JP2004225114A - 高速超塑性成形用Al−Mg系アルミニウム合金板 - Google Patents
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Abstract
【課題】高速超塑性成形後の強度が高く、しかも高速超塑性成形性にも優れた、Al−Mg 系アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【解決手段】高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板を、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理後の0.2%耐力が150MPa以上であるものとすることである。
【選択図】 なし
【解決手段】高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板を、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理後の0.2%耐力が150MPa以上であるものとすることである。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速超塑性成形後の強度が高いAl−Mg 系アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Al−Mg 系アルミニウム合金において、例えば、460 〜550 ℃の高温領域で高い伸びの特性を生じ、この高温領域での成形性に優れるような、高速超塑性成形用Al−Mg 系(AA 乃至JIS 規格でいう5000系) アルミニウム合金が従来から開発されている。
【0003】
これまで提案された高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金としては、Mgを3.0 〜8.0%程度必須に含むとともに、Be:0.0001 〜0.01% 程度と、Mn(0.3〜2.5%程度) 、Cr、V 、Zrの一種以上、Ti:0.001〜0.1 程度、などを必須に含み、Si、Feを各々0.2%以下程度に規制した、Al−Mg 系アルミニウム合金が提案されている (例えば、特許文献1〜5 参照)。
【0004】
【特許文献1】
特許第2640993 号公報
【特許文献2】
特開平6−240395号公報
【特許文献3】
特許第2844411 号公報
【特許文献4】
特許第2921820 号公報
【特許文献5】
特開平7−197177号公報
【0005】
これらの特許文献1〜5 において開示されているように、Mgは高速超塑性成形性を向上させる。Beは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止する。Mn、Cr、V 、Zrは、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。Si、Feは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となり、高速超塑性成形時の伸びを低下させるために規制する。
【0006】
また、同じくMgを3.0 〜8.0%程度必須に含むとともに、Ti:0.001〜0.1%程度、Cu:0.05 〜0.5%程度を必須に含み、Si、Feを同じく各々0.2%以下程度に規制した、Al−Mg 系アルミニウム合金が提案されている (例えば、特許文献6 〜8 参照)。
【0007】
【特許文献6】
特公平4−63140号公報
【特許文献7】
特許第3145904 号公報
【特許文献8】
特開平10−259441 号公報
【0008】
これらの特許文献6 〜8 において開示されているように、Tiは結晶粒を微細化し、高速超塑性成形能を向上させる。Cuは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止する。
【0009】
したがって、従来から、この種高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金において、高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止するために、BeかCuを用い、高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となるSi、Feを規制することが公知である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来のAl−Mg 系アルミニウム合金は、460 〜550 ℃の高温領域で、歪み速度が10−2〜100/s に達するような高速超塑性成形性は確かに優れる。しかし、この高速超塑性成形後の強度、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理される板であれば、塗装焼き付け硬化処理した後の強度、がいずれも低い。
【0011】
上記高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金に関する各特許文献は、高速超塑性成形での成形性は主要な課題にしているものの、この高速超塑性成形後の低強度については明確な課題としていない。
【0012】
この種高速超塑性成形は自動車の車体パネルの成形に用いられることが多い。自動車の車体パネルでは、これらAl−Mg 系アルミニウム合金板を、上記高温、高歪み速度条件で高速超塑性成形し、フード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどの、アウタパネル (外板) やインナパネル (内板) 等のパネルとして製作して用いる。
【0013】
周知の通り、自動車の車体は、組み立て後、塗装され、塗布された塗料の焼き付け硬化処理が行なわれる。この塗装焼き付け硬化処理は、例えば、160 ℃×20分などの低温短時間の条件から、180 ℃×60分の高温長時間の条件までなど、種々の条件がある。これら塗装焼き付け硬化処理は、アルミニウム合金にとっては、人工時効硬化処理となり、時効硬化型合金のAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金などでは、塗装焼き付け硬化処理後の強度が著しく向上する。
