより好ましく、0.5nm以上であること及び10nm未満であることが更に好適である。
 本発明によれば、膜厚の制御は、自己組織化膜の出発原料の選択により容易に行うことができる。すなわち出発原料として用いる有機化合物分子の長さにより、膜厚を制御することができる。そのため、成膜中に膜厚をモニタリングすることなく膜厚を制御することができる。また、同一の分子を用いれば、常に同じ膜厚に成膜できるため、ロット間、ロット内の膜厚ばらつきが抑止できる点で、優れた効果をもたらす。また、用いるガラスの種類により、ワレの生じやすい硝種に対しては、有機化合物分子の選択により、膜厚を大きく設定することが容易に行える。
 なお、自己組織化膜の膜厚の評価は、ESCA又はエリプソメーターによる表面分析により、測定可能である。
 自己組織化膜は英語ではself-assembled monolayer(SAM)と呼ばれている。
 本発明における自己組織化膜は、一度の成膜処理で表面に形成される単分子層であることもできるが、成膜を繰り返し行うことで形成される多分子層であることもできる。即ち、本発明の自己組織化膜は、図1に示すような単分子層のみではなく、図2に示すような多分子層の6や7を含むものであることもできる。
 尚、図2の上図(a)では、第1層目の自己組織化膜8(基板3側の層)と第2層目の自己組織化膜9とは、異なる物質から形成されている。但し、各膜は同一の物質から形成されている。このように複数の自己組織化膜を異なる物質から形成することで、融着、クモリ及び白濁防止、特にワレ易く、モールドプレスが困難な光学素子形状であってもワレ防止効果が得られることが期待できる。
 また、図2の下図(b)では、第1層目の自己組織化膜12及び13(基板3側の層)とは第2層目の自己組織化膜10及び11とは、異なる物質から形成されている。但し、各膜も複数の物質から形成されている。このように複数の自己組織化膜を異なる物質から形成すること、さらには、各膜も複数の物質から形成することで、融着、クモリ及び白濁防止、特にワレ易く、モールドプレスが困難な光学素子形状であってもワレ防止効果が得られることが期待できる。
 上記に述べたような膜厚、及び表面エネルギーを有する自己組織化膜であれば、単分子膜、多分子膜のいずれであっても、光学素子の加圧成形を行なったときに、融着、白濁、曇り、ワレが効果的に抑止できることから好ましい。
 次に、自己組織化膜を熱分解して得る、炭素系膜について説明する。
 本発明は、表面に自己組織化膜を有する上記本発明の成形用ガラス素材を加熱処理して、前記ガラス素材が有する自己組織化膜の少なくとも一部を熱分解することを特徴とする成形用ガラス素材の製造方法を包含する。
 自己組織化膜は、有機化合物によって形成され、C、H、F、S、Si、Nなどの元素を含有しているが、非酸化雰囲気中での加熱による熱分解により、Hなどの易分解成分は減少し、Cを主として含有する炭素系薄膜になる。この様にガラス素材の表面に炭素系薄膜を形成することにより、金型と成形品との離型性を容易、確実に確保することができる。
 非酸化雰囲気中で自己組織化膜を加熱し、熱分解すると、自己組織化膜中の化学結合が切れ、炭素を主とした緻密で均一な膜となる。この膜中の炭素は、共有結合を有しないため、プレス成形によるガラス表面の伸びに応じて、膜内ですべり移動ができる、柔軟性の高い膜である。従って、割れ易いガラス(揮発性成分含有、又は高屈折率成分含有)に用いると、特に効果が顕著である。
 自己組織化膜を形成したガラス素材を加熱し、自己組織化膜の熱分解を行なう工程は、ガラス素材を成形のための成形型に導入した後に行っても、導入する前に行ってもよい。即ち、ガラス素材を加圧成形するために、加熱軟化するときに同時に熱分解を行なっても良い。熱分解により、揮発成分が成形型に付着する場合は、型外で熱分解を行なう方が好ましい。
 本発明に係るガラス素材の自己組織化膜を熱分解する加熱処理温度は200℃以上であること、800℃以下であることが好ましい。温度が低すぎると、自己組織化膜中のHなどの分解が不充分になりやすいため、加熱処理温度は200℃以上が好ましい。一方、温度が高すぎると、自己組織化膜中のC、H、F、S、Si、Nなどの元素成分とガラス素材の表面とが反応し、ガラス素材の表面が変質して、融着、クモリ、白濁および/もしくはワレなどの欠陥が発生する。従って、加熱処理温度は800℃以下であることが好ましい。自己組織化膜を熱分解する加熱処理温度は、更に好ましくは、300℃以上であり、700℃以下である。加熱時間は、5分〜50分とすることが好ましい。但し、赤外線加熱を用いる場合には、5秒〜10分の加熱で所望の熱分解が得られる。
 本発明に係る自己組織化膜の加熱処理後の表面状態および成膜の被覆率は、上述の自己組織化膜を有する本発明のガラス素材の場合と同様に、純水、CH2I2、グリセリン、イソペンタン、パーフルオロヘキサン等を用いた濡れ角測定よりOwens-Wendt-Kaelble法を用いて解析される表面自由エネルギーにより評価できる。表面エネルギーが大きすぎるとクモリ、白濁の防止効果が不充分となる傾向があるので、加熱処理後のガラス素材の表面自由エネルギーは70mJ/m2以下であることが好ましい。更に50mJ/m2以下がより好ましい。
 加熱処理後に、上記のような表面エネルギーを有するガラス素材であれば、光学素子の加圧成形を行なったときに、融着、白濁、クモリ、ワレが効果的に抑止できる。
