JP2003194964A - スリップ機構を持つ時計用車及びその製造方法 - Google Patents

スリップ機構を持つ時計用車及びその製造方法

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JP2003194964A
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Masayuki Murayama
正幸 村山
Noritoshi Suzuki
紀寿 鈴木
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 時計用車のスリップトルクを安定させる構
造。 【解決手段】 中心歯車1には、一定幅Bを有する一対
の弾性腕部2、3が、それぞれ両周縁部1b、1b間を
接続するように形成されている。弾性腕部2、3の中央
には、内径φdを有する湾曲部2a、3aが形成されて
いて、分カナを弾性的に狭持している。弾性腕部2が周
縁部1b、1bと接続する接続部近傍には、それぞれ円
弧状の切り欠き部2d、2eによって、幅bの狭幅部2
b、2cが形成され、弾性腕部3が周縁部1b、1bと
接続する部分には、狭幅部2b、2cと対向するよう
に、狭幅部3b、3cが形成されている。このような狭
幅部2b、2c、3b、3cの存在が弾性腕部2、3の
バネ定数を低減させ、スリップトルクのバラツキを低減
させている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所定以上のトルク
が加わったときに、歯車と歯車軸とが摺動するようにし
たスリップ機構を持つ時計用車及びその製造方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】従来の一般的な指針表示式時計におい
て、時針歯車と円筒状の時針軸である筒車軸とを有する
時針車としての筒車、分針歯車である中心歯車と円筒状
の分針軸である分カナとを有する分針車としての中心
車、秒針歯車である四番歯車と秒針軸である四番カナと
を有する秒針車としての四番車が、各々四番カナは分カ
ナに、分カナは筒車軸に挿通されて、同軸に配設されて
おり、四番カナの軸端は分カナ軸端よりも、分カナの軸
端は筒車軸端よりも突出しており、秒カナ、分カナ及び
筒車軸の軸端には、秒針、分針及び時針が固定されてい
る。
【0003】駆動輪列から四番車へ、四番車から仲介車
である三番車を経て中心車へ、中心車から他の仲介車で
ある日の裏車を経て筒車へと、トルクが伝達されて各指
針が運針状態となる。表示時刻を修正するときには、リ
ューズを操作することによって、巻真に挿通されて巻真
と共に回転するツヅミ車が日の裏車と噛合して、リュー
ズの回転トルクが分カナ及び筒車に直接伝達される。こ
のとき、分カナと中心歯車とはその係合部において摺動
して、四番車を回転させずに時分針の修正ができる。
【0004】図7は、このような従来の中心車の一例を
示す縦断面図であり、図8はこの中心車の歯車である中
心歯車の平面図である。図7において、70は中心車で
あり、71は略円筒状の分針軸である分カナである。分
カナ71の斜面部71aとカナ部71cとの間に、斜面
を有する摺動部71bが形成されている。81は歯車で
あり、周縁部81aとそれより狭い幅Mの周縁部81b
を有し、一定の幅Bを有する一対の弾性腕部82、83
が対向する両周縁部81b、81b間を接続して形成さ
れている。
【0005】弾性腕部82、83の中央は湾曲部82
a、83aを成しており、円弧状の湾曲部82a、83
aの内径φdの内面で分カナ71の摺動部71bを弾性
的に狭持している。弾性腕部82、83の長さ及び幅を
適宜選択することにより、所望のスリップトルク(動摩
擦トルク)を得ることができる。即ち、比較的大径の中
心車の場合には、弾性腕部の長さも、幅も大きくとるこ
とができ、所望のスリップトルクに対してバラツキの小
さなものが得られたが、比較的小径の中心車の場合に
は、弾性腕部の長さが制限されるため、それに対応して
弾性腕部の幅も小さくする必要がある。この場合に、周
縁部81bの幅Mを他の周縁部81aより小さくしてあ
るのは、弾性腕部82、83の長さを少しでも長くする
配慮の結果である。
【0006】なお、スリップトルクは、大きすぎると中
心車81と噛合する歯車を摩耗させることになり、小さ
すぎると分針の重量に負けて運針中に分針位置がずれて
しまう。そこで、適度な値を有していることが必要であ
り、狙い値は時計の機種により異なり、300〜120
0μNm(マイクロニュートンメートル)程度である。
