JP2003328280A - ポリ乳酸系繊維染色物の還元洗浄方法 - Google Patents

ポリ乳酸系繊維染色物の還元洗浄方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 繊維の脆化や劣化を起こすことない、ポリ乳
酸系繊維染色物の還元洗浄方法を提供する。 【解決手段】 温度75〜98℃、pH2〜6の還元剤
浴中で、還元洗浄することを特徴とするポリ乳酸系繊維
染色物の還元洗浄方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリ乳酸系繊維染
色物の還元洗浄方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリ乳酸系繊維は生分解性に優れている
ため、環境に優しい繊維として近年様々な分野に利用さ
れつつあり、衣料としての利用も進められている。一
方、繊維を衣料用として用いる場合には、ファッション
性などの点から染色する必要性が生じてくる。ポリ乳酸
系繊維を染色する際には、一般に分散染料を用いて染色
されるが、従来のポリエステル繊維とは異なり、ポリ乳
酸系繊維は加水分解を受け易いという性質を有するため
に、できるだけ低温で染色処理を行う必要があり、その
結果として繊維内部への染料の拡散が進まず、繊維表面
に付着する染料量が多くなり、染色堅牢度を極めて悪く
するという欠点を有するものとなっている。
【0003】また、従来のポリエステル繊維等、分散染
料で染色処理を行う繊維は、染色堅牢度を向上させるた
めに、アルカリ条件下でハイドロサルファイト、二酸化
チオ尿素などの還元剤を用いて還元洗浄を行うのが一般
的である。しかしながら、ポリ乳酸系纎維はアルカリ条
件下では容易に加水分解する性質を有しており、繊維の
脆化や劣化を招き、極端な強度低下につながるため、ア
ルカリ条件下での還元洗浄を行うことはできない。
【0004】そして、特開2001−355187号公
報(特許文献1)には、染色後に70℃以下の低温で還
元洗浄処理をすることが開示されており、酸性領域で還
元洗浄処理をすることがさらに好ましいと開示されてい
るが、これらの条件だけでは満足のいくレベルまでに染
色堅牢度を向上させることはできない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−355187号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、繊維の脆化
や劣化を起こすことのない、ポリ乳酸系繊維染色物の還
元洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定温度の特
定酸性領域においてポリ乳酸系繊維染色物を還元洗浄す
ることにより、繊維の脆化や劣化を起こすことを少なく
して、染色堅牢度を向上させることができることを見出
し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0008】すなわち、本発明は、温度75〜98℃、
pH2〜6の還元剤浴中で、ポリ乳酸系繊維染色物を還
元洗浄することを特徴とする還元洗浄方法を提供する。
【0009】また、本発明の還元洗浄方法は、還元剤が
ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、ホルムア
ルデヒドスルホキシル酸亜鉛、ホルムアルデヒドスルホ
キシル酸マグネシウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイド
ロサルファイト、二酸化チオ尿素から選ばれる少なくと
も1種であることを特徴とする。
【0010】さらに、本発明の還元洗浄方法は、被染色
物であるポリ乳酸系繊維を製造する際に用いられるポリ
乳酸が、L−体比率が95%以上、相対粘度が2.5〜
3.5、及びモノマー含有量が0.5質量%以下である
ことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の還元洗浄方法において
は、還元剤浴の温度を75〜98℃にすることが好まし
く、特に75〜85℃に調整することが好ましい。また
保持時間は、還元剤浴の温度にもよるが10〜30分が
好ましい。還元剤浴の温度が75℃未満では充分な還元
洗浄性が得られず、また98℃を超えると還元剤の急激
な分解により均一な還元洗浄が困難になる上に、ポリ乳
酸系繊維が加水分解を起こし、繊維の脆化や劣化が生じ
る。
【0012】また、本発明の還元洗浄方法においては、
用いられる還元剤が酸性領域で充分な還元性を発現する
ために、還元剤浴のpHを2〜6にすることが好まし
く、特にpHを3〜5に調整することが好ましい。この
時pHを調整するのに用いられる酸には特に制限はな
