JP2004071970A - 太陽電池用シリコン基板の製造方法およびその製造システム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】少なくとも、金属シリコンを原料としてCVD原料ガスを生成する工程と、CVD原料ガスを予熱する工程と、CVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させる工程と、堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくする工程と、基板からシリコン層を剥離する工程とを有することを特徴とする太陽電池用シリコン基板の製造方法。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、太陽電池用シリコン基板の製造方法および製造システムに関し、特に安価で炭酸ガス負荷が少ないとともに、大量生産に適した高性能な太陽電池用シリコン基板の製造方法および製造システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ここ数年、日本における太陽電池生産量は年率50−60%と大きな伸びを示している。これは特に先進各国に対して、地球規模での環境対策を強く求める動きが近年ますます活発になっていることが背景となっている。日本は太陽電池生産量で世界のトップを占めており、今後とも大きな需要の増加が見込まれるため、日本の太陽電池メーカー各社からは年産能力数10メガワットから100メガワットを超える規模の能力増強計画が次々と打ち出されている。数年後には年産能力が数10ギガワット規模の生産設備が必要となってくるのは確実であろう。
【0003】
太陽電池のコストは、量産化が進んだこともあってここ数年で半分以下にまで下がったが、現行の電力コストと比較するとまだまだ割高である。特に現行の太陽電池モジュールコストに占める基板コストの割合は、概略40%と非常に大きい。従って低コストで量産効果が大きく、かつ品質も安定した太陽電池用基板の製造技術の開発がますます重要となってきている。
【0004】
現在量産化されている太陽電池の大部分は、キャスト法で製造された厚さ400−500μmの多結晶シリコン基板が用いられているが、基板の原料となる安価で高品質なシリコン原料の入手が困難になりつつあり、かつ基板を切り出すためのコストや、材料のロスがコスト低減のネックとなっている。また、炭酸ガス排出量の低減といった観点からも、より簡素化された原料プロセスや基板の薄型化、およびスライス工程の省略などが強く求められている。
【0005】
一方、薄膜シリコン基板は、基板を薄くできる、シリコンインゴットから基板を切り出すためのスライスコストがゼロとなりカーフロスも無くなる、基板製造プロセスの簡略化が可能である、などの特長を有する。よって、太陽電池製造におけるコストダウンと炭酸ガス排出量の低減を同時に達成することが期待できるため、いままでに多くの開発努力が為されてきた。
【0006】
この薄膜シリコン基板の製造方法は、液相からの成長方法と気相からの成長方法に大別できる。液相成長法ではリボン引き上げ法が最も代表的な方法であり、いままでにさまざまな方法が提案され、検討されてきた。EFG法(RWEソーラー社;独)、ストリングリボン法(エバグリーンソーラー社;米)などの方法は、すでに実用化されている。液相成長法は、結晶粒径を大きくするための再結晶化は必要ないが、高温プロセスであり、また大幅な薄膜化は困難である。
【0007】
これに対し、気相成長法は膜の結晶粒径が小さいために再結晶化が必要であり、基板を必要とするものの、高速成膜が可能であることから大量生産による低コスト化が期待できる。CVD法は気相成長法の最も一般的な方法であり、ゾーンメルトによる再結晶化により15%の変換効率を得た報告もある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、更なる太陽電池用シリコン基板製造の低コスト化と炭酸ガス負荷低減のためには、CVD法の成膜速度をさらに上げること、安価な原材料を使用すること、原材料の使用量の低減、製造プロセスの簡略化などが求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み為されたものであり、太陽電池用シリコン基板の製造コストと炭酸ガス負荷の一層の低減化をはかるべく、薄膜シリコン基板の製造におけるCVD法の原材料を安価に供給するとともに、原材料の使用量の低減し、製造ロスの低減、成膜速度の向上、製造プロセスの簡略化等をすることができる高性能な太陽電池用シリコン基板の製造方法およびその製造システムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明にかかる太陽電池用シリコン基板の製造方法は、少なくとも、金属シリコンを原料としてCVD原料ガスを生成する工程と、CVD原料ガスを予熱する工程と、CVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させる工程と、堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくする工程と、基板からシリコン層を剥離する工程とを有することを特徴とする太陽電池用シリコン基板の製造方法である(請求項1)。
