JP7528690B2 - 液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびその製造方法 - Google Patents

液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。詳しくは、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に好適に用いることができる液晶ポリエステルマルチフィラメントに関する。
液晶ポリエステル繊維は、剛直な分子構造を有する液晶ポリエステル樹脂を原料とし、溶融紡糸において分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに繊維とした後に高温長時間の熱処理を施すことで、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度・弾性率が発現することが知られている。また、液晶ポリエステル繊維は、熱処理により分子量が増加するとともに、融点も上昇するため、耐熱性や寸法安定性が向上することも知られている。このような液晶ポリエステル繊維は、一般産業資材用途、例えば、ロープ、スリング、漁網、ネット、メッシュ、織物、布帛、シート状物、ベルト、テンションメンバー、各種補強用コード、樹脂強化用繊維等に好適に用いることができる。
特開平08-260242号公報 特開平03-137225号公報 特開2003-147638号公報 特開2007-196516号公報
しかしながら、上記液晶ポリエステル繊維は、一般的に、高強度・高弾性率などの高い力学特性を有しているものの、染色や着色をすることが難しいことから、各種テキスタイルや織編物など、意匠性や視認性が求められる用途での使用は限定されていた。近年、デザイン性や先進性が求められるアウトドア用テント生地向け織物用途、作業者からの視認性確保が求められる工事作業用ロープや安全帯用ベルト用途等では、暖色系の色味(赤、橙、黄など)を有する高強度・高弾性率繊維の開発が望まれている。
このような課題を解決するために、特許文献1では、高い強度と弾性率を有し、染色性に優れた液晶ポリエステル繊維を得るために、繊維を構成するポリマー組成や繊維構造を調整することで、50℃~250℃において収縮応力ピークが存在せず、かつ、50℃における収縮応力値と200℃における収縮応力値の比や染着パラメーターを一定数値範囲内に制御し、かつ、青色染色後のb値を-5以下としている。確かに特許文献1では、ある程度の強度と弾性率を有し、かつ、従来にない染色性に優れた繊維が得られているものの、前記特徴を発現させるために、エチレンユニットを共重合したポリマー構造を採用するとともに、更にジエチレングリコールをポリマー中に少量添加している。このように、ポリマー中に柔軟な構造(エチレンユニットなど)を導入すると、染色性は向上するものの、繊維の高強度化には不利となり、結果、実施例記載の通り、得られる繊維の強度は最大でも21g/d(≒18.5cN/dtex)程度に留まってしまい、高強度繊維が好適に使用される一般産業用途へ適用する上では不十分である。その上、最終的にはb値が-5以下の液晶ポリエステル繊維となる。
特許文献2は、着色されており、かつ高強力・高弾性率の性能を有する芳香族ポリエステル繊維に関するものである。芯成分Aに異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル、鞘成分Bに着色剤を0.1~3.0重量%含有した芳香族ポリエステルを用いて、複合繊維とすることで、着色された原着繊維を得ている。確かに特許文献2では、高強度と高弾性率を有し、かつ着色された繊維が得られているが、力学特性と着色を両立するために複合繊維構造を採用しているため、長期間使用時に芯ポリマーと鞘ポリマーの界面剥離等により強度や耐摩耗性などの力学特性低下や毛羽品位悪化が生じてしまい、一般産業用途へ適用する上では不十分である。また、特許文献2では、実施例、比較例に記載されたような黒色系や灰色径の複合繊維しか得られていない。
また、特許文献3は、p-ヒドロキシ安息香酸から生成する構造単位を所定量以上有する液晶ポリエステル樹脂(a)と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸もしくはイソフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエステル樹脂(b)とを所定の組成で混合し、色調L値が65以上であることを特徴とするパール調繊維用ポリエステル樹脂組成物を得るものである。確かに特許文献3では、熱安定性に優れ、高強度で白色味の強いパール調風合いの繊維が得られており、衣料用繊維として好適ではある。しかし、前記特徴を発現させるために、液晶ポリエステル樹脂(a)とエチレンユニットを含むポリエステル樹脂(b)を混合しており、その混合比率はポリエステル樹脂(b)が大部分を占めており、実施例では約97wt%がポリエステル樹脂(b)、すなわち液晶ポリエステル樹脂は少量しか添加されておらず、ポリマーの大部分に柔軟な構造(エチレンユニットなど)が導入されていることから、高強度繊維は得られていない。実際に特許文献3で得られるパール調風合いの繊維の強度レベルは、6cN/dtex未満であり、衣料用には使用できても、高強度繊維が使用される一般産業用途へ適用する上では不十分である。また、特許文献3ではL値は65以上ではあるが、本発明のような黄みを有する液晶ポリエステル繊維は得られていない。
また、特許文献4は、ポリアリレート樹脂組成物を押出機で溶融混練法により製造する際に、押出機のスクリュー先端正面部からダイスまでの流路中で樹脂の滞留熱劣化を抑制し、極度に変色した樹脂を含まない色調の良好な樹脂組成物の製造方法を提供するものである。確かに特許文献4では、色調の良好な樹脂組成物を製造する上で、押出機のスクリュー先端部の形状をその回転軸に対して非対称な形状として、スクリュー先端部での樹脂の流れに適切なレベルの乱流を生じさせることで熱劣化した樹脂の発生を極小化できている。しかし、スクリュー内のポリマー流路構造を適正化して滞留部を減らすことは有効ではあるが、滞留時間を制御しているわけではなく、使用する樹脂に含まれる低分子量物や未反応モノマー等によるポリアリレート樹脂の熱分解反応等の抑制効果は得られない。また、特許文献4は樹脂組成物の製造方法に関するものであり、ポリアリレート樹脂の繊維化に関する言及はなく、本発明のような黄みを有する液晶ポリエステル繊維は得られていない。
また、一般産業資材用途においては、繊維製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下を小さくする目的で乾熱処理後の耐熱性も求められる傾向にあるが、特許文献1~4のいずれにおいても乾熱処理後の耐熱性については言及されていない。
このように、従来技術では、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に好適に用いることができる高強度・高弾性率などの高い力学特性及び高い耐熱性を有し、かつ、黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは得られていない。
そこで本発明では、従来技術では達成されていない、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に好適に用いることができる高強度・高弾性率などの高い力学特性及び高い耐熱性を有し、かつ、黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。すなわち、本発明は、繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36である黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、液晶ポリエステルが下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなり、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%であり、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率が50~100%である液晶ポリエステルマルチフィラメントである。
