JP2004129934A - ラケット用ガットおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】PET30〜90重量%と、PPT70〜10重量%との混合組成物からなる極限粘度が0.70以上のポリエステルモノフィラメントからなり、偏平率Frが30%以下、且つ曲げ硬さ指数Giが12以上18以下であることを特徴とするラケット用ガット。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、テニス、バトミントンおよびスカッシュなどのスポーツ用ラケットに張設するガットに関する。さらに詳しくは、ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントが持つ環境変化に対する特性の安定性、天然ガット並の制球性などの優れた特性を損なうことなく、反発性、耐衝撃性、張設性および耐久性を改良したラケット用ガットおよびこのガットを効率的に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テニス、バトミントンおよびスカッシュなどのスポーツラケット用ガットとして、古くから羊腸、鯨筋に代表される動物繊維からなる天然ガットが用いられてきた。
【0003】
しかるに、天然ガットは反発性、制球性、耐衝撃性などに優れているが、耐水性に劣ることから使用寿命が短く、しかも高価であるため、近年では耐久性、量産性、経済性などが優れた合成樹脂製ガットが用いられている。
【0004】
この合成樹脂製ガットとしては、ポリアミド製ガットが比較的多く用いられているが、ポリアミド製ガットは気温や湿度などの環境変化に十分対応できず、伸び、強力および弾性率などが変化するため、競技者に対して安定した競技感覚を与えにくいという問題があることから、これに代わるガットとして、環境変化に安定なポリエステル製のガットが提案されている。
【0005】
特に、強伸度曲線が天然ガットに極めて近似し、天然ガット並の制球性が得られやすいことから、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する。)製ガットが開発され、実用に供されている。しかしPETガットは、その剛直さから反発性、耐衝撃性がかならずしも十分ではなく、張設し難く、さらにはフィブリル化しやすく、耐久性に劣るという欠点があった。
【0006】
かかるPETガットの問題点を解決するための検討が従来から種々行われている。例えば、PETとPETを主成分とする共重合体の混合組成物から成るガット(特許文献1参照)が提案されているが、このガットはフィブリル化がある程度改善されるものの、耐衝撃性などの特性改良については十分といえるものではなかった。
【0007】
また、PET、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称する。)および熱可塑性ポリエステルエラストマーからなる複合モノフィラメントを水産資材やテニスガットおよびブラシなどの広範囲な産業資材用途へ適用する技術(特許文献2参照)が提案されているが、この技術は、繊維の初期引張弾性率および破壊エネルギーの改良を主眼とするものであり、これをガットに適用する場合には、PET自体の優れた特徴である高い初期引張弾性率が損なわれるばかりか、両素材の相溶性が十分でないことに加えて、複合構造であるため打撃衝撃により層間剥離を起こし、フィブリル化し易いとう問題があった。
【0008】
なお、本発明者らも、PETとPBTまたは特定のエラストマーとの混合物からなり、PETの持つ環境変化に左右されない特性の安定性、天然ガット並の制球性を損なわずに剛直さを改善したポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使った、反発性、耐衝撃性およびガットのラケットへの張設性に優れるラケット用ガット(特許文献3参照)を先に提案しているが、このラケット用ガットは、混合組成物からなるため、上記複合構造のラケット用ガット程ではないが、両素材の界面で剥離を起こし易い傾向があり、改良効果がやや不十分であった。
【0009】
そして、ポリプロピレンテレフタレート(以下、PPTと略称する。)は、ポリエステルの中でも特異的に柔軟性に富み、弾性回復性に優れることから、ラケット用ガットの素材として注目され、PPTモノフィラメントからなるラケット用ガット(特許文献4および特許文献5参照)、およびPPTマルチフィラメントからなるガット(特許文献6参照)が提案されているが、これらのガットは、耐衝撃性に優れる反面、強すぎるストレッチバック性や柔軟性から、過度の反発性を招き、制球性に劣るものとなりやすくなるという欠点があった。さらに、PPTマルチフィラメンから構成されるガットは、打球を繰り返すうちに単糸切れを起こしやすく、打球感が損なわれやすくなるばかりか、ガットの使用寿命が短くなりやすいという問題も包含するものであった。
