JP2004197534A - 擁壁用透水パネルと該透水パネルを備えた擁壁構造およびその施工方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】施工コストを大きく低減でき、かつ、土砂の流出は阻止しながら擁壁背面水の排水は確実に行うことの擁壁用透水パネルと擁壁構造を得る。
【解決手段】擁壁構造において、排水用の水抜き孔2を持つ擁壁1の背面に、表裏両面に多数の凹溝12を有し、表裏の凹溝は多数の透水孔13により連通されているパネル本体11と該パネル本体の表裏面に積層した不織布のような透水性シート20とからなる擁壁用透水パネル10を、密接状態に配置する。
【選択図】 図1
【解決手段】擁壁構造において、排水用の水抜き孔2を持つ擁壁1の背面に、表裏両面に多数の凹溝12を有し、表裏の凹溝は多数の透水孔13により連通されているパネル本体11と該パネル本体の表裏面に積層した不織布のような透水性シート20とからなる擁壁用透水パネル10を、密接状態に配置する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、裏込め栗石を用いることなく擁壁背面水の排水を安定して行いうるようにした擁壁用透水パネルと該透水パネルを備えた擁壁構造およびその施工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
道路や隣地と接する地盤面に高低差がある土地を造成する際、図11に示すように適当な勾配をもつ法面のままで造成しても差し支えないが、長年の間には法面が危険な状態になることが想定されることから、さらには、土地を有効に活用して多少でもより多くの平坦地を確保できるように、図12に示すように、その高低差のある境界付近に石積み擁壁あるいは鉄筋コンクリート造などの擁壁(1)を設けるケースが多い。
【0003】
石積み擁壁は互いに接する石のすき間から多少なり擁壁背面水が容易にしみ出してくれるので、常水位が上昇して生じる水圧による崩壊の危険性は少ない。しかし、あまり高低差のある擁壁を造り込むには構造上不向きである。一方、鉄筋コンクリート造の擁壁は比較的高低差があっても安心して構築できる。しかし、鉄筋コンクリート造の擁壁は、石積み造と異なり擁壁背面水が排水しにくく、擁壁背面水がスムースに擁壁の外側に常時排水して水圧を低下させるための、何らかの排水装置を設けることが必要となる。
【0004】
通常は、図13に示すように、コンクリート造擁壁に適当な間隔で多数の排水用の水抜き孔(2)を形成すると共に、擁壁(1)の背面側には所定の厚みに栗石や砂利石(3)を排水層(4)として積み上げ、該排水層(4)を通過した擁壁背面水を擁壁(1)に形成した排水用の水抜き孔(2)を通して外側に排水するようにしている。排水層(4)を構成する栗石や砂利石(3)の積み上げ作業を機械により行うことは現状では難しく、人手に頼らざるを得ない施工上の問題点が指摘されている。排水機能を損なうことなく排水層(4)が合理的に施工できれば、建設現場の生産性と併せて作業の安全性が飛躍的に向上する。
【0005】
栗石や砂利石を積み上げることなく擁壁背面側に排水層を形成するようにした擁壁構造がいくつか提案されている。例えば、特許文献1(特開平8−326075号公報)には、排水層に相当する栗石代用部品を用いる擁壁施工法が記載されており、ここで、該栗石代用部品は、全体が硬質の合成樹脂で作られており、その内部に適当な割合の間隙を有し、表面には該隙間に繋がる通水孔が設けられている。この栗石代用部品が間知ブロック積擁壁またはコンクリート造擁壁の背面に適宜の手段に設置される。擁壁背面水は栗石代用部品の表面に形成した通水孔から栗石代用部品の内部の間隙に流入し、コンクリート壁側の通水孔を通って外部に排水される。この栗石代用部品は、前面型枠と組み合わせた背面型枠として利用することもでき、その間にコンクリートを打設してコンクリート造擁壁を築造することができる。このような栗石代用部品を使用することにより、作業工程の短縮とコストダウンを期待することができる。
【0006】
また、特許文献2(特開平9−256398号公報)には、空隙形成用の凸部を多数形成した樹脂板とその凸部の先端側に貼り付けた透水性の網様体をからなる排水材を用い、該排水材を地山床面上に築造される擁壁の背面にその樹脂板側を当接させて配置するようにした擁壁築造工法が記載されている。この排水材は裏型枠として用いることもできる。この工法も排水層を栗石などを用いることなく施工できることから、施工時の作業工程の短縮化とコストダウンを期待することができる。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−326075号公報
【特許文献2】
特開平9−256398号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1(特開平8−326075号公報)に記載の栗石代用部品は、表面に形成した通水孔からその内部に形成された間隙に流入した後、外部に排出される形態であり、内部に突起部や補強部を設けて強度を保つようにしているとはいえ、大きなコンクリート側圧や地山側の土圧に対して充分な耐性を持たせるには構造的に不向きであり、実際の施工においては、材料、形状および寸法などに充分な注意を払う必要がある。
【0009】
また、擁壁背面水の取り入れ部位は表面に形成した通水孔の部分のみであり、強度との関係から通水孔の数にも限度があることから、必要充分な背面水取り入れ面積を得ることは容易でない。孔の直径を大きくすることにより容易に大きな取り入れ面積を得ることができるが、反面、該孔から土砂の流入が生じ、排水性能が低下すると共に、擁壁背面での地盤沈下の要因となりやすい。
【0010】
特許文献2(特開平9−256398号公報)に記載の排水材は、樹脂板に形成した空隙形成用の多数の凸部の先端側に透水性の網様体を貼り付けた構成であることから、網様体には地山側の土圧に耐えるだけの構造的強度が求められる。そのために、実際の施工においては、貼り付ける網様体の素材や構造は限られたものとなり、また、重量物とならざるを得ない。樹脂板と網様体を一体化する作業も容易でない。該公報に記載された図を見る限り、網様体に形成される通水孔はかなり大きな面積のものであり、土砂が流入するのを避けられない。それを回避するには、別途目の細かい透水性のあるシートなどを配置することが必要となる。そのようなことから、この擁壁築造工法は、実際の施工は容易でなくコスト低減もさほどは期待できない。
