JP4487340B2 - 転がり軸受用保持器の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般産業機械,自動車用エンジン,工作機械,鉄鋼機械等に使用される転がり軸受用保持器の製造方法に係り、特に鋼製のプレス保持器の機能改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、一部の転がり軸受用保持器には、冷延鋼板SPCC,SPCE材に純窒化(NH3 ガス窒化) やガス軟窒化, タフトライド, イオン窒化等の軟窒化を施したプレス保持器が用いられている。
保持器に窒化処理を施すと、母材より硬化したHv350〜600程度の表面硬さが得られて優れた耐摩耗特性を示すようになる。また、表面に生成される窒素化合物が耐高温軟化特性を有することで、保持器と外輪や内輪の転動面もしくは転動体との間に凝着や溶着が起こりにくくなり、耐焼き付き性も良好となる。また、その窒化化合物の化学的特性は非常に安定で不活性なため、腐食環境下において優れた耐食性を示す。その上、窒化はA1変態点(723℃)以下の低い温度(400〜600℃)で処理を行うため、熱処理ひずみが非常に小さく、とくに保持器のように肉薄で変形の生じやすい部品の場合には十分な効果を発揮するようになる。
【0003】
しかしながら、近年、転がり軸受の使用条件が厳しくなっており、殊に油膜切れが生じると、窒化した場合でも保持器が摩耗しやすい。そして、軸受が回転することにより、その摩耗粉が内輪や外輪の転動面もしくは転動体に圧痕を付けたり、摩耗粉の増大と油切れが加速されて保持器が焼き付きを生じるという問題が起きている。
【0004】
そこで、かかる問題点を解消する手段として、特開平10−147855号に、鉄系機構部品に窒化処理を施してなる化合物層表面に、当該化合物層厚さの10〜50%とした厚さ1〜20μmの多孔質層を形成し、この多孔質層に潤滑油を真空含浸法または加熱含浸法により含浸させて潤滑性を向上させる技術が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術においては、化合物層厚さが相対的にしか規定されておらず、多孔質層厚さによってその上下限は決まる。そのために、化合物層が非常に厚くなることがあり、その際は化合物層全体の表面硬さは逆に低下してしまい、耐摩耗特性を確保することが困難であるという問題が生じたり、寸法精度が悪くなるという不具合がある。更には、窒化処理後に真空含浸法や加熱含浸法などを用いて多孔質層に潤滑油を含浸させるなどの工程はコスト高を招くという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来技術の未解決の問題点に着目してなされたものであり、窒化処理を施してなる化合物層中の多孔質層と緻密層との厚さの許容範囲を設定することにより、安定した耐摩耗性が確保できる転がり軸受用保持器の製造方法を低コストで提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、純窒化もしくは軟窒化の窒化処理を施した転がり軸受用保持器において、耐摩耗性, 耐焼き付き性はそれぞれ、化合物層中の緻密層厚さ及び多孔質層厚さに影響されることを見出して本発明を提案するに至った。
【0008】
即ち、本発明の請求項1に係る転がり軸受用保持器の製法方法は、酸窒化処理工程を有する鋼製の転がり軸受用保持器の製造方法において、前記酸窒化処理工程を、窒化処理後に酸化処理を行う方法であって、NH 3 を主成分とするガス中で純窒化あるいは軟窒化処理を行った後に酸素か空気により酸化処理を行う方法か、塩浴軟窒化後に塩浴酸化処理を施す方法により行うことで、表面側から順に酸化層、窒化層を形成し、前記窒化処理で、多孔質層および緻密層からなる表面側の化合物層と、母層側の拡散層と、からなり、前記多孔質層が前記緻密層より表面側に位置する窒化層を形成し、前記緻密層の厚さを3〜20μmとするとともに、前記多孔質層の厚さを2〜25μmとし、前記酸化処理で表面に厚さ3.5〜30μmの酸化層を形成して、最表面の平均酸素濃度を1.0〜25.0質量%とすることを特徴としている。
