JP2004106411A - 装飾用化粧シート - Google Patents
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Abstract
【課題】平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めない化粧シートを提供すること。
【解決手段】柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであって、前記柔軟ポリエステルが、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルを主たる構成成分とするポリエステルであり、これを溶融成形して得られる未延伸シ−トの弾性率が1500MPa以下、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつ前記シ−トのヘイズ(100μm換算)が15%以下であるポリエステルであることを特徴とする装飾用化粧シート。
【解決手段】柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであって、前記柔軟ポリエステルが、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルを主たる構成成分とするポリエステルであり、これを溶融成形して得られる未延伸シ−トの弾性率が1500MPa以下、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつ前記シ−トのヘイズ(100μm換算)が15%以下であるポリエステルであることを特徴とする装飾用化粧シート。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、住宅等の建築物の内外装材や、建具等の建築資材、家具什器類、住設機器や家電製品等の表面化粧、バスや電車などの車体あるいは航空機の機体などの広告媒体に使用するための化粧シートに関するものである。さらにに詳しくは、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガスやダイオキシン等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めない化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、消費者の嗜好の高度化・多様化によって、各種の複雑な立体形状の化粧部材に対する需要が高まっている。かかる立体形状の化粧材としては、例えば合板やパーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の基材の表面に化粧シートを貼着して得た化粧板に、Vカット加工等の折り曲げ加工を施したものや、表面に凹凸形状を有する柱状基材の表面に沿って、化粧シートを巻き付けつつ貼着する、ラッピング加工を施したものなどがある。
【0003】
しかし、これらの手法による限り、製造可能な立体形状の範囲は、平面状に展開可能な形状に限定され、さらに複雑な三次元立体形状には対応することができない。そこで、複雑な三次元立体形状に成形した各種の基材の表面に、熱成形性に優れた熱可塑性樹脂製の化粧シートを、真空成形法(圧空成形法、真空圧空成形法を含む)により立体成形すると同時に貼着する手法も、既に広く採用されている。そして、近年の消費者の嗜好の更なる高度化・多様化によって、ますます複雑な三次元立体形状の化粧部材に対する需要が高まっており、より厳しい成形条件に堪え得る化粧シートの開発が、ますます強く要求されるようになっている。
ところで、従来、一般的な熱可塑性樹脂製の化粧シートを構成する熱可塑性樹脂としては、安価で加工性や各種物性にも優れたポリ塩化ビニル樹脂が最も多く使用されて来た。ところが、近年になって、環境問題に対する社会的な関心の高まりを受けて、燃焼時に塩化水素ガスやダイオキシン等の有害物質を発生するおそれのあるポリ塩化ビニル樹脂が敬遠される様になっており、環境への悪影響の少ない非塩素系の樹脂を使用した化粧シートが強く要請される様になっている。
【0004】
このような欠点があるポリ塩化ビニル樹脂の代替材料として、例えば熱可塑性オレフィン系樹脂を使用した化粧シートなどが開示されている。
例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用した化粧シートが開示されている(例えば、特許文献1参照)が、このような柔軟性のあるオレフィン系化粧シートは、上記した問題点は確かに解決出来たものの、シートが本質的に柔軟である為に、基材への貼着時のシワ発生のための外観不良、真空成形時の加熱によりシートが軟化し過ぎる為のドローダウンや成形ムラ等の外観不良等が発生し易いという問題点があった。
【0005】
これに対し、ポリプロピレン等の樹脂に軟質モノマーとの共重合やエラストマー等の軟質成分の配合などにより柔軟性を付与する試みも各種なされているが、これらは耐熱性や表面の耐傷付き性などに劣る問題があった。この様にして、結果的には、熱可塑性オレフィン系樹脂のみを使用した化粧シートでは、必要な諸物性を全て満足したものは得られていないのが実情である。
【0006】
また、ポリオレフィン樹脂に水素添加ジエン系ゴムを添加した化粧シート(例えば、特許文献2参照)が、軟質ポリプロピレン樹脂を主体とした化粧シート(例えば、特許文献3参照)が、また沸騰ヘプタン可溶性ポリプロピレンと沸騰ヘプタン不溶性ポリプロピレンとからなる軟質ポリプロピレン樹脂組成物からの化粧シート(例えば、特許文献4)が開示されている。しかしながら、このようにして柔軟性を付与したオレフィン系化粧シートは、上記した問題点は確かに解決出来たものの、前記と同様にシートが本質的に柔軟である為に、基材への貼着時のシワ発生のための外観不良、真空成形時の加熱によりシートが軟化し過ぎる為のドローダウンや成形ムラ等の外観不良等が発生し易いという問題点や表面の耐傷付き性や耐摩耗性、耐溶剤性等の各種表面物性にも劣る等の問題点があった。
【0007】
また、非晶質ポリエステル系樹脂からなる基材シート上に熱可塑性オレフィン系樹脂からなる透明樹脂層有する化粧シートが開示されている(例えば、特許文献5参照)。ところが、前記化粧シートは、基材シートに使用した、通称A−PETと称する非晶PETや通称PET−Gとして市販されている非結晶性のシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂などの非晶質ポリエステル系樹脂の耐溶剤性や耐熱性が低いために、溶剤系の印刷インキを比較的厚く全面的に印刷する場合には、基材シートが印刷インキ中の溶剤に侵されて結晶化白化したり、表面の艶ムラや色調ムラ等を発生したり、また柔軟性が不足するために、折り曲げ加工や真空成形加工を行った際に、白化や亀裂、破断、ネッキング等を発生し易いという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】
特開平6−16832号公報
【特許文献2】
特開平9−300554号公報
【特許文献3】
特開平9−328562号公報
【特許文献4】
特開平10−17679号公報
【特許文献5】
特開2000−301673号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点に着目し、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めない化粧シートを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の装飾用化粧シートは、柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであって、前記柔軟ポリエステルが、共重合ポリエステルを主たる構成成分とするポリエステルであり、これを溶融成形して得られる未延伸シ−トの弾性率が1500MPa以下、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつ前記シ−トのヘイズ(100μm換算)が15%以下であるポリエステルであることを特徴とする装飾用化粧シートである。
【0011】
なお、本発明でいう印刷層とは、柔軟ポリエステル基材シートの全表面に印刷した層はもちろん、基材シート表面の一部に絵柄を印刷した層も含む。
この場合において、前記ポリエステルがハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであり、前記ポリエステルが、そのハ−ドセグメントを構成するジカルボン酸成分の少なくとも70モル%以上が、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)の少なくとも1種以上であるポリエステルであることができる。
【0012】
この場合において、前記ポリエステルが、そのハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、1,4−テトラメチレングリコ−ル(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成する全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であるポリエステルであることができる。
【0013】
この場合において、前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族ジカルボン酸、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族グリコ−ル、数平均分子量が500〜4,000であるポリアルキレンオキシドグリコ−ルの少なくとも1種以上であるポリエステルであることができる。
【0014】
この場合において、前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、ダイマ−ジオ−ル(DDO)であり、かつポリエステルの全グリコ−ル成分に対するDDOの組成比が1〜60モル%であるポリエステルであることができる。
【0015】
この場合において、前記ポリエステルが、周期律表第I−a属または第II−a属の金属元素を有する金属塩化合物を、ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0重量%含有してなるポリエステルであることができる。
【0016】
またこの場合のおいて、前記印刷層の上に保護層を設けてなることを特徴とする装飾用化粧シートである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の装飾用化粧シートの実施の形態を具体的に説明する。
本発明の装飾用化粧シートは、次に説明する柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであり、その用途から要求される特性に応じて、印刷層の上に保護層を設けたり、またその上にトップコート層を設けたりすることも出来る。
【0018】
[柔軟ポリエステル]
本発明に係る柔軟ポリエステルは、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルを主たる構成成分とする柔軟ポリエステルである。共重合ポリエステルとしては、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。ハ−ドセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的は、ポリエステルにブロッキング性と透明性とを付与することにある。一方、ソフトセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的はポリエステルに柔軟性を付与することにある。
【0019】
本発明に係る柔軟ポリエステルは、柔軟ポリエステルを溶融成形して未延伸シ−トとした際の弾性率が1500MPa以下であることから、柔軟性に優れている。
【0020】
また、本発明に係る柔軟ポリエステルは、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上であるため、ハンドリング性に優れている。さらに、該柔軟ポリエステルを溶融成形した未延伸シ−トのヘイズが、シート厚み100μm換算で15%以下であるため、透明性に優れている。
【0021】
(ハ−ドセグメント)
透明性、柔軟性、ハンドリング性の3つの性能をいずれも兼備する柔軟ポリエステルを開発するにあたって、最も困難な技術課題は透明性とハンドリング性の両立である。そのためには、ソフトセグメントを拘束するハ−ドセグメントの設計が重要である。
【0022】
結晶の観点からは、透明性とハンドリング性とは二律背反する特性である。なぜなら、結晶化の進行とともに透明性は悪くなるのに対し、ハンドリング性は逆に向上する。すなわち、透明性とハンドリング性という相反する特性をいかに両立させるかが、本発明における最も重要な技術課題である。
【0023】
一般に、結晶化速度の遅いPETは成形時に、溶融状態から急冷して過冷却状態(アモルファス)にすると、透明な成形体が得られる。ところが、得られた成形体をTg以上の温度下で放置すると結晶化が進行し白化する。この現象は、結晶化の進行とともに結晶が成長した結果である。従って、透明性を良好にする為には、結晶のサイズを限りなく小さくすること、つまり微結晶とする必要がある。
一方、ハンドリング性、つまり、レジン乾燥時のブロッキングや成形・加工時の金型やロ−ラ−からの解離性、さらには成形体同士の接着等は、結晶サイズとは無関係に、結晶化の度合、換言すれば結晶化度によって支配される。結晶化度は、結晶の数と結晶サイズの積で定義される。
【0024】
以上のことから、結晶相でのハ−ドセグメントを構成する場合、透明性の観点から、結晶のサイズを微結晶とすること、かつ、結晶化度に支配されるハンドリングの観点からは、微結晶の数を多くすること、の2要件が必要不可欠である。そのためには、ハ−ドセグメントを構成するポリマ−構造の選択が非常に重要である。
【0025】
一般に、ポリエステルは、ポリマ−構造によって結晶性が大きく異なる。例えば、代表的なPETとPBTではその結晶性が大きく異なり、PBTは結晶化速度が非常に速い。結晶相に求められる性質としては、透明性とハンドリング性の両立の観点から、微結晶でしかも数が多いことである。
【0026】
