JP2004116497A - ロータリーエンジンの点火制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】L側及びT側の2つの点火プラグ91,92を備えたロータリーエンジン1の点火制御装置10において、所定の運転状態において発生し易いノッキングを防止する一方で、エンジン出力の低下を抑制する。
【解決手段】エンジン1の運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、リーディング側点火プラグ92の点火時期のみをリタードさせる。
【選択図】 図1
【解決手段】エンジン1の運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、リーディング側点火プラグ92の点火時期のみをリタードさせる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の点火プラグを備えたロータリーエンジンの点火制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、トコロイド内周面を有する繭状のハウジング内に略三角形状のロータを収容してその外周側に複数の作動室を区画し、該ロータの回転に連れて各作動室がそれぞれ周方向に移動しながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行うようにしたロータリーエンジンにおいて、上記ハウジングの短軸を挟んだ、ロータ回転方向の進み側(リーディング側)と、遅れ側(トレーリング側)とのそれぞれに点火プラグを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、上記ロータの頂部間の外周面には、燃焼室を形成するロータリセスが設けられる。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−202762号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えば加速終了時等の、踏み込んだアクセルペダルを戻して、アクセル開度を全閉にしたときには、スロットル開度、エンジン回転数及び一作動室当りの充填量は、それぞれ図6に示すように変化する。
【0005】
すなわち、アクセル開度の減少と共にスロットル開度が減少し、このスロットル開度の減少に伴い、エンジン回転数が減少する。これにより、一作動室当りの充填量は低下する。その後スロットル開度はアイドリング開度になるが、エンジン回転数は、慣性やフューエルカットからの復帰の遅れ等に起因して、スロットル開度がアイドリング開度となった後もさらに低下する。こうして、エンジン回転数はアイドル回転数以下になる。このようにスロットル開度がアイドリング開度となることで吸入空気量はそれ以上は低下しなくなる一方で、エンジン回転数がさらに低下することによって、一作動室当りの充填量は増加するようになる。
【0006】
ロータリーエンジンでは、こうしたエンジン回転数が低回転で充填量が増加するときに、ノッキングが発生してしまう(同図の破線で囲まれた領域参照)。このノッキングの発生メカニズムは、次のように推定される。尚、ここでは、リーディング側とトレーリング側との2つの点火プラグを備えたロータリーエンジンにおいて、失火を抑制するために、アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側、リーディング側の順に設定した場合を例に説明するが、アイドリング時における2つの点火プラグの点火順序が逆の場合であっても、ノッキングの発生メカニズムは略同じである。
【0007】
すなわち、図7に示すように、アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の内、先ずトレーリング側点火プラグ91が点火され、これによって火炎(T側火炎81)が成長する。このT側火炎81は、ロータ6の回転及びスキッシュ流によって、主にリーディング側に伝播する(同図の矢印参照)。次いで、リーディング側点火プラグ92が点火されることで、新たな火炎(L側火炎82)が成長する。このように、L側火炎82とT側火炎81との2つの火炎が発生することで、このL側火炎82の火炎面とT側火炎81の火炎面とが、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ91,92の中間付近で衝突し、L側火炎82によってT側火炎81がトレーリング側に押し戻されるようになる。このことで、T側火炎81がロータリセス61のトレーリング側縁部を乗り上げ、これによって、ロータ6とロータハウジング2との隙間の混合気(トレーリング側エンドガスゾーン83の混合気)が圧縮されるようになる。
【0008】
ここで、通常のアイドリング時におけるエンジンの運転状態では、充填量が低いことから、作動室5内の火炎の伝播速度は遅い。このため、T側火炎81によってトレーリング側エンドガスゾーン83の混合気が圧縮される頃には、ロータ6の回転が遅くてもトレーリング側におけるロータ6とロータハウジング2との隙間は小さくなっており、トレーリング側エンドガスゾーン83には、混合気がほとんど存在していない。
【0009】
しかしながら、エンジンの運転状態が、エンジン回転数が低回転で充填量が増加している運転状態であるときには、充填量が高いことで作動室5内の火炎の伝播は速い。このため、ロータ6の回転は遅いことと相俟って、T側火炎81によってトレーリング側エンドガスゾーン83の混合気が圧縮されるときには、このトレーリング側エンドガスゾーン83には、未だ多量の混合気が存在しており、その結果、このトレーリング側エンドガスゾーン83においてノッキングが発生してしまうものと推定される。
【0010】
ノッキングの抑制には通常、点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせることが有効であるため、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ91,92双方の点火時期をリタードさせることが考えられる。ところが、双方の点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせてしまうと、エンジン出力の低下を招くことになることから、ノッキングの防止と、エンジン出力の低下抑制とは相反する要求となってしまう。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の点火プラグを備えたロータリーエンジンの点火制御装置において、所定の運転状態において発生し易いノッキングの発生を防止することと、エンジン出力の低下を抑制することとを両立させることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エンジンの運転状態が、ノッキングの発生し易い所定の運転状態であるときには、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせることとした。
【0013】
具体的に、本発明は、ハウジング内にロータを収容してその外周側に複数の作動室を区画し、該ロータの回転に連れて各作動室がそれぞれ周方向に移動しながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行うようにしたロータリーエンジンの点火制御装置に係る。
【0014】
そして、本発明に係るロータリーエンジンの点火制御装置は、上記ロータの外周面にロータリセスを形成し、ロータ回転方向の遅れ側位置に配設されたトレーリング側点火プラグと、上記ロータ回転方向の進み側位置に配設されたリーディング側点火プラグと、上記2つの点火プラグの点火時期を設定する点火時期設定手段とを備える。そして、この点火時期設定手段を、上記ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、上記リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成するものである。
【0015】
エンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、ロータの回転が遅い一方で、火炎の伝播が速いため、トレーリング側エンドガスゾーンでノッキングが発生し易い。
【0016】
そこで、本発明では、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードさせる。こうすることで、2つの点火プラグの点火順序が、トレーリング側、リーディング側の順の場合、逆に、リーディング側、トレーリング側の順の場合のいずれの場合でも、リーディング側点火プラグの点火によって発生した火炎(L側火炎)と、トレーリング側点火プラグの点火によって発生した火炎(T側火炎)とが一体になる。このため、二つの火炎の火炎面が衝突することが防止され、T側火炎によってトレーリング側エンドガスゾーンの混合気が圧縮されることが防止される。こうして、トレーリング側エンドガスゾーンでのノッキングの発生が防止される。
【0017】
