JP2004101389A - アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブ - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブに関する。
【0002】
【従来の技術】
金属イオンを定量する方法として、物質が光を吸収する過程及び発光する過程を利用して検体中の目的試料を定量する方法が、分光学の進歩と共に近年飛躍的に進歩している。中でも、蛍光光度法は、前処理が簡単でありリアルタイム測定が可能であること、高感度、高精度であること、及び蛍光顕微鏡、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡を初めとした測定機器の飛躍的な進歩もあり、生体内の金属イオンの動的挙動を追跡できる手法の一つとして、現在広く汎用されている。
【0003】
アルミニウムイオンや第2鉄イオンを測定するための蛍光プローブとしては、次の化学構造を有するルモガリオン(lumogallion)が知られている((株)同仁化学研究所より市販)。
【0004】
【化9】
【0005】
また、4−ブロモ−2−(4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−2−イル)フェノール(以下、本明細書において「KAL−1」と言う)もアルミニウムイオン測定用の蛍光プローブとして知られている(New J. Chem., 2000, 24, 541−546)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ルモガリオンは、銅イオンのような2価のイオンにも結合し、また、相対蛍光強度が低く、測定感度が満足できない。また、KAL−1も、アルミニウムイオンとの錯形成能が低く、また蛍光量子収率、モル吸光係数が低いので、測定感度が満足できない。さらに、励起波長が近紫外領域にあるため、細胞等の生体の内部のイオン挙動を調べようとする場合には励起光によって試料がダメージを受ける恐れがある。
【0007】
従って、本発明の目的は、3価のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンに対して高く、かつ、選択的な錯形成能を有し、高い測定感度が得られるアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブを提供することである。さらに、本発明の目的は、励起波長が公知のKAL−1よりも長波長側にあり、励起光によって試料を損傷することがないアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、環式構造上のβ−ケトチアゾールが水系中のアルミニウムイオン(Al3+)及び第2鉄イオン(Fe3+)と選択的に強く錯体を形成することを見出し、該構造を有する蛍光性分子がマグネシウムイオンに対して選択的な蛍光プローブとして用いることができることを実験的に確認し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式[I]
【化10】
(但し、式中、Zは−S−、−O−、−NH−又は−CH2−を表し、Qは式中の窒素原子及びZと共に環式構造を形成する原子団、Aは式中の炭素原子1及び2と共に環式構造を形成する原子団、Xは蛍光性原子団であって、Aを含む環と縮合環を形成していてもよい)
で表される構造を有するアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブを提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記一般式[I]で示される化合物中の、Aを含む環式構造の炭素1とカルボニル基を構成する酸素原子と、該環式構造の炭素2に結合している含窒素複素環中のN又はZとの間で、アルミニウムイオン及び第2鉄イオンが選択的に安定な錯体を形成するという、新知見に基づくものである。従って、分子中にAを含む環式構造の炭素1とカルボニル基を構成する酸素原子と、該環式構造の炭素2に結合している、N及びZを含む複素環とを含む構造(以下、本明細書においてこの構造を便宜的に「キレート化構造」ということがある)が存在すれば、該構造によって水系中のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンが選択的にキレート化されるので、該分子が蛍光性を有する場合には、アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン選択的プローブとして用いることができる。従って、分子中に上記キレート化構造と、任意の蛍光性原子団とを含む分子はいずれも選択的アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブとして利用可能であり、本発明の範囲内に含まれる。すなわち、本発明の蛍光プローブは、上記一般式[I]で表される。
【0011】
なお、一般に、蛍光性原子団が発する蛍光は、分子が金属と錯体形成することにより変化(増大又は減少)するので、この変化に基づきアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオンを測定することができる。なお、本明細書において、「測定」とは定量と検出の両者を包含する。
【0012】
プローブが一般式[I]に示される構造を有する場合、キレート化構造が、Aを含む環式構造により堅固に支持されており、また、N及びZも複素環中に堅固に支持されているので、より的確に、強力にアルミニウムイオン及び第二鉄イオンをキレート化することができる。この堅固なキレート化能は、極めて低濃度のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンでもキレート化できるという効果をもたらすのみならず、測定時の蛍光強度の増大にも寄与する。
【0013】
上記一般式[I]で示される化合物の中でも、Nを含む複素環が5員環である下記一般式[II]で示されるものが、錯体形成能の点から好ましい。
【0014】
【化11】
(但し、式中、Z、A及びXは、式[I]と同義、R1及びR2は、互いに独立して水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、チオール基、ハロゲン、又はニトロ基を示す。)
【0015】
なお、本明細書において、「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状アルキル基及び分枝状アルキル基の両者を包含する。また、本明細書において、「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が好ましい。
【0016】
一般式[II]で表される化合物の中でも、とりわけ、R1及びR2が水素原子、Zがイオウ原子又は酸素原子であるものが好ましい。
【0017】
Aを含む環式構造は、上記キレート化構造を環式構造上に支持するものであればいかなる環式構造であってもよいので、環式構造自体は何ら限定されない。通常、5員環〜7員環であり、ベンゼン環のような芳香環であってもよく、二重結合を含むことがあるシクロアルキルのような構造でもよく、複素環であってもよい。
【0018】
また、一般式[I]中のXで示される蛍光原子団は、任意の蛍光原子団であってよい。金属イオン測定用の蛍光プローブ自体は、種々のものが公知であり、このような蛍光プローブに用いられている蛍光性原子団はいずれも本発明において採用することができる。このような蛍光性原子団の例として、ローダミン、フルオレセイン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、クマリン、キノリン、スチルベン、ベンゾチオゾール、ピラゾリン等を挙げることができるが、本発明において採用される蛍光性原子団はこれらに限定されるものではない。
【0019】
一般式[I]又は[II]中の、式[III]
【化12】
で表される基が、式[IV]
【化13】
(但し、式中、Yは、−O−、−CH2−又は−NH−、Y’は−CH=又は−N=、X’は蛍光性原子団であって、式中の炭素原子3及び4と共に縮合環を形成していてもよく、式[IV]中の環構造を構成する任意の1又は2以上の炭素原子に結合している各水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、ハロゲン、又はニトロ基で置換されていてもよい)
で表される構造を有するものが好ましい。
【0020】
