JP2003221655A - ナノコンポジット磁石 - Google Patents

ナノコンポジット磁石

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JP2003221655A JP2002331867A JP2002331867A JP2003221655A JP 2003221655 A JP2003221655 A JP 2003221655A JP 2002331867 A JP2002331867 A JP 2002331867A JP 2002331867 A JP2002331867 A JP 2002331867A JP 2003221655 A JP2003221655 A JP 2003221655A
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裕和 金清
Toshio Mitsugi
敏夫 三次
Satoru Hirozawa
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 高い固有保磁力(例えばHcJ≧550kA/
m)を維持しながら、残留磁束密度Br≧0.8Tを満
足し得る優れた磁気特性を持つナノコンポジット磁石を
提供する。 【解決手段】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
yTizn(ただし、TはCoおよびNiからなる
群、QはBおよびCからなる群から選択された少なくと
も1種の元素、RはNd、Pr、DyおよびTbからな
る群から選択された少なくとも1種の希土類元素であ
り、少なくともNdおよびPrからなる群から選択され
た少なくとも1種の希土類元素を含み、Mは、Al、S
i、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、
Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbか
らなる群)であり、10<x≦20原子%、6≦y<1
0原子%、0.5≦z≦12原子%、0≦m≦0.5、
および0≦n≦10原子%)で表現される組成を有す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種モータやアク
チュエータに好適に使用される永久磁石に関し、特に、
ナノコンポジット磁石に関している。
【0002】
【従来の技術】近年、家電用機器、OA機器、および電
装品等において、より一層の高性能化と小型軽量化が要
求されている。そのため、これらの機器に使用される永
久磁石については、磁気回路全体としての性能対質量比
を最大にすることが求められており、例えば残留磁束密
度Brが0.5T(テスラ)以上の永久磁石を用いるこ
とが要求されている。しかし、従来の比較的安価なハー
ドフェライト磁石によっては、残留磁束密度Brを0.
5T以上にすることはできない。
【0003】現在、0.5T以上の高い残留磁束密度B
rを有する永久磁石としては、粉末冶金法によって作製
されるSm−Co系磁石が知られている。しかしなが
ら、Sm−Co系磁石は、原料となるSmおよびCoの
いずれもが高価であるため、磁石価格が高いという欠点
を有している。
【0004】Nd−Fe−B系磁石は、安価なFeを主
成分として(全体の60質量%〜70質量%程度)含む
ため、Sm−Co系磁石に比べて安価である。粉末冶金
法によって作製されるNd−Fe−B系磁石や、液体急
冷法によって作製されるNd−Fe−B系急冷磁石が高
い残留磁束密度Brを発揮することができる。前者のN
d−Fe−B系磁石は、例えば特許文献1に開示されて
おり、後者のNd−Fe−B系急冷磁石は例えば特許文
献2に開示されている。
【0005】しかしながら、その製造工程に要する費用
が高いという問題がある。製造工程費用が高い理由のひ
とつは、含有量が全体の10原子%〜15原子%程度を
占めるNdの分離精製や還元反応に大規模な設備と多大
な工程が必要になることである。また、粉末冶金法によ
る場合は、どうしても製造工程数が多くなる。
【0006】これに対し、液体急冷法によって製造され
るNd−Fe−B系急冷磁石は、溶解工程→液体冷却工
程→熱処理工程といった比較的簡単な工程で得られるた
め、粉末冶金法によるNd−Fe−B系磁石に比べて工
程費用が安いという利点がある。しかし、液体急冷法に
よる場合、バルク状の永久磁石を得るには、急冷合金か
ら作製した磁石粉末を樹脂と混ぜ、ボンド磁石を形成す
る必要があるので、成形されたボンド磁石に占める磁石
粉末の充填率(体積比率)は高々80%程度である。ま
た、液体急冷法によって作製した急冷合金は、磁気的に
等方性である。
【0007】以上の理由から、液体急冷法を用いて製造
したNd−Fe−B系急冷磁石は、粉末冶金法によって
製造した異方性のNd−Fe−B系焼結磁石に比べてB
rが低いという問題を有している。
【0008】Nd−Fe−B系急冷磁石の特性を改善す
る手法としては、特許文献3に記載されているように、
Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWからなる群か
ら選択された少なくとも1種の元素と、Ti、V、およ
びCrからなる群から選択された少なくとも1種の元素
とを複合的に添加することが有効である。このような元
素の添加によって、保磁力HcJと耐食性とが向上する
が、残留磁束密度Brを改善する有効な方法は、ボンド
磁石の密度を向上すること以外に知られていない。ま
た、Nd−Fe−B系急冷磁石中に6原子%以上の希土
類元素が含まれる場合、多くの先行技術によれば、溶湯
の急冷速度を高めるため、ノズルを介して冷却ロールに
溶湯を噴射するメルトスピニング法が使用されている。
【0009】Nd−Fe−B系磁石の場合、希土類元素
の濃度が比較的に低い組成、すなわち、Nd3.8Fe
77.219(原子%)の近傍組成を持ち、Fe3B型化合
物を主相とする磁石材料が提案されている(非特許文献
1)。この永久磁石材料は、液体急冷法によって作製し
たアモルファス合金に対して結晶化熱処理を施すことに
より、軟磁性であるFe3B相および硬磁性であるNd2
Fe14B相が混在する微細結晶集合体から形成された準
安定構造を有しており、「ナノコンポジット磁石」と称
されている。このようなナノコンポジット磁石について
は、1T以上の高い残留磁束密度Brを有することが報
告されているが、その保磁力HcJは160kA/m〜2
40kA/mと比較的低い。そのため、この永久磁石材
料の使用は、磁石の動作点が1以上になる用途に限られ
ている。
【0010】また、ナノコンポジット磁石の原料合金に
種々の金属元素を添加し、磁気特性を向上させる試みが
なされているが(特許文献4、5、6、7、および非特
許文献2)、必ずしも充分な「コスト当りの特性値」は
得られていない。これは、ナノコンポジット磁石におい
て実用に耐えられる大きさの保磁力が得られていないた
め、実使用において充分な磁気特性を発現できないため
である。
【0011】
【特許文献1】特開昭59−46008号公報
【特許文献2】特開昭60−9852号公報
【特許文献3】特開平1−7502号公報
【特許文献4】特開平3−261104号公報
【特許文献5】米国特許第4,836,868号明細書
【特許文献6】特開平7−122412号公報
【特許文献7】国際公開公第003/03403号パン
フレット
【非特許文献1】R. Coehoorn等、J. de Phys, C8,199
8, 669〜670頁
【非特許文献2】W.C.Chan, et.al. "THE EFFECTS OF R
EFRACTORY METALS ON THE MAGNETIC PROPERTIES OF α-
Fe/R2Fe14B-TYPE NANOCOMPOSITES", IEEE, Trans. Mag
n. No. 5,INTERMAG. 99, Kyongiu, Korea pp.3265-326
7, 1999
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記事情に
鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高い固有
保磁力(例えばHcJ≧480kA/m)を維持しなが
ら、残留磁束密度Br≧0.7Tを満足し得る優れた磁
気特性を持つナノコンポジット磁石を提供することにあ
る。また、本発明の他の目的は、従来よりもコストが低
い方法で製造されるナノコンポジット磁石を提供するこ
とにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の局面によ
るナノコンポジット磁石は、組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-nxyTizn(ただし、TはCoおよび
Niからなる群から選択された少なくとも1種の元素、
QはBおよびCからなる群から選択された少なくとも1
種の元素、RはNd、Pr、DyおよびTbからなる群
から選択された少なくとも1種の希土類元素であり、少
なくともNdおよびPrからなる群から選択された少な
くとも1種の希土類元素を含み、Mは、Al、Si、
V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、M
o、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbから
なる群から選択された少なくとも1種の元素)で表現さ
れ、組成比率x、y、z、mおよびnが、それぞれ、1
0<x≦20原子%、6≦y<10原子%、0.5≦z
≦12原子%、0≦m≦0.5、および0≦n≦10原
子%)で表現される組成を有し、かつ、酸素含有率が質
量基準で1500ppm以下であることを特徴とする。
【0014】2種類以上の強磁性結晶相を含有し、硬磁
性相の平均結晶粒径が5nm以上200nm以下で、軟
磁性相の平均結晶粒径が1nm以上50nm以下の範囲
内にある組織を有することが好ましい。
【0015】前記硬磁性相はR2Fe14B型化合物相
(すなわち、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性
相)を含むことが好ましい。
【0016】残留磁束密度Br≧0.7T、固有保磁力
cJ≧480kA/mの硬磁気特性を有し得る。
【0017】酸素含有率が質量基準で700ppm以下
であることがさらに好ましい。
【0018】窒素含有率が質量基準で400ppm以下
であることがさらに好ましい。
【0019】残留磁束密度Br≧0.8T、固有保磁力
cJ≧550kA/mの硬磁気特性を有し得る。
【0020】本発明の第2の局面によるナノコンポジッ