【0014】
しかし、高速超塑性成形用のAl−Mg 系アルミニウム合金は、上記6000系のような時効硬化型合金ではなく、その時効硬化能は小さい。このため、Al−Mg 系アルミニウム合金の高速超塑性成形後の強度が元々低ければ、その後の上記種々の条件の塗装焼き付け硬化処理 (人工時効硬化処理) によっても、強度の実質的な上昇は見込めない。
【0015】
このため、必然的に、高速超塑性成形後のAl−Mg 系アルミニウム合金車体パネルでは必要な強度が不足し、特に、アウタパネルではデント性が低下したり、インナパネルでもアウタパネルの補強効果が低下する事態が起こりうる。したがって、この強度不足を補うためには、どうしても、パネルに用いるAl−Mg 系アルミニウム合金板の板厚を厚くする必要が生じる。この結果、鋼板に代わる材料として、車体パネル用アルミニウム合金板に求められる、薄肉、軽量でかつ高強度である利点が大きく損なわれ、Al−Mg 系アルミニウム合金板採用の意義が失われる可能性も生じる。
【0016】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特に車体パネル用途として、高速超塑性成形後の強度が高く、しかも高速超塑性成形性にも優れた、Al−Mg 系アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板の要旨は、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理後の0.2%耐力が150MPa以上であることである。
【0018】
本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板のように、特にMnとCuとの両者を特定量含有させる化学成分組成とすることで、460 〜550 ℃の高温領域での高速超塑性成形であっても、この成形後の強度が、車体アウタパネルとして最低限必要な、0.2%耐力で150MPa以上を確保することが可能となる。
【0019】
このような高速超塑性成形後およびその後の塗装焼き付け硬化処理後の強度は、実際に、高速超塑性成形およびその後の塗装焼き付け硬化処理などを行なわずとも評価できる。即ち、上記組成を有するアルミニウム合金板を、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する、高速超塑性成形を模擬した熱処理の後、板を常温で引張試験した際の0.2%耐力によって評価できる。また、実際の自動車などのパネルを想定し、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理されることを模擬する場合には、上記熱処理の後、更に、実際に自動車パネルなどに適用される種々の塗装焼き付け硬化処理条件に対応した条件( 温度×時間) を選択して人工時効硬化処理した後 (ベークハード後) の0.2%耐力によって評価できる。そして、後述する通り、耐デント性など、高速超塑性成形された車体アウタパネルなどとして必要な強度を得るためには、上記条件での処理後の板の0.2%耐力が150MPa以上であることが必要である。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板の基本組成は、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、必要により更にCrを0.05〜0.5%含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるものとする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
【0021】
上記合金元素以外の、Zr、B 、Zn、Ni、V など、その他の元素は、基本的には不純物元素であり、含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。しかし、リサイクルや経済性の観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、5000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれる可能性が高い。したがって、本発明では、目的とする本発明アルミニウム合金板の特性乃至効果を阻害しない範囲で、これら他の元素が含有されることを許容する。
【0022】
各合金元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
【0023】
Mg:3.5〜7.0 %
Mgは、高速超塑性成形時に動的再結晶を促進し、超塑性成形性を向上させる。また、高速超塑性成形成形後の強度を向上させ、塗装焼き付け硬化処理などの人工時効処理後の、車体アウタパネルとして必要な150MPa以上の0.2%耐力などの、強度を保証するためにも、必須の元素である。Mgの3.5%未満の含有では、Mgの絶対量が不足するため、超塑性成形性が低下する。また、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な、0.2%耐力で150MPa以上に確保させることができない。一方、Mgが7.0%を越えて含有されると、熱間圧延や冷間圧延などの圧延性が低下し、板の製造が困難となる。したがって、Mgの含有量は3.5 〜7.0%の範囲とする。
【0024】
Mn:0.1% を越え1.0%以下
Mnは、超塑性特性を向上させる。具体的には、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。また、重要には、母相に固溶することにより、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な0.2%耐力で150MPa以上に確保させる。この点、Mn含有量が0.1%以下では、これらの効果が無い。一方、Mn含有量が1.0%を越えて多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、高速超塑性成形を却って低下させる原因となる。また、車体アウタパネルとしてのフラットヘムなどの曲げ加工性が低下する。このため、Mnは0.1%を越え1.0%以下の範囲とする。
