JP2004178189A - 量子化誤差の推定方法、プラントの同定方法、制御方法、量子化誤差の推定装置およびプログラム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】プラントの出力値がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含む場合に、量子化誤差を固定した入出力差分方程式を設定し(ステップS13)、線形最小二乗法によりプラントの係数パラメータを求める(ステップS14)。次に、係数パラメータを固定した入出力差分方程式を設定し(ステップS15)、制約付き線形最小二乗法により量子化誤差を求める(ステップS16)。ステップS13〜S16を目的関数が収束するまで繰り返すことにより、量子化誤差とともに係数パラメータを求める。これにより、量子化誤差を精度よく推定するとともにプラントを同定することができる。
【選択図】 図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラントの入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含む場合の量子化誤差を推定する技術、プラントの同定技術、および、プラントにおける制御技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、多くの制御がディジタル化されており、ディジタル化された信号を用いて高精度な制御を行う際には、有限語長であることから生じる量子化誤差が問題となる。特に、最近盛んに研究が行われているナノオーダーの技術において精密な制御を行うためには、制御対象への入力値や出力値の量子化誤差が問題となる。
【0003】
量子化誤差を考慮してプラントの状態を推定する一つの手法としては非特許文献1に示されるウィリアムソン(Williamson)の研究が挙げられる。非特許文献1では、量子化誤差を白色雑音と仮定してLQ(linear quadratic)問題として扱っている。
【0004】
【非特許文献1】
D.ウィリアムソン(D. Williamson)著、「ディジタル・コントロール・アンド・インプリメンテーション:フィニット・ワードレングス・コンシダレーションズ(Digital Control and Implementation:Finite Wordlength Considerations)」、プレンティス・ホール(Prentice Hall)、1991年
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、非特許文献1では量子化誤差を白色雑音として仮定しているが、量子化誤差はプラントやその周辺構成等のダイナミクスに依存し、決して白色雑音ではない。そのため、好ましくはダイナミクスや誤差の値自体を考慮してプラントの同定(いわゆるシステム同定であり、プラントのパラメータの算出に相当する。)、出力の推定、制御等を行う必要がある。
【0006】
一方、量子化誤差の問題を克服するためには、分解能の高いセンサを利用する解決策も考えられる。しかしながら、このようなセンサは高価であり、また、低分解能のセンサを電気的に分周して高分解能にした場合、高分解能にするにしたがってセンサの出力の信頼性が低くなる。
【0007】
エンコーダやリニアスケールで位置を検出する時にPLLと呼ばれる装置により位置の検出精度を擬似的に高める方法も提案されているが、対象物体が速度変動を持って移動する場合には効果がない。
【0008】
さらに、ナノ領域やナノ領域以下の非常に微小な領域を考慮してプラントの同定、出力検出、制御等を行う場合、精度要求を満たすセンサが存在しないか、使えない場合が多くある。
【0009】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、プラントの入出力データを利用して、入力信号および/または出力信号がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を推定し、その結果、入出力データの分解能(入出力のディジタル化の単位)を超える精度の入力および/または出力を得ることを目的としている。また、量子化誤差の推定時にプラントに対する正確な同定を行うことも目的としている。さらに、量子化誤差を推定しつつ制御を行うことも目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける量子化誤差の推定方法であって、a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程とを有する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の量子化誤差の推定方法であって、前記b)工程において、前記複数の量子化誤差とともに入出力差分方程式の係数が求められる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の量子化誤差の推定方法であって、前記b)工程が、b1) 前記入出力差分方程式の係数を固定して前記目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を求める工程と、b2) 前記複数の量子化誤差を固定して前記目的関数を最小とする前記入出力差分方程式の係数を求める工程と、b3) 前記b1)工程に戻る工程とを有する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の量子化誤差の推定方法であって、c) 前記入出力差分方程式の係数を、前記伝達関数の相対次数に合わせて補正する工程をさらに有する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、伝達関数の次数が予め設定されたプラントの同定方法であって、a) 複数の入力値および複数の出力値に基づいて係数を未知数とした複数の入出力差分方程式を設定する工程と、b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記係数を求める工程と、c) 前記係数を、前記伝達関数の相対次数に合わせて補正する工程とを有する。
【0015】