一方、トレーリング側点火プラグの点火時期はリタードせず、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせるため、トレーリング側点火プラグの点火時期は、エンジン出力を考慮した最適な点火時期に設定可能である。これによって、エンジン出力の低下が抑制される。こうして、ノッキングの防止とエンジン出力の低下抑制とが両立する。
【0018】
上記点火時期設定手段は、ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量が設定量以上である所定の運転状態のときには、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0019】
すなわち、エンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量が設定量以上である所定の運転状態のときにも、ノッキングが発生し易いことから、この場合にも、リーディング側点火プラグのみ、点火時期をリタードさせることで、ノッキングの発生を防止しつつ、エンジン出力の低下が抑制される。
【0020】
さらに、点火時期設定手段は、スロットル開度がアイドリング開度になった後に、ロータリーエンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0021】
上述したように、例えば加速終了時等の、踏み込んだアクセルペダルを戻して、アクセル開度を全閉にし、これによりスロットル開度がアイドリング開度になった後に、エンジン回転数の低下に伴う充填量の増加によってノッキングが発生してしまう。このため、スロットル開度がアイドリング開度になった後に、ロータリーエンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードすることによって、ノッキングの発生が効果的に防止される。
【0022】
この場合、上記点火時期設定手段は、アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側点火プラグ、リーディング側点火プラグの順に設定するように構成してもよい。
【0023】
アイドリング時は、ロータの回転が遅く火炎の伝播速度が比較的遅い上に、仮にリーディング側、トレーリング側の順で点火プラグを駆動させると、各点火プラグは、ロータリセスの開口縁付近(ロータリセスの切れ上がり付近)と対向した状態で点火されることになり、S/V比が大きいことから火炎が冷却されて失火し易くなる。そこで、アイドリング時には、先ずトレーリング側点火プラグを点火し、これに遅れてリーディング側点火プラグを点火する。これにより、ロータの外周面に形成されたロータリセスは、このロータの回転に伴いトレーリング側、リーディング側の順で各点火プラグと対向することから、上記各点火プラグは、このロータリセス(ロータリセスの略中央)に対向した状態で点火するようになる。このため、S/V比は比較的小さくなり、火炎の冷却作用が低減して失火が防止される。
【0024】
そしてさらに、アイドリング時でかつ、エンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側点火プラグ、リーディング側点火プラグの順に設定した上で、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードする。このことで、ノッキングの発生が防止される。
【0025】
尚、非アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、リーディング側点火プラグ、トレーリング側点火プラグの順に設定すればよい。こうすることで、トレーリング側エンドガスの混合気が、トレーリング側点火プラグを点火することで燃焼され、燃料効率を高めることが可能になる。
【0026】
上記の各発明では、エンジンの運転状態が所定の運転状態のときには、ノッキングの発生の有無に拘らず、リーディング側点火プラグの点火時期を予めリタードさせて、ノッキングの発生を防止する。
【0027】
一方、ノッキングの発生を検出するノックセンサをさらに備え、点火時期設定手段は、上記ノックセンサによってノッキングの発生を検出したときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ双方の点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0028】
このように、ノックセンサによってノッキングが実際に発生していることを検出したときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ双方の点火時期をリタードさせることで、ノッキングの発生を防止することが好ましい。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明におけるロータリーエンジンの点火制御装置によれば、ロータリーエンジンの運転状態が、ノッキングの発生し易い所定の運転状態にあるときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグの内、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせるため、ノッキングの発生を防止しつつ、エンジン出力の低下を抑制することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0031】
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るロータリーエンジン1の要部の構成を示し、トロコイド内周面2aを有する繭状のロータハウジング2とサイドハウジング3とに囲まれたロータ収容室4(気筒)には概略三角形状のロータ6が収容されていて、その外周側に3つの作動室5,5,5が区画されている。このロータリーエンジン1は、図示は省略するが、2つのロータハウジング2,2を3つのサイドハウジング3,3,3の間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つの気筒4,4にそれぞれロータ6,6を収容した2ロータタイプのものである。以下、この実施形態では、2つのロータハウジング2,2の中間に位置するサイドハウジング3(図2に示すもの)を両端側のものと区別して、インターミディエイトハウジング3と呼ぶものとする。
【0032】
上記ロータ6の内側には、図示しないが内歯車が形成されていて、この内歯車とサイドハウジング側の外歯車とが噛合するとともに、ロータ6は、インターミディエイトハウジング3及びサイドハウジング3を貫通する出力軸7に対して、遊星回転運動をするように支持されている。すなわち、上記ロータ6の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定され、ロータ6は、外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジング2のトロコイド内周面2aに当接した状態で上記出力軸7の偏心輪7aの周りを自転しながら、該出力軸7の軸心Xの周りに公転する。そして、ロータ6が1回転する間に、該ロータ6の各頂部間にそれぞれ形成された作動室5,5,…が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ6を介して出力軸7から出力される。
【0033】
より具体的に、図1に示すように出力軸7の軸心Xの方向に見ると、各気筒4の左右方向の一側(図例では左側)が概ね吸気及び排気行程の領域になり、その反対側(図例では右側)が概ね圧縮及び膨張行程の領域になる。そして、図示の如く第1吸気ポート11(後述)等に連通する作動室5(図の左上側の作動室)は吸気行程の後半にあり、この作動室5がロータ6の回転に連れて図の時計回りに移動して圧縮行程になると、その内部に吸入された混合気が圧縮され、その後、図の右側に示す作動室5のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ91,92により混合気に点火されて、燃焼が行われるものである。
【0034】
上記2つの点火プラグ91,92は、ロータハウジング2の短軸(同図の一点鎖線参照)を挟んで、ロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とのそれぞれに配設されている。この内、リーディング側位置の点火プラグ(以下これをL側点火プラグという)92のプラグホールは、トレーリング側位置の点火プラグ(以下これをT側点火プラグという)91のプラグホールよりも大径に構成されている。これは、ロータ6の頂部(尚、この頂部には図示省略のアペックスシールが取り付けられている)がプラグホール上を通過する際に、この頂部を挟んだ両側の作動室5の圧力差によってガス漏れが生じるが、L側点火プラグ92の位置では、両作動室5の圧力差がほぼ0であるため、プラグホールを大径にすることが可能であるのに対し、T側点火プラグ91の位置では、両作動室5の圧力差が比較的大きいため、プラグホールを小径にせざるを得ないためである。このため、L側点火プラグ92の方が、T側点火プラグ91よりも着火性が向上している。
【0035】
また、上記ロータ6の頂部間の外周面には、窪み(ロータリセス)61がそれぞれ設けられている。
【0036】