【0011】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、施工が容易でありながら、土砂の流出を確実に阻止した状態で擁壁背面水を容易に排出できるようにした擁壁用透水パネルと該透水パネルを備えた擁壁構造およびその施工方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による擁壁用透水パネルは、排水用の水抜き孔を持つ擁壁の背面に設置される透水パネルであって、平板状のパネル本体と該パネル本体の少なくとも一方の面に積層された透水性シートとを備え、パネル本体の表面および背面には好ましくは互いに交叉する複数本の凹溝が形成されており、かつ、表面側の凹溝と背面側の凹溝とを連通する複数個の透水孔が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による擁壁構造は、基礎地盤に構築された排水用の水抜き孔を持つ擁壁の地山側である背面に、上記した擁壁用透水パネルが少なくとも擁壁と反対側となる面に透水性シートが位置するようにして、密接した状態で配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明による擁壁用透水パネルにおいて、パネル本体は、その表裏両面に好ましくは互いに適宜の角度で交叉する複数本の凹溝が形成されており、かつ、表面側の凹溝と背面側の凹溝とは複数個の透水孔により連接されている。そのために、一方の面に形成されたすべての凹溝から擁壁背面水を取り込むことができ、充分な取水面積が得られる。凹溝内に流入した擁壁背面水は近傍に位置する透水孔を通過して反対側の面に達し、そこに形成された任意の凹溝内を下方あるいは横方向に流れていく。
【0015】
擁壁用透水パネルの少なくとも一方の表面(両面であってもよい)には例えば不織布のような水は通すが土砂のような大きな粒子は通過させない透水性シートが積層されている。従って、本発明による擁壁構造のように、擁壁用透水パネルを透水性シートを積層した側を擁壁とは反対側なるようにして擁壁の背面に設置した場合、当該透水性シートを通って擁壁背面水のみがパネル本体側に流入する。流入した水は凹溝を流下し透水孔を通って裏面の凹溝に達し、そこを縦横に流下しながら、擁壁に形成した直近の水抜き孔から外部に排出される。従って、充分な排水量を容易に確保できるとともに、擁壁背面近傍の土砂が外部流出するのは阻止されるので、排水性能が低下することもなく、地盤沈下が発生する恐れもない。
【0016】
本発明による擁壁構造において、コンクリート打設時の側圧や地山側の土圧はすべてパネル本体が担持するようになっており、透水性シートは側圧担持機能を持つことを要しない。従って、透水性シートは水のみを通過させるという本来の機能を備えていればよく、薄手の不織布や目開きの小さなネットのような任意の材料で容易に作ることができる。そのために、擁壁用透水パネルの重量を軽量化することができ、施工も容易化する。
【0017】
本発明の擁壁用透水パネルにおいて、パネル本体は所要の圧縮強度を有することを条件に任意の材料で作ることができる。樹脂系発泡体製であってもよく、非発泡樹脂の成形品であってもよい。樹脂系発泡体の場合、樹脂材料はポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂のようなものを用いることができる。成形性、強度、価格の点からポリスチレン系樹脂発泡体は特に好ましい。発泡成形は、型内発泡成形でもよく、押出発泡成形でもよい。発泡倍率も求められる圧縮強度に応じて適宜選択されるが、通常、5倍〜50倍程度である。厚みも50mm〜60mm程度で充分である。
【0018】
非発泡樹脂またはコンクリートの成形品の場合には、重量を軽減するために、内部に透水孔には連通しない多数の空間を備えるようにする。密封された空間であることはより好ましい。樹脂材料はポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂のようなものを用いることができる。成形性、強度、価格の点から塩化ビニル系樹脂は特に好ましい。コンクリート材料はポルトランドセメントなどの結合剤と水を混合させ硬化させたものを用いることができる。強度の理由から高強度セメントを用いたものや繊維強化された高強度コンクリートは特に好ましい。成形は押出成形のような成形法が用いられる。厚み方向で分割された鏡面対称である2つの部材を別々に成形し、それを内部に密封された多数の空間が形成されるようにして溶着一体化するような成形方法であってもよい。いずれの場合も、厚みは50mm〜60mm程度で充分である。
【0019】
凹溝の幅と深さも特に制限はないが、共に5mm〜10mm程度であれば充分に所期の目的を達成できる。また、表裏の凹溝を連通する透水孔の孔径も5mm〜10mm程度であれば充分である。複数の凹溝の相互の間隔は50mm〜60mm程度であってよい。
【0020】
擁壁用透水パネルの周囲木口面には、隣接するパネル同士の接続を容易かつ確実とするために、本実加工や合決り加工を施すことが好ましい。また、木口面に割溝を形成し、対向する割溝に共通する接合プレートを挿入して、隣接するパネル同士を接合することも好ましい態様である。木口面を平坦面とする場合には、断面T字状あるいはH字状の長尺状の接続部材を接合面に装着することも推奨される。
【0021】
本発明は、また、上記した擁壁用透水パネルを利用した擁壁の施工方法も開示する。1つの施工方法は、基礎地盤に排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築し、その地山側である背面に上記したいずれかの擁壁用透水パネルを少なくとも地山側となる面には透水性シートが位置するようにして密接状態で配置し、その後、擁壁背面側の埋め戻しを行うことを特徴とする。この施工方法では、工場で作られた上記擁壁用透水パネルを施工現場に持ち込み、それを擁壁背面に密接状態で配置することにより、排水層を形成することができるので、施工は容易かつ省力化され、施工コストは大きく低減する。
【0022】
