JP2004115893A - 真空浸炭方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温に保持した炉内に浸炭性ガスを導入して炉内のワークに対して浸炭処理を実行する。その後、炉内を排気して減圧雰囲気において加熱することにより炉内のワークに対して拡散処理を実行する。拡散処理のうちの少なくとも初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内のワークの表面層に脱炭処理を行い、ワークの表面層のセメンタイトを減少または除去する。
【選択図】図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は鉄系のワークに対して減圧雰囲気において浸炭を行う真空浸炭方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温(930〜980℃)に保持される炉内に、浸炭性のガスを導入して炉内のワークに対して浸炭処理を実行し、その後、炉内を排気して減圧雰囲気において加熱することにより炉内のワークに対して拡散処理を実行する真空浸炭方法が開示されている(特開平06−172960号公報、特開2000−303160号公報)。
【0003】
ガス浸炭は、RXガスをキャリアガスとして、これにプロパン(C3H8)やブタン(C4H10)をエンリッチガスとして添加し、カーボンポテンシャル(Cp値)を調整しながら、浸炭を行う方法である。この場合、Boudouard反応によるCOガスが浸炭に寄与する。カーボンポテンシャル(Cp値)は、ガスとワークのオーステナイト炭素濃度との平衡関係を示すものであり、例えば、0.8質量%のカーボンポテンシャル(Cp値)のガス中にワークを高温に長時間放置すると、ワークの元の炭素濃度にかかわらず、ワークの炭素濃度は基本的には0.8質量%となる。
【0004】
このようなガス浸炭では、ガス組成を調整してカーボンポテンシャル(Cp値)を制御しながら浸炭を行うことができるため、ワークの平面部及び角部は浸炭深さが相違するものの、炭素濃度は基本的には同一となる。但し、このようなガス浸炭では、浸炭速度が遅いため、必要な有効硬さ深さを得る生産時間としてはかなり長くなる不具合があり、生産性の面では必ずしも充分ではない。
【0005】
これに対して上記した真空浸炭方法は、キャリアガスを用いることなく、炉内を減圧状態とした状態で浸炭性のガス(一般的には、アセチレンやエチレン等の炭化水素系ガス)を炉内に導入するものである。この場合、炭化水素系ガスが直接分解して生成された炭素がワークの内部に進入し、浸炭が行われると言われている。
【0006】
【特許文献1】特開平06−172960号公報
【特許文献2】特開2000−303160号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記した真空浸炭方法によれば、カーボンポテンシャル(Cp値)を制御しながら浸炭を行うガス浸炭に比較して、カーボンポテンシャル(Cp値)の制御を行わないため(行うことができないため)、ワークの平面部よりもワークの角部に多量のセメンタイトが過剰に残留する傾向がある。ワークの角部は、単位体積当たりの表出面積が平面部よりも大きいため、炭素の浸透量が高いためである。このようにセメンタイトが過剰に残留すると、ワークの高品質化に限界がある。
【0008】
上記した公報技術によれば、浸炭処理のワークを高い真空度で加熱保持して拡散処理したとしても、ワークの角部にはセメンタイトが多量に存在するため、ワークの角部には未固溶のセメンタイトが残留してしまう。
【0009】
本発明は上記した実情に鑑みなされたものであり、生産時間の短縮を図りつつ、ワークの角部におけるセメンタイトを低減または除去できる真空浸炭方法を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る真空浸炭方法は、減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温に保持される炉内に浸炭性ガスを導入して炉内のワークに対して浸炭処理を実行し、
その後、炉内を排気して減圧雰囲気において加熱保持することにより炉内のワークに対して拡散処理を実行する真空浸炭方法において、
拡散処理のうちの少なくとも初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内のワークの表面に脱炭処理を行い、ワークの表面のセメンタイトを減少または除去することを特徴とするものである。
【0011】
本発明に係る真空浸炭方法によれば、減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温に保持される炉内に浸炭性ガスを導入し、炉内のワークに対して浸炭処理を実行する。このためガス浸炭に比較して、短時間のうちにワークの表面に多量の炭素が浸透し、鉄炭化物であるセメンタイトが多量に生成される。この場合、一般的には、ワークの角部ばかりでなく、ワークの平面部にも鉄炭化物であるセメンタイトが多量に生成される。炭化水素系ガスが直接分解して生成された炭素がワークの内部に浸透するためであると考えられている。なお、浸炭処理直後(拡散処理前)のワークの角部の表面の炭素濃度としては、1.0質量%以上、場合によっては1.5質量%以上、2.0質量%以上とすることができる。
【0012】
