JP6855683B2 - 液晶ポリエステルマルチフィラメント - Google Patents

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Description

本発明は、液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。詳しくはネット、ロープ等の産業資材用途に好適な液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。
液晶ポリエステルは剛直な分子鎖からなるポリマーであり、溶融紡糸においてはその分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに高温下で固相重合するため、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度、弾性率が発現することが知られている。そのため、高強力、高弾性率が求められる産業資材用途に好適に用いられている。
このような液晶ポリエステル繊維として、ポリシロキサンを繊維に対して0.1重量%以上付着した溶融異方性芳香族ポリエステル繊維が提案されている(特許文献1参照)。
特開平04−024289号公報
しかしながら、従来の液晶ポリエステルマルチフィラメントは繊維軸方向には高い強度を示すが、繊維軸垂直方向の力には弱く、強く屈曲させると容易に座屈するため、高次加工後の製品としての強力が十分でないという課題があった。
特許文献1記載の繊維は、固相重合の際の最終到達温度が高すぎるため、結晶化の進行により繊維の剛直性が増し、屈曲時に座屈しやすく、高次加工後の製品強力に未だ満足できるものではなかった。
本発明は、上述したかかる事情を背景として、鋭意検討したものであり、従来技術と比較して繊維軸垂直方向にも高い強度を有し、屈曲させても座屈しにくい、高次加工後に高い製品強力を発現することができる液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供することにある。
上記課題を達成するために、本発明は次の構成を有する。
(1)引掛強度が11〜20cN/dtexであり、かつ強度が20.7cN/dtex以上であって、液晶ポリエステルが、下記の化学式に示される構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルマルチフィラメント。
Figure 0006855683
(2)構造単位(I)が、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85mol%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90mol%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95mol%である(1)に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
(3)ロープまたはネットに用いられる(1)または(2)に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
(4)引掛強度が16.0〜20.0cN/dtexであり、ロープまたは無結節ネットに用いられる(3)に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるロープ。
(6)液晶ポリエステルを溶融紡糸し、得られたマルチフィラメント状の紡糸繊維を固相重合する際、固相重合の最高到達温度を液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点−45〜−35℃、固相重合の最高到達温度での保持時間を1〜2時間、固相重合の最高到達温度までの昇温速度を35〜65℃/時間とする、引掛強度が11〜20cN/dtexであり、かつ強度が20.7cN/dtex以上の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは繊維軸垂直方向にも高い強度を有し、屈曲させても座屈しにくいという特徴を有することから、製品形態で高い強力を発現し、また好ましい態様ではさらに高い直線強度を有する。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、補強資材および電気材料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、ロープ、スリング、ネット、魚網、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード、およびテンションメンバー等のように幅広い用途に用いられる。特に、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、繊維の交差部や屈曲部で高い耐久性を有するので、ネットやロープ用途に好適に用いられる。
次に、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントとその製造方法について、詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、引掛強度が11〜20cN/dtexである液晶ポリエステルマルチフィラメントである。
本発明で用いられる液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学異方性(液晶性)を呈するポリエステルを指す。この光学異方性は、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、偏光顕微鏡で試料の透過光を観察することにより認定することができる。
本発明で用いられる液晶ポリエステルとしては、例えば、(a)芳香族オキシカルボン酸の重合物、(b)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールまたは脂肪族ジオールから選択されたジオールとの重合物、および(c)前記の(a)と前記の(b)の共重合物等が挙げられ、中でも芳香族化合物のみで構成された重合物が好ましく用いられる。芳香族化合物のみで構成された重合物は、繊維にした際に優れた強度および弾性率を発現する。また、液晶ポリエステルの重合処方は、通常の方法を用いることができる。
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、例として、ヒドロキシ安息香酸およびヒドロキシナフトエ酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシおよびハロゲン置換体等が挙げられる。
