JP2004125582A - 分析装置及び分析方法 - Google Patents

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Kazuto Hoshino
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    • G01N23/20Investigating or analysing materials by the use of wave or particle radiation, e.g. X-rays or neutrons, not covered by groups G01N3/00 – G01N17/00, G01N21/00 or G01N22/00 by using diffraction of the radiation by the materials, e.g. for investigating crystal structure; by using scattering of the radiation by the materials, e.g. for investigating non-crystalline materials; by using reflection of the radiation by the materials
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Abstract

【課題】試料の温度の変化によって試料の特性に変化が生じる場合にその変化の原因を正確に判定できるようにする。
【解決手段】試料18にX線を照射すると共にその試料18から発生するX線を検出するX線小角散乱装置2と、試料18から発生するガスを分析する質量分析装置3と、X線小角散乱装置2と質量分析装置3とに共通する試料位置に前記試料を支持する試料支持装置12と、試料18の温度を制御する試料温度制御装置24と、X線小角散乱装置2を用いた測定と質量分析装置3を用いた測定とを同時に行うように制御する制御手段とを有することを特徴とする分析装置1である。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、X線を用いた測定と、試料から発生するガスに関する測定との両方を行って試料を分析する分析装置及び分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、試料の分子構造を調べるための装置としてX線回折装置、X線散乱装置、X線小角散乱装置等といったX線装置が知られている。このX線装置では、試料にX線を当てたときにその試料から発生する回折X線、散乱X線等をX線検出器によって検出するという処理が行われる。この処理により、試料から発生するX線の角度、例えば回折角度、及びX線強度を測定して、その測定結果をグラフ上にプロットしてX線回折図形、すなわちX線プロファイルを求めることができる。また、このX線回折図形に基づいて試料に関する各種の情報、例えば、試料の分子構造を知ることができる。
【0003】
例えば、温度変化に晒される物体に関して、温度変化に従った分子構造の変化を知りたい場合、温度変化に従ったX線回折図形におけるピーク位置の変化及びピーク強度の変化を観察することにより、試料の分子構造が温度変化に従ってどのように変化するかを知ることができ、これにより、目的に応じた物質の選択や、目的に応じた物質の創製等に関する研究が可能となる。
【0004】
しかしながら、X線回折図形におけるピーク位置及びピーク強度の変化は、試料の分子構造の変化だけに依存するものではなく、その他の要因、例えば試料の分解、例えば熱分解によっても起こるとも考えられる。従って、X線回折図形におけるピーク位置等の変化が試料の分子構造の変化だけに依存するという前提でX線回折測定を行うと、判断を誤るおそれがある。
【0005】
このことに鑑み、試料に分解が発生したかどうかを調べる装置について考えてみると、そのような装置として質量分析装置が考えられる。この質量分析装置によれば、試料から発生するガスを採取してその質量数を測定することにより、発生したガスに含まれる元素を同定することができる。従って、上記のX線回折測定と、この質量分析測定とを組み合わせれば、より信頼性の高い測定を行うことができると考えられる。
【0006】
このように、複数種類の測定を組み合わせて試料を分析する技術が従来から種々提案されている。例えば、熱分析測定とX線回折測定とを組み合わせる測定方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、X線回折測定と他の測定方法、例えば質量分析測定とを行うという技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−019815号公報
【特許文献2】
特開平8−015185号公報(段落番号0022、段落番号0055)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
X線装置を用いて行った測定から得られたX線回折図形と、質量分析装置を用いて行った測定から得られた発生ガスのデータとの両方を観察すれば、試料に発生した分子構造の変化と、試料に生じた分解とを区別して特定できる。つまり、X線回折図形におけるピーク位置及びピーク強度の変化が、試料の構造変化によるものなのか、試料の分解によるものなのかを判別できる。
【0009】
しかしながら、従来、X線装置を用いた測定とそれ以外の測定、例えば質量分析装置を用いた測定は、同時には行われていなかった。また、1つの試料の温度を変えながら、当該1つの試料に対してX線回折測定及び質量分析測定の両方を同じタイミングで行うという測定方法も、従来は、知られていない。
【0010】
特に、試料の温度を変えながらその試料の変化を分析しようとするような場合には、複数の測定間で試料の環境条件を同じに揃えることは非常に難しかった。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、試料の温度の変化によって試料の特性に変化が生じる場合にその変化の原因を正確に判定できるようにすることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る分析装置は、試料にX線を照射すると共に該試料から発生するX線を検出するX線測定手段と、試料から発生するガスを分析するガス分析手段と、前記X線測定手段と前記ガス分析手段とに共通する試料位置に前記試料を支持する試料支持手段と、前記試料の温度を制御する試料温度制御手段と、前記X線測定手段を用いた測定と前記ガス分析手段を用いた測定とを同時に行うように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
