JP2004002439A - 天然PrPSc特異的抗体 - Google Patents
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Abstract
【課題】プリオンは、ヒトおよび動物の中枢神経系海綿状脳症の原因となる感染性病原体である。本発明は、プリオン蛋白質の自然発生型のスクレイピーアイソフォーム(PrPSc)と特異的に結合する抗体を入手するための方法、および試料中のPrPScの検出に抗体を用いるための方法に関する。
【解決手段】1つの重要な目的は、天然のプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する抗体を提供することである。
【選択図】 なし
【解決手段】1つの重要な目的は、天然のプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する抗体を提供することである。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
発明の分野
本発明は、抗体を入手するための方法、および該抗体を使用するためのアッセイに関する。より具体的には、本発明は、天然発生型のPrPScと特異的に結合する抗体を入手するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
発明の背景
プリオンは、ヒトおよび動物において中枢神経系の海綿状脳症を引き起こす感染性病原体である。プリオンは、細菌、ウイルスおよびウイロイドとは異なる。現在の有力な仮説は、プリオン蛋白質の感染性には核酸成分は必要でないというものである。さらに、1つの種の動物(例えばヒト)を感染させるプリオンは、別の種(例えばマウス)を感染させないと考えられる。
【0003】
プリオンおよびこれによって引き起こされる疾患の研究における重要な段階は、プリオン蛋白質(「PrP」)と命名された蛋白質の発見および精製であった[Boltonら、Science 218:1309〜11(1982);Prusinerら、Biochemistry 21:6942〜50(1982);McKinleyら、Cell 35:57〜62(1983)]。その後、プリオン蛋白質をコードする完全な遺伝子のクローニング、塩基配列決定、およびトランスジェニック動物における発現がなされた。PrPcは単一コピーの宿主遺伝子によってコードされ[Baslerら、Cell 46:417〜28(1986)]、通常は神経細胞の外表面に認められる。プリオン病は、PrPcがPrPScと呼ばれる変異型に変換されることによって起こる。しかし、PrPcの実際の生物学的または生理学的な機能は不明である。
【0004】
動物およびヒトの伝染性神経変性疾患の伝染および発病にはいずれもプリオン蛋白質(PrPSc)のスクレイピー型アイソフォームが必要である。これについては、プルシナー(Prusiner, S.B)、「プリオン病の分子生物学(Molecular biology of Prion Disease)」、Science、252:1515〜1522(1991)を参照されたい。動物で最も頻度の高いプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクレイピー、ならびにウシの牛海綿状脳症(BSE)である[Wilesmith, JおよびWells, Microbiol. Imunol. 172:21〜38(1991)]。ヒトでは以下の4種類のプリオン病が確認されている:(1)クルー、(2)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、(3)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(4)致死性家族性不眠症(FFI)[Gajdusek, D.C., Science 197:943〜960(1977);Medoriら、N. Eng. J. Med. 326:444〜449(1992)]。ヒトのプリオン病が散発性、遺伝性および感染性の疾患として出現する理由は、当初は謎であったが、現在ではPrPの細胞遺伝学的な由来によって説明されている。
【0005】
CJD患者の大部分は散発性であるが、約10〜15%はヒトPrP遺伝子の変異によって生じる常染色体優性遺伝疾患として遺伝する[Hsiaoら、Neurology 40:1820〜1827(1990);Goldfarbら、Science 258:806〜808(1992);Kitamotoら、Proc . R. Soc. Lond.(in press)(1994)]。死体脳下垂体に由来するヒト成長ホルモン、および硬膜移植片に起因する医原性CJDも発生している[Brownら、Lancet 340:24〜27]。CJDと、スクレイピーに感染したヒツジの肉の消費などの感染原因との関係を明らかにするために多くの試みがなされたが、医原的に引き起こされた発症例を除いて、現在までに同定されたものはない[Harries−Jonesら、J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 51:1113〜1119(1988)]。一方、ニューギニア高地に住むフォレ族および近隣種族に数十年にわたって病害をもたらしてきたクルーは、儀式として行われるカニバリズム(人喰い)の際の感染によって蔓延したと考えられている[Alpers, M. P.、神経系の遅発性伝染病( Slow Transmissible Diseases of the Nervous System )、第1巻、S. B. PrusinerおよびW.J. Hadlow編(New York;Academic Oress)、pp. 66〜90(1979)]。
【0006】
CJDの実験用霊長類への一次伝染(initial transmission)には、ウィリアム・ハドロー(William Hadlow)によるクルーとスクレイピーとの類似性の認識にさかのぼる長い歴史がある。1959年にハドローは、クルーが原因で死亡した患者から調製した抽出物を非ヒト霊長類に接種してその動物の観察を続ければ、長期の潜伏期の後に本症を発病することが予想されると提唱した[Hadlow, W.J., Lancet 2:289〜290(1959)]。7年後に、ガジュセック(Gajdusek)、ギブス(Gibbs)およびアルパース(Alpers)は、クルーにチンパンジーへの伝染性があり、潜伏期が接種後18〜21カ月であることを示した[Gajdusekら、Nature 209:794〜796(1966)]。クルーの神経病理学的所見とCJDのそれとの類似性[Klatzoら、Lab Invest. 8:799〜847(1959)]が契機となり、後者にもチンパンジーを用いた類似の実験が行われ、CJDも伝染することが1968年に報告された[Gibbs, Jr.ら、Science 161:388〜389(1968)]。過去25年の間に、CJD、クルーおよびGSSの約300症例がさまざまな無尾猿および有尾猿(apes and monkeys)へ伝染している。
【0007】
このような実験に伴う高額の出費、動物数の不足、およびしばしば指摘される非人道性などは、この種の研究を制約しており、このため、知識の蓄積の妨げとなっている。最も信頼性の高い伝染データは非ヒト霊長類を用いた試験によって得られるとの指摘は以前からあるが、ヒトプリオン病の症例の一部は、明らかに規則性には欠けるものの、齧歯類にも伝染している[Gibbs, Jr.ら、神経系の遅発性伝染病( Slow Transmissible Diseases of the Nervous System )、第2巻、S. B. PrusinerおよびW.J. Hadlow編(New York;Academic Oress)、pp. 87〜110(1979);Takeishiら、ヒトおよび動物のプリオン病( Prion Diseases of Humans and Animals )、Prusinerら編(London:Ellis Horwood)、pp. 129〜134(1992)]。
【0008】
パッチソン(Pattison)は、ヒツジと齧歯類との間のスクレイピー病原体の移行に関する研究の中で、ヒトプリオン病の齧歯類への伝染が稀であることを「種間障壁」の例として挙げている[Pattison, I.H., NINDB Monograph 2, D.C. Gajdusek, C.J., Gibbs, Jr.およびM.P. Alpers編(Washington, D.C.: U.S. Government Printing)、pp. 249〜257(1965)]。以上の調査では、プリオンの1つの種から他の種への一次的移行には長期の潜伏期が必要であり、また発症に至る動物は稀であった。一方、同一種における二次的移行は、すべての動物が発症し、潜伏期間も著しく短いことが特徴である。
【0009】
シリアンハムスター(SHa)とマウスとの間にみられる種間障壁の分子的基盤はPrP遺伝子の配列にあることが、トランスジェニック(Tg)マウスを用いて示されている[Scottら、Cell 59:847〜857(1989)]。SHaPrPとMoPrPとは、254アミノ酸残基のうち16カ所が異なる[Baslerら、Cell 46:417〜428(1986);Lochtら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:6372〜6376(1986)]。SHaPrPを発現しているTg(SHaPrP)マウスでは、SHaプリオンを接種した際の潜伏期に短縮が認められる。ヒトまたはヒツジPrPの導入遺伝子を発現したマウスで同じような試験を行った場合には種間障壁は解消されず、感染した動物の比率は極めて低く、潜伏期も極めて長い。したがって、例えばヒトプリオンの場合には、何らかの試料がプリオンに感染しているか否かを判定するために試料を確実に試験することを目的として、トランスジェニック動物(別の種のPrP遺伝子を含むマウスなど)を用いることはできない。このような試験が存在しないことによる健康上のリスクの重大性は以下に例示する。
【0010】
ヒト脳下垂体に由来するHGHを投与された後にCJDを発症した若年成人の数は45例を上回る[Kochら、N. Eng. J. Med. 313:731〜733(1985);Brownら、Lancet 340:24〜27(1992);Fradkinら、JAMA 265:880〜884(1991);Buchananら、Br. Med.J. 302:824〜828(1991)]。幸いなことに今日では組換えHGHが用いられているが、HGHの高値によって誘発されるwtPrPcの発現の増強がプリオン病の発病を引き起こす可能性がわずかながらあることも指摘されている[Lasmezasら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 196:1163〜1169(1993)]。脳下垂体から調製されたHGHがプリオンによって汚染されていることは、疑いのあるロットのHGHを接種されたサルが66カ月後にプリオン病を発症したことからも裏づけられている[Gibbs, Jr.ら、N. Eng. J. Med. 328:358〜359(1993)]。プリオン病の潜伏期が長いことから、医原性CJDの全容が明らかになるには何十年もかかり、その間に世界中の多数の人々がHGHを投与された。医原性CJDは、ヒト脳下垂体由来の性腺刺激ホルモンを投与された不妊症の女性4例[Healyら、Br. J. Med. 307:517〜518(1993);Cochiusら、Aust. N.Z. J. Med. 20:592〜593(1990);Cochiusら、J. Neurosurg. Psychiatry 55:1094〜1095(1992)]のほか、硬膜移植を受けた少なくとも11例に発症したとみられている[Nisbetら、J. Am. Med. Assoc. 261:1118(1989);Thadaniら、J. Neurosurg. 69:766〜769(1988);Willsonら、J. Neurosurg. Psychiatric 54:940(1991);Brownら、Lancet 340:24〜27(1992)]。このような医原性CJDの症例の存在は、プリオンによって汚染された可能性のある医薬品に対するスクリーニングの必要性を強調するものである。
【0011】
最近、フランスの2人の医師が、死体から抽出した成長ホルモンを投与された小児に対する過失致死の罪で告発された。この小児はクロイツフェルト・ヤコブ病を発症した。(New Sciensist, July 31, 1993, 4ページを参照)。パスツール研究所(Pasteur Institute)によれば、1983年から1985年中期までにヒト成長ホルモンを投与された若年者におけるCJDの発症例は1989年以来24例報告されている。これらの小児の15例はすでに死亡した。現在では、死体から抽出した成長ホルモンを投与されたフランスの小児数百人がCJDを発病する危険にさらされていると考えられる(New Sciensist, November 20, 1993, 10ページ参照)。PrPモノクローナル抗体を作出しようという今までの試みは、失敗に終わっている(BarryおよびPrusiner, J. Infectious Diseases Vol. 154, No.3, 518〜521(1986)参照)。したがって、疾患の原因となる化合物を検出するための解析法が必要である。特に、CJDの原因となるプリオンが試料材料中に存在するか否かを試験するための簡便で費用効果の高い解析系に対する必要性が明らかに存在する。本発明はこのような解析法を提供するものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
発明の概要
本発明の抗体は、インサイチューで、天然のプリオン蛋白質(すなわち、天然のPrPSc)と高度の結合親和性を示して特異的に結合すると考えられる。本抗体は、ある基質の上に配置し、ある試料に関して、その試料が病原型のプリオン蛋白質を含むか否かを判定するためのアッセイに用いることができる。本抗体は、以下の特徴の1つまたはそれ以上を特徴とする:(1)感染性プリオンを中和する能力、(2)インサイチューでプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する、すなわち細胞培養物中またはインビボで、プリオン蛋白質の処理(例えば変性させる)を要せずに天然型のプリオン蛋白質と結合する、および(3)組成物中のPrPSc型(すなわち疾患型)プリオン蛋白質の高い比率と結合する、例えばPrPSc型プリオン蛋白質の50%またはそれ以上と結合する。好ましい抗体は、さらに(4)特定の種の哺乳動物のみのプリオン蛋白質と結合する、例えばヒトプリオン蛋白質とは結合するがその他の哺乳動物のプリオン蛋白質とは結合しない、という能力を特徴とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
1つの重要な目的は、天然のプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する抗体を提供することである。
【0014】
もう1つの目的は、特定の種の動物のプリオン蛋白質(PrPSc)のエピトープと特異的に結合し、その他の種の動物のプリオン蛋白質(PrPSc)とは結合しない抗体を提供することである。
【0015】
もう1つの目的は、疾患に関連したプリオン蛋白質(PrPSc)(例えばヒトPrPScなど)と特異的に結合し、疾患に関連しない変性PrP蛋白質(例えばヒトPrPC)とは結合しないモノクローナル抗体を提供することである。
【0016】
さらにもう1つの目的は、1つまたはそれ以上の種の動物に由来する1つまたはそれ以上の種類のプリオン蛋白質と結合する能力を特徴とするさまざまな特異的抗体の作製を可能とするための具体的な方法を提供することである。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、PrPSc型のPrP蛋白質を検出するためのアッセイを提供することである。
【0018】
本発明のもう1つの目的は、疾患に関連したプリオン蛋白質(PrPSc)と疾患に関連しないPrPCとの区別を可能とするためのアッセイを提供することである。
【0019】
もう1つの目的は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコまたはニワトリなどの特定の種の天然のPrPScと特異的に結合するプリオンを検出することである。
【0020】
本発明の1つの利点は、ある試料における天然のPrPScの存在を検出するための、迅速で、効率的で、経済的なアッセイが提供されることである。
1つの明確な利点は、本アッセイを、該プリオンを含む可能性がある医薬品(天然の供給源に由来するもの)、食品、化粧品または任意の材料などの製品におけるプリオン(すなわちPrPSc)の有無に関するスクリーニング法として用いることができ、これによって、この種の製品の安全性に関するさらなる保証が提供されることである。
もう1つの利点は、PrPCを変性させるプロテアーゼとともに本抗体を用いることができ、それによって感染型(PrPSc)プリオンと非感染型(PrPC)プリオンとを区別するための手段が提供されることである。
本発明のさらにもう1つの利点は、本発明の抗体が、例えばPrPScを中和するなど、天然型のプリオンの感染性を中和する能力によって特徴づけられることである。
もう1つの利点は、本発明の抗体が、インサイチューで(PrPSc)プリオン蛋白質と結合する、すなわち細胞培養物またはインビボにおいて、プリオン蛋白質を特別に処理、単離または変性させなくとも自然な状態の天然型の(PrPSc)プリオンと結合すると考えられることである。
もう1つの利点は、本発明のプリオン蛋白質が、感染型のプリオン蛋白質(例えばPrPSc)の比較的高い割合と結合する、例えば組成物中のPrPSc型プリオン蛋白質の50%またはそれ以上と結合すると考えられることである。
【0021】
本発明の1つの重要な特徴は、本方法によって、抗体を(1)製品を精製するためのプリオンの中和、(2)プリオン蛋白質の抽出、および(3)治療法、などの用途に特に適合させる、同一または個々に操作された特徴を有する、さまざまに異なる種類のプリオン蛋白質抗体を作製することが可能となることである。
【0022】
本発明の1つの特徴は、抗体の作製にファージディスプレイライブラリーを用いることである。
【0023】
本発明のもう1つの特徴は、ファージに対して、その表面に抗体の特異的結合蛋白質が発現されるよう遺伝的操作を加えることである。
【0024】
本発明の上記ならびにその他の目的、利点および特徴は、以下により完全に詳述するキメラ型遺伝子、アッセイ法およびトランスジェニックマウスに関する詳細を読むことによって当業者には明らかになると思われる。
【0025】
【発明の実施の形態】
好ましい態様の詳細な説明
本発明の抗体、解析法およびその使用を提供する方法を開示し説明する前に、本発明が、特定の抗体、解析法または方法に制限されるものではなく、それらは当然ながら変更がありうることが理解される必要がある。また、本明細書で用いる用語は特定の態様のみを説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、それは添付した請求の範囲によってのみ制限されることも理解される必要がある。
別に特記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同一の意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書に記載したものと同様または同等の任意の材料および方法を利用することができるが、好ましい方法および材料は以下に記載する。本明細書に記載した刊行物はすべて、その文献に関して引用される方法および/または材料を説明または開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0026】
「PrP蛋白質」「PrP」などの用語は、本明細書では互換可能に用いられ、ヒトおよび動物における疾患(海綿状脳症)を引き起こすことが知られている感染性粒子型PrPSc、および適切な条件下で感染性PrPSc型に変換される非感染型のPrPCの両方を意味するものとする。
【0027】
「プリオン」、「プリオン蛋白質、および「PrPSc蛋白質」などの用語は、本明細書では互換可能に用いられ、PrP蛋白質の感染性PrPSc型を意味し、「蛋白質(protein)」および「感染(infection)」の2つの単語をつなげて短縮したものであり、その全体ではないが大部分がPrP遺伝子によってコードされるPrPSc分子を含む。プリオンは、細菌、ウイルスおよびウイロイドとは異なる。既知のプリオンには、動物を感染させて、ヒツジおよびヤギの神経系の伝染性変性疾患であるスクレイピーのほか、別名狂牛病と呼ばれるウシ海綿状脳症(BSE)およびネコのネコ海綿状脳症を引き起こすものがある。ヒトが罹患するプリオン病としては、(1)クルー、(2)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、(3)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(4)致死性家族性不眠症(FFI)の4種類が知られている。本明細書で用いられるプリオンには、以上の疾患のすべてもしくは任意の1つ、または用いられる任意の動物、特にヒトおよび家畜における他の疾患を引き起こすすべての型のプリオンが含まれる。
【0028】
「PrP遺伝子」という用語は、本明細書では、図2〜5に示した蛋白質ならびに本明細書に「病原性の変異および多型」との小見出しを付けて一覧を示したものなどの多型物および変異物を発現する遺伝的材料を説明するために用いられる。「PrP遺伝子」という用語は一般に、任意の型のプリオン蛋白質をコードする任意の種の任意の遺伝子を意味する。一般的に知られたいくつかのPrP配列は、ガブリエル(Gabriel)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)に記載されており、この文献はこのような配列を開示および説明するために参照として本明細書に組み入れられる。PrP遺伝子は、本明細書で説明する「宿主」および「被験」動物を含む任意の動物、ならびにそのいずれかおよびすべての多型および変異から得ることができ、この用語は、まだ発見されていないその他のこのようなPrP遺伝子も含むことが認識される必要がある。このような遺伝子によって発現される蛋白質は、PrPC(非疾患型)またはPrPSc(疾患型)のいずれかの型であると想定される。
【0029】
「標準化プリオン調製物」「プリオン調製物」「調製物」などの用語は、例えばプリオン病の徴候を呈する1組の哺乳動物からの脳組織などであって、その哺乳動物が、(1)本明細書に記載の導入遺伝子を含む、(2)除去された内因性PrP遺伝子を有する、(3)遺伝的に異なる種からのPrP遺伝子の多数のコピーを有する、または(4)除去された内因性PrP遺伝子と遺伝的に異なる種からのPrP遺伝子との雑種であるような、PrPプリオンに関連したものと実質的に同じ遺伝的材料を含む哺乳動物の脳組織から得られる、プリオン含有組成物を説明するために、本明細書では互換可能に用いられる。標準化プリオン調製物を得るための哺乳動物は、プリオンの接種の結果として、および/または例えば多数のコピーのPrP遺伝子などの遺伝的に改変された構成に起因する疾患の発症のために、CNS機能障害の臨床徴候を呈する。
【0030】
「人工的なPrP遺伝子」という用語は、本明細書において、「キメラ型PrP遺伝子」のほか、宿主動物(マウスなど)のゲノムに含められた際に、例えばヒト、ウシまたはヒツジなどの遺伝的に異なる被験動物のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性をその哺乳動物が獲得するような、組換えによって構築されたその他の遺伝子も包含するために用いられる。一般に、人工的な遺伝子には、異なるコドン、好ましくは遺伝的に異なる哺乳動物(ヒトなど)の対応するコドンとの置換によって天然の配列の1つまたはそれ以上(しかし全体ではなく、一般的には40個未満)のコドンが遺伝的に改変されている哺乳動物のPrP遺伝子のコドン配列が含まれる。遺伝的に改変された哺乳動物は、遺伝的に異なる哺乳動物のみを感染させるプリオンに関して試料を解析するために用いられる。人工的な遺伝子の実例は、マウスのすべてのコドンがヒト、ウシまたはヒツジの異なるコドンによって置換されてはいないという条件の下で、図2、3、および4に示した通りのマウスのコドンの同じ相対的位置が、図に示したヒト、ウシおよびヒツジのコドンから選択された1つまたはそれ以上のコドンによって異なる形に置換された配列をコードするマウスPrP遺伝子である。人工的なPrP遺伝子は、遺伝的に異なる動物のコドンを含むだけでなく、天然のPrP遺伝子とは関連しないもののそれが動物に挿入されると通常は遺伝的に異なる動物のみを感染させるプリオンに対する感染性が該動物に付与されるようなコドンおよびコドン配列も含まれる。
【0031】
「キメラ型遺伝子」「キメラ型PrP遺伝子」「キメラ型プリオン蛋白質遺伝子」などの用語は、1つまたはそれ以上のコドンがヒト、ウシまたはヒツジなどの遺伝的に異なる被験動物からの対応するコドンによって置換された、マウスなどの宿主動物のコドンを含む人工的に構築された遺伝子を意味するために、本明細書では互換可能に用いられる。1つの特殊な例においては、キメラ型遺伝子は、宿主動物種(マウスなど)となる哺乳動物のPrP遺伝子の開始配列および終止配列(すなわち、N末端コドンおよびC末端コドン)を含み、また第2の種(ヒトなど)の被験哺乳動物のPrP遺伝子の対応部分のヌクレオチド配列も含む。キメラ型遺伝子を、宿主の種となる哺乳動物のゲノムに挿入すると、第2の種の哺乳動物のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性が哺乳動物に付与される。本明細書で開示する好ましいキメラ型遺伝子は、マウスPrP遺伝子の開始および終止配列、ならびにそれによって発現する蛋白質に9残基の相違が生じるような様式でマウスPrP遺伝子とは異なる対応するヒト配列によって置換された非末端配列領域を含むMHu2Mである。
【0032】
「プリオンに関連した遺伝的材料」という用語は、プリオンに感染する動物の能力に影響を及ぼす任意の遺伝的材料を包含するものである。したがって、この用語は「PrP遺伝子」「人工的なPrP遺伝子」「キメラ型PrP遺伝子」または「除去されたPrP遺伝子」の任意のものを包含し、本明細書ではプリオンに感染する動物の能力に影響を及ぼすそれらの改変とも定義される。標準化プリオン調製物は、動物のすべてが同一型のプリオンに感染しほぼ同時に感染の徴候を呈するように、そのすべてがプリオンに関連した実質的に同一な遺伝的材料を有する動物を用いて作製される。
【0033】
「宿主動物」および「宿主哺乳動物」という用語は、その動物の体内に通常は存在しない遺伝的材料を含むように、そのゲノムを遺伝学的および人工的に操作された動物を説明するために用いられる。例えば、宿主動物には、そのPrP遺伝子が除去された、すなわち非機能的遺伝子が付与されたマウス、ハムスターおよびラットが含まれる。宿主は、抗体を産生させるためにプリオン蛋白質を接種される。抗体を産生する細胞は、ファージライブラリーを作出するための遺伝的材料の供給源である。その他の宿主動物は、天然の(PrP)遺伝子を有すると考えられる動物、または人工的遺伝子の挿入によってもしくは遺伝的に異なる被験動物の天然のPrP遺伝子の挿入によって、改変された動である。
【0034】
「被験動物」および「被験哺乳動物」という用語は、宿主動物のPrP遺伝子と被験動物のPrP遺伝子との間に相違があるという点で宿主動物と遺伝的に異なる動物を説明するために用いられる。被験動物は、それに対する感染性を被験動物が一般に有するようなプリオンが任意の試料に含まれているか否かを判定するための解析試験を実施したいと考える対象となる任意の動物であってよい。例えば、被験動物は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌまたはニワトリであってもよく、その被験動物のみを通常は感染させるプリオンが特定の試料に含まれるか否かを判定することができる。
【0035】
「遺伝的に異なる動物」および「遺伝的に異なる哺乳動物」という用語は、宿主動物の天然のPrPコドン配列と遺伝的に異なる被験動物との相違点が、17個またはそれ以上のコドン、好ましくは20またはそれ以上のコドン、最も好ましくは28〜40コドンであるような動物を説明するために用いられる。したがって、マウスのPrP遺伝子は、ヒト、ウシまたはヒツジのPrP遺伝子に関しては遺伝的に異なるが、ハムスターのPrP遺伝子に関しては遺伝的に異なっていない。
【0036】
「除去されたプリオン蛋白質遺伝子」「破壊されたPrP遺伝子」などの用語は、その遺伝子の機能を失わせるような様式で改変された(例えば、ヌクレオチドの付加および/または除去)、内因性のPrP遺伝子を意味する目的で本明細書では互換可能に用いられる。非機能的なPrP遺伝子の実例およびそうしたものを作成する方法は、「ビューラー(Bueler), H.ら、「神経細胞表面PrP蛋白質を欠失したマウスの正常発達(Normal development of mice lacking the neuronal cell−surface PrP protein)」、Nature 356、577〜582(1992)」およびウェイスマン(Weisman)の国際公開公報第93/10227号に記載されている。遺伝子を除去する方法は、「カペチ(Capecchi)、Cell 51:503〜512(1987)」に開示されており、これらの文献はすべて参照として本明細書に組み入れられる。好ましくは、2つの対立遺伝子はいずれも破壊される。
【0037】
「雑種動物」「トランスジェニック雑種動物」などの用語は、除去された内因性のプリオン蛋白質遺伝子を有する第1の動物と、(1)キメラ型遺伝子もしくは人工的なPrP遺伝子、または(2)遺伝的に異なる動物のPrP遺伝子のいずれかを含む第2の動物との交雑によって得られる動物を意味する目的で、本明細書では互換可能に用いられる。例えば、雑種マウスは、マウスPrP遺伝子が除去されたマウスと、(1)ヒトPrP遺伝子(これは多数のコピーが存在してもよい)または(2)キメラ型遺伝子を含むマウスとの交雑によって得られる。雑種という用語には、結果として得られる子孫が、遺伝的に異なる種のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性を有するものであれば、2つの雑種の同系交配による子孫を含む任意の雑種の子孫が含まれる。雑種動物は、プリオンを接種し、本発明のモノクローナル抗体を産生させるハイブリドーマの作製のための細胞の供給源として用いることができる。
【0038】
「感染性を有する」「プリオンに対する感染性を有する」などの用語は、遺伝的に異なる被験動物のみを通常は感染させるプリオンを接種した場合に疾病を発症するようなトランスジェニック被験動物または雑種被験動物を説明するために、本明細書では互換可能に用いられる。この用語は、キメラ型PrP遺伝子が存在しなければヒトプリオンに感染しないと考えられるものの、キメラ型遺伝子が存在する場合にはヒトプリオンに対する感染性を有するような、トランスジェニックマウスTg(MHu2M)などのトランスジェニック動物または雑種動物を説明するために用いられる。
【0039】
「抗体」とは、ある抗原と結合する能力を持つ免疫グロブリン蛋白質を意味する。本明細書で用いるような抗体には、抗体全体のほかに、関心対象のエピトープ、抗原または抗原性断片と結合しうる任意の抗体断片も含まれる(例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv)。
【0040】
本発明の抗体は、PrPSc蛋白質に対する免疫反応性または免疫特異性を有し、このため、それと特異的および選択的に結合する。自然または天然のPrPScに対する免疫反応性または免疫特異性を有する抗体が好ましい。PrPScに対する抗体は、好ましくは免疫特異的であり、すなわち関連した材料との交差反応性を実質的に持たない。「抗体」という用語は、すべての種類の抗体(例えばモノクローナル抗体)を包含するが、本発明の抗体は、好ましくは本明細書に記載するファージディスプレイ法を用いて産生される。
【0041】
「精製抗体」とは、天然の状態で付随しているその他の蛋白質、炭水化物および脂質を実質的に含まないものを意味する。このような抗体は、天然のPrPSc蛋白質(またはその抗原性断片)と「優先的に結合する」、すなわち、抗原性に関連のないその他の分子を実質的に認識せず結合しない。本発明の精製された抗体は、好ましくは特定の種のPrPSc蛋白質に対する免疫反応性および免疫特異性を有し、より好ましくは天然のヒトPrPScに対して免疫特異的である。
【0042】
PrP蛋白質の「抗原性断片」とは、本発明の抗体と結合する能力を持つような蛋白質の部分を意味する。
【0043】
「特異的に結合する」とは、特定のポリペプチド、すなわちPrPSc蛋白質のエピトープに対する抗体の高いアビディティおよび/または高親和性結合を意味する。この特定のポリペプチド上のエピトープに対する抗体の結合は、好ましくは任意のその他のエピトープ、特に関心対象の特定のポリペプチドに付随する分子、または同一試料中にある分子中に存在すると思われるものに対する同一抗体の結合よりも強く、例えば抗体がほぼ独占的にPrPScと結合してPrPScの変性断片とは結合しないような結合条件に調整することによって、PrPCの変性断片よりもPrPScとより強く結合する。関心対象のポリペプチドと特異的に結合する抗体は、その他のポリペプチドと弱いが検出可能なレベル(例えば、関心対象のポリペプチドに関して示された結合の10%またはそれ未満)で結合してもよい。このような弱い結合、またはバックグラウンド結合(background binding)は、関心対象の化合物またはポリペプチドに対する特異的抗体の結合により、例えば適切な対照を用いることによって容易に区別可能である。一般に、インサイチューで107mol/lまたはそれ以上、好ましくは108mol/lまたはそれ以上の結合親和性で天然のPrPScと結合する本発明の抗体は、PrPScと特異的に結合するといわれている。一般に、106mol/lまたはそれ未満の結合親和性を有する抗体は、現在用いられている従来の方法を用いた場合に検出可能なレベルで抗原と結合しないと思われるため、有用でない。
【0044】
「検出可能な標識がなされた抗体」「検出可能な標識がなされた抗PrP」または「検出可能な標識がなされた抗PrP断片」とは、検出可能な標識が結合された抗体(または結合特異性を保持している抗体断片)を意味する。検出可能な標識は、通常は化学結合によって結合させられるが、標識がポリペプチドである場合には、代わりに遺伝子操作法によって結合させてもよい。検出可能な標識がなされた蛋白質を生産するための方法は、当技術分野では周知である。検出可能な標識は、当技術分野で周知のさまざまなこの種の標識から選択してよいが、通常は、放射性同位体、発蛍光団(fluorophore)、常磁性標識、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、または検出可能な信号(例えば、放射能、蛍光、発色)を発するかもしくはその基質に標識を曝露した後に検出可能な信号を発するその他の成分もしくは化合物である。さまざまな検出可能な標識/基質の対(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ/ジアミノベンジジン、アビジン/ストレプトアビジン、ルシフェラーゼ/ルシフェリン)、抗体を標識するための方法、および標識された抗体を用いるための方法は、当技術分野では周知である(例えば、HarlowおよびLane編、(抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)(1988)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)を参照のこと)。
【0045】
「処理」「処理する」などの用語は、本明細書では一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。この効果は、ある疾患もしくその症状を完全または部分的に防止する点で予防的であってもよく、ならびに/またはある疾患および/もしくはその疾患に起因する有害効果を部分的または完全に治癒させる点で治療的であってもよい。本明細書で用いられる「処理」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患に対するあらゆる処理を範囲に含んでいて、
(a)その疾患を発症しやすいと考えられるがまだその疾患を有するとは診断されていない対象における疾患の発症の防止、
(b)疾患の抑制、すなわちその進展を停止させること、または
