以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、本発明で規定する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる限り、何ら限定されないが、好ましい形態を以下に述べる。
本発明に用いられる液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学異方性(液晶性)を呈するポリエステルを指す。これは、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、偏光顕微鏡で試料の透過光を観察することにより認定できる。
本発明に用いられる液晶ポリエステルとしては、例えば芳香族オキシカルボン酸の重合物(a)、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物(b)、上記(a)と上記(b)の共重合物(c)等が挙げられ、中でも芳香族のみで構成された重合物が好ましい。芳香族のみで構成された重合物は、繊維にした際に優れた強度および弾性率を発現する。また、液晶ポリエステルの重合処方は従来公知の方法を用いることができる。
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、例としてヒドロキシ安息香酸(p−ヒドロキシ安息香酸など)、ヒドロキシナフトエ酸等(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸など)、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
また、芳香族ジカルボン酸としては、例としてテレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
更に、芳香族ジオールとしては、例としてヒドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられ、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
本発明に用いる液晶ポリエステルは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲で更に他のモノマーを共重合させることができ、例としてアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミン等が挙げられる。
本発明に用いる前記モノマー等を重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分および/またはテレフタル酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分とテレフタル酸成分とヒドロキノン成分が共重合された液晶ポリエステルが挙げられる。
本発明では特に、下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお、本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
この組み合わせにより、分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがって、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に比較的均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。
さらに本発明においては、構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要である。この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率に加えて優れた耐摩耗性も得られるのである。
上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85mol%が好ましく、より好ましくは65〜80mol%、さらに好ましくは68〜75mol%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90mol%が好ましく、より好ましくは60〜80mol%、さらに好ましくは65〜75mol%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため耐摩耗性を高めることができる。
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95mol%が好ましく、より好ましくは50〜90mol%、さらに好ましくは60〜85mol%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり単繊維繊度が細く、長手方向に比較的均一な繊維が得られる。
なお、構造単位(II)と(III)の合計と(IV)と(V)の合計は実質的に等モルであることが好ましい。ここでいう実質的に等モルとは主鎖を構成するジオキシ単位とジカルボニル単位が等モル量存在することをいい、末端の構造単位として一方が偏在する場合などもあり、必ずしも等モルにならなくてもよいことを意味する。
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の特に好ましい範囲は以下のとおりである。なお、各構造単位の好ましい範囲は、構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の合計を100mol%とした時の範囲である。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I) 45〜65mol%
構造単位(II) 12〜18mol%
構造単位(III) 3〜10mol%
構造単位(IV) 5〜20mol%
構造単位(V) 2〜15mol%
本発明に用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、Mw)は3万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。Mwを3万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性高めることができ、Mwが高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まる。また流動性を優れたものとする観点から、Mwは25万未満が好ましく、15万未満がより好ましい。なお本発明で言うMwとは実施例記載の方法により求められた値とする。
本発明の液晶ポリエステルの融点は、溶融紡糸のし易さ、耐熱性の面から200〜380℃の範囲のものが好ましく、より好ましくは250〜350℃であり、更に好ましくは290〜340℃である。なお本発明で言う融点とは実施例記載の方法により求められた値とする。