【0010】
さらに、ガット構造からの改良として、ポリエステルモノフィラメントの芯糸にポリアミド繊維を1〜2重に巻回したガット(特許文献7参照)およびポリエステル樹脂からなるフィラメントの芯糸にポリアミド樹脂からなる偏平糸を中間被覆層として巻き付け、その上にポリアミド樹脂からなるモノフィラメントの側糸を巻き付けたガット(特許文献8参照)が提案されているが、これらのガットは、芯糸と巻き糸の断面積割合が制限されるため、適性特性の適用範囲が限定されるという不具合があり、いずれもラケット用ガットとしては十分に対応し難いものであった。
【0011】
【特許文献1】
特開昭61−56669号公報
【特許文献2】
特開平6−128814号公報
【特許文献3】
特開2000−185118号公報
【特許文献4】
特開平5−262862号公報
【特許文献5】
再公表特許WO01/75200号公報
【特許文献6】
再公表特許WO00/39374号公報
【特許文献7】
特開昭56−156175号公報
【特許文献8】
実公平2−198号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0013】
したがって、本発明の目的は、PETモノフィラメントが持つ環境変化に対する特性の安定性、天然ガット並の制球性などの優れた特性を損なうことなく、反発性、耐衝撃性、張設性および耐久性を改良したラケット用ガットおよびこのガットを効率的に製造する方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明者らはPET系モノフィラメントから成るラケット用ガットの特性を鋭意検討した結果、PETにPPTを混合した組成物からなり、特定の極限粘度を有するポリエステルモノフィラメントを構成成分の少なくとも一部に含有するガットが、特定の偏平率、特定の範囲の曲げ硬さ、且つ引張強度および結節強度が特定の範囲である時に、ラケット用ガットとして良好な特性を具備し、そして驚くべくことに、そのポリエステルモノフィラメントを構成する両素材の界面があたかも同一素材であるが如く極めて強固に結合されたものとなり、PETモノフィラメントに比べ耐フィブリル性が飛躍的に改善され、ガットの使用寿命が大幅に向上することを見出だし、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明のラケット用ガットは、エチレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリエチレンテレフタレート30〜90重量%と、プロピレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリプロピレンテレフタレート70〜10重量%との混合組成物からなる極限粘度が0.70以上のポリエステルモノフィラメントを構成成分の少なくとも一部に含有するガットであって、式(L−l)×100/L(但し、式中のLはガットの長径(mm)であり、lは短径(mm)である。)で求められる扁平率Frが30%以下、下記式で求められる曲げ剛性指数Giが12以上18以下で、引張強度が3.0cN/dtex以上6.0cN/dtex以下、且つ結節強度が引張強度の60%以上であることを特徴とする。
【0016】
【数2】
【0017】
(但し、式中Gはガットの曲げ剛性(mN)であり、φはガットの直径である。)
また、本発明のラケット用ガットの製造方法は、エチレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリエチレンテレフタレート30〜90重量%と、プロピレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリプロピレンテレフタレート70〜10重量%との混合組成物からなり、極限粘度が0.70以上の混合組成物、を押出紡糸機のノズルから溶融押出し、2.0秒以内に40℃以上80℃以下の凝固浴に導いて急冷した後、45℃以上120℃以下の温度で2.0倍以上3.5倍以下に第1段延伸を行い、次いで2段目以降の延伸を、前段延伸温度よりも高く220℃以下の温度で、後段延伸倍率以上前段延伸以下の倍率となる条件で延伸し、最終延伸段階で全延伸倍率が5.0倍以上になるように2段以上の多段延伸をした後、得られたポリエステルモノフィラメントを構成成分の少なくとも一部に用い、常法にしたがいラケット用ガットに加工することを特徴とする。
【0018】
