JP3596674B2 - 耐高面圧部材およびその製造方法 - Google Patents

耐高面圧部材およびその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受、あるいはトロイダル式無段変速機に使用される転動体などの耐高面圧部材およびその製造方法に係わり、高面圧部材の転動疲労強度の向上、特に転動中のオイル分解などにより発生した水素が鋼中に侵入することによる水素脆性的な短寿命剥離の抑制技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トロイダル式無段変速機は、図1にその基本構造を示すように、図外のハウジング内に、入力ディスク3および出力ディスク12を備え、これらが同軸上に相対向して設置されている。そして入力ディスク3には、カム板2a,保持器2bおよびローラ2cからなる押圧装置2を介して入力軸1が連結されていると共に、出力ディスク12には出力軸13が固定されている。
【0003】
入力ディスク3および出力ディスク12は、略同一形状をなしてそれぞれ対称に配置され、それらの対向面が軸方向断面でみて略半円となるようにトロイダル面に形成されている。そして、入力ディスク3および出力ディスク12の両トロイダル面により形成されるトロイダルキャビティ内には、入力ディスク3および出力ディスク12に接触する一対のパワーローラ(内輪)7,7が配設されている。
【0004】
各パワーローラ内輪7は、それぞれトラニオン4に支持された外輪6に玉軸受8を介して圧接された状態で、同じくトラニオン4に取付けられた枢軸5にニードルベアリング9を介して回転自在に枢着されると共に、入力ディスク3および出力ディスク12によって形成される反円形断面をなすトロイダル面の中心となるピボット軸10を中心として、傾動自在に支持されている。
【0005】
そして、入力ディスク3および出力ディスク12とパワーローラ内輪7,7との接触面には、粘性摩擦抵抗の大きい潤滑油(トラクションオイル)が供給され、入力ディスク3に入力される動力を潤滑油膜およびパワーローラ内輪7,7を介して出力ディスク12に伝達するようになっている。
【0006】
このように構成されたトロイダル式無段変速機においては、入力軸1が回転すると、その動力がカム板2a,保持器2b,ローラ2cからなる押圧装置2を介して入力ディスク3に伝達されて入力ディスク3が回転する。この入力ディスク3の回転により発生した動力がパワーローラ7,7を介して出力ディスク12に伝達され、出力ディスク12が出力軸13と共に一体回転する。
【0007】
変速時には、図中に矢印で示すように、ピボット軸10を中心としてトラニオン4,4を所定角度回動させ、パワーローラ7,7の傾きを変化させる。これによってパワーローラ7,7が入力ディスク3および出力ディスク12のトロイダル曲面3a,12a上を傾転し、その結果、入力ディスク3および出力ディスク12のパワーローラ7,7との接触位置(半径)が変化し、速度比が変わることによって、無段階の減速あるいは増速が行われる。
【0008】
このようなトロイダル式無段変速機に使用される転動体として、炭素鋼に研削仕上げ加工を施したものが、例えば特開平7−71555号公報、特開平10−184836号公報などに開示されている。また、特開2000−291757号公報には、パワーローラベアリング溝部にショットピーニングによって圧縮残留応力を付与することが記載されている。
【0009】
しかし、これらの転動体では、転動中におけるオイル分解などにより発生した水素が鋼中に侵入することによって生じる水素脆性的な短寿命剥離を効果的に防止することはできず、このような水素の侵入を抑制する目的の軸受として、グリース封入軸受に、黒染め処理によって転動面に四三酸化鉄を形成させたものが特開平2−190615号公報に記載されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