他の方法は、基礎地盤に上記の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを備えている擁壁用透水パネルを建て込み、該建て込まれた擁壁用透水パネルを背面側型枠に利用する。従来法により前面側の型枠を建て込み、所要の配筋を行った後、両型枠間にコンクリートを打設して擁壁を構築する。その後、擁壁背面側の埋め戻しを行って、透水パネルを備えた擁壁とする。この施工方法では、擁壁用透水パネルを型枠の一部として利用できるので、施工はさらに簡素化する。
【0023】
さらに他の方法は、基礎地盤に表面型枠と裏面型枠とを建て込むに際して、裏面型枠の内側面に上記の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを積層した状態で建て込む。そして、所要の配筋を行った後、両型枠間にコンクリートを打設して地山側となる面に前記擁壁用透水パネルを備えた排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築する。その後、擁壁背面側の埋め戻しを行って、透水パネルを備えた擁壁とする。この施工方法では、コンクリート打設時に擁壁用透水パネルは従来法による裏面側型枠により支持されるので、単独で背面側型枠となす場合よりも、擁壁用透水パネルの厚みを薄いものとすることができ、擁壁用透水パネルにかかるコストを低減することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のいくつかの実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明による擁壁用透水パネルを備えた擁壁構造の一例を示す概略的な断面図であり、図2は図1のA部を拡大して示す図である。図3は本発明による擁壁用透水パネルの一実施の形態を示す正面図であり、図4はその断面図である。
【0025】
図において、1はコンクリート造擁壁であり、適当な間隔で多数の排水用の水抜き孔2が形成されている。なお、本発明において擁壁それ自体の構造は、図13に示したような従来のものと同じであってよく、また、コンクリート造に限らず間知ブロック積擁壁などであってもよい。
【0026】
擁壁本体の背面には、本発明による擁壁用透水パネル10が適宜の手段により密接するようにして、上下方向および横方向に多数枚が配置されている。透水パネル10は、図3および図4に示すように、全体が矩形状であり、パネル本体11とその表裏両面に積層された透水性シート20とからなる。この例において、パネル本体11は発泡性ポリスチレン系樹脂を型内発泡させて作られている。パネル本体11の表裏両面には、互いに直交するようにして縦方向および横方向の凹溝12が形成されている。また、4周の側縁にも幅が1/2である凹条の切り欠き12aが形成されている。凹溝12の交叉する部分には、透水孔13が表面から裏面に貫通して形成されており、該透水孔13により表面側の凹溝12と裏面側の凹溝12は連通している。
【0027】
この例において、パネル本体11の厚みは50mm、凹溝12の幅10mm、深さ10mm、凹溝12間の間隔50mm、透水孔13の直径10mmである。これはあくまでも例示であり、施工現場で求められる諸条件に応じて適宜の値を取るようにする。また、凹溝12は、図示のように、パネル本体11の側辺に平行に互いに直交するように設けることは必須でなく、側辺に傾斜する方向に形成してもよく、上下方向の走る凹溝のみであってもよい。透水孔13を凹溝12、12同士の交点に形成することは良好な排水性が得られることから好ましいが、必ずしも交点に設ける必要はない。さらに、交点に加えて凹溝の他の部位に形成してもよい。場合によっては、凹溝以外の場所にも形成してもよい。また、この例において、パネル本体11の4周の木口面には幅の狭い切り込み14が形成されており、後記するように、接合プレート30を挿入するのに用いられる。
【0028】
パネル本体11の表裏両面には、透水性シート20が接着剤による貼着などの適宜の手段により積層される。この例において透水性シート20はポリプロピレン繊維の不織布で構成されているが、土砂を透過させないことを条件に不織布以外の材料を用いることもできる。通常、パネル本体11への透水性シート20の積層は工場で行われて透水パネル10とされ、それが施工現場に搬入される。
【0029】
上記の透水パネル10を用いて擁壁構造を構築する手順の一例を図5を参照して説明する。最初に、根切りや敷き砂利の転圧を行い、捨てコンクリート51を打設する(図5a)。その上に、墨出しおよび底盤部鉄筋52と型枠53の組み立てを行う(図5b)。底盤部にコンクリート54を打設し(図5c)、その上に、墨出しと立ち上がり壁部鉄筋55を組み立てる(図5d)。なお、ここまでの手順は従来のコンクリート造擁壁の場合と同様である。
【0030】
次に、壁部の表面側に従来型枠56を組み立て、また、上記した擁壁用透水パネル10を型枠として用いて裏面型枠57を組み立てる。その上方には従来の裏型枠57aを組み立てる。その際に、擁壁用透水パネル10の裏面に従来型枠を積層状態としたものを裏面型枠57として組み立ててもよい。この場合には、擁壁用透水パネル10の従来型枠によりバックアップされるので、擁壁用透水パネル10を単独で裏面型枠57として用いる場合よりも、擁壁用透水パネル10の厚みを薄いものとすることができる。排水用の水抜き孔の組込作業も同時に行う。表面型枠56と裏面型枠57(擁壁用透水パネル10または擁壁用透水パネル10と従来型枠の積層物)にはセパレータ58を取り付け緊結する(図5e)。両型枠間に立ち上がり壁部用コンクリート59を打設する(図5f)。コンクリート59の硬化を待ち、表面側の従来型枠56と裏面側の従来型枠57a(および配置した場合に従来型枠)を解体する(図5g)。その後、従来と同様に立ち上がり壁部背面側の埋め戻しを行うことにより、本発明による擁壁構造はできあがる(図5h)。
【0031】
上記の擁壁構造では、擁壁背面水は擁壁用透水パネル10に積層した透水性シート20を通過して凹溝12内に流入する。流入した水は透水孔13を通って擁壁側の凹溝12に至り、そこを流下しつつ直近の排水用の水抜き孔2から外部に排出される。透水パネル10の存在により土砂が入り込むことはなく、多数の凹溝12が形成されていることから、取水面積も大きくなる。排水層4として擁壁用透水パネル10を用いるので栗石や砂利石を積み上げる作業は不要であり、また、擁壁用透水パネル10は工場で作られて施工現場に搬入されるので、現場での作業は大きく省力化される。主要部で用いるパネル本体11は発泡樹脂製であり軽量であることからも、作業は容易となる。