【0011】
このように、太陽電池用シリコン基板の製造方法において、原料として金属シリコンを用いることによって、原料コストを大幅に低減することができる。また、堆積されたシリコン層を剥離してシリコン基板とすることによって、切断ロス等の製造ロスを低減することができるので、収率が高くコストの低減および生産性の向上をはかることができる。特に、CVD原料ガスを予熱して、基板上で連続して反応させてシリコン層を堆積させるので、大量かつ高速でシリコン層を堆積させることができ、著しいコストの低減を図ることができる。
【0012】
本発明では、前記CVD反応によりシリコン層を堆積させる工程で排出される反応ガスを、CVD原料ガスを予熱する工程における熱交換器に戻して熱回収した後、CVD原料ガスを生成する工程に戻して原料として再利用することが好ましい(請求項2)。
【0013】
このように、CVD反応により排出される反応ガスを、原料ガスを予熱する熱として回収して利用することによって、エネルギー効率を改善することができエネルギーコストを低減することができる。また、CVD反応ガスをCVD原料ガスを生成する工程に戻して原料として再利用するようにすれば、未反応の反応ガスを再度無駄なく使用することが出来るほか、CVD反応で副次的に生成する塩化水素等を金属シリコンをシランにする反応に用いることができ、効率が非常によい反応系を形成できる。
【0014】
また、本発明では、前記シリコン層を堆積させる基板を、アルミナ基板、あるいはシリコン基板とし、該基板からシリコン層を剥離した後にシリコン層を堆積させる基板として再利用することができる(請求項3)。
【0015】
アルミナ基板であれば耐熱性が良いとともに、シリコンとの熱膨張率差が大きく、後工程でシリコン層を剥離するのも容易である。また、シリコン基板であれば、耐熱性が良いとともに、シリコン層に対して不純物を生じさせないので好ましい。この場合後工程でシリコン層を剥離するためには、例えば予め基板の表面にゾル−ゲル法によりSiO2膜を形成しておき、この上にシリコン層を堆積するようにすれば、シリコン層の剥離も容易となる。
そして、基板からシリコン層を剥離した後にシリコン層を堆積させる基板として再利用するようにすれば、基板コストを大幅に低減することができる。
【0016】
次に、本発明では、CVD反応される原料ガス中のシリコン化合物の含有量を、前記シリコン層を堆積させる工程の温度における反応ガス中の平衡濃度に相当する量のシリコン化合物を基準にして、過飽和度が0.2〜0.5の範囲となるように制御することが好ましい(請求項4)。
【0017】
このような条件で堆積させることによって、出来たシリコン層の品質のばらつきを低減して均一にするとともに、堆積速度を向上することができる。
【0018】
また、前記CVD反応によりシリコン層を堆積させる工程おいて、CVD反応装置内にラジカルを発生させ、かつCVD反応装置の原料ガス入口温度が反応ガス出口温度よりも低くなるようにCVD反応装置内に温度勾配をつけてCVD反応を行なうことができ(請求項5)、この場合、前記CVD反応装置内のラジカルの発生は、供給されるCVD原料ガスを、表面温度1800℃±200℃に制御したフィラメントと接触させることによって行い、かつCVD反応装置に導入する原料ガスの入口温度を800℃以下に制御し、基板の表面温度を900℃以上に制御し、反応ガスの出口温度を1000℃以上に制御してCVD反応を行なうようにすることができる(請求項6)。
【0019】
ラジカルを発生させることによって、堆積速度を飛躍的に向上させることが出来、生産性をより向上させることが出来る。また、温度条件を上記のようにすることによって堆積率が向上し、収率を上げることが出来る。
【0020】
次に、本発明の太陽電池用シリコン基板の製造システムは、少なくとも、金属シリコンを原料としてCVD原料ガスを生成する流動層と、生成したCVD原料ガスを予熱するヒータと、予熱されたCVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させるCVD反応装置と、基板上に堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくする再加熱装置と、基板からシリコン層を剥離する剥離装置とを有することを特徴とする太陽電池用シリコン基板の製造システムである(請求項7)。
