JP2004176189A - 高強度ロープ - Google Patents
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Abstract
【課題】従来のロープにおけるフィブリル化、成分界面剥離、吸水等の欠点を著しく改善し、操業安定性に優れた高強度ロープを提供するものである。
【解決手段】島成分が液晶ポリエステル及び海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーから構成される複合繊維であり、繊維系を(R)、島成分径を(r)として、全ての島成分が、r/R≦0.3であり、かつ繊維横断面全体に分散している海島型複合繊維を用いてなることを特徴とする高強度ロープ。
【選択図】なし
【解決手段】島成分が液晶ポリエステル及び海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーから構成される複合繊維であり、繊維系を(R)、島成分径を(r)として、全ての島成分が、r/R≦0.3であり、かつ繊維横断面全体に分散している海島型複合繊維を用いてなることを特徴とする高強度ロープ。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明のロープは耐摩耗性、屈曲耐久性及び非吸水性に優れた高強度ロープに関する。更に詳しくは、繊維横断面が島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーの海島形状である混合繊維から構成されるロープであって、耐摩耗性、屈曲耐久性及び非吸水性に優れた高強度ロープに関する。
【0002】
【従来の技術】
ロープ用繊維としてこれまで麻などの天然繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどの合繊繊維が用いられてきた。これらの繊維は9cN/dtexを上回るものはなく、高強度ロープを作るためにはロープの径を太くしたり、鋼線を用いたりする必要があった。しかし、ロープ径が太くなると、取り扱い性が悪くなったり、重くなるという問題がある。また、強力を向上させるために鋼線を混入すると、重さに加え絶縁不良が生じ、電気を使用する分野に用いることができないだけでなく、使用状況によっては錆びるという問題があった。
【0003】
最近、強度という観点から見ればアラミド繊維あるいは超高分子量ポリエチレンの希薄溶液より紡糸して得られる超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度繊維を用いたロープが提案されている。しかし、これらのロープについても、例えばアラミド繊維については、ロープ比重が約1.5と重く、また乾湿状態においても物性差が大きく、湿潤時には強度や摩耗性が著しく低下する。またいずれの高強度繊維も従来汎用的に用いられている溶融紡糸による製造が困難であり、有機または無機の溶剤を用いる溶液紡糸という特殊な製糸方法を用いる必要があるため、環境的な問題があるだけではなく、高価であるという実用上の問題点がある。
【0004】
溶融紡糸方法で比較的安価に製糸が可能な高強度繊維として、液晶ポリエステル繊維が挙げられる。液晶ポリエステル繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、高強力高弾性率を有することが知られており、該繊維を用いたロープによって高強度ロープを得る技術が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、液晶ポリエステルのみからなる繊維をロープに用いるには強度、弾性率の面では問題がないものの、剛直性ポリマであるために繊維表面がフィブリル化し易く、使用時の摩耗からフィブリル化して強度が大きく低下する。液晶ポリエステル繊維を単独で用いるのは困難である。
【0005】
また、一般的にロープは、素材である原糸をまず下撚りし、次いで上撚りした後ストランドとし、更にこれを撚り合わせるというように、数段階の撚り工程を経て製造されるため、繊維は、繊維/繊維あるいは繊維/装置の部品(金属等)との擦過により傷つけられ、強度は著しく低下する。特に液晶ポリエステル繊維等の高強度繊維でロープを製造する場合には、フィブリル化が激しいため、最終的なロープの強度は原糸強度から期待されるよりもはるかに低いレベルになってしまう。
【0006】
高強度繊維は伸度が非常に低く、かつ繊維軸方向に構造が著しく配向しているため、繊維表面のフィブリル化が起こりやすいことが知られている。かかる問題点を解消するため、高強度繊維に表面処理、油剤、他繊維による被覆等、実質的に高強度繊維が外部に露出しないようにし、このようなフィブリル化を解消する技術がも多く開示されている。例えば、芯を液晶ポリエステル、鞘成分を屈曲性熱可塑性ポリマー及び液晶ポリエステルからなるブレンドにより構成された芯鞘複合繊維の製造方法に関する技術がある(特許文献2参照)。また、芯鞘型複合紡糸の芯成分を液晶ポリエステル、鞘成分を液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリエステルとブレンドとしたものもある(特許文献3参照)。
【0007】
複合液晶ポリエステルの周囲をフィブリル化し難いポリマーで被覆する芯鞘型にすることで、耐フィブリル性、耐摩耗性が改良されるのは事実である。しかし、鞘成分の屈曲性熱可塑性ポリマーは各種の改質を施したとしてもなお、液晶ポリエステルとの親和性に乏しく、かつ液晶ポリエステルに適した紡糸速度で引き取ること、更に液晶ポリエステルは延伸を行わないことから鞘の屈曲性熱可塑性ポリマーは未延伸のままである。このことから更に機械的特性を向上しようと固相重合に伴う熱処理を該繊維に施した場合には熱結晶化して脆くなり、ロープ製造時の装置との擦過や原糸同志での摩擦から成分界面剥離が起こり、そこが原因となって強度の著しい低下を起こすため、原糸強度から期待される高強度ロープの製造は非常に困難である。他の高強度繊維についても同様であり、表面の被覆により対金属等のフィブリル化は解消されるものの、ロープ内での繊維/繊維での擦過によるフィブリル化は解消されないだけでなく、ロープ成形中もしくはロープ使用中の被覆物の成分界面剥離が起こるため、剥離部分が直接的もしくは間接的にロープの強度低下につながり、特に高強度ロープとして使用する場合には問題が残る。
【0008】
【特許文献1】
特開昭62−57993号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平1−229815号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平5−23715号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来技術のかかる問題点の解決すべく、本発明者らは操作性に優れ、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性、非吸湿性に優れた高強度ロープについて鋭意検討下結果、本発明を見出したものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、少なくても任意の横断面が海島状態を示す混合繊維によって構成される高強度ロープであって、該繊維の島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーから構成され、繊維径を(R)、島成分径を(r)としたときに全ての島成分がr/R≦0.3であることを特徴とする高強度ロープによって達成される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の混合繊維は、非相溶である液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリマーを混合して溶融紡糸することで得られる繊維であり、繊維横断面が海島形状を示すものである。該繊維は島成分が液晶ポリエステステルであり、海成分は屈曲性熱可塑性ポリマーによって形成されている。従って、該繊維は液晶ポリエステルによって高強度高弾性率が達成され、しかも実質的に屈曲性熱可塑性ポリマーが繊維表面を覆うことで、耐フィブリル性が改善される。更に島成分を微細に分散させることにより、従来芯鞘型繊維で問題点となる島成分と海成分との成分界面剥離をも解消するものである。また、耐フィブリル性及び耐成分界面剥離性を効果的にするためには、繊維横断面において単繊維の外接円より求めた繊維径を(R)とし、同様に、1つの島成分において、島成分の外接円より求めた径を(r)とした場合に、全ての島成分がr/R≦0.3であることが必要である。r/R>0.3になると、繊維/繊維や繊維/金属等との擦過が起こると、成分界面剥離が容易に起こるようになる。また、溶融液晶性ポリマと屈曲性熱可塑性ポリマーとは非相溶性であるため、発生した剥離部分が剥脱し、強度低下を引き起こすことによって、原糸強度から期待される高強度ロープを得ることが困難となる。
