JP2004002369A - 医薬組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来より医薬品として有用な創傷治癒促進作用を示す物質及びその物質を用いた医薬の提供を目的とする。
【解決手段】ヘパラン硫酸とグルコサミンとの同時投与を行った際に相乗的な創傷治癒効果が発現することに基づき、ヘパラン硫酸とグルコサミンとから成る組成物及びヘパラン硫酸のグルコサミン塩の提供、及び、これら物質を有効成分として用いた医薬、特に、皮膚や粘膜、角膜上皮層等における損傷を伴う疾患の治癒に有用な医薬。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グリコサミノグリカンの1種であるヘパラン硫酸又は薬理学的に許容されうるその塩とアミノ糖であるグルコサミン又は薬理学的に許容されうるその塩とからなる組成物を有効成分として含有する医薬に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
創傷治癒作用を促進する手段としては、治癒に関わる細胞の増殖または移動を促進する方法や創傷治癒に必要とされる成分を体外から補給する方法が考えられる。
【0003】
前者の方法に関連して、従来より、創傷部位の細胞増殖を促進する物質として線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)等が、更に、細胞移動を促進する物質としてはフィブロネクチン等がそれぞれ報告され、創傷治癒治療への利用が検討されている。
【0004】
後者の方法としては、創傷治癒に必要とされる主要な細胞外基質成分であるコラーゲンやプロテオグリカン、及びそれらの生合成原料である各種アミノ酸やグリコサミノグリカン鎖の原料の供給が考えられる。しかし、外的に生合成原料を供給するには、考慮しなければならない種々の問題がある。
【0005】
例えば、プロテオグリカンを構成するグリコサミノグリカン鎖の構成糖であるグルクロン酸やイズロン酸などのウロン酸類とN−アセチルグルコサミンやN−アセチルガラクトサミンなどのアミノ糖類は、それぞれ、生合成経路においてグルコースからウリジン二リン酸―糖に変換された後、グリコサミノグリカンの構成糖として利用されている。ウリジン二リン酸―アミノ糖の生合成経路中にはウリジン二リン酸―N―アセチルグルコサミンの生合成量により調節を受ける律速酵素が存在し、生合成量の増加に従い生合成経路中の反応に抑制がかかり、アミノ糖類が不足する事態が発生する可能性があると推察されている。
【0006】
この様に、外的に生合成原料を供給する場合には、この様な律速酵素の存在を考慮し、また、外的に供給した物質の生合成反応への利用率などを検討する必要がある。
【0007】
なお、グリコサミノグリカンの一種であるヘパラン硫酸に関しては、種々の成長因子の効果を増強する作用が知られており、角膜上皮障害の治癒において、ヘパラン硫酸ナトリウム、N−アセチルグルコサミンがその治癒を促進させることが報告されている(特許文献)。
【0008】
【特許文献】特開平10−287570号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ヘパラン硫酸の単独投与による創傷治癒促進作用を既に見出していたが、更により効果的で、且つ、医薬品として有用な創傷治癒促進作用を示す物質及びその様な物質を利用した医薬を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヘパラン硫酸の投与と同時にグルコサミンを投与することにより、ヘパラン硫酸単独投与では得られない相乗的な創傷治癒効果を奏することを見出し、これに基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ヘパラン硫酸又は薬理学的に許容されうるその塩とグルコサミン又は薬理学的に許容されうるその塩とからなる組成物を有効成分として含有することを特徴とする医薬。
(2)組成物が、ヘパラン硫酸グルコサミン塩を含むものである上記(1)記載の医薬。
(3)ヘパラン硫酸グルコサミン塩が、ヘパラン硫酸塩を陰イオン交換樹脂に吸着させ、グルコサミン塩溶液で溶出することにより得られるヘパラン硫酸グルコサミン塩である、上記(2)記載の医薬。
(4)ヘパラン硫酸グルコサミン塩が、ヘパラン硫酸とグルコサミンとの中和反応により得られるヘパラン硫酸グルコサミン塩である、上記(2)記載の医薬。(5)創傷治癒効果を有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬。
