JP2004026759A - 水素供給体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】芳香族化合物から水素供給体を簡単に効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】金属担持触媒の存在下、芳香族化合物を高圧水素雰囲気下で水素添加するか、耐圧容器中の液体芳香族化合物に、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の触媒を投入し、高圧水素雰囲気下で撹拌するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の触媒に、液体芳香族化合物を噴射するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の触媒と、霧化あるいは気化させた芳香族化合物を流動させて撹拌するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の触媒部分に、液体又は気体の芳香族化合物を通過させる。
【選択図】 なし
【解決手段】金属担持触媒の存在下、芳香族化合物を高圧水素雰囲気下で水素添加するか、耐圧容器中の液体芳香族化合物に、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の触媒を投入し、高圧水素雰囲気下で撹拌するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の触媒に、液体芳香族化合物を噴射するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の触媒と、霧化あるいは気化させた芳香族化合物を流動させて撹拌するか、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の触媒部分に、液体又は気体の芳香族化合物を通過させる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な水素供給体の製法に関し、さらに詳しくは、毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体の水素添加反応及び水素供給体の脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに用いる新規な水素供給体の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の悪化、例えば地球温暖化等が問題となっており、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として水素燃料が、また、その利用形態の一つとして水素による燃料電池システムが注目を浴びている。水素は水の電気分解により製造できるため、海水や河川の水を電気分解することを前提とすれば、水素燃料は無尽蔵に存在することになる。しかしながら、水素は、常温で気体であり可燃性物質でもあるため、貯蔵や運搬が難しく、取扱いにも極めて注意を要する。
【0003】
分散型電源として住宅用等の燃料電池システムを検討する場合には、水素の供給形態が重要となるが、水素をそのまま各家庭に供給する方法には、安全性の問題があるばかりでなく、供給のためのインフラを整備する必要があるという問題があり、現在、実用化可能な水素の供給形態として、下記の方法が考えられている。
A.水素をボンベ等に圧入して各家庭に配送する方法。
B.既存インフラである都市ガス、プロパンガスから水蒸気改質等の方法により水素を得る方法。
C.夜間電力により水を電気分解して水素を得る方法。
D.太陽電池等で得た電気エネルギーにより水を電気分解して水素を得る方法。
E.光触媒反応により光エネルギーと水から直接水素を得る方法。
F.光合成細菌や嫌気性水素発生細菌等を用いて水素を得る方法。
【0004】
これらの中で、A.は、供給システムとしては容易に実現可能であるが、家庭において水素ガスを取り扱うことになるので、安全性に問題があり、実用性は低いと考えられる。
一方、B.は、既に家庭内に供給されているガスが利用できるという点では現実的であるが、家庭内の負荷変動に対する改質器のリスポンス性が十分ではないという問題がある。
また、C.〜F.でも、供給側と需要側にタイムラグが生じるため、家庭内の負荷変動に追従できないという問題がある。
【0005】
従って、実用化の可能性のある上記B.〜F.の方法を実現させるために、発生させた水素を一旦貯蔵し、必要に応じてリスポンスよく水素を燃料電池システムに供給する水素貯蔵・供給システムが検討されており、例えば、特開平7−192746号公報には、水素吸蔵合金を用いたシステムが、特開平5−270801号公報には、フラーレン類やカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等のカーボン材料を用いたシステムが開示されている。
【0006】
しかしながら、水素吸蔵合金を用いたシステムでは、熱によって水素の出し入れを制御できる簡便なシステム構築を可能にするものの、合金単位重量当たりの水素貯蔵量が低く、代表的なLaNi合金の場合でも、水素の吸蔵量は3重量%程度に留まっている。また、合金であるため重く、安定性にも欠ける。さらに、合金の価格が高いことも実用上の大きな問題点となっている。
【0007】
また、カーボン材料を用いたシステムでは、水素の高吸蔵が可能な材料が開発されつつあるものの未だ十分ではなく、例えば、カーボンナノチューブは、嵩密度が大きくて単位体積当たりの貯蔵量が低いため、システムが大型となる。また、これらの材料は、工業的な規模での合成が難しく、いずれも実用に供するまでには至っていない。
【0008】
かかる状況下、本出願人らは、先に、低コストで、安全性、運搬性、貯蔵能力にも優れた水素貯蔵・供給システムとして、ベンゼン/シクロヘキサン系やナフタレン/デカリン・テトラリン系の炭化水素に着目し、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う水素貯蔵・供給システムを開発した。
【0009】
これらの水素供給体は、エタン、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン核を3個以上有するアントラセンやフェナントレン等の多環式芳香族炭化水素の水素化物と比較して、水素発生量、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において優位性があり、多用されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうしたシステム等に用いられる水素供給体を芳香族化合物から簡単に効率よく製造する方法、さらには毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体と水素を反応させる水素添加反応及び水素供給体から水素を発生させる脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに好適に用いられる水素供給体を簡単に効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、芳香族化合物を、高圧水素雰囲気下で金属担持触媒の存在下水素添加することにより、さらには芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う水素貯蔵・供給システムにおいて、数多くの炭化水素について、単独又は組合せて検討したところ、上記水素添加により得られる水素供給体を1−メチルデカリン異性体、さらにはそれと、デカリンやデカリン及び特定炭化水素との混合物とすることにより、上記課題が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、金属担持触媒の存在下に、芳香族化合物を高圧水素雰囲気下で水素添加することを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、耐圧容器中に充填した液体芳香族化合物に、粉体状、ペレット状あるいは破砕状の金属担持触媒を投入した後、高圧水素雰囲気下で撹拌しながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体芳香族化合物を噴射させながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の金属担持触媒と、霧化あるいは気化させた芳香族化合物を流動させ撹拌しながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体又は気体の芳香族化合物を通過させながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンであることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンとの混合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンと、さらに、ベンゼン、トルエン、o‐キシレン、m‐キシレン、p‐キシレン、エチルベンゼンまたはテトラリンから選ばれる少なくとも1種の化合物との混合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルトまたは鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、または金属多孔質体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0021】
さらにまた、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、水素供給体は、芳香族炭化水素からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族炭化水素の水素化物からなる水素供給体の脱水素化反応とを利用して水素の貯蔵と供給を行う水素貯蔵・供給システムに使用されることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0022】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明の水素供給体の製造方法について、得られる水素供給体、原料化合物、触媒、条件等の各項目毎に説明する。
【0023】
1.水素供給体
本発明において、芳香族化合物の水素添加反応によって得られる水素化誘導体は、エチレン結合(C=C)がほとんどなく、飽和炭化水素であって、脱水素反応により水素を供給することができるので、本発明においては水素供給体という。