なお、本発明でいう曲げ硬さ指数Giとは、上記式で求められる数値であるが、式中のGで示されるガットの曲げ硬さとは、具体的には図1に示すとおり、間隔1cmに設置された2本のピン(各2mmφの鋼線)に渡されたサンプルの中央をJ字型フック(1mmφの鋼線)で引上げてサンプルを折り曲げる時の最大折り曲げ力(単位:mN)を意味する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明のラケット用ガットを構成するポリエステルモノフィラメントのポリマー成分として用いられるPETは、実質的にテレフタル酸とエチレングリコールを縮重合して得られるものであるが、酸成分の一部およびグリコール成分の一部を、当業界で良く知られる様々なジカルボン酸とグリコールで置き換えたものでも良い。ここで上記酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などが挙げられる。また、上記グリコール成分としては、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0021】
本発明のガットを構成するポリエステルモノフィラメントの他のポリマー成分として用いられるPPTは、実質的にテレフタル酸と1,3プロパンジオールを縮重合して得られるものであるが、酸成分の一部、およびグリコール成分の一部を、当業界で良く知られる様々なジカルボン酸とグリコールで置き換えたPPT共重合体であってもよく、これらの具体例としては、上記PETで示した酸成分および上記PETで示したグリコール成分からプロピレングリコールを外してエチレングリコールを加えたグリコール成分などを挙げることができる。
【0022】
PETおよびPPTの極限粘度は、通常0.70以上あればよいが、PETの場合には0.72以上、またPPTの場合には特に0.80以上あることが、高い靭性のガットが得られることから好ましい。この点から極限粘度は高ければ高いほど好適であるが、1.8を越えると紡糸が困難となるため好ましくない。
【0023】
ここで、本発明でいう極限粘度とは、オルソクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度から求めた極限粘度であり、〔η〕で表される値である。
【0024】
なお、本発明で使用するポリエステルには、少量の二酸化チタンなどの艶消し剤、シリカやアルミナ微粒子などの滑剤、ヒンダードフェノール誘導体などの抗酸化剤、着色顔料、難燃剤、制電剤、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤などの改質剤などが添加されていてもよい。
【0025】
本発明のラケット用ガットを構成するPETとPPTの混合物からなるモノフィラメントは、PET30〜90重量%とPPT70〜10重量%の混合物からなるものであり、さらに好ましくはPET40〜80重量%とPPT60〜20重量%の混合物である。
【0026】
PPTの混合割合が上記の範囲を越える場合は、曲げ硬さ指数Giが12より低くなり、PPT特有のストレッチバック性が発現して安定したボールコントロールが難しくなるばかりでなく、縦糸と横糸の交叉部がずれ易くなり、破断し易くなる傾向になるため好ましくない。
【0027】
逆にPPTの混合割合が上記の範囲未満では、曲げ硬さ指数Giが18を越え、好ましいガット特性を欠くばかりか、フィブリル化を起こしガット寿命が短くなる傾向になるため好ましくない。このフィブリル化を起こし易くなる原因は明らかではないが、PETリッチになるとPPTの持つ優れた耐フィブリル性の効果が希薄になり、PETのフィブリル化し易いという悪さをカバーしきれなくなるためであると考えられる。一方、PETとPPTの混合割合が適正の場合には、PET単独の場合に比べ耐フィブリル性が飛躍的に向上する。この理由については明確ではないが、紡糸工程で両素材が分子鎖レベルに溶け合うと共に、一部はエステル再分配反応を起こして共重合化されるためであると考えられる。
【0028】
なお、ポリエステルモノフィラメントが上記範囲のPETとPPTの混合物からなる場合は、両素材それぞれ持つ優れた特性の相乗効果により、環境変化に左右されない特性の安定性、制球性、反発性、耐衝撃性、張設性およびフィブリル化し難い耐久性を発揮するラケット用ガットとすることができる。
【0029】
本発明のラケット用ガットは、その偏平率Frが30%以下、好ましくは20%以下であり、且つ曲げ硬さ指数Giが12以上18以下、好ましくは13以上17.0以下の範囲にあることが重要である。
【0030】
偏平率Frが30%を越えると、曲げ硬さが不均一となり打球感が損なわれるばかりか、縦糸と横糸の交叉部で破断しやすくなってガット寿命が短くなる傾向になるため好ましくない。
【0031】
また、曲げ硬さ指数Giが18を越えると、反発力がなくなり、ボールを打つ際の力を相対的に大きくしなければならず、結果として肘などが大きな衝撃を受けることとなり好ましくない。したがって、曲げ硬さ指数Giは低いければ低い程、反発性に優れるが、曲げ硬さ指数Giが12未満では、ボールコントロールが難しくなるばかりでなく、縦糸と横糸の交叉部がずれやすくなり、破断しやすくなる傾向になるため好ましくない。