請求項6に記載の発明は、入力値および出力値の少なくとも一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける制御方法であって、a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程と、c) 前記複数の量子化誤差の少なくとも一部に基づいて前記複数の入力値および前記複数の出力値の少なくとも一部を補正する工程と、d) 前記a)工程に戻る工程とを有する。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の制御方法であって、前記b)工程において、前記複数の量子化誤差とともに入出力差分方程式の係数が求められる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の制御方法であって、前記c)工程において補正された前記複数の入力値および前記複数の出力値の少なくとも一部を利用してフィードバック制御が行われる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含むプラントに対する量子化誤差の推定装置であって、プラントの伝達関数の次数を設定する手段と、サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定し、前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める演算部とを備える。
【0019】
請求項10に記載の発明は、入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける量子化誤差の推定をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記プログラムのコンピュータによる実行は、前記コンピュータに、a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程とを実行させる。
【0020】
【発明の実施の形態】
<1. 第1の実施の形態>
<1.1 プラントの同定および量子化誤差推定>
図1はプラント1に接続されたコンピュータ2を示すブロック図である。プラント1には、入力値が信号入力部11からホールダ12を介して入力され、プラント1からの出力信号はサンプラ13aを介してサンプリングされ、量子化器13bにより量子化された出力値とされる。なお、プラント1は、処理、演算、動作等を行う機械的、電気的あるいは化学的機構を有するものであればどのようなものであってもよく、規模の大小を問わない。例えば、位置センサが設けられた位置決め機構、濃度センサが設けられた化学プラント等がプラント1に相当する。
【0021】
本実施の形態では、一例として、白色雑音(標準偏差9.94、サンプリング周波数1kHz)の入力値がプラント1に順次入力される。出力信号は、サンプリングされて0.5の単位で切り捨てられて量子化され、一連の出力値として取得されるものとする。
【0022】
プラント1はコンピュータ2により同定(いわゆる、システム同定)が行われ、プラント1の伝達関数は実際には数1に示すものであると仮定する。第1の実施の形態では、出力値にのみ量子化誤差が存在するものとして説明する。
【0023】
【数1】
【0024】
図2はコンピュータ2の構造を示すブロック図である。コンピュータ2は、サンプリング後の複数の入力値および複数の出力値に基づいて、出力値の量子化誤差を推定するとともにプラント1の同定を行う。図2に示すように、コンピュータ2は、各種演算処理を行うCPU201、基本プログラムを記憶するROM202および各種情報を記憶するRAM203をバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムの構成となっている。バスラインにはさらに、情報記憶を行う固定ディスク204、各種情報の表示を行うディスプレイ205、操作者からの入力を受け付けるキーボード206aおよびマウス206b、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体91から情報の読み取りを行う読取装置207、並びに、通信網を介して入力値および出力値を受け取る通信部208が、適宜、インターフェイス(I/F)を介する等して接続される。
【0025】
コンピュータ2には、事前に読取装置207を介して記録媒体91からプログラムが読み出され、固定ディスク204に記憶される。そして、プログラムがRAM203にコピーされるとともにCPU201がRAM203内のプログラム231に従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)、コンピュータ2が量子化誤差の推定およびプラント1の同定を行う装置として機能する。
【0026】
次に、コンピュータ2により量子化誤差の推定およびプラント1の同定が実現される原理について説明する。
【0027】
まず、プラント1の伝達関数の次数は事前情報により判っている、あるいは、事前情報から所定の次数であるとみなすことができ、入出力差分方程式が数2にて表わされるものとする。
【0028】
【数2】
【0029】
数2において、y(i−n),・・・,y(i)は出力値、u(i−n),・・・,u(i)は入力値であり、これらの添え字はサンプリング点(時刻)を示す。係数パラメータa(1),・・・,a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)は定数であり、nは伝達関数の次数である。ここで、量子化誤差のある出力値を用いて、プラント1の同定とともに量子化誤差も推定する最小二乗問題を考える。量子化誤差がない場合の同定における最小二乗推定とは異なり、出力値に量子化誤差がある場合は係数パラメータと量子化誤差の積が数2に含まれるため、非線形最小二乗問題となる。
【0030】
プラント1の入出力差分方程式を(p+1)本まとめると数3となる。
【0031】
【数3】
【0032】
数3において、yq(i−n),・・・,yq(i+p)は量子化された(すなわち、量子化誤差を有する)出力値、u(i−n),・・・,u(i+p)は入力値、δ(i−n),・・・,δ(i+p)は出力値の量子化誤差、e(i),・・・,e(i+p)は最小二乗問題にて設定される式誤差である。ここで、δ(i−n),・・・,δ(i+p)のそれぞれには、量子化誤差の上限δup以下かつ下限δlw以上であるという制約条件が与えられる。
【0033】
数3に基づき、数4にて示される式誤差の二乗和を複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数として設定し、目的関数を最小にすることによって、係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)と量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)を同時に推定することができる。
【0034】
【数4】
【0035】
上記の非線形最小二乗推定問題の解法はいくつか考えられる。コンピュータ2では、1つの解法として、係数パラメータと量子化誤差の一方を固定して2つの線形最小二乗問題の形とし、この2つの線形最小二乗問題を交互に解くことにより最適解を求める方法が採用される。
【0036】
図3は、CPU201がプログラム231に従って動作することにより、CPU201、ROM202、RAM203、固定ディスク204等が実現する機能構成を示す図である。図4はコンピュータ2の動作の流れを示す図である。以下、図3および図4を参照しながらコンピュータ2の動作について説明する。なお、予めキーボード206aやマウス206b等によりプラント1の伝達関数の次数が設定されているものとする。