本発明に係る真空浸炭方法によれば、拡散処理のうちの少なくとも初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内のワークの表面に対して脱炭処理を行なう。これによりワークの表面のセメンタイトの分解で生成された炭素は、炉内の脱炭性ガスにより脱炭されて減少または除去する。セメンタイトの分解で生成された炭素は、COガスとなり、脱炭されると考えられている。この結果、セメンタイトの分解で生成された炭素は、特にワークの角部に存在する炭素は、炉内の脱炭性ガスにより脱炭されて減少または除去される。
【0013】
ワークの角部はワークの平面部に比較して体積当たりの表出面積が大きいため、浸炭処理のとき炭素の浸透量も多くなり、過剰浸炭されるが、脱炭処理においても、炭素の脱炭量は多くなり、多量に脱炭される傾向がある。
【0014】
上記のような脱炭処理が終了すれば、脱炭性ガスを炉内から排気し、加熱保持によりワークに対して拡散処理を行う。これによりワークの表面に存在する炭素が内部に拡散し、焼き入れ後に有効硬化深さが確保される。
【0015】
本発明に係る真空浸炭方法によれば、浸炭処理でワークに対して炭素を過剰に浸透させて過剰浸炭を行い、その後に多量に脱炭させるため、ガス浸炭に比較して有効硬化深さを得るための生産時間を短くすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明方法によれば、拡散処理のうちの少なくとも初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内のワークの表面に脱炭処理を行なう。脱炭処理としては、拡散処理のうちの初期だけおこなっても良いし、拡散処理の全部の間あるいは大部分の間、あるいは間欠的に、脱炭性ガスを炉内に導入して脱炭処理を行っても良い。
【0017】
本発明方法に係る鉄系のワークとしては、浸炭処理前の炭素含有量としては0.7質量%以下のものを採用でき、一般的には0.05〜0.5質量%、0.1〜0.4質量%、0.1〜0.3質量%とすることができる。ワークには他の合金元素(クロム、シリコン、マンガン、アルミニウム、バナジウム、タングステン、ニッケル等のうちの少なくとも1種)を含むことができる。
【0018】
本発明方法を実施した後のワークの表面の炭素濃度としては、共析鋼組成とすることができるが、場合によっては亜共析鋼組成、過共析鋼組成とすることもできる。共析鋼組成は一般的には炭素濃度は0.8質量%と言われている。従って、本発明方法を実施した後のワークの表面の炭素濃度としては、0.5〜1.3質量%とすることができ、0.6〜1.1質量%、0.7〜0.9質量%とすることができる。
【0019】
本発明方法によれば、浸炭処理の際に浸炭性ガスとして炉内に導入するガスとしては、一般的には、炭化水素系のガス、メタノールガス等を採用できる。炭化水素系のガスとしてはアセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス、メタンガス等を例示できる。脱炭処理の際に脱炭性ガスとして炉内に導入するガスとしては、一般的には酸素、空気(酸素を含む)、水蒸気、CO2ガスを採用できる。
【0020】
本発明方法によれば、浸炭処理における炉内圧力(絶対圧力)としては、真空浸炭できる圧力であれば良いが、低すぎると、浸炭が充分でなくなり、高すぎるとセメンタイトが過剰になる。そこで浸炭処理における炉内圧力(絶対圧力)としては、一般的には、0.01〜40KPa、1〜20KPa、殊に1〜10KPaを採用できる。
【0021】
脱炭処理における炉内圧力(絶対圧力)としては、脱炭できる圧力であれば良いが、低すぎると、脱炭時間が長くなると共に脱炭が充分でなくなり、高すぎるとワークの炭素濃度が必要以上に低下したり、粒界酸化が過剰となり、他の合金元素が過剰に酸化されてしまう。そこで脱炭処理における炉内圧力(絶対圧力)としては、一般的には、0.5〜100KPa、1〜80KPa、殊に2〜60KPaを採用できる。
【0022】
本発明方法によれば、脱炭処理における炉内圧力(減圧度)を例えば40KPa以下に設定する形態を例示できる。これにより脱炭処理における脱炭性ガスの割合を減少させ得るため、脱炭能はやや低下することがあるものの、ワークにおける粒界酸化を抑制でき、ワークに含まれている合金元素(クロム、シリコン、マンガン、アルミニウム等のうちの少なくとも1種)の酸化を抑制できる。
【0023】
拡散処理(脱炭処理の期間を含ます)における炉内圧力(絶対圧力)としては、減圧雰囲気で拡散処理する場合には、一般的には、20KPa以下、7KPa以下、1KPa以下を採用でき、また、20Pa以下、10Pa以下、0.01Pa以上を採用でき、不活性ガス雰囲気で拡散処理する場合には、大気圧でも良い。
【0024】
本発明方法によれば、浸炭処理を実行した後に、初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行する処理を第1サイクルとし、この第1サイクルを複数回連続的に繰り返す工程を含む形態を例示することができる。この場合、第1サイクルを複数回連続的に繰り返すため、浸炭処理の1回あたりの時間、初期における脱炭処理の1回当たりの時間を短くする。これはパルス浸炭の改良として位置づけることができる。この場合、浸炭処理を行ったとしても、ワークに生成されるセメンタイトの量を抑えることができる利点が得られる。このように浸炭処理においてセメンタイトの量を抑えた状態で、脱炭を行うため、セメンタイトの残留は一層抑えられる。第1サイクルを複数回を繰り替えす回数としては、ワークによっても異なるものの、2〜100回、2〜15回、または、2〜10回とすることができる。
