JP2004133234A - エレクトロクロミック素子及び固体セル - Google Patents
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Abstract
【課題】調光素子として使用され、電圧が印加された場合に、可視光の波長範囲で色再現性やカラーバランスを変化させる色付き(青色着色)が生ぜず、また、部分的な色むらもできない構成のエレクトロクロミック素子。
【解決手段】エレクトロクロミック素子9の還元発色層を、WO3 膜5、7とMoO3 膜6の多層膜で構成したエレクトロクロミック素子。その還元発色層を、WO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成しても、あるいは、WO3 膜とMoO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成してもよい。
【選択図】 図1
【解決手段】エレクトロクロミック素子9の還元発色層を、WO3 膜5、7とMoO3 膜6の多層膜で構成したエレクトロクロミック素子。その還元発色層を、WO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成しても、あるいは、WO3 膜とMoO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成してもよい。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレクトロクロミック素子及び固体セルに関し、特に、光学機器に用いられる調光素子の代表であるエレクトロクロミック素子及びそのエレクトロクロミック素子を備えた固体セルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
調光素子としてエレクトロクロミック素子(以下、ECDと言う。)は、液晶素子等と共に研究されている。このECDは、液晶素子に比べて、光透過率が高い、光散乱の影響が少ない、偏光の影響を受けない等、調光素子としての性能が高い。しかし、ECDの還元発色層としてWO3 を用いたECDは、電圧を印加すると青色に着色してしまい、例えば、可視光を透過させて調光する場合には、赤色の透過率が青色の透過率に比べて極端に低下してしまうことから、このECDを撮像素子の前方に配置する調光素子として使用する場合、撮像素子を介して得られる画像の色再現性、カラーバランスが大きく変化して、いわゆる色付きとか、青い色付きと言われる現象が発生してしまい、望ましくなかった。
【0003】
そこで、還元発色層の青色着色による悪影響をなくする方法として、WO3 にMoO3 を混ぜた混合物を還元発色層として用いることが公知である。この還元発色層として用いるWO3 とMoO3 の混合物を、均一に成膜できる方法として、WO3 とMoO3 の混合物に、WO3 の沸点よりも高い融点を有するMgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜた混合物材料を蒸着材料として用い、融点が高い金属酸化物を蒸発させることなく、WO3 とMoO3 のみを蒸発させて成膜して還元発色層に用いると良いとの提案がされている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−177192号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ECDの還元発色層の青色着色による悪影響をなくする方法として、前述のWO3 とMoO3 の混合物に、MgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜた混合物材料を蒸着材料として成膜された、WO3 とMoO3 の混合物を還元発色層に用いることが、上記のように特許文献1で提案されているが、WO3 とMoO3 とでは蒸着する場合の蒸発温度が依然として異なり、成膜した還元発色層に未だに悪影響を及ぼす程度の色付きが生じたり、部分的に悪影響を及ぼす色むらができたりする問題があった。
【0006】
すなわち、蒸発温度がWO3 とMoO3 より高いMgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜて、WO3 とMoO3 の融点を低下させてこれらの化合物の融点の差を縮めることにより、WO3 とMoO3 が均一に蒸発させるようにしてこの問題を解決しようとしているが、蒸発温度が異なるので完全に上記問題点を解消できてはいなかった。
【0007】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、エレクトロクロミック素子の還元発色層において、調光素子として使用され、電圧が印加された場合に、可視光の波長範囲で色再現性やカラーバランスを変化させる色付き(青色着色)が生ぜず、また、部分的な色むらもできない構成のエレクトロクロミック素子及びこのエレクトロクロミック素子を備えた固体セルを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、上記課題を解決するために、還元発色層として、WO3 とMoO3 の混合物を用いるのではなく、還元発色層を安定して作製できるようにWO3 膜とMoO3 膜及び/又はV2 O5 膜を別々に単一組成物からなる層として成膜し、各膜を積層することにより還元発色層として構成することにした。
【0009】
また、別々に成膜した各膜を積層して構成した還元発色層を有するECDを固体セルに備えることとした。
【0010】
具体的には、本発明では、
(1)エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜の多層膜で構成することとした。
(2)また、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成することとした。
(3)また、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜、MoO3 膜及びV2 O5 膜の多層膜で構成することとした。
(4)また、上記(1)、(2)、(3)の多層膜を構成する各WO3 膜、MoO3 膜及びV2 O5 膜は、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着、スパッタリング法の何れか1つ以上の方法で成膜することとした。
