JP2004084084A - フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造方法および該ウェブの製造装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ウェブの製造装置は、溶融ポリマーをフィラメント4として押し出す多数のノズル2が配列されるとともに、フィラメント4を細化するための熱風を噴射するスリット6a,6bが設けられたメルトブローダイス3と、ノズル2から押し出されたフィラメント4を捕集して搬送するコンベア1と、メルトブローダイス3の下方に配置された一対の揺動部材11a,11bとを有する。揺動部材11a,11bは、ノズル2およびスリット6a,6bを間において対向配置されて互いに連結されており、ノズル2の中心線上の軸oを中心にシーソー運動する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造方法およびそのウェブの製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
不織布の製法としては、ポリマーから紡糸したフィラメント群からウェブを形成し直ちにフィラメント間が接合される、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法(以下、これらの製法を広義のスパンボンド法と呼び、また、これらの製法によって製造された不織布を広義のスパンボンド不織布と呼ぶ)がある。広義のスパンボンド不織布は、経済性および量産性に優れることから、不織布の主流をなしている。
【0003】
従来の広義のスパンボンド不織布はフィラメントがランダムな方向に配列されたランダム不織布であるため、強度が小さく、寸法安定性の無いものが多かった。そこで、フィラメントの配列性を向上させるための種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、フィラメントを縦方向に配列させる方法として、特公昭60−25541号公報には、フィラメントの射出方向に対してコンベアを傾斜させることによってフィラメントを高度に一方向に配列させる方法が記載されている。また、特開平7−3604号公報には、気流とともに噴出させたフィラメントを通気性のあるコンベア上に堆積させ、このコンベアの裏側に気流遮断手段を設けて気流の制御を行うことにより、フィラメントを縦方向に広げ、配列性を向上させる方法が記載されている。
【0005】
一方、フィラメントを横方向に配列させる方法としては、特公平3−36948号公報および特許第1992584号に、紡糸ノズルの周囲に、それぞれノズルの円周方向成分を持ってエアを噴射する複数のエアノズルを備え、それによって、フィラメントをスパイラル状に放出し、さらにその外周に、ウェブの搬送方向と平行な方向で互いに衝突するように配された2つのエアノズルを配し、これによって、スパイラル状に放出されたフィラメントを横方向に広げることで、フィラメントを横方向に配列させる方法が開示されている。また、特許第2612203号には、コンベアに工夫を施すことでフィラメントを横方向に配列させる方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
近年の不織布工業の発展により、不織布の適用範囲が急速に拡大しており、不織布には更なる強度および寸法安定性が要求されている。一般に、不織布の強度および寸法安定性を向上させるには、フィラメントを延伸するのが最も効果的である。フィラメントの延伸は、コンベア上にウェブとして堆積した状態でウェブをフィラメントの配列方向に延伸するのが簡易な方法である。しかし、ウェブの延伸前においてフィラメントが一方向に配列されていないと、ウェブを延伸してもフィラメントの間隔が広がるだけでフィラメントが実質的に延伸される確率が低くなり、延伸後の十分な強度および寸法安定性が得られなくなる。従来の不織布の製造方法では、フィラメントを高度に配列させる程度が不十分であり、近年要求されているような高い強度および寸法安定性を有する不織布を製造するのは困難であった。つまり、更なる高い強度および寸法安定性を有する不織布を製造するには、ウェブに対しても更に高度にフィラメントが一方向に配列されていることが要求される。
【0007】
本出願人らは、フィラメントの配列性を向上させる方法として、断面が楕円形のロッド部材を広義のスパンボンド法による紡糸ダイスの近傍に配置し、ロッド部材を一方向に回転させることで紡糸ダイスから噴出される高速流体の流れの向きを周期的に変動させ、これによってフィラメントを周期的に振動させる方法を提案している(特開2001−140159号公報)。しかし、この方法ではロッド部材を一方向に回転させているため、ロッド部材を適切な位置に配置しないと、紡糸ダイスから放出されたフィラメントがロッド部材に絡み付いてしまうことがあった。フィラメントの絡み付きを防止するためにはロッド部材を紡糸ダイスからある程度離して配置すればよいが、紡糸ダイスから離れた位置では高速流体の流速が低下してしまい、フィラメントを振動させる程度が小さくなってしまう。また、フィラメントの絡み付きを防止するために、ロッド部材をフィラメントの流れから離して配置することも考えられるが、この場合もやはり、ロッド部材による高速流体の流れの向きを変動させる効果が低下してしまうので、フィラメントを振動させる程度が小さくなってしまう。
【0008】
そこで本発明は、紡糸ダイスから噴出される高速気流を有効に利用してフィラメントを効率良く振動させ、結果的にフィラメントをより高度に一方向に配列させることのできる、ウェブの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明のウェブの製造方法は、溶融ポリマーをフィラメントとして押し出す複数のノズル、および押し出されたフィラメントを細化するための高速流体を噴射する噴射部を備えた紡糸手段と、前記ノズルから押し出されたフィラメントを捕集し搬送するコンベアと、前記紡糸手段の下方に配置され、前記噴射部から噴射された高速流体の流域に対面する表面を有する揺動部材とを用いた、フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造方法であって、