【0032】
上記の施工方法において、立ち上がり壁部背面側の埋め戻しを行うときに、擁壁背面に設置された擁壁用透水パネル10の上部から、凹溝12内に土砂が侵入することが起こり得る。それを回避するために、図6に示すように、最上位に位置する擁壁用透水パネル10の上端縁に樹脂あるいはステンレススチールなどからなる断面コの字形の覆い体(笠木)31を被せることが望ましい。また、上下および左右に隣接する透水パネル10、10同士を、凹溝12、12が連続した状態となるように配置することを容易にするために、図7に示すように、木口面に形成した切り込み14、14に共通の接合プレート30を挿入することは望ましい。図示しないが、4周の木口面に実継ぎ手や雇い実継ぎ手などを形成するようにしてもよい。それにより、良好な排水性能を維持することが容易となる。
【0033】
擁壁用透水パネル10を型枠としても利用する場合には、打設したコンクリートが凹溝12内に入り込まないように、パネル本体11の擁壁に面する側にも透水性シート20を積層することが必須となるが、上下および左右に隣接する透水パネル10、10同士の接合部分から、打設したコンクリートからののろ水が入り込む恐れがある。それを阻止するために、図8および図9にその使用状態を示すように、断面T字状の接合部材32あるいは断面H字状の接合部材32aを透水パネル10、10の接合部に配置することが望ましい。図8に示す接合部材32は断面T字状であり、背板33と適宜の間隔で設けられた横板34とからなる。必要な場合には、横板34に透水パネル10への留め付けピンのための孔35が形成される。横板34はパネル本体11に形成した縦方向の凹溝12を閉鎖しない位置に形成する。図9に示す接合部材32aは断面H字状であり、表裏の背板33a、33bと両者を結ぶ横板34aからなる。背板33あるいは33a(33b)を現場打ちコンクリート側となるようにして上記の接合部材を配置することにより、のろ水が透水パネル10内に侵入するのを確実に阻止することができる。
【0034】
図10は本発明による擁壁用透水パネルの他の形態を断面図で示している。この擁壁用透水パネル10Aは、パネル本体11Aが塩化ビニル系樹脂のような非発泡樹脂の押出成形により作られている点で、上記したものと相違している。このパネル本体11Aでは、凹溝12Aは押出方向に(図では上下の方向に)のみ形成されている。そして、成形後に適宜の手段により凹溝12A内に透水孔13Aが形成される。図10bの断面図に示すように、内部には透水孔13Aには連通しない多数の空間14が形成されており、該空間14の中間部分には仕切壁15が設けられている。このような構成とすることにより、軽量でありながら充分な圧縮強度を備えたパネル本体11Aを容易に成形することができる。4周の木口面には、雄実16と雌実17とからなる本実継ぎ手部が形成されており、前記したのろ水の侵入を阻止している。
【0035】
【発明の効果】
本発明による擁壁用透水パネルでは、擁壁背面水のみが積層した透水性シートを通過してパネル本体の凹溝内に流入する。流入した水は透水孔を通って擁壁側の凹溝に至り、そこを流下しつつ直近の排水用の水抜き孔から外部に排出される。透水性シートの存在により土砂が入り込むことはないので、排水性能が低下することはなく、かつ、擁壁際の地盤沈下など不慮の事故防止が図れる。
【0036】
排水層として擁壁用透水パネルを用いるので栗石や砂利石を積み上げる作業は不要であり、また、擁壁用透水パネルは工場で作られて施工現場に搬入されるので、現場での作業は大きく省力化される。主要部でいるパネル本体は発泡樹脂製であり軽量であることからも、作業は容易となる。型枠を兼ねることができるので、合板型枠材の使用削減にも寄与し、地球環境の保全にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による擁壁用透水パネルを備えた擁壁構造の一例を示す断面図。
【図2】図1のA部を拡大して示す図。
【図3】本発明による擁壁用透水パネルの一実施の形態を示す正面図。
【図4】図3に示す擁壁用透水パネルの断面図。
【図5】本発明による擁壁構造の施工手順を示す図。
【図6】擁壁用透水パネル上端縁の一例を示す図。
【図7】擁壁用透水パネル同士の接合部の一例を示す図。
【図8】擁壁用透水パネル同士の接合部のさらに他の例を示す図であり、接合部材を使用している。
【図9】擁壁用透水パネル同士の接合部のさらに他の例を示す図であり、他の形態の接合部材を使用している。
【図10】図10aは本発明による擁壁用透水パネルの他の一実施の形態を示す正面図であり、図10bはその断面図である。
【図11】地盤に高低差のある場所での一態様を示す図。
【図12】地盤に高低差のある場所での他の態様を示す図であり、擁壁を構築している。
【図13】従来の擁壁での排水層の構造を説明する図。
【符号の説明】
1…コンクリート造擁壁、2…排水用の水抜き孔、10…擁壁用透水パネル、11…パネル本体、20…透水性シート、12…凹溝、13…透水孔
【発明の属する技術分野】
本発明は、裏込め栗石を用いることなく擁壁背面水の排水を安定して行いうるようにした擁壁用透水パネルと該透水パネルを備えた擁壁構造およびその施工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
道路や隣地と接する地盤面に高低差がある土地を造成する際、図11に示すように適当な勾配をもつ法面のままで造成しても差し支えないが、長年の間には法面が危険な状態になることが想定されることから、さらには、土地を有効に活用して多少でもより多くの平坦地を確保できるように、図12に示すように、その高低差のある境界付近に石積み擁壁あるいは鉄筋コンクリート造などの擁壁(1)を設けるケースが多い。
【0003】
