JP2004052043A - 微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金からなり、溶体化処理後においても微細な結晶組織を有する機械的性質が優れたAl−Si系合金材料の製造方法を提供する。
【解決手段】Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる工程と、前記熱処理後の合金に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す工程と、前記合金に溶体化処理を施す工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる工程と、前記熱処理後の合金に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す工程と、前記合金に溶体化処理を施す工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細組織を有するAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Al−Si−Cu系、Al−Si−Mg系またはAl−Si−Cu−Mg系のようなAl−Si系の鋳鍛造合金では、その用途によって様々な形状および機械的特性が要求され、その要求に応じて合金設計を行なって適切な熱処理を施し製品部材にしている。例えば、エアコン用スクロール部材の製造工程では鋳造後に約500℃での溶体化処理および120〜200℃での時効処理を施している。Ai−Si系合金に限らず、一般に金属材料の機械的性質は結晶粒径が小さいほど優る。しかしながら、溶体化処理等の高温での熱処理工程を施すと、もともと数μm、あるいはそれ以下であった結晶粒径がおよそ数100μm程度まで粗大化し、場合によっては数mmを超える大きさに粗大化するため、機械的性質が低下するという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金からなり、溶体化処理後においても微細な結晶組織を有し、機械的性質が優れたAl−Si系合金材料の製造方法を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法は、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる工程と、
前記熱処理後の合金に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す工程と、
前記合金に溶体化処理を施す工程と
を含むことを特徴とするものである。
【0005】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記Al−Si系合金はさらにジルコニウムを含有することを許容する。
【0006】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に鍛造処理を施すことを許容する。
【0007】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に圧延処理を施すことを許容する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(第1工程)
Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金(例えばインゴット、鋳造材)に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる。
【0010】
前記Al−Si−Cu系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、Cu0.5〜4重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0011】
前記Al−Si−Mg系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、
Mg0.4〜1.5重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0012】
前記Al−Si−Cu−Mg系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、Cu0.5〜4重量%、Mg0.4〜1.5重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0013】
前記Al−Si系合金は、ジルコニウム(Zr)をさらに含有することを許容する。Zrは、Al−Si系の合金中に0.2重量%以下含有することが好ましい。Zrの含有量が0.2重量%を超えると、成形性の障害になる虞がある。
【0014】
前記熱処理において、棒状の晶出Siが50%を超えると、加工性に乏しくなり、この後の強加工工程で微細な結晶粒径を有する強加工材を得ることが困難になる。この熱処理において、晶出Siの少なくとも80%を棒状から球状に変化させることがより好ましい。このような熱処理の具体的な条件は、480〜520℃、2時間以上である。
【0015】
なお、Zrをさらに含有するAl−Si系の合金の場合、前記熱処理は480〜520℃で2時間以上の第1段熱処理、およびこれより低温の250〜400℃で5時間以上の第2段熱処理を採用することが好ましい。
【0016】
(第2工程)
前記熱処理後のAl−Si系合金のインゴット、鋳造材に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す。
【0017】
前記強加工処理としては、例えば制御破砕成形(BMA;Bulk Mechanical Alloying)法、繰返し折り重ね圧延(ARB;Accumulative Roll Bonding)法、等断面剪断プレス(ECAP;Equal Channel Angular Pressing)法、および異周速圧延法等を採用することができる。