一般式[IV]中、Y’は−CH=であることが好ましい。また、Yは−O−であることが好ましい。また、環を構成する炭素原子に結合している各水素原子は、上記の通り置換されていてもよい。もっとも、このような置換基は特に必要なものではないので、置換されていない構造が単純で好ましい。また、X’としては、公知の種々の蛍光性原子団を好ましく採用することが可能である。
【0021】
一般式[IV]で表される構造のうち、感度の観点から、一般式[V]で示されるクマリン(coumarin)誘導体が特に好ましい。
【0022】
【化14】
(但し、式中、X’’は蛍光性原子団であって、式中に示されるベンゼン環と縮合する環であってもよく、式[V]中の環構造を構成する任意の1又は2以上の炭素原子に結合している各水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、各アルキル基の炭素数1〜6のモノ−又はジアルキルアミノ、ハロゲン、又はニトロ基で置換されていてもよい)
【0023】
一般式[V]で示される構造において、環を構成する炭素原子に結合している各水素原子は、上記の通り置換されていてもよい。もっとも、このような置換基は特に必要なものではないので、置換されていない構造が単純で好ましい。また、X’’としては、公知の種々の蛍光性原子団を好ましく採用することが可能である。
【0024】
一般式[V]で表される構造のうち、好ましい例として、クマリン部分の縮合ベンゼン環がさらに縮合して合計3〜5個の縮合環構造となっている構造を挙げることができる。このような好ましい構造の例として、下記一般式[VI]又は[VII]で表される構造を有するものを挙げることができる。これらの構造を有するものは、測定時に特に高い蛍光強度を示し、モル吸光係数も高く、従って、さらに高感度な測定が可能になり、さらに励起光の波長を、公知のアルミニウム蛍光プローブよりも長波長側にすることができる。
【0025】
【化15】
【0026】
【化16】
【0027】
但し、式[VI]及び式[VII]中、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲンを示す。R3、R4、R5及びR6の全てが水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であるものが好ましい。
【0028】
さらに、一般式[V]で示される構造のうち、吸収帯が長波長側にある、好ましい構造として、下記一般式[VIII]で示される構造を挙げることができる。
【0029】
【化17】
(但し、式中、R7、R8、R9、R10及びR11は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン又は水酸基を示す)
【0030】
さらに、一般式[V]で示される構造のうちの好ましい例として、一般式[V]中のX’’が、一般式[IX]
X’’’−D− [IX]
(式中、X’’’は、2〜4個の環を含む縮合環を有する蛍光性原子団、−D−は該蛍光性原子団と一般式[V]中に示されるベンゼン環とを結合する原子団を表す)
で表されるものを挙げることができる。ここで、X’’’の例としては、ローダミンやフルオレセインのような種々の公知の蛍光性原子団を採用することができる。また、−D−は、クマリン構造と蛍光性原子団とを結合しているだけの構造であるので、何ら限定されるものではなく、例えば炭素数1〜4の低級アルキレン基を挙げることができる。もっとも、親水性を高めるために、アミン、カルボニル基、チオカルボニル基、エーテル基等の極性基を含む構造が好ましく、例えば、−NH−C(=S)−NH−のように、アミンと(チオ)カルボニル基のみから成る構造や、−NH−(CH2)1〜4−O−等を好ましい例として挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0031】
一般式[IX]中のX’’’としては、下記一般式[X]で示されるものを好ましい例として挙げることができ、これらには周知の蛍光性原子団であるローダミンやフルオレセインが包含される。
【0032】
【化18】
(但し、式[X]中、R12は水素原子又はカルボキシル基、R13及びR14は、互いに独立に、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜6のジアルキルアミノ基(但し、窒素原子が、環を構成する炭素原子と二重結合して第四級アミンとなっていてもよい))
【0033】
一般式[X]で示される蛍光性原子団を有する、一般式[V]で示される構造のうち、特に好ましいものとして、下記一般式[XI]で示されるものを挙げることができる。
(但し、式中、R15、R16、R17、R18は互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す)
【0034】
さらに、一般式[V]で表される構造の好ましい例として、クマリン誘導体にアミンを結合した、下記一般式[XII]で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0035】
【化19】
(但し、式中、R19及びR20は、互いに独立に、水素、水酸基、ハロゲン、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のハロアルコキシル基、ベンジル基若しくはアセチル基、又は1個若しくは2個の単糖構造若しくはそのアシル化物を含む基である)。
【0036】
式[XII]で表される構造のうち、前記1個若しくは2個の単糖構造若しくはそのアシル化物を含む基が、グリコシル基、グリコシド基、フラクトシル基、フラクトシド基若しくは式[XIII]
【0037】
【化20】
で示される基又はこれらの基の中の1ないし4個の水酸基が炭素数1ないし6のアシル基でアシル化された構造を含む基であるものが好ましい。
【0038】
また、式[XII]における単糖構造が、炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシル基を介して式[XII]中の窒素原子に結合しているものが好ましい。
【0039】
このような化合物の好ましい例として、下記式[XIV]に示される化合物を挙げることができる。
【0040】
【化21】
【0041】
また、上記一般式[V]中のX’’が、上記一般式[IX]
X’’’−D− [IX]
で表される場合、一般式[IX]で表される基の好ましい例として、下記一般式[XV]で表されるものを挙げることができる。
【0042】
【化22】
(ただし、式中、R21は存在してもしなくてもよく、存在する場合には炭素数1〜5のアルキレン基;R22は−NH−、−NH−CO−又は−OCO−;R23は水素原子、カルボキシル基又は−COOR28(ただし、R28は1価の金属原子又は炭素数1〜5のアルキル基);R24及びR25はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン;R26は水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基;R27と環を結合している−−−−は単結合又は二重結合を示し、これが単結合を示す場合には、R27は水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、二重結合を示す場合にはカルボニル基又は=N+R29R30(但し、R29及びR30は互いに独立に炭素数1〜5のアルキル基)を示す)。なお、R22が−NH−CO−又は−OCO−である場合には、その方向(すなわち、−NH−CO−の場合には、−NH−が一般式[XV]において−CO−よりも上に来るのか下に来るのか、また、−OCO−の場合には、−O−が一般式[XVI]において−CO−よりも上に来るのか下に来るのか)は限定されず、両者とも包含される。
【0043】
一般式[XV]で表される構造のうち、R23が水素原子又はカルボキシル基、R24及びR25が水素原子、R26がジアルキルアミノ基、R27が二重結合により環に結合されたジアルキル第四級アミンであるものが好ましく、特には、R21がメチレン基、R22が−NH−、R23、R24及びR25がいずれも水素原子、R26がN(CH3)2、R27が=N+(CH3)2であるものが好ましい。
【0044】
本発明の蛍光プローブは、公知の手法に基づいて、容易に製造することができる。とりわけ、チアゾール基等の窒素含有複素環基を有するクマリン誘導体に公知の蛍光性原子団を結合すれば本発明の好ましい蛍光プローブを得ることができるので、本発明の蛍光プローブを合成することは、当業者にとって容易である。下記実施例にも、複数の蛍光プローブの合成方法の例が詳細に記載されている。
【0045】