【0037】
まず、図3中の方程式設定部21が複数の入力値u(i−n),・・・,u(i+p)および複数の出力値yq(i−n),・・・,yq(i+p)を取得し、さらに、出力値に含まれる量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)を初期値0に設定する(ステップS11,S12)。次に、量子化誤差を固定して係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)を未知数として含めた複数の入出力差分方程式である数3を設定する(ステップS13)。設定された複数の入出力差分方程式は係数パラメータ算出部23へと送られ、線形最小二乗法を用いて目的関数が最小となる係数パラメータが数3から算出される(ステップS14)。
【0038】
求められた係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)は方程式設定部21へと戻され、方程式設定部21では係数パラメータを固定して数3が数5へと変形され、量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)を未知数として含めた複数の入出力差分方程式が設定される(ステップS15)。設定された入出力差分方程式は量子化誤差算出部22へと送られ、量子化誤差の制約条件を考慮しつつ制約付き最小二乗法により目的関数が最小となる量子化誤差が求められる(ステップS16)。
【0039】
【数5】
【0040】
求められた量子化誤差および目的関数の値は方程式設定部21に戻され、目的関数の値が記憶された上でステップS13〜S16が繰り返される(ステップS17)。
【0041】
2回目以降のステップS17では、前回の演算で求められた目的関数の値と今回求められた目的関数の値とが比較され、目的関数が収束したか否かが確認される。ステップS13〜S16が繰り返されている間に目的関数が所定の条件を満たすように収束した場合には、最後に求められた量子化誤差および係数パラメータが保存されて演算が終了する。
【0042】
なお、図4ではステップS18として伝達関数の相対次数に合わせて係数パラメータを補正する工程を示しているが、この補正工程については後述する。
【0043】
また、係数パラメータはプラント1を同定する前にある程度推測できる場合が多い。その場合、事前情報として係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)の初期値を与え、ステップS15から繰り返し演算が行われてもよい。
【0044】
以上の演算により、コンピュータ2では量子化誤差が求められると同時に係数パラメータの値が求められ、プラント1の高精度な同定(システム同定)が実現される。
【0045】
<1.2 出力値の推定>
次に、図4に示す動作のうち量子化誤差を求める部分を利用することにより、制御対象の真の出力値を推定する手法について説明する。図5は制御対象であるプラント1の出力推定がコンピュータ2により行われる場合のプラント1とコンピュータ2との接続関係を示すブロック図である。図5に示す構成は基本的には図1と同様であり、コンピュータ2から推定後の出力値が出力されるという点で相違する。なお、コンピュータ2ではプラント1の同定は行われないため、コンピュータ2の機能は主として図3中の方程式設定部21および量子化誤差算出部22のみとなる。プラント1は既知である、または、図4に示す方法もしくは他の方法により予め同定されているものとする。
【0046】
図6は出力推定が行われる際のコンピュータ2の動作の流れを示す図である。図3中の方程式設定部21が複数の入力値u(i−n),・・・,u(i+p)および複数の出力値yq(i−n),・・・,yq(i+p)を取得すると(ステップS21)、方程式設定部21では量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)が未知数とされた数5に示す方程式が設定される(ステップS22)。そして、設定された入出力差分方程式は量子化誤差算出部22へと送られ、量子化誤差の制約条件を考慮しつつ制約付き最小二乗法により目的関数が最小となる量子化誤差が求められる(ステップS23)。各出力値yq(i−n),・・・,yq(i+p)には対応する量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)が加えられ、(yq+δ)が推定出力値としてコンピュータ2から出力される(ステップS24)。
【0047】
ステップS21〜S24が高速に繰り返されることにより、リアルタイムにて推定後の出力値が得られる。なお、演算の際に準備される複数の入力値と複数の出力値とは先行する演算と後続の演算とにおいて部分的に重なっていてもよい。サンプリングの速度に対して演算が十分に速い場合には、1回のサンプリングごとにステップS21〜S24が実行されてもよい。さらに、複数の入力値と複数の出力値とが先行する演算と後続の演算とにおいて部分的に重なっている場合には、1つの出力値に対して複数回の推定が行われることから、得られた複数個の推定出力値の平均や重み付け平均により最終的な出力値が決定されてもよい。既述のプラント1の同定における推定された量子化誤差についても、複数個の量子化誤差から最終的なものが求められてよい。
【0048】
以上のように、既知のプラント1または予め同定されたプラント1からの出力値を推定することにより、出力のサンプリングおよび量子化による分解能を超えた分解能にて出力値を取得することが実現される。
【0049】
<1.3 フィードバック制御>
次に、出力検出器のサンプリングおよび量子化による分解能を超えて出力を推定することにより、制御性能を向上させる方法について説明を行う。一般に、フィードバック制御の精度は出力の検出精度に依存し、量子化された出力値をそのまま用いたのでは出力検出器の分解能を超えて制御を行うことはできない。
【0050】
図7は量子化誤差の推定を伴う制御が行われるシステムの構成を示すブロック図である。図7では、図5に示す構成に位相進み補償回路や積分器等のコントローラ14が組み込まれ、コンピュータ2からの推定後の出力値がコントローラ14の前にフィードバックされる。コンピュータ2の動作は図6の通りであるが、典型的な動作例では、サンプリングごとに繰り返し演算が行われ、最も新しい時点での推定出力値(数3におけるyq(i+p)とδ(i+p)の和)(または、最も新しい時点以前の複数の推定出力値から導かれる値)がフィードバックされる。
【0051】
なお、量子化誤差の推定をリアルタイムに行うためにコンピュータ2よりも高速に演算を行う必要がある場合には、図3中の方程式設定部21および量子化誤差算出部22の機能を有する専用の電気的回路がコンピュータ2に代えて設けられる。
【0052】
