JP2004183017A - 金属チタン系基材の表面処理方法及び金属チタン系医用材料 - Google Patents

金属チタン系基材の表面処理方法及び金属チタン系医用材料 Download PDF

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寛治 都留
Satoshi Hayakawa
聡 早川
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明義 尾坂
Seisuke Takashima
征助 高島
Koichi Shibata
浩一 柴田
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Abstract

【課題】金属チタン系基材の表面に、密着性の良好な、しかも均一な水和チタニアゲル層を簡便な操作によって、しかも使用する金属チタン系基材の化学組成、成形加工方法、形態に関わらず、再現性よく形成すること。
【解決手段】塩基性化合物、酸性化合物あるいはチタン塩を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。形成される水和チタニアゲルを熱処理することが好ましく、アパタイト形成能、血液適合性に優れた医用材料を提供することができる。過酸化水素濃度を低くした場合には、過酸化水素の分解による気泡の発生を抑制できるので、微細組織構造を有する基材の表面処理に特に有効である。
【選択図】 図6

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属チタン系基材の表面処理方法に関する。特に、過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法に関する。また、そのような表面処理方法によって表面処理が施された金属チタン系医用材料、及びそれからなる生体親和性に優れた医用インプラント材及び医用機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタン及びチタン合金は、人工股関節、人工膝関節、骨接合材、人工歯根など、生体骨と接触する医用材料の素材(インプラント材)として用いられている。しかしながら、チタン及びチタン合金そのものには生体骨組織と化学的に結合する性質はなく、長時間にわたる生体内への埋入中にズレや緩み、出血などを生じる。これによって人工関節の駆動性の低下や、疼痛が起こり再手術を余儀なくされる。
【0003】
この問題に対し、医用インプラント表面への生体親和性アパタイトのコーティング技術として、プラズマスプレー法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、ゾル−ゲル法、リン酸カルシウム系粉末の電気泳動析出法、リン酸カルシウム水溶液浸漬法等が提案されている。しかし、プラズマスプレー法では1000℃以上の高温を要するため、高温耐久性材料に適用範囲が制限される。ゾル−ゲル法や水溶液浸漬法を除くと、高価な装置設備が必要である。水溶液浸漬法は処理に長時間を要する上に、基材とアパタイトコーティングとの密着性が悪い。また、前述のいくつかの方法では、アパタイト以外の結晶相や非晶質相が混在したり、あるいは、骨組織のアパタイトとは結晶性や組成が異なるため、骨組織との親和性が低下する可能性がある。また、埋入後、長期間経過するとコーティング層が医用インプラントから剥がれ、再手術を行う必要がある。さらに、プラズマスプレー法、スパッタリング法及びレーザーアブレーション法では、ファイバー、メッシュ、コイル、多孔質、溝入などの特殊形状のものへの適用が難しい。
【0004】
そこで複雑な形状を有する金属チタン系基材の表面と生体組織の直接的な結合を導く方法として、金属チタン系基材を高濃度のアルカリ溶液に浸漬して水和ゲル層を形成させ、それを600℃の高温で熱処理して、チタニア相とアルカリチタネート相を有する皮膜を形成させる方法が知られている(例えば、特開2000−116673号公報(特許文献1)を参照。)。こうして形成される皮膜は、アパタイト形成能を有するとされている。
【0005】
しかし、当該処理方法では、危険性を伴う高濃度アルカリ溶液を用いる点、24時間程度の長時間の化学処理が必要な点、600℃の高温で加熱することでの形状の狂いや材質の変化が生じやすい点などが問題である。また、この化学処理を施したインプラント材を生体内に埋入した場合には、ナトリウムイオンの溶出が起こり、インプラント周囲の体液のpHを上昇させるため、細胞や組織に対して毒性を示す副作用が伴う可能性がある。さらに、金属チタン系基材の組成、製造プロセス、成形プロセスによっては、基材表面の化学反応性が変化し、再現性よく皮膜を形成することが困難である。実際に種々の特殊形状を有するインプラントに応用する場合には、この点も重要である。
【0006】
一方、本発明者らは、金属イオン含有過酸化水素水を用いて加熱下にチタン系インプラント材を浸漬して、表面に金属イオン含有水和チタニアゲル層を形成させて、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含有する(擬似)体液中でのアパタイト形成能を高め、生体組織との結合を導く方法を特許第2795824号公報(特許文献2)で提案している。この方法の利点は、水和チタニアゲル層中にナトリウムイオンなどの易溶解性アルカリ金属成分が含まれていないので、pH上昇による毒性を示す危険がないことである。
【0007】
しかし、特許文献2に記載された化学処理条件では、30重量%の高濃度過酸化水素水溶液を用いているにも関わらず、24時間程度の長時間の処理が必要であった。さらに、当該公報に記載されている処理条件に従って、ワイヤーカット放電加工機によって切断された金属チタン試片を化学処理したところ、金属チタン試片表面には、不均質にチタニアコロイド微粒子が凝集して表面に沈着した。そしてこのチタニアコロイド微粒子の沈着物は蒸留水による超音波洗浄によって容易に剥がれる程度の弱い密着性しかもたないため、アパタイト形成能を十分に高めることができなかった。すなわち、ワイヤーカット放電加工時に加熱され、新たに表面に酸化膜が形成されて表面化学組成が変化し、過酸化水素水に対する化学的反応性が変化していたと考えられる。これは、種々の特殊形状を有するインプラントへ化学処理を応用する場合、成形加工プロセスの影響を受けやすく、基材によっては、表面処理の均一性や再現性が不十分となるおそれがあることを示している。このように、高濃度の過酸化水素水溶液を用いて表面処理を行った場合には、基材表面の金属チタンが過酸化水素の分解反応(2H=2HO +O)の触媒として働いて、酸素ガスの発生が激しくなり、発生する気泡が金属チタンの酸化反応を阻害し、形成される水和チタニアゲル層の均一性や密着性が低下するおそれがある。特に、上述のように成形加工された基材を用いる場合に、この点が問題になりやすい。
【0008】
王、外3名,「ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)」,2000年10月,第52巻,第1号,p.171−176(非特許文献1);王、外3名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,2002年3月,第23巻、第5号,p.1353−1357(非特許文献2);及び呉、外3名,「クリスタル・グロース・アンド・デザイン(Crystal Growth & Design)」,2002年3月,第2巻,第2号,p.147−149(非特許文献3)には、金属チタンを、五塩化タンタルあるいは塩酸を添加して低pHにした、30重量%の高濃度過酸化水素水溶液で、80℃の高温で処理して、チタニアコロイド微粒子の沈着層を形成させ、それを400℃で熱処理することにより結晶化させて、チタニアコロイド微粒子由来のゲル層のアパタイト形成能を高めることに成功したことが記載されているが、このチタニアコロイド微粒子由来のゲル層の固着強度は弱く、蒸留水による超音波洗浄で除去される程度の固着力しかなかった。
【0009】