 本発明は、上記自己組織化膜を有する本発明のガラス素材または上記自己組織化膜を有する本発明のガラス素材を加熱処理する方法により得られたガラス素材を加熱軟化し、成形型により加圧成形することを含む、ガラス製品の製造方法を包含する。
 図4に、本発明のガラス製品の製造方法を模式的に示す工程図を示す。
 第一工程において、光学素子を成形するガラス素材の表面に自己組織化膜を形成する。自己組織化膜は自己組織化膜の出発原料を無水有機溶剤で希釈して調製したコーティング溶液に前記ガラス素材を洗浄乾燥した後に1分間程度浸漬し、次いでコーティング溶液から取り出し、洗浄、乾燥することにより得られる。
 第二工程において、表面に自己組織化膜を形成したガラス素材を、N2、He、Arなどの不活性ガス雰囲気中で、数秒〜数10分の時間、加熱処理を行い、自己組織化膜を熱分解して炭素系薄膜を合成する。加熱処理温度は200℃以上、800℃以下が好ましい。なお、不活性ガス雰囲気の圧力は10-5Torr以上であれば、減圧しても差し支えはない。
 第三工程において、公知の手段でガラス素材をプレス成形して、ガラス光学素子を得る。自己組織化膜を形成し、加熱処理したガラス素材は、公知の手段でプレス成形して、ガラス光学素子を得ることができる。例えば、ガラス素材を精密に形状加工した成形型に導入し、その粘度が108〜1012ポイズ相当の温度に昇温となる温度に加熱、軟化し、これを、押圧することによって、型の成形面をガラス素材に転写する。もしくは、あらかじめ、その粘度が108〜1012ポイズ相当の温度に昇温したガラス素材を、精密に形状加工した成形型に導入し、これを、押圧することによって、型の成形面をガラス素材に転写する。成形時の雰囲気は、非酸化性とすることが好ましい。この後、型とガラス素材を、冷却し、好ましくはTg以下の温度となったところで、離型し、成形された光学素子を取出す。
 型母材としては、SiC、WC、TiC、TaC、BN、TiN、AlN、Si34、SiO2 、Al23 、ZrO2 、W、Ta、Mo、サーメット、サイアロン、ムライト、カーボン・コンポジット(C/C)、カーボンファイバー(CF)、WC−Co合金、結晶化ガラスを含むガラス素材、ステンレス系高耐熱性金属等から選ばれる材料が使用できる。
 母材の成形面には離型膜が設けられていることが好ましい。離型膜としては、ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC)、水素化ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC:H)、テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C)水素化テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta-C:H)、アモルファス炭素膜(以下、a-C)、水素化アモルファス炭素膜(以下、a-C:H)、窒素を含有するカーボン膜等の炭素系膜、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タングステン(W)、及びタンタル(Ta)から選ばれる少なくとも一つの金属を含む合金膜を用いることができる。
 また、離型膜の成膜は、DC−プラズマCVD法、RF−プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、ECR−プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等のプラズマCVD法、イオンプレーティング法などのイオン化蒸着法、スパッタ法、蒸着法やFCA法等の手法が用いることができる。
 本発明は、揮発性成分(アルカリ金属、又はフッ素)を含有する光学ガラスからなるガラス素材を成形するときに、特に好適である。離型膜に堆積した揮発成分が融着などを誘発することを、有効に抑止するからである。
 また、高屈折率成分として、還元性のTi、Nb、Wを含有する場合にも有効である。型表面との反応性の高いガラスであっても、本発明の膜によって、反応を抑止することから、融着やクモリを防止できるからである。融着が特に起きやすい、リン酸塩ガラスに対しても、本発明は有効である。
 本発明は、レンズ、ミラー、グレーティング、プリズム、マイクロレンズ、積層型回折光学素子等の光学素子に有効に適用できるほか、光学素子以外のガラスの成形品に対しても適用できることは言うまでもない。
 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
 実施例1
 予備成形された芯ガラスの表面に自己組織化膜を形成したガラス素材を用意した。すなわち、n-オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、無水ヘキサンで1wt%まで希釈して調製したコーティング溶液にガラス素材を20℃で60秒浸漬した後、コーティング溶液から取り出し、洗浄後、室温で30分程度、乾燥した。芯ガラス(ガラス素材)として用いた光学ガラスは、ガラス転移温度が520℃であり、屈折率が1.69350、線膨張係数が69×10-7/℃である易揮発成分であるアルカリ金属酸化物を含有するホウ酸塩系ガラスである。