【0014】
また、フィブリルや成分界面剥離の発生した高強度ロープはフィブリル部分や剥脱部分の劣化から耐疲労性は大きく低下し、特に金属等との擦過があるような用途では即座に実用に耐えないものとなってしまう。従って、成分界面剥離による強度低下を抑制するためには、島成分が断面方向にできるだけ微細に分散している必要があり、本発明に用いる海島型複合繊維の島成分径はr/R≦0.3であることが必要であり、r/R≦0.2とすることがより好ましく、更に好ましくはr/R≦0.1とすることである。
【0015】
また、本発明のロープの耐フィブリル性を向上させるためには、高配向の島成分ができるだけ繊維表面に露出されてないことが好ましく、繊維表面に露出した海成分の繊維横断面における弧長の総和が繊維外周長の60%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上とすることである。
【0016】
本発明に用いる海島型複合繊維の島成分(r)は透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))により、5千倍の倍率で繊維横断面を撮影した写真から1つ1つの島成分について、島成分の外接円を求めて得られる。また、繊維表面に露出している海成分の割合については、TEMで撮影した繊維横断面写真から、繊維外周長と繊維表面に露出した海成分の弧長の総和をそれぞれ測定して求められる。
【0017】
本発明に用いられる液晶ポリエステルは、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどのモノマーから選ばれた構造単位からなる重合物であり、異方性溶融相を形成するポリエステルである。異方性溶融相とは、例えば液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより認定できる。
【0018】
ここで芳香族オキシカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族オキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
脂環族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ビシクロオクタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら脂環族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂環族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
芳香族ジオールの具体例としては、特に制限されるものではないものの、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールSなどが挙げられ、またこれら芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、またこれら脂肪族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂肪族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
本発明の液晶ポリエステルは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲でさらに他のモノマーを共重合せしめることができ、それら他のモノマーとしては特に制限されるものではないものの、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミンなどが挙げられる。
【0024】
本発明における、前記のモノマーなどを重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、特に制限されるものではないものの、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールと4,4´−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸とハイドロキノンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とが共重合された液晶ポリエステル、などが挙げられる。
【0025】
本発明における液晶ポリエステルの製造方法にはついては特に制限されるものではなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造でき、例えば、次の製造方法(1)〜(5)が好ましく挙げられる。
【0026】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とから脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
【0027】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0028】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とのジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0029】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に、所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0030】
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0031】
本発明における液晶ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用して重縮合反応を行うことができる。
【0032】
また本発明の液晶ポリエステルは、各種金属酸化物やカオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤等の添加剤を少量含有しても良い。
【0033】
本発明の液晶ポリエステルは、融点(以下Tm)が220〜360℃の範囲のものが好ましく、さらに好ましくはTmが250〜350℃である。ここで、融点(Tm)とは示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)で行う示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷した後(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を意味する。
【0034】
本発明の海成分のポリマーとしては、屈曲性熱可塑性高分子であれば特に限定されるものでないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレートなどの非液晶ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、フッ素系樹脂などが挙げられる。操作性を考えると、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレートが好ましく、より好ましくはポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、更に好ましくはポリフェニレンサルファイドである。特に直鎖状ポリフェニレンサルファイドを用いた場合には製糸性が良好となり、耐薬品性、力学的特性、耐フィブリル性等の点で顕著な効果が得られる。
【0035】