また、本発明に用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加・併用することができる。添加・併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、乃至は複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。他のポリマーとしては、例としてポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレン等のビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等のポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99M等が好適な例として挙げられる。なお、これらのポリマーを添加・併用する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましく、また、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるためには添加・併用する量は液晶ポリエステルに対して50重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、実質的に他のポリマーを添加・併用しないことが最も好ましい。
本発明に用いられる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカ等の無機物、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の添加剤を少量含有していても良い。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸において、基本的な溶融押出法としては通常の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプ等公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は液晶ポリエステルの融点以上、熱分解温度以下とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上、400℃以下とすることがより好ましく、液晶ポリエステルの融点+20℃以上、370℃以下とすることが更に好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、通常、エネルギーコストの低減や生産性向上を目的に、1つの口金に多数の口金孔を穿孔するため、それぞれの口金孔の吐出、細化挙動を安定させた方が良い。
これを達成するためには口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが好ましい。ただし孔の詰まりを有効に防止する観点から孔径は0.03mm以上、1.00mm以下が好ましく、0.05mm以上、0.80mm以下がより好ましく、0.08mm以上、0.60mm以下がさらに好ましい。圧力損失が高くなるのを有効に防止する観点から、ランド長Lを孔径Dで除した商で定義されるL/Dは0.5以上、3.0以下が好ましく0.8以上、2.5以下がより好ましく、1.0以上、2.0以下が更に好ましい。また、マルチフィラメントの生産性を向上させるために1つの口金の孔数は10孔以上500孔以下が好ましく、10孔以上400孔以下がより好ましく、10孔以上300孔以下が更に好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔は直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい。
口金孔より吐出されたポリマーは保温領域、冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から400mmまでとすることが好ましく、300mmまでとすることがより好ましく、保温領域を200mmまでとすることが更に好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上、500℃以下が好ましく、200℃以上、400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状の空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
引き取り速度は生産性向上のため50m/分以上が好ましく、300m/分以上がより好ましく、500m/分以上が更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にできる。上限は特に制限されないが、本発明に用いる液晶ポリエステルにおいては曳糸性の点から3,000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは1以上500以下とすることが好ましく、5以上200以下とすることがより好ましく、12以上100以下とすることが更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは好適な曳糸性を有することからドラフトを高くでき、生産性向上に有利である。なお、紡糸ドラフトの計算に用いた、吐出線速度(m/分)とは、単孔あたりの吐出量(m3/分)を単孔断面積(m2)で除した商で定義される値であり、引き取り速度(m/分)を吐出線速度で除するため、紡糸ドラフトは無次元数となる。
本発明では製糸性および生産性向上の観点から、上記紡糸ドラフトを得るために紡糸パックあたりのポリマー吐出量を10〜2,000g/分と設定することが好ましく、20〜1,000g/分と設定することがより好ましく、30〜500g/分と設定することが更に好ましい。10〜2,000g/分と高吐出で紡糸することで、液晶ポリエステルの生産性が向上する。
巻き取りは通常の巻き取り機を用いチーズ、パーン、コーン等の形状のパッケージとすることができるが、巻量を高く設定できるチーズ巻きとすることが好ましい。
本発明において、本発明の如きマルチフィラメント糸条の理論糸幅Aに対する実糸幅Bの割合から算出される実糸幅率Xが20〜70%であることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るために最も重要な点は、溶融紡糸時にマルチフィラメント紡出糸条を集束させることなく加熱してから固相重合することである。
