JP2004202883A - 印刷意匠性シート、および印刷意匠性樹脂被覆金属板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】顔料により着色されたポリエステル系樹脂を主成分とする無延伸層(A層)、印刷インキ層(B層)、透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)を具備し、これらを積層一体化してなる印刷意匠性シート(A+B+C)において、A層を構成するポリエステル系樹脂は、押出しキャスト製膜により製膜されたシートのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算の重量平均分子量を65000〜140000の範囲にする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は家電製品外装や鋼製家具、エレベ−タ内装、ドア、ユニットバスの壁および天井等建物内装材の用途に用いられる意匠性樹脂被覆金属板に関するものであり、さらに詳しくは耐傷入り性、加工性に優れるとともに、印刷意匠性に優れ、且つ湿熱環境での耐久性にも優れた、ハロゲン含有樹脂を使用しない意匠性樹脂被覆金属板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、上記用途に用いられる意匠性樹脂被覆金属板としては、顔料の添加により着色された樹脂層を基材樹脂層(A層)として、その上に印刷層(B層)を設け、さらにその上に透明な樹脂フィルム(C層)を積層一体化したシ−トを鋼板にラミネートした構成のものが用いられてきた。
【0003】
該構成に於ける透明樹脂フィルムとしては、厚み10〜50μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムや、アクリル酸エステル系共重合体フィルム、2軸延伸ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂(以下「2軸延伸PET」という。)フィルム等を用いるのが一般的であった。この中でも各種物性のバランスに優れ、表面の平滑性や下地の印刷層の透視性にも優れる2軸延伸PET系フィルムが好ましく用いられてきた。
【0004】
同じく該構成における着色された樹脂層としては、軟質塩化ビニル系樹脂層を用いるのが一般的であった。これは軟質塩化ビニル系樹脂が、可塑剤を添加することで柔軟性を任意に設定でき、透明2軸延伸PET系樹脂フィルムを積層した構成においても良好な加工性が得られるという長所を有しているからである。加えて、長年の安定剤の研究に基づき、比較的良好な耐久性を有し、耐薬品性や、耐熱性、耐湿熱性等にも優れることからバスユニット等の用途にも好ましく用いられてきた。
【0005】
このような各種の長所から、着色軟質塩化ビニル系樹脂の表面に印刷を施し、透明2軸延伸PETフィルムを積層した構成のシートをラミネートした金属板は広汎に利用されてきたものである。
【0006】
しかし、近年塩化ビニル系樹脂の一部の安定剤に起因する重金属化合物の問題、一部の可塑剤や安定剤に起因するVOC問題や内分泌撹乱作用の問題、燃焼時に塩化水素ガスその他の塩素含有ガスを発生する問題等から塩化ビニル系樹脂は、その使用に制限を受けるようになってきた。
【0007】
そこで、該構成の着色された樹脂層の軟質塩化ビニル系樹脂に替えて、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を主体とし、スチレン系や共重合オレフィン系等の軟質成分を配合することで、軟質塩化ビニル系樹脂に近い物性を得たものを用いることが実施された。この構成においても二軸延伸PET系フィルムを積層した構成では、着色された樹脂層に塩化ビニル系樹脂を用いた場合と同等の優れた鏡面反射性を得ることが可能であった。
【0008】
しかし、プレコ−ト鋼板として充分な加工性を付与した場合は、軟質塩化ビニル系樹脂を用いた場合よりも表面の耐傷入り性に劣るものとなる。逆に耐傷入り性を軟質塩化ビニル系樹脂被覆金属板と同等にした場合は満足な加工性が得られないという問題があり、広汎に使用できるものとはならなかった。またポリオレフィンは本質的に接着性に劣る材料であることから、印刷意匠を付与し2軸延伸PETと積層する場合においても軟質塩化ビニル系樹脂より多工程を必要とする欠点を有していた。また、耐久性の面からも、この接着界面、及び金属板との接着に用いる接着剤との界面の経時安定性に関して不安が残るものであった。
【0009】
これら問題点を解決する材料としてポリエステル系樹脂を該構成の着色された樹脂層として用いることが検討されてきている。該樹脂を着色層として用いた場合は、耐傷入り性と加工性を軟質塩化ビニル系樹脂被覆金属板以上のレベルで両立させることが可能であり、ポリオレフィン系樹脂被覆金属板での諸問題も解決できるものである。
【0010】
しかし、非結晶性のポリエステル系樹脂を着色された樹脂層として用いた場合は、比較的低温のラミネートで金属板との強固な接着力を得られるが、そのガラス転移温度(Tg)が100℃より低いことに起因し、建築内装用樹脂被覆金属板の評価項目として一般的に含まれる耐沸騰水浸漬試験を満足することができない。これに対し、着色層として延伸された結晶性ポリエステルフィルムを用いた場合は、鋼板にラミネートする際にシートが熱収縮を生ずることや、ラミネート温度を比較的高温に設定する必要が有ることから各種の問題が生じる。