(c)疾患の緩和、すなわち疾患の緩解をもたらすこと、を含む。本発明は、感染性プリオンを有する患者に対する処理を目的としており、特に、PrPScの感染によってウシ海綿状脳症、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症またはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病などの中枢神経系疾患に罹患したヒトに対する処理を目的としている。
【0046】
本明細書で用いる略号には以下のものが含まれる:
CNSは中枢神経系、
BSEはウシ海綿状脳症、
CJDはクロイツフェルト・ヤコブ病、
FFIは致死性家族性不眠症、
GSSはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、
Huはヒト、
HuPrPはヒトプリオン蛋白質、
Moはマウス、
MoPrPはマウスプリオン蛋白質、
SHaはシリアンハムスター
SHaPrPはシリアンハムスタープリオン蛋白質、
Tgはトランスジェニック、
Tg(SHaPrP)はシリアンハムスターのPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(HuPrP)は完全なヒトPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(ShePrP)は完全なヒツジPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(BovPrP)は完全なウシPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
PrPScはプリオン蛋白質のスクレイピー型アイソフォーム、
PrPCはプリオン蛋白質の細胞含有性の共通で、一般的アイソフォーム、
MoPrPScはマウスプリオン蛋白質のスクレイピー型アイソフォーム、
MHu2Mは、マウスPrP遺伝子のある領域が、マウスPrPと9コドン異なる対応したヒト配列によって置換されているキメラ型のマウス/ヒトPrP遺伝子、
Tg(MHu2M)マウスは、キメラ型MHu2M遺伝子を含む本発明のトランスジェニックマウス、
MHu2MPrPScは、キメラ型ヒト/マウスPrP遺伝子のスクレイピー型アイソフォーム、
PrPCJDはPrP遺伝子のCJD型アイソフォーム、
Prn−p0/0は、MoPrP遺伝子などの内因性のプリオン蛋白質遺伝子の両方の対立遺伝子の除去を示し、
Tg(SHaPrP+/o)81/Prn−p0/0は、SHaPrPを発現するトランスジェニックマウスの特定の系統(81)であり、+/oはヘテロ接合体であることを示し、
Tg(HuPrP)/Prnp0/0は、ヒトプリオン蛋白質遺伝子(HuPrP)を有するマウスと、内因性のプリオン蛋白質遺伝子の2つの対立遺伝子が破壊されたマウスとの交雑によって得られた雑種マウス、
Tg(MHu2M)/Prnp0/0は、キメラ型プリオン蛋白質遺伝子(MHu2M)を有するマウスと、内因性のプリオン蛋白質遺伝子の2つの対立遺伝子が破壊されたマウスとの交雑によって得られた雑種マウスを示す。
【0047】
FVBは、FVBマウスの卵は比較的大きく外因性DNAのマイクロインジェクションに対する耐性が比較的高いため、トランスジェニックマウスの作出にしばしば用いられる標準的な同系交配系統のマウスである。
【0048】
本発明の一般的な局面
本発明の核心は、PrPSc蛋白質と特異的に結合し、好ましくはインサイチューで単一の種の(例えばヒトの)天然の非変性PrPSc蛋白質と、107mol/lまたはそれ以上、好ましくは108mol/lまたはそれ以上の親和性で結合し、さらに好ましくはヒトPrPScのみと結合してヒトPrPCの変性断片とは結合しない抗体である。本抗体は、PrP蛋白質遺伝子のさまざまな変異体および/または多型物によってコードされるすべての蛋白質と結合してもよい。または、その一連の各抗体がPrP遺伝子の異なる変異体または多型物によってコードされる蛋白質と特異的に結合する、一連の抗体(2種またはそれ以上の異なる抗体)が提供される。本抗体は支持体表面と結合させて、特定の型のヒトPrPScの有無に関するインビトロでの試料のアッセイのために用いることができる。また、本抗体を検出可能な標識と結合させて、特定の型の天然型PrPScの有無に関するインビボでのアッセイのために動物に注入することもできる。
【0049】
あらゆる任意の抗原から抗体を作製する諸手順が知られているが、例えばPrPScなどの特定の蛋白質と結合する抗体を作製することは特に困難であることが、これまでの実践によって明らかにされている。PrPScに対する抗体を得ることに伴う難しさは、一部には、それが特殊および未知の性質を持つことに関係している。本明細書に記載する手順に従うことによってインサイチューで天然のPrPScと結合する抗体が得られており、本明細書に記載された手順に従うことにより、PrPScおよび抗体の作製が困難なその他の蛋白質に対するその他の抗体を得ることができる。
【0050】
本発明の抗体を生産するためには、宿主哺乳動物に対するプリオン蛋白質、すなわち感染性PrPScの接種から始めることが好ましい。宿主哺乳動物は任意の哺乳動物であってよく、好ましくは本明細書で定めるマウス、ラット、モルモットまたはハムスターなどの種類の宿主哺乳動物であり、最も好ましくはマウスである。宿主動物には、好ましくは遺伝的に異なる種である別の種にとって内因性であるプリオン蛋白質が接種される。例えば、マウスにヒトプリオン蛋白質が接種される。好ましくは、この宿主哺乳動物には、遺伝的に異なる哺乳動物種の感染性プリオン蛋白質が接種される。例えば、マウスにヒトPrPScが接種される。この様式で正常な宿主哺乳動物を用いた場合でも、一部の抗体を作製することは可能である。しかし、宿主動物がプリオン蛋白質の遺伝子を有しており、遺伝的に異なる種に由来するプリオンを接種された場合には、抗体としては、たとえそれが生じたとしても、宿主動物のプリオン蛋白質のエピトープと遺伝的に異なる種のエピトープとの間に相違点があるエピトープに関するもののみが生じると思われる。これは実質的に、生じる可能性のある抗体の量を制限し、感染型のプリオン蛋白質と選択的に結合するが非感染型の変性断片とは結合しない抗体を見いだす能力を低下させる。このため、異なる種のプリオン蛋白質同士を区別する抗体を作製しようと試みていないのであれば、抗体作製過程を、除去された(ablated)プリオン蛋白質遺伝子、すなわち、Prnp0/0と略記するヌル(null)PrP遺伝子を有する哺乳動物を用いて開始することが好ましい。したがって、本発明は一般にこのような「ヌル」哺乳動物の使用と関連して記載され、特に「ヌルマウス」と関連して記載される。
【0051】
抗体はまず、内因性PrP遺伝子が除去された、すなわちPrP遺伝子が機能しないようにされた宿主動物(例えばマウス)を作出することによって作製される。除去されたPrP遺伝子を有するマウスを「ヌルマウス」と呼ぶ。ヌルマウスは、正常なマウスPrP遺伝子へのDNAの断片の挿入および/または遺伝子の一部の除去によって破壊されたPrP遺伝子を供することで作製することができる。この破壊された遺伝子はマウス胚に注入され、相同組換えを介して内因性PrP遺伝子と置換される。
ヌルマウスには、抗体の形成を促すためにプリオンが接種される。さらに、抗体が最大限に生じるようにアジュバントおよびプリオンの注入が一般に用いられる。
【0052】
続いてこのマウスを屠殺し、骨髄および脾臓の細胞を摘出する。細胞を溶解し、RNAを抽出してcDNAに逆転写させる。続いて、抗体の重鎖および軽鎖(またはその部分)をPCRによって増幅する。増幅されたcDNAライブラリーはそのまま用いてもよく、または、一定の範囲の変異体を作り出し、それによってライブラリーのサイズを大きくするための操作の後に用いてもよい。
【0053】
続いて、1つのベクターが、重鎖の断片をコードするcDNA挿入物をベクターの第1の発現カセット中に含み、軽鎖の断片をコードするcDNA挿入物をベクターの第2の発現カセット中に含むように、IgGの重鎖をコードする増幅されたcDNAおよび軽鎖をコードする増幅されたcDNAをファージディスプレイベクター(例えば、pComb3ベクター)に挿入することによって、IgGファージディスプレイライブラリーを構築する。
【0054】
続いて、当技術分野で周知の方法を用いて、連結されたベクターを繊維状ファージM13にパッケージングする。続いて、ファージ粒子の数を増幅するために、パッケージングがなされたライブラリーを用いて大腸菌の培養物を感染させる。細菌細胞が溶菌を生じた後に、ファージ粒子を単離してパニング手順に用いる。作製されたライブラリーを、プリオンを含む組成物に対してパニングする。続いて、例えばヒトPrPScなどのPrPScと選択的に結合する抗体断片を単離する。
【0055】
PrP 蛋白質の詳細
PrP 27〜30と命名される、精製された感染性プリオンの主要な構成要素は、偏在性の細胞蛋白質であるPrPCの疾患発症性の形態であるより大きな天然蛋白質PrPScの、プロテイナーゼK抵抗性の中核部である。PrPScはスクレイピーに感染した細胞のみに認められるが、PrPCは感染細胞および非感染細胞の両方に存在しており、このことはPrPScが感染性プリオン粒子の唯一ではないとしても主要な構成要素であることを意味する。PrPCおよびPrPScはいずれも同じ単一コピーの遺伝子によってコードされるため、PrPCからPrPScが生じる機序の解明へ向けて多大な努力が払われた。この目標の中心に位置するものは、これらの2つの分子の間の物理的および化学的な差異の特徴を示すことであった。PrPScがPrPCと区別される性質には、溶解度の低さ(Meverら、1986、PNAS)、抗原性の弱さ(Kascack、J. Virol 1987;Serban D. 1990)、プロテアーゼ抵抗性(Oeschら、1985 Cell)、およびPrP 27〜30の、スクレイピーに罹患した脳で認められるPrPアミロイド斑(Prusinerら、Cell 1983)と超微細構造的および組織化学的なレベルで極めて類似したロッド状凝集物への重合化が含まれる。プロテイナーゼKを用いることにより、PrPCは変性させうるが、PrPScは変性させないことが可能である。これまでに、PrPScへの変換をもたらすPrPCにおけるトランジション後化学修飾を同定するためのさまざまな試みがなされたが、結局は失敗に終わった(Stahlら、1993 Biochemistry)。この結果、PrPCおよびPrPScは実際には同一分子の配座異性体(conformational isomer)であると提唱されている。
【0056】
従来の技法を用いてPrPの立体配座を記載することは、溶解度の問題および十分量の純粋な蛋白質を生産する際の困難さが妨げとなっていた。しかし、PrPCおよびPrPScは、立体配座的には異なる。いくつかの種に由来するPrPのアミノ酸配列に基づいた理論的計算では、分子中に4つの推定上のらせん状モチーフが予測されている。実験的な分光学的データからは、PrPCにおけるこれらの領域は事実上β−シートを有しないα−ヘリックス配置をとることが示されている(Panら、PNAS 1993)。これと極めて対照的に、同じ試験ではPrPScおよびPrP 27〜30がアミロイド蛋白質に典型的なβ−シートをかなり高い割合で含むことが明らかになっている。さらに、PrPのアミノ酸残基90〜145に対応する伸長性の合成ペプチドを用いた試験では、これらの切断型の分子が溶解条件を変更することによってα−ヘリックスまたはβ−シート構造のいずれかに変換されると考えられることが示されている。PrPCのPrPScへのトランジションには、それまでα−ヘリックスであった領域がβ−シート構造をとることが必要である。
【0057】
一般に、スクレイピー感染では免疫応答が生じず、宿主生物体は同一種からのPrPScに対する耐性を有する。多量のSHaPrP 27〜30による免疫化を受けた後にウサギではポリクローナル抗PrP抗体が産生されている(Bendheimら、PNAS 1985、Bodeら、J. Gen Virol. 1985)。同様にマウスでも抗PrPモノクローナル抗体がいくつか産生されている(Kascackら、J.Virol. 1987、Barryら、J. Infect. Dis. 1986)。これらの抗体は、SHaおよびヒトに由来する天然のPrPCおよび変性PrPScの両方を同等によく認識する能力を持つが、MoPrPとは結合しない。当然ながら、これらの抗体のエピトープは、SHa−とMoPrPとの間で異なるアミノ酸を含む配列の領域にマッピングされた(Rogersら、J.Immunol. 1993)。
【0058】
上記の部分で引用した刊行物に記載された型の抗体が、PrPCとは結合するが、PrPScとは結合しない理由は完全には明らかになっていない。特定の理論の立場をとらずとも、PrPCの立体配座の中に蛋白質がある場合に露出されるエピトープが、露出されていないか、または蛋白質が比較的非溶解性であって互いにより緊密に折り畳まれているようなPrPScの立体配置の中に一部が隠れているために、このようなことが起こる可能性があることが示唆される。PrPScに対する極めてわずかな結合は起こると思われるため、PrPCと結合するがPrPScとは結合しない抗体という表現は絶対的な意味では正しくない(しかし、一般に受け入れられている意味では正しい)ことが指摘されている。本発明の目的に関して、全く結合が生じないという表現は、平衡定数(equilibrium constant)または結合定数(affinity constant)Kaが106l/molまたはそれ未満であることを意味する。さらに、Kaが107l/molまたはそれ以上、好ましくは108l/molまたはそれ以上である場合には、結合が存在すると認識される。107l/molまたはそれ以上の結合親和性は、(1)単一のモノクローナル抗体(すなわち、1つの種類の抗体が多数ある)、(2)複数の異なるモノクローナル抗体(例えば、5種の異なるモノクローナル抗体のそれぞれが多数ある)、または(3)多数のポリクローナル抗体、によると考えられる。また、(1)〜(3)の併用も可能である。
【0059】
好ましい抗体は、試料中のPrPScの50%またはそれ以上と結合すると思われる。しかし、上記の(1)〜(3)のようないくつかの異なる種類の抗体を用いることによってこれが達成される場合もありうる。異なる抗体の数を増やすことは、単一の抗体を用いた場合と比べて、試料中におけるPrPScのより高い割合と結合させる上でより有効であることが明らかになっている。例えば、単一の抗体「Q」の6つのコピーを用いると、試料中のPrPScの40%と結合すると思われる。同様の結果は、抗体「R」および「S」の6つのコピーを用いても得られるとする。しかし、「Q」「R」および「S」のそれぞれを2コピーずつ用いた場合、この6個の抗体は試料中のPrPScの50%を超える割合と結合すると思われる。したがって、PrPScと結合する2種またはそれ以上の抗体を併用することにより、すなわちPrPScに対する結合親和性Kaが107l/molまたはそれ以上である2種またはそれ以上の抗体を併用することによって、相乗効果を得ることができる。このため、D4、R2、6D2、D14、R1およびR10ならびに/または関連した抗体の併用によって、相乗的な結果が提供されうる。
【0060】
抗体/抗原の結合力
ある抗原と抗体とを結合させる力には、本質的には、2つの関連しない蛋白質、すなわちヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンなどのその他の巨大分子の間に生じる非特異的相互作用と異なる点はない。これらの分子間力は、(1)静電力、(2)水素結合、(3)疎水結合、および(4)ファン・デル・ワールス力という4つの一般的な領域に分類することができる。静電力は、2つの蛋白質の側鎖上にある反対に荷電したイオン基同士の間の引力によるものである。この引力(F)は、荷電体の間の距離(d)の二乗に反比例する。水素結合力は、−OH、−NH2および−COOHなどの親水基同士の間に可逆性の水素性架橋が形成されることによってもたらされる。この種の力は、以上の基を有する2つの分子がどれだけ近く配置されるかに大きく依存している。疎水結合力は、水中で油の細かい粒子が融合して単一の大きな油滴を形成するのと同じように働く。したがって、バリン、ロイシンおよびフェニルアラニンの側鎖などの非極性で疎水性の基は、水性環境において会合しようとする傾向がある。最後のファン・デル・ワールス力は、外部電子雲の間の相互作用によって分子間に生じる力である。
【0061】
以上の異なる型の力のそれぞれに関するより詳細な情報は、I. M.ロイッティ(Roitti)編の「本質的免疫学(Essential Immunology)」(第6版)、ブラックウェル・サイエンティフィック・パブリケーションズ(Blackwell ScieitificPublications)、1988から入手することができる。本発明に関して有用な抗体は、これらの力のすべてを発揮する。PrP蛋白質に対する高度の親和性または結合強度を有する抗体、特にインサイチューでPrPScに対する高度の結合強度を有する抗体を得ることは、これらの力を多量に累積させることによってはじめて可能となる。
【0062】
抗体/抗原の結合強度の測定
ある抗体とある抗原との間の結合親和性は、上記の力のすべてに関する測定値を累積する測定によって測定することができる。このような測定を実施するための標準的な手順はすでにあり、天然のPrPScを含むPrP蛋白質に対するインサイチューでの本発明の抗体の親和性の測定に直接適用することができる。
【0063】
抗体/抗原の結合親和性を測定するための1つの標準的な方法は、抗原に対しては透過性であるが抗体に対しては非透過性である材料を含む容器である透析嚢(dialysis sac)の使用によるものである。抗体と完全または部分的に結合した抗原は、透析嚢内部の水などの溶媒中に位置する。続いてこの嚢を、抗体または抗原を含まない、例えば水などの溶媒のみを含むより大きな容器の内部に配置する。透析膜を介して拡散しうるのは抗原のみであるため、透析嚢内部の抗原の濃度と、外側のより大きい容器の内部の抗原の濃度とは平衡に近づいていくと考えられる。透析嚢をより大きな容器中に配置して平衡に到達するまでの時間をおいた後に、透析嚢内部および周囲の容器の内部の抗原の濃度を測定し、続いて濃度の差を決定することが可能である。これにより、透析嚢内で抗体と結合したままの抗原の量、および抗体と解離して周囲容器中に拡散した量を算出することができるようになる。拡散によって進入するあらゆる抗原を除去するために周囲容器の内部の溶媒(例えば水)を常に交換することによって、透析嚢内部にある抗原を抗体から完全に解離させることができる。周囲の溶媒を交換しない場合には、この系はある平衡に達すると思われ、反応、すなわち抗体と抗原との間の会合および解離に関する平衡定数(K)を算出することができる。この平衡定数(K)は、透析嚢内部で抗原と結合した抗体の濃度を、遊離抗体の結合部位の濃度と遊離抗原の濃度とをかけた値で割った値として算出される。平衡定数または「K」値は、一般にリットル/モルの単位で計測される。このK値は、遊離状態にある抗原および抗体と、結合型の抗原および抗体との間の自由エネルギーの差(Δg)を測定したものである。以下に説明するファージディスプレイ法を用いた場合には、得られる抗体は107mol/lまたはそれ以上の親和性すなわちK値を有する。
【0064】
抗体の結合活性
上記の通り、「親和性」という用語は、1つの抗体の1つの抗原決定基との結合を記載するものである。しかし、実際の大部分の環境では、1つの抗体と多価抗原との相互作用が問題となる。「結合活性(avidity)」という用語は、この結合を表現するために用いられる。結合活性に寄与する因子は複雑であり、抗原上の各決定基を指向する任意の血清における抗体の不均一性、および決定基それ自体の不均一性が含まれる。大部分の抗原が多価であることは、2つの抗原分子が1つの抗体によって結合するという個々の抗体の連結の算術的合計よりも常に大きく、通常は数倍の大きさである興味深い「ボーナス」効果をもたらす。したがって、1つの抗血清と1つの多価抗原との間で測定される結合活性は、1つの抗体と1つの抗原決定基との間の親和性よりも幾分高いと考えられる。
【0065】
抗体を作製するためのヌル PrP マウス
本発明により、耐性の問題は回避され、PrP遺伝子(Prnp)の両方の対立遺伝子が除去されたマウス(Prnp0/0)を一部に用いて、Moおよびその他のPrP上の広範なエピトープを認識する能力を持つ一連のモノクローナル抗体がより効率的に作製される(Buelerら、1992)。これらのPrP欠損マウス(またはヌルマウス)は、その発達および行動の点では正常マウスと区別不能である。これらのヌルマウスは、感染性MoPrPScの大脳内接種後にもスクレイピーに対する抵抗性を示す(Buelerら、1993 Cell;Prusinerら、PNAS 1992)。さらに、Prnp0/0マウスは、アジュバントとして比較的少量の精製されたSHaPrP 27〜30を用いて免疫化を行った後にMo−、SHaおよびヒトPrPに対するIgG血清抗体価を生じると考えられる(Prusinerら、PNAS 1993)。抗体が産生されるための十分な時間をおいた後に、免疫化されたPrnp0/0マウスを屠殺し、従来の方法でハイブリドーマを作製した。これらのマウスに由来する融合細胞は、PrPに特異的な抗体を分泌した。しかし、これらのハイブリドーマは、数時間を超えてPrP特異的抗体を分泌することはなかった。これでは十分に成功したとは思われないという観点から、異なる手法を用いた。
【0066】
ファージディスプレイ
コンビナトリアル抗体ライブラリー技術、すなわち、M13繊維状ファージの表面に発現させた抗体ライブラリーからの抗原に基づく選択は、モノクローナル抗体の作製に新たな手法を提供するものであり、プリオンの問題に関して特に適切であるハイブリドーマ法と比較して多くの利点を持つ(Huseら、1989;Barbasら、1991;Clacksonら、1991;BurtonおよびBarbas、1994)。本発明は、MoPrPによって免疫化されたPrnp0/0マウスから調製したファージ抗体ライブラリーから得たPrP特異的モノクローナル抗体を提供する目的でこの種の技術を用いる。本発明では、インサイチューでMoPrPを認識する第1のモノクローナル抗体が提供され、ヌルマウスから特異的な抗体をクローニングするためのコンビナトリアルライブラリーの応用が示される。ファージディスプレイ技術を用いる大規模なコンビナトリアルライブラリーの作製に含まれる一般的な方法は、1993年6月29日に発行された米国特許第5,223,409号に記載および開示されており、この特許はファージディスプレイ法の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0067】
ヌル動物
本発明は、本明細書では主としてヌルマウス、すなわち、PrP遺伝子の両方の対立遺伝子が除去されたFVBマウスに関して記載される。しかし、その他の宿主動物も使用可能であり、好ましい宿主動物はマウスおよびハムスターであるが、中でもマウスは、トランスジェニック動物の作出に関してかなりの知識が存在する点で最も好ましい。可能な宿主動物には、ハツカネズミ属(マウスなど)、ドブネズミ属(ラットなど)、アナウサギ属(ウサギなど)、ならびにハムスター(Mesocricetus)属(ハムスターなど)およびモルモット属(モルモットなど)から選択される属に所属するものが含まれる。一般に、正常な成体重量が1kg未満であるような哺乳動物は繁殖および維持が容易であって使用可能である。
【0068】
PrP 遺伝子
PrP遺伝子を構成する遺伝的材料は、多くの異なる動物種に関して知られている(Gabrielら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)を参照)。さらに、異なる哺乳動物のPrP遺伝子の間にはかなりの相同性が存在する。例えば、マウスPrPのアミノ酸配列をヒト、ウシおよびヒツジのPrPと比較したものを、その相違点のみに関して示した図2、3および4を参照されたい。PrP遺伝子に関する遺伝的な相同性はかなり高いものの、この違いには場合によっては意義がある。より具体的に言えば、異なる哺乳動物のPrP遺伝子によってコードされる蛋白質におけるわずかな違いのために、1つの哺乳動物(ヒトなど)に感染するプリオンは、異なる種の哺乳動物(マウスなど)には通常は感染しない。この「種間障壁」のため、ヒトなどの異なる動物を通常は感染させるプリオンが特定の試料に含まれるか否かを判定するためにマウスなどの通常の動物(すなわち、PrP蛋白質に関連した遺伝的材料が操作されていない動物)を用いることは一般的には可能ではない。本発明は、抗体がデザインされる対象である任意の種の動物の天然のPrPSc蛋白質と結合する抗体を提供することによって、この問題点を解決する。
【0069】
病原性の変異および多型
ヒトPrP遺伝子に多くの病原性変異が知られている。さらに、ヒト、ヒツジおよびウシのPrP遺伝子には多型が存在することが知られている。以下は、このような変異および多型を一覧表として示したものである。
【0070】
ヒト、ヒツジおよびウシのPrP遺伝子のDNA配列は決定されているため、それぞれの場合において、それらのそれぞれのプリオン蛋白質の完全なアミノ酸配列を予測することが可能である。大多数の個体で生じる正常なアミノ酸配列は、野生型のPrP配列と呼ばれる。この野生型配列は、特定の特徴的な多型的変異を生じることが多い。ヒトPrPの場合には、残基129(Met/Val)および219(Glu/Lys)に2種のアミノ酸多型がみられる。ヒツジPrPは、残基171および136に2種のアミノ酸多型を有し、ウシPrPは成熟型プリオン蛋白質のアミノ端領域内に8アミノ酸モチーフ配列の5回または6回の反復を有する。これらの多型はいずれもそれ自体に病原性はないが、プリオン病に影響を及ぼすと考えられる。これらの正常変異とは異なり、遺伝性ヒトプリオン病の形質を分離させる、PrPの特定のアミノ酸残基またはオクタリピート(8単位反復;octarepeat)の数が変化するようなヒトPrP遺伝子の特定の変異が同定されている。
【0071】
変異および多型を示した上記の一覧表にさらに大きな意味を持たせるために、すでに発表されているPrP遺伝子の配列を参照することができる。例えば、ニワトリ、ウシ、ヒツジ、ラットおよびマウスのPrP遺伝子は開示されており、ガブリエル(Gabriel)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)に掲載されている。シリアンハムスターに関する配列は、バスラー(Basler)ら、Cell 46:417〜428(1986)に掲載されている。ヒツジのPrP遺伝子はゴールドマン(Goldmann)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2476〜2480(1990)に掲載されている。ウシに関するPrP遺伝子の配列はゴールドマンら、J. Gen. Virol. 72:201〜204(1991)に掲載されている。ニワトリPrP遺伝子に関する配列はハリス(Harris)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7664〜7668(1991)に掲載されている。ミンクに関するPrP遺伝子の配列はクレッチマー(Kretzschmer)ら、J. Gen. Virol. 73:2757〜2761(1992)に掲載されている。ヒトPrP遺伝子の配列はクレッチマーら、DNA 5:315〜324(1986)に掲載されている。マウスのPrP遺伝子の配列はロホト(Locht)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:6372〜6376(1986)に掲載されている。ヒツジに関するPrP遺伝子の配列はウェスタウェイ(Westaway)ら、Genes Dev. 8:959〜969(1994)に掲載されている。以上の刊行物はすべて、PrP遺伝子およびPrPのアミノ酸配列を開示および説明する目的で本明細書に参照として組み入れられる。
【0072】
ヒトプリオンの「系統」
齧歯類における研究では、プリオンの系統によってPrPScの蓄積に異なるパターンが生じ[Heckerら、Genes & Development 6:1213〜1228(1992);DeArmondら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6449〜6453(1993)]、それがPrPScの配列によって劇的に変化することが示されている[Carlsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、印刷中(1994)]。長い間、プリオンの多様性の分子的基盤は、スクレイピーに特異的な核酸に起因するとされてきた[Briceら、J.Gen.Virol. 68:79〜89(1987)]が、これは全く発見されていない[Meyerら、J.Gen.Virol. 72:37〜49(1991);Kellingら、J.Gen.Virol. 73:1025〜1029(1992)]。プリオンの系統を説明するための他の仮説には、PrPのAsnに結合した糖鎖の違い[Heckerら、Genes & Development 6:1213〜1228(1992)]およびPrPScの複数の配座異性体(conformer)[Prusiner, S.B.、Science 252:1515〜1522(1991)]によるものが含まれる。Tg(MHu2M)マウスにおけるPrPScのパターンは、CJDのために死亡したヒトから得た3種類の接種物に関して極めて類似していた。
接種を受けたTg(MHu2M)マウスの脳におけるPrPScの蓄積パターンは、RMLプリオンおよびHuプリオンについては著しく異なっていた。しかし、MoPrPScを含むRMLプリオン接種物は比較的多量のMoPrPScの形成を促したが、HuPrPCJDを含むHuプリオン接種物はMHu2MPrPScの産生を誘発した。神経細胞の空胞化および星状神経膠腫を特徴とする神経病理学的変化の分布は、RMLプリオンまたはHuプリオンを接種されたTg(MHu2M)マウスの脳におけるPrPScの蓄積パターンと同様である。
【0073】
標準化プリオン調製物
標準化プリオン調製物は、本発明のアッセイを試験し、それによりアッセイの信頼性を高めるために作製される。この調製物は任意の動物から得ることができるが、被験動物のプリオンを含む脳材料を有する宿主動物から得ることが好ましい。例えば、ヒトプリオン蛋白質遺伝子を含むトランスジェニックマウスは、ヒトプリオンを産生することができ、このようなマウスの脳は標準化ヒトプリオン調製物を作製するために用いることができる。さらに、本調製物が「標準」であるためには、それは好ましくは一連(例えば、100、1,000またはそれ以上の動物)の実質的に同一な動物から得られる。例えば、極めて多数のヒトPrP遺伝子(すべての多型および変異)のコピーをすべてが含む100匹のマウスは、疾患を自然発症すると思われ、各々から得た脳組織を組み合わせることによって有用な標準化されたプリオン調製物が作製されうると考えられる。
【0074】
標準化プリオン調製物は、上述されたタイプの任意の改変された宿主動物を用いて作製することができる。例えば、ヒト、ウシ、ヒツジまたはウマなどの遺伝的に異なる種のみを一般的には感染させるプリオンに対する感染性を獲得し、その改変された宿主動物がプリオンの接種から350日後またはそれ以内の期間のうちにCNS機能障害の臨床徴候を発症するように遺伝的に改変されたマウス、ラット、ハムスターまたはモルモットを用いて、標準化プリオン調製物を作製することができる。最も好ましい宿主動物はマウスであり、その理由は一部には、使用に高額の費用を要しないため、およびトランスジェニックマウスの作出に関して得られている経験の量が他の種類の宿主動物の作出に関する量よりも豊富であるためである。標準化されたプリオン調製物の作製に関する詳細は、1995年8月31日に提出された「試料中のプリオンを検出する方法、および同目的で使用されるトランスジェニック動物」と題する米国特許出願である米国特許出願番号第08/521,992号、および1996年7月30日に提出された「試料中のプリオンの検出、ならびに同目的で使用されるプリオン調製物およびトランスジェニック動物」と題する米国特許出願である弁理士明細書番号第06510/056001号に記載されており、これらの2件の出願はいずれも参照として本明細書に組み入れられる。
【0075】
マウスなどの適切な種類の宿主を選択したならば、次の段階は、標準化プリオン調製物の作製に用いるために適した種類の遺伝的操作を選択することである。例えば、マウスは、本発明のキメラ型遺伝子の挿入によって遺伝的に改変されたマウスであってもよい。この群のマウスは、キメラ型遺伝子の発現レベルを上昇させるために、多数のコピーのキメラ型遺伝子の導入および/または複数のプロモーターを導入されたものでもよい。または、内因性PrP遺伝子が除去されたマウスと、ゲノム内にヒトPrP遺伝子が挿入されたマウスとの交雑による本発明の雑種マウスを用いることもできる。当然ながら、このような雑種マウスにはさまざまな下位区分がある。例えば、発現の増強のために、ヒトPrP遺伝子を、多数のコピーとして挿入すること、および/または複数のプロモーターとともに使用することもできる。さらにもう1つの選択肢として、さまざまに異なる種類のプリオン、すなわち2つまたはそれ以上の種類の被験動物のみを一般的には感染させるものに対する感染性を有するマウスを作出するために、ゲノム内に複数の異なるPrP遺伝子を挿入することによってマウスを作出することもできる。例えば、ヒトの配列の一部、ウシの配列の一部を含む独立したキメラ型遺伝子、およびヒツジの配列の一部を含むさらにもう1つのキメラ型遺伝子を含むキメラ型遺伝子を含むマウスを作出することもできる。3つの異なる種類のキメラ型遺伝子のすべてがマウスのゲノムに挿入された場合には、そのマウスはヒト、ウシおよびヒツジのみを一般的には感染させるプリオンに対する感染性を有すると考えられる。
【0076】
適切な哺乳動物(マウスなど)および適切な様式の遺伝的改変(例えばキメラ型PrP遺伝子の挿入)を選択した後の次の段階は、プリオンに関連した遺伝的材料に関して実質的に同一な多数のそのような哺乳動物を作出することである。より具体的には、作出されるそれぞれのマウスは、ゲノム内に同一のキメラ型遺伝子を実質的に同一のコピー数で含むものであろう。これらのマウスは、マウスの95%またはそれ以上が接種から350日後またはそれ以内のうちにCNS機能障害の臨床徴候を発症して、すべてのマウスがほぼ同一時点、例えば互いに30日以内にこのようなCNS機能障害を発症するように、プリオンに関連した遺伝的材料に関して十分に遺伝的に同一である必要がある。
このようなマウスの、例えば50匹またはそれ以上、より好ましくは100匹またはそれ以上、さらに好ましくは500匹またはそれ以上の多数の群が作出された場合には、その次の段階は、遺伝的に異なる哺乳動物のみを一般的には感染させるプリオン、例えばヒト、ヒツジ、ウシまたはウマからのプリオンをマウスに接種することである。異なる群の哺乳動物に与える量はさまざまであってよい。哺乳動物にプリオンを接種した後は、その哺乳動物が例えばCNS機能障害の臨床徴候などのプリオン感染症の症状を呈するまでその哺乳動物を観察する。プリオン感染症の徴候を呈した後に、それぞれの哺乳動物の脳または少なくとも脳組織の一部を摘出する。摘出された脳組織をホモジェネートすることにより、標準化プリオン調製物が提供される。
【0077】
トランスジェニックマウスの群に遺伝的に異なる動物からのプリオンを接種する代わりに、プリオンに関連した疾患を自然発症するマウスを作出することも可能である。これは例えば、マウスゲノムに極めて多数のコピーのヒトPrP遺伝子を導入することによって実施することができる。コピー数を例えば100またはそれ以上に増やした場合には、マウスはCNS機能障害の臨床徴候を自然発症し、かつその脳組織内にはヒトを感染させる能力を有するプリオンを有すると考えられる。これらの動物の脳またはこれらの動物の脳組織の部分を摘出およびホモジェネートして、標準化プリオン調製物を作製することが可能である。
【0078】
標準化プリオン調製物は、そのまま使用することも、さまざまに異なる種類の陽性対照が提供されるような様式で希釈してごく一部を使用することもできる。より具体的には、既知の量のさまざまなこのような標準化調製物を、第1の組のトランスジェニック対照マウスに接種するために用いることができる。実質的に同一な第2の組のマウスには、試験される材料、すなわちプリオンを含む可能性のある材料を接種する。実質的に同一な第3の群のマウスには、いかなる材料も注入しない。続いて、この3つの群を観察する。マウスにいかなる材料も注入していないことから、第3の群は当然ながら発病しないはずである。もしこのようなマウスが発病するようであればアッセイは正確でなく、これはおそらく疾患を自然発症するマウスが作出された結果であると思われる。標準化調製物を注入された第1のマウスが発病しない場合もアッセイは不正確であり、これはおそらく、そのマウスが、遺伝的に異なる哺乳動物のみを一般的には感染させるプリオンを接種した場合に発病するように正しく作出されていないためであると考えられる。しかし、第1の群が発病して第3の群が発病しない場合には、アッセイは正確であると推定することができる。したがって、第2の群が発病しなければ被験材料はプリオンを含んでおらず、第2の群が発病すれば被験材料にはプリオンが含まれる。