また、芳香族ジカルボン酸としては、例として、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸およびジフェニルエタンジカルボン酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシおよびハロゲン置換体等が挙げられる。
更に、芳香族ジオールとしては、例として、ヒドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニルおよびナフタレンジオール等、またはこれらのアルキル、アルコキシおよびハロゲン置換体等が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールおよびネオペンチルグリコール等が挙げられる。
本発明で用いられる液晶ポリエステルは、上記のモノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲で更に他のモノマーを共重合させることができる。他のモノマーの例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミン等が挙げられる。
本発明で用いられる前記のモノマー等を重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸成分が共重合された液晶ポリエステル、およびp−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4´−ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分および/またはテレフタル酸成分が共重合された液晶ポリエステル等が挙げられる。特に好ましくは、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4´−ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分とテレフタル酸成分とヒドロキノン成分が共重合された液晶ポリエステルが挙げられる。
本発明では、特に、下記の化学式
Figure 0006855683
で示される構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルが好ましく用いられる。本発明において、構造単位とは、ポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
このように、前記の構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の組み合わせにより、分子鎖は適切な結晶性と非直線性、すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがって、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に比較的均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度と弾性率を高めることができる。
さらに本発明においては、前記の構造単位(II)と(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要である。この成分を組み合わせることにより、繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持することができる。これにより高い強度と弾性率に加えて、比較的良好な耐摩耗性が得られるのである。
上記した構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85mol%であることが好ましく、より好ましくは65〜80mol%であり、さらに好ましくは68〜75mol%である。このような範囲とすることにより、結晶性を適切な範囲とすることができ、高い強度と弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
また、構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90mol%であることが好ましく、より好ましくは60〜80mol%であり、さらに好ましくは65〜75mol%である。このような範囲とすることにより、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため、耐摩耗性を高めることができる。
さらに、構造単位(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95mol%であることが好ましく、より好ましくは50〜90mol%であり、さらに好ましくは60〜85mol%である。このような範囲とすることにより、ポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に比較的均一な繊維が得られる。
なお、構造単位(II)と構造単位(III)の合計量と構造単位(IV)と構造単位(V)の合計量は、実質的に等モルであることが好ましい。
本発明で用いられる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載することがある。)は、3万以上であることが好ましく、より好ましくは5万以上である。分子量を3万以上とすることにより紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができ、分子量が高いほど得られる繊維の強度、伸度および弾性率を高めることができる。また、分子量が高すぎると粘度が高くなって流動性が悪くなり、ついには流動しなくなるため、分子量は25万未満が好ましく、より好ましくは15万未満である。本発明で言う分子量とは、実施例記載の方法により求められた値とする。
本発明で用いられる液晶ポリエステルの融点は、溶融紡糸のし易さと耐熱性の面から200〜380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは250〜350℃であり、更に好ましくは290〜340℃である。融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)で行う示差熱量測定において、50℃の温度から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。
