JP2004154024A - ブタの品種識別法及びブタの品種識別用dnaチップ - Google Patents
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Abstract
【課題】ブタの品種を相互に識別する方法の提供。
【解決手段】ブタのゲノムDNAについて下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせからなるアレルの検出を行い、その結果に基づいてブタの品種を特定することを特徴とする、ブタの品種の識別方法:(1)MC1R遺伝子上の、(i)特定のDNA配列の塩基番号2026〜2027の位置に存在する連続した2塩基の挿入若しくは非挿入であるアレル、(ii)特定のDNA配列の塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル、及び(iii)特定のDNA配列の塩基番号2692の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;(2)KIT遺伝子上の特定のDNA配列の塩基番号1313の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;(3)KIT遺伝子上のDNA配列の塩基番号3884〜3887の位置に存在する連続した4塩基の欠失若しくは非欠失であるアレル。
【選択図】 なし
【解決手段】ブタのゲノムDNAについて下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせからなるアレルの検出を行い、その結果に基づいてブタの品種を特定することを特徴とする、ブタの品種の識別方法:(1)MC1R遺伝子上の、(i)特定のDNA配列の塩基番号2026〜2027の位置に存在する連続した2塩基の挿入若しくは非挿入であるアレル、(ii)特定のDNA配列の塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル、及び(iii)特定のDNA配列の塩基番号2692の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;(2)KIT遺伝子上の特定のDNA配列の塩基番号1313の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;(3)KIT遺伝子上のDNA配列の塩基番号3884〜3887の位置に存在する連続した4塩基の欠失若しくは非欠失であるアレル。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブタの品種の識別方法及びブタの品種の識別用DNAチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在生産されているブタ肉は、大ヨークシャー種又はランドレース種(いずれも白色種)と、デュロック種(褐色種)とを用いた三元交雑により得られるものが主流である。
【0003】
一方、市場では黒ブタ肉としてバークシャー種の肉が販売されている。バークシャー種を代表とする黒ブタは、産子数が少なく、肥育に時間がかかるが、その肉は白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種)よりも美味とされていることから、黒ブタ肉は他のブタ肉と比べて高値で取り引きされている。
【0004】
しかしこの高値に便乗して、近年では、黒ブタ肉として販売されているものの中に、白色ブタと黒ブタの交雑により得た肉や、全く黒ブタを交雑していない豚肉などが出回っている。そこで、黒ブタ品種を識別する手法が求められている。
【0005】
ところで近年では、生物のもつ遺伝子の多型と遺伝的形質とをを関連付ける研究が盛んに行われている。
例えば、ある遺伝子の遺伝子多型を調べる方法として、制限酵素断片長多型(以下、Restriction fragment length polymorphism :RFLPと呼ぶ)による解析技術が知られている。RFLPは、生物の個体間で遺伝子の構造の異なる部位に制限酵素部位が存在すると、その制限酵素による切断断片のサイズが異なることを利用してその遺伝子の多型を解析するものである。多型を示すDNA領域が特定されている場合には、その領域をマーカーとすることにより、ある単離遺伝子が由来する個体を識別することも可能である。
【0006】
同様の多型解析法として、塩基配列中にギャップ(挿入又は欠失)が存在するとき、PCR増幅したDNA断片をそのまま電気泳動することにより、その増幅断片長の違いからギャップの存在を検出する方法も知られている(以下、PCR fragmentlength polymorphism: PCR−FLP法と呼ぶ)。多型を示すDNA領域が特定されている場合には、その領域をマーカーとして上記のような多型解析法を用いることにより、単離遺伝子が由来する個体を識別することも可能である。
【0007】
従来、多型解析法を用いるブタの識別法としては、ブタ遺伝子の制限断片長多型を利用してブタをいくつかの品種グループに分類する方法が知られている(特許文献1を参照)。またブタの外観の表現型と関連する遺伝子、例えば皮膚の色に関わるMC1R遺伝子及び毛色に関わるKIT遺伝子について、複数の挿入/欠失多型が知られている(例えば、特許文献1〜3、並びに非特許文献1及び2を参照)。
【0008】
ところで最近、DNAチップを用いたDNA多型解析も可能となった。DNAチップは、シリコンやガラスの基板上に既知の塩基配列を有するDNA(プローブDNA)をスポット状に貼り付けたものである。このガラス上に、蛍光色素等でラベルしたターゲットDNA(被検体のDNA)を流し込み、該ターゲットDNAとプローブDNAとをハイブリダイズさせ、各スポットについて測定される蛍光強度の違いにより遺伝子の多型を特定する。
【0009】
このDNAチップにより、SNP(一塩基多型)解析を行うことが可能となった。つまり、完全に相補的な配列のターゲットDNAと、1塩基が異なるターゲットDNA(すなわちSNPを有する)とでは、チップ上のプローブDNAに対するハイブリダイゼーション効率が異なるため、蛍光強度の差としてSNPの存在を検出することができる。このSNPの検出法を用いると、同様に被検体を識別することが可能である。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−350586号公報
【特許文献2】
特表平11−514212号公報
【特許文献3】
特表2001−520052号公報
【非特許文献1】
J. M. H. Kijas, et al., Genetics, (2001) 158: 779−785
【非特許文献2】
Pielberg G, et al., Genetics, (2002) Jan; 160(1): 305−11
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ブタの品種を相互に識別する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子とKIT遺伝子に存在する特定の5つの遺伝子多型についてのアレルを検出し、検出されたアレルの組み合わせに基づいて前記ゲノムDNAの属するブタ品種を特定する方法により、ブタの品種を相互に識別することに成功した。本発明はこの成果に基づいて完成された。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ブタのゲノムDNAについて下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせからなるアレルの検出を行い、その結果に基づいてブタの品種を特定することを特徴とする、ブタの品種の識別方法:
(1) MC1R遺伝子上の、
(i) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する連続した2塩基の挿入若しくは非挿入であるアレル、
(ii) 同塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル、及び
(iii) 同塩基番号2692の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(2) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号1313の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(3) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の位置に存在する連続した4塩基の欠失若しくは非欠失であるアレル。
【0014】
[2] 次の(4)のアレルを検出することをさらに含む、上記[1]記載の方法:
(4) MC1R遺伝子の上流領域の、配列番号1に示す塩基番号221〜279の位置に存在する連続した7塩基若しくは22塩基の挿入又は欠失であるアレル。
【0015】
上記の[1]又は[2]の方法においては、ブタの品種が、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種、並びにそれらのうちの2種以上を用いた交雑種であることが望ましい。
【0016】
また、上記[1]又は[2]の方法においては、RFLP法、PCR−FLP法、及びDNAチップを用いる方法からなる群より選ばれる一つまたは二つ以上の方法を用いて検出を行うことができる。
【0017】
さらに具体的な上記[1]又は[2]の方法においては、(1)−(i)のアレルについてはPCR−FLP法、(1)−(ii)のアレルについては制限酵素AciIを用いるRFLP法、(1)−(iii)のアレルについては制限酵素HhaIを用いるRFLP法、(2)のアレルについては制限酵素NlaIIIを用いるRFLP法、(3)のアレルについてはPCR−FLP法、を用いて、好適に検出を行うことができる。
【0018】
[3] 下記(1)と、(2)及び/又は(3)とを含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 配列番号6及び7に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーと、
配列番号8及び9に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素AciIと、
配列番号10及び11に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素HhaIと、
の組み合わせ;
(2) 配列番号12及び13に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素NlaIII;
(3) 配列番号14及び15に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー。
【0019】
[4] 下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせを含む、オリゴヌクレオチド又はその標識物のセット:
(1) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号1〜4に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号3に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
の組み合わせ;
(2) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTが欠失している、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物。
【0020】
[5] 上記[4]のセットに、下記(1)〜(4)からなる群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物をさらに含むセット。
(1) 配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号3〜5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(2) 配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号1、2、4若しくは5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物、及び
(4) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTを含む、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物。
【0021】
[6] 配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセット。
[7] 上記[4]〜[6]のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットを固定化した固相担体。
【0022】
[8] 下記(1)及び/又は(2)を含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 上記[7]記載の固相担体
(2) 配列番号36〜45に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーのセット。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明はブタの品種を相互に識別する方法に関する。
本発明は、ブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子に存在する3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)のアレルと、KIT遺伝子に存在する2つの遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)の少なくとも一方のアレルとを検出し、検出されるそれらのアレルの組み合わせを各ブタ品種に特有の組み合わせと比較して、前記ゲノムDNAを有するブタの品種を特定することによって、ブタの品種を識別する方法に関する。本発明はまた、そのような識別法においてアレルの検出に用いることができる、好適なDNAチップも提供する。
【0024】
本発明の方法を用いれば、現在市場に出回っている品種のほぼ100%に当たるデュロック種、白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種を含む)、バークシャー種及びハンプシャー種を、相互に識別することができるだけでなく、メイシャン種を含め、それらの品種のうち2種以上を交配した交雑種をも識別することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
1.ブタの品種
本発明において、識別の対象となるブタの品種は、メイシャン種、デュロック種、白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種を含む)、バークシャー種及びハンプシャー種、並びにこれらの品種のうち少なくとも2種を交配に用いた交雑種である。現在、産業上出回っているブタ肉は、これらの品種に属するものがほとんどであるため、本発明の方法はそのようなブタ肉を識別する上で特に有用である。また本明細書では、これらのブタ品種に対する野生型の基準種として、日本イノシシを用いて本発明を説明する。
【0026】
ここで、ブタ品種は、一般的に皮膚の色によって以下の通り分類される。
・黒色種:バークシャー種、メイシャン種、ハンプシャー種
このなかで、バークシャー種は脚先、尾端、鼻先が白いため六白と呼ばれており、ハンプシャー種は前脚にかけての胴回りが白いため(黒地)白ベルトと呼ばれている。
・褐色種:デュロック種
・白色種:大ヨークシャー種、ランドレース種
【0027】
これらのうち、黒色種と白色種の間では肉の品質に差があるため、特に黒色種と白色種とを識別できることは産業上重要である。また、デュロック種は肉質が良いため、ブタ肉生産における交配にも広く用いられていることから、交雑種におけるデュロック種の関与を識別できることは有用である。
【0028】
2.遺伝子多型とそのアレル
本明細書において「遺伝子多型」は、単一ヌクレオチド多型(1塩基多型:single nucleotide polymorphism:SNP)、及び連続した複数ヌクレオチドにわたる挿入又は欠失による多型、並びに重複遺伝子間の対応する位置に存在する多型を包含するものとする。
【0029】
本発明では、メラニン細胞刺激ホルモン受容体遺伝子(MC1R遺伝子)及びKIT遺伝子に見出される遺伝子多型を利用する。脊椎動物において体色に関与する褐色又は黒色の色素はメラニンであり、メラノサイトにおいてその形成が行われる。メラノサイトにおけるメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)の受容体はメラニン細胞刺激ホルモン受容体(MC1R)であり、この受容体をコードするMC1R遺伝子の変異によるレセプター活性の違いがメラノサイトにおけるチロシナーゼのレベルに変化をもたらし、そのレベルの程度により毛色が黒色又は褐色となる。またKIT遺伝子は、メラニン細胞の増殖、分化及び遊走に深く関与し、大ヨークシャー(白色種)ではこの遺伝子が重複していることが知られている(Johansson et al., Mammalian Genome vol 7, pp822−830, 1996)。このため、KIT遺伝子における遺伝子多型は、品種間での多型だけでなく、重複KIT遺伝子間での多型も意味する。一方、有色種のKIT遺伝子は重複していない。
【0030】
本発明のブタの品種の識別法においては、識別の対象とするブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子及びKIT遺伝子上の下記の5つの遺伝子多型を利用する。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: MC1R遺伝子上の連続した2塩基の挿入、又は非挿入
〔2〕黒色検出部: MC1R遺伝子上のヌクレオチド多型(T又はC)
〔3〕褐色検出部: MC1R遺伝子上のヌクレオチド多型(G又はA)
〔4〕 白色検出部: KIT遺伝子上のヌクレオチド多型(G又はA)
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: KIT遺伝子の連続した4塩基の欠失、又は非欠失
【0031】
本発明では、上記の〔1〕〜〔3〕に加えて、〔4〕又は〔5〕の少なくとも一方の遺伝子多型のアレルを検出することによって、ブタの品種を相互に識別することができる。しかし、〔1〕〜〔5〕の遺伝子多型を全て利用することにより、その識別の精度をさらに高めることも可能である。
ここで、それぞれのブタ品種に対応するMC1R遺伝子及び日本イノシシのKIT遺伝子について、本明細書に示す部分配列に対応する配列番号は表1の通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
上記〔1〕〜〔5〕の遺伝子多型の多型部位は、配列番号1又は57に示す塩基番号を用いて次の通り特定される。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置。なお、本明細書においては、2塩基挿入/非挿入部に関連する「挿入」とは、具体的には、配列番号1に示す塩基番号2026と2027の間の位置に連続した2塩基配列が挿入された結果、塩基番号2026〜2027に対応する塩基配列が連続した4塩基配列(GCCC)となっていることを意味する。一方、2塩基挿入/非挿入部に関連する「非挿入」とは、具体的には、配列番号1に示す塩基番号2026と2027の間の位置に連続した2塩基が挿入されておらず、塩基番号2026〜2027に対応する塩基配列が連続した2塩基配列(GC)となっていることを意味する。この用語「非挿入」は、進化学的な意味で用いない限り、配列の比較について述べる際に、用語「欠失」によって置き換えてもよい。
【0034】
〔2〕黒色検出部: MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2270の位置。
〔3〕褐色検出部: MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2692の位置。
〔4〕白色検出部: KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号1313の位置。
【0035】
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: KIT遺伝子の、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の位置。なお、本明細書においては、4塩基欠失/非欠失部に関連する「欠失」とは、具体的には、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887(塩基配列AGTT)に対応する連続した4塩基配列が欠失していることを意味する。一方、4塩基欠失/非欠失部に関連する「非欠失」とは、具体的には、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887(塩基配列AGTT)に対応する塩基配列が欠失しておらず、塩基番号3884〜3887に対応する連続した4塩基配列が存在していることを意味する。この用語「非欠失」は、進化学的な意味で用いない限り、配列の比較について述べる際に、用語「挿入」によって置き換えてもよい。
さらに、各ブタ品種が有する、MC1R遺伝子中の上記遺伝子多型のアレルを次の表2に具体的に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
また、各ブタ品種が有する、KIT遺伝子中の各遺伝子多型のアレルを表3に示す。なお表3中、「G・A」「4塩基欠失・非欠失」との表示は、それぞれ『GとAの両方』『4塩基欠失と非欠失との両方』を意味する。
【0038】
【表3】
【0039】
なお、本発明においては、上記遺伝子多型のアレルに加えて、MC1R遺伝子の上流領域に存在する連続した7塩基若しくは22塩基の挿入又は欠失であるアレルを、さらにブタ品種の識別に利用することもできる。具体的には、配列番号1に示すMC1R遺伝子の部分配列中の、開始コドンより上流に位置する塩基番号221〜279の領域には、メイシャン種において連続した7塩基長の欠失(配列番号1の塩基番号273〜279)が、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種において連続した22塩基長の欠失(配列番号1の塩基番号221〜242)が存在する。これらの挿入/欠失のアレルは、例えば配列番号1の塩基番号221〜279の領域を増幅するように設計した一対のプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られた増幅断片の断片長多型を解析することによって検出できる(PCR−FLP法)。この遺伝子多型は、日本イノシシと、メイシャン種と、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種からなる群とを区別することができるので、例えばメイシャン種の識別等に用いることが可能である。なお本明細書において、この遺伝子多型については、上記の日本イノシシ及び各ブタ品種における塩基配列を互いに比較した場合に、連続した7塩基又は22塩基の配列が当該位置に存在するものを「挿入」、存在しないものを「欠失」として表す。
【0040】
本明細書では、上記多型部位を含む遺伝子内領域を指定する場合にも、原則として日本イノシシの塩基配列を基準として記載する。基準として用いる日本イノシシの塩基配列は、MC1R遺伝子については該遺伝子の部分配列である配列番号1に示す塩基配列を、KIT遺伝子については該遺伝子の部分配列である配列番号57に示す塩基配列を用いる。
【0041】
本明細書では、上記遺伝子多型の多型部位を複数のブタ品種について特定する場合、配列番号1又は57(日本イノシシの配列)を引用し、かつ特定のブタ品種の塩基配列を示す配列番号を用いて記載する。例えば黒色検出部について、「MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル」と記載した場合、『配列番号1に示す塩基番号2270』は日本イノシシにおける黒色検出部の多型部位を意味するが、『配列番号1に示す塩基番号2270の位置』との表現は、日本イノシシ(配列番号1)だけでなく、メイシャン種(配列番号2)、デュロック種(配列番号3)、ハンプシャー種(配列番号4)、白色種及びバークシャー種(配列番号5)における黒色検出部の多型部位をも意味する。
【0042】
さらに各ブタ品種における上記遺伝子多型を含む領域の塩基配列については、配列番号1又は57の塩基配列中に示される塩基番号を用いて多型部位を特定した上で、ブタ品種毎の塩基配列を示す塩基番号を引用することによって、指定する。例えば、メイシャン種のMC1R遺伝子(配列番号2)の黒色検出部を含む領域を指定する場合には、「配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列上の連続した…配列」というような記載で表現する。
【0043】
3. DNA の調製
本発明のブタ品種の識別法においては、品種を識別したいブタ個体から組織又は細胞等を取得してDNA採取源とし、その採取源から抽出したゲノムDNAを試料として用いる。DNAの採取源は特に限定されるものではなく、例えば肉(もも肉、肩肉、ロース肉等)、血液、加工肉(ハム、ソーセージ等)等が挙げられる。
【0044】
これら採取源からのゲノムDNAの抽出及び調製は、公知のいずれかの方法により行うことができる(文献名:J.Sambrook et al. (Eds.), Molecular Cloning,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp.9.16−9.23, 1989)。あるいは、市販のキット(STRATAGENE, DNA Extraction Kit (#200600))を用いることもできる。なお、得られたDNAが目的のものであるか否かを確認するため、適当なシークエンサーで塩基配列決定をしておくことが望ましい。
【0045】
また、品種の識別を行う目的によっては、ゲノムDNAの抽出を、複数のブタ個体に由来するDNA採取源からまとめて行ってもよい。例えば、特定の品種に由来するブタ肉製品の一群に異なるブタ品種に由来するブタ肉製品が混入していないことを確認するために、その群に使用された全てのブタの品種がその特定の品種に属するか否かを識別すれば足りる場合であれば、識別したいブタ肉製品の群に由来する複数のDNA採取源から、まとめてゲノムDNAを抽出してもよい。個体毎に抽出したゲノムDNAを混合して、次のアレルの検出に用いてもよい。
【0046】
4.アレルの検出
次に、上記「3.DNAの調製」で抽出したゲノムDNAについて、上記「2.遺伝子多型とそのアレル」に記載したMC1R遺伝子上の3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)のアレルと、KIT遺伝子上の2つ遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)の少なくとも一方のアレルとを検出する。
【0047】
本発明において「アレルの検出」とは、識別を行いたいブタのゲノムDNA(ゲノムDNAを含有する試料を含む)について、上記遺伝子多型を示す多型部位に存在するアレルを判定することを意味する。「アレルを判定する」とは、アレルについて、その塩基配列を直接的に決定することであってもよいし、制限酵素による切断やハイブリダイゼーションの結果に基づいてその塩基配列を間接的に同定することであってもよい。また「アレルを判定する」とは、さらに、目的のゲノムDNAについて多型部位の2つのアレルの一方を検出した結果に基づいて、その多型部位のアレルが検出したアレルであるか否かを判断することであってもよい。これは、あるブタゲノムDNAについて、その多型部位のアレルが特定のブタ品種が有するアレルであるか否かを判定すれば、その特定の品種であるか否かを判断できる場合があるからである。
【0048】
アレルの検出法としては、当業者に公知の様々な方法を任意に選択して用いればよい。例えば、RFLP法、PCR−FLP法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型)法〔Biotechniques, 16,296−297 (1994), Biotechniques, 21, 510−514 (1996)〕、ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246−249 (1991)〕、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta,189, 153−157 (1990)〕、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561−3567 (1991), Nuc. Acids. Res., 20,4831−4837 (1992)〕、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis; DGGE)法〔Biotechniqus, 27, 1016−1018 (1999)〕、RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87−94 (1995)〕、化学切断法〔Biotechniques, 21, 216−218 (1996)〕、DOL(Dye−labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549−556 (1998)〕、TaqMan PCR法〔Genet. Anal., 14, 143−149 (1999), J. Clin. Microbiol., 34, 2933−2936 (1996)〕、インベーダー法〔Science, 5109, 778−783(1993), J. Biol. Chem., 30, 21387−21394 (1999), Nat. Biotechnol., 17, 292−296 (1999)〕、MALDI−TOF/MS(Matrix Assisted Laser Desorption−time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378−388 (1997), Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 35, 545−548 (1997)〕、TDI(Template−directed Dye−terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756−10761 (1997)〕、モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol.,1, p49−53 (1998)、遺伝子医学、4, p46−48(2000)〕、ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele−Specific Hybridization (DASH)法〔Nat. Biotechnol.,1, p87−88, (1999)、遺伝子医学, 4, p47−48 (2000)〕、パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet., 3, p225−232 (1998)、遺伝子医学, 4, p50−51 (2000)〕、UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームページ(http://www.takara.co.jp)参照〕、及びDNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いる方法〔Genomics 4, (1989), Drmanae, R., Labat, I., Brukner, I. and Crkvenjakov, R., p114−128、Bio Industry Vol.17 No.4, 「DNAチップ技術」 p5−11 (2000)〕等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0049】
以下に、本発明において用いるアレルの検出法の例を説明する。
(1) RFLP法及びPCR−FLP法による、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレルの検出
この検出においてはまず、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部についてはMC1R遺伝子の塩基配列(例えば配列番号1〜5)に基づいて、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部についてはKIT遺伝子の塩基配列(例えば配列番号57)に基づいて、目的の遺伝子多型を含む領域を増幅可能なプライマーを設計する。次いで該プライマーを用いてPCR法により該遺伝子多型を含む増幅断片を得て、RFLPおよびPCR−FLP分析を行うことにより、上記遺伝子多型のアレルを検出することができる。なお、プライマーの合成は通常の化学合成により行うことができる。
【0050】
RFLP法又はPCR−FLP法におけるPCR増幅では、目的の遺伝子多型を含む領域を増幅可能であるように設計及び合成したプライマー、DNAポリメラーゼ、及び識別対象とするゲノムDNA(鋳型)を使用する。本発明で用いるDNAポリメラーゼとしては、LA Taq DNAポリメラーゼ(Takara)、Taq DNAポリメラーゼ、AmpliTaq Gold(Perkin Elmer) 、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene社)等が挙げられるが、AmpliTaq Goldポリメラーゼが好ましい。
【0051】
増幅の条件は、90℃〜98℃で5秒〜3分、好ましくは94℃で30秒〜1分の変性工程、40℃〜80℃で5秒〜3分、好ましくは55℃〜66℃で30秒〜1分のアニーリング工程、及び60℃〜74℃で10秒〜15分、好ましくは66℃〜72℃で30秒〜7分の伸長工程を1サイクルとしてこれを25〜50サイクル行う。但し、鋳型DNAおよびプライマーを十分変性させるために、上記増幅サイクルの前に95℃で5〜10分の変性工程を加えてもよく、また、増幅されたDNAを完全に伸長するために、増幅サイクルの後に72℃で5〜10分の伸長工程を加えてもよい。さらに、増幅断片を直ちに次の工程に供さない場合は、非特異的な増幅が起こらないようにするために、増幅断片を4℃で保存する工程を加えることが好ましい。このような増幅条件に従って、目的のDNA断片を増幅することができる。
【0052】
続いて、RFLP法では、増幅断片を特定の酵素によって切断してから電気泳動にかけて、断片のサイズを決定する。またPCR−FLP法では、増幅断片をそのまま電気泳動にかけて、断片のサイズを決定する。例えばアガロースゲル電気泳動では、泳動後のゲルを臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、DNA断片をバンドとして検出することにより、その断片長を決定することができる。電気泳動法としては、アガロースゲル電気泳動の他、ポリアクリルアミドゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動を実施してもよい。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅断片から放出される蛍光を検出することによって、DNA断片のバンドを検出してもよい。
【0053】
以下に、RFLP法又はPCR−FLP法による、各遺伝子多型についてのアレルの検出手順を具体的に説明する。
