JP2004011611A - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents

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Haruhiro Iwaki
岩城 治啓
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Abstract

【課題】燃料噴射手段から空燃比検出手段までに含まれるむだ時間を精度よく算出し、空燃比フィードバック制御の安定性及び精度を向上させる。
【解決手段】吸入空気量Qaに基づいてむだ時間基本値k0を算出する(a1部)。一方、吸気温度Taに基づいて吸気温度補正係数KHOSTAを算出すると共に、大気圧Paに基づいて大気圧補正係数KHOSPAを算出し(a2部、a3部)、これらを乗算して前記むだ時間基本値k0を補正するための補正係数KHOSを算出し(a4部)、前記むだ時間基本値k0に補正係数KHOSを乗算してむだ時間kを算出する(a5部)。この結果、燃料噴射手段から空燃比検出手段までのプラント状態に精度よく対応させて、そのむだ時間を算出でき、プラントモデルの同定精度が向上する。これにより、空燃比フィードバック制御の精度及び安定性を向上できる。
【選択図】図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料噴射手段から空燃比検出手段までのプラントを表したプラントモデルを用いて空燃比フィードバック制御を行う内燃機関の空燃比制御装置に関し、特に、前記プラントに含まれるむだ時間を精度よく算出することで空燃比フィードバック制御量の算出を高精度に行うようにした技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の空燃比フィードバック制御において、制御対象(プラント)、すなわち、燃料噴射手段から空燃比検出手段までの間には、むだ時間(燃料噴射手段を制御してからその効果が排気通路に設けられる空燃比検出手段によって検出されるまでの輸送遅れ)が存在する。そして、このむだ時間(輸送遅れ)を吸入空気量と機関回転速度とに基づいて算出するようにしたものがある(特開平5−133263号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、むだ時間を含む制御対象に対する制御方法としてスミス法が知れており、フィードバック制御の制御ゲインを算出する方法として極配置法によるセルフチューニングコントロールが知られているが、これらの制御が効果的に行われるには、制御対象(プラント)とプラントモデルとが一致していることが必要となる。
【0004】
ここで、内燃機関の空燃比フィードバック制御に前記スミス法と極配置法によるセルフチューニングコントロールとを適用した場合は、上述したように、プラントにむだ時間が含まれるため、このむだ時間を正確に求めなければ、プラントとプラントモデルとの間にミスマッチが生じ、安定した制御を実行できないことになる。すなわち、プラントに含まれるむだ時間を正確に求めることが、当該空燃比フィードバック制御では不可欠である。
【0005】
しかし、上記従来のように、吸入空気量、機関回転速度に基づいてむだ時間(輸送遅れ)を算出するだけでは、吸入する空気の温度や大気圧による排気の体積流量への影響が全く考慮されていない。すなわち、一定の空気量(質量流量)を吸入する場合に、その吸気温度が高いときや大気圧が低いときは、より多くの体積流量が必要となるし、この吸入空気の体積流量の増加に伴って排気の体積流量も多くなる。このため、吸入空気量が一定であっても吸気温度、大気圧が変化すれば、プラントに含まれるむだ時間も変動するのであるが、上記従来のものは、かかる変動を全く考慮していないため、前記むだ時間を精度よく算出できないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、燃料噴射手段から空燃比検出手段の間を制御対象とする内燃機関の空燃比制御装置において、かかる制御対象に含まれるむだ時間を精度よく算出し、これにより空燃比フィードバック制御を安定かつ高精度に行うことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そのため、請求項1に係る内燃機関の空燃比制御装置は、吸入空気量と吸気温度と大気圧とに基づいて、燃料噴射手段から空燃比検出手段までのプラントに含まれるむだ時間を算出し、前記プラントを表したプラントモデルを燃料噴射手段のフィードバック制御量と前記むだ時間経過後の空燃比とに基づいて同定し、同定したプラントモデルのパラメータを用いて制御ゲインを算出し、算出した制御ゲインを用いて燃料噴射手段のフィードバック制御量を算出するようにした。