これらの要件を満足できるポリエステルの組成としては、例えば、下記の2つの条件を満たすハ−ドセグメントを用いることにより、透明性とハンドリング性の両立を兼備したポリエステルが得られる。
【0027】
(1)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのグリコ−ル成分として、1,4−テトラメチレングリコール(TMG)及びエチレングリコール(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成するポリエステルの全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であること。
(2)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)から選ばれた少なくとも1種を70モル%以上含有すること。
【0028】
前記2条件を充足しない場合は、結晶が微結晶とはならず白化して透明性が無くなったり、軟化点が低下して接着性が増し、レジンの乾燥時や成形時のハンドリング性が悪くなるなど、実用的価値が無くなる場合がある。
【0029】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルの組成は、グリコ−ル成分として、TMG/EGが23〜94モル%/77〜6モル%であることがさらに好ましく、特に好ましくはTMG/EGが25〜93モル%/75〜7モル%である。一方、ジカルボン酸成分として、TPA、NDA、BPAから選ばれた少なくとも1種が75モル%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0030】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルは、前記ジカルボン酸以外に、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸、またグリコ−ル成分としては、1,3−トリメチレングリコ−ル、1,5−ペンタメチレングリコ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサメチレンジメタノ−ル、等のグリコ−ルを共重合成分として使用することも可能である。
【0031】
さらに、微結晶化に対しては、金属塩化合物を結晶化促進剤として併用することが有効であり、透明性の点からさらに好ましい。
【0032】
特に、本発明に係る柔軟ポリエステルに対しては、周期律表第I−a属、または第II−a属に属する金属元素を有する金属塩化合物が好ましい。なかでも、脂肪族カルボン酸あるいはリン化合物のLi、Na、K、Ca塩が好ましい。
【0033】
金属塩化合物の含有量はポリエステルの組成によっても異なるが、ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0重量%を含有させることが効果的である。ポリエステルに対する金属塩化合物の含有量が0.5重量%未満では結晶化促進効果が小さく、逆に5.0重量%を越えるとポリエステルへの分散性が悪くなるばかりでなく、成形性の悪化や物性低下が著しい。金属塩化合物の含有量は、下限値がポリエステルに対して0.8重量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは1.0重量%である。また、金属塩化合物の含有量は、上限値がポリエステルに対して4.5重量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは4.0重量%である。
【0034】
(ソフトセグメント)
ソフトセグメントはポリエステルに柔軟性を付与するために不可欠であり、エントロピ−弾性を有することが重要である。好適なソフト成分としては、ポリアレキレンオキシドグリコ−ル、脂肪族ポリエステル、長鎖脂肪族ジカルボン酸、長鎖脂肪族グリコ−ル等が挙げられる。
【0035】
ソフト成分として、長鎖脂肪族ジカルボン酸や長鎖脂肪族グリコ−ルを用いた場合には、数平均分子量が100未満では充分な柔軟性が得られにくい。一方、数平均分子量が1,000を越えると、ハ−ドセグメントとの相溶性が悪くなり透明性が低下しやすくなる。また、ポリアルキレンオキシドグリコ−ルを用いた場合は、数平均分子量の範囲が500未満、または4,000を越える場合には、いずれも目的とする柔軟ポリエステルとならない。
【0036】
本発明において、柔軟ポリエステルのソフト成分としては、長鎖脂肪族グリコ−ルであるダイマージオール(DDO)が透明性の点から最も有効である。DDOの組成比は、所望する柔軟性によって異なるが、ポリエステルの全グリコール成分に対して1〜60モル%が好ましく、より好ましくは2〜58モル%であり、特に好ましくは3〜55モル%である。DDOの組成比が1モル%未満では、柔軟性が不十分となり硬くなる。一方、60モル%を超えると、Tgが低くなり過ぎて、成形・加工性やハンドリング性が悪化しやすくなる。
【0037】
(柔軟ポリエステルの重合)
柔軟ポリエステルの重合方法は、従来公知の方法が適用できる。例えば、芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステルと、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオールなどのジオールとのエステル化反応またはエステル交換反応により低分子量体を生成する初期反応と、この低分子量体を重縮合させ高分子量とする後期反応によって製造する方法が最も一般的である。
【0038】
柔軟ポリエステルの製造には、エステル交換触媒として、従来公知のチタン、亜鉛、マンガン、コバルト、鉛、カルシウム、マグネシウムなどの金属化合物を適用することができる。また重縮合触媒としては、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズ等の金属化合物を適用することができる。これらの触媒以外に、熱酸化安定剤やリン化合物の添加もまた可能である。
【0039】
(金属塩化合物の溶融混合)
金属塩化合物のポリエステルへの混合は、一軸押出機、二軸押出機、あるいは成形加工時のポリエステルへの溶融工程への添加等によって行うことができる。一例として、二軸押出機を使用して金属塩化合物をポリエステルへ混合する場合について述べる。
【0040】
金属塩化合物の混合には、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−37BS)を使用する。混合時の樹脂温度250℃、スクリュー回転数100rpm、ベント真空度1〜5hPa、フィ−ド量15kg/hrの条件で金属塩化合物をポリエステルに均一混合した後ストランド状に押出し、水冷下チップ状にカッティングする。また、金属塩化合物の混合時に、紫外線吸収剤や透明性に悪影響のない顔料等も同時にブレンドすることも可能である。
【0041】
(柔軟ポリエステルの特性値)
本発明に係る柔軟ポリエステルの特徴を弾性率、結晶化指数Xc、ヘイズという特性値を用いて表現している。本発明の化粧シートの基材は、成形後、冷却するだけでも、特に加熱結晶化処理をすることなく、弾性率、結晶化指数Xc、ヘイズという特性値を満たす。
弾性率は、柔軟ポリエステルの柔軟性を表す指標である。柔軟性は、例えば、ハ−ドセグメントの構造、使用するソフトセグメントの種類や量によって制御することができる。弾性率は、その値が大きくなるとともに硬く、逆に小さくなるとともに柔らかくなる。一般的に、柔軟ポリエステルはシ−トとした際の弾性率を1500MPa以下とすることで柔軟性を示すが、好ましくは1200MPa以下であり、特に好ましくは1100MPa以下である。一方、弾性率の下限値は成形性の点から10MPaであることが好ましく、さらに好ましくは11MPaであり、特に好ましくは12MPaである。
【0042】
弾性率が1500MPaを越えると、柔軟性が不十分なために加工適性に劣り、基材シート基材が被貼着基材表面の三次元立体形状に完全に追従できないために成形不良や形状不良、割れ、成形後に残留する応力による経時剥離等の原因となり易く問題である。また弾性率が10MPa未満であると、得られた基材シートが本質的に柔軟である為に、被貼着基材への貼着時にシワが発生して外観不良となるなど問題点が発生するばかりでなく、取り扱い難くなり、実用的でない。さらに、ソフトセグメントの組成比が高くなるので、コスト的にも不利になる。
【0043】
結晶化指数Xcは、微結晶化の度合いを示す尺度であり、ハンドリング性、印刷時の溶剤白化や加熱処理時の白化に対して重要な指標である。Xcは、例えば、ハ−ドセグメントの構造によって制御することができる。ハンドリング性や白化の点からは、Xcは大きければ大きいほどよく、5%以上とすることが必要であり、好ましくは6%以上であり、特に好ましくは7%以上である。一方、結晶化指数Xcが55%を越えるようにすることはポリマー構造の面で技術的に困難である。結晶化指数Xcが55%以下であっても5%以上あれば一般的には十分なハンドリング性を有しているので、結晶化指数Xcを積極的に55%を越えるようにすることは技術的な困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0044】
本発明の装飾用化粧シートにおいては、被貼着基材の表面の質感や形状を活かすためには、これを構成する柔軟性ポリエステルシートの透明性は高い程好ましい。したがって、柔軟性ポリエステルシートのヘイズは低い程好ましい。ヘイズは、柔軟ポリエステル基材シートの透明性を表す指標である。ヘイズは小さければ小さいほど透明性に優れ、厚み100μmのシ−トとした際に15%以下とすることが重要であり、好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。ヘイズが15%を超えると、白化が著しく、被貼着基材の表面の質感や形状を活かす用途には使用できなくなる。一方、ヘイズの下限は0.1%とすることが好ましい。ヘイズを0.1%未満としても目視評価による透明性に大きな差異がなく、ヘイズを積極的に0.1%未満とすることは技術的困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0045】
さらに、ヘイズは本発明にある金属塩化合物を含有させることによってさらに改善され、透明性が一層良好となる。金属塩化合物の含有によるヘイズの改善効果は、金属塩化合物を含有しない場合のヘイズと比較して、0.2%以上小さくなることが好ましい。ヘイズの改善効果が0.2%以下では、視覚的にみて透明性に殆ど差は見られない。好ましいヘイズの改善効果は、0.3%以上、特に好ましくは0.4%以上である。
【0046】
一般的に、柔軟性を有するポリエステルのTgは常温以下であり、Tgが高くなると通常の使用条件では柔軟性が不十分となる。本発明に係る透明柔軟ポリエステルもTgは低い。このため、溶融成形によって得られた成形体は、成形直後は透明であってもTg以上の雰囲気下に放置しておくと、結晶が徐々に成長し白化のため透明性が悪化することがある。この現象は、溶融状態から急冷することによって、過冷却状態(アモルファス状態)にあったものが、Tg以上の温度雰囲気下で結晶化が進行したことを意味する。
【0047】
ところが、本発明に係る柔軟ポリエステルは、これを溶融状態から急冷して得られる成形体が、この冷却過程で既に微結晶化しているため、Tg以上の温度雰囲気下で放置しても、もはや結晶が成長することはなく、白化しない。
【0048】
本発明の装飾用化粧シートは、前述のように溶融後急冷することのみでも微細結晶化が可能であるため、シート製造に加熱結晶化工程を省略することができ、生産性が高くなる。さらには、高熱環境下に放置しても、その高い透明性が低下することがない、可塑剤フリーであり、印刷絵柄が可塑剤で滲んだり、接着強度低下がない、他のものと接触した場合に可塑剤の移行がない、などのメリットがあり、様々な環境下で好適に用いることができる。
【0049】
また本発明に係る柔軟ポリエステルには、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、安定剤、帯電防止剤、顔料などの各種の添加剤を本発明の目的とする特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0050】
[柔軟ポリエステルからなる基材シート]
本発明に係る柔軟ポリエステル製基材シートは、柔軟ポリエステルを乾燥後、押出機より溶融押出して、T型口金あるいは円型口金等を用いてシート状または円筒状に口金より吐出させ、冷却ロールまたは、水等の冷媒中に導いて固化させて基材シートを得る。通常押出温度は融点+10〜融点+80℃の温度範囲であり、また、冷却温度は5〜90℃の範囲、好ましくは10〜50℃の範囲である。
基材シートの厚さには特に制限はなく、従来の同種の化粧シートにおけるそれと同様の厚さのものを使用することができる。但し、あまり薄過ぎると印刷加工時や被貼着基材へのラミネート時等に破断し易く、一方あまり厚すぎても折り曲げ加工性や真空成形性が損なわれ、不経済でもあるので、一般的には20〜800μm程度の範囲内とするのが良く、中でも50〜600μm程度の範囲内とすることが最も望ましい。
【0051】
本発明に係る柔軟ポリエステル基材シートには、その他のポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を本発明の目的とする特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0052】
特に、目的とする化粧シートに被貼着基材の表面に対する隠蔽性が要求される場合には、基材シートを構成する前記柔軟ポリエステルに着色剤を添加して着色し、隠蔽力を向上させることが望ましい。着色剤としては、例えば有機又は無機の染料又は顔料等が挙げられるが、隠蔽力の観点からは無機顔料を少なくとも使用することが望ましい。
【0053】
具体的には、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛等の白色無機顔料や、酸化鉄(弁柄、黄色酸化鉄、鉄黒)、酸化クロム、コバルトブルー、カーボンブラック等の有色無機顔料、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料、酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料等を挙げることができる。勿論、色彩調整を目的として、例えばフタロシアニン系顔料等の耐候性に優れた有機顔料を併用することは差し支えない。また、必要に応じて、例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の顔料を併用することもできる。
