JP2004214251A - 磁気抵抗効果素子、及びそれを備える磁気ヘッド並びに磁気記録再生装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】固定層101と、前記固定層101の一主面側に形成された自由層103と、前記固定層101と前記自由層103との間に形成された中間層102と、前記固定層101あるいは前記自由層103の少なくとも一方の他主面側に形成されたハーフメタルを含む挿入層201とを含むことにより、透過する電子のスピンが分極し、これに接する磁性層に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、該磁性層のスピン分極がその磁性層本来の分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備える。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッド及び磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録再生装置においては、記録密度の向上が著しく年率100%近いスピードの向上が要求されている。この磁気記録再生装置が備える磁気記録再生ヘッドにおいても、記録、再生の両特性に関し、高性能化が要求されている。
【0003】
磁気再生ヘッドに関しては、(1)高感度化技術の向上、(2)トラック幅の狭小化技術向上、(3)再生ギャップ間隔の狭小化技術の向上という3点の技術課題を満足させることが要求されている。
【0004】
(1)については、1―10(Gb/in2)の記録密度では、異方性磁気抵抗効果(AMR)、10〜30(Gb/in2)の高記録密度になると、より高感度の得られる巨大磁気抵抗効果(GMR)、20〜70(Gb/in2)記録密度の候補としては、電子の反射率の高い(鏡面反射)絶縁性酸化物層等をGMR構造の界面に挟み、電子のスピンの多重反射効果により出力の増大をねらったスペキュラーGMRや、NOL−GMRと呼ばれるアドバンスGMR効果によって、この高記録密度に対応してきた。
【0005】
例えば特許文献1には、GMRを用いた磁気ヘッドとしてスピンバルブと呼ばれる構造が開示されている。この磁気ヘッドは、反強磁性層によって磁化が特定の方向に固定された磁性体からなる固定層と、この固定層に積層した非磁性薄膜と、この非磁性薄膜を介して積層した磁性膜からなる自由層で構成されており、固定層と自由層の磁化の相対的な角度で電気抵抗が変化する磁気抵抗効果素子を備えている。さらに、特許文献2、特許文献3および特許文献4には、酸化物層を自由層側か固定層側の少なくとも片方に挿入し、酸化物の鏡面反射を利用して電子の多重反射を生じ、抵抗変化率を向上させるCIP−GMRにおけるMR向上構造が記載されている。また特許文献5では、自由層と中間層の間あるいは、中間層と固定層の間にハーフメタル層を介在させるCIP−GMR構造も示されている。
【0006】
現在、さらなる高感度化の進展により、より高感度な再生方式が必要とされている。70〜150(Gb/in2)では、MR比が非常に高いトンネル磁気抵抗効果(TMR)が、感度向上の面から有利である。そして、150(Gb/in2)を超える超高記録密度に対しては膜面に垂直な方向に検出電流を流す方式のGMR(CPP-GMR)等が主流になると考えられる。TMRは基本技術としては特許文献6にて公開されているほか、特許文献7等に公開されている。
【0007】
CIP-GMRの場合は、高線記録密度化に対応するためにシールド間距離を縮めたときの素子とシールド間との絶縁が問題となる。これに対し、CPP-GMRの場合、絶縁特性は重要な問題ではなく、静電圧電流による熱素子破壊や磁界による非線形化の影響も少ないと考えられる。CPP−GMRは多数報告されているが、代表的なものして特許文献8や、特許文献9に記述がある。
【0008】
【特許文献1】
特開平4-358310号公報
【特許文献2】
特開2000-137906号公報
【特許文献3】
特開2001-168414号公報
【特許文献4】
特開2001-230471号公報
【特許文献5】
特開2002-190630号公報
【特許文献6】
特開平03-154217号公報
【特許文献7】
特開平10-91925号公報
【特許文献8】
特表平11-509956号公報
【特許文献9】
特開平7-221363号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
将来の磁気再生素子の構造を考えた場合、電流を流す方向が膜厚方向であるCPP-GMR(Current-perpendicular to plane GMR)やTMR(トンネル磁気抵抗効果)等の高感度な磁気抵抗センサーが有力である。これら磁気抵抗センサーの基本的構造は、膜面に垂直なセンス電流を流す構造を利用した磁界センサーであることから、CPP方式にセンス電流を流す構造に移行するようになると考えられる。
【0010】
TMR素子は、絶縁体障壁を挟む一対の磁性体からなる素子で、これの膜厚方向にセンス電流を流す構造である。絶縁障壁層を介した電気伝導のため、抵抗が高く、再生ヘッドや磁界センサーにした場合には、さまざまなノイズが発生し、信号対雑音特性(S/N)が低下する。これの対策として、低抵抗化の研究が盛んである。現在最も一般に用いられているAl2O3を用いた障壁層では、低抵抗化を目指した薄膜化に伴う出力の低下が否めず、低抵抗化が進まない。新しい材料の探索は進んではいるが、素子面積が小さくなると、素子抵抗が素子面積に比例して大きくなるという大きな課題を克服する解は得られていないのが現状である。
【0011】
これに対し、CPP-GMRでは、センサー部分はGMR構造であり、薄膜の膜厚方向の伝導である。CIP−GMRと比べて電流パスが短いため、従来のGMR膜を適用した場合の抵抗は、0.25μm2の面積の素子について0.4〜2.0mΩ程度でR/Rは高々20%、ΔRは0.3〜1.2mΩである。このため、磁気再生素子に適用するのに必要な出力値である2Ω以上と比べて、ΔRが小さすぎるという特徴がある。
【0012】
さらに、従来のGMR膜では、CPP方向の抵抗変化率は数%程度である。素子を小さくすれば抵抗Rを高くし、ΔRを大きくできるが、現状0.1μm2程度の素子面積の作成が限界である。したがって、0.1〜1μm2程度の素子面積の試料では抵抗Rが小さすぎるので、出力はほとんど測定困難である。
【0013】
現状のCPP-GMRの課題は、以下の5点である。
(1)素子サイズを小さくするための作製プロセス
(2)素子の磁気抵抗変化率を高くするための材料選択と膜構造
(3)素子の電気抵抗を調整するための膜構造
(4)素子の安定性を高めるための材料選択と膜構造
(5)高感度化のための薄膜化、素子構造
(1)は、現在のホトリソグラフィーを用いたアライナーやステッパ―を用いた素子作製では、0.4×0.4μm2程度の素子が限界である。通常のGMR膜をCPP―GMRタイプの素子にする場合、この程度の大きさでは出力は測定限界程度にしかならない。この原因は、GMR膜が金属多層膜からなり、CPP−GMRでは伝導パスが数十nmの膜厚なので電気抵抗が低すぎることに起因する。
【0014】
したがって、CPP-GMRでは、さらに小さくして0.1×0.1μm2未満の素子を作製するか、適当な素子面積で適当な素子抵抗になるように材料構成に変更を加えることが必要とされる。素子を小さくする技術としては、原子間力顕微鏡の技術を応用したリソグラフ法や、電子線描画法等が考えられるが、0.1×0.1μm2未満の素子を作製することは困難な技術の一つである。
【0015】
(2)、(3)については、500Gb/in2以上の再生ヘッドを考えると、素子面積は小さくなることが考えられるため、ある程度小さい比抵抗を持った材料からなり、且つGMR出力が大きくなるような材料が求められている。このような材料として、ハーフメタルを磁性層に直接用いることを考えたが、さらに低抵抗化するには作製そのものが困難になるような特殊な材料を適合させるか、新しい構造が必要となった。
【0016】
従来のGMR膜は、Mn系金属化合物からなる反強磁性膜、主としてFe,Co,Niからなる上下磁性層膜、Cuからなる中間層膜および、Taなどの金属からなるキャップ層によりほとんどが構成されており,比抵抗が100μΩcm以下の低比抵抗の金属系材料からなる場合がほとんどである。
【0017】
(4)は本素子を再生ヘッドに用いる場合に、媒体との対向面に素子が露出する場合には防食特性を考慮する必要があり、また、露出しない場合には出力が有効に利用できる構造を提案する必要がある。また、自由層の磁化の挙動が一斉回転的になることがS/N向上に重要であるため、自由層の磁区制御技術が必要である。また、固定層の磁化を固定する反強磁性結合についても制御する必要がある。