【0025】
また本発明方法によれば、前記浸炭処理を実行し、前記初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行するサイクルを第1サイクルとし、且つ、前記浸炭処理を実行し、前記脱炭処理を含まない拡散処理を実行するサイクルを第2サイクルとしたとき、前記第1サイクルを複数回連続的に繰り返し、前記第1サイクルの繰り返しの終了後、前記第2サイクルを実行する工程を含む形態を採用できる。
【0026】
あるいは本発明方法によれば、前記浸炭処理を実行し、前記初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行するサイクルを第1サイクルとし、且つ、前記浸炭処理を実行し、前記脱炭処理を含まない拡散処理を実行するサイクルを第2サイクルとしたとき、前記複数回の第1サイクルを連続的に繰り返した後、前記複数回の第1サイクルの繰り返し途中において前記第1サイクルと前記第1サイクルとの間において、前記第2サイクルを実行する工程を含む形態を採用できる。この場合、第2サイクルは、第1サイクルの繰り返し数をNとしたとき、N/3以降、N/2以降の後半期に行うことが好ましい。粒界酸化を解消または低減させるためである。 上記した場合、第1サイクルの脱炭処理時に発生した僅かの粒界酸化を第2サイクルによって還元でき、粒界酸化を解消または低減させるのに有利となる。例えば、1000℃×3Pa中の雰囲気であれば、Crの酸化物も還元される。
【0027】
換言すると、上記した場合、粒界酸化を解消させるのに有利な第2サイクルとしては、第1サイクルを少なくとも1回実行した後に行うことが必要である。ここで、第1サイクルを複数回実行した後に、第1サイクルの後で第2サイクルを少なくとも1回以上実行する形態を採用することができる。このように粒界酸化の解消または低減に有利な第2サイクルを最後の側に実行した方が、粒界酸化の解消または低減に有利である。また第1サイクルを複数回繰り返して実行する場合、第2サイクルとしては、前記したように第1サイクルと第1サイクルとの間に実行しても良い。
【0028】
本発明方法によれば、ワークの温度としては、ワークの材質、要請される特性、浸炭性ガスの組成、脱炭性ガスの組成等によっても相違するものの、浸炭処理において一般的には880〜1150℃、900〜1100℃、900〜1050℃、または930〜1050℃を採用できる。ガス浸炭における浸炭温度よりも高温側とすることができるが、場合によってはガス浸炭と同程度、あるいは低めでも良い。脱炭処理の温度については、一般的には880〜1150℃、900〜1100℃、900〜1050℃、または930〜1050℃を採用できる。拡散処理(脱炭処理を含まず)の温度については、一般的には880〜1150℃、900〜1100℃、900〜1050℃、または930〜1050℃を採用できる。浸炭処理、脱炭処理、拡散処理(脱炭処理を含まず)においては、ワークの温度を基本的には同一としても良いと、それぞれ異ならせても良い。
【0029】
本発明方法によれば、脱炭処理は、脱炭能力が相対的に強い強脱炭処理と、強脱炭処理後に行われ脱炭能力が強脱炭処理よりも相対的に弱い弱脱炭処理との組み合わせで構成されている形態を採用できる。強脱炭処理のみであれば、脱炭能力が相対的に強いため、ワークの角部の表面に多量に存在するセメンタイトを良好に低減、除去できるものの、ワークの平面部の表面の炭素濃度の低下が大きくなり、場合によってはワークの平面部の表面の炭素濃度を必要以上に低下させてしまうおそれがある。これに対して弱脱炭処理のみであれば、脱炭能力が相対的に弱いため、ワークの平面部の表面の炭素濃度を確保できるものの、ワークの角部の表面のセメンタイトの除去能力が低下するおそれがある。
【0030】
そこで、脱炭処理として、前述したように、脱炭能力が相対的に強い強脱炭処理を実行した後に、強脱炭処理よりも脱炭能力が相対的に弱い弱脱炭処理を実行することにすれば、ワークの平面部の表面の炭素濃度の低下を抑制しつつ、ワークの角部の表面のセメンタイトの除去能力を確保することができる。強脱炭処理は、脱炭性ガスを炉内に導入して脱炭期の炉内圧力を6KPaを越える形態を採用でき、殊に、脱炭性ガスを単独(浸炭性ガスを含まない)で炉内に導入して脱炭期の炉内圧力を6KPaを越える形態を採用できる。弱脱炭処理は、浸炭性ガスと脱炭性ガスとを混合して炉内に導入する形態、あるいは、脱炭期の炉内圧力を6KPa以下(100Pa以上)とする形態を採用できる。強脱炭処理及び弱脱炭処理で同一の脱炭性ガスを炉内に導入する場合には、弱脱炭処理における脱炭性ガスの分圧としては、強脱炭処理に比較して1/15〜1/2の範囲内、あるいは、1/10〜1/3の範囲内とすることができる。
【0031】
弱脱炭処理における脱炭温度としては強脱炭処理の脱炭温度と同一でも良いし、強脱炭処理の脱炭温度よりも相対的に低めでも良い。故に、強脱炭処理の温度は880〜1150℃、または、900〜1100℃を例示でき、弱脱炭処理の温度は870〜1150℃、または、890〜1100℃を例示することができるが、これに限定されるものではない。強脱炭処理の時間としては5〜700分、弱脱炭処理の時間は3〜500分を例示することができるが、脱炭条件によっても相違するため、これに限定されるものではないことは勿論である。
【0032】