スリップトルクをある狙い値に合わせ込むには、弾性腕
部82、83の幅B並びに中心歯車81と分カナ71と
の嵌合代を適宜に選択することによって行っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、スリッ
プトルクの狙い値を調整するためには、弾性腕部82、
83の幅Bもある程度小さくする必要があるが、特に小
径の中心車の場合、従来の中心車では、例えば、歯車厚
さ100μm(マイクロメートル)、歯先円径2000
μmの中心歯車についてみると、幅Bは180μm程度
が小さくする限界であった。なぜなら、幅Bを、これ以
上弾性腕部の全長にわたって小さくすることは、弾性腕
部を金型で加工する際に、弾性腕部が捩れたりして歯車
の抜き型の寿命を短縮させてしまうからである。その結
果、弾性腕部のバネ定数が必要以上に大きくなってい
た。
【0008】このように、大きなバネ定数の弾性腕部で
あれば、中心歯車81と分カナ71の摺動部71bとの
嵌合代のバラツキが敏感に影響することになるため、ス
リップトルクのバラツキが大きくなっていた。スリップ
トルクが過大となった場合には、中心車と噛合する歯車
を摩耗させる危険性がある。また、スリップ始動時のピ
ークトルク(静摩擦トルク)も過大となり易く、その場
合には、中心車と噛合する歯車を破損する危険性がある
ために、スリップトルクのバラツキが大きいことが問題
であった。
【0009】上記発明は、このような従来の問題を解決
するためになされたものであり、その目的は、簡素な構
成を維持したまま、バラツキの小さなスリップトルクが
得られる、特に小径の車に好適な、スリップ機構を持つ
時計用車及びその製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】前述した目的を達成する
ための本発明の手段は、歯車に形成した一対の弾性腕部
の湾曲部が歯車軸を弾性的に狭持している時計用車に所
定以上のトルクが加わったときに、前記歯車と前記歯車
軸とが摺動するようにしたスリップ機構を持つ時計用車
において、前記弾性腕部に少なくとも一対の狭幅部を設
けたことを特徴とする。
【0011】また、前記狭幅部は、前記歯車中心に対し
て点対称の位置に設けたことを特徴とする。
【0012】また、前記狭幅部は、円弧状の切り欠きに
より形成されていることを特徴とする。
【0013】また、前記狭幅部は、前記弾性腕部と前記
歯車の周縁部との接続点近傍に設けられていることを特
徴とする。
【0014】また、前記歯車は、歯先円径が2000μ
m以下であることを特徴とする。
【0015】また、前述した目的を達成するための本発
明の他の手段は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記
載のスリップ機構を持つ時計用車を製造する方法におい
て、前記歯車は、帯材の小穴抜き、窓抜き、中心穴抜き
の順序によって前記狭幅部を有する前記弾性腕部が形成
される工程を含むことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面
に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の第一実施の
形態である中心車の中心歯車を示す平面図であり、図2
は中心歯車の加工工程を示す工程図である。図3、図
4、図5及び図6は、それぞれ本発明の第二、第三、第
四及び第五の実施の形態である中心歯車を示す平面図で
ある。なお、これら中心車の分カナは、従来技術で説明
したものと同じであるから、図面と説明とを省略する。
【0017】まず、第一の実施の形態である中心歯車の
構成を説明する。図1において、1は中心歯車であり、
中心歯車1の周縁部1bは周縁部1aより狭くなってい
る。2、3は一対の平行な弾性腕部であり、それぞれ両
周縁部1b、1b間を接続するように形成されている。
弾性腕部2、3の中央には、内径φdを有する湾曲部2
a、3aが形成されている。
【0018】弾性腕部2、3が周縁部1b、1bと接続
する接続部近傍には、それぞれ円弧状の切り欠き部2
d、2e、3d、3eによって、幅bの狭幅部2b、2
c、3b、3cが形成されている。狭幅部2bは狭幅部
3bと、狭幅部2cは狭幅部3cと対を成して、それぞ
れ歯車1の中心に対して点対称の位置にある。
【0019】ここで、中心歯車1の加工工程を図2を用
いて説明する。パイロット穴51a抜きに引き続き、帯
材51の順送りプレス抜き加工によって、まず、ステッ
プの小穴抜き工程において、後に狭幅部2b、2c、