また、呉、外3名,「ジャーナル・オブ・セラミック・ソサエティー・オブ・ジャパン(Journal of the Ceramic Society of Japan)」, 2002年2月,第110巻,第2号,p.78−80(非特許文献4)には、過酸化水素水処理後に温水中で長時間処理を施し、結晶化を促進させて、チタニアコロイド微粒子由来の結晶性チタニアゲル層のアパタイト形成能を高めることに成功したことが記載されているが、処理に数日間の長期間を要する上に、チタニアコロイド微粒子由来の結晶性チタニアゲル層の密着性は悪く、蒸留水による超音波洗浄で除去される程度の固着力しかなかった。さらに30重量%の高濃度の過酸化水素水溶液が必要であり、医用材料のサイズが大きくなった場合には、過酸化水素と金属との反応が激しいため危険が伴う。また、重金属含有高濃度過酸化水素水の廃液の排出環境負荷も高い。
【0010】
パク(Park)、外2名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,2001年10月,第22巻,第19号,p.2671−2682(非特許文献5)に記載されているように、インプラントを損傷した生体部位に埋入した後、骨細胞を含む結合組織細胞はインプラントに直接接触するのではなく、損傷した部位は初期に血液と接触して、必ず血栓で覆われるため、インプラントの周囲も同様に血栓で覆われ、この血液で修飾されたインプラント表面の性質は、インプラント表面の組成だけではなく、化学状態とトポグラフィーによって影響を受け、これが、骨細胞の応答に影響する。Parkらの研究成果によると血液との相互作用の違いが、骨細胞の応答とも関連しており、血小板の活性化を促進するような表面が骨の修復応答を促進すると報告している。Parkらの血小板の活性化を促進する表面とは、マイクロメーターサイズの凹凸のある組織であり、これが血小板の活性化に有効に働くと結論している。したがって、インプラント表面に析出させる水和チタニアゲル層には、凹凸を与えるようなマイクロ組織構造の構築が有効であることが既に指摘されている。
【0011】
一方、特開2002−35109号公報(特許文献3)には、純チタン又はチタン合金からなる基材をアルカリ溶液中に浸漬して、基材の表面に、アルカリチタン酸塩からなり不規則な孔構造を有した多孔層を形成する方法が提案されている。この方法によれば、血液凝固系因子の活性化によるフィブリンの生成、並びに血小板の粘着と活性化の両方を抑制するとされている。上記非特許文献5の記載と特許文献3の記載とを比べると、マイクロ組織構造と血液適合性の相関においては、いまだ統一的な相関は見いだされていない。しかし、インプラント表面にマイクロ組織構造を構築することが血液適合性に影響することは明らかである。
【0012】
この特許文献3における化学処理においては、前述の特許文献1と同じ処理条件が適用されているので、高濃度アルカリ溶液を用いる危険性があり、24時間にわたる長時間処理が必要な上に、600℃の高温で加熱することでの特殊形状の狂いや材質の変化が懸念される。この化学処理を施したインプラント材を生体内に埋入した場合には、ナトリウムイオンの溶解が起こり、インプラント周囲の体液のpHを上昇させるため、細胞や組織に対して毒性を示す副作用が伴う可能性がある。
【0013】
金属材料の中でも金属チタン、ステンレススチール(AISI 316L)、 タンタルと形状記憶合金であるTi−Ni合金は、屈曲性、低温変形性、機械的強度を有することから、心臓血管領域の疾患の治療における血管拡張術の医療器具(ステント)に実用されており、また、金属チタンは、人工心臓弁にも実用されている。しかし、これらの金属材料を使用するには、剛性、放射線不透明性、血液適合性などの諸性質の改善が必要である。特に、後者の血液適合性については全く不十分であるといって良い。例えば、ステントによく用いられているステンレススチールについては、組成中に含まれるNiによって外来性生体反応が誘起され、これに連動して、血管内で再狭窄が起こることが問題となっている。
【0014】
これに対し、TiNO(酸化窒化チタン)を物理的析出(PVD)法によりステンレススチール表面にコーティングして、血小板の粘着とフィブリノーゲンの吸着を同時に減少させる手法が知られている。また、サニー(Sunny)、外1名,「ジャーナル・オブ・バイオマテリアルズ・アプリケーションズ(Journal of Biomaterials Applications)」,1991年7月,第6巻,p.89−98(非特許文献6)には、基材が純チタンの場合に陽極酸化法により形成したチタンの酸化物膜を厚くすることにより吸着するアルブミン/フィブリノーゲン比を6倍まで制御できると報告されており、ナン(Nan)、外10名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,1998年4月,第19巻,第7−9号,p.771−776(非特許文献7)には、イオンビーム析出法で得たルチル構造が有効であると報告されている。以上の例は、酸化チタン膜が血液適合性の改善に有効であることを示すものであるが、ここまで列挙した全ての血液適合性コーティング方法には、高価な製造装置が必要であり、医用材料への成膜コストが上昇する。また、ファイバー、メッシュ、コイル、多孔質、溝入などの特殊形態の基材に対して有効な方法ではない。
【0015】
一方、武本、外4名,「ジャーナル・オブ・ゾル−ゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol−Gel Science and Technology)」,2001年6月,第21巻,第1−2号,p.97−104(非特許文献8)には、特許文献2に記載の処理条件(30重量%過酸化水素水溶液、60℃、24時間)で金属チタン試片を化学処理した後、550℃で3時間熱処理をすることによって、血液適合性の高い酸化チタン膜を形成している。しかし、前述したように、特許文献2に記載された処理条件では、金属チタンの製造元や加工・成形プロセスによって化学処理条件が左右され、基材によっては均質な皮膜を再現性よく形成することが困難な場合がある。また、高濃度30重量%の過酸化水素水溶液を用いているにも関わらず、処理時間が24時間と長いという点にも問題がある。
【0016】
特表平2−503001号公報(特許文献4)には、pHを1.3〜4(あるいは6)に維持した1〜30%の過酸化水素水溶液に、金属チタンを浸漬して、ゲル状反応生成物を生成させ、それを200℃を超えない温度で脱水した抗炎症性酸化剤が記載されており、それからなる被覆が移植物体表面に施されることが記載されている。また、特開平3−70566号公報(特許文献5)には、1〜30%の過酸化水素水溶液に1〜30分間チタンを浸漬してからリンスして清浄化した移植用移植物の調製方法が記載されている。しかしながら、特許文献4及び5に記載されている方法では、チタニアコロイド微粒子層が形成されるため、得られる被覆層が脆弱で、基材に対する密着性が悪く、被覆層の均一性も不十分であった。
【0017】
【特許文献1】
特開2000−116673号公報(特許請求の範囲、第4頁)
【特許文献2】
特許第2795824号公報(特許請求の範囲、第3頁)
【特許文献3】
特開2002−35109号公報(特許請求の範囲、第2頁)
【特許文献4】
特表平2−503001号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開平3−70566号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】
王、外3名,「ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)」,2000年10月,第52巻,第1号,p.171−176
【非特許文献2】
王、外3名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,2002年3月,第23巻、第5号,p.1353−1357
【非特許文献3】
呉、外3名,「クリスタル・グロース・アンド・デザイン(Crystal Growth & Design)」,2002年3月,第2巻,第2号,p.147−149
【非特許文献4】