ここに、本明細書で「化合物層」という用語は、鉄系基体と一体化している窒素化合物からなる層を意味する。「緻密層」という用語は、当該窒素化合物層の中の前記鉄系基体側に位置する層を意味する。「多孔質層」という用語は、当該窒素化合物層の中の前記鉄系基体の反対側」に位置し、10〜60%の空孔率を有する層を意味する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
窒化処理して表面に化合物層を形成した本発明の鋼製の転がり軸受用保持器において、図1に示す拡散層Aと母層Bの上部に形成された表面の化合物層1は、ε相(Fe2 N,Fe3 N),ν’相(Fe4 N),鉄炭窒化物,僅か少量のFe3 O4 を主成分とする酸化鉄から構成されており、鉄系基体である母材Bの表面に位置する緻密層2と、その外側に位置する空孔率10〜60%の多孔質層3とからなる二層構造である。
【0010】
前記多孔質層3は初期なじみ性がよく、また潤滑油の油だまりとして機能し、油膜の保護に効果的な作用をもたらし焼き付きを防止する。
しかしながら、多孔質層3がある厚さ以上になると、表面の面荒れがひどくなりすぎるため、上に油を塗布した状態でも油膜が均一に形成されずに粗さが残る。その結果、初期摩耗量は増大し、それによってはく離した摩耗粉が原因となって、軸受の内輪や外輪の転動面もしくは転動体に圧痕を付けたり、ヒッカキや掘り起こし摩耗を生じる。これらが油切れを加速して潤滑条件が悪化し、保持器が焼き付きを起こしたりする。また、寸法精度も悪くなるという不具合を生じる。あらかじめ表面付近の余分な多孔質層を機械的な手段によって除去すれば、そうした問題を改善することができるが、しかしその場合はコスト高を招く。
【0011】
逆に、多孔質層3の厚さが少ない場合は、油膜保護の効果がないために、保持器と内輪や外輪の転動面もしくは転動体とが真接触して発熱を起こし、容易に摩耗や損傷焼き付きが起きる結果、保持器は短寿命となる。
そこで、本願発明者らは以下の実験を行なって、多孔質層3の適切な厚さを明らかにした。
【0012】
すなわち、図2に示すようなファビリー(Faville-Le Vally)式摩擦摩耗試験機を使用し、ガス窒化を施した試験体のテストピン5を、シアーピン6を介して回転装置7に取付け、同じくガス窒化を施して対向させた一対のVブロック8,8で挟んで荷重Fをかけつつ回転数300rpmで回転させて、試験体5の耐摩耗性を比較検討した。
【0013】
ガス窒化は、雰囲気ガスをN2 +NH3 とした純窒化を用い、処理温度は560℃とした。テストピン5,Vブロック8に形成した化合物層については、緻密層厚さを5μm一定とし、多孔質層厚さを次の5種類に変化させて行った。0μm,2μm,15μm,24μm,28μm。
供試油はタービン油を用い、摩擦速度は0.15m/sで行った。
【0014】
この実験の結果を図3に示した。
多孔質層厚さがほぼ2μm未満である場合、多孔質層の油膜保護の効果が期待できず短時間で摩擦係数μが急上昇して焼き付きを起こす。多孔質層厚さが2μm以上になると耐焼き付き性は大幅に向上する。従って、多孔質層厚さの下限を2μmとする。
【0015】
その後、多孔質層厚さを増大させるにしたがって、それは潤滑油の油だまりとして作用するため焼き付き時間は伸び、耐焼き付き性は良好となるが、その反面初期摩耗量が増大する。よって、図3中の多孔質層厚さ15μm及び24μmの各グラフのように少量の初期摩耗(経過時間15sec付近に摩擦係数μの上昇)の発生は、多孔質層が軸との初期なじみ効果であるが、多孔質層厚さが25μmを超えた場合のように大量の初期摩耗が発生すると、もはや初期なじみとしての効果はなく、その摩耗粉が潤滑条件を悪化させて短時間で焼き付きを起こすようになる。よって、多孔質層厚さの上限を25μmとする。
【0016】
つまり、化合物層の耐焼き付き特性は多孔質層厚さに依存し、多孔質層厚さを2〜25μmにすることで耐焼き付き特性が良好であり、使用条件の厳しい転がり軸受用保持器として好適に使用できると言える。
以上の結果は、緻密層厚さを5μm一定に限った場合のみでなく、次の如く緻密層厚さを変化させた場合にも同様のことがいえる。
【0017】
本願発明者らは、さらに次の実験を行ない、緻密層3についてもその適切な厚さを明らかにした。
すなわち、こんどは図4に示すような大越式摩耗試験機を使用し、ガス窒化を施した板状のSPCC製固定試験片10を、SUJ2製の円環状の回転試験片11に当てて荷重Fをかけて押し付けつつ回転試験を行い、固定試験片10の耐摩耗性を比較検討した。