また、本発明で用いられる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加し併用することができる。添加および併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、ないし複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。
本発明で用いられる他のポリマーとしては、例として、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレン等のビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等のポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、およびポリエステル99M等が好適な例として挙げられる。
これらのポリマーを添加し併用する場合、そのポリマーの融点は、製糸性を損なわないという観点から、液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが好ましく、また、得られる繊維の強度と弾性率を向上させるためには、添加し併用する量は50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
本発明で用いられる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカ等の無機物、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、および相溶化剤等の添加剤を少量含有させることができる。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの引掛強度は、11cN/dtex以上であることが必須である。引掛強度を11cN/dtex以上とすることにより、交差部や屈曲部を有する製品での製品強力が大きく向上する。繊維の引掛強度が11cN/dtex未満の場合、製品とした時に糸条の屈曲部や交差部で容易に破断するため、原糸の直線強度が高くとも製品としての強力は低いものしか得られない。
上記範囲であると、ロープや結節ネット等に好適である。
また、引掛強度は繊維の剛直性と概ね相関し、引掛強度が高い繊維ほど剛直性が低く、柔軟性が増す傾向にある。そして引掛強度が高い程、柔軟で交差・屈曲部で破断しにくくなることから、ロープや無結節ネット等の用途に特に最適である。引掛強度としては16〜20cN/dtexであることが特に好ましい。剛軟度としては、0〜10mNであることが柔軟性の点から好ましい。
また、引掛強度12.5〜15cN/dtexの範囲にある場合には適度な剛直性を有することから形態保持性に優れるので、ベルト等の織物用途にとりわけ好ましい。剛軟度としては15〜25mNであることが好ましい。
他方、引掛強度11.0〜12.0cN/dtexであると、繊維が剛直な程、結び目が小さくなり過ぎず、応力が分散されて結び目で破断しにくくなることから、有結節ネット等の結び目を有する用途で特に有効である。剛軟度としては30〜50mNであることが好ましい。
引掛強度の上限については、後述の製造方法により達し得る上限としては引掛強度20cN/dtex程度である。本発明でいう引掛強度と剛軟度とは、実施例記載の手法により求める値である。
なお、剛直性が高すぎる場合、製品として加工する際に取り扱い難くなることから、剛軟度は50mN以下が好ましい。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、生産性向上のため5〜10000dtexであることが好ましく、より好ましくは10〜10000dtexであり、さらに好ましくは100〜10000dtexである。ここでいう総繊度とは、実施例記載の手法により求める値である。総繊度が上記の範囲であれば、固相重合時に糸条の内部と外部に物性差のない糸を得ることができる。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントを構成する単繊維の単繊維繊度は、18.0dtex以下であることが好ましい。ここでいう単繊維繊度とは、実施例記載の手法により求める値である。単繊維繊度を18dtex以下と細くすることにより、繊維のしなやかさが向上し繊維の加工性が向上すること、表面積が増加するため接着剤や樹脂との密着性が高まるという特性を有することに加え、織加工する場合は厚みを薄くできること、織密度を高くできること、およびオープニング(開口部の面積)を広くできるという利点も有する。
単繊維繊度は、より好ましくは12dtex以下であり、さらに好ましくは7dtex以下である。単繊維繊度の下限については、前述の製造方法により達し得る下限としては1dtex程度である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントとしての糸条に含まれる単繊維数、すなわちフィラメント数は10〜1000本であることが好ましく、より好ましくは50〜500本であり、さらに好ましくは100〜500本である。このようなフィラメント数にすることにより、液晶ポリエステルマルチフィラメントとしてのしなやかさと高い強力(強度と総繊度の積)を併せ持つ、工程通過性に優れた糸を得ることができる。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの強度は、18cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは20cN/dtex以上であり、さらに好ましくは24cN/dtex以上である。強度の上限については、後述の製造方法により達し得る上限としては30cN/dtex程度である。ここで言う強度とは、実施例記載の手法により求める値である。本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの強度が18cN/dtex以上であることにより、高強度と軽量化が求められる産業資材用途に好適に用いられる。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの伸度は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは2%以上である。伸度を1%以上とすることにより繊維の衝撃吸収性が高まり、高次加工工程における工程通過性と取り扱い性に優れる他、衝撃吸収性が高まるため耐摩耗性も高まる。伸度の上限については、後述の製造方法により達し得る上限としては10%程度である。ここでいう伸度とは、実施例記載の手法により求める値である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの弾性率は、800cN/dtex以上であることが好ましい。弾性率は900cN/dtex以上であることがより好ましい。弾性率の上限については、後述の製造方法により達し得る上限としては弾性率1500cN/dtex程度である。本発明でいう弾性率とは、実施例記載の手法により求める値である。本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの弾性率を900cN/dtex以上とすることにより、荷重がかかった際の最終的な寸法変化が小さく、産業用資材に好適に用いられる。