【0011】
即ち、鋼板との接着を強固にするには、延伸ポリエステルフィルムの少なくとも鋼板との接着面側からある程度の厚みが溶融する必要があり、ラミネート前の鋼板表面温度は該延伸ポリエステルフィルムの融点以上に設定されるのであるが、延伸フィルムの場合、融点まで昇温される前に延伸処理後の熱固定温度に到達することになる。その時点で延伸された方向への顕著な収縮が発生し、ラミネート時の皺入りや鋼板端部の露出等の問題を生ずるものである。また、結晶性が高いことは、溶融させるために鋼板から供給される必要のある熱量が比較的多いこととなり、これも高いラミネート温度が必要な理由となり、この場合、軟質PVCシートのラミネートに用いてきた既存のラミネ−トラインを改造する必要が出てくる。
【0012】
また該樹脂被覆金属板の裏面には塗装処理が施されることが有るが、この塗装も従来のものでは耐熱性に問題が出てくる。この場合、塗料を耐熱性の高いものに変更する、或いは従来ラミネ−ト前の鋼板の加熱と裏面に塗布した塗料の乾燥とを同時に行っていたものをラミネ−ト後に塗料を塗布し、再度乾燥加熱を行う様に改造する等を行わなくてはならない。さらには、積層一体化されたシ−ト中の印刷層(B層)の耐熱性も、従来のラミネ−ト温度では問題無かったものが、ラミネ−ト温度を上げた場合は熱変色、熱褪色等が顕著に現れる可能性があり、その場合、印刷インクの顔料種、バインダ−種の変さらにより印刷層の耐熱性を向上させることが必要となる。しかし、これら問題点を改善することは、鋼板ラミネ−トを製造する者のコストアップに繋がるものである。またラミネート温度を従来のものより高くすることは、環境・エネルギー負荷の増大を意味し、好ましいものでは無い。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
これらの場合に比べて、結晶性で且つ延伸処理を施していない(以下、「無延伸」と記すことがある。)ポリエステルフィルムを用いた場合は、結晶性を有していることによりガラス転移温度(Tg)を越えても高い弾性率が維持され、その結果耐沸騰水浸漬試験で問題が発生することもなく、ラミネート温度も融点+30℃程度以下で強固な接着力を得られるため、ポリエステル樹脂の融点を調整することにより、或いは、融点は変えずに結晶性を低下させることにより、従来のラミネート設備、ラミネート条件をそのまま流用することが容易である。
【0014】
しかし、無延伸ポリエステルフィルムの耐久性、特に耐湿熱性は、延伸ポリエステルフィルムに比べ劣るものであり、さらに、着色樹脂層(A層)には、着色のために顔料成分が添加されるが、それが成型時、及び使用時にポリエステル系樹脂の開重合触媒として作用し、無着色の同一組成樹脂に比べ、やはり耐久性を低下させる要因となっている。
【0015】
その結果として、表層の透明延伸ポリエステル系フィルムが大きな劣化を受けないうちから、着色ポリエステル系樹脂層が顕著な劣化を示し、表層フィルムが剥離脱落する等の問題が発生する。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記の問題点を解決するため、請求項1に記載の発明では、無延伸の着色ポリエステル系樹脂層のシート製膜後の平均分子量を65000〜140000の範囲に規定することで、着色層の耐久性、特に耐湿熱性を良好なものとすることができる。
【0017】
請求項2の発明では、着色層(A層)のポリエステル系樹脂成分としてポリブチレンテレフタレート系樹脂を含み、その結晶融解熱量ΔHm(J/g)を
10<ΔHm<60
とすることで、従来のラミネート条件で強固な接着力を得やすいものとすることができる。
【0018】
請求項3の発明では、透明表層として2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることにより、表面の平滑性や耐薬品性等の良好な印刷意匠フィルムを得ることができる。
【0019】
請求項4の発明では、ポリエステル系樹脂を主成分とする着色層(A層)と印刷インキ層(B層)との間に接着剤層が介在することにより、該層間の接着力をより強固なものにすることができる。
【0020】
請求項5の発明では、ポリエステル系樹脂を主成分とする層(A層)に樹脂分100重量部に対し、カルボジイミド化合物が0.25重量部以上、5.00重量部以下の比率で添加することにより、押出し製膜時の水分の影響や、顔料の触媒作用による分子量の低下を抑制することができるため、着色層の耐久性、特に耐湿熱性を良好なものとすることができる。
【0021】
請求項6の発明では、請求項1〜5に記載の印刷意匠性シートを熱硬化性接着剤により金属板にラミネートすることにより、建物の内装材用途に好適に使用できるものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
【0023】
図1(a)は本発明の印刷意匠性シートの基本構成を示す模式断面図である。表面側から順に、透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)、印刷インキ層(B層)、着色されたポリエステル系樹脂を主成分とする無延伸層(A層)、の構成になっている。
【0024】
図1(b)では、図1(a)の構成に加えて、印刷インキ層(B層)と着色されたポリエステル系樹脂を主成分とする無延伸層(A層)との間に接着剤層(D層)が設けられている。
【0025】