【0079】
本発明の標準化プリオン調製物を用いることにより、プリオンを含む高度に希釈された組成物を作製することができる。例えば、100万分の1もしくはそれ未満の割合、または10億分の1もしくはそれ未満の割合で含む組成物を作製することができる。このような組成物は、プリオンの有無の検出における本発明の抗体、アッセイおよび方法の感度の試験に用いることができる。
【0080】
プリオン調製物は、一定量のプリオンを含むと考えられ、同型の背景から抽出されている点で望ましい。したがって、調製物中の混入物は一定であり、制御可能である。標準化プリオン調製物は、さまざまな医薬品、全血、血液分画、食品、化粧品、臓器、ならびに特に生きたヒトまたは死体に由来する臓器、血液およびその製品などの(生きている、または死亡した)動物に由来する任意の材料におけるプリオンの有無を判定するためのバイオアッセイの実施において有用であると考えられる。したがって、標準化プリオン調製物は、調製物を添加して特定の過程に関する変動の減少を評価するような、精製プロトコールのバリデーションに有意義である。
【0081】
有用な用途
上記および以下の詳細な実施例でさらに説明するように、本発明の方法を、広い範囲のさまざまな抗体、すなわち、さまざまな特定の特徴を有する抗体を作製するために用いることが可能である。例えば、単一の種の体内で通常生じるプリオン蛋白質のみと結合し、その他の種の体内で通常生じるプリオン蛋白質とは結合しない抗体を作製することができる。さらに、感染型プリオン蛋白質(例えばPrPSc)のみと結合し、非感染型(例えばPrPC)とは結合しないように抗体をデザインすることもできる。続いて、単一の抗体または一連の異なる抗体を用いてアッセイ装置を作成することもできる。このようなアッセイ装置は、当業者に公知の従来の技術を用いて調製することができる。抗体を公知の技法を用いて精製および単離し、公知の手順を用いて支持体表面に結合させることもできる。これによって得られる、抗体が結合した表面は、試料をアッセイして1種またはそれ以上の種類の抗体がその試料に含まれるか否かを判定するために用いることができる。例えば、ヒトPrPScのみと結合する抗体をある材料の表面に付着させることができ、ある試料をプロテイナーゼKによって変性させることができる。変性した試料を、材料の表面に結合した抗体と接触させる。全く結合が生じなければ、その試料にはヒトPrPScが含まれていないと推論することができる。
【0082】
また、本発明の抗体は、プリオンを中和する能力によっても特徴づけられる。具体的には、本発明の抗体をプリオンと結合させることによってプリオンの感染性は失われる。したがって、本発明の抗体組成物をあらゆる任意の製品に添加して、その製品中に存在するあらゆる感染性プリオン蛋白質を中和することができる。このため、ある製品が感染性プリオン蛋白質を含む可能性のある天然供給源から生産される場合には、本発明の抗体を予防措置として添加し、それによって感染性プリオン蛋白質に起因する感染の可能性をなくすことができると思われる。
【0083】
本発明の抗体は、イムノアフィニティークロマトグラフィー技術と組み合わせて用いることができる。より具体的には、本抗体をクロマトグラフィーカラム内の1つの材料の表面上に配置することができる。その後に、精製しようとする組成物をカラムへ通過させることができる。精製しようとする試料に、抗体と結合する何らかのプリオン蛋白質が含まれていれば、それらのプリオン蛋白質(PrPSc)は試料から除去され、それによって精製されると思われる。
【0084】
最後に、本発明の抗体は、哺乳動物の処理に用いることができる。本抗体を予防的に与えることも、感染性プリオン蛋白質にすでに感染していて、上記のアッセイの使用によってこの種の感染が判定された個体に投与することも可能である。投与する必要のある抗体の正確な量は、患者の年齢、性別、体重および病状などの多数の因子に応じて異なる。当業者は、少量の抗体を投与してその効果を判定し、その後に用量を調整することによって正確な量を決定することができる。用量は0.01mg/kgから約300mg/kgまでの範囲が可能であり、好ましくは約0.1mg/kgから約200mg/kg、より好ましくは約0.2mg/kgから約20mg/kgを、1日1回またはそれ以上の回数に分けて、1日または数日にわたって投与することが示唆されている。プリオンの感染性の「リバウンド」の発生を避けるために、抗体は2〜5日またはそれ以上の連続した日数にわたって投与することが好ましい。
【0085】
【実施例】
実施例
以下の実施例は、本発明のキメラ型遺伝子、トランスジェニックマウスおよびアッセイの作成および使用の仕方に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明らが発明とみなしている内容の範囲を制限するものではない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、実験的誤差および偏差が含まれていると考慮されるべきである。別に特記しない限り、各部分は総重量にしめる部分重量であり、分子量は加重平均された分子量であり、温度は℃で示し、圧力は大気圧またはその近傍圧である。
【0086】
抗体( Fab )を発現するファージディプレイ抗体ライブラリーの構築
抗体、特に抗体のFab部分を発現させるためのファージディプレイライブラリーの構築は、当技術分野では周知である。好ましくは、抗体を発現するファージディプレイ抗体ライブラリーは、1993年6月29日に発行された米国特許第5,223,409号、および1992年9月16日に提出された米国特許出願第07/945,515号に記載された方法に従って調製され、これらは参照として本明細書に組み入れられる。本発明の抗体を作製するために、本開示を用いて、一般的な方法の手順を適合させることが可能である。
【0087】
プリオン特異的抗体をコードする RNA の単離
一般に、抗PrP抗体に関するファージディスプレーライブラリーは、抗PrP抗体をコードするRNAを含むRNAのプールをまず単離することによって調製される。これを達成するには、ある動物(例えば、マウス、ラットまたはハムスター)に対して関心対象のプリオンによる免疫化を施す。しかし、通常の動物は、プリオンに対する抗体を検出可能または十分に高いレベルでは産生しない。この問題は、(PrP)遺伝子が両方の対立遺伝子とも除去された動物に対して免疫化を行うことによって回避される。このようなマウスはPrnp0/0と命名されており、このようなマウスを作出するための方法はビューラー(Bueler)、Nature(1992)および1993年5月27日に刊行されたワイスマン(Weismann)による国際公開公報第93/10227号に開示されている。「ヌル」動物へのプリオンの接種により、プリオンに対するIgG血清力価がもたらされる(Prusinerら、PNAS 1993)。1つの好ましい態様では、免疫化のために選択される動物は、ビューラーおよびワイスマンによって記載されたPrnp0/0マウスである。
一般に、「ヌル」動物において血清抗体反応を誘発させるために必要なプリオンの量は、約0.01mg/kgから約500mg/kgまでである。
【0088】
プリオン蛋白質は、動物に対して、一般に注射、好ましくは腹腔内または静脈内注射、より好ましくは腹腔内注射によって投与される。動物には1回注射を行った後、引き続いて少なくとも1回から4回のブースター(booster)注射、好ましくは3回のブースター注射を行う。免疫化の後に、当技術分野では周知の方法に従って、ELISAまたはウエスタンブロット法などの標準的な免疫学的アッセイを用いて、その動物の抗血清のプリオンに対する反応性を試験することが可能である(例えば、HarlowおよびLane、1988、抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照のこと)。プリオン結合性の抗血清を有する動物に対して、さらにプリオンを注射することによって追加抗原刺激(boost)を行ってもよい。
【0089】
血清の抗体レベルは、抗体分泌の予測値であり、したがって、リンパ球、特に形質細胞における特定のmRNAのレベルの予測値でもある。このため、血清抗体、特に比較的高レベルの血清抗体の検出は、そのような血清抗体をコードするmRNAを産生する形質細胞などの高レベルのリンパ球と相関している。このため、プリオン蛋白質による免疫化を受けたマウスから単離された形質細胞は、特にその形質細胞が最後の注射による追加抗原刺激から短期間(例えば、約2〜5日、好ましくは3日)のうちにマウスから単離された場合には、プリオン特異的抗体を産生するリンパ球(例えば形質細胞)を高い比率で含むと思われる。このため、マウスの免疫化およびその後の注射による追加抗原刺激は、マウスの形質細胞の全集団の中に存在する抗PrP抗体産生性の形質細胞の全体的な比率を高めるために有用である。さらに、抗PrP抗体は最高血清レベルまたはその付近で産生されるため、抗PrP抗体産生性の形質細胞は抗PrP抗体を産生しているところであり、このためこれらの抗体をコードするmRNAも最高レベルまたはその付近である。
【0090】
抗原特異的抗体の血清レベル、このような抗原特異的抗体を産生するリンパ球の数、および抗原特異的抗体をコードするmRNAの総量の間にみられる上記の相関によって、関心対象の抗原特異的抗体をコードするmRNAに富むmRNAのプールを単離するための手段が提供される。当技術分野で周知の方法に従って(例えば、Huseら、Science 1989を参照)、形質細胞を含むリンパ球を、プリオンによる免疫化を受けた動物の脾臓および/または骨髄から単離する。好ましくはリンパ球は、最後の追加抗原刺激から約2〜5日後、好ましくは約3日後に単離する。続いて、これらの細胞から全RNAを抽出する。哺乳動物細胞からRNAを単離するための方法は、当技術分野では周知である(例えば、Sambrookら、1989、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照)。
【0091】
リンパ球 mRNA からの、抗体をコードする cDNA の産生
当技術分野で周知の方法に従い(例えば、Sambrookら、前記を参照)、逆転写酵素を用いて、単離したRNAからcDNAを産生させ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、抗体の重鎖または軽鎖をコードするcDNAを増幅する。重鎖または軽鎖をコードするcDNAを増幅するために用いる3’プライマーは、特定の抗体サブクラスの重鎖または軽鎖抗体に共通した既知のヌクレオチド配列に基づく。例えば、IgG1サブクラスの重鎖を増幅するためには、IgG1の重鎖をコードする遺伝子の定常領域に基づく1組のプライマーを用いることができ、一方、IgG1サブクラスの軽鎖を増幅するためには、IgG1の軽鎖をコードする遺伝子の定常部分に基づく別の組のプライマーが用いられる。5’プライマーは、データベース中の多数の可変領域の検討に基づいて得られたコンセンサス配列である。このようにして、特定の抗体クラスまたはサブクラスのすべての抗体をコードするDNAが、増幅されたDNAによってコードされる抗体の抗原特異性にはかかわらずに増幅される。重鎖または軽鎖をコードする遺伝子全体を増幅することが可能である。または、そのPCR増幅産物が、その対応する重鎖または軽鎖と会合して、抗原結合において機能する、すなわちプリオン蛋白質と選択的に結合することができる重鎖または軽鎖遺伝子産物をコードする限りにおいて、重鎖または軽鎖をコードする遺伝子の一部のみを増幅してもよい。好ましくは、このファージディスプレイ産物は、FabまたはFv抗体断片である。
【0092】
増幅のために選択された、抗体をコードするcDNAは、任意のアイソタイプをコードすることができ、好ましくはIgGのサブクラスをコードする。模範的なマウスIgGサブクラスには、IgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3が含まれる。増幅を目的とする特定の抗体サブクラスをコードするcDNAの選択は、例えば、抗原に対するその動物の血清抗体の反応などを含む種々の因子によって異なる。好ましくは、PCR増幅を目的として選択される、抗体サブクラスをコードするcDNAは、その動物が最も高い抗体価を有する抗体を産生する抗体サブクラスのものである。例えば、血清IgG1の抗体価が、血清抗体反応において検出される他のどのIgGサブクラスよりも高ければ、IgG1をコードするcDNAをcDNAプールから増幅する。
好ましくは、重鎖および軽鎖を形質細胞cDNAから増幅することにより、1)重鎖cDNAの増幅産物を含んでいて、その重鎖が特定の抗体サブクラスのものであるcDNAプール、および2)軽鎖cDNAの増幅産物を含んでいて、その軽鎖が特定の抗体サブクラスのものであるcDNAプール、という2つの別々に増幅されたcDNAプールが作製される。
【0093】
トランスジェニック動物からの抗体
ある動物にある抗原を感染させて、その後に抗体産生に寄与する細胞(およびそのDNA)を取り出すことによって抗体をコードする遺伝的材料を得ることに加えて、キメラ型マウス/ヒトもしくは完全なヒト抗体を作製するために、トランスジェニック動物の作出または上記の技術およびトランスジェニック技術の使用によって遺伝的材料を得ることも可能である。キメラ型または完全に外来性の免疫グロブリンを作製するための技術には、所望の抗原と結合する免疫グロブリンの全体または一部をコードする遺伝的材料がその生殖細胞系に挿入されたトランスジェニック動物の細胞からの入手が含まれる。完全なヒト抗体は、ヒト抗体をコードする遺伝的材料がそのゲノムに挿入されたトランスジェニック動物に産生させることができる。トランスジェニック動物にこのような抗体を産生させるための技術は、1990年4月19日に刊行された国際公開公報第93/10227号に記載されている。さらに、グッドハード(Goodhartd)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.第84巻4229〜4233ページ、1987年6月、およびブッチーネ(Bucchine)ら、Nature、第326巻、409〜411ページ、1987年3月26日も参照され、これらはすべて、トランスジェニック動物に抗体を産生させる方法の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0094】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーとともに用いるためのベクター
続いて、重鎖をコードするcDNAおよび軽鎖をコードするcDNAのそれぞれを、適したベクターの別々の発現カセット中に挿入する。好ましくは、本ベクターは、アミノ末端からカルボキシ末端の順に、1)原核生物の分泌シグナルドメイン、2)異種ポリペプチドをコードするDNA(例えば、重鎖または軽鎖をコードするcDNAのいずれか)のための、重鎖cDNAのための発現カセット中にある挿入部位、および3)繊維状ファージ膜アンカードメイン、を含む融合ポリペプチドをコードしていて、これを発現する能力を有するヌクレオチド配列を含む。
本ベクターは、融合ポリペプチドを発現させるために原核生物または哺乳動物のDNAの発現調節配列、好ましくは原核生物の調節配列を含む。このDNA発現調節配列は、構造遺伝子の産物を発現するための任意の発現シグナルを含むことができ、異種ポリペプチドの発現のために、発現カセットに機能的に結合した5’および3’要素を含むことができる。この5’調節配列には、転写を開始するための1つのプロモーター、および上流にある翻訳可能な配列の5’末端で機能的に結合された1つのリボソーム結合部位が規定される。このベクターは、原核細胞、好ましくは大腸菌などのグラム陰性細胞における維持および複製のための複製開始点をさらに含む。また、本ベクターは、その発現によって、そのベクターによる形質転換を受けた原核または真核細胞に薬剤耐性などの選択的な利点が付与される遺伝子も含むことができる。
繊維状ファージ膜アンカーは、好ましくは、繊維状ファージ粒子の基質と会合し、それによって融合ポリペプチドをファージ表面に取り込む能力を持つcpIIIまたはcpVIIIコート蛋白質の1つのドメインである。分泌シグナルは、その蛋白質がグラム陰性菌の周辺質膜(periplasmic membrane)を標的とするようにさせる、蛋白質のリーダーペプチドドメインである。グラム陰性菌(大腸菌など)に関するこのようなリーダー配列は、当技術分野では周知である(例えば、Oliverら、Neidhard, F.C.(編)、大腸菌およびネズミチフス菌(Escherichia coli and Salmonella typhimurium)、American Society for Microbiology、Washington, D.C.、1:56〜69、1987)。
【0095】
ファージディスプレイベクター中で用いるための繊維状ファージ膜アンカー
ベクターのための好ましい膜アンカーは、繊維状ファージM13、f1、fdおよび同等の繊維状ファージから得ることができる。好ましい膜アンカードメインは、遺伝子IIIおよび遺伝子VIIIによってコードされるコート蛋白質中に認められる。繊維状ファージのコート蛋白質の膜アンカードメインはコート蛋白質のカルボキシ末端領域の一部であり、脂質二重膜の両端に架橋するための疎水性アミノ酸残基の領域、および膜の細胞質面に通常認められ、膜から伸長する荷電アミノ酸残基を含む。ファージf1では、遺伝子VIIIコート蛋白質の膜架橋領域は、第41位から第52位までのカルボキシ末端の11残基を含む(Ohkawaら、J. Biol. Chem.、256:9951〜9958、1981)。模範的な膜アンカーは、cpVIIIに対して第25位から40位までの残基を含むと考えられる。したがって、好ましい膜アンカードメインのアミノ酸残基配列は、M13繊維状ファージ遺伝子のVIIIコード蛋白質に由来する(cpVIIIまたはCP 8とも呼ばれる)。遺伝子VIIIのコート蛋白質は、成熟した繊維状ファージの大半のファージ粒子上に存在し、典型的にはコート蛋白質が約2500〜3000コピー存在する。
【0096】
もう1つの好ましい膜アンカードメインのアミノ酸残基配列は、M13繊維状ファージ遺伝子IIIのコート蛋白質に由来する(cpIIIとも呼ばれる)。遺伝子IIIのコート蛋白質は、成熟した繊維状ファージのファージ粒子の一端に存在し、典型的にはコート蛋白質が約4〜6コピー存在する。繊維状ファージ粒子、それらのコート蛋白質、および粒子集団の構造に関する詳細な説明は、ラシェッド(Rached)ら(Microbiol. Rev.、50:401〜427、1986)およびモデル(Model)ら(バクテリオファージ:第2巻(Bacteriophage:Vol.2)、R. Calender編、Plenum Publishing Co., p375〜456、1988)による総説の中に見いだされる。
【0097】
好ましくは、繊維状ファージ膜アンカーをコードするDNAは、ファージ膜アンカーをコードするDNAを容易に切除することができ、ベクターの発現カセットの残りの部分を破壊することなくベクターが取り除かれるように、ライブラリーベクター中のcDNA挿入物の3’側に挿入される。ファージ膜アンカーをコードするDNAのベクターからの除去、および適切な宿主細胞における本ベクターの発現により、可溶性の抗体(Fab)断片の産生がもたらされる。この可溶性Fab断片はファージと結合した状態のFabの抗原性を保持しており、このため、抗体の全体(断片化していないもの)が用いられるアッセイおよび治療法に用いることができる。
【0098】
本発明とともに用いるためのベクターは、ヘテロ二量体の受容体(1つの抗体または抗体Fabなどのようなもの)を発現する能力を有する必要がある。すなわち、本ベクターは2つの別々のcDNA挿入物(例えば、重鎖cDNAおよび軽鎖cDNA)を独立に包含および発現する能力を有する必要がある。各発現カセットは、その繊維状ファージのアンカー膜をコードするDNAが重鎖cDNAに関する発現カセット中のみに存在する場合を除いて、上記の諸要素を含むことができる。したがって、抗体またはFabがファージの表面上に発現される場合には、ファージ表面には重鎖ポリペプチドのみが係留される。軽鎖はファージ表面に直接的には結合しないが、重鎖ポリペプチドの自由部分(すなわち、ファージ表面と結合していない重鎖の部分)との会合を介してファージと間接的に結合する。
【0099】
好ましくは、本ベクターは、定方向性連結を可能とする1つのヌクレオチド配列、すなわちポリリンカーを含む。ポリリンカーは、上流および下流に位置する複製および輸送のための翻訳可能なDNA配列と機能的に結合していて、ベクター中へのDNA配列の定方向性連結のための部位または手段を提供する、発現ベクターの1つの領域である。典型的には、定方向性ポリリンカーは、2つまたはそれ以上の制限酵素認識配列すなわち制限部位が規定されたヌクレオチド配列である。制限酵素による切断が起こると、この2つの部位から、翻訳可能なDNA配列をDNA発現ベクターに連結することができる付着末端が生じる。好ましくは、この2つの付着末端は非相補的であり、このためにカセット中へのcDNAの定方向性挿入が可能となる。ポリリンカーは1つまたは複数の定方向性クローニング部位を提供するものであり、挿入されたcDNAの発現期間中に翻訳されてもされなくてもよい。
【0100】
好ましくは、本発現ベクターは、繊維状ファージ粒子の形態における操作を可能とするものである。このようなDNA発現ベクターは、適切な遺伝的相補体が提示された場合に、そのベクターが1本鎖複製形態の繊維状ファージとして複製され、繊維状ファージ粒子中にパッケージングされるように、繊維状ファージの複製開始点が規定された1つのヌクレオチド配列をさらに含む。この特徴は、本DNA発現ベクターに対して、引き続いて行う個々のファージ粒子の単離のためにファージ粒子中にパッケージングされる能力を提供する(例えば、単離された細菌コロニーの感染、およびその中での複製による)。
【0101】
繊維状ファージの複製開始点は、複製開始、複製終了、および複製によって生じた複製形態のパッケージングのための部位が規定された、ファージのゲノムの1つの領域である(例えば、Raschedら、Microbiol. Rev.、50:401〜427、1986;Horiuchi、J. Biol. Chem. 188:215〜223、1986を参照のこと)。本発明における使用のために好ましい繊維状ファージの複製開始点は、M13、f1またはfdファージの複製開始点である(Shortら、Nucl. Acids Res.、16:7583〜7600、1988)。好ましいDNA発現ベクターは、発現ベクターpCOMB8、pCKAB8、pCOMB2−8、pCOMB3、pCKAB3、pCOMB2−3、pCOMB2−3’およびpCOMB3Hである。
【0102】
pComb3Hベクターは、(i)重鎖および軽鎖が個々のプロモーターではなく単一のLacプロモーターによって発現され、(ii)重鎖および軽鎖が、同一のリーダー配列(pHB)ではなく2種類の異なるリーダー配列(pg1BおよびompA)を有する、改変型のpComb3である。pComb3Hに関する参考文献には、ワング(Wang)ら(1995)、J. Biol. Chem.、印刷中がある。pComb3Hの原理は、基本的にはpComb3に関するものと同じである。
【0103】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーの作製
重鎖および軽鎖のcDNAを発現ベクター内にクローニングした後、適切な繊維状ファージを用いて全ライブラリーのパッケージングを行う。続いて、このファージを用いてファージ感受性の細菌培養物(大腸菌の菌株など)を感染させ、ファージの複製および細胞の溶解を行わせてから、破壊された細菌細胞の細片から溶解物を単離する。このファージ溶解物には、免疫化された動物から単離されてクローニングされた重鎖および軽鎖を表面に発現する繊維状ファージが含まれる。一般に、重鎖および軽鎖はFab抗体断片としてファージ表面上に存在し、Fabの重鎖は融合ポリペプチドの繊維状ファージ膜アンカー部分を介してファージ表面に係留されている。軽鎖は重鎖と結合して抗原結合部位を形成する。キメラ型抗体を作製する方法は、1989年3月28日にキャビリー(Cabilly)らに発行された米国特許第4,816,567号に記載されており、これはこのような手順の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。さらにボブルゼッカ(Bobrzecka)ら、Immunology Letters、2、p.151〜155(1980)およびコニーツニー(Konieczny)ら、Haematologia 14(1)、p.85〜91(1981)も参照されたく、以上は参照として本明細書に組み入れられる。
【0104】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーからのプリオン抗原特異的 Fab の選択
1つのプリオン抗原と特異的に結合するFabまたは抗体を発現するファージは、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体の同定および単離のためのさまざまな手順のいずれを用いて単離することもできる。このような方法には、イムノアフィニティー精製(例えば、抗体を結合させたカラムに対するファージの結合)および抗体パニング法(例えば、抗原に対する高い結合親和性を持つファージを選択するための、固体支持体に結合させた抗原に対する反復実施によるファージの結合)が含まれる。好ましくは、ファージは、当技術分野で周知の技法を用いるパニングによって選択される。
抗PrP抗体を発現するファージの同定および単離の後には、ファージを用いて細菌培養物を感染させることができ、そこで単一のファージ単離物が同定される。それぞれの別個のファージ単離物を、上記の1つまたは複数の方法を用いてさらにスクリーニングすることができる。抗原に対するファージの親和性をさらに確実にするため、および/または抗原に対するファージの相対的親和性を決定するために、その抗体またはFabをコードするDNAをファージから単離して、ベクター内に含まれる重鎖および軽鎖のヌクレオチドを、当技術分野で周知の方法(例えば、Sambrookら、前記を参照)を用いて決定することができる。
【0105】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーから選択されたファージからの可溶性 Fab の単離
可溶性抗体またはFabは、抗体の重鎖に関する発現カセットと関連した繊維状ファージアンカー膜をコードするDNAを切除することにより、同じ二シストロン性(dicistronic)ベクターの改変型ディスプレイから産生させることができる。好ましくは、アンカー膜をコードするDNAは、重鎖発現カセットの残りの部分の破壊、または発現ベクターのその他のあらゆる部分の破壊を起こさずにアンカー膜配列の切除を可能とする、好都合な制限部位に隣接している。続いて、アンカー膜配列を持たない改変されたベクターに、その改変ベクターのパッケージングおよび細菌細胞への感染を行った後に、可溶性重鎖と同時に可溶性軽鎖を産生させる。
または、ベクターが適切な哺乳動物の発現配列を含む場合には、Fabを産生させるために、改変されたベクターを用いて真核細胞(例えば、哺乳動物または酵母細胞、好ましくは哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)に形質転換を施すこともできる。改変されたベクターが真核細胞での発現を生じない場合には、好ましくは本ベクターは、適切なベクターへのサブクローニングのために、重鎖および軽鎖の両方の発現カセットを単一のDNA断片として切除されうる。真核細胞および/または原核細胞における蛋白質の発現のためには、多数のベクターが、商業的に入手可能および/または当技術分野で周知である(例えば、Sambrookら、前記を参照)。
【0106】
商業的アッセイ
以下の実施例14〜18、特に実施例17は、何ら変性を生じさせずに、PrPScに対して特異的に結合する抗体の単離を示している。PrP蛋白質(すなわち、PrPCおよびPrPSc)を含む試料は、プロテアーゼK(PK)による消化を用いて変性させることができる。この種のものの使用は、PrPCは消化するが、PrPScは消化しないと考えられる。したがって、消化実施後に、実施例17の通りに、適切な結合条件下でこの試料を抗体(例えばR2)と接触させる。好ましくは、この抗体はある基質と結合しており、試料を抗体が表面に結合された基質材料と容易に接触させられるように配置することができる。材料が基質表面に結合した抗体と結合すれば、感染性PrPScの存在が確認される。
【0107】
本発明の商業的な態様では、本発明の抗体をサンドイッチ型アッセイにおいて用いることが望ましい。より具体的には、本発明の抗体を、1つの基質支持体表面に結合させることができる。試験しようとする試料を、結合が生じる条件下で支持体表面と接触させる。その後、反応していない部分をブロックし、その上にあるあらゆる蛋白質と結合すると思われる普遍的抗体を表面と接触させる。検出可能な標識がなされた普遍的抗体を、支持体表面上の抗体と結合したあらゆるPrPScと結合させる。結合が生じると標識が発色などによって検出可能となり、それによって標識の存在が示され、そのことから試料中のPrPScの存在が間接的に示される。本アッセイは、100万分の1またはそれ未満、さらに10億分の1またはそれ未満の割合の量で存在するプリオン(PrPSc)の検出が可能である。PrPScは、(a)動物供給源から抽出された治療的に活性な成分を含む薬学的製剤、(b)ヒト供給源から抽出された成分、(c)ヒト供給源から抽出された器官、組織、体液または細胞、(d)注射剤、経口剤、クリーム剤、坐剤および肺内投与製剤からなる群より選択される製剤、(e)化粧品、および(f)哺乳動物の細胞培養物から抽出された薬学的に活性な化合物、からなる群より選択される1つの供給源の中に存在する可能性がある。また、このような供給源の材料は、本発明の抗体を添加することにより、PrPSc蛋白質が除去または中和されるよう処理することが可能である。また、本発明には、それを必要とするある哺乳動物に対する、PrPSc蛋白質の感染性を中和する能力を特徴とする抗体であって、PrPSc蛋白質と選択的に結合する抗体の治療的有効量の投与を含む、処理の方法も含まれる。
【0108】
一般化された手順
本発明の抗体は、さまざまな技法によって得ることができると思われる。しかし、一般的な手順には、ファージ表面上における蛋白質(すなわち、抗体またはその一部)のライブラリーの合成が含まれる。続いて、このライブラリーを、PrP蛋白質を含む組成物、特にPrPScを含む天然に生じる組成物と接触させる。PrP蛋白質と結合するファージを、続いて単離し、PrP蛋白質と結合する抗体またはその一部を単離する。その抗体またはその一部をコードする遺伝的材料の配列を決定することが望ましい。さらに、その他の抗体の産生のために、この配列を増幅して、それ単独または他の遺伝的材料とともに適切なベクターおよび細胞系列に挿入することができる。例えば、PrPScと結合する可変領域をコードする配列を、定常/可変構築物を産生する1つの抗体のヒト定常領域をコードする1つの配列と融合させることができる。この構築物を増幅して、ヒト化抗体の産生のために適した細胞系列への挿入が可能な適切なベクターに挿入することもできる。このような手順は、1989年3月28日にキャビリー(Cabilly)らに発行された米国特許第4,816,567号に記載されており、これはこのような手順の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。さらにボブルゼッカ(Bobrzecka)ら、Immunology Letters、2、p.151〜155(1980)およびコニーツニー(Konieczny)ら、Haematologia 14(1)、p.85〜91(1981)も参照され、以上も参照として本明細書に組み入れられる。
【0109】
PrP蛋白質と結合する抗体またはその部分をコードする遺伝的材料が単離された場合には、その遺伝的材料を用いて、PrPに対するより高い親和性を有する他の抗体またはその一部を産生させることが可能である。これは、位置指定突然変異誘発の技術、またはランダム突然変異誘発および選択によって実施される。具体的には、配列内部にある個々のコドンまたはコドンの群を除去するか、異なるアミノ酸をコードするコドンによって置換する。この結果、多数の異なる配列の形成、増幅、および付加的なファージの表面上における抗体またはその一部の変異体の発現のための使用が可能となる。これらのファージは、続いて、PrP蛋白質に対する抗体の結合親和性の試験のために用いることができる。
【0110】
ファージライブラリーは、各種の異なる方法で作製することができる。1つの手順によれば、マウスまたはラットなどの1つの宿主動物にPrP蛋白質による免疫化、好ましくはPrPScによる免疫化を施す。免疫化は、より多量および多種の抗体を形成させるためにアジュバントを併用して実施してもよい。抗体が産生されるための十分な時間をおいた後に、接種された宿主哺乳動物から抗体産生をもたらす細胞を採取する。採取した細胞からRNAを単離し、cDNAライブラリーを作製するために逆転写にかける。抽出したcDNAをプライマーを用いて増幅し、適切なファージディスプレイベクターに挿入する。このベクターにより、ファージ表面上に抗原またはその一部を発現させる。ディスプレイベクターへの挿入の前に、cDNAに位置指定突然変異を施すことも可能である。具体的には、より規模の大きいライブラリー(すなわち、多数の変異体を有するライブラリー)を作製するために、コドンを除去するか、または異なるアミノ酸を発現するコドンによって置換し、続いてそれをファージの表面上に発現させる。その後、上記の通りに、ファージを試料と接触させ、PrP蛋白質と結合したファージを単離する。
【0111】
【実施例】
実施例
以下の実施例は、本発明のアッセイおよび組換え抗PrP抗体の作成および使用の仕方に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明らが発明とみなしている内容の範囲を制限するものではない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、実験的誤差および偏差が含まれていると考慮されるべきである。別に特記しない限り、各部分は総重量にしめる部分重量であり、分子量は加重平均された分子量であり、温度は℃で示し、圧力は大気圧またはその近傍圧である。
【0112】
実施例 1
MoPrP 27 〜 30 の精製
MoPrP 27〜30の精製ロッドは、RMLプリオン(チャンドラースクレイピー単離物(Chandler R.L.、1961、Lancet、1378〜1379))を接種され、臨床的に罹患したCD−1マウスの脳から調製した。プリオンのロッドは、以前に記載されている通りに(Prusiner, McKinley 1983 Cell)、ショ糖密度勾配分画によって回収した。簡潔に示すと、48〜60%(重量/容積比)ショ糖中に沈殿するプリオンのロッドを含む分画を、蒸留水にて2:1に希釈し、100,000×gの遠心処理を4℃で6時間行った。ペレットを水中に再懸濁し、再度遠心処理にかけた後に、0.2%サルコシルを含む、Ca/Mg非含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にロッドを再懸濁した。PrP 27〜30は、SDS−PAGEおよび銀染色分析によって決定された主要な蛋白質であった。蛋白質の定量化は、既知の量のウシ血清アルブミンを蛋白質濃度の標準として用いるビシンコニン酸色素結合法によって実施した。
【0113】
実施例 2
Prnp 0/0 マウスの免疫化
PrP遺伝子の両方の対立遺伝子(Prnp)が除去されたPrnp0/0マウスに対して、実施例1に記載した通りに単離した、精製されたMoPrP 27〜30のロッドによる免疫化を施した。Prnp0/0マウスおよび本系統を作出するための方法は、当技術分野では周知である(Buelerら、1992)。Prnp0/0マウスは、発達および行動の点では正常マウスと区別不能であり、感染性MoPrPScの大脳内接種後にもスクレイピーに対する抵抗性を示し(Buelerら、1993 Cell;Prusinerら、PNAS 1993)、アジュバントとして比較的少量の精製されたSHaPrP 27〜30を用いて免疫化を行った後にMo−、SHaおよびヒトPrPに対するIgG血清抗体価を生じると考えられる(Prusinerら、PNAS 1993)。
6週齢のPrnp0/0マウス3匹(3)に対して、完全フロインドアジュバント中に十分に乳化させたMoPrP 27〜30ロッド100μgの腹腔内注射による免疫化を施した。引き続いてマウスに対して、1回目はロッド100μgを含み、2回目はロッド50μgを含む不完全フロインドアジュバントにより、2週間間隔で2回の追加抗原刺激を行った。2回目の追加抗原刺激から4日後に、以下の実施例3に記載した通りに、各マウス血清のプリオン蛋白質に対する反応性を分析した。抗PrP反応性の抗血清を有していたマウスに対して、2回目の追加抗原刺激から14日後に、50μgのプリオンロッドを含む不完全フロインドアジュバントによる3回目の注射による追加抗原刺激を行った。