3b、3cの切り欠き部2d、2e、3d、3eを形成
する4カ所の丸穴である小穴51bを抜き落とす。次
に、ステップの窓抜き工程において、窓抜きパンチに
よって窓部51c、51d、51e、51fを抜き落と
し、弾性腕部2、3を残す。但し、両弾性腕部2、3は
中央部のブリッジ51gで互いに連結してH字形を成す
状態にしておく。
【0020】ここで、弾性腕部2、3の長手方向が帯材
の圧延方向(送り方向と同じ)を向くように、金型をセ
ットしておく。次に、ステップの外形抜き工程におい
て、外形を抜き落として、中心歯車1のブランク52が
できる。次に、ステップの歯割り工程において、この
ブランクを多数重ねて歯割加工を施す。最後に、ステッ
プの中心穴抜き工程において、1枚ずつ、歯先円を基
準として中心穴抜きパンチによりブリッジ51gと共に
中心穴51hを抜き落とすことによって中心歯車1が完
成する。
【0021】次に、第一実施形態の作用・効果について
説明する。狭幅部2b、2c、3b、3cには、弾性腕
部2、3の幅Bを小さくすることなく、弾性腕部2、3
のバネ定数を小さくする作用がある。そして、狭幅部2
b、2c、3b、3cの幅bが狭いほど、バネ定数はよ
り小さくなる。狭幅部2b、2c、3b、3cを小穴5
1bの先行抜きで形成でき、幅Bを必要以上に狭くする
ことがないため、金型の寿命を向上させることができ
た。また、バネ定数を適宜な値に調整できるので、中心
車のスリップトルクのバラツキ並びにピークトルクのバ
ラツキを小さくできて、隣接する歯車の摩耗や破損を起
こすことがなくなった。このことは、比較的小径(例え
ば歯先円径2000μm以下)の車に対して、特に有効
である。
【0022】次に、本発明の第二、第三、第四及び第五
の実施の形態について、図3、図4、図5及び図6を用
いて説明する。但し、これらの実施の形態は第一の実施
の形態と比較して、狭幅部が形成されている位置が異な
るだけで、その他の構成は第一実施の形態の中心歯車1
と同様であるから、詳細な説明は省略する。図3の中心
歯車11においては、中心歯車11の中心に対して点対
称である一対の狭幅部12b、13bが、弾性腕部1
2、13の周縁部11bと接続する接続部近傍に形成さ
れている。
【0023】図4の中心歯車21においては、歯車21
の中心に対して点対称である一対の狭幅部22b、23
bが、弾性腕部22、23の周縁部21bから離れた位
置に形成されている。図5の中心歯車31においては、
中心歯車31の中心に対して点対称である一対の狭幅部
32b、33bが、弾性腕部32、33の周縁部31b
と接続する接続部近傍に形成されている。但し、狭幅部
32b、33bは弾性腕部32、33のそれぞれ外側に
形成されている。図6の中心歯車41においては、一対
の狭幅部42b、43cが、中心歯車41の中心に点対
称の位置にではなく、弾性腕部42、43の一方の同じ
周縁部41bと接続する接続部近傍に形成されている。
【0024】第二乃至第四の実施の形態において、一方
の弾性腕部に狭幅部が1カ所であっても、また、弾性腕
部のどの位置にあっても、それなりに弾性腕部のバネ定
数を小さくする作用がある。また、弾性腕部の点対称の
位置に狭幅部を設けているのは、中心車に組み立てられ
たときに、片側の弾性腕部の変形が、長手方向に非対称
に起こったとしても、双方の弾性腕部がその非対称な変
形を打ち消し合うことによって、中心位置のズレが発生
しないからである。但し、中心位置のズレ量が無視でき
る場合には、図6の中心歯車41のように、点対称では
ない位置に一対の狭幅部42b、43cを設けることも
可能である。
【0025】以上説明した、第一乃至第五の実施の形態
において、狭幅部を形成する切り欠き形状は、必ずしも
円弧状である必要はないが、加工上円弧であることが望
ましい。また、狭幅部の形成位置については、以上述べ
た実施の形態のいずれかを組み合わせたものであっても
よいことは勿論である。また、狭幅部の個数も一対に限
定されるものではなく、少なくとも一対あればよい。
【0026】<実施例>次に、第一実施の形態の実施例
について説明する。弾性腕部に狭幅部のない中心歯車を
有する従来の中心車と、狭幅部を点対称に2対設けた中
心歯車を有する本発明の中心車とを各々300個づつ製
作し、それらの性能を比較した。歯先円直径は共に31
50μm、弾性腕部の幅は共に200μm、狭幅部の幅
は75μmであり、歯車厚は120μmである。
【0027】その結果、スリップトルクのバラツキは、
従来品のσ(標準偏差)=49.4に対して、実施例で
はσ=30.1と向上した。なお、スリップトルクの平
