JP2004217738A - 押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物および押出成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】押出成形に適し、耐衝撃性および剛性が物性バランス良く優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物、およびその押出成形品を提供する。
【解決手段】ゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物でありかつ、(イ)該樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)からなる単量体組成から製造されたものであり、(ロ)前記アセトン可溶性樹脂成分の還元粘度が0.30〜2.00dl/gであり、(ハ)リン系化合物(II)を含有し溶融粘度が10000Pa・s以上である押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【解決手段】ゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物でありかつ、(イ)該樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)からなる単量体組成から製造されたものであり、(ロ)前記アセトン可溶性樹脂成分の還元粘度が0.30〜2.00dl/gであり、(ハ)リン系化合物(II)を含有し溶融粘度が10000Pa・s以上である押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、押出成形性、耐衝撃性及び剛性が物性バランスよく優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物および押出成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジエン系ゴム等のゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル;メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニルなどのビニル系単量体をグラフト共重合して得られるゴム質含有グラフト共重合体を用いたゴム強化スチレン系透明熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、成形性、外観等に優れているので、OA機器、家電製品、一般雑貨等の種々の用途に幅広く利用されている。
【0003】
近年、従来塩化ビニル樹脂が主に使用されてきた建材、雑貨等の用途で脱塩化ビニルの動きが活発化してきている。建材、雑貨用途では異形押出成形やシート成形をはじめとする押出による成形も多く行われている。これらゴム強化スチレン系透明熱可塑性樹脂の優れた透明性、色調を保持したまま十分な押出成形性を付与することは実現できていなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、アセトン可溶分の重量平均分子量を10万〜30万とし、アセトン不溶部と可溶部との屈折率差を0.02未満とすることにより透明性を有する押出成形用ゴム強化スチレン系樹脂組成物が記載されており、特許文献2および3には、押出成形性に優れたABS樹脂組成物が提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−128848号公報(請求項1)
【0006】
【特許文献2】
特開2001−329139号公報(請求項1,2)
【0007】
【特許文献3】
特開2002−60582号公報(請求項1,5)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物は、色調、成形性および物性バランスの面で課題が残っている。また、特許文献2,3に記載の組成物はいずれも高透明性樹脂組成物ではなく、特許文献2,3を高透明性樹脂組成物とするには、色調および耐衝撃性と剛性の物性バランスが未だ不十分なものであった。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、押出成形に適し、色調、耐衝撃性および剛性の物性バランス良く優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物、およびその押出成形品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような目的の達成について鋭意検討した結果、特定のリン系化合物を含有したゴム強化スチレン系透明樹脂が特定の溶融粘度を満たすことにより押出成形性、色調および耐衝撃性と剛性との物性バランスなどが優れた押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明をなすに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、ゴム質重合体により強化されたゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物でありかつ、
(イ)該樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成から製造されたものであり、
(ロ)前記アセトン可溶性樹脂成分のメチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであり、
(ハ)前記ゴム強化スチレン系共重合体(I)100重量部に対し、下記式1に記載のリン系化合物(II)を0.01〜3重量部含有する押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物であって、
(ニ)(アセトン可溶性樹脂成分のガラス転移温度+100℃)の測定温度条件下でかつ6.1s−1の剪断速度条件下で測定した溶融粘度が10000Pa・s以上である
押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物であり、かかる樹脂組成物から製造された押出し成形品である。
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R1,R2は炭素原子数1〜25のアルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を示す。)
【0014】
【発明の実施の形態】
以下本発明を具体的に説明する。
本発明にいうゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物は、ゴム質重合体により耐衝撃性が付与されたスチレン系共重合体を含有する樹脂組成物であり、なかでも、ゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体;及び、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物の共重合体を用いることが好ましい。
【0015】
特に、ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)10〜95重量部、および、ゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部からなるゴム強化スチレン系透明樹脂(I)が好ましく、ここで、ビニル系単量体混合物(a)及びビニル系単量体混合物(c)は、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成を有し、かつ、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)を実質的に含有しない単量体混合物であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、この押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成から製造されたものである。
【0017】
アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%であることは、樹脂組成物の、透明性、色調、耐衝撃性などをバランス良く優れたものとするために必要である。
【0018】
アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成における芳香族ビニル系単量体(a1)の含有量は、その単量体組成全体に対して5〜70重量%である。5重量%未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物が耐衝撃性に劣り、また70重量%を越えると透明性に劣る。透明性、耐衝撃性の点から好ましくは9〜50重量%、特に好ましくは14〜35重量%である。
【0019】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の量は、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して30〜95重量%である。30重量%未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の透明性に劣り、95重量%を越えると耐衝撃性に劣る。耐衝撃性、透明性性の点から好ましくは35〜90重量%、特に好ましくは40〜85重量%である。
【0020】