【0008】
このようにすれば、吸入空気量に基づく算出を基本としつつ、吸気温度及び大気圧の変化による排気の体積流量の変動分をも考慮してプラントに含まれるむだ時間を精度よく算出することができる。すなわち、吸気温度が高い場合や大気圧が低い場合は、その密度が低くなるので同一の吸入空気量(質量)を確保するには、吸気温度が低い場合や大気圧が高い場合よりも大きな体積流量が必要となる。すると、これに伴って排気の体積流量も大きくなり排気の輸送遅れは小さくなる。従って、吸入吸気量のみではなく吸気温度及び大気圧についても考慮することで、前記プラントに含まれるむだ時間を精度よく算出できるのである。この結果、プラントモデルの同定精度も向上し、空燃比フィードバック制御の精度及び安定性を向上できる。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、吸入空気量に基づいてむだ時間基本値を算出し、このむだ時間基本値を吸気温度及び大気圧に応じて補正して前記プラントに含まれるむだ時間を算出するようにした。
このようにすれば、所定の基準状態(基準の吸気温度、基準の大気圧)のときのむだ時間を算出する基本演算式に対し、吸気温度に応じて設定される補正係数及び大気圧に応じて設定される補正係数を乗算等することで容易かつ正確にむだ時間を算出できる。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、吸気温度が高いほどむだ時間を小さく算出し、大気圧が低いほどむだ時間を小さく算出するようにした。
このようにすれば、吸気温度の上昇による排気の体積流量の増加分や、高地走行時のように大気圧が低いときの排気の体積流量の増加分を考慮して、そのときの状態に応じた正確なむだ時間を算出できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す機関(エンジン)のシステム図である。図1に示すように、エンジン1の吸気通路2には、吸入空気量Qaを検出するエアフローメータ3と吸入空気量Qaを制御するスロットル弁4が設けられている。また、吸気通路2に設けられた燃料噴射弁5は、マイクロコンピュータを内蔵したコントロールユニット(C/U)6からの噴射信号により開弁駆動して燃料を噴射供給する。機関の各気筒には、燃焼室7内で火花点火を行う点火栓8が設けられており、吸気バルブ9を介して吸入された混合気を火花点火によって着火する。燃焼排気は、排気バルブ10を介して排気通路11に排出され、排気浄化装置12を介して大気中の排出される。
【0012】
前記排気浄化触媒12の上流側の排気通路11には、排気中の酸素濃度に応じて空燃比をリニアに検出する広域型の空燃比センサ13が設けられている。更に、エンジン1の所定のクランク角毎にクランク角信号に出力するクランク角センサ14、エンジン1の冷却ジャケット内の冷却水温度Twを検出する水温センサ15、吸気温度Taを検出する吸気温度センサ16、大気圧Paを検出する大気圧センサ17等の各種センサが設けらており、これらの検出信号は前記コントロールユニット(C/U)6に入力される。
【0013】
前記コントロールユニット(C/U)6は、次のようにして前記燃料噴射弁5を制御する。まず、吸入空気量Qaと、前記クランク角センサ14からの信号に基づいて検出される機関回転速度Neと、からストイキ(λ=1)相当の基本燃料噴射量Tp=K×Qa×Ne(Kは定数)を演算する。
次に、運転状態に応じて、空燃比をフィードバック制御するかオープンループ制御するかを判断し、フィードバック制御する場合には、前記基本燃料噴射量Tp、目標空燃比λt及び空燃比センサ13の検出信号に基づき算出した空燃比フィードバック補正係数αを用いて、最終的な燃料噴射量Ti=Tp×(1/λt)×αを演算する。一方、オープンループ制御の場合は、前記空燃比フィードバック補正係数αを1に固定(α=1)して最終的な燃料噴射量Tiを算出する。そして、前記最終的な燃料噴射量Tiに対応する噴射信号を前記燃料噴射弁5に出力する。
【0014】
ここで、本実施形態における空燃比燃制御(燃料噴射弁5の制御)について詳細に説明する。図2は、前記コントロールユニット(C/U)6内の空燃比制御部を示す図である。図2に示すように、本実施形態に係る空燃比制御部は、出力判断部21と、空燃比フィードバック制御部22(破線部)と、を含んで構成されている。
【0015】
前記出力判断部21は、運転状態に応じて空燃比フィードバック制御部22で算出されたフィードバック制御量(空燃比フィードバック補正係数α)を燃料噴射弁5に出力するか否かを判断する。そして、フィードバック制御量を出力しないと判断したときは、フィードバック制御量の代わりに固定値(オープンループ制御時は1、燃料カット時は0)を出力する。