【0021】
このようなシステムであれば、太陽電池用シリコン基板を低コスト、高生産性、高品質で製造できるシステムとなる。
すなわち、原料として金属シリコンを用いた流動層を用いることによって、原料コストを大幅に低減することができるとともに、純度の高いシランガスを生成することが出来る。また、堆積されたシリコン層を剥離装置で剥離することによって、切断ロス等の製造ロスを低減することができる。特に、CVD装置を連続して堆積できるものとすることによって、気相成長を大量に高速で行うことが出来る。
【0022】
この場合、前記流動層と、予熱ヒータとの間に熱交換器を具備し、前記CVD反応装置から排出される反応ガスを、前記熱交換器に通してCVD原料ガスを予熱し、さらにCVD反応ガスを流動層に戻して原料として再利用するものであるようにすることが出来る(請求項8)。
【0023】
このようにすることによって、よりエネルギー効率が高いとともに、原料コストが低減できるシステムとすることが出来る。
【0024】
また、本発明のシステムにおけるCVD反応装置は、反応室内に加熱用フィラメントを具備し、原料ガスと接触させることによって、ラジカルを発生させるものとすることができる(請求項9)。
【0025】
反応室内に加熱用フィラメントを具備することで、シリコン層の堆積速度を著しく向上させることが出来る。
【0026】
さらに、本発明のシステムは、更に基板予熱器を具備し、シリコン層を剥離した基板を予熱してCVD反応装置に導入して再利用するものとすることができる(請求項10)。
こうすることで、一層低コストのシステムを構築することが出来る。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、CVD法による気相成長を大量に高速かつ連続で行なうことを第1の特長とし、更に原料に安価な金属シリコンを使用し、かつ太陽電池用シリコン基板の製造プロセスで用いる水素やシランガス、及びCVD基板をリサイクルして繰り返し使用することを第2の特長とする、太陽電池用シリコン基板の製造方法に関するものである。
【0028】
この発明により、現在実用化されているキャスト法で製造されたインゴットから切り出した多結晶シリコン基板や、いままで提案されてきた薄膜シリコン基板と比較して、基板品質を従来法によるものと同等以上のレベルに維持した上で、大幅なコストダウンと炭酸ガス負荷の低減が可能となる。また、製造プロセスがシンプルで、かつ設備の大型化が容易なので、太陽電池生産量に換算して、数100メガワット/年から数10ギガワット/年に対応可能な基板製造プロセスである。
【0029】
以下説明するプロセスはラボスケールにおける実験結果を示し、これらの結果に基づいて太陽電池の年間生産量を1ギガワットとしたときの量産化プロセスについて、太陽電池用シリコン基板、および太陽電池のコストと炭酸ガス排出量を算出し、現行プロセスと比較して本発明の効果を示した。
【0030】
まず、本発明で構築した太陽電池用シリコン基板の製造システムの概要を図1に示した。
この太陽電池用シリコン基板の製造システム1は、金属シリコンを原料とし、これに塩化水素を反応させることによってCVD原料ガスとなるクロロシラン化合物、水素等を生成する流動層2と、生成したCVD原料ガスを予熱するヒータ4と、必要により添加されるドープガスとともに予熱されたCVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させるCVD反応装置5と、基板上に堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくして結晶品質を向上させる再加熱装置6と、シリコン層との熱膨張率の相違を利用して基板からシリコン層を剥離する剥離装置7とを有する。
【0031】
そして、流動層2と、予熱ヒータ4との間に熱交換器3が設けられており、CVD反応装置5から排出される反応ガスを、戻り配管9を通して熱交換器3に戻してCVD原料ガスを予熱するようにし、さらにCVD反応ガスを戻り配管10を通して流動層2に戻して反応ガス中に含まれる未反応ガスやCVD反応で生成する塩化水素を原料としてリサイクルするようにしている。
さらに、本システムは、基板予熱器8を具備し、シリコン層を剥離した基板を予熱してCVD反応装置に導入して再利用することができるようになっている。
【0032】
このシステムは、原料として金属シリコンを用いた流動層を用いることによって、原料コストを大幅に低減することができるとともに、純度の高いシランガスを生成することが出来る。また、予熱した原料ガスを導入してCVD装置を連続して堆積できるものとすることによって、気相成長を大量に高速で行うことが出来る。堆積されたシリコン層を剥離装置で剥離することによって、切断ロス等の製造ロスの少ないシステムとすることができる等の特徴を有する。
