JP2004225154A - 方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】圧延直角方向での磁束密度B1が0.7T以上、かつ圧延方向での磁束密度B8が1.85T以下である方向性電磁鋼板において、圧延方向の張力付加により鉄損の改善を実現する。
【選択図】 なし
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、主として小型のモータや発電機の鉄心材料に用いられる方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、小型トランスでは、積層された電磁鋼板をコア(鉄心)として使用している。このコアの代表的な形状としては、図1に示すような、EI型コアが知られている。このEI型コア用の鉄心材料としては、無方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の両方が用いられている。
【0003】
まず、無方向性電磁鋼板を用いる場合には、方向性電磁鋼板を使用する場合に比較して磁気特性のレベルが低いために、コアの磁気特性は劣っている。しかしながら、無方向性電磁鋼板は方向性電磁鋼板より製造プロセスが簡略であるがゆえに価格が安く、そのため経済的な面から使用される場合が多い。
【0004】
一方、方向性電磁鋼板は、通常、圧延方向の磁気特性は良好であるものの、圧延直角方向の磁気特性は著しく劣る。但し、EIコア内での磁束の流れを考慮すれば、磁束の流れが圧延直角方向の部分となるのは2割程度にとどまり、8割程度は圧延方向の部分であるから、EI型コアの鉄心材料として方向性電磁鋼板を使用したとしても、無方向性電磁鋼板よりも遥かに良好な特性が得られるのである。そのため、鉄損を重視する場合には方向性電磁鋼板が用いられることが多い。とはいえ、方向性電磁鋼板は圧延直角方向の磁気特性が著しく劣るので,多少なりとも圧延直角方向にも磁束が流れるEI型コアは、方向性電磁鋼板の特徴を十分に生かした用途とは必ずしもいえないのである。
【0005】
このような観点から二次再結晶により(100)[001]組織(正キューブ組織)を発達させて、圧延直角方向へも磁化容易軸を配向させた、いわゆる二方向性電磁鋼板の製造方法も古くから検討されている。例えば、特許文献1には、インヒビターを含有する鋼素材を一方向に冷間圧延した後、さらにこの方向と交差する方向に冷間圧延を加えるクロス圧延に続いて、短時間焼鈍と900〜1300℃の高温焼鈍を行うことにより、正キューブ方位粒を二次再結晶させる方法が記載されている。また、特許文献2には、インヒビターとしてAlNを含有する素材について、熱延方向に対して直角の方向に50〜90%の圧下率で冷間圧延し、ついで一次再結晶を目的とする焼鈍を施したのち、二次再結晶および純化を目的とする最終仕上焼鈍を施すことによって、正キューブ方位粒に二次再結晶させる方法が開示されている。
【0006】
ここで、磁気特性の面のみに着目すれば、EIコア等の二方向に磁化される用途には、圧延方向と圧延直角方向の両方の磁気特性が良好な二方向性電磁鋼板を適用することが最も有利であると考えられるが、通常、二方向性電磁鋼板の製造には生産性が極めて低いクロス圧延を必要とするため、かかる二方向性電磁鋼板は未だかつて工業的に大量生産されたことはない。
【0007】
これに対して、上述したクロス圧延は行わずに、インヒビター成分を減少させて集積度の低いゴス方位を発達させ、方向性電磁鋼板の磁気特性の異方性を低下させることにより、モータの分割型鉄心等に適した材料を得る技術が、特許文献3に開示されている。
【0008】
しかしながら、この技術はゴス方位集積度を低下させていること、またSiの含有量を3.0mass%未満としていることから、その鉄損は圧延方向のW15/50が最良値でも2.1W/kg以上と、高級無方向性電磁鋼板程度の値でしかなく、方向性電磁鋼板のレベルであるW15/50<1.4W/kgに比べると大きく劣っており、省エネルギー化が進む、世界的な需要に応えるレベルには到っていない。
【0009】
以上の技術においては、圧延方向にゴス方位粒が集積する現象と圧延直角方向の磁気特性が改善する現象とが相反する関係にあるために、前述の方向性電磁鋼板では圧延直角方向への十分な磁気特性を確保する代わりに圧延方向の磁気特性がある程度劣化することが避けられなくなってくるのである。