本発明に用いる海島型混合繊維は従来公知の溶融紡糸方法であれば製造することが可能である。例えば、液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリマーを粉状もしくはチップ状でブレンドしたもの、もしくは両成分の溶融物をあらかじめスタチックミキサー等で溶融混合して、押出し、ペレット化したものを紡糸原料として用いる。この際、島成分/海成分の複合重量比が40/60〜80/20の範囲にあることが好ましい。島成分の複合重量割合を40重量%未満にすると高強度ロープに適した高強度高弾性繊維を得ることが難しくなる。また、海成分の複合重量割合は、20重量%未満にすると繊維表面を50%以上被覆することが困難となるため好ましくない。島成分/海成分の複合重量比については、50/50〜90/10の範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは60/40〜80/20の範囲にすることである。島成分/海成分の複合重量比を60/40〜80/20に範囲にすると、海成分が繊維表面を90%以上覆いつつも、島成分が微細に分散するようになるため、得られる紡糸原糸が高強度高弾性率を有しつつも、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性がより優れたものとなり、従来技術では得難かった耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性、非吸水性に優れた高強度ロープを得ることが可能となる。
【0036】
得られた紡糸原料は従来公知の溶融紡糸装置を使用し、繊維化する。紡糸温度は280〜420℃、好ましくは300〜400℃である。この範囲より温度が低いと装置に負荷がかかったり、溶融体の均一性が十分でなかったり、逆に温度が高いと分解反応等を生じ、安定な紡糸ができない。溶融紡糸された繊維はそのままで、または油剤や処理剤を付着させた後、巻き取るか引き落とす。本発明で用いる海島型複合繊維は溶融紡糸で得られるため、紡糸口金、吐出条件、巻取条件等を変更することにより、用途、物性に応じた繊維の径や断面形状を制御することが可能であり、特に単糸繊度に影響されることなく目的とする効果が得られる。但し、これらの繊維の単糸繊度は0.3〜20dtexであることが好ましく、より好ましくは0.5〜16dtexとすることである。その理由としては、0.3dtex以上にすると、他物体との摩擦や摩耗による単糸繊維切れが発生しにくく、またストランド中における繊維の引き揃え性が向上して、高荷重で使用した場合、特定箇所に応力集中が起こりにくくなり、ストランドもしくはロープが原糸強度から期待される強力が達成される。一方、繊維が20dtex以下であれば、ストランドもしくはロープの柔軟性が向上して屈曲耐久性が向上するためである。
【0037】
本発明に用いる海島型複合繊維は、紡糸しただけで既に十分な強度、弾性率を有しているが、より高性能な高強度ロープを得るためには弛緩熱処理あるいは定長熱処理を施すことが好ましい。熱処理は、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気の如き酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能である。熱処理雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。熱処理条件としては、島成分の融点−40℃以下から海成分の融点以下まで順次昇温していく温度パターンで行うことが好ましい。更に処理時間は、目的性能により数分から数時間行われる。熱処理時における熱供給は、気体等の媒体を用いる方法、加熱板、赤外線ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、熱プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等が使用できる。また、熱処理は目的により緊張下あるいは無緊張下で行い、カセ状、トウ状(例えば、金属網等に乗せて行う)、パッケージ状、ロープ等のいずれの形状を用いても良い。処理手法はバッチ方式で処理する方法あるいはローラー等で連続的に処理するのも可能である。製糸及び製網の作業手順を考えれば、溶融紡糸後繊維を巻き取り、そのままパッケージ状で行うか、ロープを製網した後で行うことが好ましい。
【0038】
本発明に用いる海島型複合繊維の強度はロープ径やロープの重量を操作性の良い範囲にするために、10cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは13cN/dtex以上、更に好ましくは15cN/dtex以上とすることである。繊維の強度を10cN/dtex以上にすると高荷重のかかるような用途に必要となる高強度ロープとしたとしても、従来ロープとに比べ、ロープの径もしくは重量の減少が可能となり、操作性が向上する。
【0039】
本発明に用いる海島型複合繊維の弾性率は300cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは350cN/dtex以上、更に好ましくは400cN/dtex以上とすることである。繊維の複合繊維の弾性率が300cN/dtex以上であるとロープ使用時のクリープ変形が起こりにくくなり、特に緊張状態が続く用途においてはロープの変形による誤作動を防止することができる。
【0040】
本発明の高強度ロープの製造方法は従来公知の方法を用いれば製網可能であり、本発明に用いる海島型複合繊維を合糸してヤーン工程、ストランド工程を順次行い、得たストランドをクローサもしくは編索機でロープへと製網する。この後、形状、品質、性能を安定させるため、熱処理工程を行うのが好ましい。かかる熱処理は樹脂加工や蒸気、温水、電熱等による種々の方法があるが、通常ロープ径は太いため、外部と内部を均一に熱処理するためには内部から発熱する高周波電波を用いることが好ましい。
【0041】
撚り合わせ方法としては、特に限定されないが、JIS−L2701(1992)、JIS−L2703(1992)、JIS−L2704(1992)、JIS−L2705(1992)、JIS−L2706(1992)等に例示されているような方法を適宜選択して用いることができる。
【0042】
撚り回数は特に限定されないが、通常、例えば、下撚り数は30〜500回/m、好ましくは50〜300回/m、上撚り数は20〜200回/m、20〜100回/m程度がより好ましい。
【0043】
ロープを構成する繊維のうち、少なくとも50vol%以上、好ましくは70vol%以上が本発明による混合繊維により構成されていることが望ましいが、用途、目的によっては他の繊維を50vol%以上混入することも可能である。但し、他繊維が50vol%以上混合されるようになると他繊維/他繊維との擦過により本発明のロープの性能が著しく低下する場合が生じたり、用途に適した高強力を得ることが難しくなる。
【0044】
ロープ構造としてはその用途にあわせた構造とすれば良い。例えば、三打ち、四打ち、六打ち、八打ち等の撚合わせロープや、石目打ち、綾目打ち、十二打ち、十六打ち等といった編索ロープや組み紐、または金剛打ち、岩糸、延縄のような特殊構造のロープが可能である。但し、繊維の持つ高強度、高弾性率をできるだけ生かすためには、撚数の少ないものを選ぶ方が好ましい。
【0045】
また、本発明のロープを芯部材とし、外周を例えば他繊維もしくは本発明の繊維のヤーンまたはストランドを交差させながら螺旋状に巻き回すことにより鞘部材で被覆した二重構造(ダブルブレード構造)としたり、これを繰り返すことで、多層構造のロープを構成しても良い。また、このような多層構造のロープとする場合はロープを構成した後に熱処理を施し、繊維間やストランド間を融着させると芯部材が動きにくくなり、緊張緩和が繰り返される用途に置いても繊維間摩耗による疲労が生じにくく、ロープの耐久性が向上するため好ましい。
【0046】
撚りをかけたり、編み上げたりする時には、必要に応じてフィラメントに集束剤、油剤、表面処理剤をつけたりすることが効果的である。また、一度ロープを製造した後でこれら処理を行っても良い。このような表面処理は、ロープを構成する繊維間の摩擦、摩耗による物性低下や、ロープ製造時、使用時のロープ、繊維の金属等、他素材との接触による摩耗や、耐候性に効果を有し、本発明における効果をより一層効果的にする。
【0047】
本発明の高強度ロープは特に高強度高弾性率を有しつつも耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性に優れているため、緊張緩和状態が繰り返される用途においても繊維/繊維もしくは繊維/金属等の擦過がある用途においても高性能を保つことができる。
【0048】