図2は、2つの気筒4,4のうちの一方(図では手前側のもの)を模式的に2つに分けて、エンジン1の吸排気系の構成を示したものであり、図の左側には、図2と同様にインターミディエイトハウジング3の側が、また、図の右側にはサイドハウジング3の側が示されている。そして、上記インターミディエイトハウジング3には、両側の2つの気筒4,4においてそれぞれ吸気行程にある作動室5に連通するように一対の第1吸気ポート11,11(図には1つのみ示す)が形成され、同様に、排気行程にある作動室5,5にそれぞれ連通するように一対の第1排気ポート12,12(図には1つのみ示す)が形成されている。一方、上記サイドハウジング3には、吸気行程にある作動室5にそれぞれ連通するように第2及び第3の2つの吸気ポート13,14が形成され、また、排気行程にある作動室5に連通するように第2排気ポート15が形成されている。
【0037】
そして、上記第1、第2及び第3吸気ポート11,13,14が、それぞれ、各気筒4の吸気行程にある作動室5に吸気を供給する吸気通路16の下流端部を構成している。すなわち、吸気通路16の上流側にはエアクリーナ17とエアフローセンサ18と、ステッピングモータ等により駆動されて通路の断面積を調節する電気式スロットル弁23とが順に配設されていて、その下流側で吸気通路16は2つの独立吸気通路19,20に分かれている。第1の独立吸気通路19は、その下流側でさらに2つに分岐していて、その各分岐路21,22がそれぞれ上記第1吸気ポート11及び第2吸気ポート13に連通している。一方、第2の独立吸気通路20は、上記第3吸気ポート14に連通している。
【0038】
上記第1独立吸気通路19の下流側で分岐した第1分岐路21には、吸気マニホルド24内に燃料を噴射する比較的大容量のマニホルド噴射用インジェクタ25が配設されている。また、図1にも示すように、第1吸気ポート11に臨んで当該ポート11内に燃料を直接、噴射するように比較的容量の小さなポート噴射用インジェクタ26(燃料噴射弁)が配設されている。
【0039】
また、上記スロットル弁23よりも上流側の吸気通路16から分岐して該吸気通路16を流れる吸気の一部を取り出し、これを第1吸気ポート11まで導いて上記インジェクタ26の燃料被噴射位置に向かって吹き出させる空気吹出し通路27が設けられている。尚、上記空気吹出し通路27の上流端は、吸気通路16にキャッチタンク29からブローバイガスを導入するブローバイガス通路30の下流端よりも下流側で吸気通路16に接続されている。
【0040】
この実施形態では、上述したように、スロットル弁23の上流側から吸気の一部を取り出して第1吸気ポート11に供給する空気吹出し通路27を設けて、インジェクタ26からの燃料噴霧が衝突するポート壁面の燃料被噴射位置に向かって、高速の空気流を吹きつけるようにしている。これにより、インジェクタ26からの燃料噴霧がポート壁面に付着することが効果的に抑制され、また一旦、付着した燃料の剥離及び蒸発が効果的に促進される。
【0041】
一方、上記第1独立吸気通路19の下流側で分岐した第2分岐路22には、アクチュエータにより駆動されてこの第2分岐路22を開閉する電磁式のロータリーバルブ28と、上記第1分岐路21のものと同様のマニホルド噴射用インジェクタ32とが順に配設されている。また、図示しないが、第2独立吸気通路20の下端部には、アクチュエータにより駆動されてこの第2独立吸気通路20を開閉する電磁式のロータリーバルブが配設されている。
【0042】
上述の如き構成の吸気系に対し、エンジン1の排気系は、上記第1及び第2排気ポート12,15がそれぞれ排気マニホルド33に接続し、この排気マニホルド33において2つの気筒4,4からの排気が集合されて、下流側の排気管34に流通するようになっている。そして、上記排気マニホルド33には、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ35が配設され、また、排気管34には排気を浄化するための2つの触媒コンバータ36,37が直列に配設されている。上記リニアO2センサ35は、理論空燃比を含む所定の空燃比範囲において酸素濃度に対しリニアな信号を出力するものであり、上記インジェクタ25,26,32による燃料噴射量のフィードバック制御のために用いられる。
【0043】
尚、同図に示す符号38は、ロータリーエンジン1の出力軸7の一端側に配設されてその回転角度を検出する電磁式のクランク角センサである。また、符号39は、ロータハウジング2の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に臨んで冷却水の温度状態(エンジン水温)を検出する水温センサである。さらに、符号51は、ロータハウジング2に配設されて、燃焼ガスの圧力変動をハウジング2の振動により検出することでノッキングの発生を検出するノックセンサである。
【0044】
上記点火プラグ91,92の点火回路44(図3参照)、スロットル弁23のモータ、ロータリーバルブ28、インジェクタ25,26,32等は、コントロールユニット40(以下、ECUと略称する)により作動制御されるようになっている。このECU40には少なくとも上記エアフローセンサ18の出力信号と、リニアO2センサ35の出力信号と、クランク角センサ38の出力信号と、水温センサ39の出力信号と、ノックセンサ51の出力信号とが入力され、さらに、アクセル開度センサ41からの信号と、エンジン回転数センサ42からの信号とが入力されるようになっている。そして、このECU40においてエンジン1の運転状態を判定するとともに、その運転状態に応じて各気筒4の点火時期、上記スロットル弁23の開度、ロータリーバルブ28の開閉、インジェクタ25,26,32による燃料噴射量及び燃料噴射タイミングの制御が行われる。
【0045】
(点火制御装置の構成)
次に、L側及びT側点火プラグ91,92の点火時期を制御する点火制御装置について、図3を参照しながら説明する。
【0046】
上記点火制御装置10は、ECU40によって構成されるものであり、このものは、ロータリーエンジン1のアイドリング状態を判定するアイドリング判定部46と、ロータリーエンジン1の運転状態が所定の運転状態(ノッキングの発生し易い運転状態)にあるか否かを判定するノック条件判定部47と、上記L側及びT側点火プラグ91,92の点火進角を設定する点火進角算出部48とからなる点火時期設定手段45を備えている。
【0047】
上記アイドリング判定部46は、アクセル開度センサ41からの信号に基づいて、ロータリーエンジン1がアイドリング状態にあるか、非アイドリング状態にあるかを判定するように構成されている。
【0048】
また、ノック条件判定部47は、エンジン回転数センサ42からの信号と、エアフローセンサ18からの信号とに基づいて、ノック条件が成立したか否かを判定するように構成されている。ここで、ノック条件とは、エンジン1の運転状態が、エンジン回転数が予め設定した設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が予め設定した設定増加率以上である所定の運転状態にあることである。
【0049】
さらに、点火進角算出部48は、上記アイドリング判定部46による判定結果と、上記ノックリタード判定部による判定結果と、エンジン回転数センサ42からの信号と、エアフローセンサ18からの信号と、リニアO2センサ35、クランク角センサ38、水温センサ39及びノックセンサ51等からなるエンジン運転状態検出センサ43からの信号とに基づいて、L側及びT側点火プラグ91,92の点火進角をそれぞれ算出するように構成されている。
【0050】
具体的に上記点火進角算出部48は基本的には、ロータリーエンジン1がアイドリング状態のときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序を、T側、L側の順に設定した上で、エンジン1の運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。一方、ロータリーエンジン1が非アイドリング状態のときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序を、L側、T側の順に設定した上で、エンジン1の運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。さらに、点火進角算出部48は、ノック条件が成立するときには、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせる一方、ノックセンサ51によりノッキングの発生が検出されたときには、L側及びT側点火プラグ91,92双方の点火時期をリタードさせるように構成されている。
【0051】
そして、上記点火制御装置10は、上記点火進角算出部48で算出した点火進角に基づいて点火回路44を制御することにより、L側及びT側点火プラグ91,92を算出された点火進角でもって点火させるように構成されている。
【0052】
次に、上記点火制御装置10による制御手順について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0053】
先ず、ステップS1では、エンジン回転数センサ42から出力されたエンジン回転数を読み込み、ステップS2では、エアフローセンサ18から出力された吸入空気量を読み込み、ステップS3では、エンジン運転状態検出センサ43からの出力値を読み込み、ステップS4では、アクセル開度センサ41から出力されたアクセル開度を読み込む。