呉、外3名,「ジャーナル・オブ・セラミック・ソサエティー・オブ・ジャパン(Journal of the Ceramic Society of Japan)」, 2002年2月,第110巻,第2号,p.78−80
【非特許文献5】
パク(Park)、外2名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,2001年10月,第22巻,第19号,p.2671−2682
【非特許文献6】
サニー(Sunny)、外1名,「ジャーナル・オブ・バイオマテリアルズ・アプリケーションズ(Journal of Biomaterials Applications)」,1991年7月,第6巻,p.89−98
【非特許文献7】
ナン(Nan)、外10名,「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」,1998年4月,第19巻,第7−9号,p.771−776
【非特許文献8】
武本、外4名,「ジャーナル・オブ・ゾル−ゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol−Gel Science and Technology)」,2001年6月,第21巻,第1−2号,p.97−104
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、金属チタン系基材を過酸化水素水溶液に浸漬して、その表面に、密着性の良好な、しかも均一な水和チタニアゲル層を簡便な操作によって形成する方法を提供するものである。しかも、使用する金属チタン系基材の化学組成、成形加工方法、形態に関わらず、再現性よく均一な皮膜を形成する方法を提供するものである。また、こうして得られた水和チタニアゲル層又はそれを熱処理した層を有する、アパタイト形成能、血液適合性などの生体親和性に優れた医用材料を提供することを目的とするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために、金属チタン系基材と過酸化水素水との反応機構を詳細に検討した。その結果、過酸化水素水溶液のpH及びチタンイオン濃度を制御することによって、金属チタン系基材の表面に、密着性の良好な水和チタニアゲル層を均一に形成させられることを見出した。これにより、金属チタン系基材の化学組成や、成形加工プロセスの影響による基材表面の反応性の変化に関わらず、再現性よく水和チタニアゲル層を析出させることができ、基材と過酸化水素水溶液との反応時間を変化させることで、水和チタニアゲル層の形成量を調節することができる。本発明の課題を、上記技術思想に基づいて解決する具体的手法として、以下の3通りの表面処理方法を見出したものである。
【0020】
第1の表面処理方法は、塩基性化合物を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。塩基性化合物を添加することによってpHを高く設定し、それによって一旦生成した水和チタニアゲルの溶出反応を抑制し、均一かつ密着性の良好な水和チタニアゲル層を効率良く形成させることができるものである。このとき、好適にはpHを4以上にすることが好ましい。
【0021】
第2の表面処理方法は、酸性化合物を添加した過酸化水素水溶液にチタン合金からなる金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。金属チタン系基材として化学的耐久性を向上させた合金を使用する場合、まず金属チタン以外の成分の溶出反応を促進し、併せてそれに伴う金属チタンの酸化、溶解及び再析出反応を導くようにする必要がある。したがって、酸性化合物を添加することによってpHを低く設定し、チタン合金に含まれる金属チタン以外の成分を溶解させ、同時に金属チタン成分と過酸化水素水との反応で生じるチタン成分(チタンハイドロパーオキシドと推定される)の溶出をも促進させるものである。これは、基材がチタン合金からなる場合に特に有効であり、高めのpHでは酸化されにくく、溶出が困難な合金であってもチタン成分を溶出させながら、均一かつ密着性の良好な水和チタニアゲル層の形成が可能なものである。このとき、前記過酸化水素水溶液のpHが3.4以下であることが好適である。好ましく使用されるチタン合金としてはTi−6Al−4V合金が例示される。
【0022】
第3の表面処理方法は、チタン塩を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。表面処理時に基材から溶出するチタン成分のみでなく、過酸化水素水にチタン塩を添加することによって水和チタニアゲルの溶出反応を抑制し、生成反応を促進する方向に平衡を移動させるものである。これによっても、均一かつ密着性の良好な水和チタニアゲル層の形成が可能である。このとき、前記過酸化水素水溶液に添加されるチタン塩の量が、過酸化水素水溶液の体積に対して0.001mol/L以上となる量であることが好適である。
【0023】
上記いずれの表面処理方法においても、前記過酸化水素水溶液の過酸化水素含有量が0.001〜60重量%であることが好適である。また、浸漬処理後に、200℃以上の温度で熱処理することが好ましい。そして、このように熱処理されて形成された表面層が、平均孔径1μm以下の多孔質構造を有し、かつ結晶性酸化チタンを含有することが好ましい。このような特定の組成及び構造を有するチタニア膜を形成することによって、生体親和性が良好になり、医用材料として好適に使用することができると推定される。この医用材料は、アパタイト形成能に優れることから、医用インプラント材に好適に使用される。また、血液適合性にも優れることから、医用機器にも好適に使用される。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の表面処理方法で使用される金属チタン系基材は、チタンを含有する材料からなるものである。実質的にチタンのみからなるいわゆる純チタンであってもよいし、チタン以外の各種の金属元素を含有する合金であってもよい。本発明においては、チタン合金はチタン以外の金属元素を0.5重量%以上含むものを言い、純チタンとはそのような金属元素の含有量が0.5重量%未満であるものを言う。このような金属チタン系基材の選択は、用途や加工性などを考慮して適宜選択される。合金とすることで、通常、化学的耐久性を向上させることができる。
【0025】
チタン合金としては、Al、Sn、Fe、Co、Ni、Cu、V、Nb、Mo、W、Ta、Agなどの各種の金属元素を含有する合金が使用できるが、合金中のチタンの含有量は通常30〜99.5重量%である。中でもアルミニウムを約6重量%、バナジウムを約4重量%含有するチタン合金であるTi−6Al−4V合金や、チタンとニッケルを等量程度配合したTi−Ni合金が好適なものとして例示される。
【0026】
また、本発明の金属チタン系基材は、他の素材と複合された形態であっても構わない。例えば、医用インプラント材として必要な機械的強度、靭性を発現するような他の材料に、金属チタン系材料が、コーティングその他の方法によって、複合されているものを使用することもできる。上記他の素材としては、コバルト−クロム合金、ステンレススチール、ガラス、セラミックスなどが用いられ、天然又は合成の有機高分子材料であってもよい。
【0027】
本発明で使用される金属チタン系基材とは、上記各種の素材からなり、生体内で使用するための成形体を意味する。生体内で使用するために必要な物性と安全性を有するものであれば形状、使用形態等を特に問わない。例えば、板状、ブロック状、シート状、ファイバー状、メッシュ状、ペレット状、コイル状、スクリュー状、多孔質状、溝入り状など任意の形状のものが使用できる。本発明の表面処理方法は、水溶液中に浸漬するものであるから、複雑な形状や表面積の大きいものに対して、均一かつ密着性の良好な水和チタニアゲル層を形成させる際に、本発明の方法を採用する実益が大きい。この点から、金属チタン系基材が、単なる板状や棒状のものではなく、三次元状に加工されているもの、例えば、メッシュ状、コイル状、スクリュー状、溝入り状などのものであることが好適である。また、表面積の大きい、ファイバー状や多孔質状であることも好適である。すなわち、素材としての金属チタン材料を、所望の形状に成形加工したものを使用する場合に本発明の表面処理方法を使用する実益が大きいものである。