【0016】
前記空燃比フィードバック制御部22は、スライディングモード制御部(以下、S/M制御部という)221と、むだ時間補償器222と、プラントモデル同定部223と、制御ゲイン算出部224と、むだ時間算出部225と、を含んで構成される。
前記S/M制御部221(これが、本発明に係るフィードバック制御量算出手段に相当する)は、目標空燃比λtと実空燃比λrとの偏差に基づくスライディングモード制御によりプラント(前記燃料噴射弁5〜前記空燃比センサ13の間)への制御量u(t)、すなわち、燃料噴射弁5のフィードバック制御量(空燃比フィードバック補正係数)αを次式(1)のようにして算出する。
【0017】
【数1】
Figure 2004011611
但し、e(t)は、S/M制御部221への入力、Kは、線形項線形ゲイン、Kは、線形項微分ゲイン、Kは、適応則ゲイン、Kは、非線形ゲインである。また、σ(t)は切換関数で、Sを切換関数線形ゲイン、Sを切換関数微分ゲインとしたときに、σ(t) = Se(t)+Se(t)と表せるものである。なお、上記線形項制御ゲイン(K、K、K)は、後述する制御ゲイン算出部224で算出される。
【0018】
前記むだ時間補償器222は、プラントに含まれるむだ時間(すなわち、燃料噴射弁5を制御してから、その結果が空燃比センサ13により検出されるまでの輸送遅れ)の影響をスミス法により補償するものである。
前記プラントモデル同定部223(これが、本発明に係る同定手段に相当する)は、前記プラントを表したプラントモデルをオンラインで同定する。具体的には、逐次最小二乗法(RLS法)を用いてプラントモデルの各パラメータの逐次推定を行って、この推定パラメータを制御ゲイン算出部224に出力する(詳細は後述する)。
【0019】
前記制御ゲイン算出部224(これが、本発明に係る制御ゲイン算出手段に相当する)は、前記プラントモデル同定部223で推定したプラントモデルの各パラメータを用いて、前記S/M制御部221におけるスライディングモード制御の線形項制御ゲインK、K、Kを算出する。かかる算出は、極配置法によるセルフチューニングコントロールの手法を利用して行われるものであり、具体的には、システム全体(すなわち、プラント、S/M制御部221及びむだ時間補償器222等)を1つの閉ループ伝達関数で表し、その極が応答性、行き過ぎ量、整定時間等の点から望ましい極と一致するように前記スライディングモード制御の線形項制御ゲインK、K、Kを算出する(詳細は後述する)。
【0020】
前記むだ時間算出部225(これが、本発明に係るむだ時間算出手段に相当する)は、前記プラントに含まれるむだ時間k、すなわち、燃料噴射弁5を制御してから、その効果が空燃比センサ13により検出されるまでの輸送遅れを算出する。かかるむだ時間kの算出は、具体的には、図3に示すように行われる。
図3において、a1部では、吸入空気量Qaに基づいて、図に示すようなテーブルTk0検索により、むだ時間基本値k0を算出する。すなわち、排気の輸送遅れは、通常、吸入空気量Qaに基づいて算出できるので、所定の基準状態における排気の輸送遅れをむだ時間基本値k0として算出する。なお、ここで使用するテーブルTk0は、所定の基準状態(吸気温度が所定の基準温度Ta0、かつ、大気圧が所定の基準大気圧Pa0の状態)における吸入空気量Qaとむだ時間(輸送遅れ)との関係をあらかじめ求めて作成したものである。
【0021】
a2部では、吸気温度センサ16により検出された吸気温度Taに基づいて、あらかじめ実験等により作成したテーブルTKHOSTAを検索することで吸気温度補正係数KHOSTAを算出する。かかる係数を算出するのは、同一の吸入空気量(質量)を確保しようとする場合、吸気温度Taが高くなると吸入する空気の体積流量は大きくなり、この結果、排気の体積流量も多くなって排気の輸送遅れが変化する(小さくなる)ことを考慮するためのものである。なお、図に示すように、前記吸気温度補正係数KHOSTAは、吸気温度Taが高いほど小さく設定されており、吸気温度Taが高くなるほど前記むだ時間基本値k0を小さくする補正を行うことになる。
【0022】
a3部では、大気圧センサ17により検出された大気圧Paに基づいて、あらかじめ実験等により作成したテーブルTKHOSPAを検索して大気圧補正係数KHOSPAを算出する。かかる係数を算出するのは、前記吸気温度Taの場合と同様に、同一の吸入空気量(質量)を確保しようとする場合、例えば高地等で大気圧Paが低くなると吸入する空気は体積流量も大きくなり、この結果、排気の体積流量も大きくなって排気の輸送遅れが変化する(小さくなる)ことを考慮するためのものである。なお、図に示すように、前記大気圧補正値KHOSPAは、大気圧Paが低いほど小さく設定されており、大気圧Paが低くなるほど前記むだ時間基本値k0を小さくする補正を行うことになる。