(5)そして、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜と、MoO3 及び/又はV2 O5 膜との多層膜で構成したエレクトロクロミック素子を、固体セルに備えることとした。
【0011】
上記構成のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、還元発色層を構成する各膜は単一組成物として成膜されるので、組成が安定し、よって多層膜構成であっても還元発色層が安定して作製でき、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きや部分的な色むらができなくなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態において、ECDの還元発色層を形成する層を、WO3 膜と、MoO3 膜及び/又はV2 O5 膜の単一組成物からなる膜を2層以上積層して構成する。例えば、ECDの還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜の2層構成、WO3 膜とV2 O5 膜の2層構成、あるいは、WO3 膜を2層以上に分割し、分割したWO3 膜の間にMoO3 膜又はV2 O5 膜を入れるような3層以上の構成の多層膜に積層することにより、WO3 膜による青い色付き抑え、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きをなくすと共に、固体セルにおいても、同様に画像の色付きをなくする。この色再現性やカラーバランスを変化させない程度の画像にする色付きの調整は、層数、各層の膜厚を制御することで容易にできる。また、成膜時の膜厚、各膜の光学特性を安定させるために、成膜手法として、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンビームアシスト蒸着、あるいは、スパッタリングによる方法で成膜することが望ましい。
【0013】
以下、本発明のエレクトロクロミック素子及びエレクトロクロミック素子を備えた固体セルの実施形態を説明する。
【0014】
〔実施形態1〕
図1に示す7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態1を説明する。図1では、WO3 膜5とMoO3 膜6とWO3 膜7の3層構成が還元発色層として機能し、IrOx 膜3が酸化発色層として、Ta2 O5 膜4が固体電解質層として、ITO膜2、8が透明導電膜として機能する構成である。
【0015】
まず、ECDの透明導電膜として機能する1層目のITO膜(インジウムスズ酸化物膜)2が100nmの膜厚にて成膜された透明ガラス基板1を準備し、この透明ガラス基板1を不図示の公知の真空蒸着装置の中にセットする。
【0016】
次いで、蒸着装置内を1×10−4Paまで排気した後、内部圧力が2×10−2Paになるよう酸素ガス(O2 )を装置内に導入する。この状態にて、基板1を加熱することなく、この基板1に直接に高周波電圧(RF)の印加をして成膜を行うイオンプレーティングの手法で、RFパワーを300Wに設定し、蒸着材料として準備したIr酸化物塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が20nmになるまで成膜を行い、第2層目としてIr酸化物膜(IrOx 膜)3を形成する。ここで、xは酸化の程度により1〜3になる。
【0017】
そして、成膜に供せられなかったIr酸化物の蒸発物質を蒸着装置内から排除すると共に、使用済みの蒸着材料を次工程用の蒸着材料と交換する。この交換は、蒸着装置内に配置されたターンテーブルの回転により各蒸着材料を電子銃の照射位置への移動で行う。
【0018】
次いで、蒸着装置内を1×10−4Paまで排気した後、内部圧力が2×10−2Paになるよう酸素ガス(O2 )を装置内に導入する。この状態にて、基板1を加熱することなく、この基板1に直接に高周波電圧(RF)の印加をして成膜を行うイオンプレーティングの手法で、RFパワーを300Wに設定し、蒸着材料として準備したTa2 O5 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第3層目としてTa2 O5 膜4を形成する。
【0019】
次いで、第4層目の成膜のため、第3層目のTa2 O5 膜4を形成したのと同じ作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が400nmになるまで成膜を行い、第4層目としてWO3 膜5を形成する。
【0020】
次いで、第5層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第5層目としてMoO3 膜6を形成する。
【0021】
次いで、第6層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が400nmになるまで成膜を行い、第6層目としてWO3 膜7を形成する。
【0022】
次いで、第7層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したITO塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第7層目としてITO膜8を形成する。
【0023】
その後、このようにして形成されたECD9の上に、封止樹脂10を塗布し、さらにその上に、透明ガラス基板11を封止基板として接着し固定する。この封止樹脂10は熱硬化型の2成分系エポキシ樹脂であり、主剤として常温では液状のビスフェノールA型の樹脂、硬化剤として常温で液状のアミン系の樹脂が用いられている。
【0024】
なお、透明ガラス基板1への第1層目ITO膜(膜厚100nm)の成膜は、上記第7層目の成膜と同じ条件、同じ手法で形成したものである。
【0025】