均値は413.4μNmから300.9μNmへと低下
した。実用に供するには、スリップトルクの許容範囲に
入るようにするために、狙い値(平均値)の調整が必要
になるが、低下した分は中心歯車と分カナとの嵌合代を
増やすことによって調整することができた。
【0028】また、スリップ始動時のピークトルクのバ
ラツキも、従来品のσ=103.6に対して、実施例で
はσ=81.3と向上した。なお、ピークトルクの平均
値は703.0μNmから522.5μNmへと低下し
た。スリップトルクの調整によって、従来と同じ平均値
を維持しても、バラツキの小さい分ピークトルクの最大
値は小さくなった。以上の結果、隣接する歯車を摩耗さ
せたり、破損することがなくなった。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、時計用車のスリッ
プ構造において、歯車の弾性腕部に少なくとも一対の狭
幅部を設けたので、簡素な構造を維持したまま、弾性腕
部のバネ定数を低下させて、スリップトルクのバラツキ
を低減させ、スリップトルクを安定させることができ
た。従って、歯車の摩耗や破損も発生させない。これに
より、比較的小径の車に対しても好適なスリップ機構を
持つ時計用車及びその製造方法を提供することができ
た。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施の形態である中心車の歯車
を示す平面図である。
【図2】本発明の第一の実施の形態である中心歯車の加
工工程を説明する工程図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態である中心車の歯車
を示す平面図である。
【図4】本発明の第三の実施の形態である中心車の歯車
を示す平面図である。
【図5】本発明の第四の実施の形態である中心車の歯車
を示す平面図である。
【図6】本発明の第五の実施の形態である中心車の歯車
を示す平面図である。
【図7】通常用いられる中心車の縦断面図である。
【図8】従来の中心車の歯車を示す平面図である。
【符号の説明】
1、11、21、31、41 中心歯車 1a、1b、11b、21b、31b、41b 周縁部 2、3、12、13、22、23、32、33、42、
43 弾性腕部 2a、3a 湾曲部 2b、2c、3b、3c、12b、13b、22b、2
3b、32b、33b、42b、43c 狭幅部 51 帯材 51b 小穴 51c、51d、51e、51f 窓部 51h 中心穴

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 歯車に形成した一対の弾性腕部の湾曲部
    が歯車軸を弾性的に狭持している時計用車に所定以上の
    トルクが加わったときに、前記歯車と前記歯車軸とが摺
    動するようにしたスリップ機構を持つ時計用車におい
    て、前記弾性腕部に少なくとも一対の狭幅部を設けたこ
    とを特徴とするスリップ機構を持つ時計用車。
  2. 【請求項2】 前記狭幅部は、前記歯車中心に対して点
    対称の位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載の
    スリップ機構を持つ時計用車。
  3. 【請求項3】 前記狭幅部は、円弧状の切り欠きにより
    形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2
    記載のスリップ機構を持つ時計用車。
  4. 【請求項4】 前記狭幅部は、前記弾性腕部と前記歯車
    の周縁部との接続点近傍に設けられていることを特徴と
    する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のスリップ
    機構を持つ時計用車。
  5. 【請求項5】 前記歯車は、歯先円径が2000μm以
    下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいず
    れかに記載のスリップ機構を持つ時計用車。
  6. 【請求項6】 前記請求項1乃至請求項5のいずれかに
    記載のスリップ機構を持つ時計用車を製造する方法にお
    いて、前記歯車は、帯材の小穴抜き、窓抜き、中心穴抜
    きの順序によって前記狭幅部を有する前記弾性腕部が形
    成される工程を含むことを特徴とするスリップ機構を持
    つ時計用車の製造方法。
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