(6)粘膜の損傷に対する創傷治癒効果を有する上記(5)に記載の医薬。
(7)角膜上皮障害症治療剤である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)ヘパラン硫酸グルコサミン塩。
(9)グルコサミン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分とする、ヘパラン硫酸の創傷治癒効果の促進剤。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、ヘパラン硫酸又は薬理学的に許容されうるその塩とグルコサミン又は薬理学的に許容されうるその塩とからなる組成物(以下、本発明組成物ともいう)を有効成分として含有する医薬(以下、本発明医薬ともいう)を提供する。
【0013】
本発明医薬▲1▼
本発明医薬の有効成分である本発明組成物を構成するヘパラン硫酸(以下、HSとも記載する)は、ウロン酸(D−グルクロン酸又はL−イズロン酸)とD−グルコサミンとから成る二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするグリコサミノグリカンの1種である。ヘパラン硫酸は、通常のグリコサミノグリカンと同様にウロン酸のO−2位、O−3位及びD−グルコサミンのN−2位、O−3位、O−6位は、硫酸基(−SO )により硫酸化されている事もあり、D−グルコサミンのN−2位は、アセチル化(−COCH)されている事もある。本発明に用いるHSは、ヘパリンと類似の構成を有するが、ヘパリンに比べてN−アセチル基が多く、N−硫酸含量及びO−硫酸含量が少ないグリコサミノグリカンである。その起源や由来によって特に限定されるものではなく、天然資源から得られるもの以外に、人工的に化学合成したもの、遺伝子工学的に動物細胞や微生物などにより合成させたもの、及び、化学的に又は硫酸基転移酵素などにより作成したヘパラン硫酸なども用いることが出来、市販されているヘパラン硫酸も用いることが可能である。
【0014】
天然資源から得られるヘパラン硫酸は、グリコサミノグリカンを含む生物体(例えば動物組織)から通常用いられている方法(物理的抽出法、酵素抽出法、有機溶媒分画法、イオン交換樹脂などを用いるクロマトグラフィー分画法などの単独又は組み合わせ)により抽出、精製して得られるものであれば特に限定されず、例えば、ブタ、ウシ等の哺乳動物の臓器(例えば腸、肺、肝、腎及び血液等)から抽出、精製されたヘパラン硫酸を用いることが出来る。
また、微生物によって生産されたN−アセチルヘパロサンを酵素的又は化学的に硫酸化するなど化学修飾することによってヘパラン硫酸を合成することも出来る。
【0015】
HSの重量平均分子量は特に限定されないが、1,000Da〜100,000Daが好ましく、より好ましくは10,000Da〜50,000Daである。しかし、グリコサミノグリカンの平均分子量は同一試料でも測定方法や測定条件等によって多少異なることが一般的に知られており、本発明においても上記平均分子量の範囲に厳密に限定されるべきものではない。
【0016】
HSの薬理学的に許容されうる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられ、中でもナトリウム塩が好ましい。また、本発明医薬の有効成分である本発明組成物は、HSとグルコサミンとによって形成された塩でも良い。当該塩に関しては後述する。
【0017】
本発明医薬の有効成分である本発明組成物を構成するグルコサミンは特に限定されず、市販のグルコサミンを用いることも可能である。また、グルコサミンは、キチンを酸加水分解することにより容易に得る事が可能であり、精製等により純度を高めて本発明組成物に用いる事も可能である。本発明組成物に用いるグルコサミンをキチンの酸加水分解により得る場合は、特に塩酸加水分解を利用すると好ましい。
【0018】
また、本発明のグルコサミンの薬理学的に許容されうる塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩等が挙げられ、中でも、塩酸塩がより好ましい。
【0019】
本発明組成物は、HS(又はその薬理学的に許容されうる塩)とグルコサミン(又はその薬理学的に許容されうる塩)との単なる混合物であっても、後述のHSグルコサミン塩であっても、更に、これら両者の混合物であっても良い。
【0020】
本発明医薬▲2▼