かかる高強度ロープの用途としては気球用、アドバルーン係留用、アンテナ等の支柱線、レジャー、登山用ロープ、荷役用ロープ、リフト用ロープ、工事用命綱、安全ネット用、各種電気工事用等に用いることが可能であるだけでなく、湿状態においてもその特性が損なわれないため、船舶、海洋関係の用途や水産関係の用途にも広く対応可能である。例えば、船舶係留用、曳航用、ブイ係留用、海上作業用、海上施設用、観測機器用、アイスブーム用、引き網漁業用、定置網漁業用、延縄漁業用、施設漁業用、養殖漁業用、籠漁業用、刺し網漁業用、捕鯨用、海底探索、海底ケーブル等の用途分野が挙げられる。
【0049】
【実施例】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれより何等限定されるものではない。
[溶融粘度(poise)]
温度300℃、剪断速度60sec−1の条件で東洋精機社製キャピログラフ1Bを用いて測定した。
[繊維及びロープの強度、弾性率(cN/dtex)、破断伸度(%)、強力(kg)の測定]
実施例中の強伸度、弾性率はJIS L1013およびJIS L2707に準じオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて測定した。
【0050】
乾湿差を見るため、25℃の水中にロープを15時間つけ、測定中も水をかけることにより湿状態を作り出した。
[繊維の耐摩耗回数(回)及び耐摩耗性評価]
φ3mmの梨地の金属棒に接触角35°で糸を掛け、金属棒から340mmの所で糸張力20gとして把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、毛羽(剥離、フィブリル化)が発生するまでの回数を測定した。耐摩耗評価は500回以上を合格とし、700回以上を○○、500回以上を○、300回以上を△、300回未満を×とした。
[ロープ重量(kg/200m)]
製網したロープを長さ200mとなるように切り出し、秤量した。
[ロープの耐フィブリル回数(回)、耐破断回数(回)及び耐摩耗性評価]
φ15mmのサンドペーパーを巻きつけた金属棒に接触角35°でロープを掛け、金属棒から340mmの所で張力が20kgなるように把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、フィブリルの発生するまでの回数及び破断するまでの回数を測定した。耐摩耗評価は耐破断回数が1000回以上を合格とし、1300回以上を○○、1000回以上を○、700回以上を△、700回未満を×とした。
【0051】
実施例1〜5
液晶ポリエステル(以下LCP)としてp−アセトキシ安息香酸から生成した構造単位(1)と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構成単位(2)からなり、構造単位(1)が全体の72モル%、構造単位(2)が28モル%を占める液晶ポリエステルを用いた。このLCPの溶融粘度は1100poiseであった。
【0052】
屈曲性熱可塑性ポリマーとしては、酸洗浄を行ったポリフェニレンスルフィド(以下PPS)を用いた。このPPSの溶融粘度は425poiseであった。
【0053】
LCPとPPSを複合重量比50/50、60/40、65/35、70/30、80/20とし、ペレット状で混合したものを、2軸エクストルーダー(スクリュー径φ30mm)により、スクリュー回転数25rpmで溶融混練し、紡糸温度320℃で、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、孔数650の口金より吐出して紡糸速度600m/minで紡糸し、紡糸原糸を得た。吐出孔詰まり、吐出曲がりなどはなく良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた全ての熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表1に示す性能を有していた。
【0054】
得られた海島型複合繊維を合糸してストランドとし、φ4mmの三打ちロープとした。得られたロープ物性を表2に示す。
【0055】
この繊維を合糸してストランドとしたものを計8本用意し、内4本にZ撚りを加え、残り4本にS撚りを加えたものを組み合わせて編組し、φ6mmの八打ちロープとした。得られたロープの物性を表3に示す。
【0056】
この繊維を合糸してストランドとしたものを計24本用意し、内12本にZ撚りを加え、残り12本にS撚りを加えたものを組み合わせて編組し、φ6mmのコードとした。更に24本のストランドを用意して、内12本にZ撚りを加え、残り12本にS撚りを加えたものをかかるコードを芯に置き、組み合わせて編組し、φ10mmの24×2+24×2の編索ロープを製造した。得られたロープの物性を表4に示す。
【0057】
実施例6
海成分を溶融粘度320poiseのナイロン6(以下Ny6)とし、LCP/Ny6の複合比を60/40にした以外は全て実施例1と同様の方法で紡糸し、紡糸原糸を得た。
【0058】
このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がり等は無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた繊維は得られた熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表1に示す性能を有していた。
【0059】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表2、表3、表4に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
比較例1
LCPを100%としたこと以外全て実施例1と同様の方法で紡糸し、紡糸原糸を得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がり等は無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表5に示す性能を有していた。
【0065】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表6、表7、表8に示した。
【0066】
比較例2〜3
LCPを芯、PPSを鞘として、芯鞘の複合重量比65/35、90/10紡糸温度320℃、ノズル径φ0.13mm、孔数650の芯鞘複合口金より吐出し、紡糸速度600m/minで紡糸原糸を得た。この時、吐出詰まり、吐出曲がり等無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた全ての熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表5に示す性能を有していた。
【0067】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表6、表7、表8に示した。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
【発明の効果】
本発明は、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、非吸水性に優れる操作性が良好な高強度ロープを提供することに成功したものである。
【0073】
本発明によるロープは高強度高弾性率を有し、耐フィブリル性及び耐成分界面剥離性に優れる。また、従来の高強度ロープに比べて、軽量で柔軟性、非吸水性、電気絶縁性、耐摩耗性に優れるため、取扱性に優れる。
【0074】
かかる高強度ロープは気球用、アドバルーン係留用、アンテナ等の支柱線、レンジャロープ、登山用ロープ、荷役用ロープ、リフト用ロープ、工事用命綱、安全ネット用、各種電気工事用等、また、船舶、海洋関係の用途や水産関係の用途としては、船舶係留用、曳航用、ブイ係留用、海上作業用、海上施設用、観測機器用、アイスブーム用、引き網漁業用、定置網漁業用、延縄漁業用、施設漁業用、養殖漁業用、籠漁業用、刺し網漁業用、捕鯨用、海底探索、海底ケーブル等で用いると効果的である。
【発明の属する技術分野】
本発明のロープは耐摩耗性、屈曲耐久性及び非吸水性に優れた高強度ロープに関する。更に詳しくは、繊維横断面が島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーの海島形状である混合繊維から構成されるロープであって、耐摩耗性、屈曲耐久性及び非吸水性に優れた高強度ロープに関する。
【0002】
【従来の技術】