推定出力値を利用したフィードバック制御により、出力値のサンプリングおよび量子化による分解能よりも精度の高い出力値をフィードバック制御に利用することができ、制御性能を向上することが実現される。
【0053】
なお、出力値の推定において述べたように、複数の入力値と複数の出力値とが先行する演算と後続の演算とにおいて部分的に重なっている場合には、フィードバック時点の出力値よりも過去の出力値に対して複数回の推定が行われることとなる。フィードバックの際に最新の時点での推定出力値よりも過去の出力値も利用される場合は、得られた複数個の推定出力値の平均や重み付け平均により最終的な過去の出力値が決定された上で利用されてもよい。
【0054】
<1.4 プラントの同定および量子化誤差推定のシミュレーション例>
次に、上述のプラントの同定のシミュレーション例について説明する。プラント1の伝達関数は数1に示されるものとし、出力値に量子化誤差があるデータを用いて同定と量子化誤差の推定のシミュレーションを行う。入力値には量子化誤差はないものとし、定数50に白色雑音(標準偏差9.94、サンプリング周波数1kHz)を加えたものが入力値として用いられる。出力値は0.5の単位で切り捨てた値が使用される。
【0055】
入出力信号のサンプリング周波数が1kHzである場合、プラント1の離散時間伝達関数(パルス伝達関数)は数6にて表される。
【0056】
【数6】
【0057】
なお、事前情報として離散時間伝達関数の分子が1次、分母が2次であることが判っている(あるいは、設定されている。)ものとし、同定に用いる入出力差分方程式の数(p+1)を100、サンプリング点の数を102とする。
【0058】
図8に、あるサンプリング区間の102点のデータに基づくプラント1の同定結果の周波数応答を比較対象(設定した伝達関数の周波数応答)とともに示す。図8では、実線は数6のモデルの離散時間伝達関数から得た理想的な周波数応答を示し、ドットは量子化誤差がない場合(すなわち、出力の真値を用いることができる場合)に最小二乗推定を行って得られる周波数応答を示している。一点鎖線は量子化誤差のあるデータを用いて最小二乗推定により通常の同定を行った場合を示しており、この場合には正しく同定されないことが判る。
【0059】
一方、図8では図4に示す手法によりプラント1を同定した場合の周波数応答を破線にて示しているが、位相に関するグラフの高周波領域を除いて理想的な周波数応答と重なっている。求められた係数パラメータと真の係数パラメータとを表1に示す。図8および表1により、十分な精度で同定できていることが判る。
【0060】
【表1】
【0061】
図9は、同定に用いられた区間における量子化誤差の推定結果を示す図である。図9では推定された量子化誤差を実線にて示し、実際の量子化誤差を破線にて示しているが、これらはほぼ重なっており、精度よく量子化誤差が求められているといえる。
【0062】
図10は、推定出力値が精度良く得られることを確認するために、同定に用いたものとは異なる入力値および出力値(以下、適宜、単に「データ」と呼ぶ。)による量子化誤差の推定を行った結果を示す図である。図10では、予め既知である係数パラメータを用いて数5により、シミュレーション開始後4秒から6秒までのデータについて量子化誤差の推定を行った結果として量子化誤差の推定誤差(実際の量子化誤差と推定された量子化誤差との差)を示している。量子化誤差の推定誤差の平均値は0.002、絶対値平均は0.012、標準偏差は0.015であり、量子化される際の切り捨ての単位0.5に対して十分な精度で推定できているといえる。
【0063】
<1.5 制御のシミュレーション例>
次に、図7に示す制御システムのシミュレーション例について説明する。第1のシミュレーションでは、指令入力を定数50に正弦波指令入力(振幅0.4、周波数15Hz)を加えたものとする。コントローラ14は位相進み補償回路と積分器とを並列に接続したものである。量子化誤差の推定に用いる係数パラメータは上述のプラント1の同定方法にて求められたものを使用する。
【0064】
図11は、追従制御の結果を破線にて示す図であり、0.4秒までは量子化誤差の推定による出力値の推定は行っていない。その結果、0.4秒までは実線にて示す指令入力にほとんど追従できていない。これに対して、0.4〜1秒の間は出力推定が行われており、これにより、十分に指令入力に追従することが実現されている。
【0065】
図12は、指令入力を定数50.1とする位置決め制御を第2のシミュレーションとして行った結果を示す図である。0.4秒までは出力推定を行わずにフィードバック制御を行い、0.4秒以降は出力推定を行っている。
【0066】
位置決め制御ではコントローラ14をハイゲイン化することが多いが、そのとき、出力推定を行わないと量子化誤差の影響により0.4秒までのように出力値はおよそ量子化の単位(0.5)の幅で振動する。これに対して、出力推定を行いつつフィードバック制御を行うと、0.4秒から1秒までのように若干振動的ではあるが、量子化の分解能以上の精度で位置決め制御が実現される。
【0067】
<2. 第2の実施の形態>
第1の実施の形態では出力値にのみ量子化誤差がある場合を考えてきたが、次に、入力値と出力値の両方に量子化誤差がある場合について説明する。また、プラント1の同定および量子化誤差の推定を行うための数学的手法についても第1の実施の形態と異なる方法について説明する。
【0068】
図13は、プラント1の同定が行われる際の互いに接続されたプラント1およびコンピュータ2を示すブロック図である。なお、コンピュータ2の構成は図2に示すものと同様であり、機能構成は図3に示す方程式設定部21に方程式を解く機能が接続され、量子化誤差算出部22と係数パラメータ算出部23の量子化誤差の算出と係数パラメータの算出が同時に行われる構成となる。プラント1に対する入出力はアナログ信号である。入力信号は同定を行うためにサンプラ15aによりサンプリングされて量子化器15bにより量子化され、ディジタルデータ(入力値の集合)の形式でコンピュータ2に順次入力される。出力信号もサンプラ13aによりサンプリングされて量子化器13bにより量子化され、ディジタルデータ(出力値の集合)の形式でコンピュータ2に入力される。そのため、入力値および出力値は量子化誤差を含んでいる。
【0069】
次に、コンピュータ2がプラント1の同定を行う原理について説明する。ただし、プラント1の伝達関数の次数は予め判っている、または、設定されているものとする。図13に示すプラント1においても、入出力差分方程式は数2に準じて示すことができる。ここで、離散時間モデルの同定のために、ある時間区間における式誤差の二乗和を最小にすることを考え、量子化誤差も推定する。
【0070】
量子化された出力値をyq(i)、量子化された入力値をuq(i)とし、出力値の量子化誤差δ(i)、入力値の量子化誤差γ(i)を数7のように表す。
【0071】
【数7】
【0072】
これにより、時刻iから(i+p)までの式誤差e(i),・・・,e(i+p)は数8として示される。
【0073】
【数8】
【0074】