また、融点+40℃の加熱で発生するガス量を1000ppm以下に抑制した樹脂ペレットを原料に用いるとともに、溶融紡糸時の紡糸機内における溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を40分以内とすることを特徴とする上記液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高強度・高弾性率などの高い力学特性を有し、かつ、黄みを有するため、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる各種テキスタイルや織編物用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、優れた耐熱性を併せ持つため、高次加工製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下が小さく、前記一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に加え、繊維強化樹脂製品や樹脂成形物などの用途にも好適に使用できる。
以下に本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法を詳細に説明する。
なお、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36である液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる限り、何ら限定されないが、好ましい形態を以下に述べる。
本発明に用いられる液晶ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学異方性(液晶性)を呈するポリエステルを指す。これは、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、偏光顕微鏡で試料の透過光の有無を観察することにより認定できる。
本発明に用いられる液晶ポリエステルとしては、例えば芳香族オキシカルボン酸の重合物(a)、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物(b)、上記(a)と上記(b)の共重合物(c)等が挙げられ、中でも芳香族のみで構成された重合物が好ましい。芳香族のみで構成された重合物は、繊維にした際に優れた強度および弾性率を発現する。また、液晶ポリエステルの重合処方は従来公知の方法を用いることができる。
ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、例としてヒドロキシ安息香酸(p-ヒドロキシ安息香酸など)、ヒドロキシナフトエ酸等(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸など)、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
また、芳香族ジカルボン酸としては、例としてテレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられる。
更に、芳香族ジオールとしては、例としてヒドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール等、またはこれらのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体等が挙げられ、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
本発明に用いる液晶ポリエステルは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲で更に他のモノマーを共重合させることができ、例としてアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミン等が挙げられる。
本発明に用いる前記モノマー等を重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分および/またはテレフタル酸成分が共重合された液晶ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とイソフタル酸成分とテレフタル酸成分とヒドロキノン成分が共重合された液晶ポリエステルが挙げられる。
本発明では特に、下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお、本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
Figure 0007528690000001
この組み合わせにより、分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがって、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に比較的均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。
さらに本発明においては、構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが好ましい。この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率に加えて優れた耐摩耗性も得られるのである。
上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%が好ましく、より好ましくは65~80mol%、さらに好ましくは68~75mol%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%が好ましく、より好ましくは60~80mol%、さらに好ましくは65~75mol%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため耐摩耗性を高めることができる。
構造単位(IV)は構造単位(IV)および (V)の合計に対して40~95mol%が好ましく、より好ましくは50~90mol%、さらに好ましくは60~85mol%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が適切な範囲となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり単繊維繊度が細く、長手方向に比較的均一な繊維が得られる。
なお、構造単位(II)と(III)の合計と(IV)と(V)の合計は実質的に等モルであることが好ましい。ここでいう実質的に等モルとは主鎖を構成するジオキシ単位とジカルボニル単位が等モル量存在することをいい、末端の構造単位は一方が偏在する場合などもあり必ずしも等モルにならなくてもよいことを意味する。
本発明に用いる液晶ポリエステルの各構造単位の特に好ましい範囲は以下のとおりである。なお、各構造単位の好ましい範囲は、構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の合計を100mol%とした時の範囲である。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I) 45~65mol%
構造単位(II) 12~18mol%
構造単位(III) 3~10mol%
構造単位(IV) 5~20mol%
構造単位(V) 2~15mol%
本発明に用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、Mw)は3万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。Mwを3万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性高めることができ、Mwが高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まる。また流動性を優れたものとする観点から、Mwは25万未満が好ましく、15万未満がより好ましい。なお、本発明で言うMwとは実施例記載の方法により求められた値とする。
本発明に用いる液晶ポリエステルの融点は、溶融紡糸のし易さ、耐熱性の面から200~380℃の範囲のものが好ましく、より好ましくは250~350℃であり、更に好ましくは290~340℃である。なお、本発明で言う融点とは実施例記載の方法により求められた値とする。
