JP2003166019A - 磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板とその製造方法 - Google Patents

磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板とその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 磁気特性とグラス皮膜欠陥率の優れた一方向
性電磁鋼板の製造方法を提供する。 【解決手段】 C:0.03〜0.10%、Si:2.
5〜4.5%、酸可溶性Al:0.017〜0.040
%、N:0.0030〜0.0070%、0.003%
≦(S+0.405Se)≦0.018%、Mn:0.
02〜0.15%からなるスラブを、1200℃以上1
350℃未満の温度に加熱し、熱間圧延し、熱延板焼鈍
しもしくは省略し、一回もしくは中間焼鈍をはさむ2回
以上の冷間圧延を施して最終板厚とし、脱炭・一次再結
晶焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布し仕上焼鈍するに際し、最
終冷間圧延の圧下率を80〜96%とし、脱炭・一次再
結晶焼鈍後二次再結晶焼鈍までの間に窒化処理を行って
全窒素量をS、酸可溶性Al、窒素量との関係において
特定の範囲とするようにする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、変圧器等の鉄芯と
して使用される一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一方向性電磁鋼板は、主として変圧器そ
の他の電気機器の鉄芯材料として使用され、励磁特性、
鉄損特性等の磁気特性に優れていることが要求される。
【0003】励磁特性は、磁場の強さ800A/mにお
ける磁束密度(B値)によって表される。また鉄損特
性は、特定の周波数および磁束密度で鉄芯を磁化したと
きの鉄芯1kg当たりのエネルギーロスで示され、特に
一方向性電磁鋼板においては通常、周波数50Hz、磁
束密度1.7Teslaにおける鉄損W17/50によ
って表される。
【0004】一方向性電磁鋼板における磁束密度と鉄損
特性には密接な関係があり、製品の結晶粒の方向性が揃
っているほど磁束密度は高く、また鉄損特性も良好とな
る。一方、二次再結晶粒が大きくなると、磁束密度は高
くなるが、鉄損特性は悪くなる場合がある。このような
磁束密度が高く二次再結晶粒が大きな一方向性電磁鋼板
に対しては、磁区幅を細分化する磁区制御によって鉄損
特性を良好ならしめることができる。
【0005】一方向性電磁鋼板は、最終仕上焼鈍工程に
おいて二次再結晶を生成させ、鋼板面に{110}面
を、圧延方向に<001>軸を有する、所謂Goss組
織を発達させることによって製造される。良好な磁気特
性をもつ一方向性電磁鋼板を得るためには、磁化容易軸
である<001>軸を圧延方向に高度に揃えることが必
要である。
【0006】高い磁束密度を有する一方向性電磁鋼板の
製造技術の代表的なものとして、田口らによって特公昭
40−15644号公報に開示された技術、或は今中ら
によって特公昭51−13469号公報に開示された技
術がある。前者においてはAlNおよびMnSを、後者
においてMnS,MnSe,Sbを主なインヒビターと
して機能させている。
【0007】現在の一方向性電磁鋼板の工業的製造プロ
セスにおいて、これらインヒビターとして機能する析出
物の大きさ、形態および分散状態を適正に制御すること
が不可欠である。
【0008】MnSに関して言えば、熱間圧延に先立つ
スラブ加熱段階でMnSを一旦完全に固溶させた後、熱
間圧延段階で析出させる方法が採られている。二次再結
晶においてインヒビターとして機能するに必要な量のM
nSを完全に固溶させるためには、実工業生産ではスラ
ブを1400℃程度の高温に加熱しなければならない。
このスラブ加熱温度は、普通鋼スラブの加熱温度よりも
150〜200℃も高く、このことに起因して以下のよ
うな問題がある。 1)方向性電磁鋼専用の高温スラブ加熱炉(加熱設備)
を余分に必要とする。 2)加熱炉のエネルギー原単位が高い。 3)スラブからの溶融スケール(鉱滓:ノロ)の量が増
大し、ノロ掻きといった操業上困難な作業を余儀無くさ
れる。 4)加熱炉の補修頻度が高くなり、このことに起因して
メインテナンス・コストが上昇するのみならず、設備稼
働率を低下させ設備生産性を低くする。 5)熱延鋼板端部の耳割れ(クラック)が生じて歩留が
著しく低下する。
【0009】このような問題を解決するには、スラブ加
熱温度を普通鋼並に低くすればよいのであるけれども、
このことは、二次再結晶においてインヒビターとして機
能するMnSの量を少なくするか或は全く用いないこと
を意味し、必然的に二次再結晶の不安定化をもたらす。
従って、スラブ加熱温度を低くすることを実現するため
には、MnS以外の析出物によってインヒビターを強化
し、仕上焼鈍時に正常粒成長の抑制を十分にする必要が
ある。このようなインヒビターとしては、硫化物のほ
か、窒化物、酸化物および粒界析出元素等が考えられ、
次のようなものが知られている。
【0010】特公昭54−24685号公報には、A
s,Si,Sn,Sb等の粒界偏析元素を鋼中に含有さ
せることによって、スラブ加熱温度を1050〜135
0℃とすることが開示されている。また、特開昭52−
24116号公報には、Alのほか、Zr,Ti,B,
Nb,Ta,V,Cr,Mo等の窒化物生成元素をスラ
ブに含有させることによって、スラブ加熱温度を110
0〜1260℃とすることが開示されている。さらに、
特開昭57−158322号公報には、Mn含有量を低
くし、かつMn/Sを2.5以下とすることによって、
スラブ加熱温度を低くし、さらにCuの添加によって二
次再結晶を安定化させることが開示されている。
【0011】一方、これらインヒビターの補強と組合せ
て金属組織の側から改良を加えた技術も開示された。即
ち、特開昭57−89433号公報には、Mnに加え
S,Se,Sb,Bi,Pb,B等の元素を加え、これ
にスラブの柱状晶率と二次冷延圧下率を組合せることに
よって1100〜1250℃の低温スラブ加熱化を実現
している。さらに、特開昭59−190324号公報に
は、S或はSeに加え、AlおよびBと窒素を主体とし
てインヒビターを構成し、冷間圧延後の一次再結晶焼鈍
時にパルス焼鈍を材料に施すことによって二次再結晶を
安定化させる技術が開示されている。このように、一方
向性電磁鋼板の製造プロセスにおいて、スラブ加熱温度
を低くすべく、これまでに多大の努力が払われてきた。
しかしながらこれらの技術は実製造においては様々な課
題を有するため、実用化されていない。
【0012】一方、超高温スラブ加熱を避ける手段とし
て実用化されていると考えられる第一の技術として、特
開昭62−70521号公報では、S+0.405Se
で0.010%以下、Mnを{0.05+7(S+0.