この分析装置によれば、X線測定手段を用いた測定によって得られるX線回折図形と、ガス分析手段を用いた測定によって得られる試料に関するデータとの両方に基づいて試料の特性を判定できる。これにより、X線回折測定だけでは、又はガス分析手段を用いた測定だけでは判定を誤るような試料に関して、信頼性の高い測定を行うことができるようになる。
【0014】
また、上記構成の分析装置によれば、X線測定手段における試料位置とガス分析手段における試料位置とが同じであるので、それらの測定を全く同じ環境下で同時に行うことができる。従って、両方の測定によって得られたデータは、全く同じ試料の、全く同じタイミングにおける、全く同じ環境下でのデータであるので、試料の構造変化であるのか、試料の一部脱離や分解が起こっているのかを、容易に特定できる。
【0015】
特に、本発明では試料温度制御手段を設けたので、試料温度を変化させながら測定を行うことができ、しかも、そのように試料温度が変化する場合でも、X線測定とガス分析測定との間で試料の環境条件は全く同一である。
【0016】
X線測定手段を用いた測定とガス分析手段を用いた測定とを、試料位置を異にした別々の装置で行うものとすれば、それぞれの試料室の大きさや、それぞれの試料の温度差や、それぞれの試料の個体差等を考慮して補正をしなければならないが、本発明によれば、そのような補正を一切考慮する必要がなくなり、しかも、そのような補正なしで極めて信頼性の高いデータを得ることができる。
【0017】
なお、ガス分析手段としては、例えば、質量分析装置や、IR(Infrared Spectrophotometer:赤外分光光度計)等を用いることができる。また、前記温度制御手段は、試料を加熱するヒータであれば、高温に晒されることが考えられる試料、例えば有機化合物、例えばイオン交換膜等に関するin−situ測定を行うことができる。
【0018】
(2)上記構成の分析装置において、前記X線測定手段としては、入射X線の光軸を中心とする小角度領域における散乱X線を検出できるX線小角散乱装置を用いることができる。このX線小角散乱装置は、広角ゴニオメータでは測定できない角度領域、すなわち、試料へ入射するX線の中心から0.1°〜5°程度の角度領域、望ましくは0.1°〜4°程度の角度領域内、いわゆる小角領域内に発生するX線、例えば散乱X線を測定する。
【0019】
このような小角領域内に発生するX線を認識できるようにするため、換言すれば、小角領域内における分解能を高めるため、小角散乱装置では、広角領域を測定範囲とする一般的なX線回折装置とは異なった構造、例えば、▲1▼試料へ入射するX線を非常に狭い平行ビームに絞ったり、▲2▼スリットから発生する不要な寄生散乱線が試料へ入射することを防止するために多数の、例えば3つのスリットを長い光路長の中に配設したり、▲3▼X線源からX線検出器にいたるX線通路を真空状態に保持したり、▲4▼試料からX線検出器に至る長さ、いわゆるカメラ長を非常に長くとる、等といった種々の構成が採用される。
【0020】
この小角散乱装置によれば、広角X線装置では測定できない、長周期構造を有する物質、例えば有機化合物、における分子構造の違いをX線回折図形の違いによって捉えることができるという、格別の効果を得ることができる。
【0021】
(3)上記構成の分析装置において、前記ガス分析手段は、ガスの質量数を測定できる質量分析装置によって構成できる。この構成によれば、試料から発生したガス中に存在する元素を知ることができ、それ故、試料に熱分解や脱離が発生したことを容易に判定できる。この結果、X線回折図形に現れるピーク位置及びピーク強度の変化が分子構造の変化に起因するものなのか、あるいは、発生ガスの元素を含む個所の分解や脱離等を伴った変化に起因するものなのかを容易に判定できる。
【0022】
(4)上記構成の分析装置において、前記試料支持手段は、前記試料を収容でき、該試料を前記X線測定手段におけるX線光路上に配置でき、該試料へ向けてX線を入射でき、該試料から出たX線を外部へ出射でき、さらに、前記試料から発生するガスを外部へ導出できることが望ましい。
【0023】
(5)上記構成の分析装置において、前記試料支持手段は、前記試料を収容する内部空間を有する環状部材と、前記環状部材の表裏両面に密着して前記内部空間を外部から遮蔽すると共にX線が通過可能な一対の遮蔽部材と、前記環状部材の内部空間と外部空間とをつなぐガス通路とを有することが望ましい。この構成によれば、X線測定手段とガス分析手段との間の共通の試料位置に試料支持手段を設置する場合に、その試料支持手段を非常に簡単に構成でき、しかも、測定中に試料を非常に安定に保持できる。
【0024】
(6)上記構成の分析装置において、前記ガス通路は、キャリヤガスを導入する通路及び発生ガスを導出する通路であることが望ましい。こうすれば、試料から発生したガスを安定して確実に試料支持手段の外部へ運び出すことができる。
【0025】
(7)上記構成の分析装置においては、前記遮蔽部材を前記環状部材へ押し付ける押圧手段をさらに有することが望ましい。その理由は次の通りである。すなわち、前記遮蔽部材を前記環状部材の表裏両面に密着させるためには、接着剤や粘着剤等を用いることも1つの考えであるが、この方法では、接着剤に用いられている溶剤が揮発して不純なガスが混入し正確なガス分析ができない。これに対し、接着剤等を用いることなく、遮蔽部材を押圧によって機械的に環状部材へ装着するようにすれば、不純なガスの発生がなく正確で精度のよい分析ができる。
【0026】
(8)上記構成の分析装置において、前記押圧手段は耐熱ゴムを介して前記遮蔽部材を前記環状部材へ押し付けることが望ましい。この構成によれば、耐熱ゴムの弾性力により、遮蔽部材を確実に環状部材へ密着させることができる。しかも、耐熱ゴムは耐熱性を有するので、試料を高温に加熱して測定を行う場合でも、遮蔽部材の押圧力を一定に維持でき、それ故、昇温及び降温が繰り返される場合であっても、試料を一定の環境下に保持できる。
【0027】
(9)上記構成の分析装置において、前記遮蔽部材はポリイミドフィルムによって形成されることが望ましい。ポリイミドフィルムは、X線を通し易く、耐熱性があり、ガスがほとんど出ない等といった性質を持っているからである。ポリイミドフィルムは、約400℃まではその特性が安定している。
【0028】
(10)上記構成の分析装置において、前記X線測定手段は、前記試料から発生するX線を検出する2次元X線検出器を有することが望ましい。ここで2次元X線検出器とは、X線を平面領域内で受光してその平面領域内の各点においてX線を検出できる構造のX線検出器であり、例えば、X線乾板、X線フィルム、蓄積性蛍光体を用いたX線検出器、面状のCCD(Charge Coupled Device)センサを用いたX線検出器等によって構成できる。
【0029】