また、本発明に用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加・併用することができる。添加・併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、乃至は複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。他のポリマーとしては、例としてポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレン等のビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等のポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99M等が好適な例として挙げられる。なお、これらのポリマーを添加・併用する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましく、また、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるためには添加・併用する量は液晶ポリエステルに対して50重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、実質的に他のポリマーを添加・併用しないことが最も好ましい。
本発明に用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカ等の無機物、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の添加剤を少量含有していても良い。また、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるためには、これら添加剤の添加量は液晶ポリエステルに対して10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、実質的に添加剤を添加しないことが最も好ましい。
本発明の繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36であることを特徴とする黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るための方法は何ら限定されるものではないが、本発明の重要な点は、液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造において、繊維化するまでに、原料である液晶ポリエステル樹脂の熱劣化や過剰な重合反応を抑制することである。
すなわち本発明では、液晶ポリエステル樹脂から製造される液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、繊維の色(L値、a値、b値)に影響する因子を調査し鋭意検討した結果、液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する際に用いる原料の液晶ポリエステル樹脂に含有する低分子量物の量と溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間が得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントの色に影響することを見出した。つまり、本発明では、液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する際に用いる原料の液晶ポリエステル樹脂に含有する低分子量物の量を制御し、融点+40℃の加熱下で発生するガス量が1000ppm以下である液晶ポリエステル樹脂を用いるとともに、溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を制御し、滞留時間を40分以内とすることで、繊維の色を示すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36となり、従来技術では得られていない、黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが安定的に得られることを見出した。これは、融点+40℃の加熱下で発生するガス量が1000ppm以下の液晶ポリエステル樹脂を原料に用いることで、液晶ポリエステル樹脂に含まれる未反応モノマーや副生成物などの低分子量物量が少なく、また溶融紡糸時の紡糸機内の液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を40分以内としているため、高温下で低分子量物等による液晶ポリエステル樹脂の熱分解反応や過剰な重合反応を抑制できたためと考えられる。このように、溶融樹脂中における低分子量物等による液晶ポリエステル樹脂の熱分解反応や過剰な重合反応を抑制することが本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントを得るために重要となる。
液晶ポリエステル樹脂の融点+40℃の加熱下で発生するガス量は、1000ppm以下であることが必須であり、900ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましく、700ppm以下であることがさらに好ましい。1000ppm以下とすることで、液晶ポリエステル樹脂に含まれる未反応モノマーや副生成物などの低分子量物を少なくすることができ、その結果、液晶ポリエステル樹脂の溶融紡糸時における低分子量物による液晶ポリエステル樹脂の熱分解反応や過剰な重合反応が抑制でき、本発明のL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36である黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが好適に得られる。1000ppmを超える場合には、液晶ポリエステルマルチフィラメントのL値、a値、b値が前記範囲外となり、本発明の所望の黄みが得られない。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造に用いる液晶ポリエステル樹脂について、融点+40℃の加熱下で発生するガス量を1000ppm以下にする方法については、
何ら限定されないが、例えば、液晶ポリエステル樹脂の製造において、重合反応に使用するモノマー成分の比率や添加量を種々調整したり、重合反応時の温度や減圧度、それらの保持時間を種々調整する等して液晶ポリエステル樹脂に含まれる未反応モノマーや副生成物などの低分子量物を低減させ、融点+40℃の加熱下で発生するガス量を1000ppm以下とすることが挙げられる。また、溶融紡糸に使用する液晶ポリエステル樹脂を溶融紡糸前に乾燥する際に、減圧下で高温長時間乾燥することで融点+40℃の加熱下で発生するガス量を1000ppm以下とすることも何ら問題ない。本発明では、生産性を考慮し、溶融紡糸に使用する液晶ポリエステル樹脂を溶融紡糸前に乾燥する際に、減圧下で高温長時間乾燥することで融点+40℃の加熱下で発生するガス量を1000ppm以下とした。なお、液晶ポリエステル樹脂のチップ(ペレット)を高温で乾燥する上では、チップ同士が融着しないように、チップを常に動かしておいた方が好ましく、例えば、乾燥装置内のチップを攪拌することや乾燥装置自体を回転駆動させること等も何ら問題ない。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸において、基本的な溶融押出法としては通常の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプ等公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は液晶ポリエステルの融点以上、熱分解温度以下とすることが好ましく、液晶ポリエステルの融点+10℃以上、400℃以下とすることがより好ましく、液晶ポリエステルの融点+20℃以上、370℃以下とすることが更に好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間は、40分以内であることが必須であり、30分以内であることが好ましく、20分以内であることがより好ましく、10分以内であることが更に好ましい。滞留時間が40分を超える場合には、紡糸機内で溶融した液晶ポリエステル樹脂の熱分解や過剰な重合反応が生じるため、得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントのL値、a値、b値が本発明の範囲外となり、本発明の所望の黄みが得られない。また、使用する液晶ポリエステル樹脂中に含まれる未反応モノマーや低分子量物による液晶ポリエステル樹脂の熱分解反応や過剰な重合反応を抑制する上では、滞留時間は短い方が好ましいが、滞留時間を短くしすぎると、液晶ポリエステル樹脂自体の溶融不良や溶融斑が生じるため、安定紡糸可能な範囲で短くした方が好ましい。なお、ここでいう紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間は、押出機のチップ供給部に液晶ポリエステル樹脂のチップ(ペレット)が投入されてから、液晶ポリエステルマルチフィラメントが紡糸口金から吐出されるまでの時間である。よって、紡糸機内のポリマー流路体積(cm3)と紡糸機のポリマー吐出量(cm3/分)を除した値となる。
溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を40分以内とする方法については、何ら限定されないが、例えば、紡糸機内のポリマー流路体積を極小化することや紡糸機のポリマー吐出量を高く設定することも何ら問題ない。
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、通常、エネルギーコストの低減や生産性向上を目的に、1つの口金に多数の口金孔を穿孔するため、それぞれの口金孔の吐出、細化挙動を安定させた方が良い。
これを達成するためには口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の直管部の長さ)を長くすることが好ましい。ただし孔の詰まりを有効に防止する観点から孔径は0.03mm以上、1.00mm以下が好ましく、0.05mm以上、0.80mm以下がより好ましく、0.08mm以上、0.60mm以下がさらに好ましい。圧力損失が高くなるのを有効に防止する観点から、ランド長Lを孔径Dで除した商で定義されるL/Dは0.5以上、3.0以下が好ましく0.8以上、2.5以下がより好ましく、1.0以上、2.0以下が更に好ましい。
また、マルチフィラメントの生産性を向上させるために1つの口金の孔数は10孔以上500孔以下が好ましく、10孔以上400孔以下がより好ましく、10孔以上300孔以下が更に好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔は直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい。
口金孔より吐出されたポリマーは保温領域、冷却領域を通過させ固化してフィラメントとした後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から400mmまでとすることが好ましく、300mmまでとすることがより好ましく、保温領域を200mmまでとすることが更に好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上、500℃以下が好ましく、200℃以上、400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状の空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
引き取り速度は生産性向上のため50m/分以上が好ましく、300m/分以上がより好ましく、500m/分以上が更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にできる。上限は特に制限されないが、本発明に用いる液晶ポリエステルにおいては曳糸性の点から3,000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは1以上500以下とすることが好ましく、5以上200以下とすることがより好ましく、12以上100以下とすることが更に好ましい。本発明に用いる液晶ポリエステルは好適な曳糸性を有することからドラフトを高くでき、生産性向上に有利である。なお、紡糸ドラフトの計算に用いた、吐出線速度(m/分)とは、単孔あたりの吐出量(m/分)を単孔断面積(m)で除した商で定義される値であり、引き取り速度(m/分)を吐出線速度で除するため、紡糸ドラフトは無次元数となる。
本発明では製糸性および生産性向上の観点から、上記紡糸ドラフトを得るために紡糸パックあたりのポリマー吐出量を10~2,000g/分と設定することが好ましく、20~1,000g/分と設定することがより好ましく、30~500g/分と設定することが更に好ましい。10~2,000g/分と高吐出で紡糸することで、液晶ポリエステルの生産性が向上する。
巻き取りは通常の巻き取り機を用いチーズ、パーン、コーン等の形状のパッケージとすることができるが、巻量を高く設定できるチーズ巻きのパッケージとすることが好ましい。
液晶ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸では、オイリングローラー等で吐出糸条に紡糸油剤を付与することでマルチフィラメントを集束させ、ローラー等で引き取った後、延伸することなく、ワインダーで巻き取ることが一般的である。このように、マルチフィラメント紡出糸条を集束させることで、巻き取り性が向上し、巻崩れのないパッケージが得られる。
液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいては、溶融紡糸してフィラメントとした後に固相重合を行うことが好ましい。
パッケージ状で固相重合を行う場合、融着し易いので、これを防止するためには巻密度が0.30g/cm以上のパッケージとしてボビン上に形成し、これを固相重合することが好ましい。ここで巻密度とは、パッケージ外形寸法と心材となるボビンの寸法から求められるパッケージの占有体積Vf(cm)と繊維の重量Wf(g)からWf/Vf(g/cm)により計算される値である。巻密度は過度に小さいとパッケージにおける張力が不足するため繊維間の接点面積が大きくなり融着が増大するだけでなく、パッケージが巻き崩れるため0.30g/cm以上とすることが好ましく、0.40g/cm以上とすることがより好ましく、0.50g/cm以上とすることが更に好ましい。また、上限は特に制限されないが、巻密度が過度に大きいとパッケージの内層における繊維間の密着力が大きくなり接点での融着が増大するため、1.50g/cm以下とすることが好ましい。本発明においては、融着軽減および巻き崩れ防止の観点から、巻密度を0.30~1.00g/cmとすることがより好ましい。
このような巻密度のパッケージは、工程通過性が良く、工程の簡略化が可能である。例えば、液晶ポリエステルの溶融紡糸後に直接巻き取って、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能であり、工程通過性の向上が図れる。また、固相重合時の糸重量を調整する際などに、溶融紡糸で一旦巻き取ったパッケージを巻き返して、上記巻密度を有するパッケージを形成することも可能である。パッケージ形状を整え巻密度制御するためには通常用いられるコンタクトロール等を用いず、パッケージ表面を非接触の状態で巻き取ることや、溶融紡出した原糸を調速ロールを介さず直接、速度制御された巻取機で巻き取ることも有効である。これらの場合、パッケージ形状を整えるためには、巻取速度を3000m/分以下、特に2000m/分以下とすることが好ましい。下限としては生産性の点から50m/分以上であることが好ましい。
該パッケージを形成するために用いられるボビンは円筒形状のものであればいかなるものでも良く、パッケージとして巻き取る際に巻取機に取り付けこれを回転させることで繊維を巻き取り、パッケージを形成する。固相重合に際してはパッケージをボビンと一体で処理することもできるが、パッケージからボビンのみを抜き取って処理することもできる。ボビンに巻いたまま処理する場合、該ボビンは固相重合温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレスなどの金属製であることが好ましい。またこの場合、ボビンには多数の穴の空いていることが固相重合を効率的に行えるため好ましい。またパッケージからボビンを抜き取って処理する場合には、ボビン外表面に外皮を装着しておくことが好ましい。また、いずれの場合にもボビンの外表面にはクッション材を巻き付け、その上に液晶ポリエステル溶融紡糸フィラメントを巻き取っていくことが好ましい。クッション材の材質は、アラミド繊維などの有機繊維または金属繊維からなるフェルトが好ましく、厚みは0.1mm以上、20mm以下が好ましい。前述の外皮を該クッション材で代用することもできる。