【0010】
また、この他の方向性電磁鋼板の鉄損改善手段として、鋼板への張力付加が知られている。この張力付加による鉄損改善効果は、非特許文献1において認められるとおり、ゴス方位が圧延方向に高い集積率を持っているB8値が高い方向性電磁鋼板において、その効果が大きいことが知られている。このメカニズムは以下のように理解されている。すなわち、一般に結晶方位<001>の鋼板表面鉛直方向への伏角(以下、β角とする)が大きいと、鋼板表面に磁極を発生させることになり、静磁エネルギーの増大を生む。この静磁エネルギーの増大を緩和するために、鋼板厚さ方向に、図2に示すような環流磁区(ランセット磁区)Rが生じる。ここで、圧延方向への一軸張力を付加すると、ランセット磁区は不安定化し消失するため、再び静磁エネルギーが増加することにつながる。これを補填するために、磁区細分化が生じる結果、鉄損が低減するのである。
【0011】
ただし、ゴス方位からずれた粒の多いB8の低い鋼板では、β角のずれも大きい上、結晶粒界での磁極発生量も多いために、ランセット磁区による静磁エネルギーの増大緩和効果だけでは安定状態を取れず、すでに磁区細分化が起こっている状態にある。つまり、磁区幅は極めて狭い状態であり、新たな磁区細分化による大きな鉄損改善効果を期待出来ないのである。
【0012】
【特許文献1】
特公昭35−2657号公報
【特許文献2】
特開平4−362132号公報
【特許文献3】
特開2000−87139号公報
【非特許文献1】
電気学会マグネティックス研究会資料 Mag.86−170 pp62 Fig2(1986)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、従来は、圧延直角方向での特性を確保するのと引き換えに圧延方向のB8が1.85T以下となるような電磁鋼板において、張力付加による鉄損改善効果を十分に有するものは未だ提供されていない。このような圧延方向のB8が1.85T以下の電磁鋼板では、その圧延方向の鉄損値も高配向方向性電磁鋼板のレベルに達するものではないため、必要に応じて張力付加を行うことにより圧延方向鉄損の低減が実現すれば、多目的に使用できる鋼板となり極めて有用である。
【0014】
そこで、本発明は、圧延直角方向のB1が0.7T以上、かつ圧延方向でのB8が1.85T以下のレベルにあっても、張力付加による鉄損の改善を可能とした、経済的にも有利な方向性電磁鋼板を提供しようとするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
さて、電磁鋼板に張力を付加すると、ランセット磁区のような補助磁区と呼ばれる、張力付加方向と平行しない磁区を不安定化させることになる。これは、磁歪を逆に利用した効果と言える。ここで、単純化のために等方磁歪を仮定した場合、磁気弾性エネルギーEσは
【数1】
で表される。この式において、φは張力σと磁化とのなす角であり、この式は一種の一軸異方性を表すものである。これは等方磁歪を仮定していない場合においても同様であり、圧延方向への張力の付加はそれと平行する磁化(磁区)に対してエネルギー的に有利に作用し、それと直交する磁化(磁区)に対して最も不利に働く。
【0016】
電磁鋼板において生じる補助磁区は、圧延方向に対して大きな角度を有しており、圧延方向への張力付加により不安定化する。従って、補助磁区を多数有する電磁鋼板では、圧延方向への張力により、補助磁区の消失と、それに伴う磁区細分化が生じる結果、鉄損の改善がはかられるのである。
【0017】
補助磁区にあって、特にランセット磁区が上記したβ角に依存して出現することは前述の通りである。しかし、β角の増大はランセット磁区の数を増加させるが、磁区細分化も並行して行われるため、十分な鉄損改善効果を得ることが出来ない。一方で、補助磁区は、鋼板内に歪や不純物等があった場合も、様々な形で出現し、同様に周囲の静磁エネルギーを低減する役割を果たすことが知られている。かような微細不純物に起因する補助磁区の場合、同時に磁区細分化は生じておらず、張力付加時には補助磁区の消失とともに磁区細分化が生じる。その結果、圧延方向への張力付加により鉄損改善効果が得られることが予想される。
【0018】