2次元X線検出器を用いれば、0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いる場合に比べて測定時間を短縮できる。このように測定時間を短縮できるということは、試料を実際の使用環境下に置いて測定を行う場合、すなわちin−situ(インサイテュー)測定を行う場合に好都合である。何故ならば、実際の使用環境下に置かれた試料に短時間に構造変化等が起こる場合でも、その変化に追従して測定を行うことができるからである。
【0030】
(11)上記構成の分析装置において、前記X線測定手段は、X線を集光して前記試料へ照射するX線集光手段を有することが望ましい。ここで、X線集光手段は、発散しながら進行するX線を下流側の1点に集光させることができるX線光学要素のことであり、例えば、X線の反射を利用するコンフォーカルミラーや、X線の回折を利用するX線集光要素等が考えられる。
【0031】
X線集光手段を使用しない一般的なX線光学系では、測定対象である試料へ供給されるX線の強度は弱い。これに対し、X線集光手段を用いれば、X線を収束させて試料へ供給できるので、強度の強いX線を試料へ照射できる。
【0032】
X線強度が弱い一般的な構造のX線測定装置では、X線回折図形を求めるために非常に長い時間を必要とする。これに対し、X線集光手段を用いることによって高強度のX線を試料へ供給できるようにした上記のX線測定装置を用いれば、非常に短時間でX線回折図形を求めることができる。このことは、in−situ(インサイテュー)測定を行う場合に好都合である。
【0033】
(12)上記構成の分析装置において、前記X線集光手段はコンフォーカルミラーであることが望ましい。ここで、コンフォーカルミラーとは、共焦点ミラーのことであり、互いに交差する関係、望ましくは直角に交差する関係にある2つ以上のX線反射面を有し、それらのX線反射面で反射したX線が同じ又は略同じ焦点に集まるようになっているX線反射ミラーのことである。
【0034】
このコンフォーカルミラーに関しては、X線反射面がX線を反射又は回折できる材料の単層によって形成される場合もあるし、あるいは、X線を反射又は回折できる材料を多数層重ねることによって形成された多層膜ミラーの場合もある。多層膜ミラーを用いれば、単層膜の場合よりも、さらに強いX線ビームを形成できるので、測定時間をさらに短縮できる。
【0035】
(13)上記構成の分析装置において、前記X線測定手段はポイントフォーカスのX線源を有することが望ましい。ここでポイントフォーカスとは、ラインフォーカスとの対比で出てくる概念であり、ラインフォーカスが試料上に細長い断面形状のX線を照射するフォーカス形状であるのに対し、ポイントフォーカスは試料上に縦横の長さが略等しい断面形状のX線を照射するフォーカス形状である。
【0036】
具体的には、例えば、ポイントフォーカスのX線源を用いることにより、試料の所で直径約0.3mm又は縦×横=約0.3mm×約0.3mmの断面形状のX線ビームを形成することができる。
【0037】
ラインフォーカスのX線源を用いる場合には、試料の微小領域にX線を照射する際、ラインフォーカスから発生する断面長方形状のX線のうち上記の試料の微小領域に対応しない部分から発生したX線は測定に寄与しないで無駄に消費されることになり、その分、強度の強いX線を試料に照射することに関して不利である。これに対し、ポイントフォーカスから発生する断面略正方形状のX線は、特にX線集光手段によってその略全部を試料の微小領域に収束させることができるので、高強度のX線を試料へ照射できる。これにより、測定時間の短縮化を達成できる。
【0038】
(14)次に、本発明に係る他の分析装置は、試料にX線を照射すると共に該試料から発生するX線を検出するX線測定手段と、試料から発生するガスを分析するガス分析手段と、前記X線測定手段と前記ガス分析手段とに共通する試料位置に前記試料を支持する試料支持手段と、前記ガス分析手段を用いた測定の結果に基づいて前記X線測定手段を用いた測定の動作を制御し、又は前記X線測定手段を用いた測定の結果に基づいて前記ガス分析手段を用いた測定の動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0039】
この分析装置によれば、いずれか一方の測定において目的とする測定結果が得られたような場合には、それ以降の不要な測定を省略したり、それ以降は測定条件を変えて測定を継続するといった処理を行うことができ、時間の無駄遣いを回避できる。また、いずれか一方の測定において、それ以降の測定を行う価値が無いことが判明したような場合には、それ以降の不要な測定を省略でき、時間の無駄遣いを回避できる。
【0040】
(15)上記構成の分析装置において、前記制御手段は、前記X線測定手段及び前記ガス分析手段の一方の測定結果に基づいて、他方の測定を停止することができる。これにより、不要な測定を継続してしまうといった無駄を回避できる。
【0041】
(16)上記構成の分析装置において、前記制御手段は、前記ガス分析手段が特定ガスを検出したときに、前記X線測定手段を用いた測定を停止するという制御を行うことができる。
【0042】
この構成によれば、例えば、測定上何らかの問題となり得るガスが発生した場合には、それ以降の測定を中止できるので、安全である。また、特定ガスの検知により、試料に所定の反応が発生したことが分かったときには、それ以降の測定を中止できる。このように、臨機応変な測定を行うことができるようになる。
【0043】
(17)上記構成の分析装置においては、前記試料の温度を制御する試料温度制御手段を設け、前記制御手段は、前記ガス分析手段を用いた測定の結果及び/又は前記X線測定手段を用いた測定結果に基づいて、前記試料の温度制御条件を変化させることが望ましい。こうすれば、不要な条件での測定が無駄に行われることを回避して、多様な条件での測定を迅速に行うことができる。
【0044】
(18) 上記構成の分析装置において、前記試料は、イオン交換膜又はその他の有機化合物とすることができる。有機化合物は、その分子構造の周期が長いことから、X線測定装置として一般的である広角装置では測定を行うことが難しい。これに対し、X線測定手段として小角散乱装置を用いた本発明によれば、このような有機化合物の分子構造の解析が可能である。また、さらに、X線検出器として2次元X線検出器を用いたり、試料に向かうX線光路上にX線集光手段を配設したり、X線源としてポイントフォーカスを用いたりするようにした本発明によれば、強度の強いX線を試料へ照射できたり、試料で発生した散乱X線を平面的に検出できたりするので、有機化合物に関する測定を非常に短時間に行うことができる。
【0045】
なお、イオン交換膜は高分子化合物の1つであり、近年、燃料電池を構成する主たる構成要素として用いられている。このイオン交換膜を燃料電池の構成要素として用いる場合には、このイオン交換膜は高温の湿潤状態(すなわち、湿度100%の状態)で使用されることが多い。このようなイオン交換膜に関してin−situ測定を希望する場合には、高温で短時間で終わる小角散乱測定が行われることが要求される。本発明の分析装置は、このような要求に十分に応えられるものである。
