JP2004051661A - 水性分散体、塗膜および積層体フィルム - Google Patents
水性分散体、塗膜および積層体フィルム Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】特定組成のポリオレフィン樹脂(A)と、ガラス転移温度が0℃以上のポリウレタン樹脂(B)および水性媒体を含有する水性分散体であって、(A)と(B)の質量比が97/3〜10/90であることを特徴とする水性分散体。また、これから得られる塗膜、およびこの塗膜を基材フィルム上に設けてなる積層体フィルム。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定組成のポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂とを特定の割合で含有した水性分散体に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体などのポリオレフィン樹脂は、良好な熱接着性を有する塗膜を形成できることから、繊維処理剤、コーティング剤、ヒートシール剤、パートコート剤等の用途に広く用いられている。このような樹脂をフィルム等の基材に積層する場合、環境や安全性に配慮して、水性媒体に分散させたコート剤を用いる方法が採られている。例えば、特開2000−72879号公報、特開2000−119398号公報には、不飽和カルボン酸の含有量が5〜30質量%のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂の水性分散体、及びその製法が記載されている。しかしながら、不飽和カルボン酸含有量の多い樹脂は極性が高く、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の極性の低い樹脂フィルムとの接着性が非常に低かった。
【0003】
これに対し、不飽和カルボン酸含有量が低いポリオレフィン樹脂は、極性の低いフィルムへの接着性が比較的良好である。こうした樹脂の水性分散体は、特開昭62−252478号公報、特開平5−163420号公報、特開平7−82423号公報、特開平9−296081号公報等に開示されている。しかしながら、これらを用いても接着性は十分とは言えなかった。
【0004】
また、ポリオレフィン樹脂は一般的に軟化点が低いため、ポリオレフィン樹脂水性分散体から得られる塗膜のブロッキング性(フィルムなどを重ねて置いておいた場合にくっついて離れ難くなる現象)の改善が必要であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような問題に対して、耐ブロッキング性が良好で、かつ基材フィルムとの良好な密着性を有し、さらには衛生性、耐水性、耐アルカリ性、耐ボイル性、ヒートシール性にも優れた塗膜を形成することができる水性分散体を提供しようとするものである。
【0006】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定組成のポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂とを特定の割合で含有することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、水性媒体中に、不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)、エチレン系炭化水素(A2)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル、ビニルエステルおよびアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の化合物(A3)とから構成され、(A1)〜(A3)の各構成成分の質量比が下記式(1)、(2)を満たすポリオレフィン樹脂(A)およびガラス転移温度が0℃以上のポリウレタン樹脂(B)とが分散されており、(A)と(B)の質量比(A)/(B)が97/3〜10/90の範囲であることを特徴とする水性分散体、およびこれから得られる塗膜、この塗膜を熱可塑性樹脂フィルムに積層したフィルム積層体である。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、水性媒体中にポリオレフィン樹脂(A)およびポリウレタン樹脂(B)を含有する水性分散体である。(A)と(B)の質量比は97/3〜10/90の範囲とする必要がある。(A)が97質量%を超えるときは、耐ブロッキング性の改善効果が小さく、(A)が10質量%未満のときは、低温でのヒートシール性、耐ボイル性が著しく低下してしまう。この比率は、耐ブロッキング性、ヒートシール性などの性能の点から95/5〜20/80が好ましく、90/10〜30/70がより好ましく、90/10〜40/60がさらに好ましく、85/15〜50/50が特に好ましい。
また、水性媒体とは、水を主成分とする媒体であり、後述する水溶性の有機溶剤や塩基性化合物を含有していてもよい。
【0008】
[ポリオレフィン樹脂(A)]
ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)、エチレン系炭化水素(A2)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル、ビニルエステルおよびアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の化合物(A3)とから構成され、下記式(1)、(2)を満たすものである。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【0009】
(A1)成分は、ポリオレフィン樹脂中に0.01質量%以上、5質量%未満含有していることが必要である。より好ましくは0.1質量%以上、5質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%以上、5質量%未満であり、1〜4質量%が最も好ましい。(A1)成分の含有量が0.01質量%未満の場合は、樹脂を水性化(液状化)することが困難になる傾向がある。一方、(A1)成分の含有量が5質量%を超える場合には、ポリオレフィン樹脂の極性が高くなり、極性の低いフィルムとの密着性が低下しやすい。
【0010】
このような(A1)成分としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸は、塩、酸無水物、ハーフエステル、ハーフアミドなどの誘導体になっていても良い。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、この成分の共重合形態は特に限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等のいずれでもよい。
【0011】