【0114】
実施例 3
MoPrP 27 〜 30 による免疫化を受けた Prnp 0/0 マウスの血清反応性
コンビナトリアルライブラリーからの特異的な抗体の単離が成功したことを示す主要な予測指標は、検討しようとする抗原に対する血清抗体の反応性である(BurtonおよびBarbas、Adv. Immunol. 1994)。血清の抗体レベルは、抗体分泌の予測因子であり、このため形質細胞中の特定のmRNAのレベルの予測因子でもある。抗体をコードするcDNAライブラリーの組成物を最終的に指示するのは、この後者の因子である。
2回目の追加抗原刺激から4日後に、実施例2で説明した通りにMoPrP 27〜30による免疫化を受けたPrnp0/0マウスの尾部から採血し、続いて実施する免疫学的分析のために、抗血清を−20℃で保存した。免疫化を受けたマウス血清(IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3の各抗体サブクラス)の、変性および非変性のMo−およびShaPrP 27〜30に対する反応性をELISAで測定した。ELISAのウェルには、40μg/mlのPrPロッドを含むpH8.6の100mM重炭酸ナトリウム50μlを用いて4℃で一晩コーティングを施した。ELISAにおける抗原としては変性PrPロッドを用い、6Mイソチオシアン酸グアニジウムを50μl添加して室温で15分放置した後に、ウェルをCa/Mg非含有PBSで6回洗った。続いて、3%BSAを含むCa/Mg非含有PBSによってすべてのウェルをブロックした。抗血清はPBSによって連続希釈し、ウェルとともに37℃で1時間インキュベートした。余剰の抗血清を10.05% Tween 20を含むPBSで10回洗うことによって除去し、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3マウス抗体のいずれかと特異的に結合する標識化ヤギ抗マウス抗体を用いて結合状態の抗血清を検出した。
3匹のマウスはすべて抗PrP IgG抗体を産生した。これらのマウスのうちD7282と命名した1匹の血清反応性を、免疫化されたマウスの抗体反応の模範例として図5に示した。Mo−およびSHaのPrP抗原に対する血清抗体価が最も高かったのは、IgG1およびIgG2サブクラスであった。これに対して、IgG2aおよびIgG3の抗PrP抗体価は、免疫化を受けていないPrnp0/0マウスの血清におけるすべてのIgGサブクラスで認められたバックグラウンドレベルの反応性と近似していた。抗体価は、変性ロッドに対する値の方が非変性ロッドに対するものよりも高かった。Mo−およびSHaの変性ロッドに対する血清反応性の類似は、この2つの蛋白質の間にアミノ酸配列の高度の相同性があることを反映する可能性が高いと考えられる。しかし、非変性Mo−ロッドに対してかなり高い血清反応性(変性MoPrP 27〜30に関するレベルの約40〜50%の値)がみられたものの、非変性SHaロッドに関する反応性はバックグラウンドレベルにあった。
【0115】
実施例 4
抗 PrP 抗体をコードする mRNA の単離、およびファージディスプレイ抗体ライブラリーの構築
注射による最後の追加抗原刺激から3日後に、D7282マウスを屠殺し、骨髄および脾臓組織からRNAを調製した。マウス脾臓からの全RNAの調製は、当技術分野で周知の方法(Huseら、Science 1989)に従って実施した。骨髄組織からのRNAの調製は、まずマウスの両側後肢から脛骨および腓骨を摘出することによって行った。続いて骨を各端部の近傍で切断し、27ゲージ針を用いて骨小腔にイソチオシアン酸グアニジウムを注入することにより、それらの内容物を流し出した。続いて、マウス脾臓に関して説明するものと同じようにしてRNAの調製を続けた。
【0116】
続いてこのRNA調製物をプールし、当技術分野で周知の方法に従って、逆転写酵素を用いてmRNAからcDNAを作製した。D7282マウスのmRNAから、1)IgG1ライブラリー、および2)IgG2bライブラリーの2つのcDNAライブラリーを独立に構築した。これらのライブラリーの各々について、重鎖をコードするcDNAおよび軽鎖のcDNAを、プールしたcDNAの別々の分画からPCRによって別々に増幅した。IgG1サブクラスのマウス軽(κ)鎖および重(α1またはα2b)鎖をコードするDNA断片のPCR増幅に用いたオリゴヌクレオチド5’および3’プライマーは、ヒューズ(Huse)ら(Science 1989)が用いたものと同じであり、表1に提示しているその他の重鎖プライマーおよび表1に提示している重鎖ポリマーと同じであった。プライマーは、重鎖断片をコードするcDNAの増幅に用いた。
【表1】
【0117】
PCRはパーキンエルマー(Perkin Elmer)9600を用いて実施し、94℃での変性を30秒間、52℃でのハイブリダイゼーションを60秒間、および72℃での伸長を60秒間行う増幅処理を35周期にわたって行った。
この結果得られた、IgG1ならびにIgG2bサブクラスの重鎖および軽鎖をコードする増幅されたcDNAを、ベクターpComb3にクローニングした。pComb3ベクターを用いて、繊維状ファージの表面上に表示されたFab抗体ライブラリーを調製する方法はすでに記載されている(Williamsonら、PNAS、1993;Barbasら、PNAS 1991)。簡潔に示すと、各ベクターがベクターの1つの発現カセット中に重鎖断片をコードする1つのcDNA挿入物を含んで、ベクターの別の発現カセット中に軽鎖断片をコードするcDNA挿入物が挿入されるように、IgG1またはIgG2bの重鎖をコードする増幅されたcDNAおよび軽鎖をコードする増幅されたcDNAをpComb3ベクター内に挿入することによって、IgG1またはIgG2bのファージディスプレイライブラリーを構築する。その結果得られるIgG1ライブラリーは約9×106個の独立したクローンを含んでおり、得られたIgG2bライブラリーは約7×105個の独立したクローンを含んでいた。
【0118】
続いて、この連結されたベクターに、当技術分野で周知の方法(例えば、Sambrookら、前記を参照)を用いて、繊維状ファージM13によるパッケージングを施した。続いて、ファージ粒子の数を増幅するために、パッケージングがなされたライブラリーを用いて大腸菌の培養物を感染させる。細菌細胞の溶解が生じた後に、ファージ粒子を単離し、次に行うパニング手順に用いた。後の増幅および使用のために、ファージライブラリーはいくつかに均等に分割して保存する。ファージライブラリーの別々の分割物は、後の増幅および使用のため分けて保存する。
【0119】
実施例 5
PrP との結合に関するファージディスプレイ抗体ライブラリーのスクリーニング抗原結合性ファージを、(Burtonら、PNAS 1991、Barbas Lerner Methods in Enzymol 1991)に記載されたパニング手順によってELISAウェルに結合させたPrP抗原に対する変性MoPrP 27〜30ロッドの結合性に関して選択した。簡潔に示すと、40μg/mlのMoPrPロッドを含むpH8.6の100mM重炭酸ナトリウム50μlによって、ELISAウェルに4℃で一晩コーティングを施した。続いて、6Mイソチオシアン酸グアニジウム50μlとともに室温で15分インキュベートすることによってPrPロッドを変性させ、その後にウェルをCa/Mg非含有PBSで6回洗った。続いて3%BSAを含むCa/Mg非含有PBSによってすべてのウェルをブロックした。
抗体ファージの均等分割物を、PrPをコートした別々のELISAウェルに対して適用した。パニング実験では、1ウェル当たり合計約1×1010個の抗体ファージを添加した。
このファージを、強く結合したMoPrP抗原とともに37℃で2時間インキュベートした。結合しなかったファージを0.05%Tween 20を含むPBSで10回洗うことによって除去した。続いて、結合したファージを酸溶出によってウェルから取り外してプールし、再増幅の後に2回目のパニングの対象とした。
パニングを5回実施することによってIgG1ライブラリーを選択した。1回目のパニングから5回目までの測定の間に、PrPコードを施したELISAウェルから溶出したファージの数によって決定されるPrP特異的抗体ファージは40倍に増幅された。
【0120】
実施例 6
選択された抗体産生ファージによる可溶性 Fab の産生
4回目および5回目のパニング時に溶出されたファージクローンから可溶性Fabが産生された。選択されたファージクローンから得たDNAを単離し、適切な制限酵素を用いて、pComb3Hベクターからファージコート蛋白質III(繊維状ファージ膜アンカー)を取り除いた。このDNAは自己連結を起こし、それによって可溶性Fabを発現する能力を持つベクターが生じる(可溶性Fabを産生させる手順は(Barbasら、PNAS 1991)に詳細な記載がある)。続いて、以上のベクターを別々に用いてFabを発現するように細菌に形質転換を施し、単離された形質転換株を選択する。
Fabの発現は、細菌培養物にイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを加えて一晩放置することで誘導させた。この細菌に遠心処理を施し、この結果得られた細菌ペレットに超音波処理または3回の凍結解凍処理を行い、細菌の細胞膜周辺腔からFabを放出させた。続いて、ELISAでPrPに対する細菌Fab上清の反応性を検討した。
【0121】
実施例 7
抗 PrP Fab の PrP 抗原との結合に関する ELISA 分析
実施例6で産生された可溶性Fabの、変性および非変性PrP抗原ならびに合計PrPペプチドとの結合を、実施例3で説明したELISAアッセイを用いて評価した。合成PrPペプチドは、当技術分野で周知である従来のペプチド合成手順を用いて作製した。
変性MoPrPロッドに対する4回目のパニング時に採取したFabクローンのうち、変性PrPに対する反応性を有していたのは5%未満であったが、5回目の同じパニングの際に採取したクローンの約50%はPrP抗原を認識した。ELISAでは、このパニングで得たすべての反応性クローンは、変性MoおよびSHaロッドと特異的に結合する能力を持っていたが、どちらの種の非変性ロッドとも結合しなかった。さらに、すべての抗PrP Fabが、MoおよびSHaのPrPの残基90〜145にわたる範囲の合成ペプチドを認識せず、このことから以上の抗体はプリオン蛋白質の残基146から231までの間に結合することが示唆された。
【0122】
実施例 8
プリオンに感染した、および感染していない齧歯類の脳組織に対する、選択された抗 PrP 抗体( Fab )の結合に関する分析
ファージディスプレイ抗体ライブラリーのパニングによって同定された抗体の反応性を、プリオンに感染した齧歯類の脳組織のSDS/PAGE、および選択されたFabを用いるウエスタンブロット分析によって検討した。プリオンに感染した、および感染していないマウスの脳組織から得た蛋白質を、免疫反応性を検討する抗原として用いた。抗原は、Ca/Mg非含有PBS中に浸したマウス脳組織を20ゲージ針に5回通過させ、続いて22ゲージ針に10回通過させて破砕することによって調製した。続いて、10%(重量/容積比)ホモジェネートに1600×g、4℃の遠心処理を5分間行った。上清蛋白質の均等分割物を0.2サルコシルを含むCa/Mg非含有PBSによって希釈し、最終濃度を1mg/mlとした。この希釈物を等容積の非還元性2倍SDS/PAGE試料緩衝液と混合し、5分間煮沸した後にSDS/PAGE(Laemmli, U.K.(1970)Nature(London)227、680〜685)にかけた。免疫ブロット法は、1:1000に希釈したマウスIgG一次抗血清を用いて、以前に記載されている通りに実施した(Panら、PNAS 1993)。
【0123】
実施例 9
核酸の塩基配列決定
いくつかのPrP特異的クローンに関して、抗体の軽鎖および重鎖の可変領域のヌクレオチドならびにアミノ酸配列を決定した。核酸の塩基配列決定は、Taq蛍光ジデオキシヌクレオシド終結サイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems)を用いて、モデル373A自動DNAシークエンサー(Applied Biosystems)によって行った。抗体の軽鎖配列を解明するためのプライマーは、(−)鎖とハイブリダイズするプライマーMoSeqKb[5’−CAC GAC TGA GGC ACC TCC−3’]およびOmpSeq[5’−AAG ACA GCT ATC GCG ATT GCA G−3’]であり、重鎖については(+)鎖と結合するMOIgGGzSeq[5’−ATA GCC CTT GAC CAG GCA TCC CAG GGT CAC−3’]および(−)鎖と結合するPelSeq[5’−ACC TAT TGC CTA CGG CAG CCG−3’]である。
変性PrPに対する1回のパニングで得たいくつかのファージクローンに関して導出されたアミノ酸配列を図6および7に提示した。図6は、マウスD7282から得たIgG1ライブラリーの変性MoPrP 27〜30ロッドに対するパニングによって作製され、選択された重鎖(A)および軽鎖(B)の可変領域のアミノ酸配列を示している。以上の配列は極めて類似しているが、不均一な部分も多数含んでおり、これはマウスをPrP抗原に反復曝露した後の体細胞変異の結果である可能性が高い。これらのクローンで検討した重鎖配列はすべて、極めて類似した配列を含んでいた。特に重鎖相補性決定領域3(HCDR3)は、検討したすべてのFabクローンにおいてヌクレオチドレベルで一致していた。重鎖のCDR1、CDR2、フレームワーク(FR)3およびFR4にはわずかな差異が認められた。これらの差異は多数であったため、PCRまたは塩基配列決定時の誤差のためとは考えにくく、おそらくはマウスが抗原による反復刺激を受けたことによる体細胞変異の間に生じたものと考えられる。軽鎖の配列も極めて類似していたが、可変領域の全体にわたって局所的な不均一性が認められ、これもおそらく体細胞変異に起因すると考えられた。
【0124】
実施例 10
存在する抗体によるエピトープのマスキング後の抗プリオン抗体の選択
変性PrPに対するIgG1ライブラリーのパニングによって、おそらく単一のエピトープを指向する1つのクローンの体細胞変異体と考えられる、一連の関連した抗体が作製された(実施例9)。他のエピトープに対する抗体を得るため、通常のやり方のパニングを行う前に、上記の一連のものに由来するプロトタイプ抗体をELISAウェル中にある変性PrPに添加した。以降のすべてのパニング段階でこのマスキング抗体を用いた。この手順を用いた場合、抗体は、ELISAにおいて変性PrPと反応する異なる配列に由来していた。これらの抗体は、PrP上の異なるエピトープを指向する可能性が高いと考えられる。マスキングの手順は、ディツェル(Ditzel)ら(1985)J. Immunol.に記載されている通りに実施した。PrPと相互作用する抗体以外の分子を用いてマスキングを実施することも可能と思われる。
【0125】
実施例 11
PrP Sc に対して特異的な抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択
PrPScと結合するがPrPCとは結合しないファージクローンを同定するために、各実施例で説明したものと同様のファージディスプレイ抗体ライブラリーに対してパニングを行う。PrPSc抗原およびPrPC抗原は、ELISAアッセイに関して記載した通りに、マイクロタイター用ディッシュの別々のウェルに結合させる。ファージディスプレイ抗体ライブラリーをまずPrPCの入ったELISAウェルに対してパニングする。結合しなかったファージはウェルから取り除いてプールする。PrPC抗原と結合したファージはウェルから採取し、廃棄するか、または後の分析のためにプールする。続いて、プールした非結合性のファージをPrPCが入ったELISAウェルに再び添加して、PrPCに対して結合しない点に基づいて再度選択する。PrPC抗原上で何度か繰り返して選択した後に、ファージをプールし、PrPSc抗原を含むELISAウェルに対するパニングを行った。このパニングを数回繰り返し、それによってPrPSc抗原と結合するファージがさらに複数回のパニングによって選択されるようにした。PrPSc抗原に対するパニングを5〜10回行った後に、ファージをそれぞれ単離した。PrPSc特異的ファージまたは単離されたFabのPrPC抗原に対する結合能は、PrPC抗原を用いるELISAによって再確認が可能である。この結果選択されるファージは、PrPScと結合するが、PrPCとは結合しない。
【0126】
実施例 12
アイソフォームとは無関係に PrP Sc を同定する抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択
PrPScアイソフォームによる複数回の免疫化を受けたマウスから得たリンパ球RNAから、またはさまざまな種類のPrPScアイソフォームによる免疫化を受けた数匹のマウスから得たリンパ球RNAのプールから、上記の通りに、ファージディスプレイ抗体ライブラリーを調製する。続いて、このファージをPrPScの異なるアイソフォームに由来する抗原を含む複数の異なるウェルを用いてパニングする。ファージのパニングは、各段階でそのアイソフォームと結合するファージを選択しながら、PrPScの各アイソフォームに対して行う。ファージのパニングは、PrPScの各アイソフォームについて合計約5〜10回実施する。検討したすべてのアイソフォームに対するパニングの全段階の後に残ったファージを続いて単離する。選択された各ファージまたは単離されたFabの免疫反応性を、種々のPrPScアイソフォームのそれぞれに対するELISA、ウエスタンブロット法または組織化学的分析によって検討し、同じくPrPCとの交差反応性も検討した。
【0127】
実施例 13
PrP Sc のアイソフォームに特異的な抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択特定のPrPScアイソフォームによる免疫化を受けたマウスのリンパ球mRNAから調製されるファージディスプレイ抗体ライブラリーを、上記の実施例に従って調製する。続いて、結果として得られたファージを、1つの特定のPrPScアイソフォームのみと結合する能力に関してパニングによって選択する。このパニングには、それに対する特異的抗体が望まれる特定のPrPScアイソフォームに由来する抗原を含む一式のウェルを含む、PrPScのさまざまなアイソフォームに由来する抗原を含む複数の異なるウェルを用いる。まずファージを、望ましくないPrPScアイソフォームに対してパニングし、その抗原と結合しないファージを選択する。パニングは、PrPScアイソフォームのそれぞれに関して合計約5〜10回連続して行う。続いて、望ましくないPrPScアイソフォームと結合しないファージを、望ましいPrPScアイソフォームに対して約5〜10回パニングして、抗原と結合するものを選択する。すべてのパニングを実施した後に残ったファージを単離する。選択されたこれらのファージは、望ましい特定のPrPScアイソフォームのみに対する結合特異性を有する抗体を発現するものである。選択された各ファージまたは単離されたFabの免疫反応性を、種々のPrPScアイソフォームのそれぞれに対するELISAまたはウエスタンブロットによって検討し、同じくPrPCとの交差反応性も検討する。
【0128】
実施例 14
Prnp 0/0 マウスにおける PrP Sc に対する血清反応性の生成および特徴分析上記の実施例に示した実験法により、107pfu/ml前後のサイズを有するコンビナトリアルライブラリーからの特異的な抗体の単離が成功したことを示す主要な予測指標が、検討しようとする抗原に対する血清抗体の反応性であり、ライブラリーの組成物を最終的に指示するのは、この因子であることが確立された。Prnp0/0マウスは、PrP 27〜30蛋白質を有するマウス(Mo)またはシリアンハムスター(SHa)のプリオンロッドのいずれかによる免疫化により、直ちに強い免疫応答を明らかに示したが、最も高い血清抗体価が認められたのは、IgG1およびIgG2サブクラスであった。IgG2aおよびIgG3の抗PrP抗体価は、免疫化を受けていないPrnp0/0マウスの血清ですべてのIgGサブクラスに関して認められたバックグラウンドレベルの反応性と近似していた。PrPScに対する免疫応答を高め、免疫レパートリー(immune repertoire)を増大させる試みにおいて、Prnp0/0(94%FVB)雌マウスにSHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化を行った。免疫応答の多様性をさらに高めるために、短期的および長期的手順の両方を用いてマウスに免疫化を施した。SHaプリオンロッドによる免疫化の場合とは対照的に、SHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化では、4種のIgGサブクラスのすべてを含む抗血清抗体価が得られた。
【0129】
実施例 15
ヒストブロットに対する、 PrP による免疫化で得られた血清の反応性
SHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化を受けたマウスから得た血清中に認められたIgG抗SHaPrP 27〜30の性質をさらに調べるために、本発明者らは、正常およびスクレイピーに感染したSHaの脳のクリオスタット切片をニトロセルロース膜上に移行させるヒストブロット法により、血清をインサイチューで検討した。プロテイナーゼK(PK)で処理した正常SHaの脳切片には両方の血清とも若干の非特異的反応性を示したが、PKで処理したSHaスクレイピー感染脳切片に対する反応性の増加が示されたのは長期的な免疫化を受けたマウスからの血清のみであった。この反応性は、血清を1/1000に希釈した場合にも明らかであった(結果は提示せず)。いずれの血清とも、まずPKで処理して、続いて3M GdnSCNに10分間曝露させたPK処理SHaスクレイピー感染脳切片に対しては典型的な反応性を示した。免疫化を受けていないPrnp0/0(94%FVB)雌マウスからの血清は、正常なSHa脳切片、スクレイピー感染SHa脳切片に対して全く免疫反応性を示さなかった。
【0130】
スクレイピーに感染した SHa 脳のヒストブロットにおける SHaPrP 27 〜 30 および変性 SHaPrP の染色
正常な、接種を受けていない対照SHa、およびSc237プリオンの接種後にスクレイピーの臨床徴候を呈したSHaからPrPCを除去するために、ヒストブロットをプロテイナーゼKによって処理した。SHaPrPを変性させるために、ヒストブロットを3M GdnSCNで10分間処理した。短期的および長期的な免疫化を受けたマウスから得た血清の1/200希釈物とともに、ブロットを4℃で一晩インキュベートした。本明細書に記載した結果では、抗血清が、変性していない感染性プリオン、すなわち天然のPrPScと明らかな陽性の反応を生じることが示された。
図8は、スクレイピーに感染したSHa脳に関する、染色された8種の異なるヒストブロットを示している。正常な、接種を受けていない対照SHa(A、C、EおよびG)、およびSc237プリオンの接種後にスクレイピーの臨床徴候を呈したSHa(B、D、FおよびH)からPrPCを除去するために、以上のヒストブロットをプロテイナーゼKによって処理した。SHaPrPを変性させるために、ヒストブロットを3M GdnSCNで10分間処理した(C、D、GおよびH)。短期的(A〜D)および長期的(E〜H)な免疫化を受けたマウスから得た血清の1/200希釈物とともに、ブロットを4℃で一晩インキュベートした。以上の結果から、本発明の抗体が天然の変性していない感染性プリオンに対する結合能を有する、すなわち天然のPrPScに対する結合能を有することが明らかに示された。
【0131】
実施例 16
実施例 14 の免疫化マウスからのモノクローナル抗体の作製
合計8種のファージFabディスプレイライブラリーを構築した:短期的および長期的な免疫化を受けたマウスから採取したmRNAからのIgG1κ、IgG2aκ、IgG2κおよびIgG3κである。PrP 27〜30を含むプリオンロッドに対するパニングによって抗PrP Fabを発現するファージを単離する際の困難さを克服するために、ライブラリーをビオチン化SHa 27〜30に対してパニングし、リポソーム中に分散化させて、ストレプトアビジンでコートしたマイクロタイター用プレートと結合させる1つのパニング系を用いた。5回のパニングの後に、50種を超えるクローンからの大腸菌抽出物を、ELISAにてビオチン化SHa 27〜30、SHa 27〜30ロッドおよび90〜231組換えSHaと反応させた。これらのクローンは、SHaPrPの残基90〜231に対応する組換えrPrPとも反応するため(メルホーン(Melhorn, I)ら、プリオン蛋白質の精製された142残基ポリペプチドの高レベルの発現および特徴分析(High−level Expression and Characterization of a Purified 142−residue Polypeptide of the Prion Protein)、Biochemistry 35、5528〜2237(1996))、事実上すべてのライブラリーからより異質なクローンを首尾よく単離するために、8種のライブラリーのすべてをこの抗原に対してパニングした。IgGの重鎖をコードするプラスミドの領域のDNAシークエンシングにより、別個のクローンとして30種のFabが同定された。
【0132】
実施例 17
モノクローナル抗体の特徴分析
陽性クローンからの大腸菌抽出物による最初のELISAにより、3F4モノクローナル抗体とは異なり(カスザック(Kascsak, R.J.)ら、「スクレイピーに関連した繊維性蛋白質に対するマウスのポリクローナルおよびモノクローナル抗体(Mouse polyclonal and monoclonal antibody to scrapie−assocoated fibril proteins)」、J. Virol. 61:3688〜3693(1987))、以上のFabは、天然の状態の、すなわち変性段階を経ずともPrP 27〜30と結合することが示唆された。これらのFabの新規性を定量的な特徴として示すために、本発明者らはそれらを精製し、酵素的切断によってモノクローナル抗体3F4から3F4 Fabを作製した。さまざまな濃度の精製Fabを用いて、SHaPrPの検出のための標準的なELISAを実施した。特徴的なSHa PrPの結合特性(プリオンロッドに対する基礎的結合、および3M非変性GdnSCNで処理されたSHaPrP 27〜30に対する強い反応性)を示した3F4とは対照的に、新たに単離されたFabは何ら変性段階を経ずともプリオンロッドと反応した。非変性プリオンロッドとの最大半減結合(half−maximal binding)が得られたのはFabの濃度が約0.5pg/mlの場合であり、このことから、本抗体の見かけの結合親和性は約108mol/lであることが示された。
図9は、プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示したグラフである。さまざまな濃度の抗体3F4および組換え抗体の、ショ糖精製を行った0.2μgの感染性SHaプリオンロッドでコートしたELISAウェルに対する結合性を評価した。この結果から、本発明のすべての組換え抗体は、抗体3F4と比べて、プリオンに対して実質的により高い結合性を有することが明らかに示された。
【0133】
変性プリオン蛋白質 SHa 27 〜 30 に対する精製 Fab の ELISA 反応性に関する手順
さまざまな濃度の精製3F4 Fabおよび組換えFabを、ショ糖精製を行った天然型またはELISAウェル中にて3M非変性GdnSCNで10分間処理した変性型のSHaプリオンロッド0.2μgによってコートしたELISAウェルに対する結合性について評価した。
図10は、変性プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示したグラフである。図9と比較して図10は、図9の通りの本発明の組換え抗体は3F4と比べてプリオンロッドに対するより高い親和性を示したが、R1を除くすべての組換え抗体は変性抗原に対してより低い親和性を示した点で興味深い。
【0134】
実施例 18
免疫沈降法によるモノクローナル抗体の特徴分析
SHaPrP 27 〜 30 の免疫沈降
Fabの抗PrP 27〜30活性の確認と同時に、3F4が非変性SHaPrP 27〜30と結合する能力を持たないことの確認のために、SHa 27〜30を含むリポソームを用いる免疫沈降法を開発した。Fab産生クローンからの大腸菌抽出物により、溶液中に存在するSHaPrP 27〜30の40〜50%が免疫沈降を生じたが、1/500に希釈した3F4によって免疫沈降を生じたのは痕跡量のSHaPrPのみであった。細菌上清におけるFabの濃度は典型的には1〜10pg/mlのオーダーであった。このことは、抗原に対する親和性が高いことを意味する(107〜108mol/lまたはそれ以上)。抗体3F4は腹水として得られ、免疫沈降実験では約1μg/mlの濃度に希釈して使用されたものと考えられる。新たなFabがSHaPrP 27〜30の免疫沈降をもたらす能力を、3F4との比較により、精製したFab mAb D4およびR2を用いて評価した。Fab 2Rは、0.1pg/ml(500pl中に50ng)という低濃度でもSHaPrP 27〜30を強力に免疫沈降させ、このことから、親和性が108M−2(すなわち108mol/l)よりも高いオーダーであることが示された。Fab 2Rの能力はそれよりも低かったが、3F4よりは効率的に明らかな抗原の免疫沈降を引き起こした。D4、R2、6D2、D14、R1およびR10はすべて本発明の抗体として言及されることに留意する必要がある。
組換え Fab による SHaPrP 27 〜 30 の免疫沈降
【0135】
1/500に希釈した3F4、およびFabを含む大腸菌抽出物100μlがSHaPrP 27〜30の免疫沈降を引き起こす能力を、ウエスタンブロット法によって観測した。レーン14を除くすべてのレーンは、ヤギ抗マウスIgG FabおよびプロテインAアガロースを含む免疫沈降物である。レーン1、3、5、7、9、11、13にはSHaPrP 27〜30を含むリポソーム10μlを添加した。異なるさまざまなクローンからの1/500に希釈した大腸菌抽出物100μlを以下の通りに添加した:レーン2〜3、6D2;レーン4〜5、D14;レーン6〜7、R1;レーン8〜9、R10;レーン10〜11、D4;レーン12〜13、3F4。レーン14には免疫沈降に用いた量の1/2の容積のリポソームをロードした。
【0136】
上記の結果は、図11の写真に示されている。写真には、本発明の組換え抗体を用いた場合により高度の免疫沈降が生じたことが示されている。
【0137】
図12は、本発明の精製されたFab(2Rおよび4D)ならびに3F4によるSHaPrP 27〜30の免疫沈降を示す写真である。抗原の免疫沈降を引き起こす能力はウエスタンブロット法によって観測した。レーン14を除くすべてのレーンは、ヤギ抗マウスIgG FabおよびプロテインAアガロースを含む免疫沈降物である。結果を得るために、レーン5、9および13を除くすべてのレーンに、SHaPrP 27〜30を含むリポソーム10μlを添加した。レーン2〜13の各レーンには、添加した精製Fabの量(ng)をあわせて表示した。レーン14には、免疫沈降に用いた量の半分の容積のリポソームをローディングした。以上の結果は、本発明の抗体2Rおよび4Dを用いた場合には、3F4と比べて著しく高度の免疫沈降が生じたことを示している。
【0138】
ELISAのデータ(図9)は、多数のFabが非変性PrP 27〜30と飽和性結合を生じ、その最大半減結合が0.5μ/ml前後であることを明らかに示している。これは見かけの結合定数108M−1(Fabの分子量=50,000)に対応する。同時に、3F4は2μg/mlまでの範囲で明らかな結合性を示さなかった。図10に示した変性PrP 27〜30との場合には、組換えFabはより高いレベルで結合するが、見かけの親和性は同程度である。このことは、変性がより抗原性の高い部位で生じたものの、それらの親和性は変わらなかったことを示唆する。重要なことに、3F4はこの場合には組換えFabと同程度に結合し、見かけの親和性は108M−1のオーダーである。図9および図10の3F4に関するデータの比較から、非変性型におけるPrP 27〜30の完全性が強く示唆される。このことから、これらの組換えFabが、PrP 27〜30の調製物中に存在する変性PrPの分画と反応したと考えることも可能であろう。しかし、3F4が非変性PrP 27〜30との反応性を示さず、さらに変性PrP 27〜30とは強い反応性を示したことは、この解釈を否定するものであり、これらの組換えFabが非変性ロッドを高い親和性で認識することを強く示唆している。
【0139】
免疫沈降データは、ELISAのデータを裏づけるものである。粗細菌上清中に認められるような低濃度の組換えFab(典型的には1〜10μl/ml)は、PrP 27〜30を免疫沈降させる高い効力を有する(図11)。これは107〜108M−1のオーダーの親和性を意味する。これに相当する濃度条件下では、3F4は明らかな沈降を引き起こさない。より定量的な分析(図12)では、Fab R2が0.1〜0.2μg/mlの範囲の若干の滴下によって非常に効率的にPrP 27〜30の免疫沈降を引き起こすことが示されており、これは結合親和性が108M−1のオーダーであることを意味する。Fab 4Dの親和性はこれよりも低く、3F4による免疫沈降は実際に極めて弱いものであった。この詳細な実験からみて、3F4の親和性は5×107M−1よりもかなり低く、おそらく107M−1よりも低いと考えられる。
【0140】
【発明の効果】
これらを総合すると、以上のデータは、これらの組換えFabが107〜108M−1の範囲の親和性を有することを示している。
本明細書では、本発明に関して最も実践的であって好ましい態様と考えられるものを示し、説明している。しかし、この内容からの逸脱も本発明の範囲にあり、本開示を読むことにより当業者には改変が想起されることが理解される必要がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、正常野生型のヒトPrP蛋白質と正常野生型のマウスPrP蛋白質との間の相違点を示すPrP蛋白質の部分の模式図である。
【図2】図2は、マウスPrPのアミノ酸配列を、マウスPrPとヒトPrPとの間の明確な相違点とともに示したものである。
【図3】図3は、マウスPrPのアミノ酸配列を示しており、特にマウスPrPとウシPrPとの間の相違点を示したものである。
【図4】図4は、マウスPrPのアミノ酸配列を示しており、特にマウスPrPとヒツジPrPとの間の明確な相違点を示したものである。
【図5】図5は、変性マウスPrP 27〜30に対するマウス(D7282)の血清の反応に関して、血清希釈度と405nmにおける光学濃度との関係を示した棒グラフである。
【図6】図6は、マウスD7282から得たIgG1ライブラリーを変性MoPrP 27〜30ロッドに対してパニング(panning)することによって作製した、選択された(A)重鎖および(B)軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示したものである。
【図7】図7は、PrPに対する1回のパニングで得られたファージクローンの一部に関して導出されたアミノ酸配列を示したものである。
【図8】図8A〜8Hは、SHaPrP 27〜30および変性SHaPrP 27〜30の染色結果を示すヒストブロット8A、8B、8C、8D、8E、8F、8Gおよび8Hの写真である。
【図9】図9は、プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示すグラフである。
【図10】図10は、変性プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の組換えFabによるSHaPrP 27〜30のアミノ沈降を示す写真である。
【図12】図12は、本発明の精製FabによるSHaPrP 27〜30のアミノ沈降を示す写真である。
【発明の属する技術分野】
発明の分野
本発明は、抗体を入手するための方法、および該抗体を使用するためのアッセイに関する。より具体的には、本発明は、天然発生型のPrPScと特異的に結合する抗体を入手するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
発明の背景
プリオンは、ヒトおよび動物において中枢神経系の海綿状脳症を引き起こす感染性病原体である。プリオンは、細菌、ウイルスおよびウイロイドとは異なる。現在の有力な仮説は、プリオン蛋白質の感染性には核酸成分は必要でないというものである。さらに、1つの種の動物(例えばヒト)を感染させるプリオンは、別の種(例えばマウス)を感染させないと考えられる。