図1に示したトロイダル式無段変速機においては、ディスクとパワーローラがトラクションドライブをすることによって動力を伝達するようにしており、当該無段変速機を駆動した場合、ディスク−パワーローラ間に高い押し付け荷重が加わるため、図2に拡大して示すように、例えばベアリング溝部7a,6aには、最大接触面圧が3GPa以上にも達する高い接触圧力を生じる。このような高面圧下では、ヘルツ接触により内部に発生するせん断応力がピークとなる深さ近傍位置で、介在物あるいは転動疲労による内部組織変化を起点とする転走面剥離に至ることがあり、寿命低下を招く場合がある。
【0011】
また、例えばベアリング溝部7a,6aにおいては、このような高面圧に加えて、通常の転がり軸受とは異なり、トラクション力やラジアル方向荷重が負荷されながら転動するため、ミクロ的な金属接触を生じたり、転がり摩擦抵抗が増したりすることにより表面接線力が増大し、表層が起点となる剥離を生じ、結果として、転動疲労寿命の低下を招く場合がある。
【0012】
また、グリース潤滑軸受を例にとると、ミクロな金属接触によって転走面に形成された新生面が触媒的な作用をして、グリース−転走表面間でのトライボケミカル的な反応を促進し、化学分解により生成した水素が鋼中に侵入することによって転動疲労剥離寿命が低下する場合がある。この対策としては、前述のような黒染め処理(130〜160℃の苛性ソーダ水溶液に浸漬)が報告されているが、このような苛性ソーダ処理は作業環境が劣悪であり、工業的に好ましくない。また、黒染め処理により形成された表面の四三酸化鉄皮膜は、高温・高面圧の過酷な条件下では皮膜の残存性が不十分であり、十分な水素侵入抑制効果が発揮できない場合がある。
【0013】
したがって、転がり軸受の転動疲労強度向上、トロイダル式無段変速機などの無段変速機の大容量化あるいは小型化には、転動面表層の圧縮残留応力を増加させ、亀裂伝播抵抗向上などによって転動体の表層部の転動疲労強度を向上し、かつ比較的簡便な表面処理などによって新生面生成を抑制、あるいは水素が透過しがたい保護皮膜を形成し、鋼への水素侵入を低減することによって転動体の転動疲労寿命を向上させることが課題として要求されていた。
【0014】
【発明の目的】
本発明は、転がり軸受やトロイダル式無段変速機用転動体など、従来の耐高面圧部材における上記課題に着目してなされたものであって、表層部に高い圧縮残留応力を有し、水素の侵入による水素脆性的な早期剥離を防止することができ、優れた転動疲労強度を備えた耐高面圧部材と、このような耐高面圧部材の製造方法を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係わる耐高面圧部材は、機械構造用鋼からなり、すべりを伴うことなく、あるいはすべりを伴って転がり接触する転動部を備えた耐高面圧部材において、前記転動部における表面圧縮残留応力が700MPa以上である共に、転動部表層にNiを含む合金皮膜が平均膜厚0.2μm以上20μm以下に形成されている構成としたことを特徴としており、耐高面圧部材におけるこのような構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0016】
本発明に係わる耐高面圧部材の好適な形態として、請求項2に係わる耐高面圧部材においては、前記表面圧縮残留応力が800MPa以上、前記合金皮膜の平均膜厚が0.2〜5μmである構成とし、同じく好適な実施形態として、請求項3に係わる耐高面圧部材においては、質量比で、C:0.15〜1.2%、Cr:0.8〜2.5%、Mo:0.15〜1.5%、Si:0.05〜1.5%を含む機械構造用鋼からなる構成とし、請求項4に係わる耐高面圧部材においては、合金皮膜のNi含有量が質量比で65〜85%である構成としたことを特徴としている。
【0017】
本発明の請求項5に係わる耐高面圧部材の製造方法は、上記耐高面圧部材を製造するのに適したものであって、機械構造用鋼からなる基材の転動面に、Niを含む合金粉末からなる投射材を投射して合金皮膜を形成する構成としており、耐高面圧部材の製造方法におけるこのような構成を前述した従来の課題を解決するための手段としたことを特徴としている。
【0018】
