JP4254127B2 - 水素貯蔵・供給システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素貯蔵・供給システムに関し、さらに詳しくは、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う、低コストで、安定性、効率性に優れた水素貯蔵・供給システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の悪化、例えば地球温暖化等が問題となっており、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として水素燃料が、また、その利用形態の一つとして水素による燃料電池システムが注目を浴びている。水素は水の電気分解により製造できるため、海水や河川の水を電気分解することを前提とすれば、水素燃料は無尽蔵に存在することになる。しかしながら、水素は、常温で気体であり可燃性物質でもあるため、貯蔵や運搬が難しく、取扱いにも極めて注意を要する。
【0003】
分散型電源として住宅用等の燃料電池システムを検討する場合には、水素の供給形態が重要となるが、水素をそのまま各家庭に供給する方法には、安全性の問題があるばかりでなく、供給のためのインフラを整備する必要があるという問題があり、現在、実用化可能な水素の供給形態として、下記の方法が考えられている。
A.水素をボンベ等に圧入して各家庭に配送する方法。
B.既存インフラである都市ガス、プロパンガスから水蒸気改質等の方法により水素を得る方法。
C.夜間電力により水を電気分解して水素を得る方法。
D.太陽電池等で得た電気エネルギーにより水を電気分解して水素を得る方法。
E.光触媒反応により光エネルギーと水から直接水素を得る方法。
F.光合成細菌や嫌気性水素発生細菌等を用いて水素を得る方法。
【0004】
これらの中で、A.は、供給システムとしては容易に実現可能であるが、家庭において水素ガスを取り扱うことになるので、安全性に問題があり、実用性は低いと考えられる。
一方、B.は、既に家庭内に供給されているガスが利用できるという点では現実的であるが、家庭内の負荷変動に対する改質器のリスポンス性が十分ではないという問題がある。
また、C.〜F.でも、供給側と需要側にタイムラグが生じるため、家庭内の負荷変動に追従できないという問題がある。
【0005】
従って、実用化の可能性のある上記B.〜F.の方法を実現させるために、発生させた水素を一旦貯蔵し、必要に応じてリスポンスよく水素を燃料電池システムに供給する水素貯蔵・供給システムが検討されており、例えば、特開平7−192746号公報には、水素吸蔵合金を用いたシステムが、特開平5−270801号公報には、フラーレン類やカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等のカーボン材料を用いたシステムが開示されている。
【0006】
しかしながら、水素吸蔵合金を用いたシステムでは、熱によって水素の出し入れを制御できる簡便なシステム構築を可能にするものの、合金単位重量当たりの水素貯蔵量が低く、代表的なLaNi合金の場合でも、水素の吸蔵量は3重量%程度に留まっている。また、合金であるため重く、安定性にも欠ける。さらに、合金の価格が高いことも実用上の大きな問題点となっている。
【0007】
また、カーボン材料を用いたシステムでは、水素の高吸蔵が可能な材料が開発されつつあるものの未だ十分ではなく、例えば、カーボンナノチューブは、嵩密度が大きくて単位体積当たりの貯蔵量が低いため、システムが大型となる。また、これらの材料は、工業的な規模での合成が難しく、いずれも実用に供するまでには至っていない。
【0008】
かかる状況下、本出願人らは、先に特願2000−388043号において、低コストで、安全性、運搬性、貯蔵能力にも優れた水素貯蔵・供給システムとして、ベンゼン/シクロヘキサン系やナフタレン/デカリン・テトラリン系の炭化水素に着目し、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵及び/又は供給を行う水素貯蔵・供給システムを提案したが、この水素貯蔵・供給システムは、シクロヘキサンやデカリン等の飽和炭化水素を、反応装置内の金属担持触媒(活性炭等の担体に白金等の金属を担持)に噴射ノズルを用いて霧状に供給して水素を発生させ、一方、水素が充填された反応装置内の金属担持触媒にベンゼンやナフタレン溶解液等を同様に噴射して水素を貯蔵するというものであった。
【0009】
しかしながら、上記水素貯蔵・供給システムは、低コストで、かつ安全性、運搬性、貯蔵能力の面では優れているものの、水素の貯蔵を行う水素化反応と、水素の供給を行う脱水素反応において、金属担持触媒の触媒金属を担持する担体として同じ材料を使用していたため、一方の反応に最適な担体を選択すると、他方の反応においては触媒としての十分な効果を得ることができなかった。