【0033】
さらに、CVD反応装置から排出される反応ガスの熱でCVD原料ガスを予熱することによって、よりエネルギー効率を高くできるとともに、さらにCVD反応ガスを流動層2に戻して原料としてリサイクルすることによって、原料コストを一層低減することができるシステムとなっている。
このように本発明のシステムによれば、太陽電池用シリコン基板を低コスト、高生産性、高品質で製造できるシステムとなる。
【0034】
次に、各工程につき説明する。
(1) CVD原料ガス生成工程(シランガス生成工程)
金属シリコンと、CVD反応装置から排出されるガス(未反応ガス:シラン+水素、反応ガス:塩化水素等)をリサイクルして原料として用い、CVD反応に用いるシランガスを生成する。反応器は例えば図2に示したような流動層2を用い、流動層2の上部にある投入口11から粉末状金属シリコンを供給し、下部にあるガス導入口12からリサイクルガスおよび塩化水素ガスを供給する。金属シリコン粉末14は拡散板13上で下部から導入されるガスにより流動し、効率よくクロロシランガスを生成する反応を生じる。生成シランガスは流動層頂部にあるガス噴出口15より排出され予熱工程に送られる。
【0035】
実際に用いた流動層のスケールは、径20mm、高さ100mmの石英管であり、金属シリコン粉末5gを充填したところ、空隙率0.5、静止層高さ14mmであった。下部から導入するガス流量は12cm3/sとした。
【0036】
流動層の温度条件は、流動層の大きさと、反応によって生成するガスの組成を勘案する必要がある。反応温度を上げると反応速度が上がるため流動層を小さくできるメリットがあるが、一方で生成するガス組成に占める四塩化珪素の比率が増大するためCVD反応の効率が悪くなってしまう。また、後述するCVD反応の最適化を図る上でも、生成するガスの組成は重要である。プロセス内の圧力は特に限定されないが、連続操業を念頭にして全て1気圧としてガス組成の最適化を図った結果、反応温度は450℃〜500℃、特には470℃前後が好ましいことがわかった。
【0037】
(2) 予熱工程
本発明では、CVD法によりシリコン層を堆積させる工程を連続工程とすることを前提としているためCVD反応装置に導入するCVD原料ガスは、所定温度に予熱されている必要がある。
予熱する方法は特に限定されるものではなく、例えば抵抗加熱ヒーターにより加熱された配管中に原料ガスを通すことによって行う事ができる。予熱温度は、CVD反応温度にしたがい適宜決定すればよく、ヒーター出力を調整することによって所望の温度に制御することができる。
本システムでは、原料ガスをヒーターで予熱する前に、熱交換器を通すことによって、CVD反応装置から排出される反応ガスの熱を、CVD原料ガスを予熱する熱に利用し、エネルギー効率を向上させるようにしている。
【0038】
(3) CVD堆積工程
CVD反応はシリコン薄膜基板製造プロセスの中心を成す部分であり、CVD反応の生産性と堆積したシリコン層の品質が、このシリコン薄膜基板を用いて太陽電池としたときの、太陽電池のコストと変換効率に大きな影響を及ぼす。
【0039】
CVD反応に用いる基板の材質は、CVD反応の後に行われる剥離工程が、堆積したシリコン薄膜と基板との熱膨張率の差を利用して剥離するのが好ましいので、シリコンとの熱膨張率の差が大きいアルミナ基板を用いることにした。しかしながらアルミナ基板の代わりに、例えばシリコン基板や他のセラミック基板など、耐熱性のよい基板を用いることも、もちろん可能である。
【0040】
アルミナ基板は、CVD反応装置に供給される前段階で表面にSiO2膜を形成しておくようにすれば、後の剥離工程において容易にシリコン層と基板を剥離することができる。このような基板上にSiO2膜を形成するには、例えば図3に示したような装置で行えばよい。
【0041】
この装置は、ゾル−ゲル法によりSiO2膜をアルミナ基板上に連続して形成させるもので、搬送ローラ16上にサセプタ23を介してアルミナ基板17を連続して供給し、その表面にアルカリ系のシリカゾル等のゾル溶液18をドクターブレード19を用いて塗布する。これにノズル20から空気を吹き付けて乾燥させることによってゲル化し、ヒーター21で500℃前後の温度で焼結することによってアルミナ基板上にSiO2膜22を形成させることができる。形成させるSiO2膜の厚さは、0.5〜10μm程度とすれば良い。このとき各アルミナ基板はSiO2膜形成後に連結されることがあるが、そのままCVD工程に搬送して連続して堆積させるようにすればよい。
【0042】
