JP2003074660A - 無段変速機用転動体およびその製造方法 - Google Patents
無段変速機用転動体およびその製造方法Info
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Abstract
ワーローラのベアリング溝部では、高面圧が加わるほ
か、トラクション力やラジアル方向の荷重を受けるの
で、転動疲労寿命が低下する恐れがあるという問題点が
あった。 【解決手段】 ディスク3,12に潤滑油を介してパワ
ーローラ内輪7を接触させた構成を有する無段変速機に
用いる転動体であって、例えば転動体であるパワーロー
ラ内輪7の転動面であるベアリング溝部7aに、ニッケ
ル(Ni)を主成分とする被膜を形成し、被膜の厚さを
0.1〜20μmとすることにより、ミクロな金属接触
を低減させるとともに水素を透過し難い保護被膜形成に
より基材への水素の侵入を抑制することで水素脆性的な
短寿命剥離を抑制し、転動疲労寿命の向上を実現した。
Description
いはトロイダル式無段変速機に使用される転動体および
その製造方法に関するものであり、その転動疲労強度向
上、主に、転動中のオイル分解等により発生した水素が
鋼中に侵入することを抑制することにより、侵入水素に
よる水素脆性的な短寿命剥離を抑制し、さらには曲げ疲
労強度も向上するようにした無段変速機用転動体および
その製造方法に関するものである。
えば特開平7−71555号公報に記載されているもの
がある。同公報には、トロイダル式無段変速機におい
て、転動体である入力および出力のディスクやパワーロ
ーラに浸炭処理および研削仕上げを施し、転動面の耐疲
労割れ寿命の向上を図ることが記載されている。
は、トロイダル式無段変速機において、転動体に浸炭鋼
を用いると共に、その表面に研削仕上げ加工を施すこと
により、パワーローラ外輪のベアリング面溝部の転動疲
労強度を向上させて、耐久性に優れた転動体を得ること
が記載されている。さらに、特開2000−29175
7号公報には、パワーローラのベアリング溝部にショッ
トピーニング工法よって圧縮残留応力を付与することに
より、玉が軌道溝を転動する際に生じる接触面圧を緩和
して、パワーローラ軸受けの疲れ寿命低下を抑制するこ
とが記載されている。
イル分解等により発生した水素が転動体中に侵入するこ
とで発生する水素脆性的な短寿命剥離を積極的に抑制す
るには至っていない。この水素侵入抑制を目的とした軸
受けとしては、特開平2−190615号公報に、グリ
ース封入軸受において軸受の転動面に黒染め処理により
四三酸化鉄の被膜を形成し、転動面の剥離を防止して寿
命の向上を図ることが記載されている。
は、耐蝕性転がり軸受において、外輪、内輪、転動体お
よび保持器のうち少なくとも1つにニッケルめっきを施
し、塩水噴霧などの厳しい腐食条件下における耐蝕性や
なじみ性の向上を図ることが記載されている。
式無段変速機は、入力および出力のディスクと、両ディ
スクに潤滑油を介して接触するパワーローラを備え、ト
ラクションドライブにより入力ディスクの回転がパワー
ローラを介して出力ディスクに伝達される。この際、各
ディスクとパワーローラの間には高い押し付け荷重が加
わり、とくに、パワーローラを構成するベアリング溝部
における接触面圧は最大で3GPaを越えるものとな
る。そして、ベアリング溝部では、上記の高面圧に加え
て、トラクション力やラジアル方向の荷重を受けながら
ボールが転動するため、ミクロな金属接触や転がり摩擦
抵抗の増大に伴う表面接線力の増大により、転動疲労寿
命が低下する恐れがあるという問題点があり、従来では
このような問題点を解決することが課題であった。
クロな金属接触により転動面に形成された新生面が触媒
的な作用をして、グリースと転動面の間でトライボケミ
カル的な反応を促進し、化学分解により生成した水素が
基材中に侵入し、転動疲労寿命が低下する恐れがあると
いう問題点があった。
160℃の苛性ソーダ水溶液に浸漬)が報告されている
が、作業環境が劣悪であり、工業的には好ましくない。
また、黒染め処理により形成された表面の四三酸化鉄皮
膜は、高温、高面圧の過酷な条件化では皮膜の残存性が
不充分であり、十分な水素侵入抑制効果が発揮できない
場合がある。さらに、鋼中の介在物周辺に水素が濃化し
ている場合、介在物起点の曲げ疲労強度を低下させるこ
とがあるという報告がある。(鉄と鋼・Vol.86
(2000)No.11の第69頁)
されたもので、比較的簡単な表面処理により、ミクロな
金属接触による新生面の形成を低減させるとともに水素
が透過し難い保護被膜を形成して基材への水素の侵入を
抑制し、転動疲労寿命の向上、とくに、転動中のオイル
分解等により発生した水素が基材中に侵入することで発
生する水素脆性的な短寿命剥離の抑制を実現すると共
に、転動中に侵入してくる水素を低減することで鋼中の
水素濃度を低下させ、介在物起点の曲げ疲労強度を向上
させることができる無段変速機用転動体およびその製造
方法を提供することを目的としている。
機用転動体は、請求項1として、ディスクに潤滑油を介
してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機
に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を
主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.