【0032】
本発明のラケット用ガットの引張強度は、3.0cN/dtex以上6.0cN/dtex以下である。さらには、3.5cN/dtex以上5.5cN/dtex以下あることが好ましい。そして、結節強度は引張強度の60%以上、特に80%以上であることがより一層好ましい。
【0033】
ポリエステルモノフィラメントからなるラケット用ガットの引張強度が3.0cN/dtex未満では、打球時に断糸しやすく、耐久性に劣るため実用的でない。逆に引張強度が6.0cN/dtexを越えると、反発性、耐衝撃性に劣りやすいものとなる傾向にあり、また結節強度が引張強度の60%以下では、張設止め端部の破断や縦糸と横糸の交叉部で破断しやすい傾向になるため好ましくない。
【0034】
上記の特性を有する本発明のラケット用ガットの製造方法は、ポリエステル樹脂混合組成物を溶融紡糸し、冷却固化された未延伸糸を多段階に延伸した後、得られたポリエステルモノフィラメントを常法にしたがいラケット用ガットに加工する方法を骨子とするが、これについて以下に詳細に説明する。
【0035】
まず、PETとPPTが事前に混合された本発明のポリエステル樹脂混合物は、常法により押出紡糸機のノズルから溶融押出される。次に、この押出された線条溶融物を、押出し後2秒以内に40℃以上80℃以下、好ましくは1.5秒以内に50℃以上70℃以下の凝固浴に導いて急冷する。
【0036】
線条溶融物を2.0秒以内に凝固浴に導かない場合は、例え凝固浴温度が上記範囲にあっても延伸時に断糸しやすい未延伸糸となるため好ましくない。この理由については明らかではないが、線条溶融物が凝固浴に突入するまでに空気により徐冷され未延伸の結晶化が進むためであると考えられる。
【0037】
また、凝固浴温度が40℃未満では、線条物が凝固浴内で蛇行し、糸形状を悪化させる傾向となるため好ましくない。一方、凝固浴温度が80℃を越えると、線条物の真円性が損なわれ、本発明のラケット用ガットが目的とする形状が得られにくい傾向となるため好ましくない。この理由についても明らかではないが、凝固浴温度が40℃未満では、線条溶融物がガラス状に固化し、凝固浴内ガイドなどの抵抗力を吸収できず蛇行するものと考えられる。そして、凝固浴温度が80℃を越えると、線条物が柔軟になり過ぎ凝固浴内のガイドなどとの接触抵抗で容易に変形することから、真円性が損なわれるものと考えられる。
【0038】
なお、この冷却方法における好ましい冷却時間は、モノフィラメントの太さにもよるが、凝固浴に線条物を2.0秒〜30秒通過させることである。
【0039】
ここで使用する凝固浴の冷媒としては、線条物の表面から容易に除去できるものであって、物理的、化学的に本質的な変化をポリマーに与えない物質で、上記の凝固浴温度範囲において液状を保持し得るものであれば特に制限はなく、それらの具体例としては水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、アミルアルコールおよびキシレンなどが挙げられる。
【0040】
このようにして得られた未延伸糸は、引き続いてラケット用ガットとして適度な柔軟性が得られるようにマイルドに2段以上の多段階に延伸される。
【0041】
第1段の延伸条件としては、比較的低温・低倍率の条件、すなわち45℃〜120℃、特に65℃〜95℃の温度で、2.0倍〜3.5倍、特に2.5倍〜3.2倍の条件が採用される。この第1段延伸温度が低すぎると延伸時に断糸しやすくなり、逆に高すぎると延伸張力が著しく低下し延伸が困難になる。
【0042】
また第1段の延伸倍率が小さ過ぎると延伸斑が生じ、モノフィラメントの線径品位の劣るものとなるばかりか、延伸張力の低下を招き延伸が困難になるため好ましくない。逆に高すぎると剛直なポリエステルモノフィラメントとなり、反発性、耐衝撃性に劣るものとなりやすくなるため好ましくない。
【0043】
第2段目以降の延伸は、前段延伸より高い温度に設定し、220℃以下、特に120℃を越え200℃以下の温度下で、後段延伸倍率以上前段延伸以下の倍率となる条件で延伸される。この第2段目以降の延伸温度も第1段の延伸と同様に、低すぎると断糸しやすく、さらには剛直なポリエステルモノフィラメントとなるるため好ましくない。逆に220℃を越えると延伸性は向上するものの、モノフィラメント表面がザラついて粗れたものとなりやすくなるため好ましくない。この理由については明らかではないが、延伸時にPPT成分が溶融するためであると考えられる。
【0044】
また、延伸倍率が後段延伸倍率より小さ過ぎると、続いて行われる延伸の倍率が相対的に大きくなって、柔軟なポリエステルモノフィラメントが得られず、曲げ硬さ指数Giが18を越え、反発性、耐衝撃性に劣るものとなりやすくなるため好ましくない。一方、延伸倍率が前段延伸倍率より大きすぎると、断糸しやすい傾向になるばかりか、断糸に至らないまでも剛直なポリエステルモノフィラメントとなって、上記と同様に曲げ硬さ指数Giが18を越え、反発性、耐衝撃性に劣るものとなりやすくなるため好ましくない。