く、酢酸やギ酸などの有機酸、塩酸や硫酸などの鉱酸を
用いることができるが、特に酢酸が好ましい。
【0013】本発明の還元洗浄方法に用いられる還元剤
の量は、処理するポリ乳酸系繊維染色物の処理された染
色条件によっても異なるが、還元剤浴に0.2〜3g/
L用いることが好ましく、特に0.5〜1.5g/Lに調
整することが好ましい。
【0014】本発明で還元剤として用いられる化合物
は、酸性領域で還元作用を示す化合物あれば制限無く使
用できる。還元剤としては、例えば、ホルムアルデヒド
スルホキシル酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキ
シル酸亜鉛、ホルムアルデヒドスルホキシル酸マグネシ
ウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイト、
二酸化チオ尿素などが挙げられ、これらの内でホルムア
ルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、ホルムアルデヒド
スルホキシル酸亜鉛が好ましく、特にホルムアルデヒド
スルホキシル酸ナトリウムが優れた染色堅牢度と繊維強
度の維持の点から好ましい。また、還元剤としては粉体
の形状であっても、特開2001−226660号公報
に開示されているような液状化されたものでも良い。
【0015】本発明の還元洗浄方法においては、より洗
浄効果を上げるために非イオン界面活性剤やアニオン界
面活性剤などを併用することにも問題はない。
【0016】本発明におけるポリ乳酸系繊維とは、L−
乳酸及び/又はD−乳酸を主とした繰り返し単位の脂肪
族ポリエステル繊維である。
【0017】本発明に用いるポリ乳酸系繊維を製造する
際に用いられるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、乳酸
の2量体であるL−ラクチドやD−ラクチド、あるいは
メゾラクチドを原料とするものであるが、結晶性を有す
るポリ乳酸を用いることで糸の結晶性を上げ強度を上げ
ることができるため、ポリ乳酸のL−体の比率が95%
以上であることが好ましく、98%以上であることがよ
り好ましい。
【0018】この時用いられるポリ乳酸は製糸性及び延
伸特性の点で、相対粘度が2.5〜3.5の範囲である
ことが好ましく、2.7〜3.2の範囲であることがよ
り好ましい。また、用いられるポリ乳酸は、モノマーの
含有量が0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以
下、特に0.2質量%以下であることが好ましい。本発
明に言うモノマーとは、後述するGPC分析により算出
される分子量1000以下の成分である。モノマーの含
有量が0.5質量%を超えると、紡糸・延伸工程で糸切
れ等が発生し、操業性が著しく低下する虞がある。これ
はモノマー成分が熱により分解する為、ポリ乳酸の耐熱
性を低下させるからであると考えられる。
【0019】本発明に用いられるポリ乳酸系繊維の単糸
繊度は、0.50〜25dtex(デシテックス)であるこ
とが好ましく、0.75〜10dtexであることがより好
ましい。ポリ乳酸系繊維としては、マルチフィラメント
延伸糸、マルチフィラメント仮撚糸、ステープルファイ
バーなどがあげられる。例えば、マルチフィラメント延
伸糸は、紡糸速度を3000m/分以上で紡糸した後、
延伸温度を100〜125℃で、1.3倍以上延伸した
後、125〜150℃で熱セットすることにより得られ
る。この延伸糸の引張強度は、3.5cN/dtex(センチ
ニュートン/デシテックス)以上であり、沸水収縮率も
15%以下であるものが好ましい。
【0020】また、マルチフィラメント仮撚糸の製造方
法は、通常の延伸同時仮撚方法であれば特に問題はな
く、ベルトタイプ、ピンタイプ、フリクションタイプの
どの仮撚機でも使用可能である。仮撚速度は生産性を考
慮して500m/分以上であることが好ましい。この仮
撚糸の引張強度は、2.65cN/dtex以上であるものが
好ましい。
【0021】さらに、ステープルファイバーは、紡糸速
度を2000m/分以下で紡糸した後、延伸温度を60
〜98℃で、4.0倍以上延伸した後、105〜135
℃で熱セットする事により得られる。このステープルフ
ァイバー引張強度は、3.0cN/dtex以上であるものが
好ましい。
【0022】本発明に用いられるポリ乳酸系繊維は、上
記のポリ乳酸系繊維単独や、該ポリ乳酸系繊維とセルロ
ース繊維、ウール繊維、絹繊維又は他のポリエステル繊
維などの合成繊維との複合繊維であってもよい。その繊
維の形態としてはフィラメント、紡績糸、そしてそれら
より得られる織物、編物、また不織布などの繊維構造物
が挙げられる。