ト磁石は、組成式が(Fe1-mm 100-x-y-z-nxy
Tizn(ただし、TはCoおよびNiからなる群から
選択された少なくとも1種の元素、QはBおよびCから
なる群から選択された少なくとも1種の元素、RはN
d、Pr、DyおよびTbからなる群から選択された少
なくとも1種の希土類元素であり、少なくともNdおよ
びPrからなる群から選択された少なくとも1種の希土
類元素を含み、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、C
u、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、T
a、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択され
た少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、
y、z、mおよびnが、それぞれ、10<x≦20原子
%、6≦y<10原子%、0.5≦z≦12原子%、0
≦m≦0.5、および0≦n≦10原子%)で表現され
る組成を有し、かつ、窒素含有率が質量基準で400p
pm以下である。
【0021】2種類以上の強磁性結晶相を含有し、硬磁
性相の平均結晶粒径が5nm以上200nm以下で、軟
磁性相の平均結晶粒径が1nm以上50nm以下の範囲
内にある組織を有することが好ましく、前記硬磁性相は
2Fe14B型化合物を含むことが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】本発明のナノコンポジット磁石
は、Tiを含有する希土類−鉄−硼素系合金の溶湯を冷
却し、それによって凝固した急冷合金から形成されてい
る。この急冷凝固合金は、典型的には結晶相を含み、必
要に応じて結晶化熱処理が施される。ナノコンポジット
磁石中のB(またはC)の組成比率xが10原子%を超
える急冷凝固合金はアモルファスになりやすく、急冷直
後には結晶を含まない場合もあるが、結晶化熱処理を施
すことによって、結晶化が起こる。
【0023】本発明者は、特定範囲の組成を有する鉄基
希土類合金へTiを添加することにより、合金溶湯の冷
却過程で生じやすいα−Fe相の析出・成長を抑制し、
硬磁気特性を担うR2Fe14B型化合物相(すなわち、
2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相)の結晶成長
を優先的かつ均一に進行させることができることを見出
し、本発明を想到するに至った。以下では、急冷直後に
結晶相を生成する例を中心に説明するが、急冷直後にア
モルファスであっても、結晶化熱処理の過程において、
Tiの作用によって、以下に説明するメカニズムと同様
のメカニズムで同様の組織を形成し、優れた磁気特性を
有するナノコンポジット磁石が得られることを実験的に
確かめている。
【0024】本明細書における「ナノコンポジット磁
石」は、交換相互作用を発現するナノコンポジット構造
を有する合金を含む。従って、ナノコンポジット磁石
は、ナノコンポジット構造を有する急冷凝固合金(「急
冷合金」ということもある。)および、アモルファス状
態の急冷合金に熱処理を施すことによってナノコンポジ
ット構造が形成された合金、ならびにこれらを粉砕した
磁粉を含む。なお、ナノコンポジット構造を形成させる
ための熱処理は、急冷合金を粉砕する前に実行しても良
いし、後に実行しても良い。
【0025】Rが10原子%未満でB(またはC)が1
0原子%を超える場合、Tiを添加しないと、硬磁性の
Nd2Fe14B相の析出・成長に先だってα−Fe相が
析出し、成長しやすい。そのため、急冷合金に対する結
晶化熱処理が完了した段階では、軟磁性のα−Fe相が
粗大化してしまう。
【0026】これに対し、Tiを添加した場合は、α−
Fe相の析出・成長のキネティクス(kinetics)が遅く
なり、析出・成長に時間を要するため、α−Fe相の析
出・成長が完了する前にNd2Fe14B相の析出・成長
が開始すると考えられる。このため、α−Fe相が粗大
化する前にNd2Fe14B相が均一に分散した状態に大
きく成長する。また、Tiは、Nd2Fe14B相中には
ほとんど含まれず、鉄基硼化物の中、または、Nd2
14B相と鉄基硼化物相との界面に多く存在し、鉄基硼
化物を安定化すると考えられる。
【0027】本発明によれば、Tiの働きによって鉄基
硼化物やα−Fe相などの軟磁性相が微細化されるとと
もに、Nd2Fe14B相が均一に分散し、しかもNd2
14B相の体積比率が増加する。その結果、保磁力およ
び磁化(残留磁束密度)が増加し、減磁曲線の角形性が
向上する。
【0028】以下、本発明のナノコンポジット磁石をよ
り詳細に説明する。
【0029】本発明の第1の局面によるナノコンポジッ
ト磁石は、好適には、その組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-nxyTizn(ただし、TはCoおよび
Niからなる群から選択された少なくとも1種の元素、
QはB(硼素)およびC(炭素)からなる群から選択さ
れた少なくとも1種の元素、RはNd、Pr、Dyおよ
びTbからなる群から選択された少なくとも1種の希土
類元素であり、少なくともNdおよびPrからなる群か
ら選択された少なくとも1種の希土類元素を含み、M
は、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、
Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au
およびPbからなる群から選択された少なくとも1種の
元素)で表現され、組成比率x、y、z、mおよびn
が、それぞれ、10<x≦20原子%、6≦y<10原
子%、0.5≦z≦12原子%、0≦m≦0.5、およ
び0≦n≦10原子%)で表現される組成を有する。さ
らに、本発明の第1の局面によるナノコンポジット磁石
は、酸素含有率が質量基準で1500ppm以下であ
る。
【0030】本発明のナノコンポジット磁石は、希土類
元素の組成比率が全体の10原子%未満であるにもかか
わらず、Tiの添加によって磁化(残留磁束密度)がT
iを添加しない場合と同等のレベルを維持するか、また
は増加し、減磁曲線の角形性が向上するという予想外の
効果が発揮される。
【0031】本発明のナノコンポジット磁石では、硬磁
性相の周囲に(粒界相あるいは亜粒界相として)存在す
る軟磁性相の平均結晶粒径が50nm以下であるため、
軟磁性相と硬磁性相が交換相互作用によって磁気的に結
合する。その結果、硬磁性のR2Fe14B型化合物相以
外に鉄基硼化物やα−Feのような軟磁性相が存在して
いても、合金全体としては優れた減磁曲線の角形性を示
すことが可能になる。なお、軟磁性相の平均結晶粒径は
硬磁性相の平均結晶粒径よりも小さい。
【0032】本発明のナノコンポジット磁石は、好適に
は、R2Fe14B型化合物相の飽和磁化と同等、また
は、それよりも高い飽和磁化を有する鉄基硼化物やα−
Feを含有している。この鉄基硼化物は、例えば、Fe
3B(飽和磁化1.5T、なお、Fe3BはFe3.5Bを
含むものとする。)やFe236(飽和磁化1.6T)
である。ここで、R2Fe14Bの飽和磁化はRがNdの
とき約1.6Tであり、α−Feの飽和磁化は2.1T
である。
【0033】通常、Cおよび/またはBから構成される
Qの組成比率xが10原子%を超え、しかも希土類元素
Rの組成比率yが5原子%以上9原子%以下の範囲にあ
る場合、R2Fe233が生成されるが、このような組成
範囲にある原料合金を用いる場合であっても、本発明の
ようにTiを添加することにより、R2Fe233相の代
わりに、R2Fe14B相、および、Fe236やFe3
などの軟磁性の鉄基硼化物相を生成することができる。
すなわち、Tiを添加することにより、R2Fe14B相
の体積比率を増加できるとともに、生成した鉄基硼化物
相が磁化の向上に寄与する。
【0034】本発明者の実験によると、Tiを添加した
場合だけ、V、Cr、Mn、Nb、Moなどの他の種類
の金属を添加した場合と異なり、磁化の低下が生じず、
むしろ磁化が向上することが初めてわかった。また、T
iを添加した場合には、前述の他の添加元素と比べ、減
磁曲線の角形性が特に良好なものとなった。
【0035】また、このようなTi添加効果は、B濃度
が10原子%を超える場合に顕著に発揮される。以下、
図1を参照しながら、この点を説明する。
【0036】図1は、Tiが添加されていないNd−F
e−B磁石の最大磁気エネルギー積(BH)maxと硼素
濃度との関係を示すグラフである。グラフ中、白いバー
は10〜14原子%のNdを含有する試料のデータを示
し、黒いバーは8〜10原子%のNdを含有する試料の
データを示している。これに対し、図2は、Tiが添加
されたNd−Fe−B磁石の最大磁気エネルギー積(B
H)maxと硼素濃度との関係を示すグラフである。グラ
フ中、白いバーは10〜14原子%のNdを含有する試
料のデータを示し、黒いバーは8〜10原子%のNdを
含有する試料のデータを示している。
【0037】図1からわかるように、Tiが添加されて
いない試料では、Ndの含有量にかかわらず、硼素が1
0原子%を超えて多くなるにつれ、最大磁気エネルギー
積(BH)maxが低下している。さらに、この低下の程
度は、Ndの含有量が8〜10原子%の場合により大き
くなる。このような傾向は従来から知られており、Nd
2Fe14B相を主相とする永久磁石においては、硼素の
量を10原子%以下に設定することが好ましいと考えら
れてきた。例えば、米国特許4,836,868号は、硼素濃度
は5〜9.5原子%の実施例を開示し、さらに、硼素濃
度の好ましい範囲として4原子%以上12原子%未満、
より好ましい範囲として4原子%以上10原子%以下の
範囲を教示している。
【0038】これに対して、Tiが添加された試料で
は、図2からわかるように、硼素が10原子%を超える
或る範囲で最大磁気エネルギー積(BH)maxが向上し
ている。この向上はNdの含有量が8〜10原子%の場
合に特に顕著である。
【0039】このように本発明によれば、B濃度が10
原子%を超えると磁気特性が劣化するという従来の技術
常識からは予期できない効果をTi添加によって得るこ
とが可能になる。
【0040】さらに、本発明の第1の局面によるナノコ
ンポジット磁石の酸素含有率が質量基準で1500pp
m以下であり、残留磁束密度Br≧0.7T、固有保磁
力Hc J≧480kA/mの硬磁気特性を有し得る。
【0041】本発明によるナノコンポジット磁石の硬磁
気特性を担うR2Fe14B相中の希土類元素は酸素に対
する活性化エネルギーが大きく酸化されやすい。希土類
酸化物を低減し、良好な硬磁気特性を発現するのに必要
なR2Fe14B相の体積比率(50%以上、好ましくは