次に、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法について、詳細に説明する。
溶融紡糸において、液晶ポリエステルの溶融押出は通常の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすために、エクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマー(液晶ポリエステル)は、配管を経由しギアーポンプ等通常の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、紡糸口金へと導かれる。このとき、ポリマー配管から紡糸口金までの温度(紡糸温度)は、液晶ポリエステルの融点以上で熱分解温度以下とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上で400℃以下とすることがより好ましく、液晶ポリエステルの融点+20℃以上で370℃以下とすることが更に好ましい態様である。また、ポリマー配管から口金までの温度を、それぞれ独立して調整することも可能である。この場合、紡糸口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることにより吐出が安定する。
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るには、吐出時の安定性と細化挙動の安定性を高める方が好ましい。工業的な溶融紡糸では、エネルギーコストの低減と生産性向上のため、1つの口金に多数の口金孔を穿孔するので、それぞれの口金孔の吐出、細化を安定させた方が好ましい。
これらを達成するためには、口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが好ましい態様である。ただし、孔径が過度に小さくなると孔の詰まりが発生しやすくなるため、直径は0.03mm以上1.00mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05mm以上0.8mm以下であり、さらに好ましくは0.08mm以上0.60mm以下である。
ランド長は過度に長くなると圧力損失が高くなるため、ランド長Lを孔径Dで除した商で定義されるL/Dが、0.5以上3.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以上2.5以下であり、さらに好ましくは1.0以上2.0以下である。
また、マルチフィラメントの生産性を向上させるために、1つの紡糸口金の孔数は2孔以上であることが好ましく、単繊維繊度バラツキ抑制の観点からは1000孔以下であることが好ましい。紡糸口金の孔数は、より好ましくは10孔以上700孔以下であり、さらに好ましくは50孔以上500孔以下である。
口金孔の直上に位置する導入孔は、圧力損失を高めないという観点から、直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが好ましい。導入孔と口金孔の接続部分は、異常滞留を抑制する上で、テーパーとすることが好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい態様である。
口金孔から吐出されたポリマーは、保温領域と冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は、過度に長くなると製糸性が悪くなるため、口金面から50〜400mmとすることが好ましく、50〜300mmとすることがより好ましく、保温領域を50〜200mmとすることが更に好ましい態様である。保温領域は、加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能である。
冷却は、不活性ガス、空気および水蒸気等を用いることができるが、環境負荷を低くするという観点から、平行あるいは環状の空気流を用いることが好ましい。
引き取り速度は、生産性向上のため50m/分以上であることが好ましく、より好ましくは300m/分以上であり、さらに好ましくは500m/分以上である。本発明で特に好ましく用いられる液晶ポリエステルは、紡糸温度において好適な曳糸性を有することから、引き取り速度を高速にすることができる。引き取り速度の上限は特に制限されないが、本発明で特に好ましく用いられる液晶ポリエステルにおいては、曳糸性の点から3000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは、1以上500以下とすることが好ましく、5以上200以下とすることがより好ましく、12以上100以下とすることが更に好ましい態様である。本発明で用いられる液晶ポリエステルは、好適な曳糸性を有することからドラフトを高くすることができ、生産性向上に有利である。
本発明では製糸性および生産性向上の観点から、上記の紡糸ドラフトを得るために、ポリマー吐出量を10〜2000g/分と設定することが好ましく、30〜1000g/分と設定することがより好ましく、50〜500g/分と設定することが更に好ましい態様である。ポリマー吐出量を10〜2000g/分と設定することにより、液晶ポリエステルのマルチフィラメント状の紡糸繊維が製糸性良く得られる。
溶融紡糸においては、繊維の取り扱い性を向上させる上で、ポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが好ましい。油剤には一般的な紡糸油剤を用いることができる。
巻き取りは、通常の巻取機を用いてパーン、チーズおよびコーンなどの形態のパッケージとすることができるが、繊維に摩擦力を与えずフィブリル化させないという観点で、巻き取り時にパッケージ表面にローラーが接触しないパーン巻きとすることが好ましい。