【0054】
そして、ステップS5では、読み込んだアクセル開度から、エンジン1がアイドリング状態であるか否かを判定する。非アイドリング状態であるのNOのときには、ステップS6に移行する一方、アイドリング状態であるのYESのときには、ステップS9に移行する。
【0055】
上記ステップS6では、ノックセンサ51によってノッキングが検出されたか否かを判定し、ノッキングが検出されていないのNOのときには、ステップS7で、点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順に設定した上で、エンジンの運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。一方、上記ステップS6でノッキングが検出されたのYESのときには、ステップS8で、点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順に設定した上で、各点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせる。
【0056】
一方、上記ステップS9では、ノック条件が成立したか否かを判定する。ノック条件が成立していない(エンジン回転数が設定回転数よりも高い又は、充填量の増加率が設定増加率よりも小さい)のNOのときには、ステップS10で点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順に設定した上で、エンジンの運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。これに対し、上記ステップS9で、ノック条件が成立した(エンジン回転数が設定回転数以下であってかつ、充填量の増加率が設定増加率以上である)のYESのときには、ロータリーエンジン1のノッキングが発生し易い運転状態であることから、ノッキングの発生を防止すべく、ステップS11で、点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順に設定した上で。L側点火プラグ92の点火時期をリタードする。
【0057】
これにより、ノック条件が成立した場合における作動室5内の燃焼動作は次のようになる。つまり、図5に示すように、エンジン1がアイドリング状態であることから、L側及びT側点火プラグ91,92の内、T側点火プラグ91が先ず点火される(同図(a)参照。尚、図例はBTDC20°)。これにより、T側点火プラグ91は、ロータリセス61の略中央に対向した状態で点火するようになり、S/V比が小さくなって失火が防止される。また、混合気の燃焼が確実に行われることで、エンジン出力の低下を抑制することができる。
【0058】
次いで、L側点火プラグ92が点火される(同図(b)参照。尚、図例はATDC20°)。このL側点火プラグ92の点火時期はリタードされているため(通常の点火時期はATDC10°程度)、L側点火プラグ92が点火されるときには、T側点火プラグ91の点火により発生したT側火炎(同図の斜線を付した部分参照)がL側に伝播しており、L側点火プラグ92の点火により発生したL側火炎は、T側火炎と一体になる。こうして、T側火炎及びL側火炎の2つの火炎面が衝突することが回避され、これにより、T側火炎によってトレーリング側エンドガスゾーンの混合気が圧縮されることが防止される。
【0059】
さらに、同図(c)に示すように、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせることによって、火炎面がトレーリング側に到達した頃には、ロータ6とロータハウジング2との隙間が殆ど無くなっており、トレーリング側エンドガスゾーンには、混合気が殆ど残っていない。その結果、トレーリング側エンドガスゾーンでのノッキングの発生が確実に防止される。
【0060】
こうして本実施形態では、図6の破線で囲まれた領域でのノッキングの発生防止と、エンジン出力の低下抑制とを両立させることができる。
【0061】
また、ノック条件が成立したときには、L側点火プラグ92のみ、その点火時期がリタードされるのに対し、ノックセンサ51によりノッキングを検出したときには、L側及びT側点火プラグ91,92の双方の点火時期がリタードされる(ステップS8参照)。これにより、ノッキングが実際に発生したときには、そのノッキングを効果的に防止することができる。
【0062】
さらに、エンジン1のアイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序がT側、L側の順に設定され(ステップS10参照)、非アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序がL側、T側の順に設定される(ステップS7参照)ため、アイドリング時には失火を防止する一方で、非アイドリング時には燃焼効率の向上が図られる。
【0063】
尚、上記実施形態では、ノック条件を「エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、充填量の増加率が設定増加率以上であること」としたが、ノック条件としては、これに代えて「エンジン回転数が予め設定した設定回転数以下でありかつ、充填量が予め設定した設定量以上であること」としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順にし、ノック条件が成立したときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順にした上で、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせたが、これに限らず、アイドリング時においても非アイドリング時と同様に、2つの点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順にし、ノック条件が成立したときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順にした上で、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせてもよい。またこのときは、T側点火プラグ91の点火時期をアドバンスさせてもよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、点火制御装置10は、ステップS5でエンジン1が非アイドリング状態であると判定した後に、ステップS6でノックセンサ51によってノッキングが検出されたか否かを判定するようにしているが、このノックセンサ51によるノッキングの検出判定は、上記ステップS5のエンジンのアイドリング判定よりも前に判定するようにしてもよい。この場合も、ノッキングが検出されたときには、L側及びT側点火プラグ91,92の双方の点火時期をリタードさせるようにするのがよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジンの要部構成を示す図である。
【図2】エンジンの吸排気系及び制御システムの概略構成図である。
【図3】点火制御装置を示すブロック図である。
【図4】点火制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】各点火プラグの点火時期とその燃焼動作を示す説明図である。
【図6】スロットル開度、エンジン回転数、及び充填量の変化を示す説明図である。
【図7】ノッキング発生の際の燃焼動作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ロータリーエンジン
10 点火制御装置
18 エアフローセンサ
2 ロータハウジング
3 サイドハウジング、インターミディエイトハウジング
38 クランク角センサ
39 水温センサ
40 コントロールユニット(ECU)
41 アクセル開度センサ
42 エンジン回転数センサ
43 エンジン運転状態検出センサ
44 点火回路
45 点火時期設定手段
46 アイドル判定部
47 ノック条件判定部
48 点火進角算出部
5 作動室
51 ノックセンサ
6 ロータ
61 ロータリセス
83 トレーリング側エンドガスゾーン
91 トレーリング側点火プラグ
92 リーディング側点火プラグ
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の点火プラグを備えたロータリーエンジンの点火制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、トコロイド内周面を有する繭状のハウジング内に略三角形状のロータを収容してその外周側に複数の作動室を区画し、該ロータの回転に連れて各作動室がそれぞれ周方向に移動しながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行うようにしたロータリーエンジンにおいて、上記ハウジングの短軸を挟んだ、ロータ回転方向の進み側(リーディング側)と、遅れ側(トレーリング側)とのそれぞれに点火プラグを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、上記ロータの頂部間の外周面には、燃焼室を形成するロータリセスが設けられる。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−202762号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えば加速終了時等の、踏み込んだアクセルペダルを戻して、アクセル開度を全閉にしたときには、スロットル開度、エンジン回転数及び一作動室当りの充填量は、それぞれ図6に示すように変化する。