60%以上)を確保するためには、磁石(合金)の酸素
含有率を1500ppm以下に限定することが必要であ
ることを見出した。
【0042】ナノコンポジット磁石の酸素含有率が15
00ppmを超えると、各種回転機器およびアクチュエ
ータで必要とされる磁気特性(Br≧0.7T、HcJ
≧480kA/m)を得られないことがある。酸素含有
率は900ppm以下であることが好ましい。700p
pm以下であることがさらに好ましい。
【0043】本発明の第1の局面によるナノコンポジッ
ト磁石の酸素含有率の下限は実現可能な酸素含有率であ
る約20ppmに近いことが磁気特性の面で好ましい
が、100ppm以上でも大きな特性劣化は見られない
ため許容される。さらに、ナノコンポジット磁石の酸素
含有率として200ppm以上を許容することによっ
て、合金溶湯を調製する際に用いられる溶解炉の到達真
空度の上限を10-1Pa程度にできるため、設備費用が
大幅に軽減され、製造コストを低減することができる。
さらに、真空引きに掛かる時間を短縮でき、設備の稼働
率が向上するため、製造コストを低減することができ
る。
【0044】また、ナノコンポジット磁石の酸素含有率
が100ppm以上700ppm以下の範囲であれば、
酸素含有率が10ppm〜100ppmのナノコンポジ
ット磁石のBrの平均値の97%以上のBr値を有し、
磁気特性の特性の劣化は見られない。
【0045】さらに、本発明の第1の局面によるナノコ
ンポジット磁石の窒素含有率は400ppm以下である
ことが好ましい。特に、酸素含有率を700ppm以下
に抑えておけば、窒素含有率を400ppm以下に制御
することによって、残留磁束密度Br≧0.8T、固有
保磁力HcJ≧550kA/mの硬磁気特性を有し得る。
【0046】本発明の第1の局面によるナノコンポジッ
ト磁石は、必要に応じて急冷合金に熱処理が施される
が、酸素に対して活性な希土類元素を主要な元素として
含んでいるため、熱処理雰囲気は10Pa以下の真空雰
囲気、もしくはアルゴンなどの希ガスまたは窒素中に限
られる。10Pa以下の真空雰囲気では炉内の均熱が悪
く、均一な熱処理が行えないため、磁気特性が劣化する
場合がある。また、アルゴンなどの希ガスは窒素に比べ
10倍以上の価格であるため、希ガスの使用はプロセス
コストを上昇する。したがって、熱処理工程におけるプ
ロセスコストを低減するためには窒素雰囲気中で熱処理
することが好ましいが、窒素雰囲気中で熱処理するとナ
ノコンポジット磁石中に窒素が入り、磁気特性の低下を
招く恐れがある。そこで、本発明によるナノコンポジッ
ト磁石の製造コスト低減を目的に窒素雰囲気中熱処理を
検討したところ、ナノコンポジット磁石の窒素含有率が
400ppm以下となるような熱処理条件であれば、窒
素雰囲気中で熱処理しても磁気特性の低下を僅かなレベ
ルに抑制できることがわかった。
【0047】本発明の第1の局面によるナノコンポジッ
ト磁石の窒素含有率は、200ppm以下がさらに好ま
しく、150ppm以下がより好ましく、70ppm以
下が最も好ましい。溶湯急冷時において合金中に10p
pm〜20ppm程度の窒素が含有されるため、窒素含
有率の下限値は10ppmとする。また、窒素含有率の
分析は10ppm程度が限界であるため、分析機器の性
能上からも窒素含有率の下限は10ppmとする。
【0048】なお、上述したように、本発明の第1の局
面によるナノコンポジット磁石は、酸素含有率を低く制
御しているので、窒素含有率を400ppm以下に制御
することによって、残留磁束密度Br≧0.8T、固有
保磁力HcJ≧550kA/mという優れた硬磁気特性を
得ることができるが、窒素含有率が400ppmを超え
ると磁気特性が急激に低下するのは、酸素含有率が15
00ppm以下の場合に限られない。また、希ガス雰囲
気に代えて、窒素雰囲中で熱処理することによって得ら
れるプロセスコストの低減効果は、ナノコンポジット磁
石の磁気特性(酸素含有率)に関わらず得られる。
【0049】すなわち、本発明の第2の局面によるナノ
コンポジット磁石は、組成式が(Fe1-mm
100-x-y-z-nxyTizn(ただし、TはCoおよび
Niからなる群から選択された少なくとも1種の元素、
QはBおよびCからなる群から選択された少なくとも1
種の元素、RはNd、Pr、DyおよびTbからなる群
から選択された少なくとも1種の希土類元素であり、少
なくともNdおよびPrからなる群から選択された少な
くとも1種の希土類元素を含み、Mは、Al、Si、
V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、M
o、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbから
なる群から選択された少なくとも1種の元素)で表現さ
れ、組成比率x、y、z、mおよびnが、それぞれ、1
0<x≦20原子%、6≦y<10原子%、0.5≦z
≦12原子%、0≦m≦0.5、および0≦n≦10原
子%)で表現される組成を有し、かつ、窒素含有率が質
量基準で400ppm以下であり、窒素雰囲気中で熱処
理することによって製造され得る。また、酸素含有率を
上述のように制御すれば、窒素雰囲気中で熱処理を行っ
ても、残留磁束密度Br≧0.8T、固有保磁力HcJ
550kA/mという優れた硬磁気特性を得ることがで
きる。
【0050】次に、本発明によるナノコンポジット磁石
の製造方法を説明する。
【0051】上記の組成式(Fe1-mm100-x-y-z-n
xyTizn(10<x≦20原子%、6≦y<10
原子%、0.5≦z≦12原子%、0≦m≦0.5、お
よび0≦n≦10原子%)で表される鉄基希土類合金の
溶湯を不活性雰囲気中で冷却し、それによってR2Fe
14B型化合物相を例えば全体の60体積%以上含む急冷
合金を作製する。このとき、急冷合金中のR2Fe14
型化合物相の平均結晶粒径は例えば80nm以下にする
ことができる。この急冷合金に対して、必要に応じて熱
処理を行なえば、急冷合金中に残存していたアモルファ
スを結晶化させることができる。なお、Qの組成比率x
が10原子%を超えるとアモルファスが生成されやす
く、殆どがアモルファスとなる場合がある。この場合も
得られた急冷合金に対して熱処理を行うことによって、
体積分率が50%以上のR2Fe14B型化合物相を生成
させ、所望の磁気特性が発現される。但し、溶湯を急冷
する際に微細な結晶組織が生成される102〜105℃/
秒の冷却速度で溶湯を急冷すれば、R2Fe14B型化合
物相の核生成が容易となるので好ましい。
【0052】メルトスピニング法やストリップキャスト
法などの冷却ロールを用いる実施形態では、上記合金溶
湯を圧力1.3kPa以上の雰囲気中で冷却する。それ
により、合金溶湯は、冷却ロールとの接触によって急冷
されるだけでなく、冷却ロールから離れた後も、雰囲気
ガスによる二次冷却効果を受けて適切に冷却される。
【0053】本発明者の実験によれば、急冷時の雰囲気
ガスの圧力は、1.3kPa以上でしかも常圧(10
1.3kPa)以下に制御することが好ましく、10k
Pa以上90kPa以下の範囲にすることが更に好まし
い。より好ましい範囲は20kPa以上60kPa以下
である。
【0054】上記雰囲気ガス圧力のもとで、ロール表面
周速度の好ましい範囲は4m/秒以上50m/秒以下で
ある。ロール表面周速度が4m/秒より遅くなると、急
冷合金中に含まれるR2Fe14B型化合物相の結晶粒が
粗大化してしまうことになる。その結果、熱処理によっ
てR2Fe14B型化合物相は更に大きくなり、磁気特性
が劣化する可能性がある。
【0055】実験によると、ロール表面周速度の更に好
ましい範囲は5m/秒以上30m/秒以下であり、更に
好ましい範囲は5m/秒以上20m/秒以下である。
【0056】なお、本発明によるナノコンポジット磁石
の組成は、急冷合金中に粗大なα−Feをほとんど析出
させず、微細なR2Fe14B型化合物相を有する組織、
あるいは、微細なR2Fe14B型化合物相を有する組織
とアモルファス相が混在した組織が作製される。これに
より、熱処理後に鉄基硼化物相などの軟磁性相が硬磁性
相の間(粒界)に微細に分散した状態または薄く広がっ
た状態で存在する高性能のナノコンポジット磁石を得る
ことができる。なお、本明細書における「アモルファス
相」とは、原子配列が完全に無秩序化した部分によって
のみ構成される相だけではなく、結晶化の前駆体や微結
晶(サイズ:数nm以下)、または原子クラスタを部分
的に含んでいる相をも含むものとする。具体的には、X
線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を明確に
同定できない相を広く「アモルファス相」と称すること
にする。
【0057】従来、本発明によるナノコンポジット磁石
の組成に類似する組成(ただしTiを含まない)を有す
る合金溶湯を冷却してR2Fe14B型化合物相を60体
積%以上含むような急冷合金を作製しようとすると、α
−Feが多く析出した合金組織が得られるため、その後
の結晶化熱処理でα−Feが粗大化してしまうという問
題があった。α−Feなどの軟磁性相が粗大化すると、
磁気特性が大きく劣化し、到底実用に耐えるボンド磁石
は得られない。
【0058】特に本発明のナノコンポジット磁石の組成
のようにBの含有量が比較的多い場合、合金溶湯が持つ
高いアモルファス生成能のため、合金溶湯の冷却速度を
遅くしても、結晶相は生成されにくかった。そのため、
合金溶湯の冷却速度を充分に低下させてR2Fe14B型
化合物相の体積比率が60%を超えるような急冷凝固合
金を作製しようとすると、従来技術ではR2Fe14B型
化合物相以外にα−Feまたはその前駆体が多く析出し
てしまい、その後の結晶化熱処理により、α−Fe相の
粗大化が進行し、磁気特性が大きく劣化してしまった。
【0059】以上のことから、従来、ナノコンポジット
磁石の保磁力を増大させるには、合金溶湯の冷却速度を
高め、急冷凝固合金の大部分がアモルファス相によって
占められるような状態にした後、そのアモルファス相か
ら結晶化熱処理により均一に微細化された組織を形成す
ることが好ましいとの常識が存在していた。これは、交
換相互作用により硬磁性相と磁気的に結合可能な50n
m以下の微細な軟磁性相が分散した合金組織を持つナノ
コンポジット磁石を得るには、制御しやすい熱処理工程
でアモルファス相から結晶化し、軟磁性相と硬磁性相と
が混在する組織全体を微細化しなければならない、と考
えられていたからである。
【0060】このため、アモルファス生成能に優れたL
aを原料合金に添加し、その原料合金の溶湯を急冷する
ことによってアモルファス相を主相とする急冷凝固合金
を作製した後、結晶化熱処理でNd2Fe14B相および
α−Fe相の両方を析出・成長させ、いずれの相も数十
nm程度の微細なものとする技術が報告されている(W.