【0054】
その他の添加剤として、酸化防止剤としては例えばフェノール系、硫黄系、リン系等、紫外線吸収剤としては例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ホルムアミジン系、オキザニリド系等、光安定剤としては例えばヒンダードアミン系、ニッケル錯体系等、熱安定剤としては例えばヒンダードフェノール系、硫黄系、ヒドラジン系等、可塑剤としては例えばフタル酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、オキシ安息香酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系等、滑剤としては例えば脂肪酸エステル系、脂肪酸系、金属石鹸系、脂肪酸アミド系、高級アルコール系、パラフィン系、シリコーン系等、帯電防止剤としては例えばカチオン系、アニオン系、ノニオン系、両イオン系等、難燃剤としては例えば臭素系、リン系、塩素系、窒素系、アルミニウム系、アンチモン系、マグネシウム系、硼素系、ジルコニウム系等、充填剤としては例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、カオリン、マイカ等から選ばれる1種又は2種以上の混合系で使用される。
【0055】
[印刷層]
本発明の装飾用化粧シートには、所望の絵や文字などを表示して意匠性を付与したり広告宣伝を目的とするために印刷層が設けられる。その絵柄の種類には特に制限はなく、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字又は記号、若しくはそれらの2種以上の組み合わせ等や、単色無地であっても良く、要するに、目的の化粧シートの用途に応じて任意の所望の絵柄を採用することができる。
【0056】
印刷層の構成材料や形成方法には特に制限はなく、従来より化粧シートの印刷層に使用されて来た任意の画像形成材料や画像形成方法を適宜適用することができる。
【0057】
具体的には例えば、染料又は顔料等の着色剤を、適当な結着剤樹脂と共に、適当な溶剤中に溶解又は分散してなる印刷インキ又は塗料等を使用することができる。但し、本発明の化粧シートをVカット加工、ラッピング加工又は真空成形加工等の折り曲げ乃至立体成形加工に使用する場合には、印刷層の構成材料としても折り曲げ時や立体成形時の変形に追従可能な柔軟性を有する材料を選択する必要がある。
【0058】
前記着色剤としては、例えばカーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料、酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料、その他蛍光顔料、夜光顔料等、又はこれらから選ばれる2種以上の混合物等を使用することができる。
【0059】
また、前記結着剤樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、又はそれらの2種以上の混合物等を使用することができる。
【0060】
また、前記溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤や、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤等の各種有機溶剤や、水等の無機溶剤、又はそれらの2種以上の混合物等を使用することができる。
【0061】
その他、必要に応じて例えば体質顔料や可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、安定剤、硬化剤、硬化促進剤又は硬化遅延剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0062】
印刷層の形成方法には特に制限はなく、例えばグラビア印刷法やオフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の従来公知の印刷方法の他、全面ベタ状の場合には以上の各種印刷方法に加えて例えばロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、キスコート法、フローコート法、ディップコート法等の各種コーティング方法などを適用することもできる。
【0063】
なお、印刷層の形成に先立ち必要に応じて、被印刷面に例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、火炎処理、電離放射線処理、酸処理、アルカリ処理、アンカー又はプライマー処理等の表面処理を施しておくことによって、被印刷面に対する印刷層の密着性を向上することもできる。
また、印刷層を下記に説明する保護層に設け、これを接着剤層を介して柔軟ポリエステル基材シートに積層することも可能である。
【0064】
接着剤層に使用する接着剤の種類には特に制限はなく、柔軟ポリエステル基材シートと印刷インキ組成物からなる印刷層とを強固に接着可能な材質を接着方式に応じて適宜選択すれば良い。具体的には、例えばドライラミネート方式であればポリエステルポリウレタン系、ポリエーテルポリウレタン系等のドライラミネート接着剤、熱ラミネート方式であれば例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、塩素化ポリオレフィン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリビニルブチラール系等の感熱接着剤、ホットメルト方式であればエチレン−酢酸ビニル共重合体系、エチレン−アクリル酸エチル共重合体系、オレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等のホットメルト接着剤、押出ラミネート方式であればオレフィン系、カルボン酸変性オレフィン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、アイオノマー系等の熱可塑性樹脂接着剤などから、それぞれ1種又は2種以上の混合系を適宜選択して使用することができる。
【0065】
(保護層)
装飾用化粧シートの表面硬度、耐磨耗性、耐溶剤性、耐油性、耐高速剥離性などの諸特性を向上させるために印刷層の上に保護層が設けることができる。
保護層は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などから構成される層である。
【0066】
熱可塑性ポオレフィン系樹脂層を構成するオレフィン系樹脂の種類には特に制限はなく、例えば従来より同種の化粧シートの構成材料として使用されている任意の熱可塑性オレフィン系樹脂を使用することができる。具体的には、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン−1樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂等を始めとする種々の単独重合体や、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等のオレフィン系共重合体樹脂などを挙げることができる。形成方法は、ドライラミネート法、押出ラミネート法など公知の方法によることが出来る。
【0067】
アクリル系樹脂樹脂層を構成するアクリル系樹脂としては、たとえば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジグリシジルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸などから選ばれた少なくとも一種からなるアクリル系樹脂、あるいは、これらの単量体と、スチレン、ビニルトルエン、1−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビリニデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸アリル、アジピン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、マレイン酸ジエチル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソプレン、二重結合含有ポリエステル樹脂等から選ばれる少なくとも1種以上のエチレン性不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。
これらの樹脂は、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の官能基を含有、変性しても良い。
【0068】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単位を含有するアクリルは、水酸基は水酸基含有不飽和単量体を共重合して(メタ)アクリル酸エステル系樹脂に導入できる。水酸基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アリルアルコール、ホモアリルアルコール、ケイヒアルコール、クロトニルアルコール等の水酸基含有不飽和単量体、たとえば、エチレングリコール、エチレンオキサイド、プロピレングリコール、プロピレンオキサイド、ブチレングリコール、ブチレンオキサイド、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルデカノエート、プラクセルFM−1(ダイセル化学工業株式会社製)等の2価アルコールまたはエポキシ化合物と、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸との反応で得られる水酸基含有不飽和単量体等を挙げることができる。これらの水酸基含有不飽和単量体から選ばれる少なくとも1種以上を重合して水酸基含有有機樹脂を製造することができる。
【0069】
ポリウレタン系樹脂層を構成する樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂が挙げられる。ポリエステル系ウレタン樹脂しては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6ヘキサングリコール等のグリコール類とアジピン酸、イソフタール酸、テレフタール酸等の2塩基酸との重縮合反応によって得られるポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートの反応により得られる線状ブロック共重合体よりなる。
【0070】
保護層には、化粧シートの使用用途に応じて、硬化剤、効果促進剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、抗菌剤、防黴剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0071】
シートへの保護層の設置方法としては、基材シートとの共押出しする方法、保護層シート上に基材シートを押出し成形する方法、基材シート上に保護層を押出し成形する方法、保護層となるシート、フィルムを別途製造後、接着する方法、基材シート上に塗布する方法等が挙げられる。
【0072】
基材シートへの塗布方法としては、従来公知の浸漬法、スプレ−法、グラビヤコート法、ロールコート法等、従来公知の任意の塗工方法を適宜採用することができる。
【0073】
保護層の厚みは、具体的には、目的の化粧シートの用途やそれに応じた要求品質、使用する前記の熱可塑性オレフィン系樹脂などの種類等にもよるが、一般に2〜200μm程度の範囲から選ばれ、特に好ましい範囲は5〜150μm程度である。
【0074】
(トップコート層)
化粧シートの表面にさらに優れた表面物性を付与する目的で、印刷層や保護層の表面にトップコート層を設けることもできる。トップコート層の構成材料としては、従来よりかかる化粧シートのトップコート層の構成材料として使用されている公知のトップコート剤の中から選ばれる任意のものを使用することができる。一般的には、少なくとも下地を透視可能な透明性を有する必要があり、さらには化粧シートの用途により要求される耐摩耗性や耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性を満足するように選択することが必要である。
【0075】
上記トップコート層の構成材料として具体的には、例えばメラミン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂や、不飽和ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂等の、紫外線又は電子線の照射により硬化する電離放射線硬化性樹脂等を、好適に使用することができる。また必要に応じて、例えば艶調整剤、減摩剤、滑剤、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0076】
トップコート層の形成方法にも特に制限はなく、例えばグラビアコート法、ロールコート法、ディップコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、リップコート法、キスコート法、ロッドコート法、スプレーコート法、フローコート法等、従来公知の任意の塗工方法を適宜採用することができる。
トップコート層の厚みは、0.1〜10μmである。
【0077】
また、基材シートに絵柄を逆向きに印刷し、透明な基材を通して絵柄を観察する裏印刷の構成であっても良い。特に本発明の装飾用シートは高い透明性を有し、環境の変化により白化することがないため、裏印刷の構成にも好適に用いることができる。
【0078】
本発明の化粧シートは一般に、従来の化粧シートと同様、例えば単板、合板、集成材、中密度繊維板、パーティクルボード等の木質系基材や、石膏ボード、スレート板、珪酸カルシウム板、木毛セメント板、ガラス繊維強化コンクリート、軽量気泡コンクリート等の無機質系基材、鋼、真鍮、ステンレス、アルミニウム等の金属系基材、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等の合成樹脂系基材等の各種の被貼着基材の表面にラミネートして各種用途に使用されるものである。例えば、壁、天井、床等建築物の内装、外装、窓枠、扉、手摺等の建具の表面化粧、家具又は弱電・OA機器のキャビネットの表面化粧、自動車、電車等の車輛内装、外装、航空機内装、外装、窓硝子の化粧等である。