【0018】
前記強加工処理時の温度を200℃未満にすると、その処理時にAl−Si系合金のインゴット、鋳造材に割れが発生する。一方、前記強加工処理時の温度が350℃を超えると、強加工後のインゴット、鋳造材のAl結晶粒径を微細化することが困難になる。
【0019】
(第3工程)
前記強加工後の合金(インゴット、鋳造材)に溶体化処理を施す。
【0020】
前記溶体化処理は、一般に480〜550℃の範囲で行なわれる。ただし、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に鍛造処理または圧延処理を施すことを許容する。この溶体化処理後に時効処理を施すことを許容する。また、鍛造処理または圧延処理の前に強加工材を焼きなまし処理を施すことも許容する。この焼きなまし処理により鍛造処理または圧延処理の成形性がさらに向上する。
【0021】
以上説明したように、本発明によればAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させることによって、後段の強加工を容易にすることができる。この熱処理後のAl−Si系合金を200〜350℃の温度下で強加工処理(例えば等断面剪断プレス(ECAP)法による強加工処理)を施すことによって、結晶粒径が例えば数μmと微細な組織を有するAl−Si系合金を得ることができる。
【0022】
このような熱処理と強加工を施すことにより得られたAl−Si合金素材は、焼きなまし処理のような溶体化処理工程においても結晶粒径が粗大化されず、微細結晶粒組織を維持し優れた機械的性質を発揮することができる。その結果、冷間及び熱間を問わず優れた成形性を有し、Al−Si合金の用途を拡大できる。
【0023】
発明者らは、前記熱処理と強加工を施すことにより得られたAl−Si合金素材を鍛造により目的の形状にし、その後に溶体化処理および時効処理を施しても微細な結晶粒組織を得ることができた。
【0024】
また、Al−Si系合金にZrを適量配合させ、適切な熱処理と強加工を施すことによって、溶体化処理工程においても結晶粒径が粗大化せず、無配合のものに比べてさらに微細な結晶粒組織を有し、機械的性質に優れたAl−Si系合金素材を製造することができる。特に、前記熱処理として480〜520℃で2時間以上の第1段熱処理、250〜400℃で5時間以上の第2段熱処理を採用することによって、より一層微細な結晶粒組織を有し、機械的性質に優れたAl−Si系合金素材を製造することができる。
【0025】
【実施例】
以下、好ましい実施例を詳細に説明する。
【0026】
(実施例1)
Al−9%Si−2%Cu−0.4%Mg(JIS規格AC4B相当)からなる鋳造材に505℃で4時間熱処理を施した後に空冷した。鋳造材の組織をSEMで観察したところ、ほぼ全量の晶出Siが棒状形状から球状形状に変化していることが確認された。つづいて、熱処理後の鋳造材を200℃で等断面剪断プレス(ECAP)法により強加工処理を1パス行なってAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。このECAP法は、熱処理後の鋳造材を90°に折り曲がった(または屈曲した)孔(流路)を持つ金型に装填し、押出すことによってその鋳造材を200℃の温度下で強加工する方法により行なった。
【0027】
(実施例2〜4)
実施例1と同様な熱処理を施した鋳造材を下記表1に示す温度下でECAP法により強加工処理を行なって3種のAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。
【0028】
(比較例1〜3)
実施例1と同様な熱処理を施した鋳造材を下記表1に示す温度下でECAP法により強加工処理を行なって3種のAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。ただし、比較例1では強加工時に鋳造材に割れが発生したため、この後の評価に供することができなかった。
【0029】
得られた実施例1〜4および比較例2,3の合金素材(強加工材)の結晶粒径をSEMにより測定した。その結果を下記表1に示す。
【0030】
また、実施例1〜4および比較例2,3の合金素材(強加工材)を下記表1に示す条件下で溶体化処理および時効処理を施した後の結晶粒径、機械的性質(切欠疲労強度、伸び)を測定した。なお、切欠疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験(形状係数;3.2)により求めた。その結果を下記表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
前記表1から明らかなようにAl−Si−Cu−Mgからなる鋳造材に所定の熱処理を施した後のECAP法による強加工を200〜350℃の温度範囲で行なうことにより得られた実施例1〜4のAl−Si合金素材は、前記強加工を350℃を超える温度で行なうことにより得られた比較例2,3のAl−Si合金素材に比べて結晶粒径が微細で、さらに後熱処理後の結晶粒径も微細で、かつ回転曲げ切欠疲労強度、伸びのような機械的性質が優れていることがわかる。
【0033】
(実施例5)
Al−9%Si−2%Cu−0.4%Mg(JIS規格AC4B相当)にジルコニウム(Zr)を0.2重量%配合した鋳造材に505℃で4時間の第1段熱処理を施した後に空冷し、さらに200℃で8時間の第2段熱処理を施した後空冷した。鋳造材の組織をSEMで観察したところ、ほぼ全量の晶出Siが棒状形状から球状形状に変化していることが確認された。つづいて、熱処理後の鋳造材を300℃で等断面剪断プレス(ECAP)法により強加工処理を1パス行なってAl−Si系合金材料(合金素材)を製造した。このECAP法は、熱処理後の鋳造材を金型の90°に折り曲げられた流通路内に装填し、その鋳造材を300℃の温度下で剪断プレスする方法により行なった。