ロープ用繊維としてこれまで麻などの天然繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどの合繊繊維が用いられてきた。これらの繊維は9cN/dtexを上回るものはなく、高強度ロープを作るためにはロープの径を太くしたり、鋼線を用いたりする必要があった。しかし、ロープ径が太くなると、取り扱い性が悪くなったり、重くなるという問題がある。また、強力を向上させるために鋼線を混入すると、重さに加え絶縁不良が生じ、電気を使用する分野に用いることができないだけでなく、使用状況によっては錆びるという問題があった。
【0003】
最近、強度という観点から見ればアラミド繊維あるいは超高分子量ポリエチレンの希薄溶液より紡糸して得られる超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度繊維を用いたロープが提案されている。しかし、これらのロープについても、例えばアラミド繊維については、ロープ比重が約1.5と重く、また乾湿状態においても物性差が大きく、湿潤時には強度や摩耗性が著しく低下する。またいずれの高強度繊維も従来汎用的に用いられている溶融紡糸による製造が困難であり、有機または無機の溶剤を用いる溶液紡糸という特殊な製糸方法を用いる必要があるため、環境的な問題があるだけではなく、高価であるという実用上の問題点がある。
【0004】
溶融紡糸方法で比較的安価に製糸が可能な高強度繊維として、液晶ポリエステル繊維が挙げられる。液晶ポリエステル繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、高強力高弾性率を有することが知られており、該繊維を用いたロープによって高強度ロープを得る技術が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、液晶ポリエステルのみからなる繊維をロープに用いるには強度、弾性率の面では問題がないものの、剛直性ポリマであるために繊維表面がフィブリル化し易く、使用時の摩耗からフィブリル化して強度が大きく低下する。液晶ポリエステル繊維を単独で用いるのは困難である。
【0005】
また、一般的にロープは、素材である原糸をまず下撚りし、次いで上撚りした後ストランドとし、更にこれを撚り合わせるというように、数段階の撚り工程を経て製造されるため、繊維は、繊維/繊維あるいは繊維/装置の部品(金属等)との擦過により傷つけられ、強度は著しく低下する。特に液晶ポリエステル繊維等の高強度繊維でロープを製造する場合には、フィブリル化が激しいため、最終的なロープの強度は原糸強度から期待されるよりもはるかに低いレベルになってしまう。
【0006】
高強度繊維は伸度が非常に低く、かつ繊維軸方向に構造が著しく配向しているため、繊維表面のフィブリル化が起こりやすいことが知られている。かかる問題点を解消するため、高強度繊維に表面処理、油剤、他繊維による被覆等、実質的に高強度繊維が外部に露出しないようにし、このようなフィブリル化を解消する技術がも多く開示されている。例えば、芯を液晶ポリエステル、鞘成分を屈曲性熱可塑性ポリマー及び液晶ポリエステルからなるブレンドにより構成された芯鞘複合繊維の製造方法に関する技術がある(特許文献2参照)。また、芯鞘型複合紡糸の芯成分を液晶ポリエステル、鞘成分を液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリエステルとブレンドとしたものもある(特許文献3参照)。
【0007】
複合液晶ポリエステルの周囲をフィブリル化し難いポリマーで被覆する芯鞘型にすることで、耐フィブリル性、耐摩耗性が改良されるのは事実である。しかし、鞘成分の屈曲性熱可塑性ポリマーは各種の改質を施したとしてもなお、液晶ポリエステルとの親和性に乏しく、かつ液晶ポリエステルに適した紡糸速度で引き取ること、更に液晶ポリエステルは延伸を行わないことから鞘の屈曲性熱可塑性ポリマーは未延伸のままである。このことから更に機械的特性を向上しようと固相重合に伴う熱処理を該繊維に施した場合には熱結晶化して脆くなり、ロープ製造時の装置との擦過や原糸同志での摩擦から成分界面剥離が起こり、そこが原因となって強度の著しい低下を起こすため、原糸強度から期待される高強度ロープの製造は非常に困難である。他の高強度繊維についても同様であり、表面の被覆により対金属等のフィブリル化は解消されるものの、ロープ内での繊維/繊維での擦過によるフィブリル化は解消されないだけでなく、ロープ成形中もしくはロープ使用中の被覆物の成分界面剥離が起こるため、剥離部分が直接的もしくは間接的にロープの強度低下につながり、特に高強度ロープとして使用する場合には問題が残る。
【0008】
【特許文献1】
特開昭62−57993号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平1−229815号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平5−23715号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来技術のかかる問題点の解決すべく、本発明者らは操作性に優れ、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性、非吸湿性に優れた高強度ロープについて鋭意検討下結果、本発明を見出したものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、少なくても任意の横断面が海島状態を示す混合繊維によって構成される高強度ロープであって、該繊維の島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーから構成され、繊維径を(R)、島成分径を(r)としたときに全ての島成分がr/R≦0.3であることを特徴とする高強度ロープによって達成される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の混合繊維は、非相溶である液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリマーを混合して溶融紡糸することで得られる繊維であり、繊維横断面が海島形状を示すものである。該繊維は島成分が液晶ポリエステステルであり、海成分は屈曲性熱可塑性ポリマーによって形成されている。従って、該繊維は液晶ポリエステルによって高強度高弾性率が達成され、しかも実質的に屈曲性熱可塑性ポリマーが繊維表面を覆うことで、耐フィブリル性が改善される。更に島成分を微細に分散させることにより、従来芯鞘型繊維で問題点となる島成分と海成分との成分界面剥離をも解消するものである。また、耐フィブリル性及び耐成分界面剥離性を効果的にするためには、繊維横断面において単繊維の外接円より求めた繊維径を(R)とし、同様に、1つの島成分において、島成分の外接円より求めた径を(r)とした場合に、全ての島成分がr/R≦0.3であることが必要である。r/R>0.3になると、繊維/繊維や繊維/金属等との擦過が起こると、成分界面剥離が容易に起こるようになる。また、溶融液晶性ポリマと屈曲性熱可塑性ポリマーとは非相溶性であるため、発生した剥離部分が剥脱し、強度低下を引き起こすことによって、原糸強度から期待される高強度ロープを得ることが困難となる。
【0014】
また、フィブリルや成分界面剥離の発生した高強度ロープはフィブリル部分や剥脱部分の劣化から耐疲労性は大きく低下し、特に金属等との擦過があるような用途では即座に実用に耐えないものとなってしまう。従って、成分界面剥離による強度低下を抑制するためには、島成分が断面方向にできるだけ微細に分散している必要があり、本発明に用いる海島型複合繊維の島成分径はr/R≦0.3であることが必要であり、r/R≦0.2とすることがより好ましく、更に好ましくはr/R≦0.1とすることである。
【0015】
また、本発明のロープの耐フィブリル性を向上させるためには、高配向の島成分ができるだけ繊維表面に露出されてないことが好ましく、繊維表面に露出した海成分の繊維横断面における弧長の総和が繊維外周長の60%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上とすることである。
【0016】
本発明に用いる海島型複合繊維の島成分(r)は透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))により、5千倍の倍率で繊維横断面を撮影した写真から1つ1つの島成分について、島成分の外接円を求めて得られる。また、繊維表面に露出している海成分の割合については、TEMで撮影した繊維横断面写真から、繊維外周長と繊維表面に露出した海成分の弧長の総和をそれぞれ測定して求められる。