405Se)}以上0.8%以下とし、焼鈍分離剤中に
窒素源を含有させる方法にて、1200℃以下の低温ス
ラブ加熱を可能にする技術がある。この技術によって、
高温スラブ加熱時の結晶粒粗大化に起因する製品の線状
二次再結晶不良の問題が解決された。しかし、窒化量の
制御が極めて困難なので主に地鉄露出するグラス皮膜欠
陥が生じる。これを解決するためにさらに、特開平2−
77525では1200℃以下の加熱温度で加熱スラブ
を元にされたストリップを走行せしめる状態下で窒化処
理を行うことが示されているが、窒素量が0.018%
以上でないと安定的に良好な磁気特性が発現しない。こ
のため上記にグラス皮膜欠陥を著しく低減することは不
可能であった。さらにスラブ加熱温度が1200℃以下
と低いためAlNとしてのNの析出割合は50%以上を
超えるために一次再結晶粒径の焼鈍温度依存性が大きく
なり後述の如く操業に安定性を欠き、さらに脱炭焼鈍温
度変更に伴って雰囲気条件、窒化条件等の変更を要し、
制御が極めて煩雑になり、また特にグラス皮膜欠陥率が
高くなる。
【0013】これに対して第二の技術として、特開平6
−322443号公報に記載の技術は、MnSの固溶温
度より低く、Cu−Sの固溶温度より高い温度スラブ加
熱するものであるが、熱延鋼帯段階でのNのAlNとし
ての割合が60%以上であり窒化処理も無く生産が不安
定で磁気特性の鋼帯内変動(所謂スキッドマーク)が生
じるし、磁気特性も高磁束密度にはならない。
【0014】また第三の技術として、特開2000−1
99015号公報、特開2001−152250号公報
には、一次再結晶において作用する一次インヒビター
と、二次再結晶において作用する二次インヒビターとを
使い分けることにより、熱延でのスラブの加熱温度を下
げる方法が記載されている。しかし、窒化量がまだ含有
Al当量に比べて多いため地鉄露出型グラス皮膜改善の余
地があった。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、一次再結晶
後に窒化することを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造
に関して、その窒化量を極力減じることにより、生産の
安定性を確保することを目的とする。
【0016】従来の窒化処理を伴う低温スラブ加熱によ
る製造方法では、フォルステライトを主成分とするグラ
ス皮膜に欠陥が生じやすい。このグラス皮膜の欠陥は、
二次再結晶の主なインヒビターとなるAlN中のNが仕
上げ焼鈍の後半における純化にて除去されるときにグラ
ス皮膜を透過し、その量が0.02%と多いとグラス皮
膜が破壊もしくは損傷されて地鉄が露出するものであ
る。これは、板厚中心部からの二次再結晶開始を抑制し
最終的には板厚表層部分からの二次再結晶核生成を目指
すため、窒化処理により導入した窒素を鋼板中心層まで
十分拡散させる必要があることを意味するものである。
【0017】このように二次再結晶を安定的に起こさ
せ、良好なGOSS方位集積度を得るためには、窒化後
窒素量が実際には約0.020%を超える必要がある。
このため、該当欠陥部は所謂絶縁性が保たれず、最後に
絶縁皮膜を塗布するにもかかわらず層間抵抗が小さくな
り、十分な特性を得られない可能性を内在している。こ
のためこの種のグラス欠陥を生じた部分は除去されねば
ならず、歩留まり低下の主原因となっている。
【0018】以上の理由により、地鉄が露出するグラス
皮膜欠陥を無くすために窒化後の窒素含有量を極力減ず
る事が必要となっている。第3の技術では、スラブ加熱
時にインヒビターを固溶させるのでインヒビター強度は
強くなるものの、やはりAl当量より多く窒化させるこ
とが必要で、グラス欠陥の撲滅には至らなかった。
【0019】これらの技術に対し、一方向性電磁鋼板の
製造に関して発明者らは鋭意検討したところ、次のよう
な考え方に到達した。
【0020】一方向性電磁鋼板で先鋭化GOSS方位二
次再結晶粒を得るためには、二次再結晶の3基本要素で
あるi)集合組織、ii)組織(一次再結晶粒径)、ii
i)インヒビター強度、の最適化が重要であると言わ
れ、第1の技術では独立に3要素が制御でき生産が安定
化できるとされていた。しかし、本発明者らは次のよう
に考えた。
【0021】i)の集合組織は主に冷間圧延前(集合)
組織、冷間圧延条件(冷間圧延率)、一次再結晶焼鈍の
昇温速度に大きく依存し、用いるインヒビター種類とは
強い関係があり、インヒビターの種類が決まるとほぼ必
要な集合組織は規定される。これはiii)のインヒビタ
ーとは従属関係であるがほぼii)と独立に制御できると
考える。
【0022】ii)の組織はインヒビター特に一次インヒ
ビターにも依存(一次インヒビターは成分、熱間圧延条
件、鋼帯焼鈍条件等に依存)するので、iii)とは独立
には制御できない。
【0023】iii)のインヒビターには、一次再結晶粒
径を規定する一次インヒビターと、二次再結晶を可能な
らしめる二次インヒビターがある。この2つのインヒビ
ター機能を完全固溶型では微細なインヒビターで持た
せ、完全析出型では熱間圧延で造りこまれた粗大なもの
と後工程での窒化できるものとで分担させている。しか
し、この場合一次インヒビター強度が弱いため、ii)の
組織(一次再結晶粒径)の脱炭焼鈍温度の依存性が大き
く、磁気特性が変動しやすい。
【0024】さらに、インヒビターに関しては工業生産
では二次再結晶を良好ならしめる強度(耐熱性)ばかり
ではなく、鋼帯内位置での均一性も非常に重要である。
大量生産されている方法には熱間圧延再加熱時での完全
固溶型と完全析出型があり、Alを含有する場合、完全
固溶型ではii)の一次再結晶粒径が小さいため二次再結
晶開始温度が比較的低く、インヒビター強度を強めすぎ
るとGOSS方位が先鋭にならないため、後工程での窒
化はむしろ好ましくない。
【0025】一方、完全析出型では一次再結晶粒径が大
きくなるため二次再結晶開始温度が上昇するので、二次
再結晶が開始するまでにインヒビター強度を確保する必
要があり後工程での多量窒化が必要になる。
【0026】このように、ii)とiii)は独立には制御
できず、それぞれのインヒビター系(完全固溶型、完全
析出型)で一義的に決まり、表裏の関係であると考えて
いる。
【0027】本発明は、第3の技術で示した、完全固溶
型と完全析出型の混合的製造方法である。即ち、スラブ
加熱温度を超高温度を回避するために完全固溶型ではあ
るが、一次インヒビター元素を少なくし、二次再結晶に
必要なインヒビター強度は窒化で確保する考え方であ
る。当然、この方法ではある程度の窒化が必要であり、