【0018】
(5)は、トータルの膜がたとえばヘッドの分解能を考えたギャップ間隔に入りうるものを提示する必要がある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明に係る磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド及び磁気記録再生装置では、第1の磁性層(自由層)と、第2の磁性層(固定層)と、前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有する磁気抵抗効果素子を備えることを主な特徴とする。
【0020】
自由層及び/又は固定層に、ハーフメタルあるいはこれを含む材料の略1〜2nmの薄い膜を接触させ、これら積層膜の膜厚方向に電流を流すと、自由層あるいは固定層のなかをスピン偏極した電流が流れ、トータルのMRが向上する。
【0021】
これは、非常に薄いハーフメタル膜のため、膜の抵抗はさほど高くならず、また、ハーフメタル中の電流がスピン成分によってスピン散乱長が異なるため片側のスピンに偏極し、これが磁性層中に注入され、中間層に到達する。中間層のMRは従来の金属多層膜の組み合わせが最大効率のため有効にMRが発生し、MR値を高くすることができる。
【0022】
さらに、このようなハーフメタルを含む薄膜を、自由層、固定層の両端につけることによって偏極した電子の多重散乱効果を得ることができるためMRをさらに高めることが可能である。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用するのに好ましい磁気ヘッドについて、詳細に説明する。
【0024】
本発明を適用した磁気ヘッドに用いる磁気抵抗効果素子は、電流を膜厚方向に流すものであり、まずは図1に示されるような固定層101と、前記固定層101の一主面側に形成された自由層103と、前記固定層101と前記自由層1との間に形成された中間層102とを備える。そして、図2、図3、図4にそれぞれ示されるように、前記固定層101あるいは前記自由層103の少なくとも一方の層の他主面側にハーフメタルあるいはこれを含有する挿入層201が接した構造を備える、あるいは、前記固定層101あるいは前記自由層103の少なくとも一方の層の膜中にハーフメタルあるいはこれを含有する挿入層201が挟まれることを特徴とする磁気抵抗効果素子を備えるものである。
【0025】
この自由層103および固定層101は、Co1―xFex(X=0〜0.6)、または、Ni1―YFeY(Y=0〜0.3)からなり、中間層102はCu、Crなどを代表とする非磁性導電体材料(Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Ag、TiO、またはTiN)からなる。
【0026】
たとえば、Co0.9Fe0.1なる組成のCoFe膜の磁性膜とCu中間層からなるCoFe/Cu/CoFeの3層膜(CoFe厚さを何れも3nmとし、中間層膜厚を2.1nmとした。)は、一方のCoFe膜にNiFe薄膜と反強磁性膜MnIrを接したMnIr/NiFe/CoFe/Cu/CoFeなる構造で、スピンバルブと呼ばれる磁化回転挙動を示す。
【0027】
膜面内にセンス電流を流すCIP−GMRでは室温で20%程度のMR比を持ち、CPP−GMRとしても2%程度の高いMR比を示す。これは、このCoFe/Cu/CoFe三層膜の電気伝導システムが界面における高い分極率、インピーダンスのマッチングが良い(層間の抵抗変化が小さい)、空間における伝導電子の状態の連続性(スピン伝導効率が高い)といった点で非常に有効だからと考えられている。
【0028】
CPP−GMRでMR比が小さいのは、第1点として膜厚方向のセンス電流は界面を一度通過するだけなので、界面を電子が複数回通過する多重散乱効果の大きいCIP−GMRと比べて小さいMR比になること、第2点として素子抵抗に反強磁性膜の抵抗が加算的に重畳するためである。このMR比を大きくするためには、以下に示す3方法が、スピン電子伝導メカニズムとGMR発現のメカニズムの点から考えて、有効である。
(1)磁性層および界面におけるスピン分極を大きくする。
(2)中間層に流れ込む電子のスピン分極を高める。
(3)多重散乱、界面数増加など、スピン散乱を複数行う機構を導入する。
【0029】
ここで、ハーフメタルとは、その材料のもつ電子構造が、図5(a)のような特徴を持つものである。ここで、電子構造について簡単に説明する。なお、図5において、(a)はハーフメタル磁性体の電子密度状態を示し、(b)は非磁性金属の電子密度状態を示し、(c)は磁性金属の電子密度状態を示す。
【0030】
一般に、金属(非磁性)の電子構造は図5(b)ような形をとる。これらの図は、下から上へエネルギー順位の低い(安定)状態から高い状態になっていることを示し、図の横方向は中心をゼロとした電子密度を表すと考えられる。図の中心を境にした左右は、電子が2種類の電子スピンをもつことを区別するものである。なお、便宜的に、右側を上向きスピン(↑)、左側を下向きスピン(↓)と呼ぶこととする。
【0031】
図中EFと記された横線で示したところは、フェルミ面と呼ぶエネルギー準位で、このエネルギーをもつ電子が電気伝導の大半を担っている。金属は、フェルミ面のエネルギー準位に有限の電子密度があるため、これが自由電子として電気伝導する電子となる。ハーフメタルとは、図5(a)に示すようにフェルミ面における電子が、上下スピンのどちらか一方のスピンだけであるといわれる物質のことである。
【0032】
この電子スピンと磁性とは大きく関係している。磁性体の場合はフェルミ面から下側のバンド内にある電子の総数が、上向きスピンと下向きスピンとで大きく異なるという特徴がある。一方、ハーフメタルでは、フェルミ面におけるスピン数が理想的には100%片側スピンからなるという点が特徴である。
【0033】
よって、ハーフメタルであり,かつ、強磁性体である場合もある。これを、ハーフメタル磁性体というが、多くのハーフメタルは磁性体であることからここではハーフメタルと呼ぶことにする。ここで、このスピンの偏りを分極率Pという。分極率Pは、フェルミ面における上向きスピン電子数をn↑、下向きスピン電子数をn↓として下記式1であらわされる。
【0034】
【式1】P=100×(n↑−n↓)/(n↑+n↓)
ハーフメタルに電子を流すと、ハーフメタルのフェルミ面における電子スピンの向きと同じスピン成分の電子は保存しハーフメタル中を伝導するが、逆向きのスピンをもつ電子は反発力が働くため伝導できない。
【0035】
図2、3、4に示すようにGMR膜の自由層103、固定層101の少なくとも一方にハーフメタルからなる層201を入れた場合、ハーフメタル層201を透過する電子はスピン分極率が非常に高い状態となる。理想的なハーフメタルの場合、フェルミ面における電子状態はほぼ100%片方のスピンに分極しているので、この電子は100%近いスピン分極電流となる。
【0036】
実際に知られているハーフメタルの室温における分極率は、50%〜90%である。これは、逆向きのスピン成分をもつ電流に対して、ハーフメタルの抵抗がほぼ無限大のため、逆向きスピンの電子が散乱され、片側スピンのみが散乱長が長いまま伝導することに起因している。
【0037】
このような高いスピン分極電流が金属系GMR膜(前述のCoFe/Cu/CoFeあるいはNiFe/Cu/NiFeなど)における磁性層に効果的に注入されれば、磁性層の分極率は上昇し、スピン偏極電子が中間層に到達するので、MR比が向上する。
【0038】
ハーフメタル膜は、金属膜と比べて電気抵抗が高いことが多い。また、図6の素子抵抗のFe3O4膜厚との関係からわかるように、10nmをこえるハーフメタルの厚い膜では、ハーフメタルの電気抵抗がバルク散乱的に素子抵抗を上昇させ、結果的に全体のMR比を低下させる。
【0039】
スピン分極電流を磁性体に注入するためには、磁性層と挿入層との界面の部分が重要な働きをする。このため、ハーフメタル膜はハーフメタル特性を維持できる範囲で、できる限り薄いほうが有効である。1nm程度の膜であれば、膜の面積抵抗は抵抗の高いFe3O4でも約0.2Ωmm2で金属膜の抵抗と同じ程度となる。
【0040】
ただし、ハーフメタルを用いる場合、その結晶構造の1ユニットセル以上あることが特性発現にとって必要である。1ユニットセルの大きさは、Fe3O4で約0.8nm、CrAsやホイスラー合金で約0.5nmと1nm未満の値である。したがって0.5nm以上5.0nm以下であることが望ましい。
【0041】
このようなハーフメタル磁性体材料は、大別すると(A)磁性半導体、又は(B)一部の酸化物磁性体である。(A)磁性半導体は、CrAs、CrSb、あるいは、閃亜鉛型の結晶構造をもつ、IIIーV族化合物半導体にMnなどの磁性体をドープした希薄磁性半導体(InMnAs、GaMnAs)などで、MBEによる単結晶エピタキシャル成長により作製される。