図1(c)では、印刷インキ層が(B−1)、及び(B−2)の2層より構成されており、模様印刷層とベタ印刷層等に対応している。
【0026】
図1(d)は、印刷意匠樹脂被覆金属板の一例を示し、図1(a)に示す構成の積層樹脂シートが熱硬化性の接着剤Eを介して金属板F上に積層されている。また、図1(b)及び図1(c)に示す構成の積層樹脂シートが同様に金属板F上に積層されていてもよい。
【0027】
<1> 着色されたポリエステル系樹脂の無延伸層(A層)
以下、着色されたポリエステル系樹脂を主成分とする無延伸層(A層)を単に、「着色された樹脂層」、或いは「A層」と呼ぶことがある。また、A層を構成する樹脂成分を「樹脂A」と呼ぶことがある。A層は無延伸のポリエステル系樹脂層であるが、ここで「無延伸」とは意図して延伸操作を付与しないことであり、例えば、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取りで発生する配向等が存在しないということまでを意味するものではない。
【0028】
本発明における、着色された樹脂層(A層)の主成分となるポリエステル系樹脂としては、アルコ−ル成分としてエチレングリコールや、プロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸等の各単独成分の重合体、又は共重合体の中から任意に選定された樹脂の、単体もしくはブレンド体を用いることができる。これらは、顔料を添加し、押出し製膜した状態において、GPCによるスチレン換算の重量平均分子量が65000〜140000の範囲であることが必要である。
【0029】
ポリエステル系樹脂の湿熱環境での使用に於ける主要な劣化因子は、加水分解であると考えられる。これによる機械的物性の劣化としては脆化が進行し、フィルムなどでは折り曲げると割れる状態になる。樹脂被覆金属板の状態においても、フィルム層の脆化によるクラックの発生、フィルム層の剥落等を生ずるもので、外観上著しく意匠性を損なうと同時に、金属板に樹脂層を被覆することの目的でもある金属表面の防蝕効果や意匠性付与効果も得られなくなる。
【0030】
一方、加水分解による劣化はポリエステル鎖中のエステル結合部分で発生するものであり、分子量の低下をもたらす。製膜シートの状態で既に分子量が低いものは、短期間の湿熱環境での使用で上記の如き機械的物性の劣化を生じる。製膜時に比較的高い分子量が得られているものでは、湿熱環境の使用でも機械的物性の低下を来すまでに比較的長期間の耐久性を示す。このことは、湿熱環境での使用でいずれも同様に分子量の低下を来すものの、初期の分子量が高いものほど、同一期間が経過した後の分子量も高いことを示唆している。また、フィルムの割れ等の物理的劣化の現出は、分子量の絶対値がある一定の値を下回った所で顕著に起こり始めることを示唆している。従って、樹脂Aを耐湿熱性のよい製膜シートとするには、使用樹脂原料の面からは、ある程度分子量の高いものを選定する。
【0031】
製膜設備の面からは、
1.分子量低下を抑制するため、スクリューデザインを最適化する。
2.適正な位置へのベント装置の取り付けにより成形時の加水分解を低減する。
3.滞留時間が必要以上に長くならないようにする。
4.原料の乾燥工程に工夫し吸湿水分の影響を低減する。
等の処置を行う必要がある。
【0032】
また樹脂Aの配合面からは、
1.着色顔料として熱触媒作用や、加水分解促進作用のあるものは使用しない。
2.使用する場合は、触媒活性を封止する。
3.滑剤の添加により成形機内での機械的分子切断を低減する。
4.同じく滑剤の添加で剪断発熱を低減する。
5.加水分解防止剤を添加する。
等の方策が考えられる。
【0033】
本発明の樹脂Aの製膜シートの時点での重量平均分子量は65000〜140000の範囲である必要があるが、これより分子量が低い場合は、上記の如く樹脂被覆金属板として湿熱環境中で使用された場合の耐久性が充分なものとならず好ましくない。逆にこれより分子量が高い場合は、使用する樹脂原料自体の分子量としてさらに高いものを使う必要があり、これは一般的・継続的に得られるものでは無いためコストの高いものとなり好ましくない。また、このような樹脂原料が得られたとしても、成形機内での分子鎖の機械的切断が顕著になることにより、シートに製膜した時点では耐久性向上効果は飽和するのみでなく、製膜時の所要エネルギーが多くなり好ましくない。
【0034】
本発明の樹脂Aとしては、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下において「PBT」と記すことがある。) を好ましく用いることができる。これは
1.押出しグレードとして初期分子量の比較的高いグレードが揃っていること。
2.ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりも加水分解反応速度が小さいこと(「ポリ(1、4―ブチレンテレフタレート)の熱及び加水分解特性」・繊維学会誌、vol.43、No.7(1987)・東レ株式会社繊維研究所 田中三千彦氏を参照されたい。)、
3.結晶性樹脂であるが結晶領域の弾性率がポリエチレンテレフタレート系樹脂より低く、結晶部のフレキシビリティーが高いため、比較的結晶性が高い状態で金属板に被覆されても、良好な加工性を示すこと。
4.融点(Tm)が従来の軟質PVCシートラミネート時の金属板表面温度と同程度か、やや低い温度である点から軟質PVCシートのラミネートに用いてきた設備をそのまま適用できること、