【0046】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る分析装置を、X線測定手段として小角散乱装置を用い、第2測定手段として質量分析装置を用いる場合を例に挙げて説明する。なお、この実施形態は本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0047】
図1は、本発明に係る分析装置の機械的な構成を示している。ここに示す分析装置1は、X線測定手段としてのX線小角散乱装置2と、第2測定手段としての質量分析装置3とを有する。
【0048】
X線小角散乱装置2は、X線源4を備えたX線管6と、X線源4から発生したX線を1つの焦点に収束させるX線集光手段としてのコンフォーカルミラー7と、第1スリット8と、第2スリット9と、第3スリット11と、試料支持手段としての試料支持装置12と、X線検出手段としての2次元X線検出器13とを有する。2次元X線検出器13は、本実施形態では、X線検出面に面状の蓄積性蛍光体を有する蓄積性蛍光体プレートを用いるものとする。
【0049】
図2は、図1に示すX線小角散乱装置2におけるX線の進行の様子を模式的に示している。図2において、図1と同じ符号は同じ要素を示している。図2に示すように、コンフォーカルミラー7は、互いに交差する関係にある2つのX線反射面7a及び7bを有し、それらのX線反射面で反射したX線が同じ又は略同じ焦点fに集まるようになっているX線反射ミラーである。
【0050】
このコンフォーカルミラー7は、例えば、X線を反射することのできる材料、例えば、ニッケル、白金、タングステン等によって単層構造として形成することができる。あるいは、コンフォーカルミラー7は、X線反射面上に複数の薄膜を形成することにより、X線の回折を利用して全体としてX線を反射させる構造の多層膜ミラーとして構成することもできる。この多層膜ミラーによれば、単層構造のX線反射ミラーに比べて、より強度の強いX線を反射して焦点fへ集めることができる。
【0051】
図1において、第1スリット8と第2スリット9との間には管14が配設され第2スリット9と第3スリット11との間には管16が配設され、さらに、試料支持装置12の下流側(すなわち、図1の左側)には管17が配設される。2次元X線検出器13は、管17の内部の端部に配設される。また、これらの管14、16及び17は図示しない真空装置に接続され、それらの内部は真空又はそれに近い減圧状態に減圧される。
【0052】
本実施形態のX線小角散乱装置2では、試料支持装置12によって支持される試料18から発生する散乱線を検出することが目的であるが、この散乱線の強度は非常に小さい。上記のように管14、16、17によって真空パスを形成するのは、X線の空気散乱によって目標とする試料18からの散乱線が乱されることを防止するためである。
【0053】
本実施形態で用いるX線管6は、迅速な測定を可能とするため、できるだけ強度の強いX線を発生できるものが望まれる。そのため本実施形態では、図4に示すように、冷却機構を内蔵すると共に高速回転が可能であるロータターゲット19と、このロータターゲット19との間で高電圧を印加できるフィラメント21とによって構成する。
【0054】
X線発生回路36は、フィラメント21へ所定の電流を供給すると共に、フィラメント21とターゲット19との間に所定の電圧、いわゆる管電圧を印加する。X線発生回路36は、通常、ターゲット19を流れる電流、いわゆる管電流を検知すると共に、その管電流が所定の一定値を維持するように、フィラメント21への電流値を制御する。本実施形態では、例えば、管電圧及び管電流を45kV−60mAに設定する。
【0055】
フィラメント21は通電によって発熱して熱電子を放出する。放出された熱電子はフィラメント21とターゲット19との間に印加された高電圧によって加速されてターゲット19の表面に衝突する。この衝突する領域FがX線焦点であり、このX線焦点fからX線が発生する。すなわち、このX線焦点FがX線源4となる。本実施形態では、X線源4からポイントフォーカスのX線を取り出すことにする。
【0056】
一般に、X線焦点Fは長方形であり、本実施形態ではその長方形の短辺側からX線を取り出す。すなわち、X線焦点Fの短辺側に設けたX線取出し窓22からX線をX線管6の外部へ取り出すことにする。このため、取り出されたX線Rはその断面Dが正方形、略正方形、円形又は略円形になる。このようなX線の取り出し方が行われるとき、X線焦点FはポイントフォーカスのX線焦点と呼ばれる。
【0057】
因みに、X線焦点FからのX線の取り出し方としては、そのX線焦点Fの長辺側からX線を取り出す方法もある。この場合には、取り出されたX線の断面は長方形となり、このようなX線の取り出し方が行われるとき、X線焦点FはラインフォーカスのX線焦点と呼ばれる。なお、X線取出し窓22には、その窓を開閉できるX線シャッタ39が設けられる。このX線シャッタ39は、適宜の動力源、例えば電動モータや電磁ソレノイド等を駆動源として開閉動作できるようになっている。
【0058】
本実施形態のX線管6では、その内部が真空又は真空に近い減圧状態に減圧される。そして、ターゲット19が軸線X0を中心として高速で回転され、さらにターゲット19の内部に冷却水が流される。この高速回転及び冷却水の通水により、ターゲット19の表面が冷却される。以上により、X線焦点Fに多量の電子を供給でき、よって、X線焦点Fから高強度のX線を発生できる。なお、ターゲット19の表面は、例えばCu(銅)によって形成する。
【0059】
図1におけるX線小角散乱装置2で用いるスリットには、長方形状のスリットや、円形状のスリット(すなわち、ピンホール)等が用いられるが、本実施形態では、図2に示すように、第1スリット8、第2スリット9、第3スリット11はピンホールを有するスリットとして形成されている。これらのピンホールは、ポイントフォーカスのX線源4とコンフォーカルミラー7とを用いる場合のスリットとして好適である。
【0060】
図1において、試料支持装置12は、図5に示すように、その内部に、試料加熱手段としての一対のヒートプレート23a及び23bを有する。これらのヒートプレート23a及び23bは、詳しくは図示しない開閉機構によって互いに開閉可能に、具体的には、矢印Aのように開移動でき、さらに矢印Bのように閉移動できる。なお、試料加熱手段としては、図示した構造のヒートプレート23a及び23bに限られず、他の任意の加熱構造を採用できる。
【0061】
ヒートプレート23a及び23bの一方又は両方には通電によって発熱する発熱体、例えば電熱線が収容されている。温度制御回路24は、その発熱体への通電量を制御することにより、ヒートプレート23a及び/又は23bの発熱量を制御する。なお、ヒートプレート23a及び/又は23bは、少なくともその内面が発熱面である。
