JP2004060052A - Si含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】錫系めっき層の上層に形成される化成皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、諸特性を満足させるPとSiを含有する化成皮膜を安定して得ることができる、Si含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【解決手段】鋼板の片面または両面に錫を含むめっき層を設けた後、りん酸イオンとシランカップリング剤を含有する化成処理液に浸漬または該化成処理液を塗布し、化成処理液が鋼板のめっき層上に存在した状態で該鋼板を80〜200℃に加熱して乾燥させ、次いで水洗した後、再度乾燥させることを特徴とする。
【選択図】    なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、DI缶、食缶、飲料缶などに使用される缶用錫めっき鋼板および家電製品のシャーシーや部品ケース等に用いられる半田付け性を要求される錫系めっき鋼板に関するものであって、特に、表面にPとSiを含有する化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
缶用表面処理鋼板として、従来からぶりきと称される錫めっき鋼板が、また、家電用の半田付けできる鋼板としてPb−Sn合金めっき鋼板が広く用いられており、かかる錫系めっき鋼板は、通常、めっき表面に、重クロム酸やクロム酸などの6価のクロム化合物を含有する水溶液中に浸漬もしくはこの溶液中で電解あるいは塗布することによってクロメート皮膜を形成させるのが一般的であり、このクロメート皮膜によって、錫系めっき層表面の錫酸化物の成長を防止している。
【0003】
しかし、錫系めっき鋼板に重クロム酸やクロム酸などの6価のクロム酸化物を含有する水溶液中に浸漬処理または電解処理を施すか、あるいは錫系めっき鋼板の表面に水溶液を塗布する場合、作業環境上の安全性確保および廃水処理に多大な費用を要するだけでなく、万が一、事故等でクロメート処理液が漏洩した場合には環境に大きな被害を及ぼす危険性が大きい。昨今の環境問題から、クロムを規制する動きが各分野で進行しており、前記錫系めっき鋼板においてもクロムを使わない化成処理の必要性が増大している。
【0004】
缶用錫めっき鋼板のクロメート処理に代わる化成処理に関する技術としては、例えば、特許文献1に、りん酸系溶液中で錫めっき鋼板を陰極として直流電解することにより、錫めっき鋼板上にCrを含有しない化成皮膜を形成した錫めっき鋼板の表面処理法が開示されており、また、特許文献2には、化成皮膜中にPもしくはPとAlを含有させて、Crを含有しない化成皮膜を錫めっき層表面に施したシームレス缶用電気めっきぶりきが開示されている。
【0005】
しかしながら、塗料密着性、耐食性などの性能を総合的に見た場合、上掲公報に記載された化成皮膜はいずれも、従来の重クロム酸やクロム酸を含有する溶液によって形成したクロメート皮膜に比べると上記性能が十分に得られているとはいえない。
【0006】
本発明者らは、PとSiを含有する化成処理を施すことによって従来クロメート処理と同等以上の性能が得られる技術を見いだし、かかる技術を、既に出願した特許文献3〜6において提案した。
【0007】
しかし、十分な性能を得るためには、化成皮膜中のSi量を安定して確保する必要があるが、公知の浸漬法ではSi量のバラツキが大きく、安定したSi量を含有する化成皮膜を得ることが困難であった。特に、3mg/m以上のSi量を、より好ましくは5mg/m以上のSi量を短時間で安定して確保することが困難であった。
【0008】
【特許文献1】
特公昭55−24516号公報
【特許文献2】
特公平1−32308号公報
【特許文献3】
特開2002−206191号公報
【特許文献4】
特開2002−275643号公報
【特許文献5】
特開2002−275657号公報
【特許文献6】
特開2002−206191号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、錫系めっき層の上層に形成される化成皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、諸特性を満足させるPとSiを含有する化成皮膜を安定して得ることができる、Si含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決しようとするための手段】
以下にこの発明をさらに詳細に説明する。
錫系めっき層の上層に、PとSiを含有する化成皮膜を安定して形成させる方法として、特に、3mg/m以上のSi量を、より好ましくは5mg/m以上のSi量を安定して得られる製造方法を鋭意研究を重ねた結果、りん酸イオンとシランカップリング剤を含有する化成処理液に錫系めっき鋼板を浸漬または該化成処理液を塗布し、化成処理液が鋼板のめっき層上に存在した状態で該鋼板を80〜200℃に加熱して乾燥させ、次いで水洗した後、再度乾燥させる方法により、短時間で安定して化成皮膜が得られることを新規に見いだした。
【0011】