【0005】
すなわち、アクセル開度の減少と共にスロットル開度が減少し、このスロットル開度の減少に伴い、エンジン回転数が減少する。これにより、一作動室当りの充填量は低下する。その後スロットル開度はアイドリング開度になるが、エンジン回転数は、慣性やフューエルカットからの復帰の遅れ等に起因して、スロットル開度がアイドリング開度となった後もさらに低下する。こうして、エンジン回転数はアイドル回転数以下になる。このようにスロットル開度がアイドリング開度となることで吸入空気量はそれ以上は低下しなくなる一方で、エンジン回転数がさらに低下することによって、一作動室当りの充填量は増加するようになる。
【0006】
ロータリーエンジンでは、こうしたエンジン回転数が低回転で充填量が増加するときに、ノッキングが発生してしまう(同図の破線で囲まれた領域参照)。このノッキングの発生メカニズムは、次のように推定される。尚、ここでは、リーディング側とトレーリング側との2つの点火プラグを備えたロータリーエンジンにおいて、失火を抑制するために、アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側、リーディング側の順に設定した場合を例に説明するが、アイドリング時における2つの点火プラグの点火順序が逆の場合であっても、ノッキングの発生メカニズムは略同じである。
【0007】
すなわち、図7に示すように、アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の内、先ずトレーリング側点火プラグ91が点火され、これによって火炎(T側火炎81)が成長する。このT側火炎81は、ロータ6の回転及びスキッシュ流によって、主にリーディング側に伝播する(同図の矢印参照)。次いで、リーディング側点火プラグ92が点火されることで、新たな火炎(L側火炎82)が成長する。このように、L側火炎82とT側火炎81との2つの火炎が発生することで、このL側火炎82の火炎面とT側火炎81の火炎面とが、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ91,92の中間付近で衝突し、L側火炎82によってT側火炎81がトレーリング側に押し戻されるようになる。このことで、T側火炎81がロータリセス61のトレーリング側縁部を乗り上げ、これによって、ロータ6とロータハウジング2との隙間の混合気(トレーリング側エンドガスゾーン83の混合気)が圧縮されるようになる。
【0008】
ここで、通常のアイドリング時におけるエンジンの運転状態では、充填量が低いことから、作動室5内の火炎の伝播速度は遅い。このため、T側火炎81によってトレーリング側エンドガスゾーン83の混合気が圧縮される頃には、ロータ6の回転が遅くてもトレーリング側におけるロータ6とロータハウジング2との隙間は小さくなっており、トレーリング側エンドガスゾーン83には、混合気がほとんど存在していない。
【0009】
しかしながら、エンジンの運転状態が、エンジン回転数が低回転で充填量が増加している運転状態であるときには、充填量が高いことで作動室5内の火炎の伝播は速い。このため、ロータ6の回転は遅いことと相俟って、T側火炎81によってトレーリング側エンドガスゾーン83の混合気が圧縮されるときには、このトレーリング側エンドガスゾーン83には、未だ多量の混合気が存在しており、その結果、このトレーリング側エンドガスゾーン83においてノッキングが発生してしまうものと推定される。
【0010】
ノッキングの抑制には通常、点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせることが有効であるため、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ91,92双方の点火時期をリタードさせることが考えられる。ところが、双方の点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせてしまうと、エンジン出力の低下を招くことになることから、ノッキングの防止と、エンジン出力の低下抑制とは相反する要求となってしまう。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の点火プラグを備えたロータリーエンジンの点火制御装置において、所定の運転状態において発生し易いノッキングの発生を防止することと、エンジン出力の低下を抑制することとを両立させることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エンジンの運転状態が、ノッキングの発生し易い所定の運転状態であるときには、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせることとした。
【0013】
具体的に、本発明は、ハウジング内にロータを収容してその外周側に複数の作動室を区画し、該ロータの回転に連れて各作動室がそれぞれ周方向に移動しながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行うようにしたロータリーエンジンの点火制御装置に係る。
【0014】
そして、本発明に係るロータリーエンジンの点火制御装置は、上記ロータの外周面にロータリセスを形成し、ロータ回転方向の遅れ側位置に配設されたトレーリング側点火プラグと、上記ロータ回転方向の進み側位置に配設されたリーディング側点火プラグと、上記2つの点火プラグの点火時期を設定する点火時期設定手段とを備える。そして、この点火時期設定手段を、上記ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、上記リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成するものである。
【0015】
エンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、ロータの回転が遅い一方で、火炎の伝播が速いため、トレーリング側エンドガスゾーンでノッキングが発生し易い。
【0016】
そこで、本発明では、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードさせる。こうすることで、2つの点火プラグの点火順序が、トレーリング側、リーディング側の順の場合、逆に、リーディング側、トレーリング側の順の場合のいずれの場合でも、リーディング側点火プラグの点火によって発生した火炎(L側火炎)と、トレーリング側点火プラグの点火によって発生した火炎(T側火炎)とが一体になる。このため、二つの火炎の火炎面が衝突することが防止され、T側火炎によってトレーリング側エンドガスゾーンの混合気が圧縮されることが防止される。こうして、トレーリング側エンドガスゾーンでのノッキングの発生が防止される。
【0017】
一方、トレーリング側点火プラグの点火時期はリタードせず、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせるため、トレーリング側点火プラグの点火時期は、エンジン出力を考慮した最適な点火時期に設定可能である。これによって、エンジン出力の低下が抑制される。こうして、ノッキングの防止とエンジン出力の低下抑制とが両立する。
【0018】
上記点火時期設定手段は、ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量が設定量以上である所定の運転状態のときには、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0019】
すなわち、エンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量が設定量以上である所定の運転状態のときにも、ノッキングが発生し易いことから、この場合にも、リーディング側点火プラグのみ、点火時期をリタードさせることで、ノッキングの発生を防止しつつ、エンジン出力の低下が抑制される。
【0020】
さらに、点火時期設定手段は、スロットル開度がアイドリング開度になった後に、ロータリーエンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0021】
上述したように、例えば加速終了時等の、踏み込んだアクセルペダルを戻して、アクセル開度を全閉にし、これによりスロットル開度がアイドリング開度になった後に、エンジン回転数の低下に伴う充填量の増加によってノッキングが発生してしまう。このため、スロットル開度がアイドリング開度になった後に、ロータリーエンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードすることによって、ノッキングの発生が効果的に防止される。
【0022】
この場合、上記点火時期設定手段は、アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側点火プラグ、リーディング側点火プラグの順に設定するように構成してもよい。