前記噴射部から高速流体を噴射すると同時に、前記ノズルからフィラメントを押し出す工程と、
前記揺動部材を、前記揺動部材よりも前記高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動させ、前記高速流体の流れの向きを周期的に変動させる工程と、
流れの向きが周期的に変動する前記高速流体に随伴するフィラメントをコンベア上に捕集する工程とを有する。
【0010】
また、本発明のウェブの製造装置は、フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造装置であって、
溶融ポリマーをフィラメントとして押し出す複数のノズル、および押し出されたフィラメントを細化するための高速流体を噴射する噴射部を備えた紡糸手段と、
前記ノズルから押し出されたフィラメントを捕集し搬送するコンベアと、
前記高速流体の流域に対面する表面を持つ揺動部材であって、前記紡糸手段の下方に配置され、前記揺動部材よりも前記高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動し、前記高速流体の流れの向きを周期的に変動させる揺動部材とを有する。
【0011】
本発明によれば、ノズルから押し出されたフィラメントは、噴射部から噴射された高速流体により細化されてコンベア上に捕集され、コンベアで搬送されることでウェブとなる。ここで、紡糸手段の下方に、噴射部から噴射された高速流体の流域に対面する表面を有する揺動部材が配置され、この揺動部材は、それ自身よりも高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動する。
【0012】
揺動部材がこのように揺動することにより、揺動部材の表面は、高速流体の流域の中心に接近したり離れたりする。揺動部材の表面が高速流体の流域の中心に接近すると、高速流体は揺動部材の表面に沿って流れようとし、その結果、フィラメントは揺動部材に引き寄せられる。一方、揺動部材の表面が高速流体の流域の中心から離れると、高速流体は揺動部材の影響を受けず、本来の噴射方向に沿って流れる。この動作を繰り返すことによりフィラメントは一方向に振られながらコンベア上に捕集され、結果的にフィラメントが一方向に高度に配列されたウェブが得られる。
【0013】
フィラメントをより効果的に振らせるためには、2つの揺動部材を、噴射部から噴射される高速流体の両側に対として互いに連結して配置し、2つの揺動部材の中間位置を中心としてシーソー運動させることが好ましい。また、揺動部材を、揺動部材の揺動範囲の上昇端位置で、高速流体の流域の中心に最も接近するように揺動させることで、揺動部材の表面によって高速流体の流れ方向を変化させ易い、高速流体の流れの速い部分を利用することができる。
【0014】
揺動部材は、噴射部から噴射される高速流体の流域に対面する表面を有するものであれば、円形、楕円形、またはティアドロップ形状の断面を有するシャフト状の部材であってもよいし、板状の部材であってもよい。特に、揺動部材をシャフト状の部材とした場合、揺動部材が高速流体の流域の中心に最も接近したときに高速流体の流域の中心に対する最短距離が定まる部分よりも上側の部分を揺動部材の長手方向に沿って切り取った形状とすることで、揺動部材を、その高速流体の流れの向きを変動させるのに寄与する領域が紡糸手段により接近させて配置することができる。
【0015】
本発明において、フィラメントの配列方向や延伸方向等を説明する場合に用いる「縦方向」とは、ウェブまたは不織布を製造する際の機械方向すなわちウェブまたは不織布の送り方向を意味し、「横方向」とは、縦方向と直角な方向すなわちウェブまたは不織布の幅方向を意味する。
【0016】
本発明において「高速流体」とは、10m/sec以上、好ましくは20m/sec以上、最も好ましくは30m/sec以上の流速を有する流体を意味する。また、「流体」は、通常は空気を意味するが、酸化を防止するために窒素ガスを使用したり、水分蒸発を防ぐためなどに水蒸気を使用したりする場合も含む。
【0017】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である、メルトブロー法によるウェブの製造装置の概略正面図である。図1に示す装置は、フィラメント4が縦方向に配列されたウェブ8を製造するものであり、フィラメント4を紡糸するメルトブローダイス3と、紡糸されたフィラメント4を捕集し搬送するコンベア1と、メルトブローダイス3から紡糸されたフィラメント4を縦方向(コンベア1による搬送方向と平行な方向)に周期的に振らせるための気流振動機構10とを有する。なお、図1において、メルトブローダイス3は内部構造が分かるように断面で示している。
【0019】
メルトブローダイス3は、その先端(下端)に、コンベア1の幅方向と平行な方向に並列に配列された多数のノズル2を有する。ギアポンプ(不図示)から送られてきた溶融樹脂がそれぞれノズル2から下向きに押し出されることで、コンベア1の幅方向に多数のフィラメント4が形成される。メルトブローダイス3のノズル2の両側、詳しく言えば、各ノズル2の中心線を通る平面に垂直な方向についてノズル2の両側には、それぞれメルトブローダイス3の幅方向(コンベア1の幅方向)に沿って設けられ、メルトブローダイス3の先端のノズル2に隣接する位置に開口するスリット6a,6bが形成されている。各スリット6a,6bはそれぞれメルトブローダイス3の内部に設けられたエア供給路5a,5bに連通している。エア供給路5a,5bには、フィラメント4の原料となる樹脂の融点以上に加熱された高圧エアが送入され、エア供給路5a,5bに送入された高圧エアは、スリット6a,6bから熱風(高速流体)としてフィラメント4に向けて噴出される。スリット6a,6bから噴出した熱風は、ノズル2の下方で合流してノズル2の中心線に沿って流れ、熱風の流域の中心はノズル2の中心線とほぼ一致する。
【0020】