【0017】
本発明に用いられる液晶ポリエステルは、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどのモノマーから選ばれた構造単位からなる重合物であり、異方性溶融相を形成するポリエステルである。異方性溶融相とは、例えば液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより認定できる。
【0018】
ここで芳香族オキシカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族オキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
脂環族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ビシクロオクタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら脂環族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂環族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
芳香族ジオールの具体例としては、特に制限されるものではないものの、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールSなどが挙げられ、またこれら芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、またこれら脂肪族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂肪族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
本発明の液晶ポリエステルは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲でさらに他のモノマーを共重合せしめることができ、それら他のモノマーとしては特に制限されるものではないものの、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミンなどが挙げられる。
【0024】
本発明における、前記のモノマーなどを重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、特に制限されるものではないものの、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールと4,4´−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸とハイドロキノンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とが共重合された液晶ポリエステル、などが挙げられる。
【0025】
本発明における液晶ポリエステルの製造方法にはついては特に制限されるものではなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造でき、例えば、次の製造方法(1)〜(5)が好ましく挙げられる。
【0026】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とから脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
【0027】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0028】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とのジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0029】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に、所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
【0030】
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0031】
本発明における液晶ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用して重縮合反応を行うことができる。
【0032】
また本発明の液晶ポリエステルは、各種金属酸化物やカオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤等の添加剤を少量含有しても良い。
【0033】
本発明の液晶ポリエステルは、融点(以下Tm)が220〜360℃の範囲のものが好ましく、さらに好ましくはTmが250〜350℃である。ここで、融点(Tm)とは示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)で行う示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷した後(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を意味する。
【0034】
本発明の海成分のポリマーとしては、屈曲性熱可塑性高分子であれば特に限定されるものでないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレートなどの非液晶ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、フッ素系樹脂などが挙げられる。操作性を考えると、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレートが好ましく、より好ましくはポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、更に好ましくはポリフェニレンサルファイドである。特に直鎖状ポリフェニレンサルファイドを用いた場合には製糸性が良好となり、耐薬品性、力学的特性、耐フィブリル性等の点で顕著な効果が得られる。
【0035】
本発明に用いる海島型混合繊維は従来公知の溶融紡糸方法であれば製造することが可能である。例えば、液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性ポリマーを粉状もしくはチップ状でブレンドしたもの、もしくは両成分の溶融物をあらかじめスタチックミキサー等で溶融混合して、押出し、ペレット化したものを紡糸原料として用いる。この際、島成分/海成分の複合重量比が40/60〜80/20の範囲にあることが好ましい。島成分の複合重量割合を40重量%未満にすると高強度ロープに適した高強度高弾性繊維を得ることが難しくなる。また、海成分の複合重量割合は、20重量%未満にすると繊維表面を50%以上被覆することが困難となるため好ましくない。島成分/海成分の複合重量比については、50/50〜90/10の範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは60/40〜80/20の範囲にすることである。島成分/海成分の複合重量比を60/40〜80/20に範囲にすると、海成分が繊維表面を90%以上覆いつつも、島成分が微細に分散するようになるため、得られる紡糸原糸が高強度高弾性率を有しつつも、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性がより優れたものとなり、従来技術では得難かった耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性、非吸水性に優れた高強度ロープを得ることが可能となる。
【0036】