本発明医薬の有効成分である本発明組成物において、HSとグルコサミンとは塩を形成していても良く、この塩を特に、ヘパラン硫酸グルコサミン塩という(以下、本発明塩ともいう。)。
【0021】
本発明塩の作成方法としては、グリコサミノグリカンの塩の形成に通常用いられている方法に準じた方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、原料として用いるヘパラン硫酸塩を形成している陽イオンとグルコサミンイオンとの塩交換によって形成する事が出来る。
【0022】
具体例として、ヘパラン硫酸ナトリウムを出発物質(原料)として用いた場合の一例を以下に挙げて説明する。
【0023】
陰イオン交換体(例えば、ジメチルアミノ基結合シリカゲルやジメチルアミノエチル基結合シリカゲル等の弱塩基性アミンを交換基とする陰イオン交換体)とヘパラン硫酸ナトリウム水溶液とを接触させ、ヘパラン硫酸を陰イオン交換体に吸着させ、その後グルコサミン塩酸塩水溶液で溶出することにより本発明塩を生成させることが出来る。得られた溶出液にエタノール等の親水性の有機溶媒を加え、本発明塩を沈殿させ、濾過、洗浄し、凍結乾燥して本発明塩を得る方法が挙げられる。
【0024】
また、ヘパラン硫酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂(例えばスルホン酸結合ポリスチレン樹脂等のAG50WX8(バイオラッド製)やCK08S(三菱化学製)等)と接触させてナトリウムイオンを吸着除去して、ヘパラン硫酸を遊離酸型とし、同様にグルコサミン塩酸塩水溶液を陰イオン交換樹脂(第4級アミン結合ポリスチレン樹脂等のAG1X8(バイオラッド製)やCA08S(三菱化学製))と接触させ塩酸イオンを吸着除去して、グルコサミンを遊離塩基型とする。次いで、上記の遊離酸型のヘパラン硫酸と上記遊離塩基型のグルコサミンとを攪拌しながらpH6.9〜7.0に達する迄混和させる。このようにして得られた中和した溶液を濃縮、凍結乾燥することにより本発明塩が得られる。
【0025】
ヘパラン硫酸分子には、プラス電荷を有する分子とイオン結合により塩を形成しうる箇所が同一分子内に複数存在しており、ヘパラン硫酸グルコサミン塩を作成するに際し、グルコサミンイオンと同様にプラス電荷を有する他の分子(以下、カチオンカウンターイオンとも言う)が存在する場合、生成するヘパラン硫酸塩は、グルコサミンイオンとカチオンカウンターイオンの両者との塩を形成している場合が想定される。
【0026】
本発明塩であるヘパラン硫酸グルコサミン塩としては、ヘパラン硫酸1分子中にイオン結合により塩を形成しているグルコサミンが一つ以上存在していれば良く、同一のヘパラン硫酸分子内で、カチオンカウンターイオンともイオン結合により塩を形成した塩であっても構わない。
【0027】
本発明塩としてはヘパラン硫酸1分子に於けるカチオンカウンターイオンとグルコサミンイオンとの比率は特に限定されない。例えばヘパラン硫酸1分子中に存在する、プラス電荷を有する分子とイオン結合により塩を形成する部分を100%とした場合、グルコサミンイオンと塩を形成している部分が60%以上であり、カチオンカウンターイオンと塩を形成している部分が40%以下であるものが好ましく、また、グルコサミンイオンと塩を形成している部分が80%以上であり、カチオンカウンターイオンと塩を形成している部分が20%以下であるものがより好ましく、更には、グルコサミンイオンと塩を形成している部分が90%以上であり、カチオンカウンターイオンと塩を形成している部分が10%以下であるものが一層好ましい。尚、最も好ましい本発明塩は、ヘパラン硫酸1分子中に存在する、プラス電荷を有する分子とイオン結合により塩を形成している部分全てが、グルコサミンイオンと塩を形成しているものである。
【0028】
本発明塩におけるカチオンカウンターイオンとしては、ヘパラン硫酸グルコサミン塩が有する物性に特別な影響を与えないもので、且つ、薬理学的に許容されるものであれば構わないが、ナトリウムイオンやカリウムイオン等があげられる。
【0029】
本発明医薬は、有効成分としてHSとグルコサミンを含有していることが重要であり、HSとグルコサミンの混合物であっても良く、又は、本発明塩であるヘパラン硫酸グルコサミン塩単独であっても良く、更に、HSとグルコサミンの混合物と本発明塩とが混在していても構わない。
【0030】