スリット6a,6bから噴出された熱風により、ノズル2から押し出されたフィラメント4は溶融状態に維持され、熱風との摩擦力によりフィラメント4に張力が与えられ、フィラメント4が細化される。上記のメルトブローダイス3の構造は、通常のメルトブロー法に用いられるダイスと同様である。熱風の温度は、フィラメント4の紡糸温度よりも80℃以上、望ましくは120℃以上高くする。
【0021】
メルトブローダイス3を用いてフィラメント4を紡糸する方法では、熱風の温度を高くすることにより、ノズル2から押し出された直後のフィラメント4の温度をフィラメント4の融点よりも十分に高くすることができるため、フィラメント4の結晶化度を小さくすることができる。
【0022】
コンベア1は、メルトブローダイス3の下方に配置される。コンベア1は、不図示の駆動源により回転されるコンベアローラ1aやその他のローラに掛け回されている。これらのローラの回転によりコンベア1を駆動することで、ノズル2から押し出されたフィラメント4がコンベア1上に捕集されて得られるウェブ8は、図1において左側から右側へ搬送される。
【0023】
気流振動機構10は、メルトブローダイス3の下方でノズル2の近傍に配置された、楕円形断面を有するシャフト状の一対の揺動部材11a,11bを有する。揺動部材11a,11bは、メルトブローダイス3から紡糸されたフィラメント4が間を通過するように互いに間隔をあけて対向配置されて、軸oを中心にして揺動可能に支持された連結部材12によって、矢印Aに示すように揺動自在に支持されている。連結部材12は、2つの揺動部材11a,11bを連結する連結部12aと、連結部12aの中間位置から下向きに延びた延長部12bとを有する。連結部12aは、その両端部が揺動部材11a,11bの中心軸上に固定され、これによって、揺動部材11a,11bは互いの相対的な姿勢が変化しないように支持されている。
【0024】
連結部材12の揺動中心である軸oは、2つの揺動部材11a,11bの中心を結ぶ線と、ノズル2の中心線との交点上に位置しており、また、各揺動部材11a,11bの中心軸から連結部材12の軸oまでの距離はともに等しい。さらに本実施形態では、2つの揺動部材11a,11bは、互いに姿勢が同じになるように、具体的には揺動部材11a,11bの断面における短軸が同一直線上に位置するように、連結部材12に固定されている。
【0025】
延長部12bは、アーム13を介して、回転軸rを中心に回転する円板14と連結されている。アーム13は、その一端部が円板14の偏心点pに揺動自在に連結され、他端部が延長部12bの下端部の点qに揺動自在に連結されている。
【0026】
上述した構成により、円板14を回転させると、円板14の回転運動はアーム13を介して連結部材12の揺動運動に変換される。連結部材12は軸oを中心に揺動するので、揺動部材11a,11bは、一方が上昇するときには他方が下降し一方が下降するときには他方が上昇するシーソー運動を行う。揺動部材11a,11bの揺動範囲は、2つの揺動部材11a,11bの高さが等しくなる位置が中間位置となるように設定される。また、連結部材12の軸oはノズル2の中心線上にあるので、揺動部材11a,11bの周面は、揺動部材11a,11bが上昇端位置または下降端位置にあるときに、ノズル2の中心線に最も接近し、中間位置にあるときに、ノズル2の中心線から最も離れる。
【0027】
ここでは揺動部材11a,11bの駆動機構としてリンク機構を用いた例を示したが、揺動部材11a,11bをシーソー運動させることのできる機構であれば任意の機構を用いることができる。例えば、連結部材12の軸oに、回転量および回転方向を制御可能なモータを直結し、これによって揺動部材11a,11bをシーソー運動させてもよい。
【0028】
気流振動機構10は、メルトブローダイス3からフィラメント4を紡糸する際に駆動される。以下に、フィラメント4を紡糸中に気流振動機構10を駆動したときのフィラメント4の挙動について、図1を参照しつつ、図2(a)〜(d)を用いて説明する。なお、図2(a)〜(d)では、フィラメント4の挙動や周囲のエアの流れなどをわかり易くするため、気流振動機構は揺動部材11a,11bのみを示している。また、同図では、ノズル2の中心線を一点鎖線で示すとともに、揺動部材11a,11bの移動方向を実線の矢印、熱風の流れを破線の矢印、周囲のエアの流れを白抜き矢印でそれぞれ示す。
【0029】
図2(a)は、図1において円板14の偏心点pがaの位置にある状態を示す。この状態では、揺動部材11a,11bはその揺動範囲の中心位置にあり、揺動部材11a,11bの周面もノズル2の中心線から最も離れている。そして、揺動部材11a,11bは、ノズル2の中心線に対して対称に配置されている。従って、揺動部材11a,11bは、スリット6a,6bから噴出した熱風には何も影響を与えず、熱風は本来の噴射方向に沿って流れるので、フィラメント4はノズル2の中心線に沿って流れる。
【0030】
図2(a)に示す状態から円板14を図1に示す矢印B方向に回転させると、左側の揺動部材11aが下降すると同時に、右側の揺動部材11bが上昇する。そして、図2(a)に示す状態から円板14が90°回転すると、図2(b)に示すように、左側の揺動部材11aは下降端位置に位置し、右側の揺動部材11bは上昇端位置に位置する。揺動部材11a,11bは、この移動に伴い、ノズル2の中心線に接近する。ノズル2の直下では、右側の揺動部材11bがノズル2の中心線すなわちスリット6a,6bから噴出される熱風の流域の中心に接近することによってコアンダ効果が生じ、熱風の流れ方向が変化する。コアンダ効果とは、高速で流れる流体の流域中に壁面が存在するとき、その壁面が曲面であっても流体が壁面に沿って流れようとする、流体の性質をいう。
【0031】
熱風の流れ方向の変化についてより詳しく説明する。揺動部材11bは、断面が楕円形であり、しかも、上昇移動によってノズル2の中心線に対して傾き、ノズル2の中心線から揺動部材11bの周面までの距離は、全体として、熱風の流れ方向について下流に向かうにつれて徐々に大きくなる。従って、熱風は揺動部材11bの周面に沿って、ノズル2の中心線から離れる向きに流れ方向が変化し、それに伴って、フィラメント4は揺動部材11bに引き寄せられる。
【0032】