本発明の蛍光プローブは、検体に蛍光プローブを作用させ、励起光を当てて蛍光を測定するという、従来の蛍光プローブと全く同様な方法によって使用することができる。例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO)のような、極性有機溶媒に溶解したものを、緩衝液に加え、これを検体に加え(又は検体にこれを加え)てインキュベートし、励起光を当てて蛍光を測定することができる。極性有機溶媒中のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、0.1 mMないし10 mM程度、好ましくは、0.5 mMないし2 mM程度であり、また、緩衝液に添加した後のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、1 μMないし0.1 mM程度、好ましくは、5μMないし20μM程度である。インキュベーションの時間は、特に限定されず、検体に応じて適宜選択できるが、通常、5分間〜1時間程度でよい。また、インキュベーションの温度は、特に限定されず、各検体に適した温度が適宜選択できるが、通常、0℃〜40℃程度であり、検体が細胞又は組織である場合には、その培養に適した温度(例えば、ヒト由来の細胞又は組織であれば37℃)であることが好ましい。また、蛍光の測定は、市販の蛍光計を用いて行うこともできるし、細胞内のアルミニウムイオン又は第2鉄イオンの動態を調べる場合には、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡を用いて観察することができる。このような測定方法自体は公知である。また、検体としては、特に限定されず、その中に含まれるアルミニウムイオン又は第2鉄イオンを測定しようとするいずれのものであってもよく、好ましい例として、各種細胞や組織を挙げることができる。検体が細胞又は組織である場合には、細胞又は組織の培養液を、上記した蛍光プローブ溶液に置換し、上記のようにインキュベートし、蛍光を測定することができる。
【0046】
本発明の蛍光プローブを用いることにより、アルミニウムイオン及び第2鉄イオンを測定することができる。本発明の蛍光プローブを用いた場合、アルミニウムイオンと第2鉄イオンとの識別は困難であるが、これらの両者を同時に測定(定量の場合には合計量を定量する)ことができる。なお、試料中に一方のイオンが含まれないことがわかっている場合には、他方のイオン測定用の蛍光プローブとして用いることができる。すなわち、第2鉄イオンが実質的に含まれないことがわかっている試料に対して用いる場合には、アルミニウムイオン測定用プローブとして用いることができる。従って、本発明の蛍光プローブは、例えば、近年、アルツハイマー病との関連が注目されている、脳細胞中のアルミニウム濃度の測定等に適用することができる。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 蛍光プローブKAL−2(式[XVI])の製造
【化23】
【0049】
本実施例で合成した各化合物の合成経路を下記Scheme1〜3に示す。使用した試薬は市販品の特級若しくは手に入る最高純度のものを使用した。また、実験に用いた溶媒は、すべて特級を使用した。
【0050】
化合物の精製にはシリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、化合物の同定には薄層クロマトグラフィー(TLC)、ESI−MS、及び1H−NMRを使用した。
【0051】
カラムクロマトグラフィー
固定相にはMerck社製シリカゲル60を用いた。移動相には一級相当のn−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノール、アセトンを用いた。
【0052】
分取用薄層クロマトグラフィー
固定相にはMerck社製TLC plates silica gel 60 F245 with concentrating zoneを用いた。移動相には一級相当のn−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルムを用いた。
【0053】
リサイクル分取高速液体クロマトグラフィー(ODS)
Japan analytical industry社製のRecycling preparative LC−918を用いた。カラムにはODSを用いた。移動相にはHPLC用のメタノールを用いた。
【0054】
リサイクル分取高速液体クロマトグラフィー(GPC)
Japan analytical industry社製のRecycling preparative LC−918を用いた。カラムにはGPCを用いた。移動相には特級のクロロホルムを用いた。
【0055】
薄層クロマトグラフィー(TLC)
Merck plate(Silica gel,kieselgel 60F−254,0.25mm)を使用した。化合物の検出は、ヨウ素及びUV吸収(257 nm, 365 nm)によって行った。
【0056】
ESI−MS
Applied Biosystems社のMariner Biospectrometry Workstationを使用した。
【0057】
1H−NMR
JEOL JNM−LA300 (300MHz)を使用した。溶媒は重クロロホルム(CDCl3)を使用し、内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。又、シグナルの略号を以下に示す。
s;singlet, d;doublet, t;triplet, dd;doublet of doublet, q;quartet, m;multiplet
【0058】
【化24】
【0059】
5−ブロモ−2−ヒドロキシ−ベンズアルデヒド1.00g (4.97mmol,1.0eq)とヒドロキシルアミンヒドロクロリド0.70g (10.07mmol,2.0eq)を酢酸200mlに溶解し、125℃で24時間還流した。反応溶液を濃縮後、水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/酢酸エチル=9/1)で分離し、白色固体化合物1(0.58g、収率57.7%)を得た。
【0060】
TLC (シリカゲル、クロロホルム/酢酸エチル=9/1) Rf=0.28
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 6.17 (s , 1H) , 6.88 (d , 1H) , 7.59 (d , 2H)
【0061】
【化25】
【0062】
化合物1 0.500g(2.50mmol,1eq)とトリエチルアミン0.500 g (5.00mmol,2eq)を10mlエタノールに溶解し室温で30分間撹拌した。その後、氷冷下で2−アミノエタンチオールヒドロクロリド0.284 g (2.50 mmol,1eq)を滴下し、85℃で24時間還流した。反応溶液を冷却後、水を10ml加え濃縮し、飽和食塩水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で分離し、褐色の固体化合物2(0.507g、収率78%)を得た。
【0063】
TLC (Silica gel, クロロホルム) Rf=0.70
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 3.38 (t , 2H) , 4.48 (t , 2H) , 6.90 (d , 1H) , 7.40 (d , 1H) , 7.50 (s , 1H)
【0064】
【化26】
【0065】
クマリン337 0.50g(1.87mmol,1eq)とトリエチルアミン0.563g (5.61mmol,3eq)を100mlエタノールに溶解し室温で30分間撹拌した。その後、氷冷下で2−アミノエタンチオールヒドロクロリド0.318 g ( 2.805mmol,1.5eq)を滴下し、85℃で24時間還流した。反応溶液を冷却後、水を100ml加え濃縮し、飽和食塩水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=50/1)で分離し、黄色の固体化合物3(KAL−2)(0.256g、収率42%)を得た。
【0066】
TLC (シリカゲル, クロロホルム/エタノール=50/1) Rf=0.40
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 1.95 (m , 4H) , 2.75 (t , 2H) , 2.85 (t , 2H) , 3.35 (m , 6H) , 4.35 (t , 2H), 6.90 (s , 1H) , 8.25 (s , 1H)
【0067】
実施例2
実施例1におけるScheme 3において、2−アミノエタンチオールヒドロクロリドに代えて、1−アミノ−2−ヒドロキシエタン(OH−CH2−CH2−NH2)を用いることを除き、実施例1と同様な操作を行い、下記構造を有する化合物4を得た。