シアン化ビニル系単量体(a3)の存在は必須でないが、その量は、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して0〜50重量%である。50重量%を越えると樹脂組成物の色調が悪化する。色調および耐衝撃性の点から好ましくは0.1〜45重量%、特に好ましくは1〜40重量%である。
【0021】
本発明のアセトン可溶性樹脂成分には、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)3、シアン化ビニル系単量体(a3)の他に、これらと共重合可能な他の単量体(a4)を、必須ではないが、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して0〜50重量%存在させることができる。
【0022】
本発明のアセトン可溶性樹脂成分の組成は、FT−IRチャートに現れる下記ピークにより定量して求めればよい。
・芳香族ビニル系単量体(a1): ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
・不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2): エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピーク、
・シアン化ビニル系単量体(a3): −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0023】
アセトン可溶性樹脂成分は、主として、ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)に由来する樹脂成分からなるが、ゴム質含有グラフト共重合体(B)中においてビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分に由来する樹脂成分も一部含まれる。従って、アセトン可溶性樹脂成分の組成を上記した所定範囲内に制御するためには、その主成分をなす前記共重合体(A)の組成を上記した所定範囲内に制御することが有効であり、さらに、ビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分の組成も上記した所定範囲内に制御することが好ましい。
【0024】
また、本発明では、アセトン可溶分のメチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであることが必要である。0.30dl/g未満だと、押出成形時にドローダウンしてしまい、2.00dl/gを越えると、押出成形品にブツが発生し、外観が劣る。好ましくは0.32〜1.8dl/g、より好ましくは0.33〜1.50dl/gである。
【0025】
本発明の樹脂組成物中のアセトン可溶性樹脂成分を構成する単量体組成において、また、共重合体(A)や、ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト成分(b)を構成する好ましい単量体組成において用いられる、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)、シアン化ビニル系単量体(a3)、及び、これらと共重合可能な他の単量体(a4)の具体例としては、それぞれ、次のとおりの化合物で挙げられる。
【0026】
芳香族ビニル系単量体(a1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
シアン化ビニル系単量体(a3)としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
また、これらと共重合可能な他の単量体(a4)としては、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、アクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
共重合体(A)の重合原料となるビニル系単量体混合物(a)の組成は特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成が好ましく、耐衝撃性の点から、より好ましくは芳香族ビニル系単量体(a1)9〜50重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)35〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0.1〜45重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成であり、最も好ましくは、芳香族ビニル系単量体(a1)14〜35重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)40〜85重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)1〜40重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成である。
【0031】
ビニル系単量体混合物(a)は、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、ゴム強化スチレン系透明樹脂組成物におけるアセトン可溶性樹脂成分の酸価を所望水準とするため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、これら酸性単量体を意図的に単量体混合物として添加しないことであり、たとえば単量体混合物(a)に対し0.01%以上の添加は意図的な添加とみなすことができる。なお、単量体混合物(a)の各単量体中の不純物に由来する不飽和カルボン酸、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)中に不純物として含有される0.01%未満の不飽和カルボン酸は、意図的な添加したものではない。不飽和カルボン酸系単量体(a5)としては、アクリル酸、メタクリル酸等が例示される。
【0032】
本発明におけるゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)としては特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが例示され、具体的には、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレンージエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)、ポリ(エチレン−アクリル酸エチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでもポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴムが耐衝撃性改善効果の点から特に好ましく用いられる。
【0033】
このゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は、得られるゴム強化スチレン系樹脂組成物(I)の耐衝撃性、成形加工性、流動性、外観の点から0.1〜1.5μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.15〜1.2μmである。
【0034】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト成分の重合原料となるビニル系単量体混合物(c)の組成は特に制限は無いが、得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の透明性および耐衝撃性と剛性との物性バランスの点から、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%を含有してなることが好ましい。このビニル系単量体混合物(c)を構成する単量体組成は、共重合体(A)を構成するビニル系単量体混合物(a)と同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
また、このビニル系単量体混合物(c)にも、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、ゴム強化スチレン系透明樹脂組成物におけるアセトン可溶性樹脂成分の酸価を所望水準とするため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様である。
【0036】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)の極限粘度は特に制限はないが、0.05〜1.2dl/gが耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましく、さらには0.1〜0.7dl/gがより好ましい。
【0037】
このゴム質含有グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体(b)の存在下に、ビニル系単量体混合物(c)をグラフト重合してなるものであるが、ビニル系単量体混合物(c)全量がグラフトしている必要はなく、通常はグラフトしていない共重合体との混合物として得られたものを使用する。この混合物は本来は組成物であるが、本発明においては便宜上まとめて、ゴム質含有グラフト共重合体(B)という。ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率に制限はないが、耐衝撃性の点から好ましくは5〜150重量%、より好ましくは10〜100重量%のものが使用される。