2塩基挿入/非挿入部については、例えば、配列番号1の塩基番号2026〜2027に位置する遺伝子多型部位を含む81〜83塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を電気泳動することにより、その泳動距離から該断片の長さを算出する。そしてこの断片長から、2塩基挿入/非挿入部のアレル(連続した2塩基の挿入又は非挿入)を判定する。配列番号1の塩基配列に基づいて予想される塩基長よりも算出された断片長が2bp長い場合には、アレルは2塩基挿入であり、その予想される塩基長と算出された断片長とが一致する場合には、アレルは非挿入である。なお、識別すべきゲノムDNAについて、2塩基挿入/非挿入部のアレルが2塩基挿入であると判定されれば白色種又はバークシャー種由来、アレルが非挿入であると判定されればメイシャン種、デュロック種又はハンプシャー種由来と判断できる。
【0054】
なお本明細書において「白色種由来」とは、白色種又は白色種を交配に用いた交雑種を意味する。このような用語「由来」を用いる表現は、他の品種に関するものであっても、同様に解釈される。
【0055】
黒色検出部については、例えば、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて、配列番号1の塩基番号2270の位置に存在する遺伝子多型部位を含む64塩基長の断片を増幅するプライマー対を設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素AciIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基T(配列番号1、3〜5)である場合は制限酵素AciIにより切断されないが、アレルが塩基Cである場合は制限酵素AciIによって切断される。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素AciIにより切断されないことが示される場合には、該ゲノムDNAの黒色検出部のアレルは塩基Tであり、増幅断片が制限酵素AciIにより切断されることが示される場合には、該アレルは塩基Cであると判断される。表2に示される通り、黒色検出部のアレルが塩基Cであると判定されれば、そのゲノムDNAはメイシャン種由来として特定される。一方、この黒色検出部のアレルが塩基Tであると判定されれば、デュロック種、ハンプシャー種、白色種又はバークシャー種由来として特定される。
【0056】
褐色検出部については、例えば、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて、配列番号1の塩基番号2692の位置に存在する多型部位を含む96塩基長の断片を増幅するプライマー対を設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素HhaIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基G(配列番号1、2、4及び5)である場合は制限酵素HhaIにより切断されるが、アレルが塩基Aである場合は制限酵素HhaIによって切断されない。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されたことが示される場合には、該ゲノムDNAの黒色検出部のアレルは塩基Gであり、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されないことが示される場合には、該アレルは塩基Aであると判断される。表2に示される通り、褐色検出部のアレルが塩基Aであると判定されれば、そのゲノムDNAはデュロック種由来として特定される。一方、この褐色検出部のアレルが塩基Gであると判定されれば、メイシャン種、ハンプシャー種、白色種又はバークシャー種由来として特定される。
【0057】
白色検出部については、例えば、配列番号57の塩基番号1313の位置に存在する塩基を含む57塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号57に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素NlaIIIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基Gである場合は制限酵素NlaIIIにより切断されないが、アレルが塩基Aである場合は制限酵素HhaIによって切断される。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されないことが示される場合には、該ゲノムDNAの白色検出部のアレルは塩基Gであり、増幅断片が制限酵素NlaIIIにより切断されることが示される場合には、該アレルは塩基Aであると判断される。なお白色種では、重複した各KIT遺伝子は、白色検出部の多型部位に塩基G、又は塩基Aをそれぞれ有するが、有色種では塩基Gのみを有する。すなわち表3に示される通り、白色検出部のアレルとして塩基Gと塩基Aの両方が検出されれば、そのゲノムDNAは白色種として特定される。一方、この白色検出部のアレルが塩基Gであると判定されれば、有色種であるメイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種又はバークシャー種由来として特定される。
【0058】
4塩基欠失/非欠失部については、例えば、配列番号57の塩基番号3884〜3887の位置に存在する多型部位を含む60〜64塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号57に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を電気泳動することにより、その泳動距離から該断片の長さを算出する。そしてこの断片長から、4塩基欠失/非欠失部のアレル(連続した4塩基の欠失又は非欠失)を判定する。配列番号57の塩基配列に基づいて予想される塩基長と算出された断片長とが一致する場合には、アレルは非欠失であり、その予想される塩基長よりも算出された断片長が4bp短い場合には、アレルは4塩基欠失である。なお上記の白色検出部と同様に、白色種では重複した各KIT遺伝子が、4塩基欠失/非欠失部の多型部位に非欠失、又は4塩基欠失をそれぞれ有することから、白色種における4塩基欠失/非欠失部のアレルとしては、4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。一方、有色種では、4塩基欠失/非欠失部のアレルは非欠失である。すなわち表3に示される通り、4塩基欠失/非欠失部のアレルが4塩基欠失と非欠失との両方であると判定されれば、そのゲノムDNAは白色種由来として特定される。一方、この4塩基欠失/非欠失部のアレルが非欠失のみであると判定されれば、そのゲノムDNAはメイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種又はバークシャー種由来として特定される。
【0059】
ところで、日本におけるブタ肉の生産は、主に三元交雑により、すなわちランドレース種(白色種)のメスに大ヨークシャー種(白色種)のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種(褐色種)のオスを掛け合わせることにより行っている。ブタ肉の生産では、さらに四元交雑により、すなわちランドレース種と大ヨークシャー種とを掛け合わせた子に、デュロック種とハンプシャー種又はバークシャー種とを掛け合わせて得た子を交配して、肉ブタとして用いている。
【0060】
上記の三元交雑又は四元交雑により得られたブタにおいては、KIT遺伝子の白色検出部のアレルとして、白色種と同様に塩基Gと塩基Aの両方が検出され、また4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種と同様に4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。従ってこの方法によって、上記の三元交雑種又は四元交雑種が白色種のもつアレルを有することを判定することもでき、その結果、交雑種の作製に白色種が確かに用いられたことを確認することができる。
【0061】
(2) DNAチップを用いる検出
DNAチップなどのDNAマイクロアレイアッセイとしては、GeneChipTMアッセイが有名である(Affymetrix社;米国特許第6,045,996号、同第5,925,525号、及び同第5,858,659号参照)。しかしながら、本明細書において「DNAチップを用いる検出」とは、Affymetrix社製のDNAマイクロアレイを用いる方法に限定されるものではなく、核酸プローブを支持体に固定した各種の固相担体を用いる方法を包含する。そのため、本明細書において、本発明の検出法の説明のために用いる「DNAチップ」との用語は、核酸プローブを支持体に固定した各種の固相担体を包含するものとして用いる。
【0062】
一般的には、DNAチップを用いる検出法は、支持体(例えばガラス基板)上に、塩基配列が既知の複数種の異なった核酸プローブを固定して、その上で標識したターゲット核酸のハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズした核酸プローブからの標識シグナル(一般的には蛍光シグナル)を特異的に検出する方法である。この検出には、当業者には公知の様々な標識シグナル読み取り法を用いることができるが、蛍光シグナルの検出の場合は通常、1〜20μmの解像度を有する蛍光スキャナで検出する。
【0063】
DNAチップには、大きく分けてcDNA、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド等の一本鎖核酸を支持体に固定するDNAマイクロアレイ(張り付け型)と、オリゴヌクレオチドを支持体表面上で合成していくことにより該オリゴヌクレオチドを固定化するオリゴDNAチップ(合成型)がある。一般的なチップの大きさは1〜10cm2であり、この上に数千〜数十万種の核酸プローブを整列させることができる。一塩基多型を分別検出することを目的とする場合は、核酸プローブとしては、10〜30塩基長、好ましくは15〜25塩基長の長さの一本鎖オリゴDNAを用いることが好ましい。
【0064】
DNAチップを用いて上記遺伝子多型のアレルを検出する場合には、検出すべきアレル毎に、そのアレルを含むポリヌクレオチドを作製し、核酸プローブとして用いる。そのようなポリヌクレオチドとしては、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれを用いてもよい。またセンス鎖とアンチセンス鎖の両方を用いることによって、その検出精度を向上させることができる。一方、ある多型部位に存在する2つのアレルのうち、特に検出すべきアレルがある場合には、検出すべきアレルを含むポリヌクレオチドのみを用いて、もう一方のアレルを含むポリヌクレオチドは用いずに、簡便に検出を行うこともできる。但し、ある多型部位に存在する2つのアレルについて、そのアレルのそれぞれを含むポリヌクレオチドをともに用いることによって、クロスハイブリダイゼーションの影響(ミスマッチプローブにもハイブリダイゼーションシグナルが検出されて判定が困難になること)を最小限に抑え、検出したいアレルに対する検出精度を向上させることができる。
【0065】
5.本発明の固相担体及び固相担体を用いる検出法
本発明は、上記「4.アレルの検出」に好適に用いることができる固相担体にも関する。本発明における「固相担体」とは、上記「2.遺伝子多型とそのアレル」に記載のアレルを含む核酸プローブを支持体に固定したものを意味し、具体的には、DNAマイクロアレイ(cDNAマイクロアレイ等)又はオリゴDNAアレイ等のDNAチップ、プローブ固定化メンブレンフィルター等が挙げられる。本発明において使用できる「支持体」は、核酸プローブを固定化して核酸試料とのハイブリダイゼーションに供しうる固相であれば特に限定されないが、例えばガラス基板、セラミック基板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー、半導体基盤、ガラスや高分子からなる線状体及び樹脂等が挙げられる。
【0066】
本発明の固相担体における核酸プローブとしては、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部のアレルをそれぞれ含む10〜30塩基長のオリゴヌクレオチドと、白色検出部又は4塩基欠失/非欠失部の少なくとも一方のアレルを含む10〜30塩基長のオリゴヌクレオチドとを適宜選択し、組み合わせて用いる。
【0067】
本発明の固相担体においては、各遺伝子多型について、ブタ品種の識別に特に有用な特徴的なアレルを利用することが好ましい。そのような特徴的なアレルとは、主として、あるブタ品種に特有に検出されるアレルである。本発明の固相担体においては、少なくとも、そのような特徴的なアレルを有する核酸プローブを最小限必要な組み合わせで使用することが好ましい。また、そのような核酸プローブを1種類ずつ、最小限必要な組み合わせで使用することにより、最小限の核酸プローブ数でブタ品種を識別することが可能である。具体的には、本発明における上記遺伝子多型における特徴的なアレルとは、表4に示すものである。また、このような特徴的なアレルを用いる場合の、ブタ品種を相互に識別するのに必要な最低限の組み合わせについても表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
本発明の固相担体において使用できる、表4に記載した特徴的なアレルを有する核酸プローブは、以下(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドを用いるものである。本発明の固相担体においては、(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのうち、いずれの組み合わせの核酸プローブを用いても、ブタの品種の識別用に好適に用いることができる。
(a) 2塩基挿入/非挿入部 [アレル: 非挿入]
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号1〜4に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列からなるオリゴヌクレオチド。
(b) 2塩基挿入/非挿入部 [アレル: 2塩基挿入]
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(c) 黒色検出部 [アレル: 塩基C]
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0070】
(d) 褐色検出部 [アレル: 塩基A]
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号3に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(e) 白色検出部 [アレル: 塩基A]
配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(f) 4塩基欠失/非欠失部 [アレル: 4塩基欠失]
配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTが欠失している、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0071】
上記の(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドに加えて、本発明では、各遺伝子多型の他のアレルを含むオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして任意に追加して使用することができる。そのようにして、多型部位に存在する2つのアレルのそれぞれを含むオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして使用することにより、上記の特徴的なアレルとその他のアレルに対するシグナルの差が明確に示されることから、ブタ品種の識別の精度を高めることができる。本発明の固相担体において、核酸プローブとして追加的に使用できるそのようなオリゴヌクレオチドを、以下(g)〜(j)に示す。
【0072】
(g) 黒色検出部 [アレル: 塩基T]
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号1又は3〜5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(h) 褐色検出部 [アレル: 塩基G]
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号1、2、4若しくは5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(i) 白色検出部 [アレル: 塩基G]
配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(j) 4塩基欠失/非欠失部 [アレル: 非欠失]
配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTを含む、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0073】
本発明の固相担体に使用する核酸プローブとしては、上記(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのうちのいずれかの組み合わせのオリゴヌクレオチドを必須とするが、さらに(i)〜(j)のオリゴヌクレオチドから任意のものを選択して用いることができる。好ましくは、本発明の固相担体には、核酸プローブとして(a)〜(j)のオリゴヌクレオチドを少なくとも1種ずつ使用する。
【0074】
上記(a)〜(j)のそれぞれに対するオリゴヌクレオチドは、(a)〜(j)のそれぞれの区分につき少なくとも1種類ずつを選択すればよい。使用するオリゴヌクレオチドは、塩基配列から予想されるアニーリング温度に基づいて、適切な配列長及び塩基配列となるように設計することが好ましい。また、固相担体に固定化するオリゴヌクレオチドの組み合わせの間で、好適なハイブリダイゼーション条件が大きく異ならないように、予想されるアニーリング温度がほぼ同程度になるような塩基配列を設計することが好ましい。塩基配列に基づくアニーリング温度の推定及びそれに基づく核酸プローブの設計の最適化は、当業者に公知の方法を用いて行う。しかしながら、上記(a)〜(j)のそれぞれに対するオリゴヌクレオチドは、(a)〜(j)のそれぞれの区分内から、配列長の異なる複数種類のものを設計して使用してもよいし、センス鎖とアンチセンス鎖をともに設計して使用してもよい。核酸プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの結果は、実験条件によって多少の差異が出ることは避けられないため、各区分について好適なハイブリダイゼーション条件が若干異なる複数のオリゴヌクレオチドを設計して用いることによって、固相担体を用いたブタ品種の識別の精度をさらに高めることができる。
【0075】
本発明において、核酸プローブに特に好適に用いることができるオリゴヌクレオチドは、以下に記載する配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するものである。
【0076】
本発明の核酸プローブには、目的の多型部位以外の多型部位は含まないことが好ましいが、他の多型部位を含む場合には、他の多型部位に存在するアレルのそれぞれをさらに含む核酸プローブを作製して使用する。
【0077】
さらに、本発明において用いる上記核酸プローブは、検出用に好適となるように標識されたものでもよい。例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものであってよい。
【0078】
蛍光色素を用いる場合には、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の定量、検出等に用いられる蛍光が好適に使用でき、例えば、Cy3(1−[6−[(2,5−Dioxo−1−pyrrolidinyl)oxy]−6−oxohexyl]−2−[3−[1−[6−[(2,5−dioxo−1−pyrrolidinyl)oxy−6−oxohexyl]−1,3−dihydro−3,3−dimethyl−5−sulfo−2H−indol−2−ylidene]−1−prppenyl]−3,3−dimethyl−5−sulfo−3H−indolium)、ビオチン(Hexahydro−2−oxo−1H−thieno[3,4−d]imidazol−4−pantanoic acid、vitamin H)、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’−hexachloro−6−carboxyfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(TMR))等を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用できる〔Nature Biotechnology, 14, p303−308 (1996)〕参照」。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製 オリゴヌクレオチドECL 3’ −オリゴラベリングシステム等)。
【0079】
本発明の固相担体の製造においては、核酸プローブは、支持体上で合成することができる。核酸プローブの合成は、例えば固相化学合成法と半導体産業において用いられているフォトリソグラフィー製造技術とを組み合わせた光照射化学合成法(Affymetrix社)に従って行うことができる。この方法では、チップの化学反応部位の境界を明確するためにフォトリソグラフィーマスクを利用し、特定の化学合成工程を行うことによって、アレイの所定の位置にオリゴヌクレオチドプローブが貼り付けられた高密度アレイを構築することができる。
【0080】
また本発明の固相担体の製造においては、核酸プローブは、PCR等の方法により調製してから、支持体上に固定してもよい。この方法では、例えば、予め調製したDNAを高精度分注機で基板にスポットすることによってDNAチップを製造する技術を用いることができる(米国特許第5,807,522号、米国特許第5,716,584号)。スポット方法としては、ピン方式、インクジェット方式、バブルジェット方式、キャピラリー方式等が開発されており、各方式に対応した分注機(スポッター、アレイヤーなどと称される)も、複数の製造業者から販売されている。スポット処理後は、必要に応じてUV照射によるクロスリンク形成、表面のブロッキング、洗浄等の後処理を行う。またスポット方法では、核酸プローブは、表面処理した固相に共有結合で固定化させる。そのため、基板表面は、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等を有する各種シランカップリング剤で処理することが好ましい。一方、核酸プローブには、末端に官能基としてアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチン等を導入する。
【0081】
本発明の固相担体の製造において、支持体への核酸プローブの固定は、上記の方法によるものに限定されず、当業者に公知の任意の方法によって行えばよい。しかしながら、いずれの方法であっても、各核酸プローブはその後のターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの際に特定される必要があるため、その固定位置、塩基配列または部分配列等の情報によって特徴付けられている必要がある。
【0082】
本発明の固相担体を用いる識別法においては、ターゲット核酸として、識別を行うべきゲノムDNAをそのまま用いることもできるが、好ましくは、検出するアレルの存在する多型部位を含む領域をPCR増幅して得られる増幅断片、又は該領域を含むDNA又はRNA断片を調製して用いる。
【0083】
ターゲット核酸の調製のために、検出するアレルの存在する多型部位を含む領域をPCR増幅する場合には、該多型部位を含むように設計したPCRプライマー、又は該多型部位を含む領域を増幅するように設計したPCRプライマーを用いることが好ましい。
【0084】
本発明の固相担体を用いたブタ品種の識別法において、遺伝子多型部位を含むPCRプライマーとしては、上記の(a)〜(f)及び(g)〜(j)に記載したオリゴヌクレオチドのうち、目的のアレルを含むオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0085】
一方、遺伝子多型部位を含む領域を増幅するように設計するPCRプライマーとしては、配列番号1〜5及び57に示す塩基配列に基づいて57〜96塩基長の断片が増幅されるように適宜設計したプライマーを用いればよい。これらのプライマーの設計においては、増幅断片が、完全に相同な配列を有する核酸プローブに特異的にハイブリダイズし、かつ配列上にミスマッチを有する核酸プローブにはハイブリダイズしないようなオリゴヌクレオチドとなるように考慮される。このPCRプライマーとしては、本発明では、好ましくは以下に記載する配列番号36〜45に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを用いる。
【0086】
〔1〕2塩基挿入/非挿入部を含む領域の増幅用
5’− GGAGAGGAGGCTGCTGGCTT −3’ [配列番号36] (20mers:forward Tm69.9)
5’− TGGTTGGTCTGGTTGGCGGC −3’ [配列番号37] (20mers:reverse Tm75.1)
〔2〕黒色検出部を含む領域の増幅用
5’− GTGAGCAACRTGCTGGAGACG −3’ [配列番号38] (21mers:forward Tm70.6)
5’− CCTGGGCGGCCAGGGCGC −3’ [配列番号39] (18mers:reverse Tm80.2)
〔3〕褐色検出部を含む領域の増幅用
5’− CTCCACAAGACGCAGCACCC −3’ [配列番号40] (20mers:forward Tm70.4)
5’− TGCCCAGCAGAGGAGGAAGA −3’ [配列番号41] (20mers:reverse Tm69.7)
〔4〕白色検出部を含む領域の増幅用
5’− TGATTCTAATTACGTGGTCAAAGGAA −3’ [配列番号42] (26mers:forward Tm68.1)
5’− GGGACTGTCAGGAGAGCGTGG −3’ [配列番号43] (21mers:reverse Tm70.9)
〔5〕4塩基欠失/非欠失部を含む領域の増幅用
5’− CACCTTGCCAAAGGCACCTC −3’ [配列番号44] (20mers:forward Tm69.5)
5’− CAGGACAATGGGAACATCTTAAAGAA −3’ [配列番号45] (26mers:reverse Tm69.6)
【0087】
本発明における上記PCRプライマーとしては、上記のオリゴヌクレオチドを検出用に標識したものを用いてもよい。例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されている上記オリゴヌクレオチドであってもよい。なお、PCRプライマーの標識用に用いることができる蛍光色素は、上記で核酸プローブについて記載したものと同じである。
【0088】
また本発明のPCRプライマーには、その末端にアレル検出のためのリンカー配列が付加されたものも含む。このようなリンカー配列としては、例えば、インベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
【0089】
なお、本明細書中における「核酸」は、ポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドを包含するものとする。また「ポリヌクレオチド」「オリゴヌクレオチド」はDNA及びRNAの両方を含むものとする。また「ポリヌクレオチド」は2本鎖であっても1本鎖であってもよく、したがって、ある配列を有するポリヌクレオチドには、これに相補的な配列を有するポリヌクレオチドも常に包含される。さらに、ポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表に示される塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする。さらに、本発明の「ポリヌクレオチド」「オリゴヌクレオチド」は、ハイブリダイゼーションにより形成される二本鎖の安定性が増すように設計された各種の修飾塩基(例えばホスホロチオ酸誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチド等)を含有するように改変又は合成したものでもよい。
【0090】
本発明の固相担体を用いた識別法においては、配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットをガラス基板に固定したDNAチップが、特に好適に用いられる。
【0091】
本発明の固相担体を用いた識別法では、まず固相担体と、目的の多型部位を含むターゲット核酸とを高ストリンジェンシー条件下で特異的にハイブリダイズさせ、そのターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出することによって、ハイブリダイズした核酸プローブを同定する。このハイブリダイゼーションの検出には、本発明では当業者に公知の様々な技術を用いることができる。例えば、ハイブリダイゼーションの検出は、ハイブリダイズしている核酸プローブの有する標識、又はハイブリダイズしているターゲット核酸の有する標識からのシグナル(例えば蛍光)を検出することによって行うことができる。ターゲット核酸と核酸プローブとの配列が完全に一致しているハイブリダイゼーションの場合、検出されるシグナルの強度は強い。一方、ターゲット核酸と核酸プローブとの間で配列のミスマッチが存在するハイブリダイゼーションの場合、検出されるシグナルの強度はごく弱いか又は検出されない。
【0092】
ターゲット核酸と核酸プローブとの間のハイブリダイゼーションを検出する具体的手順としては、例えば、PCRプライマーを蛍光標識しておき、そのプライマーを用いて増幅することにより増幅産物(ターゲット核酸)を蛍光標識し、該ターゲット核酸を固相担体上の核酸プローブとハイブリダイズさせ、さらに該ターゲット核酸からのシグナルを蛍光読み取りスキャナーで読み取ることによって、ターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する例が挙げられる。
【0093】
ここで、ある遺伝子多型部位のアレルのそれぞれを含む核酸プローブを固定した固相担体を使用して、ターゲット核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズさせると、ターゲット核酸の配列と一致するアレルを有する核酸プローブについては、他のアレルを含みミスマッチのある核酸プローブよりも非常に強いシグナルが検出される。この検出結果から、強いシグナルが検出される核酸プローブに含まれるアレルが、ターゲット核酸のアレルであると判定することができる。
【0094】
また、ある複数のアレルを有する遺伝子多型について、いずれかのアレルを含む核酸プローブのみを固定した固相担体を使用してターゲット核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズさせると、ターゲット核酸のアレルがその核酸プローブと一致する場合には、強いシグナルが検出される。一方、ターゲット核酸とその核酸プローブとの間でアレルが異なり、配列間にミスマッチがある場合には、弱い標識シグナルしか検出されないか又は標識シグナルが全く検出されない。従って、この場合に、強いシグナルが検出された場合には、ターゲット核酸はその特定のアレルを有しているものと判定できる。もし弱い標識シグナルしか検出されないか又は標識シグナルが全く検出されない場合には、ターゲット核酸はその特定のアレルを有しないものと判定される。
【0095】
核酸プローブは固相担体における位置、塩基配列情報等で特徴付けされているため、ターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションがシグナル等を用いて検出されれば、そのターゲット核酸の有するアレルが何であるかは容易に判定することができる。
【0096】
6.検出結果の解析
本発明においては、上記のようにして検出されるブタゲノムDNAの上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを、各ブタ品種が有する組み合わせと比較することによって、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0097】
下の表5には、各ブタ品種が有する上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを示す。表5において、”+”は、当該品種においてそのアレルが検出されることを意味する。
【0098】
【表5】
【0099】
本発明のブタの品種の識別法においては、あるゲノムDNAの上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを表5と比較し、アレルの組み合わせが一致する品種を同定することにより、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0100】
例えば、あるブタ個体が有するゲノムDNAについて、2塩基挿入/非挿入部のアレルが非挿入、黒色検出部のアレルが塩基T、褐色検出部のアレルが塩基G、4塩基欠失/非欠失部のアレルが非欠失であると判定された場合には、表5を参照すると、そのゲノムDNAを有するブタの品種は、ハンプシャー種であると判断できる。
【0101】
また、本発明の識別法において、表4に示した特徴的なアレルを含む核酸プローブのみを使用したDNAチップによる検出法を用いてアレルを検出する場合には、その検出法により検出された特徴的なアレルを表4又は5と比較し、その組み合わせが一致する品種を特定することにより、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0102】
この場合の例としては、例えば、あるブタ個体に由来するゲノムDNAについて、特徴的なアレルとして、2塩基挿入/非挿入部に対する「非挿入」及び「2塩基挿入」、黒色検出部に対する「塩基C」、褐色検出部に対する「塩基A」、並びに白色検出部に対する「塩基A」のアレルをそれぞれ含む核酸プローブのみを使用したDNAチップを用いてアレルを検出した結果、2塩基挿入/非挿入部については「2塩基挿入」のアレルが検出されたが、黒色検出部については「塩基C」のアレルが検出されず、褐色検出部については「塩基A」のアレルが検出されず、さらに白色検出部については「塩基A」のアレルが検出されない場合、検出されたアレルは2塩基挿入/非挿入部の「2塩基挿入」のみなので、表4より、そのゲノムDNAはバークシャー種由来であると判断することができる。
【0103】
さらに、ゲノムDNAが由来するブタ個体が、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種のうちの2種以上を用いた交雑種である場合にも、そのゲノムDNAのアレルの組み合わせを表4又は表5と比較することにより、交雑種であることの判断及びその交雑に関与した品種の推定を行うことができる。
【0104】
具体的には、ブタ1個体から得たゲノムDNAについて、そのアレルの組み合わせが表5に示した品種のいずれにも当てはまらない場合には、そのゲノムDNAを有するブタは、これらの品種の2つ以上を交配した交雑種である可能性がある。
【0105】
例えば、三元交雑種、すなわちランドレース種(白色)のメスに大ヨークシャー種(白色)のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種(褐色)のオスを掛け合わせたブタのゲノムDNAを、本発明の識別法に供すると、そのアレルは、2塩基挿入/非挿入部について2塩基挿入と非挿入との両方、黒色検出部について塩基T、褐色検出部について塩基Aと塩基Gの両方、白色検出部について塩基Aと塩基Gの両方、及び4塩基欠失/非欠失部について4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。このアレルの組み合わせは、表5を参照すると、白色種とデュロック種に特徴的なアレルの組み合わせを含むことが分かる。従って、このゲノムDNAを有するブタは、少なくとも白色種とデュロック種とを交配に用いた交雑種として識別することができる。このように、本発明の方法による識別結果は、上記三元交雑ブタにおける交配パターンを正しく反映する。