本発明医薬は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ等の哺乳動物の上皮組織、内皮組織臓器などの損傷に対して、顕著な治癒促進作用を有し、褥瘡、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、膀胱炎、点状表層角膜炎(SPK)、角膜上皮欠損、角膜潰瘍、結膜の潰瘍、口内炎、口腔創傷など皮膚や粘膜等における損傷を伴う疾患の治療に適用可能であり、特に、ドライアイやシェーグレン症候群の一症状として、及び、コンタクトレンズの普及に伴い患者数が増加している遷延性角膜上皮障害症に対する有用な治療薬として使用可能である。なお、本発明医薬が有するこれら効果は、主に細胞増殖促進作用を有するヘパラン硫酸による創傷治癒効果と創傷部位修復に用いられる細胞外基質の生合成原料であるグルコサミンの外的投与による円滑な細胞外基質成分の生合成に基づく効果との相乗作用によると推測される。
【0031】
また、本発明医薬の投与は損傷部位の修復に用いる細胞外基質の生合成原料と治癒促進作用を有するHSとを同時に外的に供給するので、創傷治癒に必要なこれらの生合成原料を血液以外の体液からの浸透により供給を受けている無血管組織や代謝が早い組織における創傷治癒に用いるのにも特に有用である。
【0032】
例えば、無血管組織である角膜は、傷害部位修復に必要となる物質を涙液や房水等からの浸透により得ている為、大量の物質が必要となった場合には、浸透による補給では間にあわず、必要な物質を得る為に血管新生が起り角膜中へ毛細血管を引き込む現象がみられる。角膜での血管新生後の視力を回復させるには、現在では角膜移植しか方法は無く、非常に重大な障害となる。一方、本発明医薬の投与は、治癒を促進する物質の供給と同時に、創傷治癒時に不足する可能性が高いグルコサミンを外的に十分に供給する為、角膜組織が物質を求めて起こす血管新生は起こりにくく、角膜炎、角膜潰瘍等の角膜障害の治療に非常に有用である。
【0033】
また、後述の実施例4に記載の通り、本発明医薬の投与により、HSと同時にグルコサミンを供給することで、グルコサミン単独投与と比べてグルコサミンの保持時間が延長され、徐放性となることが判明した。一般的にグルコサミンの様な低分子量物質は代謝を受けやすく投与部位からの消失が早い為、生物学的利用能(バイオアベイラビリティー)は低いと言われている。しかし、本発明医薬を用いる事により、グルコサミンの投与部位への保持時間が延長され、グルコサミンの生物学的利用能が高まり、より有用な創傷治癒効果が得られることが、この結果から予測される。
【0034】
更には、ヘパラン硫酸グルコサミン塩の方がよりグルコサミンが保持されたという結果を鑑みると、本発明医薬の有効成分として本発明塩を用いる方が、ヘパラン硫酸とグルコサミンとの混合物を用いるよりもより顕著な創傷治癒効果が得られる可能性が推測される。
【0035】
本発明医薬を生体に投与する際の剤型や投与経路に関しては、本発明医薬が有する創傷治癒促進作用が損なわれない限り特に限定されない。対象となる疾患の性質や重篤度に応じて適宜選択可能であり、創傷部位に投与可能な外用剤であることが好ましい。例えば、遷延性角膜上皮傷害症に用いる場合には、点眼液や眼軟膏が考えられ、特に点眼液が好ましい。点眼液としては、下記製剤例が例示される。
【0036】
(製剤例)ヘパラン硫酸グルコサミン塩      10mg
ショ糖               103mg
塩化ベンザルコニウム、EDTA−2Na  適量
上記を注射用蒸留水に溶解する。
1日1〜10回、1回あたり1〜3滴(約0.05〜0.15mL)点眼する。
【0037】
本発明医薬の製剤化に際しては、本発明医薬が有する創傷治癒促進作用を本発明医薬との相互作用等により損なわず、適用対象に対し許容を越える悪影響を示さない限り、通常の製剤化に用いられる保存剤、等張化剤(電解質を除く)、安定化剤、賦形剤、溶解化剤などの公知の製剤補助剤や種々の薬効成分を配合することも可能である。
【0038】
【実施例】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ヘパラン硫酸グルコサミン塩の調製法(溶出法)
ヘパラン硫酸ナトリウム150mg(生化学工業(株)製)を150mLの蒸留水に溶解後、0.45μmのフィルターで濾過し、陰イオン交換シリカゲル(センシュウパック(CHN(センシュウ科学社製)、内径8mm×長さ15cm、3本直列に連結)に負荷した。該カラムを蒸留水100mL(流速1mL/分)で洗浄後、1mol/Lグルコサミン塩酸塩(生化学工業(株)製)水溶液(流速1mL/分)で溶出した。
【0039】