すなわち、本発明では、液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条形態と高次加工製品での原糸強力利用率の関係を鋭意検討した結果、溶融紡糸時にマルチフィラメント糸条を集束させることなく加熱することで、実糸幅率Xが20〜70%である液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られ、高次加工製品とした場合の原糸強力利用率が高くなることを見出した。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、オイリングローラー等で吐出糸条に紡糸油剤を付与することでマルチフィラメント糸条を集束させ、ローラー等で引き取った後、延伸することなく、ワインダーで巻き取ることが一般的である。このように、マルチフィラメント紡出糸条を集束させることで、巻き取り性が向上し、巻崩れのない巻取パッケージが得られる。
一方、本発明では、マルチフィラメント紡出糸条を集束させる前にバーガイド等を用いて吐出されたマルチフィラメント紡出糸条を1方向に揃えた後、ニップローラー等で挟みながら加熱することで、各単繊維の絡み合いが少なく、フィルム状で平らな糸条形態を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られることが分かった。なお、ここでいう1方向とは、マルチフィラメント紡出糸条の長手方向に垂直な方向のことであり、マルチフィラメント紡出糸条中の単糸を糸条長手方向に垂直な方向に揃えることで、各単繊維同士の絡み合いを抑制しながら、紡出糸条をニップローラーに導入することができる。ここで各単糸は厳密に平行に並べて揃える必要はなく、本発明で規定する実施幅率を満たす程度に略平行に並ぶように揃えればよい。
つまり、本発明により、マルチフィラメント糸条の実糸幅率Xを20〜70%に制御することが可能となった。このように、フィルム状で平らな糸条形態を有する本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合に、従来技術に比べ、格段に原糸強力利用率が高くなることを見出した。これは、液晶ポリエステルマルチフィラメント糸条内の各単繊維の絡み合いが少なく、各単繊維が糸条長手方向に対して垂直方向に広がった糸条形態(いわゆるフィルム状で平らな糸条形態)を有することで、各単繊維の直線性が維持されるため、マルチフィラメント糸条同士が複雑に絡み合う高次加工製品とした場合に、原糸強力利用率の向上が図れたものと考えられる。
溶融紡糸時にマルチフィラメント紡出糸条を集束させることなく加熱する方法については、何ら限定されないが、前記の通り、バーガイド等を用いて吐出されたマルチフィラメント紡出糸条を1方向に揃えた後、ニップローラー等で挟みながら加熱することが好ましい。吐出されたマルチフィラメント糸条を集束させることなく、ニップローラー等に導入できれば、バーガイド等を使用しなくても良い。また、1方向に広がったマルチフィラメント紡出糸条を加熱できれば、ニップローラーでの加熱ではなく、非接触ヒーターで加熱しても何ら問題ない。
本発明でいうマルチフィラメント糸条の実糸幅率Xは、マルチフィラメント糸条を1方向に揃える際の各単繊維同士の絡み合い状態(集束性)を調整することで制御できる。各単繊維同士の絡み合い状態(集束性)の調整方法は何ら限定されないが、例えば、ガイド類の形状や表面摩擦抵抗を様々変えることで集束性を調整し実糸幅率Xを制御することが可能である。
加熱温度については、マルチフィラメントの糸条形態を固定できれば、何ら限定されないものの、使用する液晶ポリエステル樹脂の融点未満であることが好ましい。本発明では、50℃〜250℃程度が好ましく、100℃〜200℃がより好ましく、120〜180℃が更に好ましい。加熱温度は高すぎると、単繊維切れ、いわゆる毛羽の発生や、紡糸糸切れが多発するため、マルチフィラメントの糸条形態を固定できれば、加熱温度は低い方が好ましい。本発明でいうマルチフィラメント糸条の実糸幅率Xは、マルチフィラメント糸条の加熱における加熱条件(時間、温度)を調整することでも制御可能である。これは、加熱条件を調整することで、1方向に引き揃えられたマルチフィラメント糸条の形態固定状態を制御できるためである。
なお、このように、マルチフィラメント紡出糸条を集束させることなく加熱した後には、ガイドやローラーとの摩擦抵抗を低減させるためにオイリングローラー等を用いて各種油剤を使用しても何ら差し支えない。
溶融紡糸で得られたフィルム状で平らな糸条形態を有する本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、更に強度および弾性率を向上させるために固相重合を行うことが好ましい。固相重合はパッケージ形状、カセ形状、トウ形状(例えば、金属網等にのせて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備が簡素化でき、生産性も向上できる点からパッケージ形状で行うことが好ましい。
パッケージ状で固相重合を行う場合、融着し易いので、これを防止するためには固相重合を行う際の繊維パッケージの巻密度が0.30g/cm3以上の繊維パッケージとしてボビン上に形成し、これを固相重合することが好ましい。ここで巻密度とは、パッケージ外形寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積Vf(cm3)と繊維の重量Wf(g)からWf/Vf(g/cm3)により計算される値である。巻密度は過度に小さいとパッケージにおける張力が不足するため繊維間の接点面積が大きくなり融着が増大するだけでなく、パッケージが巻き崩れるため0.30g/cm3以上とすることが好ましく、0.40g/cm3以上とすることがより好ましく、0.50g/cm3以上とすることが更に好ましい。また、上限は特に制限されないが、巻密度が過度に大きいとパッケージの内層における繊維間の密着力が大きくなり接点での融着が増大するため、1.50g/cm3以下とすることが好ましい。本発明においては、融着軽減および巻き崩れ防止の観点から、巻密度を0.30〜1.00g/cm3とすることがより好ましい。
このような巻密度のパッケージは、生産効率が良く、工程の簡略化が可能である。例えば、液晶ポリエステルの溶融紡糸時に直接巻き取って、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能であり、生産効率の向上が図れる。また、固相重合時の糸重量を調整する際などに、溶融紡糸で一旦巻き取ったパッケージを巻き返して、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能である。パッケージ形状を整え巻密度制御するためには通常用いられるコンタクトロール等を用いず、繊維パッケージ表面を非接触の状態で巻き取ることや、溶融紡出した原糸を調速ロールを介さず直接、速度制御された巻取機で巻き取ることも有効である。これらの場合、パッケージ形状を整えるためには、巻取速度を3000m/分以下、特に2000m/分以下とすることが好ましい。下限としては生産性の点から50m/分以上であることが好ましい。