【0018】
固定試験片10のガス窒化は、雰囲気ガスをN2 20%+NH3 80%とした純窒化を用い、処理温度は560℃とした。こうして窒化形成した化合物層については、多孔質層厚さを5μm一定とし、緻密層厚さを種々に変化させたものを使用した。
回転試験片11は、SUJ2材を840℃で焼入れし、170℃で焼戻しして用いた。
【0019】
試験条件は、無潤滑(ドライ)で、面圧:0.2〜4kg/mm2 ,摩擦速度:2.6m/s,摩擦距離(滑り距離): 400mとした。
この実験の結果を図5に示した。
緻密層厚さが3μm未満では摩耗量は非常に多い。これに対して、緻密層厚さ3μm以上になると摩耗量は抑制される。これは、緻密層が3μm未満と薄い場合には均一とはならず、その結果、窒化ムラが生じていることが原因である。このように、窒化ムラのため部分的に緻密層が形成されない個所があると、SPCC素地が内輪や外輪の転動面もしくは転動体の軸受鋼と真接触を生じ、すべり接触を行うことで保持器は早期に使用不能となる。したがって、化合物層における緻密層の厚さが3μm未満の窒化保持器の場合には、その耐摩耗特性は十分に期待できない。
【0020】
一方、緻密層厚さが20μmを超える場合においても、摩耗量の増大が認められる。すなわち、緻密層の表面硬さは厚さ5〜10μmで最高の硬さを示し、それ以上厚くなると最高硬さ位置が内部へ移行することで逆に表面硬さは低下し、緻密層厚さ20μmを超えると表面硬さは著しい低下が認められる。つまり、単に緻密層が厚ければそれだけ耐摩耗特性が向上するとはいえず、厚さ過大による緻密層の硬さの低下は、かえって保持器の破損や断裂などが起きる原因となる。したがって、窒化保持器の緻密層厚さは20μm以下であることが必要といえる。
【0021】
これらの結果は多孔質層の厚さを5μmに限った場合のみではなく、多孔質層厚さを変化させた場合も同様のことがいえる。つまり、化合物層の耐摩耗特性は緻密層厚さに依存し、緻密層厚さを3〜20μm好ましくは5〜10μmにすることで、耐摩耗特性の優れた窒化保持器の提供が可能である。
以上の結果より、本発明によれば、窒化処理して表面に化合物層を形成した鋼製の転がり軸受用保持器にあっては、緻密層厚さが3〜20μmで多孔質層厚さが2〜25μmの範囲であれば、窒化処理に軟窒化を用いた場合においても耐摩耗性, 耐焼き付き性の良好な保持器が得られる。
【0022】
(実施例)
本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
供試保持器として、冷延鋼板SPCCを用いて自動調心ころ軸受22212相当のプレス保持器を作製し、これに窒化処理として、表1に示す純窒化( ガス窒化),軟窒化( ガス軟窒化, タフトライド, イオン窒化, NV超窒化)を施し、緻密層及び多孔質層からなる窒化化合物層を表面に形成した。得られた本発明品保持器A〜I及び比較例の保持器A〜Hを、以下に述べる各試験に供した。なお、NV超窒化は大同ほくさん株式会社の開発した窒化処理の名称である。
【0023】
【表1】
【0024】
< 耐摩耗性>
保持器の耐摩耗特性を評価するためにNSK社製ラジアル寿命摩耗試験機により、ラジアル荷重を5200N,粘度がVG10の潤滑油を1l/minの給油条件で、回転数を3000rpmとして3000時間運転したときの各保持器の重量変化を測定した。
< 耐焼き付き性>
保持器の耐焼き付き性を評価するために, NSK社製ラジアル寿命焼付き試験機により, ラジアル荷重を5200N,回転数を3000rpmとして、保持器が焼き付くまでの時間を測定した。なお、各保持器ポケットには粘度がVG5の潤滑油を合計で0.2ml注入し馴染ませた。
【0025】
実験結果として得られた、各供試保持器の摩耗量及び焼付き時間を表1に併記して示す。また、この結果から、多孔質層の厚さと焼付き時間との関係をプロットしたグラフを図6に示す。
比較例Aは、純窒化を施した保持器において緻密層厚さが3μm未満の場合であるが、緻密層にムラが生じることが原因で摩耗量が全保持器中最大になるという問題が起きている。
【0026】
比較例Bは、純窒化を施した保持器において緻密層厚さが20μmを超える場合であるが、緻密層の硬さの低下が影響してやはり摩耗量が非常に大きいという問題が生じている。