ヘパラン硫酸グルコサミン塩の溶出画分を回収し、当該画分に回収した溶出画分と同量のエタノールを撹拌しながら加え、0.45μmのフィルター(ワットマンGx3、ワットマン社製)で沈殿を濾集し、濾集した沈殿物を80%エタノール50mL、続いて、100%エタノール50mLで洗浄した。次いで、蒸留水50mLでフィルター上の沈殿を溶出し、得られた溶出液を凍結乾燥して凍結乾燥物を得た。
【0040】
得られた凍結乾燥物の重量を測定した結果、収量は201.54mgであった。一部を溶解して、イオン電極法により残存ナトリウムイオン濃度を測定し、ヘパラン硫酸ナトリウム塩のヘパラン硫酸グルコサミン塩への交換率を残存ナトリウムイオン濃度から算出した。その結果、交換率は70.8%であった。
【0041】
[実施例2]
ヘパラン硫酸グルコサミン塩の調製法(中和法)
ヘパラン硫酸ナトリウム80mg(生化学工業(株)製)を80mLの蒸留水に溶解後、0.45μmのフィルターで濾過し、濾過液全量を流速1mL/分で陽イオン交換樹脂(AG50Wx8、H型(バイオラッド社製)、内径2.5cm×長さ25cm)を通過させ、ナトリウムイオンを水素イオンで交換して、ヘパラン硫酸(遊離酸型)水溶液を得た。なお、溶出液のpHは約3であった。
【0042】
グルコサミン塩酸塩(生化学工業(株)製)を1mg/mLの濃度になるように蒸留水に溶解し(約500mL)、0.45μmのフィルターで濾過した。濾過したグルコサミン塩酸塩を流速1mL/分で陰イオン交換樹脂(AG1x8、OH型(バイオラッド社製)、内径2.5cm×長さ25cm)を通過させ、塩素イオンを樹脂に吸着させて、グルコサミン(遊離アミン型)水溶液を得た。
【0043】
得られたグルコサミン水溶液を、先に得られたヘパラン硫酸水溶液に撹拌しながら加え中和した。pHメーターでpHが6.9〜7の間を示した時点でグルコサミン水溶液の添加を停止し、溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、凍結乾燥して、凍結乾燥物を得た。
【0044】
得られた凍結乾燥物の重量を測定した結果、収量は111mgであった。一部を溶解して、イオン電極法により残存ナトリウムイオン濃度を測定し、ヘパラン硫酸ナトリウム塩のヘパラン硫酸グルコサミン塩への交換率を残存ナトリウムイオン濃度から算出した。その結果、交換率は64.2%であった。
【0045】
[実施例3]
ヘパラン硫酸グルコサミン塩による角膜上皮治癒促進作用
中和法にて製造したヘパラン硫酸グルコサミン塩(本発明塩)及びヘパラン硫酸ナトリウム塩(生化学工業(株)製)(対照)をそれぞれ蒸留水に溶解して、0.1%、0.3%、1.0%の各濃度の水溶液を作成し、これらを被験液とした。
【0046】
白色ウサギ(JW種、雌)を麻酔後、両眼の角膜上皮をトレパンとミクロ剪刀を用いて直径8mmの大きさで剥離した。この手技により、角膜上皮、基底膜並びに角膜実質層の一部が剥離される。剥離から3時間後に角膜上皮欠損部位の面積を測定し、面積測定直後、及び面積測定から3時間後に、各被験液約150μLを点眼した。
【0047】
その後更に、剥離翌日(2日目)及び3日目は3時間間隔(9時、12時、15時、18時)で4回、各被験液を約150μL点眼し、4日目は3時間間隔(9時、12時)で2回点眼し、最終点眼から3時間後に角膜上皮欠損部位の面積を測定した。
【0048】
尚、被験液を点眼しない方の眼には対照として被験液の溶媒である蒸留水を点眼した。
剥離当日と実験4日目の角膜上皮欠損部位面積から上皮治癒面積を算出し、次いで、対照による上皮治癒面積(C)に対する被験液による上皮治癒面積(T)の比(T/C)(以下、上皮治癒促進率(修復面積対照眼比値)とも言う。)を算出した(図1、図2)。
上記実験の結果、ヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液もヘパラン硫酸ナトリウム水溶液もほぼ同等の角膜上皮治癒作用を示した。
【0049】
しかし、グルコサミンとナトリウムの分子量の差を考慮して、ヘパラン硫酸グルコサミン塩とヘパラン硫酸ナトリウム塩を同重量計量した場合、ヘパラン硫酸含量としては、本発明塩であるヘパラン硫酸グルコサミン塩の方が少ない。つまり、本実験結果によると、本発明塩を用いると、ヘパラン硫酸ナトリウムを用いた場合に比べ、創傷治癒作用を有するヘパラン硫酸量自体は減少するにも拘わらず、同等の効果が得られる事を示している。つまり、グルコサミンを同時に投与する事が創傷治癒に有効であるということが出来る。また、ヘパラン硫酸が共存することにより、グルコサミンのバイオアベイラビリティも改善されたと考えられる。