【0025】
Cu:0.1〜0.5%
Cuは、高速超塑性成形時のAl−Mg 系アルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止し、超塑性伸びを向上させる。また、重要には、Mnとともに含有されることで、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な、0.2%耐力で150MPa以上に確保させる。この点、Cu含有量が0.1%以下では、これらの効果が無い。一方、Cu含有量が0.5%を越えて多くなった場合、車体パネルなどの用途での塗装後の耐蝕性、溶接性を劣化させる。また、熱間圧延や冷間圧延などの圧延性が低下する。このため、Cuは0.1 〜0.5%の範囲とする。
【0026】
Ti:0.001〜0.1%
Ti は、鋳塊の結晶粒を微細化し、高速超塑性成形性を向上させる効果がある。Ti:0.001% 未満ではこの効果が無く、0.1%を越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、却って、高速超塑性成形性を低下させる。したがって、Tiは0.001 〜0.1%の範囲とする。また、B にもTiと同様の効果があるが、300ppmを越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、却って、高速超塑性成形性を低下させる。したがって、B:300ppm以下までの含有は許容する。
【0027】
Cr:0.05 〜0.5%
Cr は、Mnと同様、超塑性特性を向上させる効果があり、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。Cr含有量が0.05% 未満では、これらの効果が無い。一方、Cr含有量が0.5%を越えて多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、高速超塑性成形を却って低下させる原因となる。したがって、Crは選択的に含有させ、含有させる場合には、0.05〜0.5%の範囲とする。、
【0028】
Si、Fe: 各々0.2%以下
Si、Feは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となり、高速超塑性成形時の伸びを著しく低下させる。また、Si、Feは溶解の際にAl−Mg 系アルミニウム合金スクラップを使用した場合、必然的に含有される。したがって、Si、Feは各々0.2%以下のできるだけ少ない含有量に規制する。
【0029】
以下に、本発明におけるAl−Mg 系アルミニウム合金板の製造方法につき説明する。本発明における製造方法は基本的に常法により製造可能である。先ず、溶解、鋳造工程は、本発明成分規格範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。次いで、このアルミニウム合金鋳塊に均質化熱処理を施す。
【0030】
均質化熱処理後の前記した熱間圧延を経て、必要により中間焼鈍が施された後に、Al合金板は冷間圧延され、所望の板厚とされる。パネルによって、3.0mm 以上の厚板が必要な場合には、冷間圧延を省略して、アルミニウム合金板を熱間圧延上がりとしても良い。
【0031】
これら熱間圧延板、冷間圧延板は、最終焼鈍などの調質処理を必要により施されるか、または調質処理無しで、高速超塑性成形され、車体パネルとされる。
【0032】
本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱延 (熱間圧延上がり) 板、冷延 (冷間圧延上がり) 板などの未調質処理 (熱処理) の板や、あるいは、これらの板を焼鈍などの調質処理を施した後の板のことを言う。そして、本発明で言う板とは高速超塑性成形前の、板、コイル、切り板、などの適宜の形状状態を含む。
【0033】
また、本発明で言う高速超塑性成形とは、460 〜550 ℃の高温領域で、歪み速度が10−2〜100/s に達する条件での、板をパネルに成形するための任意のプレス成形方法、金型成形方法を含みうる。更に、車体パネルの用途や形状に応じて、高速超塑性成形前に、あるいは高速超塑性成形後に、冷間でプレス成形されたり、アウタパネルとしてのフラットヘムなどのヘミング加工や、曲げ加工、トリミング等の加工を適宜付加される場合を含む。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示すA 〜F の本発明範囲内のAl−Mg 系アルミニウム合金と、G 〜J の本発明範囲外のAl−Mg 系アルミニウム合金とのアルミニウム合金鋳塊をDC鋳造法にて溶製し、以下の同じ条件で板を製造した。即ち、面削後に470mmtの厚みとして、昇温速度40°/hにて加熱して490 ℃×4 時間の均質化熱処理後、熱間圧延し、4.5 mmt の熱延板とした。この熱延板を400 ℃×3 時間中間焼鈍した後、冷間圧延して、1.0mmtの冷延板とした。そして、この冷延板を520 ℃×20秒最終焼鈍し、供試板とした。
【0035】
これら供試板から各例とも試験片を採取し、板の圧延(L) 方向の平均結晶粒径を測定した。結果は、各発明例、比較例とも平均結晶粒径は50μm 以下であった。この平均結晶粒径の測定は、アルミニウム合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、200 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとした。
【0036】