これまでは皮膜欠陥率は十分に低減されなかった。そこ
で本発明者らは鋭意検討したところ、一次インヒビター
を制御して二次インヒビターとしても機能せしめること
により、完全固溶型で窒化量を少なくできることを見出
した。これら製造方法をインヒビターにより分類した概
要を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決
するために示されたもので、その要旨とするところは次
のとおりである。 (1)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:
2.5〜4.5%、酸可溶性Al:0.017〜0.0
40%、N:0.0030〜0.0070%、0.00
3%≦(S+0.405Se)≦0.018%、Mn:
0.02〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物
からなるスラブを、1200℃以上1350℃未満の温
度に加熱し、熱間圧延し、次いで、熱延板焼鈍を施しも
しくは省略し、一回もしくは中間焼鈍を狭む2回以上の
冷間圧延を施して最終板厚とした後、、脱炭・一次再結
晶焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布
し仕上焼鈍を施す一方向性電磁鋼板の製造方法におい
て、最終冷間圧延における圧下率を80%以上96%以
下とし、脱炭・一次再結晶焼鈍後二次再結晶焼鈍までの
間に鋼板の全窒素量を(1)式を満たすように変化処理
することを特徴とする磁気特性の優れた一方向性電磁鋼
板の製造方法。
【0030】0.017≦〔S−Al〕≦0.040
において 0.25×〔S−Al〕−0.001≦〔tN〕≦0.25×〔S−Al〕 +0.0090 ・・・・・(1) ただし、 〔S−Al〕:酸可溶性Al(質量%) 〔tN〕:窒化後窒素含有量(質量%) (2)前記スラブの成分として、更に、質量%で、Sn
及び/又はSbを、0.02%≦Sn+0.3Sb≦
0.20%含有することを特徴とする(1)記載の磁気
特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。 (3)前記スラブの成分として、更に、質量%で、N
i、Crのいずれかを0.03〜0.3%含むことを特
徴とする(1)または(2)記載の磁気特性の優れた一
方向性電磁鋼板の製造方法。 (4)前記スラブの成分として、更に、質量%で、C
u:0.01〜0.30%を含有することを特徴とする
(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気特性の優れた一
方向性電磁鋼板の製造方法。 (5)前記スラブの成分として、更に、質量%で、B:
0.0005〜0.0060%を含有することを特徴と
する(1)〜(4)のいずれかに記載の磁気特性の優れ
た一方向性電磁鋼板の製造方法。 (6)前記脱炭焼鈍完了後の一次再結晶粒の平均粒径を
7μm以上15μm未満とすることを特徴とする(1)
〜(5)のいずれかに記載の磁気特性の優れた一方向性
電磁鋼板の製造方法。 (7)前記スラブの成分として、更に、質量%で、Pを
0.02〜0.30%含有することを特徴とする(1)
〜(6)のいずれかに記載の磁気特性に優れる一方向性
電磁鋼板の製造方法。 (8)前記スラブの成分として、更に、質量%で、M
o、Cdの少なくとも1種を0.005〜0.3質量%
含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに
記載の磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。 (9)熱間圧延後の鋼帯におけるAlNとしてのNの析
出割合が50%以下であることを特徴とする(1)〜
(8)のいずれかに記載の磁気特性の優れた一方向性電
磁鋼板の製造方法。 (10)前記熱延板焼鈍もしくは最終の冷間圧延前の中
間焼鈍にて、その焼鈍温度を950〜1150℃、焼鈍
時間を30秒以上600秒以下とすることを特徴とする
(1)〜(9)のいずれかに記載の磁気特性の優れた一
方向性電磁鋼板の製造方法。 (11)前記冷間圧延における最終冷間圧延の少なくと
も1パスにおいて、鋼板を100〜300℃の温度範囲
に1分以上保つことを特徴とする(1)〜(10)のい
ずれかに記載の磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製
造方法。 (12)前記窒化処理が、走行するストリップ状態でア
ンモニアガスを用いて行うことを特徴とする(1)〜
(11)のいずれかに記載の磁気特性の優れた一方向性
電磁鋼板の製造方法。 (13)(1)〜(12)のいずれかの項に記載の方法
により製造された磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板。 (14)二次再結晶後の鋼板表面においてフォルステラ
イト主成分とするグラス皮膜がMgSiOとして2
〜3.5g/mで、その平均粒径が5μm以下、且つ
グラス皮膜の厚みが4μm以下であることを特徴とする
(13)記載の磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板。
【0031】
【発明の実施の形態】本発明者らは、Alを含有する磁
気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造に関し、熱延で
のスラブ加熱温度を従来の1350℃を超える超高温度
から脱却する方法を鋭意検討した。
【0032】一方向性電磁鋼板の二次再結晶は箱型の高
温焼鈍で起こるが、この時、二次再結晶となるGOSS
核とそのΣ9対応方位は鋼板板厚の表層近傍で強く、そ
こから先鋭なGOSS核が発現することはよく知られて
いる(Munetsugu MATSUO, ”Texture Control in the P
roduction of Grain Oriented Silicon Steels :ISIJ”
International ,Vol.29(1989),No.10, pp.809-827)。
逆に中心層から二次再結晶核を発現させたら中心層の集
合組織(特に{110}<227>近傍)が二次再結晶
して磁気特性の劣化が起こる。このため、表層近傍位置
での二次再結晶核生成のためには二次再結晶焼鈍時には
表層部のインヒビター強度(所謂Zener Fact
or)が中心層より弱いことが必要である。
【0033】結果としてこれを実現するために、従来よ
り色々な技術が提案されてきた。例えば、特公昭40−