水素供給体は、脱水素反応によって芳香族化合物に変換することができる。例えば、1−メチルデカリン異性体は、1−メチルナフタレンの水素添加反応によって得られ、また脱水素反応によって1−メチルナフタレンに変換される。
本発明において反応生成物として得られる水素供給体としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、1−メチルナフタレン等の水素化誘導体であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、下記の化学構造式(1)〜(4)で示される1−メチルデカリンの4種の異性体(trans−cis体、trans−trans体、cis−cis体、cis−trans体)(これは1−メチルデカリン異性体と略称することもある。)等が効率の面から好ましく、特に1−メチルデカリン異性体を少なくとも1種含有するものが好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
このようなものとして、好ましくは、trans−cis−1−メチルデカリン、trans−trans−1−メチルデカリン、cis−cis−1−メチルデカリン、及びcis−trans−1−メチルデカリンの中から選ばれた少なくとも1種の1−メチルデカリン異性体、又は1−メチルデカリン異性体とデカリンの混合物、或いは1−メチルデカリン異性体とデカリンの混合物に、さらにシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン及びエチルシクロヘキサンの中から選ばれた少なくとも1種の他の水素供給体を加えた混合物、等が挙げられる。
【0029】
水素供給体としては、これら4種類の1−メチルデカリン異性体を分離する必要は全くなく、混合物として使用しても全く問題はない。なぜならば、これら4種類の異性体は、すべて水素発生能力を持ち、そのいずれの異性体からも、水素発生反応後に生成するのは、1−メチルナフタレンだけであるからである。
【0030】
水素供給体として上記したデカリンは、下記の化学構造式(5)及び(6)でそれぞれ表わされる異性体の総称であり、化学構造式(5)のcis−デカリンは、融点−43.26℃、沸点195.7℃であり、化学構造式(6)のtrans−デカリンは、融点−31.16℃、沸点185.5℃の化合物である。
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
水素供給体としては、デカリンは水素供給能力、安全性、入手の容易さから、優れている。
デカリンは上記したように融点が−43〜−31℃と低いので、融点が約80℃のナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにすることができる効果もある。
【0034】
本発明において芳香族化合物としてナフタレンを用いる場合、ナフタレンは、融点が約80℃であり、反応装置系内に固着し流動性に問題があるが、これは、ナフタレンに特定の芳香族化合物や水素供給体を配合した混合系とすることによって解決される。
すなわち、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行った結果、ナフタレン1gを完全に溶解するのに必要な溶媒量は以下のとおりであった。
1−メチルナフタレン:2ml
トルエン:3ml
ベンゼン:2.5ml
デカリン:6ml
シクロヘキサン:7ml
メチルシクロヘキサン:8ml
n−デカン:10ml
これより、ベンゼン、トルエン、及び1−メチルナフタレン等が優れた溶解度を示すことが分かる。また、キシレンやエチルベンゼンも同様の特性を示す。
これらの水素添加物であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1−メチルデカリン異性体等から選ばれる炭化水素とデカリンとの混合物、中でも1−メチルデカリン異性体とデカリンとの混合物が水素供給体として好ましい。
この選定された炭化水素は、それ自体がデカリンと同様に水素供給能力をもち、水素発生反応後に水素貯蔵体として使用できるものであるから、全体としての水素発生量は低下しない。
【0035】
ナフタレンを原料とする場合、その水素添加反応を、ナフタレンを溶媒に溶かして溶液として行う必要があるが、この溶媒としては、1−メチルナフタレンが最適であるので、ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合系が推奨される。なぜならば、ナフタレンの溶解度が最も大きいため、少量の添加で済み、かつ、1−メチルナフタレン自体が水素添加反応によって水素供給体である1−メチルデカリン異性体に変化し、全体としての水素貯蔵/発生能力の低下が起こらないからである。
【0036】
本発明において、芳香族化合物の水素化は、水素貯蔵方式として利用することができ、該水素化反応生成物として得られる水素供給体は、その脱水素反応を利用して水素の供給を行うのに使用することができる。
したがって、本発明の方法及びそれにより得られる水素供給体は、水素化により水素を貯蔵する芳香族炭化水素の水素化反応、及び脱水素により芳香族炭化水素とともに生成する水素を供給する水素供給体の脱水素化反応を利用した水素貯蔵・供給システムに使用することができ、特に本発明の方法において原料としてナフタレンとともに少なくとも1−メチルナフタレンを併用すれば、水素貯蔵量は十分であり、かつナフタレンによる反応系内や配管内の閉塞が起こることはない。
水素供給体としては、特に1−メチルデカリン異性体とデカリンとの混合物が脱水素によりナフタレンと1−メチルナフタレンとの上記した好ましい混合系となるので好適であり、また、1−メチルデカリン異性体だけでもよい。
【0037】
これまで、ナフタレンは毒性が少なく、その水素添加反応における単位重量当たりの水素化量が多いので、好ましい水素貯蔵体として多用されているが、このような水素貯蔵のための水素添加反応において、ナフタレンは常温で固体(融点80.2℃)であるので、これ単独では、反応装置のパイプライン中を流動させて供給することはできないため、ナフタレンを適当な溶媒に溶解させて溶液としてから該反応に付す必要があったが、溶媒の選択(たとえば、直鎖状のn−へキサンや、ヘプタンのようなn−アルカン、エーテル類、ケトン類等々の水素貯蔵/供給能力のないものの選択)によっては、反応生成物中の水素供給体(例えばデカリン)の割合が低下し、該溶液からの水素発生能力が低くなってしまうという問題があった。
【0038】
本発明において得られる水素供給体としては、1−メチルデカリン異性体が、上記した水素貯蔵・供給システムにおいて好適に用いられる。すなわち、1−メチルデカリン異性体は、その脱水素体である1−メチルナフタレンが、他の水素貯蔵体(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等)あるいは水素供給体(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、テトラリン等)と比較して、最もナフタレンの溶解力が大きく、上記のナフタレンの流動性問題の解決に資するからである。
【0039】
2.原料化合物
本発明において原料に用いられる芳香族化合物としては、ナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素化合物、又はそれらのアルキル誘導体が挙げられるが、この中でもナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、等が効率の面から好ましく、特にナフタレン、1−メチルナフタレンが好適に使用される。
芳香族化合物は、分子内に多数のエチレン結合(C=C)を有するので、水素が付加反応することで水素化誘導体に転化される。芳香族化合物は、エチレン結合(C=C)に水素を結合させることにより水素を貯蔵することができるので、本発明においては水素貯蔵体とも呼称される。
【0040】
3.金属担持触媒
本発明で使用される金属担持触媒は、芳香族化合物の水素添加反応により水素化誘導体からなる水素供給体を生成させる水素化反応を促進する機能をもつものであり、担体に金属を担持させたものである。
担持される金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、オスミウム等が挙げられるが、これらは単一であっても2種以上併用してもよい。その内、白金、パラジウム、ルテニウムが、活性、安定性、取り扱い性等の面から好ましく、特に白金とルテニウム、あるいはこれら3種の金属の併用が好ましい。
金属担持触媒における金属の担持率は、担体に対して通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。
【0041】
金属を担持する担体については特に限定されないが、例えば、炭素系材料及び無機系材料の担体、中でも、炭素系材料としては、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト等が、また、無機系材料としては、モレキュラーシーブ、ゼオライト等の多孔質担体、又はシリカゲル、アルミナ等を用いるのが好ましい。
【0042】
また、上記金属担持触媒の形状は、特に限定されず、粉体状、ペレット状、顆粒状、破砕状、布状、板状、シート状、網状、メッシュ状、ハニカム形状、ポーラス状等、使用形態に合わせて適宜選択される。上記布状は、織布状、不織布状、編布状等である。
【0043】
水素化反応において、水素貯蔵体は芳香族化合物であるため、そのπ電子雲の存在から、水素供給体に比較して分子としての極性はより大きく、そのため、活性炭のような極性の小さい担体よりも、アルミナ等の無機系材料のような極性の大きい担体の方が反応が進行しやすくなる。
【0044】
4.条件
4.1 反応温度
本発明において、水素添加による水素化反応は、発熱反応であるため、触媒部分の温度は低い方がよいが、あまり低すぎると触媒活性を低下させるため、原料の芳香族化合物の沸点付近が好ましい。
【0045】
4.2 反応圧力
水素貯蔵システムにおける芳香族化合物の水素化反応時の水素分圧は、通常は0.1〜100気圧、好ましくは0.1〜50気圧、より好ましくは0.5〜10気圧である。水素化反応では高い水素分圧の方が反応は速いが、必要以上に高すぎると容器の耐圧性が問題となる。
【0046】
本発明方法において、液体芳香族化合物の噴射は、例えば板状や筒状の触媒に対し適当なノズルで液体芳香族化合物をスプレーするなどして行われる。
また、触媒部分に、液体芳香族化合物を通過させるには、例えば液体芳香族化合物を滴下するなどの仕方がある。
【0047】
本発明は、前記したように、水素貯蔵・供給システムに組み入れて適用することができるが、このシステムについて、以下詳述する。