【0003】
プリオンおよびこれによって引き起こされる疾患の研究における重要な段階は、プリオン蛋白質(「PrP」)と命名された蛋白質の発見および精製であった[Boltonら、Science 218:1309〜11(1982);Prusinerら、Biochemistry 21:6942〜50(1982);McKinleyら、Cell 35:57〜62(1983)]。その後、プリオン蛋白質をコードする完全な遺伝子のクローニング、塩基配列決定、およびトランスジェニック動物における発現がなされた。PrPcは単一コピーの宿主遺伝子によってコードされ[Baslerら、Cell 46:417〜28(1986)]、通常は神経細胞の外表面に認められる。プリオン病は、PrPcがPrPScと呼ばれる変異型に変換されることによって起こる。しかし、PrPcの実際の生物学的または生理学的な機能は不明である。
【0004】
動物およびヒトの伝染性神経変性疾患の伝染および発病にはいずれもプリオン蛋白質(PrPSc)のスクレイピー型アイソフォームが必要である。これについては、プルシナー(Prusiner, S.B)、「プリオン病の分子生物学(Molecular biology of Prion Disease)」、Science、252:1515〜1522(1991)を参照されたい。動物で最も頻度の高いプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクレイピー、ならびにウシの牛海綿状脳症(BSE)である[Wilesmith, JおよびWells, Microbiol. Imunol. 172:21〜38(1991)]。ヒトでは以下の4種類のプリオン病が確認されている:(1)クルー、(2)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、(3)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(4)致死性家族性不眠症(FFI)[Gajdusek, D.C., Science 197:943〜960(1977);Medoriら、N. Eng. J. Med. 326:444〜449(1992)]。ヒトのプリオン病が散発性、遺伝性および感染性の疾患として出現する理由は、当初は謎であったが、現在ではPrPの細胞遺伝学的な由来によって説明されている。
【0005】
CJD患者の大部分は散発性であるが、約10〜15%はヒトPrP遺伝子の変異によって生じる常染色体優性遺伝疾患として遺伝する[Hsiaoら、Neurology 40:1820〜1827(1990);Goldfarbら、Science 258:806〜808(1992);Kitamotoら、Proc . R. Soc. Lond.(in press)(1994)]。死体脳下垂体に由来するヒト成長ホルモン、および硬膜移植片に起因する医原性CJDも発生している[Brownら、Lancet 340:24〜27]。CJDと、スクレイピーに感染したヒツジの肉の消費などの感染原因との関係を明らかにするために多くの試みがなされたが、医原的に引き起こされた発症例を除いて、現在までに同定されたものはない[Harries−Jonesら、J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 51:1113〜1119(1988)]。一方、ニューギニア高地に住むフォレ族および近隣種族に数十年にわたって病害をもたらしてきたクルーは、儀式として行われるカニバリズム(人喰い)の際の感染によって蔓延したと考えられている[Alpers, M. P.、神経系の遅発性伝染病( Slow Transmissible Diseases of the Nervous System )、第1巻、S. B. PrusinerおよびW.J. Hadlow編(New York;Academic Oress)、pp. 66〜90(1979)]。
【0006】
CJDの実験用霊長類への一次伝染(initial transmission)には、ウィリアム・ハドロー(William Hadlow)によるクルーとスクレイピーとの類似性の認識にさかのぼる長い歴史がある。1959年にハドローは、クルーが原因で死亡した患者から調製した抽出物を非ヒト霊長類に接種してその動物の観察を続ければ、長期の潜伏期の後に本症を発病することが予想されると提唱した[Hadlow, W.J., Lancet 2:289〜290(1959)]。7年後に、ガジュセック(Gajdusek)、ギブス(Gibbs)およびアルパース(Alpers)は、クルーにチンパンジーへの伝染性があり、潜伏期が接種後18〜21カ月であることを示した[Gajdusekら、Nature 209:794〜796(1966)]。クルーの神経病理学的所見とCJDのそれとの類似性[Klatzoら、Lab Invest. 8:799〜847(1959)]が契機となり、後者にもチンパンジーを用いた類似の実験が行われ、CJDも伝染することが1968年に報告された[Gibbs, Jr.ら、Science 161:388〜389(1968)]。過去25年の間に、CJD、クルーおよびGSSの約300症例がさまざまな無尾猿および有尾猿(apes and monkeys)へ伝染している。
【0007】
このような実験に伴う高額の出費、動物数の不足、およびしばしば指摘される非人道性などは、この種の研究を制約しており、このため、知識の蓄積の妨げとなっている。最も信頼性の高い伝染データは非ヒト霊長類を用いた試験によって得られるとの指摘は以前からあるが、ヒトプリオン病の症例の一部は、明らかに規則性には欠けるものの、齧歯類にも伝染している[Gibbs, Jr.ら、神経系の遅発性伝染病( Slow Transmissible Diseases of the Nervous System )、第2巻、S. B. PrusinerおよびW.J. Hadlow編(New York;Academic Oress)、pp. 87〜110(1979);Takeishiら、ヒトおよび動物のプリオン病( Prion Diseases of Humans and Animals )、Prusinerら編(London:Ellis Horwood)、pp. 129〜134(1992)]。
【0008】
パッチソン(Pattison)は、ヒツジと齧歯類との間のスクレイピー病原体の移行に関する研究の中で、ヒトプリオン病の齧歯類への伝染が稀であることを「種間障壁」の例として挙げている[Pattison, I.H., NINDB Monograph 2, D.C. Gajdusek, C.J., Gibbs, Jr.およびM.P. Alpers編(Washington, D.C.: U.S. Government Printing)、pp. 249〜257(1965)]。以上の調査では、プリオンの1つの種から他の種への一次的移行には長期の潜伏期が必要であり、また発症に至る動物は稀であった。一方、同一種における二次的移行は、すべての動物が発症し、潜伏期間も著しく短いことが特徴である。
【0009】
シリアンハムスター(SHa)とマウスとの間にみられる種間障壁の分子的基盤はPrP遺伝子の配列にあることが、トランスジェニック(Tg)マウスを用いて示されている[Scottら、Cell 59:847〜857(1989)]。SHaPrPとMoPrPとは、254アミノ酸残基のうち16カ所が異なる[Baslerら、Cell 46:417〜428(1986);Lochtら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:6372〜6376(1986)]。SHaPrPを発現しているTg(SHaPrP)マウスでは、SHaプリオンを接種した際の潜伏期に短縮が認められる。ヒトまたはヒツジPrPの導入遺伝子を発現したマウスで同じような試験を行った場合には種間障壁は解消されず、感染した動物の比率は極めて低く、潜伏期も極めて長い。したがって、例えばヒトプリオンの場合には、何らかの試料がプリオンに感染しているか否かを判定するために試料を確実に試験することを目的として、トランスジェニック動物(別の種のPrP遺伝子を含むマウスなど)を用いることはできない。このような試験が存在しないことによる健康上のリスクの重大性は以下に例示する。
【0010】
ヒト脳下垂体に由来するHGHを投与された後にCJDを発症した若年成人の数は45例を上回る[Kochら、N. Eng. J. Med. 313:731〜733(1985);Brownら、Lancet 340:24〜27(1992);Fradkinら、JAMA 265:880〜884(1991);Buchananら、Br. Med.J. 302:824〜828(1991)]。幸いなことに今日では組換えHGHが用いられているが、HGHの高値によって誘発されるwtPrPcの発現の増強がプリオン病の発病を引き起こす可能性がわずかながらあることも指摘されている[Lasmezasら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 196:1163〜1169(1993)]。脳下垂体から調製されたHGHがプリオンによって汚染されていることは、疑いのあるロットのHGHを接種されたサルが66カ月後にプリオン病を発症したことからも裏づけられている[Gibbs, Jr.ら、N. Eng. J. Med. 328:358〜359(1993)]。プリオン病の潜伏期が長いことから、医原性CJDの全容が明らかになるには何十年もかかり、その間に世界中の多数の人々がHGHを投与された。医原性CJDは、ヒト脳下垂体由来の性腺刺激ホルモンを投与された不妊症の女性4例[Healyら、Br. J. Med. 307:517〜518(1993);Cochiusら、Aust. N.Z. J. Med. 20:592〜593(1990);Cochiusら、J. Neurosurg. Psychiatry 55:1094〜1095(1992)]のほか、硬膜移植を受けた少なくとも11例に発症したとみられている[Nisbetら、J. Am. Med. Assoc. 261:1118(1989);Thadaniら、J. Neurosurg. 69:766〜769(1988);Willsonら、J. Neurosurg. Psychiatric 54:940(1991);Brownら、Lancet 340:24〜27(1992)]。このような医原性CJDの症例の存在は、プリオンによって汚染された可能性のある医薬品に対するスクリーニングの必要性を強調するものである。
【0011】
最近、フランスの2人の医師が、死体から抽出した成長ホルモンを投与された小児に対する過失致死の罪で告発された。この小児はクロイツフェルト・ヤコブ病を発症した。(New Sciensist, July 31, 1993, 4ページを参照)。パスツール研究所(Pasteur Institute)によれば、1983年から1985年中期までにヒト成長ホルモンを投与された若年者におけるCJDの発症例は1989年以来24例報告されている。これらの小児の15例はすでに死亡した。現在では、死体から抽出した成長ホルモンを投与されたフランスの小児数百人がCJDを発病する危険にさらされていると考えられる(New Sciensist, November 20, 1993, 10ページ参照)。PrPモノクローナル抗体を作出しようという今までの試みは、失敗に終わっている(BarryおよびPrusiner, J. Infectious Diseases Vol. 154, No.3, 518〜521(1986)参照)。したがって、疾患の原因となる化合物を検出するための解析法が必要である。特に、CJDの原因となるプリオンが試料材料中に存在するか否かを試験するための簡便で費用効果の高い解析系に対する必要性が明らかに存在する。本発明はこのような解析法を提供するものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
発明の概要
本発明の抗体は、インサイチューで、天然のプリオン蛋白質(すなわち、天然のPrPSc)と高度の結合親和性を示して特異的に結合すると考えられる。本抗体は、ある基質の上に配置し、ある試料に関して、その試料が病原型のプリオン蛋白質を含むか否かを判定するためのアッセイに用いることができる。本抗体は、以下の特徴の1つまたはそれ以上を特徴とする:(1)感染性プリオンを中和する能力、(2)インサイチューでプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する、すなわち細胞培養物中またはインビボで、プリオン蛋白質の処理(例えば変性させる)を要せずに天然型のプリオン蛋白質と結合する、および(3)組成物中のPrPSc型(すなわち疾患型)プリオン蛋白質の高い比率と結合する、例えばPrPSc型プリオン蛋白質の50%またはそれ以上と結合する。好ましい抗体は、さらに(4)特定の種の哺乳動物のみのプリオン蛋白質と結合する、例えばヒトプリオン蛋白質とは結合するがその他の哺乳動物のプリオン蛋白質とは結合しない、という能力を特徴とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
1つの重要な目的は、天然のプリオン蛋白質(PrPSc)と結合する抗体を提供することである。
【0014】
もう1つの目的は、特定の種の動物のプリオン蛋白質(PrPSc)のエピトープと特異的に結合し、その他の種の動物のプリオン蛋白質(PrPSc)とは結合しない抗体を提供することである。
【0015】
もう1つの目的は、疾患に関連したプリオン蛋白質(PrPSc)(例えばヒトPrPScなど)と特異的に結合し、疾患に関連しない変性PrP蛋白質(例えばヒトPrPC)とは結合しないモノクローナル抗体を提供することである。
【0016】
さらにもう1つの目的は、1つまたはそれ以上の種の動物に由来する1つまたはそれ以上の種類のプリオン蛋白質と結合する能力を特徴とするさまざまな特異的抗体の作製を可能とするための具体的な方法を提供することである。
【0017】
本発明のもう1つの目的は、PrPSc型のPrP蛋白質を検出するためのアッセイを提供することである。
【0018】
本発明のもう1つの目的は、疾患に関連したプリオン蛋白質(PrPSc)と疾患に関連しないPrPCとの区別を可能とするためのアッセイを提供することである。
【0019】
もう1つの目的は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコまたはニワトリなどの特定の種の天然のPrPScと特異的に結合するプリオンを検出することである。
【0020】
本発明の1つの利点は、ある試料における天然のPrPScの存在を検出するための、迅速で、効率的で、経済的なアッセイが提供されることである。
1つの明確な利点は、本アッセイを、該プリオンを含む可能性がある医薬品(天然の供給源に由来するもの)、食品、化粧品または任意の材料などの製品におけるプリオン(すなわちPrPSc)の有無に関するスクリーニング法として用いることができ、これによって、この種の製品の安全性に関するさらなる保証が提供されることである。
もう1つの利点は、PrPCを変性させるプロテアーゼとともに本抗体を用いることができ、それによって感染型(PrPSc)プリオンと非感染型(PrPC)プリオンとを区別するための手段が提供されることである。
本発明のさらにもう1つの利点は、本発明の抗体が、例えばPrPScを中和するなど、天然型のプリオンの感染性を中和する能力によって特徴づけられることである。
もう1つの利点は、本発明の抗体が、インサイチューで(PrPSc)プリオン蛋白質と結合する、すなわち細胞培養物またはインビボにおいて、プリオン蛋白質を特別に処理、単離または変性させなくとも自然な状態の天然型の(PrPSc)プリオンと結合すると考えられることである。
もう1つの利点は、本発明のプリオン蛋白質が、感染型のプリオン蛋白質(例えばPrPSc)の比較的高い割合と結合する、例えば組成物中のPrPSc型プリオン蛋白質の50%またはそれ以上と結合すると考えられることである。
【0021】
本発明の1つの重要な特徴は、本方法によって、抗体を(1)製品を精製するためのプリオンの中和、(2)プリオン蛋白質の抽出、および(3)治療法、などの用途に特に適合させる、同一または個々に操作された特徴を有する、さまざまに異なる種類のプリオン蛋白質抗体を作製することが可能となることである。
【0022】
本発明の1つの特徴は、抗体の作製にファージディスプレイライブラリーを用いることである。
【0023】
本発明のもう1つの特徴は、ファージに対して、その表面に抗体の特異的結合蛋白質が発現されるよう遺伝的操作を加えることである。
【0024】
本発明の上記ならびにその他の目的、利点および特徴は、以下により完全に詳述するキメラ型遺伝子、アッセイ法およびトランスジェニックマウスに関する詳細を読むことによって当業者には明らかになると思われる。
【0025】
【発明の実施の形態】
好ましい態様の詳細な説明
本発明の抗体、解析法およびその使用を提供する方法を開示し説明する前に、本発明が、特定の抗体、解析法または方法に制限されるものではなく、それらは当然ながら変更がありうることが理解される必要がある。また、本明細書で用いる用語は特定の態様のみを説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、それは添付した請求の範囲によってのみ制限されることも理解される必要がある。
別に特記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同一の意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書に記載したものと同様または同等の任意の材料および方法を利用することができるが、好ましい方法および材料は以下に記載する。本明細書に記載した刊行物はすべて、その文献に関して引用される方法および/または材料を説明または開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0026】
「PrP蛋白質」「PrP」などの用語は、本明細書では互換可能に用いられ、ヒトおよび動物における疾患(海綿状脳症)を引き起こすことが知られている感染性粒子型PrPSc、および適切な条件下で感染性PrPSc型に変換される非感染型のPrPCの両方を意味するものとする。
【0027】
「プリオン」、「プリオン蛋白質、および「PrPSc蛋白質」などの用語は、本明細書では互換可能に用いられ、PrP蛋白質の感染性PrPSc型を意味し、「蛋白質(protein)」および「感染(infection)」の2つの単語をつなげて短縮したものであり、その全体ではないが大部分がPrP遺伝子によってコードされるPrPSc分子を含む。プリオンは、細菌、ウイルスおよびウイロイドとは異なる。既知のプリオンには、動物を感染させて、ヒツジおよびヤギの神経系の伝染性変性疾患であるスクレイピーのほか、別名狂牛病と呼ばれるウシ海綿状脳症(BSE)およびネコのネコ海綿状脳症を引き起こすものがある。ヒトが罹患するプリオン病としては、(1)クルー、(2)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、(3)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、および(4)致死性家族性不眠症(FFI)の4種類が知られている。本明細書で用いられるプリオンには、以上の疾患のすべてもしくは任意の1つ、または用いられる任意の動物、特にヒトおよび家畜における他の疾患を引き起こすすべての型のプリオンが含まれる。
【0028】
「PrP遺伝子」という用語は、本明細書では、図2〜5に示した蛋白質ならびに本明細書に「病原性の変異および多型」との小見出しを付けて一覧を示したものなどの多型物および変異物を発現する遺伝的材料を説明するために用いられる。「PrP遺伝子」という用語は一般に、任意の型のプリオン蛋白質をコードする任意の種の任意の遺伝子を意味する。一般的に知られたいくつかのPrP配列は、ガブリエル(Gabriel)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)に記載されており、この文献はこのような配列を開示および説明するために参照として本明細書に組み入れられる。PrP遺伝子は、本明細書で説明する「宿主」および「被験」動物を含む任意の動物、ならびにそのいずれかおよびすべての多型および変異から得ることができ、この用語は、まだ発見されていないその他のこのようなPrP遺伝子も含むことが認識される必要がある。このような遺伝子によって発現される蛋白質は、PrPC(非疾患型)またはPrPSc(疾患型)のいずれかの型であると想定される。
【0029】
「標準化プリオン調製物」「プリオン調製物」「調製物」などの用語は、例えばプリオン病の徴候を呈する1組の哺乳動物からの脳組織などであって、その哺乳動物が、(1)本明細書に記載の導入遺伝子を含む、(2)除去された内因性PrP遺伝子を有する、(3)遺伝的に異なる種からのPrP遺伝子の多数のコピーを有する、または(4)除去された内因性PrP遺伝子と遺伝的に異なる種からのPrP遺伝子との雑種であるような、PrPプリオンに関連したものと実質的に同じ遺伝的材料を含む哺乳動物の脳組織から得られる、プリオン含有組成物を説明するために、本明細書では互換可能に用いられる。標準化プリオン調製物を得るための哺乳動物は、プリオンの接種の結果として、および/または例えば多数のコピーのPrP遺伝子などの遺伝的に改変された構成に起因する疾患の発症のために、CNS機能障害の臨床徴候を呈する。
【0030】
「人工的なPrP遺伝子」という用語は、本明細書において、「キメラ型PrP遺伝子」のほか、宿主動物(マウスなど)のゲノムに含められた際に、例えばヒト、ウシまたはヒツジなどの遺伝的に異なる被験動物のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性をその哺乳動物が獲得するような、組換えによって構築されたその他の遺伝子も包含するために用いられる。一般に、人工的な遺伝子には、異なるコドン、好ましくは遺伝的に異なる哺乳動物(ヒトなど)の対応するコドンとの置換によって天然の配列の1つまたはそれ以上(しかし全体ではなく、一般的には40個未満)のコドンが遺伝的に改変されている哺乳動物のPrP遺伝子のコドン配列が含まれる。遺伝的に改変された哺乳動物は、遺伝的に異なる哺乳動物のみを感染させるプリオンに関して試料を解析するために用いられる。人工的な遺伝子の実例は、マウスのすべてのコドンがヒト、ウシまたはヒツジの異なるコドンによって置換されてはいないという条件の下で、図2、3、および4に示した通りのマウスのコドンの同じ相対的位置が、図に示したヒト、ウシおよびヒツジのコドンから選択された1つまたはそれ以上のコドンによって異なる形に置換された配列をコードするマウスPrP遺伝子である。人工的なPrP遺伝子は、遺伝的に異なる動物のコドンを含むだけでなく、天然のPrP遺伝子とは関連しないもののそれが動物に挿入されると通常は遺伝的に異なる動物のみを感染させるプリオンに対する感染性が該動物に付与されるようなコドンおよびコドン配列も含まれる。
【0031】
「キメラ型遺伝子」「キメラ型PrP遺伝子」「キメラ型プリオン蛋白質遺伝子」などの用語は、1つまたはそれ以上のコドンがヒト、ウシまたはヒツジなどの遺伝的に異なる被験動物からの対応するコドンによって置換された、マウスなどの宿主動物のコドンを含む人工的に構築された遺伝子を意味するために、本明細書では互換可能に用いられる。1つの特殊な例においては、キメラ型遺伝子は、宿主動物種(マウスなど)となる哺乳動物のPrP遺伝子の開始配列および終止配列(すなわち、N末端コドンおよびC末端コドン)を含み、また第2の種(ヒトなど)の被験哺乳動物のPrP遺伝子の対応部分のヌクレオチド配列も含む。キメラ型遺伝子を、宿主の種となる哺乳動物のゲノムに挿入すると、第2の種の哺乳動物のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性が哺乳動物に付与される。本明細書で開示する好ましいキメラ型遺伝子は、マウスPrP遺伝子の開始および終止配列、ならびにそれによって発現する蛋白質に9残基の相違が生じるような様式でマウスPrP遺伝子とは異なる対応するヒト配列によって置換された非末端配列領域を含むMHu2Mである。
【0032】
「プリオンに関連した遺伝的材料」という用語は、プリオンに感染する動物の能力に影響を及ぼす任意の遺伝的材料を包含するものである。したがって、この用語は「PrP遺伝子」「人工的なPrP遺伝子」「キメラ型PrP遺伝子」または「除去されたPrP遺伝子」の任意のものを包含し、本明細書ではプリオンに感染する動物の能力に影響を及ぼすそれらの改変とも定義される。標準化プリオン調製物は、動物のすべてが同一型のプリオンに感染しほぼ同時に感染の徴候を呈するように、そのすべてがプリオンに関連した実質的に同一な遺伝的材料を有する動物を用いて作製される。
【0033】
「宿主動物」および「宿主哺乳動物」という用語は、その動物の体内に通常は存在しない遺伝的材料を含むように、そのゲノムを遺伝学的および人工的に操作された動物を説明するために用いられる。例えば、宿主動物には、そのPrP遺伝子が除去された、すなわち非機能的遺伝子が付与されたマウス、ハムスターおよびラットが含まれる。宿主は、抗体を産生させるためにプリオン蛋白質を接種される。抗体を産生する細胞は、ファージライブラリーを作出するための遺伝的材料の供給源である。その他の宿主動物は、天然の(PrP)遺伝子を有すると考えられる動物、または人工的遺伝子の挿入によってもしくは遺伝的に異なる被験動物の天然のPrP遺伝子の挿入によって、改変された動である。
【0034】
「被験動物」および「被験哺乳動物」という用語は、宿主動物のPrP遺伝子と被験動物のPrP遺伝子との間に相違があるという点で宿主動物と遺伝的に異なる動物を説明するために用いられる。被験動物は、それに対する感染性を被験動物が一般に有するようなプリオンが任意の試料に含まれているか否かを判定するための解析試験を実施したいと考える対象となる任意の動物であってよい。例えば、被験動物は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌまたはニワトリであってもよく、その被験動物のみを通常は感染させるプリオンが特定の試料に含まれるか否かを判定することができる。
【0035】
「遺伝的に異なる動物」および「遺伝的に異なる哺乳動物」という用語は、宿主動物の天然のPrPコドン配列と遺伝的に異なる被験動物との相違点が、17個またはそれ以上のコドン、好ましくは20またはそれ以上のコドン、最も好ましくは28〜40コドンであるような動物を説明するために用いられる。したがって、マウスのPrP遺伝子は、ヒト、ウシまたはヒツジのPrP遺伝子に関しては遺伝的に異なるが、ハムスターのPrP遺伝子に関しては遺伝的に異なっていない。
【0036】
「除去されたプリオン蛋白質遺伝子」「破壊されたPrP遺伝子」などの用語は、その遺伝子の機能を失わせるような様式で改変された(例えば、ヌクレオチドの付加および/または除去)、内因性のPrP遺伝子を意味する目的で本明細書では互換可能に用いられる。非機能的なPrP遺伝子の実例およびそうしたものを作成する方法は、「ビューラー(Bueler), H.ら、「神経細胞表面PrP蛋白質を欠失したマウスの正常発達(Normal development of mice lacking the neuronal cell−surface PrP protein)」、Nature 356、577〜582(1992)」およびウェイスマン(Weisman)の国際公開公報第93/10227号に記載されている。遺伝子を除去する方法は、「カペチ(Capecchi)、Cell 51:503〜512(1987)」に開示されており、これらの文献はすべて参照として本明細書に組み入れられる。好ましくは、2つの対立遺伝子はいずれも破壊される。
【0037】
「雑種動物」「トランスジェニック雑種動物」などの用語は、除去された内因性のプリオン蛋白質遺伝子を有する第1の動物と、(1)キメラ型遺伝子もしくは人工的なPrP遺伝子、または(2)遺伝的に異なる動物のPrP遺伝子のいずれかを含む第2の動物との交雑によって得られる動物を意味する目的で、本明細書では互換可能に用いられる。例えば、雑種マウスは、マウスPrP遺伝子が除去されたマウスと、(1)ヒトPrP遺伝子(これは多数のコピーが存在してもよい)または(2)キメラ型遺伝子を含むマウスとの交雑によって得られる。雑種という用語には、結果として得られる子孫が、遺伝的に異なる種のみを通常は感染させるプリオンに対する感染性を有するものであれば、2つの雑種の同系交配による子孫を含む任意の雑種の子孫が含まれる。雑種動物は、プリオンを接種し、本発明のモノクローナル抗体を産生させるハイブリドーマの作製のための細胞の供給源として用いることができる。
【0038】
「感染性を有する」「プリオンに対する感染性を有する」などの用語は、遺伝的に異なる被験動物のみを通常は感染させるプリオンを接種した場合に疾病を発症するようなトランスジェニック被験動物または雑種被験動物を説明するために、本明細書では互換可能に用いられる。この用語は、キメラ型PrP遺伝子が存在しなければヒトプリオンに感染しないと考えられるものの、キメラ型遺伝子が存在する場合にはヒトプリオンに対する感染性を有するような、トランスジェニックマウスTg(MHu2M)などのトランスジェニック動物または雑種動物を説明するために用いられる。
【0039】
「抗体」とは、ある抗原と結合する能力を持つ免疫グロブリン蛋白質を意味する。本明細書で用いるような抗体には、抗体全体のほかに、関心対象のエピトープ、抗原または抗原性断片と結合しうる任意の抗体断片も含まれる(例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv)。
【0040】
本発明の抗体は、PrPSc蛋白質に対する免疫反応性または免疫特異性を有し、このため、それと特異的および選択的に結合する。自然または天然のPrPScに対する免疫反応性または免疫特異性を有する抗体が好ましい。PrPScに対する抗体は、好ましくは免疫特異的であり、すなわち関連した材料との交差反応性を実質的に持たない。「抗体」という用語は、すべての種類の抗体(例えばモノクローナル抗体)を包含するが、本発明の抗体は、好ましくは本明細書に記載するファージディスプレイ法を用いて産生される。
【0041】
「精製抗体」とは、天然の状態で付随しているその他の蛋白質、炭水化物および脂質を実質的に含まないものを意味する。このような抗体は、天然のPrPSc蛋白質(またはその抗原性断片)と「優先的に結合する」、すなわち、抗原性に関連のないその他の分子を実質的に認識せず結合しない。本発明の精製された抗体は、好ましくは特定の種のPrPSc蛋白質に対する免疫反応性および免疫特異性を有し、より好ましくは天然のヒトPrPScに対して免疫特異的である。
【0042】
PrP蛋白質の「抗原性断片」とは、本発明の抗体と結合する能力を持つような蛋白質の部分を意味する。
【0043】
「特異的に結合する」とは、特定のポリペプチド、すなわちPrPSc蛋白質のエピトープに対する抗体の高いアビディティおよび/または高親和性結合を意味する。この特定のポリペプチド上のエピトープに対する抗体の結合は、好ましくは任意のその他のエピトープ、特に関心対象の特定のポリペプチドに付随する分子、または同一試料中にある分子中に存在すると思われるものに対する同一抗体の結合よりも強く、例えば抗体がほぼ独占的にPrPScと結合してPrPScの変性断片とは結合しないような結合条件に調整することによって、PrPCの変性断片よりもPrPScとより強く結合する。関心対象のポリペプチドと特異的に結合する抗体は、その他のポリペプチドと弱いが検出可能なレベル(例えば、関心対象のポリペプチドに関して示された結合の10%またはそれ未満)で結合してもよい。このような弱い結合、またはバックグラウンド結合(background binding)は、関心対象の化合物またはポリペプチドに対する特異的抗体の結合により、例えば適切な対照を用いることによって容易に区別可能である。一般に、インサイチューで107mol/lまたはそれ以上、好ましくは108mol/lまたはそれ以上の結合親和性で天然のPrPScと結合する本発明の抗体は、PrPScと特異的に結合するといわれている。一般に、106mol/lまたはそれ未満の結合親和性を有する抗体は、現在用いられている従来の方法を用いた場合に検出可能なレベルで抗原と結合しないと思われるため、有用でない。
【0044】
「検出可能な標識がなされた抗体」「検出可能な標識がなされた抗PrP」または「検出可能な標識がなされた抗PrP断片」とは、検出可能な標識が結合された抗体(または結合特異性を保持している抗体断片)を意味する。検出可能な標識は、通常は化学結合によって結合させられるが、標識がポリペプチドである場合には、代わりに遺伝子操作法によって結合させてもよい。検出可能な標識がなされた蛋白質を生産するための方法は、当技術分野では周知である。検出可能な標識は、当技術分野で周知のさまざまなこの種の標識から選択してよいが、通常は、放射性同位体、発蛍光団(fluorophore)、常磁性標識、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、または検出可能な信号(例えば、放射能、蛍光、発色)を発するかもしくはその基質に標識を曝露した後に検出可能な信号を発するその他の成分もしくは化合物である。さまざまな検出可能な標識/基質の対(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ/ジアミノベンジジン、アビジン/ストレプトアビジン、ルシフェラーゼ/ルシフェリン)、抗体を標識するための方法、および標識された抗体を用いるための方法は、当技術分野では周知である(例えば、HarlowおよびLane編、(抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)(1988)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)を参照のこと)。
【0045】
「処理」「処理する」などの用語は、本明細書では一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。この効果は、ある疾患もしくその症状を完全または部分的に防止する点で予防的であってもよく、ならびに/またはある疾患および/もしくはその疾患に起因する有害効果を部分的または完全に治癒させる点で治療的であってもよい。本明細書で用いられる「処理」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患に対するあらゆる処理を範囲に含んでいて、
(a)その疾患を発症しやすいと考えられるがまだその疾患を有するとは診断されていない対象における疾患の発症の防止、
(b)疾患の抑制、すなわちその進展を停止させること、または
(c)疾患の緩和、すなわち疾患の緩解をもたらすこと、を含む。本発明は、感染性プリオンを有する患者に対する処理を目的としており、特に、PrPScの感染によってウシ海綿状脳症、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症またはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病などの中枢神経系疾患に罹患したヒトに対する処理を目的としている。
【0046】
本明細書で用いる略号には以下のものが含まれる:
CNSは中枢神経系、
BSEはウシ海綿状脳症、
CJDはクロイツフェルト・ヤコブ病、
FFIは致死性家族性不眠症、
GSSはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、
Huはヒト、
HuPrPはヒトプリオン蛋白質、
Moはマウス、
MoPrPはマウスプリオン蛋白質、
SHaはシリアンハムスター
SHaPrPはシリアンハムスタープリオン蛋白質、
Tgはトランスジェニック、
Tg(SHaPrP)はシリアンハムスターのPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(HuPrP)は完全なヒトPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(ShePrP)は完全なヒツジPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
Tg(BovPrP)は完全なウシPrP遺伝子を含むトランスジェニックマウス、
PrPScはプリオン蛋白質のスクレイピー型アイソフォーム、
PrPCはプリオン蛋白質の細胞含有性の共通で、一般的アイソフォーム、
MoPrPScはマウスプリオン蛋白質のスクレイピー型アイソフォーム、
MHu2Mは、マウスPrP遺伝子のある領域が、マウスPrPと9コドン異なる対応したヒト配列によって置換されているキメラ型のマウス/ヒトPrP遺伝子、