等による。
【0035】
酸成分としてテレフタル酸、アルコール成分として1、4-ブタンジオールのみを用いた所謂ホモ・ポリブチレンテレフタレートも、本発明の樹脂Aとして好適に用いることができる。ラミネート時の金属板表面温度をさらに下げたい場合等は、酸成分の一部をイソフタル酸で置換した共重合PBTを用いてもよい。
【0036】
また、樹脂Aの結晶性ポリエステルとしてホモPBTを使用し、非結晶性、或いは低結晶性のポリエステル系樹脂をブレンドしてもよい。これは、ホモPBTのみを用いた場合に比べてブレンド組成では、結晶融解熱量(ΔHm)が小さくなるため、ラミネート前の金属板表面温度を比較的低く設定しても強固な接着力が得られるからである。加えて、非結晶性、或いは低結晶性樹脂をブレンドすることで、結晶化速度を適度に遅くすることができ、また、ガラス転移温度(Tg)を上昇させることができることから、押出し製膜時に結晶性の低い状態のシートを得ることが可能となり、その結果、非結晶性のポリエステル樹脂をラミネートするのと同様にPBT樹脂の融点以下の比較的低温でのラミネートが可能となるからである。
【0037】
ただし、樹脂AとしてPBT樹脂を、或いはそのブレンド体を使用した場合は、結晶融解熱量ΔHm(J/g)を10以上、60以下の値とする必要がある。該値がこれより小さいと、非結晶性樹脂、或いは低結晶性樹脂のブレンド比率が高くなり、耐沸騰水浸漬試験に合格することが難しくなるため、好ましくない。また一般的に入手できる結晶性ポリエステル系樹脂を無延伸で製膜して得られるΔHmは60(J/g)程度以下である。
【0038】
このように、PBTに非結晶性樹脂をブレンドして用いることは、ラミネート条件からは好ましいのであるが、押出し製膜シートの分子量の点からは一般的に低下する方向になる。これはホモPBT樹脂では比較的初期分子量の高いグレードが存在するのに対し、非結晶性ポリエステル系樹脂においては、それほど高い分子量のものを入手できないことによる。
【0039】
PBT樹脂とブレンドする非結晶性、或いは低結晶性ポリエステルの耐湿熱性に関しては、その分子量のみでなく分子構造にも由来する。同一重量中でのエステル結合の数、酸成分、アルコール成分の構造と水分子に対する立体障害作用の有無等が異なり、一概に初期分子量のみでは議論できない部分もある。工業的に入手可能なこれら原料をPBT樹脂とブレンドした系においては、ほぼ初期のシートの分子量と耐湿熱性を関係付けることができる。
【0040】
PBT樹脂にブレンドする非結晶性の樹脂としては、原料の安定供給性や生産量が多いことから低コスト化が図られているイ−ストマンケミカル社の「イースター・6763」や、それに類する樹脂を用いることが好ましい。ただし、これに限定されるものではなく、ネオペンチルグリコール共重合PETで結晶性を示さないものや、特殊な冷却条件では融点を示すものの、一般的には非結晶性樹脂として取り扱うことが可能なイ−ストマンケミカル社の「PCTG・5445」等を用いてもよい。
【0041】
A層にはその性質を損なわない程度に、各種の添加剤を適宜な量添加してもよい。添加剤としては、燐系・フェノール系などの各種酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、造核剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材など、樹脂材料に一般的に用いられているものを挙げることができる。
【0042】
さらに、添加剤により樹脂Aの押出し製膜時の分子量低下を抑制し、本発明の範囲の分子量の着色シートを得る方法として、カルボジイミド化合物を添加してもよい。該カルボジイミド化合物は押出し製膜時に成型機内において加水分解を抑制し、結果として本発明の請求の範囲の分子量を有する着色シートを得易くなる効果を表す。カルボジイミド化合物としては、下記一般式の基本構造を有するものがあげられる。
【化1】
−(N=C=N−R−)n−
(上記式において、nは1以上の整数を示す。Rはその他の有機系結合単位を示す。)
【0043】
これらのカルボジイミド化合物は、Rの部分が、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかでもよい。具体的には、例えば、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、および、これらの単量体があげられる。該カルボジイミド化合物は、単独、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
カルボジイミド化合物の好ましい添加量は、樹脂分量を100として、0.1重量部以上、5.0重量部以下である。該範囲を下回る場合は、耐加水分解性改良効果が充分でなく好ましくない。また、該範囲を上回る場合には、分子量低下を抑制する効果が飽和すると同時に、押出し製膜性に各種問題が生じる虞があるのと、製膜後のシートに関してもカルボジイミド化合物のブリードアウトによる外観不良や機械物性の低下を起こし易く好ましくない。また樹脂Aの配合コストも高価なものとなり好ましくない。
【0045】
加水分解防止作用を有する添加剤としては、多官能のエポキシ基を有するブロック共重合体やグラフト共重合体等がある。これに関しても、樹脂Aが必要とする耐湿熱性以外の性能(表面硬度・耐折り曲げ加工性等)を悪化させない範囲で適宜量添加することができる。これらの添加剤によりポリエステル系樹脂の加水分解性が改善されること自体は公知である。