【0106】
但し、ゲノムDNAが複数のブタ個体よりなる集団からまとめて得た試料である場合に、本発明の識別法においてブタの品種が2種以上特定されたときは、それらのブタ品種の交雑種が含まれる可能性の他、それらのブタ品種が集団中に別個に含まれる可能性もある。
以上説明した通り、識別したいブタのゲノムDNAについて検出した上記アレルの組み合わせに基づいて、ゲノムDNAが有するブタの品種を特定することができる。
【0107】
7.その他の実施形態
本発明は、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、上記「5.本発明の固相担体及び固相担体を用いる検出法」に記載されている(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0108】
さらに本発明は、同項目5.に記載されている(g)〜(j)からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物をさらに含むそのようなセットであって、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、オリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0109】
さらに本発明は、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0110】
なお、本明細書において、「オリゴヌクレオチド又はその標識物のセット」とは、目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(又はその標識物)がそれぞれ含まれるように構成された、オリゴヌクレオチド又はその標識物の集合体を意味する。
【0111】
本発明はまた、RFLP法及びPCR−FLP法を用いる本発明の識別法において好適に用いることができる、以下の(1)〜(5)の試薬を含むキットにも関する。
(1) 配列番号6及び7に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー(2塩基挿入/非挿入部検出用)
(2) 配列番号8及び9に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素AciI(黒色検出部検出用)
(3) 配列番号10及び11に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素HhaI(褐色検出部検出用)
【0112】
(4) 配列番号12及び13に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素NlaIII(白色検出部検出用)
(5) 配列番号14及び15に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー(4塩基欠失/非欠失部検出用)。
但し、(4)及び(5)の試薬は、少なくとも一方が含まれていればよい。もちろん(4)と(5)の両方が含まれていてもよい。
【0113】
さらに本発明は、上記の固相担体、及び/又は配列番号36〜45に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーのセット(ターゲット核酸を得るためのPCRプライマーのセット)を含む、試薬及びキットにも関する。この試薬やキットは、固相担体を用いる本発明の識別法において、好適に用いることができる。
【0114】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これら実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0115】
〔実施例1〕ブタゲノムDNAの調製
各ブタ品種{大ヨークシャー41頭、ランドレース86頭、デュロック33頭、メイシャン39頭、バークシャー114頭、(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー28頭}の血餅、血液及び肉片を農林水産省畜産試験場(茨城県)、沖縄県畜産試験場(沖縄県)、鹿児島県畜産試験場(鹿児島県)、神奈川県畜産試験場(神奈川県)、石川県畜産試験場(石川県)、岡山県畜産試験場(岡山県)、三井物産株式会社(東京都)から入手し、ゲノムDNAを得た。また、群馬県の山中で、狩猟により採取された日本イノシシの耳介の肉片を入手し、ゲノムDNAを得た。
【0116】
血餅からのゲノムDNA抽出の場合、血餅約4〜5mlに対し、350μlのCell lysisNP−40 バッファー (NaCl 140mM, MgCl2 1.5mM, Tris−HCl pH8.5 100mM, 0.5% NP−40)、4.5mlの細胞溶解 SDSバッファー(EDTA 12mM, NaCl 120mM, SDS 1.2%)、50μlのプロテイナーゼK 溶液 (10mg/ml)を加え、撹拌した後、55℃で一晩反応させた。次に70℃で10分間熱を加えることによりプロテイナーゼ Kを失活させた後、20μlのRnase 溶液(10mg/ml)を加え、2時間放置しRNAを消化した。その後、同量のフェノール液で2回抽出し、さらにフェノール・クロロホルムで1回抽出した。水層を分離し、2容のエタノールと1/10容の3M 酢酸ナトリウムを加え、析出したDNAをガラス棒でとり、70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0117】
血液からのゲノムDNA抽出の場合、抗凝固剤としてEDTA−2Na(血液1mlに対し、EDTA−2Naを1.5mg使用)または、ヘパリンナトリウム(血液10mlに対し、ヘパリンナトリウム90単位)を用い、タカラ酒造製のDNA抽出キット、GenとるくんTM(血液用)を用い、説明書に従ってDNAを抽出した。すなわち、血液2mlに対して、10mlのGenTLE 溶液Iを加え、直ちに数秒間撹拌し、室温で10分間静置後、遠心分離を室温で12,000×g、5分間行った。上清を除いた後、沈澱物に12mlのGenTLE 溶液IIを加え、転倒混和した後、室温において12,000×g、2分間遠心分離を行った。上清を除いた後、沈澱物に7mlのGenTLE 溶液nIIIを加え、10秒間撹拌を行った。室温において12,000×g、5分間遠心分離を行った後、上清を新しいチューブに移し、等量のイソプロパノールを加え、転倒混和を充分行った。この時、DNAの白い沈殿が確認できるが、それを12,000×g、5分間遠心分離により回収後、70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0118】
肉片からのゲノムDNA抽出の場合、STRATAGENE社のDNA抽出キット(DNA Extraction Kit; ♯200600)を用い、説明書の手順を改変した方法によりDNAを抽出した。方法の概略を次に示す。肉片約300mgをハサミで細分化し(1〜2mm角程度)、2mlのマイクロチューブ内に入れ、Solution 2を737μl加え、よく混ぜ合わせた後、pronase(225mg/ml)を2.7μl加え、転倒撹拌しながら37℃で一晩放置した。次に氷上で10分間おいた後、Solution3を263μl加え、5分間氷上に静置した。2,000×gで15分間遠心後、上清を新しい2mlのマイクロチューブに移し、RNase(10mg/ml)を2μl加え37℃で15分間静置した。その後、1容のイソプロパノールを加え、析出したDNAをチップの先で回収した。これを70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0119】
〔実施例2〕PCR法によるブタBACライブラリーのスクリーニング:メラニン細胞刺激ホルモンレセプター(MC1R)遺伝子について
プライマーとしてMR011(forward;配列番号46)とMR012(reverse;配列番号47)を使用した。ここでforwardはフォワードプライマーを、reverseはリバースプライマーを表す。なおマウスのMC1R遺伝子の配列(accession number;X65635)の塩基番号によると、MR011の5’側の最初の塩基は194番の塩基に相当し、MRO12の5’側の最初の塩基は598番の塩基に相当する。このプライマーを用いたPCRによってブタMC1R遺伝子の405bpの増幅産物が得られる。ブタBAC(Bacterial artificial chromosome)ライブラリーとしては農林水産先端技術研究所(STAFF研:茨城県つくば市)の所有する10万クローンを用い、MC1R遺伝子の存在するクローンを検索した。その結果、番号(13F12)のクローンを抽出した。
【0120】
〔実施例3〕ブタBACクローンからのDNA抽出
MC1R遺伝子を含んだブタBACクローン(番号13F12)から、BAC−DNAを抽出した。BAC−DNAの抽出にはQIAGEN社のPlasmid Midi Kitsを用いた。方法の概略を以下に示す。
【0121】
BACクローンをクロラムフェニコール(Cm+:12μg/ml)としたTerrific Broth(TB)培養液2mlに入れ、試験管で1晩増殖させる。次に100mlのTB(Cm+)にBACクローン培養液を入れ、さらに1晩震盪させる。
【0122】
増殖後、培養液を500mlのチューブに入れ、4℃、6,000rpmで20分間遠心する。上清を捨て、Plasmid Midi KitsのP1 bufferを15ml加え、震盪器にかけて、菌体を完全に懸濁させる。これにP2 bufferを15ml加え、3回反転させて撹拌し、室温で5分間静置する。その後、氷冷したP3 buffer 15mlを加え、ゆっくり3回反転させて、撹拌した後、氷中で15分間冷却する。氷冷後、4℃、8,000rpmで30分間遠心する。Plasmid Midi KitsのQIAGEN−tip 100(カラム)を事前にQBT buffer4mlを滴下した後で、そのカラムにろ過したBACクローンの上清を滴下する。カラムはQC buffer、10mlで2回洗浄し、65度で温めておいたQF buffer、5mlをカラムに通すことで、DNAを抽出する。この抽出液に等量のイソプロパノールを加え、4℃で30分間静置した後、4℃、10,000rpmで30分間遠心し、DNAを沈殿させた後、上清を捨て、70%エタノールで洗浄した後、乾燥させ、150ulのTE(10mM Tris−HCl
pH8.0, 1mM EDTA)に溶かして試料とした。
【0123】
〔実施例4〕ダイレクトシークエンシングによるMC1R遺伝子とその構造領域上流の塩基配列決定
上記の方法で抽出、精製したBAC−DNAの塩基配列を、ダイレクトシークエンシング法により決定した。Applied Biosystems製のDNAシークエンサー(ABI PRISM377 DNA SEQUENCER)とDNAシークエンシング用試薬(BigDye Terminator CycleSequencing FS Ready Reaction Kit)を用いた。プライマー MR012からMC1R遺伝子の制御領域に向い、塩基配列の決定のためにプライマーウォーキングを行った。この方法はまずプライマーを用い、ダイレクトシークエンシングで塩基配列を決定した後、その決定した配列の先の部分にプライマーを作製し、次のダイレクトシークエンシングで更に先まで塩基配列を順次決定していく方法である。方法の概略を以下に示す。
【0124】
上記に抽出したBAC−DNA 5μlを鋳型として、8μl Terminator Ready ReactionMix 、各3.2pmolプライマー(MR012)に蒸留水を加え20μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性96℃10秒、アニーリング50℃5秒、伸長反応60℃4分を1サイクルとし、これを25回行った。エタノール沈殿のため、20μlの反応液に対し50μlの100%エタノールと2μlの3M酢酸ナトリウムを加え、氷上で10分間静置した後、4℃で14,000rpm、20分間遠心した。沈殿を分離し、70%のエタノールを加え洗浄した後、遠心乾燥器で乾燥した。
【0125】
乾燥した反応物に対し、4μlのローディング溶液(脱イオンホルムアミド:ブルーデキストラン溶液=5:1、ブルーデキストラン溶液は25mM EDTAにブルーデキストラン(50mg/ml)を溶かして作る)を加え、DNAをよく溶かした後、90℃で2分間加熱し、加熱後すぐにサンプルを氷上に置き急冷した。
【0126】
DNAシークエンシングは、48cmのゲル板(377,48cmガラスプレート;PERKIN ELMER社製)と、アクリルアミドゲルはバイオメイト製のDNAシーケンス分析用ゲル調整液(Pageset Series)を用いた。室温下で2時間以上静置し、アクリルアミドを完全にゲル化した後、シークエンシングを行った。シークエンシングはABI PRISM 377 DNA SEQUENCER(Applied Biosystems製)を用い、8時間の電気泳動を行った。塩基配列の解析には、377シークエンサーに付属のソフトウエア(ABI Prism 377 Analysis)及びソフトウエア開発株式会社製のGENETYX−MAC Version 8を用いた。
【0127】
プライマーMR012で配列を確定した後、さらに構造領域上流にかけて配列を決定しながらプライマーを6個作製し、MC1R遺伝子の翻訳開始点から1968bpまでの塩基配列を決定した。さらに、その到達点から配列確定用のforwardプライマーを3つ合成した。合成したプライマーは以下の通りである。
【0128】
MR016(+50番、reverse):配列番号48
MR017(−79番、reverse):配列番号49
MR018(−271番、reverse):配列番号50
MR019(−815番、reverse):配列番号51
MR020(−1322番、reverse):配列番号52
MR026(−1968番、forward):配列番号53
MR027(−1069番、reverse):配列番号54
MR028(−1217番、forward):配列番号55
MR029(−1912番、forward):配列番号56
【0129】
カッコ内の番号は、塩基配列の確定後、MC1R遺伝子の翻訳開始コドンの最初の塩基を+1番とした場合における、各プライマーの5’端の塩基がハイブリダイズする位置の番号である。
【0130】
MC1R構造遺伝子部分については、MR011(forward;配列番号47)を用い、ブタBACクローン(番号13F12)のシークエンスを行った。配列番号1のサンプルにおいて塩基番号2,739番目の塩基まで1方向で配列を決定し、塩基番号2,739番目の塩基を5’端とするリバースプライマー264(DuR:配列番号10)を作製し、シークエンシングにより配列を確定した。
【0131】
〔実施例5〕LA−PCRによる各ブタ品種のMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列決定(1) LA−PCR
LA−PCRのためのTaqポリメラーゼは宝酒造製のTaKaRa LA TaqTMを用いた。DNA250ngを鋳型として、400μM dNTPs、1μM プライマー(Kit16N,Kit19C)、1×PCR バッファーIに、2.5ユニットのTaKaRa LA TaqTMを加え、50μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性98℃秒、アニーリングと伸長反応68℃7分を1サイクルとしたシャトルPCRで、これを35サイクル行った。
(2) アガロースゲル電気泳動によるPCR産物の確認
上記のLA−PCRによって得られた産物について電気泳動を行った。電気泳動装置としては、コスモ・バイオ製のミューピッドを用いた。ゲルトレーに泳動ゲル(組成は1%アガロース;GIBCO BRL製、ultra PURE Agarose、1×TAE(Tris−acetate−EDTA)緩衝液)を作製し、PCRの終了したサンプルを5μl添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色した。その後紫外線(260nm)をあて、増幅したDNAのバンドを確認した。
(3) DNA断片の精製
上記の方法でDNAの増幅が確認できた段階で、PCR産物をアガロースゲルから抽出、精製した。大きめのウェル(50μlが入る程度)を作ることができるコームを用い、ゲルトレーに泳動ゲル(組成は1%アガロース;GIBCO BRL製、ultra PURE アガロース、1×TAE(Tris−acetate−EDTA)緩衝液)を作製し、PCRによって増幅したDNAを全量添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色し、紫外線(260nm)をあてることにより蛍光発色したDNAバンドをカッターナイフの刃で切り取り、ゲル抽出キット(キアゲン製、QIAquick Gel Extraction Kit)を用い抽出、精製した。方法の概略を以下に示す。
【0132】
増幅したDNAを含むアガロースゲル断片の重さを計り、ゲル1容に対し3容のQG バッファーを加え50℃で10分間加温することにより、ゲルの断片を完全に溶かした。この溶液に、ゲル1容に対しイソプロパノール1容を加えた。以下の手順は室温で行った。スピンカラム(DNAトラップ用のメンブレンがある)を2mlのコレクションチューブ上においた後、スピンカラムに上記のサンプル溶液を添加した。13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブにたまった液を除いた。
【0133】
この操作をサンプル溶液がなくなるまで繰り返した。次にスピンカラムに0.5mlのQGバッファーを加え、13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブに溜まった液を除いた。次にスピンカラムに0.75mlのPE バッファーを加え、5分間静置後、13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブにたまった液を除いた。 再度、遠心によりスピンカラムからPE バッファーを完全に除いた後、スピンカラムを1.5mlのマイクロチューブにおき、50μlのEBバッファーを加え、1分間静置後、13,000rpmで1分間遠心し、溶出したDNA溶液を回収した。
【0134】
(4) ダイレクトシークエンシング及びTAクローニングによるMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列決定
実施例1に記述した方法と同様にしてMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列を決定した。その結果、アガロースゲルでの増幅DNA断片の確認では、約2.5Kbpであることが分かった。
【0135】
ダイレクトシークエンシングの結果、個体内で変異が存在した場合と、PRE1配列でアデニン(A)の繰り返しのため、ダイレクトシークエンシングで配列が確定できなかった場合には、各配列の確定のためTAクローニングを行った。TAクローニングにはInvitrogen製のTOPO TA Cloning Kitを用いた。以下に方法の概略を示す。
【0136】
(1)により得られたPCR産物1μl(10ng/μl)に1μl のPCR−TOPO ベクターを加え、3μlの滅菌水で計5μlとし、室温で5分間放置することにより、PCR産物のベクターへのライゲーションを行った。One Shot cell(コンピテントセル)のバイアルを氷上に置き、コンピテントセルを解凍した後、2μlの0.5M β−メルカプトエタノールを加え、ピペットで緩やかに混ぜ合わせた。このコンピテントセルに上記のライゲーションを行ったベクターを2μl加え、氷上で30分間放置後、42℃で30秒間ヒートショックを行った。250μlのSOC 培地を加え、37℃で30分間培養した後、LB寒天培地(LB plate; 50μg/mlアンピシリン、1.6mg/プレート X−gal、1mg/プレート IPTGを含む)に広げ、37℃でオーバーナイトのインキュベーションを行った。
【0137】
インサートの入っている白色のコロニーを、2mlのLB 培地(Luria−Bertani 培地、50μg/mlアンピシリン)にピックアップし、オーバーナイトで培養した後、プラスミド抽出キット(GFXTM Micro Plasmid Prep Kit; amersham pharmacia biotech製)を用い、プラスミドを抽出した。以下に方法の概略を示す。
【0138】
培養した大腸菌を2mlのマイクロチューブに入れ、室温で13,000rpm、30秒間遠心することにより集菌した。上清を捨て、大腸菌のぺレットに溶液Iを300μl加え、ボルテックスで完全にぺレットをとかした。次に溶液IIを300μl加え、マイクロチューブを10〜15回転させた後、溶液IIIを600μl加え、マイクロチューブを10〜20回転させた。室温で13,000rpm、5分間遠心し、コレクションチューブ上においたGFXカラムに上清を移し、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心した。コレクションチューブに溜まった液を捨て、残りの上清をGFXカラムに移し、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心した。400μlの洗浄バッファーをカラムに入れ、室温で13,000rpm、1分間遠心した後、GFXカラムを1.5mlのマイクロチューブに移した。プラスミドを溶出させるため、50μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)をGFXカラムに入れ、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心し、プラスミド溶液を回収した。
【0139】
各ブタ個体(バークシャー種、ハンプシャー種、デュロック種、大ヨークシャー種、ランドレース種、ピエトレン種、メイシャン種、日本イノシシ)について、各3〜12サンプルずつプラスミドを抽出した。PRE1配列のアデニン(A)の並びを明らかにすることができるプライマーを用いて、すなわち、プライマーMR027とプライマーMR028を用いてアデニン(A)の数を確定した。得られたDNAについてダイレクトシークエンシングを行い、全ての塩基配列を決定した。
【0140】
(5)ダイレクトシークエンシングにより決定したMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列
MC1R遺伝子の塩基配列を決定した結果、配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAを得た。日本イノシシ1頭を調べた結果、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAを得た。メイシャン種1頭を調べた結果、配列番号2に示す塩基配列を有するDNAを得た。デュロック種1頭を調べた結果、配列番号3に示す塩基配列を有するDNAを得た。ハンプシャー種1頭を調べた結果、配列番号4に示す塩基配列を有するDNAを得た。大ヨークシャー種、ランドレース種、バークシャー種及びピエトレン種各1頭を調べた結果、配列番号5に示す塩基配列を有するDNAを得た。
【0141】
配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAをソフトウエアGENETYX−MAC Version 8のマルチアライメント機能を用い、塩基配列の比較を行った。塩基の変異部位を図1に示す。この表は、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAを基準とし、同じ塩基については(−)で、また、異なった塩基についてはその塩基の記号(A,G,C,Tのいずれか)を記した。欠失の場合は(*)で記した。ここで、1番目の塩基は、MC1R遺伝子の翻訳開始コドンの最初の塩基を+1番とした場合における、−1968番目の塩基である。
【0142】
(6)図1に示される遺伝的変異
配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAについて塩基配列の比較を行った。結果、塩基置換の類似性が観察された。例えば配列番号1〜2に示す塩基配列を有するDNAの塩基置換のパターンはよく似ていた(全体で70箇所の変異のうち、39箇所が同じ塩基)。これらの配列を有するブタ品種は日本イノシシ、メイシャン種等の東洋を起源とするものであるため、これらの配列は東洋起源と推察される。
【0143】
配列番号3〜5に示す塩基配列を有するDNAの塩基置換のパターンはよく似ていた(全体で70箇所の変異のうち、63箇所が同じ塩基)。これらの配列を有するブタ品種は大ヨークシャー種、ランドレース種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ピエトレン種といった西洋を起源とするものであるため、これらの配列は西洋起源と推察される。
【0144】
〔実施例6〕RFLP及びPCR−FLP分析によるMC1R遺伝子の2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部の多型検出
配列番号1〜5に示す塩基配列について、図1に示す+62と+63番目の連続するギャップ(塩基配列CCの挿入/非挿入)をPCR−FLP法で、+307番目の多型 [黒色検出部]と+729番目の多型をRFLP法で調べた。本明細書では、この+62と+63番目の連続するギャップ(挿入/非挿入)を、2塩基挿入/非挿入部と名付けた。また+307番目の多型を黒色検出部、+729番目の多型を褐色検出部と名付けた。
【0145】
この検出では、まずPCR法により多型を含む部分について増幅を行い、2塩基挿入/非挿入部についてはそのまま電気泳動にかけ、また黒色検出部及び褐色検出部については、制限酵素でDNAを切断し、電気泳動によりDNA断片を確認した。
【0146】
(1) PCR増幅及び電気泳動
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER製のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型として、200μM dNTPs、1μM フォワードプライマー及び1μM リバースプライマー、1×PCR バッファー、20ng BSAに、2.5ユニットのAmpliTaq Goldを加え、50μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリングと伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング67.5℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを40回行った。
【0147】
フォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、次のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
a) 2塩基挿入/非挿入部:
プライマー161(MR031: 5’− GGA GAG GAG GCT GCT GGC TT −3’ [配列番号12]) (forward Tm69.9)
プライマー160(MR030: 5’− TGG TTG GTC TGG TTG GCG GC −3’ [配列番号13])(reverse Tm75.1)
b) 黒色検出部:
プライマー261(MeiF: 5’− GTG AGC AAC RTG CTG GAG ACG −3’ [配列番号6])(forward Tm70.6, Rはaとgで縮重)
プライマー282(MrC6: 5’− CCT GGG CGG CCA GGG CGC −3’ [配列番号7])(reverse Tm80.2)
c) 褐色検出部:
プライマー263(DuF: 5’− CTC CAC AAG ACG CAG CAC CC −3’ [配列番号8])(forward Tm70.4)
プライマー264(DuR: 5’− TGC CCA GCA GAG GAG GAA GA −3’ [配列番号9])(reverse Tm69.7)
【0148】
以上のPCR条件に基づき、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、ランドレース種、バークシャー種、三元交雑ブタ(ランドレース種のメスに大ヨークシャー種のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種のオスを掛け合わせたブタ)のブタ個体から得たゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて増幅し、PCR産物を調製した。
2塩基挿入/非挿入部に対するPCR産物については、そのまま次のポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0149】
黒色検出部と褐色検出部に対するPCR産物については、次いでまず実施例5に記述したのと同様の方法で、アガロースゲル電気泳動に供して確認を行った。この確認によって示されたPCR産物のサイズは、それぞれ、塩基配列から推定される64bp及び96bpと一致していた。続いて、PCR増幅済みの反応液10μlに対し、制限酵素0.5μl、制限酵素に添付されている10×バッファーを2μl加え、滅菌水で20μlとして、37℃でインキュベートすることにより制限酵素処理を行った。制限酵素は、黒色検出部に対してはAciI(MBI Fermentas製)、褐色検出部に対してはHhaI(ニッポンジーン製)を用いた。制限酵素と4時間以上反応させることにより充分に切断したこれらの断片を、続いてポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0150】
続くポリアクリルアミドゲル電気泳動は、以下の通り行った。泳動装置は日本エイドー製の恒温式2連スラブ電気泳動槽(NA−1113型)を用いた。10%のポリアクリルアミドゲルプレート(組成は10%アクリルアミド;アクリルアミド:ビスアクリルアミド=19:1、1×TBE(Tris−ホウ酸−EDTA)緩衝液)を作製し、PCR増幅産物および制限酵素処理したサンプルを10μl添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色した。その後紫外線(260nm)をあて、DNAのバンドを確認した。得られた電気泳動結果を、図2に示す。
【0151】
なお、図2中の略語の説明は以下の通りである。
m: 分子量マーカー(25bpラダーマーカー)
M: メイシャン種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
D: デュロック種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
B: バークシャー種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
H: ハンプシャー種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
L: ランドレース種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
T: 三元交雑ブタのゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
HDはヘテロ鎖(Hetero−duplex form)である。
【0152】
(2) 多型検出
a) 2塩基挿入/非挿入部
2塩基挿入/非挿入部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図2aに示した。
図2aに示す通り、2塩基挿入/非挿入部に対する上記のPCR産物は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。バークシャー種及びランドレース種においては、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種と比較して長い断片長のPCR産物が示された。三元交雑ブタにおいては、両方の長さのPCR産物が示された。
【0153】
一方、配列番号2〜5の塩基配列からは、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種において81bpのPCR産物が、また白色種及びバークシャー種においては83bpのPCR産物が増幅されると推定される。図2aの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2aでは、2塩基挿入/非挿入部のアレルが非挿入であるメイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種において81bpのPCR産物が示され、また2塩基挿入/非挿入部のアレルが2塩基(CC)挿入であるランドレース種及びバークシャー種において、83bpのPCR産物が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいては、81bpと83bpの両方のPCR産物が示された。なお三元交雑ブタのレーンにみられる最もサイズの大きいバンドは、83bpと81bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。
【0154】
従って、PCR−FLP法による検出を行うことにより、2塩基挿入/非挿入部のアレルとして、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種における非挿入を、白色種及びバークシャー種における2塩基挿入を、検出できることが示された。また三元交雑種においては、2塩基挿入/非挿入部のアレルとして、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種で検出される非挿入と、白色種及びバークシャー種で検出される2塩基挿入との両方を検出できることが示された。
【0155】
b) 黒色検出部
PCR産物をAciI処理したサンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図2bに示した。
図2bに示す通り、黒色検出部に対する上記PCR産物のAciI切断断片は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。メイシャン種においては、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ランドレース種及び三元交雑ブタにはみとめられない、かなり短い断片長のPCR産物が示された。
【0156】
一方、AciI処理した上記64bpの断片は、メイシャン種では黒色検出部の配列が塩基置換によってAciI部位となるため30bp、13bp、12bp、9bpの4つのDNA断片となり、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種では43bp、12bp、9bpの3つのDNA断片となることが、塩基配列から推定される。図2bの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2bでは、黒色検出部のアレルとして塩基Cを有するメイシャン種においては30bpの断片が、黒色検出部のアレルとして塩基Tを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては43bpの断片が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、43bpの断片が示された。
【0157】
したがって、RFLP法による検出を行うことにより、黒色検出部のアレルとして、メイシャン種における塩基Cを、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種において塩基Tを検出できることが示された。また三元交雑ブタにおいても、デュロック種及び白色種で検出される塩基Tを検出できることが示された。
【0158】
c) 褐色検出部
確認のためのアガロースゲル電気泳動によって示された、褐色検出部に対するPCR産物のサイズは、塩基配列から推定される96bpと一致していた。
また、該PCR産物をHhaI処理したサンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図2cに示した。