【0023】また、本発明におけるポリ乳酸系繊維染色
物は、その染色方法に特に制限はないが、上記ポリ乳酸
系繊維構造物を分散染料などの染料を用いて、従来から
行われている方法によって染色したものである。
【0024】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳しく説明する
が、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるもの
ではない。
【0025】ポリマー(ポリ乳酸)の物性の分析は、以
下の方法で行った。 (モノマー含有量)ポリマーを10mg/mLの濃度になる
ようクロロホルムに溶かした。クロロホルムを溶媒とし
てGPC分析を行い、分子量を測定した。検出器はRI
を用い、分子量の標準物質としてポリスチレンを用い
た。分子量1000以下の成分の割合からポリマー中の
モノマー含有量を算出した。
【0026】(相対粘度:ηrel)フェノール/テト
ラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に試
料を1g/dLの濃度になるよう溶解し、20℃でウベ
ローデ粘度管を用いて相対粘度を測定した。
【0027】(L−体の測定)ポリマーを加水分解さ
せ、1.0mol/dm3メタノール性水酸化ナトリウム溶液
を溶媒として高速液体クロマトグラフィー(HPLC:
島津製作所製、LC10AD型)を使ってL−体の比率
を求めた。
【0028】(強伸度の測定)引っ張り試験機(島津製
作所製、RTM−100)を用い、試料長20cm、速度
20cm/分で引っ張り試験を行った。破断強度を引っ張
り強度、破断伸度を伸度とした。
【0029】(沸水収縮率)初期値50cmの試料に、初
期荷重200mgをかけて沸騰水中に15分間浸漬し、5
分間風乾した後、次式により沸水収縮率を求めた。沸水
収縮率(%)=(初期試料長−収縮後の試料長)/初期
試料長×100
【0030】次に、染色布の作成方法と還元洗浄済布の
評価を説明する。 (染色布の作成方法)ポリ乳酸系繊維染色物に使用する
ポリ乳酸系繊維を、L−体比率が98.8%、相対粘度
が3.08、モノマー含有量が0.28質量%であるポ
リ乳酸を用いて紡糸・延伸した。マルチフィラメント延
伸糸84dtex(デシテックス)/24f(フィラメン
ト)の引っ張り強度は4.73cN/dtex、伸度は28.
7%、沸水収縮率は11.6%であった。
【0031】このポリ乳酸系繊維からなる布帛(タフ
タ、打ち込み本数:経98本、緯98本)を液流染色機
(テキサム技研社製)を用いて、以下の染色浴組成で1
10℃、30分間保持して染色し、下記の実施例又は比
較例の還元洗浄方法の試験に供した。
【0032】 染色浴組成 染料:Dianix Black BG−FS(三菱化学(株)製) 15%o.w.f. 分散均染色剤:ニッカサンソルトRM−340(日華化学(株)製) 0.5g/L 90%−酢酸 0.3mL/L 浴比=1:15
【0033】実施例1 ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.5g/
L、90%−酢酸1g/Lを溶解した還元剤浴(pH=
3.8)に、上記で作成した染色布を浴比1:20とな
るように投入し、75℃で20分間保持して還元洗浄処
理を行い、その後5分間水洗し、乾燥して、還元洗浄済
布を得た。
【0034】実施例2 80℃で20分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0035】実施例3 90℃で10分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0036】比較例1 40℃で30分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0037】比較例2 60℃で20分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0038】比較例3 100℃で10分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0039】比較例4 110℃で10分間保持して還元洗浄処理を行った以外
は、実施例1と同様の操作を行い、還元洗浄済布を得
た。
【0040】比較例5 ハイドロサルファイト2g/L、ソーダ灰1g/Lを溶
解した還元剤浴(pH=11.0)に、上記で作成した
染色布を浴比1:20となるように投入し、80℃で2
0分間保持して還元洗浄処理を行い、その後5分間水洗
し、乾燥して、還元洗浄済布を得た。
【0041】比較例6 界面活性剤型洗浄剤:リポトールTC−350(日華化
学(株)製)2g/Lを溶解した洗浄浴(pH=8.
