JP4107556B2 - 無段変速機用転動体およびその製造方法 - Google Patents
無段変速機用転動体およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受、あるいはトロイダル式無段変速機に使用される転動体およびその製造方法に関するものであり、その転動疲労強度向上、主に、転動中のオイル分解等により発生した水素が鋼中に侵入することを抑制することにより、侵入水素による水素脆性的な短寿命剥離を抑制し、さらには曲げ疲労強度も向上するようにした無段変速機用転動体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の無段変速機用転動体としては、例えば特開平7−71555号公報に記載されているものがある。同公報には、トロイダル式無段変速機において、転動体である入力および出力のディスクやパワーローラに浸炭処理および研削仕上げを施し、転動面の耐疲労割れ寿命の向上を図ることが記載されている。
【0003】
また、特開平10−184836号公報には、トロイダル式無段変速機において、転動体に浸炭鋼を用いると共に、その表面に研削仕上げ加工を施すことにより、パワーローラ外輪のベアリング面溝部の転動疲労強度を向上させて、耐久性に優れた転動体を得ることが記載されている。さらに、特開2000−291757号公報には、パワーローラのベアリング溝部にショットピーニング工法よって圧縮残留応力を付与することにより、玉が軌道溝を転動する際に生じる接触面圧を緩和して、パワーローラ軸受けの疲れ寿命低下を抑制することが記載されている。
【0004】
しかし、これらの従来技術は、転動中にオイル分解等により発生した水素が転動体中に侵入することで発生する水素脆性的な短寿命剥離を積極的に抑制するには至っていない。この水素侵入抑制を目的とした軸受けとしては、特開平2−190615号公報に、グリース封入軸受において軸受の転動面に黒染め処理により四三酸化鉄の被膜を形成し、転動面の剥離を防止して寿命の向上を図ることが記載されている。
【0005】
さらに、特開平6−313434号公報には、耐蝕性転がり軸受において、外輪、内輪、転動体および保持器のうち少なくとも1つにニッケルめっきを施し、塩水噴霧などの厳しい腐食条件下における耐蝕性やなじみ性の向上を図ることが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、トロイダル式無段変速機は、入力および出力のディスクと、両ディスクに潤滑油を介して接触するパワーローラを備え、トラクションドライブにより入力ディスクの回転がパワーローラを介して出力ディスクに伝達される。この際、各ディスクとパワーローラの間には高い押し付け荷重が加わり、とくに、パワーローラを構成するベアリング溝部における接触面圧は最大で3GPaを越えるものとなる。そして、ベアリング溝部では、上記の高面圧に加えて、トラクション力やラジアル方向の荷重を受けながらボールが転動するため、ミクロな金属接触や転がり摩擦抵抗の増大に伴う表面接線力の増大により、転動疲労寿命が低下する恐れがあるという問題点があり、従来ではこのような問題点を解決することが課題であった。
【0007】
また、グリースで潤滑を行う軸受では、ミクロな金属接触により転動面に形成された新生面が触媒的な作用をして、グリースと転動面の間でトライボケミカル的な反応を促進し、化学分解により生成した水素が基材中に侵入し、転動疲労寿命が低下する恐れがあるという問題点があった。
【0008】
この対策としては、黒染め処理(130〜160℃の苛性ソーダ水溶液に浸漬)が報告されているが、作業環境が劣悪であり、工業的には好ましくない。また、黒染め処理により形成された表面の四三酸化鉄皮膜は、高温、高面圧の過酷な条件化では皮膜の残存性が不充分であり、十分な水素侵入抑制効果が発揮できない場合がある。さらに、鋼中の介在物周辺に水素が濃化している場合、介在物起点の曲げ疲労強度を低下させることがあるという報告がある。(鉄と鋼・Vol.86(2000)No.11の第69頁)
【0009】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、比較的簡単な表面処理により、ミクロな金属接触による新生面の形成を低減させるとともに水素が透過し難い保護被膜を形成して基材への水素の侵入を抑制し、転動疲労寿命の向上、とくに、転動中のオイル分解等により発生した水素が基材中に侵入することで発生する水素脆性的な短寿命剥離の抑制を実現すると共に、転動中に侵入してくる水素を低減することで鋼中の水素濃度を低下させ、介在物起点の曲げ疲労強度を向上させることができる無段変速機用転動体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる無段変速機用転動体は、請求項1として、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.1〜20μmとした構成とし、請求項2として、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.3〜15μmとした構成とし、請求項3として、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さが0.3〜15μm、被膜の表面粗さがRa0.04〜0.08、被膜の硬度がHv310〜685であって、被膜形成手段が、ストライクめっき、ストライクめっきと電気めっきの両方、及びストライクめっきと無電解めっきの両方のうちのいずれか1つの手段である構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0011】
また、本発明に係わる無段変速機は、請求項4に記載しているように、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位に形成したことを特徴とし、請求項5に記載しているように、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワーローラの少なくとも一方のトラクション面に形成したことを特徴とし、請求項6に記載しているように、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を少なくともパワーローラのベアリング溝部に形成したことを特徴としている。