1〜20μmとした構成とし、請求項2として、被膜の
厚さが0.1〜10μmである構成とし、請求項3とし
て、被膜の厚さが0.5〜7μmである構成とし、請求
項4として、被膜の表面粗さがRa0.1以下である構
成とし、請求項5として、ニッケル(Ni)を主成分と
する被膜を形成させた後の母材の表面粗さがRa0.1
以下である構成とし、請求項6として、被膜の硬度がH
v300以上である構成とし、請求項7として、被膜の
硬度がHv300〜700である構成とし、請求項8と
して、被膜中に、0.1〜12質量%のりん(P)を含
有している構成としており、上記構成をもって従来の課
題を解決するための手段としている。
項9に記載しているように、ディスクに潤滑油を介して
パワーローラを接触させた構成を有する無段変速機にお
いて、請求項1〜8のいずれかに記載の被膜をディスク
およびパワーローラの少なくとも一方の転がり接触をす
る部位に形成したことを特徴とし、請求項10に記載し
ているように、ディスクに潤滑油を介してパワーローラ
を接触させた構成を有する無段変速機において、請求項
1〜8のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワー
ローラの少なくとも一方のトラクション面に形成したこ
とを特徴とし、請求項11に記載しているように、ディ
スクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を
有する無段変速機において、請求項1〜8のいずれかに
記載の被膜を少なくともパワーローラのベアリング溝部
に形成したことを特徴としている。
体の製造方法は、請求項12として、ディスクに潤滑油
を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変
速機に用いる転動体を製造するに際し、転動体の転動面
に、ストライクめっきまたは電気めっきを各々単独また
は両方、あるいはストライクめっきと無電解めっきを複
合して施すことによりニッケル(Ni)を主成分とする
被膜を形成する構成とし、請求項13として、転動体に
ニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施
すに際し、印加する電流として0.1×102〜10×
102A/m2の電流密度の電流を用いる構成とし、請求
項14として、転動体にニッケル(Ni)を主成分とす
るストライクめっきを施すに際し、印加する電流として
0.1×102〜5×102A/m2の電流密度の電流を
用いる構成とし、請求項15として、転動体に電気めっ
きによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成す
るに際し、印加する電流として0.1×102〜10×
102A/m2の電流密度の電流を用いる構成とし、請求
項16として、転動体にめっき処理を施した後、200
℃以下の温度でベーキング処理を行う構成としており、
上記構成をもって従来の課題を解決するための手段とし
ている。
転動体では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを
接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体にお
いて、その転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被
膜を形成しているので、被膜により、ミクロな金属接触
による新生面の生成が抑制されると共に、ニッケル(N
i)が水素の透過し難い保護被膜として作用し、転動中
のトライボケミカル反応等により生成された水素の基材
への侵入が抑制される。ここで、当該無段変速機用転動
体では、被膜の厚さを0.1〜20μmとしている。こ
れは、被膜の厚さを0.1μmよりも小さくすると、金
属接触の低減効果や基材に対する水素の侵入の抑制効果
が不充分になり、被膜の厚さを20μmよりも大きくす
ると、被膜の厚さの増大とともに被膜内の応力が過大に
なって比較的早期に被膜剥離が発生し、耐フレーキング
性の向上つまり転動疲労寿命の向上にあまり寄与しなく
なるからである。
動体では、被膜の厚さを0.1〜10μmとしている。
これにより、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減
効果を得るための品質がより安定し且つ生産性も向上す
る。
動体では、被膜の厚さを0.5〜7μmとしている。こ
れにより、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効
果を得るための品質がより一層安定し且つ生産性もさら
に向上する。
動体では、被膜の表面粗さをRa0.1以下としてい
る。これは、表面粗さRaを0.1よりも大きくする
と、転動部での金属接触率が増加し、転動部の温度上昇
に伴う素材の軟化や相手材を含めた表面損傷による表面
起点型の転動疲労寿命が低下するからである。なお、表
面粗さRaの測定は、JISB0601−1994やJ
ISB0651に準処したものである。
動体では、ニッケル( Ni)を主成分とする被膜を形
成させた後の母材の表面粗さがRa0.1以下としてい
る。これは、繰り返し摺動する転動面においてはニッケ
ルめっきの摩耗を伴い、やがて大部分の被膜が摩耗によ
り消失して母材が摺動面となった場合に、母材の表面粗
さRaを0.1よりも大きくすると、転動部での金属接
触率が増加し、転動部の温度上昇に伴う素材の軟化や相
手材を含めた表面損傷による表面起点型の転動疲労寿命
が低下するからである。なお表面粗さRaの測定は、請
求項4と同様に、JISB0601−1994やJIS
B0651に準処したものである。
動体では、被膜の硬度をHv300以上としている。こ
れは、被膜の硬度をHv300よりも小さくすると、被
膜の耐摩耗性が不充分となり、優れた性能を持続的に得
ることが困難になるからである。なお、硬度Hvは、め
っき処理を施した状態、もしくはめっき処理後に200