【0079】
これら被貼着基材との張り付けは前述したような各種接着剤を用いることができる。また、特に強度の要求されない場合、部分的に貼り付ける場合などは、感圧接着剤(粘着剤)を用いることができる。感圧接着剤としては、アクリル系、天然、合成ゴム系など公知のものを用いることができる。
【0080】
【実施例】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定させるものではない。なお、本明細書中における主な特性値の測定法や評価法を以下に説明する。
【0081】
(1)測定試料の作成
得られたレジンを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、以下の操作によって厚みが約100μmの未延伸シートを作成した。
平担な金属板の上に厚さ126μmカプトンフィルム(東レ・デュポン社製)、所望の型にくり抜いた金属製スペーサーの順に置き、さらに、その型が満たされるだけの樹脂ペレットを型に入れ、その上に再び同じカプトンフィルム、金属板の順に重ねた。これらを油圧プレス(神藤金属工業所社製、シンドー式F型)のプレス面に移し、融点よりも20〜30℃高い温度で4分間溶融後、同温度で9.8MPa(100kgf/cm2)で1分間プレスした。プレス後5秒以内にシートを氷水中に移し急冷した。急冷後、シート表面に付着した水を直ちに拭き取り、25℃のドライオーブン中にて24時間保管した。
【0082】
(2)弾性率、降伏強度、破断強度、及び破断伸度
ドライオーブン中で保管した測定用試料を室温下で30分間以上放置した後、ASTM−D638に準じて、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、RTC−1150A)を用い、測定温度23℃、試料長(チャック間距離)60mm、試料幅10mm、引張速度50mm/分、フルスケール2〜40kg、の条件下でシートの弾性率(MPa)、降伏強度(MPa)、破断強度(MPa)、及び破断伸度(%)を測定した。
【0083】
(3)結晶化指数Xc
試料を20mm×18mmの大きさに切り出し、広角X線回折用測定試料とした。X線回折の測定は、「X線解析の手引き 改訂第3版、84頁、1985.6.30発行、理学電機株式会社」に記載の方法に順じて下記に示す測定条件で、2θ−X線強度のプロファイルを反射法により求めた。
【0084】
【0085】
(結晶化指数Xcの定義)
結晶化指数Xcの定義を、図1を用いて説明する。
まず、X線測定で得られた2θ−X線強度のプロファイルの移動平均近似線(区間:30)を求めた。
縦軸のX線強度は、試料厚さ、粗さ等により変化するので、伸縮してもピ−ク高さの比率は変わらないとして、各移動平均近似線が2θ=13°におけるX線強度が250cpsとなるように、各値を1次変換した。次に、この移動平均近似線の2θが9°と35°における2点を結びベ−スラインCとし、2θが9°から35°までの範囲の移動平均近似線とベ−スラインで囲まれた面積Sを求めた。
【0086】
この際、ハ−ドセグメントのグリコ−ル成分がEG100モル%の時の散乱プロファイル(具体例として、下記試料A)を非晶構造由来とし、ソフトセグメントの組成比を一定にしたまま、ハ−ドセグメントのグリコ−ル組成を変化させた時の散乱プロファイル(具体例として、下記試料B)との差が結晶構造由来によるものとして、結晶化指数Xcを下記の如く定義した。
結晶化指数Xc(%)=((SBC−SAC)/SAC)×100
上式で、SACは非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示し、SBCは結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示す。
【0087】
(試料A、Bの作成)
実施例1で得た共重合ポリエステルを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、以下の方法によって厚みが約100μmの未延伸シート(試料B)を作成した。
また、実施例1において、ハードセグメントのグリコール成分をEG100モル%に変更したこと以外は前記試料Bの作成方法と同様にして厚みが約100μmの未延伸シート(試料A)を作成した。
【0088】
平担な金属板の上にカプトンフィルム(東レ・デュポン社製)、所望の型にくり抜いた金属製スペーサーの順に置き、さらに、その型が満たされるだけの樹脂ペレットを型に入れ、その上に再びカプトンフィルム、金属板の順に重ねた。これらを油圧プレス(神藤金属工業所社製、シンドー式F型)のプレス面に移し、融点よりも20〜30℃高い温度で4分間溶融後、同温度で9.8MPa(100kgf/cm2)で1分間プレスした。プレス後5秒以内にシートを氷水中に移し急冷した。急冷後、シート表面に付着した水を直ちに拭き取り、25℃のドライオーブン中にて24時間保管した。
【0089】
(4)ヘイズ
測定用試料を保管容器から取り出し室温下に放置した後、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、Model NDH2000)にて測定した。測定値は下記式により、シート厚み100μmのヘイズ値に換算した。
ヘイズ(%)= Hz(%)×100(μm)/A(μm)
ここで、Hz(%)は測定試料の実測ヘイズ値であり、Aは測定試料の実測厚み(μm)を示す。
【0090】
(5)還元粘度
還元粘度(ηsp/C)は試料0.1gを25mlのフェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0091】
(6)ポリエステルの融点
示差走査型熱量計(島津製作所(株)社製、DSC−50)、試料10mgをアルミ製のパンに充填し、窒素雰囲気下20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温し、同温度で3分間保持した後、アルミパンを液体窒素中に投じ急冷した。急冷したアルミパンを再度示差走査型熱量計にセットし、20℃/分の昇温速度で昇温した時に出現する吸熱ピークのピーク温度を融点とした。
【0092】
(9)融着性
基材シートを後記の(10)の方法で製膜し、製膜後重ね合わせて室温で放置し、一日放置後の剥離状態を次のように定性的に評価した。
○ : 融着せず、簡単に分離できる。
△ : 融着しているが、手で分離できる。
× : 融着して一体となり、分離不可能。
【0093】
(10)基材シートの製膜
得られた柔軟ポリエステルを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、ニ軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を使用して、樹脂温度は融点+40℃、スクリュー回転数150rpmで溶融し、T−ダイスより表面温度30℃のチルロール上に押出し、厚みが100μmの基材シートを得た。
【0094】
(11)化粧シートの作成
(10)で作成した基材シートの片面に印刷インキを使用してグラビア印刷法により絵柄を印刷した。この絵柄印刷済み基材シートに保護層としてランダム共重合ポリプロピレン樹脂製フイルムをドライラミネートし、装飾用化粧シートを作成した。
【0095】
(12)真空成形法による評価
得られた化粧シートを、予め表面に水性2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤を塗工して乾燥させた、曲率半径5Rの三次元立体形状を有する木質基材の表面に、真空成形機にてシート温度70℃の条件で三次元成形ラミネートし、成形不良、白化、ネッキング、などが発生しているか目視で判定した。
【0096】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート(DMT)84000重量部、EG 26000重量部、TMG38000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)10000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.82dl/g、融点189℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が18.5モル%、TMG成分が65.5モル%、DDO成分が16モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で1.1%、結晶化指数は25%、弾性率は1070MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で1.1%、結晶化指数は26%、弾性率は1070MPaであった。
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0097】
(実施例2)
ジメチルテレフタレート(DMT)68300重量部、EG 22700重量部、TMG30000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)30000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点171℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が18.5モル%、TMG成分が65.5モル%、DDO成分が16モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で0.8%、結晶化指数は30%、弾性率は190MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で0.9%、結晶化指数は31%、弾性率は190MPaであった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「○」で問題なかった。
【0098】
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0099】
(実施例3)
ジメチルテレフタレート(DMT)44000重量部、EG 4900重量部、TMG24000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)60000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点123℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が1モル%、TMG成分が49モル%、DDO成分が50モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で1.5%、結晶化指数は19%、弾性率は20MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で1.4%、結晶化指数は20%、弾性率は20MPaであった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「○」で問題なかった。
【0100】
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0101】
(比較例1)
ジメチルテレフタレート(DMT)65700重量部、EG 38900重量部、TMG 14100重量部、ダイマー酸(ユニケマ社製)14100重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点170℃のポリエステルを得た。ポリエステルの酸成分の組成は、DMT成分が84モル%、ダイマー酸成分が16モル%、グリコール成分の組成は、EG成分が72モル%、TMG成分が28モル%であった。
これを(1)の方法で評価用サンプルを作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で3.5%、結晶化指数は4%、弾性率は60MPaであった。さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で4.0%であった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「×」であった。
この基材シートを用いて(11)の方法で化粧シートを作成したが、ブロッキングが発生し、絵柄層の一部が損傷したことに加え、ドライラミネート時に層間に気泡が発生しており、実用に堪えるものではなかった。
【0102】
(比較例2)
厚さ100μmのA−PETシートを用いて(11)の方法で化粧シートを作成し、次いで(12)の方法で評価を行ったが、ネッキングや白化が発生し、また形状追従性が悪かった。
【0103】
【発明の効果】
本発明の化粧シートは、柔軟性、透明性に優れたポリエステルからなる基材シートから構成することにより、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶化指数Xcを定義するための説明図である。
【符号の説明】
A ハードセグメントのグリコール成分がEG100モル%の時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
B ソフトセグメントの組成比を一定にしたまま、ハードセグメントのグリコール組成を変化させた時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
C 移動平均近似線(AまたはB)の2θが9°と35°における2点を結んだベースライン
SAC 非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積
SBC 結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積
【発明の属する技術分野】