上記ECD9を封止樹脂10で樹脂封止し、ガラス基板11の接着で固定して得られた固体セル12に対し、上下の透明導電膜であるITO膜2、8に電源(不図示)からスイッチ(不図示)を介して+2Vの電圧を印加したときと、スルー状態(電圧を印加しない)のときの分光透過率特性を図2に示す。図2において、+2Vの電圧を印加したとき、波長400nm〜800nmの可視光の波長範囲では、透過率が10%〜11%で略一定であり、赤色の透過率と青色の透過率とに差異が発生していない。したがって、電圧の印加により還元発色層が着色したときでも、この実施形態のECD9を備えた固体セル12は、可視光を透過させて調光する場合には、赤色の透過率が青色の透過率に比べて低下することがなく、撮像素子の前方に配置する調光素子として使用しても、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルであった。
【0026】
〔実施形態2〕
実施形態2は、7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図1に示した7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における3層構成の還元発色層の中、MoO3 膜6に替えて、V2 O5 膜を採用した3層構成、すなわち、WO3 膜5とV2 O5 膜6とWO3 膜7からなる3層構成を還元発色層とし、図1に示したIrOx 膜3を酸化発色層として、Ta2 O5 膜4を固体電解質層として、ITO膜2、8を透明導電膜として、同じ順で積層した7層構成であり、上下に透明ガラス基板1、11を配置した固体セルとする。
【0027】
実施形態2における透明ガラス基板1上の第1層目のITO膜2、その上の第2層目のIrOx 膜3、及び、第3層目のTa2 O5 膜4は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じに形成する。
【0028】
また、3層構成の還元発色層の中、第4層目のWO3 膜5は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を400nmに形成する。
【0029】
また、3層構成の還元発色層の中、第5層目のV2 O5 膜6は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したV2 O5 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を200nmに形成する。
【0030】
また、3層構成の還元発色層の中、第6層目のWO3 膜7は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を400nmに形成する。
【0031】
そして、第6層目の上の第7層目としてのITO膜8を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を実施形態1と同じ200nmに形成する。
【0032】
その後、実施形態1と同様、得られたECDを封止樹脂10で樹脂封止し、第7層目のITO膜8の上にガラス基板11を接着固定し、ECDの上下に透明ガラス基板1、11を配置した固体セルとする。
【0033】
この固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0034】
〔実施形態3〕
図3に示す9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態3を説明する。図3では、第4層目から第8層目までのWO3 膜24、MoO3 膜25、WO3 膜26、MoO3 膜27、及び、WO3 膜28が5層構成の還元発色層として機能し、第2層目のIrOx 膜22が酸化発色層として、第3層目のTa2 O5 膜23が固体電解質層として、第1層目と第9層目のITO膜21、29が透明導電膜として機能する構成である。そして、この9層構成のECD30の上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セル32とする。
【0035】
実施形態3における透明ガラス基板20上の第1層目のITO膜21、その上の第2層目のIrOx 膜22、及び、第3層目のTa2 O5 膜23は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じ、100nm、20nm、200nmに形成する。
【0036】
また、5層構成の還元発色層の中、第4、6、8層目の各WO3 膜24、26,28は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を400nmに形成する。
【0037】
また、5層構成の還元発色層の中、第5、7層目の各MoO3 膜25、27は、実施形態1のMoO3 膜6を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を100nmに形成する。
【0038】
そして、第1層目から第8層目の各膜を成膜した後、第9層目としてのITO膜29を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を200nmに形成する。
【0039】
その後、実施形態1と同様、得られたECD30を封止樹脂33にて樹脂封止し、第9層目のITO膜29の上にガラス基板31を接着固定し、ECD30の上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セル32とする。
【0040】
この固体セル32に対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0041】
〔実施形態4〕
実施形態4は、9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図3に示したエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における5層構成の還元発色層の中、MoO3 膜25、27に替えて、同じ膜厚のV2 O5 膜を採用した5層構成、すなわち、WO3 膜24、V2 O5 膜25、WO3 膜26、V2 O5 膜27、WO3 膜28からなる5層構成を還元発色層とし、他の各膜は実施形態3と同じで、上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セルとする。各膜の成膜条件は、実施形態3と同じでよい。
【0042】
このように構成した固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0043】
〔実施形態5〕