これは、水素供給体と水素貯蔵体としての芳香族化合物とでは分子としての極性の大きさが異なるため、金属担持触媒の担体の極性の大きさとのマッチングから担体との吸着性に差がでてきて、結果として両者に最適な反応を同時に得ることができないためである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、こうした従来技術の問題点に鑑み、家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とする、低コストで、安定性、効率性に優れた水素貯蔵・供給システムを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素の貯蔵及び供給を行う水素貯蔵・供給システムにおいて、原料貯蔵手段、反応装置、原料供給手段、気液分離手段および反応物回収手段からなるシステムを構築し、その際、水素化反応により水素貯蔵を行わせる反応装置と、水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置を切り換え可能に設け、それぞれの反応装置は、原料液体を噴射時間と停止時間を設けて噴射して触媒上に液膜を形成するように供給する噴射ノズル、および触媒の加熱手段を設けたことによって、上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素の貯蔵および供給を行う水素貯蔵・供給システムにおいて、該システムは、水素貯蔵体、水素供給体のそれぞれを収納する原料貯蔵手段と、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応により水素貯蔵を行わせる反応装置と水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置を切り換え可能に設け、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応により水素貯蔵を行わせる反応装置には、モレキュラーシーブ、ゼオライト、シリカゲル、またはアルミナから選ばれる少なくとも1種を触媒担体とした金属触媒が設けられており、水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置には、活性炭、カーボンナノチューブ、またはグラファイトから選ばれる少なくとも1種を触媒担体とした金属触媒が設けられており、それぞれの反応装置は、原料液体を噴射時間と停止時間を設けて噴射して触媒上に液膜を形成するように供給する噴射ノズル、および触媒の加熱手段を有し、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体、または水素供給体を反応装置に供給する原料供給手段、反応装置からの生成気体を凝縮させて水素と水素貯蔵体、または水素供給体に分離する気液分離手段、分離した水素貯蔵体、水素供給体を回収する反応物回収手段を有する水素貯蔵・供給システムである。
【0015】
また、上記担持金属は、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、またはコバルトから選ばれる少なくとも1種の金属である前記の水素貯蔵・供給システムである。
【0016】
上記芳香族化合物は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、またはそれらのアルキル誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物である前記の水素貯蔵・供給システムである。
【0017】
上記水素化誘導体は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、又はそれらのアルキル誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物である前記の前記の水素貯蔵・供給システムである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の水素貯蔵・供給システムについて、各項目毎に詳細に説明する。
【0019】
1.水素貯蔵・供給システムの基本構成
本発明の水素貯蔵・供給システムは、水素貯蔵体及び/又は水素供給体を収納する原料貯蔵手段(a)と、水素貯蔵体の水素化及び/又は水素供給体の脱水素化を行わせる金属担持触媒を収納する反応装置(b)と、該金属担持触媒を加熱する加熱手段(c)と、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体及び/又は水素供給体を反応装置へ供給する原料供給手段(d)と、反応装置からの生成気体を凝縮させて水素と水素貯蔵体及び/又は水素供給体に分離する気液分離手段(e)と、分離した水素貯蔵体及び/又は水素供給体を回収する反応物回収手段(f)が具備されていることを基本構成とする。