【0012】
さらに、本発明に係わる無段変速機用転動体の製造方法は、請求項7として、請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機用転動体を製造するに際し、転動体の転動面に、ストライクめっきまたは電気めっきを各々単独または両方、あるいはストライクめっきと無電解めっきを複合して施すことによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成する構成とし、請求項8として、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電流を用いる構成とし、請求項9として、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜5×102A/m2の電流密度の電流を用いる構成とし、請求項10として、転動体に電気めっきによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成するに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電流を用いる構成とし、請求項11として、転動体にめっき処理を施した後、200℃以下の温度でベーキング処理を行う構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0013】
【発明の作用】
本発明の請求項1に係わる無段変速機用転動体では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体において、その転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成しているので、被膜により、ミクロな金属接触による新生面の生成が抑制されると共に、ニッケル(Ni)が水素の透過し難い保護被膜として作用し、転動中のトライボケミカル反応等により生成された水素の基材への侵入が抑制される。ここで、当該無段変速機用転動体では、被膜の厚さを0.1〜20μmとしている。これは、被膜の厚さを0.1μmよりも小さくすると、金属接触の低減効果や基材に対する水素の侵入の抑制効果が不充分になり、被膜の厚さを20μmよりも大きくすると、被膜の厚さの増大とともに被膜内の応力が過大になって比較的早期に被膜剥離が発生し、耐フレーキング性の向上つまり転動疲労寿命の向上にあまり寄与しなくなるからである。
【0014】
本発明の請求項2に係わる無段変速機用転動体では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体においてその、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.3〜15μmとしているので、被膜により、ミクロな金属接触による新生面の生成が抑制されると共に、ニッケル(Ni)が水素の透過し難い保護被膜として作用し、転動中のトライボケミカル反応等により生成された水素の基材への侵入が抑制される。これにより、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得るための品質がより安定し且つ生産性も向上する。
【0015】
本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体において、ストライクめっき、ストライクめっきと電気めっきの両方、及びストライクめっきと無電解めっきの両方のうちのいずれか1つの被膜形成手段により、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.3〜15μm、被膜の表面粗さをRa0.04〜0.08、被膜の硬度をHv310〜685としているので、被膜により、ミクロな金属接触による新生面の生成が抑制されると共に、ニッケル(Ni)が水素の透過し難い保護被膜として作用し、転動中のトライボケミカル反応等により生成された水素の基材への侵入が抑制される。これにより、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得るための品質がより一層安定し且つ生産性もさらに向上する。
【0016】
本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体では、被膜の表面粗さをRa0.04〜0.08としている。これは、表面粗さRaを0.1よりも大きく、より厳密には0.08よりも大きくすると、転動部での金属接触率が増加し、転動部の温度上昇に伴う素材の軟化や相手材を含めた表面損傷による表面起点型の転動疲労寿命が低下するからである。なお、表面粗さRaの測定は、JISB0601−1994やJISB0651に準処したものである。
【0018】
本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体では、被膜の硬度をHv310〜685としている。これは、被膜の硬度をHv300よりも小さく、より厳密にはHv310よりも小さくすると、被膜の耐摩耗性が不充分となり、優れた性能を持続的に得ることが困難になるからであり、被膜の硬度をHv700よりも大きく、より厳密にはHv685より大きくすると、とくに被膜の厚さを10〜15μmと比較的厚くした場合に被膜の応力が増大し、接触面圧が高面圧の摺動条件下において被膜の脆性的な割れを生じる恐れがあるからである。なお、硬度Hvは、めっき処理を施した状態、もしくはめっき処理後に200℃以下の温度でベーキング処理を施した状態での硬度であり、その測定は、JISB7725やJISZ2244に準処したものである。
【0021】