【0068】
【化27】
【0069】
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 1.94(m,4H), 2.75(t,4H,6Hz), 2.88(t,4H,6Hz), 3.32(t,4H,8Hz), 4.11(t,2H,9Hz), 4.35(t,2H,9Hz), 6.88(s,1H), 8.15(s,1H)
【0070】
実施例3
実施例1で作製した本発明の蛍光プローブであるKAL−2の蛍光特性を調べた。測定条件は次の通りであった。
【0071】
【0072】
2)結果
i) 吸収スペクトル変化
Al3+濃度を0(Free)〜10−3Mまで変化させ、吸収スペクトル変化を観測したところ、Al3+濃度が8×10−6〜10−5Mの範囲において吸光度は0.179から0.305へと約1.7倍程大幅に増加した。さらにλmaxも長波長側445nmから498nmへと長波長側に大きくシフトした(図1)。同様な条件でFe3+、Zn2+、Mg2+、Na+についても測定したところ、Fe3+、Zn2+に関してはスペクトルに変化が見られた。特にFe3+を添加した場合は、ほぼAl添加のときと同じような非常に顕著なスペクトル変化を示した。
【0073】
ii)蛍光スペクトル変化
次に、吸収スペクトルから得られた極大吸収波長である498nmで励起し、その蛍光スペクトル変化を観測したところ、Al3+濃度が5×10−6〜3×10−5Mの範囲において、蛍光強度は大幅に増加した(図2)。最大発光波長は532nmであった。吸収スペクトル変化のときと同様に、Fe3+とZn2+添加時にはスペクトルに変化が見られたが、Zn2+添加時の変化は、Al3+やFe3+添加時ほど大きな変化ではなかった。
【0074】
iii)高感度検出
KAL−2濃度を10− 7Mまで100倍下げて、Al応答を観測したところ、Al濃度が10−6M〜3 x 10−6Mの範囲において蛍光強度に大幅な増加が見られた(図3)。
【0075】
iv) 他イオンに対する応答
上記方法により、アルミニウム以外の他の金属イオンに対する応答を調べた。結果を下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
比較例1
公知のアルミニウムプローブである上記KAL−1の蛍光特性について、実施例3と同様にして測定した。結果を実施例1で作製したKAL−2と比較して下記表2に示す。
【0078】
【表2】
表2
【0079】
表2に示す結果から、本発明の蛍光プローブであるKAL−2は、公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブであるKAL−1よりも以下の点で優れていることがわかる。
▲1▼ モル吸光係数の増大 4020→17900
▲2▼ 長波長化 λmax 323nm→445m
▲3▼ 蛍光強度の著しい増大 96→4900
▲4▼ 応答濃度範囲の低濃度化(錯形成能の増加)
【0080】
生体内への応用を考えた場合、励起波長が可視部にあることで細胞やタンパクへのダージが軽減、auto fluorescenceの回避など非常に有利である。またモル吸光係数の増大、蛍光強度の著しい増大によって、プローブの濃度を非常に低くしても蛍光検出が可能であるため、生体において有害物質として認識される可能性が低い。応答範囲に関しても、KAL−1と比べて10〜100倍程度応答するイオン濃度範囲が低い。生体内におけるAlイオン濃度は非常に低濃度であり(10−7M〜10−6M)、Alとの錯形成は非常に強いものが要求される。その点においてもKAL−2はKAL−1と比べて優れていると言える。
【0081】
実施例4、比較例2
実施例1で作製したKAL−2と、現在市販されているルモガリオンの蛍光特性を同一条件下で測定し、その性能を評価した。
【0082】
1)測定条件
溶媒:CH3COOH−CH3COONH4 1.0 mM buffer (pH5.0)
プローブ濃度:10−5M
イオン濃度:0(free)、10−6〜10−4M
金属塩:Al(ClO4)3・9H2O、CuCl2、FeCl3、FeCl2、ZnCl2、MgCl2、NaCl
励起波長:それぞれの極大吸収波長
蛍光測定器:molecular devices 社製 マイクロプレートリーダー
【0083】
2) 結果
i)吸収スペクトル変化
CH3COOH−CH3COONH4 0.001M buffer (pH5.0)中でKAL−2のAl3+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Mg2+、Na+濃度変化に対する吸収スペクトル変化を観測したところ、Al3+、Fe3+を添加したにスペクトルに顕著な変化が見らた。またFe2+、Zn2+を添加したときにもわずかではあるがスペクトル変化が見られた。Al3+を加えたときには吸光度が約1.5倍上昇した。これに対し、ルモガリオンでは、Al3+、Fe3+のみならずCu2+を添加した場合にも顕著なスペクトル変化が見られた。
【0084】
ii)蛍光スペクトル変化
KAL−2では、吸収スペクトルで得られたλmaxで励起し、Al3+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Mg2+、Na+を加えていったときの蛍光スペクトル変化を観測したところ、Al3+、Fe3+を添加したときのみに顕著なスペクトル変化が見られた。Al3+を添加したときには、最大蛍光強度が17000から25000へ約1.4倍ほど増加した(図4)。一方、ルモガリオンでは、Al3+を添加したときには、最大蛍光強度が約10倍程度に増加したが、蛍光強度自体がKAL−2に比べてはるかに低かった。
【0085】
iii)相対蛍光強度比較
Al3+濃度が飽和の場合、ルモガリオンと比べてKAL−2の方が7.8倍ほど蛍光強度が強かった(図5)。
【0086】
両者の各イオンに対する応答を下記表3にまとめて示す。
【0087】
【表3】
表3
◎:もっともスペクトル変化が大きかったもの
○:スペクトル変化がみられたもの
△:誤差範囲を超えたスペクトル応答を示したもの
【0088】
上記の結果からわかるように、Cu2 +に対してはルモガリオンが非常に強い錯体を形成するのに対して、KAL−2の場合はほぼスペクトル変化がなく、Cu2+との結合能が弱いと言える。このことから、Cu2+に対するAl3+選択性はルモガリオンよりもKAL−2の方が優れていると考えられる。また同条件下(Al3+飽和状態)で測定した蛍光強度は(図5)はKAL−2:9250に対して、ルモガリオン:1190となり、相対的にKAL−2の方が7.8倍程度、蛍光強度が強かった。蛍光強度が強いことは、生体内応用等の際に非常に有利に働く。
【0089】
【発明の効果】
3価のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンに対して高く、かつ、選択的な錯形成能を有し、高い測定感度が得られるアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブが提供された。本発明の蛍光プローブは、アルミニウムイオン及び第二鉄イオンを強力に、選択的にキレート化し、キレート化前後の蛍光スペクトルの変化も大きいので、これらのイオンを高感度に測定することができる。また、好ましい蛍光性原子団を採用することにより、励起光の波長を公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブよりも長波長側にシフトさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した本発明の蛍光プローブKAL−2の各種濃度のAl3+存在下における吸収スペクトルを示す。
【図2】本発明の蛍光プローブKAL−2の各種濃度のAl3+存在下における蛍光スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図3】本発明の蛍光プローブKAL−2の、図1よりも低濃度の各種濃度のAl3+存在下における吸収スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図4】本発明の蛍光プローブKAL−2の、図2及び図3とは異なる条件下で測定した、各種濃度のAl3+存在下における蛍光スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図5】本発明の蛍光プローブKAL−2と公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブであるルモガリオンの蛍光スペクトルを比較して示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブに関する。