該パッケージの繊維重量は巻密度が本発明の範囲内となるものであればいかなる重量でも良いが、生産性を考慮すると0.01kg以上、11kg以下が好ましい範囲である。なお、糸長としては1万m以上200万m以下が好ましい範囲である。
固相重合時の融着を防ぐため、フィラメントの表面に油剤を付着させることは好ましい実施形態である。これら成分の付着は溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには巻き返しの際に行う、あるいは溶融紡糸の時点で少量を付着させ、巻き返しの際にさらに追加することが好ましい。
油剤付着方法はガイド給油でも良いが、繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。
油剤の成分としては固相重合での高温熱処理で揮発させないため耐熱性が高い方が良く、通常の無機粒子、フッ素系化合物、シロキサン系化合物(ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなど)およびこれらの混合物などが好ましい。本発明における通常の無機粒子とは、例として鉱物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、シリカやアルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、カーボンブラック等が挙げられる。
また、これらの成分は固体付着、油剤の直接塗布でも構わないが付着量を適正化しつつ均一塗布するためにはエマルジョン塗布が好ましく、安全性の点から水エマルジョンが特に好ましい。したがって成分としては水溶性あるいは水エマルジョンを形成しやすいことが望ましく、中でもシロキサン系化合物の水エマルジョンを主体とし、これにシリカやケイ酸塩を添加した混合油剤が固相重合条件下において不活性であり、固相重合での融着防止効果に加え、易滑性にも効果を示すため好ましい。ケイ酸塩を用いる場合は、特に層状構造を持つフィロケイ酸塩が好ましい。なおフィロケイ酸塩としては、カオリナイト、ハロイ石、蛇文石、珪ニッケル鉱、スメクタイト族、葉ろう石、滑石、雲母などが挙げられるが、これらの中でも入手の容易性を考慮して滑石、雲母を用いることが最も好ましい。
繊維への油剤の付着量は融着抑制のためには多い方が好ましく、繊維全体を100重量%としたときに0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。一方、多すぎると繊維がべたつきハンドリングを悪化させる他、後工程で工程通過性を悪化させるため10.0重量%以下が好ましく、8.0重量%以下がより好ましく、6.0重量%以下が特に好ましい。なお、繊維への油剤付着量は実施例に記載した方法により求められる値を指す。
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは付着物の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が-40℃以下の低湿気体が好ましい。
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)に対し、最高到達温度が液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)-80℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、繊維の強度を向上させることができる。また最高到達温度はTm1未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合の進行と共に液晶ポリエステルフィラメントの融点は上昇するため、固相重合温度を固相重合の進行状態に応じて固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの融点(Tm1)+100℃程度まで高めることができる。なお固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。
固相重合時間は、繊維の強度、弾性率、融点を十分に高くするために最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましい。上限は特に制限されないが強度、弾性率、融点増加の効果は経過時間と共に飽和するため100時間程度で十分であり、生産性を高めるためには短時間が好ましく、50時間程度でも問題はない。
固相重合後のパッケージは、運搬効率を高めるために固相重合後のパッケージを再度巻き返して巻密度を高めることが好ましい。このとき、フィラメントを固相重合パッケージから解舒する際には解舒による固相重合パッケージの崩れを防ぎ、さらに軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するために、固相重合パッケージを回転させながら回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。さらに固相重合パッケージの回転は自由回転ではなく積極駆動により回転させることがパッケージからの糸離れ張力を低減させフィブリル化をより抑制できる点で好ましい。
ここで、液晶ポリエステルマルチフィラメントパッケージを形成するためには、パーン、ドラム、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、生産性の観点から巻量を多く確保することができるドラム巻取パッケージとすることが好ましい。
また、本発明における液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品とした場合の工程通過性を高めるために、マルチフィラメントに集束性を付与した方が良く、目的に応じて各種仕上油剤を付与することが好ましい態様である。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維の色を表すL値は64~86であることが必須であり、66~86が好ましく、68~86がより好ましく、70~86がさらに好ましい。64~86とすることで、適度な明度を有し、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また64未満の場合は黒味が強くなりすぎ、また86を超える場合には、白味が強くなりすぎるため、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られない。L値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維の色を表すa値は-6~6であることが必須であり、-5~6が好ましく、-4~6がより好ましく、-3~6がさらに好ましい。-6~6とすることで、適度な赤緑味を有し、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また-6未満の場合は緑味が強くなりすぎ、6を超える場合には、赤味が強くなりすぎるため、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られない。a値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維の色を表すb値は15~36であることが必須であり、17~36が好ましく、19~36がより好ましく、21~36がさらに好ましい。15~36とすることで、適度な黄青味を有し、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また15未満の場合は青味が強くなりすぎ、36を超える場合には、黄味が強くなりすぎるため、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られない。b値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度は、1~30dtexであることが好ましい。