本発明の請求項4に係わる無段変速機では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、ディスクおよびパワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位に、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成している。
【0022】
ここで、無段変速機において転がり接触をする部位を図5に示す。図示のトロイダル式無段変速機は、エンジン側に連結される入力軸101と、軸線方向に所定範囲だけ移動可能な入力側ディスク103と、軸線回りに回転自在な出力側ディスク112と、入力側ディスク103を出力側ディスク112に向けて押圧する押圧装置102と、両ディスク103,112間に配置した一対のトラニオン104を備えており、各ディスク103,112およびトラニオン104から成る構成を2組備えたものとなっている。
【0023】
一対のトラニオン104には、それぞれピボットシャフト105が取付けてある。各ピボットシャフト105には、パワーローラ外輪106が固定してあると共に、ベアリングを構成する複数のボール108およびラジアルニードル軸受109を介してパワーローラ内輪107が軸回りに回転自在に取付けてある。パワーローラ内輪107は、潤滑油を介して各ディスク103,112の転動面103a,112aに接触している。また、両出力側ディスク112は、入力軸101との間にラジアルニードル軸受113が介装してあると共に、入力軸101の軸線回りに回転する出力ギア114に連結してある。
【0024】
上記の無段変速機は、入力軸101が回転すると、押圧装置102を介して入力側ディスク103が回転し、この入力側ディスク103の回転により、その転動面103aに対して転がり接触する一対のパワーローラ内輪107がそれぞれ回転し、これらパワーローラ内輪107と転動面112aにて接触する出力側ディスク112が回転し、この出力側ディスク112とともに出力ギア114が回転する。そして、入力軸101から出力ギア114に回転伝達を行う間に、紙面垂直方向の図示しない回動軸を中心にしてトラニオン104とともにパワーローラ内輪107を回動させ、各ディスク103,112に対するパワーローラ内輪107の接触位置を移動させることで変速比を無段階的に変化させる。
【0025】
上記の無段変速機において、転がり接触をする部位としては、各ディスク103,112の転動面103a,112a、パワーローラ内輪107の転動面107a、パワーローラ外輪106および内輪107のベアリング溝部106b,107b、ピボットシャフト105とパワーローラ内輪107の間に介装したラジアルニードル軸受109、および入力軸101と出力側ディスク112の間に介装したラジアルニードル軸受113などが挙げられる。また、とくに曲げ応力がかかる部位としては、パワーローラ外輪106の内周部F1や各ディスク103,112の小径部F2,F3などが挙げられる。
【0026】
そして、当該無段変速機では、上記の転がり接触をする部位の一部あるいは全部に被膜を形成しており、この被膜により、金属接触の低減や基材に対する水素の侵入が抑制され、各部位の転動疲労寿命が向上する。また、転がり接触する部位からの各部品への水素の侵入が抑制されることにより、部品全体としての鋼中含有水素量が低下するため、曲げ応力がかかる部位の水素濃度も低下し、各部品の曲げ疲労強度が向上する。なお、当然のことながら、図5に符号を付して説明した部位以外のベアリング類に被膜を形成することも可能である。
【0027】
本発明の請求項5に係わる無段変速機では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、高面圧を受ける部分としてディスクおよびパワーローラの少なくとも一方のトラクション面、すなわち図5に示す各ディスク103,112やパワーローラ内輪107の転動面103a,112a,107aの一部あるいは全部に、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成しているので、この被膜により、金属接触の低減や基材に対する水素の侵入が抑制され、トラクション面の転動疲労寿命が向上する。また、トラクション面からディスクやパワーローラへの水素の侵入が抑制されることにより、全体としての鋼中含有水素量が低下するため、曲げ応力がかかる部位の水素濃度も低下し、ディスクやパワーローラの曲げ疲労強度が向上する。
【0028】
本発明の請求項6に係わる無段変速機では、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、高面圧で且つ負荷回数が最大になる部分として少なくともパワーローラのベアリング溝部、すなわち図5に示すベアリング溝部106b,107bに、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成しているので、この被膜により、金属接触の低減や基材に対する水素の侵入の抑制が成され、被膜の優れた性能が持続的に得られると共に、ベアリング溝部の転動疲労寿命が向上する。また、ベアリング溝部から基材への水素の侵入が抑制されることにより、基材全体としての鋼中含有水素量が低下するため、曲げ応力がかかる部位の水素濃度も低下し、基材の曲げ疲労強度が向上する。
【0029】
本発明の請求項7に係わる無段変速機用転動体の製造方法では、転動体の転動面に、ストライクめっきまたは電気めっきを各々単独または両方、あるいはストライクめっきと無電解めっきを複合して施すことにより、ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成する。つまり、ニッケル(Ni)を主成分とするめっきを施すことで、基材に対する耐摩耗性が向上し、被膜の優れた性能が持続的に得られる。なお、ストライクめっきを単独、あるいは電気めっきまたは無電解めっきとの複合によりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を基材上に形成させた場合、基材に対する被膜の密着性がより向上し、優れた性能をより持続的に得ることができる。
【0030】