比較例Cは、純窒化を施した保持器において多孔質層厚さが2μm未満の場合であるが、多孔質層の油膜保護がないために短時間で焼き付きが生じている。
【0027】
比較例Dは、純窒化を施した保持器において多孔質層厚さが25μmを超える場合であるが、初期摩耗量の増大に伴う潤滑条件の悪化により、短時間で焼き付きが生じている。
つまり、比較例A〜Dの純窒化を施した保持器のように、緻密層厚さと多孔質層厚さのどちらか一方が本発明の範囲にないものでは、耐摩耗特性, 耐焼き付き特性の効果が十分に期待できず、窒化保持器として好適に使用できない。
【0028】
比較例E〜Hは、種々の軟窒化を施した保持器において、緻密層厚さと多孔質層厚さのどちらか一方が本発明の範囲にないものである。比較例A〜Dと同様に繊密層厚さが3〜20μmでない場合には摩耗量に問題が生じ、また多孔質層厚さが2〜25μmでない場合には耐焼き付き性に問題が生じており、いずれも窒化保持器として好適に使用できない。
【0029】
これに対して、本発明A〜Iは、純窒化, 種々軟窒化のいずれを施した保持器にあっても、緻密層厚さが3〜20μmで且つ多孔質層厚さが2〜25μmの範囲にある。このように、緻密層厚さと多孔質層厚さとが本発明範囲内であると、その窒化処理方法の如何にかかわらず、耐摩耗性, 耐焼き付き性の良好な保持器が得られており、その効果は明らかである。
【0030】
すなわち、以上説明した本発明によれば、冷延圧延鋼板プレス保持器を窒化処理し、その緻密層厚さを3〜20μm,多孔質層厚さを2〜25μmに制御することによって、従来の窒化保持器に比べて大幅に耐摩耗性, 耐焼き付き性が向上し、近年に見られる転がり軸受の厳しい条件下で使用しても、その特性を十分に発揮できる転がり軸受用保持器が提供できるという実用上の大きな効果が得られるのである。
【0031】
続いて、以上説明した緻密層厚さ3〜20μm,多孔質層厚さ2〜25μmの窒化層を有する耐摩耗性に優れた転がり軸受用保持器を基礎(第1の発明)とし、更にその耐焼付き性を一層向上させた転がり軸受用保持器(第2の発明)について説明する。
既に述べたとおり、近年、転がり軸受の使用条件が厳しくなる傾向にある。特に、高負荷低速運転や急速始動運転のような過酷な運転条件で使用する場合、たとえ窒化した保持器を用いても、保持器案内面と軌道輪とのすべり接触により保持器が焼き付きを生じるという問題が発生している。
【0032】
かかる問題の発生に対処するべく、保持器に窒化処理或いは軟窒化処理を施すのみならず、更に酸化処理をも組み合わせた酸窒化処理を施すことが従来より行われ、これによって上述した軌道輪とのすべり接触による保持器の焼き付きの問題は解決可能となった。しかしながら、その場合も処理条件によっては、逆に耐摩耗性能が窒化或いは軟窒化処理に比べて劣ってしまうことがあった。
【0033】
そこで本発明者らは、この問題の解決に向けても鋭意研究を重ねた結果、転がり軸受用保持器における酸窒化処理の耐摩耗特性は、平均表面酸素濃度に影響されることを見出し、冷延鋼板のプレス保持器の酸窒化処理における平均表面酸素濃度を一定範囲内に制御すれば、耐焼き付き性の向上のみならず良好な耐摩耗性を兼ね備えた保持器が得られることを突き止めることができた。
【0034】
本発明者らはここに、酸窒化処理を施した鋼製転がり軸受用保持器において、平均表面酸素濃度を1.0〜25.0重量%にした転がり軸受用の保持器を提案する。
以下に、その内容を詳説する。
酸窒化処理には、▲1▼「NH3 を主成分どするガス中で純窒化あるいは軟窒化処理を行なった後、ガスを切り替えるかあるいは別の炉において酸素, 空気あるいは過熱水蒸気等により酸化処理を行なう方法( 塩浴軟窒化後に塩浴酸化処理を施すものもある)」と、▲2▼「NH3 に数%の酸素, 空気あるいは過熱水蒸気等の酸化性ガスを添加した混合雰囲気で処理する方法」とが知られている。
【0035】
前者▲1▼の方法の場合は、表面から酸化層, 窒化層が形成される。一方、後者▲2▼の方法の場合は、表面から酸化層, 酸窒化層, 窒化層が形成される。いずれも化合物層中に窒化物のみならず、非金属的性質を示す酸窒化物もしくは酸化物が形成されることで、耐焼き付き性は格段に向上する。