本発明方法によれば、脱炭処理のうちの少なくとも一時期は、脱炭性ガスと浸炭性ガスとを含む混合ガスで脱炭作用を抑制しつつ脱炭処理を実行する形態を採用することができる。この場合、後述の実施例で示すように、浸炭によりワークの角部に過剰のセメンタイトが生成し、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度との差が大きくなったとしても、脱炭処理により、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とを近づけることができる利点が得られる。即ち、浸炭によりワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度との差が大きくなったとしても、脱炭処理によりワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とを目標炭素濃度にそれぞれ近づけることができる利点が得られる。脱炭性ガス及び浸炭性ガスとしては前述したものを採用できる。脱炭性ガス及び浸炭性ガスの混合割合としては、炉内雰囲気のCO/(CO+CO2)の比を、0.95〜0.50になるように設定することができる。この場合においても、脱炭処理は、脱炭能力が相対的に強い強脱炭処理を実行した直後に、強脱炭処理よりも脱炭能力が相対的に弱い弱脱炭処理を、脱炭性ガスと浸炭性ガスとを含む混合ガスを用いて実行することができる。なお、二酸化酸素ガス(CO2)に代表される脱炭性ガスと、プロパンガス(C3H8)に代表される浸炭性ガスとの混合ガスを用いるときには、その混合比としては、体積比で、脱炭性ガス:浸炭性ガス=(20〜2):1、あるいは、(10〜4):1とすることができる。
【0033】
なお本発明方法によれば、浸炭処理、脱炭処理を含む拡散処理を実行した後に、焼き入れ処理するのが一般的であるが、場合によっては焼き入れ処理せずとも良い。なお焼き入れ処理は、水焼き入れ、油焼き入れ、場合によってはダイクエンチ等を採用できる。焼き入れ処理前にワークを均熱処理する場合には、均熱処理の温度としては780〜1100℃を採用できるが、これに限定されるものではない。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の実施例について比較例と共に具体的に説明する。
【0035】
(真空浸炭)
本実施例によれば、減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温に保持した炉を用いる。炉内には鉄系のワークが装入されている。図1は炉200を模式化したものであり、真空ポンプ300が接続されている。100はワークの平面部を示し、102はワークの角部を示す。角部102は体積当たりの表出面積が大きいため、浸炭量、脱炭量が大きいものである。浸炭処理前のワークの炭素含有量は0.2質量%である。本実施例で用いるワークの材質はJIS−SCM420相当材であり、Fe−C−Cr−Mo系であり、基本的な組成は、Crを1質量%、Moを0.23質量%、Mnを0.7質量%含む。
【0036】
図2は実施例1〜実施例5の温度変化を模式化したものである。この場合、所定の温度に加熱されている炉内に炭化水素系ガスの浸炭性ガス(アセチレンガス)を導入し、炉内圧力を所定圧力にした後に、炉内の鉄系のワークに対して浸炭処理を実行した。その後、炉内を排気して炉内を減圧雰囲気とし、減圧雰囲気において加熱することにより、炉内のワークに対して拡散処理を実行した。
【0037】
本実施例によれば、上記した拡散処理のうちの初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内のワークの表面に対して脱炭処理を行い、ワークの表面のセメンタイトを減少または除去した。脱炭性ガスとして炉内に装入するガスとして空気を採用した。そして脱炭処理を含む拡散処理を行った後に、図2に示すように、850℃で均熱処理を30分行い、油焼き入れを行った。本実施例に係る製造方法を実施したワーク(焼き入れ後)の有効硬化深さ(ビッカース硬度Hv513までの表面深さ)の目標は、1.80〜1.85mmである。
【0038】
本実施例によれば、処理時間の目標値は、浸炭処理と、脱炭処理を含む拡散処理とを合計したものであり、生産性を考慮して240分前後としている。この処理時間前後で収まるように、浸炭処理の時間と、脱炭処理を含む拡散処理の時間とを表1に示すように設定している。
【0039】
比較例1は表1の条件1に相当する。実施例1は表1の条件2に相当し、実施例2は表1の条件3に相当し、実施例3は表1の条件4に相当し、実施例4は表1の条件5に相当し、実施例5は表1の条件6に相当する。
【0040】
表1に示すように、実施例1〜実施例5、比較例1共に、浸炭処理については、浸炭温度を1000℃とし、浸炭時間を70分、炉内圧力(減圧度)を3KPaとした。このように真空浸炭すれば、ワークの全面にセメンタイトが過剰に生成した。即ち、ワークの平面部の表面及びワークの角部の表面には、セメンタイトが過剰に生成した。
【0041】
図3の特性線M1は、真空浸炭したときのワークの表面付近の炭素濃度の形態を模式的に示す。真空浸炭の場合には、ガス浸炭に比較して、炭素はワークの表面に過剰に浸透するため、ワークの表面付近の炭素濃度はかなり高くなり、1.0質量%を越えているものと推察される。殊に、体積の割に表出面積が大きいワークの角部の表面では、炭素濃度は1.5質量%、2.0質量%、場合によっては3.0質量%を越えているものと推察される。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
実施例1〜実施例5によれば、強い脱炭条件のもとで強脱炭処理を実施した。殊に実施例3、実施例4によれば、相対的に強い脱炭条件のもとで強脱炭処理を実施した後に、強脱炭処理よりも相対的な弱い脱炭条件のもとで弱脱炭処理を実施した。