また、(A2)成分と(A3)成分との質量比(A2)/(A3)は、この2成分の合計量を100質量%とした場合55/45〜99/1の範囲であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂フィルムとの良好な接着性を持たせるために、この範囲は60/40〜97/3であることがより好ましく、65/35〜95/5であることがさらに好ましく、70/30〜92/8であることが特に好ましく、75/25〜90/10であることが最も好ましい。(A3)成分の比率が1質量%未満では、ポリオレフィン樹脂の水性化は困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、化合物(A3)の含有量が45質量%を超えるとオレフィン由来の樹脂の性質が失われ、耐水性、ヒートシール性等の性能が低下する。
【0012】
(A2)成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン類が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0013】
(A3)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類などが挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。この中で、(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、あるいは(メタ)アクリル酸エチルが特に好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが最も好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。)
【0014】
上記のような構成を有するポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン−アクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体またはエチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体が最も好ましい。三元共重合体の形態はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよいが、入手が容易という点でランダム共重合体、グラフト共重合体が好ましい。
【0015】
アクリル酸エステル単位は、樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、その様な場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
なお、本発明で用いる無水マレイン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂中のマレイン酸単位は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した無水マレイン酸構造を取りやすく、一方、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中ではその一部、または全部が開環してマレイン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0016】
本発明において、ポリオレフィン樹脂は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.01〜500g/10分、好ましくは1〜400g/10分、より好ましくは2〜300g/10分、最も好ましくは2〜250g/10分のものを用いることができる。ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化は困難になる。一方、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが500g/10分を超えると、その水性分散体から得られる塗膜は、硬くてもろくなり、機械的物性やヒートシール性が低下する。
【0017】
ポリオレフィン樹脂の合成法は特に限定されず、一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸、あるいはその無水物はグラフト共重合(グラフト変性)されていてもよい。なお、乳化剤や保護コロイドを用いない製法が、塗膜としたときの性能上、好ましい。
【0018】
[ポリウレタン樹脂(B)]
本発明で用いるポリウレタン樹脂とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。本発明においては、ポリウレタン樹脂の構造は特に限定されないが、耐ボイル性の点から、ガラス転移温度が0℃以上である必要があり、さらに耐ブロッキング性の点から、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が特に好ましい。
【0019】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、水性媒体への分散性の点から陰イオン性基を有していることが好ましい。陰イオン性基とは水性媒体中で陰イオンとなる官能基のことであり、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などである。この中でもカルボキシル基を有していることが好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0021】
また、ポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類にはトリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0022】
また、ポリウレタン樹脂に陰イオン性基を導入するには、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基などを有するポリオール成分を用いればよく、カルボキシル基を有するポリオール化合物としては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸、N,N−ジヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−カルボキシル−プロピオンアミド等が挙げられる。
【0023】
また、鎖長延長剤を用いて適宜ポリウレタン樹脂の分子量を調整することもできる。こうした化合物としては、イソシアネート基と反応することができるアミノ基や水酸基などの活性水素を2個以上有する化合物が挙げられ、例えば、ジアミン化合物、ジヒドラジド化合物、グリコール類を用いることができる。
ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチルテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジアミンなどが挙げられる。その他、N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−3−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等も挙げられる。更に、グルタミン酸、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類も挙げられる。
ジヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシンジヒドラジドなどの2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどの不飽和ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジドなどが挙げられる。
グリコール類としては、前述のポリオール類から適宜選択して用いることができる。
【0024】
本発明の水性分散体は、塗膜特性(特に耐水性)や衛生面の理由から、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。こうした化合物は塗膜形成後にも塗膜中に残存し、塗膜を可塑化して性能を悪化させたり、塗膜から溶出したりするからである。
「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化の促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。また、「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性化助剤を積極的には添加しないことにより、得られる水性分散体が結果的にこれを含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は添加量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で樹脂成分に対して0.1質量%未満添加しても差し支えない。
【0025】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0026】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子に相当するものとしては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0027】
本発明の水性分散体において、ポリオレフィン樹脂のカルボキシル基(酸無水物を含む)およびポリウレタン樹脂の陰イオン性基は、一部がアニオン化されていることが好ましい。アニオンの静電気的反発力によって樹脂微粒子間の凝集を防ぎ、水性分散体を安定させることができる。
【0028】
[水性分散体の製造法]
本発明の水性分散体を得るには、ポリオレフィン樹脂およびポリウレタン樹脂の樹脂混合物を同時に1つの容器で水性化(水性媒体に分散すること)してもよいし、それぞれの樹脂の水性分散体を所望の組成になるように混合してもよく、後者の方法が好ましい。以下、この好ましい方法について詳述する。
【0029】
[ポリオレフィン樹脂の水性分散体]
ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得るための方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができる。このとき、水性化に用いられる樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0030】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。
【0031】
この装置の槽内に各原料を投入した後、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を50〜200℃、好ましくは60〜200℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることにより樹脂を十分に水性化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が50℃未満の場合は、樹脂の水性化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合には、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。
【0032】
この際に、前述の理由から、ポリオレフィン樹脂のカルボキシル基または酸無水物基をアニオン化するために、塩基性化合物を添加することが好ましい。塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基(酸無水物基1モルはカルボキシル基2モルとみなす)に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.0〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水分散液が着色する場合がある。
【0033】
ここで添加される塩基性化合物としては、LiOH、KOH、NaOH等の金属水酸化物のほか、塗膜の耐水性の面からは塗膜形成時に揮発する化合物が好ましく、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物が好ましい。有機アミン化合物の沸点は250℃以下であることが好ましい。250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0034】
また、ポリオレフィン樹脂の水性化の際には、有機溶剤を添加することが好ましい。有機溶剤の添加量はポリオレフィン樹脂の水性分散体100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましく、2〜30質量部がより好ましく、3〜20質量部が特に好ましい。なお、有機溶剤は、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱することで、その一部を系外へ除去(ストリッピング)することができ、最終的には、ポリオレフィン樹脂の水性分散体100質量部に対して1質量部以下とすることもできる。使用される有機溶剤の具体例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、低温乾燥性の点からイソプロパノールが特に好ましい。
【0035】
[ポリウレタン樹脂の水性分散体]