【0042】
一般に、ハーフメタル的な特性を示すのは材料によっても異なるが100K〜4K以下の低温度域である。例外的に、CrSb(〜350K)やCrAs(Tc>1000K)のように高温でも特性を示すとされているものがある。また、ZnOやGaNに遷移金属をドープした磁性半導体、その他の閃亜鉛型結晶構造をもつ磁性半導体については、室温で強磁性的挙動を示し、ハーフメタルであるとされる。CrAsは閃亜鉛型結晶構造をもつが、第一原理による計算では前述のようにTcが非常に高く、また、実験的にも膜厚1nm程度の膜について室温で強磁性でかつハーフメタリックな特性が確認されている。
【0043】
一方、(B)の酸化物磁性体としてはFe3O4が特によく知られている。これ以外にもCrO2がハーフメタル材料の候補である。Fe3O4は、ハーフメタル特性が室温でも得られる点と、磁性体としても磁化が大きくかつ軟磁気特性を得られるという特徴を有する。ただし、一般に単層膜を得るためには、500℃をこえる高温処理あるいは基板温度上の製膜が必要なため、これまで実用化にはいたっていなかった。
【0044】
酸化物ハーフメタル材料には、作製温度の問題が大きな課題となり、これまで一般に素子化あるいは実際の磁気ヘッドを作製するには至っていない。Fe3O4の場合、近い組成に安定相であるが磁化が低く、ハーフメタルではないFe2O3という相があり、混層化しやすいのと、FeとFe3O4とも混相になりやすい傾向にある。CrO2もCr2O3という絶縁体と混相化しやすいため、酸素雰囲気中の高温作製など特別な作成法が必要である。
【0045】
この問題に関して、Fe3O4の下地材料を選択することで、成長エネルギーを調整し、単層化することが可能である。このような材料として、一部の貴金属であるPt、Rh、Cuや、化合物のTiNなどが有効である。
【0046】
RFスパッタリング法で基板上にこれらの膜を形成し、この上にFe3O4を形成する方法で作製可能である。この方法では、基板温度300℃で製膜した場合に、図7に示すXRDパターンから単層のFe3O4であり、かつ、室温での飽和磁化が0.55〜0.6テスラとなりバルクのFe3O4(飽和磁化:0.5〜0.6テスラ@室温)と同じ値となり、かつ、Fe3O4の特徴である120K付近での飽和磁化の温度依存性異常(フェルベ−点)も確認できている。
【0047】
これは、基板温度250℃以上ではほぼ同様である。基板温度が150〜200℃でも0.5テスラ以上の飽和磁化である。したがって、この方法でFe3O4単層膜の形成ができていると考える。また、数nmの薄膜化も可能である。
【0048】
したがって、前記ハーフメタルは、前記ハーフメタルは、Fe3O4に代表されるAB2O4なる構造を持つ酸化物で、AはFe,Co、Znの少なくとも一つ、BはFe,Co,Ni,Mn、Zn の一つからなるような酸化物、CrO2、CrAs、CrSb、あるいはZnOに遷移金属であるFe,Co,Ni,Cr,Mnを少なくとも一成分以上添加した化合物、GaNにMnを添加した化合物、あるいはCo2MnGe、Co2MnSb,Co2Cr0.6Fe0.4Alなどに代表されるC2DxE1-xF型のホイスラー合金で,CはCo、Cu、あるいはNiのすくなくとも一種類からなり、DとEはそれぞれMn、Fe,Crの1種であり、かつFはAl、Sb,Ge,Si,Ga,Snの少なくとも一成分を含有することからなるホイスラー合金、の少なくとも1種である。
【0049】
前記ハーフメタルを含有する挿入層とは、図8(a)記載のような前記請求項4の材料からなるハーフメタル膜801の単膜か、あるいは図8(b)、(c)のような前記請求項4の材料からなる膜801と、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、Pt、NiCrなどからなる金属膜802あるいは、Fe2O3、FeO、Fe4N、FeN、TiO、TiO2、TiN、SrTiO、Al2O3, Cr2O3などからなる化合物膜803とが積層された構造である。または、図8(d)(e)のように、グラニュラー構造(前記請求項4の材料からなり1〜5nmの直径をもつ略球体あるいは略回転楕円体の粒子が膜中に分散した構造)をもつものでも有効である。
【0050】
このような多層構造を持つ膜では、スピン偏極を生じさせるための層をきわめて薄くする一方で、磁性層の層数を増し、前述の(3)に述べたような界面数の増加が行われているものである。さらに、単独のハーフメタル層では界面のスピン注入効率が低い場合に、電子注入効率を向上させるための注入補助層を入れる場合もこれに含めるものとする。
【0051】
また、グラニュラー構造では、電子はグラニュラー構造中の電気伝導率の低いパスを優先的に流れる。この伝導パスを流れる電子の分極率を高くするために、3d金属から成る伝導パス周囲をハーフメタリックにし、高分極率の電子反射を3d金属に注入し、磁性層につなげるか、あるいは、伝導パスをハーフメタリックな材料、周囲を鏡面反射的特性を持つ絶縁体材料の構成のグラニュラー膜とし、ハーフメタルの伝導パスの電子密度を高くする構造である。
【0052】
また、図4のように本発明の挿入層を自由層および固定層の他主面側に配した構造では、上記のハーフメタルに起因する高分極電流の注入効果と、高分極率界面によって挟まれたことによる多重散乱効果が重なるためより高いMR比をもつCPP−GMR膜の作製が可能である。
【0053】
次に,磁気抵抗効果素子として、本発明の挿入層を固定相側の磁性膜に接触させた場合、スピンバルブ的な磁化挙動を生じるための磁化固定の方法として、図9(a)、(b)に示すような反強磁性膜による結合を利用する方法がある。反強磁性膜901は、下地膜902としてNiFeなどの金属磁性膜上に形成することにより、磁気的な結合を得ることは可能である。
【0054】
ただし、(b)のように酸化物磁性膜上に金属磁性膜903/反強磁性膜902を形成した場合に、270℃以上の高温で熱処理をすると酸化物磁性体(ハーフメタル)から金属磁性体膜へ酸素拡散が発生し、ハーフメタル特性の劣化、金属磁性膜の酸化、劣化が起きる場合がある。
【0055】
これに対して、反強磁性膜(AF)901と、ハーフメタル挿入膜201とを積層フェリ構造903、904、905を介して結合する例えば下地膜/NiFe/AF/CoFe/Ru/CoFe/ハーフメタル/CoFe固定層/Cu/CoFeのような構造を用いることにより、反強磁性膜901がGMR構造の上側に配された(b)の場合でも下側(a)の場合でも、積層フェリの中間膜(膜厚0.8nmのRu膜などの貴金属薄膜)が酸化防止膜の働きをするために信頼性の高い膜を作製することが可能である。
【0056】
また、自由層103の磁区制御に関しては図10に示すように一般のGMR再生ヘッドで適用されているハードバイアス方式を適用することを考えた場合、ハードバイアスに用いられる永久磁石1001を該素子膜のトラック幅方向の両端部に絶縁膜1002、1003を介して配することで、永久磁石からの漏洩磁束を用いて素子1004中の自由層の端部に発生する微細な磁区を減少させ、一方向に整列した磁区構造を形成することが可能である。
【0057】
さらに、新しい磁区制御の方式として、図11(a),(b)にそれぞれ示すように自由層103あるいは、自由層103とこれと接する前記挿入層201との他主面側に非磁性膜を介して永久磁石1101をつける、あるいは、反強磁性膜と接した軟磁性膜1101を形成することで、該永久磁石あるいは軟磁性膜1101の端部から発生する漏洩磁束を用いて自由層103あるいは、自由層103とこれと接する前記挿入層201の磁区をそろえる方式(CFS(Closed Flux Structure)方式)がある。素子サイズが1mm×1mmを下回る範囲では、前記ハードバイアスの絶縁膜の絶縁性および磁区制御磁界の精度が著しく低下することが予想される。ギャップ間隔が50nmを下回る領域では、薄膜化が課題となるもののこの方式が将来方式として有望であり、本発明の膜構造に対しても十分有効である。
【0058】
【実施例】
[実施例1]
まず、基板上にハーフメタル膜を作製した。基板としては、ガラス基板、酸化マグネシウム基板、GaAs基板、AlTiC基板、SiC基板、Al2O3基板、SiO2基板等を使用した。
【0059】