ここで、方向性電磁鋼板に不純物が存在すると、一般的には磁気特性の劣化を引き起こす。そのため、最終仕上焼鈍の過程において高温を保って不純物を除去する工程、いわゆる純化焼鈍を経ている。これに対して、本発明は、本来であれば純化により除去する不純物を意図的に鋼板内に残すことにより、微細な補助磁区を適当数で保有させることを意図したものである。
【0019】
発明者らは、既にインヒビター成分(S,Se,N等)を含有しない高純度素材において、固溶窒素の粒界移動抑制効果を利用して二次再結晶を発現させる技術を、特開2000−129356号公報にて提案しており、この技術では高温での純化過程を経ずとも低鉄損が得られる方向性電磁鋼板を提案している。この技術を応用することにより、低鉄損を保ちつつ、純化過程を踏まず微細な不純物(析出物)を適度(微量)に保有させたままにすることに成功し、本発明を完成するに到った。
【0020】
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
(1)圧延直角方向での磁束密度B1が0.7T以上、かつ圧延方向での磁束密度B8が1.85T以下である、圧延方向の張力付加により鉄損の改善が見られることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0021】
(2)無張力条件下の鋼板表面において、20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒の面積率が30%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の方向性電磁鋼板。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を導くに到った実験結果について、詳しく説明する。
まず、圧延直角方向の磁気特性が向上するのは、冷延前粒径を粗大化させた結果、一次再結晶集合組織の{111}組織が減少するとともに、{100}〜{411}成分が増加し、最終仕上焼鈍後の鋼板に{100}<001>方位を持つ微細な二次再結晶粒が混合してくるためであると考えられる。
【0023】
インヒビターを用いる従来の技術では、975℃を超える高温焼鈍でインヒビター成分(S,Se,N等)を純化しなければ低鉄損が得られないが、インヒビターを使用しない方法では、純化を行わなくとも二次再結晶が完了すれば低鉄損が得られるため、この技術を利用することによって、仕上焼鈍における到達温度を低めに抑え、微細粒を残存させることが可能となる。
【0024】
このようなインヒビター成分を含有せず、S,Se,N等の不純物元素を適度に含有させた素材を用い、最終冷延前の粒径を粗大化させることにより、圧延直角方向にも磁束密度B1が0.7T以上の十分な磁気特性を持つ鋼板を作製した。この鋼板の圧延方向でのB8は1.85T以下程度であった。この方向性電磁鋼板において、従来の方向性電磁鋼板の製造工程で必須であった、不純物を純化する純化焼鈍のプロセスは行わず、意図的に不純物を残すことによって、微細不純物に起因する補助磁区を鋼板に保有させた。なお、一部の鋼板は、1150℃の高温で純化焼鈍を行った。
【0025】
純化焼鈍を行わずに得られた、鋼板表面の磁区を走査型電子顕微鏡により観察した結果を、図3に示す。なお、磁区の観察は、走査電子顕微鏡内において、室温(25℃)および圧力:5×10−1〜×10−4Paの条件下で約1Tで励磁した後、60Hzで約30秒間かけて直線的に減磁することにより消磁したのちに行った。これより、微細不純物に起因する補助磁区は、B8が1.85T以下の鋼板で数多く存在することが確認された。特に、B8が1.8T以下の鋼板において、さらに多数の補助磁区が観察された。
なお、張力被膜を有する鋼板の場合、無張力条件とするために、酸洗による被膜除去を行うと表面性状が変わってしまい、鋼板表面の補助磁区の量に変化が生じる。従って、被膜を有する鋼板では、被膜除去後、化学研磨等により表面を平滑化した状態で観察を行った。
【0026】
次いで、この純化焼鈍を行わない方向性電磁鋼板と、純化焼鈍を行った方向性電磁鋼板とのそれぞれについて、圧延方向に張力を付加したところ、図4に示す結果を得た。その結果、純化焼鈍を行った鋼板では張力による鉄損改善効果が認められなかったのに対して、不純物元素を適度に含有させ、純化焼鈍を行わなかった鋼板では、圧延方向のB8が1.85T以下のグレードはもちろん、1.8T以下となる方向性電磁鋼板においても、張力による鉄損改善効果を示した。