水素貯蔵・供給システムは、水素貯蔵体及び/又は水素供給体を収納する原料貯蔵手段(a)と、水素貯蔵体の水素化及び/又は水素供給体の脱水素化を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置(b)と、該金属担持触媒を加熱する加熱手段(c)と、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体及び/又は水素供給体を反応装置へ供給する原料供給手段(d)と、反応装置からの生成気体を凝縮させて水素と水素貯蔵体及び/又は水素供給体に分離する気液分離手段(e)と、分離した水素貯蔵体及び/又は水素供給体を回収する反応物回収手段(f)が具備されていることを基本構成とする。
上記基本構成には、反応装置における水素化反応及び/又は脱水素反応の条件を制御する制御手段を含ませることが好ましい。
【0048】
この水素貯蔵・供給システムを図示に基づき説明すると、水素貯蔵・供給システム1は、水素貯蔵手段2と、原料送出手段3と、反応装置4と、気体分離手段5と、反応物回収手段8と、制御手段10とを備えている。
【0049】
原料貯蔵手段2は、タンク状に形成され、水素貯蔵体であるナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン等又は水素供給体であるデカリン、1−メチルデカリン異性体、シクロへキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等が収納される。
また、原料供給手段3は、原料貯蔵手段2から導いたベンゼン又はシクロへキサンを加圧して反応装置4に原料を供給するための構成部であり、コンプレッサ(ポンプ)31と、電磁弁よりなるバルブ32とにより構成されており、原料貯蔵手段2と配管接続されている。バルブ32により、反応装置4に供給される原料の供給量や供給時間が制御される。
以下、便宜のため、水素貯蔵体としてベンゼンを、水素供給体としてシクロへキサンを代表させて説明する。
【0050】
反応装置4は、ベンゼン又はシクロへキサンを金属担持触媒に噴射、供給して、水素付加反応又は脱水素反応を行わせる構成部である。反応装置4の内面底部には、ハニカムシート状の触媒41が設けられており、反応装置4の上部中央付近には、触媒41に対向して、原料供給手段3に配管接続された噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、原料が触媒上に均一に噴射されるように設置されており、原料を噴射ノズル42から噴射することにより、反応装置4内の触媒41表面に、原料の均一な液膜が形成される。
【0051】
触媒41としては、例えばハニカム状の活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウムを担持させたものなどが用いられる。
反応装置4の底部には、触媒41を加熱するヒーター43が備えられている。ヒーター43は、ニクロム線による抵抗加熱体であり、触媒41に接しているアルミ製のヒーター格納部44に一体的に内蔵され、ヒーター格納部44を介して熱伝導により触媒41が加熱される。また、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、ヒーターへの供給熱量を調整して触媒41の温度が調整される。
触媒の加熱には、例えばニクロム線による抵抗加熱体が用いられるが、加熱手段は特に限定されず、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱する高周波誘導加熱等も使用できる。高周波誘導加熱を用いる場合は、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、触媒を直接加熱することができる。
【0052】
触媒41の温度は、ヒーター43により、ベンゼンの水素付加反応によりシクロへキサンを生成させる際には、約60〜120℃に加熱する。変換効率を考慮すると、95〜105℃に加熱することが好ましい。また、シクロへキサンの脱水素反応によりベンゼンを生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。なお、後者の触媒温度を高目に設定するのは、水素付加反応は発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応であるため、後者は熱エネルギーをより多く必要とするからである。
【0053】
反応装置4は、電磁弁よりなるバルブ6を介して気液分離手段5に、また、電磁弁よりなるバルブ7を介して水素供給手段(図示せず)に配管接続されている。
バルブ6は、反応装置4内の生成物を気液分離手段5に導くときに使用される。反応装置4において、水素とベンゼンとの間で水素付加反応が起きるとシクロヘキサンが生成し、また、シクロヘキサンの脱水素反応が起きるとベンゼンと水素が生成するが、これらの生成物は気体であるため、気液分離手段5は、反応装置4から送られてくるベンゼン又はシクロへキサンを完全に液化させて水素を分離するために設けられている。
また、バルブ7は、水素を、水素供給手段から反応装置4内に導入・制御するためのバルブであり、水素付加反応でベンゼンからシクロヘキサンを生成させるときに使用するものである。
なお、水素は住宅の屋根等にとりつけられた太陽電池パネルにより発電した電力や商用電力の夜間電力を利用して電気分解装置で水が電気分解されたものであってもよい。
【0054】
気液分離手段5は、冷却水による冷却を行う、らせん状細管、交互冷却パイプ構造等の熱交換器51aからなる蒸気凝縮部51と、水素に同伴する液滴を分離する、活性炭や水素セパレータ膜等の水素分離部52aからなる水素抽出部52とにより構成されている。蒸気凝縮部51は、発生した水素と芳香族化合物及び水素化芳香族化合物との気液分離を効率的に実現するため、例えば、冷却水温度(例えば5〜20℃)を調節して最適化を図ることが好ましい。
【0055】
水素抽出部52は、通常、蒸気凝縮部51の接触面積、冷却水温度、発生水素速度等の諸因子を操作することにより、水素の分離・精製を行うことが可能であるため、必ずしも必要とはしないが、より高純度(99.9%以上)の水素の供給が要求される場合には、活性炭や、水素セパレータ膜のシリカ分離膜やパラジウム・銀分離膜等の従来技術を用いて水素の高純度化を行う。なお、反応物回収手段8と水素抽出部52との間に、例えばガラスウール、ワイヤーメッシュ等を充填した気液分離部(図示せず)を設けて、水素抽出部52への液滴の同伴量を減少させることもできる。
【0056】
反応物回収手段8は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と配管接続されており、蒸気凝縮部51で冷却されて液化したシクロヘキサン又はベンゼンは、反応物回収手段8に送られて回収される。
また、反応物回収手段8は、気液分離手段5の水素抽出部52とも配管接続されており、生成した水素は、蒸気凝縮部51で液化したシクロヘキサン又はベンゼンと共に一旦反応物回収手段8に入った後、水素抽出部52に送られ、水素抽出部52内に設置された活性炭や水素セパレータ膜からなる水素分離部52aにより、質量が軽く、また拡散速度が大きい水素ガスのみが分離精製される。精製された水素は、水素抽出部52に接続された配管91及び水素放出側バルブ92を通って外部、例えば、住宅用燃料電池システム等に効率的に供給される。
【0057】
上述のように、気液分離手段5の水素抽出部52は、通常は不用なので、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と水素抽出部52出口とを直接配管接続し、水素抽出部52をバイパスして水素を配管91に送り、蒸気凝縮部51の底部に溜まった液状のシクロヘキサン又はベンゼンを反応物回収手段8に回収してもよい。
また、配管91には、発生ガス量を計測するためのセンサ93が設置されているため、水素の発生量を測定することができる。
【0058】
一方、コンプレッサ(ポンプ)31、バルブ32、ヒーター43、熱電対45、バルブ6、バルブ7、バルブ92、センサ93は、それぞれ制御手段10と電気的に接続されており、熱電対45、センサ93等からの情報をもとに、コンプレッサ(ポンプ)や各バルブの作動、ヒーターへの熱量(制御手段は図示せず)を制御できるように構成されている。
【0059】
水素貯蔵・供給システムの基本構成について、以上図1に基づき詳細に説明したが、図2に示す基本構成も挙げられる。
図2の基本構成は、図1の構成と比較して基本的に反応装置4の構成が異なるのみなので、反応装置4の構成について詳述する。
【0060】
図2の反応装置4は、ベンゼン又はシクロへキサンを触媒に接触させて、水素付加反応又は脱水素反応を行わせる構成部であるが、少なくとも1本の筒状体で反応装置を形成することを特徴とする。
反応装置4は、アルミナ、セラミック等の耐熱性の高い絶縁体の筒状体で形成されており、筒状体本体42の内部には、ポーラスな触媒41が収納されている。筒状体本体42の一端42aは原料供給手段3に配管接続されており、原料供給装置3からの原料が、例えば分散板により、触媒41上に均一に分散される。尚、反応装置4は、原料の均一な分散、触媒の加熱効率等の観点から、複数の細管で形成してもよい。
【0061】
ここで、筒状体本体42は、流路を保ちながら金属担持触媒を充填できるものであれば任意の形状でよく、また、内径をすり鉢状や蛇腹状のように変化させてもよく、その形状寸法は使用状態に合わせて適宜選択することができる。
また、筒状体本体42は、ニクロム線等のヒーターにより触媒を加熱する場合には、アルミ等の熱伝導性のよい材質で形成するのが好ましい。
【0062】
触媒41としては、例えば、活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウム担持させた、原料及び反応生成物が透過可能なポーラスなものなどが用いられる。
【0063】
また、触媒の加熱手段としては、特に限定されず、ニクロム線ヒーターによる抵抗加熱、高周波誘導加熱等が使用できるが、本実施の形態においては、反応装置4の筒状体本体42を取り巻くように、触媒41を加熱するコイル状の電磁誘導コイル11が配置されており、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、電磁誘導コイルへの高周波電流を調整して触媒41の温度が調整される。
【0064】
尚、高周波誘導加熱は、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱するもので、電磁誘導作用により導電体に渦電流が発生し、ジュール熱によって導電体が過熱されるものである。電磁誘導コイルに印加する高周波電流の周波数としては、加熱する導電体とのインピーダンスマッチングにもよるが、一般的には350〜450kHzが使用される。
【0065】
電磁誘導コイルの形状としては、一般的なコイル形状の他、渦巻き形状が採用できる。コイル形状の場合は、加熱する導電体をコイルの中心に、渦巻き形状の場合は、導電体を渦巻きの中心線上に配置すると、効率的かつリスポンスよく加熱できる。