【0045】
そして、本発明の製造方法における全延伸倍率は5.0倍以上である。全延伸倍率が5.0倍未満では、引張強度に対する結節強度比は高くなるものの、絶対強度は低いものとなり、耐久性に劣るものとなりやすくなるため好ましくない。この点からは全延伸倍率は高ければ高いほど引張強度の高いモノフィラメントとすることができるが、あまりにも高すぎると、延伸時に断糸しやすい傾向となるばかりか、結節強度の低いものとなり、ラケット用ガットとした際、張設止め端部の破断や縦糸と横糸の交叉部で破断しやすいものとなるばかりか、反発性、耐衝撃性に劣るものとなりやすくなるため好ましくない。この理由については明らかではないが、高倍率延伸によりモノフィラメントの分子配向と結晶化が高度に進むとともに、繊維軸の直角方向の強さが阻害され、剛直なガットとなりやすくなるためであると考えられる。したがって、全延伸倍率は精々7.0倍程度まであり、5.0倍〜7.0倍、特に5.5倍〜6.0倍で行うように中間延伸条件を設定することが上記した理由から好ましい。
【0046】
また、延伸は多段階であればある程、よりラケット用ガットとして好ましい特性が得られやすく、工程も安定するが、あまりにも多い多段延伸では工程の繁雑さを招き、コスト高に見合うほどの品質特性の向上も得られないことから、好適には3〜4段延伸までである。
【0047】
さらに、得られたラケットガット用ポリエステルモノフィラメントの寸法安定性を向上させるべく、熱処理することも可能であるが、上述のラケット用ガットとして好ましい特性を阻害する過酷な熱処理は避けなければならない。
【0048】
ここで、上記の第2段目以降の延伸および熱処理に適する熱媒体としては、モノフィラメントの表面から容易に除去できるものであって、物理的、化学的に本質的な変化をモノフィラメントに与えない物質であれば如何なるものでもよい。また、加熱装置としては、例えば高沸点の不活性液体を有する液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉、高周波炉および金属炉などを使用することができる。
【0049】
かくして得られるポリエステルモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸であり、ラケット用ガットの偏平率Frが30%を越えない範囲であれば、丸、三角、四角、多角形および中空形などいかなる断面形状のものであってもよく、またモノフィラメントの直径は、側糸用、芯糸用など用途によって適宜選択できるが、通常0.05mm〜1.5mmの範囲が最もよく使用される。
【0050】
このようにして得られたポリエステルモノフィラメントは、次いでこれをラケット用ガットを構成する成分の少なくとも一部として用い、常法によりラケット用ガットに加工製造される。例えば、太物中実糸は芯糸として、太物中空糸はオイル注入による打球音改質芯糸として、また細物糸はガット表面の改質のため側糸として好適である。
【0051】
本発明のラケット用ガットを構成する他の素材としては、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドおよびアラミドなど公知のいかなる素材からなるものでもよいが、本発明の特性を阻害しないことが重要であり、上記ポリエステルモノフィラメントがガット断面積に占める割合を20%以上、特に50%以上にすることにより、目的とする良好な特性が得られやすい。
【0052】
かくして得られる本発明のラケット用ガットは、ポリエステルモノフィラメントからなり、天然ガット並の制球性を有し耐久性に優れるばかりか、曲げ硬さが低いため優れた張設性、反発性、耐衝撃性を有し、ラケット用ガットとして要求される特性を均衡して具備するものである。
【0053】
したがって、本発明によれば、環境変化による特性変化を起こし難く、天然ガット並の制球性を有し、しかも天然ガットに比較して耐水性に優れるというPETモノフィラメントの特性を損なうことなく、反発性、耐衝撃性、耐久性および張設性を改良したラケット用ガットとして好適に応用し得ることができ、かかる本発明の価値は極めて大きいといえる。
【0054】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
なお、以下に述べる実施例における各特性の測定、評価は次の基準にしたがって行った。
[偏平率Frおよび糸直径]
アンリツ(株)製レーザー外径測定機、KL151Aでガットの長径、短径を計測し上記した式計算式(L−l)×100/Lで求めた。
[曲げ硬さ指数]
上述した図1の方法にしたがって曲げ硬さを測定し、この測定値から上記式にしたがって求めた。