本発明の請求項8に係わる無段変速機用転動体の製造方法では、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)の低い電流密度の電流を用いる。これは、0.1×102A/m2(0.1A/dm2)よりも小さい電流密度では、生産性が不充分なものとなり、10×102A/m2(10A/dm2)よりも大きい電流密度では、生産性は上がるものの、形成しためっき被膜の表面粗さが粗くなる傾向にあり、品質を安定して確保することが困難になるからである。
【0031】
本発明の請求項9に係わる無段変速機用転動体の製造方法では、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜5×102A/m2(0.1〜5A/dm2)の低い電流密度の電流を用いる。これにより生産性の低下を最大限に抑制しつつ、形成しためっき被膜の表面粗さが向上するので、より安定した品質を確保できる。
【0032】
本発明の請求項10に係わる無段変速機用転動体の製造方法では、転動体に電気めっきによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成するに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)の電流密度の電流を用いる。これは、0.1×102A/m2(0.1A/dm2)よりも小さい電流密度では、生産性が不充分なものとなり、10×102A/m2(10A/dm2)よりも大きい電流密度では、生産性は上がるものの、形成しためっき被膜の表面粗さが粗くなる傾向にあり、品質を安定して確保することが困難になるからである。
【0033】
本発明の請求項11に係わる無段変速機用転動体の製造方法では、転動体にめっき処理を施した後、200℃以下の温度条件下でベーキング処理を行う。これにより、電気めっきあるいは無電解めっきの際に基材もしくは被膜内に侵入した水素、および浸炭焼入れあるいは浸炭窒化焼入れ等の熱処理の際に基材に侵入した水素が放出される。ここで、ベーキング処理時の温度を200℃よりも高くすると、ベーキングによる脱水素量は増加するものの、基材が高温保持により軟化したり、ショットピーニング等により圧縮残留応力を付与した部位の残留応力が低下したりする場合がある。したがって、ベーキング処理時の温度を200℃以下とすることにより、脱水素効果を確保しつつ基材の軟化や残留応力の低下を防止する。また、ベーキング処理は、真空炉にて行うのがより望ましく、これにより脱水素効果がさらに高められる。
【0034】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わる無段変速機用転動体によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体において、転動面に、ニッケル(Ni)を主成分とし且つ厚さが0.1〜20μmの被膜を形成したことにより、比較的簡単な表面処理でありながら、ミクロな金属接触を充分に低減させることができると共に、基材への水素の侵入を充分に抑制することができ、転動体の転動疲労寿命を大幅に向上させて、被膜の優れた性能を長期にわたって維持することができる。
【0035】
本発明の請求項2に係わる無段変速機用転動体によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体において、比較的簡単な表面処理でありながら、ミクロな金属接触を充分に低減させることができると共に、基材への水素の侵入を充分に抑制することができ、転動体の転動疲労寿命を大幅に向上させて、被膜の優れた性能を長期にわたって維持することができ、とくに、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得るための品質をより安定させることができ、生産性の向上も実現することができる。
【0036】
本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体において、比較的簡単な表面処理でありながら、ミクロな金属接触を充分に低減させることができると共に、基材への水素の侵入を充分に抑制することができ、転動体の転動疲労寿命を大幅に向上させて、被膜の優れた性能を長期にわたって維持することができ、とくに、水素侵入の抑制効果および金属接触の低減効果を得るための品質がより一層安定させることができ、生産性のさらなる向上を実現することができる。
【0037】
また、本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体によれば、被膜の表面粗さを規定したことにより、転動部での金属接触率の増加や表面損傷による表面起点型の転動疲労寿命の低下をより確実に防止することができる。
【0040】
さらに、本発明の請求項3に係わる無段変速機用転動体によれば、被膜の硬度を規定したことにより、被膜の耐摩耗性を維持しつつ被膜を比較的厚くした場合でも被膜の応力を抑制し、被膜の脆性的な割れや剥離を防止することができる。
【0042】
本発明の請求項4に係わる無段変速機によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、ディスクおよびパワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位に、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成したことにより、転がり接触をする各部位の転動疲労強度および曲げ疲労強度を大幅に向上させて、長期にわたって優れた性能を維持することができ、これにより無段変速機全体の耐久性能を著しく高めることができると共に、ユニットの大容量化や小型化も実現することができる。
【0043】
本発明の請求項5に係わる無段変速機によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、ディスクおよびパワーローラの少なくとも一方のトラクション面に、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成したことにより、高面圧を受けるトラクション面の転動疲労強度およびディスクやパワーローラの曲げ疲労強度を大幅に向上させて、長期にわたって優れた性能を維持することができ、これにより無段変速機全体の耐久性能を著しく高めることができると共に、ユニットの大容量化や小型化も実現することができる。