 IR-RASでは局所的な分析しかできないため、ガラス素材表面の任意の10点を日本分光製FT/IR620装置を用いてIR-RASで分析した結果、図5に示すとおり、10点全ての測定点で自己組織化膜に由来するピークが観察され、ガラス素材の表面に形成された膜は自己組織化されていることが確認された。また、ESCAで評価した結果、自己組織化膜の平均膜厚は4.0nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は4.0nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は4.0nm、と膜厚は均一であった。
 純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは25〜28mJ/m2であった。
 成膜時間を変えてIR-RASの評価を行ったところ、ピーク高さは飽和していた為、この表面自由エネルギーから算出される被覆率を100%とした。
 また、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定した表面摩擦(蒸着炭素膜サンプルに対する静摩擦の相対値)は、0.2であり、極めて低摩擦であった。
 この自己組織化膜の構成分子はC18H37Si−ガラス素材であり、ESCA分析の結果、自己組織化膜にはC、HおよびSiの3元素が含まれる。
 この自己組織化膜表面層で被覆されたガラス素材を成形装置内に設置した。窒素ガス雰囲気中で、610℃まで15分間かけて加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧した。圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−100℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物を取り出した。なお、成形型としては、CVD法により作製した多結晶SiCの成形面をRmax=18nmに鏡面研磨した後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜(水素化ダイヤモンド状炭素膜)を成膜したものを用いた。
 同一型で連続プレス成形し、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した結果、全数、良好であった。
比較例1
 n-オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、エタノールで2wt%まで希釈して調製したコーティング溶液を、スピンコーターで予備成形されたガラス素材に成膜した。このガラス素材表面の任意10点をIR-RASで分析した結果、10点全てにおいてピークは観察されず、ガラス素材表面に形成された膜には組織的な構造は認められなかった。すなわち、ガラス素材表面に形成された膜は本発明の自己組織化膜ではないことが確認された。
 ESCAで測定した膜厚は200〜450nmで、ガラス素材の中央部の膜厚は300nm〜450nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は200 nm〜350nm、と膜厚の不均一が観測された。純水およびCH2I2の濡れ角測定よりOwens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは50〜72mJ/m2であった。
 また、実施例1と同様にLFM法で測定した表面摩擦は、3.1〜5.9であり、実施例1と比べて数値が大きく、かつ、不均一であった。これらの結果から、膜の反応性は高く、被覆率も実施例1より低いことがわかった。
 ESCA分析の結果、この膜にはC、H、Siの他、O(酸素)元素が含まれており、エタノール溶液に希釈した段階で反応式(4)の加水分解反応が起こり、生成したC18H37Si−O−C25分子もしくはその集合体(ゾル、ゲルなど)がガラス素材に付着したものと思われる。
 実施例1と同様に、同一型で連続プレスしたところ、プレス回数80回で光学素子にワレが発生し、また、成形型にガラスと思われる融着物が認められた。これ以上、この成形型でプレスすることは不可能であり、成形型表面離型膜の再生が必要であった。
実施例2〜9
 ガラス、コーティング溶液、成膜条件などを表3〜5のとおり変更した以外は、実施例1と同様に自己組織化膜を成膜したガラス素材を作製し、同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した結果、表3〜5のとおり、クモリ、白濁およびワレはほとんどなく、外観品質は良好もしくは極めて良好であった。
実施例10
 表5のガラスを用い、自己組織化膜の出発原料であるトリクロロビニルシランを、無水ベンゼンで20wt%まで希釈して調製したコーティング溶液に、予備成形されたガラス素材を30秒間浸漬して成膜した。このガラス素材の表面の10点をIR-RASで分析した結果、8点でピークが認められた。
 ESCAで評価した平均膜厚は0.3nmであり、ガラス素材の中央部は0.2nm、周辺部は0.3nm〜0.4nmであった。純水およびCH2I2の濡れ角測定より解析される表面エネルギーは38〜52mJ/m2であった。
 実施例1と同様に、同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した結果、表5のとおり、クモリ、白濁およびワレはほとんどなく、外観品質は良好であった。
比較例2