該繊維パッケージを形成するために用いられるボビンは円筒形状のものであればいかなるものでも良く、繊維パッケージとして巻き取る際に巻取機に取り付けこれを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。固相重合に際しては繊維パッケージをボビンと一体で処理することもできるが、繊維パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、該ボビンは固相重合温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレスなどの金属製であることが好ましい。またこの場合、ボビンには多数の穴の空いていることが固相重合を効率的に行えるため好ましい。また繊維パッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外層に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外層にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステル溶融紡糸繊維を巻き取っていくことが好ましい。クッション材の材質は、アラミド繊維などの有機繊維または金属繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上、20mm以下が好ましい。前述の外皮を該クッション材で代用することもできる。
該繊維パッケージの繊維重量は巻密度が本発明の範囲内となるものであればいかなる重量でも良いが、生産性を考慮すると0.01kg以上、11kg以下が好ましい範囲である。なお、糸長としては1万m以上200万m以下が好ましい範囲である。
固相重合時の融着を防ぐため、繊維表面に油剤を付着させることは好ましい実施形態である。これら成分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
油剤付着方法はガイド給油でも良いが、繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。
油剤の成分としては固相重合での高温熱処理で揮発させないため耐熱性が高い方が良く、通常の無機粒子、フッ素系化合物、シロキサン系化合物(ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなど)およびこれらの混合物などが好ましい。本発明における通常の無機粒子とは、例として鉱物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、シリカやアルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、カーボンブラック等が挙げられる。
また、これらの成分は固体付着、油剤の直接塗布でも構わないが付着量を適正化しつつ均一塗布するためにはエマルジョン塗布が好ましく、安全性の点から水エマルジョンが特に好ましい。したがって成分としては水溶性あるいは水エマルジョンを形成しやすいことが望ましく、中でもシロキサン系化合物の水エマルジョンを主体とし、これにシリカやケイ酸塩を添加した混合油剤が固相重合条件下において不活性であり、固相重合での融着防止効果に加え、易滑性にも効果を示すため好ましい。ケイ酸塩を用いる場合は、特に層状構造を持つフィロケイ酸塩が好ましい。なおフィロケイ酸塩としては、カオリナイト、ハロイ石、蛇文石、珪ニッケル鉱、スメクタイト族、葉ろう石、滑石、雲母などが挙げられるが、これらの中でも入手の容易性を考慮して滑石、雲母を用いることが最も好ましい。
繊維への油剤の付着量は融着抑制のためには多い方が好ましく、繊維全体を100重量%としたときに0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。一方、多すぎると繊維がべたつきハンドリングを悪化させる他、後工程で工程通過性を悪化させるため10.0重量%以下が好ましく、8.0重量%以下がより好ましく、6.0重量%以下が特に好ましい。なお繊維への油剤付着量は実施例に記載した方法により求められる値を指す。
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは付着物の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステル繊維の融点(Tm1)に対し、最高到達温度が液晶ポリエステル繊維の融点(Tm1)−80℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。また最高到達温度はTm1未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合の進行と共に液晶ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合温度を固相重合の進行状態に応じて固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)+100℃程度まで高めることができる。なお固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。
固相重合時間は、繊維の強度、弾性率、融点を十分に高くするために最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましい。上限は特に制限されないが強度、弾性率、融点増加の効果は経過時間と共に飽和するため100時間程度で十分であり、生産性を高めるためには短時間が好ましく、50時間程度で十分である。
固相重合後のパッケージは運搬効率を高めるために固相重合後のパッケージを再度巻き返して巻密度を高めることが好ましい。このとき、繊維を固相重合パッケージから解舒する際には解舒による固相重合パッケージの崩れを防ぎ、さらに軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するために固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましく、さらに固相重合パッケージの回転は自由回転ではなく積極駆動により回転させることがパッケージからの糸離れ張力を低減させフィブリル化をより抑制できる点で好ましい。
ここで、液晶ポリエステルマルチフィラメントパッケージを形成するためには、パーン、ドラム、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、生産性の観点から巻量を多く確保することができるドラム巻取とすることが好ましい。