【0046】
A層に顔料を添加する目的は、下地の基材金属板の隠蔽、意匠性の付与、印刷インキ層(B層)の発色性の改善などである。A層に添加される顔料は、なるべくポリエステル系樹脂の開重合触媒として作用しないものを選ぶ必要がある。白系の着色では酸化チタン顔料を使用する必要があり、この場合はルチル系酸化チタンで表面処理が充分行われているものを選ぶ必要がある。アナターゼ型酸化チタンは表面処理の剥離を生じやすく好ましくない。
【0047】
酸化チタン系の顔料で着色する場合に加えて、着色顔料を添加し有彩色に着色する場合もその顔料種が、ポリエステル樹脂の劣化を促進するものでないか注意が必要である。色味によって押出し製膜時の分子量低下に大きな差異が現れるような場合は、劣化を著しく促進する顔料種は使わないことが好ましい。そのような選択肢がとれない場合には、カルボジイミド化合物の添加が好ましい。
【0048】
なお、本発明におけるA層は厚みが50μm〜500μmの範囲をとることから、「フィルム及びシート」と記すのがより正しいが、ここでは一般的には「フィルム」と呼ばれている厚み範囲のものに関しても便宜上「シート」という呼称を使用した。
【0049】
<2> 印刷層(B層)
印刷インキ層(B層)は、グラビア、オフセット、スクリ−ン等、公知の方法で付与される。石目調、木目調、或いは幾何学模様、抽象模様等の印刷意匠性の付与が目的である。部分印刷でも全面ベタ印刷でもよく、部分印刷層とベタ印刷層の両方が施されていてもよい。一般的には平滑性の良好な透明延伸ポリエステル系樹脂フィルム(C層)の積層面側に所謂バックプリントを施しておく方法が用いられるが、着色されたポリエステル系樹脂層(A層)への表面印刷としてもよい。
【0050】
<3> 透明延伸ポリエステル系樹脂フィルム(C層)
本発明に使用する透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)としては、軟質塩化ビニル系樹脂被覆金属板やオレフィン系樹脂被覆金属板等に対して同様の目的、すなわち印刷層の保護、深みのある意匠性の付与、表面の各種物性の改良等の目的で用いられてきたものと同じものを使用することができる。中でも透明性や平滑性、表面の耐傷入り性等の点から2軸延伸されたポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂フィルムが好適に用いられる。厚みが、15μm〜75μm程度であり、延伸倍率は2軸方向に各3.5〜4倍程度、延伸処理後の熱固定温度が220℃〜240℃程度の、従来軟質PVCシートへのオーバーレィ用途に一般的に用いられてきたものを使用することができる。
【0051】
<4> 接着剤層(D層)
本発明の着色されたポリエステル系樹脂層(A層)と印刷インキ層(B層)との間、または印刷インキ層(B層)と透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)との間には接着剤層(D層)が介在してもよい。前者の場合はバックプリントを施したC層の印刷面をA層と接着積層する場合に該当する。また、後者は表面印刷を施したA層の印刷面をC層と接着積層する場合に該当する。該接着剤層(D層)としては、ポリエステル系樹脂や、ポリエーテル系樹脂等を主剤とし、イソシアネート系架橋剤等で硬化する、一般的にドライラミネート用接着剤と呼ばれるものが使用できる。
【0052】
この種接着剤の中でも紫外線による黄変の問題が少ない観点から、脂肪族系のものを使用することが好ましい。また、特にポリエステル系樹脂層(B層)に耐光安定性が悪い顔料を添加した場合等、B層への紫外線透過量を制御する必要が有る場合には、接着剤層(F層)にも、その性質を損なわない程度に紫外線吸収剤のような添加剤を適宜配合することが望ましい。また、一般的に硬化型接着剤に添加される各種添加剤を適宜な量含んでもよく、さらにマイカ粉やホログラム箔等を分散させて接着剤層に意匠性を付与してもよい。
【0053】
<5> 金属板
本発明の対象になる金属板としては熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板等の各種鋼板や、アルミニウム板を使用することができる。これらは、通常の化成処理を施した後に使用してもよい。基材金属板の厚さは、樹脂被覆金属板の用途等により異なるが、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶことができる。
【0054】
<6> 印刷意匠性シート、及び樹脂被覆金属板の製法
次に本発明の印刷意匠性シート及び該シートを被覆した印刷意匠性樹脂被覆金属板の製造方法について説明する。本発明のA層の製膜方法として、特に限定されるものではないが、公知の方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法やインフレーション法などを使用することができる。これらの中では、シートの製膜性や安定生産性などの面からTダイを用いる押出キャスト法を使用することが好ましい。
【0055】
シート製膜時の分子量低下を低減するため原料乾燥は充分に行い、さらにベント装置を備え、滞留時間が長くならないように設計された押出機であることが好ましい。
【0056】