溶融紡糸された液晶ポリエステルの紡糸繊維は、使用目的に合わせてフィラメント数を調整するために、合糸あるいは分繊することもできる。合糸あるいは分繊は、公知の技術によって行うことができる。
本発明において、パッケージ形状で固相重合を行う場合、繊維同士の融着を防ぐため、繊維表面に油分を付着させることは好ましい実施形態である。これら成分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
付着方法はガイド給油法でも良いが、繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。繊維が、カセ状やトウ状の場合は混合油剤へ浸漬することで塗布できる。繊維への油分付着率は、付着率が多いほど融着は抑制できるため、0.3質量%以上であることが好ましい。一方で、付着率が多すぎると繊維がべたつきハンドリングが悪化し、また製造工程や後加工工程での汚れが発生するため、30質量%以下であることが好ましい。付着率は、より好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。繊維への油分付着率は、塗布後の繊維について、実施例に記載した手法により求められる油分付着率の値を指す。
本発明においては、融着防止剤を塗布した後に固相重合を行う。固相重合を行うことにより分子量が高まり、これにより強度、弾性率および伸度が高まる。固相重合は、カセ状、トウ状(例えば、金属網等に載せて行う。)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備を簡素化することができ、生産性も向上させることができるという観点から、繊維を芯材に巻き取ったパッケージ状で行うことが好ましい。パッケージの巻密度は、パッケージの巻き崩れ防止の観点から0.03g/cm以上が好ましい。一方で、繊維同士の融着防止の観点から、巻密度は1.0g/cm以下が好ましい。ここで巻密度とは、パッケージ外寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積(Vf)と繊維の質量(Wf)から、Wf/Vfにより計算される値である。
繊維パッケージを形成するために用いられるボビンは、円筒形状のものであればいかなるものでも良く、繊維パッケージとして巻き取る際に巻取機に取り付けこれを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。固相重合に際しては、繊維パッケージをボビンと一体で処理することもできるが、繊維パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、そのボビンは固相重合温度に耐える必要があり、アルミニウム、真鍮、鉄およびステンレスなどの金属製であることが好ましい。
またこの場合、ボビンには多数の穴の空いていることが、重合反応副生物を速やかに除去でき固相重合を効率的に行えるため好ましい態様である。また、繊維パッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外層に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外層にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステルの紡糸繊維を巻き取っていくことが、パッケージ最内層の繊維とボビン外層との融着を防ぐ点で好ましい。
なお、本発明においては、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するための中間製品の位置付けとして固相重合前の繊維を紡糸繊維という。
クッション材の材質は、有機繊維または金属繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上20mm以下であることが好ましい。前述の外皮を、このクッション材で代用することもできる。
繊維パッケージの繊維質量は、生産性を考慮すると0.1kg以上20kg以下であることが好ましい範囲である。また、糸長は、0.1万m以上200万m以下であることが好ましい範囲である。
固相重合は、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは芯材の酸化防止のため、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体であることが好ましい。
本発明において、本発明で規定する引掛強度を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るための方法は特に限定されないが、工業的に実用的な方法は、固相重合における温度条件を適正化することである。具体的には、従来技術と比較して、最高到達温度を低温にし、かつ、固相重合時間を短時間とすることにより、高い引掛強度を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントを得ることができることを見出した。明確な理由は定かではないが、以下のようなメカニズムが考えられる。すなわち、液晶ポリエステルマルチフィラメントは固相重合により高分子量化と結晶化が進み、この結晶化により繊維の剛直性が発現するが、剛直性が高くなりすぎると、屈曲により繊維が座屈しやすくなるのではないかと考えられる。つまり、極力結晶化が進みすぎないように、低温・短時間での固相重合を行うことで、屈曲に強い柔軟な繊維となり、引掛強度が向上するのではないかと考えられる。
次に、本発明における固相重合条件について、詳しく説明する。
固相重合温度における最高到達温度は、固相重合に供する液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点−50〜−30℃であることが好ましく、−45〜−35℃であることがより好ましい。このような温度とすることにより、分子量を上げつつ結晶化を抑え、高い引掛強度を達成することができ、またより好ましい態様においては高い強度(直線強度)も得ることができる。ここで言う融点は、実施例記載の測定方法により求められた値を指す。
また、最高温度に到達する前段階において、固相重合温度を時間に対し連続的に高めることが好ましく、昇温速度としては20〜100℃/時間であることが好ましく、35〜65℃/時間とすることがより好ましい。この範囲とすることで、融着を防ぐと共に、結晶化が抑えられ、引掛強度を向上させることができる。