Tg(MHu2M)マウスは、キメラ型MHu2M遺伝子を含む本発明のトランスジェニックマウス、
MHu2MPrPScは、キメラ型ヒト/マウスPrP遺伝子のスクレイピー型アイソフォーム、
PrPCJDはPrP遺伝子のCJD型アイソフォーム、
Prn−p0/0は、MoPrP遺伝子などの内因性のプリオン蛋白質遺伝子の両方の対立遺伝子の除去を示し、
Tg(SHaPrP+/o)81/Prn−p0/0は、SHaPrPを発現するトランスジェニックマウスの特定の系統(81)であり、+/oはヘテロ接合体であることを示し、
Tg(HuPrP)/Prnp0/0は、ヒトプリオン蛋白質遺伝子(HuPrP)を有するマウスと、内因性のプリオン蛋白質遺伝子の2つの対立遺伝子が破壊されたマウスとの交雑によって得られた雑種マウス、
Tg(MHu2M)/Prnp0/0は、キメラ型プリオン蛋白質遺伝子(MHu2M)を有するマウスと、内因性のプリオン蛋白質遺伝子の2つの対立遺伝子が破壊されたマウスとの交雑によって得られた雑種マウスを示す。
【0047】
FVBは、FVBマウスの卵は比較的大きく外因性DNAのマイクロインジェクションに対する耐性が比較的高いため、トランスジェニックマウスの作出にしばしば用いられる標準的な同系交配系統のマウスである。
【0048】
本発明の一般的な局面
本発明の核心は、PrPSc蛋白質と特異的に結合し、好ましくはインサイチューで単一の種の(例えばヒトの)天然の非変性PrPSc蛋白質と、107mol/lまたはそれ以上、好ましくは108mol/lまたはそれ以上の親和性で結合し、さらに好ましくはヒトPrPScのみと結合してヒトPrPCの変性断片とは結合しない抗体である。本抗体は、PrP蛋白質遺伝子のさまざまな変異体および/または多型物によってコードされるすべての蛋白質と結合してもよい。または、その一連の各抗体がPrP遺伝子の異なる変異体または多型物によってコードされる蛋白質と特異的に結合する、一連の抗体(2種またはそれ以上の異なる抗体)が提供される。本抗体は支持体表面と結合させて、特定の型のヒトPrPScの有無に関するインビトロでの試料のアッセイのために用いることができる。また、本抗体を検出可能な標識と結合させて、特定の型の天然型PrPScの有無に関するインビボでのアッセイのために動物に注入することもできる。
【0049】
あらゆる任意の抗原から抗体を作製する諸手順が知られているが、例えばPrPScなどの特定の蛋白質と結合する抗体を作製することは特に困難であることが、これまでの実践によって明らかにされている。PrPScに対する抗体を得ることに伴う難しさは、一部には、それが特殊および未知の性質を持つことに関係している。本明細書に記載する手順に従うことによってインサイチューで天然のPrPScと結合する抗体が得られており、本明細書に記載された手順に従うことにより、PrPScおよび抗体の作製が困難なその他の蛋白質に対するその他の抗体を得ることができる。
【0050】
本発明の抗体を生産するためには、宿主哺乳動物に対するプリオン蛋白質、すなわち感染性PrPScの接種から始めることが好ましい。宿主哺乳動物は任意の哺乳動物であってよく、好ましくは本明細書で定めるマウス、ラット、モルモットまたはハムスターなどの種類の宿主哺乳動物であり、最も好ましくはマウスである。宿主動物には、好ましくは遺伝的に異なる種である別の種にとって内因性であるプリオン蛋白質が接種される。例えば、マウスにヒトプリオン蛋白質が接種される。好ましくは、この宿主哺乳動物には、遺伝的に異なる哺乳動物種の感染性プリオン蛋白質が接種される。例えば、マウスにヒトPrPScが接種される。この様式で正常な宿主哺乳動物を用いた場合でも、一部の抗体を作製することは可能である。しかし、宿主動物がプリオン蛋白質の遺伝子を有しており、遺伝的に異なる種に由来するプリオンを接種された場合には、抗体としては、たとえそれが生じたとしても、宿主動物のプリオン蛋白質のエピトープと遺伝的に異なる種のエピトープとの間に相違点があるエピトープに関するもののみが生じると思われる。これは実質的に、生じる可能性のある抗体の量を制限し、感染型のプリオン蛋白質と選択的に結合するが非感染型の変性断片とは結合しない抗体を見いだす能力を低下させる。このため、異なる種のプリオン蛋白質同士を区別する抗体を作製しようと試みていないのであれば、抗体作製過程を、除去された(ablated)プリオン蛋白質遺伝子、すなわち、Prnp0/0と略記するヌル(null)PrP遺伝子を有する哺乳動物を用いて開始することが好ましい。したがって、本発明は一般にこのような「ヌル」哺乳動物の使用と関連して記載され、特に「ヌルマウス」と関連して記載される。
【0051】
抗体はまず、内因性PrP遺伝子が除去された、すなわちPrP遺伝子が機能しないようにされた宿主動物(例えばマウス)を作出することによって作製される。除去されたPrP遺伝子を有するマウスを「ヌルマウス」と呼ぶ。ヌルマウスは、正常なマウスPrP遺伝子へのDNAの断片の挿入および/または遺伝子の一部の除去によって破壊されたPrP遺伝子を供することで作製することができる。この破壊された遺伝子はマウス胚に注入され、相同組換えを介して内因性PrP遺伝子と置換される。
ヌルマウスには、抗体の形成を促すためにプリオンが接種される。さらに、抗体が最大限に生じるようにアジュバントおよびプリオンの注入が一般に用いられる。
【0052】
続いてこのマウスを屠殺し、骨髄および脾臓の細胞を摘出する。細胞を溶解し、RNAを抽出してcDNAに逆転写させる。続いて、抗体の重鎖および軽鎖(またはその部分)をPCRによって増幅する。増幅されたcDNAライブラリーはそのまま用いてもよく、または、一定の範囲の変異体を作り出し、それによってライブラリーのサイズを大きくするための操作の後に用いてもよい。
【0053】
続いて、1つのベクターが、重鎖の断片をコードするcDNA挿入物をベクターの第1の発現カセット中に含み、軽鎖の断片をコードするcDNA挿入物をベクターの第2の発現カセット中に含むように、IgGの重鎖をコードする増幅されたcDNAおよび軽鎖をコードする増幅されたcDNAをファージディスプレイベクター(例えば、pComb3ベクター)に挿入することによって、IgGファージディスプレイライブラリーを構築する。
【0054】
続いて、当技術分野で周知の方法を用いて、連結されたベクターを繊維状ファージM13にパッケージングする。続いて、ファージ粒子の数を増幅するために、パッケージングがなされたライブラリーを用いて大腸菌の培養物を感染させる。細菌細胞が溶菌を生じた後に、ファージ粒子を単離してパニング手順に用いる。作製されたライブラリーを、プリオンを含む組成物に対してパニングする。続いて、例えばヒトPrPScなどのPrPScと選択的に結合する抗体断片を単離する。
【0055】
PrP 蛋白質の詳細
PrP 27〜30と命名される、精製された感染性プリオンの主要な構成要素は、偏在性の細胞蛋白質であるPrPCの疾患発症性の形態であるより大きな天然蛋白質PrPScの、プロテイナーゼK抵抗性の中核部である。PrPScはスクレイピーに感染した細胞のみに認められるが、PrPCは感染細胞および非感染細胞の両方に存在しており、このことはPrPScが感染性プリオン粒子の唯一ではないとしても主要な構成要素であることを意味する。PrPCおよびPrPScはいずれも同じ単一コピーの遺伝子によってコードされるため、PrPCからPrPScが生じる機序の解明へ向けて多大な努力が払われた。この目標の中心に位置するものは、これらの2つの分子の間の物理的および化学的な差異の特徴を示すことであった。PrPScがPrPCと区別される性質には、溶解度の低さ(Meverら、1986、PNAS)、抗原性の弱さ(Kascack、J. Virol 1987;Serban D. 1990)、プロテアーゼ抵抗性(Oeschら、1985 Cell)、およびPrP 27〜30の、スクレイピーに罹患した脳で認められるPrPアミロイド斑(Prusinerら、Cell 1983)と超微細構造的および組織化学的なレベルで極めて類似したロッド状凝集物への重合化が含まれる。プロテイナーゼKを用いることにより、PrPCは変性させうるが、PrPScは変性させないことが可能である。これまでに、PrPScへの変換をもたらすPrPCにおけるトランジション後化学修飾を同定するためのさまざまな試みがなされたが、結局は失敗に終わった(Stahlら、1993 Biochemistry)。この結果、PrPCおよびPrPScは実際には同一分子の配座異性体(conformational isomer)であると提唱されている。
【0056】
従来の技法を用いてPrPの立体配座を記載することは、溶解度の問題および十分量の純粋な蛋白質を生産する際の困難さが妨げとなっていた。しかし、PrPCおよびPrPScは、立体配座的には異なる。いくつかの種に由来するPrPのアミノ酸配列に基づいた理論的計算では、分子中に4つの推定上のらせん状モチーフが予測されている。実験的な分光学的データからは、PrPCにおけるこれらの領域は事実上β−シートを有しないα−ヘリックス配置をとることが示されている(Panら、PNAS 1993)。これと極めて対照的に、同じ試験ではPrPScおよびPrP 27〜30がアミロイド蛋白質に典型的なβ−シートをかなり高い割合で含むことが明らかになっている。さらに、PrPのアミノ酸残基90〜145に対応する伸長性の合成ペプチドを用いた試験では、これらの切断型の分子が溶解条件を変更することによってα−ヘリックスまたはβ−シート構造のいずれかに変換されると考えられることが示されている。PrPCのPrPScへのトランジションには、それまでα−ヘリックスであった領域がβ−シート構造をとることが必要である。
【0057】
一般に、スクレイピー感染では免疫応答が生じず、宿主生物体は同一種からのPrPScに対する耐性を有する。多量のSHaPrP 27〜30による免疫化を受けた後にウサギではポリクローナル抗PrP抗体が産生されている(Bendheimら、PNAS 1985、Bodeら、J. Gen Virol. 1985)。同様にマウスでも抗PrPモノクローナル抗体がいくつか産生されている(Kascackら、J.Virol. 1987、Barryら、J. Infect. Dis. 1986)。これらの抗体は、SHaおよびヒトに由来する天然のPrPCおよび変性PrPScの両方を同等によく認識する能力を持つが、MoPrPとは結合しない。当然ながら、これらの抗体のエピトープは、SHa−とMoPrPとの間で異なるアミノ酸を含む配列の領域にマッピングされた(Rogersら、J.Immunol. 1993)。
【0058】
上記の部分で引用した刊行物に記載された型の抗体が、PrPCとは結合するが、PrPScとは結合しない理由は完全には明らかになっていない。特定の理論の立場をとらずとも、PrPCの立体配座の中に蛋白質がある場合に露出されるエピトープが、露出されていないか、または蛋白質が比較的非溶解性であって互いにより緊密に折り畳まれているようなPrPScの立体配置の中に一部が隠れているために、このようなことが起こる可能性があることが示唆される。PrPScに対する極めてわずかな結合は起こると思われるため、PrPCと結合するがPrPScとは結合しない抗体という表現は絶対的な意味では正しくない(しかし、一般に受け入れられている意味では正しい)ことが指摘されている。本発明の目的に関して、全く結合が生じないという表現は、平衡定数(equilibrium constant)または結合定数(affinity constant)Kaが106l/molまたはそれ未満であることを意味する。さらに、Kaが107l/molまたはそれ以上、好ましくは108l/molまたはそれ以上である場合には、結合が存在すると認識される。107l/molまたはそれ以上の結合親和性は、(1)単一のモノクローナル抗体(すなわち、1つの種類の抗体が多数ある)、(2)複数の異なるモノクローナル抗体(例えば、5種の異なるモノクローナル抗体のそれぞれが多数ある)、または(3)多数のポリクローナル抗体、によると考えられる。また、(1)〜(3)の併用も可能である。
【0059】
好ましい抗体は、試料中のPrPScの50%またはそれ以上と結合すると思われる。しかし、上記の(1)〜(3)のようないくつかの異なる種類の抗体を用いることによってこれが達成される場合もありうる。異なる抗体の数を増やすことは、単一の抗体を用いた場合と比べて、試料中におけるPrPScのより高い割合と結合させる上でより有効であることが明らかになっている。例えば、単一の抗体「Q」の6つのコピーを用いると、試料中のPrPScの40%と結合すると思われる。同様の結果は、抗体「R」および「S」の6つのコピーを用いても得られるとする。しかし、「Q」「R」および「S」のそれぞれを2コピーずつ用いた場合、この6個の抗体は試料中のPrPScの50%を超える割合と結合すると思われる。したがって、PrPScと結合する2種またはそれ以上の抗体を併用することにより、すなわちPrPScに対する結合親和性Kaが107l/molまたはそれ以上である2種またはそれ以上の抗体を併用することによって、相乗効果を得ることができる。このため、D4、R2、6D2、D14、R1およびR10ならびに/または関連した抗体の併用によって、相乗的な結果が提供されうる。
【0060】
抗体/抗原の結合力
ある抗原と抗体とを結合させる力には、本質的には、2つの関連しない蛋白質、すなわちヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンなどのその他の巨大分子の間に生じる非特異的相互作用と異なる点はない。これらの分子間力は、(1)静電力、(2)水素結合、(3)疎水結合、および(4)ファン・デル・ワールス力という4つの一般的な領域に分類することができる。静電力は、2つの蛋白質の側鎖上にある反対に荷電したイオン基同士の間の引力によるものである。この引力(F)は、荷電体の間の距離(d)の二乗に反比例する。水素結合力は、−OH、−NH2および−COOHなどの親水基同士の間に可逆性の水素性架橋が形成されることによってもたらされる。この種の力は、以上の基を有する2つの分子がどれだけ近く配置されるかに大きく依存している。疎水結合力は、水中で油の細かい粒子が融合して単一の大きな油滴を形成するのと同じように働く。したがって、バリン、ロイシンおよびフェニルアラニンの側鎖などの非極性で疎水性の基は、水性環境において会合しようとする傾向がある。最後のファン・デル・ワールス力は、外部電子雲の間の相互作用によって分子間に生じる力である。
【0061】
以上の異なる型の力のそれぞれに関するより詳細な情報は、I. M.ロイッティ(Roitti)編の「本質的免疫学(Essential Immunology)」(第6版)、ブラックウェル・サイエンティフィック・パブリケーションズ(Blackwell ScieitificPublications)、1988から入手することができる。本発明に関して有用な抗体は、これらの力のすべてを発揮する。PrP蛋白質に対する高度の親和性または結合強度を有する抗体、特にインサイチューでPrPScに対する高度の結合強度を有する抗体を得ることは、これらの力を多量に累積させることによってはじめて可能となる。
【0062】
抗体/抗原の結合強度の測定
ある抗体とある抗原との間の結合親和性は、上記の力のすべてに関する測定値を累積する測定によって測定することができる。このような測定を実施するための標準的な手順はすでにあり、天然のPrPScを含むPrP蛋白質に対するインサイチューでの本発明の抗体の親和性の測定に直接適用することができる。
【0063】
抗体/抗原の結合親和性を測定するための1つの標準的な方法は、抗原に対しては透過性であるが抗体に対しては非透過性である材料を含む容器である透析嚢(dialysis sac)の使用によるものである。抗体と完全または部分的に結合した抗原は、透析嚢内部の水などの溶媒中に位置する。続いてこの嚢を、抗体または抗原を含まない、例えば水などの溶媒のみを含むより大きな容器の内部に配置する。透析膜を介して拡散しうるのは抗原のみであるため、透析嚢内部の抗原の濃度と、外側のより大きい容器の内部の抗原の濃度とは平衡に近づいていくと考えられる。透析嚢をより大きな容器中に配置して平衡に到達するまでの時間をおいた後に、透析嚢内部および周囲の容器の内部の抗原の濃度を測定し、続いて濃度の差を決定することが可能である。これにより、透析嚢内で抗体と結合したままの抗原の量、および抗体と解離して周囲容器中に拡散した量を算出することができるようになる。拡散によって進入するあらゆる抗原を除去するために周囲容器の内部の溶媒(例えば水)を常に交換することによって、透析嚢内部にある抗原を抗体から完全に解離させることができる。周囲の溶媒を交換しない場合には、この系はある平衡に達すると思われ、反応、すなわち抗体と抗原との間の会合および解離に関する平衡定数(K)を算出することができる。この平衡定数(K)は、透析嚢内部で抗原と結合した抗体の濃度を、遊離抗体の結合部位の濃度と遊離抗原の濃度とをかけた値で割った値として算出される。平衡定数または「K」値は、一般にリットル/モルの単位で計測される。このK値は、遊離状態にある抗原および抗体と、結合型の抗原および抗体との間の自由エネルギーの差(Δg)を測定したものである。以下に説明するファージディスプレイ法を用いた場合には、得られる抗体は107mol/lまたはそれ以上の親和性すなわちK値を有する。
【0064】
抗体の結合活性
上記の通り、「親和性」という用語は、1つの抗体の1つの抗原決定基との結合を記載するものである。しかし、実際の大部分の環境では、1つの抗体と多価抗原との相互作用が問題となる。「結合活性(avidity)」という用語は、この結合を表現するために用いられる。結合活性に寄与する因子は複雑であり、抗原上の各決定基を指向する任意の血清における抗体の不均一性、および決定基それ自体の不均一性が含まれる。大部分の抗原が多価であることは、2つの抗原分子が1つの抗体によって結合するという個々の抗体の連結の算術的合計よりも常に大きく、通常は数倍の大きさである興味深い「ボーナス」効果をもたらす。したがって、1つの抗血清と1つの多価抗原との間で測定される結合活性は、1つの抗体と1つの抗原決定基との間の親和性よりも幾分高いと考えられる。
【0065】
抗体を作製するためのヌル PrP マウス
本発明により、耐性の問題は回避され、PrP遺伝子(Prnp)の両方の対立遺伝子が除去されたマウス(Prnp0/0)を一部に用いて、Moおよびその他のPrP上の広範なエピトープを認識する能力を持つ一連のモノクローナル抗体がより効率的に作製される(Buelerら、1992)。これらのPrP欠損マウス(またはヌルマウス)は、その発達および行動の点では正常マウスと区別不能である。これらのヌルマウスは、感染性MoPrPScの大脳内接種後にもスクレイピーに対する抵抗性を示す(Buelerら、1993 Cell;Prusinerら、PNAS 1992)。さらに、Prnp0/0マウスは、アジュバントとして比較的少量の精製されたSHaPrP 27〜30を用いて免疫化を行った後にMo−、SHaおよびヒトPrPに対するIgG血清抗体価を生じると考えられる(Prusinerら、PNAS 1993)。抗体が産生されるための十分な時間をおいた後に、免疫化されたPrnp0/0マウスを屠殺し、従来の方法でハイブリドーマを作製した。これらのマウスに由来する融合細胞は、PrPに特異的な抗体を分泌した。しかし、これらのハイブリドーマは、数時間を超えてPrP特異的抗体を分泌することはなかった。これでは十分に成功したとは思われないという観点から、異なる手法を用いた。
【0066】
ファージディスプレイ
コンビナトリアル抗体ライブラリー技術、すなわち、M13繊維状ファージの表面に発現させた抗体ライブラリーからの抗原に基づく選択は、モノクローナル抗体の作製に新たな手法を提供するものであり、プリオンの問題に関して特に適切であるハイブリドーマ法と比較して多くの利点を持つ(Huseら、1989;Barbasら、1991;Clacksonら、1991;BurtonおよびBarbas、1994)。本発明は、MoPrPによって免疫化されたPrnp0/0マウスから調製したファージ抗体ライブラリーから得たPrP特異的モノクローナル抗体を提供する目的でこの種の技術を用いる。本発明では、インサイチューでMoPrPを認識する第1のモノクローナル抗体が提供され、ヌルマウスから特異的な抗体をクローニングするためのコンビナトリアルライブラリーの応用が示される。ファージディスプレイ技術を用いる大規模なコンビナトリアルライブラリーの作製に含まれる一般的な方法は、1993年6月29日に発行された米国特許第5,223,409号に記載および開示されており、この特許はファージディスプレイ法の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0067】
ヌル動物
本発明は、本明細書では主としてヌルマウス、すなわち、PrP遺伝子の両方の対立遺伝子が除去されたFVBマウスに関して記載される。しかし、その他の宿主動物も使用可能であり、好ましい宿主動物はマウスおよびハムスターであるが、中でもマウスは、トランスジェニック動物の作出に関してかなりの知識が存在する点で最も好ましい。可能な宿主動物には、ハツカネズミ属(マウスなど)、ドブネズミ属(ラットなど)、アナウサギ属(ウサギなど)、ならびにハムスター(Mesocricetus)属(ハムスターなど)およびモルモット属(モルモットなど)から選択される属に所属するものが含まれる。一般に、正常な成体重量が1kg未満であるような哺乳動物は繁殖および維持が容易であって使用可能である。
【0068】
PrP 遺伝子
PrP遺伝子を構成する遺伝的材料は、多くの異なる動物種に関して知られている(Gabrielら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)を参照)。さらに、異なる哺乳動物のPrP遺伝子の間にはかなりの相同性が存在する。例えば、マウスPrPのアミノ酸配列をヒト、ウシおよびヒツジのPrPと比較したものを、その相違点のみに関して示した図2、3および4を参照されたい。PrP遺伝子に関する遺伝的な相同性はかなり高いものの、この違いには場合によっては意義がある。より具体的に言えば、異なる哺乳動物のPrP遺伝子によってコードされる蛋白質におけるわずかな違いのために、1つの哺乳動物(ヒトなど)に感染するプリオンは、異なる種の哺乳動物(マウスなど)には通常は感染しない。この「種間障壁」のため、ヒトなどの異なる動物を通常は感染させるプリオンが特定の試料に含まれるか否かを判定するためにマウスなどの通常の動物(すなわち、PrP蛋白質に関連した遺伝的材料が操作されていない動物)を用いることは一般的には可能ではない。本発明は、抗体がデザインされる対象である任意の種の動物の天然のPrPSc蛋白質と結合する抗体を提供することによって、この問題点を解決する。
【0069】
病原性の変異および多型
ヒトPrP遺伝子に多くの病原性変異が知られている。さらに、ヒト、ヒツジおよびウシのPrP遺伝子には多型が存在することが知られている。以下は、このような変異および多型を一覧表として示したものである。
【0070】
ヒト、ヒツジおよびウシのPrP遺伝子のDNA配列は決定されているため、それぞれの場合において、それらのそれぞれのプリオン蛋白質の完全なアミノ酸配列を予測することが可能である。大多数の個体で生じる正常なアミノ酸配列は、野生型のPrP配列と呼ばれる。この野生型配列は、特定の特徴的な多型的変異を生じることが多い。ヒトPrPの場合には、残基129(Met/Val)および219(Glu/Lys)に2種のアミノ酸多型がみられる。ヒツジPrPは、残基171および136に2種のアミノ酸多型を有し、ウシPrPは成熟型プリオン蛋白質のアミノ端領域内に8アミノ酸モチーフ配列の5回または6回の反復を有する。これらの多型はいずれもそれ自体に病原性はないが、プリオン病に影響を及ぼすと考えられる。これらの正常変異とは異なり、遺伝性ヒトプリオン病の形質を分離させる、PrPの特定のアミノ酸残基またはオクタリピート(8単位反復;octarepeat)の数が変化するようなヒトPrP遺伝子の特定の変異が同定されている。
【0071】
変異および多型を示した上記の一覧表にさらに大きな意味を持たせるために、すでに発表されているPrP遺伝子の配列を参照することができる。例えば、ニワトリ、ウシ、ヒツジ、ラットおよびマウスのPrP遺伝子は開示されており、ガブリエル(Gabriel)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9097〜9101(1992)に掲載されている。シリアンハムスターに関する配列は、バスラー(Basler)ら、Cell 46:417〜428(1986)に掲載されている。ヒツジのPrP遺伝子はゴールドマン(Goldmann)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2476〜2480(1990)に掲載されている。ウシに関するPrP遺伝子の配列はゴールドマンら、J. Gen. Virol. 72:201〜204(1991)に掲載されている。ニワトリPrP遺伝子に関する配列はハリス(Harris)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7664〜7668(1991)に掲載されている。ミンクに関するPrP遺伝子の配列はクレッチマー(Kretzschmer)ら、J. Gen. Virol. 73:2757〜2761(1992)に掲載されている。ヒトPrP遺伝子の配列はクレッチマーら、DNA 5:315〜324(1986)に掲載されている。マウスのPrP遺伝子の配列はロホト(Locht)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:6372〜6376(1986)に掲載されている。ヒツジに関するPrP遺伝子の配列はウェスタウェイ(Westaway)ら、Genes Dev. 8:959〜969(1994)に掲載されている。以上の刊行物はすべて、PrP遺伝子およびPrPのアミノ酸配列を開示および説明する目的で本明細書に参照として組み入れられる。
【0072】
ヒトプリオンの「系統」
齧歯類における研究では、プリオンの系統によってPrPScの蓄積に異なるパターンが生じ[Heckerら、Genes & Development 6:1213〜1228(1992);DeArmondら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6449〜6453(1993)]、それがPrPScの配列によって劇的に変化することが示されている[Carlsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、印刷中(1994)]。長い間、プリオンの多様性の分子的基盤は、スクレイピーに特異的な核酸に起因するとされてきた[Briceら、J.Gen.Virol. 68:79〜89(1987)]が、これは全く発見されていない[Meyerら、J.Gen.Virol. 72:37〜49(1991);Kellingら、J.Gen.Virol. 73:1025〜1029(1992)]。プリオンの系統を説明するための他の仮説には、PrPのAsnに結合した糖鎖の違い[Heckerら、Genes & Development 6:1213〜1228(1992)]およびPrPScの複数の配座異性体(conformer)[Prusiner, S.B.、Science 252:1515〜1522(1991)]によるものが含まれる。Tg(MHu2M)マウスにおけるPrPScのパターンは、CJDのために死亡したヒトから得た3種類の接種物に関して極めて類似していた。
接種を受けたTg(MHu2M)マウスの脳におけるPrPScの蓄積パターンは、RMLプリオンおよびHuプリオンについては著しく異なっていた。しかし、MoPrPScを含むRMLプリオン接種物は比較的多量のMoPrPScの形成を促したが、HuPrPCJDを含むHuプリオン接種物はMHu2MPrPScの産生を誘発した。神経細胞の空胞化および星状神経膠腫を特徴とする神経病理学的変化の分布は、RMLプリオンまたはHuプリオンを接種されたTg(MHu2M)マウスの脳におけるPrPScの蓄積パターンと同様である。
【0073】
標準化プリオン調製物
標準化プリオン調製物は、本発明のアッセイを試験し、それによりアッセイの信頼性を高めるために作製される。この調製物は任意の動物から得ることができるが、被験動物のプリオンを含む脳材料を有する宿主動物から得ることが好ましい。例えば、ヒトプリオン蛋白質遺伝子を含むトランスジェニックマウスは、ヒトプリオンを産生することができ、このようなマウスの脳は標準化ヒトプリオン調製物を作製するために用いることができる。さらに、本調製物が「標準」であるためには、それは好ましくは一連(例えば、100、1,000またはそれ以上の動物)の実質的に同一な動物から得られる。例えば、極めて多数のヒトPrP遺伝子(すべての多型および変異)のコピーをすべてが含む100匹のマウスは、疾患を自然発症すると思われ、各々から得た脳組織を組み合わせることによって有用な標準化されたプリオン調製物が作製されうると考えられる。
【0074】
標準化プリオン調製物は、上述されたタイプの任意の改変された宿主動物を用いて作製することができる。例えば、ヒト、ウシ、ヒツジまたはウマなどの遺伝的に異なる種のみを一般的には感染させるプリオンに対する感染性を獲得し、その改変された宿主動物がプリオンの接種から350日後またはそれ以内の期間のうちにCNS機能障害の臨床徴候を発症するように遺伝的に改変されたマウス、ラット、ハムスターまたはモルモットを用いて、標準化プリオン調製物を作製することができる。最も好ましい宿主動物はマウスであり、その理由は一部には、使用に高額の費用を要しないため、およびトランスジェニックマウスの作出に関して得られている経験の量が他の種類の宿主動物の作出に関する量よりも豊富であるためである。標準化されたプリオン調製物の作製に関する詳細は、1995年8月31日に提出された「試料中のプリオンを検出する方法、および同目的で使用されるトランスジェニック動物」と題する米国特許出願である米国特許出願番号第08/521,992号、および1996年7月30日に提出された「試料中のプリオンの検出、ならびに同目的で使用されるプリオン調製物およびトランスジェニック動物」と題する米国特許出願である弁理士明細書番号第06510/056001号に記載されており、これらの2件の出願はいずれも参照として本明細書に組み入れられる。
【0075】
マウスなどの適切な種類の宿主を選択したならば、次の段階は、標準化プリオン調製物の作製に用いるために適した種類の遺伝的操作を選択することである。例えば、マウスは、本発明のキメラ型遺伝子の挿入によって遺伝的に改変されたマウスであってもよい。この群のマウスは、キメラ型遺伝子の発現レベルを上昇させるために、多数のコピーのキメラ型遺伝子の導入および/または複数のプロモーターを導入されたものでもよい。または、内因性PrP遺伝子が除去されたマウスと、ゲノム内にヒトPrP遺伝子が挿入されたマウスとの交雑による本発明の雑種マウスを用いることもできる。当然ながら、このような雑種マウスにはさまざまな下位区分がある。例えば、発現の増強のために、ヒトPrP遺伝子を、多数のコピーとして挿入すること、および/または複数のプロモーターとともに使用することもできる。さらにもう1つの選択肢として、さまざまに異なる種類のプリオン、すなわち2つまたはそれ以上の種類の被験動物のみを一般的には感染させるものに対する感染性を有するマウスを作出するために、ゲノム内に複数の異なるPrP遺伝子を挿入することによってマウスを作出することもできる。例えば、ヒトの配列の一部、ウシの配列の一部を含む独立したキメラ型遺伝子、およびヒツジの配列の一部を含むさらにもう1つのキメラ型遺伝子を含むキメラ型遺伝子を含むマウスを作出することもできる。3つの異なる種類のキメラ型遺伝子のすべてがマウスのゲノムに挿入された場合には、そのマウスはヒト、ウシおよびヒツジのみを一般的には感染させるプリオンに対する感染性を有すると考えられる。
【0076】
適切な哺乳動物(マウスなど)および適切な様式の遺伝的改変(例えばキメラ型PrP遺伝子の挿入)を選択した後の次の段階は、プリオンに関連した遺伝的材料に関して実質的に同一な多数のそのような哺乳動物を作出することである。より具体的には、作出されるそれぞれのマウスは、ゲノム内に同一のキメラ型遺伝子を実質的に同一のコピー数で含むものであろう。これらのマウスは、マウスの95%またはそれ以上が接種から350日後またはそれ以内のうちにCNS機能障害の臨床徴候を発症して、すべてのマウスがほぼ同一時点、例えば互いに30日以内にこのようなCNS機能障害を発症するように、プリオンに関連した遺伝的材料に関して十分に遺伝的に同一である必要がある。
このようなマウスの、例えば50匹またはそれ以上、より好ましくは100匹またはそれ以上、さらに好ましくは500匹またはそれ以上の多数の群が作出された場合には、その次の段階は、遺伝的に異なる哺乳動物のみを一般的には感染させるプリオン、例えばヒト、ヒツジ、ウシまたはウマからのプリオンをマウスに接種することである。異なる群の哺乳動物に与える量はさまざまであってよい。哺乳動物にプリオンを接種した後は、その哺乳動物が例えばCNS機能障害の臨床徴候などのプリオン感染症の症状を呈するまでその哺乳動物を観察する。プリオン感染症の徴候を呈した後に、それぞれの哺乳動物の脳または少なくとも脳組織の一部を摘出する。摘出された脳組織をホモジェネートすることにより、標準化プリオン調製物が提供される。
【0077】
トランスジェニックマウスの群に遺伝的に異なる動物からのプリオンを接種する代わりに、プリオンに関連した疾患を自然発症するマウスを作出することも可能である。これは例えば、マウスゲノムに極めて多数のコピーのヒトPrP遺伝子を導入することによって実施することができる。コピー数を例えば100またはそれ以上に増やした場合には、マウスはCNS機能障害の臨床徴候を自然発症し、かつその脳組織内にはヒトを感染させる能力を有するプリオンを有すると考えられる。これらの動物の脳またはこれらの動物の脳組織の部分を摘出およびホモジェネートして、標準化プリオン調製物を作製することが可能である。
【0078】
標準化プリオン調製物は、そのまま使用することも、さまざまに異なる種類の陽性対照が提供されるような様式で希釈してごく一部を使用することもできる。より具体的には、既知の量のさまざまなこのような標準化調製物を、第1の組のトランスジェニック対照マウスに接種するために用いることができる。実質的に同一な第2の組のマウスには、試験される材料、すなわちプリオンを含む可能性のある材料を接種する。実質的に同一な第3の群のマウスには、いかなる材料も注入しない。続いて、この3つの群を観察する。マウスにいかなる材料も注入していないことから、第3の群は当然ながら発病しないはずである。もしこのようなマウスが発病するようであればアッセイは正確でなく、これはおそらく疾患を自然発症するマウスが作出された結果であると思われる。標準化調製物を注入された第1のマウスが発病しない場合もアッセイは不正確であり、これはおそらく、そのマウスが、遺伝的に異なる哺乳動物のみを一般的には感染させるプリオンを接種した場合に発病するように正しく作出されていないためであると考えられる。しかし、第1の群が発病して第3の群が発病しない場合には、アッセイは正確であると推定することができる。したがって、第2の群が発病しなければ被験材料はプリオンを含んでおらず、第2の群が発病すれば被験材料にはプリオンが含まれる。
【0079】
本発明の標準化プリオン調製物を用いることにより、プリオンを含む高度に希釈された組成物を作製することができる。例えば、100万分の1もしくはそれ未満の割合、または10億分の1もしくはそれ未満の割合で含む組成物を作製することができる。このような組成物は、プリオンの有無の検出における本発明の抗体、アッセイおよび方法の感度の試験に用いることができる。
【0080】
プリオン調製物は、一定量のプリオンを含むと考えられ、同型の背景から抽出されている点で望ましい。したがって、調製物中の混入物は一定であり、制御可能である。標準化プリオン調製物は、さまざまな医薬品、全血、血液分画、食品、化粧品、臓器、ならびに特に生きたヒトまたは死体に由来する臓器、血液およびその製品などの(生きている、または死亡した)動物に由来する任意の材料におけるプリオンの有無を判定するためのバイオアッセイの実施において有用であると考えられる。したがって、標準化プリオン調製物は、調製物を添加して特定の過程に関する変動の減少を評価するような、精製プロトコールのバリデーションに有意義である。
【0081】
有用な用途