【0038】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体(b)の割合は、得られる樹脂組成物の機械的強度および成形性の観点から好ましくは5〜80重量部であり、より好ましくは20〜70重量部である。
【0039】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)製造時のグラフト重合の方法としては制限ないが、公知の乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、連続溶液重合法等の任意の方法により製造でき、好ましくは乳化重合法または塊状重合法で製造される。なかでも、過度の熱履歴によるゴム成分の劣化および着色を抑制するため、また、共重合体(A)との溶融混練工程における不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の加水分解を制御するために、ゴム質含有グラフト共重合体(B)中の乳化剤含有量、水分量を調整しやすいという点から、乳化重合法で製造されることが最も好ましい。
【0040】
また、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は、上記式1で示されるリン系化合物(II)を0.01〜3重量部含有することが必要である。上記式1で示されるリン系化合物(II)としては、ビス−n−オクチルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ノニルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−デシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ウンデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ドデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイト等のアルキル基有するもの、ジフェニルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(エチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のフェニル基を有するものが挙げられる。特に、色調の面でビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイトが好ましい。また、その添加量については、0.01〜3重量部が必要である。0.01重量部未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の色調が著しく劣り、3重量部を越えると透明性が著しく劣る。好ましくは0.05〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0041】
さらに、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物ではアセトン可溶性樹脂成分とアセトン不溶性樹脂成分の屈折率差が0.03未満であることが好ましい。0.03未満であると透明性に優れる。より好ましくは0.025未満、さらに好ましくは0.02未満である。
【0042】
本発明の押出成形用透明樹脂組成物は、溶融粘度がアセトン可溶性樹脂成分のガラス転移温度+100℃、剪断速度が6.1s−1である時に10000Pa・s以上であることが必要である。剪断速度6.1s−1である時の溶融粘度が10000Pa・s未満だと押出成形時にドローダウンをしてしまい、良好な押出成形品が得られない。また、溶融粘度が10000Pa・sとなる温度がアセトン可溶分のガラス転移温度+100℃未満だと金型の転写性が著しく劣り、成形品の表面外観が著しく劣る。
【0043】
押出成形用透明樹脂組成物を溶融粘度がアセトン可溶分のガラス転移温度+100℃、剪断速度が6.1s−1である時に10000Pa・s以上とする方法としては、樹脂の高粘度化、高ゴム化、超高分子量樹脂などの添加剤を添加するなどの方法が用いられる。特に、透明性の面で樹脂の高粘度化、高ゴム化を用いることが好ましい。
【0044】
また、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物ではフェノール系安定剤(III)、上記リン系化合物(II)以外のリン系安定剤(IV)および硫黄系安定剤(V)から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有することが好ましい。これら安定剤を含有することで色調および熱安定性がさらに改良される。これら安定剤としては一般に市販されているものを使用できる。添加量としては特に制限はないが、0.01〜2重量部が好ましい。0.01重量部未満ではその効果は小さく、2重量部を越えると透明性が著しく低下する。
【0045】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は220℃、98N荷重でのMFR(メルトフローレート)が10g/10min以下であることが好ましい。10g/10minを越えると押出成形時に樹脂のドローダウンが著しく、良好な成形品が得られない。
【0046】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することもできる。また、必要に応じて、含硫黄有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系等の光安定剤等の各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、帯電防止剤、、酸化チタン、その他顔料および染料等を添加することもできる。更に、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0047】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては、バンバリーミキサー、ロールおよび単軸または多軸押出機で溶融混練するなど種々の方法を採用することができる。
【0048】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は、異形押出成形、シーティング成形等の押出成形に用いられ、陳列棚板、レールなどの押出成形品を得ることができる。
【0049】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例および比較例を挙げて説明するが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、ここで特に断りのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を意味する。実施例中で用いた特性および物性の測定方法を以下に示す。
【0050】
(1)ゴム質重合体の重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484−490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法、即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求た。
【0051】
(2)ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率
80℃で4時間真空乾燥を行ったゴム質含有グラフト共重合体(B)の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を80℃で4時間真空乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここでLはグラフト共重合体のゴム含有量である。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100。
【0052】
(3)アセトン可溶性樹脂成分の還元粘度ηsp/c
測定サンプルをメチルエチルケトンに溶解し、0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃で還元粘度ηsp/cを測定した。
【0053】
(4)アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成
樹脂組成物のサンプル1gにアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物を80℃で4時間真空乾燥したもの(アセトン可溶性樹脂成分)を用いて220℃に設定した加熱プレスで作成した厚み30±5μmのフィルムを作成した。このフィルムを試料としてFT−IRで分析して得られたチャートに現れた各ピークの面積から単量体組成を求めた。各単量体とピークとの対応関係は次の通りである。
メタクリル酸メチル単量体単位: エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピークの倍音ピークである3460cm−1のピーク、
メタクリル酸単量体単位: カルボン酸のカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1690cm−1のピーク、
スチレン単量体単位: ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
アクリロニトリル単量体単位: −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0054】