最高到達温度での保持時間は、繊維の結晶化を抑え、高い引掛強度を得るには0〜3時間とすることが好ましく、1〜2時間とすることがより好ましい。
最高到達温度から常温までの降温条件は特に制限されず、強制的に急速冷却しても自然冷却でも良い。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは引掛強度が高いため、繊維の交差部や屈曲部での耐久性が高く、製品形態での強力が高い。このため、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業用資材、土木や建築資材、スポーツ用途、防護衣、補強資材、および電気材料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、スクリーン紗、フィルター、ロープ、ネット、魚網、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、および電気製品やロボットの力伝達コード等の幅広い用途に好適に用いることができる。
特に、繊維の交差部や屈曲部の応力に対して破断しにくいので、ネットやロープ用途に好適に用いられる。
次に、実施例により、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントとその製造方法について、更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。明細書本文および実施例で用いた特性の定義および各物性の測定方法と算出法を、次に示す。
(1)液晶ポリエステルの融点
示差走査熱量計(TA 1nstruments社製DSC2920)で行う示差熱量測定において、5mgの液晶ポリエステルを試料として用いて50℃の温度から20℃/分の昇温条件測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃の温度まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。同様の操作を計2回行い、2回の平均値を液晶ポリエステルの融点Tm2(℃)とした。
(2)液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点
示差走査熱量計(TA 1nstruments社製DSC2920)で行う示差熱量測定において、5mgの液晶ポリエステルの紡糸繊維を試料として用いて50℃の温度から20℃/分の昇温条件測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を融点とした。同様の操作を計2回行い、2回の平均値を液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点Tm1(℃)とした。
(3)ポリスチレン換算の質量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(質量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.04〜0.08質量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とし、これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により質量平均分子量(Mw)を求めた。同様の操作を2回行い、2回の平均値を質量平均分子量(Mw)とした。
・カラム:ShodexK−806M 2本、K−802 1本
・検出器:示差屈折率検出器RI(2414型)
・温度:23±2℃
・流速:0.8mL/分
・注入量:200μL。
(4)油分付着率
100±10mgのマルチフィラメントを採取し、60℃の温度で10分間乾燥させた後の質量を測定し(W0)、繊維質量に対し100倍以上の水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維質量に対し2.0質量%添加した溶液に繊維を浸漬させ、25℃で20分間超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃の温度で10分間乾燥させた後の質量(W1)を測定し、次式により油分付着率を算出した。
・油分付着率(質量%)=(W0−W1)×100/W1。
(5)総繊度
総繊度は、JIS L 1013(2010)8.3.1A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して、総繊度(dtex)とした。
(6)単繊維数
単繊維数は、JIS L 1013(2010)8.4の方法で算出した。
(7)単繊維繊度
単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除した値を、単繊維繊度(dtex)とした。
(8)強度(直線強度)、伸度、弾性率
JIS L 1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON) RTM−100を用い、掴み間隔は25cmで引張り速度は30cm/分で行った。強度と伸度は、破断時の応力および伸びとした。弾性率は、荷重−伸び曲線において伸長変化に対する荷重変化が最大となる点とした。
(9)引掛強度
JIS L 1013(2010)8.7.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON) RTM−100を用い、掴み間隔は25cmで引張り速度は30cm/分で行った。引掛強力は破断時の応力とし、引掛強力を糸条1本の総繊度で除した値を引掛強度とした。
(10)ネット強力
シリンダー口径4インチ(10.16cm)、ニードル数44本の筒編み機を用いて、目付けが540g/mとなるよう液晶ポリエステルマルチフィラメントの筒編みを作製した後、開反・切断して長さ14cm、幅10cmの簡易ネットを採取した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON) RTM−1Tを用い、掴み間隔2cm、掴みの大きさ6cm×6cm、引張り速度10cm/分の定速伸長条件で、編地の幅方向(ウェール方向)に引張り、伸長開始から破断までの間で応力が最大となる点をネット強力とした。
(11)ロープ強力
マルチフィラメント10糸条を引き揃えて30T/10cmのS撚りをかけて簡易ロープを作成した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON) RTM−1Tを用い、JIS L 1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。掴み間隔は25cmで引張り速度は30cm/分で行い、破断時の応力をロープ強力とした。