上記供試板から、各例とも各々複数の試験片を採取し、高速超塑性成形を評価するために、高温特性を供試板の高温引張試験により評価した。高温特性の内の高温伸びの測定のための高温引張試験は、温度500 ℃と540 ℃との2 点で行なった。この各温度とも、昇温速度:100℃/ 分、歪み速度:10 −1/s、評点間距離:15mm 、試験片形状はJIS 5 号試験片、の条件で行った。また、試験片が破断するまで一定の上記歪み速度で行った。そして、各供試板の圧延方向に対し平行方向の伸び (δ、%)を測定した。
【0037】
また、高温特性の内のキャビティ面積率の測定は、上記温度500 ℃で高温引張試験を行なった後の試験片について行い、高温引張試験後の板厚が1/2 に減じた箇所の試験片組織を、200 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、圧延方向に対し平行方向のキャビティ面積率を、4 視野の平均値で測定した。これらの結果も表2 に示す。
【0038】
更に、上記各試験片の高速超塑性成形後の強度を評価した。このため、高速超塑性成形を模擬して、上記供試板から、各例とも各々複数の試験片を採取し、試験片を、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理の後の試験片の0.2%耐力 (σ0.2 、MPa)を測定した。更に、実際の自動車パネルを想定し、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理されることを模擬して、180 ℃×30分の人工時効硬化処理した後 (ベークハード後) の試験片の0.2%耐力 (σ0.2 、MPa)を測定した。
【0039】
そして、この試験片の耐デント性を更に評価した。耐デント性試験は、この試験片の中央部に対し、先端のR が50mmΦの球頭ポンチにて、245MPaの荷重を加えた際の、荷重点の凹み量を測定することにより行なった。そして、凹み量が0.3mm 未満のものを〇、凹み量が0.3mm 以上のものを×として評価した。これらの結果も表2 に示す。
【0040】
表1 、2 から明らかな通り、本発明組成範囲内である表1 のA 〜F の本発明範囲内のAl−Mg 系アルミニウム合金を用いた発明例1 〜6 は、高温伸び (δ、%)が、比較例7 〜10に比して、同等か高く、また、キャビティ面積率も小さい。したがって、比較例7 〜10に比して、高速超塑性成形性が同等か優れている。
【0041】
そして、このような発明例1 〜6 は、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力が150MPa以上であり、比較例7 〜10に比して、耐デント性にも著しく優れている。
【0042】
これら、発明例1 〜6 の結果は、比較例7 〜10の結果とも合わせて、高速超塑性成形およびその後の塗装焼き付け硬化処理される自動車車体アウタパネルなどに好適であることを示している。
【0043】
なお、発明例1 〜6 の内でも、Si、Feの含有量が比較的多い合金C を用いた発明例3 は、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力は150MPa以上であるものの、Si、Feの含有量が比較的低い他の発明例に比して、高温伸び (δ、%)が低く、また、キャビティ面積率も大きい。したがって、他の発明例に比して、高速超塑性成形性が劣る。この結果から、Si、Feが多めに外れた合金G を用いた比較例7 の、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力は150MPa以上であるものの、高温伸び (δ、%)が著しく低くく、キャビティ面積率も著しく大きい結果と合わせて、Si、Feを0.2%以下に規制する意義が裏付けられる。
【0044】
発明例1 〜6 の内でも、Mgの含有量が比較的低い合金F を用いた発明例6 は、Mgの含有量が比較的高い他の発明例1 、2 に比して、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に低い。この結果から、Mgの含有量が低めに外れた合金H を用いた比較例8 の高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に150MPa未満と著しく低くい結果と合わせて、強度に対するMgの寄与と数値範囲の意義を裏付けられる。
【0045】
発明例1 〜6 の内でも、MnかCuの含有量のいずれかが比較的低い合金D 、E を用いた発明例4 、5 は、MnとCuの含有量が比較的他の発明例1 、2 に比して、前記高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に低い。この結果から、MnかCuの含有量のいずれかが低めに外れた合金I 、J を用いた比較例9 、10の前記高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に150MPa未満と著しく低い結果と合わせて、MnとCuとを同時に含有させることの意義が、各含有量の意義とともに裏付けられる。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、車体パネル用途として、高速超塑性成形後の強度が高く、しかも高速超塑性成形性にも優れた、Al−Mg 系アルミニウム合金板を提供することができる。しかも、このAl−Mg 系アルミニウム合金板を従来の板製造工程を変更せずに製造することができる。したがって、5000系アルミニウム合金板の高速超塑性成形および車体パネル用途への拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速超塑性成形後の強度が高いAl−Mg 系アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Al−Mg 系アルミニウム合金において、例えば、460 〜550 ℃の高温領域で高い伸びの特性を生じ、この高温領域での成形性に優れるような、高速超塑性成形用Al−Mg 系(AA 乃至JIS 規格でいう5000系) アルミニウム合金が従来から開発されている。
【0003】