 自己組織化膜の出発原料であるトリクロロビニルシランを、H2Oを0.1%程度含むベンゼンで20wt%まで希釈して調製したコーティング溶液に、予備成形されたガラス素材を30秒間浸漬して成膜した。このガラス素材の表面の10点をIR-RASで分析した結果、1点のみしかピークが認められず、ガラス素材表面に形成された膜の大部分は自己組織化されていなかった。ESCAで評価した平均膜厚は1.1nmであり、ガラス素材の中央部は0.2nm、周辺部は0nm〜2.1nmであった。純水およびCH2I2の濡れ角測定より解析される表面エネルギーは51〜68mJ/m2であった。
 実施例1と同様に、同一型で連続プレスしたところ、プレス回数25回で光学素子にワレが発生し、また、成形型にガラスと思われる融着物が認められた。これ以上、この成形型でプレスすることは不可能であり、成形型表面離型膜の再生が必要であった。
Figure 2004075529
*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜サンプルに対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以内
  ×:プレス途中で、ワレが発生
Figure 2004075529
*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜に対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以上
  ×:プレス途中で、ワレが発生
Figure 2004075529

*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜に対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観
  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以内
  ×:プレス途中で、ワレが発生
実施例11
 第一工程において、n−オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、無水ヘキサンで1wt%まで希釈して調製したコーティング溶液にガラス素材(組成:ホウ酸塩系ガラス)を20℃で60秒浸漬した後、コーティング溶液から取り出し、洗浄後、室温で30分程度、乾燥した。
 なお、本ガラス素材の組成は易揮発成分のアルカリ金属酸化物を含有するホウ酸塩系であり、ガラスの転移温度が520℃であり、屈折率が1.69350、線膨張係数が69×10-7/℃である。ガラス素材の表面の10点を日本分光製FT/IR620装置を用いてIR-RASで分析した結果、10点全ての測定点で自己組織化膜に由来するピークが観察され、ガラス素材の表面に形成された膜はほぼ全面的に自己組織化されていることが確認された。
 また、ESCAで評価した結果、自己組織化膜の平均膜厚は4.0nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は4.0nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は4.0nm、と膜厚は均一であった。純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは25〜28mJ/m2であった。
 第二工程において、前記ガラス素材を、大気圧下N2ガス雰囲気中で、赤外線ヒーターを用い、400℃の温度で30秒間、加熱処理を行った。加熱後の前記ガラス素材表面の純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは48〜51mJ/m2であった。加熱による表面自由エネルギーの25〜28mJ/m2から48〜51mJ/m2への変化は、膜表面のCH3基がCに変質しためと解釈される。
 なお、この表面自由エネルギーから算出される被覆率は90%以上であった。また、ESCAで膜厚を評価した結果、平均膜厚は2.2nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は2.1nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は2.3nm、と膜厚はほぼ均一であった。加熱による膜厚の減少(4.0nmが2.2nmへ減少)は、熱分解にともない、一部の炭素も脱離したためと考えられる。また、ESCAで分析の結果、この膜の構成分子は、C、Siおよび微量のHであり、Hは減少していた。
 また、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定した表面摩擦(蒸着炭素膜に対する相対値)は、0.9であり、低摩擦であった。
 第三工程において、この自己組織化膜表面層で被覆されたガラス素材を成形装置内に設置した。窒素ガス雰囲気中で、610℃まで加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧する。圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−100℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物を取り出した。なお、成形型としては、CVD法により作製した多結晶SiCの成形面をRmax=18nmに鏡面研磨したものを用いた後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜を成膜したものを用いた。