15644号公報を初めとする超高温度スラブ加熱技術
(完全固溶法と呼ぶ)は、インヒビター元素は異なって
いるもののこの思想に基づいている。これらの技術では
熱延での超高温度スラブ加熱でのインヒビター元素をほ
ぼ完全に固溶させるために、二次再結晶焼鈍前での鋼板
板厚方向でのインヒビター元素の分布状態は均一であ
り、このため二次再結晶焼鈍時には表層からの脱インヒ
ビターが徐々に起こるので集合組織的に適切位置(表層
近傍)で、二次再結晶が開始して徐々に中心層へと拡大
(粒成長)するため、先鋭なGOSS方位二次再結晶粒
が得られる。
【0034】また、特開平2−77525号公報等の技
術(完全析出法と呼ぶ)では、脱炭焼鈍後と二次再結晶
開始までに窒化してインヒビター強度を確保するもので
あり、窒化直後では窒素(インヒビター元素)は表層に
多く濃化しているので、その時点で二次再結晶が開始す
ると鋼板板厚中心層で二次再結晶が開始して、先鋭なG
OSS方位でなく{110}<227>近傍の所謂“首
振りGOSS”となりやすい。これを回避するためには
インヒビター元素の厚み方向均一化を一度経てから、表
層からのインヒビター強度を弱めて二次再結晶を起こさ
せるよう、二次再結晶開始温度を高くする必要が生じ
る。このために一次再結晶粒径を完全固溶法の場合より
大きくして、粒界移動の駆動力を低減させるようにして
おり、このような一次再結晶粒径を活かして良好なGO
SS二次再結晶粒を発現させるため、インヒビター源で
ある窒素量はかなり多くする必要が生じ、結果として純
化時に多くの窒素がグラス皮膜を透過するので、地鉄露
出の欠陥が生じ易くなるのである。
【0035】本発明では、窒化はするものの固溶してい
るインヒビター元素の量を従来の完全固溶の場合より少
なくするため、一次再結晶粒径はやや大きくなり、中心
層での二次再結晶開始温度は上昇する。そのため窒化に
より導入された表層の窒素は二次再結晶開始前に中心層
までに拡散して均一化される。しかし、本発明の目的の
として窒化量を完全析出法の場合より少なくするため、
二次再結晶を表層近傍から発現させ先鋭なGOSS方位
粒を得るにはインヒビター強度がやや弱すぎ、表層近傍
からのGOSS方位粒の選択成長が十分確保されない場
合がある。
【0036】これを解決するため、本発明ではさらに、
Sn,Sb,Ni,Crの粒界偏析元素を添加する。S
n,Sb,Ni,Crを鋼中へ含有すると、表層の酸化
が起こりにくくなり、また窒化も困難になる。即ち窒素
の透過性が減じるのである。この原理を用いると鋼板板
厚方向で窒素の分布が長時間(広範囲温度)でより均一
で高く保たれ、板厚方向でのGOSS粒成長の優先性が
確保される。この原理では、何もSn,Sb,Ni,C
rの添加のみでなく、グラス皮膜を早期に強固に(緻密
なフォルステライト皮膜)を形成せしめると同じ効果が
あることを見出した。
【0037】ところでSn,Sb、Ni,Crを添加す
ると一次再結晶集合組織においてGOSS方位が富化さ
れることは周知であり、本発明では集合組織的にも良好
なGOSS方位粒を得るためには効果的である。
【0038】更に、本発明の特徴として溶鋼段階で含有
せしめられたインヒビター元素は、原則としてスラブ加
熱時に固溶させることが必要である。通常のスラブ加熱
では加熱炉内でスキッドで支えられるのであるが、スキ
ッドに接するスラブ位置は必然的に温度が下がり、スキ
ッド上とスキッド間ではインヒビター元素の固溶差が生
じて磁気特性が変動する所謂スキッドマークが発生し製
品とはならない。このため、最低限スキッドの厚み方向
の上半分以上部分ではスキッド上・スキッド間では固溶
差を無くして、インヒビター強度を同じにしてスキッド
マークを起こさせないことが必要である。
【0039】このため、インヒビター成分元素は後に述
べる範囲とする必要があり、基本的にはインヒビター元
素は固溶させる。勿論、何らかの方法でスラブ内でのイ
ンヒビター元素の固溶差を無くせば特にも問題は生じな
い。例えば、スキッドを用いない支え方法として誘導加
熱等が考えられる。更に薄スラブ連続鋳造法や急速冷却
方法など、熱延鋼帯内の温度履歴が均一となる方法で熱
延鋼帯を得る方法がある。この場合は特開2001−1
99015号公報に含まれる。さらに、この場合のイン
ヒビター元素が完全に固溶しない時(AlNが50%以
上析出する場合)は、一次再結晶粒径が大きくなるので
二次再結晶開始温度が高くなり、特に板厚中心層の二次
再結晶インヒビター強度を補強するために二次再結晶焼
鈍開始前の窒素量を本発明より多くする必要がある。
【0040】本発明ではインヒビター元素をスラブ加熱
時に固溶させ、熱延後最終冷間圧延前の連続焼鈍で析出
処理を行っているため、一次再結晶粒径に影響する一次
インヒビター強度がある程度強いため、特開平2−77
525号公報等に記載の方法とは異なり一次再結晶焼鈍
温度を変化させずにすむため、グラス皮膜の原料となる
脱炭焼鈍後の酸化層が極めて一定となり、グラス皮膜欠
陥が発生し難いという極めて大きな利点がある。
【0041】次に本発明における成分組成を説明する。
なお、以下に説明する成分組織の含有量は質量%であ
る。
【0042】Cは、0.030%より少ないと一次再結
晶集合組織が適切でなくなり、0.10%を超えると脱
炭が困難になり工業生産に適していない。
【0043】Siは、鋼板の比抵抗を高め、鉄損の低減
に寄与する。Siは、2.5%より少ないと良好な鉄損
が得られず、4.0%を超えると冷延が極めて困難とな
り工業生産に適していない。
【0044】AlはNと結合してAlNを形成する。最
終冷間圧延前の連続焼鈍でAlNの形態制御を行い一次
インヒビターを作りこむ。さらに、一次再結晶焼鈍から
二次再結晶開始までの間のに導入された窒化により主に
AlNを形成して二次インヒビターとなる。このAlN
は、窒化前に形成されるものと窒化後高温焼鈍時に形成
されるものがあり、この両方のAlN量確保のために酸
可溶性Alとして0.017〜0.040%は必要であ
る。この範囲を外れると、少ない場合は、二次インヒビ
ターとしての働きが不充分な為、良好なGoss方位を
持った二次再結晶粒を安定的に得られない。一方多い場
合には、後工程の必要窒化量が増大し、グラス皮膜に甚
大なダメージを与え、また完全固溶させるためにスラブ
加熱温度を1350℃を超える高温にする必要が生じ
る。
【0045】Nは、0.0070%を越えると、熱延時
不均一析出の原因となり得るので、上限を0.0070
%とした。より好ましくは、0.0060%以下であ
る。
【0046】SおよびSeはMn,Cuと結合して、主
に一次インヒビターとして作用する。Seq=S+0.