そこで、本願発明者らは、酸窒化処理が耐焼き付き性に及ぼす影響をみるために、純窒化,軟窒化,酸窒化など各種の窒化処理を施して表面改質した試験体のテストピンに対して、先に述べた(図2)ファビリー(Faville-Le Vally)式摩擦摩耗試験機による試験を行い、耐摩耗性と耐焼付き性を評価した。
【0036】
表2に試験結果を示す。なお、潤滑油にはタービン油を用い、摩擦速度は0.15m/sで行った。
【0037】
【表2】
【0038】
この結果から、非処理,窒化処理のものと比較して酸窒化処理のものの耐焼き付き性が向上することは明らかで、酸窒化保持器は近年に見られるような使用条件の厳しい環境において十分にその効果を発揮することができる。しかし、このような優れた耐焼き付き性を確保するためには、形成された酸化層と酸窒化層にある程度以上の厚さが必要である。一方、逆に厚すぎると寸法精度不良や剥離や摩耗の問題が生じる。そこで、酸化層または酸化層+酸窒化層の厚さを3.5〜30μmとし、少なくとも上限は25μmとするのが好ましい。
【0039】
この第2の発明が、酸化層または酸化層+酸窒化層の厚さ(表面からの深さ)の上限を30μm(少なくとも25μm)に設定した理由は、先に説明した第1の発明における多孔質層(最大厚さ25μm)が全部酸化されることで最良の結果が得られるためであり、念のため緻密層の上部も若干酸化されればより確実な成果が得られることによる。また、酸化層または酸化層+酸窒化層の厚さの下限を3.5μmに設定した理由は、通常の窒化処理においても処理雰囲気によっては1〜2μm程度の酸化層が生じることあるが、酸窒化処理に期待されるような耐焼付き性向上には至らない。軟窒化処理と明確に区別ができ、酸窒化処理として十分な効果を得るためには、少なくとも3.5μm以上の厚さが必要であることによる。
【0040】
酸窒化処理で鋼製保持器の表面に形成される化合物層中の鉄酸化物には、FeO,Fe3 O4 ,Fe2 O3 がある。FeO,Fe3 O4 は保持器と転動体との凝着を抑え摩擦を低下させるため、上述したように窒化処理のみの場合と比較して耐摩耗特性は良好となる。しかしながら、平均表面酸素濃度が高くなるとFe2 O3 の量が多くなる。このFe2 O3 は硬く研摩性があり、大きな摩擦特性を示す。よって、Fe2 O3 を多く含む酸窒化保持器は、転動体との接触面での摩擦係数が大きくなることで摩耗量が増大するから、長期間にわたり耐摩耗特性の信頼性を維持することは難しい。
【0041】
そこで、本発明者らは、酸窒化処理の表面酸素濃度が耐摩耗性に及ぼす影響をみるために、平均表面酸素濃度を変化させた塩浴酸窒化処理SPCCに対して2円筒式のアムスラー摩耗試験を行なった。
図7にその試験結果をプロットしたグラフを示す。
試験条件は、荷重:20kg、すべり率:10%、回転数:1000回転とし、潤滑油にはSAE30モーター油を用いた。
【0042】
グラフ中の破線は酸化を行わず塩浴窒化処理のみを施したSPCCの摩耗量である。塩浴酸窒化処理における平均表面酸素濃度が増大すると、鉄酸化物を多く含むようになり、それが凝着を抑え摩耗量は減少する。しかしながら平均表面酸素濃度が25重量%を超えると、化合物層中のFe2 O3 の量が増えるために摩耗量は急激に増大し、窒化処理のみのものよりもかえって耐摩耗性は悪化し、酸窒化処理の効果が期待できない。一方、平均表面酸素濃度が1重量%未満では、窒化処理のみのものより摩耗量が増大し、やはり酸窒化処理の効果が期待できない。
【0043】
以上の結果より、本発明は、酸窒化処理による平均表面酸素濃度を1.0〜25.0重量%とし、望ましくは5〜20重量%とする。
(実施例)
本第2の発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
冷延鋼板SPCCを用いて自動調心ころ軸受22212相当のプレス保持器を作製し、平均表面酸素濃度の異なる各種酸窒化処理を施したものを以下に述べる各試験に供した。なお、実施例,比較例とも酸窒化処理は、NH3 ガス窒化(NH3 中の水分3%),ガス軟窒化+大気酸化, 塩浴軟窒化+塩浴酸化のいずれかとした。比較例には、塩浴軟窒化したのみの保持器も加えた。
< 耐摩耗性>
保持器の耐摩耗特性を評価するために、NSK製ラジアル寿命摩耗試験機により、ラジアル荷重を5200N,粘度がVG10の潤滑油を1l/minの給油条件で、回転数を3000rpmとして3000時間運転したときの各保持器の重量変化を測定した。
< 耐焼き付き性>