【0023】
a4部では、前記吸気温度補正係数KHOSTAに前記大気圧補正係数KHOSPAを乗算して補正係数KHOSを算出する。なお、吸気温度補正を考慮する必要のないような場合には、吸気温度補正係数KHOSTA=1とすればよく、大気圧補正を考慮する必要のない場合には、大気圧補正係数KHOSPA=1とすればよい。
【0024】
a5部では、前記むだ時間基本値k0に、前記補正係数KHOSを乗算してむだ時間k(=k0×KHOS)を算出する。これにより、吸入空気量Qaが同一の場合でも、吸気温度Taや大気圧Paの変化による排気の体積流量分も考慮できるので、プラントに含まれるむだ時間kを、そのときの状態に応じて精度よく算出できる。そして、a6部では、検出した実空燃比λrに基づいて、前記むだ時間k経過後の予測空燃比λkを算出する。
【0025】
なお、以上の説明では、吸気温度補正係数KHOSTA、大気圧補正係数KHOSPAを別々に算出し、これらを乗算してむだ時間基本値k0を補正する補正係数KHOSを算出するようにしているが、これに限られるものではなく、例えば、吸気温度Ta、大気圧Paに基づいて、1つのマップを参照することで、補正係数KHOSを算出するようにしてもよい。
【0026】
次に、前記制御ゲイン算出部224で行われるスライディングモード制御の制御ゲインの算出、すなわち、極配置法によるセルフチューニングコントロールを用いた制御ゲインの算出について説明する。かかる制御ゲインの算出は、まず、プラントを伝達関数で表すプラントモデルG(z−1)を設定し、その後、S/M制御部221の伝達関数G(z−1)及びむだ時間補償器22の伝達関数G(z−1)を求める。そして、これらの伝達関数を合成してシステム全体の閉ループ伝達関数W(z−1)を算出し、その極があらかじめ設定した極となるようにS/M制御部221における制御ゲイン(K、K、K)を算出する。
【0027】
以下、プラントモデルの設定、プラントモデルの同定(パラメータ推定)、S/M制御部221の伝達関数化、むだ時間補償器222の伝達関数化及びスライディングモード制御の制御ゲインの算出について、順に説明する。
(A)プラントモデルの設定について
燃料噴射弁5と空燃比センサ13との間(プラント)を、前記むだ時間算出部225で算出したむだ時間k(≧1)を用いて、次式(2)、(3)に示す二次のARXモデルA(z−1)で表す。
【0028】
A(z−1)y(t)=z−ku(t)+ε(t)  …(2)
A(z−1)=1+a−1+a−2 …(3)
但し、y(t)は、プラント出力(すなわち、実空燃比λt)、u(t)は、プラント入力値(すなわち、燃料噴射弁5のフィードバック制御量α)、ε(t)は、不規則雑音である。すると、プラントモデルの伝達関数G(z−1)は、次式(4)のように表すことができ、また、推定パラメータベクトルθ(t)及びデータベクトルψ(t−k)は、下記(5)、(6)式のようになる。
【0029】
(z−1)=z−k/A(z−1)  …(4)
θ(t)=〔a(t),a(t),b(t)〕T … (5)
ψ(t−k)=〔−y(t−1),−y(t−2)、u(t−k)〕 … (6)
(B)プラントモデルの同定(パラメータ推定)について
設定したプラントモデルは、前記プラントモデル同定部223で同定される。ここで、前記プラントモデルはむだ時間kを用いて設定してあり、プラントモデルの同定は、プラントの入力データであるフィードバック制御量αと、出力データであるむだ時間k経過後の空燃比λkと、に基づいて行われることになる。なお、むだ時間k経過後の空燃比は、前記むだ時間算出部225のa4部において算出されたものである。かかるプラントモデルの同定には、逐次最小二乗法(RLS法)を用いており、実値と推定値の誤差の二乗が最も小さくなるように各パラメータを推定する。具体的な演算式は、一般の重みつき逐次最小二乗法(RLS法)と同一のものであり、時間更新式:t=1、2、…、Nに対して、次式(7)〜(9)を計算することにより行う。
【0030】
【数2】
Figure 2004011611
なお、前記忘却係数λ、λは、忘却要素なしの場合には前記忘却係数λ=λ=1とし、忘却要素つきの場合にはλ=0.98、λ=1とする。また、本実施形態においては、前記パラメータ推定値の初期値θ0を、運転状態の応じてあらかじめ設定した値(例えば、a(0)=A1、a(0)=A2、b(0)=B1)とすることで、収束までの時間の短縮化を図っている。
【0031】
(C)S/M制御部221の伝達関数の算出について