405×Seが0.018%を超えると、完全固溶させ
るためにスラブ加熱温度を1350℃を超える高温にす
る必要が生じる。また、0.003%未満とすると、一
次インヒビターとしての効果が弱くなるので、0.00
3%以上とする必要がある。
【0047】Mnは、0.02%より少ない熱延鋼帯で
は割れが発生しやすく、歩留まりが低下する。一方0.
15%を超えるとMnS,MnSeが多くなりすぎるた
め、固溶の程度が場所により不均一を生じ、実工業生産
では安定的生産が困難になるので、上限を0.15%と
した。
【0048】Cuは、スラブを1200℃以上で加熱す
る本発明の条件で熱延すると、SやSeとともに微細な
析出物を形成し、一次インヒビター効果を発揮する。ま
た、この析出物はAlNの分散をより均一にする析出核
ともなり二次インヒビターの役割も演じ、この効果が二
次再結晶を良好ならしめる。0.01%より少ないと上
記効果が減じ安定生産が難しくなり、0.30%を超え
ると上記効果が飽和するとともに、熱延時に「カッパー
ヘゲ」なる表面疵の原因になる。
【0049】Sn,Sbに関しては、粒界偏析型固溶元
素でありそれ自体が粒界の移動を妨げるインヒビター効
果がある。本技術の場合はこの効果に加え、表面に濃縮
しバリアーとなるため二次再結晶時の雰囲気のアタック
を減じ、インヒビターの分解を遅らせる働きがある。S
n+0.3Sbで0.02%未満であると効果が少なく
窒化量を多くする必要が生じて窒素放出時に生じるグラ
ス皮膜欠陥が増大する。また0.15%を超えると脱炭
が極めて困難になる。さらにこの程度のSb、Snの含
有により一次再結晶集合組織のGOSS方位({11
0}<001>)が増し、かつGOSSのΣ9方位も増
すので、極めて都合が良く二次再結晶が安定で二次再結
晶粒径が小さくGOSS方位が先鋭になる。
【0050】Bは、0.0005%より少ない場合、B
Nとしてのインヒビター効果が発揮されず、0.006
0%を越えると、前述の窒化によってインヒビターを形
成させる際の必要増窒化量が大きくなり過ぎることに起
因して、地鉄が露出した一次皮膜欠陥が多発する。
【0051】Ni、Crに関しては0.01%以下では
効果がなく0.3%を超えると脱炭焼鈍後の酸化層の構
成が著しく変化してグラス皮膜が形成されなくなる。
【0052】次に本発明の製造方法について説明する。
【0053】本発明が対象とする一方向性電磁鋼板は、
従来用いられている製鋼法によって得られる溶鋼を、連
続鋳造して直接にスラブとするか、或は溶鋼を鋳型に注
入し、凝固させて鋼塊とし、これを分塊圧延してスラブ
とし、次いで熱間圧延して熱延板とした後、必要に応じ
て焼鈍を施し、次いで80%超の圧下率を適用する1回
の冷間圧延工程或は80%超の圧下率を適用する最終冷
間圧延工程を含む中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延に
よって最終板厚とした後、脱炭焼鈍、一次再結晶焼鈍、
窒化、焼鈍分離剤の塗布、最終仕上焼鈍を施す一連のプ
ロセスによって製造される。
【0054】本発明の方法では、第一に、公知の連続鋳
造法により初期の厚みが150mmから350mmの範
囲、好ましくは180mmから300mmの範囲のスラ
ブを製造する。この代わりに、スラブは初期の厚みが約
30mmから70mmの範囲のいわゆる薄いスラブであ
ってもよく、この場合は、熱延鋼帯を製造する際、中間
厚みに粗加工をする必要がないとの利点がある。また鋼
帯鋳造により製造した、一層薄い初期厚みのスラブ又は
鋼帯を用いて、本発明方法により一方向性電磁鋼板を製
造することも可能である。この場合は,インヒビター物
質を均一に分布させることが重要である.この方法とし
ては、完全に固溶した状態で仕上げ熱延を開始すること
でも良いし、ある程度析出させても良い(50%以
下)。この析出させるときは巻き取られた熱延鋼帯の温
度履歴が鋼帯内で変動を極力少なくするため機仕上げ熱
間圧延機前に保熱炉(保定炉)等の加熱装置を適用して
も良い。
【0055】本発明ではスラブ加熱温度を1200℃以
上1350℃未満としているが、スラブ加熱加熱の下限
としてはさらに成分から求められる次のT1〜T6の全
てより高い温度とすることが望ましい。
【0056】T1=10062/(2.72−log
([S−Al]*[N]))−273 T2=14855/(6.82−log([Mn]*
[S]))−273、 T3=10733/(4.08−log([Mn]*
[Se]))−273、 T4=43091/(25.09−log([Cu]*
[Cu]*[S]))−273、 T5=13680/(4.63−log([B]*
[N]))−273、 T6=6587/(1.117−log([Cu]*
[Cu]*[Se])−273 しかしながら、上記式は単独の成分系での結果であり、
CuおよびMnはそれぞれSおよびSeと化合物を形成
するため、鋼帯全体にわたる均一な析出分散の状態は複
雑であり、また溶体化時間(偏析部の拡散)を考慮すべ
きであるので、実際のスラブ加熱温度はこれらを元に試
行錯誤で決定されるべきである。
【0057】熱延に先立つスラブ加熱温度の条件は本発
明の重要な点である。スラブ加熱温度が上記式をベース
とした温度より低いと部分的に析出し鋼帯全体での均一
なインヒビター析出を得られない。このため、一次再結
晶焼鈍後の一次再結晶粒径にムラ(不均一:所謂スキッ
ドマーク)が生じて二次再結晶が均一に発現せず鋼帯全
体で方向性電磁鋼板の製品とはならない。
【0058】更に、スラブ加熱温度は、インヒビター能
力を有する物質の完全溶体化温度よりも高くすることに
よって、スラブ部位毎での一次インヒビター強度差を極
端に小さくすることができる。また、スラブ加熱温度を
インヒビター完全溶体化温度直上に設定した場合、イン
ヒビター溶体化のため、加熱温度に保定する必要時間が
長くなるので、生産性の観点より、20℃程度以上は高
く設定することが好ましい。但し、1350℃を超える
超高温で加熱することは前述の如く工業生産において非
常な困難を伴うので避けるべきである。実生産の上で
は、熱延が容易で熱延鋼帯の形状(クラウン)が優れ、
スラブ表層部の“ノロ”化発生について実害の伴わない
1250〜1330℃が好ましい。
【0059】スラブ加熱の方法としては、通常のガス加
熱方法に加え、誘導加熱、直接通電加熱を用いること