こうして表面にSiO2膜が形成されたアルミナ基板は、CVD反応装置に供給される前段階で予熱器によって900℃以上に加熱され、その後、例えば図4に示したようなCVD反応装置の搬送ローラー16上にサセプタ23を介して連続的に供給される。ヒーター24により加熱しつつCVD反応によって基板17上にシリコン層25を連続して堆積した後、基板は剥離工程と予熱工程を経て、再びCVD反応装置にリサイクルされる。
【0043】
CVD反応の生産性を上げるためには、成膜速度(堆積速度)を上げる必要がある。成膜速度を支配する因子として、主として圧力、温度、原料ガス組成などが挙げられる。
圧力については、成膜速度を上げる目的でCVD反応器内に導入するガス流量を増やして反応器内の圧力を数kg/cm2まで上げるような試みも行われているが、本プロセスは連続CVDプロセスを前提としているため、圧力は1気圧とする方が都合が良い。
【0044】
ところで、反応温度を上げると、分解されて堆積するシリコン量と原料ガス中のシリコン含有量との比で定義する「シリコンの堆積率」は増大するが、一方で反応器の内壁へのシリコンの付着量も増大するために、実際には基板上に堆積するシリコン量は低下してしまう。シリコンの堆積率と反応温度の関係を調べたところ、反応温度950℃を境にして、それよりも高温側で急速にシリコン堆積率が増大することが判った。これらの知見に基づいて、CVD反応器内を流れる原料ガスの温度を、CVD反応器の入口で800℃、CVD反応器の出口で1100℃となるようにCVD反応器内に温度勾配をつけることによって、成膜速度とシリコンの収率、および膜品質の最適化を図ることが出来た。
【0045】
基板上に堆積するシリコン量は、系内に導入されるSi/H/Cl比が決まれば、CVD反応器の入口温度における原料ガスの平衡組成と、基板温度でのCVD反応における平衡組成により、理論的には計算でも求められる。しかしながら、実際には反応器の内壁などにシリコンが析出付着したり、原料ガスが未反応のまま排出されるといった要因により、基板上に堆積するシリコン量は、理論値よりも少なくなってしまう。前述の最適化したCVD温度条件下におけるシリコン堆積率は約90%であった。
【0046】
本発明では、最適なCVD条件を求めるための指標として、過飽和度を選択した。過飽和度は、CVD反応器に導入されるシランガスの濃度(Cin)と、CVD反応器の出口から排出されるシランガス濃度(Cout)の差のCoutに対する比で求められる。即ち、過飽和度は、次式(1)で定義される。
過飽和度=(Cin−Cout)/(Cout) (1)
【0047】
この過飽和度が0.5を超える場合には、基板上に堆積したシリコン薄膜の品質バラツキ(膜厚均一性、結晶粒の粒径)が増大してしまうため、好ましくない。原料ガスの組成や温度などのCVD条件を設定するときに、過飽和度を0.5以下、好ましくは0.3以下とすることにより、容易にCVD条件の最適化を図ることが可能となる。一方、過飽和度が0.2未満では、シリコンの堆積量が低下して実用的ではない。ラボスケールでの実験結果を、以下に示す。
【0048】
(実験1)
図4に示したような、内容積5リットルのCVD反応装置を用いて、反応装置の入口と出口の温度を変え、膜品質への影響を調べた。表1に各温度でのガスの組成、表2にシランガスの過飽和度と膜品質の関係を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1および表2からわかるように、原料ガス中のシランガスの過飽和度と、基板上に堆積するシリコン膜の品質(膜厚均一性、粒径)との間には相関があり、過飽和度を指標として簡便にCVDの最適条件を選択することができる。
すなわち、シランガスの過飽和度は、CVD出口のガス組成とCVD入口のガス組成から求められる。各々のガス組成は、プロセスの系内に導入されるSi/H/Cl比と、系内の温度に従って速やかに一定の平衡組成に到達するため、過飽和度を変える因子は、流動層出口の組成とCVD反応器内の温度の2つしかない。流動層条件を一定として、CVD反応器の温度を変えることによって、過飽和度とシリコン膜品質との相関関係を見ることができる。
その結果、CVD入口温度800℃、CVD出口温度1100℃で、過飽和度は0.28であり、このとき最も良好なシリコン膜が得られた。
【0052】
次に、CVD反応装置の反応室内のシリコン堆積面の上方に電熱フィラメントを設置したケースを検討した。基礎実験の結果では、1600℃〜2000℃のフィラメントに原料ガスを接触させることによって原料ガス中に水素ラジカルおよびシラン化合物のラジカルの少なくともいずれかが生成し、ラジカルを発生させないケースと比較して、成膜速度は1.2倍〜2倍に向上する。
【0053】