本発明に係わる耐高面圧部材の製造方法の好適な形態として、請求項6に係わる製造方法においては、上記投射材のNi含有量を質量比で65〜85%とすることができ、請求項7に係わる製造方法においては、上記投射材の平均粒径を0.1mm以下とすることができ、請求項8に係わる製造方法においては、合金皮膜形成処理前の基材転動面の面粗度をRa0.05以上とすることができる。また、同じく好適な実施形態として、請求項9に係わる耐高面圧部材の製造方法においては、合金皮膜形成処理前に、基材表面より硬い粉末を基材表面に投射する表面活性化処理を施すことができ、請求項10に係わる製造方法においては、質量比で、C:0.15〜1.2%、Cr:0.8〜2.5%、Mo:0.15〜1.5%、Si:0.05〜1.5%を含む機械構造用鋼に浸炭または浸炭窒化処理を施した基材を用いることができる。
【0019】
そして、本発明の請求項11および12に係わる耐高面圧部材は、本発明に係わる耐高面圧部材の上記構成を転がり軸受およびトロイダル式無段変速機用の転動体にそれぞれ適用したことを特徴としている。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる耐高面圧部材においては、すべりを伴うことなく転がり接触する、あるいはすべりを伴いながら転がり接触する部材の転動部における表面圧縮残留応力が700MPa以上であることから、表面接線力増大などによる表面起点剥離の亀裂発生が抑制され、かつ内部のせん断応力により内部起点の亀裂の表層への伝播が抑制され、転動疲労寿命が向上することになる。そして、転動部表層には、平均膜厚0.2μm以上20μm以下のNiを含む合金皮膜が形成されているので、転動中のオイル分解などによって発生した水素が鋼中に侵入するのが抑制され、水素に基づく早期剥離が防止され、転動疲労寿命が向上することになる。
【0021】
このとき、表面圧縮残留応力が700MPaに満たないと、表面起点亀裂の発生および内部起点亀裂の伝播を抑制する効果が低下することになる。また、合金皮膜の膜厚が0.2μm未満であると、その効果が十分に発揮されず、膜厚が20μmを上回ると、膜厚の増加にしたがって増大する皮膜内の応力が大きくなり過ぎてしまい、その結果として比較的早期に皮膜剥離を生じ、耐フレーキング性の向上、つまりは転動疲労寿命向上への寄与が減少することになる。さらに好ましくは、表面圧縮残留応力が800MPa以上、合金皮膜の厚さが0.2〜5μmであることで、より一層の性能向上が図れることとなる。
【0022】
上記合金皮膜は、Niを含む合金粉末を投射材として、転動面に投射して形成することが望ましい。このような投射を行なうことにより、転動面に圧縮残留応力が付与されると共に、転動中の皮膜残存性が向上する。なお、合金皮膜の形成処理は、上記投射の他に、電解めっき、あるいは無電解めっきによって形成しても差し支えないが、めっき工程を追加することによるコスト増を招くので、上記投射による方法が好ましいと言える。
【0023】
合金皮膜を形成するための投射材のNi含有量については、65〜85%(質量比)の範囲であることが好ましい。Ni含有量が65%を下回ると、水素の侵入抑制効果が十分に得難くなり、逆に85%を上回ると、皮膜形成性が低下して皮膜の形成が困難になる傾向がある。
【0024】
さらに、投射材の大きさについては、処理時の皮膜形成能および転動中における皮膜の残存性が向上することから、その平均粒径が0.1mm以下であることが望ましい。
【0025】
また、Niを含む合金皮膜を形成する処理を行なう前の転動面については、その面粗度がRa0.05(μm)以上であることが望ましい。Niを含む合金皮膜の形成処理前の転動面粗度がRa0.05以上であると、皮膜形成処理時の皮膜形成能および転動中の皮膜残存性が向上する。なお、合金皮膜は、Niを含む合金粉末投射材の投射のみならず、例えば、前述のように電解めっきや無電解めっきによって形成されていても構わない。ただし、皮膜形成処理前の面粗度が、例えばRa0.2を超えるような粗さの場合には、粉末投射による皮膜形成性は良いものの、転動部での金属接触率が増加し、転動部の温度上昇による素材の軟化や、相手材をも含めた表面損傷による表面起点型の剥離によって転動疲労寿命が低下する傾向があるので好ましくない。
【0026】