は、均一に焼鈍する点で望ましく、これらの特別な加熱
方法において形状を確保するため、分塊圧延を鋳込みス
ラブに施しても何ら問題ない。また、加熱温度が高い1
300℃以上になる場合は、この分塊圧延により集合組
織の改善を施しC量を減じてもよい。これらは従来の公
知技術の範囲である。
【0060】熱間圧延後の鋼帯におけるAlNとしての
Nの析出割合を規定したのは、この熱延直後の固溶Al
Nは熱延板焼鈍もしくは最終冷間圧延前の熱処理にて微
細に均一に析出させるためである。微細な析出物は脱炭
焼鈍による一次再結晶粒径を小さくし、更に焼鈍温度依
存性を実質的に減らす一次インヒビター効果を有する。
また、この微細なインヒビターは二次再結晶でのインヒ
ビターとしても働くのであるが、微細出るため二次再結
晶温度が低くなりさらにGOSS方位粒の方位選択性を
助長する。AlNとしてのNの析出割合が50%を超え
ると以上の効果が減じる。望ましくは20%以下であ
る。
【0061】この方法の考え方としては,先ずスラブ加
熱時に殆ど固溶させて急速に熱間圧延を完了し低温度で
巻き取ることである。具体的には、AlNの析出ノーズ
をあまり横切らない速度で熱間圧延を完了することは周
知であり、例えば特開平06−278547号公報に開
示されている。
【0062】脱炭焼鈍完了後の一次再結晶粒の平均粒径
は、例えば特開平7−252532号公報では一次再結
晶粒の平均粒径を18〜35μmとし、また特公平8−
32929号公報では15〜50μmとしているが、本
発明では、一次再結晶粒の平均粒径を7μm以上15μ
m未満と小さくすることで、磁気特性(特に鉄損)を更
に良好ならしめることができる。即ち、一次再結晶粒径
が小さいことは、単位体積内に存在する一次再結晶粒数
が増えることを意味し、また一次再結晶粒径が小さい場
合、粒成長の観点から、一次再結晶の段階で二次再結晶
の核となるGoss方位粒の体積分率が多くなる(Mate
rials Science Forum Vol.204-206, Part2: pp:631)。
この結果としてGoss方位粒の絶対数は、例えば一次
再結晶粒の平均粒径が18〜35μmの場合と比べる
と、5倍程度も多くなるので、二次再結晶粒径も相対的
に小さくなり、この結果著しい鉄損の向上をもたらす。
【0063】また、一次再結晶粒の平均粒径が小さい
と、二次再結晶の駆動力が大きくなり、特開平2−77
525号公報の技術の場合より仕上げ焼鈍昇温段階の早
い時期に(より低温で)GOSS粒二次再結晶を鋼板表
層位置で発現させることができる。最終仕上げ焼鈍をコ
イル状で行っている現状では、高温のときほどコイル内
位置による温度差(温度履歴差)が広がるので、上述の
二次再結晶温度の低温化によって、時間はずれるにして
もコイル各点での温度履歴が同じ(コイル各点での昇温
速度が一定な)となる温度領域で二次再結晶させること
が出来、コイル部位の不均一性が著しく減少して磁気特
性が極めて安定する。但し、一次再結晶粒の平均粒径が
7μm未満になった場合、その大きすぎる粒成長駆動力
のため、二次再結晶温度が低くなりすぎるため、二次再
結晶粒方位のGoss方位からの分散が大きくなり、磁
束密度の低下をまねくので好ましくない。
【0064】脱炭焼鈍後二次再結晶開始前に鋼板に窒化
処理を施すことは本発明では必須である。その方法は、
仕上げ焼鈍時の焼鈍分離剤に窒化物(CrN,MnN
等)を混合させる方法や、脱炭焼鈍後にストリップを走
行させた状態下でアンモニアを含んだ雰囲気で窒化させ
る方法がある。どちらの方法を採用しても良いが、後者
の方が工業的に安定している。
【0065】窒化後窒素含有量は、下記(1)式の関係
を満たすようにすることが、二次歳結晶の安定化とグラ
ス皮膜不良防止の点から必要である。
【0066】0.017≦〔S−Al〕≦0.040
において 0.25×〔S−Al〕−0.001≦〔tN〕≦0.25×〔S−Al〕+ 0.0090 ・・・・・(1) ただし、 〔S−Al〕:酸可溶性Al(質量%) 〔tN〕:窒化後窒素含有量(質量%) 熱延板焼鈍もしくは最終冷間圧延前に行われる焼鈍は、
主に熱延時に生じた鋼帯内の組織・インヒビター分散の
不均一性を除去するために行われる。熱延鋼帯での焼鈍
でも良いし、最終冷間圧延前の焼鈍でも良い。即ち、最
終冷間圧延前に熱延時履歴差による不均一性を更に均一
化するために1回以上の連続焼鈍を行うことが望まし
い。
【0067】この焼鈍条件としては、完全固溶法でも用
いられている特開昭57−120618号公報、特開昭
57−198214号公報、特開昭60−218426
号公報、特開昭60−177131号公報等に記載の技
術を用いてよい。この場合温度をインヒビター元素成分
で変化させると通常の工業生産では一次インヒビター強
度が成分変動に対してほとんど同じとなり一次再結晶粒
径はほとんど変わらないため二次インヒビター強度(窒
化量)の一定に出来て生産が極めて安定化する。
【0068】冷間圧延における最終冷延率が80%未満
であると一次再結晶集合組織中のGoss方位粒の方位
集積度が得難いため高磁束密度が確保し難く、95%を
超えると一次再結晶集合組織中Goss方位粒数が極端
に少なくなるため二次再結晶が不安定になる。
【0069】二次再結晶焼鈍は1100℃以上で10時
間以上の水素雰囲気中での純化を行う。またこの温度に
達するまでの昇温速度は5〜30℃/hとする。二次再
結晶焼鈍昇温時の雰囲気ガス中に窒素を含むことは必須
である。窒素が存在しないと良好な二次再結晶が得られ
ない。良好な磁気特性を安定的に得るためには15%以
上が望ましい。
【0070】その他一方向性電磁鋼板の製造で用いられ
る周知の技術を用いてよい。例えば最終冷間圧延時の温
度を、少なくとも1パスを100〜300℃の温度範囲
に1分以上保つ技術を用いると一次再結晶集合組織が改
善され磁気特性が極めて良好になる。
【0071】グラス皮膜の性状についてはフォルステラ
イトを主成分とするグラス皮膜の粒径は5μmより小さ
くMgSiOとして2〜3.5g/mで厚みを4
μm以下とするとSb,Sn等偏析元素添加とほぼ同じ
効果が得られる。厚みを4μm以下としたのはグラス皮膜
の密度を規定し、密度が大きいほど良好であるためであ
る。密度が大きいと脱インヒビター性が阻害されてイン
ヒビター強度が保たれる。
【0072】