保持器の耐焼き付き性を評価するために、NSK製ラジアル寿命焼付き試験機により, ラジアル荷重を5200N,回転数を3000rpmとして、保持器が焼き付くまでの時間を測定した。なお、各保持器ポケットには粘度がVG5の潤滑油を合計で0.2ml注入し馴染ませた。
【0044】
実験結果として得られた、各供試保持器の平均表面酸素濃度、及び摩耗量と焼付き時間を表3に示す。なお、平均表面酸素濃度は供試保持器の最表面をEPAで走査し、その測定値平均量から求めた。
【0045】
【表3】
【0046】
比較例A’〜C’はそれぞれ異なる方法で酸窒化処理を施した保持器であるが、全て平均表面酸素濃度が25重量%を超えており、非金属的性質を示す鉄酸化物の形成により耐焼き付き性は良好であるが、大きな摩擦特性を示すFe2 O3 が多いために摩耗量に問題が生じ、酸窒化保持器として好適に使用できない。
比較例D’は塩浴軟窒化のみを行った保持器であるが、その平均表面酸素濃度が0.3重量%と非常に低く、摩耗量は少ないが短時間で焼付きを起こしている。
【0047】
これらに対して、本発明品A’〜I’のものは、それぞれに酸窒化処理を施した保持器であり、平均表面酸素濃度が25重量%を下回るものである。酸窒化処理を施すことによって、鉄酸化物の形成により耐焼き付き性は比較例D’の軟窒化処理と比較して格段に向上している。また、平均表面酸素濃度を25重量%以下にすることによってFe2 O3 の量は抑制され、それゆえ摩耗量に問題が生じるようなことはなく、かくて耐摩耗性と耐焼き付き性を兼ね備えた酸窒化保持器の提供が可能である。
【0048】
以上説明したように本第2の発明によれば、冷延圧延鋼板プレス保持器に酸窒化処理を施すことによって、窒化保持器に比べて大幅に耐焼付き性が向上する。また、その平均表面酸素濃度を25重量%に制御することによって、従来の問題であった酸窒化保持器の摩耗特性の欠点を解消することができ、近年に見られる転がり軸受の厳しい条件での使用において、その良好な耐摩耗特性および耐焼き付き特性を十分に発揮できる酸窒化保持器の提供が可能となる。
【0049】
更に続いて、本発明の第3の発明について説明する。
これは、窒化化合物層(多孔質層+緻密層)の上に更に浸硫層を形成することにより、耐摩耗性・耐焼付き性に加えて耐かじり性も兼ね備えた転がり軸受用保持器である。
前記本発明の第1の発明,第2の発明において説明したように、冷延鋼板のSPCC材やSPCE材製、或いはスレンレス鋼板製のプレス保持器に、純窒化や軟窒化や酸窒化等の窒化処理を施して耐摩耗性・耐焼き付き性・耐疲労性を向上させることにより、厳しい使用条件に対処できる転がり軸受用保持器を提供できる。
【0050】
しかし、これを組み込んだ転がり軸受を長時間使用しているうちに、窒化処理された保持器から硬質の窒化摩耗粉が放出され、これが異物となって、軌道体や転動面にかじり(滑り面などに生じる部分的な微小焼き付きの集成によって起こる表面の損傷)が生じ、その結果転動体が不安定な挙動を起こして保持器に衝突することで、保持器の機械的寿命が短くなったり、保持器音やきしり音などの騒音が発生するという別の問題が生じることがある。
【0051】
かかる点を解消する手段として、特開平11−182556号では、ガス浸硫窒化を施して浸硫窒化層を形成し、耐焼き付き性を向上させた保持器が提案されている。しかしながら、その浸硫窒化層厚さが100〜400μmと過剰に大きいために、浸硫層と化合物層との密着性が不十分で容易に剥離または脱離して浸硫層の耐焼き付き性や耐かじり性の特性が失われしまい、その結果、浸硫窒化保持器は転動体の急激な運動により損傷し長期使用に耐えられなくなる。
【0052】
本第3の発明は、このような問題点に鑑みなされたものであって、窒化保持器の有する耐摩耗性・耐焼き付き性・耐疲労性のみならず耐かじり性も兼ね備え、長期間使用しても軌道体や転動面にかじりが発生することがなく、したがって機械的寿命が短かくなったり保持器音やきしり音が発生する事態も避けられる転がり軸受用保持器を提供するものである。
【0053】
本願発明者らは研究を重ねた結果、保持器の耐かじり性は浸硫窒化層の浸硫層又は中間層の厚さに影響されることを見出した。すなわち、鋼製のプレス保持器に対して浸硫窒化を施し、その浸硫層厚さまたは(浸硫層+中間層)厚さを0.1〜10μmとすることで、十分な耐かじり性を獲得できることが判明した。