石積み擁壁は互いに接する石のすき間から多少なり擁壁背面水が容易にしみ出してくれるので、常水位が上昇して生じる水圧による崩壊の危険性は少ない。しかし、あまり高低差のある擁壁を造り込むには構造上不向きである。一方、鉄筋コンクリート造の擁壁は比較的高低差があっても安心して構築できる。しかし、鉄筋コンクリート造の擁壁は、石積み造と異なり擁壁背面水が排水しにくく、擁壁背面水がスムースに擁壁の外側に常時排水して水圧を低下させるための、何らかの排水装置を設けることが必要となる。
【0004】
通常は、図13に示すように、コンクリート造擁壁に適当な間隔で多数の排水用の水抜き孔(2)を形成すると共に、擁壁(1)の背面側には所定の厚みに栗石や砂利石(3)を排水層(4)として積み上げ、該排水層(4)を通過した擁壁背面水を擁壁(1)に形成した排水用の水抜き孔(2)を通して外側に排水するようにしている。排水層(4)を構成する栗石や砂利石(3)の積み上げ作業を機械により行うことは現状では難しく、人手に頼らざるを得ない施工上の問題点が指摘されている。排水機能を損なうことなく排水層(4)が合理的に施工できれば、建設現場の生産性と併せて作業の安全性が飛躍的に向上する。
【0005】
栗石や砂利石を積み上げることなく擁壁背面側に排水層を形成するようにした擁壁構造がいくつか提案されている。例えば、特許文献1(特開平8−326075号公報)には、排水層に相当する栗石代用部品を用いる擁壁施工法が記載されており、ここで、該栗石代用部品は、全体が硬質の合成樹脂で作られており、その内部に適当な割合の間隙を有し、表面には該隙間に繋がる通水孔が設けられている。この栗石代用部品が間知ブロック積擁壁またはコンクリート造擁壁の背面に適宜の手段に設置される。擁壁背面水は栗石代用部品の表面に形成した通水孔から栗石代用部品の内部の間隙に流入し、コンクリート壁側の通水孔を通って外部に排水される。この栗石代用部品は、前面型枠と組み合わせた背面型枠として利用することもでき、その間にコンクリートを打設してコンクリート造擁壁を築造することができる。このような栗石代用部品を使用することにより、作業工程の短縮とコストダウンを期待することができる。
【0006】
また、特許文献2(特開平9−256398号公報)には、空隙形成用の凸部を多数形成した樹脂板とその凸部の先端側に貼り付けた透水性の網様体をからなる排水材を用い、該排水材を地山床面上に築造される擁壁の背面にその樹脂板側を当接させて配置するようにした擁壁築造工法が記載されている。この排水材は裏型枠として用いることもできる。この工法も排水層を栗石などを用いることなく施工できることから、施工時の作業工程の短縮化とコストダウンを期待することができる。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−326075号公報
【特許文献2】
特開平9−256398号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1(特開平8−326075号公報)に記載の栗石代用部品は、表面に形成した通水孔からその内部に形成された間隙に流入した後、外部に排出される形態であり、内部に突起部や補強部を設けて強度を保つようにしているとはいえ、大きなコンクリート側圧や地山側の土圧に対して充分な耐性を持たせるには構造的に不向きであり、実際の施工においては、材料、形状および寸法などに充分な注意を払う必要がある。
【0009】
また、擁壁背面水の取り入れ部位は表面に形成した通水孔の部分のみであり、強度との関係から通水孔の数にも限度があることから、必要充分な背面水取り入れ面積を得ることは容易でない。孔の直径を大きくすることにより容易に大きな取り入れ面積を得ることができるが、反面、該孔から土砂の流入が生じ、排水性能が低下すると共に、擁壁背面での地盤沈下の要因となりやすい。
【0010】
特許文献2(特開平9−256398号公報)に記載の排水材は、樹脂板に形成した空隙形成用の多数の凸部の先端側に透水性の網様体を貼り付けた構成であることから、網様体には地山側の土圧に耐えるだけの構造的強度が求められる。そのために、実際の施工においては、貼り付ける網様体の素材や構造は限られたものとなり、また、重量物とならざるを得ない。樹脂板と網様体を一体化する作業も容易でない。該公報に記載された図を見る限り、網様体に形成される通水孔はかなり大きな面積のものであり、土砂が流入するのを避けられない。それを回避するには、別途目の細かい透水性のあるシートなどを配置することが必要となる。そのようなことから、この擁壁築造工法は、実際の施工は容易でなくコスト低減もさほどは期待できない。
【0011】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、施工が容易でありながら、土砂の流出を確実に阻止した状態で擁壁背面水を容易に排出できるようにした擁壁用透水パネルと該透水パネルを備えた擁壁構造およびその施工方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による擁壁用透水パネルは、排水用の水抜き孔を持つ擁壁の背面に設置される透水パネルであって、平板状のパネル本体と該パネル本体の少なくとも一方の面に積層された透水性シートとを備え、パネル本体の表面および背面には好ましくは互いに交叉する複数本の凹溝が形成されており、かつ、表面側の凹溝と背面側の凹溝とを連通する複数個の透水孔が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による擁壁構造は、基礎地盤に構築された排水用の水抜き孔を持つ擁壁の地山側である背面に、上記した擁壁用透水パネルが少なくとも擁壁と反対側となる面に透水性シートが位置するようにして、密接した状態で配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明による擁壁用透水パネルにおいて、パネル本体は、その表裏両面に好ましくは互いに適宜の角度で交叉する複数本の凹溝が形成されており、かつ、表面側の凹溝と背面側の凹溝とは複数個の透水孔により連接されている。そのために、一方の面に形成されたすべての凹溝から擁壁背面水を取り込むことができ、充分な取水面積が得られる。凹溝内に流入した擁壁背面水は近傍に位置する透水孔を通過して反対側の面に達し、そこに形成された任意の凹溝内を下方あるいは横方向に流れていく。
【0015】