【実施例】(実施例1)素材として、質量%で、C=
0.060〜0.070%,Si=3.13〜3.27
%,Mn=0.045%,S=0.010〜0.015
%,N=0.0035〜0.0055%,S−Alを
0.015%,0.017%,0.021%,0.02
5%,0.029%,0.033%,0.037%,
0.040%、Sn=0.08〜0.10%,Cu=
0.06〜0.11%、残部不可避的不純物とFeより
なるスラブを1310℃で180〜230分間加熱抽出
し、その後直ちに出来るだけ高い温度で高速熱延完了し
て、仕上げスタンド後にAlNインヒビター元素を出来
るだけ析出させないため急速に冷却して、523℃〜5
79℃で巻き取った。熱延鋼帯の厚みは2.4mmとし
た。
【0073】この熱延鋼帯をその後、1120℃×2分
→950℃×10秒→80℃湯冷の熱延板焼鈍を施し
た。続いて酸洗してレバース圧延機で冷間圧延を施し
0.285mmとした。この時5パスで冷間圧延をした
が途中2パスは200℃〜230℃で圧延し、一方から
他方のリールに鋼帯全体が移動する間の2〜5分間のパ
ス間時効を施した。
【0074】その後表面を洗浄して脱炭焼鈍850℃×
150秒 H=75%,N=25%のDP(露点)
=69℃の湿雰囲気中で脱炭焼鈍一次再結晶焼鈍を行っ
た。その後走行するストリップ状態で750℃でアンモ
ニアとNの混合ガス中で窒化した。その後、MgOを主
とする焼鈍分離剤を塗布した。その後N=25%,H
=75%で1200℃まで15℃/hで昇温してその
後30時間のH2=100%の純化処理を有する二次再
結晶焼鈍をした。二次再結晶焼鈍後通常用いられる張力
付与絶縁皮膜塗布と平坦化処理をして磁気特性を評価し
た。
【0075】図1に溶鋼でのS−Alを横軸に、窒化処
理後の全窒素含有率を縦軸にとり、これらと磁束密度
(B)の関係を示す。また図2に窒化処理後の全窒素
量と二次再結晶後の地鉄露出型グラス欠陥の面積率の関
係を示す。ここでは欠陥率3%以下を良好とした。
【0076】本発明の範囲では磁気特性が良好でかつ地
鉄露出型グラス皮膜欠陥の面積率が良好であった。 (実施例2)通常の方法で表2に示す成分を含有する鋼
を溶製後、スラブに鋳造し、表3に示す温度でスラブを
再加熱して熱延し、インヒビター元素を出来るだけ析出
させないために急速に冷却して520〜580℃で巻き
取り熱延鋼帯を得た。その後1120℃×2分→950
℃×10秒→80℃湯冷の熱延板焼鈍を施し、酸洗し、
その後、200〜250℃で2回の温間のパスを含む冷
間圧延により、表3に示す最終厚みまで冷間圧延した。
その後脱炭焼鈍を、H%=75%,N%=25%、
露点70℃で、板厚0.22mmは850℃×90秒、
0.27mmは850℃×130秒、0.30mmは8
50℃×150秒の条件でそれぞれ行い、引き続き、7
50℃のDryアンモニア雰囲気中で窒化処理を行い、
表3に示す窒化後窒素量とした。その後、MgOを主成
分とする焼鈍分離剤を塗布し、H %=75%,N
=25%の雰囲気で15℃/時間で1200℃まで昇温
し、引き続き純水素雰囲気で1200℃×30時間から
なる仕上げ焼鈍を行った。その後、通常用いられる張力
付与絶縁皮膜塗布と平坦化処理を行い、得られた製品の
皮膜欠陥率と磁気特性を評価した。その結果を表3に示
す。ここでは皮膜欠陥面積率が5%を超える場合を不良
とした。
【0077】本発明の範囲では磁気特性が良好でかつ地
鉄露出型グラス皮膜欠陥の面積率が良好であった。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】(実施例3)表2の1、7の成分の鋼を実
施例2と同様の条件で冷間圧延まで行い、その後脱炭焼
鈍において、1)露点を60℃〜74℃に、又、2)脱
炭焼鈍後から窒化処理までの雰囲気露点を−20℃〜5
0℃に、それぞれ種々変化させて、窒化処理後の酸素量
と酸化層を変化させた。これにより製品のフォルステラ
イトを主成分とするグラス皮膜の厚みと量を変化させる
ことが可能となる。その後は実施例2と同様の処理によ
り、窒化後窒素量を80〜110ppmとし、MgOを
主成分とする焼鈍分離剤を塗布して、仕上げ焼鈍、皮膜
塗布と平坦化処理を行った。得られた製品のフォルステ
ライト厚みと量に対する磁気特性(B8:磁束密度
(T))を図3に示す。
【0081】この場合は窒化後窒素を比較的少なくした
ため、地鉄露出型のグラス皮膜欠陥は殆ど無いが、仕上
げ焼鈍前に酸化量が少ない場合はグラス皮膜形成が十分
には出来ないため、インヒビターの強度確保が困難とな
り二次再結晶が不良になる。但しこの場合は、窒化量を
増やすことで二次再結晶は良好になる。
【0082】
【発明の効果】以上説明したように、本発明において
は、従来の一方向性電磁鋼板の熱延加熱時の超高温度を
脱却すると共に低温加熱の弊害を取り除いて磁気特性と
グラス皮膜欠陥率の優れる一方向性電磁鋼板が製造可能
になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶鋼でのS−Alを横軸に脱炭焼鈍後の窒化後
の窒素含有率を縦軸にとり、これらと磁束密度(B
の関係を示す図。
【図2】窒化処理後の全窒素量と二次再結晶後の地鉄露
出型グラス欠陥の面積率の関係を示す図。(ここでは欠
陥率3%以下を良好とした。)
【図3】フォルステライト換算のグラス皮膜特性と磁気
特性(B8T)の関係を示す図。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C23C 8/26 C23C 8/26 22/00 22/00 A H01F 1/16 H01F 1/16 B (72)発明者 藤井 宣憲 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1−1 新日 本製鐵株式会社八幡製鐵所内 (72)発明者 大畑 喜史 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1−1 新日 本製鐵株式会社八幡製鐵所内 (72)発明者 田中 收 福岡県北九州市戸畑区大字中原46番地の59 日鐵プラント設計株式会社内 Fターム(参考) 4E002 AA10 AD04 AD05 AD06 BC05 BC07 BD08 BD09 CB01 4K026 AA03 AA22 BA02 BB10 CA16 CA18 DA02 DA16 EA17 4K028 AA02 AB01 AC08 4K033 AA02 BA01 CA01 CA03 CA04 CA06 CA07 CA08 CA09 CA10 HA06 MA01 MA02 5E041 AA02 BC01 CA02 HB11 HB14 NN01 NN02 NN18