上記および以下の詳細な実施例でさらに説明するように、本発明の方法を、広い範囲のさまざまな抗体、すなわち、さまざまな特定の特徴を有する抗体を作製するために用いることが可能である。例えば、単一の種の体内で通常生じるプリオン蛋白質のみと結合し、その他の種の体内で通常生じるプリオン蛋白質とは結合しない抗体を作製することができる。さらに、感染型プリオン蛋白質(例えばPrPSc)のみと結合し、非感染型(例えばPrPC)とは結合しないように抗体をデザインすることもできる。続いて、単一の抗体または一連の異なる抗体を用いてアッセイ装置を作成することもできる。このようなアッセイ装置は、当業者に公知の従来の技術を用いて調製することができる。抗体を公知の技法を用いて精製および単離し、公知の手順を用いて支持体表面に結合させることもできる。これによって得られる、抗体が結合した表面は、試料をアッセイして1種またはそれ以上の種類の抗体がその試料に含まれるか否かを判定するために用いることができる。例えば、ヒトPrPScのみと結合する抗体をある材料の表面に付着させることができ、ある試料をプロテイナーゼKによって変性させることができる。変性した試料を、材料の表面に結合した抗体と接触させる。全く結合が生じなければ、その試料にはヒトPrPScが含まれていないと推論することができる。
【0082】
また、本発明の抗体は、プリオンを中和する能力によっても特徴づけられる。具体的には、本発明の抗体をプリオンと結合させることによってプリオンの感染性は失われる。したがって、本発明の抗体組成物をあらゆる任意の製品に添加して、その製品中に存在するあらゆる感染性プリオン蛋白質を中和することができる。このため、ある製品が感染性プリオン蛋白質を含む可能性のある天然供給源から生産される場合には、本発明の抗体を予防措置として添加し、それによって感染性プリオン蛋白質に起因する感染の可能性をなくすことができると思われる。
【0083】
本発明の抗体は、イムノアフィニティークロマトグラフィー技術と組み合わせて用いることができる。より具体的には、本抗体をクロマトグラフィーカラム内の1つの材料の表面上に配置することができる。その後に、精製しようとする組成物をカラムへ通過させることができる。精製しようとする試料に、抗体と結合する何らかのプリオン蛋白質が含まれていれば、それらのプリオン蛋白質(PrPSc)は試料から除去され、それによって精製されると思われる。
【0084】
最後に、本発明の抗体は、哺乳動物の処理に用いることができる。本抗体を予防的に与えることも、感染性プリオン蛋白質にすでに感染していて、上記のアッセイの使用によってこの種の感染が判定された個体に投与することも可能である。投与する必要のある抗体の正確な量は、患者の年齢、性別、体重および病状などの多数の因子に応じて異なる。当業者は、少量の抗体を投与してその効果を判定し、その後に用量を調整することによって正確な量を決定することができる。用量は0.01mg/kgから約300mg/kgまでの範囲が可能であり、好ましくは約0.1mg/kgから約200mg/kg、より好ましくは約0.2mg/kgから約20mg/kgを、1日1回またはそれ以上の回数に分けて、1日または数日にわたって投与することが示唆されている。プリオンの感染性の「リバウンド」の発生を避けるために、抗体は2〜5日またはそれ以上の連続した日数にわたって投与することが好ましい。
【0085】
【実施例】
実施例
以下の実施例は、本発明のキメラ型遺伝子、トランスジェニックマウスおよびアッセイの作成および使用の仕方に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明らが発明とみなしている内容の範囲を制限するものではない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、実験的誤差および偏差が含まれていると考慮されるべきである。別に特記しない限り、各部分は総重量にしめる部分重量であり、分子量は加重平均された分子量であり、温度は℃で示し、圧力は大気圧またはその近傍圧である。
【0086】
抗体( Fab )を発現するファージディプレイ抗体ライブラリーの構築
抗体、特に抗体のFab部分を発現させるためのファージディプレイライブラリーの構築は、当技術分野では周知である。好ましくは、抗体を発現するファージディプレイ抗体ライブラリーは、1993年6月29日に発行された米国特許第5,223,409号、および1992年9月16日に提出された米国特許出願第07/945,515号に記載された方法に従って調製され、これらは参照として本明細書に組み入れられる。本発明の抗体を作製するために、本開示を用いて、一般的な方法の手順を適合させることが可能である。
【0087】
プリオン特異的抗体をコードする RNA の単離
一般に、抗PrP抗体に関するファージディスプレーライブラリーは、抗PrP抗体をコードするRNAを含むRNAのプールをまず単離することによって調製される。これを達成するには、ある動物(例えば、マウス、ラットまたはハムスター)に対して関心対象のプリオンによる免疫化を施す。しかし、通常の動物は、プリオンに対する抗体を検出可能または十分に高いレベルでは産生しない。この問題は、(PrP)遺伝子が両方の対立遺伝子とも除去された動物に対して免疫化を行うことによって回避される。このようなマウスはPrnp0/0と命名されており、このようなマウスを作出するための方法はビューラー(Bueler)、Nature(1992)および1993年5月27日に刊行されたワイスマン(Weismann)による国際公開公報第93/10227号に開示されている。「ヌル」動物へのプリオンの接種により、プリオンに対するIgG血清力価がもたらされる(Prusinerら、PNAS 1993)。1つの好ましい態様では、免疫化のために選択される動物は、ビューラーおよびワイスマンによって記載されたPrnp0/0マウスである。
一般に、「ヌル」動物において血清抗体反応を誘発させるために必要なプリオンの量は、約0.01mg/kgから約500mg/kgまでである。
【0088】
プリオン蛋白質は、動物に対して、一般に注射、好ましくは腹腔内または静脈内注射、より好ましくは腹腔内注射によって投与される。動物には1回注射を行った後、引き続いて少なくとも1回から4回のブースター(booster)注射、好ましくは3回のブースター注射を行う。免疫化の後に、当技術分野では周知の方法に従って、ELISAまたはウエスタンブロット法などの標準的な免疫学的アッセイを用いて、その動物の抗血清のプリオンに対する反応性を試験することが可能である(例えば、HarlowおよびLane、1988、抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照のこと)。プリオン結合性の抗血清を有する動物に対して、さらにプリオンを注射することによって追加抗原刺激(boost)を行ってもよい。
【0089】
血清の抗体レベルは、抗体分泌の予測値であり、したがって、リンパ球、特に形質細胞における特定のmRNAのレベルの予測値でもある。このため、血清抗体、特に比較的高レベルの血清抗体の検出は、そのような血清抗体をコードするmRNAを産生する形質細胞などの高レベルのリンパ球と相関している。このため、プリオン蛋白質による免疫化を受けたマウスから単離された形質細胞は、特にその形質細胞が最後の注射による追加抗原刺激から短期間(例えば、約2〜5日、好ましくは3日)のうちにマウスから単離された場合には、プリオン特異的抗体を産生するリンパ球(例えば形質細胞)を高い比率で含むと思われる。このため、マウスの免疫化およびその後の注射による追加抗原刺激は、マウスの形質細胞の全集団の中に存在する抗PrP抗体産生性の形質細胞の全体的な比率を高めるために有用である。さらに、抗PrP抗体は最高血清レベルまたはその付近で産生されるため、抗PrP抗体産生性の形質細胞は抗PrP抗体を産生しているところであり、このためこれらの抗体をコードするmRNAも最高レベルまたはその付近である。
【0090】
抗原特異的抗体の血清レベル、このような抗原特異的抗体を産生するリンパ球の数、および抗原特異的抗体をコードするmRNAの総量の間にみられる上記の相関によって、関心対象の抗原特異的抗体をコードするmRNAに富むmRNAのプールを単離するための手段が提供される。当技術分野で周知の方法に従って(例えば、Huseら、Science 1989を参照)、形質細胞を含むリンパ球を、プリオンによる免疫化を受けた動物の脾臓および/または骨髄から単離する。好ましくはリンパ球は、最後の追加抗原刺激から約2〜5日後、好ましくは約3日後に単離する。続いて、これらの細胞から全RNAを抽出する。哺乳動物細胞からRNAを単離するための方法は、当技術分野では周知である(例えば、Sambrookら、1989、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYを参照)。
【0091】
リンパ球 mRNA からの、抗体をコードする cDNA の産生
当技術分野で周知の方法に従い(例えば、Sambrookら、前記を参照)、逆転写酵素を用いて、単離したRNAからcDNAを産生させ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、抗体の重鎖または軽鎖をコードするcDNAを増幅する。重鎖または軽鎖をコードするcDNAを増幅するために用いる3’プライマーは、特定の抗体サブクラスの重鎖または軽鎖抗体に共通した既知のヌクレオチド配列に基づく。例えば、IgG1サブクラスの重鎖を増幅するためには、IgG1の重鎖をコードする遺伝子の定常領域に基づく1組のプライマーを用いることができ、一方、IgG1サブクラスの軽鎖を増幅するためには、IgG1の軽鎖をコードする遺伝子の定常部分に基づく別の組のプライマーが用いられる。5’プライマーは、データベース中の多数の可変領域の検討に基づいて得られたコンセンサス配列である。このようにして、特定の抗体クラスまたはサブクラスのすべての抗体をコードするDNAが、増幅されたDNAによってコードされる抗体の抗原特異性にはかかわらずに増幅される。重鎖または軽鎖をコードする遺伝子全体を増幅することが可能である。または、そのPCR増幅産物が、その対応する重鎖または軽鎖と会合して、抗原結合において機能する、すなわちプリオン蛋白質と選択的に結合することができる重鎖または軽鎖遺伝子産物をコードする限りにおいて、重鎖または軽鎖をコードする遺伝子の一部のみを増幅してもよい。好ましくは、このファージディスプレイ産物は、FabまたはFv抗体断片である。
【0092】
増幅のために選択された、抗体をコードするcDNAは、任意のアイソタイプをコードすることができ、好ましくはIgGのサブクラスをコードする。模範的なマウスIgGサブクラスには、IgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3が含まれる。増幅を目的とする特定の抗体サブクラスをコードするcDNAの選択は、例えば、抗原に対するその動物の血清抗体の反応などを含む種々の因子によって異なる。好ましくは、PCR増幅を目的として選択される、抗体サブクラスをコードするcDNAは、その動物が最も高い抗体価を有する抗体を産生する抗体サブクラスのものである。例えば、血清IgG1の抗体価が、血清抗体反応において検出される他のどのIgGサブクラスよりも高ければ、IgG1をコードするcDNAをcDNAプールから増幅する。
好ましくは、重鎖および軽鎖を形質細胞cDNAから増幅することにより、1)重鎖cDNAの増幅産物を含んでいて、その重鎖が特定の抗体サブクラスのものであるcDNAプール、および2)軽鎖cDNAの増幅産物を含んでいて、その軽鎖が特定の抗体サブクラスのものであるcDNAプール、という2つの別々に増幅されたcDNAプールが作製される。
【0093】
トランスジェニック動物からの抗体
ある動物にある抗原を感染させて、その後に抗体産生に寄与する細胞(およびそのDNA)を取り出すことによって抗体をコードする遺伝的材料を得ることに加えて、キメラ型マウス/ヒトもしくは完全なヒト抗体を作製するために、トランスジェニック動物の作出または上記の技術およびトランスジェニック技術の使用によって遺伝的材料を得ることも可能である。キメラ型または完全に外来性の免疫グロブリンを作製するための技術には、所望の抗原と結合する免疫グロブリンの全体または一部をコードする遺伝的材料がその生殖細胞系に挿入されたトランスジェニック動物の細胞からの入手が含まれる。完全なヒト抗体は、ヒト抗体をコードする遺伝的材料がそのゲノムに挿入されたトランスジェニック動物に産生させることができる。トランスジェニック動物にこのような抗体を産生させるための技術は、1990年4月19日に刊行された国際公開公報第93/10227号に記載されている。さらに、グッドハード(Goodhartd)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.第84巻4229〜4233ページ、1987年6月、およびブッチーネ(Bucchine)ら、Nature、第326巻、409〜411ページ、1987年3月26日も参照され、これらはすべて、トランスジェニック動物に抗体を産生させる方法の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0094】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーとともに用いるためのベクター
続いて、重鎖をコードするcDNAおよび軽鎖をコードするcDNAのそれぞれを、適したベクターの別々の発現カセット中に挿入する。好ましくは、本ベクターは、アミノ末端からカルボキシ末端の順に、1)原核生物の分泌シグナルドメイン、2)異種ポリペプチドをコードするDNA(例えば、重鎖または軽鎖をコードするcDNAのいずれか)のための、重鎖cDNAのための発現カセット中にある挿入部位、および3)繊維状ファージ膜アンカードメイン、を含む融合ポリペプチドをコードしていて、これを発現する能力を有するヌクレオチド配列を含む。
本ベクターは、融合ポリペプチドを発現させるために原核生物または哺乳動物のDNAの発現調節配列、好ましくは原核生物の調節配列を含む。このDNA発現調節配列は、構造遺伝子の産物を発現するための任意の発現シグナルを含むことができ、異種ポリペプチドの発現のために、発現カセットに機能的に結合した5’および3’要素を含むことができる。この5’調節配列には、転写を開始するための1つのプロモーター、および上流にある翻訳可能な配列の5’末端で機能的に結合された1つのリボソーム結合部位が規定される。このベクターは、原核細胞、好ましくは大腸菌などのグラム陰性細胞における維持および複製のための複製開始点をさらに含む。また、本ベクターは、その発現によって、そのベクターによる形質転換を受けた原核または真核細胞に薬剤耐性などの選択的な利点が付与される遺伝子も含むことができる。
繊維状ファージ膜アンカーは、好ましくは、繊維状ファージ粒子の基質と会合し、それによって融合ポリペプチドをファージ表面に取り込む能力を持つcpIIIまたはcpVIIIコート蛋白質の1つのドメインである。分泌シグナルは、その蛋白質がグラム陰性菌の周辺質膜(periplasmic membrane)を標的とするようにさせる、蛋白質のリーダーペプチドドメインである。グラム陰性菌(大腸菌など)に関するこのようなリーダー配列は、当技術分野では周知である(例えば、Oliverら、Neidhard, F.C.(編)、大腸菌およびネズミチフス菌(Escherichia coli and Salmonella typhimurium)、American Society for Microbiology、Washington, D.C.、1:56〜69、1987)。
【0095】
ファージディスプレイベクター中で用いるための繊維状ファージ膜アンカー
ベクターのための好ましい膜アンカーは、繊維状ファージM13、f1、fdおよび同等の繊維状ファージから得ることができる。好ましい膜アンカードメインは、遺伝子IIIおよび遺伝子VIIIによってコードされるコート蛋白質中に認められる。繊維状ファージのコート蛋白質の膜アンカードメインはコート蛋白質のカルボキシ末端領域の一部であり、脂質二重膜の両端に架橋するための疎水性アミノ酸残基の領域、および膜の細胞質面に通常認められ、膜から伸長する荷電アミノ酸残基を含む。ファージf1では、遺伝子VIIIコート蛋白質の膜架橋領域は、第41位から第52位までのカルボキシ末端の11残基を含む(Ohkawaら、J. Biol. Chem.、256:9951〜9958、1981)。模範的な膜アンカーは、cpVIIIに対して第25位から40位までの残基を含むと考えられる。したがって、好ましい膜アンカードメインのアミノ酸残基配列は、M13繊維状ファージ遺伝子のVIIIコード蛋白質に由来する(cpVIIIまたはCP 8とも呼ばれる)。遺伝子VIIIのコート蛋白質は、成熟した繊維状ファージの大半のファージ粒子上に存在し、典型的にはコート蛋白質が約2500〜3000コピー存在する。
【0096】
もう1つの好ましい膜アンカードメインのアミノ酸残基配列は、M13繊維状ファージ遺伝子IIIのコート蛋白質に由来する(cpIIIとも呼ばれる)。遺伝子IIIのコート蛋白質は、成熟した繊維状ファージのファージ粒子の一端に存在し、典型的にはコート蛋白質が約4〜6コピー存在する。繊維状ファージ粒子、それらのコート蛋白質、および粒子集団の構造に関する詳細な説明は、ラシェッド(Rached)ら(Microbiol. Rev.、50:401〜427、1986)およびモデル(Model)ら(バクテリオファージ:第2巻(Bacteriophage:Vol.2)、R. Calender編、Plenum Publishing Co., p375〜456、1988)による総説の中に見いだされる。
【0097】
好ましくは、繊維状ファージ膜アンカーをコードするDNAは、ファージ膜アンカーをコードするDNAを容易に切除することができ、ベクターの発現カセットの残りの部分を破壊することなくベクターが取り除かれるように、ライブラリーベクター中のcDNA挿入物の3’側に挿入される。ファージ膜アンカーをコードするDNAのベクターからの除去、および適切な宿主細胞における本ベクターの発現により、可溶性の抗体(Fab)断片の産生がもたらされる。この可溶性Fab断片はファージと結合した状態のFabの抗原性を保持しており、このため、抗体の全体(断片化していないもの)が用いられるアッセイおよび治療法に用いることができる。
【0098】
本発明とともに用いるためのベクターは、ヘテロ二量体の受容体(1つの抗体または抗体Fabなどのようなもの)を発現する能力を有する必要がある。すなわち、本ベクターは2つの別々のcDNA挿入物(例えば、重鎖cDNAおよび軽鎖cDNA)を独立に包含および発現する能力を有する必要がある。各発現カセットは、その繊維状ファージのアンカー膜をコードするDNAが重鎖cDNAに関する発現カセット中のみに存在する場合を除いて、上記の諸要素を含むことができる。したがって、抗体またはFabがファージの表面上に発現される場合には、ファージ表面には重鎖ポリペプチドのみが係留される。軽鎖はファージ表面に直接的には結合しないが、重鎖ポリペプチドの自由部分(すなわち、ファージ表面と結合していない重鎖の部分)との会合を介してファージと間接的に結合する。
【0099】
好ましくは、本ベクターは、定方向性連結を可能とする1つのヌクレオチド配列、すなわちポリリンカーを含む。ポリリンカーは、上流および下流に位置する複製および輸送のための翻訳可能なDNA配列と機能的に結合していて、ベクター中へのDNA配列の定方向性連結のための部位または手段を提供する、発現ベクターの1つの領域である。典型的には、定方向性ポリリンカーは、2つまたはそれ以上の制限酵素認識配列すなわち制限部位が規定されたヌクレオチド配列である。制限酵素による切断が起こると、この2つの部位から、翻訳可能なDNA配列をDNA発現ベクターに連結することができる付着末端が生じる。好ましくは、この2つの付着末端は非相補的であり、このためにカセット中へのcDNAの定方向性挿入が可能となる。ポリリンカーは1つまたは複数の定方向性クローニング部位を提供するものであり、挿入されたcDNAの発現期間中に翻訳されてもされなくてもよい。
【0100】
好ましくは、本発現ベクターは、繊維状ファージ粒子の形態における操作を可能とするものである。このようなDNA発現ベクターは、適切な遺伝的相補体が提示された場合に、そのベクターが1本鎖複製形態の繊維状ファージとして複製され、繊維状ファージ粒子中にパッケージングされるように、繊維状ファージの複製開始点が規定された1つのヌクレオチド配列をさらに含む。この特徴は、本DNA発現ベクターに対して、引き続いて行う個々のファージ粒子の単離のためにファージ粒子中にパッケージングされる能力を提供する(例えば、単離された細菌コロニーの感染、およびその中での複製による)。
【0101】
繊維状ファージの複製開始点は、複製開始、複製終了、および複製によって生じた複製形態のパッケージングのための部位が規定された、ファージのゲノムの1つの領域である(例えば、Raschedら、Microbiol. Rev.、50:401〜427、1986;Horiuchi、J. Biol. Chem. 188:215〜223、1986を参照のこと)。本発明における使用のために好ましい繊維状ファージの複製開始点は、M13、f1またはfdファージの複製開始点である(Shortら、Nucl. Acids Res.、16:7583〜7600、1988)。好ましいDNA発現ベクターは、発現ベクターpCOMB8、pCKAB8、pCOMB2−8、pCOMB3、pCKAB3、pCOMB2−3、pCOMB2−3’およびpCOMB3Hである。
【0102】
pComb3Hベクターは、(i)重鎖および軽鎖が個々のプロモーターではなく単一のLacプロモーターによって発現され、(ii)重鎖および軽鎖が、同一のリーダー配列(pHB)ではなく2種類の異なるリーダー配列(pg1BおよびompA)を有する、改変型のpComb3である。pComb3Hに関する参考文献には、ワング(Wang)ら(1995)、J. Biol. Chem.、印刷中がある。pComb3Hの原理は、基本的にはpComb3に関するものと同じである。
【0103】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーの作製
重鎖および軽鎖のcDNAを発現ベクター内にクローニングした後、適切な繊維状ファージを用いて全ライブラリーのパッケージングを行う。続いて、このファージを用いてファージ感受性の細菌培養物(大腸菌の菌株など)を感染させ、ファージの複製および細胞の溶解を行わせてから、破壊された細菌細胞の細片から溶解物を単離する。このファージ溶解物には、免疫化された動物から単離されてクローニングされた重鎖および軽鎖を表面に発現する繊維状ファージが含まれる。一般に、重鎖および軽鎖はFab抗体断片としてファージ表面上に存在し、Fabの重鎖は融合ポリペプチドの繊維状ファージ膜アンカー部分を介してファージ表面に係留されている。軽鎖は重鎖と結合して抗原結合部位を形成する。キメラ型抗体を作製する方法は、1989年3月28日にキャビリー(Cabilly)らに発行された米国特許第4,816,567号に記載されており、これはこのような手順の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。さらにボブルゼッカ(Bobrzecka)ら、Immunology Letters、2、p.151〜155(1980)およびコニーツニー(Konieczny)ら、Haematologia 14(1)、p.85〜91(1981)も参照されたく、以上は参照として本明細書に組み入れられる。
【0104】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーからのプリオン抗原特異的 Fab の選択
1つのプリオン抗原と特異的に結合するFabまたは抗体を発現するファージは、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体の同定および単離のためのさまざまな手順のいずれを用いて単離することもできる。このような方法には、イムノアフィニティー精製(例えば、抗体を結合させたカラムに対するファージの結合)および抗体パニング法(例えば、抗原に対する高い結合親和性を持つファージを選択するための、固体支持体に結合させた抗原に対する反復実施によるファージの結合)が含まれる。好ましくは、ファージは、当技術分野で周知の技法を用いるパニングによって選択される。
抗PrP抗体を発現するファージの同定および単離の後には、ファージを用いて細菌培養物を感染させることができ、そこで単一のファージ単離物が同定される。それぞれの別個のファージ単離物を、上記の1つまたは複数の方法を用いてさらにスクリーニングすることができる。抗原に対するファージの親和性をさらに確実にするため、および/または抗原に対するファージの相対的親和性を決定するために、その抗体またはFabをコードするDNAをファージから単離して、ベクター内に含まれる重鎖および軽鎖のヌクレオチドを、当技術分野で周知の方法(例えば、Sambrookら、前記を参照)を用いて決定することができる。
【0105】
ファージディスプレイ抗体ライブラリーから選択されたファージからの可溶性 Fab の単離
可溶性抗体またはFabは、抗体の重鎖に関する発現カセットと関連した繊維状ファージアンカー膜をコードするDNAを切除することにより、同じ二シストロン性(dicistronic)ベクターの改変型ディスプレイから産生させることができる。好ましくは、アンカー膜をコードするDNAは、重鎖発現カセットの残りの部分の破壊、または発現ベクターのその他のあらゆる部分の破壊を起こさずにアンカー膜配列の切除を可能とする、好都合な制限部位に隣接している。続いて、アンカー膜配列を持たない改変されたベクターに、その改変ベクターのパッケージングおよび細菌細胞への感染を行った後に、可溶性重鎖と同時に可溶性軽鎖を産生させる。
または、ベクターが適切な哺乳動物の発現配列を含む場合には、Fabを産生させるために、改変されたベクターを用いて真核細胞(例えば、哺乳動物または酵母細胞、好ましくは哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)に形質転換を施すこともできる。改変されたベクターが真核細胞での発現を生じない場合には、好ましくは本ベクターは、適切なベクターへのサブクローニングのために、重鎖および軽鎖の両方の発現カセットを単一のDNA断片として切除されうる。真核細胞および/または原核細胞における蛋白質の発現のためには、多数のベクターが、商業的に入手可能および/または当技術分野で周知である(例えば、Sambrookら、前記を参照)。
【0106】
商業的アッセイ
以下の実施例14〜18、特に実施例17は、何ら変性を生じさせずに、PrPScに対して特異的に結合する抗体の単離を示している。PrP蛋白質(すなわち、PrPCおよびPrPSc)を含む試料は、プロテアーゼK(PK)による消化を用いて変性させることができる。この種のものの使用は、PrPCは消化するが、PrPScは消化しないと考えられる。したがって、消化実施後に、実施例17の通りに、適切な結合条件下でこの試料を抗体(例えばR2)と接触させる。好ましくは、この抗体はある基質と結合しており、試料を抗体が表面に結合された基質材料と容易に接触させられるように配置することができる。材料が基質表面に結合した抗体と結合すれば、感染性PrPScの存在が確認される。
【0107】
本発明の商業的な態様では、本発明の抗体をサンドイッチ型アッセイにおいて用いることが望ましい。より具体的には、本発明の抗体を、1つの基質支持体表面に結合させることができる。試験しようとする試料を、結合が生じる条件下で支持体表面と接触させる。その後、反応していない部分をブロックし、その上にあるあらゆる蛋白質と結合すると思われる普遍的抗体を表面と接触させる。検出可能な標識がなされた普遍的抗体を、支持体表面上の抗体と結合したあらゆるPrPScと結合させる。結合が生じると標識が発色などによって検出可能となり、それによって標識の存在が示され、そのことから試料中のPrPScの存在が間接的に示される。本アッセイは、100万分の1またはそれ未満、さらに10億分の1またはそれ未満の割合の量で存在するプリオン(PrPSc)の検出が可能である。PrPScは、(a)動物供給源から抽出された治療的に活性な成分を含む薬学的製剤、(b)ヒト供給源から抽出された成分、(c)ヒト供給源から抽出された器官、組織、体液または細胞、(d)注射剤、経口剤、クリーム剤、坐剤および肺内投与製剤からなる群より選択される製剤、(e)化粧品、および(f)哺乳動物の細胞培養物から抽出された薬学的に活性な化合物、からなる群より選択される1つの供給源の中に存在する可能性がある。また、このような供給源の材料は、本発明の抗体を添加することにより、PrPSc蛋白質が除去または中和されるよう処理することが可能である。また、本発明には、それを必要とするある哺乳動物に対する、PrPSc蛋白質の感染性を中和する能力を特徴とする抗体であって、PrPSc蛋白質と選択的に結合する抗体の治療的有効量の投与を含む、処理の方法も含まれる。
【0108】
一般化された手順
本発明の抗体は、さまざまな技法によって得ることができると思われる。しかし、一般的な手順には、ファージ表面上における蛋白質(すなわち、抗体またはその一部)のライブラリーの合成が含まれる。続いて、このライブラリーを、PrP蛋白質を含む組成物、特にPrPScを含む天然に生じる組成物と接触させる。PrP蛋白質と結合するファージを、続いて単離し、PrP蛋白質と結合する抗体またはその一部を単離する。その抗体またはその一部をコードする遺伝的材料の配列を決定することが望ましい。さらに、その他の抗体の産生のために、この配列を増幅して、それ単独または他の遺伝的材料とともに適切なベクターおよび細胞系列に挿入することができる。例えば、PrPScと結合する可変領域をコードする配列を、定常/可変構築物を産生する1つの抗体のヒト定常領域をコードする1つの配列と融合させることができる。この構築物を増幅して、ヒト化抗体の産生のために適した細胞系列への挿入が可能な適切なベクターに挿入することもできる。このような手順は、1989年3月28日にキャビリー(Cabilly)らに発行された米国特許第4,816,567号に記載されており、これはこのような手順の開示および記載のために参照として本明細書に組み入れられる。さらにボブルゼッカ(Bobrzecka)ら、Immunology Letters、2、p.151〜155(1980)およびコニーツニー(Konieczny)ら、Haematologia 14(1)、p.85〜91(1981)も参照され、以上も参照として本明細書に組み入れられる。
【0109】
PrP蛋白質と結合する抗体またはその部分をコードする遺伝的材料が単離された場合には、その遺伝的材料を用いて、PrPに対するより高い親和性を有する他の抗体またはその一部を産生させることが可能である。これは、位置指定突然変異誘発の技術、またはランダム突然変異誘発および選択によって実施される。具体的には、配列内部にある個々のコドンまたはコドンの群を除去するか、異なるアミノ酸をコードするコドンによって置換する。この結果、多数の異なる配列の形成、増幅、および付加的なファージの表面上における抗体またはその一部の変異体の発現のための使用が可能となる。これらのファージは、続いて、PrP蛋白質に対する抗体の結合親和性の試験のために用いることができる。
【0110】
ファージライブラリーは、各種の異なる方法で作製することができる。1つの手順によれば、マウスまたはラットなどの1つの宿主動物にPrP蛋白質による免疫化、好ましくはPrPScによる免疫化を施す。免疫化は、より多量および多種の抗体を形成させるためにアジュバントを併用して実施してもよい。抗体が産生されるための十分な時間をおいた後に、接種された宿主哺乳動物から抗体産生をもたらす細胞を採取する。採取した細胞からRNAを単離し、cDNAライブラリーを作製するために逆転写にかける。抽出したcDNAをプライマーを用いて増幅し、適切なファージディスプレイベクターに挿入する。このベクターにより、ファージ表面上に抗原またはその一部を発現させる。ディスプレイベクターへの挿入の前に、cDNAに位置指定突然変異を施すことも可能である。具体的には、より規模の大きいライブラリー(すなわち、多数の変異体を有するライブラリー)を作製するために、コドンを除去するか、または異なるアミノ酸を発現するコドンによって置換し、続いてそれをファージの表面上に発現させる。その後、上記の通りに、ファージを試料と接触させ、PrP蛋白質と結合したファージを単離する。
【0111】
【実施例】
実施例
以下の実施例は、本発明のアッセイおよび組換え抗PrP抗体の作成および使用の仕方に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明らが発明とみなしている内容の範囲を制限するものではない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、実験的誤差および偏差が含まれていると考慮されるべきである。別に特記しない限り、各部分は総重量にしめる部分重量であり、分子量は加重平均された分子量であり、温度は℃で示し、圧力は大気圧またはその近傍圧である。
【0112】
実施例 1
MoPrP 27 〜 30 の精製
MoPrP 27〜30の精製ロッドは、RMLプリオン(チャンドラースクレイピー単離物(Chandler R.L.、1961、Lancet、1378〜1379))を接種され、臨床的に罹患したCD−1マウスの脳から調製した。プリオンのロッドは、以前に記載されている通りに(Prusiner, McKinley 1983 Cell)、ショ糖密度勾配分画によって回収した。簡潔に示すと、48〜60%(重量/容積比)ショ糖中に沈殿するプリオンのロッドを含む分画を、蒸留水にて2:1に希釈し、100,000×gの遠心処理を4℃で6時間行った。ペレットを水中に再懸濁し、再度遠心処理にかけた後に、0.2%サルコシルを含む、Ca/Mg非含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にロッドを再懸濁した。PrP 27〜30は、SDS−PAGEおよび銀染色分析によって決定された主要な蛋白質であった。蛋白質の定量化は、既知の量のウシ血清アルブミンを蛋白質濃度の標準として用いるビシンコニン酸色素結合法によって実施した。
【0113】
実施例 2
Prnp 0/0 マウスの免疫化
PrP遺伝子の両方の対立遺伝子(Prnp)が除去されたPrnp0/0マウスに対して、実施例1に記載した通りに単離した、精製されたMoPrP 27〜30のロッドによる免疫化を施した。Prnp0/0マウスおよび本系統を作出するための方法は、当技術分野では周知である(Buelerら、1992)。Prnp0/0マウスは、発達および行動の点では正常マウスと区別不能であり、感染性MoPrPScの大脳内接種後にもスクレイピーに対する抵抗性を示し(Buelerら、1993 Cell;Prusinerら、PNAS 1993)、アジュバントとして比較的少量の精製されたSHaPrP 27〜30を用いて免疫化を行った後にMo−、SHaおよびヒトPrPに対するIgG血清抗体価を生じると考えられる(Prusinerら、PNAS 1993)。
6週齢のPrnp0/0マウス3匹(3)に対して、完全フロインドアジュバント中に十分に乳化させたMoPrP 27〜30ロッド100μgの腹腔内注射による免疫化を施した。引き続いてマウスに対して、1回目はロッド100μgを含み、2回目はロッド50μgを含む不完全フロインドアジュバントにより、2週間間隔で2回の追加抗原刺激を行った。2回目の追加抗原刺激から4日後に、以下の実施例3に記載した通りに、各マウス血清のプリオン蛋白質に対する反応性を分析した。抗PrP反応性の抗血清を有していたマウスに対して、2回目の追加抗原刺激から14日後に、50μgのプリオンロッドを含む不完全フロインドアジュバントによる3回目の注射による追加抗原刺激を行った。
【0114】
実施例 3
MoPrP 27 〜 30 による免疫化を受けた Prnp 0/0 マウスの血清反応性
コンビナトリアルライブラリーからの特異的な抗体の単離が成功したことを示す主要な予測指標は、検討しようとする抗原に対する血清抗体の反応性である(BurtonおよびBarbas、Adv. Immunol. 1994)。血清の抗体レベルは、抗体分泌の予測因子であり、このため形質細胞中の特定のmRNAのレベルの予測因子でもある。抗体をコードするcDNAライブラリーの組成物を最終的に指示するのは、この後者の因子である。
2回目の追加抗原刺激から4日後に、実施例2で説明した通りにMoPrP 27〜30による免疫化を受けたPrnp0/0マウスの尾部から採血し、続いて実施する免疫学的分析のために、抗血清を−20℃で保存した。免疫化を受けたマウス血清(IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3の各抗体サブクラス)の、変性および非変性のMo−およびShaPrP 27〜30に対する反応性をELISAで測定した。ELISAのウェルには、40μg/mlのPrPロッドを含むpH8.6の100mM重炭酸ナトリウム50μlを用いて4℃で一晩コーティングを施した。ELISAにおける抗原としては変性PrPロッドを用い、6Mイソチオシアン酸グアニジウムを50μl添加して室温で15分放置した後に、ウェルをCa/Mg非含有PBSで6回洗った。続いて、3%BSAを含むCa/Mg非含有PBSによってすべてのウェルをブロックした。抗血清はPBSによって連続希釈し、ウェルとともに37℃で1時間インキュベートした。余剰の抗血清を10.05% Tween 20を含むPBSで10回洗うことによって除去し、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3マウス抗体のいずれかと特異的に結合する標識化ヤギ抗マウス抗体を用いて結合状態の抗血清を検出した。