これまで提案された高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金としては、Mgを3.0 〜8.0%程度必須に含むとともに、Be:0.0001 〜0.01% 程度と、Mn(0.3〜2.5%程度) 、Cr、V 、Zrの一種以上、Ti:0.001〜0.1 程度、などを必須に含み、Si、Feを各々0.2%以下程度に規制した、Al−Mg 系アルミニウム合金が提案されている (例えば、特許文献1〜5 参照)。
【0004】
【特許文献1】
特許第2640993 号公報
【特許文献2】
特開平6−240395号公報
【特許文献3】
特許第2844411 号公報
【特許文献4】
特許第2921820 号公報
【特許文献5】
特開平7−197177号公報
【0005】
これらの特許文献1〜5 において開示されているように、Mgは高速超塑性成形性を向上させる。Beは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止する。Mn、Cr、V 、Zrは、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。Si、Feは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となり、高速超塑性成形時の伸びを低下させるために規制する。
【0006】
また、同じくMgを3.0 〜8.0%程度必須に含むとともに、Ti:0.001〜0.1%程度、Cu:0.05 〜0.5%程度を必須に含み、Si、Feを同じく各々0.2%以下程度に規制した、Al−Mg 系アルミニウム合金が提案されている (例えば、特許文献6 〜8 参照)。
【0007】
【特許文献6】
特公平4−63140号公報
【特許文献7】
特許第3145904 号公報
【特許文献8】
特開平10−259441 号公報
【0008】
これらの特許文献6 〜8 において開示されているように、Tiは結晶粒を微細化し、高速超塑性成形能を向上させる。Cuは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止する。
【0009】
したがって、従来から、この種高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金において、高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止するために、BeかCuを用い、高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となるSi、Feを規制することが公知である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来のAl−Mg 系アルミニウム合金は、460 〜550 ℃の高温領域で、歪み速度が10−2〜100/s に達するような高速超塑性成形性は確かに優れる。しかし、この高速超塑性成形後の強度、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理される板であれば、塗装焼き付け硬化処理した後の強度、がいずれも低い。
【0011】
上記高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金に関する各特許文献は、高速超塑性成形での成形性は主要な課題にしているものの、この高速超塑性成形後の低強度については明確な課題としていない。
【0012】
この種高速超塑性成形は自動車の車体パネルの成形に用いられることが多い。自動車の車体パネルでは、これらAl−Mg 系アルミニウム合金板を、上記高温、高歪み速度条件で高速超塑性成形し、フード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどの、アウタパネル (外板) やインナパネル (内板) 等のパネルとして製作して用いる。
【0013】
周知の通り、自動車の車体は、組み立て後、塗装され、塗布された塗料の焼き付け硬化処理が行なわれる。この塗装焼き付け硬化処理は、例えば、160 ℃×20分などの低温短時間の条件から、180 ℃×60分の高温長時間の条件までなど、種々の条件がある。これら塗装焼き付け硬化処理は、アルミニウム合金にとっては、人工時効硬化処理となり、時効硬化型合金のAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金などでは、塗装焼き付け硬化処理後の強度が著しく向上する。
【0014】
しかし、高速超塑性成形用のAl−Mg 系アルミニウム合金は、上記6000系のような時効硬化型合金ではなく、その時効硬化能は小さい。このため、Al−Mg 系アルミニウム合金の高速超塑性成形後の強度が元々低ければ、その後の上記種々の条件の塗装焼き付け硬化処理 (人工時効硬化処理) によっても、強度の実質的な上昇は見込めない。
【0015】
このため、必然的に、高速超塑性成形後のAl−Mg 系アルミニウム合金車体パネルでは必要な強度が不足し、特に、アウタパネルではデント性が低下したり、インナパネルでもアウタパネルの補強効果が低下する事態が起こりうる。したがって、この強度不足を補うためには、どうしても、パネルに用いるAl−Mg 系アルミニウム合金板の板厚を厚くする必要が生じる。この結果、鋼板に代わる材料として、車体パネル用アルミニウム合金板に求められる、薄肉、軽量でかつ高強度である利点が大きく損なわれ、Al−Mg 系アルミニウム合金板採用の意義が失われる可能性も生じる。
【0016】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特に車体パネル用途として、高速超塑性成形後の強度が高く、しかも高速超塑性成形性にも優れた、Al−Mg 系アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板の要旨は、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理後の0.2%耐力が150MPa以上であることである。
【0018】