実施形態5は、9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図3に示したエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における還元発色層の中、第7層目のMoO3 膜27に替えて、同じ膜厚のV2 O5 膜27を採用した5層構成、すなわち、WO3 膜24、MoO3 膜25、WO3 膜26、V2 O5 膜27、WO3 膜28からなる5層構成を還元発色層とし、他の各膜は実施形態3と同じで、上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セルとする。各膜の成膜条件は、実施形態3と同じでよい。
【0044】
このように構成した固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0045】
〔実施形態6〕
図4に示す6層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態6を説明する。図4では、第4層目と第5層目のMoO3 膜44とWO3 膜45が2層構成の還元発色層として機能し、第2層目のIr酸化物膜42が酸化発色層として、第3層目のTa2 O5 膜43が固体電解質層として、第1層目と第6層目のITO膜41、46が透明導電膜として機能する構成である。この6層構成のECD47の上下に透明ガラス基板40、48を配置した固体セル49とする。
【0046】
実施形態6における透明ガラス基板40上の第1層目のITO膜41、その上の第2層目のIr酸化物膜42、及び、第3層目のTa2 O5 膜43は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じに形成する。
【0047】
また、2層構成の還元発色層の中、第4層目のMoO3 膜44は、実施形態1のMoO3 膜6を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を200nmに形成する。
【0048】
また、2層構成の還元発色層の中、第5層目のWO3 膜45は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を900nmに形成する。
【0049】
そして、第5層目の上の第6層目としてのITO膜46を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を200nmに形成する。
【0050】
その後、実施形態1と同様、得られたECD47を封止樹脂50にて樹脂封止し、第6層目のITO膜46の上に透明ガラス基板48を接着固定し、ECDの上下に透明ガラス基板40、48を配置した固体セル49とする。
【0051】
この固体セル49に対し、実施形態1と同様に上下のITO膜41、46に+2Vの電圧を印加したときと、スルー状態のときに測定した分光透過率特性は、図2と同様であり、電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0052】
これに対し、実施形態6の比較例として、還元発色層としてWO3 とMgO3 の混合物(混合比率は約9:1)からなる膜(膜厚は約1100nm)で構成した固体セルで得られる分光透過率特性は、図5に示すように、+2Vの電圧を印加したときに、青色の透過率と赤色の透過率とに差異が見られ、画像の色再現性やカラーバランスがこの固体セルにより影響を受けていた。
【0053】
なお、上記各実施形態では、成膜方法をイオンプレーティング法で電子銃を用いて行ったが、これに限らず、イオンビームアシスト蒸着、スパッタリングの方法でも同様な結果が得られた。
【0054】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、従来のような融点の異なる混合物を還元発色層として使わずに、簡単な構成、成膜方法で、画像の色付きをなくすることができる。すなわち、本発明のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、還元発色層を構成する各膜は単一組成物として成膜されて組成が安定し、そのため、多層膜構成であっても還元発色層が安定して作製できて、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きや部分的な色むらができなくなるので、極めて優れた調光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図2】実施形態1の分光透過率特性の特性線図である。
【図3】本発明の実施形態3のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図4】本発明の実施形態6のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図5】実施形態6の比較例の分光透過率特性の特性線図である。
【符号の説明】
1…透明ガラス基板
2…ITO膜
3…IrOx 膜
4…Ta2 O5 膜
5…WO3 膜
6…MoO3 膜(V2 O5 膜)
7…WO3 膜
8…ITO膜
9…ECD
10…封止樹脂
11…透明ガラス基板
212…固体セル
20…透明ガラス基板
21…ITO膜
22…IrOx 膜
23…Ta2 O5 膜
24…WO3 膜
25…MoO3 膜(V2 O5 膜)
26…WO3 膜
27…MoO3 膜(V2 O5 膜)
28…WO3 膜
29…ITO膜
30…ECD
31…透明ガラス基板
32…固体セル
33…封止樹脂
40…透明ガラス基板
41…ITO膜
42…Ir酸化物膜
43…Ta2 O5 膜
44…MoO3 膜
45…WO3 膜
46…ITO膜
47…ECD
48…透明ガラス基板
50…封止樹脂
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレクトロクロミック素子及び固体セルに関し、特に、光学機器に用いられる調光素子の代表であるエレクトロクロミック素子及びそのエレクトロクロミック素子を備えた固体セルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