【0034】
(実施例6〜11)
実施例5と同様な鋳造材を下記表2に示す温度、時間で第1段熱処理を施した後空冷し、さらに下記表2に示す温度、時間で第2段熱処理を施した後空冷した以外、実施例5と同様な方法により7種のAl−Si系合金材料(合金素材)を製造した。
【0035】
得られた実施例5〜12の合金素材(強加工材)の結晶粒径をSEMにより測定した。その結果を下記表2に示す。
【0036】
また、実施例5〜12の合金素材(強加工材)を下記表2に示す条件下で溶体化処理および時効処理を施した後の結晶粒径、機械的性質(引張強度、伸び)を測定した。なお、引張試験は平行部形状長さ10mm、幅4mm、厚さ2mmの板状試験片を用いて行なった。その結果を下記表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
前記表2から明らかなようにAl−Si−Cu−Mgの合金にZrを配合した組成の鋳造材に所定の2段熱処理を施した後のECAP法による強加工を300℃の温度範囲で行なうことにより得られた実施例5〜11のAl−Si系合金素材は、Zr無配合で、前記強加工を300℃の温度で行なうことにより得られた前記表1の実施例2のAl−Si合金素材に比べて後熱処理後の結晶粒径をより一層微細化できることがわかる。
【0039】
特に、Al−Si−Cu−Mgの合金にZrを配合した組成の鋳造材の2段熱処理において第1段熱処理を480〜520℃で2時間以上、第2段熱処理を250〜400℃で5時間以上行なうことにより得られた実施例6,7,9,10,11のAl−Si系合金素材は、後熱処理後の結晶粒径が8μm以下とより微細で、かつ引張強度のような機械的性質がより一層優れていることがわかる。
【0040】
なお、前記実施例では主たる元素がAl、Si、Cu、Mgの合金を用いた例について説明したが、AClA、AC2AのようなAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金を用いても同様な効果を発現することができる。
【0041】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金からなり、溶体化処理後においても微細な結晶組織を有する機械的性質が優れ、Al−Si系合金の代表的な用途であるエアコン用スクロール材の製造等に有用なAl−Si系合金材料の製造方法を提供できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細組織を有するAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Al−Si−Cu系、Al−Si−Mg系またはAl−Si−Cu−Mg系のようなAl−Si系の鋳鍛造合金では、その用途によって様々な形状および機械的特性が要求され、その要求に応じて合金設計を行なって適切な熱処理を施し製品部材にしている。例えば、エアコン用スクロール部材の製造工程では鋳造後に約500℃での溶体化処理および120〜200℃での時効処理を施している。Ai−Si系合金に限らず、一般に金属材料の機械的性質は結晶粒径が小さいほど優る。しかしながら、溶体化処理等の高温での熱処理工程を施すと、もともと数μm、あるいはそれ以下であった結晶粒径がおよそ数100μm程度まで粗大化し、場合によっては数mmを超える大きさに粗大化するため、機械的性質が低下するという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金からなり、溶体化処理後においても微細な結晶組織を有し、機械的性質が優れたAl−Si系合金材料の製造方法を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法は、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる工程と、
前記熱処理後の合金に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す工程と、
前記合金に溶体化処理を施す工程と
を含むことを特徴とするものである。
【0005】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記Al−Si系合金はさらにジルコニウムを含有することを許容する。
【0006】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に鍛造処理を施すことを許容する。
【0007】
本発明に係る微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法において、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に圧延処理を施すことを許容する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(第1工程)
Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金(例えばインゴット、鋳造材)に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる。
【0010】
前記Al−Si−Cu系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、Cu0.5〜4重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0011】
前記Al−Si−Mg系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、
Mg0.4〜1.5重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0012】