【0002】
【従来の技術】
金属イオンを定量する方法として、物質が光を吸収する過程及び発光する過程を利用して検体中の目的試料を定量する方法が、分光学の進歩と共に近年飛躍的に進歩している。中でも、蛍光光度法は、前処理が簡単でありリアルタイム測定が可能であること、高感度、高精度であること、及び蛍光顕微鏡、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡を初めとした測定機器の飛躍的な進歩もあり、生体内の金属イオンの動的挙動を追跡できる手法の一つとして、現在広く汎用されている。
【0003】
アルミニウムイオンや第2鉄イオンを測定するための蛍光プローブとしては、次の化学構造を有するルモガリオン(lumogallion)が知られている((株)同仁化学研究所より市販)。
【0004】
【化9】
【0005】
また、4−ブロモ−2−(4,5−ジヒドロ−1,3−チアゾール−2−イル)フェノール(以下、本明細書において「KAL−1」と言う)もアルミニウムイオン測定用の蛍光プローブとして知られている(New J. Chem., 2000, 24, 541−546)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ルモガリオンは、銅イオンのような2価のイオンにも結合し、また、相対蛍光強度が低く、測定感度が満足できない。また、KAL−1も、アルミニウムイオンとの錯形成能が低く、また蛍光量子収率、モル吸光係数が低いので、測定感度が満足できない。さらに、励起波長が近紫外領域にあるため、細胞等の生体の内部のイオン挙動を調べようとする場合には励起光によって試料がダメージを受ける恐れがある。
【0007】
従って、本発明の目的は、3価のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンに対して高く、かつ、選択的な錯形成能を有し、高い測定感度が得られるアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブを提供することである。さらに、本発明の目的は、励起波長が公知のKAL−1よりも長波長側にあり、励起光によって試料を損傷することがないアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、環式構造上のβ−ケトチアゾールが水系中のアルミニウムイオン(Al3+)及び第2鉄イオン(Fe3+)と選択的に強く錯体を形成することを見出し、該構造を有する蛍光性分子がマグネシウムイオンに対して選択的な蛍光プローブとして用いることができることを実験的に確認し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式[I]
【化10】
(但し、式中、Zは−S−、−O−、−NH−又は−CH2−を表し、Qは式中の窒素原子及びZと共に環式構造を形成する原子団、Aは式中の炭素原子1及び2と共に環式構造を形成する原子団、Xは蛍光性原子団であって、Aを含む環と縮合環を形成していてもよい)
で表される構造を有するアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブを提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記一般式[I]で示される化合物中の、Aを含む環式構造の炭素1とカルボニル基を構成する酸素原子と、該環式構造の炭素2に結合している含窒素複素環中のN又はZとの間で、アルミニウムイオン及び第2鉄イオンが選択的に安定な錯体を形成するという、新知見に基づくものである。従って、分子中にAを含む環式構造の炭素1とカルボニル基を構成する酸素原子と、該環式構造の炭素2に結合している、N及びZを含む複素環とを含む構造(以下、本明細書においてこの構造を便宜的に「キレート化構造」ということがある)が存在すれば、該構造によって水系中のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンが選択的にキレート化されるので、該分子が蛍光性を有する場合には、アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン選択的プローブとして用いることができる。従って、分子中に上記キレート化構造と、任意の蛍光性原子団とを含む分子はいずれも選択的アルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用プローブとして利用可能であり、本発明の範囲内に含まれる。すなわち、本発明の蛍光プローブは、上記一般式[I]で表される。
【0011】
なお、一般に、蛍光性原子団が発する蛍光は、分子が金属と錯体形成することにより変化(増大又は減少)するので、この変化に基づきアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオンを測定することができる。なお、本明細書において、「測定」とは定量と検出の両者を包含する。
【0012】
プローブが一般式[I]に示される構造を有する場合、キレート化構造が、Aを含む環式構造により堅固に支持されており、また、N及びZも複素環中に堅固に支持されているので、より的確に、強力にアルミニウムイオン及び第二鉄イオンをキレート化することができる。この堅固なキレート化能は、極めて低濃度のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンでもキレート化できるという効果をもたらすのみならず、測定時の蛍光強度の増大にも寄与する。
【0013】
上記一般式[I]で示される化合物の中でも、Nを含む複素環が5員環である下記一般式[II]で示されるものが、錯体形成能の点から好ましい。
【0014】
【化11】
(但し、式中、Z、A及びXは、式[I]と同義、R1及びR2は、互いに独立して水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、チオール基、ハロゲン、又はニトロ基を示す。)
【0015】
なお、本明細書において、「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状アルキル基及び分枝状アルキル基の両者を包含する。また、本明細書において、「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が好ましい。
【0016】
一般式[II]で表される化合物の中でも、とりわけ、R1及びR2が水素原子、Zがイオウ原子又は酸素原子であるものが好ましい。
【0017】
Aを含む環式構造は、上記キレート化構造を環式構造上に支持するものであればいかなる環式構造であってもよいので、環式構造自体は何ら限定されない。通常、5員環〜7員環であり、ベンゼン環のような芳香環であってもよく、二重結合を含むことがあるシクロアルキルのような構造でもよく、複素環であってもよい。
【0018】
また、一般式[I]中のXで示される蛍光原子団は、任意の蛍光原子団であってよい。金属イオン測定用の蛍光プローブ自体は、種々のものが公知であり、このような蛍光プローブに用いられている蛍光性原子団はいずれも本発明において採用することができる。このような蛍光性原子団の例として、ローダミン、フルオレセイン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、クマリン、キノリン、スチルベン、ベンゾチオゾール、ピラゾリン等を挙げることができるが、本発明において採用される蛍光性原子団はこれらに限定されるものではない。
【0019】
一般式[I]又は[II]中の、式[III]
【化12】
で表される基が、式[IV]
【化13】
(但し、式中、Yは、−O−、−CH2−又は−NH−、Y’は−CH=又は−N=、X’は蛍光性原子団であって、式中の炭素原子3及び4と共に縮合環を形成していてもよく、式[IV]中の環構造を構成する任意の1又は2以上の炭素原子に結合している各水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、ハロゲン、又はニトロ基で置換されていてもよい)
で表される構造を有するものが好ましい。
【0020】
一般式[IV]中、Y’は−CH=であることが好ましい。また、Yは−O−であることが好ましい。また、環を構成する炭素原子に結合している各水素原子は、上記の通り置換されていてもよい。もっとも、このような置換基は特に必要なものではないので、置換されていない構造が単純で好ましい。また、X’としては、公知の種々の蛍光性原子団を好ましく採用することが可能である。
【0021】
一般式[IV]で表される構造のうち、感度の観点から、一般式[V]で示されるクマリン(coumarin)誘導体が特に好ましい。