調光素子としてエレクトロクロミック素子(以下、ECDと言う。)は、液晶素子等と共に研究されている。このECDは、液晶素子に比べて、光透過率が高い、光散乱の影響が少ない、偏光の影響を受けない等、調光素子としての性能が高い。しかし、ECDの還元発色層としてWO3 を用いたECDは、電圧を印加すると青色に着色してしまい、例えば、可視光を透過させて調光する場合には、赤色の透過率が青色の透過率に比べて極端に低下してしまうことから、このECDを撮像素子の前方に配置する調光素子として使用する場合、撮像素子を介して得られる画像の色再現性、カラーバランスが大きく変化して、いわゆる色付きとか、青い色付きと言われる現象が発生してしまい、望ましくなかった。
【0003】
そこで、還元発色層の青色着色による悪影響をなくする方法として、WO3 にMoO3 を混ぜた混合物を還元発色層として用いることが公知である。この還元発色層として用いるWO3 とMoO3 の混合物を、均一に成膜できる方法として、WO3 とMoO3 の混合物に、WO3 の沸点よりも高い融点を有するMgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜた混合物材料を蒸着材料として用い、融点が高い金属酸化物を蒸発させることなく、WO3 とMoO3 のみを蒸発させて成膜して還元発色層に用いると良いとの提案がされている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−177192号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ECDの還元発色層の青色着色による悪影響をなくする方法として、前述のWO3 とMoO3 の混合物に、MgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜた混合物材料を蒸着材料として成膜された、WO3 とMoO3 の混合物を還元発色層に用いることが、上記のように特許文献1で提案されているが、WO3 とMoO3 とでは蒸着する場合の蒸発温度が依然として異なり、成膜した還元発色層に未だに悪影響を及ぼす程度の色付きが生じたり、部分的に悪影響を及ぼす色むらができたりする問題があった。
【0006】
すなわち、蒸発温度がWO3 とMoO3 より高いMgO、ZrO2 、Y2 O3 、Al2 O3 等の金属酸化物を混ぜて、WO3 とMoO3 の融点を低下させてこれらの化合物の融点の差を縮めることにより、WO3 とMoO3 が均一に蒸発させるようにしてこの問題を解決しようとしているが、蒸発温度が異なるので完全に上記問題点を解消できてはいなかった。
【0007】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、エレクトロクロミック素子の還元発色層において、調光素子として使用され、電圧が印加された場合に、可視光の波長範囲で色再現性やカラーバランスを変化させる色付き(青色着色)が生ぜず、また、部分的な色むらもできない構成のエレクトロクロミック素子及びこのエレクトロクロミック素子を備えた固体セルを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、上記課題を解決するために、還元発色層として、WO3 とMoO3 の混合物を用いるのではなく、還元発色層を安定して作製できるようにWO3 膜とMoO3 膜及び/又はV2 O5 膜を別々に単一組成物からなる層として成膜し、各膜を積層することにより還元発色層として構成することにした。
【0009】
また、別々に成膜した各膜を積層して構成した還元発色層を有するECDを固体セルに備えることとした。
【0010】
具体的には、本発明では、
(1)エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜の多層膜で構成することとした。
(2)また、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成することとした。
(3)また、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜、MoO3 膜及びV2 O5 膜の多層膜で構成することとした。
(4)また、上記(1)、(2)、(3)の多層膜を構成する各WO3 膜、MoO3 膜及びV2 O5 膜は、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着、スパッタリング法の何れか1つ以上の方法で成膜することとした。
(5)そして、エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜と、MoO3 及び/又はV2 O5 膜との多層膜で構成したエレクトロクロミック素子を、固体セルに備えることとした。
【0011】
上記構成のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、還元発色層を構成する各膜は単一組成物として成膜されるので、組成が安定し、よって多層膜構成であっても還元発色層が安定して作製でき、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きや部分的な色むらができなくなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態において、ECDの還元発色層を形成する層を、WO3 膜と、MoO3 膜及び/又はV2 O5 膜の単一組成物からなる膜を2層以上積層して構成する。例えば、ECDの還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜の2層構成、WO3 膜とV2 O5 膜の2層構成、あるいは、WO3 膜を2層以上に分割し、分割したWO3 膜の間にMoO3 膜又はV2 O5 膜を入れるような3層以上の構成の多層膜に積層することにより、WO3 膜による青い色付き抑え、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きをなくすと共に、固体セルにおいても、同様に画像の色付きをなくする。この色再現性やカラーバランスを変化させない程度の画像にする色付きの調整は、層数、各層の膜厚を制御することで容易にできる。また、成膜時の膜厚、各膜の光学特性を安定させるために、成膜手法として、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンビームアシスト蒸着、あるいは、スパッタリングによる方法で成膜することが望ましい。
【0013】
以下、本発明のエレクトロクロミック素子及びエレクトロクロミック素子を備えた固体セルの実施形態を説明する。
【0014】
〔実施形態1〕