ハーフメタル膜作製法としては、RFスパッタリング法を用いたがDCスパッタリング法でも同様である。Fe3O4膜の作製の場合、到達真空度は5×10-3Pa以下であり、ターゲットはFe3O4の燒結体ターゲットである。Ar雰囲気中で、約1〜0.1Paの圧力、50W〜150Wのパワーで膜成長させた。膜の成長速度は0.1A/s未満である。あるいは、分子線エピタキシー法(MBE)でFeを蒸着源とし、これを蒸着しながら、雰囲気中に酸素を入れる方法によっても、0.1〜0.01A/s程度の非常にゆっくりとした膜形成速度で膜形成した場合にFe3O4の形成が確認された。あるいは、純Feの単結晶膜をこのMBE法で基板上に形成し、その表面に微量のO2ガスあるいはO2ラジカルを照射し酸化させることで形成できることが分かった。
【0060】
特にRFスパッタリング法でこれらの基板上に直接Fe3O4を形成した場合は、室温成膜した膜の飽和磁化は0.1テスラ未満であり、基板温度400℃における飽和磁化も0.2テスラ〜0.3テスラだった。この値は、Fe3O4単相状態としては低い値である。さらに、このようにして作製した膜は非晶質傾向の強い膜になった。
【0061】
これをほぼ完全なFe3O4単相(single-crystalline phase)膜にするためには、基板温度を540℃以上の高温にし、結晶化を促進する手段を施すことが従来技術では必要であった。ただし、上述の基板を用い、スパッタ室雰囲気のH2O分率を低減し、低レート、低エネルギで膜形成する新規な作成法により、250℃以上の基板温度において膜厚50nm以下の膜において飽和磁化0.4テスラ以上をもつFe3O4膜を作製することができた。
【0062】
このFe3O4膜の磁化の温度変化が、Fe3O4に特有のフェルベ−転移を120K付近に示すこと、図7にて示したXRDの回折ピークから良質のFe3O4であることが確認された。このFe3O4がハーフメタリックな特性を持つことが、第一原理計算に基づく理論検証および過去の分光分析等から知られている材料である。
【0063】
形成したFe3O4膜の飽和磁化Bsは、下地膜がPt,Cu,Pd,Rh,Ru,Ir,Au,Ag,Ta,Co,Fe, CoFe,NiFeなどの導電性金属、合金膜でも、TiN,ReO3,TiO,TiO2,SrTiO3などの導電性化合物膜でも0.4テスラ以上となりほぼ良好なFe3O4成長が確認された。
【0064】
また、これら下地膜が50nm〜100nmの厚さとなった場合、表面粗さRaを0.4nm以下にすることにより、同様の値が得られることを確認した。また、これら貴金属の下に、Cr、Ta、NiFeCr,MnPtなどの適当な下地膜を数nmから数十nm挿入することにより、この上に成長した貴金属膜の表面構造が平滑化し、Fe3O4膜の成長が促進される。
【0065】
図12に飽和磁化の膜厚依存性を示す。図から、薄膜化が進むと膜の飽和磁化は減少する傾向にあるが、1nm程度では磁化は確保されている。この図から、Fe3O4膜の膜厚が10nmを超えた領域ではFe3O4膜の飽和磁化は0.5テスラ程度だが、膜厚0.8nm未満ではやや減少し0.4テスラ程度に低下したが、マグネタイトとしての強磁性的特性は維持されていると考える。
【0066】
Fe3O4以外の酸化物ハーフメタル材料であるCrO2は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、TiO2表面上に良質な膜が形成されるが、これについてもCr表面上を酸化する、あるいは、CrO2を基板温度350℃で成長させることによって作製可能である。ZnO、GaNについても、上述のFe3O4の場合と同様に下地貴金属膜を形成して、その上に成長させたところ基板温度が250℃でも単相膜が形成されていることを確認した。ZnOは、V,Cr,Fe,Co,Niの強磁性金属を約25%ドープすると、強磁性ハーフメタルの状態になる。また、GaNについてもGaAs下地膜上にMBEを用いてMnを25%ドープして形成すると強磁性ハーフメタルになる。
【0067】
また、ホイスラー合金とよばれる化合物でCo2MnGe,Co2MnSbやCo2Cr0.6Al0.4Mnなどは組成に該当するターゲットをAr雰囲気中のRFスパッタリングにより基板に直接成長させる方法で作製可能である。基板温度は、300℃以上で、700℃以上の熱処理を加えることが望ましいが、室温基板上に形成し、270℃で長時間熱処理した場合にも規則化した構造を得ることが可能である。また、作製した膜の組成とターゲットの組成との関係がずれやすいため、作製した膜での組成確認をXPSあるいはICP分析により同定することで成長することを確認した。
【0068】
[実施例2]
従来のスピンバルブタイプのGMR素子は、通常、図1に示すように、自由層103と固定層101との間にGMR中間層102が形成されている構造をもつ。
【0069】
この自由層103、固定層101には、NiFe,CoFeなどの軟磁気特性をもつ金属磁性体がそれぞれ用いられる。固定層101は、自由層103との保磁力の差を用いる保磁力差型のGMR素子もあるが、広く一般的な構造は、図9に示すような固定層101に、反強磁性膜901(MnPt、CrMnPtやMnIrなど)が接し、その交換結合磁界によって固定層101の磁化を固定するスピンバルブと呼ばれる構造である。
【0070】
また、固定層101の薄膜化を促進するためと、固定層膜の端部からの漏洩磁束を低減するため、および、挿入層による影響を最小限にするために、図9の(b)あるいは(C)に示すように固定層101の中間層102と接している面とは反対側の面(他主面側)に、Ru膜、金属軟磁性膜、反強磁性膜を積層した膜構造とすることがある。この磁性金属膜/Ru膜/磁性金属膜のRu膜の膜厚を制御することで、固定層と金属軟磁性膜が強い反強磁性的結合をする積層フェリ構造と呼ばれる構造である。また、これらの場合にGMR中間層102をなす材料がCuあるいはCrからなる場合が効率としては非常に良好である。
【0071】
このGMR中間層102の材料に、Cu、Cr Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Ag、TiO、TiO2、ReO3またはTiNなどからなる材料を用いた場合についてGMRが生じるか否かについて確認した。
【0072】
ここでは、CoFe 3(nm)/GMR中間層X(nm)/CoFe 5(nm)/NiFe 2(nm)/MnIr 12(nm)を用いた場合について、膜面内に電流を流した場合(CIP)の抵抗変化率のGMR中間層102膜厚依存性を調べると、抵抗変化率のGMR中間層膜厚による振動現象が確認された。また、GMR中間層が2nmの膜についてのGMR特性を調べたところ、抵抗変化率はGMR中間相材料に依存して異なるものの、Cu、Cr以外の材料を用いた膜では面内で、0.3〜10%の範囲で有限の抵抗変化率を示した。Cu, Cr中間層を用いた場合は10%以上のMR比を確認できることから、Cuではなく貴金属を含む中間層を介しても、金属磁性体間および金属磁性体と酸化物磁性体とによるスピンバルブが形成可能であるが、最大特性となるのは上記磁性体を用いた場合にはCu,Crであることはわかった。
【0073】
次に、ハーフメタル挿入層を固定層あるいは自由層の片側に挿入した場合を述べる。GMR部分の図2あるいは図3の構造である。例えば、自由層CoFe(3nm)/Cu中間層102(2.1nm)/固定層CoFe(3nm)/Fe3O4(1.5nm)/Cu(100nm)からなる積層膜を作製し、電流を膜厚方向に流した場合(CPP)の抵抗変化率を調べると、図13のような室温で0.1%程度の抵抗変化率を示した。このときの抵抗変化ΔRはCoFe/Cu/CoFeの構造から得られるΔR値の二倍程度で大きく、スピン注入の効果が出ているといえる。
【0074】
CPP-GMRの場合、素子面積Aと抵抗変化ΔRの積は重要な特性であるが、Fe3O4のように比較的抵抗の高い材料の場合、このAΔRは2電子モデルといわれる一般的計算手法によってFe3O4側磁性層のバルクの分極率、対向側磁性膜と中間相との界面の分極率と界面抵抗の積に比例した値となる。ハーフメタル材料が接触した磁性金属膜中のバルク分極率が高くなれば、必然的にGMR出力(AΔR)は向上する。
【0075】
さらに、低温にすると、図14に示すようにFe3O4のフェルベ−温度(120K近辺)をピークにMR比が高くなっている。最大では8%程度のMRを得ており、これは、スピン注入が挿入したハーフメタルFe3O4の電子構造すなわちバルクの分極率と密接に関係していることを示唆するものである。
【0076】
この挿入層と接しているCoFe層の膜厚を変化させることによって図15のようにMR比は膜厚1nm〜1.5nmを最大値とするように緩やかに変化する。これにより、CoFe膜厚が1.3nmのときに約1%のMR比を得た。これは、ハーフメタル磁性膜から磁性層に注入されるスピン偏極電子の自由行程が短いことが関係している。
【0077】
材料の分極率は、一般には様々な方法で定義されている。一つの方法としては、原子配置からの数値計算によって絶対零度状態あるいは有限温度における電子状態を計算し、そのフェルミ面におけるスピンの分極状態を計算するものである。計算手法はバンド計算(LMTO法:linear muffin-tin orbital近似、など)や第一原理計算である。