【0050】
また、ヘパラン硫酸ナトリウム水溶液を点眼した場合は、上皮治癒促進率の大きな標準偏差(図1)から明らかなように、治癒促進効果に個体差が認められている。一方、ヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液を点眼した場合は、ヘパラン硫酸ナトリウム水溶液の場合に比べて、明らかに個体間の変動は少なく、常に一定の効果を示す事が判明した。
【0051】
[実施例4]
ヘパラン硫酸ナトリウムとグルコサミン塩酸塩との混合物による角膜上皮治癒促進作用
終濃度0.5%ヘパラン硫酸ナトリウム(ウシ腎由来、重量平均分子量11,000、生化学工業(株)製)と終濃度0.5%グルコサミン塩酸塩(生化学工業(株)製)を含む混合水溶液を作成し、被験液とした。実施例3と同様の手順に従い、被験液を点眼し、角膜上皮欠損部位の面積を測定した。尚、被験液を点眼しない方の眼には対照として被験液の溶媒である蒸留水を点眼した。剥離当日と実験4日目の角膜上皮欠損部位面積から上皮治癒面積を算出し、次いで、対照による上皮治癒面積(C)に対する被験液による上皮治癒面積(T)の比(T/C)(上皮治癒促進率)を算出した結果、終濃度0.5%ヘパラン硫酸ナトリウムと終濃度0.5%グルコサミン塩酸塩との混合水溶液による上皮治癒面積率は1.15であった。
【0052】
実施例3の結果と比較すると、ヘパラン硫酸ナトリウム水溶液、ヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液及びヘパラン硫酸ナトリウムとグルコサミン塩酸塩との混合物の何れも角膜上皮治癒作用を示したが、中でもヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液による角膜上皮治癒作用がより強くみられた。つまり、水溶液中にヘパラン硫酸とグルコサミンが共存しているだけの状態よりも、塩を形成している方が治癒促進にはより有効であると示唆される。
【0053】
[実施例5]
ヘパラン硫酸グルコサミン塩及びヘパラン硫酸ナトリウム塩とグルコサミン塩酸塩との混合物におけるグルコサミンの保持効果
(1)物理化学的検討
ヘパラン硫酸ナトリウム塩(ウシ腎由来 重量平均分子量11,000、生化学工業(株)製)、グルコサミン塩酸塩(生化学工業(株)製)及びヘパラン硫酸グルコサミン塩(上述の「[実施例2]に基づき作成、グルコサミン塩への交換率は96.3%)を用い、1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液、終濃度1mg/mLのグルコサミン塩酸塩と終濃度1mg/mLのヘパラン硫酸ナトリウム塩を含む混合液、2mg/mLのヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液をそれぞれ被験液として作成し、下記▲1▼、▲2▼の実験に用いた。
【0054】
▲1▼拡散チャンバーを用いた検討
Becton Dickinson社製FALCON Cell Culture Inserts、24ウェル用(Pore Size8μm)を拡散チャンバーとして用いた。
【0055】
Bectton Dickinson社製FALCON MULTIWELL、24ウェルのウェル内に蒸留水800μL入れ、拡散チャンバーをセットし、チャンバー内に各被験液500μL添加し、室温で3時間、6時間又は15時間放置した。各放置時間毎に、各被験液につき3ウェルずつ設定した。
【0056】
設定時間に、チャンバー内液並びに外液から60μLずつガラス試験管に採取し、蒸留水を添加し全量を1.5mLにし、ニンヒドリン試液(L8500用セット、和光純薬工業(株)製)を1.5mL加え、攪拌し、100℃で10分間処理し、室温にまで冷却後、波長570nmにおける吸光度を測定することによりグルコサミン量を測定した。
【0057】
吸光度から、外液中のグルコサミン濃度に対する内液中のグルコサミン濃度のグルコサミン濃度比(内液/外液)を算出し、図3に示した。尚、グルコサミンの保持が強いと、チャンバー内液から外液への拡散が抑制されるため、グルコサミン濃度比は高くなる。
【0058】
結果、いずれの被験液においても経時的にグルコサミン濃度比は減少し、混合液とヘパラン硫酸グルコサミン塩は各測定時間毎、ほぼ同じ値を示したが、グルコサミン塩酸塩と比較すると顕著に高い値を示した。
【0059】
▲2▼限外濾過膜を用いた検討