℃以下の温度でベーキング処理を施した状態での硬度で
あり、その測定は、JISB7725やJISZ224
4に準処したものである。
動体では、被膜の硬度をHv300〜700としてい
る。これは、被膜の硬度をHv300よりも小さくする
と、前述の如く被膜の耐摩耗性が不充分となり、被膜の
硬度をHv700よりも大きくすると、とくに被膜の厚
さを10〜20μmと比較的厚くした場合に被膜の応力
が増大し、接触面圧が高面圧の摺動条件下において被膜
の脆性的な割れを生じる恐れがあるからである。
動体では、被膜中に、0.1〜12質量%のりん(P)
を含有している。これは、りん(P)の含有量を0.1
質量%よりも小さくすると、被膜の耐摩耗性が不充分に
なり、りん(P)の含有量を12質量%よりも大きくす
ると、被膜の靭性が損なわれ、被膜の脆性的な割れや剥
離を生じる恐れがあるからである。つまり、被膜中のり
ん(P)の含有量を0.1〜12質量%とすることで、
Ni3Pの析出硬化により被膜の耐摩耗性が向上し、被
膜の優れた性能が持続的に得られる。
は、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させ
た構成を有する無段変速機において、ディスクおよびパ
ワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位
に、請求項1〜8のいずれかに記載の被膜を形成してい
る。
する部位を図5に示す。図示のトロイダル式無段変速機
は、エンジン側に連結される入力軸101と、軸線方向
に所定範囲だけ移動可能な入力側ディスク103と、軸
線回りに回転自在な出力側ディスク112と、入力側デ
ィスク103を出力側ディスク112に向けて押圧する
押圧装置102と、両ディスク103,112間に配置
した一対のトラニオン104を備えており、各ディスク
103,112およびトラニオン104から成る構成を
2組備えたものとなっている。
ボットシャフト105が取付けてある。各ピボットシャ
フト105には、パワーローラ外輪106が固定してあ
ると共に、ベアリングを構成する複数のボール108お
よびラジアルニードル軸受109を介してパワーローラ
内輪107が軸回りに回転自在に取付けてある。パワー
ローラ内輪107は、潤滑油を介して各ディスク10
3,112の転動面103a,112aに接触してい
る。また、両出力側ディスク112は、入力軸101と
の間にラジアルニードル軸受113が介装してあると共
に、入力軸101の軸線回りに回転する出力ギア114
に連結してある。
すると、押圧装置102を介して入力側ディスク103
が回転し、この入力側ディスク103の回転により、そ
の転動面103aに対して転がり接触する一対のパワー
ローラ内輪107がそれぞれ回転し、これらパワーロー
ラ内輪107と転動面112aにて接触する出力側ディ
スク112が回転し、この出力側ディスク112ととも
に出力ギア114が回転する。そして、入力軸101か
ら出力ギア114に回転伝達を行う間に、紙面垂直方向
の図示しない回動軸を中心にしてトラニオン104とと
もにパワーローラ内輪107を回動させ、各ディスク1
03,112に対するパワーローラ内輪107の接触位
置を移動させることで変速比を無段階的に変化させる。
する部位としては、各ディスク103,112の転動面
103a,112a、パワーローラ内輪107の転動面
107a、パワーローラ外輪106および内輪107の
ベアリング溝部106b,107b、ピボットシャフト
105とパワーローラ内輪107の間に介装したラジア
ルニードル軸受109、および入力軸101と出力側デ
ィスク112の間に介装したラジアルニードル軸受11
3などが挙げられる。また、とくに曲げ応力がかかる部
位としては、パワーローラ外輪106の内周部F1や各
ディスク103,112の小径部F2,F3などが挙げ
られる。
り接触をする部位の一部あるいは全部に被膜を形成して
おり、この被膜により、金属接触の低減や基材に対する
水素の侵入が抑制され、各部位の転動疲労寿命が向上す
る。また、転がり接触する部位からの各部品への水素の
侵入が抑制されることにより、部品全体としての鋼中含
有水素量が低下するため、曲げ応力がかかる部位の水素
濃度も低下し、各部品の曲げ疲労強度が向上する。な
お、当然のことながら、図5に符号を付して説明した部
位以外のベアリング類に被膜を形成することも可能であ
る。
は、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させ
た構成を有する無段変速機において、高面圧を受ける部
分としてディスクおよびパワーローラの少なくとも一方
のトラクション面、すなわち図5に示す各ディスク10
3,112やパワーローラ内輪107の転動面103
a,112a,107aの一部あるいは全部に、請求項
1〜8のいずれかに記載の被膜を形成しているので、こ
の被膜により、金属接触の低減や基材に対する水素の侵
入が抑制され、トラクション面の転動疲労寿命が向上す
る。また、トラクション面からディスクやパワーローラ
への水素の侵入が抑制されることにより、全体としての
鋼中含有水素量が低下するため、曲げ応力がかかる部位
の水素濃度も低下し、ディスクやパワーローラの曲げ疲
労強度が向上する。
は、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させ
た構成を有する無段変速機において、高面圧で且つ負荷
回数が最大になる部分として少なくともパワーローラの
ベアリング溝部、すなわち図5に示すベアリング溝部1
06b,107bに、請求項1〜8のいずれかに記載の
被膜を形成しているので、この被膜により、金属接触の
低減や基材に対する水素の侵入の抑制が成され、被膜の
優れた性能が持続的に得られると共に、ベアリング溝部
の転動疲労寿命が向上する。また、ベアリング溝部から
基材への水素の侵入が抑制されることにより、基材全体
としての鋼中含有水素量が低下するため、曲げ応力がか
かる部位の水素濃度も低下し、基材の曲げ疲労強度が向