ポリウレタン樹脂の水性分散体を得るための方法は特に限定されず、既述のポリオレフィン樹脂の水性化方法に準じ、ポリウレタン樹脂を水性媒体に分散させることができる。このようなポリウレタン樹脂の水性分散体は市販されており、三井武田社製のタケラックW−615、W−6010、W−6020、W−6061、W−511、W−405、W−7004、W−605、WS−7000、WS−5000、WS−5100、WS−4000(以上、アニオン性タイプ)、W−512A6、W−635(以上、ノニオン性タイプ)等を例示することができる。
【0036】
上記した、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂それぞれの水性分散体を混合して、所望の樹脂比率の水性分散体を得ることができる。
【0037】
本発明の水性分散体中の樹脂粒子の数平均粒子径(以下、mn)は、水性分散体の保存安定性が向上するという観点から、0.3μm以下が好ましく、低温造膜性の観点から0.2μm以下がより好ましく、0.1μm未満が最も好ましい。さらに、重量平均粒子径(以下、mw)に関しては、0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。粒子径を小さくすることで、低温(例えば100℃以下、さらにはポリオレフィン樹脂の融点以下)での造膜性が向上し、透明な塗膜を形成することができる。粒子の分散度(mw/mn)は、水性分散体の保存安定性、及び低温造膜性の観点から、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0038】
本発明の水性分散体における、樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、5〜45質量%が特に好ましい。
【0039】
本発明の水性分散体には、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を水性分散体中のポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂との合計100質量部に対して0.01〜60質量部、好ましくは0.1〜30質量部添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
【0040】
さらに、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を本発明の水性分散体に添加することもできる。
【0041】
本発明の水性分散体から得られる塗膜は、耐ブロッキング性、耐ボイル性が良好であり、しかも様々な熱可塑性樹脂フィルム基材との密着性に優れる。基材として用いることのできる熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6(以下、Ny6)、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン(以下、PP)、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも良く、製法も限定されるものではない。また、フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常1〜500μmであれば良い。
【0042】
また、本発明の水性分散体組成物を用いて形成される樹脂塗膜の厚さとしては、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜30μmが好ましく、0.02〜10μmがより好ましく、0.03〜9μmがさらに好ましく、0.05〜8μmが特に好ましい。樹脂塗膜の厚さが0.01μm未満ではヒートシール性が悪化する。なお、本発明の水性分散体は数μm以下の厚さでヒートシール性を含めた各種の優れた性能が発現するため、格別の理由がなければ10μmを超えて塗装する必要はない。なお、樹脂塗膜の厚さを調節するためには、コーティングに用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする樹脂塗膜の厚さに適した濃度の水性分散体を使用することが好ましい。
【0043】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
1. 樹脂の特性
(1)樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)ポリオレフィン樹脂の水性化後のエステル基残存量
ポリオレフィン樹脂の水性分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、水性化前の(メタ)アクリル酸エステルのエステル基量を100%としてエステル基の残存率(%)を求めた。
(3)樹脂の融点、ガラス転移温度(Tg)
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。また、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間値を求め、これをTgとした。
(4)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0044】
2. 水性分散体の特性
(1)水性化収率
水性化後の水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)した際に、フィルター上に残存する樹脂質量を測定し、仕込み樹脂質量より収率を算出した。
(2)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(3)水性分散体の粘度
株式会社トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、温度20℃における水性分散体の回転粘度を測定した。
(4)水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径および重量平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
(5)水性分散体の外観
目視により色調を観察した。
(6)水性分散体のポットライフ
水性分散体を室温で30日放置した後の水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘がみられる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
(7)ポリオレフィン樹脂水性分散体の有機溶剤含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−UniportHP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0045】
3.塗膜の特性