ここで、数9にて示される式誤差の二乗和を最小化することにより係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)と量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p),γ(i−n),・・・,γ(i+p)とを同時に算出する最適化問題を非線形最小二乗問題として扱う。
【0075】
【数9】
【0076】
式誤差の二乗和を最小化するとき、量子化誤差の制約条件は数10のように表される。
【0077】
【数10】
【0078】
数10において、δupおよびδlwはそれぞれ、出力値の量子化誤差の上限および下限であり、γupおよびγlwはそれぞれ、入力値の量子化誤差の上限および下限である。
【0079】
この制約条件を考慮するために数11に示されるようにペナルティ関数が導入された目的関数Jを設定する。
【0080】
【数11】
【0081】
数11において、ρ(i+k),ξ(i+k)は定数重み、g(i+k),h(i+k)は量子化誤差δ(i),γ(i)に対するペナルティ関数である。ペナルティ関数については、例えば、数12に示すものを用いることができる。
【0082】
【数12】
【0083】
ここで、量子化誤差の扱い方について補足する。A/D変換器、エンコーダ、リニアスケール等では信号の量子化は量子化単位により切り捨てられて算出される。この場合、δlwは0、δupは出力値の量子化単位、γlwは0、γupは入力の量子化単位となる。
【0084】
しかしながら、上記のサンプリングされて量子化された後のディジタルデータを制御や同定にそのまま使用するよりも、得られた入出力値に量子化単位の半分の値を加えた修正値を用いた方が簡単に量子化誤差の悪影響を低減することができる。なぜならば、修正値の方が量子化誤差の大きさの最大値を半分の大きさとすることができるからである。この場合、上記の目的関数Jにおける量子化誤差による制約条件は数13のように変更される。
【0085】
【数13】
【0086】
目的関数Jで表されている非線形最小二乗問題を解く手法としては、例えば、ニュートン法が利用される。その場合の初期値は量子化誤差のある入力値および出力値から線形最小二乗法によって求めた係数パラメータが使用される。
【0087】
なお、複数の入力値と複数の出力値とが先行する演算と後続の演算とにおいて部分的に重なっている場合には、1つの入力値または出力値に対して複数回の推定が行われることから、得られた複数個の推定入力値や推定出力値の平均や重み付け平均により最終的な入力値や出力値が決定されてもよい。
【0088】
次に、係数パラメータと量子化誤差とを同時推定するシミュレーション例について説明する。
【0089】
シミュレーションでは、数1にて示した連続時間伝達関数を想定する。また、連続時間伝達関数の次数は2次で相対次数は2であると仮定する。入力信号は、制御対象の位置決め指令となる定数指令3に白色雑音(分散0.4、40Hz)を加えた信号とし、同定のためのサンプリング周波数は40Hzとする。このとき、入出力差分方程式は、数14に示すものとなる。
【0090】
【数14】
【0091】
また、シミュレーションでは、100個の式誤差を使用する。このとき数8におけるpは99となり、101点の入力値および102点の出力値を使用する。
【0092】
アナログの入出力信号はサンプリングされて量子化により単位1で切捨てられて量子化される。これにより、例えば、−1,2,1,0,3のような値が得られる。プラント1の同定では、これらの値に0.5を加えた値が使用される。したがって、既述のように、量子化誤差の制約条件は数13にて示す条件となる。ただし、出力値の量子化誤差の添え字kは(−2)〜99の整数であり、入力値の量子化誤差の添え字kは(−2)〜98の整数である。
【0093】
図14は、サンプリングされて量子化された後の入力値とアナログの入力信号とを示す図であり、図15はサンプリングされて量子化された後の出力値とアナログの出力信号とを示す図である。これらの図において、丸印が入力値または出力値を示し、実線がアナログ信号を示している。なお、量子化誤差の問題を的確に検証できるように、アナログ信号の大きさに比べて比較的大きな量子化単位が設定されている。
【0094】
図16は、プラント1の周波数応答と同定されたモデル(すなわち、求められた係数パラメータを有する離散時間伝達関数)の周波数応答を示している。実線は真のプラント1の周波数応答を示し、破線は量子化誤差の存在を無視して最小二乗推定により得られたモデルの周波数応答を示している。量子化誤差を無視して求められたモデルの係数パラメータは、非線形最小二乗問題をニュートン法で解く際の初期値として利用される。
【0095】
図16において、クロス印は目的関数Jの非線形最小二乗問題をニュートン法によって解くことにより得られたモデルの周波数応答を示している。このモデルは高周波数領域を除いては真のプラント1によく一致している。
【0096】
ここで、元の連続時間伝達関数の相対次数が2であることを使うと高周波領域の特性を改善できる。具体的には、まず、求めた入出力差分方程式を連続時間系の伝達関数に変換する。これにより、分子が1次の多項式となる。そして、分子の1次の係数を0に変更して相対次数を2に強制的に補正し、連続時間系の伝達関数を離散時間の入出力差分方程式に戻す。
【0097】
第1の実施の形態に関する図4のステップS18はこのような係数パラメータの補正が実行される場合を示しており、第1の実施の形態の場合では線形最小二乗法の繰り返し演算の終了後に相対次数に合わせて係数パラメータの補正が行われることとなる。さらに、相対次数を用いた係数パラメータの補正は、量子化誤差の推定が行われずにプラントの同定のみが行われる場合にも適用することができる。なお、線形最小二乗法の繰り返し演算が行われるごとに相対次数に合わせて係数パラメータの補正が行われてもよい。
【0098】
図16中のドットにて示す曲線は、相対次数に合わせて補正されたモデルの周波数応答を示している。この周波数応答は、真のプラント1の周波数応答に十分一致している。最終的に推定された係数パラメータと実際のプラント1の係数とを表2に対比して示す。表2からも推定された係数パラメータは真の値に十分近いといえる。
【0099】
【表2】
【0100】
図17および図18は、ある0.5秒間の区間での入力値および出力値の真の量子化誤差と推定した量子化誤差とをそれぞれ示している。これらの図において、黒く塗りつぶした四角印は推定値を示しており、丸印は実際の量子化誤差を示している。
【0101】
図19および図20は101点の入力値と102点の出力値の真の量子化誤差と推定された量子化誤差との差(推定誤差)の分布を示している。図中の推定誤差の数量(縦軸)は、推定誤差の大きさを区間(0.1w〜(0.1w+0.1))(w=−5,−4,・・・,4)の間で小計し、(0.1w+0.05)の位置に示している。図19および図20において、上述の手法による推定結果の推定誤差は黒く塗りつぶした丸印で示され、初期の段階での量子化誤差を白い四角印にて示している。