さらにまた、Niを含む合金皮膜を形成する処理を行なう前に、基材表面にこれよい硬い粉末を投射し、当該表面を活性化する処理を施すことが望ましい。
【0027】
基材表面よりも硬い粉末を投射することにより、表面に無数のミクロなディンプル(窪み)が形成され、皮膜形成処理時の皮膜形成能および転動中の皮膜残存性が向上する。また、ピーニング効果によって表面に高い圧縮残留応力が付与され、表面の亀裂伝播抵抗が向上することになる。さらに、硬い粉末を打ち付けることによって基材表面の酸化膜を除去することができ、処理表面が活性化され、皮膜の密着性、皮膜形成能が向上する。基材表面よりも軟らかい粉末を投射しても、このような効果を十分に得ることができない。
【0028】
また、当該耐高面圧部材の基材としては、強度、焼戻し軟化抵抗、焼入れ性、加工性などの観点から、C:0.15〜1.2%、Cr:0.8〜2.5%、Mo:0.15〜1.5%、Si:0.05〜1.5%(質量比)を含む機械構造用鋼に浸炭または浸炭窒化処理を施した基材を用いることが好ましい。この範囲の元素を含むことによって、必要な強度が確保され、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗が向上し、加工性が確保されると共に、焼入れ時に芯部にフェライトが生成することを抑制して強度を確保することができる。
【0029】
そして、このような耐高面圧部材を転がり接触、あるいはすべりを伴いながら転がり接触をする転がり軸受、あるいはディスク、パワーローラなどの転動体としてトロイダル式無段変速機に適用することにより、水素脆性剥離を抑制し、しかも表面の亀裂伝播抵抗の高い長寿命軸受、あるいは大容量のトロイダル式無段変速機が実現する。
【0030】
【実施例】
以下に、本発明に係わる耐高面圧部材に関し、いくつかの実施例を挙げて、その有用性を比較例と対比して示す。
【0031】
この実施例および比較例においては、耐高面圧部材として、図2に示すようなトロイダル式無段変速機用転動体であるパワーローラ内輪7および外輪6を製造し、ベアリング溝部7aおよび6aの転動疲労寿命を後述する試験によって評価した。
【0032】
まず、表1に示す化学組成を有する機械構造用鋼を用いて鍛造および粗加工を行なった後、図3に示す条件にて浸炭窒化焼入れ、焼戻し処理を行なって、基材とした。次いで、当該基材の転がり接触をする部位に、研削または研削超仕上げを施した。なお、このとき熱処理後におけるベアリング溝部6a,7aの表面硬さがHv700〜720程度となるように配慮した。
【0033】
【表1】
Figure 0003596674
【0034】
次に、転がり接触をする部位、つまりはベアリング溝部6a,7aに、比較例に属する一部の試料を除いて、以下に示す種々の表面処理を選択して施した。
【0035】
(1) 前処理工程(粉末A投射)
・ 投射材:DEX20(ハイス鋼)
・ 投射材平均粒径:約60μm
・ 投射圧:2〜5kg/cm
・ 投射時間:20〜50sec
・ ノズル位置:ワークに対して90°方向、距離100mm
【0036】
(2) 前処理工程(ショットピーニング)
・ 投射材:スチールビーズ(Hv720〜750)
・ 投射材平均粒径:約600μm
・ 投射圧:4kg/cm
・ 投射時間:50sec
・ ノズル位置:ワークに対して45°方向、距離150mm
【0037】
(3)皮膜形成工程(粉末B1,B2投射)
・ 投射材:Ni−Cr合金粉(ガスアトマイズ粉)、組成は表2参照
Figure 0003596674
・ 投射圧:3〜5kg/cm
・ 投射時間:60〜120sec
・ ノズル位置:ワークに対して45°方向、距離100mm
【0038】
【表2】
Figure 0003596674
【0039】
(4)皮膜形成工程(Niめっき、Ni−Pめっき)
電気めっき法により実施した。
【0040】
(5)酸化鉄処理
酸化鉄皮膜の形成は、黒染め処理法によって行い、低温加熱(130〜160℃)の苛性ソーダ水溶液中に基材を浸漬して四三酸化鉄皮膜を形成させた。このときの酸化鉄皮膜厚さは、予備試験結果に基づいて処理時間との関係によって求められ、ここでは処理時間を5分として、酸化鉄皮膜は1.5μmであった。
【0041】