【0045】
即ち、実施例1〜実施例5によれば、表1に示すように拡散処理の初期に脱炭性ガスを導入して強脱炭処理をワークに対して実行した。この場合、脱炭性ガスとして機能する空気(酸素含有)を50リットル(NL)/分の割合で炉内に導入しつつ炉内ガスをポンプで吸引し、表1に示す所定の炉内圧力に維持した。
【0046】
図3の特性線M2は、真空浸炭した後に脱炭を含む拡散処理を実行したときにおけるワークの表面付近の炭素濃度の形態を模式的に示す。特性線M2に模式的に示すように、ワークの最表面の炭素濃度のピークはかなり下がっており、更に炭素がワークの内部にかなり浸透している。なお本実施例によれば、ワークの表面の炭素濃度の目標値は0.8質量%である。
【0047】
比較例1については、表1に示すように、拡散処理(1000℃、170分、2Pa)を実行するものの、脱炭性ガスを導入せず脱炭処理を実行しなかった。このため表2に示すように、比較例1に係る試験結果によれば、ワークの平面部の表面の炭素濃度は0.86質量%と、亜共析鋼組成付近であるにもかかわらず、ワークの角部の表面の炭素濃度は1.91質量%と過剰に多く、ワークの平面部の表面と角部の表面とで炭素濃度の差が非常に大きく、好ましいものではなかった。更に比較例1によれば、ワークの平面部の表面にはセメンタイトが残留していないものの、ワークの角部の表面においてはセメンタイトが多量に残留しており、好ましいものではなかった。なおワークの炭素濃度はEPMAで測定したものである。
【0048】
表1に示すように、実施例5に係る強脱炭処理については、脱炭時間を50分とし、脱炭性ガスを装入した炉内圧力は40KPaとかなり高めであり、即ち、脱炭性ガスの量がかなり多めであり、強脱炭条件とした。このため表2に示すように、実施例5に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度は0.98質量%と亜析鋼組成に近いものとなり、この結果、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.75質量%)に近いものとなり、更に、ワークの平面部の表面ばかりか、ワークの角部の表面においてもセメンタイトが残留しておらず、良好であった。
【0049】
なお実施例5によれば、強脱炭条件で強脱炭処理を行うため、14μm程度の酸化物が認められ、粒界酸化が認められた。但し、RXガスを用いる一般的なガス浸炭法(浸炭温度950℃、浸炭時間10時間)によれば、浸炭時間が長くなるため、20〜25μm程度の酸化物の生成が認められるのが一般的である。従って実施例5は酸化物が認められるものの、一般的なガス浸炭法よりも粒界酸化はかなり少ないものである。
【0050】
表1に示すように、実施例4に係る強脱炭処理については、脱炭性ガスを装入した炉内圧力は25KPaと高めであり、即ち、脱炭性ガスの量が多めであり、脱炭時間も60分とやや長めとし、強脱炭条件とした。このため表2に示すように、実施例4に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度(1.01質量%)は、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.77質量%)に近いものとなり、更に、ワークの平面部の表面ばかりかワークの角部の表面においてもセメンタイトが残留しておらず、良好であった。なお実施例4によれば、5μm程度の酸化物が認められ、粒界酸化が認められたが、前述同様に一般的なガス浸炭法に比較して粒界酸化は少ないと言える。
【0051】
表1に示すように、実施例3に係る強脱炭処理については、脱炭性ガスを装入した炉内圧力は20KPaと高めであり、即ち、脱炭性ガスの量が比較的多めであり、脱炭時間も60分とやや長めとし、強脱炭条件とした。このため表2に示すように、実施例3に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度(1.07質量%)は、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.79質量%)に近いものとなり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留していないし、ワークの角部の表面においてはセメンタイトがほんの僅かに残留しているに過ぎず、良好であった。
【0052】
表1に示すように、実施例2に係る強脱炭処理については、脱炭性ガスを装入した炉内圧力は20KPaと高めであり、即ち、脱炭性ガスの量が比較的多めであり、脱炭時間は50分とやや長めとし、強脱炭条件とした。このため表2に示すように、実施例2に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度(1.26質量%)は、比較例1に比べて、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.81質量%)に近いものとなり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留していないし、ワークの角部の表面においてはセメンタイトが少量残留しているに過ぎず、良好であった。
【0053】