【0062】
ヒートプレート23a及び23bは、それらの内面、すなわち発熱面が試料室構造体26に直接に面接触するようにして、当該試料室構造体26を挟持する。望ましくは、バネ等といった弾性力付勢手段のバネ力、すなわち弾性力によって試料室構造体26を動かないようにしっかりと支持する。
【0063】
試料室構造体26は、円輪形状の環状部材27と、その環状部材27の両面に装着される遮蔽部材28a及び28bとを有する。環状部材27は、例えば、真鍮によって適宜の厚さ、例えば1mm程度に形成される。また、環状部材27の側面には吸気通路32及び排気通路33が設けられる。吸気通路32には、図示しないガス供給源が接続され、この吸気通路32を通してこのガス供給源からキャリヤガス、例えば不活性ガス、例えばHeが内部空間31へ供給される。また、排気通路33は図1に示すように、質量分析装置3のガス導入ポートへ接続される。
【0064】
遮蔽部材28a及び28bは、X線を透過可能で、しかも機械的強度が強い材料、例えばマイラー(商品名)等といったポリエチレンテレフタラートや、カプトン(商品名)等といったポリイミド等によって、変形自在なフィルム状に形成されている。図では、遮蔽部材28a及び28bを円形状に描いてあるが、その形状は方形状、あるいはその他の任意の形状とすることができる。
【0065】
遮蔽部材28aとヒートプレート23aの間及び遮蔽部材28bとヒートプレート23bの間には、それぞれ、円輪形状で耐熱性の弾性部材、例えば耐熱ゴム29a及び29bが配置される。ヒートプレート23a及び23bを矢印Bのように閉移動させると、耐熱ゴム29a及び29bは遮蔽部材28a及び28bを環状部材27の表裏両面に押し付ける。これにより、環状部材27の内部空間31が吸気通路32及び排気通路33を除いて遮蔽部材28a及び28bによって外部から気密に遮蔽される。測定対象である試料18は、遮蔽部材28a及び28bが装着される前にその内部空間に入れられて測定に供される。
【0066】
ポリイミド等といった上記の材料によって形成された遮蔽部材28a及び28bは、これらを矢印Cのように環状部材27の表面に当てると、自然にその表面に密着する性質を持っている。従って、場合によっては、耐熱ゴム29a及び29bによる押圧は不要な場合があるかもしれない。しかしながら、耐熱ゴム29a及び29bによる押圧を行えば、ミスのない安定した測定を行うことができる。
【0067】
なお、遮蔽部材28a及び28bを接着剤又は粘着剤によって環状部材27に接着することが考えられる。しかしながら、本実施形態では、試料18から発生するガスを測定対象とするので不要なガスが発生することはできる限り避けるべきであるところ、上記のように接着剤等を用いると測定中に不要なガスが発生するおそれがある。従って、本実施形態のように、接着剤等を用いることなく、耐熱ゴム29a及び29bを用いた押圧による装着によれば、そのような不要なガスの発生を心配しなくて済む。
【0068】
試料18を収容するための内部空間31を形成する試料室構造体26は、ヒートプレート23a及び23bに挟持されることにより、それらのヒートプレート23a及び23bが発熱したときに加熱される。そして、この加熱により、試料18が加熱される。
【0069】
なお、ヒートプレート23a及び22bの略中央には貫通穴34が設けられている。これらのうちの一方は、試料18へ入射するX線を通過させるためのものであり、他方は、試料18から発生した散乱線を通過させるためのものである。
【0070】
図1において、質量分析装置3は、試料支持装置12によって所定位置に配置された試料18からガスが発生する場合に、そのガスを排気通路33を通して採取して、そのガスの質量数を測定する装置である。この機能が達成できるものであれば、質量分析装置3の具体的な構成は特別のものに限られない。
【0071】
質量分析装置3は、試料18を試料支持装置12によってX線小角散乱装置2の試料位置、すなわち試料18がX線光路上に置かれる位置、に置いた状態で試料18に関する測定を行うことができる。つまり、試料支持装置12は、X線小角散乱装置2と質量分析装置3とに共通する試料位置に試料18を支持できる。
【0072】
なお、質量分析装置3を用いて測定を行うのは、試料18に関してX線小角散乱測定に加えて、その他の方法で測定を行うことが目的であり、従って、質量分析装置3に代えてそれ以外の測定装置、例えばIR(Infrared Spectrophotometer)を用いることもできる。
【0073】
図6は、以上に説明した各種要素の動作を制御するための制御装置の一例を示している。この制御装置は、CPU(Central Processing Unit)56、RAM(Random Access Memory)57、ROM(Read Only Memory)58及び記憶媒体59を備えたコンピュータシステムを用いて構成されている。記憶媒体59は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Video Disc)、ハードディスク、その他任意の記憶手段によって構成され、その内部には、X線小角散乱装置2を用いた測定を実現するためのプログラム及び質量分析装置3を用いた測定を実現するためのプログラムが格納されている。
【0074】
CPU56には、バス61を介して映像表示装置62、例えば陰極管式ディスプレイ、液晶ディスプレイが接続され、さらに、印字方式の表示手段であるプリンタ63が接続される。また、CPU56には、上述した各種の機器、すなわちX線発生回路36、X線シャッタ39、温度制御回路24、質量分析装置3が入出力インターフェースを介して接続される。
【0075】
CPU56は記憶媒体59に記憶されたプログラムに従って所定の機能を実現して、上記の各機器の動作を制御して、試料支持装置12によって支持された試料18に対してX線小角散乱測定及び質量分析測定を同時に行う。
【0076】
なお、本実施形態では、1つのコンピュータシステムによって全ての機器を制御することにしたが、これに代えて、X線小角散乱測定、質量分析測定、温度制御等といった個々の処理を個別のコンピュータによって行うことにし、各コンピュータによってネットワークを構成し、そのネットワークに含まれる他のコンピュータ、例えばサーバによって主たる処理を行うようにしても良い。
【0077】
以下、上記構成より成る分析装置についてその動作を説明する。なお、これからの説明は、有機化合物の1つであるイオン交換膜を試料18とする場合を考える。ここでイオン交換膜は、近年、燃料電池の主たる構成要素として用いられており、その分子構造の熱的な変化特性や、熱分解や脱離等といった化学変化の熱依存特性等が注目されている。