本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板のように、特にMnとCuとの両者を特定量含有させる化学成分組成とすることで、460 〜550 ℃の高温領域での高速超塑性成形であっても、この成形後の強度が、車体アウタパネルとして最低限必要な、0.2%耐力で150MPa以上を確保することが可能となる。
【0019】
このような高速超塑性成形後およびその後の塗装焼き付け硬化処理後の強度は、実際に、高速超塑性成形およびその後の塗装焼き付け硬化処理などを行なわずとも評価できる。即ち、上記組成を有するアルミニウム合金板を、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する、高速超塑性成形を模擬した熱処理の後、板を常温で引張試験した際の0.2%耐力によって評価できる。また、実際の自動車などのパネルを想定し、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理されることを模擬する場合には、上記熱処理の後、更に、実際に自動車パネルなどに適用される種々の塗装焼き付け硬化処理条件に対応した条件( 温度×時間) を選択して人工時効硬化処理した後 (ベークハード後) の0.2%耐力によって評価できる。そして、後述する通り、耐デント性など、高速超塑性成形された車体アウタパネルなどとして必要な強度を得るためには、上記条件での処理後の板の0.2%耐力が150MPa以上であることが必要である。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。本発明Al−Mg 系アルミニウム合金板の基本組成は、Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、必要により更にCrを0.05〜0.5%含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなるものとする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、前記請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
【0021】
上記合金元素以外の、Zr、B 、Zn、Ni、V など、その他の元素は、基本的には不純物元素であり、含有量をできるだけ少なくすることが好ましい。しかし、リサイクルや経済性の観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、5000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれる可能性が高い。したがって、本発明では、目的とする本発明アルミニウム合金板の特性乃至効果を阻害しない範囲で、これら他の元素が含有されることを許容する。
【0022】
各合金元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
【0023】
Mg:3.5〜7.0 %
Mgは、高速超塑性成形時に動的再結晶を促進し、超塑性成形性を向上させる。また、高速超塑性成形成形後の強度を向上させ、塗装焼き付け硬化処理などの人工時効処理後の、車体アウタパネルとして必要な150MPa以上の0.2%耐力などの、強度を保証するためにも、必須の元素である。Mgの3.5%未満の含有では、Mgの絶対量が不足するため、超塑性成形性が低下する。また、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な、0.2%耐力で150MPa以上に確保させることができない。一方、Mgが7.0%を越えて含有されると、熱間圧延や冷間圧延などの圧延性が低下し、板の製造が困難となる。したがって、Mgの含有量は3.5 〜7.0%の範囲とする。
【0024】
Mn:0.1% を越え1.0%以下
Mnは、超塑性特性を向上させる。具体的には、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。また、重要には、母相に固溶することにより、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な0.2%耐力で150MPa以上に確保させる。この点、Mn含有量が0.1%以下では、これらの効果が無い。一方、Mn含有量が1.0%を越えて多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、高速超塑性成形を却って低下させる原因となる。また、車体アウタパネルとしてのフラットヘムなどの曲げ加工性が低下する。このため、Mnは0.1%を越え1.0%以下の範囲とする。
【0025】
Cu:0.1〜0.5%
Cuは、高速超塑性成形時のAl−Mg 系アルミニウム合金板のキャビテーション (空孔) 発生を防止し、超塑性伸びを向上させる。また、重要には、Mnとともに含有されることで、高速超塑性成形後の強度を、車体アウタパネルなどとして必要な、0.2%耐力で150MPa以上に確保させる。この点、Cu含有量が0.1%以下では、これらの効果が無い。一方、Cu含有量が0.5%を越えて多くなった場合、車体パネルなどの用途での塗装後の耐蝕性、溶接性を劣化させる。また、熱間圧延や冷間圧延などの圧延性が低下する。このため、Cuは0.1 〜0.5%の範囲とする。
【0026】
Ti:0.001〜0.1%
Ti は、鋳塊の結晶粒を微細化し、高速超塑性成形性を向上させる効果がある。Ti:0.001% 未満ではこの効果が無く、0.1%を越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、却って、高速超塑性成形性を低下させる。したがって、Tiは0.001 〜0.1%の範囲とする。また、B にもTiと同様の効果があるが、300ppmを越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、却って、高速超塑性成形性を低下させる。したがって、B:300ppm以下までの含有は許容する。
【0027】
Cr:0.05 〜0.5%