A層の厚みは、通常50〜500μmとすることが好ましい。A層の厚みが50μm未満では、樹脂被覆金属板用として使用した場合、金属板に対する保護層としての性能が劣り好ましくない。また、下地鋼板の隠蔽能力が低いため、印刷柄やA層の色みが、下地鋼板の色の影響を受けることとなり、好ましくない。一方A層の厚みが500μmを超えると、樹脂被覆化粧金属板としての打ち抜き加工等の二次加工適性が悪化することがあるので好ましくない。また金属板に樹脂層を被覆する本来の目的である防蝕効果も飽和し、さらにコストの面からも好ましくない。
【0057】
本発明の構成の一例として、着色されたポリエステル系樹脂層(A層)と、所謂バックプリントにより印刷層(B層)を施した透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)との積層は、あらかじめ製造したそれぞれのシ−トのうち、いずれかの積層する面に接着剤層(D層)を設けて積層する方法等によることができる(図1(a)参照)。
【0058】
接着剤層(D層)は、先に述べた接着剤を溶剤に希釈し、コ−タで塗布した後、連続的に乾燥炉へ導入して溶剤を揮散させ、しかる後にもう一方のフィルムと重ね併せて一対のロ−ル間を通過させることにより、加熱、加圧し積層一体化する。これは塩化ビニル系樹脂やポリオレフィン系樹脂を用いた印刷意匠性樹脂被覆金属板の製法としても一般的に行われてきたものである。
【0059】
上記で積層一体化したシ−トを基材金属板にラミネートすることで、本発明の樹脂被覆金属板を得る(図1(d)参照)。ラミネ−トに用いる熱硬化型接着剤層(E層)としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、等各種公知のものを挙げることができる。金属板にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用し、積層一体化されたシートを貼り合せる金属面に、乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように接着剤を塗布する。次いで、赤外線ヒーター及び、又は熱風加熱炉により塗布面の乾燥および加熱を行い、金属板の表面温度を任意の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて積層シ−トを被覆、冷却することにより樹脂被覆金属板を得ることができる。
【実施例】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、次に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
<A> 測定規格、および試験法
実施例および比較例に示した樹脂被覆金属板の物性の測定規格、試験法は以下の通りである。
【0061】
(1)ポリエステル系樹脂の重量平均分子量
東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーHLC−8120GPCに、(株)島津製作所製クロマトカラムShim−PackシリーズのGPC−800CPを装着し手使用した。試料調製にヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム=1/20(vol./vol.)混合溶媒を用いた。また、試料溶液濃度0.476wt/vol%、溶液注入量10μLで、移動相溶媒にクロロホルムを用いた。溶媒流速1.2ml/分、溶媒温度40℃で測定を行い、ポリスチレン換算で、ポリエステル系樹脂の重量平均分子量を算出した。用いた標準ポリスチレンの重量平均分子量は、2000000、430000、110000、35000、10000、4000、600である。押出し製膜後の樹脂Aに関し測定を行った。
【0062】
(2)結晶融解ピーク(Tm)、及び結晶融解熱量(ΔHm)
パーキンエルマー製示差走査熱量計DSC−7を用いて、JIS−K7121「プラスチックの転移温度測定方法−融解温度の求め方」に準じて、試料10mgを加熱速度10℃/分で加温して測定した。1次昇温時の結晶融解ピ−クトップ温度をTmとした。またそのピーク面積から、結晶融解熱量(ΔHm)を求めた。これらは、押出し製膜後の樹脂Aに関し測定を行った。
【0063】
(3)耐久性(耐湿熱性)試験
60mm×60mmの樹脂被覆金属板試料片を60℃×98%RHの恒温恒湿槽中に2ヶ月間静置した。その後、「JIS K−6744」で規定されるエリクセン試験装置を用いて、樹脂被覆側が凸になるように6mmの張り出し加工を行った。その際、樹脂シートの面状態を目視で判定し、全く変化のなかったものを(○)、着色された樹脂層(A層)に僅かなクラックが認められたものを(△)、A層に著しいクラックが認められるもの、及びA層の劣化に伴い、C層の剥離が発生したものを(×)として表示した。
【0064】
(4)耐沸騰水性試験
60mm×60mmの樹脂被覆金属板試料片をそのまま、及び「JIS K−6744」で規定されるエリクセン試験装置を用いて、樹脂被覆側が凸になるように6mmの張り出しを設けたものの2種類のサンプル形態で、沸騰水中に3時間浸漬した。その樹脂シートの面状態を目視で判定し、全く変化のなかったものを(○)、若干表面に荒れがでたものや、表層に積層した透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂フィルムとの間に僅かな剥離を生じたものを(△)、樹脂層に著しい膨れ等の変形が生じたものを(×)として表示した。