【0159】
図2cに示す通り、褐色検出部に対する上記PCR産物のHhaI切断断片は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては、デュロック種にはみとめられない、かなり短い断片長のPCR産物が示された。三元交雑ブタでは、両方の長さのPCR産物が示された。
【0160】
一方、HhaI処理した上記96bpの断片は、メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種では褐色検出部の配列がHhaIにより切断されるため、48bpの2つのDNA断片となることが推定される(実際には、HhaIの切断により2塩基の付着端が生じるため、DNA鎖の端末から数えると47bpと49bpの断片となるが、電気泳動では単鎖となった付着端部分が相殺されるため、見かけ上48bpの2つのDNA断片となる)。一方、デュロック種では、褐色検出部の配列が塩基置換によってHhaIで切断されなくなるため、96bpの断片のままであると推定される。図2cの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2cでは、褐色検出部のアレルとして塩基Gを有するメイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては96bpの断片が、褐色検出部のアレルとして塩基Aを有するデュロック種においては48bpの断片が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいては、96bpと48bpの両方のPCR産物が示された。
【0161】
したがって、RFLP法による検出を行うことにより、褐色検出部のアレルとして、メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及び白色種における塩基Gを、デュロック種における塩基Aを検出できることが示された。また三元交雑種においては、褐色検出部のアレルとして、デュロック種で検出される塩基Aと、白色種で検出される塩基Gとの両方を検出できることが示された。
【0162】
本実施例においては、MC1R遺伝子の3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)についての上記のようなRFLP及びPCR−FLP分析を、さらに、大ヨークシャー種41頭、ランドレース種86頭、デュロック種33頭、メイシャン種39頭、バークシャー種114頭(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー種28頭の計341頭から得たDNAサンプルについて行い、各ブタ品種が有するアレルを確認した。その結果、大ヨークシャー、ランドレースおよびバークシャーでは、すべての個体で配列番号5に示す塩基配列を有するDNAを保持していると考えられた。一方、メイシャンは配列番号2、デュロックは配列番号3、ハンプシャーは配列番号4に示す塩基配列を有するDNAを保持していると考えられた。これらの結果から、各ブタ品種は、MC1R遺伝子の上記3つの遺伝子多型について、上述のアレルをほぼ100%の確率で有することが示された。
【0163】
〔実施例7〕PCR−RFLP及びPCR−FLP法による白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部の多型検出
KIT遺伝子の塩基配列は、特許第3116049号明細書において報告されている部分塩基配列を利用する。また白色種では、KIT遺伝子が重複していること、及びKIT遺伝子の少なくとも一方には、白色検出部のアレルとして塩基A、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして塩基配列AGTTの欠失が存在することが知られている。
【0164】
本明細書では、基準種とする日本イノシシのKIT遺伝子の部分配列を配列番号57として示す。本発明のブタの品種の識別法に用いるKIT遺伝子の遺伝子多型、白色検出部と4塩基欠失/非欠失部の多型部位は、それぞれ配列番号57に示される塩基番号1313及び塩基番号3884〜3887の位置に存在する。
【0165】
本検出は、基本的には実施例6と同様にして行った。
(1) PCR増幅及び電気泳動
フォワードプライマー及びリバースプライマーとして、次のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
a) 白色検出部:
プライマー162(WhiteF: 5’− GGG ACT GTC AGG AGA GCG TGG −3’: 配列番号10;1285番)(forward Tm68.1)
プライマー130(WhiteR: 5’− GGG ACT GTC AGG AGA GCG TGG −3’: 配列番号11;1341番)(reverse Tm70.9)
b) 4塩基欠失/非欠失部:
プライマー135(Kit4gF:5’− CAC CTT GCC AAA GGC ACC TC −3’: 配列番号14;3864番)(forward Tm69.5)
プライマー164(Kit4gR:5’− CAG GAC AAT GGG AAC ATC TTA AAG AA −3’: 配列番号15;3927番)(reverse Tm69.6)
なおカッコ内の番号は、配列番号57に示す塩基配列の最初の塩基を1番とした場合の、プライマーの5’端の塩基がハイブリダイズする位置の番号である。
【0166】
PCR反応は、次の設定で行った。すなわち、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリング65℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング62℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを30回行った。
PCR増幅のための条件は、上記以外の事項については実施例6と同様にして行った。
次いで、4塩基欠失/非欠失部に対するPCR産物については、そのまま次のポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0167】
また白色検出部に対するPCR産物については、まず実施例5に記述したのと同様の方法で、アガロースゲル電気泳動に供して確認を行った。この確認によって示されたPCR産物のサイズは、塩基配列から推定される57bpと一致していた。続いてこのPCR産物を、制限酵素NlaIII(TOYOBO製)を用いて実施例6と同様の手順で制限酵素処理し、得られた処理断片を次にポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。この電気泳動も、実施例6と同様にして行った。得られた電気泳動結果を図3に示す。図3中の略語の意味は、図2と同じである。
【0168】
(2) 多型の検出
a) 白色検出部
白色検出部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図3aに示した。
図3aに示す通り、白色検出部に対する上記のPCR産物については、ブタ品種によって増幅される断片のサイズが異なっていた。ランドレース種及び三元交雑ブタにおいては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種と同じ断片長のPCR産物に加えて、それらの品種にはみとめられない短い断片長のPCR産物が示された。
【0169】
一方、ランドレース種を含む白色種では、重複した一方のKIT遺伝子の白色検出部の配列が塩基置換によってNlaIII部位となるため、NlaIII処理した上記64bpの断片は28bpと29bpの2つのDNA断片となることが、配列番号57の塩基配列から推定される(具体的にはNlaIIIの切断により、4塩基の付着端が生じ、DNA鎖の端末からでは26bpと31bpの断片となるが、電気泳動では単鎖となった付着端部分が相殺されるため、見かけ上28bpと29bpの2つのDNA断片となる)。白色種におけるもう一方のKIT遺伝子、並びにメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種のKIT遺伝子については、白色検出部の配列はNlaIIIにより切断されないため、57bpの断片のままであると推定される。すなわち、白色種の場合、57bpの断片の他に、28bpと29bpの断片が出現するが、有色種の場合は28bpと29bpの断片は示されない。図3aの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図3aでは、白色検出部のアレルとして塩基Gと塩基Aの両方を有するランドレース種においては57bp、28bp及び29bpの断片が、白色検出部のアレルとして塩基Gを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種においては28bpと29bpの断片が示された。また白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、57bp、28bp及び29bpの断片が示された。
【0170】
したがって、PCR−FLP法による検出を行うことにより、白色検出部のアレルとして、白色種において塩基Gと塩基Aの両方を、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において塩基Gを検出できることが示された。また三元交雑ブタにおいても、デュロック種と白色種で検出される塩基Gと白色種で検出される塩基Aの両方を検出できることが示された。
【0171】
b) 4塩基欠失/非欠失部
4塩基欠失/非欠失部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図3bに示した。
図3bに示す通り、4塩基欠失/非欠失部に対する上記のPCR産物については、ブタ品種によって増幅される断片のサイズが異なっていた。ランドレース種及び三元交雑ブタにおいては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種と同じ断片長のPCR産物に加えて、それらの品種にはみとめられない短い断片長のPCR産物が示された。
【0172】
一方、配列番号57の塩基配列に基づく算出により、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において64bpのPCR産物が、また白色種においては60bpと64bpのPCR産物が増幅されると推定される。図3bの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図3bでは、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして塩基配列AGTTの欠失を有するランドレース種において、60bpと64bpのPCR産物が示され、また4塩基欠失/非欠失部のアレルとして非欠失のみを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において、64bpのPCR産物が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、60bpと64bpのPCR産物が示された。なお三元交雑ブタのレーンにみられるサイズの大きい2つのバンドは、60bpと64bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。
【0173】
従って、PCR−FLP法による検出を行うことにより、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種において4塩基の欠失と非欠失との両方を、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において非欠失を、検出できることが示された。また三元交雑種においては、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種で検出される4塩基の欠失と、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種及び白色種で検出される非欠失との両方を検出できることが示された。
【0174】
本実施例においては、KIT遺伝子の2つの遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)についての上記のようなRFLP及びPCR−FLP分析を、さらに、大ヨークシャー種41頭、ランドレース種86頭、デュロック種33頭、メイシャン種39頭、バークシャー種114頭(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー種28頭の計341頭から得たDNAサンプルについて行い、各ブタ品種が有するアレルを確認した。白色検出部についての制限酵素NlaIIIを用いたRFLP分析では、大ヨークシャー種の全個体と、ランドレース種の82個体で、57bp、31bp、26bpの3つのDNA断片となった。一方、有色種である他の品種(メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種)では、全て57bpの1つのDNA断片となった。さらに、4塩基欠失/非欠失部についてのPCR−FLP分析の場合、大ヨークシャー種およびランドレース種の全個体で、64bp、60bpの2つのDNA断片となった。一方、有色種である他の品種(メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種)では、全て64bpの1つのDNA断片となった。これらの結果から、各ブタ品種は、KIT遺伝子の上記2つの遺伝子多型について、上述のアレルをほぼ100%の確率で有することが示された。すなわち、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレルを利用することによって、ほぼ100%の確率で白色種を識別できることが示された。
【0175】
〔実施例8〕DNAチップの作製
本実施例では、アルデヒド基でコーティングしたスライドガラス(シリレイトガラス)に、アミノ基で修飾した20種類のオリゴDNA(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレイを含むオリゴヌクレオチド)をスポットし、アルデヒド基とアミノ基を共有結合させることにより、オリゴDNAをガラス基板上に固定した。アミノ化オリゴDNAは通常の化学合成により得た。
【0176】
使用したアミノ化オリゴDNAを以下に示す。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部のアレイ検出用
DC136: 5’− CAG CCG −−C CCC CCG CC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号16] 非挿入検出
DC134: 5’− C CAG CCG −−C CCC CCG CC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号17] 非挿入検出
DC135: 5’− CAG CCG CCC CCC CCG C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号18] 塩基配列CC挿入検出
DC132: 5’− C CAG CCG CCC CCC CCG C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号19] 塩基配列CC挿入検出
〔2〕黒色検出部のアレイ検出用
DC10: 5’− CCG TGC TGC CGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号20] 塩基C検出
DC69: 5’− G CCG TGC TGC CGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号21] 塩基C検出
DC11: 5’− CCG TGC TGC TGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号22] 塩基T検出
DC32: 5’− CCG TGC TGC TGC TGC TGG AG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号23] 塩基T検出
〔3〕褐色検出部のアレイ検出用
DC37: 5’− GGG TGG CCG TGC CCT TGA G (6CH2)NH2 −3’ [配列番号24] 塩基A検出
DC76: 5’− A GGG TGG CCG TGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号25] 塩基A検出
DC36: 5’− A GGG TGG CCG CGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号26] 塩基G検出
DC74: 5’− GA GGG TGG CCG CGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号27] 塩基G検出
DC130: 5’− GA GGG TGG CTG CGC CCT TG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号28] 塩基G検出
DC131: 5’− GGG TGG CTG CGC CCT TGA GG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号29] 塩基G検出
〔4〕白色検出部のアレイ検出用
DC20: 5’− AAA GGA AAC ATG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号30] 塩基A検出
DC83: 5’− C AAA GGA AAC ATG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号31] 塩基A検出
DC41: 5’− AAA GGA AAC GTG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’[配列番号32] 塩基G検出
DC80: 5’− C AAA GGA AAC GTG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号33] 塩基G検
出
〔5〕4塩基欠失/非欠失部のアレイ検出用
DC31: 5’− CA GAG TCT AAC TGA GGT GCC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号34] 塩基配列AGTT非欠失検出
DC111: 5’− CCA GAG TCT −−− −GA GGT GCC TT (6CH2)NH2 −3’ [配列番号35] 4塩基欠失検出
【0177】
これらのオリゴDNAは、オリゴヌクレオチドに、スぺーサーとして3’端にCH2基を6個直鎖で挿入した後、アミノ基(NH2)を付加したものである。
上記のアミノ化オリゴDNAをシリレイトガラス上にスポッティングするために、日立ソフト製のSPBIO2000を用いた。BM機器製のスポッティング液、ArrayIt Micro−spotting Solution(BSS−1)にアミノ化オリゴDNAを20pmol/μlとなるように溶かし、径が540ミクロンのスポットピンを用い、BM機器製のシリレイトガラス(CCS−25)上に各アミノ化オリゴDNAをスポットした。スライドガラス上へのアミノ化オリゴDNAのスポット位置は図4に記した。
スポッティング後、24時間室温で自然乾燥させ、次に示す工程によりガラスの加工を行った。
【0178】
ArrayIt Wash Station(BM機器製:AW−1)に乾燥後のスライドガラスをセットした後、600mlのビーカーにスターラーを入れWash Stationを入れた。ビーカーを0.2% SDSで充たし、室温で2〜5分間スターラーで撹拌する。この工程は0.2% SDSを交換して2回繰り返した。次にビーカーを蒸留水で充たし、室温で2〜5分間スターラーで撹拌する。この工程は蒸留水を交換して2回繰り返した。次にビーカーを沸騰した蒸留水で充たし、ホットスターラーで95℃以上に保ちながら、2分間撹拌した後、蒸留水(室温)に交換し、室温で1〜5分撹拌した。次にSodium borohybride Solution(還元用液:1.3gのNa2BH4をPBS 375mlに溶かし、125mlのエタノールを加えて作製)にWash Stationごとスライドガラスを入れ、室温で5分間スターラーで撹拌した。次にビーカーを0.2% SDSで充たし、室温で1分間スターラーで撹拌した。この工程は0.2% SDSを交換して3回繰り返した。次にビーカーを蒸留水で充たし、室温で1分間スターラーで撹拌した。この工程は蒸留水を交換して2回繰り返した。その後、スライドガラスを取り出して空気乾燥させた。
【0179】
〔実施例9〕ターゲットDNAのPCR合成と回収
鋳型DNAとしては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ランドレース種及び三元交雑種(ランドレース種のメスに大ヨークシャー種のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種のオスを掛け合わせたもの)の各1個体から常法により抽出したゲノムDNAを、それぞれサンプルとして用いた。
【0180】
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER製のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型とし、200μM dNTPsとした。また5’Cy3化蛍光標識プライマーと5’ビオチン化プライマーを1μMとしてセットで用い、増幅を行った。なお、5’ビオチン化プライマーは5’bio、5’Cy3蛍光化プライマーは5’Cy3と記した。
【0181】
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER社のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型として、200μM dNTPs、1μM プライマー(上記5’Cy3化−5’bio化プライマーのセット)、1×PCR バッファー、20ng BSAに、2.5ユニットのAmpliTaq Goldを加え、50μlの反応液とした。
【0182】
(1)MC1R遺伝子の増幅
用いたプライマーは以下の通りである。
プライマー283(MRO31−bio:5’bio:配列番号36)及びプライマー275(MRO30−Cy3:5’Cy3:配列番号37)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の2塩基挿入/非挿入部を含む領域を増幅できる。
プライマー278(Meibio:5’bio:配列番号38)及びプライマー136(MrC6−Cy3:5’Cy3:配列番号39)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の黒色検出部を含む領域[メイシャン種識別部分]を増幅できる。
【0183】
プライマー280(DuCy3:5’Cy3:配列番号40)及びプライマー281(Dubio:5’bio:配列番号41)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の褐色検出部を含む領域[デュロック種識別部分]を増幅できる。
【0184】
PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリングと伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング67.5℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを40回行った。
【0185】
(2)KIT遺伝子の増幅
用いたプライマーは以下の通りである。
プライマー259(ChpK5F:5’bio:配列番号42)及びプライマー130(KtC1−Cy3:5’Cy3:配列番号43)。このプライマーセットによりKIT遺伝子の白色検出部を含む領域[白色種(ランドレース、大ヨークシャー)識別部分]を増幅できる。
【0186】
プライマー135(KtC6−Cy3:5’Cy3:配列番号44)およびプライマー260(ChpK7R:5’bio:配列番号45)。このプライマーセットによりKIT遺伝子の4塩基欠失/非欠失部[白色種(ランドレース、大ヨークシャー)識別部分]を増幅できる。
【0187】
PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリング65℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング62℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを30回行った。
【0188】
〔実施例10〕DNAチップ上でのプローブDNAとターゲットDNAのハイブリダイゼーション
(1)PCR増幅産物の回収
各サンプルについて上記の5つのプライマーセットで目的のDNA断片を増幅させ、反応後にそれを1.5mlのチューブ1本にまとめた。よく撹拌したストレプトアビジンセファロース(ファルマシア:17−5113−01)を40μl加え、Binding Buffer{10mM Tris HCl pH7.6, 2M NaCl, 1mM EDTA, 0.1% Tween20 }を1,200μl(5倍量)加えた。15分間撹拌し、セファロース側のアビジンとプライマー側のビオチンを結合させた。その後Ultrafree−MCの上部カラムに撹拌した液を入れ、3,000rpmで1分間遠心し、セファロース(増幅したPCR産物はビオチン−アビジン結合を介してセファロースと結合している)を回収した。上部カラムで回収したセファローズは、3,000rpmで1分間の遠心により水分をよくきり、下部のチューブにたまったフロースルー液は捨てた。上部カラムのセファロースに0.2N NaOHを150〜200μl加え撹拌し、2本鎖DNAのPCR増幅産物を1本鎖に解離させた。Ultrafree−MCを3,000rpmで1分間遠心した。1本鎖に解離したCy3蛍光化PCR増幅産物が下のチューブにたまるため、フロースルーがピンク色となる。カラムのセファロースが白色となり、蛍光化PCR増幅産物がなくなったことをを確認した。ピンク色に着色したフロースルーをマイクロコン10 {Microcon10、Millipore, Amicon: YM−10,カタログ番号42407(100)}に入れ、中和Buffer{10mM Tris HCl pH7.6}でカラムを満たし、13,000rpmで40分間遠心した。フロースルーを捨て、中和Buffer{10mM Tris HCl pH7.6}で上部カラムを満たし、さらに13,000rpmで40分間遠心した。上部カラムの液量が20〜50μl程度に濃縮された後、マイクロコンの上部カラムを逆さにして、新しいチューブに入れ、5,000rpmで1分間遠心し、濃縮したCy3蛍光化1本鎖プローブDNAを回収した。
【0189】
(2)ハイブリダイゼーション
回収したプローブDNAを4μlとり、Unihyb Hybridization Solution(BM機器製:UHS−1)16μlを30秒間65℃で温めた後に加え、ピペッティングにより撹拌した。そのプローブDNA液20μlをDNAチップスライドガラス上にのせ、カバーガラスをかけた。この時、カバーガラスとスライドガラスの間に空気が入らないようにした。カバーガラスをかけた後、30μlの蒸留水(カセット内の湿度を上げるためのもの)の入ったArrayIt Hybridization Cassette(BM機器製:THC−1)に入れ、60度で2〜4時間ハイブリダイゼーションを行った。
【0190】
〔実施例11〕ハイブリダイゼーション後のスライドガラス洗浄と蛍光検出
ハイブリダイゼーションの後、ArrayIt Hybridization Cassetteからスライドガラスを取り出し、Wash Buffer A(1×SSC+0.2%SDS)に浸しカバーガラスが自然に外れるようにした。その後、スライドガラスをWash Stationにセットし、Wash Buffer B(0.1×SSC+0.2%SDS)で満たしたビーカーに入れ、室温で5分間スターラーで撹拌した。次にWash Buffer C(0.1×SSC)で満たされたビーカーに直ちに移し、室温で5分間スターラーで撹拌した。その後、スライドガラスを取り出して乾燥させた後、蛍光の検出を行った。
【0191】
蛍光検出はGSI Lumonics社製のScanArray Liteを用いた。共焦点レーザーでスキャン画像が鮮明に取り込めるように焦点を合わせ、解像度20ミクロン、蛍光の強いスポット光が飽和する程度にレーザー強度を調節しスキャンを行った。スキャン画像はハードディスクにそのまま保存した。
【0192】
〔実施例12〕検出結果と品種の特定
上述のDNAチップを用いた検出の結果、得られた蛍光読み取り像を図5に示す。
(1)メイシャン種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基C
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のメイシャン種の組み合わせと一致した。
【0193】
(2)デュロック種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基A
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のデュロック種の組み合わせと一致した。
【0194】
(3)バークシャー種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のバークシャー種の組み合わせと一致した。
【0195】
(4)ハンプシャー種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のハンプシャー種の組み合わせと一致した。
【0196】
(5)ランドレース種(白色種)
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G及び塩基A
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失、及び4塩基欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5の白色種の組み合わせと一致した。
【0197】
(6)三元交雑種(白色種×白色種×デュロック種)
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入、及び非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G及び塩基A
〔4〕白色検出部: 塩基G及び塩基A
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失、及び4塩基欠失
【0198】
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5の白色種とデュロック種のそれぞれの組み合わせを足し合わせたものと一致した。なお、この三元交雑種の検出結果の判断においては、まず、白色種に特徴的な「4塩基欠失(4塩基欠失/非欠失部)」が検出されていることから、白色種の関与が示された。さらに、デュロック種に特徴的な「塩基A(褐色検出部)」が検出されていることから、デュロック種の関与が示された。一方、メイシャン種に特徴的な「塩基C(黒色検出部)」についてはメイシャン種で検出されたような強いシグナルは示されなかった。このように、三元交雑種において検出されたアレルの組み合わせは、白色種とデュロック種の交配への関与を示した。
【0199】
【発明の効果】
本発明によれば、5つの遺伝子多型のアレルの組み合わせから、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種、並びにそれらのうちの2種以上を用いた交雑種を、相互に識別することが可能である。これらの品種は産業上利用されているブタ品種のほぼ100%を占めるため、これらを相互に識別できることは非常に有用である。また、本発明の固相担体は、本発明の識別法に好適に用いることができるためだけでなく、1つの検出系で上記ブタ品種全てを識別できるため、商業的に提供する上で特に好適なツールとして用いることができる。
【0200】
【配列表】
【0201】
【配列表フリーテキスト】
配列番号6〜56は合成DNAである。
【図面の簡単な説明】
【図1】MC1R遺伝子とその上流域の塩基配列におけるブタ品種間の多型を示す図である。塩基番号は翻訳開始点を+1とした場合の番号。*印は欠失を示し、−印はニホンイノシシ(Jpn.WP)の塩基と同じであったことを示す。
【図2】各ブタ品種のMC1R遺伝子のRFLP法、PCR−FLP法による解析結果を示す写真である。左から順に2塩基挿入/非挿入部の断片長多型、黒色検出部を含む増幅断片の制限酵素AciIによる切断断片長多型、褐色検出部を含む増幅断片の制限酵素HhaIによる切断断片長多型を示す。HDは83bpと81bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。左レーンから、m(25bpラダーマーカー)、M(メイシャン種)、D(デュロック種)、B(バークシャー種)、H(ハンプシャー種)、L(ランドレース種)、T(three way cross:三元交雑ブタ)、m(25bpラダーマーカー)。
【図3】各ブタ品種のKIT遺伝子のRFLP法、PCR−FLP法による解析結果を示す写真である。左から順に白色検出部を含む増幅断片の制限酵素NlaIIIによる切断断片長多型、4塩基欠失/非欠失部の断片長多型を示す。HDは60bpと64bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。左レーンから、m(25bpラダーマーカー)、M(メイシャン種)、D(デュロック種)、B(バークシャー種)、H(ハンプシャー種)、L(ランドレース種)、T(three way cross:三元交雑ブタ)、m(25bpラダーマーカー)。
【図4】DNAチップ上に貼り付けたアミノ化オリゴDNAの配置を示す模式図である。各スポットに対応する枠内には、チップに固定したアミノ化オリゴDNAの名称、さらに括弧内にはそのオリゴDNAにより検出されるアレルを示す。
【図5】DNAチップ上で、各品種1個体分のターゲットDNAをハイブリダイズさせ、蛍光検出した結果である。左上;メイシャン種、右上;デュロック種、左中;バークシャー種、右中;ハンプシャー種、左下;ランドレース種、右下;三元交雑種。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブタの品種の識別方法及びブタの品種の識別用DNAチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在生産されているブタ肉は、大ヨークシャー種又はランドレース種(いずれも白色種)と、デュロック種(褐色種)とを用いた三元交雑により得られるものが主流である。
【0003】
一方、市場では黒ブタ肉としてバークシャー種の肉が販売されている。バークシャー種を代表とする黒ブタは、産子数が少なく、肥育に時間がかかるが、その肉は白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種)よりも美味とされていることから、黒ブタ肉は他のブタ肉と比べて高値で取り引きされている。
【0004】
しかしこの高値に便乗して、近年では、黒ブタ肉として販売されているものの中に、白色ブタと黒ブタの交雑により得た肉や、全く黒ブタを交雑していない豚肉などが出回っている。そこで、黒ブタ品種を識別する手法が求められている。
【0005】
ところで近年では、生物のもつ遺伝子の多型と遺伝的形質とをを関連付ける研究が盛んに行われている。
例えば、ある遺伝子の遺伝子多型を調べる方法として、制限酵素断片長多型(以下、Restriction fragment length polymorphism :RFLPと呼ぶ)による解析技術が知られている。RFLPは、生物の個体間で遺伝子の構造の異なる部位に制限酵素部位が存在すると、その制限酵素による切断断片のサイズが異なることを利用してその遺伝子の多型を解析するものである。多型を示すDNA領域が特定されている場合には、その領域をマーカーとすることにより、ある単離遺伝子が由来する個体を識別することも可能である。