[引張強度、結節強度]
いずれもJISL1013標準時試験法で測定した(単位:cN/dtex)。
[ガット特性の評価]
張設性については、ガット張り技能者が実張において、ナイロンガット並以上に良好:◎、ナイロンガットより劣る:×として評価した。
【0056】
制球性、反発性および耐衝撃性については、上級レベルのプレーヤーが試打し、天然ガットと同等:◎、高級ポリアミドガットと同等:○、ポリアミドガットより劣る:×として評価した。
【0057】
耐久性については、フェース面積、115平方インチのテニスラケットに65ポンドのテンションで張設し、テニスボールの打ち出し速度120Km/hr、打ち出し間隔10回/分、打ち出し距離、50cmで打撃し、ガットが切断するまでの打ち出し回数で評価した。
[実施例1]
極限粘度0.97のPET(三井ペット社製J155)50重量%と極限粘度1.3のPPT(Shell Chemical社製CORTERRA)50重量%との混合ペレットを常法にしたがって乾燥後、40mmφのエクストルーダーで275℃に溶融し、ギヤポンプを経て紡糸パック内のろ過層を通して、ノズルから紡出し、紡出糸を1秒以内に55℃の温水浴に導き急冷却した。得られた未延伸糸を60℃の温水浴で3.0倍に第1段延伸し、次いで100℃の熱風乾熱炉で1.5倍に第2段目延伸し、続いて150℃の熱風乾熱炉で全延伸倍率が5.5倍になるように第3段延伸し、直径0.93mmと0.16mmのポリエステルモノフィラメントを製造した。
【0058】
次いで、上記で得た直径0.93mmのポリエステルモノフィラメントを芯糸として、直径0.16mmのポリエステルモノフィラメント12本を等間隔に配置し、巻き付け角35度で螺旋状に巻き付けて接着剤で固定することにより、直径1.3mmのテニスラケット用ガットを製造した。得られたテニスラケット用ガットを用い、上記の方法で評価を行った。ポリエステルモノフィラメントの製造条件とテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。
[実施例2]
第3段目延伸を行わずに第2段延伸で全延伸倍率が5.5倍になるようにした以外は、実施例1と同様の方法でテニスラケット用ガットを製造した。ポリエステルモノフィラメントの製造条件とテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。
[実施例3]
第3段目延伸に引き続いて160℃の熱風乾熱炉で定長セットを行った以外は、実施例1と同様の方法でテニスラケット用ガットを製造した。ポリエステルモノフィラメントの製造条件とテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。
[比較例1]
原料樹脂を極限粘度0.97のPET(三井ペット社製J155)20重量%と極限粘度1.3のPPT(Shell Chemical社製CORTERRA)80重量%の混合ペレットに変更した以外は、実施例1と同様の方法でテニスラケット用ガットを製造した。ポリエステルモノフィラメントの製造条件とテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。
[比較例2]
原料樹脂を極限粘度0.97のPET(三井ペット社製J155)95重量%と極限粘度1.3のPPT(Shell Chemical社製CORTERRA)5重量%の混合ペレットに変更した以外は、実施例1と同様の方法でテニスラケット用ガットを製造した。ポリエステルモノフィラメントの製造条件とテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。
[比較例3〜7]
実施例1において、製造条件を表1に示したように変更した以外は同様にして、テニスラケット用ガットを製造した。得られたテニスラケット用ガットの評価結果を表1に併記した。但し、比較例7は原料樹脂の乾燥を行わずに溶融紡糸し、モノフィラメントを製造したものである。
[比較例8]
実施例1において、溶融紡出後の空冷時間を3秒に変更したところ1段目延伸で糸条断糸が多発したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例9]
実施例1において、凝固浴温度を25℃に変更したところ凝固浴内での蛇行が激しく、著しい太さ斑の未延伸糸となり、2段目延伸で糸条断糸が多発したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例10]
実施例1において、第1段延伸温度を30℃に変更したところ、半数の糸条が断糸したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例11]
実施例1において、第1段延伸温度を130℃に変更したところ、ネッキング現象が消え、延伸張力が著しく低下し、延伸不能となったため、テニスラケット用ガットを製造することができなかった。