表3に、本発明の実施例および比較例に係わる各転動体(パワーローラ)における試験前のベアリング溝部表面の特性値を製造工程の一覧と共に示す。なお、当該実施例および比較例に係わる転動体の各種測定値は、下記の方法によるものである。
[表面粗さ測定方法]
上記方法によって作成した転動体のベアリング溝部6a,7aの表面粗さを市販の触針式表面粗さ測定装置(JIS B 0651)を用い、カットオフ値0.08mmで測定を行なった。
[皮膜厚測定方法]
作成した転動体の皮膜形成部の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察により数箇所定量し、その平均値をもって平均膜厚とした。
[残留応力測定方法]
作成した転動体のベアリング溝部6a,7aの残留応力を理学電気製微小部X線応力測定装置を用いて、下記の条件のもとでX線残留応力測定法により測定した。表面残留応力は、ベアリング溝部表面を電解研磨し、深さ10μm位置で測定した値を用いた。なお、皮膜が形成されているものは、皮膜を磨き落とした後に電解研磨を施した。
・ 特性X線:Cr−Kα線
・ コリメータ径:1mmφ
・ 応力定数:−318MPa/deg
・ 測定モード:並傾法
・ 研磨方法:電解研磨
【0042】
【表3】
Figure 0003596674
【0043】
そして、前述のようにして作成された各転動体(パワーローラ)試料を用いて、図4に示すような軸受転動疲労試験機によってベアリング溝部の転動疲労寿命を評価した。なお、特殊なトラクション油を用いて、3L/minの強制潤滑下で、最大接触面圧が3.5GPaとなるように試験条件を設定した。また、転動疲労寿命については、振動センサーを使用して、パワーのローラー内輪7または外輪6のベアリング溝部7a,6aがフレーキングに至るまでの試験時間をもって疲労寿命とした。これらの結果を表3に併せて示す。
【0044】
また、図5(a)および(b)に、剥離部近傍の転がり方向断面の組織写真を示す。これら断面組織には、形態の異なる白色組織が観察されるが、上記の試験条件では全ての試料の剥離部近傍に図5(a)に示すようなAタイプ、または図5(b)に示すようなBタイプの組織変化が観察された。ここで、Aタイプの組織変化は、表3の試験結果欄に併せて示すように、比較的長寿命の転動体試料に観察される一方、Bタイプの組織変化は比較的短寿命の試料に観察されることが判明した。
【0045】
表4は、未試験品と転動試験後の組織変化形態の異なる試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示すものである。なお、測定には昇温脱離ガス分析装置(日本真空技術(株)製UPM−ST−200R型)を用い、加熱温度600℃以下にて放出された水素量を拡散性水素量とした。
【0046】
【表4】
Figure 0003596674
【0047】
表4の結果から、短寿命でフレーキングを生じたBタイプの場合、Aタイプに比べて水素侵入量が多いことがわかる。このことからBタイプは侵入水素に起因する水素脆性的な剥離形態であると言うことができる。つまりは、侵入水素を抑制することによって組織変化形態がBタイプからAタイプにシフトし、長寿命化するものと考えられる。
【0048】
表3から明らかなように、本発明に係わる耐高面圧部材においては、転動疲労寿命試験の結果、Aタイプの組織変化形態を呈しており、比較例に対して転動疲労寿命が大幅に向上していることが確認された。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係わる耐高面圧部材は、転動部における表面圧縮残留応力が700MPa以上であるから、表面起点剥離の亀裂発生を抑制することができ、しかも内部せん断応力によって内部起点亀裂の表層への伝播を抑制することができる。そして、転動部表層には、平均膜厚0.2μm以上20μm以下のNiを含む合金皮膜が形成されていることから、転動中のオイル分解などによって発生した水素の鋼中への侵入が抑制され、水素に基づく早期剥離を防止することができ、転動疲労寿命を大幅に向上させることができるという極めて優れた効果をもたらすものである。
【0050】