(5)屈折率
熱可塑性樹脂組成物1gに対し、アセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。濾液を、ロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。各々60℃で5時間減圧乾燥し、フィルム状としたものを測定サンプルとして、この測定サンプルに1−ブロモナフタレンを少量滴下し、アッベ屈折計を用いて、以下の条件で屈折率を測定した。
光源 : ナトリウムランプD線
測定温度: 20℃。
【0055】
(6)樹脂組成物のアイゾット衝撃強度
ASTM D256(23℃,Vノッチ付き)により測定した。
【0056】
(7)樹脂組成物の引張強度
ASTM 638に準拠して測定した。
【0057】
(8)溶融粘度が10000Pa・s以上となる温度
東洋精機社製キャピラリーレオメータを用いて、10℃ずつ温度を変え、10000Pa・sを越える温度を求めた。キャピラリーはL/D=20を用いた。
【0058】
(9)ガラス転移温度
パーキンエルマー社製示差型熱量計を用いて測定した。
【0059】
(10)押出成形性
(a)成形性
田辺製作所社製40φmm異形押出機を用いて、20mm幅のテープを上記で求めた溶融粘度が10000Pa・s以上となる温度で押し出し、口金より200mmの場所に支点を置き、その際のたわみ量を測定した。
(b)金型転写性
得られたテープの成形品表面を目視で観察し、○:転写性の良いもの、△:若干ムラのあるもの、×:スリ傷等の発生したものとし、評価した。
【0060】
(11)色調
2.5mm厚の射出成形品を用い、大日精化社製カラーコンピューターを用いてX、Y、Z値を測定し、下式よりYI値を計算した。
YI値=100×(1.28X−1.06Z)/Y。
【0061】
(12)透明性評価方法(ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、2.5mm厚角板のヘイズ値[%]を測定した。ヘイズ値が低いほど透明性に優れた樹脂である。
【0062】
(参考例1)ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)の製造
(1)ビニル系共重合体(A−1)の製造
容量が20リットルで、バッフル及びファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、特公昭45−24151号公報実施例1の方法で製造したアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に下記混合物質を反応系を攪拌しながら添加し、60℃に昇温して重合を開始した。
メタクリル酸メチル 70部
スチレン 25部
アクリロニトリル 5部
t−ドデシルメルカプタン 0.05部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4部
脱イオン水 150部。
【0063】
すなわち、15分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、50分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、ビニル系共重合体(A−1)を得た。このビニル系共重合体(A−1)の還元粘度ηsp/cは0.33dl/gであった。
【0064】
(2)ビニル系共重合体(A−2)の製造
t−ドデシルメルカプタンの添加量を0.2部に変更した以外、ビニル系共重合体(A−1)と同様の方法でビニル系共重合体(A−2)を得た。このビニル系共重合体(A−1)の還元粘度ηsp/cは0.66dl/gであった。
【0065】
(3)ビニル系共重合体(A−3)の製造
メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリルのモノマー組成を下記の通り変更した以外、A−2と同様の方法でビニル系共重合体(A−3)を得た。このビニル系共重合体(A−3)の還元粘度ηsp/cは0.68dl/gであった。
メタクリル酸メチル 20部
スチレン 75部
アクリロニトリル 5部。
【0066】
(参考例2)ゴム質含有グラフト共重合体(B)の製造
(1)グラフト共重合体(B−1)の製造
ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水180部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄0.01部およびリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃に温調し、撹拌下、スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部およびn−ドデシルメルカプタン0.3部の混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるオレイン酸ナトリウム2.5部および純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して重合を終了させた。
【0067】
重合を終了して得られたラテックス状生成物を、硫酸1.0部を加えた95℃の水2000部中に、撹拌しながら注いで凝固させ、次いで水酸化ナトリウム0.8部で中和して凝固スラリーを得た。これを遠心分離した後、40℃の水2000部中で5分間洗浄し遠心分離し、60℃の熱風乾燥機中で12時間乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(B−1)を調製した。得られたグラフト共重合体(B−1)のグラフト特性、グラフト成分の屈折率は表2に示すとおりであった。
【0068】
(2)グラフト共重合体(B−2)の製造
ビニル系単量体混合物およびポリブタジエンラテックスを表1に示す組成に変更して用いた以外はグラフト共重合体(B−1)と同様の方法で重合・凝固・中和・洗浄・乾燥・分離して、表1に示すグラフト共重合体(B−2)を調製した。得られたグラフト共重合体(B−2)のグラフト特性、グラフト成分の屈折率は表4に示したとおりであった。
【0069】
実施例1〜11、比較例1〜4
参考例1,2で調製したゴム強化熱可塑性樹脂(I)、以下のリン系化合物(II)、フェノール系安定剤(III)、その他リン系安定剤(IV)および硫黄系安定剤(V)を表2に示した配合比で混合し、ベント付き30mmφ2軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を使用し、溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状の樹脂組成物成形体を製造した。
【0070】
リン系化合物(II)
リン系化合物(II−1):ビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP24G)
リン系化合物(II−2):ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP36)
リン系化合物(II−3):ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP8)。
【0071】
フェノール系安定剤(III)
フェノール系安定剤(III−1):旭電化工業社製AO50F
フェノール系安定剤(III−2):吉富製薬社製”ヨシノックス”425。
【0072】
その他リン系安定剤(IV):トリス(2,4−t−ブチルフェニル)フォスファイト(旭電化工業社製2112)。
硫黄系安定剤(IV):吉富製薬社製DMTP。
【0073】
次いで射出成形機(住友重機社製、プロマット40/25)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3および表4に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
実施例1〜10の本発明のゴム強化スチレン系透明樹脂組成物は、押出成形性、透明性、色調、耐衝撃性及び剛性において物性バランスが良く、優れたものであった。しかし、比較例1、2で得られた樹脂組成物は、溶融粘度が本発明で特定した範囲外であったため、押出成形性が劣る。比較例3〜7はリン系化合物(II)が本発明で特定した範囲外であるため、色調が大きく劣る。また、比較例8は屈折率が本発明で特定した範囲外であったため、透明性が劣る。
【0079】
【発明の効果】
本発明によると、押出成形性、透明性、色調、耐衝撃性および剛性が物性バランス良く優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物とすることができ、また、この樹脂組成物を用いることで良好な押出成形品が得られる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、押出成形性、耐衝撃性及び剛性が物性バランスよく優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物および押出成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジエン系ゴム等のゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル;メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニルなどのビニル系単量体をグラフト共重合して得られるゴム質含有グラフト共重合体を用いたゴム強化スチレン系透明熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、成形性、外観等に優れているので、OA機器、家電製品、一般雑貨等の種々の用途に幅広く利用されている。