【0044】
本発明の請求項6に係わる無段変速機によれば、ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、少なくともパワーローラのベアリング溝部に、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を形成したことにより、高面圧で且つ負荷回数が最大となるベアリング溝部における転動疲労強度および曲げ疲労強度を大幅に向上させて、長期にわたって優れた性能を維持することができ、これにより無段変速機全体の耐久性能を著しく高めることができると共に、ユニットの大容量化や小型化も実現することができる。
【0045】
本発明の請求項7に係わる無段変速機用転動体の製造方法によれば、比較的簡単な表面処理を採用したうえで、ミクロな金属接触の低減や基材への水素の侵入を抑制して転動疲労寿命の大幅な向上を実現し得る転動体を得ることができ、とくに、ニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すことにより、基材に対する被膜の密着性および耐摩耗性を高めることができ、被膜の優れた性能を持続的に得ることができる。
【0046】
本発明の請求項8に係わる無段変速機用転動体の製造方法によれば、請求項7と同様の効果を得ることができるうえに、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施す際に、0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)の電流密度の電流を印加することで、生産性を高めることができると共に、被膜の表面粗さを適切なものにして安定した品質を確保することができる。
【0047】
本発明の請求項9に係わる無段変速機用転動体の製造方法によれば、請求項7と同様の効果を得ることができるうえに、転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施す際に、0.1×102〜5×102A/m2(0.1〜5A/dm2)のより低い電流密度の電流を印加することで、生産性の低下を最大限に抑制しつつ、被膜の表面粗さを適切なものにしてより安定した品質を確保することができる。
【0048】
本発明の請求項10に係わる無段変速機用転動体の製造方法によれば、請求項7〜9と同様の効果を得ることができるうえに、転動体に電気めっきによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成する際に、0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)の電流密度の電流を印加することで、請求項8、9と同様に、生産性を高めることができると共に、被膜の表面粗さを適切なものにして安定した品質を確保することができる。
【0049】
本発明の請求項11に係わる無段変速機用転動体の製造方法によれば、請求項7〜10と同様の効果を得ることができるうえに、転動体にめっき処理を施した後、200℃以下の温度条件下でベーキング処理を行うことにより、基材の軟化や残留応力の低下を防止しつつ充分な脱水素効果を得ることができ、品質のさらなる安定化を実現することができる。また、ベーキング処理を真空炉で行えば脱水素効果をより一層高めることができる。
【0050】
【実施例】
図1は、本発明に係わる無段変速機および無段変速機用転動体の一実施例を説明する図である。
【0051】
図1(a)に示すトロイダル式無段変速機は、入力軸1、押圧装置2、入力側ディスク3、一対のトラニオン4、出力側ディスク12および出力軸13等により構成されている。
【0052】
一対のトラニオン4には、それぞれピボットシャフト5が取付けてある。各ピボットシャフト5には、パワーローラ外輪6が固定してあると共に、ベアリングを構成する複数のボール8およびラジアルニードル軸受9を介してパワーローラ内輪7が軸回りに回転自在に取付けてある。パワーローラ内輪7は、潤滑油を介して各ディスク3,12の転動面3a,12aに接触している。
【0053】
上記の無段変速機は、入力軸1が回転すると、カム板2a、保持器2bおよびローラ2cから成る押圧装置2を介して入力側ディスク3が回転し、この入力側ディスク3の回転により、その転動面3aに対して転がり接触する一対のパワーローラ内輪7がそれぞれ回転し、これらパワーローラ内輪7と転動面12aにて接触する出力側ディスク12が回転し、この出力側ディスク12とともに出力軸13が回転する。
【0054】
そして、上記の如く入力軸1から出力軸13に回転伝達を行う間に、図中仮想線で示す回動軸10を中心にしてトラニオン4とともにパワーローラ内輪7を回動させ、各ディスク3,12に対するパワーローラ内輪7の接触位置を移動させることで変速比を無段階的に変化させる。
【0055】
上記の無段変速機において、転動体としては、各転動面3a,12aを有するディスク3,12、両ディスク3,12に接触する転動面を有するパワーローラ内輪7および外輪6が挙げられる。このとき、パワーローラ内輪7および外輪6では、ボール8と接触するベアリング溝部7a,6aも転動面である。
【0056】
そして、本発明に係わる無段変速機では、図1(b)に示すように、回転伝達時に高面圧が加わる部分として、少なくともパワーローラ内輪7および外輪6のベアリング溝部7a,6aにニッケル(Ni)を主成分とする被膜が形成してある。このとき、被膜は、厚さを0.1〜20μmとし、その表面粗さをRa0.1以下とし、被膜形成後の母材の表面粗さをRa0.1以下としている。また、被膜の硬度をHv300以上とし、さらに、被膜中に0.1〜12質量%のりん(P)を含有したものとなっている。
【0057】