上する。
転動体の製造方法では、転動体の転動面に、ストライク
めっきまたは電気めっきを各々単独または両方、あるい
はストライクめっきと無電解めっきを複合して施すこと
により、ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成す
る。つまり、ニッケル(Ni)を主成分とするめっきを
施すことで、基材に対する耐摩耗性が向上し、被膜の優
れた性能が持続的に得られる。なお、ストライクめっき
を単独、あるいは電気めっきまたは無電解めっきとの複
合によりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を基材上
に形成させた場合、基材に対する被膜の密着性がより向
上し、優れた性能をより持続的に得ることができる。
転動体の製造方法では、転動体にニッケル(Ni)を主
成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電
流として0.1×102〜10×102A/m2(0.1
〜10A/dm2)の低い電流密度の電流を用いる。こ
れは、0.1×102A/m2(0.1A/dm2)より
も小さい電流密度では、生産性が不充分なものとなり、
10×102A/m2(10A/dm2)よりも大きい電
流密度では、生産性は上がるものの、形成しためっき被
膜の表面粗さが粗くなる傾向にあり、品質を安定して確
保することが困難になるからである。
転動体の製造方法では、転動体にニッケル(Ni)を主
成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電
流として0.1×102〜5×102A/m2(0.1〜
5A/dm2)の低い電流密度の電流を用いる。これに
より生産性の低下を最大限に抑制しつつ、形成しためっ
き被膜の表面粗さが向上するので、より安定した品質を
確保できる。
転動体の製造方法では、転動体に電気めっきによりニッ
ケル(Ni)を主成分とする被膜を形成するに際し、印
加する電流として0.1×102〜10×102A/m2
(0.1〜10A/dm2)の電流密度の電流を用い
る。これは、0.1×102A/m2(0.1A/d
m2)よりも小さい電流密度では、生産性が不充分なも
のとなり、10×102A/m2(10A/dm2)より
も大きい電流密度では、生産性は上がるものの、形成し
ためっき被膜の表面粗さが粗くなる傾向にあり、品質を
安定して確保することが困難になるからである。
転動体の製造方法では、転動体にめっき処理を施した
後、200℃以下の温度条件下でベーキング処理を行
う。これにより、電気めっきあるいは無電解めっきの際
に基材もしくは被膜内に侵入した水素、および浸炭焼入
れあるいは浸炭窒化焼入れ等の熱処理の際に基材に侵入
した水素が放出される。ここで、ベーキング処理時の温
度を200℃よりも高くすると、ベーキングによる脱水
素量は増加するものの、基材が高温保持により軟化した
り、ショットピーニング等により圧縮残留応力を付与し
た部位の残留応力が低下したりする場合がある。したが
って、ベーキング処理時の温度を200℃以下とするこ
とにより、脱水素効果を確保しつつ基材の軟化や残留応
力の低下を防止する。また、ベーキング処理は、真空炉
にて行うのがより望ましく、これにより脱水素効果がさ
らに高められる。
転動体によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーロー
ラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体
において、転動面に、ニッケル(Ni)を主成分とし且
つ厚さが0.1〜20μmの被膜を形成したことによ
り、比較的簡単な表面処理でありながら、ミクロな金属
接触を充分に低減させることができると共に、基材への
水素の侵入を充分に抑制することができ、転動体の転動
疲労寿命を大幅に向上させて、被膜の優れた性能を長期
にわたって維持することができる。
動体によれば、請求項1と同様の効果を得ることがで
き、とくに、被膜の厚さを0.1〜10μmとしたこと
で、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得
るための品質をより安定させることができ、生産性の向
上も実現することができる。
動体によれば、請求項1と同様の効果を得ることがで
き、とくに、被膜の厚さを0.5〜7μmとしたこと
で、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得
るための品質がより一層安定させることができ、生産性
のさらなる向上を実現することができる。
動体によれば、請求項1〜3同様の効果を得ることがで
きるうえに、被膜の表面粗さをRa0.1以下としたこ
とにより、転動部での金属接触率の増加や表面損傷によ
る表面起点型の転動疲労寿命の低下をより確実に防止す
ることができる。
動体によれば、請求項1〜4同様の効果を得ることがで
きるうえに、被膜を形成させた後の、母材の表面粗さを
Ra0.1以下としたことにより、摩耗により被膜の大
部分が消失して母材が摺動面となった場合でも、転動部
での金属接触率の増加や表面損傷による表面起点型の転
動疲労寿命の低下を抑制することができる。
動体によれば、請求項1〜5と同様の効果を得ることが
できるうえに、被膜の硬度をHv300以上としたこと
により、被膜の耐摩耗性を充分に確保することができ、
被膜の優れた性能をより持続的に得ることができる。
動体によれば、請求項1〜6と同様の効果を得ることが
できるうえに、被膜の硬度をHv300〜700の範囲
としたことにより、被膜の耐摩耗性を維持しつつ被膜を
比較的厚くした場合でも被膜の応力を抑制し、被膜の脆
性的な割れや剥離を防止することができる。
動体によれば、請求項1〜7と同様の効果を得ることが
できるうえに、被膜中に、0.1〜12質量%のりん
(P)を含有させたことにより、被膜の耐摩耗性をより
一層向上させることができると共に、被膜の靭性を確保