【0006】
同様の多型解析法として、塩基配列中にギャップ(挿入又は欠失)が存在するとき、PCR増幅したDNA断片をそのまま電気泳動することにより、その増幅断片長の違いからギャップの存在を検出する方法も知られている(以下、PCR fragmentlength polymorphism: PCR−FLP法と呼ぶ)。多型を示すDNA領域が特定されている場合には、その領域をマーカーとして上記のような多型解析法を用いることにより、単離遺伝子が由来する個体を識別することも可能である。
【0007】
従来、多型解析法を用いるブタの識別法としては、ブタ遺伝子の制限断片長多型を利用してブタをいくつかの品種グループに分類する方法が知られている(特許文献1を参照)。またブタの外観の表現型と関連する遺伝子、例えば皮膚の色に関わるMC1R遺伝子及び毛色に関わるKIT遺伝子について、複数の挿入/欠失多型が知られている(例えば、特許文献1〜3、並びに非特許文献1及び2を参照)。
【0008】
ところで最近、DNAチップを用いたDNA多型解析も可能となった。DNAチップは、シリコンやガラスの基板上に既知の塩基配列を有するDNA(プローブDNA)をスポット状に貼り付けたものである。このガラス上に、蛍光色素等でラベルしたターゲットDNA(被検体のDNA)を流し込み、該ターゲットDNAとプローブDNAとをハイブリダイズさせ、各スポットについて測定される蛍光強度の違いにより遺伝子の多型を特定する。
【0009】
このDNAチップにより、SNP(一塩基多型)解析を行うことが可能となった。つまり、完全に相補的な配列のターゲットDNAと、1塩基が異なるターゲットDNA(すなわちSNPを有する)とでは、チップ上のプローブDNAに対するハイブリダイゼーション効率が異なるため、蛍光強度の差としてSNPの存在を検出することができる。このSNPの検出法を用いると、同様に被検体を識別することが可能である。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−350586号公報
【特許文献2】
特表平11−514212号公報
【特許文献3】
特表2001−520052号公報
【非特許文献1】
J. M. H. Kijas, et al., Genetics, (2001) 158: 779−785
【非特許文献2】
Pielberg G, et al., Genetics, (2002) Jan; 160(1): 305−11
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ブタの品種を相互に識別する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子とKIT遺伝子に存在する特定の5つの遺伝子多型についてのアレルを検出し、検出されたアレルの組み合わせに基づいて前記ゲノムDNAの属するブタ品種を特定する方法により、ブタの品種を相互に識別することに成功した。本発明はこの成果に基づいて完成された。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ブタのゲノムDNAについて下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせからなるアレルの検出を行い、その結果に基づいてブタの品種を特定することを特徴とする、ブタの品種の識別方法:
(1) MC1R遺伝子上の、
(i) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する連続した2塩基の挿入若しくは非挿入であるアレル、
(ii) 同塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル、及び
(iii) 同塩基番号2692の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(2) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号1313の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(3) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の位置に存在する連続した4塩基の欠失若しくは非欠失であるアレル。
【0014】
[2] 次の(4)のアレルを検出することをさらに含む、上記[1]記載の方法:
(4) MC1R遺伝子の上流領域の、配列番号1に示す塩基番号221〜279の位置に存在する連続した7塩基若しくは22塩基の挿入又は欠失であるアレル。
【0015】
上記の[1]又は[2]の方法においては、ブタの品種が、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種、並びにそれらのうちの2種以上を用いた交雑種であることが望ましい。
【0016】
また、上記[1]又は[2]の方法においては、RFLP法、PCR−FLP法、及びDNAチップを用いる方法からなる群より選ばれる一つまたは二つ以上の方法を用いて検出を行うことができる。
【0017】
さらに具体的な上記[1]又は[2]の方法においては、(1)−(i)のアレルについてはPCR−FLP法、(1)−(ii)のアレルについては制限酵素AciIを用いるRFLP法、(1)−(iii)のアレルについては制限酵素HhaIを用いるRFLP法、(2)のアレルについては制限酵素NlaIIIを用いるRFLP法、(3)のアレルについてはPCR−FLP法、を用いて、好適に検出を行うことができる。
【0018】
[3] 下記(1)と、(2)及び/又は(3)とを含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 配列番号6及び7に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーと、
配列番号8及び9に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素AciIと、
配列番号10及び11に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素HhaIと、
の組み合わせ;
(2) 配列番号12及び13に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素NlaIII;
(3) 配列番号14及び15に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー。
【0019】
[4] 下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせを含む、オリゴヌクレオチド又はその標識物のセット:
(1) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号1〜4に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号3に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
の組み合わせ;
(2) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTが欠失している、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物。
【0020】
[5] 上記[4]のセットに、下記(1)〜(4)からなる群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物をさらに含むセット。
(1) 配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号3〜5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(2) 配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号1、2、4若しくは5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物、及び
(4) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTを含む、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物。
【0021】
[6] 配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセット。
[7] 上記[4]〜[6]のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットを固定化した固相担体。
【0022】
[8] 下記(1)及び/又は(2)を含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 上記[7]記載の固相担体
(2) 配列番号36〜45に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーのセット。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明はブタの品種を相互に識別する方法に関する。
本発明は、ブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子に存在する3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)のアレルと、KIT遺伝子に存在する2つの遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)の少なくとも一方のアレルとを検出し、検出されるそれらのアレルの組み合わせを各ブタ品種に特有の組み合わせと比較して、前記ゲノムDNAを有するブタの品種を特定することによって、ブタの品種を識別する方法に関する。本発明はまた、そのような識別法においてアレルの検出に用いることができる、好適なDNAチップも提供する。
【0024】
本発明の方法を用いれば、現在市場に出回っている品種のほぼ100%に当たるデュロック種、白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種を含む)、バークシャー種及びハンプシャー種を、相互に識別することができるだけでなく、メイシャン種を含め、それらの品種のうち2種以上を交配した交雑種をも識別することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
1.ブタの品種
本発明において、識別の対象となるブタの品種は、メイシャン種、デュロック種、白色種(大ヨークシャー種及びランドレース種を含む)、バークシャー種及びハンプシャー種、並びにこれらの品種のうち少なくとも2種を交配に用いた交雑種である。現在、産業上出回っているブタ肉は、これらの品種に属するものがほとんどであるため、本発明の方法はそのようなブタ肉を識別する上で特に有用である。また本明細書では、これらのブタ品種に対する野生型の基準種として、日本イノシシを用いて本発明を説明する。
【0026】
ここで、ブタ品種は、一般的に皮膚の色によって以下の通り分類される。
・黒色種:バークシャー種、メイシャン種、ハンプシャー種
このなかで、バークシャー種は脚先、尾端、鼻先が白いため六白と呼ばれており、ハンプシャー種は前脚にかけての胴回りが白いため(黒地)白ベルトと呼ばれている。
・褐色種:デュロック種
・白色種:大ヨークシャー種、ランドレース種
【0027】
これらのうち、黒色種と白色種の間では肉の品質に差があるため、特に黒色種と白色種とを識別できることは産業上重要である。また、デュロック種は肉質が良いため、ブタ肉生産における交配にも広く用いられていることから、交雑種におけるデュロック種の関与を識別できることは有用である。
【0028】
2.遺伝子多型とそのアレル
本明細書において「遺伝子多型」は、単一ヌクレオチド多型(1塩基多型:single nucleotide polymorphism:SNP)、及び連続した複数ヌクレオチドにわたる挿入又は欠失による多型、並びに重複遺伝子間の対応する位置に存在する多型を包含するものとする。
【0029】
本発明では、メラニン細胞刺激ホルモン受容体遺伝子(MC1R遺伝子)及びKIT遺伝子に見出される遺伝子多型を利用する。脊椎動物において体色に関与する褐色又は黒色の色素はメラニンであり、メラノサイトにおいてその形成が行われる。メラノサイトにおけるメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)の受容体はメラニン細胞刺激ホルモン受容体(MC1R)であり、この受容体をコードするMC1R遺伝子の変異によるレセプター活性の違いがメラノサイトにおけるチロシナーゼのレベルに変化をもたらし、そのレベルの程度により毛色が黒色又は褐色となる。またKIT遺伝子は、メラニン細胞の増殖、分化及び遊走に深く関与し、大ヨークシャー(白色種)ではこの遺伝子が重複していることが知られている(Johansson et al., Mammalian Genome vol 7, pp822−830, 1996)。このため、KIT遺伝子における遺伝子多型は、品種間での多型だけでなく、重複KIT遺伝子間での多型も意味する。一方、有色種のKIT遺伝子は重複していない。
【0030】
本発明のブタの品種の識別法においては、識別の対象とするブタのゲノムDNAについて、MC1R遺伝子及びKIT遺伝子上の下記の5つの遺伝子多型を利用する。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: MC1R遺伝子上の連続した2塩基の挿入、又は非挿入
〔2〕黒色検出部: MC1R遺伝子上のヌクレオチド多型(T又はC)
〔3〕褐色検出部: MC1R遺伝子上のヌクレオチド多型(G又はA)
〔4〕 白色検出部: KIT遺伝子上のヌクレオチド多型(G又はA)
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: KIT遺伝子の連続した4塩基の欠失、又は非欠失
【0031】
本発明では、上記の〔1〕〜〔3〕に加えて、〔4〕又は〔5〕の少なくとも一方の遺伝子多型のアレルを検出することによって、ブタの品種を相互に識別することができる。しかし、〔1〕〜〔5〕の遺伝子多型を全て利用することにより、その識別の精度をさらに高めることも可能である。
ここで、それぞれのブタ品種に対応するMC1R遺伝子及び日本イノシシのKIT遺伝子について、本明細書に示す部分配列に対応する配列番号は表1の通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
上記〔1〕〜〔5〕の遺伝子多型の多型部位は、配列番号1又は57に示す塩基番号を用いて次の通り特定される。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置。なお、本明細書においては、2塩基挿入/非挿入部に関連する「挿入」とは、具体的には、配列番号1に示す塩基番号2026と2027の間の位置に連続した2塩基配列が挿入された結果、塩基番号2026〜2027に対応する塩基配列が連続した4塩基配列(GCCC)となっていることを意味する。一方、2塩基挿入/非挿入部に関連する「非挿入」とは、具体的には、配列番号1に示す塩基番号2026と2027の間の位置に連続した2塩基が挿入されておらず、塩基番号2026〜2027に対応する塩基配列が連続した2塩基配列(GC)となっていることを意味する。この用語「非挿入」は、進化学的な意味で用いない限り、配列の比較について述べる際に、用語「欠失」によって置き換えてもよい。
【0034】
〔2〕黒色検出部: MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2270の位置。
〔3〕褐色検出部: MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2692の位置。
〔4〕白色検出部: KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号1313の位置。
【0035】
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: KIT遺伝子の、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の位置。なお、本明細書においては、4塩基欠失/非欠失部に関連する「欠失」とは、具体的には、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887(塩基配列AGTT)に対応する連続した4塩基配列が欠失していることを意味する。一方、4塩基欠失/非欠失部に関連する「非欠失」とは、具体的には、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887(塩基配列AGTT)に対応する塩基配列が欠失しておらず、塩基番号3884〜3887に対応する連続した4塩基配列が存在していることを意味する。この用語「非欠失」は、進化学的な意味で用いない限り、配列の比較について述べる際に、用語「挿入」によって置き換えてもよい。
さらに、各ブタ品種が有する、MC1R遺伝子中の上記遺伝子多型のアレルを次の表2に具体的に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
また、各ブタ品種が有する、KIT遺伝子中の各遺伝子多型のアレルを表3に示す。なお表3中、「G・A」「4塩基欠失・非欠失」との表示は、それぞれ『GとAの両方』『4塩基欠失と非欠失との両方』を意味する。
【0038】
【表3】
【0039】
なお、本発明においては、上記遺伝子多型のアレルに加えて、MC1R遺伝子の上流領域に存在する連続した7塩基若しくは22塩基の挿入又は欠失であるアレルを、さらにブタ品種の識別に利用することもできる。具体的には、配列番号1に示すMC1R遺伝子の部分配列中の、開始コドンより上流に位置する塩基番号221〜279の領域には、メイシャン種において連続した7塩基長の欠失(配列番号1の塩基番号273〜279)が、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種において連続した22塩基長の欠失(配列番号1の塩基番号221〜242)が存在する。これらの挿入/欠失のアレルは、例えば配列番号1の塩基番号221〜279の領域を増幅するように設計した一対のプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られた増幅断片の断片長多型を解析することによって検出できる(PCR−FLP法)。この遺伝子多型は、日本イノシシと、メイシャン種と、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種からなる群とを区別することができるので、例えばメイシャン種の識別等に用いることが可能である。なお本明細書において、この遺伝子多型については、上記の日本イノシシ及び各ブタ品種における塩基配列を互いに比較した場合に、連続した7塩基又は22塩基の配列が当該位置に存在するものを「挿入」、存在しないものを「欠失」として表す。
【0040】
本明細書では、上記多型部位を含む遺伝子内領域を指定する場合にも、原則として日本イノシシの塩基配列を基準として記載する。基準として用いる日本イノシシの塩基配列は、MC1R遺伝子については該遺伝子の部分配列である配列番号1に示す塩基配列を、KIT遺伝子については該遺伝子の部分配列である配列番号57に示す塩基配列を用いる。
【0041】
本明細書では、上記遺伝子多型の多型部位を複数のブタ品種について特定する場合、配列番号1又は57(日本イノシシの配列)を引用し、かつ特定のブタ品種の塩基配列を示す配列番号を用いて記載する。例えば黒色検出部について、「MC1R遺伝子上の、配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル」と記載した場合、『配列番号1に示す塩基番号2270』は日本イノシシにおける黒色検出部の多型部位を意味するが、『配列番号1に示す塩基番号2270の位置』との表現は、日本イノシシ(配列番号1)だけでなく、メイシャン種(配列番号2)、デュロック種(配列番号3)、ハンプシャー種(配列番号4)、白色種及びバークシャー種(配列番号5)における黒色検出部の多型部位をも意味する。
【0042】
さらに各ブタ品種における上記遺伝子多型を含む領域の塩基配列については、配列番号1又は57の塩基配列中に示される塩基番号を用いて多型部位を特定した上で、ブタ品種毎の塩基配列を示す塩基番号を引用することによって、指定する。例えば、メイシャン種のMC1R遺伝子(配列番号2)の黒色検出部を含む領域を指定する場合には、「配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列上の連続した…配列」というような記載で表現する。
【0043】
3. DNA の調製
本発明のブタ品種の識別法においては、品種を識別したいブタ個体から組織又は細胞等を取得してDNA採取源とし、その採取源から抽出したゲノムDNAを試料として用いる。DNAの採取源は特に限定されるものではなく、例えば肉(もも肉、肩肉、ロース肉等)、血液、加工肉(ハム、ソーセージ等)等が挙げられる。
【0044】
これら採取源からのゲノムDNAの抽出及び調製は、公知のいずれかの方法により行うことができる(文献名:J.Sambrook et al. (Eds.), Molecular Cloning,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp.9.16−9.23, 1989)。あるいは、市販のキット(STRATAGENE, DNA Extraction Kit (#200600))を用いることもできる。なお、得られたDNAが目的のものであるか否かを確認するため、適当なシークエンサーで塩基配列決定をしておくことが望ましい。
【0045】
また、品種の識別を行う目的によっては、ゲノムDNAの抽出を、複数のブタ個体に由来するDNA採取源からまとめて行ってもよい。例えば、特定の品種に由来するブタ肉製品の一群に異なるブタ品種に由来するブタ肉製品が混入していないことを確認するために、その群に使用された全てのブタの品種がその特定の品種に属するか否かを識別すれば足りる場合であれば、識別したいブタ肉製品の群に由来する複数のDNA採取源から、まとめてゲノムDNAを抽出してもよい。個体毎に抽出したゲノムDNAを混合して、次のアレルの検出に用いてもよい。
【0046】
4.アレルの検出
次に、上記「3.DNAの調製」で抽出したゲノムDNAについて、上記「2.遺伝子多型とそのアレル」に記載したMC1R遺伝子上の3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)のアレルと、KIT遺伝子上の2つ遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)の少なくとも一方のアレルとを検出する。
【0047】
本発明において「アレルの検出」とは、識別を行いたいブタのゲノムDNA(ゲノムDNAを含有する試料を含む)について、上記遺伝子多型を示す多型部位に存在するアレルを判定することを意味する。「アレルを判定する」とは、アレルについて、その塩基配列を直接的に決定することであってもよいし、制限酵素による切断やハイブリダイゼーションの結果に基づいてその塩基配列を間接的に同定することであってもよい。また「アレルを判定する」とは、さらに、目的のゲノムDNAについて多型部位の2つのアレルの一方を検出した結果に基づいて、その多型部位のアレルが検出したアレルであるか否かを判断することであってもよい。これは、あるブタゲノムDNAについて、その多型部位のアレルが特定のブタ品種が有するアレルであるか否かを判定すれば、その特定の品種であるか否かを判断できる場合があるからである。
【0048】
アレルの検出法としては、当業者に公知の様々な方法を任意に選択して用いればよい。例えば、RFLP法、PCR−FLP法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型)法〔Biotechniques, 16,296−297 (1994), Biotechniques, 21, 510−514 (1996)〕、ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246−249 (1991)〕、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta,189, 153−157 (1990)〕、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561−3567 (1991), Nuc. Acids. Res., 20,4831−4837 (1992)〕、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis; DGGE)法〔Biotechniqus, 27, 1016−1018 (1999)〕、RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87−94 (1995)〕、化学切断法〔Biotechniques, 21, 216−218 (1996)〕、DOL(Dye−labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549−556 (1998)〕、TaqMan PCR法〔Genet. Anal., 14, 143−149 (1999), J. Clin. Microbiol., 34, 2933−2936 (1996)〕、インベーダー法〔Science, 5109, 778−783(1993), J. Biol. Chem., 30, 21387−21394 (1999), Nat. Biotechnol., 17, 292−296 (1999)〕、MALDI−TOF/MS(Matrix Assisted Laser Desorption−time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378−388 (1997), Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 35, 545−548 (1997)〕、TDI(Template−directed Dye−terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756−10761 (1997)〕、モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol.,1, p49−53 (1998)、遺伝子医学、4, p46−48(2000)〕、ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele−Specific Hybridization (DASH)法〔Nat. Biotechnol.,1, p87−88, (1999)、遺伝子医学, 4, p47−48 (2000)〕、パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet., 3, p225−232 (1998)、遺伝子医学, 4, p50−51 (2000)〕、UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームページ(http://www.takara.co.jp)参照〕、及びDNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いる方法〔Genomics 4, (1989), Drmanae, R., Labat, I., Brukner, I. and Crkvenjakov, R., p114−128、Bio Industry Vol.17 No.4, 「DNAチップ技術」 p5−11 (2000)〕等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0049】
以下に、本発明において用いるアレルの検出法の例を説明する。
(1) RFLP法及びPCR−FLP法による、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレルの検出
この検出においてはまず、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部についてはMC1R遺伝子の塩基配列(例えば配列番号1〜5)に基づいて、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部についてはKIT遺伝子の塩基配列(例えば配列番号57)に基づいて、目的の遺伝子多型を含む領域を増幅可能なプライマーを設計する。次いで該プライマーを用いてPCR法により該遺伝子多型を含む増幅断片を得て、RFLPおよびPCR−FLP分析を行うことにより、上記遺伝子多型のアレルを検出することができる。なお、プライマーの合成は通常の化学合成により行うことができる。
【0050】
RFLP法又はPCR−FLP法におけるPCR増幅では、目的の遺伝子多型を含む領域を増幅可能であるように設計及び合成したプライマー、DNAポリメラーゼ、及び識別対象とするゲノムDNA(鋳型)を使用する。本発明で用いるDNAポリメラーゼとしては、LA Taq DNAポリメラーゼ(Takara)、Taq DNAポリメラーゼ、AmpliTaq Gold(Perkin Elmer) 、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene社)等が挙げられるが、AmpliTaq Goldポリメラーゼが好ましい。
【0051】
増幅の条件は、90℃〜98℃で5秒〜3分、好ましくは94℃で30秒〜1分の変性工程、40℃〜80℃で5秒〜3分、好ましくは55℃〜66℃で30秒〜1分のアニーリング工程、及び60℃〜74℃で10秒〜15分、好ましくは66℃〜72℃で30秒〜7分の伸長工程を1サイクルとしてこれを25〜50サイクル行う。但し、鋳型DNAおよびプライマーを十分変性させるために、上記増幅サイクルの前に95℃で5〜10分の変性工程を加えてもよく、また、増幅されたDNAを完全に伸長するために、増幅サイクルの後に72℃で5〜10分の伸長工程を加えてもよい。さらに、増幅断片を直ちに次の工程に供さない場合は、非特異的な増幅が起こらないようにするために、増幅断片を4℃で保存する工程を加えることが好ましい。このような増幅条件に従って、目的のDNA断片を増幅することができる。
【0052】
続いて、RFLP法では、増幅断片を特定の酵素によって切断してから電気泳動にかけて、断片のサイズを決定する。またPCR−FLP法では、増幅断片をそのまま電気泳動にかけて、断片のサイズを決定する。例えばアガロースゲル電気泳動では、泳動後のゲルを臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、DNA断片をバンドとして検出することにより、その断片長を決定することができる。電気泳動法としては、アガロースゲル電気泳動の他、ポリアクリルアミドゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動を実施してもよい。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅断片から放出される蛍光を検出することによって、DNA断片のバンドを検出してもよい。
【0053】
以下に、RFLP法又はPCR−FLP法による、各遺伝子多型についてのアレルの検出手順を具体的に説明する。
2塩基挿入/非挿入部については、例えば、配列番号1の塩基番号2026〜2027に位置する遺伝子多型部位を含む81〜83塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を電気泳動することにより、その泳動距離から該断片の長さを算出する。そしてこの断片長から、2塩基挿入/非挿入部のアレル(連続した2塩基の挿入又は非挿入)を判定する。配列番号1の塩基配列に基づいて予想される塩基長よりも算出された断片長が2bp長い場合には、アレルは2塩基挿入であり、その予想される塩基長と算出された断片長とが一致する場合には、アレルは非挿入である。なお、識別すべきゲノムDNAについて、2塩基挿入/非挿入部のアレルが2塩基挿入であると判定されれば白色種又はバークシャー種由来、アレルが非挿入であると判定されればメイシャン種、デュロック種又はハンプシャー種由来と判断できる。
【0054】
なお本明細書において「白色種由来」とは、白色種又は白色種を交配に用いた交雑種を意味する。このような用語「由来」を用いる表現は、他の品種に関するものであっても、同様に解釈される。
【0055】
黒色検出部については、例えば、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて、配列番号1の塩基番号2270の位置に存在する遺伝子多型部位を含む64塩基長の断片を増幅するプライマー対を設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素AciIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基T(配列番号1、3〜5)である場合は制限酵素AciIにより切断されないが、アレルが塩基Cである場合は制限酵素AciIによって切断される。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素AciIにより切断されないことが示される場合には、該ゲノムDNAの黒色検出部のアレルは塩基Tであり、増幅断片が制限酵素AciIにより切断されることが示される場合には、該アレルは塩基Cであると判断される。表2に示される通り、黒色検出部のアレルが塩基Cであると判定されれば、そのゲノムDNAはメイシャン種由来として特定される。一方、この黒色検出部のアレルが塩基Tであると判定されれば、デュロック種、ハンプシャー種、白色種又はバークシャー種由来として特定される。
【0056】
褐色検出部については、例えば、配列番号1〜5に示される塩基配列に基づいて、配列番号1の塩基番号2692の位置に存在する多型部位を含む96塩基長の断片を増幅するプライマー対を設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素HhaIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基G(配列番号1、2、4及び5)である場合は制限酵素HhaIにより切断されるが、アレルが塩基Aである場合は制限酵素HhaIによって切断されない。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されたことが示される場合には、該ゲノムDNAの黒色検出部のアレルは塩基Gであり、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されないことが示される場合には、該アレルは塩基Aであると判断される。表2に示される通り、褐色検出部のアレルが塩基Aであると判定されれば、そのゲノムDNAはデュロック種由来として特定される。一方、この褐色検出部のアレルが塩基Gであると判定されれば、メイシャン種、ハンプシャー種、白色種又はバークシャー種由来として特定される。
【0057】