得られた紡糸原料は従来公知の溶融紡糸装置を使用し、繊維化する。紡糸温度は280〜420℃、好ましくは300〜400℃である。この範囲より温度が低いと装置に負荷がかかったり、溶融体の均一性が十分でなかったり、逆に温度が高いと分解反応等を生じ、安定な紡糸ができない。溶融紡糸された繊維はそのままで、または油剤や処理剤を付着させた後、巻き取るか引き落とす。本発明で用いる海島型複合繊維は溶融紡糸で得られるため、紡糸口金、吐出条件、巻取条件等を変更することにより、用途、物性に応じた繊維の径や断面形状を制御することが可能であり、特に単糸繊度に影響されることなく目的とする効果が得られる。但し、これらの繊維の単糸繊度は0.3〜20dtexであることが好ましく、より好ましくは0.5〜16dtexとすることである。その理由としては、0.3dtex以上にすると、他物体との摩擦や摩耗による単糸繊維切れが発生しにくく、またストランド中における繊維の引き揃え性が向上して、高荷重で使用した場合、特定箇所に応力集中が起こりにくくなり、ストランドもしくはロープが原糸強度から期待される強力が達成される。一方、繊維が20dtex以下であれば、ストランドもしくはロープの柔軟性が向上して屈曲耐久性が向上するためである。
【0037】
本発明に用いる海島型複合繊維は、紡糸しただけで既に十分な強度、弾性率を有しているが、より高性能な高強度ロープを得るためには弛緩熱処理あるいは定長熱処理を施すことが好ましい。熱処理は、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気の如き酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能である。熱処理雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。熱処理条件としては、島成分の融点−40℃以下から海成分の融点以下まで順次昇温していく温度パターンで行うことが好ましい。更に処理時間は、目的性能により数分から数時間行われる。熱処理時における熱供給は、気体等の媒体を用いる方法、加熱板、赤外線ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、熱プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等が使用できる。また、熱処理は目的により緊張下あるいは無緊張下で行い、カセ状、トウ状(例えば、金属網等に乗せて行う)、パッケージ状、ロープ等のいずれの形状を用いても良い。処理手法はバッチ方式で処理する方法あるいはローラー等で連続的に処理するのも可能である。製糸及び製網の作業手順を考えれば、溶融紡糸後繊維を巻き取り、そのままパッケージ状で行うか、ロープを製網した後で行うことが好ましい。
【0038】
本発明に用いる海島型複合繊維の強度はロープ径やロープの重量を操作性の良い範囲にするために、10cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは13cN/dtex以上、更に好ましくは15cN/dtex以上とすることである。繊維の強度を10cN/dtex以上にすると高荷重のかかるような用途に必要となる高強度ロープとしたとしても、従来ロープとに比べ、ロープの径もしくは重量の減少が可能となり、操作性が向上する。
【0039】
本発明に用いる海島型複合繊維の弾性率は300cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは350cN/dtex以上、更に好ましくは400cN/dtex以上とすることである。繊維の複合繊維の弾性率が300cN/dtex以上であるとロープ使用時のクリープ変形が起こりにくくなり、特に緊張状態が続く用途においてはロープの変形による誤作動を防止することができる。
【0040】
本発明の高強度ロープの製造方法は従来公知の方法を用いれば製網可能であり、本発明に用いる海島型複合繊維を合糸してヤーン工程、ストランド工程を順次行い、得たストランドをクローサもしくは編索機でロープへと製網する。この後、形状、品質、性能を安定させるため、熱処理工程を行うのが好ましい。かかる熱処理は樹脂加工や蒸気、温水、電熱等による種々の方法があるが、通常ロープ径は太いため、外部と内部を均一に熱処理するためには内部から発熱する高周波電波を用いることが好ましい。
【0041】
撚り合わせ方法としては、特に限定されないが、JIS−L2701(1992)、JIS−L2703(1992)、JIS−L2704(1992)、JIS−L2705(1992)、JIS−L2706(1992)等に例示されているような方法を適宜選択して用いることができる。
【0042】
撚り回数は特に限定されないが、通常、例えば、下撚り数は30〜500回/m、好ましくは50〜300回/m、上撚り数は20〜200回/m、20〜100回/m程度がより好ましい。
【0043】
ロープを構成する繊維のうち、少なくとも50vol%以上、好ましくは70vol%以上が本発明による混合繊維により構成されていることが望ましいが、用途、目的によっては他の繊維を50vol%以上混入することも可能である。但し、他繊維が50vol%以上混合されるようになると他繊維/他繊維との擦過により本発明のロープの性能が著しく低下する場合が生じたり、用途に適した高強力を得ることが難しくなる。
【0044】
ロープ構造としてはその用途にあわせた構造とすれば良い。例えば、三打ち、四打ち、六打ち、八打ち等の撚合わせロープや、石目打ち、綾目打ち、十二打ち、十六打ち等といった編索ロープや組み紐、または金剛打ち、岩糸、延縄のような特殊構造のロープが可能である。但し、繊維の持つ高強度、高弾性率をできるだけ生かすためには、撚数の少ないものを選ぶ方が好ましい。
【0045】
また、本発明のロープを芯部材とし、外周を例えば他繊維もしくは本発明の繊維のヤーンまたはストランドを交差させながら螺旋状に巻き回すことにより鞘部材で被覆した二重構造(ダブルブレード構造)としたり、これを繰り返すことで、多層構造のロープを構成しても良い。また、このような多層構造のロープとする場合はロープを構成した後に熱処理を施し、繊維間やストランド間を融着させると芯部材が動きにくくなり、緊張緩和が繰り返される用途に置いても繊維間摩耗による疲労が生じにくく、ロープの耐久性が向上するため好ましい。
【0046】
撚りをかけたり、編み上げたりする時には、必要に応じてフィラメントに集束剤、油剤、表面処理剤をつけたりすることが効果的である。また、一度ロープを製造した後でこれら処理を行っても良い。このような表面処理は、ロープを構成する繊維間の摩擦、摩耗による物性低下や、ロープ製造時、使用時のロープ、繊維の金属等、他素材との接触による摩耗や、耐候性に効果を有し、本発明における効果をより一層効果的にする。
【0047】
本発明の高強度ロープは特に高強度高弾性率を有しつつも耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、耐疲労性に優れているため、緊張緩和状態が繰り返される用途においても繊維/繊維もしくは繊維/金属等の擦過がある用途においても高性能を保つことができる。
【0048】
かかる高強度ロープの用途としては気球用、アドバルーン係留用、アンテナ等の支柱線、レジャー、登山用ロープ、荷役用ロープ、リフト用ロープ、工事用命綱、安全ネット用、各種電気工事用等に用いることが可能であるだけでなく、湿状態においてもその特性が損なわれないため、船舶、海洋関係の用途や水産関係の用途にも広く対応可能である。例えば、船舶係留用、曳航用、ブイ係留用、海上作業用、海上施設用、観測機器用、アイスブーム用、引き網漁業用、定置網漁業用、延縄漁業用、施設漁業用、養殖漁業用、籠漁業用、刺し網漁業用、捕鯨用、海底探索、海底ケーブル等の用途分野が挙げられる。
【0049】
【実施例】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれより何等限定されるものではない。
[溶融粘度(poise)]
温度300℃、剪断速度60sec−1の条件で東洋精機社製キャピログラフ1Bを用いて測定した。
[繊維及びロープの強度、弾性率(cN/dtex)、破断伸度(%)、強力(kg)の測定]
実施例中の強伸度、弾性率はJIS L1013およびJIS L2707に準じオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて測定した。
【0050】
乾湿差を見るため、25℃の水中にロープを15時間つけ、測定中も水をかけることにより湿状態を作り出した。
[繊維の耐摩耗回数(回)及び耐摩耗性評価]
φ3mmの梨地の金属棒に接触角35°で糸を掛け、金属棒から340mmの所で糸張力20gとして把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、毛羽(剥離、フィブリル化)が発生するまでの回数を測定した。耐摩耗評価は500回以上を合格とし、700回以上を○○、500回以上を○、300回以上を△、300回未満を×とした。