【0027】
続いて鋼板に含有させる不純物元素の量を種々に変更した素材を用い、さらに調査を行ったところ、図5に示すように、無張力条件下、つまり張力を付加する前の状態において、鋼板表面に20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒に張力による鉄損改善効果があり、その粒を合計した面積率が30%以上となると、張力による鉄損改善効果が現出することが明らかとなった。
以上の実験結果により、本発明は導かれたものである。
【0028】
以下に、本発明の電磁鋼板について、その要件の限定理由を説明する。
[圧延直角方向でのB1が0.7T以上]
従来の方向性電磁鋼板にあっても、圧延直角方向におけるB8は1.4T程度と、磁束密度としては比較的良好な値を示していた。しかし、高周波での使用や、さらなる鉄損低減という面では、低い励磁場において高い反応性を示すことが極めて重要である。この点において、本発明では、インヒビター成分を含有させず、固溶窒素の粒界移動抑制効果を利用して二次再結晶を発現させ、さらに低酸化性雰囲気で再結晶焼鈍を行って酸化被膜を抑制することによって、従来の方向性電磁鋼板とは異なり、B1という低い励磁場においても、高い磁束密度を示す透磁率の高い電磁鋼板を実現した。
【0029】
[圧延方向のB8が1.85T以下であり、圧延方向の張力により鉄損の改善が現出]
従来の方向性電磁鋼板では、前述のとおり、圧延直角方向の磁気特性を確保し、圧延方向のB8が1.85T以下と低いレベルの場合は、ゴス方位からの結晶粒のずれが多い。この際、β角増大に伴い、表面磁極が増加する。さらに、隣り合う結晶粒同士の方位の差が大きくなり、この方位差に起因して結晶粒界での磁極の生成量が多くなるため、磁区細分化が予め起こってしまう。よって、張力を付加しても新たな磁区細分化は生じず、圧延方向に20MPaの張力を付加しても、無張力下での鉄損からの改善量が0.03W/kgを超えるような、鉄損の改善は起こらない。
【0030】
これに対して、本発明の電磁鋼板は、従来の方向性電磁鋼板とは異なり、単にゴス方位からの結晶粒のずれを大きくするのではなく、不純物を適度に残存させて補助磁区を適度に形成させることにより、圧延方向の張力を付加すると鉄損の改善が現出するのである。
【0031】
[無張力下で鋼板表面に20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒の面積率が30%以上]
鋼板表面に適度に補助磁区を形成させることにより、圧延直角方向の磁気特性を高め圧延方向の磁束密度が1.85T以下と低下した鋼板でも、圧延方向に張力を付加した際の補助磁区の消失の効果により、鉄損改善効果を現出させることができる。ここで、補助磁区は20個/mm2未満では鉄損改善効果がほとんどなく、過剰張力によって逆に鉄損が悪化し、一方300個/mm2超では不純物の量が多すぎるため、そもそもの鉄損値が高い水準にあり、その上に張力を付加しても消失せずに残留する補助磁区が多く、かえって鉄損が劣化する場合がある。よって、20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒が鉄損改善効果を有する。
【0032】
また、このような粒の面積率が無張力下での鋼板において、合計で30%未満では,鋼板全体としての鉄損改善効果が現出しないことから、20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒の面積率は30%以上とすることが好ましい。
【0033】
また、本発明の電磁鋼板には、以下に示す製造方法が適合する。
まず、素材の成分組成について説明する。
C:0.12mass%以下
Cは、組織改善により磁気特性を向上させる有用元素であるが、含有量が0.12mass%を超えると脱炭焼鈍で除去するのが困難になるので、上限を0.12mass%とすることが好ましい。下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設けない。特にCを素材段階から30ppm 以下に低減しておくと脱炭焼鈍の省略が可能であり、生産コストの面で有利となるので、低級品の製造の場合にはCを低減した素材を用いることが可能である。