上記基本構成には、反応装置における水素化反応及び/又は脱水素反応の条件を制御する制御手段を含ませることが好ましい。以下、本発明に係る水素貯蔵・供給システムの実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、水素の貯蔵と供給の少なくとも一方を行うことができる水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。図1の構成は、水素の貯蔵と供給の両方が可能なシステムを示しているが、不要な手段を省き、いずれか一方のみが可能なように構成してもよい。
この水素貯蔵・供給システム1は、主に、原料貯蔵手段2と、原料送出手段3と、反応装置4と、気体分離手段5と、反応物回収手段8と、制御手段10とを備えている。
【0021】
原料貯蔵手段2は、タンク状に形成され、水素貯蔵体であるベンゼン又は水素供給体であるシクロへキサンが収納される。
また、原料供給手段3は、原料貯蔵手段2から導いたベンゼン又はシクロへキサンを加圧して反応装置4に原料を供給するための構成部であり、コンプレッサ(ポンプ)31と、電磁弁よりなるバルブ32とにより構成されており、原料貯蔵手段2と配管接続されている。バルブ32により、反応装置4に供給される原料の供給量や供給時間が制御される。
【0022】
反応装置4は、ベンゼン又はシクロへキサンを金属担持触媒に噴射、供給して、水素付加反応又は脱水素反応を行わせる構成部である。反応装置4の内面底部には、ハニカムシート状の触媒41が設けられており、反応装置4の上部中央付近には、触媒41に対向して、原料供給手段3に配管接続された噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、原料が触媒上に均一に噴射されるように設置されており、原料を噴射ノズル42から噴射することにより、反応装置4内の触媒41表面に、原料の均一な液膜が形成される。
【0023】
触媒41としては、本実施の形態では、水素の貯蔵を行う水素化反応においては、ハニカムシート状のアルミナに金属として白金を担持させた触媒を用い、また、水素の供給を行う脱水素反応においては、ハニカムシート状の活性炭素地に金属として白金を担持させた触媒を用い、反応装置内の触媒重量をそれぞれ5gとしているが、その重量や大きさは必要に応じて調整すべき因子であり、特に限定されない。
【0024】
反応装置4の底部には、触媒41を加熱するヒーター43が備えられている。ヒーター43は、ニクロム線による抵抗加熱体であり、触媒41に接しているアルミ製のヒーター格納部44に一体的に内蔵され、ヒーター格納部44を介して熱伝導により触媒41が加熱される。また、触媒41に接した熱電対45により触媒温度を検知し、ヒーターへの供給熱量を調整して触媒41の温度が調整される。
ところで、本実施の形態では、触媒の加熱にニクロム線による抵抗加熱体を用いているが、加熱手段は特に限定されず、電磁誘導コイルに高周波電流を流すことにより発生させた高周波で導電体を誘導加熱する高周波誘導加熱等も使用できる。高周波誘導加熱を用いる場合は、金属担持触媒の担体としてカーボン等の導電体を用い、渦電流が発生する形状に形成することにより、触媒を直接加熱することができる。
【0025】
触媒41の温度は、ヒーター43により、ベンゼンの水素付加反応によりシクロへキサンを生成させる際には、約60〜120℃に加熱する。変換効率を考慮すると、95〜105℃に加熱することが好ましい。また、シクロへキサンの脱水素反応によりベンゼンを生成させる際には、約220〜400℃に加熱する。同様に変換効率を考慮すると、250〜380℃に加熱することが好ましい。なお、後者の触媒温度を高目に設定するのは、水素付加反応は発熱反応であり、脱水素反応は吸熱反応であるため、後者は熱エネルギーをより多く必要とするからである。
反応装置4は、電磁弁よりなるバルブ6を介して気液分離手段5に、また、電磁弁よりなるバルブ7を介して水素供給手段(図示せず)に配管接続されている。
【0026】
バルブ6は、反応装置4内の生成物を気液分離手段5に導くときに使用される。反応装置4において、水素とベンゼンとの間で水素付加反応が起きるとシクロヘキサンが生成し、また、シクロヘキサンの脱水素反応が起きるとベンゼンと水素が生成するが、これらの生成物は気体であるため、気液分離手段5は、反応装置4から送られてくるベンゼン又はシクロへキサンを完全に液化させて水素を分離するために設けられている。
また、バルブ7は、水素を、水素供給手段から反応装置4内に導入・制御するためのバルブであり、水素付加反応でベンゼンからシクロヘキサンを生成させるときに使用するものである。
【0027】