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.03〜0.10%、
    Si:2.5〜4.5%、酸可溶性Al:0.017〜
    0.040%、N:0.0030〜0.0070%、
    0.003%≦(S+0.405Se)≦0.018
    %、Mn:0.02〜0.15%、残部Feおよび不可
    避的不純物からなるスラブを、1200℃以上1350
    ℃未満の温度に加熱し、熱間圧延し、次いで、熱延板焼
    鈍を施しもしくは省略し、一回もしくは中間焼鈍を狭む
    2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭・
    一次再結晶焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離
    剤を塗布し仕上焼鈍を施す一方向性電磁鋼板の製造方法
    において、最終冷間圧延における圧下率を80%以上9
    6%以下とし、脱炭・一次再結晶焼鈍後二次再結晶焼鈍
    までの間に鋼板の全窒素量を(1)式を満たすように窒
    化処理することを特徴とする磁気特性の優れた一方向性
    電磁鋼板の製造方法。 0.017≦〔S−Al〕≦0.040 において 0.25×〔S−Al〕−0.001≦〔tN〕≦0.25×〔S−Al〕 +0.0090 ・・・・・(1) ただし、 〔S−Al〕:酸可溶性Al(質量%) 〔tN〕:窒化後窒素含有量(質量%)
  2. 【請求項2】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、Sn、Sbの1種または2種を、0.02%≦Sn
    +0.3Sb≦0.20%含有することを特徴とする請
    求項1記載の磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造
    方法。
  3. 【請求項3】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、Ni、Crのいずれかを0.03〜0.3%含むこ
    とを特徴とする請求項1または2に記載の磁気特性の優
    れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、Cu:0.01〜0.30%を含有することを特徴
    とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の磁気特性の
    優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、B:0.0005〜0.0060%を含有すること
    を特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の磁気
    特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記脱炭焼鈍完了後の一次再結晶粒の平
    均粒径を7μm以上15μm未満とすることを特徴とす
    る請求項1〜5のいずれかの項に記載の磁気特性の優れ
    た一方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、Pを0.02〜0.30%含有することを特徴とす
    る請求項1〜6のいずれかの項に記載の磁気特性に優れ
    た一方向性電磁鋼板の製造方法。
  8. 【請求項8】 前記スラブの成分として、更に、質量%
    で、Mo、Cdの少なくとも1種を0.005〜0.3
    質量%含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれ
    かの項に記載の磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製
    造方法。
  9. 【請求項9】 熱間圧延後の鋼帯におけるAlNとして
    のNの析出割合が50%以下であることを特徴とする請
    求項1〜8のいずれかの項に記載の磁気特性の優れた一
    方向性電磁鋼板の製造方法。
  10. 【請求項10】 前記熱延板焼鈍もしくは最終の冷間圧
    延前の中間焼鈍にて、その焼鈍温度を950〜1150
    ℃、焼鈍時間を30秒以上600秒以下とすることを特
    徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の磁気特性
    の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。
  11. 【請求項11】 前記冷間圧延における最終冷間圧延の
    少なくとも1パスにおいて、鋼板を100〜300℃の
    温度範囲に1分以上保つことを特徴とする請求項1〜1
    0のいずれかの項に記載の磁気特性の優れた一方向性電
    磁鋼板の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記窒化処理が、走行するストリップ
    状態でアンモニアガスを用いて行うことを特徴とする請
    求項1〜11のいずれかの項に記載の磁気特性の優れた
    一方向性電磁鋼板の製造方法。
  13. 【請求項13】 請求項1〜12のいずれかの項に記載
    の方法により製造された磁気特性の優れた一方向性電磁
    鋼板。
  14. 【請求項14】 二次再結晶後の鋼板表面においてフォ
    ルステライト主成分とするグラス皮膜がMgSiO
    として2〜3.5g/mで、その平均粒径が5μm以
    下、且つグラス皮膜の厚みが4μm以下であることを特
    徴とする請求項13に記載の磁気特性の優れた一方向性
    電磁鋼板。
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