以下の評価においては、熱可塑性樹脂フィルムとして、2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)、2軸延伸Ny6フィルム(ユニチカ社製エンブレム、厚み15μm)、延伸PPフィルム(東セロ社製、厚み20μm)を用いた。
(1)耐水性評価方法
2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。塗膜を水で濡らした布で数回擦り、塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし、△:塗膜がくもる、×:塗膜が完全に溶解
(2)耐アルカリ性評価方法
2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。塗膜を水酸化ナトリウムでpHを12.0に調製したアルカリ水で濡らした布で数回擦り、塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし、△:塗膜がくもる、×:塗膜が完全に溶解
(3)密着性評価:テープ剥離試験
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。コート面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視で評価した。
○:全く剥がれなし、△:一部、剥がれた、×:全て剥がれた
(4)耐ボイル性評価方法
2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、外観と密着性(テープ剥離試験)を評価した。80℃の温水中にサンプルを2時間浸漬した後の塗膜の外観(状態)を目視で評価した。ボイル後の密着性に付いては、ボイル後のサンプルを60℃×2時間乾燥した後、コート面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視で評価した。
外観 ; ○:変化なし、×:塗膜が白化、または剥離
密着性 ; ○:全く剥がれなし、△:一部、剥がれた、×:全て剥がれた
(5)ヒートシール性評価方法
各種熱可塑性樹脂フィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が2μmになるように60℃で1分間、乾燥させた。得られた積層体フィルムの塗膜が接するようにして、ヒートプレス機(シール圧0.3MPaで2秒間)にて120℃でプレスした。このサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度180度で塗膜の剥離強度を測定することでヒートシール強度を評価した。
(6)樹脂塗膜の耐ブロッキング性
2軸延伸PETフィルムのコロナ処理面に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、60℃で1分間、乾燥させた。得られた積層体フィルムを室温で1日放置後、コート面に2軸延伸PETフィルムの非コロナ処理面を重ね合わせた状態で、0.02MPaの負荷をかけ、25℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その耐ブロッキング性を次の3段階で評価した。○:フィルムを軽く持ち上げる程度で剥離する。
△:フィルムを引っ張ることで剥離する(塗膜の凝集破壊はない)。
×:フィルムを引っ張っても剥離しない、または塗膜の凝集破壊が認められる。
【0046】
以下の実施例において使用したポリオレフィン樹脂の組成を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX−8290(ア),住友化学工業社製〕、60.0gのイソプロパノール(以下、iPA)、2.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)および177.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140〜145℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
水性分散体の各種特性を表2に示した。数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.068μm、0.087μmであり、その分布も1山であり、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。さらに、この水性分散体のポットライフは30日以上であった。なお、水性化後の樹脂組成を分析したところ、アクリル酸エチルの残存率は100%であり、エステル基は加水分解されていなかった。このエステル基残存率は室温で30日、放置後でも変化せず100%であった。
【0049】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2の製造)
ポリオレフィン樹脂としてボンダインTX−8030(イ)(住友化学工業社製)を用い、有機溶剤(IPA)量を表2のように変更した以外はコート剤組成物E−1の製造と同様の操作でポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0050】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3の製造)
E−1 250g、蒸留水40gを0.5リットルの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約95gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、25.8質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が25.0質量%になるように調整した。水性分散体の各種特性を表2に示した。なお、この水性分散体中の水溶性有機溶剤の含有率は0.5質量%であった。
【0051】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−4の製造)
ポリオレフィン樹脂としてエチレン−アクリル酸共重合体樹脂〔プリマコール5980I(ウ)、アクリル酸20質量%共重合体、ダウケミカル製〕を用いた。ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、45.0gのエチレン−アクリル酸共重合体樹脂〔プリマコール5980I(エ)、ダウケミカル社製〕、12.8g(樹脂中のアクリル酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のTEA、および242.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに40分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体E−4を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0052】