【0078】
このほかの方法として、電子構造の状態を実験的に測定する方法や、伝導電子の分極率を実験的に評価する方法がある。これらの具体的方法については後述する。本発明において用いている分極率とは、定義としては式に書かれるものであるが、具体的な値としては上述した方法のいずれかで理論計算あるいは実測評価された値であると考える。
【0079】
また、本発明におけるハーフメタル材料とは、前記材料からなる材料であるか、または、前記定義による分極率が60%以上であるかのいずれかの材料である。
【0080】
この挿入層201と、これに接する磁性層である自由層103あるいは固定層101とのなす界面において、当該挿入層材料によってなる3原子層と、当該磁性膜の3原子層を、界面において一層分混在させた混合層を用いた場合に第一原理計算に基づく局所密度汎関数法(LMTO-CPA:CPA:Cohelent Potential Approximation)を用いて該混合層の電子密度を計算した場合に、図16(2)あるいは(4)のように少なくとも界面層あるいは磁性層におけるフェルミ面上の電子スピン密度が、スピン偏極した状態であることが上記のような挿入層と磁性層を選択する上での一つの条件である。
【0081】
図16では、AuとNi80Fe20(図16(1)から(3))とCuとNi80Fe20のなす2層構造について3原子層づつの積層を考え、各原子層における各原子の電子状態を示したものである.図の縦軸は、規格化した値であり、強度比は組成比を反映していないため、各組成ごとに組成比率に強度換算する必要がある.これによると、界面の混合層では、磁性層はスピン分極している状態である.また、CuとAuを比較するとCuのDOSのピークがフェルミ面に近いところにあり、s−d電子の混成が強いことがわかる。
【0082】
反強磁性膜(AF膜)を設けた場合については、図9に構造を示してあるが、一例として、CoFe自由層(膜厚3nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚3nm)/Fe3O4挿入層(1.5nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板および、Fe3O4挿入層(1.5nm)/CoFe自由層(膜厚3nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚3nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板を順次積層した構造を実際に作製したところ、これらについても前述と数%程度のMR比を得ることができた。
【0083】
また、図9の(b)や(c)の構造として、例えば、CoFe自由層(膜厚3nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚3nm)/Fe3O4挿入層(1.5nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板の構造や、CoFe自由層(膜厚3nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚3nm)/Fe3O4挿入層(1.5nm)/CoFe(1nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板で、Ruを介して積層フェリ構造と呼ばれる反強磁性結合が形成されていることを確認した。
【0084】
この反強磁性膜の位置は、固定層が中間層の上側になり、反強磁性膜が上側には位置する構造でも同様である。この構造でも、CPP―GMR構造としての出力である磁気抵抗変化率の高い磁気抵抗効果膜が得られる。
【0085】
さらに、図4に示すGMR膜の自由層と固定層の両方にハーフメタルの挿入層がある場合については、例えば、キャップ膜/Fe3O4挿入層(1.2nm)/CoFe自由層(膜厚3.0nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚1nm)/Fe3O4挿入層(1.2nm)/CoFe(1nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板が考えられる。これについても固定層磁性膜の膜厚に依存してMRが変化し、1nmで最大となった。この値は、ΔRAにするとCo/Cu/Coの3倍以上の出力となっている。挿入層から磁性層に注入されたスピン電流の散乱長および、多重散乱効果と関係していると考えられる。
【0086】
同様に、例えばキャップ膜/反強磁性膜MnIr(12nm)/NiFe(3nm)/CoFe(1nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1nm)/Fe3O4挿入層(1.2nm)/CoFe固定層(膜厚1.0nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe自由層(膜厚3.0nm)/GMR中間層(膜厚2nm)/CoFe固定層(膜厚1nm)/Fe3O4挿入層(1.2nm)/CoFe(1nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(1nm)/NiFe(3nm)/反強磁性膜MnIr(12nm)/Crを含む下地膜/基板などからなるDual構造では、図15に示すように出力は前述の1.7倍程度になり高いMRが確認できる。
【0087】
この構造について、例に挙げたものの他に、自由層103および、軟磁性層にもちいる磁性金属は、Ni80Fe20あるいはCo90Fe10に代表される軟磁性金属材料があげられる。また、挿入層のハーフメタル磁性膜606については、Fe3O4のほかに、CrO2、ZnO-M(M:遷移金属)、GaN-M(M:遷移金属)、CrAs、MnSbなどを用いても、数%以上の磁気抵抗が得られる。また、反強磁性膜としては、MnIrのほか、MnPt、CrMnPt、NiOなどを用いた場合は、250℃〜300℃の熱処理が必要となるが、抵抗変化の得られる再生素子構造として同様に十分動作する。
【0088】
また、挿入層にハーフメタル単膜ではなく、図8に示すような構造を入れた場合について以下に述べる。図8(b)の構造として、例えば、Fe3O4(1nm)/Co(1nm)/Fe3O4(1nm)なる膜や、Fe3O4(1nm)/TiN(1nm)/Fe3O4(1nm)膜を挿入層として用いることが可能である。
【0089】
この場合、界面が増す効果と分極した電子の注入が進むためMR比は向上する。また、図8(c)の構造については、Fe3O4(1nm)/TiN(1nm)/Co(1nm)/TiN(1nm)/Fe3O4(1nm)のような膜で、特にスピン注入効率を最大限にするために、ハーフメタル層と金属磁性層の間にバリステイックな伝導特性を示すStTiO3や、d電子を伝導するTiO、TiN、ReO3などの材料や、局所リーク電流をもつAl−O膜などを挿入した構造もMR向上に有効である。
【0090】
図8(d)に示すような膜としては、Fe3O4とFeとのグラニュラー構造や、ホイスラー合金と3d金属のグラニュラー膜、SiO2絶縁体とCrAs、InAsの組み合わせなどが考えられる。また、図8(e)に示すような膜としては、Fe3O4とFe2O3とのグラニュラー構造などが考えられる。
【0091】
次に、貴金属中間層膜706の酸化防止機能について述べる。固定層606、705をなす酸化物磁性体に、直接に金属磁性体が接すると、酸化物中の酸素原子は、接合界面を通じて金属側の原子と結合し、金属膜中に拡散することが知られている。特に、再生ヘッドを作製する200℃程度の熱処理プロセスなどのため、この傾向は促進される方向になる。これを有効に防ぐ方法として、酸化物層606、705を、酸素と結合しにくい貴金属原子で挟むことが有効である。
【0092】
図にある構造では、酸化物磁性体(ハーフメタル)の両側を貴金属を含有する中間層及び貴金属層で挟んだ構造になっている。この界面をX線光電子分光(XPS)やラザフォード後方散乱(RBS)で測定すると、酸化物界面での酸素と鉄の比が、金属界面では酸素が少なく、貴金属界面ではほぼ原子組成比になっている。したがって、酸素拡散を防止できると考える。
【0093】
本発明を構造的に明らかにしようとした場合には、上述のRBSとXRDを併用するか、RBSと断面TEMやXPS(X線光電子分光)を併用することで明らかにすることが可能である。また、界面での酸化がある場合、酸化界面の抵抗が大きいため素子抵抗も数倍から数桁の範囲で大きくなるが、上記のような素子の場合、界面数増加に伴う抵抗増加(2倍以下)程度で上記のような抵抗増加は見られない。