本発明は、住宅等の建築物の内外装材や、建具等の建築資材、家具什器類、住設機器や家電製品等の表面化粧、バスや電車などの車体あるいは航空機の機体などの広告媒体に使用するための化粧シートに関するものである。さらにに詳しくは、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガスやダイオキシン等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めない化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、消費者の嗜好の高度化・多様化によって、各種の複雑な立体形状の化粧部材に対する需要が高まっている。かかる立体形状の化粧材としては、例えば合板やパーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の基材の表面に化粧シートを貼着して得た化粧板に、Vカット加工等の折り曲げ加工を施したものや、表面に凹凸形状を有する柱状基材の表面に沿って、化粧シートを巻き付けつつ貼着する、ラッピング加工を施したものなどがある。
【0003】
しかし、これらの手法による限り、製造可能な立体形状の範囲は、平面状に展開可能な形状に限定され、さらに複雑な三次元立体形状には対応することができない。そこで、複雑な三次元立体形状に成形した各種の基材の表面に、熱成形性に優れた熱可塑性樹脂製の化粧シートを、真空成形法(圧空成形法、真空圧空成形法を含む)により立体成形すると同時に貼着する手法も、既に広く採用されている。そして、近年の消費者の嗜好の更なる高度化・多様化によって、ますます複雑な三次元立体形状の化粧部材に対する需要が高まっており、より厳しい成形条件に堪え得る化粧シートの開発が、ますます強く要求されるようになっている。
ところで、従来、一般的な熱可塑性樹脂製の化粧シートを構成する熱可塑性樹脂としては、安価で加工性や各種物性にも優れたポリ塩化ビニル樹脂が最も多く使用されて来た。ところが、近年になって、環境問題に対する社会的な関心の高まりを受けて、燃焼時に塩化水素ガスやダイオキシン等の有害物質を発生するおそれのあるポリ塩化ビニル樹脂が敬遠される様になっており、環境への悪影響の少ない非塩素系の樹脂を使用した化粧シートが強く要請される様になっている。
【0004】
このような欠点があるポリ塩化ビニル樹脂の代替材料として、例えば熱可塑性オレフィン系樹脂を使用した化粧シートなどが開示されている。
例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用した化粧シートが開示されている(例えば、特許文献1参照)が、このような柔軟性のあるオレフィン系化粧シートは、上記した問題点は確かに解決出来たものの、シートが本質的に柔軟である為に、基材への貼着時のシワ発生のための外観不良、真空成形時の加熱によりシートが軟化し過ぎる為のドローダウンや成形ムラ等の外観不良等が発生し易いという問題点があった。
【0005】
これに対し、ポリプロピレン等の樹脂に軟質モノマーとの共重合やエラストマー等の軟質成分の配合などにより柔軟性を付与する試みも各種なされているが、これらは耐熱性や表面の耐傷付き性などに劣る問題があった。この様にして、結果的には、熱可塑性オレフィン系樹脂のみを使用した化粧シートでは、必要な諸物性を全て満足したものは得られていないのが実情である。
【0006】
また、ポリオレフィン樹脂に水素添加ジエン系ゴムを添加した化粧シート(例えば、特許文献2参照)が、軟質ポリプロピレン樹脂を主体とした化粧シート(例えば、特許文献3参照)が、また沸騰ヘプタン可溶性ポリプロピレンと沸騰ヘプタン不溶性ポリプロピレンとからなる軟質ポリプロピレン樹脂組成物からの化粧シート(例えば、特許文献4)が開示されている。しかしながら、このようにして柔軟性を付与したオレフィン系化粧シートは、上記した問題点は確かに解決出来たものの、前記と同様にシートが本質的に柔軟である為に、基材への貼着時のシワ発生のための外観不良、真空成形時の加熱によりシートが軟化し過ぎる為のドローダウンや成形ムラ等の外観不良等が発生し易いという問題点や表面の耐傷付き性や耐摩耗性、耐溶剤性等の各種表面物性にも劣る等の問題点があった。
【0007】
また、非晶質ポリエステル系樹脂からなる基材シート上に熱可塑性オレフィン系樹脂からなる透明樹脂層有する化粧シートが開示されている(例えば、特許文献5参照)。ところが、前記化粧シートは、基材シートに使用した、通称A−PETと称する非晶PETや通称PET−Gとして市販されている非結晶性のシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂などの非晶質ポリエステル系樹脂の耐溶剤性や耐熱性が低いために、溶剤系の印刷インキを比較的厚く全面的に印刷する場合には、基材シートが印刷インキ中の溶剤に侵されて結晶化白化したり、表面の艶ムラや色調ムラ等を発生したり、また柔軟性が不足するために、折り曲げ加工や真空成形加工を行った際に、白化や亀裂、破断、ネッキング等を発生し易いという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】
特開平6−16832号公報
【特許文献2】
特開平9−300554号公報
【特許文献3】
特開平9−328562号公報
【特許文献4】
特開平10−17679号公報
【特許文献5】
特開2000−301673号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点に着目し、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めない化粧シートを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の装飾用化粧シートは、柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであって、前記柔軟ポリエステルが、共重合ポリエステルを主たる構成成分とするポリエステルであり、これを溶融成形して得られる未延伸シ−トの弾性率が1500MPa以下、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつ前記シ−トのヘイズ(100μm換算)が15%以下であるポリエステルであることを特徴とする装飾用化粧シートである。
【0011】
なお、本発明でいう印刷層とは、柔軟ポリエステル基材シートの全表面に印刷した層はもちろん、基材シート表面の一部に絵柄を印刷した層も含む。
この場合において、前記ポリエステルがハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであり、前記ポリエステルが、そのハ−ドセグメントを構成するジカルボン酸成分の少なくとも70モル%以上が、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)の少なくとも1種以上であるポリエステルであることができる。
【0012】
この場合において、前記ポリエステルが、そのハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、1,4−テトラメチレングリコ−ル(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成する全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であるポリエステルであることができる。
【0013】
この場合において、前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族ジカルボン酸、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族グリコ−ル、数平均分子量が500〜4,000であるポリアルキレンオキシドグリコ−ルの少なくとも1種以上であるポリエステルであることができる。
【0014】
この場合において、前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、ダイマ−ジオ−ル(DDO)であり、かつポリエステルの全グリコ−ル成分に対するDDOの組成比が1〜60モル%であるポリエステルであることができる。
【0015】
この場合において、前記ポリエステルが、周期律表第I−a属または第II−a属の金属元素を有する金属塩化合物を、ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0重量%含有してなるポリエステルであることができる。
【0016】
またこの場合のおいて、前記印刷層の上に保護層を設けてなることを特徴とする装飾用化粧シートである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の装飾用化粧シートの実施の形態を具体的に説明する。
本発明の装飾用化粧シートは、次に説明する柔軟ポリエステルからなる基材シートの片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであり、その用途から要求される特性に応じて、印刷層の上に保護層を設けたり、またその上にトップコート層を設けたりすることも出来る。
【0018】
[柔軟ポリエステル]
本発明に係る柔軟ポリエステルは、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルを主たる構成成分とする柔軟ポリエステルである。共重合ポリエステルとしては、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。ハ−ドセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的は、ポリエステルにブロッキング性と透明性とを付与することにある。一方、ソフトセグメントをポリエステル分子鎖に導入する目的はポリエステルに柔軟性を付与することにある。
【0019】
本発明に係る柔軟ポリエステルは、柔軟ポリエステルを溶融成形して未延伸シ−トとした際の弾性率が1500MPa以下であることから、柔軟性に優れている。
【0020】
また、本発明に係る柔軟ポリエステルは、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上であるため、ハンドリング性に優れている。さらに、該柔軟ポリエステルを溶融成形した未延伸シ−トのヘイズが、シート厚み100μm換算で15%以下であるため、透明性に優れている。
【0021】
(ハ−ドセグメント)
透明性、柔軟性、ハンドリング性の3つの性能をいずれも兼備する柔軟ポリエステルを開発するにあたって、最も困難な技術課題は透明性とハンドリング性の両立である。そのためには、ソフトセグメントを拘束するハ−ドセグメントの設計が重要である。
【0022】
結晶の観点からは、透明性とハンドリング性とは二律背反する特性である。なぜなら、結晶化の進行とともに透明性は悪くなるのに対し、ハンドリング性は逆に向上する。すなわち、透明性とハンドリング性という相反する特性をいかに両立させるかが、本発明における最も重要な技術課題である。
【0023】
一般に、結晶化速度の遅いPETは成形時に、溶融状態から急冷して過冷却状態(アモルファス)にすると、透明な成形体が得られる。ところが、得られた成形体をTg以上の温度下で放置すると結晶化が進行し白化する。この現象は、結晶化の進行とともに結晶が成長した結果である。従って、透明性を良好にする為には、結晶のサイズを限りなく小さくすること、つまり微結晶とする必要がある。
一方、ハンドリング性、つまり、レジン乾燥時のブロッキングや成形・加工時の金型やロ−ラ−からの解離性、さらには成形体同士の接着等は、結晶サイズとは無関係に、結晶化の度合、換言すれば結晶化度によって支配される。結晶化度は、結晶の数と結晶サイズの積で定義される。
【0024】
以上のことから、結晶相でのハ−ドセグメントを構成する場合、透明性の観点から、結晶のサイズを微結晶とすること、かつ、結晶化度に支配されるハンドリングの観点からは、微結晶の数を多くすること、の2要件が必要不可欠である。そのためには、ハ−ドセグメントを構成するポリマ−構造の選択が非常に重要である。
【0025】
一般に、ポリエステルは、ポリマ−構造によって結晶性が大きく異なる。例えば、代表的なPETとPBTではその結晶性が大きく異なり、PBTは結晶化速度が非常に速い。結晶相に求められる性質としては、透明性とハンドリング性の両立の観点から、微結晶でしかも数が多いことである。
【0026】
これらの要件を満足できるポリエステルの組成としては、例えば、下記の2つの条件を満たすハ−ドセグメントを用いることにより、透明性とハンドリング性の両立を兼備したポリエステルが得られる。
【0027】
(1)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのグリコ−ル成分として、1,4−テトラメチレングリコール(TMG)及びエチレングリコール(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成するポリエステルの全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であること。
(2)ハ−ドセグメントを構成するポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)から選ばれた少なくとも1種を70モル%以上含有すること。
【0028】
前記2条件を充足しない場合は、結晶が微結晶とはならず白化して透明性が無くなったり、軟化点が低下して接着性が増し、レジンの乾燥時や成形時のハンドリング性が悪くなるなど、実用的価値が無くなる場合がある。
【0029】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルの組成は、グリコ−ル成分として、TMG/EGが23〜94モル%/77〜6モル%であることがさらに好ましく、特に好ましくはTMG/EGが25〜93モル%/75〜7モル%である。一方、ジカルボン酸成分として、TPA、NDA、BPAから選ばれた少なくとも1種が75モル%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0030】
ハ−ドセグメントを構成するポリエステルは、前記ジカルボン酸以外に、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸、またグリコ−ル成分としては、1,3−トリメチレングリコ−ル、1,5−ペンタメチレングリコ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサメチレンジメタノ−ル、等のグリコ−ルを共重合成分として使用することも可能である。