前記化成処理液に界面活性剤を含有させると、加熱乾燥時の鋼板上での化成処理液の膜がより均一となり安定した化成皮膜が得られるのでより好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の構成を詳細に説明する。
この発明でいう「錫系めっき鋼板」とは、鋼板の片面または両面に錫を含むめっき層を有するものである。錫を含むめっき層としては、Snと、Ni、Fe、Zn、BiおよびCuのうちから選んだ1種または2種以上を含有する合金層、あるいは金属錫層と、該金属錫層と鋼板との間に形成した、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種を含有する錫合金層の中間層との2層からなるめっき層等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0013】
また、前記中間層には、Fe−Ni合金層と、該Fe−Ni合金層の上面に形成したFe−Sn−Ni合金層の2層からなる場合も本発明に含まれる。このとき、Fe−Ni合金層は、Ni/(Fe+Ni)質量比が0.02〜0.50の範囲であることが好ましい。Ni/(Fe+Ni)質量比が0.02未満だと、Fe−Sn合金主体の四角柱状の結晶からなり、隙間部分が多く耐食性が低下するのに加えて、シラン皮膜も連続的に形成されにくくなるため塗料密着性の向上効果が小さいからである。一方、Ni/(Fe+Ni)質量比が0.50を超えると、Fe−Sn−Ni合金の結晶状態が疎となり、鋼板自体の耐食性が劣化するとともに、シラン皮膜も緻密に形成されないため、塗料密着性の向上効果が小さいからである。なお、鋼板と、錫を含有するめっき層の間にニッケルめっき等の下地めっきを適宜施したものも本発明に含まれる。
【0014】
PとSiを含有させた化成皮膜の形成方法としては、例えば、りん酸系化成処理によって行うことが好ましく、この場合、化成処理液中のPの供給源としては、りん酸イオン換算で1〜80g/lのりん酸、りん酸ナトリウム、りん酸アルミニウム、りん酸カリウム等の金属塩、および/または、1水素りん酸塩など使用することがより好適である。なお、本発明でいうリン酸イオンとは、具体的にはオルトリン酸イオン(PO 3−)を意味する。
【0015】
なお、化成処理液中のりん酸イオン換算の好適範囲を1〜80g/lとした理由は、1g/l未満だと、塗料密着性と耐食性が劣るからであり、一方、80g/lを超えると、化成皮膜に欠陥が生じやすくなり、塗料密着性や耐食性が低下するからであり、加えて、未反応のりん酸が残存し塗料密着性が低下する場合もあるからである。
【0016】
化成処理液中には、Siの供給源としてはシランカップリング剤を用いる。シランカップリング剤の一般化学式は、X−Si−OR2or3(OR:アルコキシ基)であり、アルコキシシリル基(Si−OR)が水により加水分解されてシラノール基を生成し、金属表面のOH基との脱水縮合反応により密着する。化成処理液のpHは1.5〜5.5の範囲にすることが好ましい。すなわち、化成処理液のpHを1.5〜5.5の範囲に調整すれば、シランカップリング剤を化成処理液中に均一に溶解することができる。
【0017】
尚、シランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アミノ基の存在する、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシランなどが使用できるが、特にシランカップリング剤の一般化学式におけるX−Si−OR or のXにエポキシ基が存在する2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランや3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好適である。
【0018】
尚、化成処理液には、Sn、Fe、Niの金属塩、例えば、SnCl、FeCl、NiCl、SnSO、FeSO、NiSOなどの金属塩を適宜添加することができる。この場合には、促進剤として塩素酸ナトリウム、亜硝酸塩などの酸化剤、フッ素イオンなどのエッチング剤を適宜添加してもよい。
【0019】
また、化成処理液の均一処理性を向上させる目的で、ラウリル硫酸ナトリウム、アセチレングリコールなどの界面活性剤を適宜添加することがより好適である。
【0020】
錫系めっきされた鋼板は、前記化成処理液に40〜80℃で1〜5秒間浸漬後、ロール等で適当な厚さの化成処理液の膜になるように絞った後、化成処理液が鋼板上に存在した状態で該鋼板を80〜200℃に加熱して乾燥させる。この加熱乾燥工程において、前述したアルコキシシリル基(Si−OR)の加水分解したシラノール基と金属表面のOH基とが脱水縮合反応が促進されるため、化成皮膜形成が安定して行われるのである。浸漬処理だけでは脱水縮合反応が遅いため、3mg/m以上の皮膜中のSi量を得ることは困難であり、より好ましい5mg/m以上の皮膜中のSi量を得ることは無論困難である。
【0021】
加熱は、化成処理液が鋼板上に存在したままで行う必要があり、このため、通常、工業的に行われている熱風を吹き付ける加熱方法は好ましくなく、赤外線加熱、誘導加熱、輻射加熱が好適である。
【0022】