【0028】
用途に対応した具体的な形態としては、骨固定用ファイバーメッシュ、顔面補綴材、骨補填材、人工椎体、人工椎間板、骨スクリュー、人工関節、人工歯根、人工心臓、人工肝臓、人工腎臓、血液ポンプ、ペースメーカー、ステント、人工弁、ステープル、クリップ、コイルなどの製品形態が例示される。
【0029】
本発明の表面処理方法は、特定の化合物を添加した過酸化水素水溶液に上記金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させるものである。過酸化水素水溶液に浸漬する前に、予め金属チタン系基材の表面を洗浄してから化学処理に供することが好ましい。成形加工時の汚染を除くことは、基材表面に対する過酸化水素水の均質な反応性の観点及び水和チタニアゲル層の密着性を確保する観点からも望ましい。また、使用する金属チタン系基材がチタン合金である場合には、基材の成形加工工程などで表面に形成された酸化被膜を除去しておくことが好ましい場合がある。酸化皮膜を除去する方法としては、物理的な研磨も化学的なエッチングも採用可能である。化学的なエッチングとしては、例えば、フッ酸や塩酸を用いる方法が例示される。除去すべき酸化被膜の厚さは、基材の成形加工工程に依存するため、それを考慮して研磨を行う。
【0030】
本発明において使用される過酸化水素水溶液の過酸化水素含有量は、通常0.001〜60重量%である。0.001重量%未満では、金属チタン系基材表面のチタン元素を酸化することが困難になり、密着性の良好な皮膜を形成できないおそれがある。一方、60重量%を超える過酸化水素水溶液は、安全に取り扱うことが困難になるおそれがある。過酸化水素の含有量は、金属チタン系基材の化学組成、pH及びチタンイオン濃度などとの関係で適当に設定されることになり、その点は後述する。
【0031】
また、過酸化水素水溶液の温度は、通常0〜98℃の範囲で調整される。温度が低い場合には基材の表面での化学反応が不十分となるおそれがあるとともに、反応速度が低くなって浸漬時間を長くしなければならない場合が多い。したがって、密着性の良好な皮膜を効率的に形成するためには、好適には30℃以上であり、より好適には50℃以上である。一方、温度が高すぎると、過酸化水素水が自己分解するおそれがあるとともに、酸化反応の進行に伴いチタニアコロイド微粒子が凝集して、不均質に金属チタン系基材表面に沈着し、蒸留水による超音波洗浄で除去される程度の弱い密着性しか持たない皮膜が形成される場合が多い。好適には90℃以下である。また、浸漬処理時間は、通常10分〜100時間程度の範囲から用途や要求性能に対応して選択される。
【0032】
過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬することによって、金属チタン系基材表面に、Ti−OH基を含む水和チタニアゲルを主成分とする被覆層が形成される。水和チタニアゲル層の析出機構は複雑であり、その詳細は必ずしも明確でない。本発明者は、過酸化水素濃度、pH、チタンイオン濃度、金属チタン系基材の化学組成などが皮膜形成に与える影響を詳細に検討した結果、以下の(1)〜(5)式に示す反応の組み合わせで水和チタニアゲル層が析出すると推定するに至った。
【0033】
Ti(s) + 2H = TiOOH + 1/2O (g) + H (1)
TiOOH + 1/2O (g) + H = Ti(OH) (2)
Ti(OH) = TiO (aq)(s) + 2HO (3)
Ti(OH) = Ti(OH)4−n n+ + nOH (4)
TiO(aq)(s) + 4H = Ti4+ + 2HO (5)
【0034】
上記式中、(s)は固体を、(g)は気体を、(aq)(s)は水和ゲルを意味し、それ以外のものは水に溶解した状態で存在するものである。また、これらの各反応については、それが可逆反応であるか非可逆反応であるかが明確でない場合もあるので、ここでは式の右辺と左辺の間は矢印ではなく、等号で示している。
【0035】
(1)式に示されるように、金属チタン[Ti(s)]と過酸化水素[H]の反応は、TiOOH化学種を形成すると同時に、オキソニウムイオン[H]を発生するので水溶液のpHを低下させる。一方(2)式の酸化反応が十分進行すると、水和チタニアゲルの元となるTi(OH)化学種が形成すると同時にオキソニウムイオンが消費され、pHが上昇する。しかし、金属チタン系基材の表面が溶液と直接接触して反応している間は、(1)式の反応が(2)式の反応よりも反応速度が大きいため、溶液のpHは、浸漬開始時のpHより低下することになる。
【0036】
(3)式に示されるように、(2)式の反応によって形成された水酸化チタン[Ti(OH)]が、基材表面上で脱水縮合することによって、密着性に優れた水和チタニアゲル[TiO(aq)(s)]層が形成される。ところが、水酸化チタン[Ti(OH)]と陽イオン性[Ti(OH)4−n n+]化学種とは平衡状態にあり、pHが低下すると(4)式の平衡反応が右に偏り、陽イオン性[Ti(OH)4−n n+]化学種が水溶液中に多くなり、密着性の高い水和チタニアゲル層の形成が起こりにくくなる。すなわち、陽イオン性[Ti(OH)4−n n+]化学種が溶液中に多くなることによって、溶液中で黄色いチタニアコロイド微粒子の形成が優先的に起こり、これが金属チタン表面に不均質に凝集して降り積もって沈着してしまうのである。したがって、(4)式の平衡を左側に偏らせながら(3)式の水和チタニアゲル形成反応を進行させることが重要である。こうすることによって、pH及びチタン濃度が水和チタニアゲルの析出を促進する条件に制御されていれば、過酸化水素が存在する限り、水和チタニアゲル層の形成を継続させることができる。すわわち、反応時間と過酸化水素水濃度を制御することによって、水和チタニアゲル層の形成量を調整することもできる。
【0037】
過酸化水素濃度が高い場合には、(1)式がよく進行するため、浸漬時間の経過にしたがってオキソニウムイオンが生成してpHが低下し、(5)式の水和チタニアゲル層の溶解反応が促進されることになる。したがって、この反応の進行を抑制して、折角形成された水和チタニアゲル層が溶出しないようにすることもまた重要である。以上のことから、過酸化水素水溶液のpHを高く保つことによって、密着性の良好な均一な水和チタニアゲル層を効率良く形成できることがわかり、以下に説明する本発明の第1の表面処理方法が見出されたものである。
【0038】
一方、金属チタン系基材の素材によっては、(1)式のチタン金属の溶出反応が進行しにくい場合がある。特にチタン合金からなる基材の場合には、pHを低下させないと基材表面での酸化反応が全く進行しない場合もある。この場合には、上記水和チタニアゲル層形成反応の生成には不利な条件であっても、pHを意図的に低下させることが好ましい場合がある。このことから、以下に説明する本発明の第2の表面処理方法が見出されたものである。
【0039】
さらに、水溶液のチタンイオン[Ti4+]濃度が高い場合には、(5)式で示される水和チタニアゲル層の溶出反応を抑制することができる。また、水溶液中に存在する水酸化チタン[Ti(OH)]種も多くなるので、(3)式で示される水和チタニアゲル層の形成反応を促進することができる。したがって、水溶液のチタンイオン[Ti4+]濃度を高くすることによって、水和チタニアゲル層を効率よく形成することが可能である。このことから、以下に説明する本発明の第3の表面処理方法が見出されたものである。
【0040】
上記反応機構に関する考察より、本発明の第1、第2及び第3の表面処理方法が見出されたものである。これらの表面処理方法は、独立に採用されても良いし、これらを適宜組み合わせた処理方法とすることも可能である。以下、本発明の第1、第2及び第3の表面処理方法について、順次説明する。
【0041】
まず、第1の表面処理方法について説明する。第1の表面処理方法は、塩基性化合物を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。過酸化水素水自体は、通常弱酸性であり、しかも浸漬当初の金属チタンの溶出に伴ってpHが低下するが、塩基性化合物を添加することによって、pHを高めに設定し、密着性の良好な均一な水和チタニアゲル層を効率良く形成させることができる。