【0022】
【化14】
(但し、式中、X’’は蛍光性原子団であって、式中に示されるベンゼン環と縮合する環であってもよく、式[V]中の環構造を構成する任意の1又は2以上の炭素原子に結合している各水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、各アルキル基の炭素数1〜6のモノ−又はジアルキルアミノ、ハロゲン、又はニトロ基で置換されていてもよい)
【0023】
一般式[V]で示される構造において、環を構成する炭素原子に結合している各水素原子は、上記の通り置換されていてもよい。もっとも、このような置換基は特に必要なものではないので、置換されていない構造が単純で好ましい。また、X’’としては、公知の種々の蛍光性原子団を好ましく採用することが可能である。
【0024】
一般式[V]で表される構造のうち、好ましい例として、クマリン部分の縮合ベンゼン環がさらに縮合して合計3〜5個の縮合環構造となっている構造を挙げることができる。このような好ましい構造の例として、下記一般式[VI]又は[VII]で表される構造を有するものを挙げることができる。これらの構造を有するものは、測定時に特に高い蛍光強度を示し、モル吸光係数も高く、従って、さらに高感度な測定が可能になり、さらに励起光の波長を、公知のアルミニウム蛍光プローブよりも長波長側にすることができる。
【0025】
【化15】
【0026】
【化16】
【0027】
但し、式[VI]及び式[VII]中、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲンを示す。R3、R4、R5及びR6の全てが水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であるものが好ましい。
【0028】
さらに、一般式[V]で示される構造のうち、吸収帯が長波長側にある、好ましい構造として、下記一般式[VIII]で示される構造を挙げることができる。
【0029】
【化17】
(但し、式中、R7、R8、R9、R10及びR11は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン又は水酸基を示す)
【0030】
さらに、一般式[V]で示される構造のうちの好ましい例として、一般式[V]中のX’’が、一般式[IX]
X’’’−D− [IX]
(式中、X’’’は、2〜4個の環を含む縮合環を有する蛍光性原子団、−D−は該蛍光性原子団と一般式[V]中に示されるベンゼン環とを結合する原子団を表す)
で表されるものを挙げることができる。ここで、X’’’の例としては、ローダミンやフルオレセインのような種々の公知の蛍光性原子団を採用することができる。また、−D−は、クマリン構造と蛍光性原子団とを結合しているだけの構造であるので、何ら限定されるものではなく、例えば炭素数1〜4の低級アルキレン基を挙げることができる。もっとも、親水性を高めるために、アミン、カルボニル基、チオカルボニル基、エーテル基等の極性基を含む構造が好ましく、例えば、−NH−C(=S)−NH−のように、アミンと(チオ)カルボニル基のみから成る構造や、−NH−(CH2)1〜4−O−等を好ましい例として挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0031】
一般式[IX]中のX’’’としては、下記一般式[X]で示されるものを好ましい例として挙げることができ、これらには周知の蛍光性原子団であるローダミンやフルオレセインが包含される。
【0032】
【化18】
(但し、式[X]中、R12は水素原子又はカルボキシル基、R13及びR14は、互いに独立に、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜6のジアルキルアミノ基(但し、窒素原子が、環を構成する炭素原子と二重結合して第四級アミンとなっていてもよい))
【0033】
一般式[X]で示される蛍光性原子団を有する、一般式[V]で示される構造のうち、特に好ましいものとして、下記一般式[XI]で示されるものを挙げることができる。
(但し、式中、R15、R16、R17、R18は互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す)
【0034】
さらに、一般式[V]で表される構造の好ましい例として、クマリン誘導体にアミンを結合した、下記一般式[XII]で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0035】
【化19】
(但し、式中、R19及びR20は、互いに独立に、水素、水酸基、ハロゲン、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のハロアルコキシル基、ベンジル基若しくはアセチル基、又は1個若しくは2個の単糖構造若しくはそのアシル化物を含む基である)。
【0036】
式[XII]で表される構造のうち、前記1個若しくは2個の単糖構造若しくはそのアシル化物を含む基が、グリコシル基、グリコシド基、フラクトシル基、フラクトシド基若しくは式[XIII]
【0037】
【化20】
で示される基又はこれらの基の中の1ないし4個の水酸基が炭素数1ないし6のアシル基でアシル化された構造を含む基であるものが好ましい。
【0038】
また、式[XII]における単糖構造が、炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシル基を介して式[XII]中の窒素原子に結合しているものが好ましい。
【0039】
このような化合物の好ましい例として、下記式[XIV]に示される化合物を挙げることができる。
【0040】
【化21】
【0041】
また、上記一般式[V]中のX’’が、上記一般式[IX]
X’’’−D− [IX]
で表される場合、一般式[IX]で表される基の好ましい例として、下記一般式[XV]で表されるものを挙げることができる。
【0042】
【化22】
(ただし、式中、R21は存在してもしなくてもよく、存在する場合には炭素数1〜5のアルキレン基;R22は−NH−、−NH−CO−又は−OCO−;R23は水素原子、カルボキシル基又は−COOR28(ただし、R28は1価の金属原子又は炭素数1〜5のアルキル基);R24及びR25はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン;R26は水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基;R27と環を結合している−−−−は単結合又は二重結合を示し、これが単結合を示す場合には、R27は水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、又は各アルキル部分の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、二重結合を示す場合にはカルボニル基又は=N+R29R30(但し、R29及びR30は互いに独立に炭素数1〜5のアルキル基)を示す)。なお、R22が−NH−CO−又は−OCO−である場合には、その方向(すなわち、−NH−CO−の場合には、−NH−が一般式[XV]において−CO−よりも上に来るのか下に来るのか、また、−OCO−の場合には、−O−が一般式[XVI]において−CO−よりも上に来るのか下に来るのか)は限定されず、両者とも包含される。
【0043】
一般式[XV]で表される構造のうち、R23が水素原子又はカルボキシル基、R24及びR25が水素原子、R26がジアルキルアミノ基、R27が二重結合により環に結合されたジアルキル第四級アミンであるものが好ましく、特には、R21がメチレン基、R22が−NH−、R23、R24及びR25がいずれも水素原子、R26がN(CH3)2、R27が=N+(CH3)2であるものが好ましい。
【0044】
本発明の蛍光プローブは、公知の手法に基づいて、容易に製造することができる。とりわけ、チアゾール基等の窒素含有複素環基を有するクマリン誘導体に公知の蛍光性原子団を結合すれば本発明の好ましい蛍光プローブを得ることができるので、本発明の蛍光プローブを合成することは、当業者にとって容易である。下記実施例にも、複数の蛍光プローブの合成方法の例が詳細に記載されている。
【0045】