C.Chan、 et.al. "THE EFFECTS OF REFRACTORY METALS
ON THE MAGNETIC PROPERTIES OF α-Fe/R2Fe14B-TYPE N
ANOCOMPOSITES"、 IEEE、 Trans. Magn. No. 5、 INTER
MAG. 99、 Kyongiu、 Korea pp.3265-3267、 1999)。な
お、この論文は、Tiなどの高融点金属元素の微量添加
(2原子%)が磁気特性を向上させることと、希土類元
素であるNdの組成比率を9.5原子%よりも11.0
原子%に増加させることがNd2Fe14B相およびα−
Fe相の両方を微細化する上で好ましいことを教示して
いる。上記高融点金属の添加は、硼化物(R2Fe233
やFe3B)の生成を抑制し、Nd2Fe14B相およびα
−Fe相の2相のみからなる磁石粉末を得るための原料
合金を作製するために行なわれている。
【0061】これに対し、本発明のナノコンポジット磁
石では、添加Tiの働きにより、急冷凝固工程でα−F
e相の析出を抑えることができる。更には、結晶化熱処
理工程において鉄基硼化物等の軟磁性相を生成させ、か
つその粗大化を抑制することにより、優れた磁気特性を
有するナノコンポジット磁石を得ることができる。
【0062】すなわち、希土類元素量が比較的少ない
(例えば9原子%以下)原料合金を用いながら、磁化
(残留磁束密度)および保磁力が高く、減磁曲線の角形
性にも優れた磁石粉末を製造することができる。
【0063】前述のように、ナノコンポジット磁石の保
磁力の増加は、Nd2Fe14B相を冷却工程で優先的に
析出・成長させ、それによってNd2Fe14B相の体積
比率を増加させながら、しかも軟磁性相の粗大化を抑制
したことによって実現する。また、磁化の増加は、Ti
の働きにより、急冷凝固合金中に存在するBリッチなア
モルファス相から強磁性鉄基硼化物などの硼化物相を生
成することで、結晶化熱処理後の強磁性相の体積比率を
増加させたために得られたものと考えられる。
【0064】上述のようにして得られた急冷凝固合金に
対しては、必要に応じて、結晶化熱処理を行ない、R2
Fe14B型化合物相、硼化物相、およびα−Fe相を含
む3種類以上の結晶相を含有する組織を形成することが
好ましい。この組織中、R2Fe14B型化合物相の平均
結晶粒径は5nm以上200nm以下、硼化物相および
α−Fe相の平均結晶粒径は1nm以上50nm以下と
なるように熱処理温度および時間を調節する。R2Fe
14B型化合物相の平均結晶粒径は通常30nm以上とな
るが、条件によっては50nm以上になる。硼化物相や
α−Fe相などの軟磁性相の平均結晶粒径は30nm以
下となることが多く、典型的には数nmの大きさにしか
ならない。
【0065】本発明のナノコンポジット磁石におけるR
2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径は軟磁性相の平均
結晶粒径よりも大きい。図3は、ナノコンポジット磁石
の金属組織を模式的に示している。図3からわかるよう
に、相対的に大きなR2Fe1 4B型化合物相の間に微細
な軟磁性相が分散して存在している。このようにR2
14B型化合物相の平均結晶粒径が比較的大きくなって
も、軟磁性相の結晶成長は抑制されており、平均結晶粒
径が充分に小さいため、各構成相が交換相互作用によっ
て磁気的に結合し、その結果、軟磁性相の磁化方向が硬
磁性相によって拘束されるので、合金全体としては優れ
た減磁曲線の角形性を示すことが可能になる。
【0066】上述の製造方法において硼化物が生成され
やすい理由は、Rが10原子%未満でQ(Bおよび/ま
たはC)が10原子%を超える組成領域にて、R2Fe
14B型化合物相が大半を占める凝固合金を作製すると、
急冷合金中に存在するアモルファス相がどうしてもBを
過剰に含むこととなるため、このBが結晶化熱処理で他
の元素と結合して析出・成長しやすくなるためであると
考えられる。しかし、このBと他の元素の結合により、
磁化の低い化合物が生成されると、合金全体として磁化
が低下してしまう。
【0067】本発明者の実験によれば、Tiを添加した
場合だけ、V、Cr、Mn、Nb、Moなどの他の種類
の金属を添加した場合と異なり、磁化の低下が生じず、
むしろ磁化が向上することがわかった。また、Tiを添
加した場合には、前述の他の添加元素と比べ、減磁曲線
の角形性が特に良好なものとなった。これらのことか
ら、磁化の低い硼化物の生成を抑制する上でTiが重要
な働きをしていると考えられる。特に、BおよびTiが
比較的に少ない場合は、熱処理によって強磁性を有する
鉄基硼化物相が析出しやすい。この場合、アモルファス
相中に含まれるBが鉄基硼化物中に取り込まれる結果、
結晶化熱処理後に残存するアモルファス相の体積比率が
減少し、強磁性の結晶相が増加するため、残留磁束密度
rが向上すると考えられる。
【0068】以下、図4を参照しながら、この点をより
詳細に説明する。
【0069】図4は、Tiを添加した場合、および、T
iに代えてNbなどを添加した場合における急冷凝固合
金の結晶化過程における微細組織の変化を模式的に示す
図である。Tiを添加した場合は、α−Feが析出する
温度よりも高い温度領域においても各構成相の粒成長が
抑制されており、優れた硬磁気特性が維持される。これ
に対し、Nb、V、Crなどの金属元素を添加した場合
は、α−Feが析出するような比較的高い温度領域で各
構成相の粒成長が著しく進行し、各構成相間に働く交換
相互作用が弱まってしまう結果、減磁曲線の角形性が大
きく低下する。
【0070】まず、Nb、Mo、Wを添加した場合を説
明する。この場合、α−Feが析出しない比較的低い温
度領域で熱処理を行なえば、減磁曲線の角形性に優れた
良好な硬磁気特性を得ることが可能である。しかし、こ
のような温度で熱処理を行なった合金では、R2Fe14
B型微細結晶相がアモルファス相中に分散して存在して
いると推定され、ナノコンポジットの構成は形成されて
いないため、高い磁化が期待できない。また、更に高い
温度で熱処理を行なうと、アモルファス相中からα−F
e相が析出する。このα−Fe相は、Tiを添加した場
合と異なり、析出後、急激に成長し、粗大化する。この
ため、各構成相間の交換相互作用が弱くなり、減磁曲線
の角形性が大きく劣化してしまうことになる。
【0071】一方、Tiを添加した場合は、熱処理によ
り、R2Fe14B型結晶相、鉄基硼化物相、α−Fe
相、およびアモルファス相を含むナノコンポジット構造
が得られ、各構成相が均一に微細化する。また、Tiを
添加した場合は、α−Fe相の成長が抑制される。
【0072】VやCrを添加した場合は、これらの添加
金属がFeに固溶し、Feと反強磁性的に結合するた
め、磁化が大きく低下してしまう。また、VやCrを添
加した場合、熱処理に伴う粒成長が充分に抑制されず、
減磁曲線の角形性が劣化する。
【0073】このようにTiを添加した場合のみ、α−
Fe相の粗大化を適切に抑制し、強磁性の鉄基硼化物を
形成することが可能になる。更に、Tiは、液体急冷時
にFe初晶(後にα−Feに変態するγ−Fe)の析出
を遅らせ、過冷却液体の生成を容易にする元素としてB
やCとともに重要な働きをするため、合金溶湯を急冷す
る際の冷却速度を102℃/秒〜105℃/秒程度の比較
的低い値にしても、α−Feを大きく析出させることな
く、R2Fe14B型結晶相とアモルファス相とが混在す
る急冷合金を作製することが可能になる。このことは、
種々の液体急冷法の中から、特に量産に適したストリッ
プキャスト法の採用を可能にするため、低コスト化にと
って極めて重要である。
【0074】合金溶湯を急冷して急冷凝固合金(急冷合
金)を得る方法として、ノズルやオリフィスによる溶湯
の流量制御を行なわずに溶湯をタンディッシュから直接
に冷却ロール上に注ぐストリップキャスト法は生産性が
高く、製造コストの低い方法である。R−Fe−B系希
土類合金の溶湯をストリップキャスト法によっても達成
可能な冷却速度範囲でアモルファス化するには、通常、
Bを10原子%以上添加する必要がある。従来の技術に
おいてBを多く添加した場合は、急冷合金に対して結晶
化熱処理を行った後、アモルファス相の他、粗大なα−
Fe相や軟磁性相であるR2Fe233相が析出するた
め、均質な微細結晶組織が得られない。その結果、強磁
性相の体積比率が低下し、磁化の低下およびR2Fe14
B相の存在比率の低下により、保磁力の大幅な低下を招
来する。しかしながら、Tiを添加すると、上述したよ
うにα−Fe相の粗大化が抑制されるなどの現象が起こ
り、予想外に磁化が向上する。
【0075】なお、急冷合金がアモルファス相を多く含
む場合よりも、R2Fe14B相を多く含む状態にある方
が、最終的な磁気特性は高いものが得やすい。急冷合金
中に占めるR2Fe14B相の体積比率は、全体の半分以
上、具体的には60体積%以上になることが好ましい。
この60体積%という値は、メスバウアー分光法で測定
されたものである。
【0076】[組成の限定理由]本発明のナノコンポジ
ット磁石は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
yTizn(ただし、TはCoおよびNiからなる群か
ら選択された少なくとも1種の元素、QはBおよびCか
らなる群から選択された少なくとも1種の元素、RはN
d、Pr、DyおよびTbからなる群から選択された少
なくとも1種の希土類元素であり、少なくともNdおよ
びPrからなる群から選択された少なくとも1種の希土
類元素を含み、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、C
u、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、T
a、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択され
た少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、
y、z、mおよびnが、それぞれ、10<x≦20原子
%、6≦y<10原子%、0.5≦z≦12原子%、0
≦m≦0.5、および0≦n≦10原子%)で表現され
る組成を有する。
【0077】Qは、その全量がB(硼素)から構成され
るか、または、BおよびC(炭素)の組み合わせから構