以下に、その詳細を説明する。
【0054】
本発明に使用される浸硫窒化法には、次の3種類の方法がある。
▲1▼アルカリシアン酸塩の中に、硫黄塩を添加した窒化性塩浴による塩浴浸硫窒化法(スルースルフ)。
▲2▼浸炭性ガス十窒化性ガス+ 浸硫性ガス、例えばCO2 +(NH3 +N2 )+H2 Sのような混合ガスを用いるガス浸硫窒化法。
【0055】
▲3▼数TorrのN2 ガスとH2 ガス、あるいはそれにCH4 ガスとArガスなどを加えたものにH2 Sを添加した混合ガス中で、直流グロー放電を発生させてガス状物質をイオン化し、電界によって被処理品表面に捕獲するイオン浸硫窒化法。
いずれも、窒化と浸硫とを同時に行うものであり、低コストである。
【0056】
鋼製のプレス保持器に、上記いずれかの方法を用いて浸硫窒化を施すと、その表面には、図8に示すような浸硫窒化層12が一工程で形成される。当該浸硫窒化層12は、用いた浸硫窒化法の種類により構成が異なり、塩浴浸硫窒化法▲1▼およびガス浸硫窒化法▲2▼を用いた場合は浸硫層12aと化合物層1(多孔質層3と繊密層2)とが形成され、イオン浸硫窒化法▲3▼を用いた場合には浸硫層12aと中間層12bと化合物層1とが形成される。浸硫層12aは黒色、中間層は黒灰色、化合物層は白色の組織からなり、主に浸硫層12aおよび中間層12bは硫化物(FeS,Fe1-X Sなど)、化合物層1は窒化物(εFe2-3 N,γ’Fe4 Nなど)および炭化物(Fe3 C)から形成される。
【0057】
浸硫窒化層12中の浸硫層12aと中間層12bは自己潤滑性があるので、摩擦係数が減少し、摩耗抵抗を低下させることにより耐摩耗性を向上させる。また、機械的破壊摩耗領域での使用条件でもあたりを軟化し、摩擦熱による温度上昇を抑えて凝着現象を防止するから、潤滑不良時の耐焼き付き特性が良好となる。更にまた、この浸硫層12aと中間層12bは耐かじり性が良好であるので、転動体と軌道輪にかじりが生じることがなく、長期間使用時における保持器の機械寿命を長くすると同時に、保持器音やきしり音が発生するのを回避することができる。
【0058】
つまりは、本第3の発明の浸硫窒化によれば、下地になっている化合物層1(多孔質層3と緻密層2)が耐摩耗性・耐焼き付き性・耐疲労性を維持し、その表面に形成された潤滑性のある浸硫層12aおよび中間層12bが耐かじり性を兼ね備えることで、長期間使用において軌道体や転動面にかじりが発生することがなく、それゆえに機械的寿命が短命になることや保持器音,きしり音が発生する現象を回避することができる転がり軸受用保持器の提供が可能となる。
【0059】
浸硫窒化した保持器においても、その耐焼き付き性・耐摩耗性は、窒化処理の場合と同様に、化合物層1中の緻密層2の厚さと多孔質層3の厚さに大きく影饗される。浸硫窒化でも、化合物層1中の緻密層2の厚さが3〜20μmであり、かつ多孔質層3の厚さが2〜25μmである場合に、優れた耐摩耗性と耐焼き付き性が得られる。
【0060】
特に、SUS304に代表されるステンレス鋼のプレス保持器に対しての窒化処理は、表面の酸化被膜(Cr2 O3 )の厚さが不均一になることが原因で窒化ムラになるという傾向があるが、ガス浸硫窒化とイオン浸硫窒化は、ガス雰囲気中にH2 Sを添加するので、このH2 Sの表面活性化作用でステンレス鋼保持器も均一に窒化され、従来の窒化保持器と比較して耐摩耗・耐焼き付き性・耐疲労性・耐かじり性は良好となる。
(実施例)
本第3の発明の効果を確認するために行った耐かじり性試験について説明する。
【0061】
本試験では、試料保持器を組み込んだ呼び番号7013相当のアンギュラタイプ軸受を、所定時間回転させた後にJIS B1548に記載されている測定法に準じて軸受全体の騒音レベルを測定し、保持器の耐かじり性を評価した。
試料保持器は、SPCC製及びSUS304製のプレス保持器に、浸硫層厚さもしくは(浸硫層十中間層)厚さを変化させた種々の浸硫窒化処理を施したものを用いた。測定方法の概略を図9に示す。回転軸Cに装着した試験体軸受Wの前面中心から回転軸に対し上方45°方向にマイクロホンDの中心軸を合わせ、軸受前面中心からマイクロホンの振動板Eまでの距離Lは100mmに設定した。試験体軸受Wに40Nのアキシアル荷重Fを負荷して回転速度1800rpmで回転させ、200時間運転後の試験体軸受全体の騒音レベルを精密騒音計で測定した。試験結果を図10に示す。