擁壁用透水パネルの少なくとも一方の表面(両面であってもよい)には例えば不織布のような水は通すが土砂のような大きな粒子は通過させない透水性シートが積層されている。従って、本発明による擁壁構造のように、擁壁用透水パネルを透水性シートを積層した側を擁壁とは反対側なるようにして擁壁の背面に設置した場合、当該透水性シートを通って擁壁背面水のみがパネル本体側に流入する。流入した水は凹溝を流下し透水孔を通って裏面の凹溝に達し、そこを縦横に流下しながら、擁壁に形成した直近の水抜き孔から外部に排出される。従って、充分な排水量を容易に確保できるとともに、擁壁背面近傍の土砂が外部流出するのは阻止されるので、排水性能が低下することもなく、地盤沈下が発生する恐れもない。
【0016】
本発明による擁壁構造において、コンクリート打設時の側圧や地山側の土圧はすべてパネル本体が担持するようになっており、透水性シートは側圧担持機能を持つことを要しない。従って、透水性シートは水のみを通過させるという本来の機能を備えていればよく、薄手の不織布や目開きの小さなネットのような任意の材料で容易に作ることができる。そのために、擁壁用透水パネルの重量を軽量化することができ、施工も容易化する。
【0017】
本発明の擁壁用透水パネルにおいて、パネル本体は所要の圧縮強度を有することを条件に任意の材料で作ることができる。樹脂系発泡体製であってもよく、非発泡樹脂の成形品であってもよい。樹脂系発泡体の場合、樹脂材料はポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂のようなものを用いることができる。成形性、強度、価格の点からポリスチレン系樹脂発泡体は特に好ましい。発泡成形は、型内発泡成形でもよく、押出発泡成形でもよい。発泡倍率も求められる圧縮強度に応じて適宜選択されるが、通常、5倍〜50倍程度である。厚みも50mm〜60mm程度で充分である。
【0018】
非発泡樹脂またはコンクリートの成形品の場合には、重量を軽減するために、内部に透水孔には連通しない多数の空間を備えるようにする。密封された空間であることはより好ましい。樹脂材料はポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂のようなものを用いることができる。成形性、強度、価格の点から塩化ビニル系樹脂は特に好ましい。コンクリート材料はポルトランドセメントなどの結合剤と水を混合させ硬化させたものを用いることができる。強度の理由から高強度セメントを用いたものや繊維強化された高強度コンクリートは特に好ましい。成形は押出成形のような成形法が用いられる。厚み方向で分割された鏡面対称である2つの部材を別々に成形し、それを内部に密封された多数の空間が形成されるようにして溶着一体化するような成形方法であってもよい。いずれの場合も、厚みは50mm〜60mm程度で充分である。
【0019】
凹溝の幅と深さも特に制限はないが、共に5mm〜10mm程度であれば充分に所期の目的を達成できる。また、表裏の凹溝を連通する透水孔の孔径も5mm〜10mm程度であれば充分である。複数の凹溝の相互の間隔は50mm〜60mm程度であってよい。
【0020】
擁壁用透水パネルの周囲木口面には、隣接するパネル同士の接続を容易かつ確実とするために、本実加工や合決り加工を施すことが好ましい。また、木口面に割溝を形成し、対向する割溝に共通する接合プレートを挿入して、隣接するパネル同士を接合することも好ましい態様である。木口面を平坦面とする場合には、断面T字状あるいはH字状の長尺状の接続部材を接合面に装着することも推奨される。
【0021】
本発明は、また、上記した擁壁用透水パネルを利用した擁壁の施工方法も開示する。1つの施工方法は、基礎地盤に排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築し、その地山側である背面に上記したいずれかの擁壁用透水パネルを少なくとも地山側となる面には透水性シートが位置するようにして密接状態で配置し、その後、擁壁背面側の埋め戻しを行うことを特徴とする。この施工方法では、工場で作られた上記擁壁用透水パネルを施工現場に持ち込み、それを擁壁背面に密接状態で配置することにより、排水層を形成することができるので、施工は容易かつ省力化され、施工コストは大きく低減する。
【0022】
他の方法は、基礎地盤に上記の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを備えている擁壁用透水パネルを建て込み、該建て込まれた擁壁用透水パネルを背面側型枠に利用する。従来法により前面側の型枠を建て込み、所要の配筋を行った後、両型枠間にコンクリートを打設して擁壁を構築する。その後、擁壁背面側の埋め戻しを行って、透水パネルを備えた擁壁とする。この施工方法では、擁壁用透水パネルを型枠の一部として利用できるので、施工はさらに簡素化する。
【0023】
さらに他の方法は、基礎地盤に表面型枠と裏面型枠とを建て込むに際して、裏面型枠の内側面に上記の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを積層した状態で建て込む。そして、所要の配筋を行った後、両型枠間にコンクリートを打設して地山側となる面に前記擁壁用透水パネルを備えた排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築する。その後、擁壁背面側の埋め戻しを行って、透水パネルを備えた擁壁とする。この施工方法では、コンクリート打設時に擁壁用透水パネルは従来法による裏面側型枠により支持されるので、単独で背面側型枠となす場合よりも、擁壁用透水パネルの厚みを薄いものとすることができ、擁壁用透水パネルにかかるコストを低減することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のいくつかの実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明による擁壁用透水パネルを備えた擁壁構造の一例を示す概略的な断面図であり、図2は図1のA部を拡大して示す図である。図3は本発明による擁壁用透水パネルの一実施の形態を示す正面図であり、図4はその断面図である。
【0025】
図において、1はコンクリート造擁壁であり、適当な間隔で多数の排水用の水抜き孔2が形成されている。なお、本発明において擁壁それ自体の構造は、図13に示したような従来のものと同じであってよく、また、コンクリート造に限らず間知ブロック積擁壁などであってもよい。