【0094】
スピン注入の効果が本発明の挿入層によってなされているかどうかを実験的に確認、検証するためには、一つには真空紫外光を用いた光電子分光が有効である。スピン成分を分解するために真空紫外光の波長(He-I、hν=21.2eV)を用いるもので、室温にて試料を1×10-10Torrの超高真空中にセットし、光を試料面に照射し、反射される光のエネルギースペクトルをモット検知器で更にスピン成分に分解し、↑スピン成分と↓スピン成分のそれぞれについてのエネルギースペクトルを分光するものである。検知される光は、0〜1.5eVの範囲の分散を測定した。0eVの↑スピン成分と↓スピン成分の強度比がフェルミ面の分極率に相当するため、これを測定するものである。試料の角度を変えることで、試料の面方位を正確に求めることができる。これにより、Fe3O4やCrO2の分極率が測定されている。
【0095】
また、SCIENCE、282、(1998)、P85-88に示されるように、超伝導体と調べたい材料との接合を作製し、コンダクタンスあるいは接合抵抗の電圧変化(バイアス依存性、±10 mV程度)を測定することによってアンドレーフ反射という現象により接合する材料のスピン分極率が直接測定される方法でも測定可能である。これを用いることで、CrO2やNiMnSb、Fe,Ni,NiFeなどの分極率が求められる。
【0096】
さらに、CPP−GMRで調べたい界面の分極率をβとして、測定によって得られたAΔRを2電子モデルから界面抵抗とバルク抵抗であらわしたときに、知りたい部分以外を既知の界面抵抗、バルク分極率になるように構成し、βを求めるもので、Fe3O4を挟んだFe3O4/Au/NiFe三層膜などでは、Fe3O4の分極率が80%と求められる。この結果は、磁界5kOeで電流5mAを2um*2umの試料に流した時の抵抗変化からもとめたAΔRから計算したものである。
【0097】
Fe3O4膜の場合、室温での(111)表面の分極率が80±5%と測定されている。CrO2は300Kでは90%以上の高い値が報告されている。低温ではLaSrMnOも78%である。これに対し、Coの場合は、分極率が40-50%、CoFeでは約55%であるから、挿入層と接した磁性層の分極率が電流を流すことでこれらの値を超えれば、本発明のコンセプトが適用されていると判断される。
【0098】
また、スピン分極二次電子分光法でも同様の観測を行うことが可能である。さらにまた、磁界を印加した状態での電流のバイアス依存性の測定によっても微小ではあるが電流方向に依存して抵抗値に差異が生じる。
【0099】
[実施例3]
ここで、CPP-GMR構造の磁気抵抗効果素子として、図2、図3、図4にある膜を適用する。CPP-GMR膜に要求される基本的特性(500Gb/in2)としては、以下の3つがあげられる。
(a)膜の面積抵抗が0.15Ωum2以下(素子面積によって変わる)
(b)磁気抵抗変化率4%以上
(c)膜厚が50nm未満
(a)の面積抵抗については、素子中のハーフメタルにFe3O4などの酸化物磁性体を用いた場合には、低抵抗の材料とは異なる問題が生じることが予想される。貴金属層605,706/酸化物ハーフメタルを含有する固定層606,705/貴金属を含有する中間層607,704/磁性材料を含有する自由層608,703という基本構造を仮定し、Pt(膜厚10nm)/Fe3O4/Au(膜厚3nm)/NiFe(膜厚5nm)についてFe3O4層の膜厚を変えたときの面積抵抗の変化を100nm×100nmの形状をもつ素子について計算する。Fe3O4の抵抗率は約15000μΩcm(垂直)、その他Ptの抵抗率は30μΩcm、Auは2μΩcm、NiFeは30μΩcmである。よって、素子抵抗の大部分は挿入したFe3O4膜の抵抗で決定される。
【0100】
Fe3O4の膜厚が1.0nmのとき、Fe3O4の抵抗率は15000μΩcmとすると、抵抗は約15Ω、RAは0.15Ωum2となる。Fe3O4の膜厚が5nmのとき、素子抵抗は約75Ω、RAは0.75Ωum2となる。Fe3O4の膜厚が1.5nmのとき、素子抵抗は約22.5Ω、RAは0.225Ωum2となる。このとき、磁気抵抗変化率はFe3O4膜厚によってあまり変化しない。このとき、反強磁性膜は比抵抗が60μΩcmと高いために、12nmの膜では抵抗が70Ωとなる。素子抵抗としては両者の足し合わせの100Ω前後となる。素子抵抗が高いのは素子サイズが小さいためである。反強磁性膜の薄膜化、低抵抗化が成功すればこれを小さくすることが可能である。
【0101】
CrO2膜の室温での比抵抗は450μΩcmまた、ホイスラー合金のCoMnGe膜でも、比抵抗は500μΩcm程度である。グラニュラー構造の膜でも比抵抗は1300μΩcm程度であり、これらを用いた場合には、上記のFe3O4と比べて1-2桁ほど低い挿入層の抵抗とすることが可能である。この場合、むしろ反強磁性膜などの比抵抗がはるかに高くなる。この膜では、サイズ効果のため通常の1.0mm2でのMR比よりも高いMR比となる。抵抗変化率が5%であれば、ΔRは5Ωを超える値となる。
【0102】
500Gb/in2を超える記録密度に対応する再生ヘッドのスペックとしてCPP−GMRの特性を考えると、面積抵抗は0.15Ωum2以下かつ、MR比は4%以上の値となる。上述した計算によりこのスペックは満たすことが可能である。さらに低抵抗についても、十分対応可能な構成であると考える。
【0103】
これに対して、従来のTa1nm/NiFe3nm/MnPt15nm/CoFe3.5nm/Cu3nm/CoFe3nm /Ta1nmの膜では、素子面積を0.1*0.1um2まで小さくしてもR=0.5Ω程度で,ΔR/Rが2%であっても、出力ΔRは0.01Ω程度で、上記発明と比較すると小さい。
【0104】
膜厚については、挿入層が片側の場合には30nm前後であり特に問題は無いが、上下にハーフメタルをいれた場合も40nm程度で問題は無いが、Dual構造にした場合にも40nm程度で良いが、挿入層を多層あるいは厚膜にした場合また、磁区制御膜にCFSと呼ばれる図11(a),(b)にそれぞれ示すような自由層103あるいは、自由層103とこれと接する前記挿入層201との他主面側に非磁性膜1102を介して永久磁石1101をつける、あるいは、反強磁性膜と接した軟磁性膜1101を形成することで、該永久磁石あるいは軟磁性膜1101の端部から発生する漏洩磁束を用いて自由層103あるいは、自由層103とこれと接する前記挿入層201の磁区をそろえる方式を採用した場合には、50nmを超える場合があるため反強磁性膜の薄膜化が必要である。
【0105】
[実施例4]
本発明を磁気ヘッドに応用した場合の実施例を以下に示す。磁気抵抗効果素子に用いるCPP-GMR膜は、図2、図3、および図4に示すような構造をもつ膜であり、例えば実施例2にて提示した構造をもつ。これらの磁気抵抗効果素子を適用した磁気ヘッド構造は、インギャップタイプとよばれる構造と、ヨーク構造と呼ばれるヘッド構造のどちらについても適用が考えられる。
【0106】
ここで、インギャップ構造とは、磁気センサ膜が一対のシールドとシールドとの間に挟まれ、媒体に対向する面に断面が露出した形状のヘッド構造である。また、ヨーク構造とは、センサーが媒体対向面に露出せず、例えばアルファベットのC文字型形状の軟磁性体からなるヨーク膜の奥にセンサーを配置した構造である。
【0107】
これらは、電極をシールドと兼用し、かつ、磁区制御機構のある構造になると考えられる。但し、素子サイズが十分小さいときには素子中に磁壁が生じなくなる場合があり、この場合は、本構造における磁区制御不要になる場合があると考えられる。
【0108】
図17に、上記の電極をシールドと兼用したインギャップ形状の再生ヘッドの媒体対向面から見た図を示す。例えば、下部シールド兼電極膜面1701上にリフトオフ材料を塗布し、膜形成後に感磁部となる場所1705を残す形状でリフトオフパタンを形成した後、イオンミリング法などの方法で磁気抵抗効果膜1705をエッチングする。
【0109】
エッチング後にCoCrPt、CoCrPtZrO2などの硬質磁性材料によってなる磁区制御膜1703を、絶縁膜1702,1704で挟んだ膜を形成する。この磁区制御膜は、CPP−GMRセンサー膜の磁区挙動によるノイズを防ぐため、磁界測定精度を高めることができる。ここでCrやTaなどの適当な下地上に磁区制御膜1703を形成すると磁区制御膜の特性に関し有効である場合があった。但し、素子サイズが十分小さいときには素子中に磁壁が生じなくなる場合があり、この場合は、本構造における磁区制御不要になる場合がある。
【0110】
磁区制御膜1703,1704形成後、リフトオフマスクを除去する。その後、上部シールド膜兼電極膜1707を形成する。この後、この上に保護絶縁膜1708として例えばAl2O3とSiO2の混合膜を100nm以上の厚い膜として形成した。