表1に示すように、実施例1に係る強脱炭処理については、脱炭性ガスを装入した炉内圧力は11KPaと実施例2〜実施例5に較べてやや低めであり、即ち、脱炭性ガスの量が比較的低めであるものの、脱炭時間を170分とかなり長めとし、やや強脱炭条件とした。このため表2に示すように、実施例1に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度は1.32質量%となり、ワークの平面部の表面の炭素濃度は0.64質量%となり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留していないし、ワークの角部の表面においてはセメンタイトが少量残留しているに過ぎず、良好であった。
【0054】
このように実施例1では、強脱炭処理であるものの、脱炭性ガスの濃度が実施例2〜実施例5に比較してやや低い(11KPa)ため、実施例に係る脱炭時間(170分)であれば、ワークの角部の表面においてはセメンタイトが少量であるものの残留してしまう。但し、この程度のセメンタイトであればワークの用途によっては支障がない。
【0055】
更に実施例3、実施例4については、表1に示すように、強脱炭処理の後で、強脱炭処理と同じ温度に維持しつつ、強脱炭処理よりも脱炭性ガスの分圧を低めとした弱脱炭処理を70分実行した。即ち、実施例3及び実施例4に係る弱脱炭処理においては、脱炭温度を1000℃に維持した状態で、脱炭性ガスとして機能する空気を炉内に10リットル(NL)/分の割合で導入しつつ炉内ガスをポンプで吸引し、所定の炉内圧力(実施例3では4KPa、実施例4では6KPa)に維持した。なお、この弱脱炭処理における脱炭性ガスの分圧は、前記した強脱炭処理に比較して1/10〜1/3の範囲内である。なお、弱脱炭処理における脱炭温度は実施例3、実施例4では同じ温度とされているが、弱脱炭処理における脱炭温度を強脱炭処理の脱炭温度よりも低めとしても良い。
【0056】
上記したように実施例3、実施例4によれば、強脱炭処理の後で弱脱炭処理を実行するため、最終製品のワークの角部のセメンタイトを除去しつつ、ワークの平面部の炭素濃度も高めに確保されるため、好ましいものである。
【0057】
なお、実施例5によれば、強脱炭処理のみであるため、ワークの角部の表面におけるセメンタイトを効果的に脱炭して除去できるものの、ワークの平面部の表面の炭素濃度の低下が比較的大きめとなる傾向がある。また弱脱炭処理のみとすれば、脱炭能力が低いため、ワークの角部の表面に残留するセメンタイトの量が課題となり易い。そこでワークの角部の表面におけるセメンタイトを除去しつつ、ワークの平面部の表面の炭素濃度の低下を抑えるためには、実施例3、実施例4のように強脱炭処理の後で弱脱炭処理を実行することが好ましいと考えられる。
【0058】
上記した各実施例を実施したワークについては、真空雰囲気(炉内圧力3Pa)で850℃で均熱処理された後に、油焼き入れされた。
【0059】
(パルス真空浸炭)
表1に示す比較例2はパルス浸炭に相当するものである。パルス浸炭は、浸炭処理の時間及び拡散処理の時間をそれぞれ通常の真空浸炭処理に比較して短時間とし、浸炭処理及び拡散処理を繰り返すものであり、一般的にはセメンタイトの発生を抑えるのに有利と言われている。
【0060】
比較例2はパルス浸炭に相当するものであり、表1に示すように、浸炭処理▲1▼を実行した後に、脱炭処理を含まない拡散処理▲3▼を実行する処理を1サイクルとし、このサイクルを実施例6と同様に7回連続的に繰り返した後に、本拡散処理(拡散温度1000℃、拡散時間20分、炉内圧力2Pa)を実行した。表2に示すように、比較例2に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度(1.06質量%)は、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.85質量%)に近くなり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留していないものの、ワークの角部の表面においてはセメンタイトが僅かに残留していた。
【0061】
また実施例6によれば、浸炭処理▲1▼を実行した後で、初期における脱炭処理▲2▼を含む拡散処理▲3▼を実行する処理(▲1▼▲2▼▲3▼)を第1サイクルとしている。そしてこの▲1▼▲2▼▲3▼からなる第1サイクルを7回連続的に繰り返した。その後、本拡散処理(拡散温度1000℃、拡散時間20分、炉内圧力2Pa)を実行した。この実施例6は従来のパルス浸炭の改良として位置づけうる。
【0062】
また実施例7は実施例6と基本的に同様である。実施例7によれば、浸炭処理▲1▼を実行した後で、初期における脱炭処理▲2▼を含む拡散処理▲3▼を実行する処理(▲1▼▲2▼▲3▼)を第11サイクルとしている。そしてこの▲1▼▲2▼▲3▼からなるサイクルを6回連続的に繰り返した。その後、実施例6に係る浸炭処理▲1▼を再び実行した後に、脱炭処理を実行せずに拡散処理(拡散温度1000℃、炉内圧力2Pa、拡散時間29分(15分+14分:(15分=実施例6の脱炭処理に相当する時間),,14分=実施例6の拡散処理に相当する時間)を実行した。その後実施例6と同様に本拡散処理(拡散温度1000℃、拡散時間20分、炉内圧力2Pa)を実行した。この実施例7は従来のパルス浸炭の改良として位置づけうる。
【0063】