【0023】
アイドリング時は、ロータの回転が遅く火炎の伝播速度が比較的遅い上に、仮にリーディング側、トレーリング側の順で点火プラグを駆動させると、各点火プラグは、ロータリセスの開口縁付近(ロータリセスの切れ上がり付近)と対向した状態で点火されることになり、S/V比が大きいことから火炎が冷却されて失火し易くなる。そこで、アイドリング時には、先ずトレーリング側点火プラグを点火し、これに遅れてリーディング側点火プラグを点火する。これにより、ロータの外周面に形成されたロータリセスは、このロータの回転に伴いトレーリング側、リーディング側の順で各点火プラグと対向することから、上記各点火プラグは、このロータリセス(ロータリセスの略中央)に対向した状態で点火するようになる。このため、S/V比は比較的小さくなり、火炎の冷却作用が低減して失火が防止される。
【0024】
そしてさらに、アイドリング時でかつ、エンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側点火プラグ、リーディング側点火プラグの順に設定した上で、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードする。このことで、ノッキングの発生が防止される。
【0025】
尚、非アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、リーディング側点火プラグ、トレーリング側点火プラグの順に設定すればよい。こうすることで、トレーリング側エンドガスの混合気が、トレーリング側点火プラグを点火することで燃焼され、燃料効率を高めることが可能になる。
【0026】
上記の各発明では、エンジンの運転状態が所定の運転状態のときには、ノッキングの発生の有無に拘らず、リーディング側点火プラグの点火時期を予めリタードさせて、ノッキングの発生を防止する。
【0027】
一方、ノッキングの発生を検出するノックセンサをさらに備え、点火時期設定手段は、上記ノックセンサによってノッキングの発生を検出したときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ双方の点火時期をリタードするように構成してもよい。
【0028】
このように、ノックセンサによってノッキングが実際に発生していることを検出したときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ双方の点火時期をリタードさせることで、ノッキングの発生を防止することが好ましい。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明におけるロータリーエンジンの点火制御装置によれば、ロータリーエンジンの運転状態が、ノッキングの発生し易い所定の運転状態にあるときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグの内、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードさせるため、ノッキングの発生を防止しつつ、エンジン出力の低下を抑制することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0031】
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るロータリーエンジン1の要部の構成を示し、トロコイド内周面2aを有する繭状のロータハウジング2とサイドハウジング3とに囲まれたロータ収容室4(気筒)には概略三角形状のロータ6が収容されていて、その外周側に3つの作動室5,5,5が区画されている。このロータリーエンジン1は、図示は省略するが、2つのロータハウジング2,2を3つのサイドハウジング3,3,3の間に挟み込むようにして一体化し、その間に形成される2つの気筒4,4にそれぞれロータ6,6を収容した2ロータタイプのものである。以下、この実施形態では、2つのロータハウジング2,2の中間に位置するサイドハウジング3(図2に示すもの)を両端側のものと区別して、インターミディエイトハウジング3と呼ぶものとする。
【0032】
上記ロータ6の内側には、図示しないが内歯車が形成されていて、この内歯車とサイドハウジング側の外歯車とが噛合するとともに、ロータ6は、インターミディエイトハウジング3及びサイドハウジング3を貫通する出力軸7に対して、遊星回転運動をするように支持されている。すなわち、上記ロータ6の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定され、ロータ6は、外周の3つの頂部にそれぞれ配設されたシール部が各々ロータハウジング2のトロコイド内周面2aに当接した状態で上記出力軸7の偏心輪7aの周りを自転しながら、該出力軸7の軸心Xの周りに公転する。そして、ロータ6が1回転する間に、該ロータ6の各頂部間にそれぞれ形成された作動室5,5,…が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ6を介して出力軸7から出力される。
【0033】
より具体的に、図1に示すように出力軸7の軸心Xの方向に見ると、各気筒4の左右方向の一側(図例では左側)が概ね吸気及び排気行程の領域になり、その反対側(図例では右側)が概ね圧縮及び膨張行程の領域になる。そして、図示の如く第1吸気ポート11(後述)等に連通する作動室5(図の左上側の作動室)は吸気行程の後半にあり、この作動室5がロータ6の回転に連れて図の時計回りに移動して圧縮行程になると、その内部に吸入された混合気が圧縮され、その後、図の右側に示す作動室5のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ91,92により混合気に点火されて、燃焼が行われるものである。
【0034】
上記2つの点火プラグ91,92は、ロータハウジング2の短軸(同図の一点鎖線参照)を挟んで、ロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とのそれぞれに配設されている。この内、リーディング側位置の点火プラグ(以下これをL側点火プラグという)92のプラグホールは、トレーリング側位置の点火プラグ(以下これをT側点火プラグという)91のプラグホールよりも大径に構成されている。これは、ロータ6の頂部(尚、この頂部には図示省略のアペックスシールが取り付けられている)がプラグホール上を通過する際に、この頂部を挟んだ両側の作動室5の圧力差によってガス漏れが生じるが、L側点火プラグ92の位置では、両作動室5の圧力差がほぼ0であるため、プラグホールを大径にすることが可能であるのに対し、T側点火プラグ91の位置では、両作動室5の圧力差が比較的大きいため、プラグホールを小径にせざるを得ないためである。このため、L側点火プラグ92の方が、T側点火プラグ91よりも着火性が向上している。
【0035】
また、上記ロータ6の頂部間の外周面には、窪み(ロータリセス)61がそれぞれ設けられている。
【0036】
図2は、2つの気筒4,4のうちの一方(図では手前側のもの)を模式的に2つに分けて、エンジン1の吸排気系の構成を示したものであり、図の左側には、図2と同様にインターミディエイトハウジング3の側が、また、図の右側にはサイドハウジング3の側が示されている。そして、上記インターミディエイトハウジング3には、両側の2つの気筒4,4においてそれぞれ吸気行程にある作動室5に連通するように一対の第1吸気ポート11,11(図には1つのみ示す)が形成され、同様に、排気行程にある作動室5,5にそれぞれ連通するように一対の第1排気ポート12,12(図には1つのみ示す)が形成されている。一方、上記サイドハウジング3には、吸気行程にある作動室5にそれぞれ連通するように第2及び第3の2つの吸気ポート13,14が形成され、また、排気行程にある作動室5に連通するように第2排気ポート15が形成されている。
【0037】
そして、上記第1、第2及び第3吸気ポート11,13,14が、それぞれ、各気筒4の吸気行程にある作動室5に吸気を供給する吸気通路16の下流端部を構成している。すなわち、吸気通路16の上流側にはエアクリーナ17とエアフローセンサ18と、ステッピングモータ等により駆動されて通路の断面積を調節する電気式スロットル弁23とが順に配設されていて、その下流側で吸気通路16は2つの独立吸気通路19,20に分かれている。第1の独立吸気通路19は、その下流側でさらに2つに分岐していて、その各分岐路21,22がそれぞれ上記第1吸気ポート11及び第2吸気ポート13に連通している。一方、第2の独立吸気通路20は、上記第3吸気ポート14に連通している。
【0038】
上記第1独立吸気通路19の下流側で分岐した第1分岐路21には、吸気マニホルド24内に燃料を噴射する比較的大容量のマニホルド噴射用インジェクタ25が配設されている。また、図1にも示すように、第1吸気ポート11に臨んで当該ポート11内に燃料を直接、噴射するように比較的容量の小さなポート噴射用インジェクタ26(燃料噴射弁)が配設されている。
【0039】