[ロープ重量(kg/200m)]
製網したロープを長さ200mとなるように切り出し、秤量した。
[ロープの耐フィブリル回数(回)、耐破断回数(回)及び耐摩耗性評価]
φ15mmのサンドペーパーを巻きつけた金属棒に接触角35°でロープを掛け、金属棒から340mmの所で張力が20kgなるように把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、フィブリルの発生するまでの回数及び破断するまでの回数を測定した。耐摩耗評価は耐破断回数が1000回以上を合格とし、1300回以上を○○、1000回以上を○、700回以上を△、700回未満を×とした。
【0051】
実施例1〜5
液晶ポリエステル(以下LCP)としてp−アセトキシ安息香酸から生成した構造単位(1)と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構成単位(2)からなり、構造単位(1)が全体の72モル%、構造単位(2)が28モル%を占める液晶ポリエステルを用いた。このLCPの溶融粘度は1100poiseであった。
【0052】
屈曲性熱可塑性ポリマーとしては、酸洗浄を行ったポリフェニレンスルフィド(以下PPS)を用いた。このPPSの溶融粘度は425poiseであった。
【0053】
LCPとPPSを複合重量比50/50、60/40、65/35、70/30、80/20とし、ペレット状で混合したものを、2軸エクストルーダー(スクリュー径φ30mm)により、スクリュー回転数25rpmで溶融混練し、紡糸温度320℃で、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、孔数650の口金より吐出して紡糸速度600m/minで紡糸し、紡糸原糸を得た。吐出孔詰まり、吐出曲がりなどはなく良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた全ての熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表1に示す性能を有していた。
【0054】
得られた海島型複合繊維を合糸してストランドとし、φ4mmの三打ちロープとした。得られたロープ物性を表2に示す。
【0055】
この繊維を合糸してストランドとしたものを計8本用意し、内4本にZ撚りを加え、残り4本にS撚りを加えたものを組み合わせて編組し、φ6mmの八打ちロープとした。得られたロープの物性を表3に示す。
【0056】
この繊維を合糸してストランドとしたものを計24本用意し、内12本にZ撚りを加え、残り12本にS撚りを加えたものを組み合わせて編組し、φ6mmのコードとした。更に24本のストランドを用意して、内12本にZ撚りを加え、残り12本にS撚りを加えたものをかかるコードを芯に置き、組み合わせて編組し、φ10mmの24×2+24×2の編索ロープを製造した。得られたロープの物性を表4に示す。
【0057】
実施例6
海成分を溶融粘度320poiseのナイロン6(以下Ny6)とし、LCP/Ny6の複合比を60/40にした以外は全て実施例1と同様の方法で紡糸し、紡糸原糸を得た。
【0058】
このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がり等は無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた繊維は得られた熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表1に示す性能を有していた。
【0059】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表2、表3、表4に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
比較例1
LCPを100%としたこと以外全て実施例1と同様の方法で紡糸し、紡糸原糸を得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がり等は無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表5に示す性能を有していた。
【0065】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表6、表7、表8に示した。
【0066】
比較例2〜3
LCPを芯、PPSを鞘として、芯鞘の複合重量比65/35、90/10紡糸温度320℃、ノズル径φ0.13mm、孔数650の芯鞘複合口金より吐出し、紡糸速度600m/minで紡糸原糸を得た。この時、吐出詰まり、吐出曲がり等無く良好な巻取糸を得ることができた。得られた紡糸原糸を250℃で2時間、260℃で2時間、270℃で6時間窒素ガス雰囲気中において熱処理した。得られた全ての熱処理糸は、繊維間融着もほとんど無く、表5に示す性能を有していた。
【0067】
この繊維を用いて、実施例1〜5と同様にロープを製造し、その物性を表6、表7、表8に示した。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
【発明の効果】
本発明は、耐フィブリル性、耐成分界面剥離性、非吸水性に優れる操作性が良好な高強度ロープを提供することに成功したものである。
【0073】
本発明によるロープは高強度高弾性率を有し、耐フィブリル性及び耐成分界面剥離性に優れる。また、従来の高強度ロープに比べて、軽量で柔軟性、非吸水性、電気絶縁性、耐摩耗性に優れるため、取扱性に優れる。
【0074】
かかる高強度ロープは気球用、アドバルーン係留用、アンテナ等の支柱線、レンジャロープ、登山用ロープ、荷役用ロープ、リフト用ロープ、工事用命綱、安全ネット用、各種電気工事用等、また、船舶、海洋関係の用途や水産関係の用途としては、船舶係留用、曳航用、ブイ係留用、海上作業用、海上施設用、観測機器用、アイスブーム用、引き網漁業用、定置網漁業用、延縄漁業用、施設漁業用、養殖漁業用、籠漁業用、刺し網漁業用、捕鯨用、海底探索、海底ケーブル等で用いると効果的である。
Claims (5)
- 繊維横断面が海島形状である混合繊維から構成されるロープであって、該繊維の島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーであり、繊維径(R)に対する、島成分径(r)がr/R≦0.3であることを特徴とする高強度ロープ。
- 液晶ポリエステルが60〜80重量%、屈曲性熱可塑性ポリマーが40〜20重量%で複合されていることを特徴とする請求項1記載の高強度ロープ。
- 混合繊維の強度が10cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高強度ロープ。
- 混合繊維の弾性率が300cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高強度ロープ。
- 海島型混合繊維を構成する海成分である屈曲性熱可塑性ポリマーがポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高強度ロープ。
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JP2002340612A JP2004176189A (ja) | 2002-11-25 | 2002-11-25 | 高強度ロープ |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2019225644A1 (ja) * | 2018-05-23 | 2019-11-28 | 株式会社クラレ | 液晶ポリエステルからなるマルチフィラメントの製造方法および液晶ポリエステルマルチフィラメント |
-
2002
- 2002-11-25 JP JP2002340612A patent/JP2004176189A/ja active Pending
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WO2019225644A1 (ja) * | 2018-05-23 | 2019-11-28 | 株式会社クラレ | 液晶ポリエステルからなるマルチフィラメントの製造方法および液晶ポリエステルマルチフィラメント |
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