(12)剛直性
JIS L 1096(2010)に基づき、安田精機(株)製の「Gurley’s stiffness tester」を使用して、38.1mm(1.5インチ)のマルチフィラメントを試験片として剛軟度を測定した。
JIS中のa、bおよびcを25.4mm(1インチ)、50.8mm(2インチ)、および101.6mm(4インチ)とし、W、WおよびWは試験片の柔軟性に応じ0gまたは5gの中から適宜変更した。1つの試験片につき、左右1回、試験片10本、計20回の値を求め、1試料の平均値を求める。計算法は、次のとおりである。各測定値の平均値を、次式で計算する。剛軟度の値が高いほど剛直性が高いことを表し、以下のように剛軟度を区分した。
剛軟度:A:0〜10mN
B: 10mN超15mN未満
C:15mN〜25mN
D:25mN超30mN未満
E:30〜50mN
F:50mN超
・剛軟度(mN)=R×{(W×25.4)+(W×50.8)+(W×101.6)}×(L−12.7)/d×3.375×10−5
ただし、
R:測定値の平均値
、W、W:取り付けた荷重(g)
L:試料長さ(mm)
d:マルチフィラメントの糸条の幅(mm)
<参考例1>
攪拌翼と留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸870g(6.30モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327g(1.890モル)、ハイドロキノン89g(0.810モル)、テレフタル酸292g(1.755モル)、イソフタル酸157g(0.945モル)および無水酢酸1460g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら25℃から145℃の温度まで30分で昇温した後、145℃の温度で2時間反応させた。その後、335℃の温度まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に、反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。得られた液晶ポリエステルの融点(Tm2)は、313℃であった。
<参考例2>
攪拌翼と留出管を備えた5Lの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸907g(6.57モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸530g(2.81モル)および無水酢酸1053g(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら25℃から145℃の温度まで30分で昇温した後、145℃の温度で2時間反応させた。その後、325℃の温度まで4時間で昇温した。
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に、反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。得られた液晶ポリエステルの融点(Tm2)は、281℃であった。
(実施例1)
参考例1の液晶ポリエステルを用い、160℃の温度で12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製のφ15mm単軸エクストルーダーを用いて溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマー(液晶ポリエステル)を供給した。このときのエクストルーダー出から紡糸パックまでの紡糸温度は、345℃とした。紡糸パックでは、金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、導入孔直径が2.0mm、孔径が0.13mmで、ランド長が0.26mmの孔を300個有する口金から、吐出量100g/分でポリマーを吐出した。吐出されたポリマーは、40mmの非加熱の断熱筒(保温領域)を通過させた後、環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、油剤(ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製「SH200−350cSt」)が5.0重量%の水エマルジョン)を付与し、全フィラメントを600m/分の第1ゴデットロールに引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、ダンサーアームを介しパーンワインダー(神津製作所社製EFT型テークアップワインダー、巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)を用いて、パーンの形状に巻き取った。得られた液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点(Tm1)は、315℃であった。また、繊維の総繊度は1670dtex、単繊維繊度は5.6dtex、強度は6.4cN/dtex、伸度は1.5%、弾性率は540cN/dtex、油分付着率は0.5質量%であった。
この紡糸繊維のパッケージから、神津製作所社製SSP−MV型リワインダー(接触長(最内層の巻きストローク)200mm、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻き返しを行った。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、調速ローラーは用いずに、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いて、油剤(ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製「SH200−350cSt」が10.0重量%の水エマルジョン)を付与した。
巻き返しの芯材には、ステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m、厚み1.5mm)を巻いた芯材を用い、面圧は100gfとした。巻き返し後のパッケージの繊維質量は1.0kg、パッケージ巻密度は0.6g/cm、繊維への油分付着率は、3.0質量%であった。