前記Al−Si−Cu−Mg系合金としては、例えばSi4〜13.5重量%、Cu0.5〜4重量%、Mg0.4〜1.5重量%、残部Alからなる組成のものを挙げることができる。
【0013】
前記Al−Si系合金は、ジルコニウム(Zr)をさらに含有することを許容する。Zrは、Al−Si系の合金中に0.2重量%以下含有することが好ましい。Zrの含有量が0.2重量%を超えると、成形性の障害になる虞がある。
【0014】
前記熱処理において、棒状の晶出Siが50%を超えると、加工性に乏しくなり、この後の強加工工程で微細な結晶粒径を有する強加工材を得ることが困難になる。この熱処理において、晶出Siの少なくとも80%を棒状から球状に変化させることがより好ましい。このような熱処理の具体的な条件は、480〜520℃、2時間以上である。
【0015】
なお、Zrをさらに含有するAl−Si系の合金の場合、前記熱処理は480〜520℃で2時間以上の第1段熱処理、およびこれより低温の250〜400℃で5時間以上の第2段熱処理を採用することが好ましい。
【0016】
(第2工程)
前記熱処理後のAl−Si系合金のインゴット、鋳造材に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す。
【0017】
前記強加工処理としては、例えば制御破砕成形(BMA;Bulk Mechanical Alloying)法、繰返し折り重ね圧延(ARB;Accumulative Roll Bonding)法、等断面剪断プレス(ECAP;Equal Channel Angular Pressing)法、および異周速圧延法等を採用することができる。
【0018】
前記強加工処理時の温度を200℃未満にすると、その処理時にAl−Si系合金のインゴット、鋳造材に割れが発生する。一方、前記強加工処理時の温度が350℃を超えると、強加工後のインゴット、鋳造材のAl結晶粒径を微細化することが困難になる。
【0019】
(第3工程)
前記強加工後の合金(インゴット、鋳造材)に溶体化処理を施す。
【0020】
前記溶体化処理は、一般に480〜550℃の範囲で行なわれる。ただし、前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に鍛造処理または圧延処理を施すことを許容する。この溶体化処理後に時効処理を施すことを許容する。また、鍛造処理または圧延処理の前に強加工材を焼きなまし処理を施すことも許容する。この焼きなまし処理により鍛造処理または圧延処理の成形性がさらに向上する。
【0021】
以上説明したように、本発明によればAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金に熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させることによって、後段の強加工を容易にすることができる。この熱処理後のAl−Si系合金を200〜350℃の温度下で強加工処理(例えば等断面剪断プレス(ECAP)法による強加工処理)を施すことによって、結晶粒径が例えば数μmと微細な組織を有するAl−Si系合金を得ることができる。
【0022】
このような熱処理と強加工を施すことにより得られたAl−Si合金素材は、焼きなまし処理のような溶体化処理工程においても結晶粒径が粗大化されず、微細結晶粒組織を維持し優れた機械的性質を発揮することができる。その結果、冷間及び熱間を問わず優れた成形性を有し、Al−Si合金の用途を拡大できる。
【0023】
発明者らは、前記熱処理と強加工を施すことにより得られたAl−Si合金素材を鍛造により目的の形状にし、その後に溶体化処理および時効処理を施しても微細な結晶粒組織を得ることができた。
【0024】
また、Al−Si系合金にZrを適量配合させ、適切な熱処理と強加工を施すことによって、溶体化処理工程においても結晶粒径が粗大化せず、無配合のものに比べてさらに微細な結晶粒組織を有し、機械的性質に優れたAl−Si系合金素材を製造することができる。特に、前記熱処理として480〜520℃で2時間以上の第1段熱処理、250〜400℃で5時間以上の第2段熱処理を採用することによって、より一層微細な結晶粒組織を有し、機械的性質に優れたAl−Si系合金素材を製造することができる。
【0025】
【実施例】
以下、好ましい実施例を詳細に説明する。
【0026】
(実施例1)
Al−9%Si−2%Cu−0.4%Mg(JIS規格AC4B相当)からなる鋳造材に505℃で4時間熱処理を施した後に空冷した。鋳造材の組織をSEMで観察したところ、ほぼ全量の晶出Siが棒状形状から球状形状に変化していることが確認された。つづいて、熱処理後の鋳造材を200℃で等断面剪断プレス(ECAP)法により強加工処理を1パス行なってAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。このECAP法は、熱処理後の鋳造材を90°に折り曲がった(または屈曲した)孔(流路)を持つ金型に装填し、押出すことによってその鋳造材を200℃の温度下で強加工する方法により行なった。
【0027】
(実施例2〜4)
実施例1と同様な熱処理を施した鋳造材を下記表1に示す温度下でECAP法により強加工処理を行なって3種のAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。
【0028】
(比較例1〜3)
実施例1と同様な熱処理を施した鋳造材を下記表1に示す温度下でECAP法により強加工処理を行なって3種のAl−Si合金材料(合金素材)を製造した。ただし、比較例1では強加工時に鋳造材に割れが発生したため、この後の評価に供することができなかった。
【0029】
得られた実施例1〜4および比較例2,3の合金素材(強加工材)の結晶粒径をSEMにより測定した。その結果を下記表1に示す。
【0030】