成される。Qの総量に対するCの原子比率割合は0.5
以下であることが好ましい。
【0078】Qの組成比率xが10原子%以下になる
と、急冷時の冷却速度が102℃/秒〜105℃/秒程度
と比較的低い場合、得られた急冷合金に熱処理を施して
も700kA/m未満のHcJしか得られないことがあ
る。そのため、メルトスピニング法やストリップキャス
ト法で優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石を
作製することが困難になる。さらに、液体急冷法の中で
も工程費用が比較的安いストリップキャスト法を採用で
きなくなり、磁石の価格が上昇してしまうことになる。
一方、Qの組成比率xが20原子%を超えると、結晶化
熱処理後も残存するアモルファス相の体積比率が増し、
同時に、構成相中で最も高い飽和磁化を有するα−Fe
の存在比率が減少するため、残留磁束密度Brが低下し
てしまう。以上のことから、Qの組成比率xは10原子
%を超え、20原子%以下となるように設定することが
好ましい。より好ましい組成比率xの範囲は10原子%
以上17原子%以下である。さらに、鉄基硼化物相を効
率よく析出させBrを向上させることが可能なことか
ら、xの範囲を10原子%以上14原子%以下にするこ
とがさらに好ましい。なお、アモルファス生成能がより
高い15<x≦20原子%のときには、3.0<z<1
2原子%を満足することが好ましい。
【0079】BおよびCの合計に対するCの比率pは、
原子比で、0以上0.50以下の範囲にあることが好ま
しい。Bのみでは非磁性相であるTiB2相が析出し磁
気特性が劣化したり、合金溶湯の粘性が増し所望の条件
で急冷することが困難になることがある。C添加の効果
を得るには、Cの比率pが0.01以上であることが好
ましい。pが0.01よりも少なすぎると、C添加の効
果がほとんど得られない。一方、pが0.5よりも大き
いと、α−Fe相の生成量が増大し、R2Fe1 4B相の
生成が妨げられ、磁気特性が劣化するという問題が生じ
る。比率pの下限は、0.02であることが好ましく、
pの上限は0.40以下であることが好ましい。比率p
は0.08以上0.25以下であることが更に好まし
い。
【0080】Rは、PrまたはNdを必須元素として含
み、その必須元素の一部をDyおよび/またはTbで置
換してもよい。LaまたはCeが存在すると、保磁力お
よび角形性が劣化するため、LaおよびCeを実質的に
含まないことが好ましい。ただし、微量のLaやCe
(0.5原子%以下)が不可避的に混入する不純物とし
て存在する場合は、磁気特性上、問題ない。したがっ
て、0.5原子%以下のLaやCeを含有する場合は、
LaやCeを実質的に含まないといえる。
【0081】Rの組成比率yが全体の6原子%未満にな
ると、硬磁気特性の発現に寄与するR2Fe14B型結晶
構造を有する化合物相が充分に析出せず、480kA/
m以上の保磁力HcJを得ることができなくなる。また、
Rの組成比率yが10原子%以上になると、強磁性を有
する鉄基硼化物やα−Feの存在量が低下すると同時
に、ナノコンポジット磁粉の耐食性や耐酸化性が低下す
る。故に、希土類元素Rの組成比率yは6原子%以上1
0原子%未満の範囲、例えば、7.0原子%以上9.5
原子%以下に調節することが好ましい。より好ましいR
の範囲は7.0原子%以上9.3原子%以下であり、さ
らに好ましいRの範囲は8.0原子%以上9.0原子%
以下である。
【0082】Tiは、前述した効果を得るためには必須
の元素であり、保磁力HcJおよび残留磁束密度Brの向
上および減磁曲線の角形性の改善に寄与し、最大エネル
ギー積(BH)maxを向上させる。
【0083】Tiの組成比率zが全体の0.5原子%未
満になると、Ti添加の効果が充分に発現しない。一
方、Tiの組成比率zが全体の12原子%を超えると非
磁性相であるTiB2の析出が顕著になるだけでなく、
結晶化熱処理後も残存するアモルファス相の体積比率が
増すため、残留磁束密度Brの低下を招来しやすい。以
上のことから、Tiの組成比率zは0.5原子%以上1
2原子%以下の範囲とすることが好ましい。より好まし
いzの範囲の下限は1.0原子%であり、より好ましい
zの範囲の上限は8.0原子%である。更に好ましいz
の範囲の上限は6.0原子%である。
【0084】また、Cおよび/またはBから構成される
Qの組成比率xが高いほど、Q(例えば硼素)を過剰に
含むアモルファス相が形成されやすいので、Tiの組成
比率zを高くすることが好ましい。TiはBに対する親
和性が強く、硬磁性相の粒界に濃縮される。Bに対する
Tiの比率が高すぎると、Tiは粒界にではなく、R 2
Fe14B化合物中に入り込み、磁化を低下させる可能性
がある。また、Bに対するTiの比率が低すぎると、B
リッチアモルファス相が多く生成されてしまう。
【0085】実験によれば、0.05≦z/x≦0.4
を満足させるように組成比率を調節することが好まし
く、0.1≦z/x≦0.35を満足させることがより
好ましい。更に好ましくは0.13≦z/x≦0.3で
ある。
【0086】Feは、上述の元素の含有残余を占める
が、Feの一部をCoおよびNiの1種または2種の遷
移金属元素(T)で置換しても所望の硬磁気特性を得る
ことができる。Feに対するTの置換量が50%(すな
わち、mが0.5)を超えると、0.7T以上の高い残
留磁束密度Brが得られない。このため、置換量は0%
以上50%以下(すなわち、0≦m≦0.5)の範囲に
限定することが好ましい。特に、Feの一部をCoで置
換すると、HcJやBrといった硬磁気特性が向上するの
で好ましい。また、Co置換によりR2Fe14B相のキ
ュリー温度が上昇するため、温度特性が改善される。C
oによるFe置換量の好ましい範囲は、0.5%以上4
0%以下である。
【0087】添加元素Mとして、Al、Si、V、C
r、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、A
g、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群
から選択された少なくとも1種の元素を少量含んでもよ
い。これらの元素の組成比率nが10原子%以下であれ
ば磁気特性を劣化させるものではないが、2原子%以下
であることが好ましい。
【0088】次に、本発明によるナノコンポジット磁石
(またはナノコンポジット磁石用合金)の製造について
ロール法の1種であるメルトスピニング法、ストリップ
キャスト法を用いた実施形態を説明する。
【0089】<液体急冷装置>本実施形態では、例え
ば、図5に示す急冷装置を用いて急冷合金を製造する。
酸化しやすい希土類元素RやFeを含む急冷合金の酸化
を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で合金製造工程を実行
する。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等
の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希
土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまた
はアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
【0090】図5の装置は、真空または不活性ガス雰囲
気を保持し、その圧力を調整することが可能な原料合金
の溶解室1および急冷室2を備えている。図5(a)は
全体構成図であり、図5(b)は、一部の拡大図であ
る。
【0091】図5(a)に示されるように、溶解室1
は、所望の磁石合金組成になるように配合された原料2
0を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5
を有する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原
料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8と
を備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯
え、その出湯温度を所定のレベルに維持できる加熱装置
(不図示)を有している。
【0092】急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯2
1を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えてい
る。
【0093】この装置においては、溶解室1および急冷
室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御され
る。そのために、雰囲気ガス供給口1b、2b、および
8bとガス排気口1a、2a、および8aとが装置の適
切な箇所に設けられている。特にガス排気口2aは、急
冷室2内の絶対圧を30kPa〜常圧(大気圧)の範囲
内に制御するため、ポンプに接続されている。
【0094】溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介
して溶湯21を貯湯容器4内に適宜注ぎ込む。溶湯21
は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱
される。
【0095】貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と
急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21
を下方に位置する冷却ロール7の表面に流下させる。出
湯ノズル5のオリフィス径は、例えば0.5〜2.0m
mである。溶湯21の粘性が大きい場合、溶湯21は出
湯ノズル5内を流れにくくなるが、本実施形態では急冷
室2を溶解室1よりも低い圧力状態に保持するため、溶
解室1と急冷室2との間に圧力差が形成され、溶湯21
の出湯がスムーズに実行される。
【0096】冷却ロール7は、熱伝導度の点からAl合
金、銅合金、炭素鋼、真鍮、W、Mo、青銅から形成さ
れ得る。ただし、機械的強度および経済性の観点から、
Cu、Fe、またはCuやFeを含む合金から形成する
ことが好ましい。CuやFe以外の材料で冷却ロールを
作製すると、急冷合金の冷却ロールに対する剥離性が悪