【0066】
高周波誘導加熱を行う場合には、電磁誘導コイルに高周波電流を流し続けると導電体が加熱され続けるため、一般的には温度制御が必要となる。温度制御の方法としては、導電体の温度を測定して電磁誘導コイルに流れる高周波電流を制御する種々のフィードバック制御が可能であり、本発明で用いる加熱温度(100〜500℃)においては、一般的な熱電対によるフィードバック制御で十分である。また、加熱のために投入されるエネルギーと反応に要するエネルギーとのバランスを取るために、反応に必要な単位時間当たりの熱量を求めて電磁誘導コイルに印加する電流(電力)を制御することも可能である。
【0067】
また、より効率的に、かつリスポンスよく加熱を行うためには、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、金属担持触媒を直接加熱することが好ましい。担体が非導電体の場合には、担体とステンレス等の一般的な導電体とを層状又はブレンド状等に形成し、担体に導電性を付与する。さらに、金属担持触媒のみを効率よく瞬時に加熱するために、筒状体本体をアルミナやセラミック等の耐熱性の高い絶縁体で形成する。筒状体本体が複数の場合には、各筒状体本体を電磁誘導コイルで取り囲んで各々加熱するようにしてもよく、複数の筒状体本体をまとめて1つの電磁誘導コイルで取り囲んで加熱してもよい。
尚、筒状体本体の長手方向に電磁誘導コイルを複数配置し、例えば、原料の供給側から順に触媒温度が高くなるように加熱してもよい。
【0068】
触媒41の温度は、電磁誘導コイル11により、ベンゼンの水素付加反応によりシクロへキサンを生成させる際には、約60〜120℃に加熱する。変換効率を考慮すると、95〜105℃に加熱することが好ましい。また、シクロへキサンの脱水素反応によりベンゼンを生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。尚、後者の触媒温度を高目に設定するのは、水素付加反応は発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応であるため、後者は熱エネルギーをより多く必要とするからである。
また、反応装置4の筒状体本体42の他端42bは電磁弁よりなるバルブ6を介して気体分離手段5に配管接続され、反応装置4と原料供給手段3との間の配管は、分岐されて電磁弁よりなるバルブ7を介して水素供給手段(図示せず)に配管接続されている。
【0069】
次に、水素貯蔵・供給システムの稼動方法について説明する。
水素貯蔵・供給システムを用いてベンゼンの水素付加反応により水素を貯蔵する手順と、シクロヘキサンの脱水素反応により外部に水素を供給する手順との一例を、図1に基づいて簡単に説明する。
ベンゼンへの水素付加反応により水素を貯蔵する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を100℃前後に調整しながら、バルブ7を開いて、水素供給手段(図示せず)より反応装置4に水素を供給し、水素を反応装置4内部に充填する。次に、バルブ7を閉じ、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のベンゼンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてベンゼンを噴射する。
【0070】
このとき、水素付加反応に伴って気体状のシクロヘキサンが生成するが、生成したシクロヘキサンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収手段8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、未反応の水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52を経由して、外部に移動するが、水素供給手段に接続して回収し、循環使用するように構成してもよい。
【0071】
一方、シクロヘキサンの脱水素反応により水素を外部に供給する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を350℃前後に調整しながら、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のシクロヘキサンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてシクロヘキサンを噴射させる。噴射終了後は、コンプレッサ(ポンプ)31の作動を停止させると共に、バルブ32を閉じる。
【0072】
このとき、脱水素反応に伴って気体状のベンゼンと水素が生成するが、生成したベンゼンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収装置8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、生成した水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52から配管91、センサ93を経由して、外部に移動する。
【0073】
以上、燃料電池への適用を前提に水素貯蔵・供給システムを説明したが、当然のことながら、水素貯蔵・供給システムを燃料電池以外の発電装置に適用してもよい。例えば、水素を燃やしてスチームを発生させ、タービンを回転させて発電機によって電気をつくるようにしてもよい。また、従来の火力発電所や原子力発電所等の電気供給システムと、水素貯蔵・供給システムとを併用してもよい。
【0074】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1
耐圧容器中に、1‐メチルナフタレンと、ルテニウム5質量%が粉体状活性炭に担持された触媒を投入し、耐圧容器内を水素で2.5〜3MPaに加圧し、250℃で50時間攪拌した。反応後、ガスを冷却液化し、触媒をろ別し、得られたろ液についてガスクロマトグラフィ(GC)分析を行った。GC分析結果は、次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0076】
実施例2
耐圧容器中に、白金10質量%が板状アルミナに担持された触媒を配備し、耐圧容器内を水素で2MPaに加圧し、250℃に加熱された触媒に対して1‐メチルナフタレンを間欠的に噴射(噴射/インターバル(停止)=1秒/5秒)した。反応後、蒸発気化したガスを冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0077】
実施例3
耐圧容器中に、1‐メチルナフタレンとナフタレンの2:1(質量比)混合物液と、白金10質量%とルテニウム5質量%が粉体状活性炭に担持された触媒を投入し、耐圧容器内を水素で3MPaに加圧し、300℃で50時間攪拌混合した。反応後、冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンやナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
デカリン:6.50分
ナフタレン:6.94分
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0078】
実施例4
耐圧容器内に、白金10質量%とパラジウム5質量%とルテニウム5質量%がハニカム形状のアルミナ担体に担持された触媒を配備し、耐圧容器内を水素で3MPaに加圧し、280℃に加熱し、液体の1‐メチルナフタレンを280℃に加熱された触媒部分に滴下し、触媒部分を通過して蒸発気化したガスを冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。また、反応系内にナフタレンの固着は観測されなかった。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0079】
比較例1
1‐メチルナフタレンとナフタレンの2:1(質量比)混合物液に代えてナフタレンとn−デカンの1:10(質量比)混合物を用いて実施例3と同様の実験を行った。実施例3に比し、水素化物の生成速度、ひいては水素吸蔵速度が相当低かった。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、芳香族化合物から水素供給体を簡単に効率よく製造することができ、さらには毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体と水素を反応させる水素添加反応及び水素供給体から水素を発生させる脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに好適に用いられる水素供給体を簡単に効率よく製造することができ、特に芳香族化合物にナフタレンを用いる場合に、1‐メチルナフタレンを併用すれば、反応系内や配管内の閉塞が起こることはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。
【図2】他の水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1 水素貯蔵・供給システム
2 原料貯蔵手段
3 原料供給手段
31 コンプレッサ(ポンプ)
32 バルブ
4 反応装置
41 触媒
42 噴射ノズル
43 ヒーター
44 ヒーター格納部
45 熱電対
5 気液分離手段
51 蒸気凝縮部
52 水素抽出部
6 バルブ
7 バルブ
8 反応物回収手段
91 水素送出ライン
92 バルブ
93 センサ
10 制御手段
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な水素供給体の製法に関し、さらに詳しくは、毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体の水素添加反応及び水素供給体の脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに用いる新規な水素供給体の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の悪化、例えば地球温暖化等が問題となっており、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として水素燃料が、また、その利用形態の一つとして水素による燃料電池システムが注目を浴びている。水素は水の電気分解により製造できるため、海水や河川の水を電気分解することを前提とすれば、水素燃料は無尽蔵に存在することになる。しかしながら、水素は、常温で気体であり可燃性物質でもあるため、貯蔵や運搬が難しく、取扱いにも極めて注意を要する。
【0003】