なお、電熱フィラメントを設置する位置は、シリコン堆積面の上方1mmから500mm、好ましくは5mmから100mmが適当である。1mmよりも近いと基板表面温度が上がり過ぎるし、500mmよりも遠いとラジカルの効果が小さくなってしまう。
ラボスケールでの実験結果を、以下に示しておく。
【0054】
(実験2)
成膜速度の向上を目的として、図4に示したような、内容積5リットルのCVD反応装置の反応器中のシリコン堆積面の上方に電熱フィラメントを設置し、原料ガスと接触させることによって原料ガス中にラジカルを発生させながらCVD反応を行った。
【0055】
CVDの条件は、表2のNo3の過飽和度0.28で一定とし、電熱フィラメントについてはフィラメントの表面温度と、シリコン堆積面の上方に設置する高さを変えて、成膜速度に対する最適条件を調査した。また、堆積面の直上にガスサンプルの採取口を設け、レーザー分光計測法によりガス中のラジカルの濃度の測定を併せて行った。結果を表3に示した。
【0056】
【表3】
【0057】
フィラメントの表面温度1800℃、設置位置5mmのとき、シリコン膜の成膜速度は、フィラメントを設置しないケースと較べて2倍に向上した。フィラメントの表面温度は1800℃±200℃に制御するのが好ましく、フィラメントの設置位置は基板の上方5mmないし100mmの範囲が好ましい。
【0058】
また、レーザー分光計測法によりシリコン堆積面の直上におけるガス中のラジカル濃度を測定した結果、ラジカル濃度は0.01〜5.0モル%の範囲であり、出来れば0.1〜1.0モル%の範囲内に制御するのが望ましいことが判った。ラジカル濃度が5モル%以上になるとシリコン薄膜を構成するシリコン微粒子の粒径制御が困難となり、0.01モル%以下では成膜速度が向上しなかった。
【0059】
もちろん、ラジカルを発生させる手段は、熱フィラメントに限られるものではなく、高周波放電あるいはマイクロ波放電等を用いてプラズマCVDによりシリコン層を堆積させるようにしてもよい。要は所定のラジカル濃度を発生しうる手段であれば特に限定されない。
【0060】
(4) 再加熱工程
CVD反応によって表面にSiO2膜を有するアルミナ基板上に堆積されたシリコン薄膜は、直径数μm程度のシリコン微粒子で構成されている。このままではシリコン微粒子間の境界でキャリアの再結合が起こるため、太陽電池の変換効率が低下してしまう。よって、CVDで得られたシリコン薄膜を再加熱することによってシリコン微粒子のサイズを大きくしてやる必要がある。
【0061】
再加熱してシリコン結晶粒のサイズを大きくする方法には、固相成長法と液相成長法の2種類がある。固相成長法はシリコンの融点以下の温度で固相のまま再加熱する方法であり、液相成長法はシリコンを一旦溶融した後で再度固化する方法である。本発明では、固相成長法を採用し、再加熱温度は1,300℃とした。
【0062】
この場合、本発明では、CVD反応によりシリコン層を堆積後、基板を冷却することなく、引き続き基板温度を1300℃とし、連続して再加熱処理するのが好ましい。CVD反応後一旦冷却してから、再度加熱するのでは熱効率が悪いし、特に室温付近にまで冷却するとシリコン層が基板から剥離し、再加熱処理をするのが困難になるからである。
【0063】
再加熱装置は、基板を1300℃前後で加熱することができる装置であれば、原則としてどのような装置であっても良いが、本発明ではCVD反応工程が連続方式であるので、再加熱も基板をローラで搬送しつつ熱処理を連続的に施すことができるものが好ましい。したがって、例えば前記図4のCVD反応装置に堆積後の基板に再加熱する装置を連結して、シリコン層を堆積した直後に連続して再加熱するようにするのが好ましい。
【0064】
(5) 剥離工程
次の剥離工程は、様々な方法が提案されているが、本発明では前工程で固相の再加熱工程を採用しているため、再加熱したときのアルミナ基板とシリコン薄膜の熱膨張率の違いを利用して剥離する方法を採用するのが好ましい。具体的には、CVD反応装置と再加熱装置を連結し、さらにその最終段に図5に示すような剥離装置を連結すればよい。
【0065】
この装置は、再加熱処理された基板に対し、窒素ジェットクーラー26により窒素を吹き付けることによって、基板を室温付近にまで急冷却する。窒素エアーカーテン27で雰囲気を遮断した後、基板にエアージェットクーラー28により空気を吹き付けることによって完全に基板が冷却されアルミナ基板とシリコン層とが、その熱膨張率の相違から応力を生じSiO2膜を境として剥離する。剥離されたシリコン層およびアルミナ基板は、HFによりエッチングされることにより付着したSiO2膜を除去して、それぞれ太陽電池用シリコン基板、および再利用されるアルミナ基板とすることができる。
【0066】