すなわち、ベアリング溝部7a,6aに、ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成することで、ミクロな金属接触による新生面の生成を抑制すると共に、転動中のトライボケミカル反応等により生成された水素の基材への侵入を抑制して、転動疲労寿命を向上させるようにしており、この際、被膜の厚さを0.1〜20μmとすることで、金属接触の低減効果や基材に対する水素の侵入の抑制効果をより充分なものにし、また、比較的早期に被膜剥離が発生するような事態も防止している。
【0058】
さらに、ベアリング溝部7a,6aに形成した被膜および被膜形成後の母材は、その表面粗さをRa0.1以下とすることで、転動部での金属接触率の増加や、転動部の温度上昇に伴う素材の軟化や相手材を含めた表面損傷による表面起点型の転動疲労寿命の低下を防止することができる。そして、ベアリング溝部7a,6aに形成した被膜の硬度をHv300以上とすることで、充分な耐摩耗性を確保し、0.1〜12質量%のりん(P)を含有させることで、Ni3Pの析出硬化により耐摩耗性を充分に確保すると共に、被膜の靭性低下に伴う被膜の脆性的な割れや剥離の発生を防止して、優れた性能が持続的に得られるものとなっている。
【0059】
また、上記被膜は、ベアリング溝部7a,6aのほか、各ディスク3,12の転動面3a,12aやパワーローラ内輪7の転動面にも形成することが可能であり、その具体的な製造方法としては、転動体にストライクめっきまたは電気めっきを各々単独または両方、あるいはストライクめっきと無電解めっきを複合して施すことで、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成する。
【0060】
つまり、ニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すことで、基材に対する被膜の密着性および耐摩耗性が向上する。また、転動体にストライクめっきを施す際には、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の低い電流密度の電流を用いることが望ましく、さらに、転動体に電気めっきを施す際には、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電流を用いることが望ましく、これらの電流設定により、生産性が充分なものになると共に、形成しためっき被膜の表面粗さが適切なものとなって品質が安定する。
【0061】
さらに、めっき処理を施した後、200℃以下の温度条件下でベーキング処理を行うことで、基材の軟化や残留応力の低下を防止しつつ充分な脱水素効果を得ることができ、品質のさらなる安定化を実現できる。また、ベーキング処理を真空炉で行えば、脱水素効果をより一層高めることができる。
【0062】
次に、本発明に係わる無段変速機用転動体に関し、いくつかの実施例および比較例を説明する。
【0063】
後記する各実施例および比較例のいずれの試料も図1(b)に示すパワーローラ内輪7および外輪6である。これらの試料は、表1に示す組成すなわちC:0.2質量%、Si:0.25質量%、Mn:0.8質量%、Cr:1.1質量%、Mo:0.15質量%、P:0.015質量%、S:0.009質量%を含有する鉄鋼製素材を鍛造成形したのち粗加工し、図2に示す熱処理条件すなわち950℃で10〜20時間加熱し、850℃で1時間保温し、60℃の油中で冷却し、その後、840℃で1時間加熱し、60℃の油中で冷却し、170℃で2時間保温する工程により浸炭窒化処理を行った。
【0064】
【表1】
【0065】
そして、パワーローラ内輪7および外輪6のベアリング溝部7a,6aに研削超仕上げを行い、仕上げ加工後のパワーローラ内輪7および外輪6に、下記のめっき条件によりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成した。なお、完成後のベアリング溝部7a,6aの母材部分は、表面粗さRaが0.02〜0.10程度になり、表面硬さHvが700〜720程度になるようにした。
【0066】
(めっき浴の組成A〜C)
A ストライクめっき浴(Ni系)
塩化ニッケル 200g/L
塩酸 80g/L
ほう酸 30g/L
pH 1以下
めっき浴温度 50〜55℃
電流密度 0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)
B 電気めっき浴(Ni系)
60%スルファミン酸ニッケル 800g/L
塩化ニッケル 15g/L
ほう酸 45g/L
サッカリンソーダ 5g/L
50%次亜リン酸 0g/L,0.6g/L,1g/L
pH 4〜5
めっき浴温度 55〜60℃
電流密度 0.1×102〜10×102A/m2(0.1〜10A/dm2)
C 無電解めっき浴(Ni系)
塩化ニッケル 16g/L
次亜リン酸ナトリウム 24g/L,35g/L
コハク酸ナトリウム 16g/L
リンゴ酸 18g/L
ジエチルアミン 10g/L
pH 5〜6
めっき浴温度 90〜95℃
【0067】
また、各測定値の測定方法は以下の通りである。
被膜の厚さは、転動体の転動面に形成した被膜の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより測定した。
【0068】
被膜の表面粗さRaは、触針式表面粗さ測定装置を用い、カットオフ0.08mmで測定した。なお測定装置は、JISB0651(触針式表面粗さ測定器)に準処するものである。
【0069】
被膜を形成した後の母材の表面粗さRaは、軸受転動疲労試験装置を用いたベアリング溝部の転動疲労寿命試験実施後の供試材をめっき被膜剥離液(シアン系めっき被膜剥離液/商品名;キザイ(株)製リップマスター#1219)に浸漬し、めっき被膜のみを完全に化学的に除去後、ベアリング溝部の非転動部分に対して触針式表面粗さ測定装置を用いてカットオフ0.08mmで測定した。なお測定装置はJIS−B−0651(触針式表面粗さ測定器)に準拠するものである。
【0070】
作製した転動体の被膜硬度は、被膜が薄いためにその断面方向から市販のマイクロビッカース硬度計を用いて測定することが難しい場合(とくに被膜の厚さが10μm以下の場合)があるので、ニッケル(Ni)を主成分とする被膜を電気めっきあるいは無電解めっきにより形成する際に、その処理時間だけを規定よりも長くし、その他は同一条件とし、ニッケルを主成分とする被膜の厚さが30μm程度になるようにしたものを供試材として測定を行った。