図2(b)に示す状態では、左側の揺動部材11aもノズル2の中心線に接近するが、左側の揺動部材11aは、右側の揺動部材11bよりも熱風の流れ方向の下流にある。その位置では既に右側の揺動部材11bによって熱風の流れ方向が変化しており、熱風の流域は左側の揺動部材11aから遠ざかっている。そのため、フィラメント4が左側の揺動部材11aに引き寄せられることはない。
【0033】
そして、さらに円板14(図1参照)を回転させると、左側の揺動部材11aが上昇を開始すると同時に、右側の揺動部材11bが下降を開始する。円板14が、図2(b)に示した状態から90°回転すると、図2(c)に示すように、揺動部材11a,11bは、その揺動範囲の中心位置に位置する。この位置では図2(a)と同様に、揺動部材11a,11bの周面はノズル2の中心線から最も離れており揺動部材11a,11bは熱風の流れに影響を及ぼさない。従って、熱風はノズル2の中心線に沿って流れ、フィラメント4も熱風の流れに沿って流れる。
【0034】
さらに円板14(図1参照)を図2(c)に示した状態から90°回転させると、左側の揺動部材11aは上昇端位置に位置し、右側の揺動部材11bは下降端位置に位置する。従って、図2(b)に示した場合と逆に、スリット6a,6bから噴出された熱風は、左側の揺動部材11aの周面に沿って、ノズル2の中心線から離れる向きに流れ方向が変化する。これにより、フィラメント4は左側の揺動部材11aに引き寄せられる。
【0035】
以上説明した揺動部材11a,11bの動作を繰り返し行うことで、図1に示すように、フィラメント4は、コンベア1による搬送方向すなわち縦方向に振られ、コンベア1上で折り畳まれて捕集される。従って、コンベア1上でのフィラメント4の縦方向への配列性を向上させ、かつ、コンベア1上でのフィラメント4の振れ幅Sを大きくすることができる。フィラメント4の縦方向への配列性を向上させることは、ウェブ8の縦方向の強度を向上させるのに効果がある。
【0036】
このように、フィラメント4の配列性の向上を、揺動部材11a,11bの単純なシーソー運動のみで実現することができるので、装置構成も極めて簡単なものとなる。また、揺動部材11a,11bは回転しないので、揺動部材11a,11bをメルトブローダイス3により接近させて配置しても、フィラメント4が揺動部材11a,11bに巻き付くことはない。熱風は、その流速が速ければ速いほど、揺動部材11a,11bに引き寄せられやすくなる。また、熱風の流速は、メルトブローダイス3から離れると急速に低下する。従って、揺動部材11a,11bをメルトブローダイス3に接近させて配置できるということは、熱風の流速の速い領域を有効に利用してフィラメント4の振れ幅Sをより大きくすることができるということを意味する。
【0037】
ところで、スリット6a,6bから熱風を噴出させると、熱風の周囲の気体も熱風に伴って流れる。この熱風の周囲の気体の流れを随伴流という。一般的なメルトブローダイス3では、噴出されている熱風の量に対して約10倍の量の随伴流を生じることが知られている。この随伴流を有効に利用することが、コアンダ効果を利用する上で非常に重要なポイントとなる。
【0038】
メルトブローダイス3と各揺動部材11a,11bとの間には隙間が存在しており、スリット6a,6bからの熱風の噴射に伴い、これらの隙間から各揺動部材11a,11bの間の領域内(熱風の流域中)への空気の流れが生じる。ここで、例えば図2(b)に示す状態では、左側の揺動部材11aとメルトブローダイス3との間の隙間は、右側の揺動部材11bとメルトブローダイス3との間の隙間よりも大きくなっている。このため、左右の隙間を比べると、左側の隙間の方から、より多くの空気が流入する。流入した空気は熱風の随伴流となり、右側の揺動部材11bの周面に沿う熱風の流れ、さらにはフィラメント4の流れを補助する。一方、図2(d)に示す状態では、その逆に、右側の揺動部材11bとメルトブローダイス3との間の隙間からより多くの流入し、これが随伴流となって、左側の揺動部材11aの周面に沿う熱風の流れ、さらにはフィラメント4の流れを補助する。
【0039】
このように、一対の揺動部材11a,11bのシーソー運動を利用して揺動部材11a,11bの間への空気の流入を制御し、一方の揺動部材11a(11b)側にフィラメント4が引き寄せられる状態のときに、他方の揺動部材11b(11a)の上方から空気を流入させやすくすることで、コアンダ効果をより効果的に発揮させ、フィラメント4の配列性をより向上させるとともに、フィラメント4の振れ幅Sをより大きくすることができる。
【0040】
揺動部材11a,11bは、メルトブローダイス3にできるだけ接近して配置させるのが好ましいことは前述したとおりである。ここで、揺動部材11a,11bの周面がノズル2の中心線に最も接近したときの、ノズル2の中心線から揺動部材11a,11bまでの距離をL1、この距離L1が定まる位置でのメルトブローダイス3と揺動部材11a,11bとの距離をL2とする。このとき、L1は、30mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは15mm以下であり、最も好ましいのは10mm以下である。また、L2は、80mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50mm以下であり、最も好ましいのは40mm以下である。ただし、揺動部材11a,11bは、フィラメント4に衝突しない位置に配置され、かつ揺動範囲を定める必要がある。また、フィラメント4をバランス良く振らせるためには、揺動部材11a,11bがその揺動範囲の中間位置にあるときに、各揺動部材11a,11bをノズル2の中心線に対して対称となるように配置することが好ましい。
【0041】
フィラメント4の振れ幅は、熱風の流速や、揺動部材11a,11bの運動周期にも依存する。フィラメント4は、揺動部材11a,11bの運動周期が、熱風の持つ固有の振動数と一致したときに最も大きく振られる。フィラメント4を大きく振らせるためには、揺動部材11a,11bの運動周期は、紡糸条件によって異なるが、一般的な紡糸条件では、5〜30Hzの範囲にあることが好ましく、より好ましくは7〜20Hz、最も好ましくは10〜18Hzの範囲である。揺動部材11a,11bの運動周期が5Hz未満では、熱風の流速と比べて遅く、コンベア1上でフィラメント4の振れ幅を有効に大きくできないおそれがある。熱風の流速は、10m/sec以上、好ましくは15m/sec以上である。これ以下の速度では、フィラメント4を十分に振らせることができなくなるおそれがある。