この場合、アルミナ基板とシリコン層とが、完全には剥離しないものも有り得るが、このような場合には、例えば基板ごとHF槽で浸漬エッチングすることにより、SiO2膜が溶解されてシリコン層を分離することができるとともに、アルミナ基板およびシリコン層に付着しているSiO2膜を除去して、シリコン基板および再利用CVD反応用アルミナ基板とすることができる。
【0067】
(6) 量産プロセス
前記(1)〜(5)のラボスケールで行った実験結果に従って、これをスケールアップした太陽電池モジュールの生産規模約1ギガワット/年に対応できるシリコンウエーハ量産プロセスを想定し、生産されるシリコンウエーハのコストと炭酸ガス排出量を試算し、現行プロセスによるシリコンウエーハとの比較を行った。続いて、前記シリコンウーハを用いた太陽電池モジュールについても、コストと炭酸ガス排出量を試算し、シリコンウエーハと同様に現行太陽電池モジュールとの比較を行った。
【0068】
先ず、太陽電池モジュールの年間生産量から逆算して、必要なシリコンウエーハの基板面積を求めた。前提条件と結果を表4に示す。次に、上記(1)〜(5)に記載した各工程の実験結果に基づき、各プロセスで用いる機器の仕様と必要台数を求めた。前提条件と結果を表5と表6に示す。
【0069】
この場合、太陽電池用シリコンウエーハの年間生産量を、太陽電池に換算して1ギガワット級とし、このときに必要となる主要生産設備の必要台数と仕様および消費電力量を計算により求めた。
また、表5に記載したCVD条件は、最もシリコン膜の品質が良好であった温度条件とし、成膜速度はラジカルを発生させないケースの1.0μm/分を前提条件とした。
【0070】
なお、P型のシリコン薄膜を形成する目的で、CVD反応器内に導入される原料ガス中にB2H6などのP型不純物ガスを混入させるが、微量であるため熱力学的な平衡計算では無視することにした。
CVD反応装置は、2m幅×1m高×25m長の2段配置型を想定した。計算上の必要台数は11台であったが、予備3台を加えて計14台とした。再加熱装置、予熱器も同様である。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
続いて、シリコンウエーハ1m2当りのコストと炭酸ガス排出量を、CVD反応装置内にてラジカルを発生させず成膜速度を1μm/分とした場合と、ラジカルを発生させて成膜速度を2μm/分とした場合の各々のケースについて算出すると同時に、比較のため現行の多結晶シリコン基板についても同様の計算を行った。前提条件と結果を表7、表8および表9に示す。
【0075】
表9から明らかであるように、成膜速度1.0μm/分で製造したシリコン基板の場合、現行使用されている多結晶シリコン基板と較べて、コスト削減率は約89%、炭酸ガス排出量の削減率は約77%であった。
また、成膜速度2.0μm/分で製造したシリコン基板の場合、現行使用されている多結晶シリコン基板と較べて、コスト削減率は約95%、炭酸ガス排出量の削減率は約78%であった。
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
最後に、2μm/分で成膜したシリコン基板を用いて太陽電池モジュールを製造したときの、ワット当りのコストとワット当りの炭酸ガス排出量を算出し、比較のため現行の多結晶基板を用いた太陽電池モジュールについても同様の計算を行った。結果を表10に示す。
【0080】
この場合、太陽電池モジュールの年間生産量を1ギガワットとして、太陽電池モジュール製造における工程別コストを比較した。比較に用いた多結晶基板のケースも、本発明の前提条件に合わせて年間生産量を1ギガワットとした。これは現在稼動中の太陽電池モジュール製造設備の能力と較べて、10倍以上の規模となる。この量産効果によって、各工程のコストは現行コストよりも大幅に下がる。また、本発明は基板の製造方法を発明の対象としているため、太陽電池セル製造工程と太陽電池モジュール製造工程のコストは、各ケースとも同一とした。
【0081】
【表10】
【0082】
以上のように、本発明により製造されたシリコン薄膜基板を用いて太陽電池モジュールを製造した場合、現行プロセスによる基板を用いて太陽電池モジュールを製造した場合と較べて、コスト削減率は約27%、炭酸ガス排出量の削減率は約42%であった。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の太陽電池用シリコン基板の製造方法および製造システムにより、太陽電池用シリコン基板の製造コストと炭酸ガス負荷の大幅な低減をはかることができ、品質と生産性の向上を図ることができる。したがって、今後の数10ギガワットあるいはそれ以上の規模の生産にも十分に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の太陽電池用シリコン基板の製造システムの概要図である。
【図2】本発明で用いた流動層の概略図である。