分散型電源として住宅用等の燃料電池システムを検討する場合には、水素の供給形態が重要となるが、水素をそのまま各家庭に供給する方法には、安全性の問題があるばかりでなく、供給のためのインフラを整備する必要があるという問題があり、現在、実用化可能な水素の供給形態として、下記の方法が考えられている。
A.水素をボンベ等に圧入して各家庭に配送する方法。
B.既存インフラである都市ガス、プロパンガスから水蒸気改質等の方法により水素を得る方法。
C.夜間電力により水を電気分解して水素を得る方法。
D.太陽電池等で得た電気エネルギーにより水を電気分解して水素を得る方法。
E.光触媒反応により光エネルギーと水から直接水素を得る方法。
F.光合成細菌や嫌気性水素発生細菌等を用いて水素を得る方法。
【0004】
これらの中で、A.は、供給システムとしては容易に実現可能であるが、家庭において水素ガスを取り扱うことになるので、安全性に問題があり、実用性は低いと考えられる。
一方、B.は、既に家庭内に供給されているガスが利用できるという点では現実的であるが、家庭内の負荷変動に対する改質器のリスポンス性が十分ではないという問題がある。
また、C.〜F.でも、供給側と需要側にタイムラグが生じるため、家庭内の負荷変動に追従できないという問題がある。
【0005】
従って、実用化の可能性のある上記B.〜F.の方法を実現させるために、発生させた水素を一旦貯蔵し、必要に応じてリスポンスよく水素を燃料電池システムに供給する水素貯蔵・供給システムが検討されており、例えば、特開平7−192746号公報には、水素吸蔵合金を用いたシステムが、特開平5−270801号公報には、フラーレン類やカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等のカーボン材料を用いたシステムが開示されている。
【0006】
しかしながら、水素吸蔵合金を用いたシステムでは、熱によって水素の出し入れを制御できる簡便なシステム構築を可能にするものの、合金単位重量当たりの水素貯蔵量が低く、代表的なLaNi合金の場合でも、水素の吸蔵量は3重量%程度に留まっている。また、合金であるため重く、安定性にも欠ける。さらに、合金の価格が高いことも実用上の大きな問題点となっている。
【0007】
また、カーボン材料を用いたシステムでは、水素の高吸蔵が可能な材料が開発されつつあるものの未だ十分ではなく、例えば、カーボンナノチューブは、嵩密度が大きくて単位体積当たりの貯蔵量が低いため、システムが大型となる。また、これらの材料は、工業的な規模での合成が難しく、いずれも実用に供するまでには至っていない。
【0008】
かかる状況下、本出願人らは、先に、低コストで、安全性、運搬性、貯蔵能力にも優れた水素貯蔵・供給システムとして、ベンゼン/シクロヘキサン系やナフタレン/デカリン・テトラリン系の炭化水素に着目し、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う水素貯蔵・供給システムを開発した。
【0009】
これらの水素供給体は、エタン、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン核を3個以上有するアントラセンやフェナントレン等の多環式芳香族炭化水素の水素化物と比較して、水素発生量、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において優位性があり、多用されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうしたシステム等に用いられる水素供給体を芳香族化合物から簡単に効率よく製造する方法、さらには毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体と水素を反応させる水素添加反応及び水素供給体から水素を発生させる脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに好適に用いられる水素供給体を簡単に効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、芳香族化合物を、高圧水素雰囲気下で金属担持触媒の存在下水素添加することにより、さらには芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う水素貯蔵・供給システムにおいて、数多くの炭化水素について、単独又は組合せて検討したところ、上記水素添加により得られる水素供給体を1−メチルデカリン異性体、さらにはそれと、デカリンやデカリン及び特定炭化水素との混合物とすることにより、上記課題が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、金属担持触媒の存在下に、芳香族化合物を高圧水素雰囲気下で水素添加することを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、耐圧容器中に充填した液体芳香族化合物に、粉体状、ペレット状あるいは破砕状の金属担持触媒を投入した後、高圧水素雰囲気下で撹拌しながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体芳香族化合物を噴射させながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の金属担持触媒と、霧化あるいは気化させた芳香族化合物を流動させ撹拌しながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体又は気体の芳香族化合物を通過させながら行うことを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンであることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンとの混合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンと、さらに、ベンゼン、トルエン、o‐キシレン、m‐キシレン、p‐キシレン、エチルベンゼンまたはテトラリンから選ばれる少なくとも1種の化合物との混合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルトまたは鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、または金属多孔質体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0021】
さらにまた、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、水素供給体は、芳香族炭化水素からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族炭化水素の水素化物からなる水素供給体の脱水素化反応とを利用して水素の貯蔵と供給を行う水素貯蔵・供給システムに使用されることを特徴とする水素供給体の製造方法が提供される。
【0022】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明の水素供給体の製造方法について、得られる水素供給体、原料化合物、触媒、条件等の各項目毎に説明する。
【0023】
1.水素供給体
本発明において、芳香族化合物の水素添加反応によって得られる水素化誘導体は、エチレン結合(C=C)がほとんどなく、飽和炭化水素であって、脱水素反応により水素を供給することができるので、本発明においては水素供給体という。
水素供給体は、脱水素反応によって芳香族化合物に変換することができる。例えば、1−メチルデカリン異性体は、1−メチルナフタレンの水素添加反応によって得られ、また脱水素反応によって1−メチルナフタレンに変換される。
本発明において反応生成物として得られる水素供給体としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、1−メチルナフタレン等の水素化誘導体であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、下記の化学構造式(1)〜(4)で示される1−メチルデカリンの4種の異性体(trans−cis体、trans−trans体、cis−cis体、cis−trans体)(これは1−メチルデカリン異性体と略称することもある。)等が効率の面から好ましく、特に1−メチルデカリン異性体を少なくとも1種含有するものが好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
このようなものとして、好ましくは、trans−cis−1−メチルデカリン、trans−trans−1−メチルデカリン、cis−cis−1−メチルデカリン、及びcis−trans−1−メチルデカリンの中から選ばれた少なくとも1種の1−メチルデカリン異性体、又は1−メチルデカリン異性体とデカリンの混合物、或いは1−メチルデカリン異性体とデカリンの混合物に、さらにシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン及びエチルシクロヘキサンの中から選ばれた少なくとも1種の他の水素供給体を加えた混合物、等が挙げられる。
【0029】
水素供給体としては、これら4種類の1−メチルデカリン異性体を分離する必要は全くなく、混合物として使用しても全く問題はない。なぜならば、これら4種類の異性体は、すべて水素発生能力を持ち、そのいずれの異性体からも、水素発生反応後に生成するのは、1−メチルナフタレンだけであるからである。
【0030】
水素供給体として上記したデカリンは、下記の化学構造式(5)及び(6)でそれぞれ表わされる異性体の総称であり、化学構造式(5)のcis−デカリンは、融点−43.26℃、沸点195.7℃であり、化学構造式(6)のtrans−デカリンは、融点−31.16℃、沸点185.5℃の化合物である。
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
水素供給体としては、デカリンは水素供給能力、安全性、入手の容易さから、優れている。
デカリンは上記したように融点が−43〜−31℃と低いので、融点が約80℃のナフタレンの融点を降下させ溶解し、ナフタレンが反応装置系内に固着しないようにすることができる効果もある。
【0034】
本発明において芳香族化合物としてナフタレンを用いる場合、ナフタレンは、融点が約80℃であり、反応装置系内に固着し流動性に問題があるが、これは、ナフタレンに特定の芳香族化合物や水素供給体を配合した混合系とすることによって解決される。
すなわち、ナフタレンに各種の炭化水素を配合し、ナフタレンの溶解度試験を行った結果、ナフタレン1gを完全に溶解するのに必要な溶媒量は以下のとおりであった。
1−メチルナフタレン:2ml
トルエン:3ml
ベンゼン:2.5ml
デカリン:6ml
シクロヘキサン:7ml