次に、巻き返したパッケージからステンレスの穴あきボビンを外し、ケブラーフェルトに繊維を巻き取ったパッケージの状態で固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、25℃から275℃の温度まで80℃/時間で昇温し、275℃の温度で1時間保持する条件で固相重合を行った。雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分で供給し、庫内が加圧にならないように排気口から排気させた。最高到達温度で保持した後、加熱を止め、常温(25℃)まで自然冷却した。
得られた固相重合後の繊維の総繊度は1670dtex、単繊維繊度は5.6dtex、強度は24.0cN/dtex、伸度は2.5%であり、固相重合前の繊維と比べて強度と伸度が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。
得られた固相重合後の繊維の引掛強度、ネット強力、ロープ強力および柔軟性は表1に記載のとおりであった。
(実施例2、3)
固相重合の最高到達温度保持時間をそれぞれ3時間(h)、0hに変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表1に示す。
参考実施例4、実施例5
固相重合の最高到達温度をそれぞれ265℃、285℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表1に示す。
(実施例6、参考実施例7
固相重合の昇温速度をそれぞれ20℃、80℃/時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表1に示す。
実施例8、参考実施例9、実施例10
参考例2の液晶ポリエステルを用いたこと、紡糸温度を320℃に変更したこと、固相重合の最高到達温度をそれぞれ241℃、251℃、231℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。得られた液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点は281℃であった。結果を表1に示す。
Figure 0006855683
(比較例1〜3)
固相重合の最高到達温度を310℃、290℃、255℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表2に示す。
(比較例4)
固相重合の最高到達温度保持時間を8hに変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表2に示す。
(比較例5、6)
固相重合の昇温速度を120℃/時間、10℃/時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。結果を表2に示す。
(比較例7)
参考例2の液晶ポリエステルを用いたこと、紡糸温度を320℃に変更したこと、固相重合の最高到達温度を276℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。得られた紡糸繊維の融点は281℃であった。結果を表2に示す。
(比較例8)
参考例2の液晶ポリエステルを用いたこと、紡糸温度を320℃に変更したこと、固相重合工程において260℃で1時間、270℃から280℃まで3時間、280℃から285℃まで5時間で熱処理したこと以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。得られた紡糸繊維の融点は281℃であった。結果を表2に示す。
Figure 0006855683
表1の実施例1〜10から明らかなように、固相重合の最高到達温度、保持時間、昇温速度を適切に設定することにより、引掛強度が11cN/dtex以上となる液晶ポリエステルマルチフィラメントが安定して得られ、高いネット強力、ロープ強力を発現することができるのである。中でも、実施例4、9で得られた繊維は、繊維が良好な引掛強度を有し、剛直性に優れるので、結び目での応力を分散しやすいため有結節ネット等の結び目を有する用途(特に結び目を有するネットや、結び目を形成して用いられるロープなど)に好適であり、実施例5、6、10で得られた繊維は適度な引っ掛け強度、かつ適度な剛直性を有しているためベルト等の織物用途に好適であり、実施例1〜3、7、8で得られた繊維は、高い引っ掛け強度を有し、柔軟で交差・屈曲部で破断しにくいことからロープや無結節ネット等の用途に好適である。
一方で、表2の比較例1〜8から明らかなように、固相重合条件が適切でない場合には、高い引掛強度、ネット強力、ロープ強力が得られなかった。

Claims (6)

  1. 引掛強度が11〜20cN/dtexであり、かつ強度が20.7cN/dtex以上であって、液晶ポリエステルが、下記の化学式に示される構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルマルチフィラメント。
    Figure 0006855683
  2. 構造単位(I)が、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85mol%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90mol%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95mol%である請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  3. ロープまたはネットに用いられる請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  4. 引掛強度が16.0〜20.0cN/dtexであり、ロープまたは無結節ネットに用いられる請求項3に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるロープ。
  6. 液晶ポリエステルを溶融紡糸し、得られたマルチフィラメント状の紡糸繊維を固相重合する際、固相重合の最高到達温度を液晶ポリエステルの紡糸繊維の融点−45〜−35℃、固相重合の最高到達温度での保持時間を1〜2時間、固相重合の最高到達温度までの昇温速度を35〜65℃/時間とする、引掛強度が11〜20cN/dtexであり、かつ強度が20.7cN/dtex以上の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
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