【0042】
揺動部材11a,11bの長さは、メルトブローダイス3によって紡糸されるフィラメント群の幅すなわちノズル2の配列長さ以上であることが望ましく、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上長い。揺動部材11a,11bの長さがノズル2の配列長さよりも短いと、フィラメント群の幅方向端部においてフィラメント4が十分に配列されなくなるおそれがある。また、長さの短い揺動部材を直列に並べることは、揺動部材が互いに干渉したり、揺動部材間でフィラメントが十分に配列されなくなるおそれもあるので、適当ではない。
【0043】
図1ではフィラメント4が縦方向に配列されたウェブ8を製造するための装置を示したが、メルトブローダイス3および気流振動機構10の配置を変えることによって、フィラメント4が横方向に配列されたウェブ8を製造することもできる。図3に、フィラメントが横方向に配列されたウェブの製造装置の一例を示す。図3において、(a)は正面図、(b)は側面図であり、それぞれ気流振動機構は揺動部材のみを示している。また、図3ではメルトブローダイスおよび揺動部材の配置が図1と異なるだけであるので、図1と同様の構成については図1と同じ符号を付している。
【0044】
図3に示すように、フィラメント4を横方向に配列させるためには、メルトブローダイス3を、そのノズル2の配列の長手方向がコンベア1によるウェブ8の搬送方向と平行になるように配置するとともに、揺動部材11a,11bも、メルトブローダイス3と平行になるように、ノズル2から押し出されたフィラメント4を間において対向配置する。各揺動部材11a,11bは、図2を用いて説明したのと同様にシーソー運動される。これにより、ノズル2から押し出されたフィラメント4は横方向に振られながらコンベア1上に捕集され、横方向へのフィラメント4の配列性が向上したウェブ8を得ることができる。
【0045】
図1に示した配置では、ウェブ8の幅はノズル2の配列の長手方向の長さに依存するが、図3に示した配置では、ウェブ8の幅はフィラメント4の振れ幅Sに依存する。したがって、図3に示した配置では、フィラメント4の振れ幅Sを適宜設定することによって、ウェブ8の幅を自由に変更することができる。つまり、フィラメント4の振れ幅Sをより大きくすることによって、より幅広のウェブ8を製造することができる。
【0046】
通常のメルトブロー紡糸では、フィラメントは熱風とともにコンベアに直線的に衝突するので、コンベアに到達するまでの時間すなわち冷却時間が短い。また、ノズルとコンベアとの距離を大きくし過ぎると、ウェブの地合(坪量の部分的な均一性)が悪くなる。従って、通常のメルトブロー紡糸では、ノズルとコンベアとの距離は300mm前後とされている。これに対し本発明によれば、フィラメント4の振れ幅Sが大きくなるので、フィラメント4がコンベア1に到達するまでの時間が長くなり、メルトブローダイス3とコンベア1との距離を大きくしなくてもフィラメント4を良好に冷却することができる。また、理由は必ずしも明確ではないが、ウェブ8の地合もむしろ良好になることが実験の結果明らかになった。
【0047】
以上、本発明について、代表的な幾つかの例を挙げて説明した。以下に、本発明に適用可能なフィラメント、紡糸手段、揺動部材の形態、および他の付加的な構成要素の例について説明する。
【0048】
〈フィラメント〉
本発明に用いられるフィラメントに適合するポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン、フッ素系樹脂などの熱可塑性樹脂およびこれらの変性樹脂を用いることができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂などの、湿式または乾式の紡糸装置による樹脂も使用することができる。
【0049】
本発明におけるフィラメントは長繊維フィラメントである。一般的には、長繊維フィラメントとは平均長が100mmを超えるものをいい、本発明のように連続的に紡糸されたフィラメントは長繊維フィラメントに含まれる。また、紡糸直後のフィラメントの直径が50μm以上ではフィラメントが剛直で交絡が不十分になる。そこで本発明に用いられるフィラメントの直径は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下である。特に強度の強いウェブを望む場合は、ウェブの紡糸後、ウェブをフィラメントの配列方向に延伸するのが望ましい。その場合の延伸後のフィラメントの直径は5μm以上15μm以下であることが望ましい。フィラメントの直径及び長さは、拡大顕微鏡写真より測定し、長さについては30本の平均値、直径については100本の平均値で示す。
【0050】
〈紡糸手段〉
フィラメントの紡糸手段として、広義のスパンボンド法であるメルトブロー法によるものについて説明したが、以下に、狭義のスパンボンド法を用いた例について説明する。
【0051】
図4は、狭義のスパンボンド法を用いたウェブ製造装置を正面から見た概略断面図である。通常のスパンボンド紡糸では、コンベア41の幅方向に並列に配列された多数の紡糸孔を有するスパンボンドダイス43から紡糸された多数のフィラメント44は、エジェクタ45でエア46により吸引され、エジェクタ45のノズル45aにより加速されたエア46である高速気流に伴われてコンベア41の上に捕集される。コンベア41は、コンベアローラ(不図示)によって駆動され、フィラメント44を図面の左側から右側へ搬送する。
【0052】
エジェクタ45の直下には、一対の揺動部材51a,51bが、ノズル45aからエア46とともに放出されたフィラメント44を間において対向配置されている。揺動部材51a,51bは、図1に示したものと同様のものであり、その駆動機構については省略しているが、図1と同様にシーソー運動することにより、エア46の向きをコンベア41の搬送方向に周期的に変動させ、フィラメント44を交互に引き寄せる。これにより、フィラメント44は縦方向に折り畳まれてコンベア41上に捕集され、フィラメント44が縦方向に配列されたウェブ48が得られる。