【0071】
すなわち、被膜の硬度測定は、ニッケルを主成分とする被膜の厚さが30μm程度になるように作製した転動体を供試材とし、供試材をマイクロカッターで切断して樹脂に埋め込み、断面を研磨加工した後、被膜の断面方向から市販のマイクロビッカース硬度計を用いて、試験荷重0.49N(0.05kgf)を負荷して行った。なお、マイクロビッカース硬度計は、JISB7725(ビッカース硬さ試験−試験機の検証)に準処するものである。また、上記試験を実施するうえでは、JISZ2244(ビッカース硬さ試験−試験の検証)を基礎とするが、供試材の形状を考慮して上記方法にて測定した。
【0072】
被膜中のりん(P)の含有量は、蛍光X線分析装置を用いて測定した。すなわち、りんの含有量が既知で且つ含有量が異なる複数個のサンプルを測定し、この際の強度により強度−含有量の検量線を作成した。そして、本発明の転動体を適当なサイズに切断し、サンプルと同様の条件で測定し、その測定強度を前述の検量線に基づいてりんの含有量に換算した。
【0073】
(実施例1〜7,11,17,18)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、電気めっきにより被膜を形成する際に、実施例5では、50%次亜リン酸を0.6g/L添加した浴を、実施例6では、50%次亜リン酸を1g/L添加した浴を、実施例1〜4,7,11,17,18では、50%次亜リン酸を添加しない浴を使用した。
【0074】
(実施例8〜10)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、無電解めっき浴Cを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、無電解めっきにより被膜を形成する際に、実施例8および9では、次亜リン酸ナトリウムを24g/L添加した浴を、実施例10では、次亜リン酸ナトリウムを35g/L添加した浴を使用した。
【0075】
(実施例12)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施さず、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を直接形成した。
【0076】
(実施例13)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、無電解めっき浴Cを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、無電解めっきにより被膜を形成する際に、次亜リン酸ナトリウムを46g/L添加した浴を使用した。
【0077】
(実施例14)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、この実施例14では、被膜を形成する際に印加する電流密度を7×102A/m2とした。得られた表面粗さRaは0.12であった。
【0078】
(実施例15)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、この実施例15では、被膜を形成する際に印加する電流密度を15×102A/m2とした。得られた表面粗さRaは0.12であった。
【0079】
(実施例16)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。このめっき処理の後に、ベーキング処理として、真空炉にて130℃で20時間保持をした。
【0080】
(実施例19)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、次亜リン酸ナトリウム24g/Lを添加した無電解めっき浴Cを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。このめっき処理の後に、ベーキング処理として、真空炉にて130℃で20時間保持をした。
【0081】
(実施例20〜22)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっき被膜のみを施した。
【0082】
なお、上記各実施例1〜22におけるストライクめっきや電気めっきの際に印加する電流の電流密度の値、各条件により形成された被膜の特性値(厚さ、表面粗さ、硬度,りんの含有量、および被膜形成後の母材表面粗さ)を後の表2に示す。
【0083】
(比較例1,2)
めっき処理を施さず且つ表面粗さの異なる2種類のパワーローラ内輪および外輪とした。
【0084】
(比較例3)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、ストライクめっき浴Aを使用してニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施したのち、電気めっき浴Bを使用してニッケルを主成分とする被膜を形成した。なお、この比較例3では、被膜を形成する際に印加する電流密度を7×102A/m2としたが、処理時間が長いことから被膜の厚さが24μmとなり、実施例に比べて被膜が厚いものとなった。
【0085】
(比較例4)
パワーローラ内輪および外輪のベアリング溝部に、苛性ソーダ水溶液への浸漬を行う黒染め処理により酸化鉄の被膜を形成した。
【0086】
上記の各実施例1〜22および比較例1〜4において作成した各試料(パワーローラ内輪および外輪)に対し、軸受転動疲労試験装置を用いてベアリング溝部の転動疲労寿命試験を行った。図3に示す軸受転動疲労試験装置は、筐体20内において、プレート21により外輪6の下面を保持すると共に、パワーローラ内輪7の上面に回転軸22を所定の加圧力で当接させ、プレート21を通してパワーローラ内輪7の内側に潤滑油を供給しながら、回転軸22とともにパワーローラ内輪7を回転させる構造になっている。
【0087】