【0078】
燃料電池は、例えば、図14に示すように、一対の電極である燃料電極71と空気電極72とによってイオン交換膜73を挟み、燃料電極71側から燃料である水素(H)を供給し、空気電極72側から酸素(O)を供給する構成となっている。
【0079】
この燃料電池では、水素と酸素の化学反応により、
2H+O→2HO+電気+熱
という、水の電気分解の逆反応に相当する電気化学反応が生じ、これにより、電気を得ている。なお、同時に発生する熱は、冷却水を循環させる等といった適宜の冷却方法によって吸収できる。
【0080】
この燃料電池で用いるイオン交換膜73は、図12(c)に示すように、間隔d0で並ぶ複数の直鎖74と、それらの直鎖74から延びる複数の側鎖76との合成によって形成されている。イオン交換膜として広く知られているナフィオン(商品名:デュポン社製)を例に採れば、直鎖74及び側鎖76のそれぞれの分子構造は、図13に示すような構造となっている。
【0081】
この分子構造では、直鎖74はテフロン(登録商標)基であり、側鎖76は複数の官能基を連結することによって形成されている。図示のものから適宜の官能基を選択して除去したり、図示の官能基の一部を別の官能基で置換したり、あるいは、新たな官能基を図示のものへ加えたりすることにより、イオン交換膜の分子構造、従ってイオン交換膜の性能を種々に変化させることができる。
【0082】
イオン交換膜73がこのような分子構造を有することにより、図12(b)において、イオン交換膜73は陽子Hを通過させ、電子eやガスは通過させない機能、すなわちイオン交換機能を奏する。この場合、イオン交換能力が高ければ燃料電池としての能力が高くなるのであるが、このイオン交換能力は図12(c)の分子構造、より具体的には、直鎖間距離d0や側鎖76の配列状態等の影響を受けて変化すると考えられる。
【0083】
さて、イオン交換膜73を試料18として行われる測定を考えれば、図5において、試料室構造体26の内部空間31の中に測定対象であるイオン交換膜73を入れ、その試料室構造体26を耐熱ゴム29a及び29bを挟んでヒートプレート23a及び23bで挟持する。これにより、図1の試料支持装置12内の所定位置にイオン交換膜73が配置される。なお、試料18として供されるイオン交換膜73は、実際に使用される大きさではなく、内部空間31へ収容できる程度の大きさの切片である。
【0084】
これから行う測定では、室温が27℃であるとする。また、ヒートプレート23a及び23bの発熱により、環状部材27の内部領域31の温度、すなわちイオン交換膜73の周りの温度は、50℃、80℃、100℃、120℃、150℃、200℃、230℃、そして270°の各温度に変化するように設定した。
【0085】
上記の各温度において、図1のX線小角散乱装置2を用いて測定を行った。具体的には、図1において、X線源4からX線を発生させ、そのX線をイオン交換膜73に照射し、そのときにイオン交換膜73で発生した散乱線によって蓄積性蛍光体プレート13を露光して、該蓄積性蛍光体プレート13にエネルギ潜像を蓄積させた。
【0086】
より具体的には、図2において、X線源4から高強度のX線をポイントフォーカスの状態で発生させ、そのX線をコンフォーカルミラー7によって焦点fに収束するように集光させる。また、第1スリット8及び第2スリット9のダブルスリット構造により、X線の収束状態を安定な状態に設定し、さらに、第2スリット9で発生する寄生散乱線がイオン交換膜73や蓄積性蛍光体プレート13に当ることを第3スリット11によって防止する。
【0087】
第3スリット11を通過したX線がイオン交換膜73に入射すると、図3において、そのイオン交換膜73の分子構造に応じた散乱角度2θの所に当該分子構造に応じた強度の散乱線が発生する。そして、この散乱線が当った部分の蓄積性蛍光体プレート13に散乱線の強度に対応したエネルギ潜像が蓄積される。
【0088】
なお、図3において、ダイレクトビームRdが当る部分W0の蓄積性蛍光体プレート13の前にはダイレクトビームストッパ38が配設され、ダイレクトビームRdが蓄積性蛍光体プレート13に直接に当ることを防止している。また、W1で示す領域は、図2の第2スリット9で発生した寄生散乱線が第3スリット11によって阻止できなくて、蓄積性蛍光体プレート13に到達してしまう領域を示している。
【0089】
つまり、蓄積性蛍光体プレート13における領域W0及び領域W1は、ダイレクトビームや寄生散乱線に邪魔されて、イオン交換膜73かたの散乱線を測定できない領域である。従って、本実施形態のX線小角散乱装置2によって測定される小角領域は、図3のW1よりも外側の2θ領域であり、具体的には、0.1°〜5°の角度領域、望ましくは0.1°〜4°の角度領域である。
【0090】
このような小角領域における散乱線の測定は、X線をスリット8,9,11によって極めて小さく絞った上で、さらにカメラ長Lを長くして行わなければならないので、一般的な広角ゴニオメータを用いて行われるX線測定では実現できない。また、X線を小さく絞る関係上、イオン交換膜73に入射するX線の強度が低くなるので、測定のために長時間を必要とする傾向にある。
【0091】
しかしながら、本実施形態では、図2に示すように、X線源4から出たX線をコンフォーカルミラー7で集光するようにしたので、さらには、X線源4からポイントフォーカスのX線を取り出すようにしたので、従来に比べて高強度のX線をイオン交換膜73に入射させることができる。このように高強度のX線をイオン交換膜73に入射させることができるので、本実施形態では、極めて短時間、例えば20分程度で蓄積性蛍光体プレート13上に十分な強度の散乱線を得ることができ、そのような短時間で測定を完了できる。
【0092】
1つの測定温度におけるX線小角散乱測定が終わると、蓄積性蛍光体プレート13には、イオン交換膜73から発生する回折X線の2次元データがエネルギ潜像の形で記憶される。これを観察すれば、イオン交換膜73に関する分子粒ユニット単位での分子構造の揃い具合、具体的には、分子粒ユニット単位での直鎖74及び側鎖76の揃い具合を評価できる。
【0093】
さて、図1のX線小角散乱装置2において、イオン交換膜73に関する1つの測定温度における蓄積性蛍光体プレート13への散乱線の露光処理が終わって、その蓄積性蛍光体プレート13内に散乱線による潜像が形成されると、その蓄積性蛍光体プレート13は図1のX線小角散乱装置2から取り外されて、図示しない読取り装置の読取り位置に装着され、この読取り装置により、蓄積性蛍光体プレート13に蓄積されたエネルギ潜像から散乱線の散乱角度(2θ)及び強度が求められる。
【0094】
図6のCPU56は、求められた散乱角度(2θ)及び散乱線強度をRAM57又は記憶媒体59内の所定の記憶場所に、例えば、データテーブルの形で記憶する。このデータは、必要に応じて、表示装置62やプリンタ63によって図7に示すようなグラフ上に散乱線図形として表示される。このグラフは、横軸に散乱角2θをとり、縦軸にX線強度をとっている。