メチルシクロヘキサン:8ml
n−デカン:10ml
これより、ベンゼン、トルエン、及び1−メチルナフタレン等が優れた溶解度を示すことが分かる。また、キシレンやエチルベンゼンも同様の特性を示す。
これらの水素添加物であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1−メチルデカリン異性体等から選ばれる炭化水素とデカリンとの混合物、中でも1−メチルデカリン異性体とデカリンとの混合物が水素供給体として好ましい。
この選定された炭化水素は、それ自体がデカリンと同様に水素供給能力をもち、水素発生反応後に水素貯蔵体として使用できるものであるから、全体としての水素発生量は低下しない。
【0035】
ナフタレンを原料とする場合、その水素添加反応を、ナフタレンを溶媒に溶かして溶液として行う必要があるが、この溶媒としては、1−メチルナフタレンが最適であるので、ナフタレンと1−メチルナフタレンとの混合系が推奨される。なぜならば、ナフタレンの溶解度が最も大きいため、少量の添加で済み、かつ、1−メチルナフタレン自体が水素添加反応によって水素供給体である1−メチルデカリン異性体に変化し、全体としての水素貯蔵/発生能力の低下が起こらないからである。
【0036】
本発明において、芳香族化合物の水素化は、水素貯蔵方式として利用することができ、該水素化反応生成物として得られる水素供給体は、その脱水素反応を利用して水素の供給を行うのに使用することができる。
したがって、本発明の方法及びそれにより得られる水素供給体は、水素化により水素を貯蔵する芳香族炭化水素の水素化反応、及び脱水素により芳香族炭化水素とともに生成する水素を供給する水素供給体の脱水素化反応を利用した水素貯蔵・供給システムに使用することができ、特に本発明の方法において原料としてナフタレンとともに少なくとも1−メチルナフタレンを併用すれば、水素貯蔵量は十分であり、かつナフタレンによる反応系内や配管内の閉塞が起こることはない。
水素供給体としては、特に1−メチルデカリン異性体とデカリンとの混合物が脱水素によりナフタレンと1−メチルナフタレンとの上記した好ましい混合系となるので好適であり、また、1−メチルデカリン異性体だけでもよい。
【0037】
これまで、ナフタレンは毒性が少なく、その水素添加反応における単位重量当たりの水素化量が多いので、好ましい水素貯蔵体として多用されているが、このような水素貯蔵のための水素添加反応において、ナフタレンは常温で固体(融点80.2℃)であるので、これ単独では、反応装置のパイプライン中を流動させて供給することはできないため、ナフタレンを適当な溶媒に溶解させて溶液としてから該反応に付す必要があったが、溶媒の選択(たとえば、直鎖状のn−へキサンや、ヘプタンのようなn−アルカン、エーテル類、ケトン類等々の水素貯蔵/供給能力のないものの選択)によっては、反応生成物中の水素供給体(例えばデカリン)の割合が低下し、該溶液からの水素発生能力が低くなってしまうという問題があった。
【0038】
本発明において得られる水素供給体としては、1−メチルデカリン異性体が、上記した水素貯蔵・供給システムにおいて好適に用いられる。すなわち、1−メチルデカリン異性体は、その脱水素体である1−メチルナフタレンが、他の水素貯蔵体(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等)あるいは水素供給体(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、テトラリン等)と比較して、最もナフタレンの溶解力が大きく、上記のナフタレンの流動性問題の解決に資するからである。
【0039】
2.原料化合物
本発明において原料に用いられる芳香族化合物としては、ナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素化合物、又はそれらのアルキル誘導体が挙げられるが、この中でもナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、等が効率の面から好ましく、特にナフタレン、1−メチルナフタレンが好適に使用される。
芳香族化合物は、分子内に多数のエチレン結合(C=C)を有するので、水素が付加反応することで水素化誘導体に転化される。芳香族化合物は、エチレン結合(C=C)に水素を結合させることにより水素を貯蔵することができるので、本発明においては水素貯蔵体とも呼称される。
【0040】
3.金属担持触媒
本発明で使用される金属担持触媒は、芳香族化合物の水素添加反応により水素化誘導体からなる水素供給体を生成させる水素化反応を促進する機能をもつものであり、担体に金属を担持させたものである。
担持される金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、オスミウム等が挙げられるが、これらは単一であっても2種以上併用してもよい。その内、白金、パラジウム、ルテニウムが、活性、安定性、取り扱い性等の面から好ましく、特に白金とルテニウム、あるいはこれら3種の金属の併用が好ましい。
金属担持触媒における金属の担持率は、担体に対して通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。
【0041】
金属を担持する担体については特に限定されないが、例えば、炭素系材料及び無機系材料の担体、中でも、炭素系材料としては、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト等が、また、無機系材料としては、モレキュラーシーブ、ゼオライト等の多孔質担体、又はシリカゲル、アルミナ等を用いるのが好ましい。
【0042】
また、上記金属担持触媒の形状は、特に限定されず、粉体状、ペレット状、顆粒状、破砕状、布状、板状、シート状、網状、メッシュ状、ハニカム形状、ポーラス状等、使用形態に合わせて適宜選択される。上記布状は、織布状、不織布状、編布状等である。
【0043】
水素化反応において、水素貯蔵体は芳香族化合物であるため、そのπ電子雲の存在から、水素供給体に比較して分子としての極性はより大きく、そのため、活性炭のような極性の小さい担体よりも、アルミナ等の無機系材料のような極性の大きい担体の方が反応が進行しやすくなる。
【0044】
4.条件
4.1 反応温度
本発明において、水素添加による水素化反応は、発熱反応であるため、触媒部分の温度は低い方がよいが、あまり低すぎると触媒活性を低下させるため、原料の芳香族化合物の沸点付近が好ましい。
【0045】
4.2 反応圧力
水素貯蔵システムにおける芳香族化合物の水素化反応時の水素分圧は、通常は0.1〜100気圧、好ましくは0.1〜50気圧、より好ましくは0.5〜10気圧である。水素化反応では高い水素分圧の方が反応は速いが、必要以上に高すぎると容器の耐圧性が問題となる。
【0046】
本発明方法において、液体芳香族化合物の噴射は、例えば板状や筒状の触媒に対し適当なノズルで液体芳香族化合物をスプレーするなどして行われる。
また、触媒部分に、液体芳香族化合物を通過させるには、例えば液体芳香族化合物を滴下するなどの仕方がある。
【0047】
本発明は、前記したように、水素貯蔵・供給システムに組み入れて適用することができるが、このシステムについて、以下詳述する。
水素貯蔵・供給システムは、水素貯蔵体及び/又は水素供給体を収納する原料貯蔵手段(a)と、水素貯蔵体の水素化及び/又は水素供給体の脱水素化を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置(b)と、該金属担持触媒を加熱する加熱手段(c)と、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体及び/又は水素供給体を反応装置へ供給する原料供給手段(d)と、反応装置からの生成気体を凝縮させて水素と水素貯蔵体及び/又は水素供給体に分離する気液分離手段(e)と、分離した水素貯蔵体及び/又は水素供給体を回収する反応物回収手段(f)が具備されていることを基本構成とする。
上記基本構成には、反応装置における水素化反応及び/又は脱水素反応の条件を制御する制御手段を含ませることが好ましい。
【0048】
この水素貯蔵・供給システムを図示に基づき説明すると、水素貯蔵・供給システム1は、水素貯蔵手段2と、原料送出手段3と、反応装置4と、気体分離手段5と、反応物回収手段8と、制御手段10とを備えている。
【0049】
原料貯蔵手段2は、タンク状に形成され、水素貯蔵体であるナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゼン、トルエン、キシレン等又は水素供給体であるデカリン、1−メチルデカリン異性体、シクロへキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等が収納される。
また、原料供給手段3は、原料貯蔵手段2から導いたベンゼン又はシクロへキサンを加圧して反応装置4に原料を供給するための構成部であり、コンプレッサ(ポンプ)31と、電磁弁よりなるバルブ32とにより構成されており、原料貯蔵手段2と配管接続されている。バルブ32により、反応装置4に供給される原料の供給量や供給時間が制御される。
以下、便宜のため、水素貯蔵体としてベンゼンを、水素供給体としてシクロへキサンを代表させて説明する。
【0050】
反応装置4は、ベンゼン又はシクロへキサンを金属担持触媒に噴射、供給して、水素付加反応又は脱水素反応を行わせる構成部である。反応装置4の内面底部には、ハニカムシート状の触媒41が設けられており、反応装置4の上部中央付近には、触媒41に対向して、原料供給手段3に配管接続された噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、原料が触媒上に均一に噴射されるように設置されており、原料を噴射ノズル42から噴射することにより、反応装置4内の触媒41表面に、原料の均一な液膜が形成される。
【0051】
触媒41としては、例えばハニカム状の活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウムを担持させたものなどが用いられる。
反応装置4の底部には、触媒41を加熱するヒーター43が備えられている。ヒーター43は、ニクロム線による抵抗加熱体であり、触媒41に接しているアルミ製のヒーター格納部44に一体的に内蔵され、ヒーター格納部44を介して熱伝導により触媒41が加熱される。また、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、ヒーターへの供給熱量を調整して触媒41の温度が調整される。
触媒の加熱には、例えばニクロム線による抵抗加熱体が用いられるが、加熱手段は特に限定されず、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱する高周波誘導加熱等も使用できる。高周波誘導加熱を用いる場合は、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、触媒を直接加熱することができる。