Cr は、Mnと同様、超塑性特性を向上させる効果があり、高速超塑性成形のための昇温過程で生じる再結晶粒を微細化し、高速超塑性成形時の結晶粒の粗大化を防止する。Cr含有量が0.05% 未満では、これらの効果が無い。一方、Cr含有量が0.5%を越えて多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり易いため、高速超塑性成形を却って低下させる原因となる。したがって、Crは選択的に含有させ、含有させる場合には、0.05〜0.5%の範囲とする。、
【0028】
Si、Fe: 各々0.2%以下
Si、Feは高速超塑性成形時のアルミニウム合金板のキャビテーションの原因となり、高速超塑性成形時の伸びを著しく低下させる。また、Si、Feは溶解の際にAl−Mg 系アルミニウム合金スクラップを使用した場合、必然的に含有される。したがって、Si、Feは各々0.2%以下のできるだけ少ない含有量に規制する。
【0029】
以下に、本発明におけるAl−Mg 系アルミニウム合金板の製造方法につき説明する。本発明における製造方法は基本的に常法により製造可能である。先ず、溶解、鋳造工程は、本発明成分規格範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。次いで、このアルミニウム合金鋳塊に均質化熱処理を施す。
【0030】
均質化熱処理後の前記した熱間圧延を経て、必要により中間焼鈍が施された後に、Al合金板は冷間圧延され、所望の板厚とされる。パネルによって、3.0mm 以上の厚板が必要な場合には、冷間圧延を省略して、アルミニウム合金板を熱間圧延上がりとしても良い。
【0031】
これら熱間圧延板、冷間圧延板は、最終焼鈍などの調質処理を必要により施されるか、または調質処理無しで、高速超塑性成形され、車体パネルとされる。
【0032】
本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱延 (熱間圧延上がり) 板、冷延 (冷間圧延上がり) 板などの未調質処理 (熱処理) の板や、あるいは、これらの板を焼鈍などの調質処理を施した後の板のことを言う。そして、本発明で言う板とは高速超塑性成形前の、板、コイル、切り板、などの適宜の形状状態を含む。
【0033】
また、本発明で言う高速超塑性成形とは、460 〜550 ℃の高温領域で、歪み速度が10−2〜100/s に達する条件での、板をパネルに成形するための任意のプレス成形方法、金型成形方法を含みうる。更に、車体パネルの用途や形状に応じて、高速超塑性成形前に、あるいは高速超塑性成形後に、冷間でプレス成形されたり、アウタパネルとしてのフラットヘムなどのヘミング加工や、曲げ加工、トリミング等の加工を適宜付加される場合を含む。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示すA 〜F の本発明範囲内のAl−Mg 系アルミニウム合金と、G 〜J の本発明範囲外のAl−Mg 系アルミニウム合金とのアルミニウム合金鋳塊をDC鋳造法にて溶製し、以下の同じ条件で板を製造した。即ち、面削後に470mmtの厚みとして、昇温速度40°/hにて加熱して490 ℃×4 時間の均質化熱処理後、熱間圧延し、4.5 mmt の熱延板とした。この熱延板を400 ℃×3 時間中間焼鈍した後、冷間圧延して、1.0mmtの冷延板とした。そして、この冷延板を520 ℃×20秒最終焼鈍し、供試板とした。
【0035】
これら供試板から各例とも試験片を採取し、板の圧延(L) 方向の平均結晶粒径を測定した。結果は、各発明例、比較例とも平均結晶粒径は50μm 以下であった。この平均結晶粒径の測定は、アルミニウム合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、200 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとした。
【0036】
上記供試板から、各例とも各々複数の試験片を採取し、高速超塑性成形を評価するために、高温特性を供試板の高温引張試験により評価した。高温特性の内の高温伸びの測定のための高温引張試験は、温度500 ℃と540 ℃との2 点で行なった。この各温度とも、昇温速度:100℃/ 分、歪み速度:10 −1/s、評点間距離:15mm 、試験片形状はJIS 5 号試験片、の条件で行った。また、試験片が破断するまで一定の上記歪み速度で行った。そして、各供試板の圧延方向に対し平行方向の伸び (δ、%)を測定した。
【0037】
また、高温特性の内のキャビティ面積率の測定は、上記温度500 ℃で高温引張試験を行なった後の試験片について行い、高温引張試験後の板厚が1/2 に減じた箇所の試験片組織を、200 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、圧延方向に対し平行方向のキャビティ面積率を、4 視野の平均値で測定した。これらの結果も表2 に示す。
【0038】
更に、上記各試験片の高速超塑性成形後の強度を評価した。このため、高速超塑性成形を模擬して、上記供試板から、各例とも各々複数の試験片を採取し、試験片を、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理の後の試験片の0.2%耐力 (σ0.2 、MPa)を測定した。更に、実際の自動車パネルを想定し、高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理されることを模擬して、180 ℃×30分の人工時効硬化処理した後 (ベークハード後) の試験片の0.2%耐力 (σ0.2 、MPa)を測定した。
【0039】
そして、この試験片の耐デント性を更に評価した。耐デント性試験は、この試験片の中央部に対し、先端のR が50mmΦの球頭ポンチにて、245MPaの荷重を加えた際の、荷重点の凹み量を測定することにより行なった。そして、凹み量が0.3mm 未満のものを〇、凹み量が0.3mm 以上のものを×として評価した。これらの結果も表2 に示す。
【0040】