Millipore社製限外濾過装置モルカットII、分画分子量5,000(型番:UFP1LCCBK)を用い、グルコサミン保持効果を検討した。尚、モルカットIIは、所定の限外濾過膜が予めセットされている1回使い捨て型であり、試料は空気圧により限外濾過される。
【0060】
各被験液の1mLを限外濾過装置内に入れ、限外濾過を行った。内液が完全に濾過された後、濾液の30μLをガラス試験管に採取し、蒸留水を加え、全量を1.5mLにした。同様に濾過前の被験液30μLを蒸留水で希釈し、全量1.5mLにした。希釈した濾液及び希釈した濾過前の被験液に、ニンヒドリン試液(L8500用セット、和光純薬工業(株)製)を1.5mL添加し、攪拌後、100℃で10分間処理し、室温にまで冷却後、波長570nmにおける吸光度を測定した。
【0061】
測定した吸光度から、濾過前の被験液中のグルコサミン濃度に対する、濾液中のグルコサミン濃度の百分率、すなわち、グルコサミンの濾過率、つまり(濾液中のグルコサミン濃度/濾過前の被験液中のグルコサミン濃度)x100(%)を算出した(図4)。グルコサミンの保持が強いと、グルコサミンの濾過率は低くなる。
【0062】
結果、被験液としてグルコサミン塩酸塩を用いた場合、グルコサミンの濾過率は96%であり、被験液としてグルコサミン塩酸塩とヘパラン硫酸ナトリウムの混合物、及び、ヘパラン硫酸グルコサミン塩を用いた場合の濾過率は、各々66%と29%であった。
【0063】
これらの結果より、グルコサミンは、グルコサミン単独では分画分子量5,000の限外ろ過膜上には保持されないが、ヘパラン硫酸ナトリウムと共存させることにより、保持効果が増強されることが見出され、グルコサミン分子とヘパラン硫酸分子との間に親和性若しくは相互分子間力が存在する可能性が推測される。つまり、ヘパラン硫酸とグルコサミンを同時に投与する事が、グルコサミンのバイオアベイラビリティの改善及び本発明医薬が示す創傷治癒効果の増強に有効であると推測され、更には、水溶液中での親和性若しくは相互分子間力よりもイオン結合による結合の方がより分子間結合が強いことより、本発明塩でのグルコサミンの保持効果は更に増強されており、本発明医薬の有効成分として本発明塩を用いる場合、混合物を用いた場合よりも、より有効な効果を示すと考えられる。また、このことは前述の実施例3の結果とも一致する。
【0064】
また、上記混合物を用いた場合のグルコサミンの濾過率66%とヘパラン硫酸グルコサミン塩を用いた場合のグルコサミンの濾過率29%の差である約40%は、グルコサミン分子とヘパラン硫酸分子との間の親和性若しくは相互分子間力より強い結合、つまりイオン結合が関与してグルコサミンの保持が増強されたと考えられる。
【0065】
(2)ウサギ眼での効果
被験液として、実施例2(中和法)にて作成したヘパラン硫酸グルコサミン塩を蒸留水に溶解し、1.0%ヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液を作成し、更に、終濃度として0.5%のグルコサミン塩酸塩と0.5%のヘパラン硫酸ナトリウム塩を含む水溶液(混合液)を作成した。
【0066】
白色ウサギ(JW種、雌)を麻酔後、両眼の角膜上皮を外科的にトレパンとミクロ剪刀を用いて直径8mmの大きさで剥離した。
【0067】
右眼に混合液150μLを、左目にヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液150μLを点眼し、点眼後30分、40分、50分、60分に、涙液を採取した。涙液は、5mm×10mmの濾紙を眼瞼内に挿入し、1分間放置することにより採取した。
【0068】
涙液を採取した濾紙を蒸留水1mL中に入れ、十分に攪拌し、濾紙に吸収された涙液を抽出し、抽出液中のグルコサミン濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量した(図5)。
【0069】
ヘパラン硫酸ナトリウムとグルコサミン塩酸塩の混合液を投与した場合よりもヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液を投与した場合の方が、採取した涙液中のグルコサミン濃度が高く、グルコサミンが投与部位に長く保持されていると推察される。
【0070】
一般的にグリコサミノグリカン類は、分子が帯びている負電荷や親和性によりコラーゲンに保持されやすい事が知られている。本結果は、イオン結合によりヘパラン硫酸と塩を形成しているグルコサミンが、角膜上皮剥離部位に露出したコラーゲンとヘパラン硫酸による親和性を介して投与部位に保持されたと推察され、塩の形成が投与部位への保持を助長するのに重要であると思われる。