また、上記スロットル弁23よりも上流側の吸気通路16から分岐して該吸気通路16を流れる吸気の一部を取り出し、これを第1吸気ポート11まで導いて上記インジェクタ26の燃料被噴射位置に向かって吹き出させる空気吹出し通路27が設けられている。尚、上記空気吹出し通路27の上流端は、吸気通路16にキャッチタンク29からブローバイガスを導入するブローバイガス通路30の下流端よりも下流側で吸気通路16に接続されている。
【0040】
この実施形態では、上述したように、スロットル弁23の上流側から吸気の一部を取り出して第1吸気ポート11に供給する空気吹出し通路27を設けて、インジェクタ26からの燃料噴霧が衝突するポート壁面の燃料被噴射位置に向かって、高速の空気流を吹きつけるようにしている。これにより、インジェクタ26からの燃料噴霧がポート壁面に付着することが効果的に抑制され、また一旦、付着した燃料の剥離及び蒸発が効果的に促進される。
【0041】
一方、上記第1独立吸気通路19の下流側で分岐した第2分岐路22には、アクチュエータにより駆動されてこの第2分岐路22を開閉する電磁式のロータリーバルブ28と、上記第1分岐路21のものと同様のマニホルド噴射用インジェクタ32とが順に配設されている。また、図示しないが、第2独立吸気通路20の下端部には、アクチュエータにより駆動されてこの第2独立吸気通路20を開閉する電磁式のロータリーバルブが配設されている。
【0042】
上述の如き構成の吸気系に対し、エンジン1の排気系は、上記第1及び第2排気ポート12,15がそれぞれ排気マニホルド33に接続し、この排気マニホルド33において2つの気筒4,4からの排気が集合されて、下流側の排気管34に流通するようになっている。そして、上記排気マニホルド33には、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ35が配設され、また、排気管34には排気を浄化するための2つの触媒コンバータ36,37が直列に配設されている。上記リニアO2センサ35は、理論空燃比を含む所定の空燃比範囲において酸素濃度に対しリニアな信号を出力するものであり、上記インジェクタ25,26,32による燃料噴射量のフィードバック制御のために用いられる。
【0043】
尚、同図に示す符号38は、ロータリーエンジン1の出力軸7の一端側に配設されてその回転角度を検出する電磁式のクランク角センサである。また、符号39は、ロータハウジング2の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に臨んで冷却水の温度状態(エンジン水温)を検出する水温センサである。さらに、符号51は、ロータハウジング2に配設されて、燃焼ガスの圧力変動をハウジング2の振動により検出することでノッキングの発生を検出するノックセンサである。
【0044】
上記点火プラグ91,92の点火回路44(図3参照)、スロットル弁23のモータ、ロータリーバルブ28、インジェクタ25,26,32等は、コントロールユニット40(以下、ECUと略称する)により作動制御されるようになっている。このECU40には少なくとも上記エアフローセンサ18の出力信号と、リニアO2センサ35の出力信号と、クランク角センサ38の出力信号と、水温センサ39の出力信号と、ノックセンサ51の出力信号とが入力され、さらに、アクセル開度センサ41からの信号と、エンジン回転数センサ42からの信号とが入力されるようになっている。そして、このECU40においてエンジン1の運転状態を判定するとともに、その運転状態に応じて各気筒4の点火時期、上記スロットル弁23の開度、ロータリーバルブ28の開閉、インジェクタ25,26,32による燃料噴射量及び燃料噴射タイミングの制御が行われる。
【0045】
(点火制御装置の構成)
次に、L側及びT側点火プラグ91,92の点火時期を制御する点火制御装置について、図3を参照しながら説明する。
【0046】
上記点火制御装置10は、ECU40によって構成されるものであり、このものは、ロータリーエンジン1のアイドリング状態を判定するアイドリング判定部46と、ロータリーエンジン1の運転状態が所定の運転状態(ノッキングの発生し易い運転状態)にあるか否かを判定するノック条件判定部47と、上記L側及びT側点火プラグ91,92の点火進角を設定する点火進角算出部48とからなる点火時期設定手段45を備えている。
【0047】
上記アイドリング判定部46は、アクセル開度センサ41からの信号に基づいて、ロータリーエンジン1がアイドリング状態にあるか、非アイドリング状態にあるかを判定するように構成されている。
【0048】
また、ノック条件判定部47は、エンジン回転数センサ42からの信号と、エアフローセンサ18からの信号とに基づいて、ノック条件が成立したか否かを判定するように構成されている。ここで、ノック条件とは、エンジン1の運転状態が、エンジン回転数が予め設定した設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が予め設定した設定増加率以上である所定の運転状態にあることである。
【0049】
さらに、点火進角算出部48は、上記アイドリング判定部46による判定結果と、上記ノックリタード判定部による判定結果と、エンジン回転数センサ42からの信号と、エアフローセンサ18からの信号と、リニアO2センサ35、クランク角センサ38、水温センサ39及びノックセンサ51等からなるエンジン運転状態検出センサ43からの信号とに基づいて、L側及びT側点火プラグ91,92の点火進角をそれぞれ算出するように構成されている。
【0050】
具体的に上記点火進角算出部48は基本的には、ロータリーエンジン1がアイドリング状態のときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序を、T側、L側の順に設定した上で、エンジン1の運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。一方、ロータリーエンジン1が非アイドリング状態のときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序を、L側、T側の順に設定した上で、エンジン1の運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。さらに、点火進角算出部48は、ノック条件が成立するときには、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせる一方、ノックセンサ51によりノッキングの発生が検出されたときには、L側及びT側点火プラグ91,92双方の点火時期をリタードさせるように構成されている。
【0051】
そして、上記点火制御装置10は、上記点火進角算出部48で算出した点火進角に基づいて点火回路44を制御することにより、L側及びT側点火プラグ91,92を算出された点火進角でもって点火させるように構成されている。
【0052】
次に、上記点火制御装置10による制御手順について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0053】
先ず、ステップS1では、エンジン回転数センサ42から出力されたエンジン回転数を読み込み、ステップS2では、エアフローセンサ18から出力された吸入空気量を読み込み、ステップS3では、エンジン運転状態検出センサ43からの出力値を読み込み、ステップS4では、アクセル開度センサ41から出力されたアクセル開度を読み込む。
【0054】
そして、ステップS5では、読み込んだアクセル開度から、エンジン1がアイドリング状態であるか否かを判定する。非アイドリング状態であるのNOのときには、ステップS6に移行する一方、アイドリング状態であるのYESのときには、ステップS9に移行する。
【0055】
上記ステップS6では、ノックセンサ51によってノッキングが検出されたか否かを判定し、ノッキングが検出されていないのNOのときには、ステップS7で、点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順に設定した上で、エンジンの運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。一方、上記ステップS6でノッキングが検出されたのYESのときには、ステップS8で、点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順に設定した上で、各点火プラグ91,92の点火時期をリタードさせる。
【0056】
一方、上記ステップS9では、ノック条件が成立したか否かを判定する。ノック条件が成立していない(エンジン回転数が設定回転数よりも高い又は、充填量の増加率が設定増加率よりも小さい)のNOのときには、ステップS10で点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順に設定した上で、エンジンの運転状態に応じて各点火プラグ91,92の点火進角を算出する。これに対し、上記ステップS9で、ノック条件が成立した(エンジン回転数が設定回転数以下であってかつ、充填量の増加率が設定増加率以上である)のYESのときには、ロータリーエンジン1のノッキングが発生し易い運転状態であることから、ノッキングの発生を防止すべく、ステップS11で、点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順に設定した上で。L側点火プラグ92の点火時期をリタードする。
【0057】