表1 、2 から明らかな通り、本発明組成範囲内である表1 のA 〜F の本発明範囲内のAl−Mg 系アルミニウム合金を用いた発明例1 〜6 は、高温伸び (δ、%)が、比較例7 〜10に比して、同等か高く、また、キャビティ面積率も小さい。したがって、比較例7 〜10に比して、高速超塑性成形性が同等か優れている。
【0041】
そして、このような発明例1 〜6 は、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力が150MPa以上であり、比較例7 〜10に比して、耐デント性にも著しく優れている。
【0042】
これら、発明例1 〜6 の結果は、比較例7 〜10の結果とも合わせて、高速超塑性成形およびその後の塗装焼き付け硬化処理される自動車車体アウタパネルなどに好適であることを示している。
【0043】
なお、発明例1 〜6 の内でも、Si、Feの含有量が比較的多い合金C を用いた発明例3 は、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力は150MPa以上であるものの、Si、Feの含有量が比較的低い他の発明例に比して、高温伸び (δ、%)が低く、また、キャビティ面積率も大きい。したがって、他の発明例に比して、高速超塑性成形性が劣る。この結果から、Si、Feが多めに外れた合金G を用いた比較例7 の、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の強度である0.2%耐力は150MPa以上であるものの、高温伸び (δ、%)が著しく低くく、キャビティ面積率も著しく大きい結果と合わせて、Si、Feを0.2%以下に規制する意義が裏付けられる。
【0044】
発明例1 〜6 の内でも、Mgの含有量が比較的低い合金F を用いた発明例6 は、Mgの含有量が比較的高い他の発明例1 、2 に比して、高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に低い。この結果から、Mgの含有量が低めに外れた合金H を用いた比較例8 の高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に150MPa未満と著しく低くい結果と合わせて、強度に対するMgの寄与と数値範囲の意義を裏付けられる。
【0045】
発明例1 〜6 の内でも、MnかCuの含有量のいずれかが比較的低い合金D 、E を用いた発明例4 、5 は、MnとCuの含有量が比較的他の発明例1 、2 に比して、前記高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に低い。この結果から、MnかCuの含有量のいずれかが低めに外れた合金I 、J を用いた比較例9 、10の前記高速超塑性成形を模擬した高温熱処理後の0.2%耐力も、その後のベークハード後の0.2%耐力も共に150MPa未満と著しく低い結果と合わせて、MnとCuとを同時に含有させることの意義が、各含有量の意義とともに裏付けられる。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、車体パネル用途として、高速超塑性成形後の強度が高く、しかも高速超塑性成形性にも優れた、Al−Mg 系アルミニウム合金板を提供することができる。しかも、このAl−Mg 系アルミニウム合金板を従来の板製造工程を変更せずに製造することができる。したがって、5000系アルミニウム合金板の高速超塑性成形および車体パネル用途への拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。
Claims (4)
- Mg:3.5〜7.0%、Mn:0.1% を越え1.0%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%を含み、かつSi、Feを各々0.2%以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、500 ℃で3 分間保持して室温まで放冷する熱処理後の0.2%耐力が150MPa以上であることを特徴とする高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板。
- 更にCrを0.05〜0.5%含む請求項1に記載の高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が高速超塑性成形後に塗装焼き付け硬化処理されるものである請求項1または2に記載の高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板の用途が自動車パネルである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高速超塑性成形用Al−Mg 系アルミニウム合金板。
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WO2007080938A1 (ja) | 2006-01-12 | 2007-07-19 | Furukawa-Sky Aluminum Corp. | 高温高速成形用アルミニウム合金材及びその製造方法、並びにアルミニウム合金成形品の製造方法 |
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2003
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US8500926B2 (en) | 2006-01-12 | 2013-08-06 | Furukawa-Sky Aluminum Corp | Aluminum alloy material for high-temperature/high-speed molding, method of producing the same, and method of producing a molded article of an aluminum alloy |
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