【0031】
さらに、微結晶化に対しては、金属塩化合物を結晶化促進剤として併用することが有効であり、透明性の点からさらに好ましい。
【0032】
特に、本発明に係る柔軟ポリエステルに対しては、周期律表第I−a属、または第II−a属に属する金属元素を有する金属塩化合物が好ましい。なかでも、脂肪族カルボン酸あるいはリン化合物のLi、Na、K、Ca塩が好ましい。
【0033】
金属塩化合物の含有量はポリエステルの組成によっても異なるが、ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0重量%を含有させることが効果的である。ポリエステルに対する金属塩化合物の含有量が0.5重量%未満では結晶化促進効果が小さく、逆に5.0重量%を越えるとポリエステルへの分散性が悪くなるばかりでなく、成形性の悪化や物性低下が著しい。金属塩化合物の含有量は、下限値がポリエステルに対して0.8重量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは1.0重量%である。また、金属塩化合物の含有量は、上限値がポリエステルに対して4.5重量%であることがさらに好ましく、特に好ましくは4.0重量%である。
【0034】
(ソフトセグメント)
ソフトセグメントはポリエステルに柔軟性を付与するために不可欠であり、エントロピ−弾性を有することが重要である。好適なソフト成分としては、ポリアレキレンオキシドグリコ−ル、脂肪族ポリエステル、長鎖脂肪族ジカルボン酸、長鎖脂肪族グリコ−ル等が挙げられる。
【0035】
ソフト成分として、長鎖脂肪族ジカルボン酸や長鎖脂肪族グリコ−ルを用いた場合には、数平均分子量が100未満では充分な柔軟性が得られにくい。一方、数平均分子量が1,000を越えると、ハ−ドセグメントとの相溶性が悪くなり透明性が低下しやすくなる。また、ポリアルキレンオキシドグリコ−ルを用いた場合は、数平均分子量の範囲が500未満、または4,000を越える場合には、いずれも目的とする柔軟ポリエステルとならない。
【0036】
本発明において、柔軟ポリエステルのソフト成分としては、長鎖脂肪族グリコ−ルであるダイマージオール(DDO)が透明性の点から最も有効である。DDOの組成比は、所望する柔軟性によって異なるが、ポリエステルの全グリコール成分に対して1〜60モル%が好ましく、より好ましくは2〜58モル%であり、特に好ましくは3〜55モル%である。DDOの組成比が1モル%未満では、柔軟性が不十分となり硬くなる。一方、60モル%を超えると、Tgが低くなり過ぎて、成形・加工性やハンドリング性が悪化しやすくなる。
【0037】
(柔軟ポリエステルの重合)
柔軟ポリエステルの重合方法は、従来公知の方法が適用できる。例えば、芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステルと、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオールなどのジオールとのエステル化反応またはエステル交換反応により低分子量体を生成する初期反応と、この低分子量体を重縮合させ高分子量とする後期反応によって製造する方法が最も一般的である。
【0038】
柔軟ポリエステルの製造には、エステル交換触媒として、従来公知のチタン、亜鉛、マンガン、コバルト、鉛、カルシウム、マグネシウムなどの金属化合物を適用することができる。また重縮合触媒としては、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズ等の金属化合物を適用することができる。これらの触媒以外に、熱酸化安定剤やリン化合物の添加もまた可能である。
【0039】
(金属塩化合物の溶融混合)
金属塩化合物のポリエステルへの混合は、一軸押出機、二軸押出機、あるいは成形加工時のポリエステルへの溶融工程への添加等によって行うことができる。一例として、二軸押出機を使用して金属塩化合物をポリエステルへ混合する場合について述べる。
【0040】
金属塩化合物の混合には、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−37BS)を使用する。混合時の樹脂温度250℃、スクリュー回転数100rpm、ベント真空度1〜5hPa、フィ−ド量15kg/hrの条件で金属塩化合物をポリエステルに均一混合した後ストランド状に押出し、水冷下チップ状にカッティングする。また、金属塩化合物の混合時に、紫外線吸収剤や透明性に悪影響のない顔料等も同時にブレンドすることも可能である。
【0041】
(柔軟ポリエステルの特性値)
本発明に係る柔軟ポリエステルの特徴を弾性率、結晶化指数Xc、ヘイズという特性値を用いて表現している。本発明の化粧シートの基材は、成形後、冷却するだけでも、特に加熱結晶化処理をすることなく、弾性率、結晶化指数Xc、ヘイズという特性値を満たす。
弾性率は、柔軟ポリエステルの柔軟性を表す指標である。柔軟性は、例えば、ハ−ドセグメントの構造、使用するソフトセグメントの種類や量によって制御することができる。弾性率は、その値が大きくなるとともに硬く、逆に小さくなるとともに柔らかくなる。一般的に、柔軟ポリエステルはシ−トとした際の弾性率を1500MPa以下とすることで柔軟性を示すが、好ましくは1200MPa以下であり、特に好ましくは1100MPa以下である。一方、弾性率の下限値は成形性の点から10MPaであることが好ましく、さらに好ましくは11MPaであり、特に好ましくは12MPaである。
【0042】
弾性率が1500MPaを越えると、柔軟性が不十分なために加工適性に劣り、基材シート基材が被貼着基材表面の三次元立体形状に完全に追従できないために成形不良や形状不良、割れ、成形後に残留する応力による経時剥離等の原因となり易く問題である。また弾性率が10MPa未満であると、得られた基材シートが本質的に柔軟である為に、被貼着基材への貼着時にシワが発生して外観不良となるなど問題点が発生するばかりでなく、取り扱い難くなり、実用的でない。さらに、ソフトセグメントの組成比が高くなるので、コスト的にも不利になる。
【0043】
結晶化指数Xcは、微結晶化の度合いを示す尺度であり、ハンドリング性、印刷時の溶剤白化や加熱処理時の白化に対して重要な指標である。Xcは、例えば、ハ−ドセグメントの構造によって制御することができる。ハンドリング性や白化の点からは、Xcは大きければ大きいほどよく、5%以上とすることが必要であり、好ましくは6%以上であり、特に好ましくは7%以上である。一方、結晶化指数Xcが55%を越えるようにすることはポリマー構造の面で技術的に困難である。結晶化指数Xcが55%以下であっても5%以上あれば一般的には十分なハンドリング性を有しているので、結晶化指数Xcを積極的に55%を越えるようにすることは技術的な困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0044】
本発明の装飾用化粧シートにおいては、被貼着基材の表面の質感や形状を活かすためには、これを構成する柔軟性ポリエステルシートの透明性は高い程好ましい。したがって、柔軟性ポリエステルシートのヘイズは低い程好ましい。ヘイズは、柔軟ポリエステル基材シートの透明性を表す指標である。ヘイズは小さければ小さいほど透明性に優れ、厚み100μmのシ−トとした際に15%以下とすることが重要であり、好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。ヘイズが15%を超えると、白化が著しく、被貼着基材の表面の質感や形状を活かす用途には使用できなくなる。一方、ヘイズの下限は0.1%とすることが好ましい。ヘイズを0.1%未満としても目視評価による透明性に大きな差異がなく、ヘイズを積極的に0.1%未満とすることは技術的困難さを考慮するとあまり実用的でない。
【0045】
さらに、ヘイズは本発明にある金属塩化合物を含有させることによってさらに改善され、透明性が一層良好となる。金属塩化合物の含有によるヘイズの改善効果は、金属塩化合物を含有しない場合のヘイズと比較して、0.2%以上小さくなることが好ましい。ヘイズの改善効果が0.2%以下では、視覚的にみて透明性に殆ど差は見られない。好ましいヘイズの改善効果は、0.3%以上、特に好ましくは0.4%以上である。
【0046】
一般的に、柔軟性を有するポリエステルのTgは常温以下であり、Tgが高くなると通常の使用条件では柔軟性が不十分となる。本発明に係る透明柔軟ポリエステルもTgは低い。このため、溶融成形によって得られた成形体は、成形直後は透明であってもTg以上の雰囲気下に放置しておくと、結晶が徐々に成長し白化のため透明性が悪化することがある。この現象は、溶融状態から急冷することによって、過冷却状態(アモルファス状態)にあったものが、Tg以上の温度雰囲気下で結晶化が進行したことを意味する。
【0047】
ところが、本発明に係る柔軟ポリエステルは、これを溶融状態から急冷して得られる成形体が、この冷却過程で既に微結晶化しているため、Tg以上の温度雰囲気下で放置しても、もはや結晶が成長することはなく、白化しない。
【0048】
本発明の装飾用化粧シートは、前述のように溶融後急冷することのみでも微細結晶化が可能であるため、シート製造に加熱結晶化工程を省略することができ、生産性が高くなる。さらには、高熱環境下に放置しても、その高い透明性が低下することがない、可塑剤フリーであり、印刷絵柄が可塑剤で滲んだり、接着強度低下がない、他のものと接触した場合に可塑剤の移行がない、などのメリットがあり、様々な環境下で好適に用いることができる。
【0049】
また本発明に係る柔軟ポリエステルには、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、安定剤、帯電防止剤、顔料などの各種の添加剤を本発明の目的とする特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0050】
[柔軟ポリエステルからなる基材シート]
本発明に係る柔軟ポリエステル製基材シートは、柔軟ポリエステルを乾燥後、押出機より溶融押出して、T型口金あるいは円型口金等を用いてシート状または円筒状に口金より吐出させ、冷却ロールまたは、水等の冷媒中に導いて固化させて基材シートを得る。通常押出温度は融点+10〜融点+80℃の温度範囲であり、また、冷却温度は5〜90℃の範囲、好ましくは10〜50℃の範囲である。
基材シートの厚さには特に制限はなく、従来の同種の化粧シートにおけるそれと同様の厚さのものを使用することができる。但し、あまり薄過ぎると印刷加工時や被貼着基材へのラミネート時等に破断し易く、一方あまり厚すぎても折り曲げ加工性や真空成形性が損なわれ、不経済でもあるので、一般的には20〜800μm程度の範囲内とするのが良く、中でも50〜600μm程度の範囲内とすることが最も望ましい。
【0051】
本発明に係る柔軟ポリエステル基材シートには、その他のポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を本発明の目的とする特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0052】
特に、目的とする化粧シートに被貼着基材の表面に対する隠蔽性が要求される場合には、基材シートを構成する前記柔軟ポリエステルに着色剤を添加して着色し、隠蔽力を向上させることが望ましい。着色剤としては、例えば有機又は無機の染料又は顔料等が挙げられるが、隠蔽力の観点からは無機顔料を少なくとも使用することが望ましい。
【0053】
具体的には、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛等の白色無機顔料や、酸化鉄(弁柄、黄色酸化鉄、鉄黒)、酸化クロム、コバルトブルー、カーボンブラック等の有色無機顔料、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料、酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料等を挙げることができる。勿論、色彩調整を目的として、例えばフタロシアニン系顔料等の耐候性に優れた有機顔料を併用することは差し支えない。また、必要に応じて、例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の顔料を併用することもできる。
【0054】
その他の添加剤として、酸化防止剤としては例えばフェノール系、硫黄系、リン系等、紫外線吸収剤としては例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ホルムアミジン系、オキザニリド系等、光安定剤としては例えばヒンダードアミン系、ニッケル錯体系等、熱安定剤としては例えばヒンダードフェノール系、硫黄系、ヒドラジン系等、可塑剤としては例えばフタル酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、オキシ安息香酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系等、滑剤としては例えば脂肪酸エステル系、脂肪酸系、金属石鹸系、脂肪酸アミド系、高級アルコール系、パラフィン系、シリコーン系等、帯電防止剤としては例えばカチオン系、アニオン系、ノニオン系、両イオン系等、難燃剤としては例えば臭素系、リン系、塩素系、窒素系、アルミニウム系、アンチモン系、マグネシウム系、硼素系、ジルコニウム系等、充填剤としては例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、カオリン、マイカ等から選ばれる1種又は2種以上の混合系で使用される。
【0055】
[印刷層]
本発明の装飾用化粧シートには、所望の絵や文字などを表示して意匠性を付与したり広告宣伝を目的とするために印刷層が設けられる。その絵柄の種類には特に制限はなく、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字又は記号、若しくはそれらの2種以上の組み合わせ等や、単色無地であっても良く、要するに、目的の化粧シートの用途に応じて任意の所望の絵柄を採用することができる。
【0056】
印刷層の構成材料や形成方法には特に制限はなく、従来より化粧シートの印刷層に使用されて来た任意の画像形成材料や画像形成方法を適宜適用することができる。
【0057】