【0042】
このとき水溶液に添加される塩基性化合物は、水に溶解したときにアルカリ性を呈するものであればよく、塩基のみならず弱酸と強塩基からなる塩であっても構わない。具体的には、アンモニア(NH)、アルカリ金属の水酸化物(LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH)、アルカリ土類金属の水酸化物(Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH))、アミン及び尿素などが例示される。これらの内、アミンなどの有機化合物は環境負荷が大きくなることもあり、必ずしも好ましくない。また、金属の水酸化物は、形成される水和チタニアゲル層内に金属イオンが取り込まれることがあり、生体との適合性を考慮した場合に用途によっては好ましくない。したがって、アンモニアが特に好適に使用される。また、金属チタン系基材を浸漬する前の水溶液が当該塩基性化合物を含有する場合のみならず、過酸化水素水溶液に基材を浸漬した後で塩基性化合物を水溶液に添加しても構わない。また、塩基性化合物は、必ずしも完全に水溶液に溶解している必要はなく、水溶液中のpHを調節することができれば、固体状態(固体塩基)であってもかまわない。
【0043】
第1の表面処理方法における過酸化水素水溶液のpHは、4以上であることが好ましい。このpHの値は、金属チタン系基材を浸漬する前のpHではなく、金属チタン系基材を浸漬してpHが低下した後、pH値が安定した時のpHである。実際に水和チタニアゲル皮膜が形成される際のpHを制御するものである。水溶液のpHは、通常14以下である。したがって、このようなpHの範囲になるように、塩基性化合物を添加する。
【0044】
過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は特に限定されない。しかしながら、本表面処理方法では、過酸化水素濃度が高い場合においてもpHの低下を抑制することが可能であるから、過酸化水素濃度が高くても密着性の良好な水和チタニアゲル層を形成することができる。過酸化水素濃度が高いほど、反応速度は大きくなるので、短時間で効率的に皮膜を形成することができ、生産効率を向上させることが可能である。したがって、第1の表面処理方法においては、過酸化水素濃度が1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましい。このように過酸化水素濃度が高い場合には浸漬処理時間を短縮できる場合が多く、好適な処理時間は20時間以下、より好適には10時間以下である。一方で過酸化水素濃度が高すきすぎると、基材表面の金属チタンが過酸化水素の分解反応(2H=2HO +O)の触媒として働いて、酸素ガスの発生が激しくなり、発生する気泡が金属チタンの酸化反応を阻害し、形成される水和チタニアゲル層の均一性や密着性が低下する場合があるため、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
第1の表面処理方法において使用される金属チタン系素材の種類は特に限定されるものではないが、比較的高めのpHを有する水溶液中で処理することから、チタン合金の場合には、基材からのチタン金属の溶出反応が十分に進行しない場合がある。したがって、チタン以外の元素の含有量が5重量%未満、好適には2重量%未満であるチタン合金、あるいは純チタンが好適に使用される。最も好適には純チタンが使用される。
【0046】
次に、第2の表面処理方法について説明する。第2の表面処理方法は、酸性化合物を添加した過酸化水素水溶液にチタン合金からなる金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。水和チタニアゲル層を形成する効率という点からは、上記第1の表面処理方法のように、過酸化水素水溶液のpHを高めに設定する方が好ましいが、基材がチタン合金である場合には、酸性化合物を添加することによってpHを低く設定し、合金とすることにより化学的耐久性を増加させている金属チタン系基材に含まれるチタン以外の金属成分を選択的に溶解させ、この溶解に乗じて、金属チタン成分と過酸化水素水との反応で生じるチタン成分(チタンハイドロパーオキシドと推定される)の溶出を促進するものである。
【0047】
このとき水溶液に添加される酸性化合物は、水に溶解したときに酸性を呈するものであればよく、酸のみならず強酸と弱塩基からなる塩であっても構わない。具体的には、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)などの酸や、塩化チタン(TiCl)、硫酸チタン(Ti(SO)等の塩が例示される。ここで、塩としては例示したチタン塩以外の塩も使用可能であるが、形成される水和チタニアゲル中に他の金属イオンを混入させないためには、酸を使用するか、チタン塩を使用するのが好ましい。チタン塩を使用する場合には、後述する第3の表面処理方法で奏される効果も得られることになる。また、金属チタン系基材を浸漬する前の水溶液が当該酸性化合物を含有する場合のみならず、過酸化水素水溶液に基材を浸漬した後で酸性化合物を水溶液に添加しても構わない。また、酸性化合物は、必ずしも完全に水溶液に溶解している必要はなく、水溶液中のpHを調節することができれば、固体状態(固体酸)であってもかまわない。
【0048】
第2の表面処理方法における過酸化水素水溶液のpHは、3.4以下であることが好ましい。酸を共存させる場合には、浸漬後のpHの低下現象は顕著ではないので、金属チタン系基材を浸漬する前の過酸化水素水溶液のpHを上記範囲に設定すればよい。このようなpH値に設定することによってチタン合金からのチタン金属の溶出反応を円滑に進行させることができる。より好適には水溶液のpHは3以下である。また、水溶液のpHは、通常0以上である。したがって、このようなpHの範囲になるように、酸性化合物を添加する。
【0049】
過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は特に限定されない。過酸化水素濃度が高いほど、反応速度は大きくなるので、金属の溶出反応が進行しにくいチタン合金を使用する第2の表面処理方法では、一定以上の過酸化水素濃度を有することが好ましい。したがって、第2の表面処理方法においては、過酸化水素濃度が1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましい。一方で過酸化水素濃度が高すきすぎると、基材表面の金属チタンが過酸化水素の分解反応(2H=2HO +O)の触媒として働いて、酸素ガスの発生が激しくなり、発生する気泡が金属チタンの酸化反応を阻害し、形成される水和チタニアゲル層の均一性や密着性が低下する場合があるため、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0050】
第2の表面処理方法において使用される金属チタン系素材はチタン合金である。チタン合金は、靭性や加工性などの面で純チタンよりも有用な場合が多いが、基材からのチタン金属の溶出反応が進行しにくいことから、第2の表面処理方法を採用する意義が大きいものである。チタン以外の金属を配合することにより化学的耐久性を増加させているチタン合金を基材として使用する場合には、配合されている各金属の溶解度のpH依存性を利用して、高選択的に金属チタン以外の金属成分の溶解を促進し、これに乗じて、金属チタン成分と過酸化水素水との反応で生じるチタン成分の溶出を促進することが好ましい。ここでいうチタン合金は、チタン以外の金属元素の含有量が0.5重量%以上のものであるが、その含有量は好適には2重量%以上であり、より好適には5重量%以上である。好適なチタン合金としては、Ti−6Al−4V合金やTi−Ni合金が例示され、特にTi−6Al−4V合金に対して第2の表面処理方法を施すことが好適である。
【0051】