5)に、上記で作成した染色布を浴比1:20となるよ
うに投入し、80℃で20分間保持して洗浄処理を行
い、その後5分間水洗し、乾燥して、洗浄済布を得た。
【0042】還元洗浄済布の評価 還元洗浄済布の評価として、下記の方法で染着濃度、摩
擦堅牢度、引裂強さ保持率を評価した結果を、第1表に
示す。
【0043】(染着濃度)染着濃度は、ミノルタ社製の
CM−3700d測色機を使用して、K/S値を測色し
た。染着濃度は、実施例1〜3、比較例1〜6の還元洗
浄済布の染着濃度を、染色上がり布の染着濃度を100
とした時の比較値で表す。
【0044】(摩擦堅牢度)JIS L 0849(1
996)摩擦に対する染色堅牢度試験方法に準じて、乾
式、湿式の摩擦堅牢度を測定した。なお、試験機とし
て、摩擦試験機II形を用いた。
【0045】(引裂強さ保持率)JIS L 1096
(1999)D法(ペンジュラム法)に準じて、引裂強
さを測定し、実施例1〜3、比較例1〜6の還元洗浄済
布の引裂強さを、染色上がり布の引裂強さを100とし
た時の、比率で表す。
【0046】
【表1】
【0047】第1表からも明らかなように、実施例1〜
3の還元洗浄済布は、酸性領域の適性な温度で還元洗浄
処理されたことにより、ポリ乳酸系繊維の引裂強さの低
下をきたすことなく、摩擦堅牢度が向上できた。これに
対して、比較例1、2では摩擦堅牢度が悪く、比較例
3、4では染色濃度が大きく低下し、色相変化が認めら
れた。また、比較例5では染着濃度の低下、引裂強さの
低下共に大きく、比較例6では引裂強さの低下は小さい
ものの、洗浄が不充分で摩擦堅牢度の向上が認められな
かった。
【0048】
【発明の効果】本発明の還元洗浄方法によれば、ポリ乳
酸系繊維染色物の繊維の脆化や劣化を招くことなく、染
色堅牢度を向上させることができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 久保 宣弘 福井県福井市文京4丁目23番1号 日華化 学株式会社社内 (72)発明者 翠 浩二 福井県福井市文京4丁目23番1号 日華化 学株式会社社内 (72)発明者 吉田 広治 大阪府大阪市北区梅田一丁目2番2号 カ ネボウ合繊株式会社内 (72)発明者 梶山 宏史 山口県防府市鐘紡町4番1号 カネボウ合 繊株式会社内 Fターム(参考) 3B154 AA07 AB20 BA07 BA17 BD17 BD20 BF01 BF15 BF25 BF27 DA18 DA21 4H057 AA02 CA08 CB21 CB22 CB34 CB35 CB60 CC03 DA01 DA17 FA17 GA21 HA01 HA03 JA10 JB03

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 温度75〜98℃、pH2〜6の還元剤
    浴中で、ポリ乳酸系繊維染色物を還元洗浄することを特
    徴とする還元洗浄方法。
  2. 【請求項2】 還元剤が、ホルムアルデヒドスルホキシ
    ル酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸亜
    鉛、ホルムアルデヒドスルホキシル酸マグネシウム、亜
    硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイト、二酸化チ
    オ尿素から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に
    記載の還元洗浄方法。
  3. 【請求項3】 ポリ乳酸系繊維を製造する際に用いられ
    るポリ乳酸が、L−体比率が95%以上、相対粘度が
    2.5〜3.5、及びモノマー含有量が0.5質量%以
    下である、請求項1又は2に記載の還元洗浄方法。
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