【0053】
また、前述したメルトブロー法の場合と同様に、スパンボンドダイス43および揺動部材51a,51bをコンベア41によるウェブ48の搬送方向と平行に配置することで、フィラメント44が横方向に配列されたウェブ48を製造することができる。
【0054】
フィラメントの紡糸法が狭義のスパンボンド法やフラッシュ紡糸法である場合は、フィラメントの結晶化が既になされている場合もあるが、このような場合であっても、気流振動機構を用いることにより、フィラメントの配列を飛躍的に向上させることが可能であり、フィラメントの配列方向に強いウェブを得ることができる。
【0055】
また、一般的な紡糸手段は複数のノズルを有しているが、このノズルの配列について本発明では何ら限定されるものではない。例えば図1に示したメルトブローダイス3では、図5(a)に示すように、複数のノズル2が1列に配列されている。一方、スパンボンドダイスでは、一般にノズルが複数列となっている。スパンボンドダイスにおけるノズルの配列パターンには種々のパターンがある。例えば、図5(b)に示すスパンボンドダイス23では、各列のノズル22の位置をノズル22の配列の長手方向に半ピッチずらして配列している。また、図5(c)に示すスパンボンドダイス33では、それぞれ複数のノズル32aが形成されたノズルユニット32を、複数列に、かつ、各列のノズルユニット32の位置をノズルユニット32の配列の長手方向に半ピッチずらして配列している。図5(a)〜(c)の何れの場合でも、ノズルの配列の長手方向は、図面の左右方向である。
【0056】
〈揺動部材〉
上述した例では楕円形断面を有するシャフト状の揺動部材を示したが、本発明に適用可能な揺動部材の形状はそれに限られるものではなく、揺動部材の表面の少なくとも高速流体に対面する領域およびそれに続く下側の領域が、高速流体に向かって滑らかに凸となっている形状であれば、任意の形状を採用することができる。以下に、その幾つかの例を示す。
【0057】
図6には、円形断面を有するシャフト状の揺動部材61a,61bを示す。このような揺動部材11a,11bは作製が容易である。
【0058】
図7には、ティアドロップ形状の断面を有するシャフト状の揺動部材71a,71bを示す。この揺動部材71a,71bは、エッジ部72a,72bを上すなわち紡糸ダイス70側に向けて配置される。これにより、断面が円形や楕円形の場合に比べて、図1に示す距離L1が定まる位置をより紡糸ダイス70に接近させて揺動部材71a,71bを配置することができ、コアンダ効果を有効に機能させることができる。
【0059】
図8に示す揺動部材81a,81bは、断面が楕円形のシャフトを、その上部(紡糸ダイス80側の端部)で揺動部材81a,81bの長手方向に沿って切り取った形状を有している。断面が楕円形の揺動部材の場合、上昇端位置にあるときに図1に示す距離L1が定まる位置よりも上側の部分は、高速流体の流れ方向を変化させるのに寄与しない。従って、この部分を切り取った形状とすることで、図1に示す距離L1が定まる位置をより紡糸ダイス80に接近させて揺動部材81a,81bを配置することができる。このことは、図には示さないが、断面が円形やティアドロップ形状の場合でも同様である。距離L1が定まる位置を紡糸ダイス80により接近させるためには、図8(b)および(c)に示すように、揺動部材81a,81bが上昇端位置にあるときに、紡糸ダイス80の底面と揺動部材81a,81bの上面82a,82bとのなす角度θが0度以上となるように、揺動部材81a,81bの上面82a,82bを形成することが好ましい。
【0060】
図9には、シャフト状ではなくプレート状の揺動部材91a,91bを示す。揺動部材が高速流体の流れ方向を変化させるのに寄与するのは、実際には、揺動部材の、高速流体の流域に向き合う面であり、それ以外の面は任意の形状であっても高速流体の流れには何ら影響を及ぼさない。そこで図9に示すように揺動部材91a,91bをプレート状とすることで、揺動部材91a,91bの軽量化が図られる。軽量の揺動部材91a,91bとすることで、揺動部材91a,91bを小さな力で動かすことができるので、揺動部材91a,91bの駆動源も小型のものを使用できる。なお、シャフト状の揺動部材であっても、中実ではなく中空の揺動部材とすることで軽量化を図ることができる。
【0061】
本発明において、揺動部材は対をなすものである必要はなく、1つであってもよい。揺動部材が1つの場合であっても、揺動部材は、高速流体への接近時には上昇動作を伴い、高速流体から離れるときには下降動作を伴うように揺動する。ただし、揺動部材が1つだけの場合はフィラメントの振れ幅も小さくなるので、揺動部材を1つにするか1対にするかは、目的とするウェブを得るのに必要なフィラメントの振れ幅に応じて選択する。
【0062】
〈付加的な構成要素〉
得られたウェブは、そのままでも使用可能であるが、さらに、フィラメントの配列方向に延伸することにより、フィラメントの配列性をより向上させることができる。したがって、フィラメントの配列方向にウェブを延伸する延伸装置を付加することが好ましい。このとき、フィラメントの配列性が良いものほど、ウェブの延伸時にフィラメントが実質的に延伸される確率が高くなり、最終延伸ウェブの強度も大きくなる。フィラメントの配列が悪いと、ウェブを延伸してもフィラメントの折り畳み構造やフィラメントの間隔が広がるだけでフィラメントが実質的に延伸される確率が低くなり、延伸後の十分な強度が得られなくなる。また、ウェブの段階でフィラメントを高度に一方向に配列させることで、延伸時のフィラメントの切れを防止することができる。
【0063】
フィラメントが縦方向に配列されたウェブは縦方向に延伸される。ウェブの縦方向への延伸には、1段で全延伸する場合もあるが、主に多段延伸法が用いられている。多段延伸法においては、1段目の延伸は紡糸直後の予備延伸として行われ、さらにその後に延伸する2段目以降の延伸が主延伸として行われている。その中でも特に、多段延伸の1段目の延伸に近接延伸法を用いることが好ましい。