また、1~20dtexであることがより好ましい。1~30dtexと単繊維繊度を細くすることで、吐出後に単繊維内部まで均一な冷却が可能となり、製糸性が安定し、毛羽品位の良好な液晶ポリエステルマルチフィラメントが得やすくなるだけでなく、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が増え、高強度・高弾性化に有利である。また、単繊維繊度が1~30dtexである本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの糸条は柔軟であるため、高次工程通過性に優れる上、織物などに用いた場合には、糸条の充填率が高く、高密度化および収納性向上が図れる。なお、本発明では総繊度を単繊維数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維数(フィラメント数)は10~500本が好ましく、10~400本であることがより好ましく、10~300本であることがさらに好ましい。単繊維数を10~500本とすることで、マルチフィラメントの生産性向上が図れる上、熱処理時に外気に触れる繊維表面積が大きくなるため固相重合反応が促進されて、強度・弾性率のバラツキが低減し、均一な物性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られる。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して単繊維数が10~500本の液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、単繊維数は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、100~3,000dtexが好ましく、150~2,500dtexであることがより好ましく、200~2000dtexであることがさらに好ましい。100~3,000dtexとすることで、工程通過性が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が100~3,000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。なお、総繊度は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の強度は、15.0cN/dtex以上が好ましく、17.0cN/dtex以上がより好ましく、19.0cN/dtex以上が更に好ましい。強度が15.0cN/dtex以上あることで、高強度かつ軽量化が求められる産業資材用途に好適である。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては30.0cN/dtex程度である。なお、本発明で言う強度は実施例に記載した強伸度・弾性率測定での破断強度を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の伸度は、5.0%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、4.0%以下が更に好ましい。伸度が5.0%以下であるため、外部から応力を受けた際に伸びにくく、重量物を吊り上げる際の寸法変化が小さく好適に使用できる。伸度の下限は特に限定されないが、本発明で達し得る下限としては1.0%程度である。なお、本発明で言う伸度は実施例に記載した強伸度・弾性率測定での破断伸度を指す。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合後の弾性率は、300cN/dtex以上が好ましく、500cN/dtex以上がより好ましく、700cN/dtex以上が更に好ましい。弾性率が300cN/dtex以上あることで、応力を受けた際の寸法変化が小さく産業資材用途に好適である。弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては弾性率1,000cN/dtex程度である。なお、本発明で言う弾性率とは実施例に記載した強伸度・弾性率測定での弾性率を指す。
また、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する際に用いる原料の液晶ポリエステル樹脂に含有する低分子量物の量を制御し、融点+40℃の加熱下で発生するガス量が1000ppm以下である液晶ポリエステル樹脂を用いるとともに、溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を制御し、滞留時間を40分以内とすることで得られるが、このような製造方法で製造される液晶ポリエステルマルチフィラメントは、繊維中に残存する低分子量物や液晶ポリエステル樹脂由来の熱分解物が少ないため、乾熱処理時に液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱分解が生じ難く(繊維の物性低下が小さく)、耐熱性にも優れている。なお、液晶ポリエステルマルチフィラメントの耐熱性は、実施例に記載した手法により求められ、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率で評価した。本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率は、50~100%が好ましく、60~100%がより好ましく、70~100%が更に好ましい。280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率が50~100%であるため、高次加工製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下が小さく、前記一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に加え、繊維強化樹脂製品や樹脂成形物などの用途にも好適に使用できる。なお、高次加工時に、液晶ポリエステルマルチフィラメントで製造された繊維製品に、機能性付与等を目的に各種樹脂、薬剤を付与する加工工程、また他素材と複合化処理する加工工程においては、前記280℃程度までの温度域での加熱処理が一般的であるため、本発明の黄みを有し、280℃×1hrの乾熱処理後の強度保持率に優れる液晶ポリエステルマルチフィラメントが好適に使用できる。
かくして得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36であり、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる高次加工製品の用途に好適に用いることができる。意匠性・視認性が求められる用途としては、例えば、各種織編物、テキスタイル、テント生地、スピーカーコーン、工事作業用ロープや安全帯用ベルトなどが挙げられる。このような黄みを有するとともに、高強度、高弾性、耐熱性、寸法安定性、振動減衰性、耐薬品性、低吸湿特性、高湿潤時強度などを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、多様な一般産業資材用途にも用いることができる。一般産業資材用途の例としては、ロープ、スリング、漁網、ネット、メッシュ、織物、布帛、シート状物、ベルト、テンションメンバー、土木・建築資材、スポーツ資材、防護資材、ゴム補強資材、各種補強用コード、樹脂強化用繊維材、電気材料、音響材料等が挙げられる。
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。なお、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および各物性の測定、算出法を以下に示す。
(1)融点
示差走査熱量計(TA 1nstruments社製DSC2920)で行う示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、およそTm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。同様の操作を2回行い、2回の平均値を液晶ポリエステルの融点Tm2(℃)とした。
(2)融点+40℃の加熱下で発生するガス量