気液分離手段5は、冷却水による冷却を行う、らせん状細管、交互冷却パイプ構造等の熱交換器51aからなる蒸気凝縮部51と、水素に同伴する液滴を分離する、活性炭や水素セパレータ膜等の水素分離部52aからなる水素抽出部52とにより構成されている。蒸気凝縮部51は、発生した水素と芳香族化合物及び水素化芳香族化合物との気液分離を効率的に実現するため、例えば、冷却水温度(例えば5〜20℃)を調節して最適化を図ることが好ましい。
【0028】
水素抽出部52は、通常、蒸気凝縮部51の接触面積、冷却水温度、発生水素速度等の諸因子を操作することにより、水素の分離・精製を行うことが可能であるため、必ずしも必要とはしないが、より高純度(99.9%以上)の水素の供給が要求される場合には、活性炭や、水素セパレータ膜のシリカ分離膜やパラジウム・銀分離膜等の従来技術を用いて水素の高純度化を行う必要があるので、本実施の形態では追加設置している。なお、反応物回収手段8と水素抽出部52との間に、例えばガラスウール、ワイヤーメッシュ等を充填した気液分離部(図示せず)を設けて、水素抽出部52への液滴の同伴量を減少させることもできる。
【0029】
反応物回収手段8は、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と配管接続されており、蒸気凝縮部51で冷却されて液化したシクロヘキサン又はベンゼンは、反応物回収手段8に送られて回収される。
また、反応物回収手段8は、気液分離手段5の水素抽出部52とも配管接続されており、生成した水素は、蒸気凝縮部51で液化したシクロヘキサン又はベンゼンと共に一旦反応物回収手段8に入った後、水素抽出部52に送られ、水素抽出部52内に設置された活性炭や水素セパレータ膜からなる水素分離部52aにより、質量が軽く、また拡散速度が大きい水素ガスのみが分離精製される。精製された水素は、水素抽出部52に接続された配管91及び水素放出側バルブ92を通って外部、例えば、住宅用燃料電池システム等に効率的に供給される。
【0030】
上述のように、気液分離手段5の水素抽出部52は、通常は不用なので、気液分離手段5の蒸気凝縮部51と水素抽出部52出口とを直接配管接続し、水素抽出部52をバイパスして水素を配管91に送り、蒸気凝縮部51の底部に溜まった液状のシクロヘキサン又はベンゼンを反応物回収手段8に回収してもよい。
また、配管91には、発生ガス量を計測するためのセンサ93が設置されているため、水素の発生量を測定することができる。
【0031】
一方、コンプレッサ(ポンプ)31、バルブ32、ヒーター43、熱電対45、バルブ6、バルブ7、バルブ92、センサ93は、それぞれ制御手段10と電気的に接続されており、熱電対45、センサ93等からの情報をもとに、コンプレッサ(ポンプ)や各バルブの作動、ヒーターへの熱量(制御手段は図示せず)を制御できるように構成されている。
【0032】
本発明の水素貯蔵・供給システムの基本構成について、以上図1に基づき詳細に説明したが、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応により水素貯蔵を行わせるための反応装置と、水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置とをそれぞれ別々に設け、それぞれ反応条件に応じて切り換える様にしてもよい。
【0033】
2. 水素貯蔵・供給システムの稼動方法
本発明の水素貯蔵・供給システムは、上述のような構成からなり、かつ、反応装置(b)中に収納された金属担持触媒の触媒金属を担持する担体が、水素の貯蔵を行う水素化反応においては、無機系材料であり、水素の供給を行う脱水素反応においては、炭素系材料であることを特徴とする。
【0034】
本発明の水素貯蔵・供給システムを用いてベンゼンの水素付加反応により水素を貯蔵する手順と、シクロヘキサンの脱水素反応により外部に水素を供給する手順との一例を、図1に基づいて簡単に説明する。
ベンゼンへの水素付加反応により水素を貯蔵する場合には、まず、反応装置4内のヒーター43に通電して、無機系材料の担体に触媒金属が担持ざれた金属担持触媒41の温度を100℃前後に調整しながら、バルブ7を開いて、水素供給手段(図示せず)より反応装置4に水素を供給し、水素を反応装置4内部に充填する。次に、バルブ7を閉じ、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のベンゼンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてベンゼンを噴射する。
【0035】
このとき、水素付加反応に伴なって気体状のシクロヘキサンが生成するが、生成したシクロヘキサンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収手段8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、未反応の水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52を経由して、外部に移動するが、水素供給手段に接続して回収し、循環使用するように構成してもよい。