【0064】
近接延伸とは、隣接する2組のロールの表面速度の差によりウェブを延伸する方式において、短い延伸間距離(延伸の開始点から終点までの距離)を保って延伸を行うものであり、延伸間距離が100mm以下であることが望ましい。特に、フィラメントが全体として縦方向に配列していても個々にはある程度屈曲している場合には、できるだけ延伸間距離を短く保つことが、個々のフィラメントを有効に延伸する上で重要である。近接延伸における熱は、通常は延伸するロールを加熱することにより与えられ、その延伸点が熱風や赤外線により補助的に加熱される。また、近接延伸の際の熱源としては、温水や蒸気等も使用することができる。
【0065】
一方、多段延伸においては、2段目以降の延伸には近接延伸ばかりでなく、通常のウェブの延伸に用いられる種々の手段を適用することができる。例えば、ロール延伸、温水延伸、蒸気延伸、熱盤延伸、ロール圧延等の延伸方式である。近接延伸が必ずしも必要ないのは、1段目の延伸で既に個々のフィラメントが縦方向に長くわたっているためである。
【0066】
一方、フィラメントが横方向に配列されたウェブは横方向に延伸される。ウェブを横方向に延伸する手段としては、例えば、フィルムの2軸延伸に用いられているテンター式の横延伸装置や、特公平3−36948号公報に記載されるプーリ式の横延伸装置や、周方向に沿った溝がそれぞれ形成された2つの溝付きローラでウェブを挟むことによりウェブを横方向に延伸する溝ローラ式の横延伸装置を用いることができる。それらの延伸装置のうち、プーリ式の横延伸装置は、安価で簡便な方法であり、しかも延伸倍率を自由に変化させることができ高倍率延伸も可能であるので、本発明に用いられる横延伸装置として最も適している。
【0067】
なお、延伸後のウェブの幅を非常に大きくしたい場合には、通常の延伸温度での横延伸の前に、通常の延伸温度よりも高い温度(ポリエステルの場合は5〜10℃高い温度、ポリプロピレンの場合は20〜30℃高い温度)で予備延伸を行う方法が有効である。その場合の横延伸装置としては上述の延伸装置を使用することができる。
【0068】
ウェブの延伸において、延伸前のウェブに軽くエンボス処理を施し、その後に延伸することにより、延伸倍率を高くすることができ、延伸後の強度も向上し、また、延伸切れ等のトラブルも少ない安定した延伸を行うことができる。この場合のエンボスパターンは、延伸方向と直角な方向に方向性を持つパターンであることが望ましい。エンボス温度は、延伸温度+5℃よりも低い温度とするのが好ましい。エンボス圧力は、高すぎるとウェブのフィラメントを損傷し延伸切れの原因となるので、線圧で3N/cm〜50N/cmの範囲が好ましく、より好ましくは8N/cm〜30N/cmの範囲、最も好ましくは10N/cm〜25N/cmの範囲である。なお、エンボスローラの場合、ウェブはその全幅が一様にエンボスローラで加圧されるわけではなく、エンボス圧力はエンボス箇所の一点一点にかかるわけではない。しかし、ここで実施されるエンボスではエンボス圧力は十分に小さい圧力でよく厳密に計算する必要はないので、ここではエンボス圧力を、通常の線圧と同様に、
線圧(N/cm)=押下力(N)/エンボスローラ幅(cm)
で定義している。
【0069】
ウェブの延伸倍率は、ウェブを構成するフィラメントのポリマーの種類やウェブの紡糸手段、目的とする縦方向及び横方向の強度や伸度等によって異なる。しかし、いずれの種類や手段を用いるにしろ、本発明の目的であるウェブの高配列性、高強度を達成できる延伸倍率が選択される。
【0070】
その延伸倍率は、延伸前のウェブに延伸方向に一定の間隔で入れたマークにより以下の式で定義される。
延伸倍率=[延伸後のマーク間の長さ]/[延伸前のマーク間の長さ]
ここでいう延伸倍率は、通常の長繊維フィラメントヤーンを延伸する場合のように、必ずしもフィラメント1本1本の延伸倍率を意味しない。
【0071】
ウェブは、前述したように、フィラメントの配列方向に延伸することにより、フィラメントの配列性をさらに向上させることができる。しかし、フィラメントの結晶化度が大きい場合は、フィラメントに伸度がなく、延伸張力が高くなるので、高倍率の後延伸が困難になる場合もある。高倍率の後延伸を望む場合は、ノズル直下でフィラメントを冷却することによりフィラメントの結晶化度を小さくするのが有効である。その手段として最も有効なのが、紡糸装置とコンベアとの間に、高速気流中へ霧状の水を噴霧するスプレーノズル(不図示)を設け、高速気流に霧状の液体を含ませることである。
【0072】
その霧状の液体に、いわゆる紡糸・延伸用油剤と称する延伸性や静電除去等の性質を付与することができる油剤を添加することも、その後の延伸性を向上させるとともに、毛羽も少なくすることができ、さらに延伸後の強度及び伸度も向上させることができるという点で有効である。なお、スプレーノズルから噴射される流体は、フィラメントを冷却することができるものであれば必ずしも水分等を含む必要はなく、冷エアーであってもよい。
【0073】
本発明により得られるウェブは、引張強度および寸法安定性に優れており、一方向に強度を要する不織布や直交不織布の原料ウェブとして使用することができる。また、本発明によるウェブは、一方向の強度が要求されるウェブとしてそのまま使用できる他、紙、不織布、布、フィルム等の横方向の強度の補強用として、これらと積層して用いることもできる。また、本発明によるウェブを延伸したものは光沢が良く、その光沢を活かした包装材料等に用いることができる。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、紡糸手段の下方に揺動部材を配置し、これを、それ自身よりも高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動させることによって、フィラメントを一方向に良好に振らせることができる。また、フィラメントを振らせるのに揺動部材を回転させないので、揺動部材を紡糸手段および高速流体の流域の近傍に配置してもフィラメントの絡み付きを防止することができる。さらに、揺動部材はその動作によって紡糸手段との隙間が変化するので、この隙間を通して高速流体の流域中に高速流体とは別の流体を流入させ、揺動部材による効果をより効果的に発揮させることができる。