また、本発明における液晶ポリエステル繊維は、高次加工製品とした場合の強力利用率及び工程通過性を高めるために、マルチフィラメント糸条に集束性を付与した方が良く、目的に応じて各種仕上油剤を付与することが好ましい態様である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの実糸幅率Xは、20〜70%であることが必須であり、25〜70%であることがより好ましく、30〜70%であることが更に好ましい。実糸幅率Xが20%未満となると、マルチフィラメント糸条内の各単繊維同士の絡み合いが多くなるため、各単繊維の直線性が維持されず、高次加工製品とした場合に原糸強力利用率が低くなる。また、実糸幅率Xが70%を超えると、各単繊維同士の絡み合いは少ないものの、各単繊維が糸条長手方向に対して垂直方向に広がりすぎてしまうため、各単繊維のタルミを生じやすく、高次加工製品とした場合に原糸強力利用率が低くなる。つまり、高次加工製品とする場合には、マルチフィラメント糸条の集束性を損なわない程度に各単繊維の絡み合いを低減させることが重要である。このように、実糸幅率Xが20%未満である場合や70%を超える場合には本発明を達成することができない。
本発明のように、実糸幅率Xを20〜70%とした液晶ポリエステルマルチフィラメントは、マルチフィラメント糸条内の各単繊維の絡み合いが少なく、各単繊維が糸条長手方向に対して垂直方向に広がった糸条形態を有することで、各単繊維の直線性が維持され、マルチフィラメント糸条同士が複雑に絡み合う高次加工製品とした場合に、原糸強力利用率の向上が図れる。さらに、実糸幅率Xを20〜70%として、フィルム状の平らな糸条形態を有することで、固相重合時に、各単繊維からのガス拡散性が向上して重合反応が促進されるためか、強伸度・弾性率のバラツキが低減し、均一な物性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。なお、実糸幅率Xは実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条長手方向の実糸幅バラツキは、5〜20%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることが更に好ましい。糸条長手方向の実糸幅バラツキを5〜20%とすることで、糸条長手方向の単繊維の絡み合い状態が均一であり、同時に各単繊維の直線性も均一となるため、マルチフィラメント糸条同士が複雑に絡み合う高次加工製品とした場合に、原糸強力利用率の向上が図れる。さらに、糸条長手方向の実糸幅バラツキを5〜20%として、長手方向に均一な糸条形態を有することで、固相重合時に、各単繊維からのガス拡散性が向上して重合反応が促進されるためか、強伸度・弾性率のバラツキが低減し、均一な物性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。なお、糸条長手方向の実糸幅バラツキは実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度は、1〜20dtexであることが好ましい。また、1〜15dtexであることがより好ましい。1〜20dtexと単繊維繊度を細くすることで、吐出後に単繊維内部まで均一な冷却が可能となり、製糸性が安定し、毛羽品位の良好な液晶ポリエステルマルチフィラメントが得やすくなるだけでなく、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が増え、高強度・高弾性化に有利である。単繊維繊度が1〜20dtexである本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条は柔軟であるため、高次工程通過性に優れる上、織物などに用いた場合には、糸条の充填率が高く、高密度化および収納性向上が図れる。なお、本発明でいう単繊維繊度(dtex)は総繊度を単繊維数で除した商である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維数は10〜500本が好ましく、10〜400本であることがより好ましく、10〜300本であることがさらに好ましい。単繊維数を10〜500本とすることで、マルチフィラメントの生産性向上が図れる上、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が大きくなるため固相重合反応が促進されて、強度・弾性率のバラツキが低減し、均一な物性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して単繊維数が10〜500本の液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、単繊維数は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、100〜3,000dtexが好ましく、150〜2,500dtexであることがより好ましく、200〜2000dtexであることがさらに好ましい。100〜3,000dtexとすることで、生産効率が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が100〜3,000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、総繊度は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の強度は、13.0cN/dtex以上が好ましく、15.0cN/dtex以上がより好ましく、17.0cN/dtex以上が更に好ましい。強度が13.0cN/dtex以上あることで、高強度かつ軽量化が求められる産業資材用途に好適である。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては30.0cN/dtex程度である。なお、本発明で言う強度は実施例に記載した強伸度・弾性率測定での引張強さを指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の伸度は、5.0%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、4.0%以下が更に好ましい。伸度が5.0%以下であるため、外部から応力を受けた際に伸びにくく、重量物を吊り上げる際に寸法変化を生じずに好適に使用できる。伸度の下限は特に限定されないが、本発明で達し得る下限としては1.0%程度である。なお、本発明で言う伸度は実施例に記載した強伸度・弾性率測定での破断伸度を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の弾性率は、500cN/dtex以上が好ましく、700cN/dtex以上がより好ましく、900cN/dtex以上が更に好ましい。弾性率が500cN/dtex以上あることで、応力を受けた際の寸法変化が小さく産業資材用途に好適である。弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては弾性率1,500cN/dtex程度である。なお、本発明で言う弾性率とは実施例に記載した強伸度・弾性率測定での弾性率を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの強度バラツキおよび伸度バラツキは、いずれも0.1〜5.5%であることが好ましく、0.1〜3.5%であることがより好ましく、0.1〜2.5%であることが更に好ましい。本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、強伸度バラツキが0.1〜5.5%と物性安定性に優れるため、製品とした場合に、原糸の物性利用率が高く、製品強度などの物性向上が図れる。なお、強伸度バラツキは実施例に記載した手法により求められる値を指す。