 同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した結果、全数、極めて良好であった。
比較例3
 n-オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、エタノールで2wt%まで希釈して調製したコーティング溶液を、スピンコーターで予備成形されたガラス素材に成膜した。
 このガラス素材表面の10点をIR-RAS(日本分光製FT/IR620装置)で分析した結果、10点全てにおいてピークは観察されず、ガラス素材表面に形成された膜には組織的な構造は認められなかった。すなわち、ガラス素材表面に形成された膜は本発明の自己組織化膜ではないことが確認された。
 ESCAで測定した膜厚は200〜450nmで、ガラス素材の中央部の膜厚は300nm〜450nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は200 nm〜350nm、と膜厚は不均一であった。ESCAで分析した結果、この膜にはC、H、Siの他、O(酸素)原子が含まれており、エタノール溶液に希釈した段階で反応式(4)の加水分解反応が起こり、生成したC18H37Si−O−C25分子もしくはその集合体(ゾル、ゲルなど)がガラス素材に付着したものと思われる。
 純水およびCH2I2の濡れ角測定よりOwens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは50〜72mJ/m2であった。
 実施例11と同様に、第二工程において、前記ガラス素材を、大気圧下N2ガス雰囲気中で、赤外線ヒーターにより400℃の温度で30秒間、加熱処理を行った。加熱後の前記ガラス素材表面の純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは61〜72mJ/m2であった。
 また、ESCAで測定した膜厚は、100〜310nmで、ガラス素材の中央部の膜厚は100nm〜280nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は130 nm〜310nm、と極めて不均一であった。また、ESCAで分析の結果、この膜の構成元素は、C、Si、Oおよび微量のHであった。
 また、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定した摩擦力(蒸着炭素膜に対する相対値)は、2.8〜5.6であり、摩擦が極めて大きかった。
 第三工程において、この自己組織化膜表面層で被覆されたガラス素材を成形装置内に設置した。窒素ガス雰囲気中で、610℃まで加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧する。圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−100℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物を取り出した。なお、成形型としては、CVD法により作製した多結晶SiCの成形面をRmax=18nmに鏡面研磨したものを用いた後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜を成膜したものを用いた。
 実施例11と同様に、同一型で連続プレスしたところ、プレス回数60回で光学素子にワレが発生し、また、成形型にガラスと思われる融着物が認められた。これ以上、この成形型でプレスすることは不可能であり、成形型表面離型膜の再生が必要であった。
実施例12
 実施例11と同様に、第一工程において、n−オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、無水ヘキサンで1wt%まで希釈して調製したコーティング溶液にガラス素材(組成:ホウ酸塩系ガラス)を20℃で60秒浸漬した後、コーティング溶液から取り出し、洗浄後、室温で30分程度、乾燥した。なお、本ガラス素材の組成は易揮発成分のアルカリ金属酸化物を含有するホウ酸塩系であり、ガラスの転移温度が520℃であり、屈折率が1.69350、線膨張係数が69×10-7/℃である。
 ガラス素材の表面の10点を日本分光製FT/IR620装置を用いてIR-RASで分析した結果、10点全ての測定点で自己組織化膜に由来するピークが観察され、ガラス素材の表面に形成された膜はほぼ全面的に自己組織化されていることが確認された。
 また、ESCAで評価した結果、自己組織化膜の平均膜厚は4.0nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は4.0nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は4.0nm、と膜厚は均一であった。
 純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは25〜28mJ/m2であった。
 第二工程と第三工程は、プレス工程内で連続的に実施した。前記ガラス素材を、プレス装置の型上に設置し、大気圧下N2ガス雰囲気中で、610℃のプレス温度までの加熱において、400℃で15分間保持する加熱工程を設け、加熱処理を行った後、このガラス素材を成形装置内に設置した。