【図3】基板上にSiO2膜を形成する装置の概略説明図である。
【図4】本発明で用いたCVD反応装置の概略説明図である。
【図5】本発明で用いた剥離装置の概略説明図である。
【符号の説明】
1…太陽電池用基板製造システム、 2…流動層、 3…熱交換器、 4…ヒーター、 5…CVD反応装置、 6…再加熱装置、 7…剥離装置、 8…基板予熱器、 9…戻り配管、 10…戻り配管。
Claims (10)
- 少なくとも、金属シリコンを原料としてCVD原料ガスを生成する工程と、CVD原料ガスを予熱する工程と、CVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させる工程と、堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくする工程と、基板からシリコン層を剥離する工程とを有することを特徴とする太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- 前記CVD反応によりシリコン層を堆積させる工程で排出される反応ガスを、CVD原料ガスを予熱する工程における熱交換器に戻して熱回収した後、CVD原料ガスを生成する工程に戻して原料として再利用することを特徴とする請求項1に記載した太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- 前記シリコン層を堆積させる基板を、アルミナ基板、あるいはシリコン基板とし、該基板からシリコン層を剥離した後にシリコン層を堆積させる基板として再利用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載した太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- CVD反応される原料ガス中のシリコン化合物の含有量を、前記シリコン層を堆積させる工程の温度における反応ガス中の平衡濃度に相当する量のシリコン化合物を基準にして、過飽和度が0.2〜0.5の範囲となるように制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載した太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- 前記CVD反応によりシリコン層を堆積させる工程おいて、CVD反応装置内にラジカルを発生させ、かつCVD反応装置の原料ガス入口温度が反応ガス出口温度よりも低くなるようにCVD反応装置内に温度勾配をつけてCVD反応を行なうことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載した太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- 前記CVD反応装置内のラジカルの発生は、供給されるCVD原料ガスを、表面温度1800℃±200℃に制御したフィラメントと接触させることによって行い、かつCVD反応装置に導入する原料ガスの入口温度を800℃以下に制御し、基板の表面温度を900℃以上に制御し、反応ガスの出口温度を1000℃以上に制御してCVD反応を行なうことを特徴とする請求項5に記載した太陽電池用シリコン基板の製造方法。
- 少なくとも、金属シリコンを原料としてCVD原料ガスを生成する流動層と、生成したCVD原料ガスを予熱するヒータと、予熱されたCVD原料ガスを反応させて基板上にシリコン層を連続して堆積させるCVD反応装置と、基板上に堆積したシリコン層を構成する結晶粒の粒径を大きくする再加熱装置と、基板からシリコン層を剥離する剥離装置とを有することを特徴とする太陽電池用シリコン基板の製造システム。
- 前記流動層と、予熱ヒータとの間に熱交換器を具備し、前記CVD反応装置から排出される反応ガスを、前記熱交換器に通してCVD原料ガスを予熱し、さらにCVD反応ガスを流動層に戻して原料として再利用するものであることを特徴とする請求項7に記載した太陽電池用シリコン基板の製造システム。
- 前記CVD反応装置は、反応室内に加熱用フィラメントを具備し、原料ガスと接触させることによって、ラジカルを発生させるものであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載した太陽電池用シリコン基板の製造システム。
- 前記システムは、更に基板予熱器を具備し、シリコン層を剥離した基板を予熱してCVD反応装置に導入して再利用するものであることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載した太陽電池用シリコン基板の製造システム。
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