【0065】
(5)加工性
樹脂被覆金属板に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部の化粧シートの面状態を目視で判定し、ほとんど変化がないものを(○)、若干クラックが発生したものを(△)、割れが発生したものを(×)として表示した。なお、衝撃密着曲げ試験は次のようにして行った。
50mm×150mmの被覆金属板試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、折り曲げ試験機を用いて180°(内曲げ半径2mm)に折り曲げ、その試料に直径75mm、質量5Kgの円柱形の錘を50cmの高さから落下させた。
【0066】
<B> 積層フィルムの作製
表1に示す樹脂組成・酸化チタン顔料種・押出し条件で、二軸混練押出機を用いて、厚さ80μmの着色されたポリエステル系樹脂シート(A層)を製膜した。
【表1】
【0067】
表1中に記載した樹脂組成として具体的に以下のものを用いた。
【0068】
PBT:ノバデュラン 5008 (三菱エンジニアリングプラスチックス社製)原料の平均分子量(MW)=68000
【0069】
PBT:ノバデュラン 5020S (三菱エンジニアリングプラスチックス社製)原料のMW=113000
【0070】
PBT:デュラネックス 800FP (ウィンテックポリマー社製)原料のMW=140000
【0071】
co-PET:BK−2180 (三菱化学ポリエステル社製)酸成分の7%がイソフタル酸である共重合PET 原料のMW= 65800
【0072】
PETG : イ−スタ−6763 (イ−ストマンケミカル社製)アルコール成分の約31mol%が1、4-シクロヘキサンジメタノールで置換された非結晶性PET 原料のMW=75600
【0073】
PCTG : 5445 (イ−ストマンケミカル社製)アルコール成分の約70mol%が1、4-シクロヘキサンジメタノールで置換された実質的に非結晶性のPET 原料のMW=72000
【0074】
酸化チタンA: ルチル型酸化チタン 05℃水分値:1390ppm 表面処理 アルミナ1.3% シリカ0.23%
【0075】
酸化チタンB: ルチル型酸化チタン 105℃水分値:3700ppm 表面処理 アルミナ1.8% シリカ0.09%
【0076】
カルボジライトHCM−8V: (日清紡社製) カルボジイミド系加水分解防止剤
【0077】
押出し条件は、65mm径で、スクリュー有効長さをL、スクリュー直径をDとしたとき、L/D=30 の真空ベント装置を有する同方向2軸混練押出し機を用い、Tダイの設定温度を250℃として、押し出し製膜を行い、キャスティングロールによる引き取りで、厚み80μmのシートとした。キャスティングロールの設定温度は樹脂の配合組成により適宜変更するが、一例として実施例5〜9の場合は設定温度を65℃とした。
【0078】
A層を製膜した時点で重量平均分子量、及びTm、ΔHmの測定を行った。結果を表2に示す。
【表2】
【0079】
次いで、厚さ25μmの透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂フィルム(三菱化学ポリエステル社製・C層)の片面にグラビアコ−ト法によって抽象模様の部分印刷を施し(印刷層(B層))、該印刷面に熱硬化型ポリエステル系接着剤(接着剤層(D))を塗布し、着色されたポリエステル系樹脂シ−ト(A層)と重ね合わせて、誘導加熱で50℃に加熱された一対のロ−ル間を通過させることにより一体化し、さらに40℃で5時間養生することにより本発明の印刷意匠性シートとした。二軸延伸ポリエチレンテレフタレ−ト系樹脂フィルムの種類、印刷インク及び熱硬化型ポリエステル系接着剤の種類、付与条件等は全ての実施例及び比較例において同一である。
【0080】
<C> 樹脂被覆金属板の作成
次にポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられているポリエステル系接着剤を、金属面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になる様に塗布した(接着剤層(E))。次いで、ラミネート直前の亜鉛めっき鋼板(厚み0.45mm)の表面温度Ts(℃)を235℃に設定し、熱風加熱炉および赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥および加熱を行なった。その後、直ちにロールラミネータ−を用いて印刷意匠性シートを被覆、自然空冷冷却することにより樹脂被覆鋼板を作製し、上記した各項目を評価した。接着剤の種類、塗布条件は、全ての実施例及び比較例において同一である。
【0081】
<D> 印刷意匠性樹脂被覆金属板の評価
得られた印刷意匠性樹脂被覆金属板に対し、前記(3)〜(5)の評価を行った。結果を表3に示す。
【表3】
【0082】
この結果より以下のことがわかる。
D−1.耐久性(耐湿熱性)
(1−1)比較例1〜3、及び8、9は使用する樹脂原料の初期分子量が低いことに起因して押出し製膜後の樹脂Aの分子量も低くなったものであり、耐湿熱性試験の結果、樹脂A層に顕著なクラックが発生した。
(1−2)比較例4及び5は顔料として用いた酸化チタンの種類、又は量に起因して押出し製膜後の樹脂Aの分子量が低くなったもので、やはり耐湿熱性試験で悪い結果となっている。