具体的には例えば、染料又は顔料等の着色剤を、適当な結着剤樹脂と共に、適当な溶剤中に溶解又は分散してなる印刷インキ又は塗料等を使用することができる。但し、本発明の化粧シートをVカット加工、ラッピング加工又は真空成形加工等の折り曲げ乃至立体成形加工に使用する場合には、印刷層の構成材料としても折り曲げ時や立体成形時の変形に追従可能な柔軟性を有する材料を選択する必要がある。
【0058】
前記着色剤としては、例えばカーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料、酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料、その他蛍光顔料、夜光顔料等、又はこれらから選ばれる2種以上の混合物等を使用することができる。
【0059】
また、前記結着剤樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、又はそれらの2種以上の混合物等を使用することができる。
【0060】
また、前記溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤や、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤等の各種有機溶剤や、水等の無機溶剤、又はそれらの2種以上の混合物等を使用することができる。
【0061】
その他、必要に応じて例えば体質顔料や可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、安定剤、硬化剤、硬化促進剤又は硬化遅延剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0062】
印刷層の形成方法には特に制限はなく、例えばグラビア印刷法やオフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の従来公知の印刷方法の他、全面ベタ状の場合には以上の各種印刷方法に加えて例えばロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、キスコート法、フローコート法、ディップコート法等の各種コーティング方法などを適用することもできる。
【0063】
なお、印刷層の形成に先立ち必要に応じて、被印刷面に例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、火炎処理、電離放射線処理、酸処理、アルカリ処理、アンカー又はプライマー処理等の表面処理を施しておくことによって、被印刷面に対する印刷層の密着性を向上することもできる。
また、印刷層を下記に説明する保護層に設け、これを接着剤層を介して柔軟ポリエステル基材シートに積層することも可能である。
【0064】
接着剤層に使用する接着剤の種類には特に制限はなく、柔軟ポリエステル基材シートと印刷インキ組成物からなる印刷層とを強固に接着可能な材質を接着方式に応じて適宜選択すれば良い。具体的には、例えばドライラミネート方式であればポリエステルポリウレタン系、ポリエーテルポリウレタン系等のドライラミネート接着剤、熱ラミネート方式であれば例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、塩素化ポリオレフィン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリビニルブチラール系等の感熱接着剤、ホットメルト方式であればエチレン−酢酸ビニル共重合体系、エチレン−アクリル酸エチル共重合体系、オレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等のホットメルト接着剤、押出ラミネート方式であればオレフィン系、カルボン酸変性オレフィン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、アイオノマー系等の熱可塑性樹脂接着剤などから、それぞれ1種又は2種以上の混合系を適宜選択して使用することができる。
【0065】
(保護層)
装飾用化粧シートの表面硬度、耐磨耗性、耐溶剤性、耐油性、耐高速剥離性などの諸特性を向上させるために印刷層の上に保護層が設けることができる。
保護層は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などから構成される層である。
【0066】
熱可塑性ポオレフィン系樹脂層を構成するオレフィン系樹脂の種類には特に制限はなく、例えば従来より同種の化粧シートの構成材料として使用されている任意の熱可塑性オレフィン系樹脂を使用することができる。具体的には、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン−1樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂等を始めとする種々の単独重合体や、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等のオレフィン系共重合体樹脂などを挙げることができる。形成方法は、ドライラミネート法、押出ラミネート法など公知の方法によることが出来る。
【0067】
アクリル系樹脂樹脂層を構成するアクリル系樹脂としては、たとえば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジグリシジルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸などから選ばれた少なくとも一種からなるアクリル系樹脂、あるいは、これらの単量体と、スチレン、ビニルトルエン、1−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビリニデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸アリル、アジピン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、マレイン酸ジエチル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソプレン、二重結合含有ポリエステル樹脂等から選ばれる少なくとも1種以上のエチレン性不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。
これらの樹脂は、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の官能基を含有、変性しても良い。
【0068】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単位を含有するアクリルは、水酸基は水酸基含有不飽和単量体を共重合して(メタ)アクリル酸エステル系樹脂に導入できる。水酸基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アリルアルコール、ホモアリルアルコール、ケイヒアルコール、クロトニルアルコール等の水酸基含有不飽和単量体、たとえば、エチレングリコール、エチレンオキサイド、プロピレングリコール、プロピレンオキサイド、ブチレングリコール、ブチレンオキサイド、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルデカノエート、プラクセルFM−1(ダイセル化学工業株式会社製)等の2価アルコールまたはエポキシ化合物と、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸との反応で得られる水酸基含有不飽和単量体等を挙げることができる。これらの水酸基含有不飽和単量体から選ばれる少なくとも1種以上を重合して水酸基含有有機樹脂を製造することができる。
【0069】
ポリウレタン系樹脂層を構成する樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂が挙げられる。ポリエステル系ウレタン樹脂しては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6ヘキサングリコール等のグリコール類とアジピン酸、イソフタール酸、テレフタール酸等の2塩基酸との重縮合反応によって得られるポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートの反応により得られる線状ブロック共重合体よりなる。
【0070】
保護層には、化粧シートの使用用途に応じて、硬化剤、効果促進剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、抗菌剤、防黴剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0071】
シートへの保護層の設置方法としては、基材シートとの共押出しする方法、保護層シート上に基材シートを押出し成形する方法、基材シート上に保護層を押出し成形する方法、保護層となるシート、フィルムを別途製造後、接着する方法、基材シート上に塗布する方法等が挙げられる。
【0072】
基材シートへの塗布方法としては、従来公知の浸漬法、スプレ−法、グラビヤコート法、ロールコート法等、従来公知の任意の塗工方法を適宜採用することができる。
【0073】
保護層の厚みは、具体的には、目的の化粧シートの用途やそれに応じた要求品質、使用する前記の熱可塑性オレフィン系樹脂などの種類等にもよるが、一般に2〜200μm程度の範囲から選ばれ、特に好ましい範囲は5〜150μm程度である。
【0074】
(トップコート層)
化粧シートの表面にさらに優れた表面物性を付与する目的で、印刷層や保護層の表面にトップコート層を設けることもできる。トップコート層の構成材料としては、従来よりかかる化粧シートのトップコート層の構成材料として使用されている公知のトップコート剤の中から選ばれる任意のものを使用することができる。一般的には、少なくとも下地を透視可能な透明性を有する必要があり、さらには化粧シートの用途により要求される耐摩耗性や耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性を満足するように選択することが必要である。
【0075】
上記トップコート層の構成材料として具体的には、例えばメラミン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂や、不飽和ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂等の、紫外線又は電子線の照射により硬化する電離放射線硬化性樹脂等を、好適に使用することができる。また必要に応じて、例えば艶調整剤、減摩剤、滑剤、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤等の各種の添加剤を適宜添加することもできる。
【0076】
トップコート層の形成方法にも特に制限はなく、例えばグラビアコート法、ロールコート法、ディップコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、リップコート法、キスコート法、ロッドコート法、スプレーコート法、フローコート法等、従来公知の任意の塗工方法を適宜採用することができる。
トップコート層の厚みは、0.1〜10μmである。
【0077】
また、基材シートに絵柄を逆向きに印刷し、透明な基材を通して絵柄を観察する裏印刷の構成であっても良い。特に本発明の装飾用シートは高い透明性を有し、環境の変化により白化することがないため、裏印刷の構成にも好適に用いることができる。
【0078】
本発明の化粧シートは一般に、従来の化粧シートと同様、例えば単板、合板、集成材、中密度繊維板、パーティクルボード等の木質系基材や、石膏ボード、スレート板、珪酸カルシウム板、木毛セメント板、ガラス繊維強化コンクリート、軽量気泡コンクリート等の無機質系基材、鋼、真鍮、ステンレス、アルミニウム等の金属系基材、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等の合成樹脂系基材等の各種の被貼着基材の表面にラミネートして各種用途に使用されるものである。例えば、壁、天井、床等建築物の内装、外装、窓枠、扉、手摺等の建具の表面化粧、家具又は弱電・OA機器のキャビネットの表面化粧、自動車、電車等の車輛内装、外装、航空機内装、外装、窓硝子の化粧等である。
【0079】
これら被貼着基材との張り付けは前述したような各種接着剤を用いることができる。また、特に強度の要求されない場合、部分的に貼り付ける場合などは、感圧接着剤(粘着剤)を用いることができる。感圧接着剤としては、アクリル系、天然、合成ゴム系など公知のものを用いることができる。
【0080】
【実施例】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定させるものではない。なお、本明細書中における主な特性値の測定法や評価法を以下に説明する。
【0081】
(1)測定試料の作成
得られたレジンを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、以下の操作によって厚みが約100μmの未延伸シートを作成した。
平担な金属板の上に厚さ126μmカプトンフィルム(東レ・デュポン社製)、所望の型にくり抜いた金属製スペーサーの順に置き、さらに、その型が満たされるだけの樹脂ペレットを型に入れ、その上に再び同じカプトンフィルム、金属板の順に重ねた。これらを油圧プレス(神藤金属工業所社製、シンドー式F型)のプレス面に移し、融点よりも20〜30℃高い温度で4分間溶融後、同温度で9.8MPa(100kgf/cm2)で1分間プレスした。プレス後5秒以内にシートを氷水中に移し急冷した。急冷後、シート表面に付着した水を直ちに拭き取り、25℃のドライオーブン中にて24時間保管した。
【0082】
(2)弾性率、降伏強度、破断強度、及び破断伸度
ドライオーブン中で保管した測定用試料を室温下で30分間以上放置した後、ASTM−D638に準じて、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、RTC−1150A)を用い、測定温度23℃、試料長(チャック間距離)60mm、試料幅10mm、引張速度50mm/分、フルスケール2〜40kg、の条件下でシートの弾性率(MPa)、降伏強度(MPa)、破断強度(MPa)、及び破断伸度(%)を測定した。
【0083】
(3)結晶化指数Xc