【0052】
触媒41の温度は、ヒーター43により、ベンゼンの水素付加反応によりシクロへキサンを生成させる際には、約60〜120℃に加熱する。変換効率を考慮すると、95〜105℃に加熱することが好ましい。また、シクロへキサンの脱水素反応によりベンゼンを生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。なお、後者の触媒温度を高目に設定するのは、水素付加反応は発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応であるため、後者は熱エネルギーをより多く必要とするからである。
【0053】
反応装置4は、電磁弁よりなるバルブ6を介して気液分離手段5に、また、電磁弁よりなるバルブ7を介して水素供給手段(図示せず)に配管接続されている。
バルブ6は、反応装置4内の生成物を気液分離手段5に導くときに使用される。反応装置4において、水素とベンゼンとの間で水素付加反応が起きるとシクロヘキサンが生成し、また、シクロヘキサンの脱水素反応が起きるとベンゼンと水素が生成するが、これらの生成物は気体であるため、気液分離手段5は、反応装置4から送られてくるベンゼン又はシクロへキサンを完全に液化させて水素を分離するために設けられている。
また、バルブ7は、水素を、水素供給手段から反応装置4内に導入・制御するためのバルブであり、水素付加反応でベンゼンからシクロヘキサンを生成させるときに使用するものである。
なお、水素は住宅の屋根等にとりつけられた太陽電池パネルにより発電した電力や商用電力の夜間電力を利用して電気分解装置で水が電気分解されたものであってもよい。
【0054】
気液分離手段5は、冷却水による冷却を行う、らせん状細管、交互冷却パイプ構造等の熱交換器51aからなる蒸気凝縮部51と、水素に同伴する液滴を分離する、活性炭や水素セパレータ膜等の水素分離部52aからなる水素抽出部52とにより構成されている。蒸気凝縮部51は、発生した水素と芳香族化合物及び水素化芳香族化合物との気液分離を効率的に実現するため、例えば、冷却水温度(例えば5〜20℃)を調節して最適化を図ることが好ましい。
【0055】
水素抽出部52は、通常、蒸気凝縮部51の接触面積、冷却水温度、発生水素速度等の諸因子を操作することにより、水素の分離・精製を行うことが可能であるため、必ずしも必要とはしないが、より高純度(99.9%以上)の水素の供給が要求される場合には、活性炭や、水素セパレータ膜のシリカ分離膜やパラジウム・銀分離膜等の従来技術を用いて水素の高純度化を行う。なお、反応物回収手段8と水素抽出部52との間に、例えばガラスウール、ワイヤーメッシュ等を充填した気液分離部(図示せず)を設けて、水素抽出部52への液滴の同伴量を減少させることもできる。
【0056】
反応物回収手段8は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と配管接続されており、蒸気凝縮部51で冷却されて液化したシクロヘキサン又はベンゼンは、反応物回収手段8に送られて回収される。
また、反応物回収手段8は、気液分離手段5の水素抽出部52とも配管接続されており、生成した水素は、蒸気凝縮部51で液化したシクロヘキサン又はベンゼンと共に一旦反応物回収手段8に入った後、水素抽出部52に送られ、水素抽出部52内に設置された活性炭や水素セパレータ膜からなる水素分離部52aにより、質量が軽く、また拡散速度が大きい水素ガスのみが分離精製される。精製された水素は、水素抽出部52に接続された配管91及び水素放出側バルブ92を通って外部、例えば、住宅用燃料電池システム等に効率的に供給される。
【0057】
上述のように、気液分離手段5の水素抽出部52は、通常は不用なので、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と水素抽出部52出口とを直接配管接続し、水素抽出部52をバイパスして水素を配管91に送り、蒸気凝縮部51の底部に溜まった液状のシクロヘキサン又はベンゼンを反応物回収手段8に回収してもよい。
また、配管91には、発生ガス量を計測するためのセンサ93が設置されているため、水素の発生量を測定することができる。
【0058】
一方、コンプレッサ(ポンプ)31、バルブ32、ヒーター43、熱電対45、バルブ6、バルブ7、バルブ92、センサ93は、それぞれ制御手段10と電気的に接続されており、熱電対45、センサ93等からの情報をもとに、コンプレッサ(ポンプ)や各バルブの作動、ヒーターへの熱量(制御手段は図示せず)を制御できるように構成されている。
【0059】
水素貯蔵・供給システムの基本構成について、以上図1に基づき詳細に説明したが、図2に示す基本構成も挙げられる。
図2の基本構成は、図1の構成と比較して基本的に反応装置4の構成が異なるのみなので、反応装置4の構成について詳述する。
【0060】
図2の反応装置4は、ベンゼン又はシクロへキサンを触媒に接触させて、水素付加反応又は脱水素反応を行わせる構成部であるが、少なくとも1本の筒状体で反応装置を形成することを特徴とする。
反応装置4は、アルミナ、セラミック等の耐熱性の高い絶縁体の筒状体で形成されており、筒状体本体42の内部には、ポーラスな触媒41が収納されている。筒状体本体42の一端42aは原料供給手段3に配管接続されており、原料供給装置3からの原料が、例えば分散板により、触媒41上に均一に分散される。尚、反応装置4は、原料の均一な分散、触媒の加熱効率等の観点から、複数の細管で形成してもよい。
【0061】
ここで、筒状体本体42は、流路を保ちながら金属担持触媒を充填できるものであれば任意の形状でよく、また、内径をすり鉢状や蛇腹状のように変化させてもよく、その形状寸法は使用状態に合わせて適宜選択することができる。
また、筒状体本体42は、ニクロム線等のヒーターにより触媒を加熱する場合には、アルミ等の熱伝導性のよい材質で形成するのが好ましい。
【0062】
触媒41としては、例えば、活性炭素地に主金属として白金を、副金属としてロジウム担持させた、原料及び反応生成物が透過可能なポーラスなものなどが用いられる。
【0063】
また、触媒の加熱手段としては、特に限定されず、ニクロム線ヒーターによる抵抗加熱、高周波誘導加熱等が使用できるが、本実施の形態においては、反応装置4の筒状体本体42を取り巻くように、触媒41を加熱するコイル状の電磁誘導コイル11が配置されており、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、電磁誘導コイルへの高周波電流を調整して触媒41の温度が調整される。
【0064】
尚、高周波誘導加熱は、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱するもので、電磁誘導作用により導電体に渦電流が発生し、ジュール熱によって導電体が過熱されるものである。電磁誘導コイルに印加する高周波電流の周波数としては、加熱する導電体とのインピーダンスマッチングにもよるが、一般的には350〜450kHzが使用される。
【0065】
電磁誘導コイルの形状としては、一般的なコイル形状の他、渦巻き形状が採用できる。コイル形状の場合は、加熱する導電体をコイルの中心に、渦巻き形状の場合は、導電体を渦巻きの中心線上に配置すると、効率的かつリスポンスよく加熱できる。
【0066】
高周波誘導加熱を行う場合には、電磁誘導コイルに高周波電流を流し続けると導電体が加熱され続けるため、一般的には温度制御が必要となる。温度制御の方法としては、導電体の温度を測定して電磁誘導コイルに流れる高周波電流を制御する種々のフィードバック制御が可能であり、本発明で用いる加熱温度(100〜500℃)においては、一般的な熱電対によるフィードバック制御で十分である。また、加熱のために投入されるエネルギーと反応に要するエネルギーとのバランスを取るために、反応に必要な単位時間当たりの熱量を求めて電磁誘導コイルに印加する電流(電力)を制御することも可能である。
【0067】
また、より効率的に、かつリスポンスよく加熱を行うためには、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、金属担持触媒を直接加熱することが好ましい。担体が非導電体の場合には、担体とステンレス等の一般的な導電体とを層状又はブレンド状等に形成し、担体に導電性を付与する。さらに、金属担持触媒のみを効率よく瞬時に加熱するために、筒状体本体をアルミナやセラミック等の耐熱性の高い絶縁体で形成する。筒状体本体が複数の場合には、各筒状体本体を電磁誘導コイルで取り囲んで各々加熱するようにしてもよく、複数の筒状体本体をまとめて1つの電磁誘導コイルで取り囲んで加熱してもよい。
尚、筒状体本体の長手方向に電磁誘導コイルを複数配置し、例えば、原料の供給側から順に触媒温度が高くなるように加熱してもよい。
【0068】
触媒41の温度は、電磁誘導コイル11により、ベンゼンの水素付加反応によりシクロへキサンを生成させる際には、約60〜120℃に加熱する。変換効率を考慮すると、95〜105℃に加熱することが好ましい。また、シクロへキサンの脱水素反応によりベンゼンを生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。尚、後者の触媒温度を高目に設定するのは、水素付加反応は発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応であるため、後者は熱エネルギーをより多く必要とするからである。
また、反応装置4の筒状体本体42の他端42bは電磁弁よりなるバルブ6を介して気体分離手段5に配管接続され、反応装置4と原料供給手段3との間の配管は、分岐されて電磁弁よりなるバルブ7を介して水素供給手段(図示せず)に配管接続されている。
【0069】
次に、水素貯蔵・供給システムの稼動方法について説明する。
水素貯蔵・供給システムを用いてベンゼンの水素付加反応により水素を貯蔵する手順と、シクロヘキサンの脱水素反応により外部に水素を供給する手順との一例を、図1に基づいて簡単に説明する。
ベンゼンへの水素付加反応により水素を貯蔵する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を100℃前後に調整しながら、バルブ7を開いて、水素供給手段(図示せず)より反応装置4に水素を供給し、水素を反応装置4内部に充填する。次に、バルブ7を閉じ、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のベンゼンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてベンゼンを噴射する。
【0070】