 窒素ガス雰囲気中で、610℃まで加熱して150kg/cm2 の圧力で1分間加圧する。圧力を解除した後、冷却速度を−50℃/minで480℃になるまで冷却し、その後は−100℃/min以上の速度で冷却を行い、プレス成形物の温度が200℃以下に下がったら、成形物を取り出した。なお、成形型としては、CVD法により作製した多結晶SiCの成形面をRmax=15nmに鏡面研磨したものを用いた後、イオンプレーティング法成膜装置を用いて、成形面にDLC:H膜を成膜したものを用いた。同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した結果、全数、極めて良好であった。
 なお、加熱後の前記ガラス素材をプレス前に取り出し、評価を行った結果は以下のとおり。表面の純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは42〜48mJ/m2であった。この表面自由エネルギーから算出される被覆率は90%以上であった。また、ESCAで膜厚を評価した結果、平均膜厚は2.3nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は2.5nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は2.1nm、と膜厚はほぼ均一であった。
 加熱による膜厚の減少(4.0nmが2.3nmへ減少)は、熱分解にともない、一部の炭素も脱離したためと考えられる。また、ESCAで分析の結果、この膜の構成分子は、C、Siおよび微量のHであり、Hは減少していた。また、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定した摩擦力(蒸着炭素膜に対する相対値)は、0.8であり、低摩擦であった。
実施例13〜21
 ガラス、コーティング溶液、成膜条件、加熱処理条件などを表6〜8のとおり変更した以外は、実施例11と同様に自己組織化膜を成膜後、加熱処理した光学素子成形素材を同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観を観察した。その結果、表6〜8のとおり、クモリ、白濁およびワレはほとんどなく、外観品質は良好もしくは極めて良好であった。
比較例4
 実施例11と同様に、第一工程において、n−オクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3)を、無水ヘキサンで1wt%まで希釈して調製したコーティング溶液にガラス素材(組成:ホウ酸塩系ガラス)を20℃で60秒浸漬した後、コーティング溶液から取り出し、洗浄後、室温で30分程度、乾燥した。なお、本ガラス素材の組成は易揮発成分のアルカリ金属酸化物を含有するホウ酸塩系であり、ガラスの転移温度が520℃であり、屈折率が1.69350、線膨張係数が69×10-7/℃である。
 ガラス素材の表面の10点を日本分光製FT/IR620装置を用いてIR-RASで分析した結果、10点全ての測定点で自己組織化膜に由来するピークが観察され、ガラス素材の表面に形成された膜はほぼ全面的に自己組織化されていることが確認された。また、ESCAで評価した結果、自己組織化膜の平均膜厚は4.0nmであり、ガラス素材の中央部の膜厚は4.0nm、ガラス素材の周辺部の膜厚は4.0nm、と膜厚は均一であった。
 純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは25〜28mJ/m2であった。
 第二工程において、前記ガラス素材を、大気圧下N2ガス雰囲気中で、850℃の温度で30秒間、赤外線ヒーターを用いて加熱処理を行った。加熱後の前記ガラス素材表面の純水およびCH2I2の濡れ角測定より、Owens-Wendt-Kaelble法を用いて解析した表面エネルギーは67〜72mJ/m2であった。また、ESCAで膜厚を評価したが、ガラス素材表面には、膜は検出されなかった。
 加熱による表面自由エネルギーの25〜28mJ/m2から67〜72mJ/m2への変化は、膜の消失によるとみられる。850℃との高温の加熱処理により膜が分解し、膜が消失したと考えられる。また、デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定した摩擦力(蒸着炭素膜に対する相対値)は、3.2であり、高摩擦であった。
 実施例11と同様に、同一型で連続プレスしたところ、プレス回数30回で光学素子にワレが発生し、また、成形型にガラスと思われる融着物が認められた。これ以上、この成形型でプレスすることは不可能であり、成形型表面離型膜の再生が必要であった。
Figure 2004075529
*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜に対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観
  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以内
  ×:プレス途中で、ワレが発生
Figure 2004075529
*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜に対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観