【0102】
図17および図18では、量子化誤差の推定が適切に行われているか否か不明瞭であるが、図19および図20により、推定が適切に行われていると結論付けることができる。なお、量子化誤差の推定値の平均二乗誤差は、入力に関するものが0.060、出力に関するものが0.022となっている。これに対して初期の段階での量子化誤差は、入力に関するものが0.079、出力に関するものが0.097となっている。このことからも量子化誤差の推定が進行しているといえる。
【0103】
上記説明では、非線形最小二乗問題をニュートン法により解くことによりプラント1の同定および量子化誤差の推定が行われるが、入力値および出力値に量子化誤差が含まれる場合であっても図4の処理と同様に係数パラメータと量子化誤差とを交互に未知数としつつ線形最小二乗法により同定および量子化誤差の推定を行うことができる。この場合、数3に相当する式は数15となり、数5に相当する式は数16となる。
【0104】
【数15】
【0105】
【数16】
【0106】
また、入力値のみに量子化誤差が存在する場合も図4に示す手法や非線形最小二乗問題をニュートン法により解くことで同定および量子化誤差推定を行うことが可能であり、例えば、図4に示す手法が利用される場合、数3に相当する式は数17となり、数5に相当する式は数18となる。数17および数18は数15および数16から出力値の量子化誤差を抜いたものである。数15および数17を利用する演算では、量子化誤差の上限および下限が必要に応じて制約条件となる。
【0107】
【数17】
【0108】
【数18】
【0109】
以上に例示したように、入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされ量子化された時の量子化誤差を含む場合に、量子化誤差の推定、プラントの同定あるいは制御を行うとが可能である。これにより、プラント1からの入出力の分解能(例えば、プラント1が位置決め機構である場合には入力信号をサンプリングして検出するときの検出器の分解能や位置決め機構の位置検出器の分解能)が低い場合であっても分解能を超えて入力値や出力値を推定することができ、さらには、精度よく同定や制御を行うことができる。
【0110】
なお、上記説明において連続時間伝達関数の相対次数を利用して同定の精度を高める手法に言及したが、離散時間伝達関数の相対次数を利用して同定の精度を高めるという手法もある。例えば、離散時間伝達関数の相対次数が0次であると仮定して入出力差分方程式を設定して演算を行い、その後、離散時間伝達関数の相対次数が所定の次数となるように入出力差分方程式の係数の一部を強制的に0にすることにより同定の精度を高めることができる。
【0111】
<3. 第3の実施の形態>
第1および第2の実施の形態にて説明したプラント1の同定および量子化誤差の推定は、プラント1への信号の入力および出力に同期してコンピュータ2によりリアルタイム(以下、「オンライン」という。)にて行われてもよい。以下に、出力値のみに量子化誤差が存在する場合のオンラインでプラント1の同定および量子化誤差推定の方法、並びに、制御の方法について説明し、シミュレーション結果を示す。オンラインでの同定および量子化誤推定が行われる際のプラント1およびその周辺構成は図1と同様である。また、量子化誤差推定により出力値の推定(補正)が行われる場合の構成は図5と同様である。コンピュータ2の機能構成も図3と同様である。
【0112】
図21は、オンラインでの同定および量子化誤差推定が行われる際のコンピュータ2の動作の流れを示す図である。なお、図21におけるステップS37は出力値の推定が行われる際の追加動作であり、ステップS38はプラントの同定の精度を向上する際の追加動作である。
【0113】
まず、最初の動作としてコンピュータ2が演算に必要な複数の入力値および出力値を取得し(ステップS31)、事前情報として与えられた係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)の初期値が設定される(ステップS32)。なお、初期値が設定不能の場合には、量子化誤差を初期値0に設定してステップS35へと移行する。
【0114】
次に、係数パラメータを固定して量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+ p)を未知数とする複数の入出力差分方程式を設定し、これらの入出力差分方程式をまとめた式を数5に示す式へと変形する(ステップS33)。そして、数5を制約付き線形最小二乗推定問題として解いて量子化誤差δ(i−n),・・・,δ(i+p)を求める(ステップS34)。
【0115】
量子化誤差が求められると、量子化誤差を固定して数3に示す入出力差分方程式を設定し(ステップS35)、数3を線形最小二乗推定により解いて係数パラメータa(1),・・・a(n),b(0),b(1),・・・,b(n)を求める(ステップS36)。
【0116】
量子化誤差の算出および係数パラメータの算出が1回行われると、時刻iが時刻(i+1)に更新され、新たな入力値および出力値がコンピュータ2に入力される。コンピュータ2では、既に取得されている入力値および出力値を利用しつつ演算に利用される入力値および出力値の集合が更新される(ステップS39)。
【0117】
図21に示す動作により量子化誤差が推定され推定出力値が求められる場合は、プラント1からの出力値に、求められた量子化誤差が加えられて推定出力値が求められる(ステップS37)。例えば、現在の推定出力値を(yq(i)+δ(i))として算出し、サンプリング時刻ごとにその時点で現在の推定出力値を算出する。
【0118】
上記のオンラインでの同定は図7に示す構成においてフィードバック制御を行う場合にも利用することができる。フィードバック制御では、現在までの推定出力値を用いて次のサンプリング時刻のフィードバック制御のフィードバック値が決められる。これにより制御性能を向上させることが実現される。また、オンラインにて同定が行われる場合には、プラント1が時不変でない場合であっても(すなわち、時間とともに係数パラメータが変化する場合であっても)、プラント1の同定および量子化誤差の推定をプラント1の変化に対してある程度追従させることができる。
【0119】
なお、ステップS33〜S37はサンプリングが行われるごとに行われなくてもよい。数回のサンプリングが行われるごとに同定および出力推定が行われてもよい。さらに、演算に利用する入出力差分方程式は数15〜数18に置き換えることが可能である。すなわち、上述のオンラインでの同定および量子化誤差の推定は、入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされ量子化された時の量子化誤差を含む場合に行うことが可能であり、フィードバック制御が行われる場合には入力および/または出力の量子化誤差の少なくとも一部に基づいて複数の入力値および複数の出力値の少なくとも一部が補正されてフィードバックに利用される。