【0071】
【発明の効果】
本発明医薬を用いることにより、HSによる創傷治癒作用に加え、創傷部位修復の際に用いられる細胞外基質の生合成原料であるグルコサミンの外的投与による創傷治癒の促進及び当該グリコサミンのバイオアベイラビリティの改善がみられ、より効果的な創傷治癒作用が得られる。更に、本発明塩を用いることにより、グルコサミンの更なるバイオアベイラビリティの改善がみられ、より有用な医薬品となりうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】0.1%、0.3%及び1.0%のヘパラン硫酸ナトリウム水溶液による白色ウサギの角膜上皮治癒促進率を示す図。
【図2】0.1%、0.3%及び1.0%のヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液による白色ウサギの角膜上皮治癒促進率を示す図。
【図3】拡散チャンバーを用いた1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液、終濃度各1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液とヘパラン硫酸ナトリウム水溶液との混合液、及び、2mg/mLのヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液によるチャンバー内液中のグルコサミン濃度とチャンバー外液中のグルコサミン濃度の比を示す図。縦軸は、[内液グルコサミン濃度/外液グルコサミン濃度]、横軸は、拡散時間。菱形は1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液を示す。四角は終濃度1mg/mLのグルコサミン塩酸塩と終濃度1mg/mLのヘパラン硫酸ナトリウム塩を含む混合液を示す。三角は2mg/mLのヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液を示す。
【図4】限外ろ過膜を用いた1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液、終濃度各1mg/mLのグルコサミン塩酸塩水溶液とヘパラン硫酸ナトリウム水溶液との混合液、及び、2mg/mLのヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液によるグルコサミンの濾過率(%)を示す図。
【図5】1.0%のヘパラン硫酸グルコサミン塩水溶液、及び、終濃度各0.5%のグルコサミン塩酸塩水溶液とヘパラン硫酸ナトリウム水溶液との混合液の投与後における、ウサギ涙液中のグルコサミン濃度の変化を示す図。縦軸は、濾紙抽出液中のグルコサミン濃度(ng/mg)、横軸は、投与後経過時間を示す。また実線は終濃度0.5のグルコサミン塩酸塩と終濃度0.5のヘパラン硫酸ナトリウム塩を含む混合液を示し、波線は1ヘパラン硫酸グルコサミン塩酸塩水溶液を示す。

Claims (9)

  1. ヘパラン硫酸又は薬理学的に許容されうるその塩とグルコサミン又は薬理学的に許容されうるその塩とからなる組成物を有効成分として含有することを特徴とする医薬。
  2. 組成物がヘパラン硫酸グルコサミン塩を含むものである請求項1記載の医薬。
  3. ヘパラン硫酸グルコサミン塩が、ヘパラン硫酸塩を陰イオン交換樹脂に吸着させ、グルコサミン塩溶液で溶出することにより得られるヘパラン硫酸グルコサミン塩である、請求項2記載の医薬。
  4. ヘパラン硫酸グルコサミン塩が、ヘパラン硫酸とグルコサミンとの中和反応により得られるヘパラン硫酸グルコサミン塩である、請求項2記載の医薬。
  5. 創傷治癒効果を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬。
  6. 粘膜の損傷に対する創傷治癒効果を有する請求項5に記載の医薬。
  7. 角膜上皮障害症治療剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  8. ヘパラン硫酸グルコサミン塩。
  9. グルコサミン又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分とする、ヘパラン硫酸の創傷治癒効果の促進剤。
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