して被膜の脆性的な割れや剥離を確実に防止することが
でき、被膜の優れた性能をより持続的に得ることができ
る。
れば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触さ
せた構成を有する無段変速機において、ディスクおよび
パワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位
に、請求項1〜8のいずれかに記載の被膜を形成したこ
とにより、転がり接触をする各部位の転動疲労強度およ
び曲げ疲労強度を大幅に向上させて、長期にわたって優
れた性能を維持することができ、これにより無段変速機
全体の耐久性能を著しく高めることができると共に、ユ
ニットの大容量化や小型化も実現することができる。
よれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触
させた構成を有する無段変速機において、ディスクおよ
びパワーローラの少なくとも一方のトラクション面に、
請求項1〜8のいずれかに記載の被膜を形成したことに
より、高面圧を受けるトラクション面の転動疲労強度お
よびディスクやパワーローラの曲げ疲労強度を大幅に向
上させて、長期にわたって優れた性能を維持することが
でき、これにより無段変速機全体の耐久性能を著しく高
めることができると共に、ユニットの大容量化や小型化
も実現することができる。
よれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触
させた構成を有する無段変速機において、少なくともパ
ワーローラのベアリング溝部に、請求項1〜8のいずれ
かに記載の被膜を形成したことにより、高面圧で且つ負
荷回数が最大となるベアリング溝部における転動疲労強
度および曲げ疲労強度を大幅に向上させて、長期にわた
って優れた性能を維持することができ、これにより無段
変速機全体の耐久性能を著しく高めることができると共
に、ユニットの大容量化や小型化も実現することができ
る。
転動体の製造方法によれば、比較的簡単な表面処理を採
用したうえで、ミクロな金属接触の低減や基材への水素
の侵入を抑制して転動疲労寿命の大幅な向上を実現し得
る転動体を得ることができ、とくに、ニッケル(Ni)
を主成分とするストライクめっきを施すことにより、基
材に対する被膜の密着性および耐摩耗性を高めることが
でき、被膜の優れた性能を持続的に得ることができる。
転動体の製造方法によれば、請求項12と同様の効果を
得ることができるうえに、転動体にニッケル(Ni)を
主成分とするストライクめっきを施す際に、0.1×1
02〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)の
電流密度の電流を印加することで、生産性を高めること
ができると共に、被膜の表面粗さを適切なものにして安
定した品質を確保することができる。
転動体の製造方法によれば、請求項12と同様の効果を
得ることができるうえに、転動体にニッケル(Ni)を
主成分とするストライクめっきを施す際に、0.1×1
02〜5×102A/m2(0.1〜5A/dm2)のより
低い電流密度の電流を印加することで、生産性の低下を
最大限に抑制しつつ、被膜の表面粗さを適切なものにし
てより安定した品質を確保することができる。
転動体の製造方法によれば、請求項12〜14と同様の
効果を得ることができるうえに、転動体に電気めっきに
よりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成する際
に、0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜1
0A/dm2)の電流密度の電流を印加することで、請
求項13、14と同様に、生産性を高めることができる
と共に、被膜の表面粗さを適切なものにして安定した品
質を確保することができる。
転動体の製造方法によれば、請求項12〜15と同様の
効果を得ることができるうえに、転動体にめっき処理を
施した後、200℃以下の温度条件下でベーキング処理
を行うことにより、基材の軟化や残留応力の低下を防止
しつつ充分な脱水素効果を得ることができ、品質のさら
なる安定化を実現することができる。また、ベーキング
処理を真空炉で行えば脱水素効果をより一層高めること
ができる。
段変速機用転動体の一実施例を説明する図である。
は、入力軸1、押圧装置2、入力側ディスク3、一対の
トラニオン4、出力側ディスク12および出力軸13等
により構成されている。
トシャフト5が取付けてある。各ピボットシャフト5に
は、パワーローラ外輪6が固定してあると共に、ベアリ
ングを構成する複数のボール8およびラジアルニードル
軸受9を介してパワーローラ内輪7が軸回りに回転自在
に取付けてある。パワーローラ内輪7は、潤滑油を介し
て各ディスク3,12の転動面3a,12aに接触して
いる。
と、カム板2a、保持器2bおよびローラ2cから成る
押圧装置2を介して入力側ディスク3が回転し、この入
力側ディスク3の回転により、その転動面3aに対して
転がり接触する一対のパワーローラ内輪7がそれぞれ回
転し、これらパワーローラ内輪7と転動面12aにて接
触する出力側ディスク12が回転し、この出力側ディス
ク12とともに出力軸13が回転する。
3に回転伝達を行う間に、図中仮想線で示す回動軸10
を中心にしてトラニオン4とともにパワーローラ内輪7
を回動させ、各ディスク3,12に対するパワーローラ
内輪7の接触位置を移動させることで変速比を無段階的
に変化させる。
は、各転動面3a,12aを有するディスク3,12、
両ディスク3,12に接触する転動面を有するパワーロ
ーラ内輪7および外輪6が挙げられる。このとき、パワ
ーローラ内輪7および外輪6では、ボール8と接触する
ベアリング溝部7a,6aも転動面である。
図1(b)に示すように、回転伝達時に高面圧が加わる
部分として、少なくともパワーローラ内輪7および外輪
6のベアリング溝部7a,6aにニッケル(Ni)を主
成分とする被膜が形成してある。このとき、被膜は、厚