【0111】
上述のようなハードバイアス方式の磁区制御構造以外に、前述した図11に示すCFS膜を自由層の他主面側に積層し、膜端部からの漏洩磁束で磁区制御する方法も非常に有効である。
【0112】
さらに、図18は、代表的なヨーク構造と、磁区制御膜を模式的に表した立体図である。1809は図の各方向を示したもので、1810は膜厚方向、1811は素子高さ方向、1809はトラック幅方向である。この構造は、媒体に対向した面に磁気抵抗センサ膜1805が露出しない構造である。
【0113】
ここで、図に示すNi81Fe19からなる下部磁気シールド1803と上部磁気シールド1807に挟まれたギャップ内に、同様の軟磁性材料からなるヨーク膜1806および1802が挟まれている構造について確認した。該ヨーク膜1806および1802は、図21では上部ヨーク1806と下部ヨーク1802が接合したCリング形状になっている。このほかにも、下部ヨーク1806を媒体面近傍の先端でトラック幅方向に絞った形状のものや、ヨーク膜厚を厚膜にした形式、ヨークが磁気センサ下で不連続になっている構造がある。図中にはハードバイアス的に配置した磁区制御膜1801が示されている。
【0114】
これによって、少なくとも下部ヨーク1802と磁気抵抗センサ膜は磁区制御され、かつ、周囲の分流は無い。このほか、CFS膜と同様にヨーク材もCSF層を積層することでこれを磁区制御することも可能である。この磁区制御膜の構造としては、上下ヨーク膜と磁気抵抗センサ膜を同時に磁区制御する形式と、それぞれを磁区制御する構造のいずれでも、良好な磁区制御が可能である事を確認した。
【0115】
上記図18は、図19および図20に示すように、磁気抵抗センサにセンスされる磁束の量を増すために、該ヨークの磁気センサ膜に接する部分を不連続にした構造でも、磁区制御膜の材料を高抵抗膜にすることによって、磁区制御膜を形成する事が可能である。これらの磁界センサーは、半導体をセンサ膜として使用した場合に比べて、センサ膜の透磁率が1000倍程度になるために、媒体からの磁界を効率良く活用することが可能である。
【0116】
本構造ではセンスする磁界は膜面に垂直に印加される成分であることから、磁気記録されたものからの記録の漏洩磁界、また、面内記録されたものでは記録端部の漏洩磁束をセンスする構造になっている。
【0117】
本実施の形態では上記記載の磁気抵抗センサをもちい、再生シールド間隔(ギャップ間距離)が80nm以下でも磁気抵抗変化膜と磁区制御膜の導通による再生特性の劣化は認められなかった。
【0118】
また、ここで示した再生ヘッド構造部分に加えて、上部磁気シールド1807上に絶縁膜2101を形成し、この上に、記録ヘッド機構2102を搭載した、コイル2103を備えた図21に示すようなヘッドについても、記録、再生ともに問題無く可能であることを確認した。記録方式としては面内磁気記録、垂直磁気記録のいずれにおいても良好な磁気記録が可能であった。
【0119】
[実施例6]
図22は本発明によるヘッドを用いた一実施例の磁気デイスク装置を示す図である。図示した磁気デイスク装置は,同心円状のトラックとよばれる記録領域にデータを記録するための,デイスク状に形成された磁気記録媒体としての磁気デイスク2201と,磁気トランスデユーサーからなり,上記データの読み取り,書き込みを実施するための本発明による磁気ヘッド2206と,該磁気ヘッド2206を支え磁気デイスク2201上の所定位置へ移動させるアクチュエーター手段2211と,磁気ヘッドが読み取り,書き込みするデータの送受信及びアクチェータ手段の移動などを制御する制御手段とを含み構成される。
【0120】
さらに,構成と動作について以下に説明する。少なくとも一枚の回転可能な磁気デイスク2201が回転軸2202によって支持され,駆動用モーター2203によって回転させられる。少なくとも一個のスライダー2206が,磁気デイスク2201上に設置され,該スライダー2209は,一個以上設けられており,読み取り,書き込みするための本発明による磁気ヘッド2210を支持している。
【0121】
磁気デイスク2201が回転すると同時に,スライダー2206がデイスク表面を移動することによって,目的とするデータが記録されている所定位置へアクセスされる。スライダ2206は,サスペンション2207によってアーム2208にとりつけられる。サスペンション2207はわずかな弾力性を有し,スライダー2206を磁気デイスク2201に密着させる。アーム2208はアクチュエーター2211に取り付けられる。
【0122】
アクチュエータ2211としてはボイスコイルモーター(以下,VCMと称す。)がある。VCMは固定された磁界中に置かれた移動可能なコイルからなり,コイルの移動方向および移動速度等は,制御手段2212からライン2204を介して与えられる電気信号によって制御される。したがって,本実施例によるアクチュエーター手段は,例えば,スライダ2206とサスペンション2207とアーム2208とアクチュエーター2211とライン2204を含み構成されるものである。
【0123】
磁気デイスクの動作中,磁気デイスク2201の回転によってスライダー2206とデイスク表面の間に空気流によるエアベアリングが生じ,それがスライダー2206を磁気デイスク2201の表面から浮上させる。したがって,磁気デイスク装置の動作中,本エアベアリングはサスペンション2207のわずかな弾性力とバランスをとり,スライダー2206は磁気デイスク表面にふれずに,かつ磁気デイスク2201と一定間隔を保って浮上するように維持される。
【0124】
通常,制御手段2212はロジック回路,メモリ,及びマイクロプロセッサなどから構成される。そして,制御手段2212は,各ラインを介して制御信号を送受信し,かつ磁気デイスク装置の種々の構成手段を制御する。例えば,モーター2203はライン2204を介し伝達されるモーター駆動信号によって制御される。
【0125】
アクチュエーター2211はライン2204を介したヘッド位置制御信号及びシーク制御信号等によって,その関連する磁気デイスク2201上の目的とするデータートラックへ選択されたスライダー2206を最適に移動,位置決めするように制御される。
【0126】
そして,制御信号は,磁気ヘッド2210が磁気デイスク2201のデータを読み取り変換した電気信号を,ライン2204を介して受信し解読する。また,磁気デイスク2201にデータとして書き込むための電気信号を,ライン2204を介して磁気ヘッド2210に送信する。すなわち,制御手段2212は,磁気ヘッド2210が読み取りまたは書き込みする情報の送受信を制御している。
【0127】
なお,上記の読み取り,書き込み信号は,磁気ヘッド1310から直接伝達される手段も可能である。また,制御信号として例えばアクセス制御信号およびクロック信号などがある。さらに,磁気デイスク装置は複数の磁気デイスクやアクチュエーター等を有し,該アクチュエーターが複数の磁気ヘッドを有してもよい。
【0128】
このような複数の機構を兼ね備えることによって、いわゆるデイスクアレイ装置を形成することが可能である。
【0129】
本発明の磁気抵抗効果素子を本磁気記憶装置に搭載することにより、再生密度が200Gb/in2を超える領域の磁気記録再生が可能となる。
【0130】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る磁気抵抗効果素子は、金属磁性体からなるCPP−GMRとハーフメタルを含む薄膜とを組み合わせて利用したCPP-GMR用センサー膜であり、素子抵抗が低く、かつ、磁気抵抗変化率が高く、GMR出力が大きいものとなる。
【0131】
また、この磁気抵抗効果素子を備える磁気記憶装置は面記録密度が200(Gb/in2)を越える磁気記録媒体と組み合わせて使用可能である。
【0132】
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のCPP−GMR素子構造。
【図2】本発明のCPP−GMR素子構造。
【図3】本発明のCPP−GMR素子構造。
【図4】本発明のCPP−GMR素子構造。
【図5】ハーフメタルおよび非磁性金属、磁性膜のDOS模式図。
【図6】素子抵抗とFe3O4層厚の関係。
【図7】Fe3O4膜のXRDプロファイル。
【図8】本発明の挿入層の構造。
【図9】本発明の反強磁性膜を適用した固定層の膜構造。
【図10】ハードバイアス方式の磁区制御構造の模式図。
【図11】CFS方式の磁区制御構造の模式図。
【図12】Fe3O4の磁化の膜厚依存性。
【図13】保磁力差タイプのMR曲線。
【図14】温度とMR比の関係。
【図15】挿入層に接する磁性膜の膜厚とMR比の関係。
【図16】バンド計算の結果。
【図17】MRと磁性層膜厚との関係。