前記S/M制御部221を、次のようにして伝達関数化する。まず、y(t)をプラント出力値(実空燃比λr)、ω(t)を目標値(目標空燃比λt)とし、e(t)=ω(t)−y(t)とすると、1サンプルにおけるプラント入力(すなわち、S/M制御部221からの出力)u(t)の差分Δu(t)は、次式(10)で与えられる。
【0032】
【数3】
Figure 2004011611
ここで、e(t)=ω(t)−y(t)、e(t)−e(t−1)=Δe(t)であるから、式(10)より次式(11)が得られる。
【0033】
【数4】
Figure 2004011611
但し、K(z−1)は次式(12)で表されるもので、式(13)のように展開して各制御ゲインに基づいて算出するものである。
【0034】
【数5】
Figure 2004011611
従って、式(12)よりプラント入力u(t)は、次式(14)で表される。
【0035】
【数6】
Figure 2004011611
ここで、非線形項を含めないものとして取り扱うことにすると、S/M制御部221の伝達関数G(z−1)は、次式(15)のように表すことができる。
【0036】
(z−1) = K(z−1)/(1−z−1)  …(15)
(D)前記むだ時間補償器222の伝達関数の算出について
上述したように、むだ時間補償器222は、スミス法を用いているので、むだ時間補償器222の伝達関数G(z−1)は、次式(16)のように算出できる。
Figure 2004011611
なお、z−1/A(z−1)は、むだ時間がない場合の出力予測であり、z−k/A(z−1)は、むだ時間k経過後の実出力予測である。
【0037】
以上のようにして算出した各伝達関数(プラントモデル、S/M制御部21、むだ時間補償器)を用いてブロック図で示したものが図4である。
(E)システム全体の閉ループ伝達関数W(z−1)の算出について
本実施形態では、上述したようにS/M制御部221の非線形項は含めないものとして、システム全体を閉ループ伝達関数で表す。
【0038】
まず、前記S/M制御部221とむだ時間補償器222の局所フィードバックループを取り出し、目標(目標空燃比λt)から出力(フィードバック制御量)への1つの伝達関数を算出する。図4において、S/M制御部221とむだ時間補償器22とを含む局所フィードバックループの伝達関数GCL(z−1)は、式(15)、(16)より次式(17)のように算出できる。
【0039】
【数7】
Figure 2004011611
従って、プラント及び式(17)に示す局所フィードバックループを含めたシステム全体の閉ループ伝達関数W(z−1)は、次式(18)のように算出できる。
【0040】
【数8】
Figure 2004011611
なお、以上の算出結果を図5に示す。
(F)極配置法による前記S/M制御部221の制御ゲインの算出について
前記閉ループ伝達関数W(z−1)の特性多項式は、式(18)の分母であり、(1これを次式(19)のようにおく。
【0041】
【数9】
Figure 2004011611
このとき、応答性、行き過ぎ量、整定時間等の点から望ましい極(あらかじめ設定した極)となるようなT(z−1)を設定することで、S/M制御部221の各制御ゲインを以下のようにして算出する。
【0042】
式(19)より、次式(20)が得られる。
【0043】
【数10】
Figure 2004011611
ここで、式(13)より、
K(z−1)= (K+K・S+K・S+K)−(K+K・S+2K)z−1+K−2であるので、切換関数線形ゲインS及び切換関数微分ゲインSを1に設定し、線形項線形ゲインK、適応則ゲインK、線形項微分ゲインKを可変パラメータとすれば、次式(21)によう表すことができるから、
【0044】
【数11】
Figure 2004011611
となり、次式(22)〜(24)を得る。
【0045】
【数12】
Figure 2004011611
従って、式(22)〜(24)をK、K、Kについて解き、パラメータa、a、bを用いて表すと、各ゲインは次式(25)〜(27)のように算出できる。
【0046】
【数13】
Figure 2004011611
なお、前記特性多項式T(z−1)=1+t−1+t−2としては、例えば、減衰ζ=0.7、固有角周波数ω=30としたときの二次系の連続時間システム、G(s)=ω / (s+2ζω・s+ω)をサンプル時間Tで離散化したときの伝達関数の分母を用いることが考えられる。
【0047】
そして、このように算出した制御ゲインは、前記S/M制御部221に出力され、S/M制御部221は、かかる制御ゲインを用いてフィードバック制御量αを算出する(式(13)参照)。
以上説明したように、本実施形態においては、燃料噴射弁5から空燃比センサ13までをプラントとし、このプラントに含まれるむだ時間を、吸入空気量Qaのみならず、吸気温度Ta及び大気圧Paについても考慮して算出するので、排気の体積流量の変動に対応させた精度のよいむだ時間を算出できる。