【0026】
擁壁本体の背面には、本発明による擁壁用透水パネル10が適宜の手段により密接するようにして、上下方向および横方向に多数枚が配置されている。透水パネル10は、図3および図4に示すように、全体が矩形状であり、パネル本体11とその表裏両面に積層された透水性シート20とからなる。この例において、パネル本体11は発泡性ポリスチレン系樹脂を型内発泡させて作られている。パネル本体11の表裏両面には、互いに直交するようにして縦方向および横方向の凹溝12が形成されている。また、4周の側縁にも幅が1/2である凹条の切り欠き12aが形成されている。凹溝12の交叉する部分には、透水孔13が表面から裏面に貫通して形成されており、該透水孔13により表面側の凹溝12と裏面側の凹溝12は連通している。
【0027】
この例において、パネル本体11の厚みは50mm、凹溝12の幅10mm、深さ10mm、凹溝12間の間隔50mm、透水孔13の直径10mmである。これはあくまでも例示であり、施工現場で求められる諸条件に応じて適宜の値を取るようにする。また、凹溝12は、図示のように、パネル本体11の側辺に平行に互いに直交するように設けることは必須でなく、側辺に傾斜する方向に形成してもよく、上下方向の走る凹溝のみであってもよい。透水孔13を凹溝12、12同士の交点に形成することは良好な排水性が得られることから好ましいが、必ずしも交点に設ける必要はない。さらに、交点に加えて凹溝の他の部位に形成してもよい。場合によっては、凹溝以外の場所にも形成してもよい。また、この例において、パネル本体11の4周の木口面には幅の狭い切り込み14が形成されており、後記するように、接合プレート30を挿入するのに用いられる。
【0028】
パネル本体11の表裏両面には、透水性シート20が接着剤による貼着などの適宜の手段により積層される。この例において透水性シート20はポリプロピレン繊維の不織布で構成されているが、土砂を透過させないことを条件に不織布以外の材料を用いることもできる。通常、パネル本体11への透水性シート20の積層は工場で行われて透水パネル10とされ、それが施工現場に搬入される。
【0029】
上記の透水パネル10を用いて擁壁構造を構築する手順の一例を図5を参照して説明する。最初に、根切りや敷き砂利の転圧を行い、捨てコンクリート51を打設する(図5a)。その上に、墨出しおよび底盤部鉄筋52と型枠53の組み立てを行う(図5b)。底盤部にコンクリート54を打設し(図5c)、その上に、墨出しと立ち上がり壁部鉄筋55を組み立てる(図5d)。なお、ここまでの手順は従来のコンクリート造擁壁の場合と同様である。
【0030】
次に、壁部の表面側に従来型枠56を組み立て、また、上記した擁壁用透水パネル10を型枠として用いて裏面型枠57を組み立てる。その上方には従来の裏型枠57aを組み立てる。その際に、擁壁用透水パネル10の裏面に従来型枠を積層状態としたものを裏面型枠57として組み立ててもよい。この場合には、擁壁用透水パネル10の従来型枠によりバックアップされるので、擁壁用透水パネル10を単独で裏面型枠57として用いる場合よりも、擁壁用透水パネル10の厚みを薄いものとすることができる。排水用の水抜き孔の組込作業も同時に行う。表面型枠56と裏面型枠57(擁壁用透水パネル10または擁壁用透水パネル10と従来型枠の積層物)にはセパレータ58を取り付け緊結する(図5e)。両型枠間に立ち上がり壁部用コンクリート59を打設する(図5f)。コンクリート59の硬化を待ち、表面側の従来型枠56と裏面側の従来型枠57a(および配置した場合に従来型枠)を解体する(図5g)。その後、従来と同様に立ち上がり壁部背面側の埋め戻しを行うことにより、本発明による擁壁構造はできあがる(図5h)。
【0031】
上記の擁壁構造では、擁壁背面水は擁壁用透水パネル10に積層した透水性シート20を通過して凹溝12内に流入する。流入した水は透水孔13を通って擁壁側の凹溝12に至り、そこを流下しつつ直近の排水用の水抜き孔2から外部に排出される。透水パネル10の存在により土砂が入り込むことはなく、多数の凹溝12が形成されていることから、取水面積も大きくなる。排水層4として擁壁用透水パネル10を用いるので栗石や砂利石を積み上げる作業は不要であり、また、擁壁用透水パネル10は工場で作られて施工現場に搬入されるので、現場での作業は大きく省力化される。主要部で用いるパネル本体11は発泡樹脂製であり軽量であることからも、作業は容易となる。
【0032】
上記の施工方法において、立ち上がり壁部背面側の埋め戻しを行うときに、擁壁背面に設置された擁壁用透水パネル10の上部から、凹溝12内に土砂が侵入することが起こり得る。それを回避するために、図6に示すように、最上位に位置する擁壁用透水パネル10の上端縁に樹脂あるいはステンレススチールなどからなる断面コの字形の覆い体(笠木)31を被せることが望ましい。また、上下および左右に隣接する透水パネル10、10同士を、凹溝12、12が連続した状態となるように配置することを容易にするために、図7に示すように、木口面に形成した切り込み14、14に共通の接合プレート30を挿入することは望ましい。図示しないが、4周の木口面に実継ぎ手や雇い実継ぎ手などを形成するようにしてもよい。それにより、良好な排水性能を維持することが容易となる。
【0033】
擁壁用透水パネル10を型枠としても利用する場合には、打設したコンクリートが凹溝12内に入り込まないように、パネル本体11の擁壁に面する側にも透水性シート20を積層することが必須となるが、上下および左右に隣接する透水パネル10、10同士の接合部分から、打設したコンクリートからののろ水が入り込む恐れがある。それを阻止するために、図8および図9にその使用状態を示すように、断面T字状の接合部材32あるいは断面H字状の接合部材32aを透水パネル10、10の接合部に配置することが望ましい。図8に示す接合部材32は断面T字状であり、背板33と適宜の間隔で設けられた横板34とからなる。必要な場合には、横板34に透水パネル10への留め付けピンのための孔35が形成される。横板34はパネル本体11に形成した縦方向の凹溝12を閉鎖しない位置に形成する。図9に示す接合部材32aは断面H字状であり、表裏の背板33a、33bと両者を結ぶ横板34aからなる。背板33あるいは33a(33b)を現場打ちコンクリート側となるようにして上記の接合部材を配置することにより、のろ水が透水パネル10内に侵入するのを確実に阻止することができる。