【0036】
一方、シクロヘキサンの脱水素反応により水素を外部に供給する場合には、まず、反応装置4内に収納される触媒41を、炭素系材料の担体に触媒金属が担持された金属担持触媒41に換え、反応装置4内のヒーター43に通電して触媒41の温度を350℃前後に調整しながら、バルブ32を開くと共に、コンプレッサ(ポンプ)31を作動させて、原料貯蔵手段2内のシクロヘキサンを反応装置4に所定量供給し、噴射ノズル42より触媒41に向けてシクロヘキサンを噴射させる。噴射終了後は、コンプレッサ(ポンプ)31の作動を停止させると共に、バルブ32を閉じる。
【0037】
このとき、脱水素反応に伴なって気体状のベンゼンと水素が生成するが、生成したベンゼンは、気液分離手段5の蒸気凝縮部51で冷却されて液状となり、反応物回収装置8に移動して反応物回収手段8内に蓄えられる。一方、生成した水素は、一旦反応物回収手段8に入り、気液分離手段5の水素抽出部52から配管91、センサ93を経由して、外部に移動する。
【0038】
本発明の水素貯蔵・供給システムは、芳香族化合物であるナフタレンを用いて水素付加反応により水素を貯蔵し、ナフタレンの水素化誘導体であるデカリンの脱水素反応により外部に水素を供給する方法も好適に適用することができるが、ナフタレンは常温では固体状態になるため、ナフタレンの水素付加反応では、取扱いが面倒であり、また、デカリンの脱水素反応では、反応で生成したナフタレンが固体となって析出し、配管などを閉塞させる可能性があるため、システム全体またはナフタレンが係わる配管などの部分的な部位を、ナフタレンの融点である80.3℃以上、またデカリンの沸点である185.5℃以下に加熱保温することにより上記問題を解決することができる。
【0039】
以上、燃料電池への適用を前提に本発明の水素貯蔵・供給システムを説明したが、当然のことながら、本発明の水素貯蔵・供給システムを燃料電池以外の発電装置に適用してもよい。例えば、水素を燃やしてスチームを発生させ、タービンを回転させて発電機によって電気をつくるようにしてもよい。また、従来の火力発電所や原子力発電所等の電気供給システムと、本発明の水素貯蔵・供給システムとを併用してもよい。
【0040】
3. 水素貯蔵・供給システムにおいて用いられる原料
【0041】
3.1 芳香族化合物=水素貯蔵体
本発明に用いられる芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素化合物、又はそれらのアルキル誘導体が挙げられるが、この中でもベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が効率の面から特に好適に使用される。
本発明に用いられる芳香族化合物は、分子内に多数のエチレン結合(C=C)を有するので、水素が付加反応し、下記に詳細に説明する水素化誘導体となる。すなわち、芳香族化合物は、エチレン結合(C=C)に水素を結合させることにより水素を貯蔵することができるので、本発明においては水素貯蔵体とも呼称される。
【0042】
3.2 水素化誘導体=水素供給体
本発明に用いられる芳香族化合物の水素化誘導体としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素化合物、又はそれらのアルキル誘導体を水素添加して得られるものであり、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の水素化誘導体(B)であるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)等が効率の面から特に好適に使用される。
本発明に用いられる水素化誘導体は、エチレン結合(C=C)はほとんどなく、飽和炭化水素であるから、脱水素反応により水素を供給することができるので、本発明においては水素供給体とも呼称される。
【0043】
3.3 金属担持触媒
本発明で使用される金属担持触媒は、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応との両方の反応を促進する機能をもつものであり、下記の担体に金属を担持させて得られたものである。
担持される金属としては、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト等の貴金属類等が挙げられるが、これらは単一であっても2種以上併用してもよい。その内、白金、タングステン、レニウム、モリブデン、ロジウム、バナジウムは、活性、安定性、取り扱い性等の面から特に好ましい。
【0044】
金属担持触媒における金属の担持率は、担体に対して通常0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。また、2種以上の金属を用いる複合金属系触媒の場合は、主金属成分M1に対して添加金属M2の添加量が、M2/M1原子数比で0.001〜10、特に、0.01〜5であることが好ましい。なお、M1及びM2は、各々以下に示す金属である。