図1に示す7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態1を説明する。図1では、WO3 膜5とMoO3 膜6とWO3 膜7の3層構成が還元発色層として機能し、IrOx 膜3が酸化発色層として、Ta2 O5 膜4が固体電解質層として、ITO膜2、8が透明導電膜として機能する構成である。
【0015】
まず、ECDの透明導電膜として機能する1層目のITO膜(インジウムスズ酸化物膜)2が100nmの膜厚にて成膜された透明ガラス基板1を準備し、この透明ガラス基板1を不図示の公知の真空蒸着装置の中にセットする。
【0016】
次いで、蒸着装置内を1×10−4Paまで排気した後、内部圧力が2×10−2Paになるよう酸素ガス(O2 )を装置内に導入する。この状態にて、基板1を加熱することなく、この基板1に直接に高周波電圧(RF)の印加をして成膜を行うイオンプレーティングの手法で、RFパワーを300Wに設定し、蒸着材料として準備したIr酸化物塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が20nmになるまで成膜を行い、第2層目としてIr酸化物膜(IrOx 膜)3を形成する。ここで、xは酸化の程度により1〜3になる。
【0017】
そして、成膜に供せられなかったIr酸化物の蒸発物質を蒸着装置内から排除すると共に、使用済みの蒸着材料を次工程用の蒸着材料と交換する。この交換は、蒸着装置内に配置されたターンテーブルの回転により各蒸着材料を電子銃の照射位置への移動で行う。
【0018】
次いで、蒸着装置内を1×10−4Paまで排気した後、内部圧力が2×10−2Paになるよう酸素ガス(O2 )を装置内に導入する。この状態にて、基板1を加熱することなく、この基板1に直接に高周波電圧(RF)の印加をして成膜を行うイオンプレーティングの手法で、RFパワーを300Wに設定し、蒸着材料として準備したTa2 O5 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第3層目としてTa2 O5 膜4を形成する。
【0019】
次いで、第4層目の成膜のため、第3層目のTa2 O5 膜4を形成したのと同じ作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が400nmになるまで成膜を行い、第4層目としてWO3 膜5を形成する。
【0020】
次いで、第5層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第5層目としてMoO3 膜6を形成する。
【0021】
次いで、第6層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が400nmになるまで成膜を行い、第6層目としてWO3 膜7を形成する。
【0022】
次いで、第7層目の成膜のため、第3層目を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したITO塊を電子銃で蒸発させ、膜厚が200nmになるまで成膜を行い、第7層目としてITO膜8を形成する。
【0023】
その後、このようにして形成されたECD9の上に、封止樹脂10を塗布し、さらにその上に、透明ガラス基板11を封止基板として接着し固定する。この封止樹脂10は熱硬化型の2成分系エポキシ樹脂であり、主剤として常温では液状のビスフェノールA型の樹脂、硬化剤として常温で液状のアミン系の樹脂が用いられている。
【0024】
なお、透明ガラス基板1への第1層目ITO膜(膜厚100nm)の成膜は、上記第7層目の成膜と同じ条件、同じ手法で形成したものである。
【0025】
上記ECD9を封止樹脂10で樹脂封止し、ガラス基板11の接着で固定して得られた固体セル12に対し、上下の透明導電膜であるITO膜2、8に電源(不図示)からスイッチ(不図示)を介して+2Vの電圧を印加したときと、スルー状態(電圧を印加しない)のときの分光透過率特性を図2に示す。図2において、+2Vの電圧を印加したとき、波長400nm〜800nmの可視光の波長範囲では、透過率が10%〜11%で略一定であり、赤色の透過率と青色の透過率とに差異が発生していない。したがって、電圧の印加により還元発色層が着色したときでも、この実施形態のECD9を備えた固体セル12は、可視光を透過させて調光する場合には、赤色の透過率が青色の透過率に比べて低下することがなく、撮像素子の前方に配置する調光素子として使用しても、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルであった。
【0026】
〔実施形態2〕
実施形態2は、7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図1に示した7層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における3層構成の還元発色層の中、MoO3 膜6に替えて、V2 O5 膜を採用した3層構成、すなわち、WO3 膜5とV2 O5 膜6とWO3 膜7からなる3層構成を還元発色層とし、図1に示したIrOx 膜3を酸化発色層として、Ta2 O5 膜4を固体電解質層として、ITO膜2、8を透明導電膜として、同じ順で積層した7層構成であり、上下に透明ガラス基板1、11を配置した固体セルとする。
【0027】
実施形態2における透明ガラス基板1上の第1層目のITO膜2、その上の第2層目のIrOx 膜3、及び、第3層目のTa2 O5 膜4は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じに形成する。
【0028】
また、3層構成の還元発色層の中、第4層目のWO3 膜5は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を400nmに形成する。
【0029】
また、3層構成の還元発色層の中、第5層目のV2 O5 膜6は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したV2 O5 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を200nmに形成する。
【0030】
また、3層構成の還元発色層の中、第6層目のWO3 膜7は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を400nmに形成する。