【0120】
これにより、プラント1に対する入出力の分解能(例えば、プラント1が位置決め機構である場合には入力信号をサンプリングして検出するときの検出器の分解能や位置決め機構の位置検出器の分解能)が低い場合であっても分解能を超えて入力値や出力値をオンラインにて推定することができ、さらには、精度よくオンラインでの同定や制御を行うことができる。
【0121】
次に、オンラインでの同定および制御のシミュレーション結果について説明する。入力値には量子化誤差はないとし、同定対象はこれまでの例で用いたのと同じ数1の伝達関数で表されるものとする。したがって、サンプリング周波数を1kHzとすると、離散時間伝達関数は数6に示したものとなる。
【0122】
指令入力は数19に示すように、2種類の周波数の正弦波の組み合わせとし、出力値は0.5の単位で切り捨てた値とされる。数19におけるTはサンプリング周期であり、kはサンプリングのタイミングに対応する整数である。
【0123】
【数19】
【0124】
また、事前情報として離散時間伝達関数の分子は1次,分母は2次と判っているものとする。オンラインでの同定時に用いる入出力差分方程式の数(p+1)は100、サンプリング点は102である。さらに、事前情報として求める連続時間系の伝達関数の相対次数が2であると判っているものとし、相対次数を利用して図21に示す繰り返し演算が実行されるごとに伝達関数(の係数)が強制的に補正され、精度の向上が図られる(図21のステップS38)。
【0125】
図22は、オンラインにて同定されたプラント1のモデルの周波数応答を示す図である。図22において、実線はプラント1の実際の伝達関数により導かれる周波数応答を示し、ドットは求められた伝達関数の周波数応答を示す。図22により、オンラインでの同定が十分な精度で行われていることが判る。
【0126】
図23は、オンラインでの同定を行いつつフィードバック制御を行った結果を示す図である。実線は指令入力を示し、破線は制御結果である出力を示す。図23では、0.4秒まで量子化誤差を無視して制御を行い、0.4秒以降は同定を行いつつ制御が行われている。図23から0.4秒以降は十分な精度で指令入力に追従できることが明らかであり、フィードバック制御の性能を大幅に向上できることが判る。
【0127】
<4. 他の演算手法>
プラントの同定、量子化誤差の推定、オンラインでの同定や量子化誤差の推定等において、入出力差分方程式に対する以上に示した数学的手法は一例にすぎず、様々な他の手法が採用可能である。
【0128】
例えば、遺伝アルゴリズムを使用して目的関数を最小化することにより、プラントの同定と量子化誤差の推定とが同時に行われてもよい。
【0129】
また、オンラインでの同定において、線形最小二乗推定に代えて、次のような演算(繰り返し形最小二乗法)が行われてもよい。なお、出力値に量子化誤差がある場合の例について説明するが、入力に量子化誤差がある場合にも拡張可能である。以下の演算例は、求める離散時間伝達関数の分子が1次、分母が2次であるものとする。
【0130】
まず、初期設定された、あるいは、前回の繰り返し演算にて求められた係数パラメータを要素として有する1列の行列x(i+p)(1行目から順に、−a(1),−a(2),b(1),b(2)が要素となる。)を固定して数5により、量子化誤差の推定を行う。
【0131】
次に、推定した量子化誤差を使用して数20を設定する。数20における各変数は数21に示す通りである。
【0132】
【数20】
【0133】
【数21】
【0134】
そして、数22により新たな係数パラメータx(i+p+1)が求められる。数22における各変数は数23に示す通りである。行列の右上のtは転置を示す。
【0135】
【数22】
【0136】
【数23】
【0137】
これらの数式内で用いるy(i+p−1),y(i+p−2)に対していつのサンプリング時刻での推定値を用いるかについてはさまざま考えられる。P(i+p)行列自体を最新の推定値により更新してもよい。
【0138】
一方、以上の説明におけるオンラインでの同定では、量子化誤差を推定するステップが必要とされている。量子化誤差の推定は制約条件を考慮しつつ線形最小二乗法を用いる方法以外の方法により行われてもよい。
【0139】
例えば、入力値および出力値に量子化誤差がある場合に、制約条件を外して数16に示す行列式を数24のように簡潔に示し(数24のY,C,X,Eは数20と無関係であり、数16の左からの各行列に対応する。)、数25に示す疑似逆行列である線形フィルタFを用いて、数26を導く。ただし、Fは2(p+n+1)×(p+1)行列である。
【0140】
【数24】
【0141】
【数25】
【0142】
【数26】
【0143】
これにより、δ(i+p),γ(i+p)は数27に示す演算により求められることとなる。なお、数27においてF(p+n+1,:),F(2(p+n+1),:)は、それぞれ線形フィルタFの(p+n+1)行目の要素ベクトル、2(p+n+1)行目の要素ベクトルである。
【0144】
【数27】
【0145】
以上の演算により、量子化誤差の算出をベクトルの掛け算として迅速に行うことが実現される。なお、量子化誤差δ(i+p),γ(i+p)を算出する式の係数に当たるベクトルF(p+n+1,:),F(2(p+n+1),:)は他の方法で算出されてもよい。
【0146】
量子化誤差を求める場合に線形フィルタを使用する場合、数28に示す線形フィルタF2が用いられてもよい。
【0147】
【数28】
【0148】
線形フィルタF2を求める方法はさまざま考えられるが、プラント1の同定を行うときに求めた量子化誤差を用いて最適な線形フィルタF2が適宜求められてよい。ニューラルネットワーク(バックプロパゲーション法、最急降下法等)、その他の学習法を利用した学習により算出されてもよい。さらに、数24〜数27に至る演算や数28の演算と同等の処理がニューラルネットワーク等による学習を利用して実現されてもよい。なお、学習の際の教師信号は既述の線形最小二乗法や非線形最小二乗法により求められて準備されてよい。
【0149】
線形フィルタや学習を利用する演算は、出力値のみ、または、入力値のみに量子化誤差が含まれる場合にももちろん利用可能である。例えば、出力値のみに量子化誤差が含まれる場合、数5から数24を導き、数25により(p+n+1)×(p+1)の行列である線形フィルタFを求めて数29により量子化誤差δ(i+p)が求められる。
【0150】
【数29】
【0151】
入力値のみに量子化誤差が含まれる場合、数18から数24を導き、数25により(p+n+1)×(p+1)の行列である線形フィルタFを求めて数30により量子化誤差γ(i+p)が求められる。
【0152】
【数30】
【0153】
【発明の効果】
請求項1ないし4、並びに、請求項9および10の発明では、精度よく入力値および/または出力値の量子化誤差を推定することができる。
【0154】