【0003】
近年、従来塩化ビニル樹脂が主に使用されてきた建材、雑貨等の用途で脱塩化ビニルの動きが活発化してきている。建材、雑貨用途では異形押出成形やシート成形をはじめとする押出による成形も多く行われている。これらゴム強化スチレン系透明熱可塑性樹脂の優れた透明性、色調を保持したまま十分な押出成形性を付与することは実現できていなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、アセトン可溶分の重量平均分子量を10万〜30万とし、アセトン不溶部と可溶部との屈折率差を0.02未満とすることにより透明性を有する押出成形用ゴム強化スチレン系樹脂組成物が記載されており、特許文献2および3には、押出成形性に優れたABS樹脂組成物が提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−128848号公報(請求項1)
【0006】
【特許文献2】
特開2001−329139号公報(請求項1,2)
【0007】
【特許文献3】
特開2002−60582号公報(請求項1,5)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物は、色調、成形性および物性バランスの面で課題が残っている。また、特許文献2,3に記載の組成物はいずれも高透明性樹脂組成物ではなく、特許文献2,3を高透明性樹脂組成物とするには、色調および耐衝撃性と剛性の物性バランスが未だ不十分なものであった。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、押出成形に適し、色調、耐衝撃性および剛性の物性バランス良く優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物、およびその押出成形品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような目的の達成について鋭意検討した結果、特定のリン系化合物を含有したゴム強化スチレン系透明樹脂が特定の溶融粘度を満たすことにより押出成形性、色調および耐衝撃性と剛性との物性バランスなどが優れた押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明をなすに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、ゴム質重合体により強化されたゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物でありかつ、
(イ)該樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成から製造されたものであり、
(ロ)前記アセトン可溶性樹脂成分のメチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであり、
(ハ)前記ゴム強化スチレン系共重合体(I)100重量部に対し、下記式1に記載のリン系化合物(II)を0.01〜3重量部含有する押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物であって、
(ニ)(アセトン可溶性樹脂成分のガラス転移温度+100℃)の測定温度条件下でかつ6.1s−1の剪断速度条件下で測定した溶融粘度が10000Pa・s以上である
押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物であり、かかる樹脂組成物から製造された押出し成形品である。
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R1,R2は炭素原子数1〜25のアルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を示す。)
【0014】
【発明の実施の形態】
以下本発明を具体的に説明する。
本発明にいうゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物は、ゴム質重合体により耐衝撃性が付与されたスチレン系共重合体を含有する樹脂組成物であり、なかでも、ゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体;及び、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物の共重合体を用いることが好ましい。
【0015】
特に、ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)10〜95重量部、および、ゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部からなるゴム強化スチレン系透明樹脂(I)が好ましく、ここで、ビニル系単量体混合物(a)及びビニル系単量体混合物(c)は、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成を有し、かつ、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)を実質的に含有しない単量体混合物であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、この押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成から製造されたものである。
【0017】
アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%であることは、樹脂組成物の、透明性、色調、耐衝撃性などをバランス良く優れたものとするために必要である。
【0018】
アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成における芳香族ビニル系単量体(a1)の含有量は、その単量体組成全体に対して5〜70重量%である。5重量%未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物が耐衝撃性に劣り、また70重量%を越えると透明性に劣る。透明性、耐衝撃性の点から好ましくは9〜50重量%、特に好ましくは14〜35重量%である。
【0019】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の量は、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して30〜95重量%である。30重量%未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の透明性に劣り、95重量%を越えると耐衝撃性に劣る。耐衝撃性、透明性性の点から好ましくは35〜90重量%、特に好ましくは40〜85重量%である。
【0020】
シアン化ビニル系単量体(a3)の存在は必須でないが、その量は、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して0〜50重量%である。50重量%を越えると樹脂組成物の色調が悪化する。色調および耐衝撃性の点から好ましくは0.1〜45重量%、特に好ましくは1〜40重量%である。
【0021】
本発明のアセトン可溶性樹脂成分には、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)3、シアン化ビニル系単量体(a3)の他に、これらと共重合可能な他の単量体(a4)を、必須ではないが、アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成全体に対して0〜50重量%存在させることができる。
【0022】
本発明のアセトン可溶性樹脂成分の組成は、FT−IRチャートに現れる下記ピークにより定量して求めればよい。
・芳香族ビニル系単量体(a1): ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
・不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2): エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピーク、
・シアン化ビニル系単量体(a3): −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0023】
アセトン可溶性樹脂成分は、主として、ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)に由来する樹脂成分からなるが、ゴム質含有グラフト共重合体(B)中においてビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分に由来する樹脂成分も一部含まれる。従って、アセトン可溶性樹脂成分の組成を上記した所定範囲内に制御するためには、その主成分をなす前記共重合体(A)の組成を上記した所定範囲内に制御することが有効であり、さらに、ビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分の組成も上記した所定範囲内に制御することが好ましい。
【0024】