表2に示すように、実施例6に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度は0.92質量%であり、比較例2よりも低めであり、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.83質量%)に近くなり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留しておらず、ワークの角部の表面においてもセメンタイトが残留しておらず、良好であった。また表2に示すように、実施例7に係る試験結果によれば、ワークの角部の表面の炭素濃度は0.93質量%であり、比較例2よりも低めであり、ワークの平面部の表面の炭素濃度(0.83質量%)に近くなり、更に、ワークの平面部の表面にセメンタイトが残留しておらず、ワークの角部の表面においてもセメンタイトが残留しておらず、良好であった。従って本発明方法はパルス浸炭にも有効であることがわかる。
【0064】
【表3】
【0065】
表3は実施例1A、2A、3Aを示す。実施例1A、2A、3Aは、浸炭処理を実行した後に拡散処理を実行するものの、拡散処理の全時間にわたり脱炭処理を行うものであり、拡散処理時間=脱炭処理時間となる。即ち、脱炭処理ではワークは高温領域に加熱されているため、ワークにおける拡散現象も生じているためである。
【0066】
表3に示すように、実施例1Aによれば、浸炭性ガスとしてアセチレンガスを用い、浸炭温度950℃で炉内圧力を3KPaとし、45分浸炭処理を実行した後に、脱炭性ガスとして空気を120リットル(NL)/分の割合で炉内に装入し、炉内圧力を20KPaとした。この脱炭処理は、浸炭性ガスを含んでいない空気を炉内に導入して脱炭しているため、強脱炭処理に相当する。
【0067】
このような実施例1Aを実施したワークの平面部の表面の炭素濃度は0.5質量%であり、ワークの角部の表面の炭素濃度は0.8質量%であり、角部におけるセメンタイトは無かった。脱炭処理が良好であったためである。なお脱炭性ガスとして空気を脱炭期に炉内に導入した場合には、空気は本来的には脱炭性ガスとして機能できるが、脱炭処理の開始直後には、浸炭処理において炉内に残留していたすすの影響を受けて、空気中の酸素がCOを生成するため、脱炭処理の開始直後には浸炭気味となるが、開始直後を経過すれば次第に脱炭ガスとして機能することなる。従って空気を炉内に導入するときには、脱炭を良好に行うためには、一般的には導入時間としては5分以上が好ましい。
【0068】
表3に示すように、実施例2Aによれば、浸炭温度950℃で炉内圧力を3KPaとし、45分浸炭処理を実行した後に、脱炭性ガスとして二酸化酸素ガス(CO2)と浸炭性ガスであるプロパンガス(C3H8)とを混合した混合ガスを34.8リットル(NL)/分の割合で炉内に装入し、炉内圧力を30KPaとした。この脱炭処理は、浸炭性ガスを含んでいる脱炭性ガスを炉内に導入して脱炭しているため、弱脱炭処理に相当する。
【0069】
上記した場合、二酸化酸素ガス(CO2)とプロパンガス(C3H8)との混合比は、体積比で、表3に示すように、二酸化酸素ガス:プロパンガス=33:4.2とした。即ち、二酸化酸素ガスを33リットル(NL)/分で炉内に供給し、プロパンガスを4.2リットル(NL)/分で炉内に供給している。換言すれば、上記した混合ガスにおいて、脱炭性ガスである二酸化酸素ガス(CO2)は、浸炭性ガスであるプロパンガス(C3H8)よりもリッチとされている。
【0070】
このような実施例2Aを実施したワークの平面部の表面の炭素濃度は0.8質量%であり、ワークの角部の表面の炭素濃度は0.9質量%であり、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とは接近しており、更に、ワークの平面部ばかりか、ワークの角部においてもセメンタイトは無かった。
【0071】
このように実施例2Aにおいてワークの表面の炭素濃度と角部の炭素濃度とが接近している理由としては、混合ガスのカーボンポテンシャル(Cp値)を0.7〜0.8程度となるように、脱炭性ガスである二酸化酸素ガス(CO2)と浸炭性ガスであるプロパンガス(C3H8)とを所定の混合比で混合した混合ガスを脱炭期に導入しているため、ワークの平面部の上記Cp値よりも低い炭素濃度が増加してCp値に近づき、且つ、ワークの角部の上記Cp値よりも高い炭素濃度が減少してCp値に近づき、結果として、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とが近づくためと推察される。
【0072】
従って、脱炭性ガスである二酸化酸素ガス(CO2)と浸炭性ガスであるプロパンガス(C3H8)とを混合した混合ガスを脱炭期に導入し、カーボンポテンシャル(Cp値)を所定の目標炭素濃度に設定すれば、ワークの平面部の上記目標炭素濃度よりも低い炭素濃度(例えば0.75質量%)が増加して目標炭素濃度(例えば0.8質量%)に近づき、且つ、ワークの角部の上記目標炭素濃度よりも高い炭素濃度(例えば0.9質量%)が減少して目標炭素濃度(例えば0.8質量%)に近づき、結果として、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度との双方がそれぞれ目標炭素濃度(例えば0.8質量%)に近づくためと推察される。
【0073】
表3に示すように、実施例3Aによれば、浸炭温度950℃で炉内圧力を3KPaとし、45分浸炭処理を実行した後に、脱炭処理として条件1Aで強脱炭処理を15分行い、その後に直ちに、条件2Aで弱脱炭処理を35分行なった。条件1Aは、脱炭性ガスとして空気を120リットル(NL)/分の割合で炉内に装入し、炉内圧力を20KPaとするものである。条件2Aは、脱炭性ガスとして二酸化酸素ガス(CO2)とプロパンガス(C3H8)とを混合した混合ガスを37.2リットル(NL)/分の割合で炉内に装入し、炉内圧力を30KPaとするものである。