白色検出部については、例えば、配列番号57の塩基番号1313の位置に存在する塩基を含む57塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号57に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を制限酵素NlaIIIによって消化し、その切断断片を電気泳動することにより、その泳動距離から制限断片長の長さを算出して、アレルを判定する。この遺伝子多型部位は、アレルが塩基Gである場合は制限酵素NlaIIIにより切断されないが、アレルが塩基Aである場合は制限酵素HhaIによって切断される。従って、算出された制限断片長の長さにより、増幅断片が制限酵素HhaIにより切断されないことが示される場合には、該ゲノムDNAの白色検出部のアレルは塩基Gであり、増幅断片が制限酵素NlaIIIにより切断されることが示される場合には、該アレルは塩基Aであると判断される。なお白色種では、重複した各KIT遺伝子は、白色検出部の多型部位に塩基G、又は塩基Aをそれぞれ有するが、有色種では塩基Gのみを有する。すなわち表3に示される通り、白色検出部のアレルとして塩基Gと塩基Aの両方が検出されれば、そのゲノムDNAは白色種として特定される。一方、この白色検出部のアレルが塩基Gであると判定されれば、有色種であるメイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種又はバークシャー種由来として特定される。
【0058】
4塩基欠失/非欠失部については、例えば、配列番号57の塩基番号3884〜3887の位置に存在する多型部位を含む60〜64塩基長の断片を増幅するプライマー対を、配列番号57に示される塩基配列に基づいて設計し、識別すべきブタのゲノムDNAを鋳型としてそのプライマーを用いてPCR増幅を行い、得られる増幅断片を電気泳動することにより、その泳動距離から該断片の長さを算出する。そしてこの断片長から、4塩基欠失/非欠失部のアレル(連続した4塩基の欠失又は非欠失)を判定する。配列番号57の塩基配列に基づいて予想される塩基長と算出された断片長とが一致する場合には、アレルは非欠失であり、その予想される塩基長よりも算出された断片長が4bp短い場合には、アレルは4塩基欠失である。なお上記の白色検出部と同様に、白色種では重複した各KIT遺伝子が、4塩基欠失/非欠失部の多型部位に非欠失、又は4塩基欠失をそれぞれ有することから、白色種における4塩基欠失/非欠失部のアレルとしては、4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。一方、有色種では、4塩基欠失/非欠失部のアレルは非欠失である。すなわち表3に示される通り、4塩基欠失/非欠失部のアレルが4塩基欠失と非欠失との両方であると判定されれば、そのゲノムDNAは白色種由来として特定される。一方、この4塩基欠失/非欠失部のアレルが非欠失のみであると判定されれば、そのゲノムDNAはメイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種又はバークシャー種由来として特定される。
【0059】
ところで、日本におけるブタ肉の生産は、主に三元交雑により、すなわちランドレース種(白色種)のメスに大ヨークシャー種(白色種)のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種(褐色種)のオスを掛け合わせることにより行っている。ブタ肉の生産では、さらに四元交雑により、すなわちランドレース種と大ヨークシャー種とを掛け合わせた子に、デュロック種とハンプシャー種又はバークシャー種とを掛け合わせて得た子を交配して、肉ブタとして用いている。
【0060】
上記の三元交雑又は四元交雑により得られたブタにおいては、KIT遺伝子の白色検出部のアレルとして、白色種と同様に塩基Gと塩基Aの両方が検出され、また4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種と同様に4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。従ってこの方法によって、上記の三元交雑種又は四元交雑種が白色種のもつアレルを有することを判定することもでき、その結果、交雑種の作製に白色種が確かに用いられたことを確認することができる。
【0061】
(2) DNAチップを用いる検出
DNAチップなどのDNAマイクロアレイアッセイとしては、GeneChipTMアッセイが有名である(Affymetrix社;米国特許第6,045,996号、同第5,925,525号、及び同第5,858,659号参照)。しかしながら、本明細書において「DNAチップを用いる検出」とは、Affymetrix社製のDNAマイクロアレイを用いる方法に限定されるものではなく、核酸プローブを支持体に固定した各種の固相担体を用いる方法を包含する。そのため、本明細書において、本発明の検出法の説明のために用いる「DNAチップ」との用語は、核酸プローブを支持体に固定した各種の固相担体を包含するものとして用いる。
【0062】
一般的には、DNAチップを用いる検出法は、支持体(例えばガラス基板)上に、塩基配列が既知の複数種の異なった核酸プローブを固定して、その上で標識したターゲット核酸のハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズした核酸プローブからの標識シグナル(一般的には蛍光シグナル)を特異的に検出する方法である。この検出には、当業者には公知の様々な標識シグナル読み取り法を用いることができるが、蛍光シグナルの検出の場合は通常、1〜20μmの解像度を有する蛍光スキャナで検出する。
【0063】
DNAチップには、大きく分けてcDNA、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド等の一本鎖核酸を支持体に固定するDNAマイクロアレイ(張り付け型)と、オリゴヌクレオチドを支持体表面上で合成していくことにより該オリゴヌクレオチドを固定化するオリゴDNAチップ(合成型)がある。一般的なチップの大きさは1〜10cm2であり、この上に数千〜数十万種の核酸プローブを整列させることができる。一塩基多型を分別検出することを目的とする場合は、核酸プローブとしては、10〜30塩基長、好ましくは15〜25塩基長の長さの一本鎖オリゴDNAを用いることが好ましい。
【0064】
DNAチップを用いて上記遺伝子多型のアレルを検出する場合には、検出すべきアレル毎に、そのアレルを含むポリヌクレオチドを作製し、核酸プローブとして用いる。そのようなポリヌクレオチドとしては、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれを用いてもよい。またセンス鎖とアンチセンス鎖の両方を用いることによって、その検出精度を向上させることができる。一方、ある多型部位に存在する2つのアレルのうち、特に検出すべきアレルがある場合には、検出すべきアレルを含むポリヌクレオチドのみを用いて、もう一方のアレルを含むポリヌクレオチドは用いずに、簡便に検出を行うこともできる。但し、ある多型部位に存在する2つのアレルについて、そのアレルのそれぞれを含むポリヌクレオチドをともに用いることによって、クロスハイブリダイゼーションの影響(ミスマッチプローブにもハイブリダイゼーションシグナルが検出されて判定が困難になること)を最小限に抑え、検出したいアレルに対する検出精度を向上させることができる。
【0065】
5.本発明の固相担体及び固相担体を用いる検出法
本発明は、上記「4.アレルの検出」に好適に用いることができる固相担体にも関する。本発明における「固相担体」とは、上記「2.遺伝子多型とそのアレル」に記載のアレルを含む核酸プローブを支持体に固定したものを意味し、具体的には、DNAマイクロアレイ(cDNAマイクロアレイ等)又はオリゴDNAアレイ等のDNAチップ、プローブ固定化メンブレンフィルター等が挙げられる。本発明において使用できる「支持体」は、核酸プローブを固定化して核酸試料とのハイブリダイゼーションに供しうる固相であれば特に限定されないが、例えばガラス基板、セラミック基板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー、半導体基盤、ガラスや高分子からなる線状体及び樹脂等が挙げられる。
【0066】
本発明の固相担体における核酸プローブとしては、2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部のアレルをそれぞれ含む10〜30塩基長のオリゴヌクレオチドと、白色検出部又は4塩基欠失/非欠失部の少なくとも一方のアレルを含む10〜30塩基長のオリゴヌクレオチドとを適宜選択し、組み合わせて用いる。
【0067】
本発明の固相担体においては、各遺伝子多型について、ブタ品種の識別に特に有用な特徴的なアレルを利用することが好ましい。そのような特徴的なアレルとは、主として、あるブタ品種に特有に検出されるアレルである。本発明の固相担体においては、少なくとも、そのような特徴的なアレルを有する核酸プローブを最小限必要な組み合わせで使用することが好ましい。また、そのような核酸プローブを1種類ずつ、最小限必要な組み合わせで使用することにより、最小限の核酸プローブ数でブタ品種を識別することが可能である。具体的には、本発明における上記遺伝子多型における特徴的なアレルとは、表4に示すものである。また、このような特徴的なアレルを用いる場合の、ブタ品種を相互に識別するのに必要な最低限の組み合わせについても表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
本発明の固相担体において使用できる、表4に記載した特徴的なアレルを有する核酸プローブは、以下(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドを用いるものである。本発明の固相担体においては、(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのうち、いずれの組み合わせの核酸プローブを用いても、ブタの品種の識別用に好適に用いることができる。
(a) 2塩基挿入/非挿入部 [アレル: 非挿入]
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号1〜4に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列からなるオリゴヌクレオチド。
(b) 2塩基挿入/非挿入部 [アレル: 2塩基挿入]
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(c) 黒色検出部 [アレル: 塩基C]
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0070】
(d) 褐色検出部 [アレル: 塩基A]
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号3に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(e) 白色検出部 [アレル: 塩基A]
配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(f) 4塩基欠失/非欠失部 [アレル: 4塩基欠失]
配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTが欠失している、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0071】
上記の(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドに加えて、本発明では、各遺伝子多型の他のアレルを含むオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして任意に追加して使用することができる。そのようにして、多型部位に存在する2つのアレルのそれぞれを含むオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして使用することにより、上記の特徴的なアレルとその他のアレルに対するシグナルの差が明確に示されることから、ブタ品種の識別の精度を高めることができる。本発明の固相担体において、核酸プローブとして追加的に使用できるそのようなオリゴヌクレオチドを、以下(g)〜(j)に示す。
【0072】
(g) 黒色検出部 [アレル: 塩基T]
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号1又は3〜5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(h) 褐色検出部 [アレル: 塩基G]
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号1、2、4若しくは5に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(i) 白色検出部 [アレル: 塩基G]
配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
(j) 4塩基欠失/非欠失部 [アレル: 非欠失]
配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTを含む、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0073】
本発明の固相担体に使用する核酸プローブとしては、上記(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのうちのいずれかの組み合わせのオリゴヌクレオチドを必須とするが、さらに(i)〜(j)のオリゴヌクレオチドから任意のものを選択して用いることができる。好ましくは、本発明の固相担体には、核酸プローブとして(a)〜(j)のオリゴヌクレオチドを少なくとも1種ずつ使用する。
【0074】
上記(a)〜(j)のそれぞれに対するオリゴヌクレオチドは、(a)〜(j)のそれぞれの区分につき少なくとも1種類ずつを選択すればよい。使用するオリゴヌクレオチドは、塩基配列から予想されるアニーリング温度に基づいて、適切な配列長及び塩基配列となるように設計することが好ましい。また、固相担体に固定化するオリゴヌクレオチドの組み合わせの間で、好適なハイブリダイゼーション条件が大きく異ならないように、予想されるアニーリング温度がほぼ同程度になるような塩基配列を設計することが好ましい。塩基配列に基づくアニーリング温度の推定及びそれに基づく核酸プローブの設計の最適化は、当業者に公知の方法を用いて行う。しかしながら、上記(a)〜(j)のそれぞれに対するオリゴヌクレオチドは、(a)〜(j)のそれぞれの区分内から、配列長の異なる複数種類のものを設計して使用してもよいし、センス鎖とアンチセンス鎖をともに設計して使用してもよい。核酸プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの結果は、実験条件によって多少の差異が出ることは避けられないため、各区分について好適なハイブリダイゼーション条件が若干異なる複数のオリゴヌクレオチドを設計して用いることによって、固相担体を用いたブタ品種の識別の精度をさらに高めることができる。
【0075】
本発明において、核酸プローブに特に好適に用いることができるオリゴヌクレオチドは、以下に記載する配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するものである。
【0076】
本発明の核酸プローブには、目的の多型部位以外の多型部位は含まないことが好ましいが、他の多型部位を含む場合には、他の多型部位に存在するアレルのそれぞれをさらに含む核酸プローブを作製して使用する。
【0077】
さらに、本発明において用いる上記核酸プローブは、検出用に好適となるように標識されたものでもよい。例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものであってよい。
【0078】
蛍光色素を用いる場合には、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の定量、検出等に用いられる蛍光が好適に使用でき、例えば、Cy3(1−[6−[(2,5−Dioxo−1−pyrrolidinyl)oxy]−6−oxohexyl]−2−[3−[1−[6−[(2,5−dioxo−1−pyrrolidinyl)oxy−6−oxohexyl]−1,3−dihydro−3,3−dimethyl−5−sulfo−2H−indol−2−ylidene]−1−prppenyl]−3,3−dimethyl−5−sulfo−3H−indolium)、ビオチン(Hexahydro−2−oxo−1H−thieno[3,4−d]imidazol−4−pantanoic acid、vitamin H)、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’−hexachloro−6−carboxyfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(TMR))等を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用できる〔Nature Biotechnology, 14, p303−308 (1996)〕参照」。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製 オリゴヌクレオチドECL 3’ −オリゴラベリングシステム等)。
【0079】
本発明の固相担体の製造においては、核酸プローブは、支持体上で合成することができる。核酸プローブの合成は、例えば固相化学合成法と半導体産業において用いられているフォトリソグラフィー製造技術とを組み合わせた光照射化学合成法(Affymetrix社)に従って行うことができる。この方法では、チップの化学反応部位の境界を明確するためにフォトリソグラフィーマスクを利用し、特定の化学合成工程を行うことによって、アレイの所定の位置にオリゴヌクレオチドプローブが貼り付けられた高密度アレイを構築することができる。
【0080】
また本発明の固相担体の製造においては、核酸プローブは、PCR等の方法により調製してから、支持体上に固定してもよい。この方法では、例えば、予め調製したDNAを高精度分注機で基板にスポットすることによってDNAチップを製造する技術を用いることができる(米国特許第5,807,522号、米国特許第5,716,584号)。スポット方法としては、ピン方式、インクジェット方式、バブルジェット方式、キャピラリー方式等が開発されており、各方式に対応した分注機(スポッター、アレイヤーなどと称される)も、複数の製造業者から販売されている。スポット処理後は、必要に応じてUV照射によるクロスリンク形成、表面のブロッキング、洗浄等の後処理を行う。またスポット方法では、核酸プローブは、表面処理した固相に共有結合で固定化させる。そのため、基板表面は、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等を有する各種シランカップリング剤で処理することが好ましい。一方、核酸プローブには、末端に官能基としてアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチン等を導入する。
【0081】
本発明の固相担体の製造において、支持体への核酸プローブの固定は、上記の方法によるものに限定されず、当業者に公知の任意の方法によって行えばよい。しかしながら、いずれの方法であっても、各核酸プローブはその後のターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの際に特定される必要があるため、その固定位置、塩基配列または部分配列等の情報によって特徴付けられている必要がある。
【0082】
本発明の固相担体を用いる識別法においては、ターゲット核酸として、識別を行うべきゲノムDNAをそのまま用いることもできるが、好ましくは、検出するアレルの存在する多型部位を含む領域をPCR増幅して得られる増幅断片、又は該領域を含むDNA又はRNA断片を調製して用いる。
【0083】
ターゲット核酸の調製のために、検出するアレルの存在する多型部位を含む領域をPCR増幅する場合には、該多型部位を含むように設計したPCRプライマー、又は該多型部位を含む領域を増幅するように設計したPCRプライマーを用いることが好ましい。
【0084】
本発明の固相担体を用いたブタ品種の識別法において、遺伝子多型部位を含むPCRプライマーとしては、上記の(a)〜(f)及び(g)〜(j)に記載したオリゴヌクレオチドのうち、目的のアレルを含むオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0085】
一方、遺伝子多型部位を含む領域を増幅するように設計するPCRプライマーとしては、配列番号1〜5及び57に示す塩基配列に基づいて57〜96塩基長の断片が増幅されるように適宜設計したプライマーを用いればよい。これらのプライマーの設計においては、増幅断片が、完全に相同な配列を有する核酸プローブに特異的にハイブリダイズし、かつ配列上にミスマッチを有する核酸プローブにはハイブリダイズしないようなオリゴヌクレオチドとなるように考慮される。このPCRプライマーとしては、本発明では、好ましくは以下に記載する配列番号36〜45に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを用いる。
【0086】
〔1〕2塩基挿入/非挿入部を含む領域の増幅用
5’− GGAGAGGAGGCTGCTGGCTT −3’ [配列番号36] (20mers:forward Tm69.9)
5’− TGGTTGGTCTGGTTGGCGGC −3’ [配列番号37] (20mers:reverse Tm75.1)
〔2〕黒色検出部を含む領域の増幅用
5’− GTGAGCAACRTGCTGGAGACG −3’ [配列番号38] (21mers:forward Tm70.6)
5’− CCTGGGCGGCCAGGGCGC −3’ [配列番号39] (18mers:reverse Tm80.2)
〔3〕褐色検出部を含む領域の増幅用
5’− CTCCACAAGACGCAGCACCC −3’ [配列番号40] (20mers:forward Tm70.4)
5’− TGCCCAGCAGAGGAGGAAGA −3’ [配列番号41] (20mers:reverse Tm69.7)
〔4〕白色検出部を含む領域の増幅用
5’− TGATTCTAATTACGTGGTCAAAGGAA −3’ [配列番号42] (26mers:forward Tm68.1)
5’− GGGACTGTCAGGAGAGCGTGG −3’ [配列番号43] (21mers:reverse Tm70.9)
〔5〕4塩基欠失/非欠失部を含む領域の増幅用
5’− CACCTTGCCAAAGGCACCTC −3’ [配列番号44] (20mers:forward Tm69.5)
5’− CAGGACAATGGGAACATCTTAAAGAA −3’ [配列番号45] (26mers:reverse Tm69.6)
【0087】
本発明における上記PCRプライマーとしては、上記のオリゴヌクレオチドを検出用に標識したものを用いてもよい。例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されている上記オリゴヌクレオチドであってもよい。なお、PCRプライマーの標識用に用いることができる蛍光色素は、上記で核酸プローブについて記載したものと同じである。
【0088】
また本発明のPCRプライマーには、その末端にアレル検出のためのリンカー配列が付加されたものも含む。このようなリンカー配列としては、例えば、インベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
【0089】
なお、本明細書中における「核酸」は、ポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドを包含するものとする。また「ポリヌクレオチド」「オリゴヌクレオチド」はDNA及びRNAの両方を含むものとする。また「ポリヌクレオチド」は2本鎖であっても1本鎖であってもよく、したがって、ある配列を有するポリヌクレオチドには、これに相補的な配列を有するポリヌクレオチドも常に包含される。さらに、ポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表に示される塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする。さらに、本発明の「ポリヌクレオチド」「オリゴヌクレオチド」は、ハイブリダイゼーションにより形成される二本鎖の安定性が増すように設計された各種の修飾塩基(例えばホスホロチオ酸誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチド等)を含有するように改変又は合成したものでもよい。
【0090】
本発明の固相担体を用いた識別法においては、配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットをガラス基板に固定したDNAチップが、特に好適に用いられる。
【0091】
本発明の固相担体を用いた識別法では、まず固相担体と、目的の多型部位を含むターゲット核酸とを高ストリンジェンシー条件下で特異的にハイブリダイズさせ、そのターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出することによって、ハイブリダイズした核酸プローブを同定する。このハイブリダイゼーションの検出には、本発明では当業者に公知の様々な技術を用いることができる。例えば、ハイブリダイゼーションの検出は、ハイブリダイズしている核酸プローブの有する標識、又はハイブリダイズしているターゲット核酸の有する標識からのシグナル(例えば蛍光)を検出することによって行うことができる。ターゲット核酸と核酸プローブとの配列が完全に一致しているハイブリダイゼーションの場合、検出されるシグナルの強度は強い。一方、ターゲット核酸と核酸プローブとの間で配列のミスマッチが存在するハイブリダイゼーションの場合、検出されるシグナルの強度はごく弱いか又は検出されない。
【0092】
ターゲット核酸と核酸プローブとの間のハイブリダイゼーションを検出する具体的手順としては、例えば、PCRプライマーを蛍光標識しておき、そのプライマーを用いて増幅することにより増幅産物(ターゲット核酸)を蛍光標識し、該ターゲット核酸を固相担体上の核酸プローブとハイブリダイズさせ、さらに該ターゲット核酸からのシグナルを蛍光読み取りスキャナーで読み取ることによって、ターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する例が挙げられる。
【0093】
ここで、ある遺伝子多型部位のアレルのそれぞれを含む核酸プローブを固定した固相担体を使用して、ターゲット核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズさせると、ターゲット核酸の配列と一致するアレルを有する核酸プローブについては、他のアレルを含みミスマッチのある核酸プローブよりも非常に強いシグナルが検出される。この検出結果から、強いシグナルが検出される核酸プローブに含まれるアレルが、ターゲット核酸のアレルであると判定することができる。
【0094】
また、ある複数のアレルを有する遺伝子多型について、いずれかのアレルを含む核酸プローブのみを固定した固相担体を使用してターゲット核酸と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズさせると、ターゲット核酸のアレルがその核酸プローブと一致する場合には、強いシグナルが検出される。一方、ターゲット核酸とその核酸プローブとの間でアレルが異なり、配列間にミスマッチがある場合には、弱い標識シグナルしか検出されないか又は標識シグナルが全く検出されない。従って、この場合に、強いシグナルが検出された場合には、ターゲット核酸はその特定のアレルを有しているものと判定できる。もし弱い標識シグナルしか検出されないか又は標識シグナルが全く検出されない場合には、ターゲット核酸はその特定のアレルを有しないものと判定される。
【0095】
核酸プローブは固相担体における位置、塩基配列情報等で特徴付けされているため、ターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションがシグナル等を用いて検出されれば、そのターゲット核酸の有するアレルが何であるかは容易に判定することができる。
【0096】
6.検出結果の解析
本発明においては、上記のようにして検出されるブタゲノムDNAの上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを、各ブタ品種が有する組み合わせと比較することによって、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0097】
下の表5には、各ブタ品種が有する上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを示す。表5において、”+”は、当該品種においてそのアレルが検出されることを意味する。
【0098】
【表5】
【0099】
本発明のブタの品種の識別法においては、あるゲノムDNAの上記遺伝子多型のアレルの組み合わせを表5と比較し、アレルの組み合わせが一致する品種を同定することにより、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0100】
例えば、あるブタ個体が有するゲノムDNAについて、2塩基挿入/非挿入部のアレルが非挿入、黒色検出部のアレルが塩基T、褐色検出部のアレルが塩基G、4塩基欠失/非欠失部のアレルが非欠失であると判定された場合には、表5を参照すると、そのゲノムDNAを有するブタの品種は、ハンプシャー種であると判断できる。
【0101】
また、本発明の識別法において、表4に示した特徴的なアレルを含む核酸プローブのみを使用したDNAチップによる検出法を用いてアレルを検出する場合には、その検出法により検出された特徴的なアレルを表4又は5と比較し、その組み合わせが一致する品種を特定することにより、そのゲノムDNAを有するブタの品種を特定することができる。
【0102】
この場合の例としては、例えば、あるブタ個体に由来するゲノムDNAについて、特徴的なアレルとして、2塩基挿入/非挿入部に対する「非挿入」及び「2塩基挿入」、黒色検出部に対する「塩基C」、褐色検出部に対する「塩基A」、並びに白色検出部に対する「塩基A」のアレルをそれぞれ含む核酸プローブのみを使用したDNAチップを用いてアレルを検出した結果、2塩基挿入/非挿入部については「2塩基挿入」のアレルが検出されたが、黒色検出部については「塩基C」のアレルが検出されず、褐色検出部については「塩基A」のアレルが検出されず、さらに白色検出部については「塩基A」のアレルが検出されない場合、検出されたアレルは2塩基挿入/非挿入部の「2塩基挿入」のみなので、表4より、そのゲノムDNAはバークシャー種由来であると判断することができる。
【0103】
さらに、ゲノムDNAが由来するブタ個体が、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種のうちの2種以上を用いた交雑種である場合にも、そのゲノムDNAのアレルの組み合わせを表4又は表5と比較することにより、交雑種であることの判断及びその交雑に関与した品種の推定を行うことができる。
【0104】
具体的には、ブタ1個体から得たゲノムDNAについて、そのアレルの組み合わせが表5に示した品種のいずれにも当てはまらない場合には、そのゲノムDNAを有するブタは、これらの品種の2つ以上を交配した交雑種である可能性がある。
【0105】
例えば、三元交雑種、すなわちランドレース種(白色)のメスに大ヨークシャー種(白色)のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種(褐色)のオスを掛け合わせたブタのゲノムDNAを、本発明の識別法に供すると、そのアレルは、2塩基挿入/非挿入部について2塩基挿入と非挿入との両方、黒色検出部について塩基T、褐色検出部について塩基Aと塩基Gの両方、白色検出部について塩基Aと塩基Gの両方、及び4塩基欠失/非欠失部について4塩基欠失と非欠失との両方が検出される。このアレルの組み合わせは、表5を参照すると、白色種とデュロック種に特徴的なアレルの組み合わせを含むことが分かる。従って、このゲノムDNAを有するブタは、少なくとも白色種とデュロック種とを交配に用いた交雑種として識別することができる。このように、本発明の方法による識別結果は、上記三元交雑ブタにおける交配パターンを正しく反映する。
【0106】
但し、ゲノムDNAが複数のブタ個体よりなる集団からまとめて得た試料である場合に、本発明の識別法においてブタの品種が2種以上特定されたときは、それらのブタ品種の交雑種が含まれる可能性の他、それらのブタ品種が集団中に別個に含まれる可能性もある。
以上説明した通り、識別したいブタのゲノムDNAについて検出した上記アレルの組み合わせに基づいて、ゲノムDNAが有するブタの品種を特定することができる。
【0107】
7.その他の実施形態
本発明は、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、上記「5.本発明の固相担体及び固相担体を用いる検出法」に記載されている(a)〜(e)の組み合わせ、(a)〜(d)及び(f)の組み合わせ、及び(a)〜(f)の組み合わせのオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0108】
さらに本発明は、同項目5.に記載されている(g)〜(j)からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物をさらに含むそのようなセットであって、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、オリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0109】
さらに本発明は、本発明の固相担体に固定するか又は上記のPCRプライマーとして用いる、配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットにも関する。
【0110】
なお、本明細書において、「オリゴヌクレオチド又はその標識物のセット」とは、目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(又はその標識物)がそれぞれ含まれるように構成された、オリゴヌクレオチド又はその標識物の集合体を意味する。
【0111】
本発明はまた、RFLP法及びPCR−FLP法を用いる本発明の識別法において好適に用いることができる、以下の(1)〜(5)の試薬を含むキットにも関する。
(1) 配列番号6及び7に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー(2塩基挿入/非挿入部検出用)
(2) 配列番号8及び9に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素AciI(黒色検出部検出用)
(3) 配列番号10及び11に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素HhaI(褐色検出部検出用)
【0112】
(4) 配列番号12及び13に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素NlaIII(白色検出部検出用)
(5) 配列番号14及び15に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー(4塩基欠失/非欠失部検出用)。
但し、(4)及び(5)の試薬は、少なくとも一方が含まれていればよい。もちろん(4)と(5)の両方が含まれていてもよい。
【0113】
さらに本発明は、上記の固相担体、及び/又は配列番号36〜45に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーのセット(ターゲット核酸を得るためのPCRプライマーのセット)を含む、試薬及びキットにも関する。この試薬やキットは、固相担体を用いる本発明の識別法において、好適に用いることができる。
【0114】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これら実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0115】
〔実施例1〕ブタゲノムDNAの調製