加熱温度は、鋼板温度として80〜200℃とする必要がある。80℃未満では、前記脱水縮合反応の速度が遅く、化成皮膜形成が不安定となり、十分なSi量が得られないからであり、また、200℃を超えると、脱水縮合反応は十分早く進むが、錫系めっき表面での錫の酸化が起こるばかりでなく、加熱エネルギーを過剰に消費するので好ましくない。
【0023】
化成処理液を加熱乾燥させた後は、直ちに水洗し、未反応のシランカップリング剤やりん酸イオンを洗い落とす。未反応のシランカップリング剤やりん酸イオンが表面に残存していると、耐食性が劣るので、必ず水洗除去する必要がある。水洗後の乾燥は通常の熱風乾燥を行えば良い。
【0024】
なお、めっき層上への化成処理液の膜の形成は、上述した浸漬処理で行う代わりに、鋼板上の液の膜厚制御が容易なロールコーターを用いて化成処理液を塗布する方法によって行っても良い。
【0025】
以上のことから、本発明では、錫系めっき表面に、PおよびSiを含有する化成皮膜を安定して形成することに成功したのである。
【0026】
次にこの発明に従う具体的な製造方法の一例を説明する。
冷延鋼板にSnめっきを施した後、錫の融点(231.9℃)以上の温度で加熱溶融(リフロー)処理を行い、Fe−Sn合金層(中間層)と金属Sn層(上層)の2層からなる錫系めっき層を形成させ、引き続き、浸漬処理によって化成処理を行う。尚、リフロー処理後に表面に生成した錫酸化物を除去するため、15g/lの炭酸ナトリウム水溶液中で1C/dmの陰極処理を行ってもよい。
【0027】
化成処理液としては、リン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、錫イオン換算で0.001〜10g/lの塩化第一錫、0.1〜1.0 g/lの塩素酸ナトリウムを含有し、さらにシランカップリング剤を0.5〜20.0 mass%添加した水溶液を用いる。
【0028】
化成処理の条件は、温度を40〜80℃、処理(浸漬)時間を1〜5秒とすることが好ましい。化成処理後の錫めっき鋼板は、リンガーロールで絞って化成処理液の膜を所定の膜厚に制御し、赤外線加熱装置により該鋼板を110℃に加熱し乾燥させ、その後、直ちに水洗し、35〜90℃の温風で乾燥する。
【0029】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0030】
【実施例】
次に、この発明の実施例について以下で詳細に説明する。
実施例1〜8
板厚0.1〜2.0 mmの低炭素鋼または極低炭素鋼からなる冷延鋼板の両面に、表1に示すめっき構成の錫系めっき層を片面当り10g/mの付着量で形成した後、表2に示す3種類の化成処理液A〜Cから選んだ表1に示す化成処理液を用いて浸漬あるいはロール塗布を行い、加熱乾燥後、直ちに水洗し、温風乾燥することにより、化成皮膜を形成した。化成皮膜形成のため加熱乾燥させるときの加熱方法および加熱温度についても表1に示す。
【0031】
比較例1〜4
尚、比較のため、化成皮膜の形成方法がこの発明の適正範囲外である製造方法でも錫系めっき鋼板を製造した。
【0032】
【表1】
Figure 2004060052
【0033】
【表2】
Figure 2004060052
【0034】
(化成皮膜の評価)
実施例および比較例の各錫系めっき鋼板について、化成皮膜中のPおよびSi量の測定を蛍光X線による表面分析により行った。表1にそれらの評価結果を示す。
【0035】
(耐食性の評価)
実施例および比較例の各錫系めっき鋼板について、塩水噴霧試験(JIS Z 2371準拠)を24時間行い、赤錆発生面積率(%)で耐食性を評価した。表1にその評価結果を示す。
【0036】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜8はいずれも、化成皮膜中のSi量は安定して3mg/m以上であり、良好な耐食性を示し、より好ましい5mg/m以上の範囲ではさらに良好な耐食性を示した。一方、比較例1〜3はいずれも、化成皮膜中のSi量が3mg/m未満であり、実用レベルにないことがわかる。
【0037】
【発明の効果】
この発明は、錫系めっき層の上層に形成される化成皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、諸特性を満足させるPとSiを含有する化成皮膜を安定して得ることができる、Si含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法の提供が可能になった。

Claims (2)

  1. 鋼板の片面または両面に錫を含むめっき層を設けた後、りん酸イオンとシランカップリング剤を含有する化成処理液に浸漬または該化成処理液を塗布し、化成処理液が鋼板のめっき層上に存在した状態で該鋼板を80〜200℃に加熱して乾燥させ、次いで水洗した後、再度乾燥させることを特徴とする、Si含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法。
  2. 前記化成処理液が界面活性剤を含有する請求項1に記載のSi含有化成皮膜を有する錫系めっき鋼板の製造方法。
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