続いて、第3の表面処理方法について説明する。第3の表面処理方法は、チタン塩を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法である。水溶液のチタンイオン濃度を高くすることによって、水和チタニアゲル層の溶出反応を抑制するとともに水和チタニアゲル層の形成反応を促進することができるものである。
【0052】
このとき水溶液に添加されるチタン塩は、特に限定されない。具体的には、塩化チタン(TiCl)、硫酸チタン(Ti(SO)、オキシ硫酸チタン(TiOSO)等の塩が例示される。また、金属チタン系基材を浸漬する前の水溶液が当該チタン塩を含有する場合のみならず、過酸化水素水溶液に基材を浸漬した後でチタン塩を水溶液に添加しても構わない。水和チタニアゲル層を効率良く形成するには、前記過酸化水素水溶液に添加されるチタン塩の量が、過酸化水素水溶液の体積に対して0.001mol/L以上とすることが好ましく、0.01mol/L以上とすることがより好ましく、0.02mol/L以上とすることがさらに好ましい。通常、1mol/L以下であり、好適には0.1mol/L以下であり、より好適には0.05mol/L以下である。
【0053】
第3の表面処理方法における過酸化水素水溶液の濃度は、特に限定されないが、過酸化水素との反応によって溶出するチタン金属の量が少なくても、水和チタニアゲル層の形成が可能であることから、低濃度であってもよい。過酸化水素濃度は、10重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましい。ただし、過酸化水素が僅かといえども含まれていなければ、金属チタン系基材の表面を酸化及びエッチングして、化学結合に基づく密着性の良好な水和チタニアゲル層の被膜を得ることができない。過酸化水素濃度が低くても良いことから、溶液の温度を上昇させることによる分解の影響を受けにくいので、水溶液の温度を高めに設定することができる。具体的には60℃以上、より好適には70℃以上の温度にすることが好ましい。
【0054】
第3の表面処理方法における過酸化水素水溶液のpHは特に限定されない。例えば、pHを4以上に制御した場合には、第1の表面処理方法で得られる効果を合わせて奏することができるし、pHを3.4以下に制御した場合には第2の表面処理方法で得られる効果を合わせて奏することもできる。
【0055】
以上の第1、第2及び第3の表面処理方法によって、金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層が形成される。こうして形成される水和チタニアゲル層は、密着性及び均一性に優れており、蒸留水中で超音波洗浄操作を施しても剥離することがない。従来の各種の表面処理方法によって形成される水和チタニアゲル層は、チタニアコロイド微粒子が凝集して、不均質に金属チタン系基材表面に沈着したようなものが多く、上記超音波洗浄操作で剥離する場合が多いが、本発明の表面処理方法で形成される水和チタニアゲル層は、そのようなことがない点で優れている。特に、立体的に複雑な形状を有するような基材を処理する場合に、ゲル層が不均一になりやすいことから、本発明の表面処理方法を採用する実益が大きい。特に、立体的かつ微細な構造を有する多孔体、多層メッシュなどの基材を処理する場合には、過酸化水素濃度が高すぎると、基材表面の金属チタンが過酸化水素の分解反応(2H=2HO +O)の触媒として働いて、酸素ガスの発生が激しくなり、発生する気泡が金属チタンの酸化反応を阻害し、形成される水和チタニアゲルの均一性や密着性が低下するおそれがあるため、本発明の表面処理方法を採用する実益が大きい。
【0056】
こうして水和チタニアゲル層が形成された状態でそのまま各種の用途に使用することも可能であるが、浸漬処理後に熱処理を施すことが好ましい。200℃以上、より好適には250℃以上、さらに好適には300℃以上の温度で熱処理することが好ましく、このような熱処理を施すことによって、皮膜を強固にするとともに、アパタイト形成能や血液適合性などの生体親和性を向上させることもできる。熱による基材への悪影響を避け、アナターゼ型からルチル型への相転移を防止する観点からは、通常、熱処理温度は800℃以下であるが、600℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましい。熱処理時間は、特に限定されるものではないが、通常1分〜24時間程度である。
【0057】
こうして熱処理されて形成された表面層が、結晶性酸化チタンを含有することが好ましい。このような結晶構造を有することで、生体親和性が発揮される。酸化チタンの結晶構造はアナターゼ型であっても良いし、ルチル型であっても良い。また、アナターゼ型の酸化チタンはいわゆる光触媒効果を有することから、いわゆる超親水性や、有機物の光分解などの光触媒効果を必要とする用途に対しても適用可能となる。
【0058】
また、熱処理されて形成された表面層が、平均孔径1μm以下の多孔質構造を有することも好ましい。このような形態を有することで、良好な生体親和性が得られているようである。ここで、平均孔径とは、電子顕微鏡で観察される孔の、長径と短径を平均した直径を測定し、それの数平均値によって求められる値である。平均孔径は、好適には0.5μm以下である。このようにして形成される孔の内部に骨誘導因子や成長因子などのタンパク質を含浸させて、早期に骨の誘導や成長を促進するドラッグデリバリーシステム(DDS)化したインプラント材を設計することもできる。この場合に、DDS機能を向上させる観点からは、表面層を厚くすることによって孔部分の体積や表面積を大きくできるので、より多量の有効薬剤を充填することができる。また、光触媒特性を考える場合にも、表面積が大きい方が触媒活性が高くなって好ましい。
【0059】
こうして表面処理されたものは、金属チタン系医用材料として好適に使用される。得られた皮膜は、アパタイト形成能を有しており、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含む擬似体液中で表面にアパタイト層を形成することができる。したがって、本発明の表面処理を施した金属チタン系医用材料は、生体内でアパタイト層を介して生体組織と一体化することが可能である。また、得られた皮膜は血液適合性にも優れており、ヒト多血小板血漿に接触しても、血小板を多く粘着しない抗血栓性を有する。
【0060】
本発明の方法は、特殊形状をした金属チタン系インプラント材の中でも骨との接合性が要求される整形外科用では、骨固定用ファイバーメッシュ、顔面補綴材、骨補填材、人工椎体、人工椎間板、骨スクリュー、人工関節、人工歯根に好適に使用することができる。また、血液適合性が要求される医療器具としては、人工心臓、人工肝臓、人工腎臓、血液ポンプ、ペースメーカーなどの体内あるいは体外で血液に接触する装置を構成する部品や、ステント、人工弁、ステープル、クリップ、コイルなどの体内に留置されるものに好適に用いられる。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を使用して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
参考例
まず、過酸化水素水溶液で金属チタン系基材を処理する際の処理条件と形成される皮膜との関係を理解するための試験を行った。本参考例は本発明の実施例を構成するものではないが、本発明の構成を理解するのに有用なものである。1重量%、3重量%、4.5重量%、6重量%及び10重量%の過酸化水素水溶液を処理液とした。以下では便宜上それぞれの過酸化水素水溶液の名称をH1溶液、H3溶液、H4.5溶液、H6溶液、H10溶液と表記する。
【0063】
ポリプロピレン製サンプル瓶に上記過酸化水素水溶液20mlを入れ、これに金属チタン試片(10×10×0.1mm)を浸漬し、60℃で1時間、3時間、6時間及び12時間保持した。ここで使用した金属チタン(純チタン)は、チタン元素の含有率が99.5重量%以上のものである。それぞれの浸漬時間経過後、金属チタン試片を処理液から取り出し、蒸留水にて超音波洗浄を5分間施した後、室温で乾燥した。以下では金属チタン試片の表記は、化学処理時間を付記して、Hn/mh試片と表記する。ここでnは過酸化水素水濃度(重量%)で、mは浸漬時間(時間)である。