かくして得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、マルチフィラメント糸条の理論糸幅Aに対する、実糸幅Bの割合から算出される実糸幅率Xが20〜70%であるため、各単繊維の絡み合いが少なく、マルチフィラメント糸条が丸みを帯びることなく平らとなる。このような形態を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、各単繊維の直線性が維持されるため、高次加工製品とした場合の原糸強力利用率が高くなる。このように、マルチフィラメント糸条の形態を制御した、高強度、高弾性率、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、低吸湿特性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業資材用途で好適に用いることができる。一般産業資材用途の例としては、ロープ、スリング、漁網、ネット、メッシュ、織物、布帛、シート状物、ベルト、テンションメンバー、土木・建築資材、スポーツ資材、防護資材、ゴム補強資材、各種補強用コード、樹脂強化用繊維材、電気材料、音響材料、紙等が挙げられる。
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。なお、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および各物性の測定、算出法を以下に示す。
(1)融点
示差走査熱量計(TA 1nstruments社製DSC2920)で行う示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、およそTm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。同様の操作を2回行い、2回の平均値を液晶ポリエステルの融点Tm2(℃)とした。
(2)ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.05重量%となるように混合溶媒に溶解させGPC測定用試料とし、これをWaters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算によりMwを求めた。同様の操作を2回行い、2回の平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
カラム:ShodexK−806M 2本、K-802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI(8020型)
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:300μL
(3)水分率
平沼産業社製カールフィッシャー水分計(AQ−2100)を用いた電量滴定法で測定した。試行回数3回の平均値を用いた。
(4)油剤濃度
油剤を分散させた溶液の重量をW0、油剤の重量をW1とした場合に、W1をW0で除した商に100を乗じた積を油剤濃度(重量%)とした。
(5)油剤付着量
検尺機にて繊維を100mカセ取りして重量を測定した後、カセを100mlの水に浸して超音波洗浄機を用いて1時間洗浄を行った。超音波洗浄後のカセを乾燥させて重量を測定し、洗浄前重量と洗浄後重量の差を洗浄前重量で除した商に100を乗じた積を油剤付着量(重量%)とした。
(6)総繊度
JIS L1013(2010)8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度(dtex)とした。
(7)単繊維数
JIS L1013(2010)8.4の方法で算出した。
(8)単繊維繊度
総繊度を単繊維数で除した値を単繊維繊度(dtex)とした。
(9)紡糸原糸の強伸度、弾性率
JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔(測定試長)は250mm、引張速度は50mm/分で行った。強度・伸度は破断時の応力および伸びとし、弾性率は引張試験における応力と伸びのグラフでの最大傾きから算出した。
(10)固相重合したマルチフィラメント糸条の強伸度、弾性率
JIS L1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い、掴み間隔(測定試長)は250mm、引張速度は50mm/分で行った。強度・伸度は破断時の応力および伸びとし、弾性率は引張試験における応力と伸びのグラフでの最大傾きから算出した。
また、サンプリング、強度、伸度、弾性率、強伸度バラツキ(CV%)の算出は、次のように行った。製品パッケージについて、繊維長手方向にマルチフィラメントの糸条を1000m解舒する毎に強伸度の測定を10回行い平均して強伸度(以下1000m毎の強伸度、弾性率という)を求める操作をパッケージ全量にわたって行う。こうして得られた1000m毎の強伸度、弾性率について平均値(a)を求め、強伸度、弾性率とする。また、強伸度の平均値(a)と標準偏差(σ)を用いて、以下の式から製品パッケージ長手方向の強度および伸度バラツキ(CV%)を算出した。
強度および伸度バラツキ(CV%)=(σ/a)×100
(11)比重
液晶ポリエステルマルチフィラメントの比重は、比重測定機((株)島津製作所製SGM300P)を使用し、施行回数5回の平均値を採用した。
(12)マルチフィラメント糸条の理論糸幅A
真円の丸断面であると仮定した各単繊維が、互いに重なることなく、かつ、互いに隙間なく、平面上に並んだ場合のマルチフィラメント糸条の糸幅を理論糸幅Aと定義した。理論糸幅Aは、理論単繊維径L(μm)、単繊維数F(本)を用いて次式で定義した。
理論糸幅A(μm)=理論単繊維径L(μm)×単繊維数F(本)
なお、ここでいう理論単繊維径Lは、液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度D(dtex)、単繊維数F(本)、比重d(g/cm3)、円周率πを用いて次式より算出した。
理論単繊維径L(μm)={(4D/F)/(d×106×π)}0.5×104
(13)マルチフィラメント糸条の実糸幅B、実糸幅バラツキCV(%)
マルチフィラメント糸条について、糸条長手方向に対して垂直方向の糸幅を実糸幅B(μm)とした。実糸幅Bは、マルチフィラメント糸条を1100mmサンプリングし、両端を除いて、100mm毎の糸幅を測定して、計10点の測定値の平均値である。また、実糸幅バラツキ(CV%)は、10点の測定値の平均値aと標準偏差σを用いて、次式から算出した。なお、ここでいう糸幅は、マルチフィラメント糸条を平らな面上に弛むことなく静置したときの糸条長手方向に対して垂直方向の糸幅を意味する。本発明のように糸条がフィルム状のときには、糸条長手方向に対して垂直方向の糸幅における最大糸幅を実糸幅Bとして測定した。