  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以上
  ×:プレス途中で、ワレが発生
Figure 2004075529

*自己組織化の判定;IR-RAS測定(日本分光FT/IR620使用)によるピークの有無により          判定。()内の数字は10点のIR-RAS測定において、ピークが認めら          れた件数
**被覆率;式(8)より算出した値
***摩擦;デジタルインスツルメント社製Nano-ScopeIII装置を用いてLFM法で測定し       た摩擦の蒸着炭素膜に対する相対値
****光学素子外観;同一型で連続プレスし、プレス回数500回までの光学素子の外観
  ◎:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁が見られない
  ○:500回のプレスで、ワレ、クモリ、白濁の生じたものが計10個以内
  ×:プレス途中で、ワレが発生
自己組織化膜の説明図 複分子層からなる自己組織化膜の説明図 表面層に自己組織化膜を有する成形用ガラス素材の説明図 光学素子製造プロセスの説明図 実施例1で得られた自己組織化膜のIR-RASスペクトル
符号の説明
1 コーティング溶液
2 溶液中の分子(○部:官能基)
3 被成膜基材
4 自己組織化膜
5 自己組織化膜の分子
6 複層化した自己組織化膜
7 複分子層からなる自己組織化膜
8 自己組織化膜の分子A
9 自己組織化膜の分子B
10 自己組織化膜の分子1
11 自己組織化膜の分子2
12 自己組織化膜の分子3
13 自己組織化膜の分子4
14 予備成形されたガラス
15 自己組織化膜

Claims (12)

  1. 予備成形されたガラス素材であって、表面に自己組織化膜を有することを特徴とする、成形用ガラス素材。
  2. 自己組織化膜が設けられたガラス素材表面は、表面自由エネルギーが60mJ/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形用ガラス素材。
  3. 自己組織化膜が有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物からなる請求項1又は2に記載の成形用ガラス素材。
  4. 自己組織化膜が、トリアルキルシラン化合物、ジアルキルシラン化合物、アルキルシラン化合物、アルキルジメチルシラン化合物、アルカンチオール化合物、ジアルキルスルフィド化合物、ジアルキルジスルフィド化合物及びジメチルアンモニウム化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形用ガラス素材。
  5. 有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物を含有する有機溶液に、予備成形されたガラス素材を浸漬して、自己組織化膜を有するガラス素材を得ることを特徴とする成形用ガラス素材を製造する方法。
  6. 有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物または有機窒素含有化合物が、その分子中に、−Cl基、−H基、又は(S―S)基を有することを特徴とする、請求項5の製造方法。
  7. 有機ケイ素含有化合物、有機硫黄含有化合物、有機フッ素含有化合物及び有機窒素含有化合物が、クロロトリアルキルシラン化合物、ジクロロジアルキルシラン化合物、トリクロロアルキルシラン化合物、アルキルジメチル(ジメチルアミノ)シラン化合物、アルカンチオール化合物、ジアルキルスルフィド化合物、ジアルキルジスルフィド化合物及びジメチルアンモニウム化合物から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項5又は6に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
  8. 有機溶液中の前記有機化合物の濃度を0.01〜10wt%とすることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス素材または請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られたガラス素材を、非酸化雰囲気中で加熱処理して、前記ガラス素材が有する自己組織化膜を熱分解することを特徴とする成形用ガラス素材の製造方法。
  10. 加熱処理の温度が200℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
  11. 加熱処理により得られるガラス素材表面は、表面自由エネルギーが70mJ/m2以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の成形用ガラス素材の製造方法。
  12. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス素材または請求項5〜11のいずれか1項に記載の製造方法により得られたガラス素材を加熱軟化し、成形型により加圧成形することを含む、ガラス製品の製造方法。
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