【0064】
60℃において、金属チタン試片を浸漬した場合の、各過酸化水素水溶液のpH変化をpHメーターで測定した結果を図1に示す。浸漬処理開始前の過酸化水素水溶液は弱酸性(pH4.5〜5.5)を示しており、反応初期の30〜60分でpHは急激に低下し、3〜6時間でほぼ一定となった。pHの最小値は、H10溶液<H6溶液<H4.5溶液<H3溶液<H1溶液の順番であり、過酸化水素水濃度が高いほどpHが低下することがわかる。
【0065】
60℃において、金属チタン試片を浸漬した場合の、各過酸化水素水溶液中のチタン濃度の変化を図2に示す。明らかに反応時間が経過するごとにチタン濃度は上昇し、濃度勾配は、H10溶液>H6溶液>H4.5溶液>H3溶液>H1溶液の順番であり、チタンの酸化反応は過酸化水素濃度が高いほど進行することを示している。
【0066】
表1には、溶液の色の変化の様子と黄色いチタニアコロイド微粒子の発生の有無を示す。H6溶液とH10溶液では、黄色いチタニアコロイド微粒子の不均質沈着が起こり、時間が経過するごとに増加したが、他の低濃度の溶液では、このような不均質沈着は見られなかった。不均質に沈着した黄色いチタニアコロイド微粒子は、5分間の蒸留水による超音波洗浄により除去された。すなわち、不均質である上に、密着力が不足するものであった。
【0067】
【表1】
Figure 2004183017
【0068】
浸漬処理後に、蒸留水で5分間の超音波洗浄操作を施した後、電気炉を用いて400℃で1時間熱処理した。熱処理後の金属チタン試片の表面構造を調べるために、薄膜X線回折パターンを測定した結果を図3に示す。H1試片では6時間の化学処理までは、金属チタン(四角印)以外の結晶相の回折ピークは見られなかったが、H1/12h試片でようやくアナターゼ相(上向き三角印)とルチル相(下向き三角印)に帰属される回折ピークが見られた。H3/6h試片では、アナターゼ相に帰属される回折ピークが見られたが、ルチル相に帰属される回折ピークは見られなかった。H3試片では、化学処理時間が経過するにしたがって、アナターゼ相に帰属される回折ピークの強度が上昇した。同様のアナターゼ相に帰属される回折ピークがH4.5及びH6試片においても見られたが、H10試片ではアナターゼ相とルチル相に帰属される回折ピークは12時間の処理をしても全く見られなかった。なお、H6試片においては、H6/6hまではアナターゼ相に帰属される回折ピークの強度が上昇しているが、H6/12hでは、アナターゼ相に帰属される回折ピークの強度が下降していることがわかる。
【0069】
以上の結果より、密着性の良好な水和チタニアゲル層を形成する化学処理条件は、60℃では、3重量%で6時間〜12時間、6重量%では3時間〜6時間ということが確認された。また、pH条件を4以上に設定しなければ、密着性の良好な水和チタニアゲル層は形成しにくいことが確認されたことから、短時間で化学処理が可能である6重量%以上の濃度については、pH制御が有望であることが示された。同時に、従来法のようなpHを制御しない10重量%以上の高濃度過酸化水素水溶液処理では、溶液内で形成したチタニアコロイド微粒子が凝集して、不均質に沈着することが優先的に起こるため、水和チタニアゲル層の析出は不可能であることも示された。
【0070】
図4には、H6/6h試片の走査型電子顕微鏡写真を示す。表面には、100〜300ナノメートル程度の直径の多孔構造が観察された。
【0071】
図5には、熱処理したH6試片を擬似体液20ml中に36.5℃で3日間浸漬した後の薄膜X線回折パターンを示した。水和チタニアゲル層を析出した試片表面にアパタイト層が形成されていることが確認された。ここで用いた擬似体液は、文献[小久保、外3名,「ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)」,1990年,第24巻,p.721−734]に記載の方法に従って調製し、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸を用いてpHを7.4に調整したものである。また、アナターゼ相(上向き三角印)に帰属される回折ピーク強度が大きいほど、アパタイト(丸印)に帰属される回折ピーク強度も大きいことから、水和チタニアゲル層が多く析出するほどアパタイト形成には有効であることが確認された。
【0072】
実施例1(第1の表面処理方法の例)
前記参考例において、過酸化水素濃度6重量%の過酸化水素水溶液に塩基性水溶液であるアンモニア水(NHOH)を添加して初期pHを5.1とし、比較対照として酸性水溶液である塩酸(HCl)を添加して初期pHを3.5にしたこと以外は、参考例と同様の操作により、化学処理を行った。
【0073】
60℃における金属チタンとの反応による各過酸化水素水溶液のpH変化をpHメーターで測定した結果を図6に示す。比較としてH6溶液の結果も参照した。塩基性水溶液を添加したH6−NHOH溶液と、H6溶液では、30〜60分以内に急激にpHが低下した。
【0074】
表2には、溶液の色の変化の様子と黄色いチタニアコロイド微粒子の不均質な沈着の有無を示す。初期pHが3.5であれ4.5であれ、黄色いチタニアコロイド微粒子の形成量が増加し、溶液の色は黄色くなった。金属チタン基材表面に沈着した黄色いチタニアコロイド微粒子は、5分間の蒸留水による超音波洗浄により容易に除去された。一方、初期pHを5.1としたH6−NHOH溶液では、12時間以内で黄色いチタニアコロイド微粒子の形成は見られなかった。したがって、初期pHを5.1に設定し、反応期間中におけるpHを4以上に制御することによって、前記(4)式の平衡反応が左に偏ったと考えられる。
【0075】
【表2】
Figure 2004183017
【0076】
浸漬処理後に、蒸留水で5分間の超音波洗浄操作を施した後、電気炉を用いて400℃で1時間熱処理して、金属チタン試片を得た。図7には、各金属試片の薄膜X線回折パターンを示す。酸性水溶液である塩酸を添加した6重量%濃度の過酸化水素水溶液で処理した後、熱処理した試料(H6−HCl)の表面には、処理時間3時間で僅かに結晶性のチタニアに帰属される回折ピークが観察されるだけでその前後では観察されないのに対して、塩基性水溶液であるアンモニア水を添加した6重量%濃度の過酸化水素水溶液で処理した後、熱処理した材料(H6−NHOH)表面にはアナターゼ相チタニアが形成されていることが確認された。また、アナターゼ相に帰属される回折ピーク強度は、時間が経過するにつれて単調増加していることから、pH4以上に制御することによって、密着性の高い水和チタニアゲル層を効率よく確実に増加させることができた。
【0077】
また、前記の条件でアンモニア水及び塩酸を添加した過酸化水素水溶液による化学処理6時間後に、電気炉を用いて400℃で1時間熱処理した試片を、擬似体液に3日間浸漬前後の薄膜X線回折パターンを測定した。測定結果を図8に示す。アナターゼ相チタニアが形成されていることが確認されたH6−NHOH表面では、アパタイトに帰属されるX線回折ピークが観測されており、アパタイト層が形成していることが確認された。一方、H6−HCl表面では、アパタイトに帰属されるX線回折ピークが観測されなかったことから、低pHの過酸化水素水溶液による化学処理は、アナターゼ相チタニアの形成だけではなく、アパタイト形成にも有効でないことが明らかになった。
【0078】
図9には、幅、深さ、間隔ともに300マイクロメートルの平行な溝が入った金属チタン板状試片に前記アンモニア水を添加した6重量%の過酸化水素水溶液で6時間処理し、続いて400℃で1時間熱処理し、この試片を擬似体液に3日間浸漬した後表面の走査型電子顕微鏡写真である。溝の内部全面を覆うように緻密なアパタイト粒子の析出が確認されたことから、特殊加工の金属チタン基材に対しても有効な処理方法であることが示された。
【0079】