本発明の蛍光プローブは、検体に蛍光プローブを作用させ、励起光を当てて蛍光を測定するという、従来の蛍光プローブと全く同様な方法によって使用することができる。例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO)のような、極性有機溶媒に溶解したものを、緩衝液に加え、これを検体に加え(又は検体にこれを加え)てインキュベートし、励起光を当てて蛍光を測定することができる。極性有機溶媒中のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、0.1 mMないし10 mM程度、好ましくは、0.5 mMないし2 mM程度であり、また、緩衝液に添加した後のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、1 μMないし0.1 mM程度、好ましくは、5μMないし20μM程度である。インキュベーションの時間は、特に限定されず、検体に応じて適宜選択できるが、通常、5分間〜1時間程度でよい。また、インキュベーションの温度は、特に限定されず、各検体に適した温度が適宜選択できるが、通常、0℃〜40℃程度であり、検体が細胞又は組織である場合には、その培養に適した温度(例えば、ヒト由来の細胞又は組織であれば37℃)であることが好ましい。また、蛍光の測定は、市販の蛍光計を用いて行うこともできるし、細胞内のアルミニウムイオン又は第2鉄イオンの動態を調べる場合には、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡を用いて観察することができる。このような測定方法自体は公知である。また、検体としては、特に限定されず、その中に含まれるアルミニウムイオン又は第2鉄イオンを測定しようとするいずれのものであってもよく、好ましい例として、各種細胞や組織を挙げることができる。検体が細胞又は組織である場合には、細胞又は組織の培養液を、上記した蛍光プローブ溶液に置換し、上記のようにインキュベートし、蛍光を測定することができる。
【0046】
本発明の蛍光プローブを用いることにより、アルミニウムイオン及び第2鉄イオンを測定することができる。本発明の蛍光プローブを用いた場合、アルミニウムイオンと第2鉄イオンとの識別は困難であるが、これらの両者を同時に測定(定量の場合には合計量を定量する)ことができる。なお、試料中に一方のイオンが含まれないことがわかっている場合には、他方のイオン測定用の蛍光プローブとして用いることができる。すなわち、第2鉄イオンが実質的に含まれないことがわかっている試料に対して用いる場合には、アルミニウムイオン測定用プローブとして用いることができる。従って、本発明の蛍光プローブは、例えば、近年、アルツハイマー病との関連が注目されている、脳細胞中のアルミニウム濃度の測定等に適用することができる。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 蛍光プローブKAL−2(式[XVI])の製造
【化23】
【0049】
本実施例で合成した各化合物の合成経路を下記Scheme1〜3に示す。使用した試薬は市販品の特級若しくは手に入る最高純度のものを使用した。また、実験に用いた溶媒は、すべて特級を使用した。
【0050】
化合物の精製にはシリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、化合物の同定には薄層クロマトグラフィー(TLC)、ESI−MS、及び1H−NMRを使用した。
【0051】
カラムクロマトグラフィー
固定相にはMerck社製シリカゲル60を用いた。移動相には一級相当のn−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、メタノール、アセトンを用いた。
【0052】
分取用薄層クロマトグラフィー
固定相にはMerck社製TLC plates silica gel 60 F245 with concentrating zoneを用いた。移動相には一級相当のn−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルムを用いた。
【0053】
リサイクル分取高速液体クロマトグラフィー(ODS)
Japan analytical industry社製のRecycling preparative LC−918を用いた。カラムにはODSを用いた。移動相にはHPLC用のメタノールを用いた。
【0054】
リサイクル分取高速液体クロマトグラフィー(GPC)
Japan analytical industry社製のRecycling preparative LC−918を用いた。カラムにはGPCを用いた。移動相には特級のクロロホルムを用いた。
【0055】
薄層クロマトグラフィー(TLC)
Merck plate(Silica gel,kieselgel 60F−254,0.25mm)を使用した。化合物の検出は、ヨウ素及びUV吸収(257 nm, 365 nm)によって行った。
【0056】
ESI−MS
Applied Biosystems社のMariner Biospectrometry Workstationを使用した。
【0057】
1H−NMR
JEOL JNM−LA300 (300MHz)を使用した。溶媒は重クロロホルム(CDCl3)を使用し、内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。又、シグナルの略号を以下に示す。
s;singlet, d;doublet, t;triplet, dd;doublet of doublet, q;quartet, m;multiplet
【0058】
【化24】
【0059】
5−ブロモ−2−ヒドロキシ−ベンズアルデヒド1.00g (4.97mmol,1.0eq)とヒドロキシルアミンヒドロクロリド0.70g (10.07mmol,2.0eq)を酢酸200mlに溶解し、125℃で24時間還流した。反応溶液を濃縮後、水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/酢酸エチル=9/1)で分離し、白色固体化合物1(0.58g、収率57.7%)を得た。
【0060】
TLC (シリカゲル、クロロホルム/酢酸エチル=9/1) Rf=0.28
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 6.17 (s , 1H) , 6.88 (d , 1H) , 7.59 (d , 2H)
【0061】
【化25】
【0062】
化合物1 0.500g(2.50mmol,1eq)とトリエチルアミン0.500 g (5.00mmol,2eq)を10mlエタノールに溶解し室温で30分間撹拌した。その後、氷冷下で2−アミノエタンチオールヒドロクロリド0.284 g (2.50 mmol,1eq)を滴下し、85℃で24時間還流した。反応溶液を冷却後、水を10ml加え濃縮し、飽和食塩水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で分離し、褐色の固体化合物2(0.507g、収率78%)を得た。
【0063】
TLC (Silica gel, クロロホルム) Rf=0.70
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 3.38 (t , 2H) , 4.48 (t , 2H) , 6.90 (d , 1H) , 7.40 (d , 1H) , 7.50 (s , 1H)
【0064】
【化26】
【0065】
クマリン337 0.50g(1.87mmol,1eq)とトリエチルアミン0.563g (5.61mmol,3eq)を100mlエタノールに溶解し室温で30分間撹拌した。その後、氷冷下で2−アミノエタンチオールヒドロクロリド0.318 g ( 2.805mmol,1.5eq)を滴下し、85℃で24時間還流した。反応溶液を冷却後、水を100ml加え濃縮し、飽和食塩水−クロロホルム系で3回分液抽出した。有機層を濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=50/1)で分離し、黄色の固体化合物3(KAL−2)(0.256g、収率42%)を得た。
【0066】
TLC (シリカゲル, クロロホルム/エタノール=50/1) Rf=0.40
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 1.95 (m , 4H) , 2.75 (t , 2H) , 2.85 (t , 2H) , 3.35 (m , 6H) , 4.35 (t , 2H), 6.90 (s , 1H) , 8.25 (s , 1H)
【0067】
実施例2
実施例1におけるScheme 3において、2−アミノエタンチオールヒドロクロリドに代えて、1−アミノ−2−ヒドロキシエタン(OH−CH2−CH2−NH2)を用いることを除き、実施例1と同様な操作を行い、下記構造を有する化合物4を得た。
【0068】
【化27】
【0069】
1H−NMR (300MHz、CDCl3、TMS、r.t.)