くなるため、急冷合金がロールに巻き付くおそれがあり
好ましくない。冷却ロール7の直径は例えば300〜5
00mmである。冷却ロール7内に設けた水冷装置の水
冷能力は、単位時間あたりの凝固潜熱と出湯量とに応じ
て算出し、調節される。
【0097】図5に示す装置によれば、例えば合計10
kgの原料合金を10〜20分間で急冷凝固させること
ができる。こうして形成した急冷合金は、例えば、厚
さ:10〜300μm、幅:2mm〜3mmの合金薄帯
(合金リボン)22となる。
【0098】図6に示すストリップキャスティング装置
を用いて急冷凝固合金を製造することもできる。
【0099】図6のストリップキャスティング装置は、
内部を不活性ガス雰囲気で減圧状態にすることができる
チャンバ内に配置される。このストリップキャスティン
グ装置は、図5の装置と同様に、原料合金を溶解するた
めの溶解炉31と、溶解炉31から供給される合金溶湯
33を急冷・凝固させるための冷却ロール37と、溶解
炉31から冷却ロール37に溶湯33を導くシュート
(タンディッシュ)35と、凝固して冷却ロール37か
ら薄帯状の急冷合金38を剥離しやすくするスクレパー
ガス噴出器39とを備えている。
【0100】溶解炉31は、原料合金を溶融することに
よって作製した溶湯33をシュート35に対して略一定
の供給量で供給することができる。この供給量は、溶解
炉31を傾ける動作を制御することなどによって、任意
に調節することができる。なお、図6に示した好ましい
実施形態では、溶湯33を溶解炉31からシュート35
に直接、供給する構成を例示しているが、これに代え
て、溶解炉31とシュート35との間に樋を設けて、樋
を介してシュート35に供給する構成を採用しても良
い。
【0101】冷却ロール37は、その外周面が銅などの
熱伝導性の良好な材料から形成されており、直径(2
r)が30cm〜100cmで幅が15cm〜100c
mの寸法を有する。冷却ロール37は、不図示の駆動装
置によって所定の回転速度で回転することができる。こ
の回転速度を制御することによって、冷却ロール37の
周速度を任意に調節することができる。このストリップ
キャスティング装置による冷却速度は、冷却ロール37
の回転速度などを選択することにより、約102℃/秒
〜約105℃/秒の範囲で制御可能である。
【0102】シュート35の溶湯を案内する面は、水平
方向に対して角度(傾斜角度)αで傾斜し、シュート3
5の先端部と冷却ロールの表面との距離は数mm以下に
保たれる。そして、シュート35は、その先端部と冷却
ロール37の中心とを結ぶ線が水平方向に対して角度β
(0°≦β≦90°)を形成するように配置される。シ
ュート35の傾斜角度αは、1°≦α≦80°であるこ
とが好ましく、5°≦α≦60°の関係を満足すること
が更に好ましい。角度βは、10°≦β≦55°の関係
を満足することが好ましい。
【0103】シュート35上に供給された溶湯33は、
シュートの先端部から冷却ロール37の表面に対して圧
力を加えられずに供給され、冷却ロール37の表面に溶
湯のパドル36が形成される。
【0104】シュート35は、セラミックス等で構成さ
れ、溶解炉31から所定の流量で連続的に供給される溶
湯33を一時的に貯湯するようにして流速を遅延し、溶
湯33の流れを整流することができる。シュート35に
供給された溶湯33における溶湯表面部の流れを選択的
に堰き止めることができる堰き止め板を設ければ、整流
効果を更に向上させることができる。
【0105】シュート35を用いることによって、冷却
ロール37の胴長方向(軸線方向:紙面に垂直)におい
て、一定幅にわたって略均一な厚さに広げた状態で、溶
湯33を供給することができる。シュート35の溶湯案
内面の傾斜角度αを調節することにより、溶湯供給速度
を微調整できる。溶湯33は、その自重により、シュー
ト35の傾斜した案内面を流れ、水平方向(X軸方向)
に平行な運動量成分をもつ。シュート35の傾斜角度α
を大きくするほど、溶湯33の流速は速くなり、運動量
も大きくなる。
【0106】<液体急冷法>まず、前述の組成式で表現
される原料合金の溶湯21を作製し、図5の溶解室1の
貯湯容器4に貯える。最終的に得られるナノコンポジッ
ト磁石の酸素含有率はこのときの雰囲気に大きく依存し
ており、溶湯21に酸素が過剰に含まれないように、溶
解炉3内を一旦高真空に排気した後、例えばArガスで
置換する。ストリップキャスト法では上述のように高温
で活性の高い溶湯がシュート上を流れるため、溶湯がチ
ャンバー内の雰囲気ガスと接触する時間が長く、酸素や
窒素と反応しやすい。ナノコンポジット磁石の酸素含有
率を200ppm以上1500ppmまで許容すると、
合金溶湯を調製する際に用いられる溶解炉3の到達真空
度の上限を10-1Pa程度にできるため、設備費用が大
幅に軽減され、製造コストを低減することができる。図
6に示したストリップキャスティング装置を用いたスト
リップキャスト法においても同様の効果を得ることがで
きる。なお、ナノコンポジット磁石の酸素含有率を20
0ppm未満に抑制するためには、真空到達度の上限を
10-2Pa程度以下にすることが好ましい。 次に、こ
の溶湯21は出湯ノズル5から減圧Ar雰囲気中の水冷
ロール7上に出湯され、冷却ロール7との接触によって
急冷され、凝固する。急冷凝固方法としては、冷却速度
を高精度に制御できる方法を用いる必要がある。
【0107】本実施形態の場合、溶湯21の冷却凝固に
際して、冷却速度を1×102〜1×108℃/秒とする
ことが好ましく、1×104〜1×106℃/秒とするこ
とが更に好ましい。作製される合金リボンの厚さは50
μm以上200μm以下であることが好ましく、その幅
は5mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0108】合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷
却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合
金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間
に、合金の温度は低下し、過冷却液体状態になる。その
後、過冷却状態の合金は冷却ロール7から離れ、不活性
雰囲気中を飛行する。合金は薄帯状で飛行している間に
雰囲気ガスに熱を奪われる結果、その温度は更に低下す
る。本実施形態では、雰囲気ガスの圧力を30kPa〜
常圧の範囲内に設定しているため、雰囲気ガスによる抜
熱効果が強まり、合金中にNd2Fe14B型化合物を均
一微細に析出・成長させることができる。なお、適切な
量のTiを原料合金中に添加していない場合には、上述
したような冷却過程を経た急冷合金中には、α−Feが
優先的に析出・成長するため、最終的な磁気特性が劣化
してしまうことになる。
【0109】本実施形態では、ロール表面速度を10m
/秒以上30m/秒以下の範囲内に調節し、かつ、雰囲
気ガスによる二次冷却効果を高めるために雰囲気ガス圧
力を30kPa以上にすることによって、平均結晶粒径
80nm以下の微細なR2Fe14B型化合物相を60体
積%以上含む急冷合金を作製している。
【0110】なお、本発明のナノコンポジット磁石を作
製するための液体急冷法としては、例示したノズルやオ
リフィスによって冷却ロールの表面に供給する合金溶湯
の流量を制御するメルトスピニング法に限られず、図6
に示したようにノズルやオリフィスを有しない装置を用
いるストリップキャスト法等の種々の方法を用いること
が出来る。また、単ロール法以外に、2つの冷却ロール
を用いる双ロール法を用いてもよい。さらに、ガスアト
マイズ法などのアトマイズ法を用いてもよく、ロール法
とアトマイズ法とを組み合わた冷却法を用いてもよい。
【0111】上記急冷法の中でも、ストリップキャスト
法の冷却速度は比較的遅く、102〜105℃/秒であ
る。本実施形態では、適切な量のTiを合金に添加する
ことにより、ストリップキャスト法による場合でもFe
初晶を含まない組織が大半を占める急冷合金を形成する
ことができる。ストリップキャスト法は、工程費用が他
の液体急冷法の半分程度以下であるため、メルトスピニ
ング法に比べて大量の急冷合金を作製する場合に有効で
あり、量産化に適した技術である。原料合金に対してT
iを添加しない場合や、Tiの代わりにCr、V、M
n、Mo、Ta、および/またはWを添加した場合に
は、ストリップキャスト法を用いて急冷合金を形成して
も、Fe初晶を多く含む金属組織が生成するため、所望
の金属組織を形成することができない。
【0112】また、メルトスピニング法やストリップキ
ャスト法においてロール表面周速度を調整することによ
って、合金の厚さを制御することができる。ロール表面
周速度を調整することによって、厚さが60μm以上3
00μm以下の範囲の合金を形成すると、この合金は、
上記の微細な組織から構成されているため、粉砕工程に
よって種々の方位に破断しやすい。その結果、等軸的な
形状の(アスペクト比が1に近い)粉末粒子が得られや
すい。すなわち、一定の方位に沿って平たく伸びた粉末
粒子が得られるのではなく、等軸的な形状、すなわち球
形に近い形状の粉末粒子が形成される。特に、アスペク
ト比(粒子の短軸方向のサイズ/長軸方向のサイズ)が
0.3以上1.0以下の磁粉を得ることができる。この
ようなアスペクト比を有する磁粉を用いたボンド用磁石
コンパウンドは成形性・流動性に優れる。
【0113】<熱処理>本実施形態では、前記急冷合金
の熱処理をアルゴン雰囲気中で実行する。好ましくは、
昇温速度を0.08℃/秒〜20℃/秒として、550
℃以上850℃以下の温度で30秒以上20分以下の時
間保持した後、室温まで冷却する。この熱処理によっ
て、アモルファス相中に準安定相の微細結晶が析出・成
長し、ナノコンポジット組織構造が形成される。本実施
形態によれば、熱処理前(すなわちas−cast)に
既に微細なR2Fe14B型結晶相が全体の60体積%以
上存在しているため、α−Fe相や他の結晶相の粗大化
が抑制され、R2Fe14B型結晶相以外の各構成相(軟
磁性相)が均一に微細化される。
【0114】なお、熱処理温度が550℃を下回ると、
熱処理後もアモルファス相が多く残存し、急冷条件によ
っては、保磁力が充分なレベルに達しない場合がある。
また、熱処理温度が850℃を超えると、各構成相の粒