実糸幅バラツキ(CV%)=(σ/a)×100
(14)マルチフィラメント糸条の実糸幅率X
マルチフィラメント糸条の理論糸幅A(μm)に対するマルチフィラメント糸条の実糸幅B(μm)の比率を実糸幅率Xと定義し、次式により算出した。
実糸幅率X(%)=(B/A)×100
(15)高次加工製品への適性
高次加工製品への適性は、得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、撚糸後の強力保持率を算出することで評価した。撚り係数K(−)を80として撚糸した後の原糸強力Y(N)、及び、撚糸前の原糸強力Z(N)から強力保持率Xを次式より算出した。なお、撚り係数Kは撚り数T(ターン/m)と、マルチフィラメントの総繊度D(dtex)を用いて、T=K×(100÷D^0.5)で求められる値である。強力保持率Xが70〜95%のとき、高次加工製品への適性は「◎」、強力保持率Xが50〜70%のとき、高次加工製品への適性は「○」、強力保持率Xが30〜50%のとき、高次加工製品への適性は「△」、強力保持率Xが0〜30%のとき、高次加工製品への適性は「×」とした。
強力保持率X(%)=(Y/Z)×100
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、イソフタル酸157重量部、テレフタル酸292重量部、ヒドロキノン89重量部および無水酢酸1433重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、330℃まで4時間で昇温した。重合温度を330℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、所定トルクに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
この液晶ポリエステルはp−ヒドロキシ安息香酸単位が全体の54mol%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル単位が16mol%、イソフタル酸単位が8mol%、テレフタル酸単位が15mol%、ヒドロキノン単位が7mol%からなり、融点は318℃であり、高化式フローテスターを用いて温度328℃、剪断速度1,000/secで測定した溶融粘度が16Pa・secであった。また、Mwは91,000であった。
この液晶ポリエステルを用い、120℃で12時間真空乾燥を行い、水分・オリゴマーを除去した。このときの液晶ポリエステルの水分率は50ppmであった。この乾燥した液晶ポリエステルを、単軸のエクストルーダーにて(ヒーター温度290〜340℃)溶融押出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。このときのエクストルーダー出口から紡糸パックまでの紡糸温度は335℃とした。紡糸パックでは濾過精度が15μmの金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を75個有する口金より吐出量37.5g/分(単孔あたり0.50g/分)でポリマーを吐出した。
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら150℃で加熱した。加熱後の糸条は、各単繊維の絡み合いが少なく、フィルム状で平らな糸条形態を有していた。ニップローラーでの加熱後に、オイリングローラーを用いて油剤(ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製「SH200−350cSt」)が5.0重量%の水エマルジョン)を付着させながら75フィラメントともに1,000m/分のネルソンローラーで引き取った。このときの紡糸ドラフトは32.7である。また、油剤付着量は1.5%であった。ネルソンローラーで引き取った糸条は、そのままダンサーアームを介し羽トラバース型のワインダーを用いてチーズ形状に巻き取った。溶融紡糸での曳糸性は良好であり、総繊度375dtex、単繊維繊度5dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントが、糸切れすることなく安定紡糸でき、4.0kg巻パッケージの紡糸原糸を得た。
この紡糸繊維パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、速度を一定とした巻取機((株)神津製作所製SSP−WV8P型プレシジョンワインダー)にて400m/分で巻き返しを行った。なお、巻き返しの芯材にはステンレス製のボビンを用い、巻き返し時の張力は0.005cN/dtex、巻き密度を0.50g/cm3とし、巻量は4.0kgとした。更にパッケージ形状はテーパー角65°のテーパーエンド巻きとした。
こうして得られた総繊度375dtex、単繊維繊度5dtexの巻き返しサンプルを、密閉型オーブンを用いて、室温から240℃まで昇温し、240℃にて3時間保持した後、290℃まで昇温し、更に290℃で20時間保持する条件にて固相重合を行った。なお雰囲気は除湿窒素を流量100L/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に200m/分で送り出しつつ解舒を行い巻取機にて製品パッケージに巻き取ったところ、ほぼ抵抗無く解舒でき糸切れは発生しなかった。なお、繊維物性は表1に記載の通りである。実施例1で得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメント糸条の実糸幅率は42%、実糸幅バラツキは11%、強度バラツキは1.8%、伸度バラツキは1.7%であり、マルチフィラメント糸条内の各単繊維の絡み合いが少なく、各単繊維が糸条長手方向に対して垂直方向に広がったフィルム状で平らな糸条形態を有するため、高次加工製品とした場合に原糸強力利用率が高く、一般産業資材用途に好適に使用できた。
[実施例2]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、ローラーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例3]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、非接触ヒーターを用いて糸条を150℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例4]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら50℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例5]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら100℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例6]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら200℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例7]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら250℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例8]