これにより、ノック条件が成立した場合における作動室5内の燃焼動作は次のようになる。つまり、図5に示すように、エンジン1がアイドリング状態であることから、L側及びT側点火プラグ91,92の内、T側点火プラグ91が先ず点火される(同図(a)参照。尚、図例はBTDC20°)。これにより、T側点火プラグ91は、ロータリセス61の略中央に対向した状態で点火するようになり、S/V比が小さくなって失火が防止される。また、混合気の燃焼が確実に行われることで、エンジン出力の低下を抑制することができる。
【0058】
次いで、L側点火プラグ92が点火される(同図(b)参照。尚、図例はATDC20°)。このL側点火プラグ92の点火時期はリタードされているため(通常の点火時期はATDC10°程度)、L側点火プラグ92が点火されるときには、T側点火プラグ91の点火により発生したT側火炎(同図の斜線を付した部分参照)がL側に伝播しており、L側点火プラグ92の点火により発生したL側火炎は、T側火炎と一体になる。こうして、T側火炎及びL側火炎の2つの火炎面が衝突することが回避され、これにより、T側火炎によってトレーリング側エンドガスゾーンの混合気が圧縮されることが防止される。
【0059】
さらに、同図(c)に示すように、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせることによって、火炎面がトレーリング側に到達した頃には、ロータ6とロータハウジング2との隙間が殆ど無くなっており、トレーリング側エンドガスゾーンには、混合気が殆ど残っていない。その結果、トレーリング側エンドガスゾーンでのノッキングの発生が確実に防止される。
【0060】
こうして本実施形態では、図6の破線で囲まれた領域でのノッキングの発生防止と、エンジン出力の低下抑制とを両立させることができる。
【0061】
また、ノック条件が成立したときには、L側点火プラグ92のみ、その点火時期がリタードされるのに対し、ノックセンサ51によりノッキングを検出したときには、L側及びT側点火プラグ91,92の双方の点火時期がリタードされる(ステップS8参照)。これにより、ノッキングが実際に発生したときには、そのノッキングを効果的に防止することができる。
【0062】
さらに、エンジン1のアイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序がT側、L側の順に設定され(ステップS10参照)、非アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序がL側、T側の順に設定される(ステップS7参照)ため、アイドリング時には失火を防止する一方で、非アイドリング時には燃焼効率の向上が図られる。
【0063】
尚、上記実施形態では、ノック条件を「エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、充填量の増加率が設定増加率以上であること」としたが、ノック条件としては、これに代えて「エンジン回転数が予め設定した設定回転数以下でありかつ、充填量が予め設定した設定量以上であること」としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、アイドリング時には、2つの点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順にし、ノック条件が成立したときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序をT側、L側の順にした上で、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせたが、これに限らず、アイドリング時においても非アイドリング時と同様に、2つの点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順にし、ノック条件が成立したときには、2つの点火プラグ91,92の点火順序をL側、T側の順にした上で、L側点火プラグ92の点火時期をリタードさせてもよい。またこのときは、T側点火プラグ91の点火時期をアドバンスさせてもよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、点火制御装置10は、ステップS5でエンジン1が非アイドリング状態であると判定した後に、ステップS6でノックセンサ51によってノッキングが検出されたか否かを判定するようにしているが、このノックセンサ51によるノッキングの検出判定は、上記ステップS5のエンジンのアイドリング判定よりも前に判定するようにしてもよい。この場合も、ノッキングが検出されたときには、L側及びT側点火プラグ91,92の双方の点火時期をリタードさせるようにするのがよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジンの要部構成を示す図である。
【図2】エンジンの吸排気系及び制御システムの概略構成図である。
【図3】点火制御装置を示すブロック図である。
【図4】点火制御装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】各点火プラグの点火時期とその燃焼動作を示す説明図である。
【図6】スロットル開度、エンジン回転数、及び充填量の変化を示す説明図である。
【図7】ノッキング発生の際の燃焼動作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ロータリーエンジン
10 点火制御装置
18 エアフローセンサ
2 ロータハウジング
3 サイドハウジング、インターミディエイトハウジング
38 クランク角センサ
39 水温センサ
40 コントロールユニット(ECU)
41 アクセル開度センサ
42 エンジン回転数センサ
43 エンジン運転状態検出センサ
44 点火回路
45 点火時期設定手段
46 アイドル判定部
47 ノック条件判定部
48 点火進角算出部
5 作動室
51 ノックセンサ
6 ロータ
61 ロータリセス
83 トレーリング側エンドガスゾーン
91 トレーリング側点火プラグ
92 リーディング側点火プラグ
Claims (5)
- ハウジング内にロータを収容してその外周側に複数の作動室を区画し、該ロータの回転に連れて各作動室がそれぞれ周方向に移動しながら、順に吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を行うようにしたロータリーエンジンの点火制御装置であって、
上記ロータの外周面にはロータリセスが形成されており、
ロータ回転方向の遅れ側位置に配設されたトレーリング側点火プラグと、上記ロータ回転方向の進み側位置に配設されたリーディング側点火プラグと、
上記2つの点火プラグの点火時期を設定する点火時期設定手段とを備え、
上記点火時期設定手段は、
上記ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量の増加率が設定増加率以上である所定の運転状態のときには、上記リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成されている
ことを特徴とするロータリーエンジンの点火制御装置。 - 請求項1において、
点火時期設定手段は、
ロータリーエンジンの運転状態が、エンジン回転数が設定回転数以下でありかつ、一作動室当たりの充填量が設定量以上である所定の運転状態のときには、リーディング側点火プラグのみ、その点火時期をリタードするように構成されている
ことを特徴とするロータリーエンジンの点火制御装置。 - 請求項1又は請求項2において、
点火時期設定手段は、スロットル開度がアイドリング開度になった後に、ロータリーエンジンの運転状態が所定の運転状態となったときには、リーディング側点火プラグの点火時期をリタードするように構成されている
ことを特徴とするロータリーエンジンの点火制御装置。 - 請求項3において、
点火時期設定手段は、アイドリング時には、2つの点火プラグの点火順序を、トレーリング側点火プラグ、リーディング側点火プラグの順に設定するように構成されている
ことを特徴とするロータリーエンジンの点火制御装置。 - 請求項1又は請求項2において、
ノッキングの発生を検出するノックセンサをさらに備え、
点火時期設定手段は、上記ノックセンサによってノッキングの発生を検出したときには、リーディング側及びトレーリング側点火プラグ双方の点火時期をリタードするように構成されている
ことを特徴とするロータリーエンジンの点火制御装置。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2020012409A (ja) * | 2018-07-17 | 2020-01-23 | マツダ株式会社 | ロータリピストンエンジン |
CN114109588A (zh) * | 2021-11-06 | 2022-03-01 | 北京工业大学 | 一种基于射流点火的氢转子机及控制方法 |
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2002
- 2002-09-30 JP JP2002285112A patent/JP2004116497A/ja not_active Abandoned
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