また、本発明では、アセトン可溶分のメチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであることが必要である。0.30dl/g未満だと、押出成形時にドローダウンしてしまい、2.00dl/gを越えると、押出成形品にブツが発生し、外観が劣る。好ましくは0.32〜1.8dl/g、より好ましくは0.33〜1.50dl/gである。
【0025】
本発明の樹脂組成物中のアセトン可溶性樹脂成分を構成する単量体組成において、また、共重合体(A)や、ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト成分(b)を構成する好ましい単量体組成において用いられる、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)、シアン化ビニル系単量体(a3)、及び、これらと共重合可能な他の単量体(a4)の具体例としては、それぞれ、次のとおりの化合物で挙げられる。
【0026】
芳香族ビニル系単量体(a1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
シアン化ビニル系単量体(a3)としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
また、これらと共重合可能な他の単量体(a4)としては、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、アクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
共重合体(A)の重合原料となるビニル系単量体混合物(a)の組成は特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成が好ましく、耐衝撃性の点から、より好ましくは芳香族ビニル系単量体(a1)9〜50重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)35〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0.1〜45重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成であり、最も好ましくは、芳香族ビニル系単量体(a1)14〜35重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)40〜85重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)1〜40重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成である。
【0031】
ビニル系単量体混合物(a)は、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、ゴム強化スチレン系透明樹脂組成物におけるアセトン可溶性樹脂成分の酸価を所望水準とするため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、これら酸性単量体を意図的に単量体混合物として添加しないことであり、たとえば単量体混合物(a)に対し0.01%以上の添加は意図的な添加とみなすことができる。なお、単量体混合物(a)の各単量体中の不純物に由来する不飽和カルボン酸、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)中に不純物として含有される0.01%未満の不飽和カルボン酸は、意図的な添加したものではない。不飽和カルボン酸系単量体(a5)としては、アクリル酸、メタクリル酸等が例示される。
【0032】
本発明におけるゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)としては特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが例示され、具体的には、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレンージエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)、ポリ(エチレン−アクリル酸エチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでもポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴムが耐衝撃性改善効果の点から特に好ましく用いられる。
【0033】
このゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は、得られるゴム強化スチレン系樹脂組成物(I)の耐衝撃性、成形加工性、流動性、外観の点から0.1〜1.5μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.15〜1.2μmである。
【0034】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト成分の重合原料となるビニル系単量体混合物(c)の組成は特に制限は無いが、得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の透明性および耐衝撃性と剛性との物性バランスの点から、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%を含有してなることが好ましい。このビニル系単量体混合物(c)を構成する単量体組成は、共重合体(A)を構成するビニル系単量体混合物(a)と同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
また、このビニル系単量体混合物(c)にも、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、ゴム強化スチレン系透明樹脂組成物におけるアセトン可溶性樹脂成分の酸価を所望水準とするため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様である。
【0036】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)の極限粘度は特に制限はないが、0.05〜1.2dl/gが耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましく、さらには0.1〜0.7dl/gがより好ましい。
【0037】
このゴム質含有グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体(b)の存在下に、ビニル系単量体混合物(c)をグラフト重合してなるものであるが、ビニル系単量体混合物(c)全量がグラフトしている必要はなく、通常はグラフトしていない共重合体との混合物として得られたものを使用する。この混合物は本来は組成物であるが、本発明においては便宜上まとめて、ゴム質含有グラフト共重合体(B)という。ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率に制限はないが、耐衝撃性の点から好ましくは5〜150重量%、より好ましくは10〜100重量%のものが使用される。
【0038】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)中のゴム質重合体(b)の割合は、得られる樹脂組成物の機械的強度および成形性の観点から好ましくは5〜80重量部であり、より好ましくは20〜70重量部である。
【0039】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)製造時のグラフト重合の方法としては制限ないが、公知の乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、連続溶液重合法等の任意の方法により製造でき、好ましくは乳化重合法または塊状重合法で製造される。なかでも、過度の熱履歴によるゴム成分の劣化および着色を抑制するため、また、共重合体(A)との溶融混練工程における不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の加水分解を制御するために、ゴム質含有グラフト共重合体(B)中の乳化剤含有量、水分量を調整しやすいという点から、乳化重合法で製造されることが最も好ましい。
【0040】
また、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は、上記式1で示されるリン系化合物(II)を0.01〜3重量部含有することが必要である。上記式1で示されるリン系化合物(II)としては、ビス−n−オクチルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ノニルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−デシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ウンデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−ドデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイト等のアルキル基有するもの、ジフェニルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(エチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のフェニル基を有するものが挙げられる。特に、色調の面でビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイトが好ましい。また、その添加量については、0.01〜3重量部が必要である。0.01重量部未満では得られる押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の色調が著しく劣り、3重量部を越えると透明性が著しく劣る。好ましくは0.05〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0041】