また、請求項2および3の発明では、量子化誤差の推定とともにプラントの同定を行うことができる。
【0155】
また、請求項4の発明では、さらに精度よくプラントの同定を行うことができる。
【0156】
請求項5の発明では、精度よくプラントの同定を行うことができる。
【0157】
請求項6ないし8の発明では、制御時に精度よく量子化誤差を推定することができる。
【0158】
また、請求項7の発明では、制御時にプラントを同定することができ、請求項8の発明では精度よく制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】量子化誤差の推定およびプラントの同定が行われる際のプラントとコンピュータとの接続関係を示すブロック図である。
【図2】コンピュータの構造を示すブロック図である。
【図3】コンピュータの機能構成を示すブロック図である。
【図4】量子化誤差の推定およびプラントの同定の流れを示す図である。
【図5】出力値の推定が行われる際のプラントとコンピュータとの接続関係を示すブロック図である。
【図6】出力値の推定の流れを示す図である。
【図7】量子化誤差の推定および制御が行われる際のプラントとコンピュータとの接続関係を示すブロック図である。
【図8】プラントの同定結果を示すボード線図である。
【図9】量子化誤差の推定結果を示す図である。
【図10】量子化誤差の推定誤差を示す図である。
【図11】制御結果を示す図である。
【図12】制御結果を示す図である。
【図13】量子化誤差の推定およびプラントの同定が行われる際のプラントとコンピュータとの接続関係を示すブロック図である。
【図14】サンプリングされて量子化された後の入力値とアナログの入力信号とを示す図である。
【図15】サンプリングされて量子化された後の出力値とアナログの出力信号とを示す図である。
【図16】プラントの同定結果を示すボード線図である。
【図17】入力の量子化誤差の推定結果を示す図である。
【図18】出力の量子化誤差の推定結果を示す図である。
【図19】入力の量子化誤差の推定誤差の分布を示す図である。
【図20】出力の量子化誤差の推定誤差の分布を示す図である。
【図21】オンラインでの量子化誤差の推定およびプラントの同定の流れを示す図である。
【図22】プラントの同定結果を示すボード線図である。
【図23】制御結果を示す図である。
【符号の説明】
1 プラント
2 コンピュータ
21 方程式設定部
22 量子化誤差算出部
23 係数パラメータ算出部
201 CPU
206a キーボード
206b マウス
231 プログラム
S13〜S18,S22〜S24,S33〜S38 ステップ
Claims (10)
- 入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける量子化誤差の推定方法であって、
a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、
b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程と、
を有することを特徴とする量子化誤差の推定方法。 - 請求項1に記載の量子化誤差の推定方法であって、
前記b)工程において、前記複数の量子化誤差とともに入出力差分方程式の係数が求められることを特徴とする量子化誤差の推定方法。 - 請求項2に記載の量子化誤差の推定方法であって、
前記b)工程が、
b1) 前記入出力差分方程式の係数を固定して前記目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を求める工程と、
b2) 前記複数の量子化誤差を固定して前記目的関数を最小とする前記入出力差分方程式の係数を求める工程と、
b3) 前記b1)工程に戻る工程と、
を有することを特徴とする量子化誤差の推定方法。 - 請求項2または3に記載の量子化誤差の推定方法であって、
c) 前記入出力差分方程式の係数を、前記伝達関数の相対次数に合わせて補正する工程をさらに有することを特徴とする量子化誤差の推定方法。 - 伝達関数の次数が予め設定されたプラントの同定方法であって、
a) 複数の入力値および複数の出力値に基づいて係数を未知数とした複数の入出力差分方程式を設定する工程と、
b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記係数を求める工程と、
c) 前記係数を、前記伝達関数の相対次数に合わせて補正する工程と、
を有することを特徴とするプラントの同定方法。 - 入力値および出力値の少なくとも一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける制御方法であって、
a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、
b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程と、
c) 前記複数の量子化誤差の少なくとも一部に基づいて前記複数の入力値および前記複数の出力値の少なくとも一部を補正する工程と、
d) 前記a)工程に戻る工程と、
を有することを特徴とする制御方法。 - 請求項6に記載の制御方法であって、
前記b)工程において、前記複数の量子化誤差とともに入出力差分方程式の係数が求められることを特徴とする制御方法。 - 請求項6または7に記載の制御方法であって、
前記c)工程において補正された前記複数の入力値および前記複数の出力値の少なくとも一部を利用してフィードバック制御が行われることを特徴とする制御方法。 - 入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含むプラントに対する量子化誤差の推定装置であって、
プラントの伝達関数の次数を設定する手段と、
サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定し、前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める演算部と、
を備えることを特徴とする量子化誤差の推定装置。 - 入力値および出力値の少なくともいずれか一方がサンプリングされて量子化された時の量子化誤差を含み、伝達関数の次数が予め設定されたプラントにおける量子化誤差の推定をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記プログラムのコンピュータによる実行は、前記コンピュータに、
a) サンプリングされて量子化された複数の入力値および複数の出力値に基づいて複数の量子化誤差を未知数として含めた複数の入出力差分方程式を設定する工程と、
b) 前記複数の入出力差分方程式の誤差の程度を示す目的関数を最小とする前記複数の量子化誤差を前記複数の入出力差分方程式から求める工程と、
を実行させることを特徴とするプログラム。
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