このとき、水素付加反応に伴って気体状のシクロヘキサンが生成するが、生成したシクロヘキサンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収手段8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、未反応の水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52を経由して、外部に移動するが、水素供給手段に接続して回収し、循環使用するように構成してもよい。
【0071】
一方、シクロヘキサンの脱水素反応により水素を外部に供給する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を350℃前後に調整しながら、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のシクロヘキサンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてシクロヘキサンを噴射させる。噴射終了後は、コンプレッサ(ポンプ)31の作動を停止させると共に、バルブ32を閉じる。
【0072】
このとき、脱水素反応に伴って気体状のベンゼンと水素が生成するが、生成したベンゼンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収装置8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、生成した水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52から配管91、センサ93を経由して、外部に移動する。
【0073】
以上、燃料電池への適用を前提に水素貯蔵・供給システムを説明したが、当然のことながら、水素貯蔵・供給システムを燃料電池以外の発電装置に適用してもよい。例えば、水素を燃やしてスチームを発生させ、タービンを回転させて発電機によって電気をつくるようにしてもよい。また、従来の火力発電所や原子力発電所等の電気供給システムと、水素貯蔵・供給システムとを併用してもよい。
【0074】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1
耐圧容器中に、1‐メチルナフタレンと、ルテニウム5質量%が粉体状活性炭に担持された触媒を投入し、耐圧容器内を水素で2.5〜3MPaに加圧し、250℃で50時間攪拌した。反応後、ガスを冷却液化し、触媒をろ別し、得られたろ液についてガスクロマトグラフィ(GC)分析を行った。GC分析結果は、次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0076】
実施例2
耐圧容器中に、白金10質量%が板状アルミナに担持された触媒を配備し、耐圧容器内を水素で2MPaに加圧し、250℃に加熱された触媒に対して1‐メチルナフタレンを間欠的に噴射(噴射/インターバル(停止)=1秒/5秒)した。反応後、蒸発気化したガスを冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0077】
実施例3
耐圧容器中に、1‐メチルナフタレンとナフタレンの2:1(質量比)混合物液と、白金10質量%とルテニウム5質量%が粉体状活性炭に担持された触媒を投入し、耐圧容器内を水素で3MPaに加圧し、300℃で50時間攪拌混合した。反応後、冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンやナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。
検出ピーク(リテンションタイム):
デカリン:6.50分
ナフタレン:6.94分
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0078】
実施例4
耐圧容器内に、白金10質量%とパラジウム5質量%とルテニウム5質量%がハニカム形状のアルミナ担体に担持された触媒を配備し、耐圧容器内を水素で3MPaに加圧し、280℃に加熱し、液体の1‐メチルナフタレンを280℃に加熱された触媒部分に滴下し、触媒部分を通過して蒸発気化したガスを冷却液化し、液化したものを集めてガスクロマトグラフィ分析を行った。GC分析結果は次のとおりである。
分析結果:
PEG系のカラムで、キャリアガスとしてヘリウムを用いたところ、1−メチルナフタレンとは異なる位置にピークを検出した。また、反応系内にナフタレンの固着は観測されなかった。
検出ピーク(リテンションタイム):
1−メチルナフタレン:7.16分
1−メチルデカリン異性体:6.71分
【0079】
比較例1
1‐メチルナフタレンとナフタレンの2:1(質量比)混合物液に代えてナフタレンとn−デカンの1:10(質量比)混合物を用いて実施例3と同様の実験を行った。実施例3に比し、水素化物の生成速度、ひいては水素吸蔵速度が相当低かった。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、芳香族化合物から水素供給体を簡単に効率よく製造することができ、さらには毒性が軽減され、単位重量当たりの水素発生量が多く、反応装置内における流動性、蒸留分離性、触媒被毒性等において問題がなく、ひいては家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性があり、かつ水素貯蔵体と水素を反応させる水素添加反応及び水素供給体から水素を発生させる脱水素反応の転化率を向上させることが可能な水素貯蔵・供給システムに好適に用いられる水素供給体を簡単に効率よく製造することができ、特に芳香族化合物にナフタレンを用いる場合に、1‐メチルナフタレンを併用すれば、反応系内や配管内の閉塞が起こることはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。
【図2】他の水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1 水素貯蔵・供給システム
2 原料貯蔵手段
3 原料供給手段
31 コンプレッサ(ポンプ)
32 バルブ
4 反応装置
41 触媒
42 噴射ノズル
43 ヒーター
44 ヒーター格納部
45 熱電対
5 気液分離手段
51 蒸気凝縮部
52 水素抽出部
6 バルブ
7 バルブ
8 反応物回収手段
91 水素送出ライン
92 バルブ
93 センサ
10 制御手段
Claims (10)
- 金属担持触媒の存在下に、芳香族化合物を高圧水素雰囲気下で水素添加することを特徴とする水素供給体の製造方法。
- 前記水素添加は、耐圧容器中に充填した液体芳香族化合物に、粉体状、ペレット状あるいは破砕状の金属担持触媒を投入した後、高圧水素雰囲気下で撹拌しながら行うことを特徴とする請求項1に記載の水素供給体の製造方法。
- 前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体芳香族化合物を噴射させながら行うことを特徴とする請求項1に記載の水素供給体の製造方法。
- 前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、あるいは破砕状の金属担持触媒と、霧化あるいは気化させた芳香族化合物を流動させ撹拌しながら行うことを特徴とする請求項1記載の水素供給体の製造方法。
- 前記水素添加は、高圧水素雰囲気下で、粉体状、ペレット状、破砕状、布状、板状、網状あるいはハニカム形状の金属担持触媒上に、液体又は気体の芳香族化合物を通過させながら行うことを特徴とする請求項1記載の水素供給体の製造方法。
- 前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素供給体の製造方法。
- 前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンとの混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素供給体の製造方法。
- 前記芳香族化合物は、1‐メチルナフタレンと、ナフタレンと、さらに、ベンゼン、トルエン、o‐キシレン、m‐キシレン、p‐キシレン、エチルベンゼンまたはテトラリンから選ばれる少なくとも1種の化合物との混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素供給体の製造方法。
- 前記金属担持触媒は、担持金属が、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルトまたは鉄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、一方、担持金属を担持する担体が、活性炭、カーボンナノチューブ、モレキュラシーブ、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、または金属多孔質体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素供給体の製造方法。
- 水素供給体は、芳香族炭化水素からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族炭化水素の水素化物からなる水素供給体の脱水素化反応とを利用して水素の貯蔵と供給を行う水素貯蔵・供給システムに使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の水素供給体の製造方法。
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---|---|---|---|
JP2002188289A JP2004026759A (ja) | 2002-06-27 | 2002-06-27 | 水素供給体の製造方法 |
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPWO2004000857A1 (ja) * | 2002-06-19 | 2005-10-20 | 栗田工業株式会社 | 水素貯蔵方法、水素包接化合物及びその製造方法 |
US7534510B2 (en) | 2004-09-03 | 2009-05-19 | The Gillette Company | Fuel compositions |
JP2018504364A (ja) * | 2015-01-06 | 2018-02-15 | 江蘇▲ちん▼陽能源有限公司Jiangsu Qingyang Energy Co.,Ltd. | 液体状態水素の貯蔵体系 |
-
2002
- 2002-06-27 JP JP2002188289A patent/JP2004026759A/ja active Pending
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