また、本発明に係わる耐高面圧部材の製造方法においては、機械構造用鋼からなる基材の転動面に、Niを含む合金粉末からなる投射材を投射して合金皮膜を形成するようにしていることから、転動面に圧縮残留応力を付与することができると共に、皮膜残存性に優れた合金皮膜を形成することができ、転動疲労寿命に優れた本発明に係わる耐高面圧部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる耐高面圧部材の用途としてトロイダル式無段変速機の基本構造および変速原理を示す断面図である。
【図2】図1に示したトロイダル式無段変速機におけるパワーローラ内外輪の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施例および比較例においてパワーローラ素材に施した熱処理条件を示す図である。
【図4】本発明の実施例および比較例において転動疲労強度の評価に用いた軸受転動疲労試験機の構造を示す断面図である。
【図5】(a)および(b)は本発明の実施例および比較例において剥離部近傍に観察された組織変化形態を示す組織写真である。
【符号の説明】
6 パワーローラ外輪(耐高面圧部材)
6a ベアリング溝(転動部)
7 パワーローラ内輪(耐高面圧部材)
7a ベアリング溝(転動部)

Claims (12)

  1. 機械構造用鋼からなり、すべりを伴うことなく、あるいはすべりを伴って転がり接触する転動部を備えた耐高面圧部材において、前記転動部における表面圧縮残留応力が700MPa以上である共に、転動部表層にNiを含む合金皮膜が平均膜厚0.2μm以上20μm以下に形成されていることを特徴とする耐高面圧部材。
  2. 前記表面圧縮残留応力が800MPa以上、前記合金皮膜の平均膜厚が0.2〜5μmであることを特徴とする請求項1記載の耐高面圧部材。
  3. 質量比で、C:0.15〜1.2%、Cr:0.8〜2.5%、Mo:0.15〜1.5%、Si:0.05〜1.5%を含む機械構造用鋼からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐高面圧部材。
  4. 合金皮膜のNi含有量が質量比で65〜85%であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐高面圧部材。
  5. 機械構造用鋼からなる基材の転動面に、Niを含む合金粉末からなる投射材を投射して合金皮膜を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐高面圧部材の製造方法。
  6. 上記投射材のNi含有量が質量比で65〜85%であることを特徴とする請求項5記載の耐高面圧部材の製造方法。
  7. 上記投射材の平均粒径が0.1mm以下であることを特徴とする請求項5または請求項6記載の耐高面圧部材の製造方法。
  8. 合金皮膜形成処理前の基材転動面の面粗度がRa0.05以上であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の耐高面圧部材の製造方法。
  9. 合金皮膜形成処理前に、基材表面より硬い粉末を基材表面に投射する表面活性化処理を施すことを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の耐高面圧部材の製造方法。
  10. 質量比で、C:0.15〜1.2%、Cr:0.8〜2.5%、Mo:0.15〜1.5%、Si:0.05〜1.5%を含む機械構造用鋼に浸炭または浸炭窒化処理を施した基材を用いることを特徴とする請求項3ないし請求項9のいずれかに記載の耐高面圧部材の製造方法。
  11. 転がり軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐高面圧部材。
  12. トロイダル式無段変速機用の転動体であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐高面圧部材。
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