【0062】
浸硫層厚さまたは(浸硫層+中間層)厚さが0.1μm未満の場合は、音圧が高い。これは、長時間の運転中に、転動体と保持器とのすべり摩耗により硬質な窒化摩耗粉が生じ、これが保持器や転動体とともに繰返し運動する際に、転動体と軌道輪に微小な損傷や焼き付き、つまりかじり損傷が発生することによって転動体が不規則な運動を起こし、保持器に衝突を繰り返すようになり、その結果、保持器は短寿命になったり、保持器音やきしり音等の騒音を発生するに至ったものである。
【0063】
浸硫窒化層に0.1 μm以上の浸硫層もしくは(浸硫層+中間層)があると、成分の硫化鉄が自己潤滑作用を示し、飛躍的に耐かじり性の改善がなされ、転動体や軌道輪のかじり損傷は皆無となる。そのため、浸硫室化保持器は長期使用においても音圧は低く好適に使用できる。
一方、浸硫層厚さもしくは(浸硫層十中間層)厚さが10μmより大きい場合は、中間層と化合物層との密着性が不十分となって剥離や脱離が容易となり、保持器表面は化合物層のみとなる。この場合、もはや本来持つべき耐かじり性の特性は失われ、転動体の急激な運動により音圧が著しく上昇し、浸硫窒化保持器は長期使用に耐えられなくなる。
【0064】
以上の結果はSPCC保持器のみならず、ステンレス保持器についても同様であった。
上記の結果から、本第3の発明によれば、冷延圧延鋼板もしくはステンレス鋼製保持器に浸硫層厚さ又は(浸硫層+中間層)厚さが0.1 〜10μmの浸硫窒化を施すことによって、窒化保持器の耐摩耗性・耐焼き付き性・耐疲労性に加えて耐かじり性も兼ね備え、長期間の使用においても軌道体や転動面にかじりが発生することがなく、それゆえに機械寿命が短命になったり、保持器音やきしり音が発生する現象を回避することができることは明らかである。
【0065】
以上説明したように、本発明に係る転がり軸受用保持器の製造方法によれば、従来の酸窒化保持器に比べて大幅に耐摩耗性,耐焼き付け性が向上し、その結果、転がり軸受を厳しい条件下で使用しても特性を十分に発揮できる転がり軸受用保持器が提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】窒化化合物層の構成を説明する模式図である。
【図2】ファビリー式摩擦摩耗試験機の概要を説明する斜視図である。
【図3】窒化化合物層の多孔質層厚さの変化と摩擦係数との関係を示した実験結果のグラフである。
【図4】大越式摩耗試験機の概要説明図である。
【図5】窒化化合物層の緻密層厚さの変化と摩耗量との関係を示した実験結果のグラフである。
【図6】表1の試験結果に基づき多孔質層厚さの変化と焼付き時間との関係を示したグラフである。
【図7】酸窒化処理したものをアムスラー摩耗試験して、平均表面酸素濃度の変化と摩耗量との関係を表したグラフである。
【図8】浸硫窒化層の構成を説明する模式図である。
【図9】転がり軸受の騒音レベル測定方法を説明する図である。
【図10】転がり軸受の騒音レベル測定による耐かじり性試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
B 窒化処理した拡散層と母層
1 化合物層
2 緻密層
3 多孔質層
12 浸硫窒化層
12a 浸硫層
12b 中間層
Claims (1)
- 酸窒化処理工程を有する鋼製の転がり軸受用保持器の製造方法において、
前記酸窒化処理工程を、窒化処理後に酸化処理を行う方法であって、NH 3 を主成分とするガス中で純窒化あるいは軟窒化処理を行った後に酸素か空気により酸化処理を行う方法か、塩浴軟窒化後に塩浴酸化処理を施す方法により行うことで、表面側から順に酸化層、窒化層を形成し、
前記窒化処理で、多孔質層および緻密層からなる表面側の化合物層と、母層側の拡散層と、からなり、前記多孔質層が前記緻密層より表面側に位置する窒化層を形成し、前記緻密層の厚さを3〜20μmとするとともに、前記多孔質層の厚さを2〜25μmとし、
前記酸化処理で表面に厚さ3.5〜30μmの酸化層を形成して、最表面の平均酸素濃度を1.0〜25.0質量%とすることを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。
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