3匹のマウスはすべて抗PrP IgG抗体を産生した。これらのマウスのうちD7282と命名した1匹の血清反応性を、免疫化されたマウスの抗体反応の模範例として図5に示した。Mo−およびSHaのPrP抗原に対する血清抗体価が最も高かったのは、IgG1およびIgG2サブクラスであった。これに対して、IgG2aおよびIgG3の抗PrP抗体価は、免疫化を受けていないPrnp0/0マウスの血清におけるすべてのIgGサブクラスで認められたバックグラウンドレベルの反応性と近似していた。抗体価は、変性ロッドに対する値の方が非変性ロッドに対するものよりも高かった。Mo−およびSHaの変性ロッドに対する血清反応性の類似は、この2つの蛋白質の間にアミノ酸配列の高度の相同性があることを反映する可能性が高いと考えられる。しかし、非変性Mo−ロッドに対してかなり高い血清反応性(変性MoPrP 27〜30に関するレベルの約40〜50%の値)がみられたものの、非変性SHaロッドに関する反応性はバックグラウンドレベルにあった。
【0115】
実施例 4
抗 PrP 抗体をコードする mRNA の単離、およびファージディスプレイ抗体ライブラリーの構築
注射による最後の追加抗原刺激から3日後に、D7282マウスを屠殺し、骨髄および脾臓組織からRNAを調製した。マウス脾臓からの全RNAの調製は、当技術分野で周知の方法(Huseら、Science 1989)に従って実施した。骨髄組織からのRNAの調製は、まずマウスの両側後肢から脛骨および腓骨を摘出することによって行った。続いて骨を各端部の近傍で切断し、27ゲージ針を用いて骨小腔にイソチオシアン酸グアニジウムを注入することにより、それらの内容物を流し出した。続いて、マウス脾臓に関して説明するものと同じようにしてRNAの調製を続けた。
【0116】
続いてこのRNA調製物をプールし、当技術分野で周知の方法に従って、逆転写酵素を用いてmRNAからcDNAを作製した。D7282マウスのmRNAから、1)IgG1ライブラリー、および2)IgG2bライブラリーの2つのcDNAライブラリーを独立に構築した。これらのライブラリーの各々について、重鎖をコードするcDNAおよび軽鎖のcDNAを、プールしたcDNAの別々の分画からPCRによって別々に増幅した。IgG1サブクラスのマウス軽(κ)鎖および重(α1またはα2b)鎖をコードするDNA断片のPCR増幅に用いたオリゴヌクレオチド5’および3’プライマーは、ヒューズ(Huse)ら(Science 1989)が用いたものと同じであり、表1に提示しているその他の重鎖プライマーおよび表1に提示している重鎖ポリマーと同じであった。プライマーは、重鎖断片をコードするcDNAの増幅に用いた。
【表1】
【0117】
PCRはパーキンエルマー(Perkin Elmer)9600を用いて実施し、94℃での変性を30秒間、52℃でのハイブリダイゼーションを60秒間、および72℃での伸長を60秒間行う増幅処理を35周期にわたって行った。
この結果得られた、IgG1ならびにIgG2bサブクラスの重鎖および軽鎖をコードする増幅されたcDNAを、ベクターpComb3にクローニングした。pComb3ベクターを用いて、繊維状ファージの表面上に表示されたFab抗体ライブラリーを調製する方法はすでに記載されている(Williamsonら、PNAS、1993;Barbasら、PNAS 1991)。簡潔に示すと、各ベクターがベクターの1つの発現カセット中に重鎖断片をコードする1つのcDNA挿入物を含んで、ベクターの別の発現カセット中に軽鎖断片をコードするcDNA挿入物が挿入されるように、IgG1またはIgG2bの重鎖をコードする増幅されたcDNAおよび軽鎖をコードする増幅されたcDNAをpComb3ベクター内に挿入することによって、IgG1またはIgG2bのファージディスプレイライブラリーを構築する。その結果得られるIgG1ライブラリーは約9×106個の独立したクローンを含んでおり、得られたIgG2bライブラリーは約7×105個の独立したクローンを含んでいた。
【0118】
続いて、この連結されたベクターに、当技術分野で周知の方法(例えば、Sambrookら、前記を参照)を用いて、繊維状ファージM13によるパッケージングを施した。続いて、ファージ粒子の数を増幅するために、パッケージングがなされたライブラリーを用いて大腸菌の培養物を感染させる。細菌細胞の溶解が生じた後に、ファージ粒子を単離し、次に行うパニング手順に用いた。後の増幅および使用のために、ファージライブラリーはいくつかに均等に分割して保存する。ファージライブラリーの別々の分割物は、後の増幅および使用のため分けて保存する。
【0119】
実施例 5
PrP との結合に関するファージディスプレイ抗体ライブラリーのスクリーニング抗原結合性ファージを、(Burtonら、PNAS 1991、Barbas Lerner Methods in Enzymol 1991)に記載されたパニング手順によってELISAウェルに結合させたPrP抗原に対する変性MoPrP 27〜30ロッドの結合性に関して選択した。簡潔に示すと、40μg/mlのMoPrPロッドを含むpH8.6の100mM重炭酸ナトリウム50μlによって、ELISAウェルに4℃で一晩コーティングを施した。続いて、6Mイソチオシアン酸グアニジウム50μlとともに室温で15分インキュベートすることによってPrPロッドを変性させ、その後にウェルをCa/Mg非含有PBSで6回洗った。続いて3%BSAを含むCa/Mg非含有PBSによってすべてのウェルをブロックした。
抗体ファージの均等分割物を、PrPをコートした別々のELISAウェルに対して適用した。パニング実験では、1ウェル当たり合計約1×1010個の抗体ファージを添加した。
このファージを、強く結合したMoPrP抗原とともに37℃で2時間インキュベートした。結合しなかったファージを0.05%Tween 20を含むPBSで10回洗うことによって除去した。続いて、結合したファージを酸溶出によってウェルから取り外してプールし、再増幅の後に2回目のパニングの対象とした。
パニングを5回実施することによってIgG1ライブラリーを選択した。1回目のパニングから5回目までの測定の間に、PrPコードを施したELISAウェルから溶出したファージの数によって決定されるPrP特異的抗体ファージは40倍に増幅された。
【0120】
実施例 6
選択された抗体産生ファージによる可溶性 Fab の産生
4回目および5回目のパニング時に溶出されたファージクローンから可溶性Fabが産生された。選択されたファージクローンから得たDNAを単離し、適切な制限酵素を用いて、pComb3Hベクターからファージコート蛋白質III(繊維状ファージ膜アンカー)を取り除いた。このDNAは自己連結を起こし、それによって可溶性Fabを発現する能力を持つベクターが生じる(可溶性Fabを産生させる手順は(Barbasら、PNAS 1991)に詳細な記載がある)。続いて、以上のベクターを別々に用いてFabを発現するように細菌に形質転換を施し、単離された形質転換株を選択する。
Fabの発現は、細菌培養物にイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを加えて一晩放置することで誘導させた。この細菌に遠心処理を施し、この結果得られた細菌ペレットに超音波処理または3回の凍結解凍処理を行い、細菌の細胞膜周辺腔からFabを放出させた。続いて、ELISAでPrPに対する細菌Fab上清の反応性を検討した。
【0121】
実施例 7
抗 PrP Fab の PrP 抗原との結合に関する ELISA 分析
実施例6で産生された可溶性Fabの、変性および非変性PrP抗原ならびに合計PrPペプチドとの結合を、実施例3で説明したELISAアッセイを用いて評価した。合成PrPペプチドは、当技術分野で周知である従来のペプチド合成手順を用いて作製した。
変性MoPrPロッドに対する4回目のパニング時に採取したFabクローンのうち、変性PrPに対する反応性を有していたのは5%未満であったが、5回目の同じパニングの際に採取したクローンの約50%はPrP抗原を認識した。ELISAでは、このパニングで得たすべての反応性クローンは、変性MoおよびSHaロッドと特異的に結合する能力を持っていたが、どちらの種の非変性ロッドとも結合しなかった。さらに、すべての抗PrP Fabが、MoおよびSHaのPrPの残基90〜145にわたる範囲の合成ペプチドを認識せず、このことから以上の抗体はプリオン蛋白質の残基146から231までの間に結合することが示唆された。
【0122】
実施例 8
プリオンに感染した、および感染していない齧歯類の脳組織に対する、選択された抗 PrP 抗体( Fab )の結合に関する分析
ファージディスプレイ抗体ライブラリーのパニングによって同定された抗体の反応性を、プリオンに感染した齧歯類の脳組織のSDS/PAGE、および選択されたFabを用いるウエスタンブロット分析によって検討した。プリオンに感染した、および感染していないマウスの脳組織から得た蛋白質を、免疫反応性を検討する抗原として用いた。抗原は、Ca/Mg非含有PBS中に浸したマウス脳組織を20ゲージ針に5回通過させ、続いて22ゲージ針に10回通過させて破砕することによって調製した。続いて、10%(重量/容積比)ホモジェネートに1600×g、4℃の遠心処理を5分間行った。上清蛋白質の均等分割物を0.2サルコシルを含むCa/Mg非含有PBSによって希釈し、最終濃度を1mg/mlとした。この希釈物を等容積の非還元性2倍SDS/PAGE試料緩衝液と混合し、5分間煮沸した後にSDS/PAGE(Laemmli, U.K.(1970)Nature(London)227、680〜685)にかけた。免疫ブロット法は、1:1000に希釈したマウスIgG一次抗血清を用いて、以前に記載されている通りに実施した(Panら、PNAS 1993)。
【0123】
実施例 9
核酸の塩基配列決定
いくつかのPrP特異的クローンに関して、抗体の軽鎖および重鎖の可変領域のヌクレオチドならびにアミノ酸配列を決定した。核酸の塩基配列決定は、Taq蛍光ジデオキシヌクレオシド終結サイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems)を用いて、モデル373A自動DNAシークエンサー(Applied Biosystems)によって行った。抗体の軽鎖配列を解明するためのプライマーは、(−)鎖とハイブリダイズするプライマーMoSeqKb[5’−CAC GAC TGA GGC ACC TCC−3’]およびOmpSeq[5’−AAG ACA GCT ATC GCG ATT GCA G−3’]であり、重鎖については(+)鎖と結合するMOIgGGzSeq[5’−ATA GCC CTT GAC CAG GCA TCC CAG GGT CAC−3’]および(−)鎖と結合するPelSeq[5’−ACC TAT TGC CTA CGG CAG CCG−3’]である。
変性PrPに対する1回のパニングで得たいくつかのファージクローンに関して導出されたアミノ酸配列を図6および7に提示した。図6は、マウスD7282から得たIgG1ライブラリーの変性MoPrP 27〜30ロッドに対するパニングによって作製され、選択された重鎖(A)および軽鎖(B)の可変領域のアミノ酸配列を示している。以上の配列は極めて類似しているが、不均一な部分も多数含んでおり、これはマウスをPrP抗原に反復曝露した後の体細胞変異の結果である可能性が高い。これらのクローンで検討した重鎖配列はすべて、極めて類似した配列を含んでいた。特に重鎖相補性決定領域3(HCDR3)は、検討したすべてのFabクローンにおいてヌクレオチドレベルで一致していた。重鎖のCDR1、CDR2、フレームワーク(FR)3およびFR4にはわずかな差異が認められた。これらの差異は多数であったため、PCRまたは塩基配列決定時の誤差のためとは考えにくく、おそらくはマウスが抗原による反復刺激を受けたことによる体細胞変異の間に生じたものと考えられる。軽鎖の配列も極めて類似していたが、可変領域の全体にわたって局所的な不均一性が認められ、これもおそらく体細胞変異に起因すると考えられた。
【0124】
実施例 10
存在する抗体によるエピトープのマスキング後の抗プリオン抗体の選択
変性PrPに対するIgG1ライブラリーのパニングによって、おそらく単一のエピトープを指向する1つのクローンの体細胞変異体と考えられる、一連の関連した抗体が作製された(実施例9)。他のエピトープに対する抗体を得るため、通常のやり方のパニングを行う前に、上記の一連のものに由来するプロトタイプ抗体をELISAウェル中にある変性PrPに添加した。以降のすべてのパニング段階でこのマスキング抗体を用いた。この手順を用いた場合、抗体は、ELISAにおいて変性PrPと反応する異なる配列に由来していた。これらの抗体は、PrP上の異なるエピトープを指向する可能性が高いと考えられる。マスキングの手順は、ディツェル(Ditzel)ら(1985)J. Immunol.に記載されている通りに実施した。PrPと相互作用する抗体以外の分子を用いてマスキングを実施することも可能と思われる。
【0125】
実施例 11
PrP Sc に対して特異的な抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択
PrPScと結合するがPrPCとは結合しないファージクローンを同定するために、各実施例で説明したものと同様のファージディスプレイ抗体ライブラリーに対してパニングを行う。PrPSc抗原およびPrPC抗原は、ELISAアッセイに関して記載した通りに、マイクロタイター用ディッシュの別々のウェルに結合させる。ファージディスプレイ抗体ライブラリーをまずPrPCの入ったELISAウェルに対してパニングする。結合しなかったファージはウェルから取り除いてプールする。PrPC抗原と結合したファージはウェルから採取し、廃棄するか、または後の分析のためにプールする。続いて、プールした非結合性のファージをPrPCが入ったELISAウェルに再び添加して、PrPCに対して結合しない点に基づいて再度選択する。PrPC抗原上で何度か繰り返して選択した後に、ファージをプールし、PrPSc抗原を含むELISAウェルに対するパニングを行った。このパニングを数回繰り返し、それによってPrPSc抗原と結合するファージがさらに複数回のパニングによって選択されるようにした。PrPSc抗原に対するパニングを5〜10回行った後に、ファージをそれぞれ単離した。PrPSc特異的ファージまたは単離されたFabのPrPC抗原に対する結合能は、PrPC抗原を用いるELISAによって再確認が可能である。この結果選択されるファージは、PrPScと結合するが、PrPCとは結合しない。
【0126】
実施例 12
アイソフォームとは無関係に PrP Sc を同定する抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択
PrPScアイソフォームによる複数回の免疫化を受けたマウスから得たリンパ球RNAから、またはさまざまな種類のPrPScアイソフォームによる免疫化を受けた数匹のマウスから得たリンパ球RNAのプールから、上記の通りに、ファージディスプレイ抗体ライブラリーを調製する。続いて、このファージをPrPScの異なるアイソフォームに由来する抗原を含む複数の異なるウェルを用いてパニングする。ファージのパニングは、各段階でそのアイソフォームと結合するファージを選択しながら、PrPScの各アイソフォームに対して行う。ファージのパニングは、PrPScの各アイソフォームについて合計約5〜10回実施する。検討したすべてのアイソフォームに対するパニングの全段階の後に残ったファージを続いて単離する。選択された各ファージまたは単離されたFabの免疫反応性を、種々のPrPScアイソフォームのそれぞれに対するELISA、ウエスタンブロット法または組織化学的分析によって検討し、同じくPrPCとの交差反応性も検討した。
【0127】
実施例 13
PrP Sc のアイソフォームに特異的な抗 PrP 抗体を発現するファージ粒子の選択特定のPrPScアイソフォームによる免疫化を受けたマウスのリンパ球mRNAから調製されるファージディスプレイ抗体ライブラリーを、上記の実施例に従って調製する。続いて、結果として得られたファージを、1つの特定のPrPScアイソフォームのみと結合する能力に関してパニングによって選択する。このパニングには、それに対する特異的抗体が望まれる特定のPrPScアイソフォームに由来する抗原を含む一式のウェルを含む、PrPScのさまざまなアイソフォームに由来する抗原を含む複数の異なるウェルを用いる。まずファージを、望ましくないPrPScアイソフォームに対してパニングし、その抗原と結合しないファージを選択する。パニングは、PrPScアイソフォームのそれぞれに関して合計約5〜10回連続して行う。続いて、望ましくないPrPScアイソフォームと結合しないファージを、望ましいPrPScアイソフォームに対して約5〜10回パニングして、抗原と結合するものを選択する。すべてのパニングを実施した後に残ったファージを単離する。選択されたこれらのファージは、望ましい特定のPrPScアイソフォームのみに対する結合特異性を有する抗体を発現するものである。選択された各ファージまたは単離されたFabの免疫反応性を、種々のPrPScアイソフォームのそれぞれに対するELISAまたはウエスタンブロットによって検討し、同じくPrPCとの交差反応性も検討する。
【0128】
実施例 14
Prnp 0/0 マウスにおける PrP Sc に対する血清反応性の生成および特徴分析上記の実施例に示した実験法により、107pfu/ml前後のサイズを有するコンビナトリアルライブラリーからの特異的な抗体の単離が成功したことを示す主要な予測指標が、検討しようとする抗原に対する血清抗体の反応性であり、ライブラリーの組成物を最終的に指示するのは、この因子であることが確立された。Prnp0/0マウスは、PrP 27〜30蛋白質を有するマウス(Mo)またはシリアンハムスター(SHa)のプリオンロッドのいずれかによる免疫化により、直ちに強い免疫応答を明らかに示したが、最も高い血清抗体価が認められたのは、IgG1およびIgG2サブクラスであった。IgG2aおよびIgG3の抗PrP抗体価は、免疫化を受けていないPrnp0/0マウスの血清ですべてのIgGサブクラスに関して認められたバックグラウンドレベルの反応性と近似していた。PrPScに対する免疫応答を高め、免疫レパートリー(immune repertoire)を増大させる試みにおいて、Prnp0/0(94%FVB)雌マウスにSHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化を行った。免疫応答の多様性をさらに高めるために、短期的および長期的手順の両方を用いてマウスに免疫化を施した。SHaプリオンロッドによる免疫化の場合とは対照的に、SHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化では、4種のIgGサブクラスのすべてを含む抗血清抗体価が得られた。
【0129】
実施例 15
ヒストブロットに対する、 PrP による免疫化で得られた血清の反応性
SHaPrP 27〜30を含むリポソームによる免疫化を受けたマウスから得た血清中に認められたIgG抗SHaPrP 27〜30の性質をさらに調べるために、本発明者らは、正常およびスクレイピーに感染したSHaの脳のクリオスタット切片をニトロセルロース膜上に移行させるヒストブロット法により、血清をインサイチューで検討した。プロテイナーゼK(PK)で処理した正常SHaの脳切片には両方の血清とも若干の非特異的反応性を示したが、PKで処理したSHaスクレイピー感染脳切片に対する反応性の増加が示されたのは長期的な免疫化を受けたマウスからの血清のみであった。この反応性は、血清を1/1000に希釈した場合にも明らかであった(結果は提示せず)。いずれの血清とも、まずPKで処理して、続いて3M GdnSCNに10分間曝露させたPK処理SHaスクレイピー感染脳切片に対しては典型的な反応性を示した。免疫化を受けていないPrnp0/0(94%FVB)雌マウスからの血清は、正常なSHa脳切片、スクレイピー感染SHa脳切片に対して全く免疫反応性を示さなかった。
【0130】
スクレイピーに感染した SHa 脳のヒストブロットにおける SHaPrP 27 〜 30 および変性 SHaPrP の染色
正常な、接種を受けていない対照SHa、およびSc237プリオンの接種後にスクレイピーの臨床徴候を呈したSHaからPrPCを除去するために、ヒストブロットをプロテイナーゼKによって処理した。SHaPrPを変性させるために、ヒストブロットを3M GdnSCNで10分間処理した。短期的および長期的な免疫化を受けたマウスから得た血清の1/200希釈物とともに、ブロットを4℃で一晩インキュベートした。本明細書に記載した結果では、抗血清が、変性していない感染性プリオン、すなわち天然のPrPScと明らかな陽性の反応を生じることが示された。
図8は、スクレイピーに感染したSHa脳に関する、染色された8種の異なるヒストブロットを示している。正常な、接種を受けていない対照SHa(A、C、EおよびG)、およびSc237プリオンの接種後にスクレイピーの臨床徴候を呈したSHa(B、D、FおよびH)からPrPCを除去するために、以上のヒストブロットをプロテイナーゼKによって処理した。SHaPrPを変性させるために、ヒストブロットを3M GdnSCNで10分間処理した(C、D、GおよびH)。短期的(A〜D)および長期的(E〜H)な免疫化を受けたマウスから得た血清の1/200希釈物とともに、ブロットを4℃で一晩インキュベートした。以上の結果から、本発明の抗体が天然の変性していない感染性プリオンに対する結合能を有する、すなわち天然のPrPScに対する結合能を有することが明らかに示された。
【0131】
実施例 16
実施例 14 の免疫化マウスからのモノクローナル抗体の作製
合計8種のファージFabディスプレイライブラリーを構築した:短期的および長期的な免疫化を受けたマウスから採取したmRNAからのIgG1κ、IgG2aκ、IgG2κおよびIgG3κである。PrP 27〜30を含むプリオンロッドに対するパニングによって抗PrP Fabを発現するファージを単離する際の困難さを克服するために、ライブラリーをビオチン化SHa 27〜30に対してパニングし、リポソーム中に分散化させて、ストレプトアビジンでコートしたマイクロタイター用プレートと結合させる1つのパニング系を用いた。5回のパニングの後に、50種を超えるクローンからの大腸菌抽出物を、ELISAにてビオチン化SHa 27〜30、SHa 27〜30ロッドおよび90〜231組換えSHaと反応させた。これらのクローンは、SHaPrPの残基90〜231に対応する組換えrPrPとも反応するため(メルホーン(Melhorn, I)ら、プリオン蛋白質の精製された142残基ポリペプチドの高レベルの発現および特徴分析(High−level Expression and Characterization of a Purified 142−residue Polypeptide of the Prion Protein)、Biochemistry 35、5528〜2237(1996))、事実上すべてのライブラリーからより異質なクローンを首尾よく単離するために、8種のライブラリーのすべてをこの抗原に対してパニングした。IgGの重鎖をコードするプラスミドの領域のDNAシークエンシングにより、別個のクローンとして30種のFabが同定された。
【0132】
実施例 17
モノクローナル抗体の特徴分析
陽性クローンからの大腸菌抽出物による最初のELISAにより、3F4モノクローナル抗体とは異なり(カスザック(Kascsak, R.J.)ら、「スクレイピーに関連した繊維性蛋白質に対するマウスのポリクローナルおよびモノクローナル抗体(Mouse polyclonal and monoclonal antibody to scrapie−assocoated fibril proteins)」、J. Virol. 61:3688〜3693(1987))、以上のFabは、天然の状態の、すなわち変性段階を経ずともPrP 27〜30と結合することが示唆された。これらのFabの新規性を定量的な特徴として示すために、本発明者らはそれらを精製し、酵素的切断によってモノクローナル抗体3F4から3F4 Fabを作製した。さまざまな濃度の精製Fabを用いて、SHaPrPの検出のための標準的なELISAを実施した。特徴的なSHa PrPの結合特性(プリオンロッドに対する基礎的結合、および3M非変性GdnSCNで処理されたSHaPrP 27〜30に対する強い反応性)を示した3F4とは対照的に、新たに単離されたFabは何ら変性段階を経ずともプリオンロッドと反応した。非変性プリオンロッドとの最大半減結合(half−maximal binding)が得られたのはFabの濃度が約0.5pg/mlの場合であり、このことから、本抗体の見かけの結合親和性は約108mol/lであることが示された。
図9は、プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示したグラフである。さまざまな濃度の抗体3F4および組換え抗体の、ショ糖精製を行った0.2μgの感染性SHaプリオンロッドでコートしたELISAウェルに対する結合性を評価した。この結果から、本発明のすべての組換え抗体は、抗体3F4と比べて、プリオンに対して実質的により高い結合性を有することが明らかに示された。
【0133】
変性プリオン蛋白質 SHa 27 〜 30 に対する精製 Fab の ELISA 反応性に関する手順
さまざまな濃度の精製3F4 Fabおよび組換えFabを、ショ糖精製を行った天然型またはELISAウェル中にて3M非変性GdnSCNで10分間処理した変性型のSHaプリオンロッド0.2μgによってコートしたELISAウェルに対する結合性について評価した。
図10は、変性プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示したグラフである。図9と比較して図10は、図9の通りの本発明の組換え抗体は3F4と比べてプリオンロッドに対するより高い親和性を示したが、R1を除くすべての組換え抗体は変性抗原に対してより低い親和性を示した点で興味深い。
【0134】
実施例 18
免疫沈降法によるモノクローナル抗体の特徴分析
SHaPrP 27 〜 30 の免疫沈降
Fabの抗PrP 27〜30活性の確認と同時に、3F4が非変性SHaPrP 27〜30と結合する能力を持たないことの確認のために、SHa 27〜30を含むリポソームを用いる免疫沈降法を開発した。Fab産生クローンからの大腸菌抽出物により、溶液中に存在するSHaPrP 27〜30の40〜50%が免疫沈降を生じたが、1/500に希釈した3F4によって免疫沈降を生じたのは痕跡量のSHaPrPのみであった。細菌上清におけるFabの濃度は典型的には1〜10pg/mlのオーダーであった。このことは、抗原に対する親和性が高いことを意味する(107〜108mol/lまたはそれ以上)。抗体3F4は腹水として得られ、免疫沈降実験では約1μg/mlの濃度に希釈して使用されたものと考えられる。新たなFabがSHaPrP 27〜30の免疫沈降をもたらす能力を、3F4との比較により、精製したFab mAb D4およびR2を用いて評価した。Fab 2Rは、0.1pg/ml(500pl中に50ng)という低濃度でもSHaPrP 27〜30を強力に免疫沈降させ、このことから、親和性が108M−2(すなわち108mol/l)よりも高いオーダーであることが示された。Fab 2Rの能力はそれよりも低かったが、3F4よりは効率的に明らかな抗原の免疫沈降を引き起こした。D4、R2、6D2、D14、R1およびR10はすべて本発明の抗体として言及されることに留意する必要がある。
組換え Fab による SHaPrP 27 〜 30 の免疫沈降
【0135】
1/500に希釈した3F4、およびFabを含む大腸菌抽出物100μlがSHaPrP 27〜30の免疫沈降を引き起こす能力を、ウエスタンブロット法によって観測した。レーン14を除くすべてのレーンは、ヤギ抗マウスIgG FabおよびプロテインAアガロースを含む免疫沈降物である。レーン1、3、5、7、9、11、13にはSHaPrP 27〜30を含むリポソーム10μlを添加した。異なるさまざまなクローンからの1/500に希釈した大腸菌抽出物100μlを以下の通りに添加した:レーン2〜3、6D2;レーン4〜5、D14;レーン6〜7、R1;レーン8〜9、R10;レーン10〜11、D4;レーン12〜13、3F4。レーン14には免疫沈降に用いた量の1/2の容積のリポソームをロードした。
【0136】
上記の結果は、図11の写真に示されている。写真には、本発明の組換え抗体を用いた場合により高度の免疫沈降が生じたことが示されている。
【0137】
図12は、本発明の精製されたFab(2Rおよび4D)ならびに3F4によるSHaPrP 27〜30の免疫沈降を示す写真である。抗原の免疫沈降を引き起こす能力はウエスタンブロット法によって観測した。レーン14を除くすべてのレーンは、ヤギ抗マウスIgG FabおよびプロテインAアガロースを含む免疫沈降物である。結果を得るために、レーン5、9および13を除くすべてのレーンに、SHaPrP 27〜30を含むリポソーム10μlを添加した。レーン2〜13の各レーンには、添加した精製Fabの量(ng)をあわせて表示した。レーン14には、免疫沈降に用いた量の半分の容積のリポソームをローディングした。以上の結果は、本発明の抗体2Rおよび4Dを用いた場合には、3F4と比べて著しく高度の免疫沈降が生じたことを示している。
【0138】
ELISAのデータ(図9)は、多数のFabが非変性PrP 27〜30と飽和性結合を生じ、その最大半減結合が0.5μ/ml前後であることを明らかに示している。これは見かけの結合定数108M−1(Fabの分子量=50,000)に対応する。同時に、3F4は2μg/mlまでの範囲で明らかな結合性を示さなかった。図10に示した変性PrP 27〜30との場合には、組換えFabはより高いレベルで結合するが、見かけの親和性は同程度である。このことは、変性がより抗原性の高い部位で生じたものの、それらの親和性は変わらなかったことを示唆する。重要なことに、3F4はこの場合には組換えFabと同程度に結合し、見かけの親和性は108M−1のオーダーである。図9および図10の3F4に関するデータの比較から、非変性型におけるPrP 27〜30の完全性が強く示唆される。このことから、これらの組換えFabが、PrP 27〜30の調製物中に存在する変性PrPの分画と反応したと考えることも可能であろう。しかし、3F4が非変性PrP 27〜30との反応性を示さず、さらに変性PrP 27〜30とは強い反応性を示したことは、この解釈を否定するものであり、これらの組換えFabが非変性ロッドを高い親和性で認識することを強く示唆している。
【0139】
免疫沈降データは、ELISAのデータを裏づけるものである。粗細菌上清中に認められるような低濃度の組換えFab(典型的には1〜10μl/ml)は、PrP 27〜30を免疫沈降させる高い効力を有する(図11)。これは107〜108M−1のオーダーの親和性を意味する。これに相当する濃度条件下では、3F4は明らかな沈降を引き起こさない。より定量的な分析(図12)では、Fab R2が0.1〜0.2μg/mlの範囲の若干の滴下によって非常に効率的にPrP 27〜30の免疫沈降を引き起こすことが示されており、これは結合親和性が108M−1のオーダーであることを意味する。Fab 4Dの親和性はこれよりも低く、3F4による免疫沈降は実際に極めて弱いものであった。この詳細な実験からみて、3F4の親和性は5×107M−1よりもかなり低く、おそらく107M−1よりも低いと考えられる。
【0140】
【発明の効果】
これらを総合すると、以上のデータは、これらの組換えFabが107〜108M−1の範囲の親和性を有することを示している。
本明細書では、本発明に関して最も実践的であって好ましい態様と考えられるものを示し、説明している。しかし、この内容からの逸脱も本発明の範囲にあり、本開示を読むことにより当業者には改変が想起されることが理解される必要がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、正常野生型のヒトPrP蛋白質と正常野生型のマウスPrP蛋白質との間の相違点を示すPrP蛋白質の部分の模式図である。
【図2】図2は、マウスPrPのアミノ酸配列を、マウスPrPとヒトPrPとの間の明確な相違点とともに示したものである。
【図3】図3は、マウスPrPのアミノ酸配列を示しており、特にマウスPrPとウシPrPとの間の相違点を示したものである。
【図4】図4は、マウスPrPのアミノ酸配列を示しており、特にマウスPrPとヒツジPrPとの間の明確な相違点を示したものである。
【図5】図5は、変性マウスPrP 27〜30に対するマウス(D7282)の血清の反応に関して、血清希釈度と405nmにおける光学濃度との関係を示した棒グラフである。
【図6】図6は、マウスD7282から得たIgG1ライブラリーを変性MoPrP 27〜30ロッドに対してパニング(panning)することによって作製した、選択された(A)重鎖および(B)軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示したものである。
【図7】図7は、PrPに対する1回のパニングで得られたファージクローンの一部に関して導出されたアミノ酸配列を示したものである。
【図8】図8A〜8Hは、SHaPrP 27〜30および変性SHaPrP 27〜30の染色結果を示すヒストブロット8A、8B、8C、8D、8E、8F、8Gおよび8Hの写真である。
【図9】図9は、プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示すグラフである。
【図10】図10は、変性プリオン蛋白質SHa 27〜30に対する精製FabのELISA反応性を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の組換えFabによるSHaPrP 27〜30のアミノ沈降を示す写真である。
【図12】図12は、本発明の精製FabによるSHaPrP 27〜30のアミノ沈降を示す写真である。
Claims (10)
- インサイチューでPrPScと結合する能力を特徴とする抗体。
- 抗体が、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、ニワトリおよびネコからなる群より選択される哺乳動物のPrPScと特異的に結合し、さらに抗体が天然の非変性型のヒトPrPScと特異的に結合し、その抗体が107 l/molまたはそれ以上の結合親和性KaでPrPScと結合する、請求項1記載の抗体。
- Kaが108 l/molまたはそれ以上である、請求項2記載の抗体。
- 以下の段階を含む過程によって作製される、PrPScと特異的に結合する抗体:
(a)ファージ上において抗体ライブラリーを合成する段階、
(b)ファージをPrP蛋白質を含む組成物と接触させることにより、試料に対してライブラリーをパニングする段階、
(c) PrPSc蛋白質と結合するファージを単離する段階。 - ファージ上における抗体ライブラリーが、
(1a)免疫応答を生じさせるための、PrP蛋白質による宿主哺乳動物の免疫化、
(2a)宿主哺乳動物からの、抗体の産生を引き起こす細胞の採取、
(3a) (2a)の細胞からのRNAの単離、
(4a) cDNAを作製するためのRNAの逆転写、
(5a)プライマーを用いてのcDNAの増幅、および
(6a)抗体がファージ上に発現されるようなファージディスプレイベクターへの(5a)のcDNAの挿入、
によって調製される、請求項4記載の抗体。 - リポソーム中に分散された抗原が、プロテイナーゼKによって消化されないPrPScのコア部分であって、該コア部分がビオチン化されている、リポソーム中に分散された抗原に対して抗体をパニングする段階、
をさらに含む過程によって得られる、請求項4記載の抗体。 - 以下の段階を含む、ある供給源中のヒトPrPScを検出する方法:
ヒトPrPScを含むことが疑われる供給源を、供給源中のヒトPrPScの50%またはそれ以上と特異的に結合する診断的有効量の抗体と接触させる段階、および該抗体が供給源中の何らかの材料と特異的に結合するか否かを判定する段階。 - 支持体の表面、および
支持体の表面と結合した抗体であって、インサイチューで天然のPrPScと107 l/molまたはそれ以上の結合親和性で結合する能力を持つことを特徴とする抗体、
を含むアッセイ。 - 抗体が、液体流動可能な試料中のPrPScの50%またはそれ以上と結合する能力によって特徴づけられる、請求項8記載のアッセイ。
- 複数の異なる抗体が支持体の表面に結合していて、それぞれの抗体がPrPScに対して107 l/molまたはそれ以上のKaを有する、請求項8記載のアッセイ。
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