さらに、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物ではアセトン可溶性樹脂成分とアセトン不溶性樹脂成分の屈折率差が0.03未満であることが好ましい。0.03未満であると透明性に優れる。より好ましくは0.025未満、さらに好ましくは0.02未満である。
【0042】
本発明の押出成形用透明樹脂組成物は、溶融粘度がアセトン可溶性樹脂成分のガラス転移温度+100℃、剪断速度が6.1s−1である時に10000Pa・s以上であることが必要である。剪断速度6.1s−1である時の溶融粘度が10000Pa・s未満だと押出成形時にドローダウンをしてしまい、良好な押出成形品が得られない。また、溶融粘度が10000Pa・sとなる温度がアセトン可溶分のガラス転移温度+100℃未満だと金型の転写性が著しく劣り、成形品の表面外観が著しく劣る。
【0043】
押出成形用透明樹脂組成物を溶融粘度がアセトン可溶分のガラス転移温度+100℃、剪断速度が6.1s−1である時に10000Pa・s以上とする方法としては、樹脂の高粘度化、高ゴム化、超高分子量樹脂などの添加剤を添加するなどの方法が用いられる。特に、透明性の面で樹脂の高粘度化、高ゴム化を用いることが好ましい。
【0044】
また、本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物ではフェノール系安定剤(III)、上記リン系化合物(II)以外のリン系安定剤(IV)および硫黄系安定剤(V)から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有することが好ましい。これら安定剤を含有することで色調および熱安定性がさらに改良される。これら安定剤としては一般に市販されているものを使用できる。添加量としては特に制限はないが、0.01〜2重量部が好ましい。0.01重量部未満ではその効果は小さく、2重量部を越えると透明性が著しく低下する。
【0045】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は220℃、98N荷重でのMFR(メルトフローレート)が10g/10min以下であることが好ましい。10g/10minを越えると押出成形時に樹脂のドローダウンが著しく、良好な成形品が得られない。
【0046】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することもできる。また、必要に応じて、含硫黄有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系等の光安定剤等の各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、帯電防止剤、、酸化チタン、その他顔料および染料等を添加することもできる。更に、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0047】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては、バンバリーミキサー、ロールおよび単軸または多軸押出機で溶融混練するなど種々の方法を採用することができる。
【0048】
本発明の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物は、異形押出成形、シーティング成形等の押出成形に用いられ、陳列棚板、レールなどの押出成形品を得ることができる。
【0049】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例および比較例を挙げて説明するが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、ここで特に断りのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を意味する。実施例中で用いた特性および物性の測定方法を以下に示す。
【0050】
(1)ゴム質重合体の重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484−490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法、即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求た。
【0051】
(2)ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率
80℃で4時間真空乾燥を行ったゴム質含有グラフト共重合体(B)の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を80℃で4時間真空乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここでLはグラフト共重合体のゴム含有量である。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100。
【0052】
(3)アセトン可溶性樹脂成分の還元粘度ηsp/c
測定サンプルをメチルエチルケトンに溶解し、0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃で還元粘度ηsp/cを測定した。
【0053】
(4)アセトン可溶性樹脂成分の単量体組成
樹脂組成物のサンプル1gにアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物を80℃で4時間真空乾燥したもの(アセトン可溶性樹脂成分)を用いて220℃に設定した加熱プレスで作成した厚み30±5μmのフィルムを作成した。このフィルムを試料としてFT−IRで分析して得られたチャートに現れた各ピークの面積から単量体組成を求めた。各単量体とピークとの対応関係は次の通りである。
メタクリル酸メチル単量体単位: エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピークの倍音ピークである3460cm−1のピーク、
メタクリル酸単量体単位: カルボン酸のカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1690cm−1のピーク、
スチレン単量体単位: ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
アクリロニトリル単量体単位: −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0054】
(5)屈折率
熱可塑性樹脂組成物1gに対し、アセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。濾液を、ロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。各々60℃で5時間減圧乾燥し、フィルム状としたものを測定サンプルとして、この測定サンプルに1−ブロモナフタレンを少量滴下し、アッベ屈折計を用いて、以下の条件で屈折率を測定した。
光源 : ナトリウムランプD線
測定温度: 20℃。
【0055】
(6)樹脂組成物のアイゾット衝撃強度
ASTM D256(23℃,Vノッチ付き)により測定した。
【0056】
(7)樹脂組成物の引張強度
ASTM 638に準拠して測定した。
【0057】
(8)溶融粘度が10000Pa・s以上となる温度
東洋精機社製キャピラリーレオメータを用いて、10℃ずつ温度を変え、10000Pa・sを越える温度を求めた。キャピラリーはL/D=20を用いた。
【0058】
(9)ガラス転移温度
パーキンエルマー社製示差型熱量計を用いて測定した。
【0059】
(10)押出成形性
(a)成形性
田辺製作所社製40φmm異形押出機を用いて、20mm幅のテープを上記で求めた溶融粘度が10000Pa・s以上となる温度で押し出し、口金より200mmの場所に支点を置き、その際のたわみ量を測定した。
(b)金型転写性
得られたテープの成形品表面を目視で観察し、○:転写性の良いもの、△:若干ムラのあるもの、×:スリ傷等の発生したものとし、評価した。
【0060】
(11)色調
2.5mm厚の射出成形品を用い、大日精化社製カラーコンピューターを用いてX、Y、Z値を測定し、下式よりYI値を計算した。
YI値=100×(1.28X−1.06Z)/Y。
【0061】
(12)透明性評価方法(ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、2.5mm厚角板のヘイズ値[%]を測定した。ヘイズ値が低いほど透明性に優れた樹脂である。
【0062】
(参考例1)ビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)の製造
(1)ビニル系共重合体(A−1)の製造
容量が20リットルで、バッフル及びファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、特公昭45−24151号公報実施例1の方法で製造したアクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に下記混合物質を反応系を攪拌しながら添加し、60℃に昇温して重合を開始した。