M1:白金、パラジウム、クロム
M2:イリジウム、レニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、鉄
【0045】
一方、触媒金属を担持する炭素系材料及び無機系材料の担体としては、公知の担体ならば特に限定されないが、例えば、炭素系材料としては、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイト等を用いるのが好ましく、また、無機系材料としては、モレキュラーシーブス、ゼオライト等の多孔質担体、又はシリカゲル、アルミナ等を用いるのが好ましい。
【0046】
また、上記金属担持触媒の形状は、特に限定されず、顆粒状、シート状、織布状、ハニカム状、メッシュ状、ポーラス状等、使用形態に合わせて適宜選択される。
【0047】
本発明の水素貯蔵・供給システムでは、金属担持触媒の触媒金属を担持する担体が、水素の貯蔵を行う水素化反応においては、無機系材料であり、水素の供給を行う脱水素反応においては、炭素系材料であることを特徴とするが、このような担体を選択することにより、脱水素反応においては、水素供給体は、その化学的な構造から、分子としての極性は非常に小さいため、活性炭等の炭素系材料のような極性の小さい担体には親和性が大きく、吸着しやすくなり、触媒金属近傍に存在しやすくなって、反応が容易に進行する。
一方、水素化反応においては、水素貯蔵体は芳香族化合物であるため、そのπ電子雲の存在から、水素供給体に比較して分子としての極性はより大きく、そのため、活性炭のような極性の小さい担体よりも、アルミナ等の無機系材料のような極性の大きい担体の方が反応が進行しやすくなる。
すなわち、本発明においては、脱水素反応においては、担体が炭素系材料である金属担持触媒を使用し、水素化反応においては、担体が無機系材料である金属担持触媒を、切り換えて使用する。
【0048】
【実施例】
以下に、本発明の実施の形態で述べた水素貯蔵・供給システムに関して、実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
水素供給用(脱水素反応用)金属担持触媒Aの調製
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gの活性炭を浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、活性炭を混合液の中から取り出し、十分に水洗した後、乾燥させた。
そして、この乾燥活性炭を窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素供給用金属担持触媒Aを調製した。調製された金属担持触媒Aにおける主担持金属の白金の含有量は、10wt%であった。
【0050】
水素貯蔵用(水素添加反応用)金属担持触媒Bの調製
主担持金属用として、1.328gの塩化白金酸6水和物を蒸留水200mlに溶かした水溶液を作製した。
この水溶液に担体として4.45gのアルミナを浸漬させて十分に攪拌し、一夜放置させた後、アルミナを混合液の中から取り出し、十分に水洗した後乾燥させた。
そして、この乾燥アルミナを窒素気流下400℃で加熱して付着した塩分を十分に分解させ、さらに、約400ml/分の流量の水素気流下350℃で4時間加熱し担持金属を還元・活性化させて、約5gの水素貯蔵用金属担持触媒Bを調製した。調製された金属担持触媒Bにおける主担持金属の白金の含有量は、10wt%であった。
【0051】
(実施例1) 水素発生及び水素貯蔵試験
図1に示す装置を用いて実験を行った。金属担持触媒としては、活性炭に10重量%の白金を担持させたハニカムシート状のもの(触媒A)と、アルミナに10重量%の白金を担持させたハニカムシート状のもの(触媒B)とを用いた。触媒の量はそれぞれ5gとし、次の要領でシクロヘキサンの脱水素反応とベンゼンの水素化反応を行わせた。
[水素供給]
図1に示す装置の反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Aを収納し、この触媒Aを350℃に加熱して、原料としてのシクロヘキサンを1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素発生を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素発生量を測定した結果、水素生成速度は10l/分であった。
[水素貯蔵]
図1に示す装置の反応装置4に、金属担持触媒として上記触媒Bを収納し、この触媒Bを100℃に加熱して、原料としてのベンゼンを1回あたり2mlの割合で触媒に噴射して水素貯蔵を行わせた。原料の噴射時間と停止時間をそれぞれ1秒、5秒として1分間あたりの水素貯蔵量を測定した結果、水素貯蔵速度は10l/分であった。