試料を20mm×18mmの大きさに切り出し、広角X線回折用測定試料とした。X線回折の測定は、「X線解析の手引き 改訂第3版、84頁、1985.6.30発行、理学電機株式会社」に記載の方法に順じて下記に示す測定条件で、2θ−X線強度のプロファイルを反射法により求めた。
【0084】
【0085】
(結晶化指数Xcの定義)
結晶化指数Xcの定義を、図1を用いて説明する。
まず、X線測定で得られた2θ−X線強度のプロファイルの移動平均近似線(区間:30)を求めた。
縦軸のX線強度は、試料厚さ、粗さ等により変化するので、伸縮してもピ−ク高さの比率は変わらないとして、各移動平均近似線が2θ=13°におけるX線強度が250cpsとなるように、各値を1次変換した。次に、この移動平均近似線の2θが9°と35°における2点を結びベ−スラインCとし、2θが9°から35°までの範囲の移動平均近似線とベ−スラインで囲まれた面積Sを求めた。
【0086】
この際、ハ−ドセグメントのグリコ−ル成分がEG100モル%の時の散乱プロファイル(具体例として、下記試料A)を非晶構造由来とし、ソフトセグメントの組成比を一定にしたまま、ハ−ドセグメントのグリコ−ル組成を変化させた時の散乱プロファイル(具体例として、下記試料B)との差が結晶構造由来によるものとして、結晶化指数Xcを下記の如く定義した。
結晶化指数Xc(%)=((SBC−SAC)/SAC)×100
上式で、SACは非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示し、SBCは結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積を示す。
【0087】
(試料A、Bの作成)
実施例1で得た共重合ポリエステルを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、以下の方法によって厚みが約100μmの未延伸シート(試料B)を作成した。
また、実施例1において、ハードセグメントのグリコール成分をEG100モル%に変更したこと以外は前記試料Bの作成方法と同様にして厚みが約100μmの未延伸シート(試料A)を作成した。
【0088】
平担な金属板の上にカプトンフィルム(東レ・デュポン社製)、所望の型にくり抜いた金属製スペーサーの順に置き、さらに、その型が満たされるだけの樹脂ペレットを型に入れ、その上に再びカプトンフィルム、金属板の順に重ねた。これらを油圧プレス(神藤金属工業所社製、シンドー式F型)のプレス面に移し、融点よりも20〜30℃高い温度で4分間溶融後、同温度で9.8MPa(100kgf/cm2)で1分間プレスした。プレス後5秒以内にシートを氷水中に移し急冷した。急冷後、シート表面に付着した水を直ちに拭き取り、25℃のドライオーブン中にて24時間保管した。
【0089】
(4)ヘイズ
測定用試料を保管容器から取り出し室温下に放置した後、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、Model NDH2000)にて測定した。測定値は下記式により、シート厚み100μmのヘイズ値に換算した。
ヘイズ(%)= Hz(%)×100(μm)/A(μm)
ここで、Hz(%)は測定試料の実測ヘイズ値であり、Aは測定試料の実測厚み(μm)を示す。
【0090】
(5)還元粘度
還元粘度(ηsp/C)は試料0.1gを25mlのフェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0091】
(6)ポリエステルの融点
示差走査型熱量計(島津製作所(株)社製、DSC−50)、試料10mgをアルミ製のパンに充填し、窒素雰囲気下20℃/分の昇温速度で290℃まで昇温し、同温度で3分間保持した後、アルミパンを液体窒素中に投じ急冷した。急冷したアルミパンを再度示差走査型熱量計にセットし、20℃/分の昇温速度で昇温した時に出現する吸熱ピークのピーク温度を融点とした。
【0092】
(9)融着性
基材シートを後記の(10)の方法で製膜し、製膜後重ね合わせて室温で放置し、一日放置後の剥離状態を次のように定性的に評価した。
○ : 融着せず、簡単に分離できる。
△ : 融着しているが、手で分離できる。
× : 融着して一体となり、分離不可能。
【0093】
(10)基材シートの製膜
得られた柔軟ポリエステルを70℃で一昼夜減圧乾燥した後、ニ軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を使用して、樹脂温度は融点+40℃、スクリュー回転数150rpmで溶融し、T−ダイスより表面温度30℃のチルロール上に押出し、厚みが100μmの基材シートを得た。
【0094】
(11)化粧シートの作成
(10)で作成した基材シートの片面に印刷インキを使用してグラビア印刷法により絵柄を印刷した。この絵柄印刷済み基材シートに保護層としてランダム共重合ポリプロピレン樹脂製フイルムをドライラミネートし、装飾用化粧シートを作成した。
【0095】
(12)真空成形法による評価
得られた化粧シートを、予め表面に水性2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤を塗工して乾燥させた、曲率半径5Rの三次元立体形状を有する木質基材の表面に、真空成形機にてシート温度70℃の条件で三次元成形ラミネートし、成形不良、白化、ネッキング、などが発生しているか目視で判定した。
【0096】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート(DMT)84000重量部、EG 26000重量部、TMG38000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)10000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.82dl/g、融点189℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が18.5モル%、TMG成分が65.5モル%、DDO成分が16モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で1.1%、結晶化指数は25%、弾性率は1070MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で1.1%、結晶化指数は26%、弾性率は1070MPaであった。
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0097】
(実施例2)
ジメチルテレフタレート(DMT)68300重量部、EG 22700重量部、TMG30000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)30000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点171℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が18.5モル%、TMG成分が65.5モル%、DDO成分が16モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で0.8%、結晶化指数は30%、弾性率は190MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で0.9%、結晶化指数は31%、弾性率は190MPaであった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「○」で問題なかった。
【0098】
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0099】
(実施例3)
ジメチルテレフタレート(DMT)44000重量部、EG 4900重量部、TMG24000重量部、DDO(ユニケマ社製、PRIPOL2033)60000重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点123℃、のポリエステルを得た。ポリエステルの組成は、EG成分が1モル%、TMG成分が49モル%、DDO成分が50モル%であった。
これを(1)の方法で測定用試料を作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で1.5%、結晶化指数は19%、弾性率は20MPaであった。
さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で1.4%、結晶化指数は20%、弾性率は20MPaであった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「○」で問題なかった。
【0100】
この基材シートを用いて(11)の方法で、ブロッキングや白化などの発生なしに化粧シートを作成できた。
得られた化粧シートを(12)の方法で評価したところ、ネッキング、白化、成形不良はなく良好であった。
【0101】
(比較例1)
ジメチルテレフタレート(DMT)65700重量部、EG 38900重量部、TMG 14100重量部、ダイマー酸(ユニケマ社製)14100重量部を用いて、エステル交換および重縮合を行い、還元粘度0.75dl/g、融点170℃のポリエステルを得た。ポリエステルの酸成分の組成は、DMT成分が84モル%、ダイマー酸成分が16モル%、グリコール成分の組成は、EG成分が72モル%、TMG成分が28モル%であった。
これを(1)の方法で評価用サンプルを作成し、特性を評価した。ヘイズは100μm換算で3.5%、結晶化指数は4%、弾性率は60MPaであった。さらに、(10)の方法で製膜して厚み100μmの透明なフイルム状物を得た。フイルム状物のヘイズは100μm換算で4.0%であった。(9)の方法により融着試験を行ったが、「×」であった。
この基材シートを用いて(11)の方法で化粧シートを作成したが、ブロッキングが発生し、絵柄層の一部が損傷したことに加え、ドライラミネート時に層間に気泡が発生しており、実用に堪えるものではなかった。
【0102】
(比較例2)
厚さ100μmのA−PETシートを用いて(11)の方法で化粧シートを作成し、次いで(12)の方法で評価を行ったが、ネッキングや白化が発生し、また形状追従性が悪かった。
【0103】
【発明の効果】
本発明の化粧シートは、柔軟性、透明性に優れたポリエステルからなる基材シートから構成することにより、平面状基材への貼着は無論のこと、Vカット加工や凹凸基材へのラッピング加工、真空成形加工等の立体成形加工も可能であり、燃焼時に塩化水素ガス等の有害物質を発生しない環境に優しい、また燃焼発熱量が低いために焼却炉を傷めることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶化指数Xcを定義するための説明図である。
【符号の説明】
A ハードセグメントのグリコール成分がEG100モル%の時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
B ソフトセグメントの組成比を一定にしたまま、ハードセグメントのグリコール組成を変化させた時の2θ−X線強度プロファイルの移動平均近似線
C 移動平均近似線(AまたはB)の2θが9°と35°における2点を結んだベースライン
SAC 非晶構造に起因する散乱プロファイルの面積
SBC 結晶構造に起因する散乱プロファイルの面積
Claims (7)
- 柔軟ポリエステルからなる基材シートの少なくとも片面に印刷層を設けた装飾用化粧シートであって、前記柔軟ポリエステルが、共重合ポリエステルを主たる構成成分とするポリエステルであり、これを溶融成形して得られる未延伸シ−トの弾性率が1500MPa以下、広角X線で測定した結晶化指数Xcが5%以上、かつ前記シ−トのヘイズ(100μm換算)が15%以下であるポリエステルであることを特徴とする装飾用化粧シート。
- 前記ポリエステルが、ハ−ドセグメントとソフトセグメントからなる共重合ポリエステルであり、そのハ−ドセグメントを構成するジカルボン酸成分の少なくとも70モル%以上が、テレフタル酸(TPA)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(NDA)、4,4′−ビフェニルジカルボン酸(BPA)の少なくとも1種以上であるポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の装飾用化粧シート。
- 前記ポリエステルが、そのハ−ドセグメントを構成するグリコ−ル成分が、1,4−テトラメチレングリコ−ル(TMG)及びエチレングリコ−ル(EG)を含み、かつハ−ドセグメントを構成する全グリコ−ル成分に対する組成比が、TMGが20〜95モル%で、かつEGが5〜80モル%であるポリエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の装飾用化粧シート。
- 前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族ジカルボン酸、数平均分子量が100〜1,000である長鎖脂肪族グリコ−ル、数平均分子量が500〜4,000であるポリアルキレンオキシドグリコ−ルの少なくとも1種以上であるポリエステルであることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載の装飾用化粧シート。
- 前記ポリエステルが、そのソフトセグメントを構成するソフト成分が、ダイマ−ジオ−ル(DDO)であり、かつポリエステルの全グリコ−ル成分に対するDDOの組成比が1〜60モル%であるポリエステルであることを特徴とする請求項1、2、3、4のいずれかに記載の装飾用化粧シート。
- 前記ポリエステルが、周期律表第I−a属または第II−a属の金属元素を有する金属塩化合物を、ポリエステルに対して金属元素として0.5〜5.0重量%含有してなるポリエステルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の装飾用化粧シート。
- 前記印刷層の上に保護層を設けてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装飾用化粧シート。
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