(1−3)比較例6及び7は樹脂Aの樹脂組成(ブレンド比率)が悪いことにより押出し製膜後の分子量が低くなったもので、やはりこの場合も耐湿熱性はよくない。
(1−4)これらに対し本発明の実施例1〜11ではいずれも良好な耐久性(耐湿熱性)が得られている。実施例12は、比較例3の樹脂組成に加水分解防止剤を添加したものであり、初期分子量が維持されたことにより耐湿熱性は向上しているが、樹脂原料としては初期分子量の低いものを使用しているため、実施例1〜11に比べやや悪い結果となった。
【0083】
D−2.耐沸騰水性
(2−1)結晶化速度の遅いイソフタル酸共重合のPETを樹脂原料として用いた比較例8及び9では、沸騰水浸漬時に完全非結晶性樹脂の場合と同様に著しい樹脂層の荒れが発生した。
(2−2)比較例7は結晶化速度の速いポリブチレンテレフタレート樹脂を樹脂原料として用いているが、その使用量が少ないことから、(ΔHm)が請求項2に規定した値より小さく、その結果耐沸騰水浸漬に耐えられない。
(2−3)比較例6は、比較例7よりは結晶性が高く、平板の沸騰水浸漬では問題無かったが、エリクセン試験機で変形を付与したサンプルでは変形部の麓の部分で表層の2軸延伸PETフィルムと樹脂A層との間に僅かに剥離が認められた。変形部においては、2軸延伸PETフィルムが伸ばされて収縮方向の応力が生じることにより、平板の場合よりも樹脂A層により高い結晶性がないと耐沸騰水性を得られないものと考えることができる。実施例8及び9に関しても耐沸騰水性に関しては同様の結果となった。
(2−4)実施例1〜7、10〜12、及び比較例1〜5では、結晶化速度の速いポリブチレンテレフタレート樹脂の使用量が比較例6、実施例8、9より多く、変形を付与した部分の耐沸騰水性も良好である。
【0084】
D−3.加工性
(3−1)加工性に関しては、全ての実施例及び比較例で良好な結果が得られた。
【0085】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う印刷意匠性シート、印刷意匠性樹脂被覆金属板、および建物内装材もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0086】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の樹脂被覆金属板は、ポリエステル系樹脂層(A層)の分子量を特定の範囲とすることで、耐久性(耐湿熱性)の良好な樹脂被覆金属板を得られるものであり、さらにA層の結晶性樹脂成分の種類とDSC測定値(ΔHm)を特定のものとすることで耐沸騰水性に優れた樹脂被覆金属板を得られるものである。これらの特徴により該樹脂被覆金属板はバスユニット等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】印刷意匠性シートの基本構成を示す模式断面図である。
【符号の説明】
A 無延伸層
B 印刷インキ層
C 透明延伸ポリエステル系樹脂層
D 接着剤層
E 接着剤
F 金属板
Claims (7)
- 顔料により着色されたポリエステル系樹脂を主成分とする無延伸層(A層)、印刷インキ層(B層)、透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)を具備し、これらを積層一体化してなるシ−ト(A+B+C)であって、
前記A層を構成するポリエステル系樹脂は、押出しキャスト製膜により製膜されたシートのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算の重量平均分子量が65000〜140000の範囲にあることを特徴とする印刷意匠性シート。 - 前記ポリエステル系樹脂を主成分とする層(A層)は、結晶性ポリエステル樹脂成分としてポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)系樹脂を含むとともに、示差走査熱量計(DSC)により昇温時に明確な結晶融解ピーク温度(Tm)が観測され、その結晶融解熱量をΔHm(J/g)とするとき、関係式
10<ΔHm<60
が成立することを特徴とする請求項1に記載の印刷意匠性シート。 - 前記透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)が2軸延伸ポリエチレンテレフタレ−ト樹脂フィルムである請求項1または2に記載の印刷意匠性シート。
- 前記ポリエステル系樹脂を主成分とする層(A層)と前記印刷インキ層(B層)との間、または前記印刷インキ層(B層)と前記透明延伸ポリエステル系樹脂層(C層)との間に、接着剤層(D層)が存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の印刷意匠性シート。
- 前記ポリエステル系樹脂を主成分とする層(A層)において、樹脂分100重量部に対し、カルボジイミド化合物が0.1重量部以上、5.0重量部以下の比率で添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷意匠性シート。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の印刷意匠性シートのA層側を接着面として、熱硬化性接着剤によって金属板上に積層した印刷意匠性樹脂被覆金属板。
- 請求項6に記載の印刷意匠性樹脂被覆金属板を用いた建物内装材。
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