【0095】
例えば、図1において、イオン交換膜73を室温(27℃)に保持して測定を行えば、図7のグラフ上に“27℃”で示すような小角散乱線図が表示される。また、イオン交換膜73の温度を、図1の温度制御回路24の制御によって、50℃、80℃、100℃、120℃、150℃、200℃、230℃、そして270°のように変化させ、それらの各温度条件において、図1のX線小角散乱装置2を用いて蓄積性蛍光体プレート13にエネルギ潜像を形成し、さらにそのエネルギ潜像を読取り装置によって読み取れば、CPU56の演算処理により、図7のグラフ上に各温度に対応する小角散乱線図“50℃”、“80℃”、“100℃”、“120℃”、“150℃”、“200℃”、“230℃”、そして“270°”を表示することができる。
【0096】
図7のグラフを観察する者は、イオン交換膜73の温度を変化させたときの小角散乱線図におけるピーク位置の変化及びピーク強度の変化を識別できる。このようなピーク位置の変化及びピーク強度の変化は、イオン交換膜73の温度が変化するときに、図12(c)及び図13に示すイオン交換膜の分子構造がその温度変化に従って変化することに起因していると考えられる。従って、観察者は、図7の小角散乱線図におけるピーク位置の変化及び/又はピーク強度の変化を評価することにより、イオン交換膜の分子構造を評価できる。
【0097】
さて、図1において、1つの温度条件の下にX線小角散乱装置2を用いて蓄積性蛍光体プレート13へエネルギ潜像の書き込み処理を行う際、図6のCPU56は、プログラムに従って、質量分析装置3を用いた測定を同時に行う。本実施形態では、図5に示すようなガスの採取構造を有する試料支持装置12をX線小角散乱装置2の試料位置、すなわちX線の光路上に設置したので、X線小角散乱測定と質量分析測定とを同時に行うことができる。
【0098】
具体的には、図1においてイオン交換膜73にX線を照射してX線小角散乱測定を行うのと同時に、図5において、吸気通路32を通して内部空間31へキャリヤガスを送り込みながら、イオン交換膜73から何等かのガスが発生したときには、そのガスを排気通路33を通して図1の質量分析装置3へ送り込み、質量分析測定を行う。
【0099】
図8は試料温度27℃における質量分析測定の結果を示し、図9は試料温度200℃における質量分析測定の結果を示し、図10は試料温度230℃における質量分析測定の結果を示し、図11は試料温度270℃における質量分析測定の結果を示している。これらの図において、左側のグラフは、横軸にとった経過時間(min)のときにイオン交換膜73から発生するガスの総量がどのくらいになるかを縦軸に示している。また、右側のグラフは、横軸に質量数をとり、縦軸に発生ガス量をとり、イオン交換膜73から発生したガスの量が最終的にどうなるかを質量数ごとに棒グラフによって示している。
【0100】
なお、本実施形態では、例えば図8の左側のグラフに示すように、質量分析測定は20分間程度行い、X線小角散乱測定は質量分析測定が終わる前の5分間程度の時間範囲T0の所で行うことにしている。
【0101】
本実施形態によれば、図7のX線小角散乱線図と図8〜図11の質量分析データが同時に得られるので、これらを観察することにより、以下のような判定を行うことができる。
【0102】
まず、図7のX線小角散乱線図をみれば、温度が27℃→50°→80℃→100℃→120℃→150℃→200℃と上がるに従って、ピーク位置が徐々に横軸の低角度側へ移動し、さらに、ピーク強度が上昇するという傾向が読み取れる。この現象は、図12(c)において側鎖76の揃い具合が温度の上昇に従って徐々に規則的に整列するように、分子構造が変化するからではないかと考えられる。
【0103】
また、図7において、温度が200℃→230℃→270°のように上昇すると、ピークは急激に減少し、270℃ではピークが消失することが分かる。この現象は、イオン交換膜73内の分子構造の変化によるものなのか、あるいは分子構造の変化以外の何等かの変化によるものなのか、X線小角散乱図形だけでは判定できない。
【0104】
他方、図8〜図11の質量分析データを見ると、特に、270℃のデータにおいてそれ以外のデータと比較して顕著な違いが見られる。具体的には、図11の右側のグラフにおいて、270℃よりも低温時の測定では見られなかった、47番、48番、64番のガスの発生が見られる。47番は、C(炭素)、F(フッ素)、O(酸素)の各ガスが発生したことを示している。また、48番は、S(イオウ)、O(酸素)が発生したことを示している。また、64番は、SO(二酸化イオウ)が発生したことを示している。
【0105】
この状態を図13に示したイオン交換膜の化学式構造を勘案して考えると、温度が270℃になったときに“SO”の官能基が熱分解によって脱離したことが容易に判定できる。このことを図7のX線小角散乱図形と組み合わせて考察すれば、27℃〜230℃までは発生ガスの種類に変化は無く、図7におけるピークの位置及び強度の変化は、昇温によるイオン交換膜の分子構造の変化に起因するものと判定できる。一方、X線小角散乱図形における230℃〜270℃の範囲で起こった変化は、分子構造の変化というよりは、図13における側鎖76の熱分解に起因するものであることが分かる。
【0106】
このように、本実施形態の分析装置によれば、X線小角散乱線図におけるピークの変化と、質量分析測定によって得られた温度履歴を伴う情報とから、昇温過程で試料にどのような変化が起こったかを、正確に判定できる。また、質量分析測定によって得られた情報から、X線小角散乱図で得られたピークが有機化合物のどこの場所(例えば、側鎖)の情報を示しているのかを判断することが可能である。
【0107】
また、本実施形態によれば、コンフォーカルミラー7を用いて強度の強いX線を形成したこと、及びX線検出器として2次元X線検出器である蓄積性蛍光体プレート13を用いて試料18からの散乱X線を平面データとして採取したことのいずれか一方又は両方の理由により、X線小角散乱測定を非常に短時間で行うことが可能となった。
【0108】
コンフォーカルミラー7や2次元X線検出器を用いない従来のX線小角散乱装置によれば、測定時間は数十時間を必要としたが、本実施形態のX線小角散乱装置によれば5分程度で十分正確なX線小角散乱測定を行うことが可能である。このことは、使用状態下での測定、いわゆるin−situ測定を行うに際して非常に有利である。何故ならば、イオン交換膜に関してはその周囲温度が所定の高温になると急激な変化が発生するので、測定のために数十時間を必要とするようでは、測定はほとんど不可能であるのに対し、上記のように測定時間を短縮できれば、イオン交換膜の急激な変化に十分迅速に対応してその変化を測定できるからである。
【0109】