【0048】
そして、プラント入力であるフィードバック制御量(α)と、前記むだ時間k経過後の実出力予測(予測空燃比)と、に基づいて前記プラントを表したプラントモデルを同定するので、プラントモデルの同定精度が向上し、制御の安定性を確保できる。そして、精度よく同定したプラントモデルのパラメータを用いて制御ゲインを算出してフィードバック制御量を算出するので、極配置法によるセルフチューニングコントロールを利用した空燃比フィードバック制御を高精度に実行できる。
【0049】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
(イ)請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の空燃比制御装置において、プラントモデルはARXモデルであり、同定手段は、逐次最小二乗法(RLS法)によりプラントモデルのパラメータを推定することを特徴とする。
【0050】
このようにすれば、プラントモデルの同定を容易かつ高精度に行うことができる。これにより、プラントモデルのパラメータを用いた制御ゲインの算出、更には、フィードバック制御量の算出を高精度に行うことができ、精度のよい空燃比制御を実行できる。
(ロ)請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の空燃比制御装置において、制御ゲイン算出手段は、システム全体を表した伝達関数が、設定された特性を有するようにフィードバック制御量を算出するための制御ゲインを算出することを特徴とする。
【0051】
このようにすれば、プラントの特性変動が変動しても、その変動に対応させた最適制御ゲインを算出することができ、精度のよい空燃比制御が実行できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す内燃機関のシステム図。
【図2】本発明に係る空燃比制御全体を示すブロック図。
【図3】むだ時間算出部225におけるむだ時間算出制御を示す図。
【図4】プラント、S/M制御部221及びむだ時間補償器222を伝達関数で表したブロック図。
【図5】本発明におけるセルフチューニングコントロールを用いたスライディングモード制御による空燃比フィードバック制御全体を示すブロック図。
【符号の説明】
1…エンジン、3…吸入空気量検出手段としてのエアフローメータ、5…燃料噴射手段としての燃料噴射弁、6…むだ時間算出手段、同定手段、制御ゲイン算出手段及びフィードバック制御量算出手段としてのコントロールユニット(C/U)、13…空燃比検出手段としての空燃比センサ、14…クランク角センサ、16…吸気温度検出手段としての吸気温度センサ、17…大気圧検出手段としての大気圧センサ

Claims (3)

  1. 実空燃比を空燃比検出手段により検出し、空燃比を目標空燃比にフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置であって、
    吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
    吸気温度を検出する吸気温度検出手段と、
    大気圧を検出する大気圧検出手段と、
    吸入空気量、吸気温度及び大気圧に基づいて、燃料噴射手段から前記空燃比検出手段までのプラントに含まれるむだ時間を算出するむだ時間算出手段と、
    前記プラントを表したプラントモデルを、前記燃料噴射手段の制御量と前記むだ時間経過後の空燃比とに基づいて同定する同定手段と、
    同定したプラントモデルのパラメータを用いて前記燃料噴射手段のフィードバック制御量を算出するための制御ゲインを算出する制御ゲイン算出手段と、
    算出された制御ゲインを用いて前記フィードバック制御量を算出するフィードバック制御量算出手段と、
    を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
  2. 前記むだ時間算出手段は、吸入空気量に基づいてむだ時間基本値を算出し、このむだ時間基本値を吸気温度及び大気圧に応じて補正して前記プラントに含まれるむだ時間を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  3. 前記むだ時間算出手段は、吸気温度が高いほどむだ時間を小さく算出し、大気圧が低いほどむだ時間を小さく算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の内燃機関の空燃比制御装置。
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