【0034】
Si:1.0 〜8.0 mass%
Siは、電気抵抗を高め、鉄損の低減に有効に寄与するが、そのためには少なくとも1.0 mass%を必要とし、一方8.0mass%を超えると磁東密度が低下するだけでなく、製品の二次加工性が著しく劣化するので、1.0 〜8.0 mass%の範囲が好ましい。特に好適には2.0〜4.5 mass%の範囲である。
【0035】
Mn:0.005 〜3.0 mass%
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005 mass%未満ではその添加効果に乏しく、一方3.0mass%を超えると二次再結晶が困難となるので、0.005〜3.0 mass%の範囲が好ましい。
【0036】
O:50ppm以下
本発明の電磁鋼板を製造するには、スラブ段階においてOを50ppm以下に低減しておくことが重要である。というのは、Oは、本発明において二次再結晶の発現を大きく阻害し、しかも後工程では除去が困難だからである。
【0037】
さらに、本発明では、不純物元素を極力低減することが好ましい。特に、二次再結晶粒の発生に対して有害なだけでなく、地鉄中に残存して鉄損を劣化させる窒化物形成元素であるAlについては100 ppm以下、B,V,NbさらにはS,Se,P,Nの各元素については、50ppm 以下、好ましくは30ppm 以下に低減しておくことが好ましい。なお、本発明では、前述した不純物を、二次再結晶に悪影響を及ぼさない程度に適量を残存させることにより、無張力条件下で形成される補助磁区の量を制御し、もって、圧延方向への張力付加による鉄損改善効果を現出させているのである。
【0038】
また、本発明では、磁気特性改善のために、以下の元素を含有することができる。
Ni:0.005 〜1.50mass%
Niは、組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素であり、必要に応じて添加することができる。ここに、含有量が0.005 mass%に満たないと磁気特性の改善量が小さく、一方1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni含有量は0.005〜1.50mass%とした。
【0039】
Sn:0.02〜0.50mass%、Sb:0.01〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、Mo:0.01〜0.50mass%
上記の元素はいずれも、鉄損改善成分であり、必要に応じて単独または複合して添加することができる。ここに、含有量が下限に満たないと鉄損の改善効果に乏しく、一方上限を超えると二次再結晶が起こらなくなるので、各元素とも添加量は上記の範囲に限定することが好ましい。
【0040】
さらに、製造工程について具体的に説明する。
まず、上記の好適成分組成に調整した溶鋼から、スラブを製造するが、かかるスラブは、通常の造塊−分塊法、連続鋳造法で製造しても良いし、また100mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造しても良い。スラブは、通常、加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延しても良い。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に供給しても良い。
【0041】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施してから、必要に応じて脱炭焼鈍を施し、最終仕上焼鈍を施す。ここに、熱延板焼鈍を施すことによって、磁気特性を向上させることが可能である。また、中間焼鈍を冷間圧延の間に挟むことも磁気特性の安定化に有用である。しかしながら、いずれも生産コストを上昇させることになるため、経済的観点から熱延板焼鈍や中間焼鈍の取捨選択が決定される。
【0042】
なお、熱延板焼鈍および中間焼鈍の好適温度範囲は700℃以上、1200℃以下である。というのは、焼鈍温度が700℃に満たないと焼鈍時の再結晶が進行しないため効果が薄く、一方1200℃を超えると鋼板の機械強度が低下してライン通板が困難になるからである。