【0074】
このように強脱炭処理の直後に弱脱炭処理を行なう実施例3Aを実施すれば、表3に示すように、ワークの表面の炭素濃度は0.8質量%となり、角部の炭素濃度は0.83質量%となり、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とはかなり接近しており、更に、ワークの平面部ばかりか、ワークの角部においてもセメンタイトは無かった。
【0075】
このように実施例3Aにおいてワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とが近づいている理由としては、前述同様に、脱炭性ガスである二酸化酸素ガス(CO2)と浸炭性ガスであるプロパンガス(C3H8)とを所定の混合比で混合した混合ガスにおいてカーボンポテンシャル(Cp値)を0.7〜0.9程度となるように制御できると推察されるため、ワークの平面部の上記Cp値よりも低い炭素濃度が増加してCp値に近づき、且つ、ワークの角部の上記Cp値よりも高い炭素濃度が減少してCp値に近づき、結果として、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とが近づくためと推察される。なお、実施例1A、2A、3Aを実施したワークについては、前述同様な条件で均熱処理された後に、油焼き入れされる。
【0076】
(その他)その他、本発明方法は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る真空浸炭方法によれば、生産時間の短縮を図りつつ、ワークの角部におけるセメンタイトを低減または除去できる。
【0078】
次の形態の場合には、特有の効果が認められる。浸炭処理を実行した後に、初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行する処理を1サイクルとし、このサイクルを複数回連続的に繰り返す場合には、前述したように、ワークの角部におけるセメンタイトの低減または除去に一層有利である。
【0079】
脱炭処理における炉内圧力(真空度)を40KPa以下に設定した場合には、酸素分圧が低下しているため、ワークにおける粒界酸化を抑制するのに有利である。更に脱炭処理が、脱炭能力が相対的に強い強脱炭処理と、強脱炭処理後に行われ脱炭能力が強脱炭処理よりも相対的に弱い弱脱炭処理との組み合わせで構成されている場合には、前述したように、ワークの平面部の表面の炭素濃度を確保しつつ、ワークの角部の表面におけるセメンタイトを低減または除去するのに有利である。
【0080】
脱炭処理は、脱炭性ガスと浸炭性ガスとを含む混合ガスで脱炭作用を抑制しつつ実行される場合には、前述したように、ワークの平面部の表面の炭素濃度とワークの角部の表面の炭素濃度とを近づけることができ、高品質化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】炉を模式的に示す構成図である。
【図2】温度の変化の形態を模式的に示すグラフである。
【図3】真空浸炭直後におけるワークの表面付近の炭素濃度を模式的に示すグラフである。
【符号の説明】
図中、100はワークの平面部を示し、102はワークの角部、200は炉を示す。
Claims (6)
- 減圧雰囲気及び浸炭可能温度以上の高温に保持される炉内に浸炭性ガスを導入して炉内の鉄系のワークに対して浸炭処理を実行し、
その後、炉内を排気して減圧雰囲気において加熱保持することにより炉内の前記ワークに対して拡散処理を実行する真空浸炭方法において、
前記拡散処理のうちの少なくとも初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内の前記ワークの表面に脱炭処理を行い、前記ワークの表面のセメンタイトを減少または除去することを特徴とする真空浸炭方法。 - 請求項1において、前記浸炭処理を実行し、前記初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行するサイクルを第1サイクルとし、前記第1サイクルを複数回連続的に繰り返す工程を含むことを特徴とする真空浸炭方法。
- 請求項1において、前記浸炭処理を実行し、前記初期における脱炭処理を含む拡散処理を実行するサイクルを第1サイクルとし、且つ、前記浸炭処理を実行し、前記脱炭処理を含まない拡散処理を実行するサイクルを第2サイクルとしたとき、
前記第1サイクルを複数回連続的に繰り返し、前記第1サイクルの繰り返しの終了後、あるいは、前記複数回の第1サイクルの繰り返し途中において前記第1サイクルと前記第1サイクルとの間において、前記第2サイクルを実行する工程を含むことを特徴とする真空浸炭方法。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一項において、前記脱炭処理における減圧度を40KPa以下に設定することを特徴とする真空浸炭方法。
- 請求項1〜請求項4のいずれか一項において、前記脱炭処理は、脱炭条件が相対的に強い強脱炭処理と、前記強脱炭処理後に行われ脱炭条件が前記強脱炭処理よりも相対的に弱い弱脱炭処理との組み合わせてで構成されていることを特徴とする真空浸炭方法。
- 請求項1〜請求項5のいずれか一項において、前記脱炭処理のうちの少なくとも一時期は、脱炭性ガスと浸炭性ガスとを含む混合ガスで脱炭作用を抑制しつつ実行されることを特徴とする真空浸炭方法。
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