試料約100mgを加熱管中に入れ、窒素気流下(100mL/min.)で融点+40℃に設定した管状炉に投入した。発生するガスを加熱管出口側に取り付けたカーボトラップで捕集した。8時間、加熱発生ガスを捕集した後、カーボトラップを取り外した。測定の際は、カーボトラップを加熱脱離装置(TDU)に装着し、300℃まで急速昇温させてカーボトラップに吸着した成分を脱離させ、脱離ガスをGC/MSに導入して測定した。なお、脱離ガスの総発生量(ppm)はトルエン標準液から作成した検量線を用いて算出した。
(3)ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、120℃で20分攪拌しながら、液晶ポリエステルを混合溶媒に溶解させる。このとき、液晶ポリエスエルの濃度が0.04重量%となるように調製し、GPC測定用試料とする。これをWaters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算によりMwを求めた。同様の操作を2回行い、2回の平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
カラム:ShodexK-G(1)
ShodexK-806M(2)
ShodexK-802(1)
検出器:示差屈折率検出器RI(2414型)
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:0.200mL。
(4)水分率
平沼産業社製カールフィッシャー水分計(AQ-2100)を用いた電量滴定法で測定した。試行回数3回の平均値を用いた。
(5)油剤濃度
油剤を分散させた溶液の重量をW0、油剤の重量をW1とした場合に、W1をW0で除した商に100を乗じた積を油剤濃度(重量%)とした。
(6)油剤付着量
検尺機にて繊維を100mカセ取りして重量を測定した後、カセを100mlの水に浸して超音波洗浄機を用いて1時間洗浄を行った。超音波洗浄後のカセを60℃の温度で1時間乾燥させて重量を測定し、洗浄前重量と洗浄後重量の差を洗浄前重量で除した商に100を乗じた積を油剤付着量(重量%)とした。
(7)総繊度
JIS L 1013(2010)8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度(dtex)とした。
(8)単繊維数
JIS L 1013(2010)8.4の方法で算出した。
(9)単繊維繊度
総繊度を単繊維数で除した値を単繊維繊度(dtex)とした。
(10)強伸度、弾性率
JIS L 1013(2010)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT-100を用い、掴み間隔(測定試長)は250mm、引張速度は50mm/分で行った。伸度(破断伸度)は、荷重(応力)-伸長曲線における破断時の応力(強力)を示した点の伸びから算出した。強度については、前記の荷重(応力)-伸長曲線における破断時の応力(強力)を総繊度で除することにより算出した。弾性率は引張試験における荷重(応力)-伸長曲線における0.5%伸度点での傾きから算出した。なお、繊維における破断時の応力(強力)は、一般的に原糸強力とも呼ばれる。
(11)繊維の色を示すL値、a値、b値
糸状ピッチ0.5cmで幅4.5cmになるように、得られた繊維をプレートに周回し3層とした測色用サンプルを作製し、コニカミノルタ社製色彩色差計CR-400を用いて測定した。L値は、色の明るさ(明度)を表し、0~100(0に近いと黒、100に近いと白)まであり、数字が大きいほど明るい色を表す。a値は、赤緑系の色相(プラス側は赤味、マイナス側は緑味)を表す。b値は、黄青系の色相(プラス側は黄味、マイナス側は青味)を表す。
(12)意匠性・視認性が求められる高次加工製品への適性
得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36を満足し、黄みを有している場合は意匠性・視認性が求められる用途への適用は〇、他方、繊維の色を表すL値、a値、b値が前記範囲外で、黄みを有していない場合は意匠性・視認性が求められる用途への適用は×とした。
(13)耐熱性
得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントの耐熱性は、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率で評価し、熱処理前の原糸強力X(N)と280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力Y(N)を用いて、次式
280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率(%)=(Y/X)×100
より算出した。
[実施例1]
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327重量部、イソフタル酸157重量部、テレフタル酸292重量部、ヒドロキノン89重量部および無水酢酸1433重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、330℃まで4時間で昇温した。重合温度を330℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、所定トルクに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
この液晶ポリエステル樹脂はp-ヒドロキシ安息香酸単位が全体の54mol%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位が16mol%、イソフタル酸単位が8mol%、テレフタル酸単位が15mol%、ヒドロキノン単位が7mol%からなり、融点は315℃であり、高化式フローテスターを用いて、温度330℃、剪断速度1,000/secで測定した溶融粘度は30Pa・secであり、また、Mwは145,000であった。
この液晶ポリエステル樹脂を用い、200℃で48時間真空乾燥(減圧度:0.1Pa)を行い、水分・オリゴマーを除去した。このときの液晶ポリエステルの水分率は5ppmであり、融点+40℃の加熱下で発生するガス量は950ppmであった。この高温条件下で乾燥強化した液晶ポリエステル樹脂を、単軸のエクストルーダーにて(ヒーター温度290~340℃)溶融押出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。このときのエクストルーダー出口から紡糸パックまでの紡糸温度は335℃とした。紡糸パックでは濾過精度が15μmの金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を300個有する口金より吐出量100g/分(単孔あたり0.33g/分)でポリマーを吐出した。溶融紡糸における紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間は27分であった。
吐出直後に室温で冷却固化させた液晶ポリエステルマルチフィラメントを、オイリングローラーを用いて油剤(ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製「SH200-350cSt」)が5.0重量%の水エマルジョン)を付着させながら300フィラメントともに600m/分のネルソンローラーで引き取った。このときの紡糸ドラフトは29である。また、油剤付着量は1.5重量%であった。ネルソンローラーで引き取ったマルチフィラメントは、そのままダンサーアームを介し羽トラバース型のワインダーを用いてチーズ形状に巻き取った。溶融紡糸での曳糸性は良好であり、総繊度1667dtex、単繊維繊度5.6dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントが、糸切れすることなく安定紡糸でき、4.0kg巻パッケージの紡糸原糸を得た。
この紡糸パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、速度を一定とした巻取機((株)神津製作所製SSP-WV8P型プレシジョンワインダー)にて400m/分で巻き返しを行った。なお、巻き返しの芯材にはステンレス製のボビンを用い、巻き返し時の張力は0.005cN/dtex、巻き密度を0.50g/cmとし、巻量は4.0kgとした。更にパッケージ形状はテーパー角65°のテーパーエンド巻きとした。