【0043】
脱炭焼鈍は、Cを含有しない素材を用いる場合には特に必要ない。また、鋼板表面の酸化は最終仕上焼鈍時に焼鈍分離剤中の酸化物や水酸化物によってなされるため、必ずしも最終仕上げ焼鈍前の酸化が必要とは限らない。さらに、最終仕上焼鈍に先立って浸珪法によって冷間圧延終了後にSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0044】
最終仕上焼鈍では、二次再結晶後に通常行われる高温純化焼鈍を行わずに微量の不純物元素を適度に残留させることが、重要である。そのためには、最終仕上焼鈍は1000℃以下とすることが好ましい。
【0045】
さらに、鉄損を一層改善するためには、鋼板を圧延方向に機械的に引張ることや、鋼板表面に張力被膜を生成させることが有効である。後者の目的のためには、2種類以上の被膜からなる多層膜構造としても良い。また、用途に応じて、樹脂等を混合させたコーティングを施しても良い。本発明の電磁鋼板では、圧延直角方向の磁束密度B1が0.7T以上と極めて高く、そのため圧延方向の磁束密度B8が1.85T以下と低いにもかかわらず、張力付加による鉄損改善効果が現出するため、このような張力被膜の付与は有利に作用する。
【0046】
【実施例】
C: 100ppm、Si:3.3mass%およびMn: 0.0061mass%を基本成分として、不純物元素としてAlを5〜400ppm、Nを4〜110ppm、Sを4〜60ppm、Seを0〜200ppmの範囲で残存させた、種々の成分組成になる鋼スラブを連続鋳造にて製造したのち、各スラブを加熱後、熱間圧延によって2.5mm厚の熱延板とした。ついで、950℃, 30秒の条件で熱延板焼鈍を施したのち、冷間圧延によって0.34mmの最終板厚に仕上げた。ついで、900℃, 60秒の脱炭焼鈍を施して、鋼中Cを0.0020mass%まで低減したのち、最終仕上焼鈍を施した。最終仕上焼鈍は、窒素雰囲気中で900℃まで加熱し、純化焼鈍は行わずに終了した。
【0047】
かくして得られた鋼板の圧延方向に、張力を20MPaまで付加し、鉄損の改善量を調査した。ここで、W17/50は50Hzおよび1.7Tで励磁した際の鉄損値、改善量ΔW17/50は20MPaの張力付加時の鉄損値(W17/50)から無張力時の鉄損値(W17/50)を差し引いた値である。
その調査結果を表1に示すように、本発明に従う鋼板は圧延直角方向のB1が0.7T以上であり、圧延方向のB8が1.85T以下であった。さらに、表1の結果より、本発明に従う鋼板は張力改善効果が確実に現出していることがわかる。
【0048】
【表1】
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、圧延方向のB8が1.85T以下の方向性電磁鋼板においても、圧延方向への張力を付加することで鉄損改善を図ることが出来る。また、この発明の方向性電磁鋼板を得るには、一般的な方向性電磁鋼板の作製に必要不可欠な素材中のインヒビタ成分を含有せず、加えて高温が必要な純化焼鈍を意図的に行わない方法が有利に適用されるので、結果として省エネルギー化・低コスト化・高生産性が得られるという大きな利点も有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】EI型コアの形状を示す図である。
【図2】ランセット磁区の磁区構造を示す模式図である。
【図3】無張力条件下の方向性電磁鋼板表面の磁気構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】純化工程の有り無しにおける張力付加時の鉄損低減効果を示す図である。
【図5】各補助磁区量における張力付加時の鉄損低減効果を示す図である。
Claims (2)
- 圧延直角方向での磁束密度B1が0.7T以上、かつ圧延方向での磁束密度B8が1.85T以下である、圧延方向の張力付加により鉄損の改善が見られることを特徴とする方向性電磁鋼板。
- 無張力条件下の鋼板表面において、20〜300個/mm2の補助磁区を有する粒の面積率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
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