【0031】
そして、第6層目の上の第7層目としてのITO膜8を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を実施形態1と同じ200nmに形成する。
【0032】
その後、実施形態1と同様、得られたECDを封止樹脂10で樹脂封止し、第7層目のITO膜8の上にガラス基板11を接着固定し、ECDの上下に透明ガラス基板1、11を配置した固体セルとする。
【0033】
この固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0034】
〔実施形態3〕
図3に示す9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態3を説明する。図3では、第4層目から第8層目までのWO3 膜24、MoO3 膜25、WO3 膜26、MoO3 膜27、及び、WO3 膜28が5層構成の還元発色層として機能し、第2層目のIrOx 膜22が酸化発色層として、第3層目のTa2 O5 膜23が固体電解質層として、第1層目と第9層目のITO膜21、29が透明導電膜として機能する構成である。そして、この9層構成のECD30の上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セル32とする。
【0035】
実施形態3における透明ガラス基板20上の第1層目のITO膜21、その上の第2層目のIrOx 膜22、及び、第3層目のTa2 O5 膜23は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じ、100nm、20nm、200nmに形成する。
【0036】
また、5層構成の還元発色層の中、第4、6、8層目の各WO3 膜24、26,28は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を400nmに形成する。
【0037】
また、5層構成の還元発色層の中、第5、7層目の各MoO3 膜25、27は、実施形態1のMoO3 膜6を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を100nmに形成する。
【0038】
そして、第1層目から第8層目の各膜を成膜した後、第9層目としてのITO膜29を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を200nmに形成する。
【0039】
その後、実施形態1と同様、得られたECD30を封止樹脂33にて樹脂封止し、第9層目のITO膜29の上にガラス基板31を接着固定し、ECD30の上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セル32とする。
【0040】
この固体セル32に対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0041】
〔実施形態4〕
実施形態4は、9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図3に示したエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における5層構成の還元発色層の中、MoO3 膜25、27に替えて、同じ膜厚のV2 O5 膜を採用した5層構成、すなわち、WO3 膜24、V2 O5 膜25、WO3 膜26、V2 O5 膜27、WO3 膜28からなる5層構成を還元発色層とし、他の各膜は実施形態3と同じで、上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セルとする。各膜の成膜条件は、実施形態3と同じでよい。
【0042】
このように構成した固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0043】
〔実施形態5〕
実施形態5は、9層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)であり、図3に示したエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図における還元発色層の中、第7層目のMoO3 膜27に替えて、同じ膜厚のV2 O5 膜27を採用した5層構成、すなわち、WO3 膜24、MoO3 膜25、WO3 膜26、V2 O5 膜27、WO3 膜28からなる5層構成を還元発色層とし、他の各膜は実施形態3と同じで、上下に透明ガラス基板20、31を配置した固体セルとする。各膜の成膜条件は、実施形態3と同じでよい。
【0044】
このように構成した固体セルに対し、実施形態1と同様にして測定した分光透過率特性は、実施形態1と同様な電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0045】
〔実施形態6〕
図4に示す6層構成のエレクトロクロミック素子(ECD)の模式断面図を参照にして、実施形態6を説明する。図4では、第4層目と第5層目のMoO3 膜44とWO3 膜45が2層構成の還元発色層として機能し、第2層目のIr酸化物膜42が酸化発色層として、第3層目のTa2 O5 膜43が固体電解質層として、第1層目と第6層目のITO膜41、46が透明導電膜として機能する構成である。この6層構成のECD47の上下に透明ガラス基板40、48を配置した固体セル49とする。
【0046】
実施形態6における透明ガラス基板40上の第1層目のITO膜41、その上の第2層目のIr酸化物膜42、及び、第3層目のTa2 O5 膜43は、実施形態1の各層を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備した各膜用の蒸着材料の塊を電子銃で蒸発させ、各膜厚を実施形態1と同じに形成する。
【0047】
また、2層構成の還元発色層の中、第4層目のMoO3 膜44は、実施形態1のMoO3 膜6を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したMoO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を200nmに形成する。
【0048】