溶融紡糸時に、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を8個有する紡糸パックを用い、パック吐出量を4.0g/分に変更して、単繊維数を8フィラメント、総繊度を40dtexとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例9]
溶融紡糸時に、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を300個有する紡糸パックを用い、パック吐出量を75.0g/分、引取速度を500m/分に変更して、単繊維数を300フィラメント、総繊度を1500dtexとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例10]
溶融紡糸時に、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を720個有する紡糸パックを用い、パック吐出量を180.0g/分、引取速度を500m/分に変更して、単繊維数を720フィラメント、総繊度を3600dtexとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例11]
溶融紡糸時に、パック吐出量を11.3g/分に変更して、総繊度を113dtexとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例12]
溶融紡糸時に、パック吐出量を112.5g/分、引取速度を500m/分に変更して、総繊度を2250dtexとしたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例13]
液晶ポリエステル樹脂として、p−ヒドロキシ安息香酸単位が全体の73mol%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位が27mol%からなる液晶ポリエステル樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
実施例1〜13の繊維物性を表1に示す。
[比較例1]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら40℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[比較例2]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えてニップローラーに導入し、糸条を挟みながら320℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[比較例3]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いることなく、集束させてニップローラーに導入したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[比較例4]
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡出糸条を、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えて、無加熱の第1段ニップローラーに導入してマルチフィラメント糸条の形態を事前に拡げて固定し、さらに第2段ニップローラーに導入して150℃で加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
比較例1〜4の繊維物性を表2に示す。
なお、表中の※1はp−ヒドロキシ安息香酸単位(54mol%)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル単位(16mol%)、イソフタル酸単位(8mol%)、テレフタル酸単位(15mol%)、ヒドロキノン単位(7mol%)からなる液晶ポリエステル樹脂を示し、表中の※2はp−ヒドロキシ安息香酸単位(73mol%)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位(27mol%)からなる液晶ポリエステル樹脂を示す。
表1の実施例1〜13から明らかなように、溶融紡糸時に、マルチフィラメント紡出糸条を集束させる前にバーガイド等を用いて吐出されたマルチフィラメント紡出糸条を1方向に揃えた後、ニップローラー等で挟みながら加熱することで、各単繊維の絡み合いが少なく、フィルム状で平らな糸条形態を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られることが分かる。このように、マルチフィラメント糸条の実糸幅率Xを20〜70%に制御し、フィルム状で平らな糸条形態を有する本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合に、従来技術に比べ、格段に原糸強力利用率が高くなり、一般産業資材用途に好適に使用できた。
一方、表2の比較例1〜4から明らかなように、溶融紡糸時に、1方向に揃えたマルチフィラメント紡出糸条を40℃や320℃で加熱した場合には、マルチフィラメント糸条の実糸幅率Xが20%未満となり、糸条が丸みを帯びてしまった。ガイドを用いずにマルチフィラメントを集束させてから加熱した比較例3でも同様である。このように、実糸幅率Xが20%未満の場合、各単繊維同士が複雑に絡み合っているため、各単繊維の直線性が失われ、高次加工製品とした際に原糸強力利用率が極めて低くなり、高強度・高弾性率が要求される一般産業資材用途に使用できるレベルではなかった。一方で、バーガイドを用いて集束させることなく1方向に揃えて、無加熱の第1段ニップローラーに導入してマルチフィラメント紡出糸条の形態を事前に拡げて固定し、さらに第2段ニップローラーに導入して150℃で加熱した比較例4では、実糸幅率Xが70%を超え、マルチフィラメント糸条内の各単繊維の絡み合いは抑制できるものの、各単繊維が糸条長手方向に対して垂直方向に広がりすぎてしまうため、各単繊維のタルミを生じやすく、高次加工製品とした場合に原糸強力利用率が低くなった。以上のように、実糸幅率Xが20%未満である場合や70%を超える場合には本発明を達成することができない。