【図18】本発明を適用したヨーク構造の模式図である。
【図19】本発明を適用した磁気抵抗効果素子とヨークとの位置関係を示す模式図である。
【図20】本発明を適用した磁気抵抗効果素子とヨークとの位置関係を示す模式図である。
【図21】本発明を適用した磁気抵抗効果素子を用いた磁気記録再生ヘッドを示す模式図である。
【図22】本発明を適用した磁気記憶装置の模式図である。
【符号の説明】
固定層 101、中間層 102、自由層 103、挿入層 201。
Claims (25)
- 第1の磁性層と、
第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、
前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち、少なくとも何れか一方の面上に、ハーフメタルを含有する挿入層とを有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 - 前記第1の磁性層の保磁力は、前記第2の磁性層の保磁力よりも小さく、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第2の磁性層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- さらに、前記反強磁性層と前記第2の磁性層との間に軟磁性層を備えることを特徴とする請求項3記載の磁気抵抗効果素子。
- さらに、前記第2の磁性層と前記軟磁性層との間に貴金属層を備えることを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記挿入層の膜厚は、0.2nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記自由層及び固定層の膜厚は、0.5nm以上3.0nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記ハーフメタルは、AB2O4なる構造を持つ酸化物(AはFe、Co、Znからなる群のうち少なくとも一種、BはFe、Co、Ni、Mn、Znからなる群のうち少なくとも一種)、CrO2、CrAs、CrSb又はZnOに遷移金属であるFe、Co、Ni、Cr、Mnからなる群のうち少なくとも一種以上を添加した化合物、GaNにMnを添加した化合物、C2DxE1―xF型のホイスラー合金(CはCo、Cu又はNiからなる群のうち少なくとも一種、D及びEはMn、Fe又はCrからなる群のうち少なくとも1種、FはAl、Sb、Ge、Si、Ga又はSnからなる群のうち少なくとも一種)のうち、少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 挿入層は、前記請求項5の材料からなる膜の単膜か、あるいは前記請求項5の材料からなる膜と、Fe,Co,Ni、Cu、Pd、Pt、NiCrの少なくとも一種類からなる金属膜と、Fe2O3、FeO、Fe4N、FeN、TiO、TiO2、TiN、SrTiO3、Al2O3、Cr2O3の少なくとも一種類からなる化合物膜とからなる少なくとも一種類からなる膜あるいはこれらが積層した膜とが積層された構造あるいは、前記請求項5の材料からなる1〜5nmの直径をもつ略球体あるいは略回転楕円体の粒子が膜中に分散したグラニュラー構造をもつ請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記中間層は、Cu、Cr,Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Ag、TiO、またはTiNのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記第1の磁性層は、Co、CoFe又はNiFeのすくなくとも一種類を含有する請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する第1の磁性膜及び/又は第2の磁性膜に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記磁性膜のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 前記挿入層と第1の磁性層と第2の磁性層の界面において、当該挿入層材料の3ユニットセルと、当該磁性膜の3ユニットセルを、界面において一層分混在させた混合層を用いた場合に第一原理計算に基づく数値計算で混合層の電子密度を計算した場合に、少なくとも界面あるいは磁性層中における電子スピン密度にスピン偏極がみられることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
- 磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を供給する一対の電極とを備える磁気ヘッドにおいて、
前記磁気抵抗効果素子は、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、
前記電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気ヘッド。 - 前記第1の磁性層の保磁力は、前記第2の磁性層の保磁力よりも小さく、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 前記第2の磁性層の磁化の向きは、反強磁性膜により固定され、前記第1の磁性層の磁化の向きは、外部磁界が印加されると変化することを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 前記挿入膜を透過する電子は、スピンが分極したスピン偏極電子となり、前記挿入層に接する第1の磁性膜及び/又は第2の磁性膜に注入される電子のスピン偏極率が向上することで、前記磁性膜のスピン分極がその磁性膜がもともと有する分極率よりも増大し、磁気抵抗効果率が向上する作用を及ぼす挿入膜を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 前記挿入層と第1の磁性層と第2の磁性層の界面において、当該挿入層材料の3ユニットセルと、当該磁性膜の3ユニットセルを、界面において一層分混在させた混合層を用いた場合に第一原理計算に基づく数値計算で混合層の電子密度を計算した場合に、少なくとも界面あるいは磁性層中における電子スピン密度にスピン偏極がみられることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- さらに、第1の磁性層の磁区を制御する磁区制御層を備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 前記磁区制御層は、前記第1の磁性層の両端に形成されていることを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。
- 前記磁区制御層は、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面側に形成され、反強磁性膜と磁性膜の多層膜であるこを特徴とする請求項20記載の磁気ヘッド。
- 一対のシールド層の間に前記磁気抵抗効果素子を有する再生部と、記録磁極を有する記録部とを備えることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 前記ハーフメタルは、スピン分極率の絶対値が60%をこえる高分極率材料であることを特徴とする請求項15記載の磁気ヘッド。
- 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する駆動部と、磁気抵抗効果素子及び一対の電極を有する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上の所定の位置に移動させるアクチュエーターと、前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行う信号処理手段とを備える磁気記憶装置において、
前記磁気抵抗効果素子が、第1の磁性層と、第2の磁性層と、前記第1の磁性層と第2の磁性層との間に形成された中間層と、前記第1の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面及び前記第2の磁性層の前記中間層と対向する面とは反対側の面のうち少なくとも何れか一方の面上にハーフメタルを含有する挿入層とを有し、
前記一対の電極から供給される電流は前記磁気抵抗効果素子の膜厚方向に流れることを特徴とする磁気記録再生装置。
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