得られた巻き返しサンプルを、密閉型オーブンを用いて、室温から240℃まで昇温し、240℃にて3時間保持した後、290℃まで昇温し、更に290℃で20時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、固相重合における雰囲気は除湿窒素を流量100L/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出
し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に200m/分で送り出しつつ解舒を
行い、巻取機にて製品パッケージに巻き取ったところ、ほぼ抵抗無く解舒でき糸切れは発生しなかった。なお、繊維物性は表1に記載の通りである。実施例1で得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントは、表1に示した高い力学特性(高強度、高弾性率)を有するとともに、繊維の色を示すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36であり、黄みを有しているため、意匠性・視認性が求められる高次加工製品へ好適に使用できた。さらに、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率は56%であり、耐熱性に優れており、高次加工製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下が小さく、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に加え、繊維強化樹脂製品や樹脂成形物などの用途にも好適に使用できた。
[実施例2~6]、[比較例1~3]
溶融紡糸に使用する液晶ポリエステル樹脂の乾燥条件を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例7~9]、[比較例4~6]
溶融紡糸時のポリマー吐出量および巻取速度を変更して、紡糸機内のポリマー滞留時間を調整したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例10~17]
溶融紡糸時の口金の孔数、ポリマー吐出量、巻取速度を変更して、紡糸機内のポリマー滞留時間や得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度や単繊維繊度を調整したこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例18]
液晶ポリエステル樹脂として、p-ヒドロキシ安息香酸単位が全体の73mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位が27mol%からなる液晶ポリエステル樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
実施例1~18の繊維物性を表1及び2、比較例1~6の繊維物性に表3に示す。
Figure 0007528690000002
Figure 0007528690000003
Figure 0007528690000004
表1及び2の実施例から明らかなように、液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する際に用いる原料の液晶ポリエステル樹脂に含有する低分子量物の量を制御し、融点+40℃の加熱下で発生するガス量が1000ppm以下である液晶ポリエステル樹脂を用いるとともに、溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を制御し、滞留時間を40分以内とすることで、繊維の色を示すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36となり、従来技術では得られていない、黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントが安定的に得られた。このように本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高強度・高弾性率などの高い力学特性を有し、かつ、黄みを有するため、ロープやスリングなどの一般産業資材用途に加え、各種テキスタイルや織編物などの意匠性・視認性が求められる用途に好適に用いることができた。さらに、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率が50~100%と耐熱性に優れているため、高次加工製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下が小さく、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に加え、繊維強化樹脂製品や樹脂成形物などの用途にも好適に使用できた。
一方、表3の比較例から明らかなように、液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する際に用いる原料の液晶ポリエステル樹脂に含有する低分子量物の量、すなわち、融点+40℃の加熱下で発生するガス量が1000ppmを超える液晶ポリエステル樹脂を用いた場合や、溶融紡糸時の紡糸機内の溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間が40分を超える場合には、紡糸機内で溶融した液晶ポリエステル樹脂の熱分解や過剰な重合反応が生じるため、得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントのL値、a値、b値が本発明の範囲外となり、本発明の所望の黄みが得られず、また、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率が50%未満となり、耐熱性に劣るものであった。
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高強度・高弾性率などの高い力学特性を有し、かつ、繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36であるため、黄みを有する。そのため、一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる各種テキスタイルや織編物用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、優れた耐熱性を併せ持つため、高次加工製品を製造する際の加熱処理時の製品物性低下が小さく、前記一般産業資材用途や意匠性・視認性が求められる用途に加え、繊維強化樹脂製品や樹脂成形物などの用途にも好適に使用できる。

Claims (5)

  1. 繊維の色を表すL値が64~86、a値が-6~6、b値が15~36である黄みを有する液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、液晶ポリエステルが下記化学式に示す構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなり、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%であり、280℃×1hrの乾熱処理後の原糸強力保持率が50~100%である液晶ポリエステルマルチフィラメント。
    Figure 0007528690000005
  2. 液晶ポリエステルが全芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  3. 融点+40℃の加熱で発生するガス量を1000ppm以下に抑制した樹脂ペレットを原料に用いるとともに、溶融紡糸時の紡糸機内における溶融した液晶ポリエステル樹脂の滞留時間を40分以内とすることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントから製造される高次加工製品。
  5. 請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントから製造される繊維強化樹脂製品または樹脂成形物。
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