また、2層構成の還元発色層の中、第5層目のWO3 膜45は、実施形態1のWO3 膜5を形成したのと同じ条件、同じ手法で、蒸着材料として準備したWO3 塊を電子銃で蒸発させ、膜厚を900nmに形成する。
【0049】
そして、第5層目の上の第6層目としてのITO膜46を、実施形態1のITO膜8を形成したのと同じ準備、作業をし、同じ条件、同じ手法で、膜厚を200nmに形成する。
【0050】
その後、実施形態1と同様、得られたECD47を封止樹脂50にて樹脂封止し、第6層目のITO膜46の上に透明ガラス基板48を接着固定し、ECDの上下に透明ガラス基板40、48を配置した固体セル49とする。
【0051】
この固体セル49に対し、実施形態1と同様に上下のITO膜41、46に+2Vの電圧を印加したときと、スルー状態のときに測定した分光透過率特性は、図2と同様であり、電圧の印加により着色したときでも、画像の色再現性やカラーバランスが変化せず、いわゆる色付きがないニュートラルな分光特性を有する固体セルが得られた。
【0052】
これに対し、実施形態6の比較例として、還元発色層としてWO3 とMgO3 の混合物(混合比率は約9:1)からなる膜(膜厚は約1100nm)で構成した固体セルで得られる分光透過率特性は、図5に示すように、+2Vの電圧を印加したときに、青色の透過率と赤色の透過率とに差異が見られ、画像の色再現性やカラーバランスがこの固体セルにより影響を受けていた。
【0053】
なお、上記各実施形態では、成膜方法をイオンプレーティング法で電子銃を用いて行ったが、これに限らず、イオンビームアシスト蒸着、スパッタリングの方法でも同様な結果が得られた。
【0054】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、従来のような融点の異なる混合物を還元発色層として使わずに、簡単な構成、成膜方法で、画像の色付きをなくすることができる。すなわち、本発明のエレクトロクロミック素子及び固体セルによれば、還元発色層を構成する各膜は単一組成物として成膜されて組成が安定し、そのため、多層膜構成であっても還元発色層が安定して作製できて、色再現性やカラーバランスを変化させるような画像の色付きや部分的な色むらができなくなるので、極めて優れた調光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図2】実施形態1の分光透過率特性の特性線図である。
【図3】本発明の実施形態3のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図4】本発明の実施形態6のエレクトロクロミック素子及び固体セルの模式断面図である。
【図5】実施形態6の比較例の分光透過率特性の特性線図である。
【符号の説明】
1…透明ガラス基板
2…ITO膜
3…IrOx 膜
4…Ta2 O5 膜
5…WO3 膜
6…MoO3 膜(V2 O5 膜)
7…WO3 膜
8…ITO膜
9…ECD
10…封止樹脂
11…透明ガラス基板
212…固体セル
20…透明ガラス基板
21…ITO膜
22…IrOx 膜
23…Ta2 O5 膜
24…WO3 膜
25…MoO3 膜(V2 O5 膜)
26…WO3 膜
27…MoO3 膜(V2 O5 膜)
28…WO3 膜
29…ITO膜
30…ECD
31…透明ガラス基板
32…固体セル
33…封止樹脂
40…透明ガラス基板
41…ITO膜
42…Ir酸化物膜
43…Ta2 O5 膜
44…MoO3 膜
45…WO3 膜
46…ITO膜
47…ECD
48…透明ガラス基板
50…封止樹脂
Claims (5)
- エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜の多層膜で構成したことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
- エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成したことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
- エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜とMoO3 膜とV2 O5 膜の多層膜で構成したことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
- 前記多層膜を、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着、スパッタリング法の何れか1つ以上の方法で成膜されたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載のエレクトロクロミック素子。
- エレクトロクロミック素子の還元発色層を、WO3 膜と、MoO3 及び/又はV2 O5 膜との多層膜で構成したエレクトロクロミック素子を備えたことを特徴とする固体セル。
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Cited By (2)
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WO2008049268A1 (fr) * | 2006-10-24 | 2008-05-02 | Feng Chia University | Dispositif électrochromique |
WO2020141860A1 (ko) * | 2018-12-31 | 2020-07-09 | 주식회사 동진쎄미켐 | 전기변색소자 및 그의 제조방법 |
-
2002
- 2002-10-11 JP JP2002298341A patent/JP2004133234A/ja not_active Withdrawn
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2008049268A1 (fr) * | 2006-10-24 | 2008-05-02 | Feng Chia University | Dispositif électrochromique |
WO2020141860A1 (ko) * | 2018-12-31 | 2020-07-09 | 주식회사 동진쎄미켐 | 전기변색소자 및 그의 제조방법 |
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