成長が著しく、残留磁束密度Brが低下し、減磁曲線の
角形性が劣化する。このため、熱処理温度は550℃以
上850℃以下が好ましいが、より好ましい熱処理温度
の範囲は570℃以上820℃以下である。
【0115】本実施形態では、雰囲気ガスによる二次冷
却効果のため、急冷合金中に充分な量のR2Fe14B型
化合物相が均一かつ微細に析出している。このため、急
冷合金に対して敢えて結晶化熱処理を行なわない場合で
も、急冷凝固合金自体が充分な磁気特性を発揮し得る。
そのため、結晶化熱処理は必須の工程ではないが、これ
を行なうことが磁気特性向上のためには好ましい。な
お、従来に比較して低い温度の熱処理でも充分に磁気特
性を向上させることが可能である。
【0116】熱処理雰囲気は、合金の酸化を防止するた
め、不活性ガス雰囲気が好ましい。0.1kPa以下の
真空中で熱処理を行っても良い。また、ナノコンポジッ
ト磁石の窒素含有率が400ppm以下となるような熱
処理条件であれば、窒素雰囲気中で熱処理しても磁気特
性の低下を実用範囲内に抑制できる。このような場合に
は、アルゴンなどの希ガスに代えて、安価な窒素ガスを
用いることができる。
【0117】なお、原料合金に炭素を添加すると、磁粉
の耐酸化性がさらに向上する。充分な量のCを添加して
いる場合は、急冷合金に対する熱処理を大気雰囲気下で
行なっても良い。
【0118】熱処理前の急冷合金中には、R2Fe14
型化合物相およびアモルファス相以外に、Fe3B相、
Fe236、およびR2Fe233相等の準安定相が含ま
れていても良い。その場合、Ti添加の効果により、熱
処理によって、R2Fe233相は消失し、R2Fe14
相の飽和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化
を示す鉄基硼化物(例えばFe236)やα−Feを結
晶成長させることができる。
【0119】本発明のナノコンポジット磁石では、最終
的にα−Feのような軟磁性相が存在していても、Ti
の効果によってその粒成長が抑制されて、組織が微細化
されている。その結果、軟磁性相と硬磁性相とが交換相
互作用によって磁気的に結合するため、優れた磁気特性
が発揮される。
【0120】熱処理後におけるR2Fe14B型化合物相
(硬磁性相)の平均結晶粒径は、単磁区結晶粒径である
300nm以下となる必要があり、5nm以上200n
m以下、更には20nm以上150nm以下であること
が好ましく、20nm以上100nm以下であることが
更に好ましい。これに対し、硼化物相やα−Fe相(軟
磁性相)の平均結晶粒径が50nmを超えると、軟磁性
相と硬磁性相との間に働く交換相互作用が弱まり、減磁
曲線の角形性が劣化するため、(BH)maxが低下して
しまう。軟磁性相の平均結晶粒径が1nmを下回ると、
高い保磁力が得られなくなる。以上のことから、硼化物
相やα−Fe相などの軟磁性相の平均結晶粒径は1nm
以上50nm以下、好ましくは50nm以下であること
が好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。
良好な磁気特性を得るためには、硬磁性相および軟磁性
相が上記の範囲の平均粒径を有し、且つ、硬磁性相の平
均結晶粒径は軟磁性相の平均結晶粒径よりも大きいこと
が好ましい。
【0121】なお、熱処理前に急冷合金の薄帯を粗く切
断または粉砕しておいてもよい。
【0122】熱処理後、得られた磁石を微粉砕し、磁石
粉末(磁粉)を作製すれば、その磁粉から公知の工程に
よって種々のボンド磁石を製造することができる。ボン
ド磁石を作製する場合、鉄基希土類合金磁粉はエポキシ
樹脂やナイロン樹脂と混合され、所望の形状に成形され
る。このとき、ナノコンポジット磁粉に他の種類の磁
粉、例えばSm−Fe−N系磁粉やハードフェライト磁
粉を混合してもよい。
【0123】上述のボンド磁石を用いてモータやアクチ
ュエータなどの各種の回転機を製造することができる。
【0124】本発明の磁石磁末を射出成形ボンド磁石に
用いる場合は、平均粒度が200μm以下になるように
粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粒径
は30μm以上150μm以下である。また、圧縮成形
ボンド磁石に用いる場合は、粒度が300μm以下にな
るように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の
平均粒径は30μm以上250μm以下である。さらに
好ましくは、粒径分布に2つのピークを持ち、平均粒径
が50μm以上200μm以下にある。
【0125】なお、粉末の表面にカップリング処理や化
成処理、鍍金などの表面処理を施すことにより、成形方
法を問わずボンド磁石成形時の成形性や得られるボンド
磁石の耐食性および耐熱性を改善できる。また、成形後
のボンド磁石表面に樹脂塗装や化成処理、鍍金などの表
面処理を施した場合も、粉末の表面処理と同様にボンド
磁石の耐食性および耐熱性を改善できる。
【0126】
【実施例】(実施例1〜7)Nd8.5原子%、B1
1.5原子%、C0.5原子%、Ti2.5原子%、残
部Feの合金組成になるよう配合した原料5kgを坩堝
内に挿入した後、50kPaに保持したAr雰囲気中に
て高周波誘導加熱により母合金を得た。このとき、高周
波誘導加熱装置の溶解炉内の酸素分圧を変化させ、種々
の酸素含有率を有する母合金を作製した。この母合金を
用いることによって、表1に示される酸素含有率を有す
る実施例1から7のナノコンポジット磁石を得た。
【0127】ストリップキャスト法を用いて、上記母合
金から急冷合金を作製した。具体的には、坩堝を傾転
し、上記母合金の溶湯をシュートを介してロール表面速
度15m/sにて回転する直径250mmの純銅製の冷
却ロール上に直接供給し、合金溶湯を急冷した。なお、
その際の溶湯供給速度は坩堝の傾転角を調整することに
より2kg/分に制御した。また、得られた急冷合金の
平均厚さは80μmで、標準偏差σはおよそ10μmで
あった。
【0128】その後、得られたストリップキャスト合金
を850μm以下に粉砕した。さらに、フープベルト炉
を用い、Ar流気下、ベルト送り速度100mm/分に
て700℃に保持した炉内へ粉末を20g/分の供給速
度で送ることで熱処理を施し磁粉とした。
【0129】なお、磁粉の構成相を粉末XRDにて調べ
たところ、Nd2Fe14B相およびFe236相を有する
ナノコンポジット磁石であることが確認された。表1に
振動式磁力計を用いて測定した室温での磁粉の磁気特性
を示す。また、ナノコンポジット磁石に含まれる窒素含
有率はいずれも20ppm以下であった。
【0130】実施例および比較例を通じて、ナノコンポ
ジット磁石の酸素含有率は、急冷合金を粉砕した直後の
磁粉についての測定値であり、窒素含有率は、熱処理を
施した後の磁粉にいての測定値である。なお、磁粉の酸
素含有率は熱処理の前後において実質的に変化しないこ
とを確認した。酸素含有率および窒素含有率は、堀場製
作所製EMGA−550を用いて測定した。
【0131】(比較例1〜3)Nd8.5原子%、B1
1.5原子%、C0.5原子%、Ti2.5原子%残部
Feの合金組成になるよう配合した原料5kgを坩堝内
に挿入した後、50kPaに保持したAr雰囲気中にて
高周波誘導加熱により母合金を得た。このとき、上記実
施例1から7と同様に、溶解炉内の酸素分圧を変えるこ
とで種々の酸素含有率の母合金を作製した。この母合金
を用いることによって、表1に示される酸素含有率を有
する比較例1〜3のナノコンポジット磁石を得た。
【0132】ストリップキャスト法を用いて、上記母合
金から急冷合金を作製した。具体的には、坩堝を傾転
し、上記母合金の溶湯をシュートを介してロール表面速
度15m/sにて回転する直径250mmの純銅製の冷
却ロール上へ直接供給し、溶湯を急冷した。なお、その
際の溶湯供給速度は坩堝の傾転角を調整することにより
2kg/分に制御した。また、得られた急冷合金の平均
厚さは80μmで、標準偏差σはおおよそ10μmであ
った。
【0133】その後、得られたストリップキャスト合金
を850μm以下に粉砕した後、フープベルト炉を用
い、Ar流気下、ベルト送り速度100mm/分にて7
00℃に保持した炉内へ粉末を20g/分供給速度で送
ることで熱処理を施し磁粉とした。
【0134】なお、磁粉の構成相を粉末XRDにて調べ
たところ、Nd2Fe14B相およびFe236相を有する
ナノコンポジット磁石であることが確認された。表1に
振動式磁力計を用いて測定した室温での磁粉の磁気特性
を示す。また、ナノコンポジット磁石中に含まれる窒素
含有率は実施例と同様、いずれも20ppm以下であっ
た。
【0135】
【表1】
【0136】表1の結果から分かるように、酸素含有率
が質量基準で1500ppm以下の実施例1から7のナ
ノコンポジット磁石は、残留磁束密度Br≧0.7T、
固有保磁力HcJ≧480kA/mの硬磁気特性を有し、
各種回転機器およびアクチュエータで必要とされる磁気
特性を有している。さらに、酸素含有率が200ppm
以上700ppm以下である実施例3から5のナノコン
ポジット磁石のBrは、酸素含有率が約50ppm〜約
100ppmの実施例1および2のナノコンポジット磁
石のBrとほぼ同等の磁気特性を有している。
【0137】(実施例8〜14)Nd8.5原子%、B
11.5原子%、C0.5原子%、Ti2.5原子%、
残部Feの合金組成になるよう配合した原料5kgを坩
堝内に挿入した後、50kPaに保持したAr雰囲気中
にて高周波誘導加熱により母合金を得た。
【0138】ストリップキャスト法を用いて、上記母合
金から急冷合金を作製した。具体的には、坩堝を傾転
し、上記母合金の溶湯をシュートを介してロール表面速
度15m/sにて回転する直径250mmの純銅製の冷
却ロール上へ直接供給し溶湯を急冷した。なお、その際
の溶湯供給速度は坩堝の傾転角を調整することにより2
kg/分に制御した。また、得られた急冷合金の平均厚
さは80μmで、標準偏差σはおよそ10μmであっ
た。
【0139】その後、得られたストリップキャスト合金
を850μm以下に粉砕した後、真空熱処理炉を用い
て、窒素雰囲気下、700℃で1時間に保持し磁粉を作
製した。真空熱処理炉内の窒素圧力を変えることで表2
に示される窒素含有率を有する実施例8〜14の磁粉を
作製した。なお、酸素含有率は700ppm以下に調整
した。