さを0.1〜20μmとし、その表面粗さをRa0.1
以下とし、被膜形成後の母材の表面粗さをRa0.1以
下としている。また、被膜の硬度をHv300以上と
し、さらに、被膜中に0.1〜12質量%のりん(P)
を含有したものとなっている。
ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すること
で、ミクロな金属接触による新生面の生成を抑制すると
共に、転動中のトライボケミカル反応等により生成され
た水素の基材への侵入を抑制して、転動疲労寿命を向上
させるようにしており、この際、被膜の厚さを0.1〜
20μmとすることで、金属接触の低減効果や基材に対
する水素の侵入の抑制効果をより充分なものにし、ま
た、比較的早期に被膜剥離が発生するような事態も防止
している。
した被膜および被膜形成後の母材は、その表面粗さをR
a0.1以下とすることで、転動部での金属接触率の増
加や、転動部の温度上昇に伴う素材の軟化や相手材を含
めた表面損傷による表面起点型の転動疲労寿命の低下を
防止することができる。そして、ベアリング溝部7a,
6aに形成した被膜の硬度をHv300以上とすること
で、充分な耐摩耗性を確保し、0.1〜12質量%のり
ん(P)を含有させることで、Ni3Pの析出硬化によ
り耐摩耗性を充分に確保すると共に、被膜の靭性低下に
伴う被膜の脆性的な割れや剥離の発生を防止して、優れ
た性能が持続的に得られるものとなっている。
6aのほか、各ディスク3,12の転動面3a,12a
やパワーローラ内輪7の転動面にも形成することが可能
であり、その具体的な製造方法としては、転動体にスト
ライクめっきまたは電気めっきを各々単独または両方、
あるいはストライクめっきと無電解めっきを複合して施
すことで、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被
膜を形成する。
ストライクめっきを施すことで、基材に対する被膜の密
着性および耐摩耗性が向上する。また、転動体にストラ
イクめっきを施す際には、印加する電流として0.1×
102〜10×102A/m2の低い電流密度の電流を用
いることが望ましく、さらに、転動体に電気めっきを施
す際には、印加する電流として0.1×102〜10×
102A/m2の電流密度の電流を用いることが望まし
く、これらの電流設定により、生産性が充分なものにな
ると共に、形成しためっき被膜の表面粗さが適切なもの
となって品質が安定する。
以下の温度条件下でベーキング処理を行うことで、基材
の軟化や残留応力の低下を防止しつつ充分な脱水素効果
を得ることができ、品質のさらなる安定化を実現でき
る。また、ベーキング処理を真空炉で行えば、脱水素効
果をより一層高めることができる。
に関し、いくつかの実施例および比較例を説明する。
試料も図1(b)に示すパワーローラ内輪7および外輪
6である。これらの試料は、表1に示す組成すなわち
C:0.2質量%、Si:0.25質量%、Mn:0.
8質量%、Cr:1.1質量%、Mo:0.15質量
%、P:0.015質量%、S:0.009質量%を含
有する鉄鋼製素材を鍛造成形したのち粗加工し、図2に
示す熱処理条件すなわち950℃で10〜20時間加熱
し、850℃で1時間保温し、60℃の油中で冷却し、
その後、840℃で1時間加熱し、60℃の油中で冷却
し、170℃で2時間保温する工程により浸炭窒化処理
を行った。
のベアリング溝部7a,6aに研削超仕上げを行い、仕
上げ加工後のパワーローラ内輪7および外輪6に、下記
のめっき条件によりニッケル(Ni)を主成分とする被
膜を形成した。なお、完成後のベアリング溝部7a,6
aの母材部分は、表面粗さRaが0.02〜0.10程
度になり、表面硬さHvが700〜720程度になるよ
うにした。
ある。被膜の厚さは、転動体の転動面に形成した被膜の
断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することによ
り測定した。
定装置を用い、カットオフ0.08mmで測定した。な
お測定装置は、JISB0651(触針式表面粗さ測定
器)に準処するものである。
は、軸受転動疲労試験装置を用いたベアリング溝部の転
動疲労寿命試験実施後の供試材をめっき被膜剥離液(シ
アン系めっき被膜剥離液/商品名;キザイ(株)製リッ
プマスター#1219)に浸漬し、めっき被膜のみを完
全に化学的に除去後、ベアリング溝部の非転動部分に対
して触針式表面粗さ測定装置を用いてカットオフ0.0
8mmで測定した。なお測定装置はJIS−B−065
1(触針式表面粗さ測定器)に準拠するものである。
ためにその断面方向から市販のマイクロビッカース硬度
計を用いて測定することが難しい場合(とくに被膜の厚
さが10μm以下の場合)があるので、ニッケル(N
i)を主成分とする被膜を電気めっきあるいは無電解め
っきにより形成する際に、その処理時間だけを規定より
も長くし、その他は同一条件とし、ニッケルを主成分と
する被膜の厚さが30μm程度になるようにしたものを
供試材として測定を行った。
主成分とする被膜の厚さが30μm程度になるように作
製した転動体を供試材とし、供試材をマイクロカッター
で切断して樹脂に埋め込み、断面を研磨加工した後、被
膜の断面方向から市販のマイクロビッカース硬度計を用
いて、試験荷重0.49N(0.05kgf)を負荷し
て行った。なお、マイクロビッカース硬度計は、JIS
B7725(ビッカース硬さ試験−試験機の検証)に準
処するものである。また、上記試験を実施するうえで
は、JISZ2244(ビッカース硬さ試験−試験の検
証)を基礎とするが、供試材の形状を考慮して上記方法
にて測定した。
分析装置を用いて測定した。すなわち、りんの含有量が
既知で且つ含有量が異なる複数個のサンプルを測定し、
この際の強度により強度−含有量の検量線を作成した。
そして、本発明の転動体を適当なサイズに切断し、サン
プルと同様の条件で測定し、その測定強度を前述の検量
線に基づいてりんの含有量に換算した。
ーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライ
クめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とす
るストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使
用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、
電気めっきにより被膜を形成する際に、実施例5では、
50%次亜リン酸を0.6g/L添加した浴を、実施例
6では、50%次亜リン酸を1g/L添加した浴を、実
施例1〜4,7,11,17,18では、50%次亜リ
ン酸を添加しない浴を使用した。
び外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使
用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっ
きを施したのち、無電解めっき浴Cを使用してニッケル
を主成分とする被膜を形成した。なお、無電解めっきに
より被膜を形成する際に、実施例8および9では、次亜
リン酸ナトリウムを24g/L添加した浴を、実施例1
0では、次亜リン酸ナトリウムを35g/L添加した浴
を使用した。
輪のベアリング溝部に、ニッケル(Ni)を主成分とす
るストライクめっきを施さず、電気めっき浴Bを使用し
てニッケルを主成分とする被膜を直接形成した。
輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用し
てニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを
施したのち、無電解めっき浴Cを使用してニッケルを主
成分とする被膜を形成した。なお、無電解めっきにより
被膜を形成する際に、次亜リン酸ナトリウムを46g/
L添加した浴を使用した。
輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用し
てニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを
施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成
分とする被膜を形成した。なお、この実施例14では、
被膜を形成する際に印加する電流密度を7×102A/
m2とした。得られた表面粗さRaは0.12であっ
た。
輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用し
てニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを
施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成
分とする被膜を形成した。なお、この実施例15では、
被膜を形成する際に印加する電流密度を15×102A
/m2とした。得られた表面粗さRaは0.12であっ
た。
輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用し
てニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを
施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成
分とする被膜を形成した。このめっき処理の後に、ベー
キング処理として、真空炉にて130℃で20時間保持
をした。
輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用し
てニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを
施したのち、次亜リン酸ナトリウム24g/Lを添加し
た無電解めっき浴Cを使用してニッケルを主成分とする
被膜を形成した。このめっき処理の後に、ベーキング処
理として、真空炉にて130℃で20時間保持をした。
よび外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを
使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめ
っき被膜のみを施した。
ライクめっきや電気めっきの際に印加する電流の電流密
度の値、各条件により形成された被膜の特性値(厚さ、
表面粗さ、硬度,りんの含有量、および被膜形成後の母
材表面粗さ)を後の表2に示す。
表面粗さの異なる2種類のパワーローラ内輪および外輪
とした。
のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用して
ニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施
したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分
とする被膜を形成した。なお、この比較例3では、被膜
を形成する際に印加する電流密度を7×102A/m2と
したが、処理時間が長いことから被膜の厚さが24μm
となり、実施例に比べて被膜が厚いものとなった。
のベアリング溝部に、苛性ソーダ水溶液への浸漬を行う
黒染め処理により酸化鉄の被膜を形成した。
4において作成した各試料(パワーローラ内輪および外
輪)に対し、軸受転動疲労試験装置を用いてベアリング
溝部の転動疲労寿命試験を行った。図3に示す軸受転動
疲労試験装置は、筐体20内において、プレート21に
より外輪6の下面を保持すると共に、パワーローラ内輪
7の上面に回転軸22を所定の加圧力で当接させ、プレ
ート21を通してパワーローラ内輪7の内側に潤滑油を
供給しながら、回転軸22とともにパワーローラ内輪7
を回転させる構造になっている。
オイルを3L/mで供給し、この強制潤滑下において、
ベアリング溝部7a,6aにおける最大接触面圧が3.