【0052】
(比較例1)
水素貯蔵について、実施例1の触媒Bに代えて触媒Aを用いて実施例1と同様の実験を行った。1分間あたりの水素貯蔵量を測定した結果、水素貯蔵速度は1l/分であった。
【0053】
(比較例2)
水素発生について、実施例1の触媒Aに代えて触媒Bを用いて実施例1と同様の実験を行った。1分間あたりの水素発生量を測定した結果、水素生成速度は5l/分であった。
実施例1、比較例1、比較例2、及び比較例3の結果を表1に示した。
【0054】
(比較例3)
触媒Bを用いて実施例1と同様の水素発生と水素貯蔵の実験を行った。1分間あたりの水素発生量と水素貯蔵量を測定した結果、水素発生速度は5l/分、水素貯蔵速度は10l/分であった。
【0055】
【表1】
Figure 0004254127
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明の水素貯蔵・供給システムは、家庭内の電力の負荷変動に迅速にリスポンスできる燃料電池システムを可能とし、水素の貯蔵を行う水素化反応と、水素の供給を行う脱水素化反応において、それぞれの反応に最適な担体に触媒金属を担持させた金属担持触媒が用いられているので、水素化反応、及び脱水素反応の両方の転化率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水素貯蔵・供給システムの構成を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1 水素貯蔵・供給システム
2 原料貯蔵手段
3 原料供給手段
31 コンプレッサ(ポンプ)
32 バルブ
4 反応装置
41 触媒
42 噴射ノズル
43 ヒーター
44 ヒーター格納部
45 熱電対
5 気液分離手段
51 蒸気凝縮部
52 水素抽出部
6 バルブ
7 バルブ
8 反応物回収手段
91 水素送出ライン
92 バルブ
93 センサ
10 制御手段

Claims (4)

  1. 芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素反応を利用して水素の貯蔵および供給を行う水素貯蔵・供給システムにおいて、該システムは、水素貯蔵体、水素供給体のそれぞれを収納する原料貯蔵手段と、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応により水素貯蔵を行わせる反応装置と水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置を切り換え可能に設け、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素化反応により水素貯蔵を行わせる反応装置には、モレキュラーシーブ、ゼオライト、シリカゲル、またはアルミナから選ばれる少なくとも1種を触媒担体とした金属触媒が設けられており、水素供給体の脱水素化反応により水素発生を行わせる反応装置には、活性炭、カーボンナノチューブ、またはグラファイトから選ばれる少なくとも1種を触媒担体とした金属触媒が設けられており、それぞれの反応装置は、原料液体を噴射時間と停止時間を設けて噴射して触媒上に液膜を形成するように供給する噴射ノズル、および触媒の加熱手段を有し、原料貯蔵手段内の水素貯蔵体、または水素供給体を反応装置に供給する原料供給手段、反応装置からの生成気体を凝縮させて水素と水素貯蔵体、または水素供給体に分離する気液分離手段、分離した水素貯蔵体、水素供給体を回収する反応物回収手段を有することを特徴とする水素貯蔵・供給システム。
  2. 上記触媒担持金属は、ニッケル、パラジウム、白金、バナジウム、クロム、コバルト、鉄、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、またはコバルトから選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項記載の水素貯蔵・供給システム。
  3. 上記芳香族化合物は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、またはそれらのアルキル誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1またはのいずれか1項に記載の水素貯蔵・供給システム。
  4. 上記水素化誘導体は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、又はそれらのアルキル誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の水素貯蔵・供給システム。
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