【0034】
図10は本発明による擁壁用透水パネルの他の形態を断面図で示している。この擁壁用透水パネル10Aは、パネル本体11Aが塩化ビニル系樹脂のような非発泡樹脂の押出成形により作られている点で、上記したものと相違している。このパネル本体11Aでは、凹溝12Aは押出方向に(図では上下の方向に)のみ形成されている。そして、成形後に適宜の手段により凹溝12A内に透水孔13Aが形成される。図10bの断面図に示すように、内部には透水孔13Aには連通しない多数の空間14が形成されており、該空間14の中間部分には仕切壁15が設けられている。このような構成とすることにより、軽量でありながら充分な圧縮強度を備えたパネル本体11Aを容易に成形することができる。4周の木口面には、雄実16と雌実17とからなる本実継ぎ手部が形成されており、前記したのろ水の侵入を阻止している。
【0035】
【発明の効果】
本発明による擁壁用透水パネルでは、擁壁背面水のみが積層した透水性シートを通過してパネル本体の凹溝内に流入する。流入した水は透水孔を通って擁壁側の凹溝に至り、そこを流下しつつ直近の排水用の水抜き孔から外部に排出される。透水性シートの存在により土砂が入り込むことはないので、排水性能が低下することはなく、かつ、擁壁際の地盤沈下など不慮の事故防止が図れる。
【0036】
排水層として擁壁用透水パネルを用いるので栗石や砂利石を積み上げる作業は不要であり、また、擁壁用透水パネルは工場で作られて施工現場に搬入されるので、現場での作業は大きく省力化される。主要部でいるパネル本体は発泡樹脂製であり軽量であることからも、作業は容易となる。型枠を兼ねることができるので、合板型枠材の使用削減にも寄与し、地球環境の保全にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による擁壁用透水パネルを備えた擁壁構造の一例を示す断面図。
【図2】図1のA部を拡大して示す図。
【図3】本発明による擁壁用透水パネルの一実施の形態を示す正面図。
【図4】図3に示す擁壁用透水パネルの断面図。
【図5】本発明による擁壁構造の施工手順を示す図。
【図6】擁壁用透水パネル上端縁の一例を示す図。
【図7】擁壁用透水パネル同士の接合部の一例を示す図。
【図8】擁壁用透水パネル同士の接合部のさらに他の例を示す図であり、接合部材を使用している。
【図9】擁壁用透水パネル同士の接合部のさらに他の例を示す図であり、他の形態の接合部材を使用している。
【図10】図10aは本発明による擁壁用透水パネルの他の一実施の形態を示す正面図であり、図10bはその断面図である。
【図11】地盤に高低差のある場所での一態様を示す図。
【図12】地盤に高低差のある場所での他の態様を示す図であり、擁壁を構築している。
【図13】従来の擁壁での排水層の構造を説明する図。
【符号の説明】
1…コンクリート造擁壁、2…排水用の水抜き孔、10…擁壁用透水パネル、11…パネル本体、20…透水性シート、12…凹溝、13…透水孔
Claims (9)
- 排水用の水抜き孔を持つ擁壁の背面に設置される透水パネルであって、平板状のパネル本体と該パネル本体の少なくとも一方の面に積層された透水性シートとを備え、パネル本体の表面および背面には複数本の凹溝が形成されており、かつ、表面側の凹溝と背面側の凹溝とを連通する複数個の透水孔が形成されていることを特徴とする擁壁用透水パネル。
- パネル本体は樹脂系発泡体製であることを特徴とする請求項1記載の擁壁用透水パネル。
- パネル本体は非発泡樹脂またはコンクリートの成形品であり、内部には透水孔には連通しない多数の空間を有していることを特徴とする請求項1記載の擁壁用透水パネル。
- 複数本の凹溝は互いに交叉するようにして形成されていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の擁壁用透水パネル。
- 透水性シートは不織布により構成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の擁壁用透水パネル。
- 基礎地盤に構築された排水用の水抜き孔を持つ擁壁の地山側である背面に、請求項1ないし5いずれか記載の擁壁用透水パネルが、少なくとも擁壁の反対側となる面に透水性シートが位置するようにして、密接状態で配置されていることを特徴とする透水パネルを備えた擁壁構造。
- 基礎地盤に排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築し、その地山側である背面に請求項1ないし5いずれか記載の擁壁用透水パネルを少なくとも地山側となる面には透水性シートが位置するようにして密接状態で配置し、その後、擁壁背面側の埋め戻しを行うことを特徴とする透水パネルを備えた擁壁の施工方法。
- 基礎地盤に請求項1ないし5いずれか記載の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを備えている擁壁用透水パネルを建て込み、該建て込まれた擁壁用透水パネルを型枠に利用して排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築し、その後、擁壁背面側の埋め戻しを行うことを特徴とする透水パネルを備えた擁壁の施工方法。
- 基礎地盤に表面型枠と裏面型枠とを、裏面型枠の内側面に請求項1ないし5いずれか記載の擁壁用透水パネルであって表面と背面の双方に透水性シートを積層した状態で建て込み、該型枠を利用して地山側となる面に前記擁壁用透水パネルを備えた排水用の水抜き孔を持つ擁壁を構築し、その後、擁壁背面側の埋め戻しを行うことを特徴とする透水パネルを備えた擁壁の施工方法。
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-
2002
- 2002-12-24 JP JP2002372533A patent/JP2004197534A/ja active Pending
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