また、上記のアンモニア水を添加してpHを制御した条件下で化学処理を施した金属チタン試片について、熱処理温度を200、300、400、500℃と変化させた場合の、血液適合性のin vitro評価を行った。血小板粘着及び活性化の評価には、ヒト多血小板血漿(PRP)を用いた。処理条件の異なる金属チタン試片を、プラスチックプレートに入れ、1mLのPRPを加え、37℃に保持した恒温槽中で30分接触させた。時間経過後、接触させたPRPを取り除き、試片をリン酸緩衝液(PBS)で3回洗浄後、2%グルタルアルデヒドPBS溶液に浸漬し、4℃で1時間保持した。ついで、1%オスミウム酸水溶液に浸漬し、4℃で1時間保持し、表面付着物を二重固定した。蒸留水で洗浄後、第3級ブチルアルコールで脱水処理した。脱水後、−5℃で一晩乾燥した。乾燥後の金属チタン試片の表面を金コーティングした後に、走査型電子顕微鏡により観察し、試料表面への血小板の粘着数を調べた。また、未処理の金属チタン試片、500℃の熱処理のみを施した金属チタン試片、及び化学処理のみを施して熱処理を施さなかった金属チタン試片についても同様の評価を行った。
【0080】
図10には、処理条件の異なる金属チタン試片(NT:未処理、HT500:熱処理500℃、CT:化学処理、CHTn:化学処理+熱処理(n:温度))への血小板粘着数の割合を示す。未処理の金属チタンと比較して、化学処理と熱処理を施した金属チタン試片を比較すると明らかに、血小板の粘着数が激減しており、少なくとも300、400、500℃の熱処理が抗血栓性の発現に有効であることが明らかとなった。熱処理のみや化学処理のみの場合と比較しても、化学処理と300、400、500℃の温度での熱処理を施した金属チタン試片の血小板の粘着数が激減していることがわかる。化学処理のみ施した金属チタン試片(CT)、化学処理と200℃の熱処理を施した金属チタン試片(CHT200)には過酸化物が残留している。したがって、300、400、500℃の熱処理によって、この残留した過酸化物が分解し、血小板粘着性が低下したと考えられる。
【0081】
以上の結果から、pH制御された過酸化水素水溶液による化学処理と200℃以上の温度での熱処理を組み合わせることによって、抗血栓性が発現し、血液適合性が改善されることが明らかになった。
【0082】
実施例2(第2の表面処理方法の例)
チタン合金[Ti−6Al−4V]試片(10×10×1mm)を用い、これを過酸化水素濃度6重量%の過酸化水素水溶液に酸性水溶液である塩酸水溶液(HCl)を添加して、pH0.5、pH2.5、pH3.5、pH4.5に調整後、浸漬化学処理及び熱処理を施した。得られた試片を擬似体液中に36.5℃で浸漬処理した。
【0083】
pH0.5、pH3.5、pH4.5の条件では、いずれもアナターゼ相の回折ピークが検出されなかった。図11には、pH2.5に調整した過酸化水素濃度6重量%の過酸化水素水溶液で1〜24時間の所定の時間、化学処理を施し、蒸留水にて超音波洗浄を5分間した後、熱処理したチタン合金試片の薄膜X線回折パターンを示す。図11より12時間以上の化学処理によってアナターゼ相チタニアが形成されていることが確認された。したがって、pH2.5付近に制御することによって、密着性の高いアナターゼ相チタニア層を形成させることができた。
【0084】
実施例3(第3の表面処理方法の例)
過酸化水素濃度が0.1重量%の過酸化水素水溶液に、硫酸チタン(TiOSO)を0.03mol/Lの濃度になるように添加し、さらに硝酸を添加してpHを0.95に調整し、室温で1時間撹拌して得られた透明溶液を処理液とした。
【0085】
ポリプロピレン製サンプル瓶に前記処理液20mlを入れ、これに金属チタン試片(10×10×0.1mm)を浸漬し、これを80℃で24時間保持した。金属チタン試片を反応溶液から取り出し、蒸留水にて超音波洗浄を5分間した後、室温で乾燥させた。つづいて、電気炉を用いて400℃で1時間熱処理した。熱処理後の金属チタン試片の薄膜X線回折パターン、及び擬似体液に7日間浸漬前後の薄膜X線回折パターンを測定した。測定の結果を図12に示す。アナターゼ相チタニア及びルチル相チタニアが形成されていることが確認された。擬似体液に7日間浸漬するとアパタイトに帰属されるX線回折ピークが観測されており、アパタイト層が形成していることが確認された。低pHの過酸化水素水溶液であっても、過酸化水素水濃度を低下させ、かつ、チタン濃度を上昇させることによって、水和チタニアゲル層の形成を促進することがわかる。また、この条件下で生成したチタニア層には、アナターゼ相とルチル相が含まれているが、アパタイト形成にも有効であることがわかる。
【0086】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、金属チタン系基材の表面に、密着性の良好な、しかも均一な水和チタニアゲル層を簡便な操作によって形成することができる。しかも、使用する金属チタン系基材の化学組成、成形加工方法、形態に関わらず、再現性よく均一な皮膜を形成することが可能である。こうして得られた水和チタニアゲル層又はそれを熱処理した層を有する材料は、アパタイト形成能、血液適合性などの生体親和性に優れており、医用材料として有用である。このような医用材料は、インプラント材や医用機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例において、各過酸化水素水溶液のpH変化をpHメーターで測定した結果を示したグラフである。
【図2】参考例において、各過酸化水素水溶液中のチタン濃度の変化を示したグラフである。
【図3】参考例における熱処理後の金属チタン試片の薄膜X線回折パターンを測定した図である。
【図4】参考例におけるH6/6h試片の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】参考例において、H6試片を擬似体液に浸漬した後の薄膜X線回折パターンを示した図である。
【図6】実施例1において、各過酸化水素水溶液のpH変化をpHメーターで測定した結果を示したグラフである。
【図7】実施例1における熱処理後の金属チタン試片の薄膜X線回折パターンを測定した図である。
【図8】実施例1において、試片を擬似体液に浸漬する前後の薄膜X線回折パターンを示した図である。
【図9】実施例1において、溝が入った金属チタン板状試片にアパタイト析出させた表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例1において、処理条件の異なる金属チタン試片への血小板粘着数の割合を示す図である。
【図11】実施例2において、pH2.5に調整して化学処理を施し、熱処理したチタン合金試片の薄膜X線回折パターンを示す図である。
【図12】実施例3において、試片を擬似体液に浸漬する前後の薄膜X線回折パターンを示した図である。

Claims (11)

  1. 塩基性化合物を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法。
  2. 前記過酸化水素水溶液のpHが4以上である請求項1記載の表面処理方法。
  3. 酸性化合物を添加した過酸化水素水溶液にチタン合金からなる金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法。
  4. 前記過酸化水素水溶液のpHが3.4以下である請求項3記載の表面処理方法。
  5. チタン塩を添加した過酸化水素水溶液に金属チタン系基材を浸漬して、該金属チタン系基材の表面に水和チタニアゲル層を形成させる、金属チタン系基材の表面処理方法。
  6. 前記過酸化水素水溶液に添加されるチタン塩の量が、過酸化水素水溶液の体積に対して0.001mol/L以上となる量である請求項5記載の金属チタン系基材の表面処理方法。
  7. 前記過酸化水素水溶液の過酸化水素含有量が0.001〜60重量%である請求項1〜6のいずれか記載の金属チタン系基材の表面処理方法。
  8. 浸漬処理後に、200℃以上の温度で熱処理する請求項1〜7のいずれか記載の金属チタン系基材の表面処理方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか記載の表面処理方法によって表面処理が施された金属チタン系医用材料。
  10. 請求項9記載の金属チタン系医用材料からなる医用インプラント材。
  11. 請求項9記載の金属チタン系医用材料からなる医用機器。
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