[比較例12]
実施例1において、第1段延伸を1.8倍に変更したところ、スラブ糸が多数混入するモノフィラメントしか得られなかったため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例13]
実施例1において、第2段延伸温度を55℃に変更したところ、半数の糸条が断糸したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例14]
実施例1において、第2段延伸温度を230℃に変更したところ、モノフィラメントの表面がザラつく粗れたものしか得られなかったため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例15]
実施例1において、第3段延伸温度を90℃に変更したところ、断糸が散発したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例16]
実施例1において、第3段延伸温度を230℃に変更したところ、モノフィラメントの表面がザラつく粗れたものしか得られなかっため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
[比較例17]
実施例1において、第2段延伸を1.7倍で行い、第3段延伸を全延伸倍率が7.2倍となるように延伸したところ、第3段延伸で糸条断糸が多発したため、テニスラケット用ガットの製造を中止した。
【0059】
【表1】
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリエステルモノフィラメントからなるラケット用ガットは、環境変化による特性変化を起こし難く、天然ガット並の制球性を有するPETモノフィラメントの優れた特性を損なうことなく、耐フィブリル性に極めて優れ、ラケット用ガットとして要求される反発性、耐衝撃性および張設性が天然ガット並に高く、且つこれらの特性を均衡して具備するものである。しかも、水濡れによる耐久性の低下、環境による特性変化などの従来ガットの欠点もなく、製造工程が単純で経済的に有利である。
【0061】
また、本発明の製造方法によれば、上記の性能を有するラケット用ガットを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のラケット用ガットの曲げ硬さ測定方法の説明図である。
Claims (2)
- エチレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリエチレンテレフタレート30〜90重量%と、プロピレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリプロピレンテレフタレート70〜10重量%との混合組成物からなる極限粘度が0.70以上のポリエステルモノフィラメントを構成成分の少なくとも一部に含有するガットであって、式(L−l)×100/L(但し、式中のLはガットの長径(mm)であり、lは短径(mm)である。)で求められる扁平率Frが30%以下、下記式で求められる曲げ剛性指数Giが12以上18以下で、引張強度が3.0cN/dtex以上6.0cN/dtex以下、且つ結節強度が引張強度の60%以上であることを特徴とするラケット用ガット。
- エチレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリエチレンテレフタレート30〜90重量%と、プロピレンテレフタレート単位を85モル%以上含有するポリプロピレンテレフタレート70〜10重量%との混合組成物からなり、極限粘度が0.70以上の混合組成物、を押出紡糸機のノズルから溶融押出し、2.0秒以内に40℃以上80℃以下の凝固浴に導いて急冷した後、45℃以上120℃以下の温度で2.0倍以上3.5倍以下に第1段延伸を行い、次いで2段目以降の延伸を、前段延伸温度よりも高く220℃以下の温度で、後段延伸倍率以上前段延伸以下の倍率となる条件で延伸し、最終延伸段階で全延伸倍率が5.0倍以上になるように2段以上の多段延伸をした後、得られたポリエステルモノフィラメントを構成成分の少なくとも一部に用い、常法にしたがいラケット用ガットに加工することを特徴とするラケット用ガットの製造方法。
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JP2013085585A (ja) * | 2011-10-14 | 2013-05-13 | Toray Monofilament Co Ltd | ラケットガット用ポリエステルモノフィラメントとその製造方法 |
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