【0140】なお、磁粉の構成相を粉末XRDにて調べ
たところ、Nd2Fe14B相およびFe236相を有する
ナノコンポジット磁石であることが確認された。表2に
振動式磁力計を用いて測定した室温での磁粉の磁気特性
を示す。
【0141】(比較例4、5)Nd8.5原子%、B1
1.5原子%、C0.5原子%、Ti2.5原子%残部
Feの合金組成になるよう配合した原料5kgを坩堝内
に挿入した後、50kPaに保持したAr雰囲気中にて
高周波誘導加熱により母合金を得た。
【0142】ストリップキャスト法を用いて、上記母合
金から急冷合金を作製した。具体的には、坩堝を傾転
し、上記母合金の溶湯をシュートを介してロール表面速
度15m/sにて回転する直径250mmの純銅製の冷
却ロール上へ直接供給し溶湯を急冷した。なお、その際
の溶湯供給速度は坩堝の傾転角を調整することにより2
kg/分に制御した。また、得られた急冷合金の平均厚
さは80μmで、標準偏差σはおよそ10μmであっ
た。
【0143】その後、得られたストリップキャスト合金
を850μm以下に粉砕した後、真空熱処理炉を用い
て、窒素雰囲気下、700℃で1時間に保持し磁粉を作
製した。真空熱処理炉内の窒素圧力を変えることで、表
2に示される窒素含有率を有する比較例4および5のナ
ノコンポジット磁粉を作製した。なお、酸素含有率は7
00ppm以下に調整した。
【0144】なお、磁粉の構成相を粉末XRDにて調べ
たところ、Nd2Fe14B相およびFe236相を有する
ナノコンポジット磁石であることが確認された。表2に
振動式磁力計を用いて測定した室温での磁粉の磁気特性
を示す。
【0145】
【表2】
【0146】表2から分かるように、窒素含有率が40
0ppm以下である実施例8から14のナノコンポジッ
ト磁石は、残留磁束密度Br≧0.8T、固有保磁力H
cJ≧600kA/mの硬磁気特性を有している。従っ
て、酸素含有率を700ppm以下に抑えておけば、窒
素含有率が400ppm以下となるような熱処理条件で
あれば、窒素雰囲気中で熱処理しても優れた磁気特性を
得られることが分かる。もちろん、酸素含有率が700
ppmを超えても1500ppm以下であれば、窒素雰
囲気で熱処理を行っても磁気特性の低下を僅かなレベル
に抑制することができ、良好な磁気特性を有するナノコ
ンポジット磁石を得ることができる。
【0147】なお、上述したように、ナノコンポジット
磁石の酸素含有率を1500ppm以下に制御し、且
つ、窒素含有率を400ppm以下に制御することによ
って、残留磁束密度Br≧0.8T、固有保磁力HcJ
550kA/mという優れた硬磁気特性を得ることがで
きるが、窒素含有率が400ppmを超えると磁気特性
が急激に低下するのは、酸素含有率が1500ppm以
下の場合に限られない。また、希ガス雰囲気に代えて、
窒素雰囲中で熱処理することによって得られるプロセス
コストの低減効果は、ナノコンポジット磁石の磁気特性
(酸素含有率)に関わらず得られる。
【0148】
【発明の効果】本発明によれば、高い固有保磁力(例え
ばHcJ≧480kA/m)を維持しながら、残留磁束密
度Br≧0.7Tを満足し得る優れた磁気特性を持つナ
ノコンポジット磁石が提供される。
【0149】また、本発明によれば、Tiを添加するこ
とにより、液体急冷法を用いて急冷合金を作製する際
に、冷却速度を低下させても、液体冷却工程時のα−F
e相の析出が抑制される。したがって、ストリップキャ
スト法のように比較的冷却速度が遅く、量産化に適した
液体急冷法を用いることが可能になるため、製造コスト
の低減に極めて有効である。
【0150】さらに、本発明によれば、液体急冷法によ
って得られた急冷合金を窒素雰囲気中で熱処理しても十
分な磁気特性を有するナノコンポジット磁石が提供さ
れ、ナノコンポジット磁石の製造コストをさらに低減す
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Tiが添加されていないNd−Fe−Bナノコ
ンポジット磁石の最大磁気エネルギー積(BH)max
硼素濃度との関係を示すグラフである。グラフ中、白い
バーは10〜14原子%のNdを含有する試料のデータ
を示し、黒いバーは8〜10原子%のNdを含有する試
料のデータを示している。
【図2】Tiが添加されたNd−Fe−Bナノコンポジ
ット磁石の最大磁気エネルギー積(BH)maxと硼素濃
度との関係を示すグラフである。グラフ中、白いバーは
10〜14原子%のNdを含有する試料のデータを示
し、黒いバーは8〜10原子%のNdを含有する試料の
データを示している。
【図3】本発明による磁石におけるR2Fe14B型化合
物相と(Fe、Ti)−B相を示す模式図である。
【図4】Tiを添加した場合、および、Tiに代えてN
bなどを添加した場合における急冷凝固合金の結晶化過
程における微細組織の変化を模式的に示す図である。
【図5】(a)は本発明によるナノコンポジット磁石の
ための急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成
例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部
分の拡大図である。
【図6】本発明によるナノコンポジット磁石のための急
冷合金を製造する方法に用いる装置の他の構成例を示す
図である。
【符号の説明】
1b、2b、8b、および9b 雰囲気ガス供給口 1a、2a、8a、および9a ガス排気口 1 溶解室 2 急冷室 3 溶解炉 4 貯湯容器 5 出湯ノズル 6 ロート 7 回転冷却ロール 21 溶湯 22 合金薄帯
フロントページの続き (72)発明者 広沢 哲 大阪府三島郡島本町江川2丁目15番17号 住友特殊金属株式会社山崎製作所内 Fターム(参考) 5E040 AA04 CA01 NN01 NN06 NN12 NN13

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
    yTizn(ただし、TはCoおよびNiからなる群
    から選択された少なくとも1種の元素、QはBおよびC
    からなる群から選択された少なくとも1種の元素、Rは
    Nd、Pr、DyおよびTbからなる群から選択された
    少なくとも1種の希土類元素であり、少なくともNdお
    よびPrからなる群から選択された少なくとも1種の希
    土類元素を含み、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、
    Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、T
    a、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択され
    た少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、
    y、z、mおよびnが、それぞれ、10<x≦20原子
    %、6≦y<10原子%、0.5≦z≦12原子%、0
    ≦m≦0.5、および0≦n≦10原子%)で表現され
    る組成を有し、かつ、酸素含有率が質量基準で1500
    ppm以下である、ナノコンポジット磁石。
  2. 【請求項2】 2種類以上の強磁性結晶相を含有し、硬
    磁性相の平均結晶粒径が5nm以上200nm以下で、
    軟磁性相の平均結晶粒径が1nm以上50nm以下の範
    囲内にある組織を有する、請求項1に記載のナノコンポ
    ジット磁石。
  3. 【請求項3】 前記硬磁性相はR2Fe14B型化合物相
    を含む、請求項2に記載のナノコンポジット磁石。
  4. 【請求項4】 残留磁束密度Br≧0.7T、固有保磁
    力HcJ≧480kA/mの硬磁気特性を有する、請求項
    1から3のいずれかに記載のナノコンポジット磁石。
  5. 【請求項5】 酸素含有率が質量基準で700ppm以
    下である請求項1から4のいずれかに記載のナノコンポ
    ジット磁石。
  6. 【請求項6】 窒素含有率が質量基準で400ppm以
    下である請求項1から5のいずれかに記載のナノコンポ
    ジット磁石。
  7. 【請求項7】 残留磁束密度Br≧0.8T、固有保磁
    力HcJ≧550kA/mの硬磁気特性を有する、請求項
    6に記載のナノコンポジット磁石。
  8. 【請求項8】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-nx
    yTizn(ただし、TはCoおよびNiからなる群
    から選択された少なくとも1種の元素、QはBおよびC
    からなる群から選択された少なくとも1種の元素、Rは
    Nd、Pr、DyおよびTbからなる群から選択された
    少なくとも1種の希土類元素であり、少なくともNdお
    よびPrからなる群から選択された少なくとも1種の希
    土類元素を含み、Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、
    Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、T
    a、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択され
    た少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、
    y、z、mおよびnが、それぞれ、10<x≦20原子
    %、6≦y<10原子%、0.5≦z≦12原子%、0
    ≦m≦0.5、および0≦n≦10原子%)で表現され
    る組成を有し、かつ、窒素含有率が質量基準で400p
    pm以下である、ナノコンポジット磁石。
  9. 【請求項9】 2種類以上の強磁性結晶相を含有し、硬
    磁性相の平均結晶粒径が5nm以上200nm以下で、
    軟磁性相の平均結晶粒径が1nm以上50nm以下の範
    囲内にある組織を有する、請求項8に記載のナノコンポ
    ジット磁石。
  10. 【請求項10】 前記硬磁性相はR2Fe14B型化合物
    相を含む、請求項9に記載のナノコンポジット磁石。
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