4GPaとなるように回転軸22による加圧力を設定し
た。また、転動疲労寿命の値は、振動センサを用い、パ
ワーローラ内輪7または外輪6のベアリング溝部7a,
6aがフレーキングに至るまでの時間とした。上記の試
験結果を表2に示す。
における転がり方向断面の組織写真を示す。図4
(a),(b)には、形態の異なる白色組織が見られる
が、本実験条件ではすべての剥離品の剥離部近傍に図4
(a)に示すAタイプまたは図4(b)に示すBタイプ
の組織変化が観察された。Aタイプは、比較的長寿命の
試料に観察された。一方、Bタイプは、比較的短寿命の
試料に観察された。
験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量
を測定した結果を示すものである。なお、測定は、昇温
脱離ガス分析装置(日本真空技術(株)UPM-ST-200R
型)を用い、加熱温度400℃以下にて放出された水素
量を拡散性水素量とした。表3より、短寿命でフレーキ
ングを生じたBタイプの場合、Aタイプに比べて、水素
侵入量が多いことがわかる。Bタイプは、侵入水素が起
因となった水素脆性的な剥離形態であると言える。つま
り、侵入水素を抑制することにより、組織変化形態がB
タイプからAタイプにシフトして長寿命化することが考
えられる。
例1〜22では、被膜の厚さ、被膜の表面粗さ、被膜の
硬度、被膜中のりん(P)の含有量、あるいはめっきの
際に印加する電流の電流密度を各々設定すること、ま
た、めっき処理後にベーキング処理を施すことにより、
転動疲労寿命試験の結果、本発明に基づく実施例は、図
4(b)に示すBタイプの組織変化形態を呈しており、
比較例に対して、大幅に転動疲労寿命が向上しているこ
とが確認された。
ロイダル式無段変速機を説明する断面図(a)およびパ
ワーローラにおける被膜形成部位を示す片側省略の断面
図(b)である。
料に対する熱処理工程を示す説明図である。
織写真である。
び曲げ応力がかかる部位を説明する断面図である。
Claims (16)
- 【請求項1】 ディスクに潤滑油を介してパワーローラ
を接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体で
あって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜
を形成すると共に、被膜の厚さを0.1〜20μmとし
たことを特徴とする無段変速機用転動体。 - 【請求項2】 被膜の厚さが0.1〜10μmであるこ
とを特徴とする請求項1に記載の無段変速機用転動体。 - 【請求項3】 被膜の厚さが0.5〜7μmであること
を特徴とする請求項1に記載の無段変速機用転動体。 - 【請求項4】 被膜の表面粗さがRa0.1以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無段
変速機用転動体。 - 【請求項5】 ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を
形成させた後の母材の表面粗さがRa0.1以下である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無段
変速機用転動体。 - 【請求項6】 被膜の硬度がHv300以上であること
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無段変速
機用転動体。 - 【請求項7】 被膜の硬度がHv300〜700である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無段
変速機用転動体。 - 【請求項8】 被膜中に、0.1〜12質量%のりん
(P)を含有していることを特徴とする請求項1〜7の
いずれかに記載の無段変速機用転動体。 - 【請求項9】 ディスクに潤滑油を介してパワーローラ
を接触させた構成を有する無段変速機において、請求項
1〜8のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワー
ローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位に形成
したことを特徴とする無段変速機。 - 【請求項10】 ディスクに潤滑油を介してパワーロー
ラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求
項1〜8のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワ
ーローラの少なくとも一方のトラクション面に形成した
ことを特徴とする無段変速機。 - 【請求項11】 ディスクに潤滑油を介してパワーロー
ラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求
項1〜8のいずれかに記載の被膜を少なくともパワーロ
ーラのベアリング溝部に形成したことを特徴とする無段
変速機。 - 【請求項12】 ディスクに潤滑油を介してパワーロー
ラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体
を製造するに際し、転動体の転動面に、ストライクめっ
きまたは電気めっきを各々単独または両方、あるいはス
トライクめっきと無電解めっきを複合して施すことによ
りニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すること
を特徴とする無段変速機用転動体の製造方法。 - 【請求項13】 転動体にニッケル(Ni)を主成分と
するストライクめっきを施すに際し、印加する電流とし
て0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電
流を用いることを特徴とする請求項12に記載の無段変
速機用転動体の製造方法。 - 【請求項14】 転動体にニッケル(Ni)を主成分と
するストライクめっきを施すに際し、印加する電流とし
て0.1×102〜5×102A/m2の電流密度の電流
を用いることを特徴とする請求項12に記載の無段変速
機用転動体の製造方法。 - 【請求項15】 転動体に電気めっきによりニッケル
(Ni)を主成分とする被膜を形成するに際し、印加す
る電流として0.1×102〜10×102A/m2の電
流密度の電流を用いることを特徴とする請求項12〜1
4のいずれかに記載の無段変速機用転動体の製造方法。 - 【請求項16】 転動体にめっき処理を施した後、20
0℃以下の温度でベーキング処理を行うことを特徴とす
る請求項12〜15のいずれかに記載の無段変速機用転
動体の製造方法。
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JP2006250158A (ja) * | 2005-03-08 | 2006-09-21 | Nsk Ltd | トロイダル型無段変速機 |
-
2001
- 2001-10-16 JP JP2001317761A patent/JP4107556B2/ja not_active Expired - Fee Related
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