各ブタ品種{大ヨークシャー41頭、ランドレース86頭、デュロック33頭、メイシャン39頭、バークシャー114頭、(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー28頭}の血餅、血液及び肉片を農林水産省畜産試験場(茨城県)、沖縄県畜産試験場(沖縄県)、鹿児島県畜産試験場(鹿児島県)、神奈川県畜産試験場(神奈川県)、石川県畜産試験場(石川県)、岡山県畜産試験場(岡山県)、三井物産株式会社(東京都)から入手し、ゲノムDNAを得た。また、群馬県の山中で、狩猟により採取された日本イノシシの耳介の肉片を入手し、ゲノムDNAを得た。
【0116】
血餅からのゲノムDNA抽出の場合、血餅約4〜5mlに対し、350μlのCell lysisNP−40 バッファー (NaCl 140mM, MgCl2 1.5mM, Tris−HCl pH8.5 100mM, 0.5% NP−40)、4.5mlの細胞溶解 SDSバッファー(EDTA 12mM, NaCl 120mM, SDS 1.2%)、50μlのプロテイナーゼK 溶液 (10mg/ml)を加え、撹拌した後、55℃で一晩反応させた。次に70℃で10分間熱を加えることによりプロテイナーゼ Kを失活させた後、20μlのRnase 溶液(10mg/ml)を加え、2時間放置しRNAを消化した。その後、同量のフェノール液で2回抽出し、さらにフェノール・クロロホルムで1回抽出した。水層を分離し、2容のエタノールと1/10容の3M 酢酸ナトリウムを加え、析出したDNAをガラス棒でとり、70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0117】
血液からのゲノムDNA抽出の場合、抗凝固剤としてEDTA−2Na(血液1mlに対し、EDTA−2Naを1.5mg使用)または、ヘパリンナトリウム(血液10mlに対し、ヘパリンナトリウム90単位)を用い、タカラ酒造製のDNA抽出キット、GenとるくんTM(血液用)を用い、説明書に従ってDNAを抽出した。すなわち、血液2mlに対して、10mlのGenTLE 溶液Iを加え、直ちに数秒間撹拌し、室温で10分間静置後、遠心分離を室温で12,000×g、5分間行った。上清を除いた後、沈澱物に12mlのGenTLE 溶液IIを加え、転倒混和した後、室温において12,000×g、2分間遠心分離を行った。上清を除いた後、沈澱物に7mlのGenTLE 溶液nIIIを加え、10秒間撹拌を行った。室温において12,000×g、5分間遠心分離を行った後、上清を新しいチューブに移し、等量のイソプロパノールを加え、転倒混和を充分行った。この時、DNAの白い沈殿が確認できるが、それを12,000×g、5分間遠心分離により回収後、70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0118】
肉片からのゲノムDNA抽出の場合、STRATAGENE社のDNA抽出キット(DNA Extraction Kit; ♯200600)を用い、説明書の手順を改変した方法によりDNAを抽出した。方法の概略を次に示す。肉片約300mgをハサミで細分化し(1〜2mm角程度)、2mlのマイクロチューブ内に入れ、Solution 2を737μl加え、よく混ぜ合わせた後、pronase(225mg/ml)を2.7μl加え、転倒撹拌しながら37℃で一晩放置した。次に氷上で10分間おいた後、Solution3を263μl加え、5分間氷上に静置した。2,000×gで15分間遠心後、上清を新しい2mlのマイクロチューブに移し、RNase(10mg/ml)を2μl加え37℃で15分間静置した。その後、1容のイソプロパノールを加え、析出したDNAをチップの先で回収した。これを70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、200μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)に溶かした。OD260nmで吸光度を測定し、DNA濃度を決定した後、50ng/μlのDNAサンプルとして調整した。
【0119】
〔実施例2〕PCR法によるブタBACライブラリーのスクリーニング:メラニン細胞刺激ホルモンレセプター(MC1R)遺伝子について
プライマーとしてMR011(forward;配列番号46)とMR012(reverse;配列番号47)を使用した。ここでforwardはフォワードプライマーを、reverseはリバースプライマーを表す。なおマウスのMC1R遺伝子の配列(accession number;X65635)の塩基番号によると、MR011の5’側の最初の塩基は194番の塩基に相当し、MRO12の5’側の最初の塩基は598番の塩基に相当する。このプライマーを用いたPCRによってブタMC1R遺伝子の405bpの増幅産物が得られる。ブタBAC(Bacterial artificial chromosome)ライブラリーとしては農林水産先端技術研究所(STAFF研:茨城県つくば市)の所有する10万クローンを用い、MC1R遺伝子の存在するクローンを検索した。その結果、番号(13F12)のクローンを抽出した。
【0120】
〔実施例3〕ブタBACクローンからのDNA抽出
MC1R遺伝子を含んだブタBACクローン(番号13F12)から、BAC−DNAを抽出した。BAC−DNAの抽出にはQIAGEN社のPlasmid Midi Kitsを用いた。方法の概略を以下に示す。
【0121】
BACクローンをクロラムフェニコール(Cm+:12μg/ml)としたTerrific Broth(TB)培養液2mlに入れ、試験管で1晩増殖させる。次に100mlのTB(Cm+)にBACクローン培養液を入れ、さらに1晩震盪させる。
【0122】
増殖後、培養液を500mlのチューブに入れ、4℃、6,000rpmで20分間遠心する。上清を捨て、Plasmid Midi KitsのP1 bufferを15ml加え、震盪器にかけて、菌体を完全に懸濁させる。これにP2 bufferを15ml加え、3回反転させて撹拌し、室温で5分間静置する。その後、氷冷したP3 buffer 15mlを加え、ゆっくり3回反転させて、撹拌した後、氷中で15分間冷却する。氷冷後、4℃、8,000rpmで30分間遠心する。Plasmid Midi KitsのQIAGEN−tip 100(カラム)を事前にQBT buffer4mlを滴下した後で、そのカラムにろ過したBACクローンの上清を滴下する。カラムはQC buffer、10mlで2回洗浄し、65度で温めておいたQF buffer、5mlをカラムに通すことで、DNAを抽出する。この抽出液に等量のイソプロパノールを加え、4℃で30分間静置した後、4℃、10,000rpmで30分間遠心し、DNAを沈殿させた後、上清を捨て、70%エタノールで洗浄した後、乾燥させ、150ulのTE(10mM Tris−HCl
pH8.0, 1mM EDTA)に溶かして試料とした。
【0123】
〔実施例4〕ダイレクトシークエンシングによるMC1R遺伝子とその構造領域上流の塩基配列決定
上記の方法で抽出、精製したBAC−DNAの塩基配列を、ダイレクトシークエンシング法により決定した。Applied Biosystems製のDNAシークエンサー(ABI PRISM377 DNA SEQUENCER)とDNAシークエンシング用試薬(BigDye Terminator CycleSequencing FS Ready Reaction Kit)を用いた。プライマー MR012からMC1R遺伝子の制御領域に向い、塩基配列の決定のためにプライマーウォーキングを行った。この方法はまずプライマーを用い、ダイレクトシークエンシングで塩基配列を決定した後、その決定した配列の先の部分にプライマーを作製し、次のダイレクトシークエンシングで更に先まで塩基配列を順次決定していく方法である。方法の概略を以下に示す。
【0124】
上記に抽出したBAC−DNA 5μlを鋳型として、8μl Terminator Ready ReactionMix 、各3.2pmolプライマー(MR012)に蒸留水を加え20μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性96℃10秒、アニーリング50℃5秒、伸長反応60℃4分を1サイクルとし、これを25回行った。エタノール沈殿のため、20μlの反応液に対し50μlの100%エタノールと2μlの3M酢酸ナトリウムを加え、氷上で10分間静置した後、4℃で14,000rpm、20分間遠心した。沈殿を分離し、70%のエタノールを加え洗浄した後、遠心乾燥器で乾燥した。
【0125】
乾燥した反応物に対し、4μlのローディング溶液(脱イオンホルムアミド:ブルーデキストラン溶液=5:1、ブルーデキストラン溶液は25mM EDTAにブルーデキストラン(50mg/ml)を溶かして作る)を加え、DNAをよく溶かした後、90℃で2分間加熱し、加熱後すぐにサンプルを氷上に置き急冷した。
【0126】
DNAシークエンシングは、48cmのゲル板(377,48cmガラスプレート;PERKIN ELMER社製)と、アクリルアミドゲルはバイオメイト製のDNAシーケンス分析用ゲル調整液(Pageset Series)を用いた。室温下で2時間以上静置し、アクリルアミドを完全にゲル化した後、シークエンシングを行った。シークエンシングはABI PRISM 377 DNA SEQUENCER(Applied Biosystems製)を用い、8時間の電気泳動を行った。塩基配列の解析には、377シークエンサーに付属のソフトウエア(ABI Prism 377 Analysis)及びソフトウエア開発株式会社製のGENETYX−MAC Version 8を用いた。
【0127】
プライマーMR012で配列を確定した後、さらに構造領域上流にかけて配列を決定しながらプライマーを6個作製し、MC1R遺伝子の翻訳開始点から1968bpまでの塩基配列を決定した。さらに、その到達点から配列確定用のforwardプライマーを3つ合成した。合成したプライマーは以下の通りである。
【0128】
MR016(+50番、reverse):配列番号48
MR017(−79番、reverse):配列番号49
MR018(−271番、reverse):配列番号50
MR019(−815番、reverse):配列番号51
MR020(−1322番、reverse):配列番号52
MR026(−1968番、forward):配列番号53
MR027(−1069番、reverse):配列番号54
MR028(−1217番、forward):配列番号55
MR029(−1912番、forward):配列番号56
【0129】
カッコ内の番号は、塩基配列の確定後、MC1R遺伝子の翻訳開始コドンの最初の塩基を+1番とした場合における、各プライマーの5’端の塩基がハイブリダイズする位置の番号である。
【0130】
MC1R構造遺伝子部分については、MR011(forward;配列番号47)を用い、ブタBACクローン(番号13F12)のシークエンスを行った。配列番号1のサンプルにおいて塩基番号2,739番目の塩基まで1方向で配列を決定し、塩基番号2,739番目の塩基を5’端とするリバースプライマー264(DuR:配列番号10)を作製し、シークエンシングにより配列を確定した。
【0131】
〔実施例5〕LA−PCRによる各ブタ品種のMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列決定(1) LA−PCR
LA−PCRのためのTaqポリメラーゼは宝酒造製のTaKaRa LA TaqTMを用いた。DNA250ngを鋳型として、400μM dNTPs、1μM プライマー(Kit16N,Kit19C)、1×PCR バッファーIに、2.5ユニットのTaKaRa LA TaqTMを加え、50μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性98℃秒、アニーリングと伸長反応68℃7分を1サイクルとしたシャトルPCRで、これを35サイクル行った。
(2) アガロースゲル電気泳動によるPCR産物の確認
上記のLA−PCRによって得られた産物について電気泳動を行った。電気泳動装置としては、コスモ・バイオ製のミューピッドを用いた。ゲルトレーに泳動ゲル(組成は1%アガロース;GIBCO BRL製、ultra PURE Agarose、1×TAE(Tris−acetate−EDTA)緩衝液)を作製し、PCRの終了したサンプルを5μl添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色した。その後紫外線(260nm)をあて、増幅したDNAのバンドを確認した。
(3) DNA断片の精製
上記の方法でDNAの増幅が確認できた段階で、PCR産物をアガロースゲルから抽出、精製した。大きめのウェル(50μlが入る程度)を作ることができるコームを用い、ゲルトレーに泳動ゲル(組成は1%アガロース;GIBCO BRL製、ultra PURE アガロース、1×TAE(Tris−acetate−EDTA)緩衝液)を作製し、PCRによって増幅したDNAを全量添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色し、紫外線(260nm)をあてることにより蛍光発色したDNAバンドをカッターナイフの刃で切り取り、ゲル抽出キット(キアゲン製、QIAquick Gel Extraction Kit)を用い抽出、精製した。方法の概略を以下に示す。
【0132】
増幅したDNAを含むアガロースゲル断片の重さを計り、ゲル1容に対し3容のQG バッファーを加え50℃で10分間加温することにより、ゲルの断片を完全に溶かした。この溶液に、ゲル1容に対しイソプロパノール1容を加えた。以下の手順は室温で行った。スピンカラム(DNAトラップ用のメンブレンがある)を2mlのコレクションチューブ上においた後、スピンカラムに上記のサンプル溶液を添加した。13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブにたまった液を除いた。
【0133】
この操作をサンプル溶液がなくなるまで繰り返した。次にスピンカラムに0.5mlのQGバッファーを加え、13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブに溜まった液を除いた。次にスピンカラムに0.75mlのPE バッファーを加え、5分間静置後、13,000rpmで1分間遠心し、コレクションチューブにたまった液を除いた。 再度、遠心によりスピンカラムからPE バッファーを完全に除いた後、スピンカラムを1.5mlのマイクロチューブにおき、50μlのEBバッファーを加え、1分間静置後、13,000rpmで1分間遠心し、溶出したDNA溶液を回収した。
【0134】
(4) ダイレクトシークエンシング及びTAクローニングによるMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列決定
実施例1に記述した方法と同様にしてMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列を決定した。その結果、アガロースゲルでの増幅DNA断片の確認では、約2.5Kbpであることが分かった。
【0135】
ダイレクトシークエンシングの結果、個体内で変異が存在した場合と、PRE1配列でアデニン(A)の繰り返しのため、ダイレクトシークエンシングで配列が確定できなかった場合には、各配列の確定のためTAクローニングを行った。TAクローニングにはInvitrogen製のTOPO TA Cloning Kitを用いた。以下に方法の概略を示す。
【0136】
(1)により得られたPCR産物1μl(10ng/μl)に1μl のPCR−TOPO ベクターを加え、3μlの滅菌水で計5μlとし、室温で5分間放置することにより、PCR産物のベクターへのライゲーションを行った。One Shot cell(コンピテントセル)のバイアルを氷上に置き、コンピテントセルを解凍した後、2μlの0.5M β−メルカプトエタノールを加え、ピペットで緩やかに混ぜ合わせた。このコンピテントセルに上記のライゲーションを行ったベクターを2μl加え、氷上で30分間放置後、42℃で30秒間ヒートショックを行った。250μlのSOC 培地を加え、37℃で30分間培養した後、LB寒天培地(LB plate; 50μg/mlアンピシリン、1.6mg/プレート X−gal、1mg/プレート IPTGを含む)に広げ、37℃でオーバーナイトのインキュベーションを行った。
【0137】
インサートの入っている白色のコロニーを、2mlのLB 培地(Luria−Bertani 培地、50μg/mlアンピシリン)にピックアップし、オーバーナイトで培養した後、プラスミド抽出キット(GFXTM Micro Plasmid Prep Kit; amersham pharmacia biotech製)を用い、プラスミドを抽出した。以下に方法の概略を示す。
【0138】
培養した大腸菌を2mlのマイクロチューブに入れ、室温で13,000rpm、30秒間遠心することにより集菌した。上清を捨て、大腸菌のぺレットに溶液Iを300μl加え、ボルテックスで完全にぺレットをとかした。次に溶液IIを300μl加え、マイクロチューブを10〜15回転させた後、溶液IIIを600μl加え、マイクロチューブを10〜20回転させた。室温で13,000rpm、5分間遠心し、コレクションチューブ上においたGFXカラムに上清を移し、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心した。コレクションチューブに溜まった液を捨て、残りの上清をGFXカラムに移し、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心した。400μlの洗浄バッファーをカラムに入れ、室温で13,000rpm、1分間遠心した後、GFXカラムを1.5mlのマイクロチューブに移した。プラスミドを溶出させるため、50μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA)をGFXカラムに入れ、室温で1分間静置後、室温で13,000rpm、1分間遠心し、プラスミド溶液を回収した。
【0139】
各ブタ個体(バークシャー種、ハンプシャー種、デュロック種、大ヨークシャー種、ランドレース種、ピエトレン種、メイシャン種、日本イノシシ)について、各3〜12サンプルずつプラスミドを抽出した。PRE1配列のアデニン(A)の並びを明らかにすることができるプライマーを用いて、すなわち、プライマーMR027とプライマーMR028を用いてアデニン(A)の数を確定した。得られたDNAについてダイレクトシークエンシングを行い、全ての塩基配列を決定した。
【0140】
(5)ダイレクトシークエンシングにより決定したMC1R遺伝子構造領域上流の塩基配列
MC1R遺伝子の塩基配列を決定した結果、配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAを得た。日本イノシシ1頭を調べた結果、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAを得た。メイシャン種1頭を調べた結果、配列番号2に示す塩基配列を有するDNAを得た。デュロック種1頭を調べた結果、配列番号3に示す塩基配列を有するDNAを得た。ハンプシャー種1頭を調べた結果、配列番号4に示す塩基配列を有するDNAを得た。大ヨークシャー種、ランドレース種、バークシャー種及びピエトレン種各1頭を調べた結果、配列番号5に示す塩基配列を有するDNAを得た。
【0141】
配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAをソフトウエアGENETYX−MAC Version 8のマルチアライメント機能を用い、塩基配列の比較を行った。塩基の変異部位を図1に示す。この表は、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAを基準とし、同じ塩基については(−)で、また、異なった塩基についてはその塩基の記号(A,G,C,Tのいずれか)を記した。欠失の場合は(*)で記した。ここで、1番目の塩基は、MC1R遺伝子の翻訳開始コドンの最初の塩基を+1番とした場合における、−1968番目の塩基である。
【0142】
(6)図1に示される遺伝的変異
配列番号1〜5に示す塩基配列を有するDNAについて塩基配列の比較を行った。結果、塩基置換の類似性が観察された。例えば配列番号1〜2に示す塩基配列を有するDNAの塩基置換のパターンはよく似ていた(全体で70箇所の変異のうち、39箇所が同じ塩基)。これらの配列を有するブタ品種は日本イノシシ、メイシャン種等の東洋を起源とするものであるため、これらの配列は東洋起源と推察される。
【0143】
配列番号3〜5に示す塩基配列を有するDNAの塩基置換のパターンはよく似ていた(全体で70箇所の変異のうち、63箇所が同じ塩基)。これらの配列を有するブタ品種は大ヨークシャー種、ランドレース種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ピエトレン種といった西洋を起源とするものであるため、これらの配列は西洋起源と推察される。
【0144】
〔実施例6〕RFLP及びPCR−FLP分析によるMC1R遺伝子の2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部の多型検出
配列番号1〜5に示す塩基配列について、図1に示す+62と+63番目の連続するギャップ(塩基配列CCの挿入/非挿入)をPCR−FLP法で、+307番目の多型 [黒色検出部]と+729番目の多型をRFLP法で調べた。本明細書では、この+62と+63番目の連続するギャップ(挿入/非挿入)を、2塩基挿入/非挿入部と名付けた。また+307番目の多型を黒色検出部、+729番目の多型を褐色検出部と名付けた。
【0145】
この検出では、まずPCR法により多型を含む部分について増幅を行い、2塩基挿入/非挿入部についてはそのまま電気泳動にかけ、また黒色検出部及び褐色検出部については、制限酵素でDNAを切断し、電気泳動によりDNA断片を確認した。
【0146】
(1) PCR増幅及び電気泳動
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER製のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型として、200μM dNTPs、1μM フォワードプライマー及び1μM リバースプライマー、1×PCR バッファー、20ng BSAに、2.5ユニットのAmpliTaq Goldを加え、50μlの反応液とした。PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリングと伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング67.5℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを40回行った。
【0147】
フォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、次のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
a) 2塩基挿入/非挿入部:
プライマー161(MR031: 5’− GGA GAG GAG GCT GCT GGC TT −3’ [配列番号12]) (forward Tm69.9)
プライマー160(MR030: 5’− TGG TTG GTC TGG TTG GCG GC −3’ [配列番号13])(reverse Tm75.1)
b) 黒色検出部:
プライマー261(MeiF: 5’− GTG AGC AAC RTG CTG GAG ACG −3’ [配列番号6])(forward Tm70.6, Rはaとgで縮重)
プライマー282(MrC6: 5’− CCT GGG CGG CCA GGG CGC −3’ [配列番号7])(reverse Tm80.2)
c) 褐色検出部:
プライマー263(DuF: 5’− CTC CAC AAG ACG CAG CAC CC −3’ [配列番号8])(forward Tm70.4)
プライマー264(DuR: 5’− TGC CCA GCA GAG GAG GAA GA −3’ [配列番号9])(reverse Tm69.7)
【0148】
以上のPCR条件に基づき、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、ランドレース種、バークシャー種、三元交雑ブタ(ランドレース種のメスに大ヨークシャー種のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種のオスを掛け合わせたブタ)のブタ個体から得たゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて増幅し、PCR産物を調製した。
2塩基挿入/非挿入部に対するPCR産物については、そのまま次のポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0149】
黒色検出部と褐色検出部に対するPCR産物については、次いでまず実施例5に記述したのと同様の方法で、アガロースゲル電気泳動に供して確認を行った。この確認によって示されたPCR産物のサイズは、それぞれ、塩基配列から推定される64bp及び96bpと一致していた。続いて、PCR増幅済みの反応液10μlに対し、制限酵素0.5μl、制限酵素に添付されている10×バッファーを2μl加え、滅菌水で20μlとして、37℃でインキュベートすることにより制限酵素処理を行った。制限酵素は、黒色検出部に対してはAciI(MBI Fermentas製)、褐色検出部に対してはHhaI(ニッポンジーン製)を用いた。制限酵素と4時間以上反応させることにより充分に切断したこれらの断片を、続いてポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0150】
続くポリアクリルアミドゲル電気泳動は、以下の通り行った。泳動装置は日本エイドー製の恒温式2連スラブ電気泳動槽(NA−1113型)を用いた。10%のポリアクリルアミドゲルプレート(組成は10%アクリルアミド;アクリルアミド:ビスアクリルアミド=19:1、1×TBE(Tris−ホウ酸−EDTA)緩衝液)を作製し、PCR増幅産物および制限酵素処理したサンプルを10μl添加した。次いで100ボルトの電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAバンドをEtBr溶液(ethydium bromide;10μg/100ml)で染色した。その後紫外線(260nm)をあて、DNAのバンドを確認した。得られた電気泳動結果を、図2に示す。
【0151】
なお、図2中の略語の説明は以下の通りである。
m: 分子量マーカー(25bpラダーマーカー)
M: メイシャン種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
D: デュロック種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
B: バークシャー種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
H: ハンプシャー種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
L: ランドレース種のゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
T: 三元交雑ブタのゲノムDNAを鋳型として得たPCR産物
HDはヘテロ鎖(Hetero−duplex form)である。
【0152】
(2) 多型検出
a) 2塩基挿入/非挿入部
2塩基挿入/非挿入部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図2aに示した。
図2aに示す通り、2塩基挿入/非挿入部に対する上記のPCR産物は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。バークシャー種及びランドレース種においては、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種と比較して長い断片長のPCR産物が示された。三元交雑ブタにおいては、両方の長さのPCR産物が示された。
【0153】
一方、配列番号2〜5の塩基配列からは、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種において81bpのPCR産物が、また白色種及びバークシャー種においては83bpのPCR産物が増幅されると推定される。図2aの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2aでは、2塩基挿入/非挿入部のアレルが非挿入であるメイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種において81bpのPCR産物が示され、また2塩基挿入/非挿入部のアレルが2塩基(CC)挿入であるランドレース種及びバークシャー種において、83bpのPCR産物が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいては、81bpと83bpの両方のPCR産物が示された。なお三元交雑ブタのレーンにみられる最もサイズの大きいバンドは、83bpと81bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。
【0154】
従って、PCR−FLP法による検出を行うことにより、2塩基挿入/非挿入部のアレルとして、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種における非挿入を、白色種及びバークシャー種における2塩基挿入を、検出できることが示された。また三元交雑種においては、2塩基挿入/非挿入部のアレルとして、メイシャン種、デュロック種及びハンプシャー種で検出される非挿入と、白色種及びバークシャー種で検出される2塩基挿入との両方を検出できることが示された。
【0155】
b) 黒色検出部
PCR産物をAciI処理したサンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図2bに示した。
図2bに示す通り、黒色検出部に対する上記PCR産物のAciI切断断片は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。メイシャン種においては、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ランドレース種及び三元交雑ブタにはみとめられない、かなり短い断片長のPCR産物が示された。
【0156】
一方、AciI処理した上記64bpの断片は、メイシャン種では黒色検出部の配列が塩基置換によってAciI部位となるため30bp、13bp、12bp、9bpの4つのDNA断片となり、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種では43bp、12bp、9bpの3つのDNA断片となることが、塩基配列から推定される。図2bの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2bでは、黒色検出部のアレルとして塩基Cを有するメイシャン種においては30bpの断片が、黒色検出部のアレルとして塩基Tを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては43bpの断片が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、43bpの断片が示された。
【0157】
したがって、RFLP法による検出を行うことにより、黒色検出部のアレルとして、メイシャン種における塩基Cを、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種において塩基Tを検出できることが示された。また三元交雑ブタにおいても、デュロック種及び白色種で検出される塩基Tを検出できることが示された。
【0158】
c) 褐色検出部
確認のためのアガロースゲル電気泳動によって示された、褐色検出部に対するPCR産物のサイズは、塩基配列から推定される96bpと一致していた。
また、該PCR産物をHhaI処理したサンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図2cに示した。
【0159】
図2cに示す通り、褐色検出部に対する上記PCR産物のHhaI切断断片は、ブタ品種によって異なる2つのサイズの断片として増幅された。メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては、デュロック種にはみとめられない、かなり短い断片長のPCR産物が示された。三元交雑ブタでは、両方の長さのPCR産物が示された。
【0160】
一方、HhaI処理した上記96bpの断片は、メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種では褐色検出部の配列がHhaIにより切断されるため、48bpの2つのDNA断片となることが推定される(実際には、HhaIの切断により2塩基の付着端が生じるため、DNA鎖の端末から数えると47bpと49bpの断片となるが、電気泳動では単鎖となった付着端部分が相殺されるため、見かけ上48bpの2つのDNA断片となる)。一方、デュロック種では、褐色検出部の配列が塩基置換によってHhaIで切断されなくなるため、96bpの断片のままであると推定される。図2cの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図2cでは、褐色検出部のアレルとして塩基Gを有するメイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及びランドレース種においては96bpの断片が、褐色検出部のアレルとして塩基Aを有するデュロック種においては48bpの断片が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいては、96bpと48bpの両方のPCR産物が示された。
【0161】
したがって、RFLP法による検出を行うことにより、褐色検出部のアレルとして、メイシャン種、バークシャー種、ハンプシャー種及び白色種における塩基Gを、デュロック種における塩基Aを検出できることが示された。また三元交雑種においては、褐色検出部のアレルとして、デュロック種で検出される塩基Aと、白色種で検出される塩基Gとの両方を検出できることが示された。
【0162】
本実施例においては、MC1R遺伝子の3つの遺伝子多型(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部及び褐色検出部)についての上記のようなRFLP及びPCR−FLP分析を、さらに、大ヨークシャー種41頭、ランドレース種86頭、デュロック種33頭、メイシャン種39頭、バークシャー種114頭(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー種28頭の計341頭から得たDNAサンプルについて行い、各ブタ品種が有するアレルを確認した。その結果、大ヨークシャー、ランドレースおよびバークシャーでは、すべての個体で配列番号5に示す塩基配列を有するDNAを保持していると考えられた。一方、メイシャンは配列番号2、デュロックは配列番号3、ハンプシャーは配列番号4に示す塩基配列を有するDNAを保持していると考えられた。これらの結果から、各ブタ品種は、MC1R遺伝子の上記3つの遺伝子多型について、上述のアレルをほぼ100%の確率で有することが示された。
【0163】
〔実施例7〕PCR−RFLP及びPCR−FLP法による白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部の多型検出
KIT遺伝子の塩基配列は、特許第3116049号明細書において報告されている部分塩基配列を利用する。また白色種では、KIT遺伝子が重複していること、及びKIT遺伝子の少なくとも一方には、白色検出部のアレルとして塩基A、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして塩基配列AGTTの欠失が存在することが知られている。
【0164】
本明細書では、基準種とする日本イノシシのKIT遺伝子の部分配列を配列番号57として示す。本発明のブタの品種の識別法に用いるKIT遺伝子の遺伝子多型、白色検出部と4塩基欠失/非欠失部の多型部位は、それぞれ配列番号57に示される塩基番号1313及び塩基番号3884〜3887の位置に存在する。
【0165】