【表2】
【0053】
ポリウレタン樹脂水性分散体は市販のタケラックW−6010(三井武田社製、以下W6010)、タケラックW−6061(三井武田社製、以下W6061)、アデカボンタイターHUX−380(旭電化工業社製、以下HUX380)を使用した。使用した水性分散体の樹脂特性を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例1
ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1とポリウレタン樹脂水性分散体W6010を樹脂成分質量比が65/35となるように室温にて混合、攪拌して水性分散体K−1を得た。この水性分散体を用いて、各種評価を行った。
【0056】
実施例2〜4
E−1とW6010とを樹脂成分が表4記載の質量比となるように混合して水性分散体K−2(実施例2)、K−3(実施例3)、K−4(実施例4)を得た。この水性分散体を用いた以外は実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
実施例5〜7
ポリオレフィン樹脂水性分散体とポリウレタン樹脂水性分散体の種類と混合比を表4記載のように変更した以外は実施例1と同様にして水性分散体を得て評価を行った。
【0058】
実施例8〜10
実施例1で得られた水性分散体E−1に各種架橋剤を混合した。架橋剤として次の3種を用いた。
・メラミン化合物(三井サイテック社製サイメル327、固形分濃度90質量%、実施例8)
・エポキシ化合物(ナガセ化成工業社製デナコールEX−313、固形分濃度100質量%、実施例9)
・オキサゾリン基含有化合物(日本触媒社製エポクロスWS−700、固形分40質量%、実施例10)を用いた。
E−1を撹拌しておき、上記架橋剤を表4に示す量だけ添加した。室温で30分間撹拌した後、評価を行った。いずれの架橋剤を用いた場合も、耐ブロッキング性がやや向上した。
【0059】
比較例1
ポリオレフィン樹脂水性分散体をE−4に変更した以外は実施例1と同様にして水性分散体H−1を得て、各種評価を行った。
【0060】
比較例2
ポリウレタン樹脂水性分散体をHUX380に変更した以外は実施例1と同様にして水性分散体H−2を得て、各種評価を行った。
【0061】
比較例3、4
E−1とW6010を用いて、樹脂質量比を表4記載となるように室温にて混合、攪拌して水性分散体H−3、4を得て、各種評価を行った。
【0062】
実施例1〜10および比較例1〜4の結果をまとめて表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1〜11では、水性分散体から得られる塗膜は、ポリオレフィン樹脂の融点以下の低温乾燥でも透明であり、耐ブロッキング性が良好で、しかも耐水性、耐アルカリ性、耐ボイル性、密着性、ヒートシール性に優れていた。ポリウレタン樹脂の含有量が増すとヒートシール性がやや低下する傾向が認められた。また、架橋剤を添加した場合(実施例8〜10)、他の物性は殆ど低下することなく耐ブロッキング性が向上した。
これに対して、比較例1は、カルボキシル基量が本発明の範囲を上方に外れるポリオレフィン樹脂を用いたため、耐アルカリ性は著しく悪化し、密着性やヒートシール性も良くなかった。比較例2は、Tgが本発明の範囲を下方に外れるポリウレタン樹脂を用いたため、耐ブロッキング性は良くなかった。比較例3は、ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の質量比が本発明の範囲を外れ、ポリウレタン樹脂が少なかったため、耐ブロッキング性が不十分であった。比較例4は、ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の質量比が本発明の範囲を外れ、ポリウレタン樹脂が多すぎため、ヒートシール性は殆ど無かった。
【0065】
【発明の効果】
本発明の水性分散体から得られる塗膜は、耐ブロッキング性が良好で、低温で乾燥しても透明性、衛生性、耐水性、耐ボイル性、耐アルカリ性、様々な基材フィルムとの密着性、ヒートシール性に優れており、コーティング剤、ヒートシール剤、パートコート剤、繊維処理剤等の用途に好適に使用することができる。
Claims (9)
- 不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)、エチレン系炭化水素(A2)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル、ビニルエステルおよびアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の化合物(A3)とから構成され、(A1)〜(A3)の各構成成分の質量比が下記式(1)、(2)を満たすポリオレフィン樹脂(A)およびガラス転移温度が0℃以上のポリウレタン樹脂(B)とが水性媒体中に分散されており、(A)と(B)の質量比(A)/(B)が97/3〜10/90の範囲であることを特徴とする水性分散体。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2) - 水性分散体中の樹脂の数平均粒子径が0.3μm以下であることを特徴とする請求項1記載の水性分散体。
- ポリウレタン樹脂(B)のガラス転移温度が30℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性分散体。
- 水性分散体中に不揮発性水性化助剤を実質的に含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性分散体。
- ポリオレフィン樹脂(A)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01〜500g/10分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散体。
- ポリオレフィン樹脂(A)がエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水性分散体。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の水性分散体に対し、この水性分散体中の樹脂成分総量100質量部あたり0.01〜60質量部の架橋剤を配合してなる水性分散体。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の水性分散体から水性媒体を除去してなる塗膜。
- 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に請求項8記載の塗膜を設けた積層体フィルム。
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