メタクリル酸メチル 70部
スチレン 25部
アクリロニトリル 5部
t−ドデシルメルカプタン 0.05部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4部
脱イオン水 150部。
【0063】
すなわち、15分かけて反応温度を65℃まで昇温した後、50分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、ビニル系共重合体(A−1)を得た。このビニル系共重合体(A−1)の還元粘度ηsp/cは0.33dl/gであった。
【0064】
(2)ビニル系共重合体(A−2)の製造
t−ドデシルメルカプタンの添加量を0.2部に変更した以外、ビニル系共重合体(A−1)と同様の方法でビニル系共重合体(A−2)を得た。このビニル系共重合体(A−1)の還元粘度ηsp/cは0.66dl/gであった。
【0065】
(3)ビニル系共重合体(A−3)の製造
メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリルのモノマー組成を下記の通り変更した以外、A−2と同様の方法でビニル系共重合体(A−3)を得た。このビニル系共重合体(A−3)の還元粘度ηsp/cは0.68dl/gであった。
メタクリル酸メチル 20部
スチレン 75部
アクリロニトリル 5部。
【0066】
(参考例2)ゴム質含有グラフト共重合体(B)の製造
(1)グラフト共重合体(B−1)の製造
ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水180部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄0.01部およびリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃に温調し、撹拌下、スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部およびn−ドデシルメルカプタン0.3部の混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるオレイン酸ナトリウム2.5部および純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して重合を終了させた。
【0067】
重合を終了して得られたラテックス状生成物を、硫酸1.0部を加えた95℃の水2000部中に、撹拌しながら注いで凝固させ、次いで水酸化ナトリウム0.8部で中和して凝固スラリーを得た。これを遠心分離した後、40℃の水2000部中で5分間洗浄し遠心分離し、60℃の熱風乾燥機中で12時間乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(B−1)を調製した。得られたグラフト共重合体(B−1)のグラフト特性、グラフト成分の屈折率は表2に示すとおりであった。
【0068】
(2)グラフト共重合体(B−2)の製造
ビニル系単量体混合物およびポリブタジエンラテックスを表1に示す組成に変更して用いた以外はグラフト共重合体(B−1)と同様の方法で重合・凝固・中和・洗浄・乾燥・分離して、表1に示すグラフト共重合体(B−2)を調製した。得られたグラフト共重合体(B−2)のグラフト特性、グラフト成分の屈折率は表4に示したとおりであった。
【0069】
実施例1〜11、比較例1〜4
参考例1,2で調製したゴム強化熱可塑性樹脂(I)、以下のリン系化合物(II)、フェノール系安定剤(III)、その他リン系安定剤(IV)および硫黄系安定剤(V)を表2に示した配合比で混合し、ベント付き30mmφ2軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を使用し、溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状の樹脂組成物成形体を製造した。
【0070】
リン系化合物(II)
リン系化合物(II−1):ビス(2,4−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP24G)
リン系化合物(II−2):ビス(2,6−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP36)
リン系化合物(II−3):ビス−n−オクタデシルペンタエリスリトールジフォスファイト(旭電化工業社製 PEP8)。
【0071】
フェノール系安定剤(III)
フェノール系安定剤(III−1):旭電化工業社製AO50F
フェノール系安定剤(III−2):吉富製薬社製”ヨシノックス”425。
【0072】
その他リン系安定剤(IV):トリス(2,4−t−ブチルフェニル)フォスファイト(旭電化工業社製2112)。
硫黄系安定剤(IV):吉富製薬社製DMTP。
【0073】
次いで射出成形機(住友重機社製、プロマット40/25)により、射出圧を下限圧+1MPaでそれぞれの試験片を成形し、物性を測定した。結果を表3および表4に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
実施例1〜10の本発明のゴム強化スチレン系透明樹脂組成物は、押出成形性、透明性、色調、耐衝撃性及び剛性において物性バランスが良く、優れたものであった。しかし、比較例1、2で得られた樹脂組成物は、溶融粘度が本発明で特定した範囲外であったため、押出成形性が劣る。比較例3〜7はリン系化合物(II)が本発明で特定した範囲外であるため、色調が大きく劣る。また、比較例8は屈折率が本発明で特定した範囲外であったため、透明性が劣る。
【0079】
【発明の効果】
本発明によると、押出成形性、透明性、色調、耐衝撃性および剛性が物性バランス良く優れている押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物とすることができ、また、この樹脂組成物を用いることで良好な押出成形品が得られる。
Claims (7)
- ゴム質重合体により強化されたゴム強化スチレン系共重合体(I)を含有する樹脂組成物でありかつ、
(イ)該樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶性樹脂成分が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成から製造されたものであり、
(ロ)前記アセトン可溶性樹脂成分のメチエチルケトン中での還元粘度が0.30〜2.00dl/gであり、
(ハ)前記ゴム強化スチレン系共重合体(I)100重量部に対し、下記式1に記載のリン系化合物(II)を0.01〜3重量部含有する押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物であって、
(ニ)(アセトン可溶性樹脂成分のガラス転移温度+100℃)の測定温度条件下でかつ6.1s−1の剪断速度条件下で測定した溶融粘度が10000Pa・s以上である
押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- さらに、フェノール系安定剤(III)、上記リン系化合物(II)以外のリン系安定剤(IV)および硫黄系安定剤(V)から選ばれる少なくとも1種の安定剤を含有する請求項1記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- ゴム強化スチレン系共重合体(I)がビニル系単量体混合物(a)を共重合してなる共重合体(A)10〜95重量部、および、ゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部からなる請求項1又は2記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- ゴム強化スチレン系共重合体(I)の原料となるビニル系単量体混合物(a)及びビニル系単量体混合物(c)が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜70重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜95重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)0〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなる単量体組成を有し、かつ、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)を実質的に含有しない単量体混合物である請求項3記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- ISO−1133に準拠し、220℃、98N荷重で測定したMFRが10g/10min以下である請求項1〜4のいずれかに記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- アセトン可溶性樹脂成分とアセトン不溶性樹脂成分の屈折率差が0.03未満である請求項1〜5のいずれかに記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の押出成形用透明熱可塑性樹脂組成物から製造された押出成形品。
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