次に、図6のCPU56は、プログラムに従って、次の制御を行う。すなわち、図1の質量分析装置3を用いた測定に応じてC,F,S,Oの各元素のうちの少なくともいずれか1つが検出された場合には、X線小角散乱装置2を用いた測定を中止する。例えば、X線源4からのX線の放射と止めたり、X線シャッタ39を閉じてX線の進行を止めたりする。こうすれば、試料であるイオン交換膜が熱分解した後に、不要な測定が継続して行われるという無駄を省くことができる。
【0110】
また、必要な場合には、質量分析装置3によって特定のガスが検出されたときに、温度制御回路24によって試料18の加熱条件を変えることもできる。さらには、X線小角散乱装置2による測定結果に基づいて、質量分析装置3による測定の条件を変化させることもできる。
【0111】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0112】
例えば、以上の実施形態では、X線測定手段としてX線小角散乱装置2を用い、第2測定手段として質量分析装置3を用いたが、X線測定手段及び第2測定手段としては、その他の種々の装置を用いることができる。例えば、X線測定手段として広角X線回折装置を用いることができ、第2測定手段としてNMR、IR等を用いることができる。
【0113】
また、上記実施形態では、試料としてイオン交換膜を考えたが、試料の種類は特別のものに限定されない。但し、X線小角散乱装置を用いる場合には、有機化合物の分子構造の分析に好都合である。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、X線小角散乱装置等といったX線測定手段における試料位置と、質量分析装置等といった第2測定手段における試料位置とが同じであるので、それらの測定を全く同じ環境下で同時に行うことができる。従って、両方の測定によって得られたデータは、全く同じ試料の、全く同じタイミングにおける、全く同じ環境下でのデータであるので、試料の構造変化であるのか、試料の一部離脱や分解が起っているのかを容易に特定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る分析装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1におけるX線装置の光学系を模式的に示す図である。
【図3】図2の要部を拡大して示す図である。
【図4】図1に示したX線小角散乱装置を構成するX線管の内部構造を示す斜視図である。
【図5】図1に示したX線小角散乱装置を構成する試料支持装置を分解状態で示す斜視図である。
【図6】図1に示した分析装置の制御系の一実施形態を示すブロック図である。
【図7】図1に示したX線小角散乱装置の測定結果の一例を示すグラフである。
【図8】図1に示した質量分析装置の測定結果の一例を示すグラフである。
【図9】図1に示した質量分析装置の測定結果の他の一例を示すグラフである。
【図10】図1に示した質量分析装置の測定結果のさらに他の一例を示すグラフである。
【図11】図1に示した質量分析装置の測定結果のさらに他の一例を示すグラフである。
【図12】試料の一例であるイオン交換膜を説明するための図である。
【図13】イオン交換膜の一例の分子構造を模式的に示す化学式である。
【図14】燃料電池の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1:分析装置、2:X線小角散乱装置(X線測定手段)、3:質量分析装置(ガス分析手段)、4:X線源、7:コンフォーカルミラー(X線集光手段)、12:試料支持装置、13:蓄積性蛍光体プレート(2次元X線検出器)、18:試料、23a、23b:ヒートプレート、26:試料室構造体、27:環状部材、28a,28b:遮蔽部材、29:耐熱ゴム、31:内部空間、32:吸気通路、33:排気通路

Claims (8)

  1. 試料にX線を照射すると共に該試料から発生するX線を検出するX線測定手段と、
    試料から発生するガスを分析するガス分析手段と、
    前記X線測定手段と前記ガス分析手段とに共通する試料位置に前記試料を支持する試料支持手段と、
    前記試料の温度を制御する試料温度制御手段と、
    前記X線測定手段を用いた測定と前記ガス分析手段を用いた測定とを同時に行うように制御する制御手段と
    を有することを特徴とする分析装置。
  2. 請求項1において、前記ガス分析手段は、ガスの質量数を測定できる質量分析装置であることを特徴とする分析装置。
  3. 請求項1又は請求項2において、
    前記試料支持手段は、前記試料を収容でき、該試料を前記X線測定手段におけるX線光路上に配置でき、該試料へ向けてX線を入射でき、該試料から出たX線を外部へ出射でき、さらに、前記試料から発生するガスを外部へ導出できることを特徴とする分析装置。
  4. 請求項3において、前記試料支持手段は、
    前記試料を収容する内部空間を有する環状部材と、
    前記環状部材の表裏両面に密着して前記内部空間を外部から遮蔽すると共にX線が通過可能な一対の遮蔽部材と、
    前記環状部材の内部空間と外部空間とをつなぐガス通路と、
    を有することを特徴とする分析装置。
  5. 請求項4において、前記遮蔽部材を前記環状部材へ押し付ける押圧手段を有することを特徴とする分析装置。
  6. 試料にX線を照射すると共に該試料から発生するX線を検出するX線測定手段と、
    試料から発生するガスを分析するガス分析手段と、
    前記X線測定手段と前記ガス分析手段とに共通する試料位置に前記試料を支持する試料支持手段と、
    前記ガス分析手段を用いた測定の結果に基づいて前記X線測定手段を用いた測定の動作を制御し、又は前記X線測定手段を用いた測定の結果に基づいて前記ガス分析手段を用いた測定の動作を制御する制御手段と
    を有することを特徴とする分析装置。
  7. 請求項6において、
    前記試料の温度を制御する試料温度制御手段を有し、
    前記制御手段は、前記ガス分析手段を用いた測定の結果及び/又は前記X線測定手段を用いた測定結果に基づいて、前記試料の温度制御条件を変化させる
    ことを特徴とする分析装置。
  8. X線測定手段とガス分析手段とに共通する試料位置に試料を置く工程と、
    前記試料にX線を照射すると共に該試料から発生するX線を検出するX線測定工程と、
    前記試料から発生するガスを分析するガス分析工程とを有し、
    前記X線測定工程と前記ガス分析工程は同時に行われる
    ことを特徴とする分析方法。
JP2002289501A 2002-10-02 2002-10-02 分析装置及び分析方法 Pending JP2004125582A (ja)

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