【0075】
本発明によれば、フィラメントの振れ幅を大きくすることができるが、それにより、フィラメントの振れ方向がウェブの縦方向である場合にはウェブの延伸性を向上させることができ、フィラメントの振れ方向がウェブの横方向である場合には幅広のウェブを製造することができる。また、フィラメントの振れ幅を大きくすることによりフィラメントの配列性を向上させることができる。その結果、特に、得られたウェブを延伸した際の、フィラメントの配列方向についてのウェブの強度および寸法安定性を向上させることができる。また、本発明で得られたウェブを延伸すると、フィラメントがファインデニールとなるので、延伸後のウェブは、柔軟性が増し感触が良くなるとともに、地合いも良好になり、さらに光沢も増す。
【図面の簡単な説明】
【図1】フィラメントが縦方向に配列されたウェブを製造するための、本発明の一実施形態によるウェブ製造装置の正面図である。
【図2】図1に示す揺動部材の動作およびフィラメントの挙動を説明する図である。
【図3】フィラメントが横方向に配列されたウェブを製造するための、本発明の他の実施形態によるウェブ製造装置の図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は側面図を示す。
【図4】本発明を適用した、狭義のスパンボンド法を用いたウェブ製造装置の構成を示す図である。
【図5】ノズル配列の幾つかの例を示す、紡糸手段の底面図である。
【図6】断面が円形の揺動部材を示す図である。
【図7】断面がティアドロップ形状の揺動部材を示す図である。
【図8】上部を切り取った揺動部材をその動作とともに示す図である。
【図9】プレート状の揺動部材を示す図である。
【符号の説明】
1,41 コンベア
2,22,32a,45a ノズル
3 メルトブローダイス
4,44 フィラメント
5a,5b エア供給路
6a,6b スリット
8,48 ウェブ
10 気流振動機構
11a,11b,51a,51b,61a,61b,71a,71b,81a,81b,91a,91b 揺動部材
12 連結部材
13 アーム
14 円板
32 ノズルユニット
23,33,43 スパンボンドダイス
45 エジェクタ
70,80 紡糸ダイス
Claims (11)
- 溶融ポリマーをフィラメントとして押し出す複数のノズル、および押し出されたフィラメントを細化するための高速流体を噴射する噴射部を備えた紡糸手段と、前記ノズルから押し出されたフィラメントを捕集し搬送するコンベアと、前記紡糸手段の下方に配置され、前記噴射部から噴射された高速流体の流域に対面する表面を有する揺動部材とを用いた、フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造方法であって、
前記噴射部から高速流体を噴射すると同時に、前記ノズルからフィラメントを押し出す工程と、
前記揺動部材を、前記揺動部材よりも前記高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動させ、前記高速流体の流れの向きを周期的に変動させる工程と、
流れの向きが周期的に変動する前記高速流体に随伴するフィラメントをコンベア上に捕集する工程とを有する、ウェブの製造方法。 - 2つの前記揺動部材が、前記噴射部から噴射される高速流体の両側に対として互いに連結して配置され、
前記揺動部材を揺動させる工程は、前記対の揺動部材を、その中間位置を中心としてシーソー運動させることを含む、請求項1に記載のウェブの製造方法。 - 前記揺動部材を揺動させる工程は、前記シーソー運動によって各揺動部材について前記紡糸手段との間の隙間に差を生じさせ、隙間の小さい方と比べて隙間の大きい方から、2つの移動部材の間へ流入する、より大きな空気の流れを生じさせることを含む、請求項2に記載のウェブの製造方法。
- 前記揺動部材を揺動させる工程は、前記揺動部材の揺動範囲の上昇端位置において前記高速流体の流域の中心に最も接近するように前記揺動部材を揺動させることを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のウェブの製造方法。
- フィラメントが一方向に配列されたウェブの製造装置であって、
溶融ポリマーをフィラメントとして押し出す複数のノズル、および押し出されたフィラメントを細化するための高速流体を噴射する噴射部を備えた紡糸手段と、
前記ノズルから押し出されたフィラメントを捕集し搬送するコンベアと、
前記高速流体の流域に対面する表面を持つ揺動部材であって、前記紡糸手段の下方に配置され、前記揺動部材よりも前記高速流体の流域の中心側を中心として上下に揺動し、前記高速流体の流れの向きを周期的に変動させる揺動部材とを有する、ウェブの製造装置。 - 前記揺動部材は、その上下動によって前記揺動部材と前記紡糸手段との間から前記高速流体の流域中へのエアの流入を制御するエア流入制御機構を兼ねる、請求項5に記載のウェブの製造装置。
- 2つの前記揺動部材が、前記噴射部から噴射される高速流体の両側に対として互いに連結して配置され、前記対の揺動部材は、その中間位置を中心としてシーソー運動する、請求項5または6に記載のウェブの製造装置。
- 前記揺動部材は、その揺動範囲の上昇端位置で前記高速流体の流域の中心に最も接近する、請求項4ないし7のいずれか1項に記載のウェブの製造装置。
- 前記揺動部材は、円形、楕円形、またはティアドロップ形状の断面を有するシャフト状の部材である、請求項5ないし8のいずれか1項に記載のウェブの製造装置。
- 前記揺動部材は、前記揺動部材が前記高速流体の流域の中心に最も接近したときに前記高速流体の流域の中心に対する最短距離が定まる部分よりも上側の部分を前記揺動部材の長手方向に沿って切り取った形状とされている、請求項9に記載のウェブの製造装置。
- 前記揺動部材は板状の部材である、請求項5ないし8のいずれか1項に記載のウェブの製造装置。
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