δ= 1.94(m,4H), 2.75(t,4H,6Hz), 2.88(t,4H,6Hz), 3.32(t,4H,8Hz), 4.11(t,2H,9Hz), 4.35(t,2H,9Hz), 6.88(s,1H), 8.15(s,1H)
【0070】
実施例3
実施例1で作製した本発明の蛍光プローブであるKAL−2の蛍光特性を調べた。測定条件は次の通りであった。
【0071】
【0072】
2)結果
i) 吸収スペクトル変化
Al3+濃度を0(Free)〜10−3Mまで変化させ、吸収スペクトル変化を観測したところ、Al3+濃度が8×10−6〜10−5Mの範囲において吸光度は0.179から0.305へと約1.7倍程大幅に増加した。さらにλmaxも長波長側445nmから498nmへと長波長側に大きくシフトした(図1)。同様な条件でFe3+、Zn2+、Mg2+、Na+についても測定したところ、Fe3+、Zn2+に関してはスペクトルに変化が見られた。特にFe3+を添加した場合は、ほぼAl添加のときと同じような非常に顕著なスペクトル変化を示した。
【0073】
ii)蛍光スペクトル変化
次に、吸収スペクトルから得られた極大吸収波長である498nmで励起し、その蛍光スペクトル変化を観測したところ、Al3+濃度が5×10−6〜3×10−5Mの範囲において、蛍光強度は大幅に増加した(図2)。最大発光波長は532nmであった。吸収スペクトル変化のときと同様に、Fe3+とZn2+添加時にはスペクトルに変化が見られたが、Zn2+添加時の変化は、Al3+やFe3+添加時ほど大きな変化ではなかった。
【0074】
iii)高感度検出
KAL−2濃度を10− 7Mまで100倍下げて、Al応答を観測したところ、Al濃度が10−6M〜3 x 10−6Mの範囲において蛍光強度に大幅な増加が見られた(図3)。
【0075】
iv) 他イオンに対する応答
上記方法により、アルミニウム以外の他の金属イオンに対する応答を調べた。結果を下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
比較例1
公知のアルミニウムプローブである上記KAL−1の蛍光特性について、実施例3と同様にして測定した。結果を実施例1で作製したKAL−2と比較して下記表2に示す。
【0078】
【表2】
表2
【0079】
表2に示す結果から、本発明の蛍光プローブであるKAL−2は、公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブであるKAL−1よりも以下の点で優れていることがわかる。
▲1▼ モル吸光係数の増大 4020→17900
▲2▼ 長波長化 λmax 323nm→445m
▲3▼ 蛍光強度の著しい増大 96→4900
▲4▼ 応答濃度範囲の低濃度化(錯形成能の増加)
【0080】
生体内への応用を考えた場合、励起波長が可視部にあることで細胞やタンパクへのダージが軽減、auto fluorescenceの回避など非常に有利である。またモル吸光係数の増大、蛍光強度の著しい増大によって、プローブの濃度を非常に低くしても蛍光検出が可能であるため、生体において有害物質として認識される可能性が低い。応答範囲に関しても、KAL−1と比べて10〜100倍程度応答するイオン濃度範囲が低い。生体内におけるAlイオン濃度は非常に低濃度であり(10−7M〜10−6M)、Alとの錯形成は非常に強いものが要求される。その点においてもKAL−2はKAL−1と比べて優れていると言える。
【0081】
実施例4、比較例2
実施例1で作製したKAL−2と、現在市販されているルモガリオンの蛍光特性を同一条件下で測定し、その性能を評価した。
【0082】
1)測定条件
溶媒:CH3COOH−CH3COONH4 1.0 mM buffer (pH5.0)
プローブ濃度:10−5M
イオン濃度:0(free)、10−6〜10−4M
金属塩:Al(ClO4)3・9H2O、CuCl2、FeCl3、FeCl2、ZnCl2、MgCl2、NaCl
励起波長:それぞれの極大吸収波長
蛍光測定器:molecular devices 社製 マイクロプレートリーダー
【0083】
2) 結果
i)吸収スペクトル変化
CH3COOH−CH3COONH4 0.001M buffer (pH5.0)中でKAL−2のAl3+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Mg2+、Na+濃度変化に対する吸収スペクトル変化を観測したところ、Al3+、Fe3+を添加したにスペクトルに顕著な変化が見らた。またFe2+、Zn2+を添加したときにもわずかではあるがスペクトル変化が見られた。Al3+を加えたときには吸光度が約1.5倍上昇した。これに対し、ルモガリオンでは、Al3+、Fe3+のみならずCu2+を添加した場合にも顕著なスペクトル変化が見られた。
【0084】
ii)蛍光スペクトル変化
KAL−2では、吸収スペクトルで得られたλmaxで励起し、Al3+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Mg2+、Na+を加えていったときの蛍光スペクトル変化を観測したところ、Al3+、Fe3+を添加したときのみに顕著なスペクトル変化が見られた。Al3+を添加したときには、最大蛍光強度が17000から25000へ約1.4倍ほど増加した(図4)。一方、ルモガリオンでは、Al3+を添加したときには、最大蛍光強度が約10倍程度に増加したが、蛍光強度自体がKAL−2に比べてはるかに低かった。
【0085】
iii)相対蛍光強度比較
Al3+濃度が飽和の場合、ルモガリオンと比べてKAL−2の方が7.8倍ほど蛍光強度が強かった(図5)。
【0086】
両者の各イオンに対する応答を下記表3にまとめて示す。
【0087】
【表3】
表3
◎:もっともスペクトル変化が大きかったもの
○:スペクトル変化がみられたもの
△:誤差範囲を超えたスペクトル応答を示したもの
【0088】
上記の結果からわかるように、Cu2 +に対してはルモガリオンが非常に強い錯体を形成するのに対して、KAL−2の場合はほぼスペクトル変化がなく、Cu2+との結合能が弱いと言える。このことから、Cu2+に対するAl3+選択性はルモガリオンよりもKAL−2の方が優れていると考えられる。また同条件下(Al3+飽和状態)で測定した蛍光強度は(図5)はKAL−2:9250に対して、ルモガリオン:1190となり、相対的にKAL−2の方が7.8倍程度、蛍光強度が強かった。蛍光強度が強いことは、生体内応用等の際に非常に有利に働く。
【0089】
【発明の効果】
3価のアルミニウムイオン及び第二鉄イオンに対して高く、かつ、選択的な錯形成能を有し、高い測定感度が得られるアルミニウムイオン及び/又は第二鉄イオン測定用蛍光プローブが提供された。本発明の蛍光プローブは、アルミニウムイオン及び第二鉄イオンを強力に、選択的にキレート化し、キレート化前後の蛍光スペクトルの変化も大きいので、これらのイオンを高感度に測定することができる。また、好ましい蛍光性原子団を採用することにより、励起光の波長を公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブよりも長波長側にシフトさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した本発明の蛍光プローブKAL−2の各種濃度のAl3+存在下における吸収スペクトルを示す。
【図2】本発明の蛍光プローブKAL−2の各種濃度のAl3+存在下における蛍光スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図3】本発明の蛍光プローブKAL−2の、図1よりも低濃度の各種濃度のAl3+存在下における吸収スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図4】本発明の蛍光プローブKAL−2の、図2及び図3とは異なる条件下で測定した、各種濃度のAl3+存在下における蛍光スペクトルを示す(励起波長498nm)。
【図5】本発明の蛍光プローブKAL−2と公知のアルミニウムイオン測定用蛍光プローブであるルモガリオンの蛍光スペクトルを比較して示す。
Claims (12)
- 一般式[II]中、R1及びR2が水素原子、Zがイオウ原子又は酸素原子である請求項2記載の蛍光プローブ。
- 式[IV]中のY’は−CH=である請求項4記載の蛍光プローブ。
- 式[IV]中のYは−O−である請求項5記載の蛍光プローブ。
- 上記式[IV]で表される基が、上記式[V](但し、式中、X’’は蛍光性原子団であって、式中に示されるベンゼン環と縮合する環であってもよい)で表される構造を有する請求項7記載の蛍光プローブ。
- 上記式[V]で表される基が、上記式[VI](但し、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲンを示す)で表される請求項9記載の蛍光プローブ。
- 上記式[VI]中のR3、R4、R5及びR6が水素原子である請求項10記載の蛍光プローブ。
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