当該試験では、潤滑油としてトラクションオイルを3L/mで供給し、この強制潤滑下において、ベアリング溝部7a,6aにおける最大接触面圧が3.4GPaとなるように回転軸22による加圧力を設定した。また、転動疲労寿命の値は、振動センサを用い、パワーローラ内輪7または外輪6のベアリング溝部7a,6aがフレーキングに至るまでの時間とした。上記の試験結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
また、図4(a),(b)には剥離部近傍における転がり方向断面の組織写真を示す。図4(a),(b)には、形態の異なる白色組織が見られるが、本実験条件ではすべての剥離品の剥離部近傍に図4(a)に示すAタイプまたは図4(b)に示すBタイプの組織変化が観察された。Aタイプは、比較的長寿命の試料に観察された。一方、Bタイプは、比較的短寿命の試料に観察された。
【0090】
表3は、組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示すものである。なお、測定は、昇温脱離ガス分析装置(日本真空技術(株)UPM-ST-200R型)を用い、加熱温度400℃以下にて放出された水素量を拡散性水素量とした。表3より、短寿命でフレーキングを生じたBタイプの場合、Aタイプに比べて、水素侵入量が多いことがわかる。Bタイプは、侵入水素が起因となった水素脆性的な剥離形態であると言える。つまり、侵入水素を抑制することにより、組織変化形態がBタイプからAタイプにシフトして長寿命化することが考えられる。
【0091】
【表3】
【0092】
表2から明らかなように、本発明の各実施例1〜22では、被膜の厚さ、被膜の表面粗さ、被膜の硬度、被膜中のりん(P)の含有量、あるいはめっきの際に印加する電流の電流密度を各々設定すること、また、めっき処理後にベーキング処理を施すことにより、転動疲労寿命試験の結果、本発明に基づく実施例は、図4(b)に示すBタイプの組織変化形態を呈しており、比較例に対して、大幅に転動疲労寿命が向上していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる無段変速機用転動体を用いたトロイダル式無段変速機を説明する断面図(a)およびパワーローラにおける被膜形成部位を示す片側省略の断面図(b)である。
【図2】実施例1〜22および比較例1〜4における試料に対する熱処理工程を示す説明図である。
【図3】軸受転動疲労試験装置の概略断面図である。
【図4】剥離部近傍に観察された組織変化形態を示す組織写真である。
【図5】無段変速機において転がり接触をする部位および曲げ応力がかかる部位を説明する断面図である。
【符号の説明】
3 103 入力側ディスク(転動体)
6 106 パワーローラ外輪(転動体)
6a 106b ベアリング溝部
7 107 パワーローラ内輪(転動体)
7a 107b ベアリング溝部
12 112 出力側ディスク(転動体)
Claims (11)
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.1〜20μmとしたことを特徴とする無段変速機用転動体。
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さを0.3〜15μmとしたことを特徴とする無段変速機用転動体。
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機に用いる転動体であって、転動面にニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成すると共に、被膜の厚さが0.3〜15μm、被膜の表面粗さがRa0.04〜0.08、被膜の硬度がHv310〜685であって、被膜形成手段が、ストライクめっき、ストライクめっきと電気めっきの両方、及びストライクめっきと無電解めっきの両方のうちのいずれか1つの手段であることを特徴とする無段変速機用転動体。
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワーローラの少なくとも一方の転がり接触をする部位に形成したことを特徴とする無段変速機。
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜をディスクおよびパワーローラの少なくとも一方のトラクション面に形成したことを特徴とする無段変速機。
- ディスクに潤滑油を介してパワーローラを接触させた構成を有する無段変速機において、請求項1〜3のいずれかに記載の被膜を少なくともパワーローラのベアリング溝部に形成したことを特徴とする無段変速機。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機用転動体を製造するに際し、転動体の転動面に、ストライクめっきまたは電気めっきを各々単独または両方、あるいはストライクめっきと無電解めっきを複合して施すことによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成することを特徴とする無段変速機用転動体の製造方法。
- 転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電流を用いることを特徴とする請求項7に記載の無段変速機用転動体の製造方法。
- 転動体にニッケル(Ni)を主成分とするストライクめっきを施すに際し、印加する電流として0.1×102〜5×102A/m2の電流密度の電流を用いることを特徴とする請求項7に記載の無段変速機用転動体の製造方法。
- 転動体に電気めっきによりニッケル(Ni)を主成分とする被膜を形成するに際し、印加する電流として0.1×102〜10×102A/m2の電流密度の電流を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の無段変速機用転動体の製造方法。
- 転動体にめっき処理を施した後、200℃以下の温度でベーキング処理を行うことを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の無段変速機用転動体の製造方法。
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