本検出は、基本的には実施例6と同様にして行った。
(1) PCR増幅及び電気泳動
フォワードプライマー及びリバースプライマーとして、次のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。
a) 白色検出部:
プライマー162(WhiteF: 5’− GGG ACT GTC AGG AGA GCG TGG −3’: 配列番号10;1285番)(forward Tm68.1)
プライマー130(WhiteR: 5’− GGG ACT GTC AGG AGA GCG TGG −3’: 配列番号11;1341番)(reverse Tm70.9)
b) 4塩基欠失/非欠失部:
プライマー135(Kit4gF:5’− CAC CTT GCC AAA GGC ACC TC −3’: 配列番号14;3864番)(forward Tm69.5)
プライマー164(Kit4gR:5’− CAG GAC AAT GGG AAC ATC TTA AAG AA −3’: 配列番号15;3927番)(reverse Tm69.6)
なおカッコ内の番号は、配列番号57に示す塩基配列の最初の塩基を1番とした場合の、プライマーの5’端の塩基がハイブリダイズする位置の番号である。
【0166】
PCR反応は、次の設定で行った。すなわち、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリング65℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング62℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを30回行った。
PCR増幅のための条件は、上記以外の事項については実施例6と同様にして行った。
次いで、4塩基欠失/非欠失部に対するPCR産物については、そのまま次のポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0167】
また白色検出部に対するPCR産物については、まず実施例5に記述したのと同様の方法で、アガロースゲル電気泳動に供して確認を行った。この確認によって示されたPCR産物のサイズは、塩基配列から推定される57bpと一致していた。続いてこのPCR産物を、制限酵素NlaIII(TOYOBO製)を用いて実施例6と同様の手順で制限酵素処理し、得られた処理断片を次にポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。この電気泳動も、実施例6と同様にして行った。得られた電気泳動結果を図3に示す。図3中の略語の意味は、図2と同じである。
【0168】
(2) 多型の検出
a) 白色検出部
白色検出部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図3aに示した。
図3aに示す通り、白色検出部に対する上記のPCR産物については、ブタ品種によって増幅される断片のサイズが異なっていた。ランドレース種及び三元交雑ブタにおいては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種と同じ断片長のPCR産物に加えて、それらの品種にはみとめられない短い断片長のPCR産物が示された。
【0169】
一方、ランドレース種を含む白色種では、重複した一方のKIT遺伝子の白色検出部の配列が塩基置換によってNlaIII部位となるため、NlaIII処理した上記64bpの断片は28bpと29bpの2つのDNA断片となることが、配列番号57の塩基配列から推定される(具体的にはNlaIIIの切断により、4塩基の付着端が生じ、DNA鎖の端末からでは26bpと31bpの断片となるが、電気泳動では単鎖となった付着端部分が相殺されるため、見かけ上28bpと29bpの2つのDNA断片となる)。白色種におけるもう一方のKIT遺伝子、並びにメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種のKIT遺伝子については、白色検出部の配列はNlaIIIにより切断されないため、57bpの断片のままであると推定される。すなわち、白色種の場合、57bpの断片の他に、28bpと29bpの断片が出現するが、有色種の場合は28bpと29bpの断片は示されない。図3aの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図3aでは、白色検出部のアレルとして塩基Gと塩基Aの両方を有するランドレース種においては57bp、28bp及び29bpの断片が、白色検出部のアレルとして塩基Gを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種においては28bpと29bpの断片が示された。また白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、57bp、28bp及び29bpの断片が示された。
【0170】
したがって、PCR−FLP法による検出を行うことにより、白色検出部のアレルとして、白色種において塩基Gと塩基Aの両方を、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において塩基Gを検出できることが示された。また三元交雑ブタにおいても、デュロック種と白色種で検出される塩基Gと白色種で検出される塩基Aの両方を検出できることが示された。
【0171】
b) 4塩基欠失/非欠失部
4塩基欠失/非欠失部に対するPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果は図3bに示した。
図3bに示す通り、4塩基欠失/非欠失部に対する上記のPCR産物については、ブタ品種によって増幅される断片のサイズが異なっていた。ランドレース種及び三元交雑ブタにおいては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種と同じ断片長のPCR産物に加えて、それらの品種にはみとめられない短い断片長のPCR産物が示された。
【0172】
一方、配列番号57の塩基配列に基づく算出により、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において64bpのPCR産物が、また白色種においては60bpと64bpのPCR産物が増幅されると推定される。図3bの結果は、この推定断片長と一致するものであった。すなわち図3bでは、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして塩基配列AGTTの欠失を有するランドレース種において、60bpと64bpのPCR産物が示され、また4塩基欠失/非欠失部のアレルとして非欠失のみを有するメイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において、64bpのPCR産物が示された。さらに白色種とデュロック種を交配した三元交雑ブタにおいても、60bpと64bpのPCR産物が示された。なお三元交雑ブタのレーンにみられるサイズの大きい2つのバンドは、60bpと64bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。
【0173】
従って、PCR−FLP法による検出を行うことにより、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種において4塩基の欠失と非欠失との両方を、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種及びハンプシャー種において非欠失を、検出できることが示された。また三元交雑種においては、4塩基欠失/非欠失部のアレルとして、白色種で検出される4塩基の欠失と、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種及び白色種で検出される非欠失との両方を検出できることが示された。
【0174】
本実施例においては、KIT遺伝子の2つの遺伝子多型(白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部)についての上記のようなRFLP及びPCR−FLP分析を、さらに、大ヨークシャー種41頭、ランドレース種86頭、デュロック種33頭、メイシャン種39頭、バークシャー種114頭(日本バークシャー56頭、アメリカバークシャー58頭)、ハンプシャー種28頭の計341頭から得たDNAサンプルについて行い、各ブタ品種が有するアレルを確認した。白色検出部についての制限酵素NlaIIIを用いたRFLP分析では、大ヨークシャー種の全個体と、ランドレース種の82個体で、57bp、31bp、26bpの3つのDNA断片となった。一方、有色種である他の品種(メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種)では、全て57bpの1つのDNA断片となった。さらに、4塩基欠失/非欠失部についてのPCR−FLP分析の場合、大ヨークシャー種およびランドレース種の全個体で、64bp、60bpの2つのDNA断片となった。一方、有色種である他の品種(メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種)では、全て64bpの1つのDNA断片となった。これらの結果から、各ブタ品種は、KIT遺伝子の上記2つの遺伝子多型について、上述のアレルをほぼ100%の確率で有することが示された。すなわち、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレルを利用することによって、ほぼ100%の確率で白色種を識別できることが示された。
【0175】
〔実施例8〕DNAチップの作製
本実施例では、アルデヒド基でコーティングしたスライドガラス(シリレイトガラス)に、アミノ基で修飾した20種類のオリゴDNA(2塩基挿入/非挿入部、黒色検出部、褐色検出部、白色検出部及び4塩基欠失/非欠失部のアレイを含むオリゴヌクレオチド)をスポットし、アルデヒド基とアミノ基を共有結合させることにより、オリゴDNAをガラス基板上に固定した。アミノ化オリゴDNAは通常の化学合成により得た。
【0176】
使用したアミノ化オリゴDNAを以下に示す。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部のアレイ検出用
DC136: 5’− CAG CCG −−C CCC CCG CC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号16] 非挿入検出
DC134: 5’− C CAG CCG −−C CCC CCG CC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号17] 非挿入検出
DC135: 5’− CAG CCG CCC CCC CCG C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号18] 塩基配列CC挿入検出
DC132: 5’− C CAG CCG CCC CCC CCG C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号19] 塩基配列CC挿入検出
〔2〕黒色検出部のアレイ検出用
DC10: 5’− CCG TGC TGC CGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号20] 塩基C検出
DC69: 5’− G CCG TGC TGC CGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号21] 塩基C検出
DC11: 5’− CCG TGC TGC TGC TGC TGG A (6CH2)NH2 −3’ [配列番号22] 塩基T検出
DC32: 5’− CCG TGC TGC TGC TGC TGG AG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号23] 塩基T検出
〔3〕褐色検出部のアレイ検出用
DC37: 5’− GGG TGG CCG TGC CCT TGA G (6CH2)NH2 −3’ [配列番号24] 塩基A検出
DC76: 5’− A GGG TGG CCG TGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号25] 塩基A検出
DC36: 5’− A GGG TGG CCG CGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号26] 塩基G検出
DC74: 5’− GA GGG TGG CCG CGC CCT TGA (6CH2)NH2 −3’ [配列番号27] 塩基G検出
DC130: 5’− GA GGG TGG CTG CGC CCT TG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号28] 塩基G検出
DC131: 5’− GGG TGG CTG CGC CCT TGA GG (6CH2)NH2 −3’ [配列番号29] 塩基G検出
〔4〕白色検出部のアレイ検出用
DC20: 5’− AAA GGA AAC ATG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号30] 塩基A検出
DC83: 5’− C AAA GGA AAC ATG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号31] 塩基A検出
DC41: 5’− AAA GGA AAC GTG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’[配列番号32] 塩基G検出
DC80: 5’− C AAA GGA AAC GTG AGT ACC C (6CH2)NH2 −3’ [配列番号33] 塩基G検
出
〔5〕4塩基欠失/非欠失部のアレイ検出用
DC31: 5’− CA GAG TCT AAC TGA GGT GCC (6CH2)NH2 −3’ [配列番号34] 塩基配列AGTT非欠失検出
DC111: 5’− CCA GAG TCT −−− −GA GGT GCC TT (6CH2)NH2 −3’ [配列番号35] 4塩基欠失検出
【0177】
これらのオリゴDNAは、オリゴヌクレオチドに、スぺーサーとして3’端にCH2基を6個直鎖で挿入した後、アミノ基(NH2)を付加したものである。
上記のアミノ化オリゴDNAをシリレイトガラス上にスポッティングするために、日立ソフト製のSPBIO2000を用いた。BM機器製のスポッティング液、ArrayIt Micro−spotting Solution(BSS−1)にアミノ化オリゴDNAを20pmol/μlとなるように溶かし、径が540ミクロンのスポットピンを用い、BM機器製のシリレイトガラス(CCS−25)上に各アミノ化オリゴDNAをスポットした。スライドガラス上へのアミノ化オリゴDNAのスポット位置は図4に記した。
スポッティング後、24時間室温で自然乾燥させ、次に示す工程によりガラスの加工を行った。
【0178】
ArrayIt Wash Station(BM機器製:AW−1)に乾燥後のスライドガラスをセットした後、600mlのビーカーにスターラーを入れWash Stationを入れた。ビーカーを0.2% SDSで充たし、室温で2〜5分間スターラーで撹拌する。この工程は0.2% SDSを交換して2回繰り返した。次にビーカーを蒸留水で充たし、室温で2〜5分間スターラーで撹拌する。この工程は蒸留水を交換して2回繰り返した。次にビーカーを沸騰した蒸留水で充たし、ホットスターラーで95℃以上に保ちながら、2分間撹拌した後、蒸留水(室温)に交換し、室温で1〜5分撹拌した。次にSodium borohybride Solution(還元用液:1.3gのNa2BH4をPBS 375mlに溶かし、125mlのエタノールを加えて作製)にWash Stationごとスライドガラスを入れ、室温で5分間スターラーで撹拌した。次にビーカーを0.2% SDSで充たし、室温で1分間スターラーで撹拌した。この工程は0.2% SDSを交換して3回繰り返した。次にビーカーを蒸留水で充たし、室温で1分間スターラーで撹拌した。この工程は蒸留水を交換して2回繰り返した。その後、スライドガラスを取り出して空気乾燥させた。
【0179】
〔実施例9〕ターゲットDNAのPCR合成と回収
鋳型DNAとしては、メイシャン種、デュロック種、バークシャー種、ハンプシャー種、ランドレース種及び三元交雑種(ランドレース種のメスに大ヨークシャー種のオスを掛け合わせ、その子どものメスに、デュロック種のオスを掛け合わせたもの)の各1個体から常法により抽出したゲノムDNAを、それぞれサンプルとして用いた。
【0180】
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER製のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型とし、200μM dNTPsとした。また5’Cy3化蛍光標識プライマーと5’ビオチン化プライマーを1μMとしてセットで用い、増幅を行った。なお、5’ビオチン化プライマーは5’bio、5’Cy3蛍光化プライマーは5’Cy3と記した。
【0181】
PCRのためのTaqポリメラーゼはPERKIN ELMER社のAmpliTaq Goldを用いた。DNA100ngを鋳型として、200μM dNTPs、1μM プライマー(上記5’Cy3化−5’bio化プライマーのセット)、1×PCR バッファー、20ng BSAに、2.5ユニットのAmpliTaq Goldを加え、50μlの反応液とした。
【0182】
(1)MC1R遺伝子の増幅
用いたプライマーは以下の通りである。
プライマー283(MRO31−bio:5’bio:配列番号36)及びプライマー275(MRO30−Cy3:5’Cy3:配列番号37)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の2塩基挿入/非挿入部を含む領域を増幅できる。
プライマー278(Meibio:5’bio:配列番号38)及びプライマー136(MrC6−Cy3:5’Cy3:配列番号39)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の黒色検出部を含む領域[メイシャン種識別部分]を増幅できる。
【0183】
プライマー280(DuCy3:5’Cy3:配列番号40)及びプライマー281(Dubio:5’bio:配列番号41)。このプライマーセットによりMC1R遺伝子の褐色検出部を含む領域[デュロック種識別部分]を増幅できる。
【0184】
PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリングと伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング67.5℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを40回行った。
【0185】
(2)KIT遺伝子の増幅
用いたプライマーは以下の通りである。
プライマー259(ChpK5F:5’bio:配列番号42)及びプライマー130(KtC1−Cy3:5’Cy3:配列番号43)。このプライマーセットによりKIT遺伝子の白色検出部を含む領域[白色種(ランドレース、大ヨークシャー)識別部分]を増幅できる。
【0186】
プライマー135(KtC6−Cy3:5’Cy3:配列番号44)およびプライマー260(ChpK7R:5’bio:配列番号45)。このプライマーセットによりKIT遺伝子の4塩基欠失/非欠失部[白色種(ランドレース、大ヨークシャー)識別部分]を増幅できる。
【0187】
PCR機(GeneAmp PCR System 9700; PERKIN ELMER製)を用い、熱変性94℃10分1サイクルの後、熱変性94℃30秒、アニーリング65℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを10回行った後、熱変性94℃30秒、アニーリング62℃15秒、伸長反応72℃40秒を1サイクルとし、これを30回行った。
【0188】
〔実施例10〕DNAチップ上でのプローブDNAとターゲットDNAのハイブリダイゼーション
(1)PCR増幅産物の回収
各サンプルについて上記の5つのプライマーセットで目的のDNA断片を増幅させ、反応後にそれを1.5mlのチューブ1本にまとめた。よく撹拌したストレプトアビジンセファロース(ファルマシア:17−5113−01)を40μl加え、Binding Buffer{10mM Tris HCl pH7.6, 2M NaCl, 1mM EDTA, 0.1% Tween20 }を1,200μl(5倍量)加えた。15分間撹拌し、セファロース側のアビジンとプライマー側のビオチンを結合させた。その後Ultrafree−MCの上部カラムに撹拌した液を入れ、3,000rpmで1分間遠心し、セファロース(増幅したPCR産物はビオチン−アビジン結合を介してセファロースと結合している)を回収した。上部カラムで回収したセファローズは、3,000rpmで1分間の遠心により水分をよくきり、下部のチューブにたまったフロースルー液は捨てた。上部カラムのセファロースに0.2N NaOHを150〜200μl加え撹拌し、2本鎖DNAのPCR増幅産物を1本鎖に解離させた。Ultrafree−MCを3,000rpmで1分間遠心した。1本鎖に解離したCy3蛍光化PCR増幅産物が下のチューブにたまるため、フロースルーがピンク色となる。カラムのセファロースが白色となり、蛍光化PCR増幅産物がなくなったことをを確認した。ピンク色に着色したフロースルーをマイクロコン10 {Microcon10、Millipore, Amicon: YM−10,カタログ番号42407(100)}に入れ、中和Buffer{10mM Tris HCl pH7.6}でカラムを満たし、13,000rpmで40分間遠心した。フロースルーを捨て、中和Buffer{10mM Tris HCl pH7.6}で上部カラムを満たし、さらに13,000rpmで40分間遠心した。上部カラムの液量が20〜50μl程度に濃縮された後、マイクロコンの上部カラムを逆さにして、新しいチューブに入れ、5,000rpmで1分間遠心し、濃縮したCy3蛍光化1本鎖プローブDNAを回収した。
【0189】
(2)ハイブリダイゼーション
回収したプローブDNAを4μlとり、Unihyb Hybridization Solution(BM機器製:UHS−1)16μlを30秒間65℃で温めた後に加え、ピペッティングにより撹拌した。そのプローブDNA液20μlをDNAチップスライドガラス上にのせ、カバーガラスをかけた。この時、カバーガラスとスライドガラスの間に空気が入らないようにした。カバーガラスをかけた後、30μlの蒸留水(カセット内の湿度を上げるためのもの)の入ったArrayIt Hybridization Cassette(BM機器製:THC−1)に入れ、60度で2〜4時間ハイブリダイゼーションを行った。
【0190】
〔実施例11〕ハイブリダイゼーション後のスライドガラス洗浄と蛍光検出
ハイブリダイゼーションの後、ArrayIt Hybridization Cassetteからスライドガラスを取り出し、Wash Buffer A(1×SSC+0.2%SDS)に浸しカバーガラスが自然に外れるようにした。その後、スライドガラスをWash Stationにセットし、Wash Buffer B(0.1×SSC+0.2%SDS)で満たしたビーカーに入れ、室温で5分間スターラーで撹拌した。次にWash Buffer C(0.1×SSC)で満たされたビーカーに直ちに移し、室温で5分間スターラーで撹拌した。その後、スライドガラスを取り出して乾燥させた後、蛍光の検出を行った。
【0191】
蛍光検出はGSI Lumonics社製のScanArray Liteを用いた。共焦点レーザーでスキャン画像が鮮明に取り込めるように焦点を合わせ、解像度20ミクロン、蛍光の強いスポット光が飽和する程度にレーザー強度を調節しスキャンを行った。スキャン画像はハードディスクにそのまま保存した。
【0192】
〔実施例12〕検出結果と品種の特定
上述のDNAチップを用いた検出の結果、得られた蛍光読み取り像を図5に示す。
(1)メイシャン種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基C
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のメイシャン種の組み合わせと一致した。
【0193】
(2)デュロック種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基A
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のデュロック種の組み合わせと一致した。
【0194】
(3)バークシャー種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のバークシャー種の組み合わせと一致した。
【0195】
(4)ハンプシャー種
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5のハンプシャー種の組み合わせと一致した。
【0196】
(5)ランドレース種(白色種)
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G
〔4〕白色検出部: 塩基G及び塩基A
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失、及び4塩基欠失
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5の白色種の組み合わせと一致した。
【0197】
(6)三元交雑種(白色種×白色種×デュロック種)
図5の蛍光像と図4のオリゴDNAのスポット位置を合わせて判断すると、強い蛍光シグナルが得られたアレルは以下の通りであった。
〔1〕2塩基挿入/非挿入部: 塩基配列CCの挿入、及び非挿入
〔2〕黒色検出部: 塩基T
〔3〕褐色検出部: 塩基G及び塩基A
〔4〕白色検出部: 塩基G及び塩基A
〔5〕4塩基欠失/非欠失部: 塩基配列AGTTの非欠失、及び4塩基欠失
【0198】
このアレルの組み合わせを表5と照らし合わせると、本検出結果は表5の白色種とデュロック種のそれぞれの組み合わせを足し合わせたものと一致した。なお、この三元交雑種の検出結果の判断においては、まず、白色種に特徴的な「4塩基欠失(4塩基欠失/非欠失部)」が検出されていることから、白色種の関与が示された。さらに、デュロック種に特徴的な「塩基A(褐色検出部)」が検出されていることから、デュロック種の関与が示された。一方、メイシャン種に特徴的な「塩基C(黒色検出部)」についてはメイシャン種で検出されたような強いシグナルは示されなかった。このように、三元交雑種において検出されたアレルの組み合わせは、白色種とデュロック種の交配への関与を示した。
【0199】
【発明の効果】
本発明によれば、5つの遺伝子多型のアレルの組み合わせから、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種、並びにそれらのうちの2種以上を用いた交雑種を、相互に識別することが可能である。これらの品種は産業上利用されているブタ品種のほぼ100%を占めるため、これらを相互に識別できることは非常に有用である。また、本発明の固相担体は、本発明の識別法に好適に用いることができるためだけでなく、1つの検出系で上記ブタ品種全てを識別できるため、商業的に提供する上で特に好適なツールとして用いることができる。
【0200】
【配列表】
【0201】
【配列表フリーテキスト】
配列番号6〜56は合成DNAである。
【図面の簡単な説明】
【図1】MC1R遺伝子とその上流域の塩基配列におけるブタ品種間の多型を示す図である。塩基番号は翻訳開始点を+1とした場合の番号。*印は欠失を示し、−印はニホンイノシシ(Jpn.WP)の塩基と同じであったことを示す。
【図2】各ブタ品種のMC1R遺伝子のRFLP法、PCR−FLP法による解析結果を示す写真である。左から順に2塩基挿入/非挿入部の断片長多型、黒色検出部を含む増幅断片の制限酵素AciIによる切断断片長多型、褐色検出部を含む増幅断片の制限酵素HhaIによる切断断片長多型を示す。HDは83bpと81bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。左レーンから、m(25bpラダーマーカー)、M(メイシャン種)、D(デュロック種)、B(バークシャー種)、H(ハンプシャー種)、L(ランドレース種)、T(three way cross:三元交雑ブタ)、m(25bpラダーマーカー)。
【図3】各ブタ品種のKIT遺伝子のRFLP法、PCR−FLP法による解析結果を示す写真である。左から順に白色検出部を含む増幅断片の制限酵素NlaIIIによる切断断片長多型、4塩基欠失/非欠失部の断片長多型を示す。HDは60bpと64bpのDNA鎖のヘテロ鎖である。左レーンから、m(25bpラダーマーカー)、M(メイシャン種)、D(デュロック種)、B(バークシャー種)、H(ハンプシャー種)、L(ランドレース種)、T(three way cross:三元交雑ブタ)、m(25bpラダーマーカー)。
【図4】DNAチップ上に貼り付けたアミノ化オリゴDNAの配置を示す模式図である。各スポットに対応する枠内には、チップに固定したアミノ化オリゴDNAの名称、さらに括弧内にはそのオリゴDNAにより検出されるアレルを示す。
【図5】DNAチップ上で、各品種1個体分のターゲットDNAをハイブリダイズさせ、蛍光検出した結果である。左上;メイシャン種、右上;デュロック種、左中;バークシャー種、右中;ハンプシャー種、左下;ランドレース種、右下;三元交雑種。
Claims (11)
- ブタのゲノムDNAについて下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせからなるアレルの検出を行い、その結果に基づいてブタの品種を特定することを特徴とする、ブタの品種の識別方法:
(1) MC1R遺伝子上の、
(i) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する連続した2塩基の挿入若しくは非挿入であるアレル、
(ii) 同塩基番号2270の位置に存在する塩基T若しくはCであるアレル、及び
(iii) 同塩基番号2692の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(2) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号1313の位置に存在する塩基G若しくはAであるアレル;
(3) KIT遺伝子上の、配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の位置に存在する連続した4塩基の欠失若しくは非欠失であるアレル。 - 次の(4)のアレルを検出することをさらに含む、請求項1記載の方法:
(4) MC1R遺伝子の上流領域の、配列番号1に示す塩基番号221〜279の位置に存在する連続した7塩基若しくは22塩基の挿入又は欠失であるアレル。 - ブタの品種が、メイシャン種、デュロック種、ハンプシャー種、白色種及びバークシャー種、並びにそれらのうちの2種以上を用いた交雑種である、請求項1又は2記載の方法。
- 検出が、RFLP法、PCR−FLP法、及びDNAチップを用いる方法からなる群より選ばれる一つまたは二つ以上の方法を用いて行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
- 検出が、(1)−(i)のアレルについてはPCR−FLP法、(1)−(ii)のアレルについては制限酵素AciIを用いるRFLP法、(1)−(iii)のアレルについては制限酵素HhaIを用いるRFLP法、(2)のアレルについては制限酵素NlaIIIを用いるRFLP法、(3)のアレルについてはPCR−FLP法、を用いて行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
- 下記(1)と、(2)及び/又は(3)とを含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 配列番号6及び7に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーと、
配列番号8及び9に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素AciIと、
配列番号10及び11に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、及び制限酵素HhaIと、
の組み合わせ;
(2) 配列番号12及び13に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー、並びに制限酵素NlaIII;
(3) 配列番号14及び15に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマー。 - 下記(1)と、(2)及び/又は(3)との組み合わせを含む、オリゴヌクレオチド又はその標識物のセット:
(1) 配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号1〜4に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2026〜2027の位置に存在する塩基を含む、配列番号5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号2に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号3に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物と、
の組み合わせ;
(2) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTが欠失している、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列、若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドの群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物。 - 下記(1)〜(4)からなる群から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチド又はその標識物をさらに含む、請求項7記載のセット。
(1) 配列番号1に示す塩基番号2270の位置に存在する塩基を含む、配列番号3〜5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(2) 配列番号1に示す塩基番号2692の位置に存在する塩基を含む、配列番号1、2、4若しくは5に示す塩基配列上の連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物;
(3) 配列番号57に示す塩基番号1313の塩基Gが塩基Aに置換されている、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物、及び
(4) 配列番号57に示す塩基番号3884〜3887の塩基配列AGTTを含む、配列番号57に示す塩基配列の一部である連続した10〜30塩基の配列若しくはこれに相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物。 - 配列番号16〜35に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチド又はその標識物のセット。
- 請求項7〜9のいずれか1項記載のオリゴヌクレオチド又はその標識物のセットを固定化した固相担体。
- 下記(1)及び/又は(2)を含む、ブタの品種識別用の試薬又はキット:
(1) 請求項10記載の固相担体
(2) 配列番号36〜45に示される塩基配列をそれぞれ有するオリゴヌクレオチドプライマーのセット。
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-
2002
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