また、実施例1〜4および比較例2,3の合金素材(強加工材)を下記表1に示す条件下で溶体化処理および時効処理を施した後の結晶粒径、機械的性質(切欠疲労強度、伸び)を測定した。なお、切欠疲労強度は小野式回転曲げ疲労試験(形状係数;3.2)により求めた。その結果を下記表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
前記表1から明らかなようにAl−Si−Cu−Mgからなる鋳造材に所定の熱処理を施した後のECAP法による強加工を200〜350℃の温度範囲で行なうことにより得られた実施例1〜4のAl−Si合金素材は、前記強加工を350℃を超える温度で行なうことにより得られた比較例2,3のAl−Si合金素材に比べて結晶粒径が微細で、さらに後熱処理後の結晶粒径も微細で、かつ回転曲げ切欠疲労強度、伸びのような機械的性質が優れていることがわかる。
【0033】
(実施例5)
Al−9%Si−2%Cu−0.4%Mg(JIS規格AC4B相当)にジルコニウム(Zr)を0.2重量%配合した鋳造材に505℃で4時間の第1段熱処理を施した後に空冷し、さらに200℃で8時間の第2段熱処理を施した後空冷した。鋳造材の組織をSEMで観察したところ、ほぼ全量の晶出Siが棒状形状から球状形状に変化していることが確認された。つづいて、熱処理後の鋳造材を300℃で等断面剪断プレス(ECAP)法により強加工処理を1パス行なってAl−Si系合金材料(合金素材)を製造した。このECAP法は、熱処理後の鋳造材を金型の90°に折り曲げられた流通路内に装填し、その鋳造材を300℃の温度下で剪断プレスする方法により行なった。
【0034】
(実施例6〜11)
実施例5と同様な鋳造材を下記表2に示す温度、時間で第1段熱処理を施した後空冷し、さらに下記表2に示す温度、時間で第2段熱処理を施した後空冷した以外、実施例5と同様な方法により7種のAl−Si系合金材料(合金素材)を製造した。
【0035】
得られた実施例5〜12の合金素材(強加工材)の結晶粒径をSEMにより測定した。その結果を下記表2に示す。
【0036】
また、実施例5〜12の合金素材(強加工材)を下記表2に示す条件下で溶体化処理および時効処理を施した後の結晶粒径、機械的性質(引張強度、伸び)を測定した。なお、引張試験は平行部形状長さ10mm、幅4mm、厚さ2mmの板状試験片を用いて行なった。その結果を下記表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
前記表2から明らかなようにAl−Si−Cu−Mgの合金にZrを配合した組成の鋳造材に所定の2段熱処理を施した後のECAP法による強加工を300℃の温度範囲で行なうことにより得られた実施例5〜11のAl−Si系合金素材は、Zr無配合で、前記強加工を300℃の温度で行なうことにより得られた前記表1の実施例2のAl−Si合金素材に比べて後熱処理後の結晶粒径をより一層微細化できることがわかる。
【0039】
特に、Al−Si−Cu−Mgの合金にZrを配合した組成の鋳造材の2段熱処理において第1段熱処理を480〜520℃で2時間以上、第2段熱処理を250〜400℃で5時間以上行なうことにより得られた実施例6,7,9,10,11のAl−Si系合金素材は、後熱処理後の結晶粒径が8μm以下とより微細で、かつ引張強度のような機械的性質がより一層優れていることがわかる。
【0040】
なお、前記実施例では主たる元素がAl、Si、Cu、Mgの合金を用いた例について説明したが、AClA、AC2AのようなAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金を用いても同様な効果を発現することができる。
【0041】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金またはAl−Si−Cu−Mg系合金のようなAl−Si系合金からなり、溶体化処理後においても微細な結晶組織を有する機械的性質が優れ、Al−Si系合金の代表的な用途であるエアコン用スクロール材の製造等に有用なAl−Si系合金材料の製造方法を提供できる。
Claims (4)
- Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Mg系合金およびAl−Si−Cu−Mg系合金から選ばれるAl−Si系合金を熱処理を施して晶出Siの少なくとも50%を棒状から球状に変化させる工程と、
前記熱処理後の合金に大きな歪を付与する強加工処理を200〜350℃の温度で施す工程と、
前記合金に溶体化処理を施す工程と
を含むことを特徴とする微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法。 - 前記Al−Si系合金は、さらにジルコニウムを含有することを特徴とする請求項1記載の微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法。
- 前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に鍛造処理を施すことを特徴とする請求項1または2記載の微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法。
- 前記強加工処理後、前記溶体化処理前に前記合金に圧延処理を施すことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の微細組織を有するAl−Si系合金材料の製造方法。
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- 2002-07-19 JP JP2002211422A patent/JP2004052043A/ja active Pending
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